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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】胚画像配信システムおよびその方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 30/00 20180101AFI20220928BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
G16H30/00
C12M1/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020117440
(22)【出願日】2020-07-08
(62)【分割の表示】P 2018246545の分割
【原出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020177683
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-12-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515264012
【氏名又は名称】福永 憲隆
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福永 憲隆
【審査官】小山 和俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-093795(JP,A)
【文献】特開2018-042693(JP,A)
【文献】スマートフォンアプリ導入のお知らせ,2018年12月11日,<URL:https://ivf-asada.jp/news/2018/12/post-73.html> <URL:https://ivf-asada.jp/img/asada_app.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
C12M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不妊治療において胚の画像を配信する胚画像配信システムであって、
患者の情報の登録を行なうと共に、携帯端末からのアクセスを管理する管理装置と、
受精処置されて容器に格納された胚を所定環境に維持すると共に、前記格納された胚の画像を所定のインターバルで撮像する胚培養装置と、
前記撮像された画像を、前記撮像のインターバルを圧縮して、前記胚の状態を示す配信用の動画として編集し、前記動画を、前記胚に対して閲覧の権利を有する患者を特定する情報と紐付けて、記憶する画像記憶部と、
前記配信用の動画に対する閲覧要求を、ネットワークを介して、前記患者を特定する情報と共に、前記管理装置に送信する携帯端末と、
携帯端末から前記閲覧要求があったとき、前記登録した患者の情報を参照して、前記閲覧要求が、前記閲覧する権利を有する患者によるものである場合に、これを認証する認証部と、
前記認証がなされたとき、前記画像記憶部から前記患者の情報と紐付けられた前記配信用の動画を読み出して、前記携帯端末に送信し、前記携帯端末に表示させる画像表示部と
を備え、
前記配信用の動画は、前記患者が前記閲覧の権利を有する受精処置された胚が複数ある場合には、前記容器に格納された胚毎に、前記胚の別を示す情報と共に用意され、前記胚の別を示す情報と共に一覧表示される、胚画像配信システム。
【請求項2】
請求項1記載の胚画像配信システムであって、
前記胚培養装置は、前記画像を撮像する撮像装置を内蔵し、
前記管理装置は、前記認証部を備え、
前記携帯端末は、前記管理装置に前記患者の情報の登録を行なったとき、前記患者が、前記胚に対して閲覧の権利を有する患者であることを特定可能な情報を、前記管理装置との間で共有する
胚画像配信システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の胚画像配信システムであって、
前記管理装置は、培養する受精処置された胚の患者を特定する情報を記憶する患者情報記憶部を備え、
前記患者情報記憶部が記憶する前記患者を特定する情報は、少なくとも患者の診察券番号を含み、
前記管理装置が登録する前記患者の前記情報は、前記患者の診察券番号に加えて、少なくとも前記携帯端末側で登録された本人確認の情報であるパスワードを含む
胚画像配信システム。
【請求項4】
前記配信用の動画は、前記受精処置された胚の成長段階の情報と共に、前記携帯端末に配信される請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の胚画像配信システム。
【請求項5】
不妊治療において胚の画像を配信する胚画像配信方法であって、
患者の情報を、サーバに設けられた記憶装置に記憶させて、前記患者の情報の登録を行ない、
受精処置されて容器に格納された胚の画像を胚培養装置に設けた撮像装置により撮像し、
前記胚培養装置が、前記撮像された胚の画像から前記胚の状態を示す配信用の動画を生成し、前記配信用の動画は、前記患者が閲覧の権利を有する受精処置された胚が複数ある場合には、前記容器に格納された胚毎に、前記胚の別を示す情報と共に用意され、前記配信用の動画を前記胚に対して閲覧の権利を有する患者を特定する情報と紐付けて、前記サーバに設けられた記憶装置に記憶し、
携帯端末から、前記配信用の動画に対する閲覧要求を、前記患者を特定する情報と共に、前記サーバに送信し、
携帯端末から前記閲覧要求があったとき、前記登録した患者の情報を参照して、前記携帯端末を用いた前記閲覧要求が、前記閲覧の権利を有する患者によるものである場合に、前記サーバがこれを認証し、
前記認証がなされたとき、前記サーバが、前記患者の情報と紐付けられた前記配信用の動画を前記記憶装置から読み出して、前記携帯端末に送信し、前記携帯端末に表示させ、
前記配信用の動画が複数ある場合には、前記胚の別を示す情報と共に一覧表示される、
胚画像配信方法。
【請求項6】
不妊治療において胚の画像を管理する管理装置であって、
患者の情報の登録を行なう患者情報登録部と、
受精処置されて容器に格納された胚の画像を撮像する胚培養装置に対して、前記撮像された画像から配信用の動画を生成させ、前記配信用の動画をストレージに記憶させる際に、前記撮像された胚に対して閲覧の権利を有する患者を特定する情報を付与させる患者情報付与部と、
携帯端末が前記患者を特定する情報と共に送信する、前記配信用の動画に対する閲覧要求を受け付ける受付部と、
携帯端末から前記閲覧要求があったとき、前記付与された患者の情報を参照して、前記携帯端末を用いた前記閲覧要求が、前記閲覧の権利を有する患者によるものである場合に、これを認証する認証部と、
前記認証がなされたとき、前記患者の情報と紐付けられた前記配信用の動画を、前記携帯端末での表示のために前記携帯端末に送信して表示させる送信制御部と
を備え
前記配信用の動画は、前記患者が前記閲覧の権利を有する受精処置された胚が複数ある場合には、前記容器に格納された胚毎に、前記胚の別を示す情報と共に用意され、前記胚の別を示す情報と共に一覧表示される、管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インキュベータ(胚培養装置)における胚画像を配信する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
不妊治療の普及につれて、体外受精といった治療を選択する患者が増加している。体外受精には、コンベンショナルと顕微授精とがあるが、いずれの場合でも、体外受精後の胚を胚培養装置に入れて、体内に近い、胚にとって好ましい環境に保つ。近年、胚培養装置内にカメラを設け、培養中の胚の状態を、所定時間毎に撮影し、撮影した胚の画像を胚培養士がチェックできるようになってきた。この結果。画像を確認した胚の中から望ましいと考えられる胚を患者の子宮内に移植することが行なわれ、体外受精による不妊治療の成功率の向上に寄与している。こうした培養中の胚の画像を所定時間毎に撮像する胚培養装置は、タイムラプス胚培養装置と呼ばれる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2016-512959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、こうした培養中に胚は、卵子や精子を提供した患者に由来し、あるいは患者の子宮内にいずれ移植される可能性の高いものでありながら、患者本人が、移植までの間の胚の状況を知ることはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の第1の態様として、胚の画像を配信する胚画像配信システムが提供される。この胚画像配信システムは、患者の情報の登録を行なうと共に、携帯端末からのアクセスを管理する管理装置と、容器に格納された胚を所定環境に維持すると共に、前記格納された胚の画像を所定のタイミングで撮像する胚培養装置と、前記胚の複数の撮像された画像を、前記胚に対して閲覧の権利を有する患者を特定する情報と紐付けて、記憶する画像記憶部と、前記胚の画像に対する閲覧要求を、ネットワークを介して、前記患者を特定する情報と共に、前記管理装置に送信する携帯端末と、 携帯端末から前記閲覧要求があったとき、前記登録した患者の情報を参照して、前記閲覧要求が、前記閲覧する権利を有する患者によるものである場合に、これを認証する認証部と、前記認証がなされたとき、前記画像記憶部から前記患者の情報と紐付けられた画像を読み出して、前記携帯端末に送信し、前記携帯端末に表示させる画像表示部とを備える。この胚画像配信システムによれば、胚の画像を、その胚に対して閲覧の権利を有する患者であれば確認できるようにすることができる。なお、胚の画像の撮像は、静止画像でもよいし動画でもよい。また、胚は培養中の胚であってもよく、凍結前、融解後の画像を含んでいてもよい。もとより。凍結前、融解後の画像のみであってもよい。
【0007】
(2)こうした胚画像配信システムにおいて、前記胚培養装置は、前記画像を撮像する撮像装置を内蔵し、前記管理装置は、前記認証部を備え、前記携帯端末は、前記管理装置に前記患者の情報の登録を行なったとき、前記患者が、前記胚に対して閲覧の権利を有する患者であることを特定可能な情報を、前記管理装置との間で共有するものとしてよい。こうすれば、患者が操作する携帯端末と管理装置とが、胚に対して閲覧の権利を有する患者の情報を共有できるので、胚の画像を、その胚に対して閲覧の権利を有する患者であれば、確認することができるという仕組みを容易に構築できる。
【0008】
(3)こうした胚画像配信システムにおいて、前記胚培養装置は、培養する胚の患者を特定する情報を記憶する患者情報記憶部を備え、前記胚培養装置の前記患者情報記憶部が記憶する前記患者を特定する情報は、少なくとも患者の診察券番号を含み、前記管理装置が登録する前記患者の前記情報は、前記患者の診察券番号に加えて、少なくともパスワードを含むものとしてもよい。こうすれば、システムを構成する管理装置のみならず、胚培養装置も、患者に関する情報を持つので、システム全体のセキュリティを高めることができる。
【0009】
(4)前記画像記憶部に記憶される画像は、前記撮像のインターバルを短縮して、動画として編集された画像としてもよい。撮像のインターバルを短縮した、いわゆるコマ撮りの動画は、インターバルを短縮している分、胚の成長の様子を短い時間で実感しやすい。
【0010】
(5)この胚画像配信システムにおいて、前記動画には、前記動画として編集された画像の最初の撮像日時、最後の撮像日時、前記動画として配信可能となった日時、配信終了日時のうちの少なくとも一つが、前記動画内または前記動画の選択画面において表示されるものとしてもよい。こうすれば、胚の状況を一層リアルタイムなものとして感じることができる。
【0011】
(6)前記画像は、前記患者が前記閲覧の権利を有する胚が複数ある場合には、前記胚が格納された容器毎に、前記容器の別を示す情報と共に用意するものとしてもよい。こうすれば、一人の患者の複数の胚の画像を配信することができる。
【0012】
(7)更に、前記画像は、前記胚の成長段階の情報と共に、前記携帯端末に配信されるものとしてもよい。患者は、胚の成長段階の情報と共に、画像をみることができ、成長を更に実感しやすくなる。
【0013】
(8)本開示の第2の態様として、胚の画像を配信する胚画像配信方法が提供される。この胚画像配信方法では、患者の情報の登録を行ない、容器に格納された胚の画像を所定のタイミングで撮像し、前記胚の複数の撮像された画像を、前記胚に対して閲覧の権利を有する患者を特定する情報と紐付けて記憶し、携帯端末から、前記胚の画像に対する閲覧要求を、前記患者を特定する情報と共に送信し、携帯端末から前記閲覧要求があったとき、前記登録した患者の情報を参照して、前記携帯端末を用いた前記閲覧要求が、前記閲覧の権利を有する患者によるものである場合に、これを認証し、前記認証がなされたとき、前記患者の情報と紐付けられた画像を読み出して、前記携帯端末に送信し、前記携帯端末に表示する。この胚画像配信方法によれば、胚の画像を、その胚に対して閲覧の権利を有する患者であれば確認できるようにすることができる。
【0014】
(9)本開示の第3の態様として、胚を管理する管理装置が提供されるこの管理装置は、患者の情報の登録を行なう患者情報登録部と、容器に格納された胚の画像を所定のタイミングで撮像する胚培養装置に対して、前記胚の複数の撮像された画像がストレージに記憶される際に、前記撮像された胚に対して閲覧の権利を有する患者を特定する情報を付与させる患者情報付与部と、携帯端末が前記患者を特定する情報と共に送信する、前記胚の画像に対する閲覧要求を受け付ける受付部と、携帯端末から前記閲覧要求があったとき、前記付与された患者の情報を参照して、前記携帯端末を用いた前記閲覧要求が、前記閲覧の権利を有する患者によるものである場合に、これを認証する認証部と、前記認証がなされたとき、前記患者の情報と紐付けられた画像を、前記携帯端末での表示のために前記携帯端末に送信する送信制御部とを備える。この管理装置によれば、胚の画像を、その胚に対して閲覧の権利を有する患者であれば、その携帯端末で確認できるようにすることができる。
【0015】
本開示は、上記態様に限られず、他の態様、例えば、管理装置の制御方法や、胚の複数の画像を閲覧可能な携帯端末、その制御方法といった態様で実施することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態の胚画像配信システムを示す概略構成図。
図2】患者管理サーバを示す概略構成図。
図3】タイムラプス胚培養装置を示す概略構成図。
図4】胚画像配信システムが実現するサービスの概要を示す説明図。
図5】患者の受付けとアプリケーションへの登録処理の概要を示すフローチャート。
図6】不妊治療アプリケーションの初期画面を例示する説明図。
図7】アプリケーションのメインルーチンを示すフローチャート。
図8】タイムラプス胚培養装置における撮像処理ルーチンを示すフローチャート。
図9】胚画像の表示を行なうアプリケーション側と患者管理サーバ側との処理を対応付けて示すフローチャート。
図10】胚画像の配信を行なう場合の携帯端末側の画像の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.第1実施形態:
第1実施形態について説明する。第1実施形態の胚画像配信システム10は、図1に示すように、患者管理サーバ20,タイムラプス胚培養装置50、携帯端末70を備える。患者管理サーバ20とタイムラプス胚培養装置50とは、外部のネットワークとは遮断されたローカルエリアネットワークLANにより接続されている。また、携帯端末70は、インターネットなどの広域ネットワークWANを介して、患者管理サーバ20に接続可能である。患者管理サーバ20には、ラベル47に印刷可能なラベルプリンタ45が接続されている。
【0018】
患者管理サーバ20にローカルエリアネットワークLANを介して接続されるタイムラプス胚培養装置50は、受精処置された胚が格納される複数のトレイ63,64と各トレイ63,64を撮像する撮像装置としてのカメラ61,62を内蔵している。図では、トレイやカメラは、それぞれ2つずつ示したが、数はタイムラプス胚培養装置50の規模により、1つでもよいし、3以上であってもよい。また、トレイ63,64には、それぞれラベル貼付台65が設けられている。このラベル貼付台65には、受精処置された胚の患者を特定する情報が印刷されたラベルを貼ることができる。タイムラプス胚培養装置50の詳しい構成および動作については、後で詳しく説明する。
【0019】
携帯端末70は、広域ネットワークWANに設けられた図示しない基地局と、4Gなどの高速通信網を用いて接続し、患者管理サーバ20との間でデータ通信を行なう。携帯端末70としては、いわゆる携帯電話、特にスマートフォン、フィーチャホンなどの他、WiFi経由で、広域ネットワークWANに接続可能な端末であれば、種々の端末が利用可能である。
【0020】
携帯端末70は、周知のCPU71,メモリ75の他、画面への表示を行なう表示制御部72、画面に設けられたタッチパネルを含めてジェスチャや文字入力を行なう入力部73、広域ネットワークWANを介したデータ通信を行なう通信部74、画像や動画などのデータを記憶するストレージ77、これらを相互に接続する内部バス78等を備える。メモリ75には、後述するアプリケーションプログラム(以下、単にアプリケーションとも言う)80が格納され、このアプリケーション80を動作させることにより、後述する患者の管理や胚画像の配信を含む処理が実現される。アプリケーション80は、患者情報82を管理する。なお、配信される画像は、ストレージ77に保存可能であるが、配信される動画は、ストリーミングにより再生されるので、携帯端末70内には、保存されない。アプリケーション80は、携帯端末70が専用の端末である場合には、最初から携帯端末70にインストールされていてもよいし、アプリケーションストアなどから、ダウンロード可能とし、必要に応じて、携帯端末70にインストールされるものとしてもよい。もとより、クラウドサービスを提供するクラウドサービスソフトウェアとしてアプリケーション80を構成し、アプリケーション80をクラウド側に置き、携帯端末70からは、汎用のブラウザを介して、クラウド側のアプリケーション80を呼び出すようにすることも可能である。クラウドサービスソフトウエアは、汎用のサービスを利用してもよいが、患者管理サーバ20上で動作させれば、セキュリティの面からも望ましい。
【0021】
次に、管理装置としての患者管理サーバ20について、図2を用いて説明する。患者管理サーバ20は、周知のCPU21,メモリ30の他、広域ネットワークWANおよびローカルエリアネットワークLANとの間の通信を行なう通信部22、患者情報記憶部に相当する患者データベース(以下、患者DBと略記する)37や動画データベース(以下、動画DBと略記する)38を記憶するストレージ35、ラベルプリンタ45を制御する印刷部40、これらを相互に接続する内部バス25等を備える。なお、患者管理サーバ20には、データ入力用のキーボードやマウスの他、表示用のディスプレイなども設けられているが、ここでは図示は省略した。こうした入力および表示用デバイスは、患者管理サーバ20に直接接続されている必要はなく、ローカルエリアネットワークLANを解して接続された端末として用意される構成とすることも差し支えない。
【0022】
メモリ30には、専用のプログラムがロードされ、CPU21は、ロードされたプログラムを実行することで、認証部31,画像表示部32,パスワード記憶部33,成長段階記憶部34等が実現される。各部を実現する処理については、フローチャートを用いて後述するが、各部が実現する機能は以下の通りである。認証部31は、患者情報を管理すると共に、患者が携帯端末70を用いて患者管理サーバ20にアクセスする場合に、患者DB37を用いて患者の認証を行なう。画像表示部32は、携帯端末70からの求めに応じて、携帯端末70に、動画DB38に保存された動画を含む画像を表示させる。パスワード記憶部33は、患者を特定するパスワードの記憶とパスワードを用いた本人認証を行なう。成長段階記憶部34は、タイムラプス胚培養装置50から送られる胚画像に基づいて、胚の成長段階を特定し、これを記憶する。
【0023】
印刷部40は、ラベルプリンタ45によってラベル47に印刷する情報を制御する。ラベル47には、必要に応じて、「患者名」「診察券番号」とこれらを画像化した二次元バーコードが印刷される。このラベル47を診察券の台紙に貼付して、ラミネートすることにより、そのまま診察券として扱うことができる。また、ラベルプリンタ45は、例えば患者のカルテを作成するタイミングでも印刷される。また、タイムラプス胚培養装置50に受精処置された胚が格納されたトレイ63,64が収納されるとき、トレイ63,64に貼付するために、ラベル47が印刷される。こうした患者名と診察券番号、二次元バーコードが印刷されたラベルを使うことで、患者情報や患者由来の胚の取り違えなど防止している。ラベル47の運用については、後述する。
【0024】
次に、タイムラプス胚培養装置50について説明する。タイムラプス胚培養装置50は、受精処置された胚を格納した複数のトレイ63,64を撮像する複数のカメラ61,62を備えることは既に説明した。これらのデバイス以外に、タイムラプス胚培養装置50は、トレイ63,64を恒温・恒湿に維持する図示しない環境維持装置を備える。胚培養のために培養環境を整えるこうした環境維持装置は、周知のものなので、詳しい説明は省略する。
【0025】
タイムラプス胚培養装置50は、図3に示すように、周知のCPU51,メモリ52の他、ローカルエリアネットワークLANを介して患者管理サーバ20と通信するための通信部53や画像編集を行なう画像編集部55、編集対象および編集結果の画像を保存する画像記憶部としてのストレージ57、カメラ61,62からの画像を入力する画像入力部58などを備える。画像入力部58は、カメラ61,62と接続されており、カメラ61,62に対する撮像の指示の出力も行なう。
【0026】
複数のカメラ61,62は、それぞれ、トレイ63,64に収容された複数のディッシュDS内の胚を、一度に撮像する。もとより、カメラ61,62の撮像範囲を、1つあるいはトレイ63,64内のディッシュDS数より少ない数のディッシュDSを撮像可能とし、撮像位置を変更する機構を設けてもよい。撮像位置の変更は、カメラ61,62を移動してもよいし、トレイ63,64を移動してもよいし、あるいは両者を移動してもよい。また、カメラ61,62は、焦点深度を浅くし、かつ焦点位置を変更する機構を設け、カメラ61,62の焦点を変更して複数の画像を撮像するようにしてもよい。こうすれば、被写体である胚の高さが異なる断面の画像を撮像することができる。もとよりカメラ61,62の焦点深度を深くし、一度または数度の撮像で、胚の高さ方向の広い範囲を撮像するようにしてもよい。
【0027】
画像入力部58は、カメラ61,62に対して、所定のタイミングで撮像の指示を出し、カメラ61,62が撮像した画像を、ストレージ57の所定の領域に保存する。保存する領域は、カメラ毎に、またタイムラプス胚培養装置50内に培養のために置かれたトレイ毎に、ストレージ57内に準備される。画像編集部55は、ストレージ57に新たな画像が保存されると、これを動画として編集する。動画として編集するとは、所定のインターバル、例えば10分おきに撮像された複数の画像を、予め定めた時間、例えば1秒ずつ順に表示する動画とすることを言う。このように、所定のインターバルで撮像された複数の画像を、時間軸を圧縮した連続する静止画像による動画とすることを、タイムラプス(時間圧縮)またはコマ撮りという。
【0028】
B.治療と処理の概要:
以上説明した患者管理サーバ20,タイムラプス胚培養装置50,携帯端末70からなる胚画像配信システム10が行なう処理の概要を、図4を用いて説明する。図4は、胚画像配信システム10が実現するサービスを、治療段階、アプリの利用、ラボ・胚培養装置の欄に分けて示す説明図である。「治療段階」とは、患者に対して行なわれる不妊治療の特徴的な処置を意味する。不妊治療には、更に細かい治療や指導が存在するが、ここでは、代表的な治療のみを示した。また、「アプリの利用」とはアプリケーション80が実現する機能のうち、各治療段階に対応する機能を意味する。図4で、アプリケーション80に用意されたメニューとしてこれを示した。「ラボ・胚培養装置」は、胚培養室(ラボと略記する)およびタイムラプス胚培養装置50に置いて行なわれる処置のうち、代表的なものを示した。
【0029】
患者は、まず初診ME1を受ける。初診の際には、まず不妊治療を行なう病院等に患者を登録する処置が必要となる。患者の氏名や年齢、性別、既往症、など不妊治療に必要となる情報が、患者管理サーバ20に登録されると、患者を識別可能なユニークな番号が付与される。患者は、自身の保有する携帯端末70にアプリケーション80をインストールし、アプリケーション80起動して、アプリケーション80に自らを登録する(ステップS100)。この初診ME1の際の登録処理については、後で詳しく説明する。
【0030】
次に患者は第1期ホルモン補充治療ME2を受ける場合がある。この第1期ホルモン補充治療とは、卵胞の成長を刺激する成熟ホルモンを患者に補充する治療である。卵胞の成熟が不足していると診断され、こうした治療を受ける患者は、生理周期に合せて、複数回ホルモンの補充を受ける。そのために来院や診察の予約を入れる。この予約の処理は、アプリケーション80を用いて行なうことができる。これが予約の処理(ステップS200)である。患者は来院の度に、アプリケーション80を用いて、予約の処理(ステップS200)を行なう。
【0031】
第1期ホルモン補充治療が行なわれ、採卵可能な状況となれば、患者からの採卵ME3が行なわれる。採卵の日程は、患者との合意の元で決定される。図4では、アプリケーション80を用いた予約の処理(ステップS200)の1つとして示したが、採卵の予約は、患者管理サーバ20側で、つまり病院側で登録され、これを患者が確認する。
【0032】
予約した日に、採卵ME3を行なうと、胚培養室では、採卵した卵子に対する様々な処置を行なう。この処理において最優先されるのは、処理の対象となる卵子と採卵に応じた患者とを正確に紐付けることである。そこで、採卵が行なわれ、卵子が胚培養室に搬入されると同時に、胚培養室に設けられたプリンタによりラベル印刷を行なう(ステップS110)。印刷されたラベルは、胚培養室に搬入された卵子を入れた容器にまず貼付され、その後も、卵子と共に移動される。本システム10では、採卵された卵子を胚培養室に搬入する際、一度に一人の患者の卵子しか扱わない。このため、卵子が胚培養室に搬入される度に印刷されるラベルは、確実に、搬入された卵子の容器に対応付けられる。
【0033】
胚培養室に搬入された卵子に対して受精処置が行なわれ(処置P10)、受精処置され卵子は、トレイ63,64のディッシュDSに一つずつ格納される(処置P20)。受精処置した卵子を一つずつディッシュDSに格納して、患者一人に一つのトレイを割り当てることを、本実施形態では、トレイを調製するという。次に、このトレイをタイムラプス胚培養装置50に収納し、登録する(処置P30)。トレイの登録は、トレイ63,64に、先に印刷したラベルを貼付することにより行なわれる。この処理は後で詳しく説明する。
【0034】
この後、タイムラプス胚培養装置50内で培養される胚(受精処置がされていることから、受精の結果を問わず、以下、胚と呼ぶ)は、タイムラプス胚培養装置50内で培養され、カメラ61,62により定期的に、タイムラプス胚培養装置50内で撮像される。この画像を胚培養士が診て、胚を評価する(処置P40)。同時に、タイムラプス胚培養装置50が所定のインターバルで撮像した画像は、動画として生成され(ステップQ10)、患者による視聴に供される(ステップS300)。
【0035】
タイムラプス胚培養装置50内で培養され、評価された胚は、受精後、所定の段階まで生育したことが確認されると、凍結される(処置P50)。受精卵を凍結するのは、患者が第2期ホルモン治療を受けて、受精卵の着床に適した状態になるまで、胚を凍結して待つためである。
【0036】
そこで、採卵を終えた患者は、体調が戻り次第、第2期ホルモン補充治療ME4を受ける。第2期ホルモン補充治療は、それまで、卵胞を成熟させるためのホルモンの補充の後、一定の期間をおいてから、今度は受精処置された胚が着床しやすい子宮内膜を育てるホルモンを必要に応じて補充する治療である。第2期ホルモン補充治療にも通院や、ホルモン注射などの治療が必要となるため、携帯端末70のアプリケーション80を用いた来院の予約(ステップS200)が行なわれる。この間、凍結された胚は、胚移植にむけて、成長を止めて、待機(処置P60)していることになる。
【0037】
患者に対する第2期ホルモン補充治療ME4が進み、患者の状態が胚移植に適した状態になったと判断されると、胚移植の日程を決定して予約する(ステップS200)。胚移植に先立って、胚培養室では、凍結保存していた胚を融解する(処置P70)。患者が予約した日時に来院することで、融解した胚の移植が行なわれる(処置P80)。その後、患者の妊娠の可否の確認ME6が行なわれる。
【0038】
以上が、不妊治療の概要とこれに付随して行なわれる処理の概要である。不妊治療の進行に合せて、患者管理サーバ20は、患者の登録や管理を、携帯端末70内のアプリケーション80と連係して行ない、また携帯端末70内のアプリケーション80は不妊治療の進行をサポートすると共に、受精処置後の卵子(胚)の状況を表わす動画を再生し、患者の視聴に提供する。そこで、これらを実現する患者管理サーバ20,携帯端末70の処理について詳しく説明する。
【0039】
C.アプリケーションを用いた処理の概要:
図5は、患者管理サーバ20が実行する患者受付処理ルーチンと、患者管理サーバ20側の処理に対応して行なわれる患者の携帯端末70内のアプリケーション80の処理とを対応付けて示すフローチャートである。まず、患者が来院した場合、初診であるかの判断を行なう(ステップS100)。初診の場合は、患者の情報を保存するホルダを患者DB37に確保し、登録用の患者DB37に、患者情報の登録を行なう(ステップS110)。患者情報には、氏名、性別、年齢、誕生日、住所といったいわば書誌的な事項の他、既往症、アレルギー、他の医療機関での不妊治療の来歴など、不妊治療に必要な事項が含まれる。こうした患者情報は、診察券番号をキーとして、いつでも読出可能に、患者DB37に登録される。
【0040】
患者情報の入力が完了すると、次に診察券の印刷を行なう(ステップS120)。診察券47には、図5に例示した様に、少なくとも患者の氏名と診察券番号と二次元バーコードとが印刷される。二次元バーコードには、患者氏名と診察券番号および認証番号が暗号化されて二次元の画像とされている。なお、二次元バーコードは、診察券の裏面に印刷されてもよい。
【0041】
印刷された自分の診察券47を受け取った患者は、自分の携帯端末70にアプリケーション80をインストールした上で、診察券47上の二次元バーコードを携帯端末70により読取る(ステップS125)。携帯端末70は、この診察券47上の二次元バーコードを読取ると、アプリケーション80が稼働していなければ、これを起動し、患者管理サーバ20の通信を行なう(ステップS135)。具体的には、診察券47から読取った診察券番号と認証番号を送信する。
【0042】
患者管理サーバ20は、患者の携帯端末70上のアプリケーション80からの要求があったと判断すると(ステップS130)、診察券番号や認証番号を受け取り、診察券番号と認証番号の組合せが、ストレージ35内の患者DB37に登録されたものであるかを確認し、両者が一致していれば、患者DB37から患者氏名、パスワードなど、携帯端末70におけるアプリケーション80の運用に必要な情報を携帯端末70側に送信する(ステップS140)。なお、本人認証は、診察券番号とパスワードで行なうものとしてもよい。
【0043】
ここで、診察券47に印刷された二次元バーコードに、診察券番号のみならず、認証番号を暗号化して含ませておくのは、診察券の偽造防止のためである。患者管理サーバ20には、患者の個人情報が登録されているため、診察券を偽造して、患者になりすまして、患者DB37にアクセスされることがないように、診察券番号に加えて、認証番号を組み合わせ、暗号化している。もとより、一度、患者の携帯端末70のアプリケーション80が登録されれば、二度目の登録を認めないという運用も可能であるが、患者が治療期間中に携帯端末を買い換えたり、二台目の携帯端末の運用を開始することもあるため、本実施形態のシステムは、複数回の登録を許している。このため、偽造された診察券での登録を排除するために、認証番号を暗号化した上で、二次元バーコードに含ませている。
【0044】
患者DB37から登録情報を受け取った携帯端末70側のアプリケーション80、登録情報として、少なくとも患者名と生年月日を携帯端末70のディスプレイに表示し、患者本人に、本人確認を求める(ステップS145)。仮にこのとき、他人の氏名や生年月日が表示されていれば、何らかの事情で、患者DB37に正しい登録がなされていないことに気付くので、本人確認に対して、「NO」を選択すればよい。この場合は、登録の訂正を求めればよい。患者名のみならず生年月日を表示するのは、同姓同名による誤登録を排除するためである。
【0045】
患者管理サーバ20側から、本人の情報が送られてきており、患者本人がこれを確認すれば(ステップS145:「YES」)、アプリケーション80は、本人情報を登録し、更にパスワードや指紋認証などを登録し(ステップS155)、これを患者管理サーバ20側と共有する。患者管理サーバ20側は、本人を、携帯端末70側で登録された本人確認の情報(パスワード等)を、認証情報として登録する(ステップS150)。
【0046】
以上の処理を行なうことにより、患者管理サーバ20側と携帯端末70側とで、患者本人の登録が確実に行なわれ、以後は、患者は、携帯端末70側のアプリケーション80を起動すると、指紋認証などにより本人確認がなされて直ちにアプリケーション80が使用可能となる。また、これを受けて、患者管理サーバ20は、携帯端末70側からの要求などを直ぐに受け入れ可能となる。なお、更にセキュリティを高めるために、患者の携帯端末70を患者管理サーバ20側に登録の際に、携帯端末70に固有の番号、例えばシリアル番号や、通信モジュールに個別に割り当てられたMACアドレスなど、携帯端末70のハードウェアに固有の番号を併せて登録するものとし、これらの番号により認証も行なってもよい。携帯端末70が携帯電話の場合には、SIMカードの番号を用いて登録してもよい。
【0047】
上述した登録処理を終えると、患者は、携帯端末70のアプリケーション80を起動して、診察・治療の予約などを行なうことができる。アプリケーション80を起動した直後の携帯端末70の画面の一例を図6に示した。患者が携帯端末70にインストールされたアプリケーション80のアイコンをタップして、アプリケーション80を起動すると、図6に示したホーム画面が表示される。この画面では、ディスプレイ最下段に5つのボタンが配列されており、その上に患者と治療の関係、例えば予約情報等が表示される。このエリアD200は、不妊治療に関する患者に直接関わりのある個別の情報が表示される。このエリアD200の上には、一般的なお知らせが表示されるエリアD300が設けられている。このエリアD300は、例えば臨時休診日のお知らせなど、不妊治療をしている病院や胚培養室などからの連絡事項が表示される。
【0048】
こうした画面表示を行なう携帯端末70のアプリケーション80の処理を図7に示した。図7は、アプリケーション80が起動した後に実行されるメインルーチンである。この処理が開始されると、80は、まず患者管理サーバ20と通信を行なう(ステップS600)。アプリケーション80は、図5を用いて説明した本人確認のための情報を患者管理サーバ20と交換し、必要な認証を受ける処理を実行する(ステップS610)。認証を受けたアプリケーション80は、図6に例示したホーム画面をまず表示し、次の患者の指示があるまで待機する(ステップS620)。
【0049】
何らかの処理を必要とする患者は、ディスプ最下段に表示された5つのボタンのいずれかをタップする。タップされたボタンが、左端のホームボタンSHであれば、いずれの画面が表示されていても、ホーム画面(図6に例示)に戻る(ステップHOME)。次に隣の予約ボタンSRをタップすると、予約画面に移動する(ステップS200)。予約処理についての詳しい説明は省略するが、不妊治療を行なう医療機関の診療や治療が可能な空き時間がカレンダーに沿って表示され、患者がこれを選択することにより、簡単に予約を行なうことができる。
【0050】
患者が最下段中央の動画ボタンSVをタップすると、画像閲覧処理(ステップS300)が実行される。この処理については、後で詳しく説明する。その右隣の通知ボタンSIをタップすると、患者に個別にお知らせすべき情報がメール形式で配信されるのを受け取るお知らせ受信処理(ステップS400)が実行される。お知らせは、メール形式で届くので、患者はこれに返信することも可能である。また、患者は、個別の相談などをこの通知ボタンSIを操作して表示される画面で行なうことも可能である。画面最下段の右端の設定ボタンSSは、設定画面に移行し、アプリケーション80の各種設定(ステップS500)を行なうためのボタンである。各種設定とは、例えばパスワードの変更などを含むログインの設定、メールでのやり取りをする際のメールアドレスの設定などが含まれる。
【0051】
D.動画の生成処理:
アプリケーション80を用いた携帯端末70側での動画閲覧処理に先立って、タイムラプス胚培養装置50と患者管理サーバ20とが動画の生成を行なう。まずこの処理について説明する。図8は、タイムラプス胚培養装置50のCPU51が実行する撮像処理ルーチンを示すフローチャートである。この処理は、タイムラプス胚培養装置50のトレイ収納室の扉(図示省略)を空けて、受精処置されたれ胚がタイムラプス胚培養装置50収納されると開始される。
【0052】
胚を格納したトレイ63が収容されると、タイムラプス胚培養装置50は、カメラ61を用いて、トレイ63とトレイ63に貼付されたラベルとを撮像する(ステップS700)。ラベルは、受精処置される卵子が胚培養室に持ち込まれる際に発行され、受精処置した卵子(胚)をトレイ63に収納したときに、トレイ63に貼付されている。そこで、トレイ63と共に、ラベルを撮像し、このラベルに印刷された二次元バーコードを認識する(ステップS710)。
【0053】
ラベルに印刷された二次元バーコードを認識することで、タイムラプス胚培養装置50は、トレイに収納された胚が、どの患者のものかを知ることができる。タイムラプス胚培養装置50は、この患者が、患者管理サーバ20が管理している患者のものと一致しているかを判断する(ステップS720)。当日採卵を受け、その卵子がこのタイミングでタイムラプス胚培養装置50に収納される患者は特定できるから、実際にトレイ63に貼付されたラベルから認識した患者と一致することを確認することで、ラベルの貼り間違いによる取り違えを防止する。一致していなければ何も行なわずに「END」に抜けて処理を終了する。このとき、確認作業を促す警告を、音声やタイムラプス胚培養装置50のディスプレイ上への表示などで行なっても良い。
【0054】
両者が一致すれば(ステップS720:「YES」)、次にタイムラプス胚培養装置50、撮像スケジュールを読込む(ステップS730)。撮像スケジュールとは、タイムラプス胚培養装置50内の胚を撮像するタイミングの時系列的な並びである。もとより、胚の撮像は、予め定めた10分おきのインターバルといった一定の間隔で行なうものとしてもよいし、受精処置直後、つまりタイムラプス胚培養装置50に収容された直後は10分未満のもっと頻度の高いインターバルで行ない、時間が経過するにつれて、間隔を空けて行なうようにしてもよい。撮像のスケジュールは、トレイ毎に個別に設定してもよいし、全て同じスケジュールで撮像するものとしてもよい。本実施形態では、トレイ63,64毎にカメラ61,62が用意されているので、各トレイを撮像するタイミングを自由に設定することができる。もとより、トレイの数より少ない数、例えば一つのカメラを用意し、これをトレイに対して相対的に移動し、各トレイを順次撮像するようにしてもよい。この場合は、複数のトレイを同時に撮像するといったスケジュールは困難になるが、撮像自体にかかる時間はそれほど長くないので、撮像に要する時間程度の誤差を許容すれば、複数のトレイの撮像スケジュールを自由に設定するものとしても差し支えない。
【0055】
読込んだ撮像スケジュールに従って、撮像タイミングか否かの判断を行なう(ステップS740)。撮像タイミングでないと判断すれば、ステップS730に戻って撮像スケジュールの読込から処理を繰り返す。いずれかの時点で撮像タイミングになれば(ステップS740:「YES」)、カメラ61やカメラ62を駆動して、トレイ63やトレイ64の撮像を行なう(ステップS750)。撮像は、トレイを単位として行なわれるが、実際には、トレイに含まれる全てのディッシュDS一つに対して一つの画像、という形で行なわれる。従って、トレイに5つのディッシュDSが格納されていれば、5つの画像が作られる。撮像された画像は、自動的にストレージ57に保存される。
【0056】
こうして撮像が済むと、この撮像がそのトレイに対する初回の撮像であったかを判断する(ステップS760)。初回であると判断すれば、そのディッシュDSに格納された胚の動画像の最初の画像として登録し、患者管理サーバ20の動画DB38に保存する(ステップS770)。他方、撮像した画像が最初の画像でないと判断すれば、既に撮像されて編集された動画があるとして、これを動画DB38から読み出し(ステップS780)、既存の動画の末尾に、撮像した画像を付け加え、動画を更新する(ステップS790)。
【0057】
この際、新たに付加する画像は、それまでに編集済の画像に対して、0.1秒間継続する動画として付加される。撮像スケジュールが、例えば、10分おきに静止画像を撮像する、というものであれば、10分おきに撮像された静止画像が0.1秒ずつ継続する動画として編集される。仮に24時間撮像されていれば、
0.1秒×24時間×6枚/時間=14.4秒
の動画が、作られることになる。
【0058】
その後、撮像画像を追加した動画を動画DB38に保存する(ステップS800)。従って、患者管理サーバ20の動画DB38には、撮像スケジュールに従って、例えば10分おきに撮像された画像をコマ撮りした動画が、各患者の各ディッシュDS毎に作成され、保存されることになる。以上の処理、つまり初回の撮像時における画像登録(ステップS770)、または撮像された画像が追加された動画の保存(ステップS800)が完了すると、次に撮像スケジュールが完了したかを判断し(ステップS810)、完了していなければ、ステップS730に戻って、上述したステップS730ないしS810の処理を繰り返す。撮像スケジュールが完了すれば、「END」に抜けて、本撮像処理ルーチンを終了する。撮像スケジュールの完了は、本実施形態では、通常の胚培養期間が終了したとき、またはタイムラプス胚培養装置50からトレイが取り出されたとき、のいずれかである。
【0059】
E.動画閲覧処理:
以上説明した処理により、タイムラプス胚培養装置50がトレイの撮像を行ない、患者のディッシュDS毎に動画を作成すると、患者は、これを携帯端末70のアプリケーション80から視聴することができる。この処理について、図9を用いて説明する。図9の左側は、携帯端末70のアプリケーション80が実行する画像表示処理ルーチンを、右側は患者管理サーバ20側が実行する動画配信処理ルーチンを、それぞれ示す。
【0060】
携帯端末70のアプリケーション80を起動した患者は、図6に示した画面において、画面下側に並んだボタンのうち、動画ボタンSVをタップすると、アプリケーション80は、患者管理サーバ20に対して、患者の動画一覧を要求する(ステップS300)。このとき、アプリケーション80は、患者の診察券番号やパスワードを暗号化して送信する。患者管理サーバ20は、この要求を受け付けると、患者の氏名、診察券番号、パスワードから、患者が、胚の動画を視聴する権利を有するものであるか否かを、患者DB37を参照することで認証する(ステップS305)。なお、認証は、診察券番号とバスワードにより行なってもよい。患者が認証されると、診察券番号を用いて、患者動画を検索する(ステップS310)。採卵された患者の卵子が胚培養装置50に収容されていれば、診察券番号で検索すると、対応する複数のディッシュDSの動画が見つかるので、患者管理サーバ20は、この動画一覧を暗号化して送信する(ステップS320)。認証ができなければ(ステップS305:「NO」)、何も行なわず、「END」に抜けて処理を終了する。
【0061】
患者管理サーバ20が、動画一覧を暗号化して送信すると(ステップS320)、携帯端末70のアプリケーション80は、これを受信し、動画一覧を、携帯端末70のディスプレイに表示する(ステップS330)。この表示の一例を図10に示した。図10では、患者の移植胚のタイムラプス動画として、3の動画があることが、一覧表示エリアD300に表示されている。もとより、動画の数がもっと多ければ、スクロールバーが表示され、4つ目以上の動画を一覧することができる。一覧表示エリアD300の下には、患者が視聴可能な説明動画の一覧が表示されている。この説明動画は、患者が不妊治療において参考になる情報を動画形式でまとめたものである。患者は、採卵周期が始まったときや、採卵の前に、注意すべき点などを、説明動画により容易に知る事ができる。
【0062】
移植胚タイムラプス動画として一覧表示された各動画については、サムネイルVS1、VS2、VS3と書誌情報VI1、VI2、VI3が表示される。書誌情報VI1、VI2、VI3には、胚番号、成長段階、採卵日、最新撮影日時、閲覧期限などが含まれる。胚番号は、受精処置された胚が収納されたディッシュDSの番号である。成長段階は、受精後の成長段階1から6のいずれかを示す。成長段階は、撮像された画像を診て、胚培養士が付与する。
【0063】
一覧表示エリアD300に表示可能な動画の一覧を表示した状態で、アプリケーション80は、動画のいずれかが選択されたか判断している(ステップS340)。一覧表示された動画のサムネイルVS1、VS2、VS3のいずれかを患者がタップすると、アプリケーション80は、選択画面において、タップされた動画が選択されたと判断し、患者が選択した動画の転送を、患者管理サーバ20に対して要求する(ステップS350)。アプリケーション80からの要求を受けた患者管理サーバ20は、要求された動画を配信する(ステップS360)。このとき、患者管理サーバ20は、動画を暗号化してストリーミングする。
【0064】
アプリケーション80は、暗号化された動画を受信処理し(ステップS370)、動画を復号して携帯端末70のディスプレイに表示する再生処理(ステップS380)を行なう。再生が終了すると、「END」に抜けて、一旦上記の処理を終了するが、他のボタンが押されていなければ、患者動画の一覧を要求する処理(ステップS300)から上述した処理を繰り返す。患者動画の一覧要求から再度実行するのは、撮像スケジュールに従い、新たな画像が撮像され、動画が更新される可能性があるからである。なお、本実施形態では、動画を送信する際には、暗号化を行なってセキュリティを確保したが、アプリケーション80が患者管理サーバ20との間にVPN(Virtual Private Network)、つまり仮想専用線を構成し、VPNを介して、動画を送信するようにしてもよい。
【0065】
以上説明した第1実施形態によれば、不妊治療を受けている患者は、自分の胚の状況を、いつでも動画として確認することができる。動画は、実時間(リアルタイム)で録画されたものではなく、時間を圧縮したコマ撮りの動画であるが、コマ撮りであるために、受精処置された胚の生育の状況を、短時間でリアルに認識することができる。胚培養装置内で培養されている胚の状況が、患者から、いつでも確認できることは、本来は体内で進行する排卵・受精・卵割といった進行を、不妊治療が外部で行なうために生じる不安感を解消し、患者の不妊治療の精神的な側面のサポートに資する。培養されている胚の状況、特にその成長の状況を「見る」ことで、外部化された不妊治療が患者にとって内部化される、ということができる。こうした胚培養の患者にとっての内部化は、不妊治療が、妊娠・出産・育児へと続く一連のプロセスの入り口に位置するため、極めて重要である。
【0066】
また、本実施形態では、こうした胚培養の経過を示す動画を僅かな遅れはあるもののほぼリアルタイムで提供する。従って、患者は、あたかも胚の成長に立ち会っている感覚を味わうことができる。このため、患者は、コマ撮りされた動画を見ることで感覚的に理解された成長する胚を、移植後に育てて行くという妊娠初期のイメージを明確に持つことができる。患者は、第2期ホルモン補充治療による身体の準備と共に、培養され成長している胚の動画を見ることにより気持ちの準備を行なって、胚移植を迎えることになる。
【0067】
更に、本実施形態では、複数のディッシュDSのそれぞれに格納された胚の全ての状況を、コマ撮りの動画として見ることができる。このため、患者に関する情報が、患者に対して隠されず、オープンにされていることを実感できる。この結果、不妊治療を受ける患者と不妊治療を行なう側との間の信頼関係が強化される。強い信頼関係は、あらゆる治療の土台であるが、不妊治療のように個人差が大きく、成就までに時間のかかる治療において、こうした正しい情報に基づく強い信頼関係は、特に必要不可欠である。全ての胚の動画の提供は、こうした信頼関係の強化に役立つ。
【0068】
しかも、本実施形態では、二次元バーコードを利用して手軽に登録できるアプリケーション80を用いて、携帯端末70により、動画を見ることができるだけでなく、患者の氏名、診察券番号、パスワードの組み合わせや、情報の暗号化といった手法で、動画が、権利のない第三者に流出することを防止している。また、動画はストリーミングによる再生であって、携帯端末70内に保存されないから、携帯端末70内に保存された動画が流出するということもない。
【0069】
F.他の実施形態:
上記の実施形態では、動画を配信したが、培養中の胚の画像の配信は、動画に限られず、静止画像の配信であっても差し支えない。静止画像であっても、培養中の胚の複数の画像が配信されれば、患者は、動画と同様に、胚の成長等について理解し、感じることができる。画像には、撮像時間が記載されていれば、胚の成長を実感しやすく、更に望ましい。また、上記実施形態では、コマ撮りにより動画を生成したが、カメラ61,62等をビデオカメラとし、直接動画を撮像するものとしてもよい。動画は連続して撮像するものとしてもよいし、所定のインターバルで動画を撮像し、これを繋いで1つの動画としてもよい。あるいは、撮像した動画から、駒落としにより、全体の長さ(再生時間)を短くした動画を作り、これを配信してもよい。動画は、受精処置後の胚培養中に限らず、融解後の胚の動画であっても差し支えない。
【0070】
上記実施形態では、動画の一覧表示画面D300には、採卵日、最新撮像日時、閲覧期限を表示したが、これに限らず、例えば動画として編集された画像の最初の撮像日時、最後の撮像日時、動画として配信可能となった日時、配信終了日時などを表示してもよい。また、これらの日時は、一覧表示画面D300に表示してもよい、動画の内部、例えば動画の始まりや終了の少なくとも一方における動画内に直接表示してもよい。
【0071】
また、アプリケーション80は、予約やお知らせなど、他の機能も備えていたが、胚の静止画像や動画などを配信する専用のアプリケーションとして実現してもよい。更に、画像のリクエストと画像の配信とを、別々のアプリケーションにより実現してもよい。画像の配信を要求したあと、患者管理サーバ20が画像、例えばコマ撮りの動画の配信を準備し、動画が整った時点で、患者管理サーバ20側から動画の配信を、メールなどで連絡し、患者がメールに記載されたURLをクリックすることで、動画のストリーミングが行なわれるようにしてもよい。こうすれば、専用のアプリケーションを使用せず、ブラウザなどで動画を配信することができる。しかも、毎回動画を再生するためのURLは異なるので、動画配信の秘匿性を一層高めることができる。また、こうすれば、リクエストがあってから動画の準備をすれば良いので、動画編集のための負荷を減らすことができる。撮像する度に動画を編集して準備する場合と比べて、動画DB38の容量の低減も可能となる。また、上記実施形態では患者および患者の卵や胚の管理に、2次元バーコードやこれを印刷したラベルなどを利用したが、バーコードやラベルなどの利用はなくても良いし、いずれか一方だけを利用してもよい。ラベルに代えて、RFIDといった電子タグを採用してもよい。
【0072】
上記各実施形態において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよい。ソフトウェアによって実現されていた構成の少なくとも一部は、ディスクリートな回路構成により実現することも可能である。また、本開示の機能の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータプログラム)は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスクやCD-ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスク等のコンピュータに固定されている外部記憶装置も含んでいる。すなわち、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、データパケットを一時的ではなく固定可能な任意の記録媒体を含む広い意味を有している。
【0073】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、胚画像の配信方法として実施してもよく、そのためのプログラムとして実施してもよい。あるいは、培養中の胚を管理する管理装置として実施してもよい。管理装置として実施する場合には、CPU21が患者情報を患者DB37に登録する処理が患者情報登録部に相当し、胚培養装置50において画像をストレージ57に記憶する際に患者の診察券番号と紐付けて記憶させる処理が、患者情報付与部に相当する。また、アプリケーションからの動画要求を受け付ける処理が受付部に相当し、認証処理(ステップS305)が認証部に相当し、要求された動画を携帯端末に送信する処理が送信制御部に相当する。また、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0074】
10…胚画像配信システム、20…患者管理サーバ、21…CPU、22…通信部、30…メモリ、31…認証部、32…画像表示部、33…パスワード記憶部、34…成長段階記憶部、35…ストレージ、37…患者DB、38…動画DB、40…印刷部、45…ラベルプリンタ、47…診察券、ラベル、50…タイムラプス胚培養装置、51…CPU、52…メモリ、53…通信部、55…画像編集部、57…ストレージ、58…画像入力部、61,62…カメラ、63,64…トレイ、65…ラベル貼付台、70…携帯端末、71…CPU、72…表示制御部、73…入力部、74…通信部、75…メモリ、77…ストレージ、80…アプリケーション、82…患者情報、DS…ディッシュ、LAN…ローカルエリアネットワーク、SH…ホームボタン、SI…通知ボタン、SR…予約ボタン、SS…設定ボタン、SV…動画ボタン、VI1~VI3…書誌情報、VS1~VS3…サムネイル、WAN…広域ネットワーク
図1
図2
図3
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