(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】転圧車両
(51)【国際特許分類】
E01C 19/26 20060101AFI20220928BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20220928BHJP
G01S 17/931 20200101ALI20220928BHJP
【FI】
E01C19/26
G08G1/16 C
G01S17/931
(21)【出願番号】P 2020045490
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】早坂 喜憲
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正和
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 篤
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-203774(JP,A)
【文献】特開2019-12394(JP,A)
【文献】特開2018-113937(JP,A)
【文献】特開2019-157407(JP,A)
【文献】特開2020-32953(JP,A)
【文献】特開2019-175049(JP,A)
【文献】特開平5-203740(JP,A)
【文献】特開平6-282799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 19/26
G08G 1/16
G01S 17/931
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の進行方向の障害物を検出する障害物検出装置と、
前記障害物検出装置の検出結果に基づき、前記車両の進行方向の障害物の有無を判定する障害物判定部と
を備えた転圧車両において、
前記車両の操舵状態を検出する操舵状態検出装置と、
前記操舵状態検出装置の検出結果に基づき、前記車両の進行方向を判定する進行方向判定部と
をさらに備え、
前記障害物判定部は、前記進行方向判定部により前記車両の直進が判定されたときに、前記車両の直進時の進行方向に対応する領域として予め設定された直進判定領域内で前記障害物の判定処理を実行する一方、前記進行方向判定部により前記車両の左右何れかへの旋回が検出されたときに、前記直進判定領域を前記車両の旋回内側へと拡張した拡張判定領域を設定し、前記拡張判定領域内で前記障害物の判定処理を実行する
こと特徴とする転圧車両。
【請求項2】
前記障害物検出装置は、前記直進判定領域を拡張した左右の拡張判定領域を全て含む領域を検出領域として前記障害物を検出し、
前記障害物判定部は、前記進行方向判定部により前記車両の直進が判定されたときに、前記障害物検出装置により検出された検出領域を前記直進判定領域に限定して前記障害物の判定処理を実行し、前記進行方向判定部により前記車両の左右何れかへの旋回が判定されたときに、前記障害物検出装置により検出された検出領域を前記拡張判定領域に限定して前記障害物の判定処理を実行する
こと特徴とする請求項1に記載の転圧車両。
【請求項3】
前記障害物判定部は、前記進行方向判定部により前記車両の左右何れかへの旋回が判定されたときに、前記車両が最小旋回半径で旋回したときに車体の最も旋回内側の部位が描く円弧軌跡に対する接線まで前記直進判定領域を拡張して前記拡張判定領域として設定する
こと特徴とする請求項1に記載の転圧車両。
【請求項4】
前記操舵状態検出装置は、前記車両の操舵状態として前記車両の操舵角を検出し、
前記障害物判定部は、前記操舵状態検出装置により検出された操舵角が直進を基準として左右何れかに大であるほど、前記直進判定領域を旋回内側へと大きく拡張して前記拡張判定領域として設定する
こと特徴とする請求項1に記載の転圧車両。
【請求項5】
前記操舵状態検出装置は、前記車両の操舵状態として前記車両の操舵角を検出し、
前記障害物判定部は、前記操舵状態検出装置により検出された操舵角が直進を基準として左右何れかに大であるほど、前記直進判定領域を旋回内側へと大きく拡張すると共に、前記直進判定領域を旋回外側から大きく縮小して前記拡張判定領域として設定する
こと特徴とする請求項1に記載の転圧車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搭乗式の転圧車両に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の転圧車両は、オペレータに運転操作されて走行輪を兼ねた前部及び後部転圧輪により走行しながら、路面に敷きつめられた砂利やアスファルト等の舗装材を締固める締固め作業を実施する。締固め作業中のオペレータは、転圧車両から半身を乗り出した無理な姿勢をとり、歩道の縁石等の転圧ぎわと転圧輪の端部との位置関係を目視しながら運転操作する場合がある。このため周囲への注意が疎かになり易く、その対策として、例えば特許文献1に記載のような障害物検出装置を備えた転圧車両が提案されている。
【0003】
特許文献1の技術は、転圧車両の後退時に障害物を検出すべく、車体の後部に後方に指向するように障害物センサが設けられている。そして、自車の進行方向の車幅内に存在する障害物が衝突の可能性があるとの知見に基づき、車両後方において最大車幅寸法と同一幅を有する平面視で略四角状の領域が、予め障害物の有無を判定する領域(以下、単に判定領域と称する)として設定され、判定領域内で障害物の有無を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の転圧車両は、旋回時に障害物を早期に判定できないという不具合がある。即ち、判定領域は車体を基準とした後方の定位置に設定されており、直進時には判定領域に向けて転圧車両が進行するため、自車と衝突する可能性がある障害物を問題なく判定可能である。これに対して旋回時の転圧車両は、後方位置の判定領域に対して円弧状の軌跡を辿って旋回内側へと進行するため、その進行方向に障害物が存在するとしても判定領域内から外れてしまうケースが生じる。旋回に伴う転圧車両の姿勢変化により、何れかの時点で判定領域内に障害物が捉えられるが、既に転圧車両が障害物に接近しているため時間的な余裕がなく、衝突回避のために転圧車両を急停止させる必要が生じる。
【0006】
一般的な乗用車等の場合は急停止させても問題は生じないが、路面を締固めるために一定速度で走行中の転圧車両を急停止させると、締固め途中の路面が荒れてしまう。従って、このような事態が生じた場合には、路面の修復のために締固め作業をやり直す必要が生じてしまう。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、直進時のみならず旋回時においても衝突する可能性がある障害物を早期に判定でき、時間的な余裕をもって障害物との衝突を回避して、急停止に起因する締固め途中の路面の荒れを未然に防止することができる転圧車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の転圧車両は、車両の進行方向の障害物を検出する障害物検出装置と、前記障害物検出装置の検出結果に基づき、前記車両の進行方向の障害物の有無を判定する障害物判定部とを備えた転圧車両において、前記車両の操舵状態を検出する操舵状態検出装置と、前記操舵状態検出装置の検出結果に基づき、前記車両の進行方向を判定する進行方向判定部とをさらに備え、前記障害物判定部は、前記進行方向判定部により前記車両の直進が判定されたときに、前記車両の直進時の進行方向に対応する領域として予め設定された直進判定領域内で前記障害物の判定処理を実行する一方、前記進行方向判定部により前記車両の左右何れかへの旋回が検出されたときに、前記直進判定領域を前記車両の旋回内側へと拡張した拡張判定領域を設定し、前記拡張判定領域内で前記障害物の判定処理を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の転圧車両によれば、直進時のみならず旋回時においても衝突する可能性がある障害物を早期に判定でき、時間的な余裕をもって障害物との衝突を回避して、急停止に起因する締固め途中の路面の荒れを未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態のマカダムローラを示す側面図である。
【
図2】平面視における障害物センサの検出領域とコントローラにより切り換えられる障害物の判定領域との関係を示す説明図である。
【
図3】第1実施形態のアーティキュレート機構に設けられた近接センサを示す
図1のA部拡大図である。
【
図4】同じく車両の直進時の近接センサを示す
図3のIV-IV線断面図である。
【
図5】同じく車両の左旋回時の近接センサを示す
図4に対応する断面図である。
【
図6】障害物検出装置の構成を示す制御ブロック図である。
【
図7】コントローラが実行する障害物検出ルーチンを示すフローチャートである。
【
図8】車両が最小旋回半径で左旋回時した場合の判定領域の選択状況を示す説明図である。
【
図9】第2実施形態のアーティキュレート機構に設けられた操舵角センサを示す
図4に対応する図である。
【
図10】車両が最小旋回半径よりも大きな旋回半径で左旋回時した場合の判定領域の選択状況を示す説明図である。
【
図11】コントローラが実行する障害物検出ルーチンを示すフローチャートである。
【
図12】第3実施形態の車両が最小旋回半径よりも大きな旋回半径で左旋回時した場合の判定領域の選択状況を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をマカダムローラに具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態のマカダムローラを示す側面図である。以下の説明では、車両を基準として前後方向及び左右方向を表現する。
【0012】
マカダムローラ1(以下、車両と称することもある)の車体は、前部転圧輪2を備えた前部車体4と後部転圧輪3を備えた後部車体5とにより構成されている。これらの前部車体4と後部車体5とはアーティキュレート機構6を介して連結されており、前部車体4に設けられた図示しない操舵シリンダの駆動により、アーティキュレート機構6を中心として前部及び後部車体4,5が水平方向に屈曲することで車両1の操舵が行われる。
【0013】
前部転圧輪2は一対の金属ドラムから構成され、前部車体4の左右に回転可能に支持されている。また、後部転圧輪3は単一の金属ドラムから構成され、後部車体5の左右に設けられた支持アーム5aにより回転可能に支持されている。前部転圧輪2は内蔵した走行用油圧モータ7により駆動され、後部転圧輪3は内蔵した走行用油圧モータ8により駆動され、これにより車両1が走行する。なお、操舵シリンダや走行用油圧モータ7,8等の油圧アクチュエータ類は、エンジン(
図6に示す)を動力源としたHST(Hydro Static Transmission)からの作動油の供給により駆動される。
【0014】
前部車体4上にはステアリング10を備えた操作台11が設置され、操作台11の後側にはステアリング10に対応して運転席12が設置されている。なお、締固め作業中にオペレータが左右の転圧際を容易に視認可能なように、図示はしないが、ステアリング10及び運転席12は左右一対設けられている。マカダムローラ1に搭乗して何れかの運転席12に着座したオペレータは、ステアリング10及び操作台11の前後進レバー13や足下のブレーキペダル14などを操作し、その操作に応じて車両1の走行や操舵などが行われる。
【0015】
前部転圧輪2の近接位置には前部散水ノズル15がブラケット16により支持され、後部転圧輪3の近接位置には後部散水ノズル17がブラケット18により支持されている。後部車体5上には水を貯留した貯水タンク19が設置され、貯水タンク19は図示しない配管及び散水ポンプを介して各散水ノズル15,17と接続されている。締め固め作業時には前部及び後部転圧輪2,3への舗装材の付着防止を目的として、貯水タンク19内の水が散水ポンプにより各散水ノズル15,17に供給されて前部及び後部転圧輪2,3へと散水される。
前部及び後部転圧輪2,3へ付着した舗装材をかき落とすことを目的として、前部転圧輪2の近接位置には泥かき装置41がブラケット42により支持され、後部転圧輪3の近接位置には泥かき装置43がブラケット44により支持されている。
【0016】
本実施形態の車両1には、後退時に進行方向に存在する作業者等の障害物を検出するために障害物検出装置21が搭載されており、その詳細を第1~3実施形態として以下に説明する。
【0017】
[第1実施形態]
泥かき装置43を支持する左右のブラケット44間には支持バー22が掛け渡され、支持バー22上の車幅方向の中央位置に障害物センサ23(障害物検出装置)が後方に指向する姿勢で取り付けられており、その検出領域は以下のように設定されている。
図2は平面視における障害物センサ23の検出領域とコントローラにより切り換えられる障害物の判定領域との関係を示す説明図である。
【0018】
図1,2では障害物センサ23の検出領域Esが二点鎖線で示されており、
図1の側面視において、車両1の後方の作業者等の障害物を検出可能なように後方斜め下方に向けて設定されると共に、
図2の平面視において、左右方向に広がる扇状をなすように設定されている。障害物センサ23としては種々の種類のものを採用でき、例えばTOFセンサを用いてもよい。TOFセンサは周知のため詳細は説明しないが、車両後方に向けてレーザをパルス投光し、障害物で反射した反射光を受信するまでの時間を距離に換算する原理で作動する。平面視での検出領域Es内の障害物を漏れなく検出可能なように、本実施形態ではレーザが水平方向に所定角度毎に投光され、ある投光角度で反射光を受信した場合には、そのときの投光角度と障害物までの距離とに基づき、平面視における検出領域Es内の障害物の位置を算出可能としている。
【0019】
そして、このような検出領域Es内において、障害物の有無を判定する3種の判定領域E1~E3が予め設定され、後退中の車両1の進行方向に応じて何れかの判定領域E1~E3が選択され、選択された判定領域E1~E3内で障害物の有無が判定される。
【0020】
詳しくは、3種の判定領域E1~E3を合わせた全領域は、障害物センサ23の検出領域Esよりも左右への広がりが若干狭い二等辺三角状をなして検出領域Es内に全てが含まれている。全領域E1~E3の左縁E20及び右縁E30は、無用な障害物に対する判定を防止可能なように設定されている。例えば
図8に示すように、後退中の車両1が最大操舵角に操作されて最小旋回半径で左旋回したとき、車体の最左側部が描く円弧軌跡よりも旋回内側に位置する障害物(例えば、図中のP2)は衝突の可能性がなく、右旋回についても左右が逆転するだけで同様である。そこで、最小旋回半径で旋回したときに車体の最も旋回内側の部位が描く円弧軌跡に対する接線として、全領域E1~E3の左縁E20及び右縁E30がそれぞれ設定されている。
【0021】
3種の判定領域E1~E3は以下のように区分され、後述するコントローラ30の障害物判定部30bに記憶されている。まず、車両後方において最大車幅寸法と同一幅を有する平面視で略四角状の領域が直進判定領域E1として設定され、直進判定領域E1の左側に隣接する三角状の領域が左旋回判定領域E2として設定され、直進判定領域E1の右側に隣接する三角状の領域が右旋回判定領域E3として設定されている。従って、左旋回判定領域E2の左縁E20及び右旋回判定領域E3の右縁E30が、それぞれ最小旋回半径での円弧軌跡の接線に相当する。
【0022】
そして、後退中の車両1が直進している場合には直進判定領域E1が選択され、後退中の車両1が左旋回している場合には直進判定領域E1及び左旋回判定領域E2(これらの判定領域E1,E2が本発明の拡張判定領域に相当)が選択され、後退中の車両1が右旋回している場合には直進判定領域E1及び右旋回判定領域E3(これらの判定領域E1,E3が本発明の拡張判定領域に相当)が選択され、選択された判定領域E1~E3内で障害物の有無が判定される。
【0023】
また、後退中の車両1の操舵状態を検出するために、アーティキュレート機構6には近接センサ24,25が設けられている(操舵状態検出装置)。
図3はアーティキュレート機構6に設けられた近接センサ24,25を示す
図1のA部拡大図、
図4は同じく車両直進時の近接センサ24,25を示す
図3のIV-IV線断面図である。
【0024】
前部車体4の後面には上下一対の軸受ブラケット26が後方に突出して設けられ、両ブラケット26間には、後部車体5の前面に固定された軸受体27が配設されている。この軸受体27に上下に貫設された軸孔27a内に回動ピン28が回動可能に挿入され、回動ピン28の上下両端が軸受ブラケット26に固定されている。結果として回動ピン28と軸受体27とを介して前部車体4と後部車体5とが連結され、回動ピン28の軸線Cを中心として軸受体27が回動して車両1の操舵が行われる。
【0025】
本実施形態では一対の近接センサ24,25からの検出情報に基づき、車両1の進行方向として直進、左旋回及び右旋回が判定され、以下、左旋回を判定する側を左近接センサ24と称し、右旋回を判定する側を右近接センサ25と称する。左右の近接センサ24,25はセンサ本体24a,25aと検出子24b,25bとからなり、互いの誤検出を防止するために上下方向の位置をずらして配設されている。前部車体4の後面には、左右の近接センサ24,25のセンサ本体24a,25aが固定され、各センサ本体24a,25aは平面視において後方に位置する回動ピンの軸線Cを指向している。
【0026】
後部車体5の軸受体27の前面には、左右の近接センサ24,25の水平板状をなす検出子24b,25bが固定されている。回動ピン28の軸線Cを中心として軸受体27が回動すると、各検出子24b,25bの円弧状をなす前縁が、それぞれのセンサ本体24a,25aに対して水平方向に位置変位する。近接センサ24,25としては、磁気近接型や誘導型等の周知の原理のものを適用可能であり、以下の説明では、検出子24b,25bが位置変位してセンサ本体24a,25aと相対向したときに、近接センサ24,25がOFF状態からON状態に切り換えられるものとする。
【0027】
図4に示す車両1の直進時には何れの検出子24b,25bもセンサ本体24a,25aと相対向せず、各近接センサ24,25がOFF状態に保たれている。軸受体27が左右何れかに僅かでも回動すると、その側の検出子24b,25bがセンサ本体24a,25aと対応して近接センサ24,25がON状態に切り換えられ、このON状態は最小旋回半径に相当する操舵角まで継続される。例えば
図5は、後退中の車両1が最小旋回半径で左旋回している場合を示し、このときには左近接センサ24の検出子24bがセンサ本体24aと相対向してON状態に切り換えられるのに対し、右近接センサ25の検出子25bはセンサ本体25aと相対向せずにOFF状態に保たれており、図示はしないが右旋回の場合はON・OFF状態が逆転する。
【0028】
即ち、車両1の直進時には左右の近接センサ24,25が共にOFF状態に保たれ、左旋回時には左近接センサ24だけがON状態に切り換えられ、右旋回時には右近接センサ25だけがON状態に切り換えられ、以上のON・OFF状態の組み合わせに基づき車両1の直進、左旋回及び右旋回を判定可能となっている。
【0029】
障害物検出装置21を制御するために車両1にはコントローラ30が搭載されており、
図6はコントローラ30を含めた障害物検出装置21の構成を示す制御ブロック図である。
コントローラ30は、図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等からなる。コントローラ30は、進行方向判定部30a、障害物判定部30b、警告制御部30c及び減速制御部30dからなる。進行方向判定部30aには左右の近接センサ24,25が接続され、障害物判定部30bには障害物センサ23が接続され、警告制御部30cには車両1の操作台11に設けられたディスプレイ31及びスピーカ32が接続され、減速制御部30dにはHSTのエンジン33及び車両1を制動する制動装置34が接続されている。
【0030】
左右の近接センサ24,25の検出結果に基づき、進行方向判定部30aにより車両1の進行方向が判定され、その判定結果及び障害物センサ23の検出結果に基づき、障害物判定部30bにより車両1の進行方向の障害物の有無が判定される。そして、障害物有りと判定した場合には、その旨の情報が障害物判定部30bから警告制御部30c及び減速制御部30dに出力され、警告制御部30cによりオペレータへの警告処理が実行され、減速制御部30dにより車両1の減速処理が実行される。
【0031】
図7はコントローラ30が実行する障害物検出ルーチンを示すフローチャートであり、車両1の電源が投入されているときにコントローラ30により所定の制御インターバルで実行される。
まず、ステップ1で図示しないスイッチのON操作により障害物検出装置21が起動中であるか否かを判定し、続くステップ2で車両1が後退中であるか否かを判定する。何れかのステップでNo(否定)の判定を下したときに一旦ルーチンを終了し、両ステップでYes(肯定)の判定を下した時にはステップ3に移行する。ステップ3では左右の近接センサ24,25及び障害物センサ23から検出情報を取り込み、ステップ4で左右の近接センサ24,25のON・OFF状態に基づき、現在の車両1の進行方向(直進、左旋回、右旋回)を判定する。ステップ3,4の処理が進行方向判定部30aの機能に相当する。
【0032】
続くステップ5では、ステップ4で判定された進行方向に基づき判定領域E1~E3を選択する。即ち、進行方向として直進が判定されているときにはステップ6に移行し、左旋回が判定されているときにはステップ7に移行し、右旋回が判定されているときにはステップ8に移行する。
【0033】
ステップ6では、判定領域を直進判定領域E1として確定し(換言すると、検出領域Esが直進判定領域E1に限定されることを意味し、以下のステップ7,8も同様)、この判定領域E1内で障害物の有無を判定し、障害物が存在する場合には位置を算出する。またステップ7では、判定領域を直進判定領域E1及び左旋回判定領域E2として確定し、この判定領域E1,E2内で障害物の有無を判定し、障害物が存在する場合には位置を算出する。ステップ8では、判定領域を直進判定領域E1及び右旋回判定領域E3として確定し、この判定領域E1,E3で障害物の有無を判定し、障害物が存在する場合には位置を算出する。
なお、確定した判定領域E1~E3内で複数の障害物が存在する場合には、例えば自車に最も接近している障害物を選択し、その位置を算出する。続くステップ9では、ステップ6~8の何れかの処理の結果、衝突の可能性がある障害物が存在するか否かを判定する。以上のステップ5~9の処理が障害物判定部30bの機能に相当する。
【0034】
このように障害物センサ23の検出領域Esを車両1の進行方向に応じて各判定領域(E1またはE1,E2またはE1,E3)に限定しており、この処理はコントローラ30により実行される。このため、例えば障害物センサ23の検出領域Es自体を各判定領域となるように切り換える構成等に比較して、正確な判定領域に基づき障害物の有無を判定できる。
【0035】
ステップ9の判定がNoのときにはそのままルーチンを終了し、Yesのときにはステップ10でオペレータへの警告処理を実行し、続くステップ11で車両1の減速処理を実行する。例えば警告処理としては、ディスプレイ31上に自車を基準とした障害物の位置を表示し、スピーカ32から警告音を発してオペレータに警告する。また減速処理としては、算出した障害物の位置に基づき衝突を回避すべく、エンジン33の回転低下や制動装置34の作動により車両1を減速させる。なお、障害物有りの場合の対処はこれに限るものではなく、例えば車両1の減速処理を省略して、警告処理のみを実行するようにしてもよい。
【0036】
次いで、以上のコントローラ30の処理に基づく車両1の後退時の障害物の判定状況について説明する。
車両1の直進時には直進判定領域E1内で障害物の有無が判定され、この直進判定領域E1は車両後方において最大車幅寸法と同一幅の略四角状をなしている。このため直進時の車両1は直進判定領域E1に向けて進行し、衝突する可能性がある障害物が存在する場合には、未だ車両1が障害物に接近する以前の早期の段階で、その障害物が直進判定領域E1内に捉えられる。結果として時間的な余裕をもって障害物との衝突を回避して、車両1の急停止に起因する締固め途中の路面の荒れを未然に防止することができる。
【0037】
車両1の左旋回時には、直進判定領域E1内に加えて左旋回判定領域E2内でも障害物の有無が判定される。
図8は後退中の車両1が最大操舵角で左旋回した場合の判定領域の選択状況を示す説明図であり、車両1はアーティキュレート機構6により内輪差を生じることなく左方への円弧状の経路Rを辿って進行している。このときの車両1の走行経路Rは、旋回外側については直進判定領域E1から外れることはないが、旋回内側については直進判定領域E1だけの場合には外れてしまう。しかし、この左旋回時には左旋回判定領域E2が追加されることにより、全体としての判定領域E1,E2が旋回内側へと拡張される。このため衝突する可能性がある障害物が存在する場合には、直進時と同じく未だ車両1が障害物に接近する以前の早期の段階で、その障害物が判定領域内に捉えられる。結果として時間的な余裕をもって障害物との衝突を回避して、車両1の急停止に起因する締固め途中の路面の荒れを未然に防止することができる。
【0038】
しかも、左旋回判定領域E2の左縁E20は、最小旋回半径で左旋回したときに車体の最左側部が描く円弧軌跡に対する接線として設定されており、この円弧軌跡よりも旋回内側に位置する衝突の可能性がない障害物(例えば、図中のP2)が判定対象から除外される。よって、このような障害物に対する判定に基づく無用な急停止を未然に防止でき、この点も路面の荒れ防止に貢献する。
【0039】
車両1の右旋回時には、直進判定領域E1内に加えて右旋回判定領域E3内でも障害物の有無が判定され、このときの障害物の判定状況は、左旋回時の場合と左右を逆転させた同様の内容となる。このため図示及び詳細な説明は省略するが、早期の段階で障害物を判定領域内に捉えることで、衝突する可能性がある障害物に対しては時間的な余裕をもって衝突回避できると共に、衝突の可能性がない障害物に対しては無用な急停止を未然に防止することができる。
【0040】
[第2実施形態]
次いで、第2実施形態を説明する。第1実施形態との相違点は、車両1の進行方向に基づく判定領域の設定にあるため、共通の構成の箇所は説明を省略し、相違点を重点的に説明する。
第1実施形態の左右の近接センサ24,25に代えて、本実施形態では、
図9に示すように車両1の操舵角θstを検出する操舵角センサ41が設けられている。操舵角センサ41はセンサ本体41aと検出子41bとからなり、前部車体4の後面にセンサ本体41aが固定され、後部車体5の軸受体27の前面に水平板状をなす検出子41bが固定されている。
【0041】
例えば操舵角センサ41は電磁ピックアップ型として構成され、円弧状をなす検出子41bの前縁に多数の突起が形成され、センサ本体41aと相対向している。回動ピン28の軸線Cを中心として軸受体27が回動すると、検出子41bの位置変位に伴ってセンサ本体41aから車両1の操舵角θst(前部及び後部車体4,5の屈曲角度)に対応する信号が出力され、
図6に示すようにコントローラ30の進行方向判定部30aに入力される。なおアーティキュレート機構6に代えて、オペレータに操作されるステアリング10に操舵角センサ41を設けて操舵角θstを検出してもよい。
【0042】
車両1の旋回時には、車両1の操舵角θstが大であるほど(旋回半径が小であるほど)、より旋回内側に位置する障害物を判定対象に含める必要が生じる。そこで、車両1の操舵角θstが大であるほど、旋回判定領域E2,E3を旋回内側へと大きく拡張するようにしたものが本実施形態である。コントローラ30の障害物判定部30bには、操舵角θstに対応して領域拡張角を設定する制御マップが予め記憶されており、この領域拡張角に基づき左右の旋回判定領域E2,E3が拡張される。
【0043】
以下、車両1の左旋回時に設定される領域拡張角θL1を例として左旋回判定領域E2の拡張状況を説明するが、右旋回時の領域拡張角についても左右を逆転させた同一内容となる。
図10は車両1が最小旋回半径よりも大きな旋回半径で左旋回時した場合の判定領域の選択状況を示す説明図である。領域拡張角θL1は、直進判定領域E1の前部左角(ポイントXで示す)を中心として増減する角度である。操舵角θst=0のときには領域拡張角θL1=0が設定されて左旋回判定領域E2は形成されず(直進判定領域E1のみ))、操舵角θstの増加に伴って領域拡張角θL1が増加設定され、左旋回判定領域E2は次第に車両1の旋回内側へと拡張され、最大の操舵角θstで領域拡張角θL1は最大値に達する。なお、領域拡張角θL1の最大値はどのような値でもよく、例えば、第1実施形態で述べた最小旋回半径で旋回したときに車体の最左側部が描く円弧軌跡に対する接線に相当する角度としてもよい。
【0044】
図11はコントローラ30が実行する障害物検出ルーチンを示すフローチャートであり、第1実施形態と同一処理の箇所は同一ステップ番号を付して説明を省略し、相違点を重点的に述べる。
ステップ3で操舵角θstを含む各種センサ検出情報を取り込んだ後、ステップ21に移行して制御マップに基づき操舵角θstから領域拡張角θL1を算出し、ステップ22で領域拡張角θL1に基づき旋回方向に応じた旋回判定領域E2,E3を算出する。続くステップ23では、算出した旋回判定領域E2,E3及び直進判定領域E1を全体の判定領域として確定し、この判定領域内で障害物の有無を判定し、障害物が存在する場合には位置を算出する。その後にステップ9に移行し、ステップ23の処理の結果、衝突の可能性がある障害物が存在するか否かを判定する。以上のステップ3~9の処理が進行方向判定部30a及び障害物判定部30bの機能に相当する。
【0045】
図10の例では、車両1が最小旋回半径よりも大きな円弧状の経路Rを辿って進行しており、このときには、操舵角θstに基づき最大値よりも小さな領域拡張角θL1が設定されている。車両1の進行方向に存在する衝突の可能性がある障害物(例えば、図中のP3)は、未だ車両1が接近する以前の早期の段階で判定領域E1,E2内に捉えられて判定対象とされ、この点は第1実施形態と同様である。そして、車両1の走行経路Rよりも旋回内側に位置する障害物P1は、第1実施形態では左旋回判定領域E2内に捉えられて判定対象となっていたが、本実施形態では左旋回判定領域E2に捉えられずに判定対象から除外される。この旋回状態では衝突する可能性がない障害物P1を判定対象とした場合には、無用な急停止により路面を荒らす要因になるが、このような事態を未然に防止することができる。
【0046】
[第3実施形態]
次いで、第3実施形態を説明する。第2実施形態との相違点は、車両1の操舵角θstに応じて直進判定領域E1を縮小する点にあるため、共通の構成の箇所は説明を省略し、相違点を重点的に説明する。
車両1の操舵角θstに応じて旋回判定領域E2,E3を拡張する意義は第2実施形態で述べたとおりであるが、これと共に旋回時には、車両1の操舵角θstが大であるほど(旋回半径が小であるほど)、より旋回外側に位置する障害物を判定対象から除外する必要が生じる。そこで、車両1の操舵角θstが大であるほど、旋回判定領域E2,E3を旋回内側へと大きく拡張すると共に、直進判定領域E1を旋回外側から大きく縮小するようにしたものが本実施形態である。
【0047】
コントローラ30の障害物判定部30bには、領域拡張角θL1の制御マップに加えて、操舵角θstに対応して領域縮小角θL2を設定する制御マップが予め記憶されており、この領域縮小角θL2に基づき直進判定領域E1が縮小される。以下、車両1の左旋回時に設定される領域縮小角θL2を例として説明するが、右旋回時の領域縮小角についても左右を逆転させた同一内容となる。
【0048】
図12は車両1が最小旋回半径よりも大きな旋回半径で左旋回時した場合の判定領域の選択状況を示す説明図である。領域縮小角θL2は、直進判定領域E1の前部右角(ポイントYで示す)を中心として増減する角度である。操舵角θst=0のときには領域縮小角θL2=0が設定されて直進判定領域E1は縮小されず、操舵角θstの増加に伴って領域縮小角θL2が増加設定され、直進判定領域E1は次第に車両1の旋回外側から縮小され、最大の操舵角θstで領域縮小角θL2は最大値に達する。なお、コントローラ30の処理については、
図11示すステップ21~23で領域拡張角θL1に加えて領域縮小角θL2の処理を実行する点が相違するだけのため、その図示は省略する。
【0049】
図11の例では、車両1が最小旋回半径よりも大きな円弧状の経路Rを辿って進行しており、このときのときの操舵角θstに対応する領域縮小角θL2に基づき直進判定領域E1が縮小されている。衝突の可能性がある障害物P3が判定対象とされる点、及び衝突する可能性がない障害物P1が判定対象から除外される点は、第2実施形態と同様である。そして、車両1の走行経路Rよりも旋回外側に位置する障害物P4は、第2実施形態では直進判定領域E1内に捉えられて判定対象となるが、本実施形態では直進判定領域E1に捉えられずに判定対象から除外される。この旋回状態では衝突する可能性がない障害物P4を判定対象とした場合には、無用な急停止により路面を荒らす要因になるが、このような事態を未然に防止することができる。
【0050】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、車両1の後退時に障害物を検出する障害物検出装置21を備えたマカダムローラ1として具体化したが、これに限るものではなく任意に変更可能である。例えば、アーティキュレート機構6を備えないタイヤローラに適用したり、車両1の前進時に障害物を検出したりしてもよい。
【0051】
また上記実施形態では、障害物センサ23としてTOFセンサを用い、レーザの投光角度と障害物までの距離とに基づき平面視における検出領域Es内の障害物の位置を算出したが、これに限るものではない。例えば車両1の進行方向の画像をカメラにより撮像し、撮像画像を解析して平面視における障害物の位置を判定してもよい。この場合でも撮像画像に基づき判定領域E1~E3を切り換えることにより、実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0052】
また上記実施形態では、直進判定領域E1及び左右の旋回判定領域E2,E3を含むように障害物センサ23の検出領域Esを設定し、この検出領域Esを車両1の旋回状態に応じてコントローラ30の処理により任意の判定領域に限定したが、これに限るものではない。例えば障害物センサ23の検出領域Esを、直進判定領域E1のみの場合、直進判定領域E1に左旋回判定領域E2を加えた場合、直進判定領域E1に右旋回判定領域E3を加えた場合に切換可能とし、その検出領域Es自体をコントローラ30側で障害物の判定領域として取り扱ってもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 マカダムローラ(転圧車両)
23 障害物検出センサ(障害物検出装置)
24,25 近接センサ(操舵状態検出装置)
30a 進行方向判定部
30b 障害物判定部
41 操舵角センサ(操舵状態検出装置)