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▶ クラレイ ユーロップ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】回路付きフィルム
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20220928BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20220928BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20220928BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C03C27/12 M
C03C27/12 D
C03C27/12 F
B32B15/08 Q
B32B27/28 101
B32B17/10
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019562470
(86)(22)【出願日】2018-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2018048332
(87)【国際公開番号】W WO2019131948
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2017254067
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512192277
【氏名又は名称】クラレイ ユーロップ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Kuraray Europe GmbH
【住所又は居所原語表記】Philipp-Reis-Strasse 4, D-65795 Hattersheim am Main, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100224591
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 征志
(72)【発明者】
【氏名】島住 夕陽
(72)【発明者】
【氏名】磯上 宏一郎
(72)【発明者】
【氏名】小石川 淳
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-539905(JP,A)
【文献】特開平11-208421(JP,A)
【文献】特表2003-513840(JP,A)
【文献】特開2012-014945(JP,A)
【文献】国際公開第2016/080406(WO,A1)
【文献】特許第6457708(JP,B1)
【文献】特許第6487131(JP,B2)
【文献】特許第7046789(JP,B2)
【文献】特開2018-161889(JP,A)
【文献】特開2018-188356(JP,A)
【文献】国際公開第2019/009409(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/131963(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
B32B 15/08
B32B 27/28
B32B 17/10
B60J 1/00
B60S 1/02
C08L 29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルム(1)の一方の面に、導電性細線回路(A)及び導電性細線回路(A)とは独立した導電性回路(B)を有し、該樹脂フィルム(1)がポリビニルアセタール樹脂を含有質量比1/1のトルエン/エタノール混合液90質量部に対して前記樹脂フィルム(1)10質量部を溶解させた溶液の、ブルックフィールド型(B型)粘度計により20℃、30rpmで測定された粘度が100~500mPa・sである、回路付きフィルム。
【請求項2】
前記導電性細線回路(A)及び/又は前記導電性回路(B)が金属箔由来の回路である、請求項1に記載の回路付きフィルム。
【請求項3】
前記導電性細線回路(A)の厚さが1~30μmである、請求項1又は2に記載の回路付きフィルム。
【請求項4】
前記導電性回路(B)が加熱機能を有する、請求項1~3のいずれかに記載の回路付きフィルム。
【請求項5】
前記導電性回路(B)がアンテナ又はセンサーとしての機能を有する、請求項1~3のいずれかに記載の回路付きフィルム。
【請求項6】
前記樹脂フィルム(1)が、樹脂フィルム(1)の質量に対して、50質量%以上のポリビニルアセタール樹脂を含む、請求項1~5のいずれかに記載の回路付きフィルム。
【請求項7】
前記樹脂フィルム(1)が、樹脂フィルム(1)の質量に対して、0~20質量%の可塑剤を含む、請求項6に記載の回路付きフィルム。
【請求項8】
前記樹脂フィルム(1)の厚さが10~350μmである、請求項1~のいずれかに記載の回路付きフィルム。
【請求項9】
前記導電性細線回路(A)が銅又は銀からなる、請求項1~のいずれかに記載の回路付きフィルム。
【請求項10】
前記導電性細線回路(A)が、全体的又は部分的に線状、格子状、網状又はあみだくじ状である、請求項1~のいずれかに記載の回路付きフィルム。
【請求項11】
前記導電性細線回路(A)の線幅が1~30μmである、請求項1~10のいずれかに記載の回路付きフィルム。
【請求項12】
さらに樹脂フィルム(2)を有する、請求項1~11のいずれかに記載の回路付きフィルム。
【請求項13】
前記樹脂フィルム(2)が、樹脂フィルム(2)の質量に対して、50質量%以上のポリビニルアセタール樹脂及び10~50質量%の可塑剤を含有する、請求項12に記載の回路付きフィルム。
【請求項14】
前記樹脂フィルム(1)、前記導電性細線回路(A)及び前記導電性回路(B)、並びに前記樹脂フィルム(2)をこの順に有する、請求項12又は13に記載の回路付きフィルム。
【請求項15】
前記樹脂フィルム(2)、前記樹脂フィルム(1)、並びに前記導電性細線回路(A)及び前記導電性回路(B)をこの順に有する、請求項12又は13に記載の回路付きフィルム。
【請求項16】
少なくとも2枚のガラスの間に、請求項1215のいずれかに記載の回路付きフィルムを有する合わせガラスであって、樹脂フィルム(1)及び樹脂フィルム(2)の平均可塑剤量が5~50質量%である、合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラスに使用される回路付きフィルム及び該回路付きフィルムを有する合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用フロントガラス等において、窓ガラス全体の曇りや氷結を除去することが求められる。かかる曇りや氷結の除去方法として、合わせガラスの間に導電性回路を形成し、その導電性回路を通電させることで熱により除去する方法が知られている。一方、曇りや氷結を除去するための導電性回路以外にも、カメラやセンサーの周りを特に重点的に加熱するための導電性回路や、アンテナ等の機能を有する導電性回路が必要な場合がある。その際、全ての導電性回路に電流を流して加熱することは非効率であり、例えば窓ガラス全体の曇りや氷結を除去した後は、窓ガラス全体の加熱を中止し、カメラやセンサーの周りだけを加熱することができると、電力負荷をより少なくできる。特許文献1には、2枚のガラス板の間にガラス板面を複数箇所に分割するように配置された、ガラス板を加熱する複数個のヒータ(ワイヤヒータや面ヒータ)と、該ヒータの端部に設けられて前記ヒータに通電する複数のバスバーとを含む電熱窓ガラスが開示されている。該電熱窓ガラスは、各ヒータをそれぞれ個別に或いは組み合わせて加熱できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-145211公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1に記載のように、ヒータとしてワイヤヒータや面ヒータを用いると、前方視認性が著しく悪化する。前方視認性を向上させるために線幅が小さい導電性細線回路を使用できるが、導電性細線回路は合わせガラス作製時に断線が生じやすいことがわかった。
【0005】
従って、本発明の目的は、合わせガラス作製時に断線が生じず、かつ合わせガラス作製後においても前方視認性に優れ、複数の導電性回路に個別に電流を流すことができる回路付きフィルムを提供することにある。また、本発明の他の目的は、断線がなく優れた前方視認性を有し、複数の導電性回路に個別に電流を流すことができる合わせガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討した結果、樹脂フィルム(1)の一方の面に、所定の導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)を有する回路付フィルムにおいて、樹脂フィルム(1)がポリビニルアセタール樹脂、アイオノマー樹脂及びエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有すると上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明には以下のものが含まれる。
[1]樹脂フィルム(1)の一方の面に、導電性細線回路(A)及び導電性細線回路(A)とは独立した導電性回路(B)を有し、該樹脂フィルム(1)がポリビニルアセタール樹脂、アイオノマー樹脂及びエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有する、回路付きフィルム。
[2]前記導電性細線回路(A)及び/又は前記導電性回路(B)が金属箔由来の回路である、[1]に記載の回路付きフィルム。
[3]前記導電性細線回路(A)の厚さが1~30μmである、[1]又は[2]に記載の回路付きフィルム。
[4]前記導電性回路(B)が加熱機能を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の回路付きフィルム。
[5]前記導電性回路(B)がアンテナ又はセンサーとしての機能を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の回路付きフィルム。
[6]前記樹脂フィルム(1)が、樹脂フィルム(1)の質量に対して、50質量%以上のポリビニルアセタール樹脂を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の回路付きフィルム。
[7]前記樹脂フィルム(1)が、樹脂フィルム(1)の質量に対して、0~20質量%の可塑剤を含む、[6]に記載の回路付きフィルム。
[8]質量比1/1のトルエン/エタノール混合液90質量部に対して前記樹脂フィルム(1)10質量部を溶解させた溶液の、ブルックフィールド型(B型)粘度計により20℃、30rpmで測定された粘度が100mPa・s以上である、[6]又は[7]に記載の回路付きフィルム。
[9]前記樹脂フィルム(1)の厚さが10~350μmである、[1]~[8]のいずれかに記載の回路付きフィルム。
[10]前記導電性細線回路(A)が銅又は銀からなる、[1]~[9]のいずれかに記載の回路付きフィルム。
[11]前記導電性細線回路(A)が、全体的又は部分的に線状、格子状、網状又はあみだくじ状である、[1]~[10]のいずれかに記載の回路付きフィルム。
[12]前記導電性細線回路(A)の線幅が1~30μmである、[1]~[11]のいずれかに記載の回路付きフィルム。
[13]さらに樹脂フィルム(2)を有する、[1]~[12]のいずれかに記載の回路付きフィルム。
[14]前記樹脂フィルム(2)が、樹脂フィルム(2)の質量に対して、50質量%以上のポリビニルアセタール樹脂及び10~50質量%の可塑剤を含有する、[13]に記載の回路付きフィルム。
[15]前記樹脂フィルム(1)、前記導電性細線回路(A)及び前記導電性回路(B)、並びに前記樹脂フィルム(2)をこの順に有する、[13]又は[14]に記載の回路付きフィルム。
[16]前記樹脂フィルム(2)、前記樹脂フィルム(1)、並びに前記導電性細線回路(A)及び前記導電性回路(B)をこの順に有する、[13]又は[14]に記載の回路付きフィルム。
[17]少なくとも2枚のガラスの間に、[13]~[16]のいずれかに記載の回路付きフィルムを有する合わせガラスであって、樹脂フィルム(1)と樹脂フィルム(2)の平均可塑剤量が5~50質量%である、合わせガラス。
【発明の効果】
【0007】
本発明の回路付フィルムは、合わせガラス作製時に断線が生じず、かつ前方視認性に優れる。また、本発明の合わせガラスは、断線がなく、かつ優れた前方視認性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A図1Aは、本発明の回路付きフィルムの一実施態様を示す概略図である。
図1B図1Bは、図1Aに示す回路付きフィルムのII-II線断面図である。
図2A図2Aは、本発明の回路付きフィルムの一実施態様を示す概略図である。
図2B図2Bは、図2Aに示す回路付きフィルムのII-II線断面図である。
図3A図3Aは、本発明の回路付きフィルムの一実施態様を示す概略図である。
図3B図3Bは、図3Aに示す回路付きフィルムのII-II線断面図である。
図4A図4Aは、本発明の回路付きフィルムの一実施態様を示す概略図である。
図4B図4Bは、図4Aに示す回路付きフィルムのII-II線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[回路付きフィルム]
本発明の回路付きフィルムは、樹脂フィルム(1)の一方の面に、導電性細線回路(A)及び導電性細線回路(A)とは独立した導電性回路(B)を有する。なお、本明細書において、導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)を総称して回路という場合がある。
【0010】
<樹脂フィルム(1)>
樹脂フィルム(1)は合わせガラス作製時の回路の剥離や変形を防止する観点から、ポリビニルアセタール樹脂、アイオノマー樹脂及びエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂[樹脂(1)という場合がある]を含有する。これにより、本発明の回路付きフィルムを用いて合わせガラスを作製する際に、回路の剥離や変形を防止しやすくなる。
【0011】
ポリビニルアセタール樹脂としては、例えばポリビニルアルコール又はビニルアルコール共重合体等のビニルアルコール系樹脂のアセタール化によって製造されるポリビニルアセタール樹脂が挙げられる。樹脂フィルム(1)がポリビニルアセタール樹脂を含有する場合、1種類のポリビニルアセタール樹脂を含んでいてもよいし、粘度平均重合度、アセタール化度、アセチル基量、水酸基量、エチレン含有量、アセタール化に用いられるアルデヒドの分子量、及び鎖長のうちいずれか1つ以上がそれぞれ異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂を含んでいてもよい。ポリビニルアセタール樹脂が異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂を含む場合は、粘度平均重合度、アセタール化度、アセチル基量、水酸基量のうちいずれか1つ以上がそれぞれ異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂の混合物であることが、溶融成形の容易性の観点、合わせガラス作製時の断線や変形を抑制する観点、及び合わせガラス使用時のガラスのずれ等を防ぐ観点から好ましい。
【0012】
本発明で用いるポリビニルアセタール樹脂は、例えば次のような方法で製造できるが、これに限定されない。まず、濃度3~30質量%のポリビニルアルコール又はビニルアルコール共重合体の水溶液を、80~100℃の温度範囲で保持した後、10~60分かけて徐々に冷却する。温度が-10~30℃まで低下したところで、アルデヒド(又はケト化合物)及び酸触媒を添加し、温度を一定に保ちながら30~300分間アセタール化反応を行う。次に、反応液を30~200分かけて20~80℃の温度まで昇温し、30~300分保持する。その後、反応液を必要に応じて濾過した後、アルカリ等の中和剤を添加して中和し、樹脂を濾過、水洗及び乾燥することで、ポリビニルアセタール樹脂を得る。
【0013】
アセタール化反応に用いる酸触媒は特に限定されず、有機酸及び無機酸のいずれも使用でき、例えば酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸及び塩酸等が挙げられる。中でも、酸の強度及び洗浄時の除去のしやすさの観点から、塩酸、硫酸及び硝酸が好ましい。
【0014】
ビニルアルコール共重合体は、ビニルエステルと他の単量体との共重合体をケン化して得られる。他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブチレン等のα-オレフィン;アクリル酸及びその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド;N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩、N-メチロールアクリルアミド及びその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩、N-メチロールメタクリルアミド及びその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその塩、そのエステル又はその無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。他の単量体は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。中でも、他の単量体はエチレンが好ましい。
【0015】
好適な破断エネルギーを有するポリビニルアセタール樹脂を得やすい観点から、ポリビニルアセタール樹脂の製造に使用されるアルデヒド(又はケト化合物)は、1~10個の炭素原子を有する直鎖状、分岐状又は環状であることが好ましく、直鎖状又は分岐状であることがより好ましい。これにより、相応の直鎖状又は分岐状のアセタール基がもたらされる。また、本発明において使用されるポリビニルアセタール樹脂は、複数のアルデヒド(又はケト化合物)の混合物により、ポリビニルアルコール又はビニルアルコール共重合体をアセタール化して得られるものであってもよい。ポリビニルアルコール又はビニルアルコール共重合体は、いずれか一方のみから構成されていても、ポリビニルアルコール及びビニルアルコール共重合体の混合物であってもよい。
【0016】
本発明で用いるポリビニルアセタール樹脂は、少なくとも1つのポリビニルアルコールと、1~10個の炭素原子を有する1つ以上のアルデヒドとの反応により生じるものであることが好ましい。アルデヒドの炭素数が11を超えるとアセタール化の反応性が低下し、しかも反応中にポリビニルアセタール樹脂のブロックが発生しやすくなり、ポリビニルアセタール樹脂の合成に困難を伴い易くなる。
【0017】
アルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、n-ヘプチルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、2-エチルヘキシルアルデヒド、n-ノニルアルデヒド、n-デシルアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド等の脂肪族、芳香族、脂環式アルデヒドが挙げられる。中でも、炭素原子数が2~6の脂肪族非分岐のアルデヒドが好ましく、好適な破断エネルギーを有するポリビニルアセタール樹脂を得やすい観点から、n-ブチルアルデヒドが特に好ましい。これらのアルデヒドは単独又は二種以上組み合わせて使用できる。さらに、多官能アルデヒドやその他の官能基を有するアルデヒドなどを全アルデヒドの20質量%以下の範囲で併用してもよい。n-ブチルアルデヒドを使用する場合、アセタール化に使用するアルデヒドにおけるn-ブチルアルデヒドの含有量は50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上が特に好ましく、100質量%であってもよい。
【0018】
ポリビニルアセタール樹脂の原料となるポリビニルアルコールの粘度平均重合度は100以上が好ましく、300以上がより好ましく、400以上がより好ましく、600以上がさらに好ましく、700以上が特に好ましく、750以上が最も好ましい。ポリビニルアルコールの粘度平均重合度が上記下限値以上であると、合わせガラス作製時の断線や変形を抑制しやすく、得られる合わせガラスにおいて熱によりガラスがずれる現象を防止しやすい。また、ポリビニルアルコールの粘度平均重合度は5000以下が好ましく、3000以下がより好ましく、2500以下がさらに好ましく、2300以下が特に好ましく、2000以下が最も好ましい。ポリビニルアルコールの粘度平均重合度が上記上限値以下であると良好な製膜性を得やすい。ポリビニルアルコールの粘度平均重合度は、例えばJIS K 6726「ポリビニルアルコール試験方法」に基づいて測定できる。
【0019】
通常、ポリビニルアセタール樹脂の粘度平均重合度は、原料となるポリビニルアルコールの粘度平均重合度と一致するため、上記したポリビニルアルコールの好ましい粘度平均重合度はポリビニルアセタール樹脂の好ましい粘度平均重合度と一致する。樹脂フィルム(1)が異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂を含む場合、少なくとも1つのポリビニルアセタール樹脂の粘度平均重合度が、前記下限値以上かつ前記上限値以下であることが好ましい。
【0020】
樹脂フィルム(1)を構成するポリビニルアセタール樹脂中のアセチル基量は、ポリビニルアセタール主鎖のエチレンユニットを基準として、好ましくは0.01~20質量%、より好ましくは0.05~10質量%、さらに好ましくは0.1~5質量%である。ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量は、原料のポリビニルアルコール又はビニルアルコール共重合体のケン化度を適宜調整することによって調整できる。アセチル基量はポリビニルアセタール樹脂の極性に影響を及ぼし、それによって樹脂フィルム(1)の可塑剤相溶性及び機械的強度が変化し得る。樹脂フィルム(1)が、アセチル基量が前記範囲内であるポリビニルアセタール樹脂を含むと、光学歪みの低減等を達成しやすい。樹脂フィルム(1)が異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂を含む場合、少なくとも1つのポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量が、上記範囲内であることが好ましい。
【0021】
本発明で用いるポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は特に限定されないが、40~86質量%が好ましく、45~84質量%がより好ましく、50~82質量%がさらに好ましく、60~82質量%が特に好ましく、68~82質量%が最も好ましい。ポリビニルアルコール樹脂をアセタール化する際のアルデヒドの使用量を適宜調整することにより、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は前記範囲内に調整できる。アセタール化度が前記範囲内であると、本発明の合わせガラスの力学的強度が十分なものになりやすく、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤との相溶性が低下しにくい。樹脂フィルム(1)が異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂を含む場合、少なくとも1つのポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が、上記範囲内であることが好ましい。
【0022】
ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量は、ポリビニルアセタール主鎖のエチレンユニットを基準として、好ましくは6~26質量%、より好ましくは12~24質量%、より好ましくは15~22質量%、特に好ましくは18~21質量%である。また遮音性能を併せて付与するために好ましい範囲は6~20質量%、より好ましくは8~18質量%、さらに好ましくは10~15質量%、特に好ましくは11~13質量%である。ポリビニルアルコール樹脂をアセタール化する際のアルデヒドの使用量を調整することにより、水酸基量は前記範囲内に調整できる。水酸基量が前記範囲内であると、後述する樹脂フィルム(2)との屈折率差が小さくなり、光学むらの少ない合わせガラスを得やすい。樹脂フィルム(1)が異なる2つ以上のポリビニルアセタール樹脂を含む場合、少なくとも1つのポリビニルアセタール樹脂の水酸基量が上記範囲内であることが好ましい。
【0023】
ポリビニルアセタール樹脂は、通常、アセタール基単位、水酸基単位及びアセチル基単位から構成されており、これらの各単位量は、例えばJIS K 6728「ポリビニルブチラール試験方法」又は核磁気共鳴法(NMR)によって測定できる。また、ポリビニルアセタール樹脂がアセタール基単位以外の単位を含む場合は、水酸基の単位量とアセチル基の単位量とを測定し、これらの両単位量をアセタール基単位以外の単位を含まない場合のアセタール基単位量から差し引くことで、残りのアセタール基単位量を算出できる。
【0024】
樹脂フィルム(1)は、良好な製膜性を得やすい観点から、未架橋のポリビニルアセタールを含むことが好ましいが、架橋されたポリビニルアセタールを含むことも可能である。ポリビニルアセタールを架橋する方法は、例えばEP 1527107B1及びWO 2004/063231 A1(カルボキシル基含有ポリビニルアセタールの熱自己架橋)、EP 1606325 A1(ポリアルデヒドにより架橋されたポリビニルアセタール)、及びWO 2003/020776 A1(グリオキシル酸により架橋されたポリビニルアセタール)に記載されている。また、アセタール化反応条件を適宜調整することで生成する分子間アセタール結合量を制御したり、残存水酸基のブロック化度を制御したりすることも有用な方法である。
【0025】
アイオノマー樹脂としては特に限定されないが、エチレンなどのオレフィン由来の構成単位、及びα,β-不飽和カルボン酸に由来の構成単位を有し、α,β-不飽和カルボン酸の少なくとも一部が金属イオンによって中和された熱可塑性樹脂が挙げられる。金属イオンとしては、例えばナトリウムイオン等のアルカリ金属イオン;マグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン;亜鉛イオン等が挙げられる。金属イオンによって中和される前のエチレン-α,β-不飽和カルボン酸共重合体において、α,β-不飽和カルボン酸の構成単位の含有量は、該エチレン-α,β-不飽和カルボン酸共重合体の質量に基づいて2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。また、上記α,β-不飽和カルボン酸の構成単位の含有量は30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。上記アイオノマー樹脂が有するα,β-不飽和カルボン酸由来の構成単位としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸に由来する構成単位などが挙げられ、中でもアクリル酸またはメタクリル酸に由来する構成単位が特に好ましい。上記アイオノマー樹脂としては、入手容易性の観点から、エチレン-アクリル酸共重合体のアイオノマーおよびエチレン-メタクリル酸共重合体のアイオノマーがより好ましく、エチレン-アクリル酸共重合体の亜鉛アイオノマー、エチレン-アクリル酸共重合体のナトリウムアイオノマー、エチレン-メタクリル酸共重合体の亜鉛アイオノマー、エチレン-メタクリル酸共重合体のナトリウムアイオノマーが特に好ましい。アイオノマー樹脂は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0026】
エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂において、エチレン単位及び酢酸ビニル単位の合計に対する酢酸ビニル単位の割合は50モル%未満が好ましく、30モル%未満がより好ましく、20モル%未満がさらに好ましく、15モル%未満が特に好ましい。エチレン単位及び酢酸ビニル単位の合計に対する酢酸ビニル単位の割合が50モル%未満であると、合わせガラスに使用される回路付きフィルムに含まれる樹脂フィルム(1)に必要な力学強度と柔軟性が好適に発現する傾向にある。
【0027】
本発明の回路付きフィルムは、樹脂フィルム(1)が前記ポリビニルアセタール樹脂、前記アイオノマー樹脂及び前記エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有することにより、合わせガラス作製時に導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)の断線や変形を有効に抑制又は防止できる。
【0028】
樹脂フィルム(1)は、樹脂フィルム(1)の質量に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%のポリビニルアセタール樹脂を含むことが好ましい。樹脂フィルム(1)中のポリビニルアセタール樹脂の含有量が上記範囲であると、合わせガラス作製時の断線や変形等をより有効に抑制又は防止できるとともに、得られる合わせガラスの前方視認性を向上できる。なお、本明細書において、前方視認性とは、目視で合わせガラス表面をみたときに、そのガラス表面の裏側の空間に対する見えやすさを意味し、前方視認性が向上するとは、ガラス表面の裏側空間がより見えやすくなることをいう。
【0029】
質量比1/1のトルエン/エタノール混合液90質量部に対して前記樹脂フィルム(1)10質量部を溶解させた溶液の、ブルックフィールド型(B型)粘度計により20℃、30rpmで測定された粘度は、好ましくは100mPa・s以上、より好ましくは150mPa・s以上、さらに好ましくは200mPa・s以上、特に好ましくは240mPa・s以上である。樹脂フィルム(1)の前記粘度が前記下限値以上であると、合わせガラス作製時の断線や変形等を抑制しやすく、得られる合わせガラスにおいて熱によりガラスがずれる現象を防止しやすい。樹脂フィルム(1)が複数の樹脂の混合物からなる場合、かかる混合物の前記粘度が前記下限値以上であることが好ましい。前記粘度の上限値は、良好な製膜性を得やすい観点から、通常1000mPa・s、好ましくは800mPa・s、より好ましくは500mPa・s、さらに好ましくは450mPa・s、特に好ましくは400mPa・sである。また、例えば樹脂フィルム(1)がポリビニルアセタール樹脂で構成されている場合は、粘度平均重合度の高いポリビニルアルコールを原料又は原料の一部として用いて製造したポリビニルアセタール樹脂を使用又は併用することにより、ポリビニルアセタール樹脂の前記粘度を前記下限値以上に調整できる。
【0030】
樹脂フィルム(1)は可塑剤を含有していてもよい。樹脂フィルム(1)に含まれる可塑剤の含有量は、樹脂フィルム(1)の質量に対して、好ましくは0~20質量%、より好ましくは0~15質量%である。可塑剤の含有量が上記範囲であると、製膜性及び取扱い性に優れる回路付きフィルムを製造しやすく、合わせガラス作製時に回路の断線や変形等を抑制しやすい。回路への印刷特性、フィルムの保存安定性の観点からは、樹脂フィルム(1)は可塑剤を含有しないことが好ましい。
【0031】
樹脂フィルム(1)が可塑剤を含有する場合、可塑剤として好ましくは下記群の1つ又は複数の化合物が使用される。
・多価の脂肪族又は芳香族酸のエステル。例えば、ジアルキルアジペート(例えば、ジヘキシルアジペート、ジ-2-エチルブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ヘキシルシクロヘキシルアジペート、ヘプチルアジペートとノニルアジペートとの混合物、ジイソノニルアジペート、ヘプチルノニルアジペート);アジピン酸と脂環式エステルアルコール若しくはエーテル化合物を含むアルコールとのエステル(例えば、ジ(ブトキシエチル)アジペート、ジ(ブトキシエトキシエチル)アジペート);ジアルキルセバケート(例えば、ジブチルセバケート);セバシン酸と脂環式若しくはエーテル化合物を含むアルコールとのエステル;フタル酸のエステル(例えば、ブチルベンジルフタレート、ビス-2-ブトキシエチルフタレート);及び脂環式多価カルボン酸と脂肪族アルコールとのエステル(例えば、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル)が挙げられる。
・多価の脂肪族若しくは芳香族アルコール又は1つ以上の脂肪族若しくは芳香族置換基を有するオリゴエーテルグリコールのエステル又はエーテル。例えば、グリセリン、ジグリコール、トリグリコール、テトラグリコール等と、線状若しくは分岐状の脂肪族若しくは脂環式カルボン酸とのエステルが挙げられる。具体的には、ジエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルブタノエート)、テトラエチレングリコール-ビス-n-ヘプタノエート、トリエチレングリコール-ビス-n-ヘプタノエート、トリエチレングリコール-ビス-n-ヘキサノエート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、及びジプロピレングリコールベンゾエートが挙げられる。
・脂肪族又は芳香族のエステルアルコールのリン酸エステル。例えば、トリス(2-エチルヘキシル)ホスフェート(TOF)、トリエチルホスフェート、ジフェニル-2-エチルヘキシルホスフェート、及びトリクレジルホスフェートが挙げられる。
・クエン酸、コハク酸及び/又はフマル酸のエステル。
【0032】
また、多価アルコールと多価カルボン酸とからなるポリエステル若しくはオリゴエステル、これらの末端エステル化物若しくはエーテル化物、ラクトン若しくはヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル若しくはオリゴエステル、又はこれらの末端エステル化物若しくはエーテル化物等を可塑剤として用いてもよい。
【0033】
樹脂フィルム(1)及び後述する樹脂フィルム(2)が可塑剤を含有する場合、両方の樹脂フィルムの間で可塑剤が移行することに伴う問題(例えば、経時的な物性変化等の問題)を抑制する観点から、樹脂フィルム(2)が含有するものと同じ可塑剤、又は樹脂フィルム(2)の物性(例えば、耐熱性、耐光性、透明性及び可塑化効率)を損なわない可塑剤を使用することが好ましい。このような観点から、可塑剤としては、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコール-ビス(2-エチルブタノエート)、テトラエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)、テトラエチレングリコール-ビスヘプタノエートが含まれることが好ましく、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)が特に好ましい。
【0034】
樹脂フィルム(1)は、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、水、紫外線吸収剤、酸化防止剤、接着調整剤、増白剤若しくは蛍光増白剤、安定剤、色素、加工助剤、有機若しくは無機ナノ粒子、焼成ケイ酸及び表面活性剤等が挙げられる。添加剤は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0035】
ある態様では、導電性細線回路(A)又は導電性回路(B)の腐食を抑制するために、樹脂フィルム(1)が腐食防止剤を含有することが好ましい。樹脂フィルム(1)に含まれる腐食防止剤の含有量は、樹脂フィルム(1)の質量に基づいて、好ましくは0.005~5質量%である。腐食防止剤の例としては、置換された、又は置換されていないベンゾトリアゾールが挙げられる。
【0036】
樹脂フィルム(1)の厚さは好ましくは10~350μm、より好ましくは30~300μm、さらに好ましくは50~300μmである。樹脂フィルムの厚さが上記範囲であると、樹脂フィルム(1)の熱収縮を有効に防止でき、回路の断線や変形等を有効に防止又は抑制できる。
【0037】
樹脂フィルム(1)の製造方法は特に限定されず、前記樹脂(1)、場合により所定量の可塑剤及び添加剤を配合し、これを均一に混練した後、押出法、カレンダー法、プレス法、キャスティング法、インフレーション法等、公知の製膜方法によりフィルム(層)を作製し、これを樹脂フィルム(1)とすることができる。
【0038】
公知の製膜方法の中でも特に押出機を用いてフィルムを製造する方法が好適に採用される。押出時の樹脂温度は150~250℃が好ましく、170~230℃がより好ましい。樹脂温度が高くなりすぎるとポリビニルアセタール樹脂が分解を起こし、揮発性物質の含有量が多くなる。一方で温度が低すぎる場合にも、揮発性物質の含有量は多くなる。揮発性物質を効率的に除去するためには、押出機のベント口から、減圧により揮発性物質を除去することが好ましい。押出機を用いて樹脂フィルム(1)を製造する場合、後述するように、金属箔上に樹脂フィルム(1)を溶融押出してもよい。
【0039】
<導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)>
本発明の回路付きフィルムは、樹脂フィルム(1)の一方の面に導電性細線回路(A)及び導電性細線回路(A)とは独立した導電性回路(B)を有する。本発明の回路付きフィルムは、用途に応じて、導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)を2つ以上有していてもよい。
【0040】
導電性細線回路(A)は、好ましくは金属箔由来の回路である。導電性細線回路(A)が金属箔由来の回路である場合、例えば、樹脂フィルム(1)と金属箔とを重ねて熱圧着させるか、又は金属箔上に樹脂フィルム(1)を溶融押出し、その後、フォトリソグラフィの手法を用いて所定の導電構造を形成させることにより製造するのが好ましい。また、導電性細線回路(A)は、UV硬化性ナノ金属インクを凸版印刷法等の慣用の印刷法により、所定の導電構造を形成するように印刷し、次いでUV光を照射してインクを硬化させて製造することもできる。
【0041】
導電性細線回路(A)は、エッチングの容易性及び金属箔の入手容易性の観点から、好ましくは銅又は銀からなる。即ち、前記金属箔は、好ましくは銅箔又は銀箔であり、前記金属インクは銀インク又は銅インクである。
【0042】
導電性細線回路(A)は、合わせガラスの前方視認性及び必要な発熱性を共に得る観点から、全体的又は部分的に線状、格子状、網状又はあみだくじ状であることが好ましい。
ここで、線状の例としては、直線状、波線状及びジグザグ状等が挙げられる。導電性細線回路(A)において、形状は全ての箇所で同一でも、複数の形状が混在していてもよい。
あみだくじ状とは、あみだくじのように、複数の縦細線(主導電細線)を結ぶ複数の横細線(副導電細線)が互いに同じ又は異なる間隔をあけて配置されている形状を意味する。
この場合、縦細線(主導電細線)及び横細線(副導電細線)はそれぞれ、例えば直線状、波線状又はジグザグ状等のいずれの形状でもよい。
【0043】
導電性細線回路(A)の線幅は、好ましくは1~30μm、より好ましくは2~20μm、さらに好ましくは2~15μm、特に好ましくは3~12μmである。導電性細線回路(A)の線幅が上記範囲内であると、合わせガラス作製後の前方視認性を得やすく、かつ十分な発熱性を得やすい。なお、後述するように導電性細線回路(A)がバスバーを有するとき、バスバーの線幅は上記の好適な範囲に限定されず、任意の値をとることができる。
【0044】
導電性細線回路(A)の厚さは、光の反射低減及び必要な発熱量が得られやすい観点から、好ましくは1~30μm、より好ましくは2~20μm、さらに好ましくは3~15μm、特に好ましくは3~12μmである。導電性細線回路(A)の厚さは、厚み計又はレーザー顕微鏡等を用いて測定される。なお、後述するように導電性細線回路(A)がバスバーを有するとき、バスバーの厚みは上記の好適な範囲に限定されず、任意の値をとることができる。
【0045】
導電性細線回路(A)の片面又は両面は、好ましくは低反射率処理されている。本発明において「低反射率処理されている」とは、JIS R 3106に準じて測定された可視光反射率が30%以下となるよう処理されていることを意味する。より良好な前方視認性を得る観点からは、可視光反射率が10%以下となるよう処理されていることがより好ましい。可視光反射率が前記上限値以下であると、樹脂フィルム(1)と後述する樹脂フィルム(2)とを有する回路付きフィルムを有する合わせガラスを作製した際に、所望の可視光反射率を得やすい。
【0046】
低反射率処理の方法としては、例えば、黒化処理(暗色化処理)、褐色化処理及びめっき処理等が挙げられる。工程通過性の観点から、低反射率処理は黒化処理であることが好ましい。従って、良好な前方視認性の観点から、可視光反射率が10%以下となるよう、導電性細線回路(A)の片面又は両面が黒化処理されていることが特に好ましい。黒化処理は、例えばアルカリ系黒化液等を用いて行われる。
【0047】
導電性細線回路(A)はバスバーを含むことができる。バスバーを含む場合、導電細線はバスバーに接続されている。バスバーとしては、当技術分野において通常使用されるバスバーが使用され、例えば、金属箔テープ、導電性粘着剤付き金属箔テープ及び導電性ペースト等が挙げられる。また、導電性細線回路(A)を形成する際同時に、金属箔の一部をバスバーとして残すことによりバスバーを形成してもよい。バスバーには給電線が接続され、各給電線が電源に接続されることから、電流が導電性細線回路(A)に供給される。
【0048】
導電性回路(B)は、樹脂フィルム(1)の一方の面に導電性細線回路(A)とは独立して配置されている。このため、導電性細線回路(A)と導電性回路(B)に別々の機能を付与でき、また導電性細線回路(A)と導電性回路(B)に同一の機能を付与する場合にも、別々に作動させることができるので、電力負荷をより低減できる。より詳細には、例えば導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)が同一の加熱機能を有し、導電性細線回路(A)を窓ガラス全体に配置し、導電性回路(B)をカメラやセンサーの周りに配置すれば、状況に応じて別々に加熱可能なため、一度に加熱が必要な回路と比べ、電力負荷をより低減できる。
【0049】
導電性回路(B)を用いれば、同一平面に機能の異なる複数の導電性回路付きフィルムを作製することができる。また、該導電性回路付きフィルムを使用すれば、同一平面上に存在する機能の異なる複数の導電性回路に電流を流すことが可能な合わせガラスを形成できる。
【0050】
導電性回路(B)は種々の機能を有していてよく、特に加熱機能、アンテナ機能、又はセンサー機能を有することが好ましい。
【0051】
導電性回路(B)が加熱機能を有する場合、導電性回路(B)の厚さは、視認性の観点から、好ましくは1~30μm、より好ましくは2~20μm、さらに好ましくは3~15μm、特に好ましくは3~12μmである。一方で、アンテナ、センサー機能を有する場合は、電波特性の観点から、通常500μm以下であればよいが、好ましくは5~250μmであり、より好ましくは10~150μmである。導電性回路(B)の厚さは、厚み計又はレーザー顕微鏡等を用いて測定される。
【0052】
導電性回路(B)はバスバーを含むことができる。例えば導電性回路(B)が導電性細線回路(A)と同様に細線を有する場合、その細線はバスバーに接続されていてもよく、例えば導電性回路(B)がアンテナ機能を有する場合、そのアンテナはバスバーに接続されていてもよい。バスバーとしては、上記導電性細線回路(A)に含まれるバスバーとして例示したものと同様のものが挙げられる。バスバーには給電線が接続され、各給電線が電源に接続されることから、電流が導電性回路(B)に供給される。
【0053】
導電性回路(B)が加熱機能を有する場合、金属箔由来の回路である導電性細線回路(A)と同じ回路であってもよく、回路の形状、線幅、材料等が異なる回路であってもよい。導電性回路(B)の形状、線幅、材料等としては、導電性細線回路(A)として上記に例示の形状及び材料、並びに導電性細線回路(A)として上記に例示の線幅の範囲が挙げられる。なお、導電性回路(B)がバスバーを有するとき、バスバーの線幅は上記の好適な範囲に限定されず、任意の値をとることができる。また、導電性回路(B)のその他の態様は、上述した導電性細線回路(A)の好適な態様と同じであってもよい。
【0054】
導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)が加熱機能を有する本発明の回路付きフィルムの一実施態様を図1Aに示す。図1B図1Aに示す回路付きフィルムのII-II線断面図である。図1A及び図1Bに示す回路付きフィルム1は、樹脂フィルム2の一方の面に、2つのバスバー3と該2つのバスバー3とを結ぶ波線状の複数の導電細線4とを含む導電性細線回路5と、2つのバスバー6と該2つのバスバー6とを結ぶ波線状の複数の導電細線7とを含む導電性回路8とを有する。導電性細線回路5及び導電性回路8はそれぞれ独立しており、導電性細線回路5に含まれるバスバー3と、導電性回路8に含まれるバスバー6には別々に電流を供給できる。例えば回路付きフィルム1を有する合わせガラスを車両のフロントガラスに適用した場合、フロントガラス全体を導電性細線回路5で加熱でき、ワイパー部分を導電性回路8で加熱できる。すなわち、状況に応じて導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)を別々に加熱可能であるため、電力負荷を低減できる。なお、図1A図4Bにおいては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜相違させている。
【0055】
導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)が加熱機能を有する本発明の回路付きフィルムの他の実施態様を図2Aに示す。図2B図2Aに示す回路付きフィルムのII-II線断面図である。図2A及び図2Bに示す回路付きフィルム9は、樹脂フィルム10の一方の面に、2つのバスバー11と該2つのバスバー11とを結ぶ波線状の複数の導電細線12とを含む導電性細線回路13と、2つのバスバー14と該2つのバスバー14とを結ぶ2つの線状の導電細線15とを含む導電性回路16とを有する。導電細線15は各バスバー14から延びる2つの直線部と、該2つの直線部を結ぶ湾曲部からなる線状構造である。2つの導電細線15における湾曲部は、互いに外向きに湾曲している。導電性細線回路13及び導電性回路16はそれぞれ独立しており、導電性細線回路13に含まれるバスバー11と、導電性回路16に含まれるバスバー14には別々に電流を供給できる。例えば回路付きフィルム9を有する合わせガラスを車両のフロントガラスに適用した場合、フロントガラス全体を導電性細線回路13で加熱でき、レインセンサー部分を導電性回路16で加熱できる。すなわち、状況に応じて導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)を別々に加熱可能であるため、電力負荷を低減できる。
【0056】
導電性回路(B)がアンテナとして機能する場合、導電性回路(B)の形状は、テレビ、ラジオ、携帯、ETC、無線LAN等の受発信機能を有する形状であれば特に限定されないが、ループ状アンテナの場合、長軸方向の長さは、このアンテナに受信させる電波の波長の1/5から1/2程度とすればよく、例えばDTV用のアンテナを車両の窓ガラスに設置する場合は、長軸方向の長さは、好ましくは10~300mm、より好ましくは30~250mm、さらに好ましくは50~200mmであり、短軸方向の長さは長軸方向と同等であってもよく、好ましくは10~250mm、より好ましくは20~200mm、さらに好ましくは30~150mmである。また、短軸方向の長さ、即ちループの幅はループが形成されれば幅は狭くてもよい。
ポール状アンテナの場合、ポール状アンテナの長さ(線状導体の長さ又は長軸方向の長さ)は、このアンテナに受信させる電波の波長の1/10以上あればよく、例えばDTV用のアンテナの場合は、好ましくは50~100mm、さらに好ましくは30~90mmである。また、ポール状アンテナの幅(短軸方向の長さ)は、特に限定されないが、好ましくは10~50mm、より好ましくは20~40mmである。
【0057】
アンテナとして機能する導電性回路(B)を形成する方法は特に限定されないが、銀ペーストや銅箔等の導電体を形成する、例えば導電性細線回路(A)を有する樹脂フィルム(1)を加熱しながら、数値制御された配線機を用いて、自己融着性金属線を樹脂フィルム(1)の導電性細線回路(A)を有する面の樹脂フィルム(1)上に押し当てることで形成できる。この際、自己融着性金属線を加熱しながら行うこともできる。
【0058】
自己融着性金属線は、金属線のまわりに熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の融着性樹脂を被覆したものであることが好ましい。アンテナに絶緑性を付与するために、融着性樹脂の下に絶緑樹脂を被覆してもよい。
【0059】
金属線としては、例えば、銅線、金線、銀線、アルミニウム線、タングステン線、真ちゅう線、及びこれらの金属の2種以上の合金の線などの種々の金属線が挙げられるが、銅線が好ましい。金属線の断面形状は特に限定されず、例えば、略楕円形、略円形、略多角形[例えば略三角形、略四角形(略長方形、略正方形)、略六角形等]などであってよく、特に略円形であることが好ましい。金属線が略円形である場合、その長軸の直径は、通常500μm以下であればよいが、好ましくは5~250μmであり、より好ましくは40~150μmである。この範囲未満では電波特性が低下し、この範囲を超えると前方視認性が低下する。
【0060】
融着性樹脂としては、例えばポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂などの種々の樹脂が挙げられる。中でも、視認性の観点からポリビニルブチラール樹脂が好ましい。ポリビニルブチラール樹脂としては、市販の自己融着性金属線の融着性樹脂として用いられるポリビニルブチラール樹脂を使用できる。
【0061】
金属線を被覆している融着性樹脂の厚さは、通常0.1~100μmが好ましく、1~50μmがより好ましく、1~10μmがさらに好ましい。
【0062】
導電性細線回路(A)が加熱機能を有し、導電性回路(B)がアンテナ機能を有する本発明の回路付きフィルムの一実施態様を図3Aに示す。図3Bは、図3Aに示す回路付きフィルムのII-II線断面図である。図3A及び図3Bに示す回路付きフィルム17は、樹脂フィルム18の一方の面に、2つのバスバー19と該2つのバスバー19とを結ぶ波線状の複数の導電細線20とを含む導電性細線回路21と、2つのバスバー22と各バスバー22にそれぞれ接続する2つのループ状アンテナ23とを含む導電性回路24とを有する。導電性回路24側に位置する一方のバスバー19は2つの凹部を有し、該凹部内に2つのループ状アンテナ23がそれぞれ配置されている。導電性細線回路21に含まれるバスバー19と、導電性回路24に含まれるバスバー22には別々に電流を供給できる。例えば回路付きフィルム17を有する合わせガラスを車両のフロントガラスに適用した場合、フロントガラス全体を導電性細線回路21で加熱でき、導電性回路24で電波の送受信を行うことができる。ループ状アンテナ23の長軸方向の長さは好ましくは10~300mm、より好ましくは30~250mm、さらに好ましくは50~200mmであり、短軸方向の長さは長軸方向と同等であってもよく、好ましくは10~250mm、より好ましくは20~200mm、さらに好ましくは30~150mmである。ループ状アンテナの厚さは、好ましくは5~250μmであり、より好ましくは10~150μmである。
【0063】
導電性細線回路(A)が加熱機能を有し、導電性回路(B)がアンテナ機能を有する本発明の回路付きフィルムの他の実施態様を図4Aに示す。図4B図4Aに示す回路付きフィルムのII-II線断面図である。図4A及び図4Bに示す回路付きフィルム25は、樹脂フィルム26の一方の面に、2つのバスバー27と該2つのバスバー27とを結ぶ波線状の複数の導電細線28とを含む導電性細線回路29と、2つのバスバー30と各バスバー30にそれぞれ接続する2つのポール状アンテナ31とを含む導電性回路32とを有する。導電性細線回路29に含まれるバスバー27と導電性回路32に含まれるバスバー30とは互いに直交する向きに配置されている。導電性細線回路29に含まれるバスバー27と、導電性回路32に含まれるバスバー30には別々に電流を供給できる。例えば回路付きフィルム25を有する合わせガラスを車両のフロントガラスに適用した場合、フロントガラス全体を導電性細線回路29で加熱でき、導電性回路32で電波の送受信を行うことができる。ポール状アンテナ31の長さ(線状導体の長さ又は長軸方向の長さ)は、このアンテナに受信させる電波の波長の1/10以上あればよく、例えばDTV用のアンテナの場合は、好ましくは50~100mm、さらに好ましくは30~90mmであり、ポール状アンテナ31の幅(短軸方向の長さ)は、好ましくは10~50mm、より好ましくは20~40mmである。例えば、合わせガラスの内部に埋め込まれたアンテナ回路の末端は、合わせガラスの縁に引き出されており、そのアンテナ回路の末端から受信機に接続させることにより、電波を受信できる。ポール状アンテナの厚さは、好ましくは5~250μm、より好ましくは10~150μmである。
【0064】
<樹脂フィルム(2)>
本発明の回路付きフィルムは、さらに樹脂フィルム(2)を有することができる。樹脂フィルム(2)は、導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)の樹脂フィルム(1)とは反対側の面、又は樹脂フィルム(1)の導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)とは反対側の面に位置していることが好ましい。すなわち、好ましい態様において、本発明の回路付きフィルムは、樹脂フィルム(1)、導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)、並びに樹脂フィルム(2)をこの順に有していてもよく、樹脂フィルム(2)、樹脂フィルム(1)、並びに導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)をこの順に有していてもよい。本発明の回路付きフィルムが樹脂フィルム(2)を有することにより、合わせガラス作製時における回路の断線や変形を有効に抑制又は防止できる。また、樹脂フィルム(2)は、赤外線反射、紫外線反射、色補正、赤外線吸収、紫外線吸収、蛍光・発光、遮音、エレクトロクロミック、サーモクロミック、フォトクロミック、意匠性等の機能を有していてもよい。
【0065】
樹脂フィルム(2)に含まれる樹脂[樹脂(2)という場合がある]としては、例えばポリビニルアセタール樹脂、アイオノマー樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体等が挙げられる。これらの中でも、合わせガラス作製時の回路の剥離や変形を防止する観点から、樹脂フィルム(2)はポリビニルアセタール樹脂、アイオノマー樹脂及びエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有することが好ましい。
【0066】
ポリビニルアセタール樹脂としては、[樹脂フィルム(1)]の項に記載のポリビニルアルコール樹脂と同様のものを使用でき、アセタール化度、アセチル基量、水酸基量の範囲も同様のものを使用できる。樹脂フィルム(2)を構成するポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が所定範囲であると、合わせガラス作製時の耐貫通性又はガラスとの接着性に優れた回路付きフィルムを得やすい。また、アセチル基量が所定範囲であると、可塑剤との相溶性に優れた樹脂フィルム(2)を得やすい。さらに、水酸基量が所定範囲であると、耐貫通性、接着性、又は遮音性に優れた合わせガラスを得やすい。
【0067】
樹脂フィルム(2)は良好な製膜性及びラミネート適性を得やすい観点、並びに樹脂フィルム(2)を含む乗物用ガラスにおいて衝突時の頭部衝撃を軽減できる観点から、未架橋のポリビニルアセタール樹脂を含むことが好ましいが、架橋されたポリビニルアセタール樹脂を含むことも可能である。ポリビニルアセタール樹脂を架橋するための方法は、[樹脂フィルム(1)]の項に記載の方法と同様である。
【0068】
アイオノマー樹脂及びエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂は、[樹脂フィルム(1)]の項に記載のアイオノマー樹脂及びエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂と同様のものを使用できる。
【0069】
樹脂フィルム(2)は、樹脂フィルム(2)の質量に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%のポリビニルアセタール樹脂を含むことが好ましい。樹脂フィルム(2)中のポリビニルアセタール樹脂の含有量が上記範囲であると、合わせガラス作製時の断線や変形等をより有効に抑制又は防止できる。
【0070】
樹脂フィルム(2)は可塑剤を含有していてもよい。樹脂フィルム(2)中の可塑剤の含有量は、樹脂フィルム(2)の質量に対して、好ましくは10~50質量%、より好ましくは15~40質量%、さらに好ましくは20~30質量%である。可塑剤の含有量が上記範囲であると、耐衝撃性に優れた合わせガラスが得られやすく、力学的作用が生じても回路の断線や変形等が生じにくい。好適な一態様としては、樹脂フィルム(2)は、樹脂フィルム(2)の質量に対して、50質量%以上のポリビニルアセタール樹脂及び10~50質量%の可塑剤を含有する。
【0071】
可塑剤としては、[樹脂フィルム(1)]の項に記載の可塑剤を使用できる。また樹脂フィルム(2)は、必要に応じて、[樹脂フィルム(1)]の項に記載の添加剤を含有していてもよい。
【0072】
樹脂フィルム(1)に含まれる樹脂(1)と樹脂フィルム(2)に含まれる樹脂(2)は同種の樹脂であることが好ましく、樹脂(1)及び樹脂(2)はポリビニルアセタール樹脂であることが好ましい。樹脂(1)及び樹脂(2)が同種の樹脂であると、本発明の回路付きフィルムを有する合わせガラスにおいて、後述するように可塑剤が移行した後の平衡状態において樹脂フィルム(1)と樹脂フィルム(2)との屈折率差が小さくなることから、互いに寸法が異なる樹脂フィルム(1)と樹脂フィルム(2)を使用した場合にその境界が視認しにくくなり、前方視認性が向上するため好ましい。
本発明において、樹脂フィルム(1)及び樹脂フィルム(2)の両方がポリビニルアセタール樹脂を含有する場合、樹脂フィルム(1)に含まれるポリビニルアセタール樹脂の水酸基量と、樹脂フィルム(2)に含まれるポリビニルアセタール樹脂の水酸基量との差は、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。樹脂フィルム(1)に含まれるポリビニルアセタール樹脂及び/又は樹脂フィルム(2)に含まれるポリビニルアセタール樹脂が複数の樹脂の混合物からなる場合、樹脂フィルム(1)に含まれる少なくとも1つのポリビニルアセタール樹脂の水酸基量と、樹脂フィルム(2)に含まれる少なくとも1つのポリビニルアセタール樹脂の水酸基量との差が前記上限値以下であることが好ましい。前記差が前記上限値以下であると、本発明の回路付きフィルムを有する合わせガラスにおいて、後述するように可塑剤が移行した後の平衡状態において樹脂フィルム(1)と樹脂フィルム(2)との屈折率差が小さくなることから、互いに寸法が異なる樹脂フィルム(1)と樹脂フィルム(2)を使用した場合にその境界が視認しにくくなり、前方視認性が向上するため好ましい。本発明ではその境界が視認できない、優れた前方視認性を有する合わせガラスを得ることもできる。
【0073】
樹脂フィルム(2)の厚さは好ましくは100~1000μm、より好ましくは200~900μm、さらに好ましくは300~800μmである。樹脂フィルム(2)の厚さが上記範囲であると、合わせガラスにした際に十分な耐貫通性が得られ、安全上非常に有用である。
【0074】
樹脂フィルム(2)は、[樹脂フィルム(1)]の項に記載の樹脂フィルム(1)の製造方法と同様の方法により製造してもよい。
【0075】
<回路付きフィルムの製造方法>
本発明の回路付きフィルムは、樹脂フィルム(1)の一方の面に導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)を形成する工程(i)、及び必要に応じて樹脂フィルム(1)の導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)とは反対側の面、又は導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)の樹脂フィルム(1)とは反対側の面に樹脂フィルム(2)を積層する工程(ii)を含む方法により製造できる。
【0076】
導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)がともに加熱機能を有する回路である場合、工程(i)は、樹脂フィルム(1)と金属箔とを接合させる工程、金属箔付樹脂フィルム(1)から導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)を形成する工程を含むことが好ましい。樹脂フィルム(1)と金属箔とを接合させる工程は、例えば下記方法により実施される。
・樹脂フィルム(1)と金属箔とを重ねて熱圧着させる方法;
・金属箔上に樹脂フィルム(1)を構成する樹脂組成物の溶融物を被覆して接合する方法、例えば、金属箔上に前記樹脂組成物を溶融押出する方法、又は金属箔上に前記樹脂組成物をナイフ塗布等により塗布する方法;又は
・溶媒、若しくは樹脂フィルム(1)を構成する樹脂及び溶媒を含む樹脂組成物の溶液又は分散液を、金属箔及び樹脂フィルム(1)の一方若しくは両方に塗布するか、又は金属箔と樹脂フィルム(1)との間に注入し、金属箔と樹脂フィルム(1)とを接合させる方法。
【0077】
熱圧着時の接合温度は、樹脂フィルム(1)を構成する樹脂の種類に依存するが、通常は70~170℃、好ましくは90~160℃、より好ましくは100~155℃、さらに好ましくは110~150℃である。接合温度が上記範囲内であると、良好な接合強度を得やすい。押出時の樹脂温度は、樹脂フィルム(1)中の揮発性物質の含有量を低下させる観点から150~250℃が好ましく、170~230℃がより好ましい。揮発性物質を効率的に除去するためには、押出機のベント口から、減圧により揮発性物質を除去することが好ましい。
また、前記溶媒として、樹脂フィルム(1)を構成する樹脂に通常使用される可塑剤を使用することが好ましく、例えば上記可塑剤と同様のものが使用される。
【0078】
得られた金属箔付樹脂フィルム(1)から導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)を形成する工程は、公知のフォトリソグラフィの手法を用いて実施される。前記工程は、例えば後述の実施例に記載のとおり、金属箔付樹脂フィルム(1)の金属箔上にドライフィルムレジストをラミネートした後、フォトリソグラフィの手法を用いて導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)に相当するエッチング抵抗パターンを形成し、次いで、エッチング抵抗パターンが付与された樹脂フィルム(1)を銅エッチング液に浸漬して導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)を形成した後、公知の方法により残存するフォトレジスト層を除去することによって実施される。このような製造方法は、所望の形状の回路を簡便かつ容易に形成できるため、回路付きフィルムの生産効率は著しく改善される。
【0079】
導電性細線回路(A)が金属箔由来の回路(加熱機能を有する回路)であり、導電性回路(B)がアンテナ機能を有する回路である場合、工程(i)は、上記のように、樹脂フィルム(1)と金属箔とを接合させる工程、金属箔付樹脂フィルム(1)から導電性細線回路(A)を形成する工程、及び導電性細線回路(A)を有する面の樹脂フィルム(1)上に導電性回路(B)を形成する工程を含むことが好ましい。
【0080】
樹脂フィルム(1)と金属箔とを接合させる工程は、上述の樹脂フィルム(1)と金属箔とを接合させる工程と同様の方法を使用でき、また金属箔付樹脂フィルム(1)から導電性細線回路(A)を形成する工程は、導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)に相当するエッチング抵抗パターンに代えて、導電性細線回路(A)に相当するエッチング抵抗パターンを用いる以外、金属箔付樹脂フィルム(1)から導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)を形成する工程と同様の方法を使用できる。
【0081】
導電性細線回路(A)を有する面の樹脂フィルム(1)上に導電性回路(B)を形成する工程としては、導電性細線回路(A)を有する樹脂フィルム(1)及び/又は自己融着性金属線を加熱しながら、数値制御された配線機を用いて、自己融着性金属線を導電性細線回路(A)を有する面の樹脂フィルム(1)上に押し当てる方法が挙げられる。自己融着性金属線を加熱する方法としては、高周波誘導加熱、通電等が挙げられる。樹脂フィルム(1)を加熱する方法としては、高周波誘電加熱、超音波加熱、熱風加熱等が挙げられる。数値制御された配線機を用いる場合は、自己融着性金属線を加熱する方法よりも、樹脂フィルム(1)を加熱する方法がより好ましい。この場合、高周波誘電加熱、超音波加熱が好ましい。
【0082】
<回路付きフィルム>
本発明の回路付きフィルムは、樹脂フィルム(1)、導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)、及び樹脂フィルム(2)とは別の層、例えば機能層等を有していてもよい。
機能層としては、赤外線反射層、紫外線反射層、色補正層、赤外線吸収層、紫外線吸収層、蛍光・発光層、遮音層、エレクトロクロミック層、サーモクロミック層、フォトクロミック層、意匠性層、又は高弾性率層等が挙げられる。本発明の回路付きフィルムにおける層構成の例を下記に示すが、これらに限定されない。
【0083】
<1>樹脂フィルム(1)/導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)/樹脂フィルム(2)の3構成
<2>機能層/樹脂フィルム(1)/導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)/樹脂フィルム(2)の4層構成
<3>樹脂フィルム(1)/導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)/機能層/樹脂フィルム(2)の4層構成
<4>樹脂フィルム(1)/導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)/樹脂フィルム(2)/機能層の4層構成
<5>樹脂フィルム(2)/樹脂フィルム(1)/導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)の3層構成
<6>樹脂フィルム(2)/樹脂フィルム(1)/導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)/樹脂フィルム(2)の4層構成
<7>機能層/樹脂フィルム(2)/樹脂フィルム(1)/導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)の4層構成
<8>機能層/樹脂フィルム(2)/樹脂フィルム(1)/導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)/樹脂フィルム(2)の5層構成
<9>樹脂フィルム(2)/機能層/樹脂フィルム(1)/導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)の4層構成
<10>樹脂フィルム(2)/機能層/樹脂フィルム(1)/導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)/樹脂フィルム(2)の5層構成
<11>樹脂フィルム(2)/樹脂フィルム(1)/導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)/機能層の4層構成。
<12>樹脂フィルム(2)/樹脂フィルム(1)/導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)/機能層/樹脂フィルム(2)の5層構成。
【0084】
[合わせガラス]
本発明の合わせガラスは、少なくとも2枚のガラスの間に、前記回路付きフィルムを有する。
【0085】
ガラスとしては、透明性、耐候性及び力学強度の観点から、好ましくは無機ガラス、又はメタクリル樹脂シート、ポリカーボネート樹脂シート、ポリスチレン系樹脂シート、ポリエステル系樹脂シート、ポリシクロオレフィン系樹脂シート等の有機ガラスなどが挙げられ、より好ましくは無機ガラス、メタクリル樹脂シート又はポリカーボネート樹脂シートであり、特に好ましくは無機ガラスである。無機ガラスとしては特に制限されず、例えばフロートガラス、強化ガラス、半強化ガラス、化学強化ガラス、グリーンガラス、石英ガラス等が挙げられる。
【0086】
本発明の合わせガラスにおいて、導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)はガラスと接していてもよい。ガラスが無機ガラスである場合、回路がガラスと直接接していると、回路の封止が不十分となって水分が侵入して回路の腐食を招いたり、或いは合わせガラス作製時に空気が残存して気泡残存又は剥がれの原因を招いたりする虞があるため、合わせガラスにおける回路がガラスと直接接しないことが好ましい。
【0087】
特に乗物用ガラス、とりわけ乗物用フロントガラスにおいて、本発明の合わせガラスを使用する場合は、前方視認性の観点から、回路の低反射率処理されている面が乗車人物側にくるよう、合わせガラスを配置することが好ましい。
【0088】
また、合わせガラス端部から水分が侵入して回路の腐食を招くのを避ける観点からは、回路は、合わせガラスの端部より1cm以上内側に配置されていることが好ましい。
【0089】
本発明の合わせガラスは、回路と、少なくとも一方のガラスの内側表面との距離が好ましくは200μm未満、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。また、回路と、少なくとも一方のガラスの内側表面との距離は好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは25μm以上である。回路と、少なくとも一方のガラスの内側表面との距離が上記範囲であるとガラス表面の加熱効率が向上し、高い発熱性を得ることができる。ここで、前記距離は導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)のうち、ガラス内側表面との距離が近い方の回路と、ガラス内側表面との距離である。
【0090】
本発明の合わせガラスにおいて、樹脂フィルム(1)及び/又は樹脂フィルム(2)に含まれる可塑剤は、通常、可塑剤が含まれない他方の樹脂フィルム又は可塑剤が相対的に少ない他方の樹脂フィルムに時間経過に伴って移行する。移行する程度は、樹脂フィルム(1)及び樹脂フィルム(2)に含まれる可塑剤量や樹脂の種類、粘度平均重合度、アセタール化度、アセチル基量、水酸基量等によって異なる。好ましい態様では、樹脂フィルム(2)の可塑剤量は樹脂フィルム(1)の可塑剤量よりも多いため、樹脂フィルム(2)から樹脂フィルム(1)に可塑剤が移行する。
【0091】
本発明の合わせガラスにおいて、樹脂フィルム(1)と樹脂フィルム(2)の平均可塑剤量は5~50質量%であり、好ましくは10~40質量%、さらに好ましくは18~35質量%、特に好ましくは20~30質量%、最も好ましくは22~29質量%である。
平均可塑剤量が前記範囲内であると、例えば衝突時の乗車人物の頭部への衝撃が緩和される等、合わせガラスの所望の特性を得やすい。平均可塑剤量は、可塑剤移行後に下記式に従い算出できる。
【数1】
A(質量%):樹脂フィルム(1)の可塑剤量
a(μm):樹脂フィルム(1)の厚さ
B(質量%):樹脂フィルム(2)の可塑剤量
b(μm):樹脂フィルム(2)の厚さ
【0092】
樹脂フィルム(1)に含まれる可塑剤量、樹脂フィルム(1)の厚さ、樹脂フィルム(2)に含まれる可塑剤量、及び樹脂フィルム(2)の厚さを調整することにより、平均可塑剤量は前記範囲内に調整できる。
【0093】
また、合わせガラス作製後に、樹脂フィルム(1)及び樹脂フィルム(2)の界面又は境界が視認できない場合がある。特に樹脂フィルム(1)と樹脂フィルム(2)の樹脂が同一である場合は互いの樹脂の屈折率差が小さく、視認できない場合が多い。しかし、本発明の合わせガラスは、少なくとも2つのガラスの間に前記回路付きフィルムを有するものを全て包含するため、樹脂フィルム(1)と樹脂フィルム(2)の界面又は境界が視認できても、できなくてもよい。
【0094】
本発明の合わせガラスにおいて、ポリビニルアセタール樹脂を含有するフィルム及び/又は層の厚さの合計は好ましくは1mm未満であり、より好ましくは900μm以下であり、さらに好ましくは850μm以下である。また、ポリビニルアセタール樹脂を含有する層の厚さの合計は好ましくは110μm以上、より好ましくは300μm以上、さらに好ましくは500μm以上である。ポリビニルアセタール樹脂を含有するフィルム及び/又は層の厚さが上記範囲であると、合わせガラスにした際に十分な耐貫通性が得られ、安全上非常に有用である。
【0095】
本発明の合わせガラスにおける層構成は特に限定されず、例えば<回路付きフィルム>の項において本発明の回路付きフィルムの層構成として例示したものの両側に2枚のガラスを設置したものが挙げられる。
【0096】
本発明の合わせガラスは、前記回路付きフィルムを有するため、導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)の断線や剥離がなく、好ましくは断線、剥離及び変形がなく、優れた発明性を有する。さらにヘイズが低く、優れた前方視認性を有する。
【0097】
本発明の合わせガラスの低反射率処理面(例えば黒化処理面)側から光を照射した場合のヘイズは、通常2.0以下であり、好ましくは1.8以下であり、より好ましくは1.5以下である。本発明の合わせガラスの金属光沢面側から光を照射した場合のヘイズは、通常3.0以下であり、好ましくは2.8以下であり、より好ましくは2.5以下である。ヘイズは、回路の線幅や形状を[導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)]の項に記載のように適宜調整することにより、前記上限値以下に調整できる。
【0098】
本発明の合わせガラスは、建物又は乗物における合わせガラスとして使用できる。乗物用ガラスとは、汽車、電車、自動車、船舶又は航空機といった乗物のための、フロントガラス、リアガラス、ルーフガラス又はサイドガラス等を意味する。
【0099】
本発明の合わせガラスの低反射率処理面(例えば黒化処理面)側からは、乗車人物又は観察者の位置から導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)の細線が視認されないことが好ましい。配線が視認されないことにより、特に乗物用フロントガラス等の良好な前方視認性が要求される用途において、本発明における合わせガラスは好適に使用できる。導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)の視認性は、官能的に評価される。
【0100】
本発明の合わせガラスは、当業者に公知の方法で製造できる。例えば、ガラスの上に回路付きフィルムを配置し、さらにもう一つのガラスを重ねたものを、予備圧着工程として温度を高めることによって回路付きフィルムをガラスに全面又は局所的に融着させ、次いでオートクレーブで処理することで、合わせガラスを製造できる。
【0101】
上記予備圧着工程としては、過剰の空気を除去したり隣接するフィルムや回路の軽い接合を実施したりする観点から、バキュームバッグ、バキュームリング、又は真空ラミネーター等の方法により減圧下に脱気する方法、ニップロールを用いて脱気する方法、及び高温下に圧縮成形する方法等が挙げられる。例えばEP 1235683 B1に記載のバキュームバッグ法又はバキュームリング法は、例えば約2×10Pa及び130~145℃で実施される。
【0102】
真空ラミネーターは、加熱可能かつ真空可能なチャンバーからなり、このチャンバーにおいて、約20分~約60分の時間内に合わせガラスが作製される。通常は1Pa~3×10Paの減圧及び100℃~200℃、特に100℃~160℃の温度が有効である。真空ラミネーターを用いる場合、温度及び圧力に応じて、オートクレーブでの処理を行わなくてもよい。オートクレーブでの処理は、例えば約1×10Pa~約1.5×10Paの圧力及び約100℃~約145℃の温度で20分から2時間程度実施される。
【実施例
【0103】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。以下に各評価等の測定方法を示す。
【0104】
<樹脂の粘度の測定>
質量比1/1のトルエン/エタノール混合液90質量部に対して樹脂フィルム(1)10質量部を溶解させた溶液を調製した。ブルックフィールド型(B型)粘度計により、20℃、30rpmの条件で該溶液の粘度を測定した。
【0105】
<合わせガラス作製後の断線及び変形評価>
実施例及び比較例に従い、4つの合わせガラスを作製した。この合わせガラスについて、導電性細線回路(A)のバスバー端部と接する部分の金属細線の状態をルーペを用いて目視観察し、金属細線の断線及び変形の有無を下記基準で評価した。結果を表2に示す。
A…変形及び断線は認められなかった。
B…部分的に変形は認められたが、断線は認められなかった。
C…断線が認められた。
【0106】
<ヘイズの測定>
実施例及び比較例において、使用するガラスを縦5cm、横5cm、厚さ3mmのガラスに変更して合わせガラスを得た。得られた合わせガラスの各々について、黒化処理面側から光を照射した場合のヘイズと、金属光沢面側から光を照射した場合のヘイズを、ヘイズメーターを用いてJIS R3106に準じて測定した。結果を表2に示す。
【0107】
<樹脂フィルム(1)端部の視認性の官能評価>
実施例及び比較例で得られた合わせガラスを2週間室温で放置した後、樹脂フィルム(1)の端部が目視で判別できるか否かを、下記基準で官能的に評価した。結果を表2に示す。
A…全く判別できず極めて良好。
B…判別できる部分があったが良好。
C…判別できたが実用可能。
なお、判別できないとは、樹脂フィルム(1)と樹脂フィルム(2)との境界が視認できないことを示す。すなわち、ガラス表面の裏側の空間に対する見えやすさに優れるため、前方視認性が良好であることを示す。
【0108】
[製造例1]
ポリビニルブチラール樹脂1(以下、「樹脂1」と称する)及びポリビニルブチラール樹脂2(以下、「樹脂2」と称する)を75:25の質量比で溶融混練した。ポリビニルアセタール樹脂フィルムが可塑剤を含む場合は、可塑剤として所定量のトリエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノエート)(以下、「3GO」と略す)を、樹脂1及び樹脂2とともに溶融混練した。次に、得られた溶融混練物をストランド状に押出し、ペレット化した。得られたペレットを、単軸の押出機とTダイを用いて溶融押出し、金属弾性ロールを用いて表面が平滑な厚さ50μmのポリビニルアセタール樹脂フィルムPVB-aを得た。厚さ15μm及び300μmのポリビニルアセタール樹脂フィルムPVB-b及びPVB-cも作製した。さらに、可塑剤の含有量がフィルムの質量(樹脂と可塑剤の総量)に対して15質量%である厚さ50μmのポリビニルアセタール樹脂フィルムPVB-dを作製した。また、樹脂1及び樹脂2を25:75の質量比で溶融混練し、得られた溶融混練物をストランド状に押出し、ペレット化した。上述と同様に得られたペレットを、単軸の押出機とTダイを用いて溶融押出し、金属弾性ロールを用いて表面が平滑な厚さ50μmのポリビニルアセタール樹脂フィルムPVB-eを得た。ポリビニルアセタール樹脂フィルムPVB-a~PVB-eの製造において使用した樹脂1及び樹脂2の物性値を表1に示す。PVB-a~PVB-dの製造において使用した樹脂1と樹脂2との混合物の粘度は245mPa・sであった。PVB-eの製造において使用した樹脂1と樹脂2との混合物の粘度は783mPa・sであった。
【0109】
【表1】
【0110】
[製造例2]
アイオノマーフィルム((株)クラレ製、SentryGlas(R) Interlayer)をポリビニルブチラール樹脂の代わりに用いたこと以外は製造例1と同様にして、アイオノマー樹脂フィルムを得た。得られたアイオノマー樹脂フィルムの厚さは50μmであった。
【0111】
[実施例1]
<回路付きフィルムの作製>
製造例1で得られた厚さ50μmのポリビニルアセタール樹脂フィルムPVB-a[樹脂フィルム(1)]に、片面が黒化処理された厚さ7μmの銅箔を、黒化処理された面(以下、黒化面と称する)と樹脂フィルム(1)とが接するような向きで重ねた。ここで、JIS R 3106に準じて測定された黒化面の可視光反射率は5.2%であった。次に、樹脂フィルム(1)と銅箔とを重ねた積層体の上下を厚さ50μmのPETフィルム2枚で挟み、120℃に設定した熱圧着ロールの間を通過(圧力:0.2MPa、速度0.5m/分)させた後、2枚のPETフィルムを剥離して、銅箔が接合された樹脂フィルム(1)を得た。
次に、銅箔が接合された樹脂フィルム(1)の銅箔上にドライフィルムレジストをラミネートした後、フォトリソグラフィの手法を用いて導電性細線回路(A)及び導電性細線回路(A)とは独立した導電性回路(B)に相当するエッチング抵抗パターンを形成し、銅エッチング液に浸漬した後、常法により、残存するフォトレジスト層を除去した。これにより、樹脂フィルム(1)の一方の面に導電性細線回路(A)及び導電性細線回路(A)とは独立した導電性回路(B)を有する、回路付きフィルムを得た。導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)はそれぞれ、縦横各5cmの正方形の内部に、線幅8μmの銅線が2500μm間隔で波線状の構造を有し、その上辺及び下辺がバスバーに相当する幅5mmの銅線構造と接続された構造を有していた。導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)の厚さはそれぞれ7μmであった。導電性細線回路(A)と導電性回路(B)との最短距離は0.8cmであった。また、導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)は加熱機能を有するものである。樹脂フィルム(1)と導電性細線回路(A)と導電性回路(B)の形態及び配置は図1A及び図1Bに示される形態及び配置である。導電性細線回路(A)は図1A及び図1Bにおける導電性細線回路5を示し、導電性回路(B)は図1A及び図1Bにおける導電性回路8を示し、樹脂フィルム(1)は図1A及び図1Bにおける樹脂フィルム2を示す。
【0112】
<合わせガラスの作製>
縦10cm、横10cm、厚さ3mmのガラスの上に、樹脂フィルム(1)の一方の面に導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)を有する回路付きフィルムを、導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)を有する面が上向きになるよう配置し、その上に、縦10cm、横10cm、厚さ0.76mmの樹脂フィルム(2)を重ね、さらに、縦10cm、横10cm、厚さ3mmのガラスを重ねて、テープで固定した。このとき、導電性細線回路の導電細線はガラスの中央に配置し、バスバーはガラスの端部からはみ出すように配置した。得られた積層体を真空バッグに入れ、減圧下で100℃で30分間処理し、冷却後に減圧を解除して、プレラミネート後の合わせガラスを取り出した。その後、これをオートクレーブに投入し、140℃、1.2MPaで30分間処理し、ガラス/樹脂フィルム(1)/導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)/樹脂フィルム(2)/ガラスの順に有する合わせガラスを得た。
樹脂フィルム(2)(PVBF-Aと称する):自動車フロントガラス用中間膜、ポリビニルブチラール樹脂の含有量72質量%、3GOの含有量28質量%、ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量20.0質量%、粘度平均重合度1700。
【0113】
[実施例2]
導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)がそれぞれ、縦横各5cmの正方形の内部に、線幅8μmの銅線が500μm間隔で格子状に並んだ銅メッシュ構造を有し、その上辺及び下辺がバスバーに相当する幅5mmの銅線構造と接続された構造を有すること以外は実施例1と同様にして、回路付きフィルム及び合わせガラスを得た。
【0114】
[実施例3]
導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)がそれぞれ、縦横各5cmの正方形の内部に、線幅8μmの銅線が2500μm間隔で直線状の構造を有し、その上辺及び下辺がバスバーに相当する幅5mmの銅線構造と接続された構造を有すること以外は実施例1と同様にして、回路付きフィルム及び合わせガラスを得た。
【0115】
[実施例4]
50μmのポリビニルアセタール樹脂フィルムPVB-aに代えて、厚さ15μmのポリビニルアセタール樹脂フィルムPVB-bを使用したこと以外は実施例1と同様にして、回路付きフィルム及び合わせガラスを得た。
【0116】
[実施例5]
50μmのポリビニルアセタール樹脂フィルムPVB-aに代えて、厚さ300μmのポリビニルアセタール樹脂フィルムPVB-cを使用したこと以外は実施例1と同様にして、回路付きフィルム及び合わせガラスを得た。
【0117】
[実施例6]
50μmのポリビニルアセタール樹脂フィルムPVB-aに代えて、PVB-dを使用したこと以外は実施例1と同様にして、回路付きフィルム及び合わせガラスを得た。
【0118】
[実施例7]
以下のように導電細線回路(A)及び導電性回路(B)を形成したこと以外は実施例1と同様にして、回路付きフィルム及び合わせガラスを得た。
製造例1で得られた樹脂フィルム(1)の縦横各5cmの正方形の内部に、凸版印刷法によりUV硬化性ナノ銀インクを厚さ10μmとなるように印刷し、導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)を形成した。導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)はそれぞれ、線幅10μmの銀線が、2500μm間隔で波線状の構造を有し、長さ5cm、本数20本の配線パターン(導電構造)を有していた。得られた配線パターン(導電構造)にUV光を照射してインクを硬化させた。
【0119】
[実施例8]
以下のように導電性細線回路(A)及び導電性回路(B)を形成し、樹脂フィルム(1)と導電性細線回路(A)と導電性回路(B)の形態及び配置を、図3A及び図3Bに示される形態及び配置としたこと以外は実施例1と同様にして、回路付きフィルム及び合わせガラスを得た。導電性細線回路(A)は図3A及び図3Bにおける導電性細線回路21を示し、導電性回路(B)は図3A及び図3Bにおける導電性回路24を示し、樹脂フィルム(1)は図3A及び図3Bにおける樹脂フィルム18を示す。
銅箔が接合された樹脂フィルム(1)の銅箔上にドライフィルムレジストをラミネートした後、フォトリソグラフィの手法を用いて、縦横各5cmの正方形の内部に、線幅8μmの銅線が2500μm間隔で波線状の構造を有し、その上辺及び下辺がバスバーに相当する幅5mmの銅線構造と接続された構造を有する導電性細線回路(A)を形成した。次いで、片面に導電性細線回路(A)を有する樹脂フィルム(1)を70kHzの高周波誘電加熱方式で加熱しながら、自己融着性金属線として断面形状が直径40μmの円形であるポリビニルブチラール樹脂被覆銅線(ポリビニルブチラール樹脂被膜の厚さ5μm、銅線の直径30μm)を、数値制御された配線機を用いて、樹脂フィルム(1)の導電性細線回路(A)を有する面の樹脂フィルム(1)上に押し当てることで、樹脂フィルム(1)の面内方向の断面が略長方形で面方向の長軸の長さが10mmの大きさのループ状アンテナを導電性回路(B)として形成した。また、導電性細線回路(A)と導電性回路(B)との最短距離は0.8cmであり、導電性回路(B)の厚さは25μmであった。
【0120】
[実施例9(参考例)
50μmのポリビニルアセタール樹脂フィルムPVB-aに代えて、製造例2で得られたアイオノマー樹脂フィルムを使用したこと以外は実施例1と同様にして、回路付きフィルム及び合わせガラスを得た。
【0121】
[実施例10(参考例)]
ポリビニルアセタール樹脂フィルムPVB-aに代えて、厚さ50μmのポリビニルアセタール樹脂フィルムPVB-eを使用したこと以外は実施例1と同様にして、回路付きフィルム及び合わせガラスを得た。
【0122】
[比較例1]
PETフィルム(厚さ50μm)に、アクリレート系接着剤を塗布し、片面が黒化処理された厚さ7μmの銅箔を、黒化処理された面(以下、黒化面と称する)とPETフィルムとが接するような向きで重ね、銅箔が接合したPETフィルムを得た。銅箔が接合された樹脂フィルム(1)に代えて、前記銅箔が接合したPETフィルムを用いたこと以外は実施例(1)と同様にして、回路付きフィルム及び合わせガラスを得た。
【0123】
実施例及び比較例において、樹脂フィルム(1)端部の視認性の官能評価、合わせガラス作製後の断線、変形評価、及びヘイズの測定結果を表2に示す。
【0124】
【表2】
【0125】
表2に示されるように、実施例1~10で得られた回路付きフィルムは、合わせガラス作製時に断線が生じないことが確認された。特に実施例1~3及び5~8で得られた回路付きフィルムは、断線だけではなく、変形も生じないことが確認された。これに対して比較例1で得られた回路付きフィルムは、合わせガラス作製時に断線が生じることが確認された。
さらに、実施例1~10で得られた合わせガラスは、比較例1と比べて、ヘイズが低く、樹脂フィルム(1)端部の視認性も良好であることから、優れた前方視認性を有することが確認された。
【符号の説明】
【0126】
1,9,17,25…回路付きフィルム
2,10,18,26…樹脂フィルム
3,6,11,14,19,22,27,30…バスバー
4,7,12,15,20,28…導電細線
5,13,21,29…導電性細線回路
8,16,24,32…導電性回路
23…ループ状アンテナ
31…ポール状アンテナ
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B