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特許7148572リチウムイオン電池用電極の製造装置及びリチウムイオン電池用電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用電極の製造装置及びリチウムイオン電池用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20220928BHJP
【FI】
H01M4/139
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020120773
(22)【出願日】2020-07-14
(65)【公開番号】P2022017924
(43)【公開日】2022-01-26
【審査請求日】2022-04-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】横山 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】今石 高寛
(72)【発明者】
【氏名】森實 仁晃
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-125872(JP,A)
【文献】特開2015-109256(JP,A)
【文献】特開平11-003709(JP,A)
【文献】特開2010-244930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/139
H01M10/052、10/0585
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質粒子を含む電極組成物と、前記電極組成物の周囲を囲むように環状に配置される枠状部材とからなるリチウムイオン電池用電極材を基板上に配置する配置部と、
前記リチウムイオン電池用電極材を前記基板ごと減圧包装して前記電極組成物を前記枠状部材及び包装材によって固定する真空包装部と、
前記枠状部材及び前記包装材により固定された前記電極組成物をロールプレスする加圧成形部と、
を備えることを特徴とするリチウムイオン電池用電極の製造装置。
【請求項2】
前記基板が、電極集電体である請求項1に記載のリチウムイオン電池用電極の製造装置。
【請求項3】
前記加圧成形部は一対のローラを含み、前記一対のローラの間隔は、前記電極活物質粒子の体積平均粒子径の3倍以上である請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用電極の製造装置。
【請求項4】
電極活物質粒子を含む電極組成物と、前記電極組成物の周囲を囲むように環状に配置される枠状部材とからなるリチウムイオン電池用電極材を基板上に配置する配置工程と、
前記リチウムイオン電池用電極材を前記基板ごと減圧包装して前記電極組成物を前記枠状部材及び包装材によって固定する真空包装工程と、
前記枠状部材及び前記包装材により固定された前記電極組成物をロールプレスすることで、前記電極組成物を加圧成形する加圧成形工程と、を備えることを特徴とするリチウムイオン電池用電極の製造方法。
【請求項5】
前記基板が、電極集電体である請求項4に記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法。
【請求項6】
前記加圧成形工程でロールプレスに用いる一対のローラの間隔は、前記電極活物質粒子の体積平均粒子径の3倍以上である請求項4又は5に記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法。
【請求項7】
前記電極活物質粒子の平均粒子径は、5~200μmである請求項4~6のいずれかに記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用電極の製造装置及びリチウムイオン電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護のため二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が鋭意行われている。二次電池としては、高エネルギー密度、高出力密度が達成できるリチウムイオン電池(リチウムイオン二次電池ともいう)に注目が集まっている。
【0003】
このようなリチウムイオン電池を製造する方法として、一般的には、電極活物質をバインダ及び溶媒と混合したスラリーを基材上に塗布し、脱溶媒した後に圧縮する方法が挙げられる。しかしながら、このような方法では脱溶媒に多くの時間とエネルギーを要してしまうという課題があった。また、溶媒は一般的に非水電解液であるため、大気汚染を防止する観点から溶媒回収機構が必要になるなど、製造コストの抑制が困難であった。
【0004】
一方、リチウムイオン電池を製造する方法として、ロールプレスを用いて電極活物質を圧縮成形する方法も検討されている(例えば、特許文献1及び2)。ロールプレスを用いて電極活物質を圧縮成形することで、脱溶媒に係る時間及びエネルギーを抑制することができる。
【0005】
また、特許文献1には、一対のロールと端部整流部材とで囲まれた領域に電極活物質及び結着剤を含んでなる電極材料粉末を供給し、一対のロールと端部整流部材とで囲まれた領域において供給された電極材料粉末を加圧成形することで電極層を製造する方法が開示されている。
【0006】
例えば、特許文献2には、電極活物質、バインダ及び水を含む造粒体を一対のロール間に供給し、造粒体を一対のロールで圧縮成形することにより、電極合材層を形成する工程と、電極合材層を電極集電体上に配置する工程と、を備える電極の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5772429号
【文献】特開2018-85182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、MD方向に連続した電極層しか作製できないため、リチウムイオン電池用の電極として用いるためには、電極層をさらに加工する必要があり、この加工の際に電極層に割れや欠けが発生するなどの不良がおこりやすかった。
【0009】
さらに、特許文献1及び2に記載の方法はいずれも、電極活物質を粉体のままロールプレスにかけるため、電極活物質粉末と共に空気がロールに巻き込まれて圧縮されてしまい、圧縮された空気が噴出することによって電極形状が崩れてしまうという問題があった。
この問題は、ロールの回転速度を上げた際に特に顕著であり、生産速度の向上が難しいという課題もあった。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、電極層の割れや欠けの発生を抑えると共に、ロールの回転速度を上げた場合であっても成形不良を起こしにくいリチウムイオン電池用電極の製造方法及びその製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、電極活物質粒子を含む電極組成物と、上記電極組成物の周囲を囲むように環状に配置される枠状部材とからなるリチウムイオン電池用電極材を基板上に配置する配置部と、上記リチウムイオン電池用電極材を上記基板ごと真空包装して真空パッケージを得る真空包装部と、上記真空パッケージをロールプレスする一対のローラを含む加圧成形部と、を備えることを特徴とするリチウムイオン電池用電極の製造装置、及び、電極活物質粒子を含む電極組成物と、上記電極組成物の周囲を囲むように環状に配置される枠状部材とからなるリチウムイオン電池用電極材を基板上に配置する配置工程と、上記リチウムイオン電池用電極材を上記基板ごと真空包装して真空パッケージを得る真空包装工程と、上記真空パッケージを加圧することで、上記電極組成物を加圧成形する加圧成形工程と、を備えることを特徴とするリチウムイオン電池用電極の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、電極層の割れや欠けの発生を抑えると共に、ロールの回転速度を上げた場合であっても成形不良を起こしにくいリチウムイオン電池用電極の製造方法及びその製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、配置工程の一例を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、配置工程の一例を模式的に示す斜視図である。
図3図3は、真空包装工程の一例を模式的に示す斜視図である。
図4図4は、真空包装工程の一例を模式的に示す斜視図である。
図5図5は、加圧成形工程の一例を模式的に示す断面図である。
図6図6は、リチウムイオン電池用電極の一例を模式的に示す斜視図である。
図7図7は、リチウムイオン電池用電極材の別の一例の層構成を模式的に示す斜視図である。
図8図8は、リチウムイオン電池用電極材のさらに別の一例の層構成を模式的に示す斜視図である。
図9図9は、実施例1に係るリチウムイオン電池用電極材の加圧成形工程後の写真である。
図10図10は、実施例2に係るリチウムイオン電池用電極材の加圧成形工程後の写真である。
図11図11は、比較例1に係るリチウムイオン電池用電極材の加圧成形工程後の写真である。
図12図12は、比較例2に係るリチウムイオン電池用電極材の加圧成形工程後の写真である。
図13図13は、比較例3に係るリチウムイオン電池用電極材の加圧成形工程後の写真である。
図14図14は、比較例4に係るリチウムイオン電池用電極材の加圧成形工程後の写真である。
図15図15は、比較例5に係るリチウムイオン電池用電極材の加圧成形工程後の写真である。
図16図16は、比較例6に係るリチウムイオン電池用電極材の加圧成形工程後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において、リチウムイオン電池と記載する場合、リチウムイオン二次電池も含む概念とする。
【0015】
[リチウムイオン電池用電極の製造装置]
リチウムイオン電池用電極の製造装置は、電極活物質粒子を含む電極組成物と、上記電極組成物の周囲を囲むように環状に配置される枠状部材とからなるリチウムイオン電池用電極材を基板上に配置する配置部と、上記リチウムイオン電池用電極材を上記基板ごと真空包装して真空パッケージを得る真空包装部と、上記真空パッケージをロールプレスする一対のローラを含む加圧成形部と、を備える。
【0016】
上記リチウムイオン電池用電極の製造装置を用いると、以下に示すリチウムイオン電池用電極の製造方法を容易に実施することができる。
【0017】
[リチウムイオン電池用電極の製造方法]
リチウムイオン電池用電極の製造方法は、電極活物質粒子を含む電極組成物と、上記電極組成物の周囲を囲むように環状に配置される枠状部材とからなるリチウムイオン電池用電極材を基板上に配置する配置工程と、上記リチウムイオン電池用電極材を上記基板ごと真空包装して真空パッケージを得る真空包装工程と、上記真空パッケージを加圧することで、上記電極組成物を加圧成形する加圧成形工程と、を備える。
【0018】
上記リチウムイオン電池用電極の製造方法では、電極活物質粒子を含む電極組成物を、基板及び枠状部材とともに真空包装して真空パッケージを得て、この真空パッケージを加圧する。枠状部材が電極組成物を囲むように配置されているため、加圧成形工程後の電極組成物の形状は枠状部材の内形に対応する。そのため、枠状部材の形状を調整することによって、加圧成形後の電極組成物の加工が不要になり、割れや欠けを防止することができる。
さらに、包装材内は真空となるため、圧縮された空気が開放されることによる電極組成物の崩れも生じにくい。そのため、ロールの回転速度を上げた場合であっても成形不良を起こしにくい。
【0019】
続いて、上記リチウムイオン電池用電極の製造装置を用いて上記リチウムイオン電池用電極の製造方法を実施する例を説明する。ただし、上記リチウムイオン電池用電極の製造方法は、上記リチウムイオン電池用電極の製造装置を用いなくても実施することができる。
【0020】
まず、リチウムイオン電池用電極材の製造方法を構成する各工程を説明する。
【0021】
[配置工程]
配置工程では、リチウムイオン電池用電極材を基板上に配置する。
リチウムイオン電池用電極の製造装置を用いる場合、配置部によって配置工程が実施される。
【0022】
図1及び図2は、配置工程の一例を模式的に示す斜視図である。
まず、図1に示すように、基板10上に枠状部材20を配置する。
続いて、図2に示すように、基板10上の、枠状部材20の内側の空間に電極活物質粒子を含む電極組成物30を配置する。上記手順により、枠状部材20と電極組成物30からなるリチウムイオン電池用電極材1’を基板10上に配置することができる。
基板10上に枠状部材20を配置するための手段、及び、枠状部材20の内側の空間に電極組成物30を配置する手段が、リチウムイオン電池用電極の製造装置における配置部である。
【0023】
配置部の例としては、予め所定形状に成形した枠状部材を基板上に載置する載置機構と、基板上に載置された枠状部材の内側に電極組成物を供給する電極組成物供給機構の組み合わせが挙げられる。
【0024】
配置工程において、電極組成物及び枠状部材を基板上に配置する順序は特に限定されないが、基板上にまず枠状部材を配置し、続いて、枠状部材の内側に電極組成物を配置することが好ましい。
【0025】
枠状部材を基板上に配置する方法は特に限定されず、予め所定形状に成形した枠状部材を基板上に載置する方法や、所定の操作によって枠状部材となる枠状部材前駆体を基板上に付与し、基板上で枠状部材を形成する方法等が挙げられる。所定の操作とは、例えば、加熱や光照射等が挙げられる。
【0026】
[真空包装工程]
真空包装工程では、配置工程において基板上に配置されたリチウムイオン電池用電極材を、基板ごと真空包装して真空パッケージを得る。
なお、本明細書における真空とは、大気圧を基準としたゲージ圧が-50kPa以下の真空度を指す。
リチウムイオン電池用電極の製造装置を用いる場合、真空包装部によって真空包装工程が実施される。
【0027】
図3及び図4は、真空包装工程の一例を模式的に示す斜視図である。
図3に示すように、基板10上に配置されたリチウムイオン電池用電極材1’を基板ごと、開口部41を有する袋状の包装材40に収容した後、開口部41を通じて包装材40内を減圧しながらヒートシールすることで、リチウムイオン電池用電極材1’を基板10ごと真空包装して、図4に示す真空パッケージ5を得る。
【0028】
リチウムイオン電池用電極の製造装置を用いて図3及び図4に示す工程を実施する場合、リチウムイオン電池用電極材を基板ごと、開口部を有する袋状の包装材に収容する収容機構と、開口部を通じて包装材を減圧する減圧機構と、包装材をヒートシールする熱封止機構との組み合わせが、真空包装部となる。
【0029】
包装材の形状及び材質は、リチウムイオン電池用電極材の形状及び減圧方法などに応じて適宜設定すればよい。
例えば、2枚のフィルム状の包装材でリチウムイオン電池用電極材及び基板を挟んだ状態で、3辺をヒートシールし、残った1辺から包装材内の空気を除去し、最後にヒートシールする方法であっても、真空パッケージを製造することができる。
【0030】
包装材を構成する材料は特に限定されないが、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0031】
真空包装工程において得られる真空パッケージの真空度は、-70kPa以下であることが好ましく、-80kPa以下であることがより好ましい。
真空パッケージの真空度が-70kPaを超える場合には、真空パッケージに外部から加わる力(大気圧)が充分ではなく、後述する加圧成形工程において、電極組成物が枠状部材の外側に流れ出てしまう場合がある。すなわち、真空包装部の到達可能真空度は、-70kPa以下であることが好ましい。
【0032】
真空包装工程において真空が必要とされる部分は、包装材内部の僅かな空間である。従って、加圧成形装置全体を減圧するのに要する時間よりも短い時間で真空パッケージを作製することができる。
【0033】
[加圧成形工程]
加圧成形工程では、真空包装工程によって得られた真空パッケージを一対のローラによりロールプレスする。
リチウムイオン電池用電極の製造装置を用いた場合、加圧成形部である一対のローラによって加圧成形工程が実施される。
【0034】
真空パッケージにおいて、電極組成物は、枠状部材と包装材によって固定されている。そのため、電極組成物に圧力が加わっても電極組成物が流れ出すことがない。枠状部材が電極組成物を囲むように配置されているため、加圧成形工程後の電極組成物の形状は枠状部材の内形に対応する。そのため、枠状部材の形状を調整することによって、加圧成形後の電極組成物の加工が不要になり、割れや欠けを防止することができる。さらに、包装材内は真空となるため、圧縮された空気が開放されることによる電極組成物の崩れも生じにくい。そのため、ロールの回転速度を上げた場合であっても成形不良を起こしにくい。
【0035】
図5は、加圧成形工程の一例を模式的に示す断面図であり、図6は、リチウムイオン電池用電極の一例を模式的に示す斜視図である。
図5に示すように、プレスロール50の間に真空パッケージ5を通過させることによって真空パッケージ5を加圧し、電極組成物30を加圧成形する。加圧された真空パッケージ5から包装材40を除去することにより、図6に示すような、成形された電極組成物35と枠状部材20からなるリチウムイオン電池用電極1を基板10上に得ることができる。
【0036】
なお、配置工程において用いられる基板が電極集電体である場合には、電極組成物が電極集電体と接続されたリチウムイオン電池用電極を得ることができる。
【0037】
真空パッケージを加圧成形する方法は特に限定されず、平面プレスであってもロールプレスであってもよいが、一対のローラによりロールプレスすることが好ましい。
一対のローラの間隔は、ローラが枠状部材の始端に乗り上げる際に瞬間的に発生する強烈なプレス力の立ち上がりを緩和する観点から、電極活物質粒子の体積平均粒子径の3倍以上であることが好ましい。また、一対のローラの間隔は、20mm以下であることが好ましい。
【0038】
加圧成形工程において、リチウムイオン電池用電極材を加熱してもよい。
基板が電極集電体である場合、リチウムイオン電池用電極から基板を分離する必要がない。従って、加圧成形工程においてリチウムイオン電池用電極材を加熱することによって、枠状部材と電極集電体となる基板とを接着することができる。
【0039】
加熱温度は、枠状部材を構成する樹脂の融点以上、真空パッケージを構成する包装材に悪影響となる温度未満であることが好ましい。
【0040】
加圧成形工程は連続的に行ってもよく、間欠的に行ってもよい。
加圧成形工程を間欠的に行う場合には、基板の搬送を一旦止めて、真空パッケージが搬送されていない状態で真空パッケージを加圧し、圧力を開放した後に、真空パッケージの搬送を再開してもよい。
なお、真空パッケージを経由せず、加圧成形部自体を減圧する方法は、本発明のリチウムイオン電池用電極の製造方法における真空包装工程及び加圧成形工程に該当しない。
【0041】
上述の工程により、リチウムイオン電池用電極が製造される。
得られたリチウムイオン電池用電極は包装材内に収容されており、包装材内の空間が真空となっているため、電極組成物が水分と接触して劣化することを抑制することができる。また、包装材内の空間が真空となっているため、大気圧により電極組成物が固定されており、振動によって電極組成物が流動することを抑制することができる。
以上のことから、本発明のリチウムイオン電池用電極の製造方法は、保存性、運搬性に優れたリチウムイオン電池用電極を製造することができる。
【0042】
上記リチウムイオン電池用電極の製造方法により製造されたリチウムイオン電池用電極を用いてリチウムイオン電池を製造する場合、例えば、真空パッケージから包装材及び基材を除去した後、セパレータを介して対極となる電極と組み合わせて、電極組成物に電極集電体を接続し、電極組成物及びセパレータに必要に応じて電解液を添加し、電池外装体に収容することで、リチウムイオン電池を製造することができる。
なお、リチウムイオン電池用電極材を製造する際に用いられる基板が電極集電体である場合、該基材を除去しないことにより、電極組成物に電極集電体を接続する工程を省略することができる。
【0043】
続いて、配置工程において用いられる電極組成物、枠状部材、基板について説明する。
【0044】
電極組成物の厚さは特に限定されないが、枠状部材の厚さ以上であることが好ましい。
枠状部材の厚さに対する電極組成物の厚さの割合は、100%~200%であることが好ましく、100~150%であることが好ましく、110~130%であることがより好ましい。
枠状部材が変形しにくい場合に、枠状部材の厚さに対する電極組成物の厚さの割合が100%未満であると、後述する加圧成形工程において、電極組成物を充分に加圧成形できない場合がある。
【0045】
枠状部材の厚さに対する電極組成物の割合が100%を超える場合、枠状部材から電極組成物がはみ出すこととなる。電極組成物は真空包装工程において包装材内に固定されるため、枠状部材からの電極組成物のはみだしは、加圧成形工程において問題とはならない。
【0046】
枠状部材は、融点が75~90℃のポリオレフィンを含むことが好ましい。
【0047】
融点が75~90℃のポリオレフィンは、分子内に極性基を有するものであってもよく、極性基を有しないものであってもよい。
極性基としては、ヒドロキシ基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、ホルミル基(-CHO)、カルボニル基(=CO)、アミノ基(-NH)、チオール基(-SH)、1,3-ジオキソ-3-オキシプロピレン基等が挙げられる。
ポリオレフィンが極性基を有しているかどうかは、ポリオレフィンをフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)や核磁気共鳴分光法(NMR)で分析することにより確認することができる。
【0048】
融点が75~90℃のポリオレフィンとしては、東ソー(株)製 メルセン(登録商標)G(融点:77℃)や三井化学(株)製 アドマーXE070(融点:84℃)等が挙げられる。
東ソー(株)製 メルセン(登録商標)Gは極性基を有する樹脂の例であり、三井化学(株)製 アドマーXE070は極性基を有しない樹脂の例である。
【0049】
枠状部材は、融点が75~90℃のポリオレフィンに加えて、非導電性フィラーを含有していてもよい。
非導電性フィラーとしては、ガラス繊維等の無機繊維及びシリカ粒子等の無機粒子が挙げられる。
【0050】
枠状部材の一部は、耐熱性環状支持部材で構成されていてもよい。
枠状部材の一部が耐熱性環状支持部材で構成されていると、枠状部材の機械的強度及び耐熱性を向上させることができる。
【0051】
耐熱性環状支持部材は電極集電体及びセパレータとの接着性が低いため、耐熱性環状支持部材は、枠状部材の厚さ方向の中央部に配置されることが好ましい。
この場合、平面視形状が互いに同一の、融点が75~90℃のポリオレフィンを含む層、耐熱性環状支持部材、融点が75~90℃のポリオレフィンを含む層が、基板側からこの順で配置されることが好ましい。上記構成であると、枠状部材に機械的強度及び耐熱性を付与しつつ、電極集電体及びセパレータとの接着性を高めることができる。
【0052】
耐熱性環状支持部材は、溶融温度が150℃以上である耐熱性樹脂組成物を含んでいることが望ましく、溶融温度が200℃以上である耐熱性樹脂組成物を含んでいることがより望ましい。
耐熱性環状支持部材が、溶融温度が150℃以上である耐熱性樹脂組成物を含むことで、枠状部材が熱に対してより変形しにくくなる。
耐熱性樹脂組成物の溶融温度(単に融点ともいう)は、JIS K7121-1987に準拠して示差走査熱量測定によって測定される。
【0053】
耐熱性樹脂組成物を構成する樹脂としては、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂及びポリイミド等)、エンジニアリング樹脂[ポリアミド(ナイロン6 溶融温度:約230℃、ナイロン66 溶融温度:約270℃等)、ポリカーボネート(PCともいう 溶融温度:約150℃)及びポリエーテルエーテルケトン(PEEKともいう 溶融温度:約330℃)等]及び高融点熱可塑性樹脂{ポリエチレンテレフタレート(PETともいう 溶融温度:約250℃)、ポリエチレンナフタレート(PENともいう 溶融温度:約260℃)及び高融点ポリプロピレン(溶融温度:約160~170℃)等}等が挙げられる。
なお、高融点熱可塑性樹脂とは、JIS K7121-1987に準拠して示差走査熱量測定によって測定される溶融温度が150℃以上の熱可塑性樹脂を指す。
【0054】
耐熱性樹脂組成物は、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、高融点ポリプロピレン、ポリカーボネート及びポリエーテルエーテルケトンからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含むことが望ましい。
【0055】
耐熱性樹脂組成物はフィラーを含んでいてもよい。
耐熱性樹脂組成物がフィラーを含むことで、溶融温度を向上させることができる。
上記フィラーとしては、ガラス繊維等の無機フィラー及び炭素繊維等が挙げられる。
フィラーを含む耐熱性樹脂組成物としては、ガラス繊維に硬化前のエポキシ樹脂を含浸させて硬化させたもの(ガラスエポキシともいう)及び炭素繊維強化樹脂などが挙げられる。
【0056】
枠状部材を上面視した際の、外形形状と内形形状との間の距離を枠状部材の幅ともいう。
枠状部材の幅は特に限定されないが、3~20mmであることが好ましい。
枠状部材の幅が3mm未満であると、枠状部材の機械的強度が不足して、電極組成物が枠状部材の外へ漏れてしまう場合がある。一方、枠状部材の幅が20mmを超えると、電極組成物の占める割合が減少してしまい、エネルギー密度が低下してしまう場合がある。
【0057】
枠状部材の厚さは特に限定されないが、0.1~10mmであることが望ましい。
【0058】
電極活物質粒子は、正極活物質粒子又は負極活物質粒子が挙げられる。
電極活物質粒子として正極活物質粒子を用いた電極組成物を正極組成物ともいい、電極活物質粒子として負極活物質粒子を用いた電極組成物を負極組成物ともいう。
また、正極組成物の周囲を環状に囲む枠状部材を正極枠状部材ともいい、負極組成物の周囲を環状に囲む枠状部材を負極枠状部材ともいう。
【0059】
正極活物質粒子としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO、LiNiO、LiAlMnO、LiMnO及びLiMn等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO、LiNi1-xCo、LiMn1-yCo、LiNi1/3Co1/3Al1/3及びLiNi0.8Co0.15Al0.05)及び金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMM’M’’(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO、LiCoPO、LiMnPO及びLiNiPO)、遷移金属酸化物(例えばMnO及びV)、遷移金属硫化物(例えばMoS及びTiS)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等の粒子が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0060】
負極活物質粒子としては、炭素系材料[黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)及び炭素繊維等]、珪素系材料[珪素、酸化珪素(SiOx)、珪素-炭素複合体(炭素粒子の表面を珪素及び/又は炭化珪素で被覆したもの、珪素粒子又は酸化珪素粒子の表面を炭素及び/又は炭化珪素で被覆したもの並びに炭化珪素等)及び珪素合金(珪素-アルミニウム合金、珪素-リチウム合金、珪素-ニッケル合金、珪素-鉄合金、珪素-チタン合金、珪素-マンガン合金、珪素-銅合金及び珪素-スズ合金等)等]、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属(スズ、アルミニウム、ジルコニウム及びチタン等)、金属酸化物(チタン酸化物及びリチウム・チタン酸化物等)及び金属合金(例えばリチウム-スズ合金、リチウム-アルミニウム合金及びリチウム-アルミニウム-マンガン合金等)等及びこれらと炭素系材料との混合物等の粒子が挙げられる。
上記負極活物質粒子のうち、内部にリチウム又はリチウムイオンを含まないものについては、予め負極活物質粒子の一部又は全部にリチウム又はリチウムイオンを含ませるプレドープ処理を施してもよい。
【0061】
これらの中でも、電池容量等の観点から、炭素系材料、珪素系材料及びこれらの混合物が好ましく、炭素系材料としては、黒鉛、難黒鉛化性炭素及びアモルファス炭素がさらに好ましく、珪素系材料としては、酸化珪素及び珪素-炭素複合体がさらに好ましい。
【0062】
電極活物質粒子の平均粒子径は、5~200μmであることが好ましい。
電極活物質粒子の平均粒子径は、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)を意味する。マイクロトラック法とは、レーザー光を粒子に照射することによって得られる散乱光を利用して粒度分布を求める方法である。なお、体積平均粒子径の測定には、レーザー回折・散乱式の粒子径分布測定装置[マイクロトラック・ベル(株)製のマイクロトラック等]を用いることができる。
【0063】
電極活物質粒子は、その表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層により被覆された被覆活物質粒子であってもよい。
電極活物質粒子の周囲が被覆層で被覆されていると、電極の体積変化が緩和され、電極の膨張を抑制することができる。
なお、電極活物質粒子として正極活物質粒子を使用した場合の被覆活物質粒子を被覆正極活物質粒子といい、電極活物質粒子として負極活物質粒子を使用した場合の被覆活物質粒子を被覆負極活物質粒子という。
【0064】
被覆層を構成する高分子化合物(被覆用高分子化合物ともいう)としては、特開2017-054703号公報に非水系二次電池活物質被覆用樹脂として記載されたものを好適に用いることができる。
【0065】
被覆層は、必要に応じて、後述する導電助剤を含んでいてもよい。
【0066】
電極組成物に含まれる被覆用高分子化合物の重量割合は、電極組成物の重量を基準として、0.1~10重量%であることが好ましい。
電極組成物に含まれる被覆用高分子化合物の含有量が、電極組成物の重量を基準として0.1重量%未満であると、電極組成物に含まれる被覆用高分子化合物の含有量が少なすぎて、電極割れが生じたり、成形性が低下してしまうことがある。
一方、電極組成物に含まれる被覆用高分子化合物の含有量が、電極組成物の重量を基準として10重量%を超える場合には、電極組成物に含まれる被覆用高分子化合物の含有量が多すぎて、電気抵抗を増加させてしまうことがある。
【0067】
電極組成物に含まれる電極活物質粒子の重量割合は、電極組成物の重量を基準として70~95重量%であることが好ましい。
なお、電極活物質粒子が被覆活物質粒子である場合、被覆活物質粒子を構成する被覆層は、電極活物質粒子の重量に含めないものとする。
【0068】
電極組成物は、電極活物質粒子以外に、導電助剤、溶液乾燥型の公知の電極用バインダ(結着剤ともいう)及び粘着性樹脂を含有していてもよい。また、リチウムイオン電池の製造に用いられる非水電解液を構成する電解質や溶媒等を含有していてもよい。
ただし、電極組成物は、公知の電極用バインダを含有していないことが好ましい。
【0069】
導電助剤は、導電性を有する材料から選択される。
具体的には、金属[ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
これらの導電助剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物を用いてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、銅、チタン及びこれらの混合物であり、より好ましくは銀、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、さらに好ましくはカーボンである。またこれらの導電助剤としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料(上記した導電助剤の材料のうち金属のもの)をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0070】
導電助剤の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましく、0.02~5μmであることがより好ましく、0.03~1μmであることがさらに好ましい。なお、本明細書中において、「粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0071】
導電助剤の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電性材料として実用化されている形態であってもよい。
【0072】
導電助剤は、その形状が繊維状である導電性繊維であってもよい。
導電性繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物繊維の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。これらの導電性繊維の中では炭素繊維が好ましい。また、グラフェンを練りこんだポリプロピレン樹脂も好ましい。
導電助剤が導電性繊維である場合、その平均繊維径は0.1~20μmであることが好ましい。
【0073】
電極組成物に含まれる導電助剤の重量割合は、電極組成物の重量を基準として0~5重量%であることが好ましい。
【0074】
溶液乾燥型の公知の電極用バインダとしては、デンプン、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)等が挙げられる。
ただし、公知の電極用バインダの含有量は、電極組成物全体の重量を基準として、2.0重量%以下であることが好ましい。
【0075】
電極組成物に含まれる公知の電極用バインダの重量割合は、電極組成物の重量を基準として0~2重量%であることが好ましく、0~0.5重量%であることがより好ましい。
【0076】
電極組成物は、公知の電極用バインダではなく、粘着性樹脂を含むことが好ましい。
電極組成物が上記溶液乾燥型の公知の電極用バインダを含む場合には、圧縮成形体を形成した後に乾燥工程を行うことで一体化する必要があるが、粘着性樹脂を含む場合には、乾燥工程を行うことなく常温において僅かな圧力で電極組成物を一体化することができる。乾燥工程を行わない場合、加熱による圧縮成形体の収縮や亀裂の発生がおこらないため好ましい。
【0077】
なお、溶液乾燥型の電極用バインダは、溶媒成分を揮発させることで乾燥、固体化して電極活物質粒子同士を強固に固定するものを意味する。一方、粘着性樹脂は、粘着性(水、溶媒、熱等を使用せずに僅かな圧力を加えることで接着する性質)を有する樹脂を意味する。
溶液乾燥型の電極用バインダと粘着性樹脂とは異なる材料である。
【0078】
粘着性樹脂としては、被覆層を構成する高分子化合物(特開2017-054703号公報に記載された非水系二次電池活物質被覆用樹脂等)に少量の有機溶剤を混合してそのガラス転移温度を室温以下に調整したもの、及び、特開平10-255805公報等に粘着剤として記載されたものを好適に用いることができる。
【0079】
電極組成物に含まれる粘着性樹脂の重量割合は、電極組成物の重量を基準として0~2重量%であることが好ましい。
【0080】
電極組成物に含まれる樹脂成分(被覆用高分子化合物、電極用バインダ及び粘着性樹脂)の合計重量の割合は、0.1~10重量%であることが好ましい。
【0081】
電解質としては、公知の非水電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF及びLiClO等の無機酸のリチウム塩、LiN(CFSO、LiN(CSO及びLiC(CFSO等の有機酸のリチウム塩等が挙げられる。これらの内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのはLiPFである。
【0082】
溶媒としては、公知の非水電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状カーボネート、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン等及びこれらの混合物を用いることができる。
【0083】
配置工程において用いられる基板の種類は特に限定されないが、電極集電体であってもよい。なお、電極集電体以外にも、樹脂フィルムや金属箔などを基板として用いてもよい。
【0084】
電極集電体以外の基板を用いた場合には、基板とリチウムイオン電池用電極材との間に、電極集電体をさらに配置してもよい。
【0085】
電極集電体としては、正極集電体又は負極集電体が挙げられる。
【0086】
正極集電体を構成する材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子及び導電性ガラス等が挙げられる。また、正極集電体として、導電剤と樹脂からなる樹脂集電体を用いてもよい。
【0087】
負極集電体を構成する材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びこれらの合金等の金属材料等が挙げられる。なかでも、軽量化、耐食性、高導電性の観点から、好ましくは銅である。負極集電体としては、焼成炭素、導電性高分子及び導電性ガラス等からなる集電体であってもよく、導電剤と樹脂からなる樹脂集電体であってもよい。
【0088】
正極集電体、負極集電体とも、樹脂集電体を構成する導電剤としては、電極組成物に含まれる導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
樹脂集電体を構成する樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)及びポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、さらに好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
【0089】
基板の形状は特に限定されないが、枠状部材の平面視外形形状と同じか、枠状部材の外形形状と略相似で、枠状部材よりも少しだけ小さい形状であることが好ましい。
【0090】
[その他の実施形態]
上記リチウムイオン電池用電極の製造方法において、基板上に配置されるリチウムイオン電池用電極材は、2種類の電極組成物を有していてもよい。
2種類の電極組成物を有するリチウムイオン電池用電極材の例としては、第1の電極組成物粒子を含む第1の電極組成物と、第1の電極組成物の周囲を囲むように環状に配置される第1の枠状部材と、第1の電極組成物及び第1の枠状部材上に配置されるセパレータと、第1の電極組成物とセパレータを介して対向するように配置される第2の電極組成物粒子を含む第2の電極組成物と、第2の電極組成物の周囲を囲むように環状に配置される第2の枠状部材とを有するリチウムイオン電池用電極材が挙げられる。
【0091】
第1の電極活物質粒子及び第2の電極活物質粒子のいずれか一方が正極活物質粒子であり、他方が負極活物質粒子である。
【0092】
2種類の電極組成物を有するリチウムイオン電池用電極材の例を、図7及び図8を参照しながら説明する。
【0093】
図7は、リチウムイオン電池用電極材の別の一例の層構成を模式的に示す斜視図である。
図7に示すリチウムイオン電池用電極材2’は、基材10上に載置される正極組成物31と、正極組成物31の周囲を覆う正極枠状部材21と、セパレータ60と、正極組成物31とセパレータ60を介して対向する負極組成物33と、負極組成物33の周囲を覆う負極枠状部材23とからなる。
【0094】
リチウムイオン電池用電極材2’は、正極組成物31及び負極組成物33がセパレータ60を介して対向するように配置されている。従って、リチウムイオン電池用電極材2’を用いて製造されたリチウムイオン電池用電極をリチウムイオン電池の製造に用いる場合、対極と組み合わせる工程を省略することができる。
【0095】
図8は、リチウムイオン電池用電極材のさらに別の一例の層構成を模式的に示す斜視図である。
図8に示すリチウムイオン電池用電極材3’は、正極集電体71として機能する基材11上に載置される正極組成物31と、正極組成物31の周囲を覆う正極枠状部材21と、セパレータ60と、セパレータ60を介して正極組成物31と対向する負極組成物33と、負極組成物33の周囲を覆う負極枠状部材23と、負極組成物33上に載置される負極集電体73からなる。
【0096】
リチウムイオン電池用電極材3’は、正極組成物31及び負極組成物33がセパレータ60を介して対向するように配置されている。さらにリチウムイオン電池用電極材3’では、負極組成物33上に負極集電体73が配置されており、基板11が正極集電体71で構成されている。従って、リチウムイオン電池用電極材3’を用いて製造されたリチウムイオン電池用電極をリチウムイオン電池の製造に用いる場合、対極と組み合わせる工程、及び、電極集電体を電極組成物に接続する工程を省略することができる。
【0097】
正極枠状部材と負極枠状部材は、平面視において略同一形状であることが好ましい。
【実施例
【0098】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0099】
<製造例1:被覆用高分子化合物とその溶液の作製>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF407.9部を仕込み75℃に昇温した。次いで、メタクリル酸242.8部、メチルメタクリレート97.1部、2-エチルヘキシルメタクリレート242.8部、及びDMF116.5部を配合したモノマー配合液と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.7部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)4.7部をDMF58.3部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで80℃に昇温し反応を3時間継続し樹脂濃度50%の共重合体溶液を得た。これにDMFを789.8部加えて、樹脂固形分濃度30重量%である被覆用高分子化合物溶液を得た。
【0100】
<製造例2:電解液の作製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(FSOを1.0mol/Lの割合で溶解させて電解液を準備した。
【0101】
<製造例3:被覆正極活物質粒子の作製>
正極活物質粉末(LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末、体積平均粒子径4μm)93.7部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、製造例1で得られた被覆用高分子化合物溶液1部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]1部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆正極活物質粒子を得た。
【0102】
<製造例4:枠状部材の作製>
東ソー(株)製 メルセン(登録商標)G(融点:77℃)を押出成形によって厚さ150μmのフィルム状に成形し、内形が11mm×11mmの正方形、外形が15mm×15mmの正方形である環状形状に打ち抜いて、枠状部材を得た。
【0103】
<実施例1>
<配置工程>
製造例3で作製した被覆電極活物質粒子95部と導電助剤であるアセチレンブラック5部及び製造例2で作製した電解液30部を混合し、正極組成物を作製した。
基板となるSUS板(15mm×15mm、厚さ200μm)上に製造例4で製造した枠状部材を1つ載置し、枠状部材の内側に枠状部材の厚さと同じ厚さとなるように正極組成物を充填して、リチウムイオン電池用電極材を作製した。
【0104】
<真空包装工程>
リチウムイオン電池用電極材をPP製の包装材(20mm×25mm)内に収容し、ゲージ圧-95kPaとなるまで減圧して開口部をヒートシールし、真空パッケージを得た。
【0105】
<加圧成形工程>
一対のローラにより真空パッケージをロールプレスして、正極組成物を成形した。ロールの回転速度は、50mm/sとした。一対のローラの間隔は、320μmとした。
【0106】
<成形状態の評価>
加圧成形工程後の正極組成物の状態を目視で観察し、形状の乱れがないかを確認し、以下の基準で評価した。また、加圧成形工程後の正極組成物の状態を撮影した写真を図9に示す。図9は、実施例1に係るリチウムイオン電池用電極材の加圧成形工程後の写真である。
○:正極組成物の形状に乱れがみられない。
△:正極組成物が変形している。
×:正極組成物が噴き出した痕跡がみられ、正極組成物が大きく変形している。
【0107】
<実施例2、比較例1~6>
枠状部材の有無、真空包装工程における真空度及びロールの回転速度を表1に示すように変更して、実施例2及び比較例1~6に係るリチウムイオン電池用電極を製造し、正極組成物の状態を目視で観察した。結果を表1及び図10図16に示す。図10図16は、実施例2及び比較例1~6に係るリチウムイオン電池用電極材の加圧成形工程後の写真である。
なお、枠状部材を用いていない比較例3~6については、配置工程において、実施例1~2及び比較例1~2で用いた枠状部材と同じ寸法を有するPP製の枠を基板上に載置し、正極組成物を充填した後に枠を取り除くことにより、正極組成物の形状を実施例1~2及び比較例1~2と同一とした。
また、真空度が0kPaの比較例1~2及び5~6は、真空包装工程において、リチウムイオン電池用電極材を包装材内に収容した後、正極組成物の形状を変形させないように包装材を手で軽く押さえながら包装材内部の気体を排出して、ヒートシールを行った。
【0108】
<実施例3>
基板となるSUS板(15mm×15mm、厚さ200μm)上に製造例4で製造した枠状部材を2つ重ねて載置し、枠状部材の内側に正極組成物を充填した後、枠状部材を1つ取り除いて、リチウムイオン電池用電極材を作製したほかは、実施例1と同様の手順で実施例3に係るリチウムイオン電池用電極を作製し、成形状態を評価した。結果を表1に示す。包装材に収容する前の正極組成物の厚さは、枠状部材の厚さの200%であった。加圧成形工程で用いる一対のローラの間隔も、実施例1と同様とした。
【0109】
【表1】
【0110】
表1、図9及び図10に示すように、本発明のリチウムイオン電池用電極の製造方法により製造されたリチウムイオン電池用電極には、形状の乱れが確認できなかった。
一方、真空パッケージを作製したが枠状部材を用いなかった比較例3~4では、図13及び図14に示すように、正極組成物が変形していた。さらに、真空パッケージの真空度が0kPaである比較例1~2、5~6では、図11図12図15及び図16に示すように、枠状部材の有無に関わらず正極組成物が噴き出した痕跡がみられ、正極組成物が大きく変形していた。また、正極組成物の噴き出しは、ロールの回転速度が速いほど顕著であった。
以上より、本発明のリチウムイオン電池用電極の製造方法は、ロールの回転速度を上げた場合であっても成形不良を起こしにくいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のリチウムイオン電池用電極の製造方法及びその製造装置は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター及びハイブリッド自動車、電気自動車用等に用いられるリチウムイオン電池用電極を製造する方法及びその製造装置として有用である。
【符号の説明】
【0112】
1 リチウムイオン電池用電極
1’、2’、3’ リチウムイオン電池用電極材
5 真空パッケージ
10、11 基板
20 枠状部材
21 正極枠状部材
23 負極枠状部材
30 電極組成物
31 正極組成物
33 負極組成物
35 成形された電極組成物
40 包装材
41 開口部
50 プレスロール
60 セパレータ
71 正極集電体
73 負極集電体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16