(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】モータの回転子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/2733 20220101AFI20220928BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
H02K1/2733
H02K15/02 K
(21)【出願番号】P 2020085843
(22)【出願日】2020-05-15
【審査請求日】2021-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000106944
【氏名又は名称】シナノケンシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100135622
【氏名又は名称】菊地 挙人
(72)【発明者】
【氏名】杉脇 皓介
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-244753(JP,A)
【文献】特開2015-50805(JP,A)
【文献】特開平7-75301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/2733
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの回転子であって、
回転軸と、
前記回転軸に固定されたマグネットと、を備え、
前記回転軸は、前記マグネットから離れた位置に、前記回転軸の軸心に垂直な断面形状が前記軸心に対して非対称となる非対称断面を画定する切欠部を有し、
前記マグネットは、前記軸心の方向に延びた貫通孔と非貫通孔とが形成されており、
前記マグネットの重心は、前記軸心に対して前記切欠部が形成された側に位置するように前記貫通孔及び非貫通孔が設定されて
おり、
前記貫通孔は、大径貫通孔、及び前記大径貫通孔よりも内径が小さい小径貫通孔、を含み、
前記小径貫通孔は、前記軸心の方向から見て、前記軸心に対して前記切欠部側に形成され、
前記非貫通孔は、前記軸心の方向から見て、前記軸心に対して前記切欠部とは反対側に形成され、
前記大径貫通孔は、前記軸心の方向から見て、前記軸心周りの周方向で前記小径貫通孔と前記非貫通孔との間に形成されている、モータの回転子。
【請求項2】
前記貫通孔及び非貫通孔のうち少なくとも一つは、テーパー形状である、
請求項1のモータの回転子。
【請求項3】
前記マグネットは、前記軸心に垂直であって前記切欠部とは反対側の第1端面、及び前記軸心に垂直であって前記切欠部側の第2端面を有し、
前記第1端面上には、前記軸心に対して非対称となる位置に突出部は設けられていない、
請求項1又は2のモータの回転子。
【請求項4】
前記第2端面上には、前記軸心に対して非対称となる位置に突出部は設けられていない、
請求項3のモータの回転子。
【請求項5】
前記マグネットは、円筒状の外周側面を有し、
前記外周側面は、前記軸心の方向から見て、前記軸心に対して対称形状である、
請求項1乃至4の何れかのモータの回転子。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかのモータの回転子の製造方法であって、
前記マグネットは、一体成形されたマグネットであり、
前記マグネットを前記回転軸と共に金型により成型する工程を有した、モータの回転子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの回転子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、回転軸と、複数のティースが放射状に形成されたコア部材と、複数のティース間のスロットに巻線が巻回された巻回部とを備えたモータの回転子が開示されている。特許文献1では、回転軸の先端にDカット部が形成され、このアンバランスを解消するように、複数のスロットにそれぞれ巻回された巻線は、線径やターン数、又は巻き方等が異なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、巻線の線径やターン数、巻き方等を考慮して巻回作業を行う必要があり、作業が煩雑化する。
【0005】
そこで本発明は、作業性に優れたモータの回転子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、モータの回転子であって、回転軸と、前記回転軸に固定されたマグネットと、を備え、前記回転軸は、前記マグネットから離れた位置に、前記回転軸の軸心に垂直な断面形状が前記軸心に対して非対称となる非対称断面を画定する切欠部を有し、前記マグネットは、前記軸心の方向に延びた貫通孔と非貫通孔とが形成されており、前記マグネットの重心は、前記軸心に対して前記切欠部が形成された側に位置するように前記貫通孔及び非貫通孔が設定されている、モータの回転子によって達成できる。
【0007】
また、上記目的は、上記のモータの回転子の製造方法であって、前記マグネットは、一体成形されたマグネットであり、前記マグネットを前記回転軸と共に金型により成型する工程を有した、モータの回転子の製造方法によっても達成できる。
【発明の効果】
【0008】
作業性に優れたモータの回転子及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【0010】
図1A、
図1B、
図2A、及び
図2Bは、回転子1の説明図である。
図1Bは、
図1AのA-A断面図である。
図2Bは、
図2AのB-B断面図である。回転子1は、インナーロータ型のモータに用いられ、回転軸10及びマグネット20を備えている。回転軸10及びマグネット20は互いに一体に形成されている。回転軸10は、例えば金属製であるがこれに限定されない。回転軸10は基端部11及び先端部12を有している。先端部12側は、モータの回転動力が外部へと伝達される出力側に相当する。先端部12には、Dカット部であり、断面形状が軸心Aに対して非対称となる非対称断面を画定する切欠部13が形成されている。
図1Bには、回転軸10のみの重心G1の位置を示している。切欠部13により、重心G1の位置は、軸心Aに対して切欠部13とは反対側にずれている。尚、
図1Aは、回転子1を基端部11側から見た図であり、
図2Aは、回転子1を先端部12側から見た図である。
【0011】
マグネット20は、先端部12よりも基端部11に近い位置に設けられている。マグネット20は、樹脂に磁粉が混入されたプラスチックマグネット製であり、周方向に異なる極性が交互に並んでいる。マグネット20は、一体成形されたマグネットの一例であり、例えばゴムを使用したラバーマグネットであってもよい。マグネット20は、軸心Aの方向で所定の厚みを有した略円板状に形成されている。具体的には、マグネット20の外面は、上端面21、下端面22、及び外周側面23を有している。上端面21及び下端面22は、それぞれ軸心Aに垂直であり円形状である。上端面21及び下端面22は、マグネット20の厚みに対応した距離だけ軸心Aの方向に離れて互いに対向している。上端面21は、第1端面の一例である。下端面22は、第2端面の一例である。外周側面23は、円筒状である。換言すれば、
図1A及び
図2Aに示すように、外周側面23は軸心Aに対して対称形状であり、例えば外周側面23から径方向外側に突出した部位は設けられていない。
【0012】
下端面22には、所定の深さの凹部24が形成されている。凹部24は、
図2Aに示すように回転軸10を中心とした略円形状である。また、マグネット20には、回転軸10を中心とした所定の円周上に複数の非貫通孔25、小径貫通孔26、及び大径貫通孔27が略等角度間隔で形成されている。このようにしてマグネット20は軽量化されている。非貫通孔25、小径貫通孔26、及び大径貫通孔27は、凹部24の底部から上端面21側に軸心Aの方向に延びており、小径貫通孔26及び大径貫通孔27はマグネット20を軸心Aの方向に貫通しているが、非貫通孔25はマグネット20を貫通していない。即ち、非貫通孔25は上端面21にまで延びていない。
【0013】
非貫通孔25、小径貫通孔26、及び大径貫通孔27のそれぞれの軸心Aの方向から見た形状は、
図1A及び
図2Aに示すように、マグネット20の周方向に延びた長孔状である。非貫通孔25、小径貫通孔26、及び大径貫通孔27のそれぞれは、
図1B及び
図2Bに示すように、凹部24側から上端面21側にかけて内径が徐々に小さくなるテーパー状に形成されている。小径貫通孔26は、大径貫通孔27よりも内径が小さく形成されている。詳細には、
図1A及び
図2Aに示すように、マグネット20の周方向での長さは、小径貫通孔26は大径貫通孔27よりも短く、小径貫通孔26のマグネット20の径方向での幅は、小径貫通孔26は大径貫通孔27よりも狭い。
【0014】
図1Aに示すように、マグネット20の周方向に、2つの小径貫通孔26、2つの大径貫通孔27、2つの非貫通孔25、2つの大径貫通孔27が形成されている。また、軸心Aに対して切欠部13側に2つの小径貫通孔26が形成されている。軸心Aを介して2つの小径貫通孔26とは反対側に、2つの非貫通孔25が形成されている。
図1Bにはマグネット20の重心G2の位置を示している。これらの非貫通孔25、小径貫通孔26、及び大径貫通孔27により、重心G2の位置は軸心Aに対して切欠部13側にずれている。回転軸10の重心G1の位置とマグネット20の重心G2の位置により、回転子1の重心位置は軸心A上又は軸心Aの近傍に位置するように調整されている。
【0015】
マグネット20には、
図1B及び
図2Bに示すように軸心Aに垂直な方向から見て、上端面21又は下端面22の軸心Aに対して非対称となる位置から突出した突出部は設けられていない。また、
図1A及び
図2Aに示すように軸心Aの方向から見て、外周側面23から軸心Aに対して非対称となる位置から突出した突出部は設けられておらず、軸心Aに対して対称な形状である。即ち、非貫通孔25、小径貫通孔26、及び大径貫通孔27によるマグネット20の内部の形状によって、回転軸10の重心G1に対してバランスをとれるように重心G2の位置が設定されている。このため、マグネット20の製造に用いられる金型を一度設計すると、同様のマグネット20を低コストで大量に製造することができ、製造時の作業性に優れている。
【0016】
また、例えばマグネット20の外周面の軸心Aに対して非対称となる位置にバランスウェイトを塗布するような作業は不要であるため、このような観点からも製造時の作業性に優れている。更に、上端面21や、下端面22、外周側面23から突出した部位は設けられていないため、取り扱い性にも優れている。また、マグネット20に複数の非貫通孔25、小径貫通孔26、及び大径貫通孔27が形成されているため、マグネット20の表面積を確保することができ、放熱性が向上している。
【0017】
次に、回転子1の製造方法について説明する。
図3A及び
図3Bは、回転子1の製造方法の説明図である。予め用意した回転軸10を固定型40及び可動型50内に設置する。具体的には、固定型40の保持孔41内に回転軸10を設置し、可動型50の挿入孔52内に回転軸10が挿入されるように、可動型50を固定型40に接近させる。ここで、固定型40には、マグネット20の下端面22、凹部24、非貫通孔25、及び小径貫通孔26にそれぞれ対応した上端面42、凸部44、低突出部45、及び小径高突出部46が形成されている。尚、
図3A及び
図3Bには示されていないが、マグネット20の大径貫通孔27に対応した大径高突出部も形成されている。可動型50には、マグネット20の上端面21に対応した下端面51が形成されている。可動型50の下端面51が固定型40の高突出部46の先端に接するまで可動型50を固定型40に接近させる。
【0018】
次に、固定型40と可動型50との間の空間の周辺に、円環状の着磁用マグネット60を配置する。着磁用マグネット60は、周方向に異なる極性が交互に並んでいる。次に、射出装置を駆動して、磁性体の粉末を含有する溶融樹脂を、固定型40、可動型50、及び着磁用マグネット60に包囲されたキャビティ内に射出する。着磁用マグネット60により、射出された溶解樹脂は、硬化する過程で、周方向に異なる極性が交互に並ぶように着磁される。このようにして
図3Aに示すように、回転軸10をインサート品としてマグネット20が成形される。溶解樹脂が硬化してマグネット20が成形された後に、
図3Bに示すように可動型50をマグネット20から離間させて、回転軸10を固定型40の保持孔41から引き抜くことにより、回転子1を製造することができる。ここで、低突出部45及び高突出部46はテーパー状である。このため、マグネット20を固定型40から容易に離間させることができる。
【0019】
上記実施例では、回転軸10に形成される非対称断面の一例としてDカットを示したがこれに限定されない。上記実施例では、非貫通孔25、小径貫通孔26、及び大径貫通孔27は、下端面22側から上端面21側にかけて内径が徐々に小さくなるテーパー形状であるがこれに限定されない。例えばこれらの孔が、上端面21側から下端面22側にかけて内径が徐々に小さくなるテーパー形状であってもよい。この場合、
図3Aに示した固定型40及び可動型50の位置関係とは反対側にそれぞれ固定型及び可動型を配置すればよい。
【0020】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0021】
1 回転子
10 回転軸
11 基端部
12 先端部
13 切欠部
20 マグネット
21 上端面
22 下端面
23 外周側面
25 非貫通孔
26 小径貫通孔
27 大径貫通孔
40 固定型
50 可動型
60 着磁用マグネット