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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】水素貯蔵システムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/00 20060101AFI20220928BHJP
   C07F 5/02 20060101ALI20220928BHJP
   C07C 211/10 20060101ALI20220928BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C01B3/00 B
C07F5/02 D
C07C211/10
B01J23/42 M
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020551368
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-11
(86)【国際出願番号】 KR2020002534
(87)【国際公開番号】W WO2021167140
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2020-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】515282809
【氏名又は名称】コリア ガス コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】テキュン・ソン
(72)【発明者】
【氏名】ジヘ・イ
(72)【発明者】
【氏名】ジェンオ・ファン
(72)【発明者】
【氏名】グオジン・ジャン
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/053382(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/107239(WO,A1)
【文献】特表2013-531601(JP,A)
【文献】International Journal of Hydrogen Energy,2018年06月30日,43,pp.15083-15094,DOI:10.1016/j.ijhydene.2018.06.050
【文献】International Journal of Hydrogen Energy,2020年02月16日,45,pp.9892-9902,DOI:10.1016/j.ijhydene.2020.01.174
【文献】International Journal of Hydrogen Energy,2013年02月04日,38,pp.3283-3290,DOI:10.1016/j.ijhydene.2012.12.150
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンジアミンビスボラン(EDAB)およびエチレンジアミン(ED)を含む溶液を含む水素貯蔵システムであって、
20℃~200℃の温度において、
ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)またはこれらの組み合わせを含む不均一系金属触媒の存在下で脱水素化反応が可能であり、
還元剤の存在下で水素化反応が可能な水素貯蔵システム。
【請求項2】
常温で脱水素化反応及び水素化反応が可能である、請求項1に記載の水素貯蔵システム。
【請求項3】
前記不均一系金属触媒はPtを含む、請求項1に記載の水素貯蔵システム。
【請求項4】
前記不均一系金属触媒はPt/Cである、請求項3に記載の水素貯蔵システム。
【請求項5】
前記溶液内の不均一系金属触媒の含量が1~10モル%である、請求項4に記載の水素貯蔵システム。
【請求項6】
前記溶液は、ジオキサン(dioxane)、テトラヒドロフラン(THF)、ベンゼン(Benzene)、塩化メチル(Methyl chloride)、n-ヘキサン(n-Hexane)、ジメチルエーテル(Dimethyl ether)およびこれらの組み合わせから選択される溶媒をさらに含む、請求項1に記載の水素貯蔵システム。
【請求項7】
前記溶液内のEDABとEDの混合比率が1:1~1:10である、請求項1に記載の水素貯蔵システム。
【請求項8】
前記水素貯蔵システムは、脱水素化反応を通じたEDABモル当たりのH生成率が3当量以上である、請求項1に記載の水素貯蔵システム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の水素貯蔵システムを含む自動車。
【請求項10】
EDABを準備するステップ、
前記EDABとEDを混合して溶液を製造するステップ、および
前記溶液内に不均一系金属触媒をロードするステップを含む、水素貯蔵システムの製造方法。
【請求項11】
前記EDABは、ボラン錯体とアミン化合物を反応させて得られる、請求項10に記載の水素貯蔵システムの製造方法。
【請求項12】
前記ボラン錯体とアミン化合物を2:1の比率で反応させる、請求項11に記載の水素貯蔵システムの製造方法。
【請求項13】
前記ボラン錯体はボランジメチルスルフィド(BHDMS)である、請求項11に記載の水素貯蔵システムの製造方法。
【請求項14】
前記アミン化合物はEDである、請求項11に記載の水素貯蔵システムの製造方法。
【請求項15】
前記溶液内のEDABとEDの混合比率が1:1~1:10である、請求項10に記載の水素貯蔵システムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素貯蔵システムおよびその製造方法に関し、より具体的には、水素を可逆的に吸収できる水素貯蔵システムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界の石油埋蔵量が急速に枯渇しているのに対し、地球上の水素供給は無制限である。水素は石炭、天然ガスおよびその他の炭化水素から生成されるかまたは水の電気分解によって形成され、核または太陽エネルギーを用いた水の電気分解のような、化石燃料の使用無しに水素の生産が可能である。また、水素は、化学燃料の単位重量当たりのエネルギー密度が最も高く、水素燃焼の主な副産物が水であるため、本質的に環境汚染の恐れもない。現在、電気車を完全に充電するためには数時間が要求されるが、水素燃料電池自動車は数分で充電可能であり、電気自動車の場合は100~200kmの走行範囲を有するのに対し、水素燃料電池の場合は既存の自動車と同様に500kmの走行範囲を有する。
【0003】
しかし、水素の貯蔵および伝達手段がないということが水素燃料電池自動車の商用化の障害物となっている。従来の圧縮および液化水素貯蔵媒体には多くの限界がある。それにもかかわらず、液化水素貯蔵媒体に貯蔵された水素が既存の液体伝達および燃料噴射技術に対する互換性が高いという利点がある。特に、水素は風力および太陽光のように再生可能な資源により生成されたエネルギーを貯蔵するのに理想的な候補であり、大規模のエネルギー貯蔵および伝達のための液体基盤の水素キャリアは非常に潜在的な候補媒体である。しかし、液体基盤の水素キャリアは下記のような問題を有する。
【0004】
通常、水素は高圧下で耐圧容器に貯蔵されるかまたは極低温に冷却される極低温液体として貯蔵され、圧縮ガスとして水素を貯蔵するには大きくて重い容器が要求される。一般的な設計の鋼鉄容器またはタンクにおいて総重量の約1%だけが、典型的な136気圧においてタンクに貯蔵される時にHガスから構成される。同等な量のエネルギーを得るために、Hガス容器の重さは、ガソリン/石油容器重さの約30倍である。また、水素は、大型容器に貯蔵され、移送が難しく、揮発性および可燃性のため、自動車用燃料として使用時に深刻な安全に係る問題を引き起こす。したがって、液体水素は253℃以下に極度に冷たく維持されなければならないが、液体水素は生産費用が高く、液化工程に多くのエネルギーが要求される。
【0005】
好ましい水素貯蔵物質は、物質の重量に比べて高い貯蔵容量、好適な脱着温度/圧力、優れた動力学、優れた可逆性、Hガスに存在する汚染物質による中毒に対する抵抗性を有し、且つ、比較的に安価でなければならない。このような特性のうちの一つ以上を有しなければ、広範囲な商業的活用に適していない。
【0006】
水素化物が静止(stationary)になった状態ではない場合、材料の単位重量当たりの水素貯蔵容量は、多くの応用分野において重要な考慮対象である。車両の場合、材料の重量に比べて水素貯蔵容量が低ければ、車両の走行範囲が非常に制限される。水素を放出するのに必要なエネルギー量を減少させ、車両、機械または他の類似した装備からの排気熱を効率的に利用するためには低い脱着温度が要求される。
【0007】
水素貯蔵物質が水素貯蔵能力の相当な損失無しに繰り返し吸着-脱着サイクルが可能となるためには良好な可逆性が必要であり、短い時間内に水素が吸着/脱着するように優れた動力学と製造および活用過程で材料に影響を与えられる汚染物質に対する耐性も必要である。
【0008】
従来の水素貯蔵物質は、水素貯蔵のための様々な金属物質、例えば、Mg、Mg-Ni、Mg-Cu、Ti-Fe、Ti-Ni、Mm-NiおよびMm-Co合金システムを用いた(ここで、MmはMischであり、希土類金属または希土類金属の組み合わせ/合金金属である。)。しかし、これらの材料のどれも商業的に広く用いられる貯蔵媒体に必要な全ての特性を有しているものではない。Mg合金システムは、貯蔵材料の単位重量当たりに比較的に多い量の水素を貯蔵することができたが、室温で低い水素解離平衡圧により、合金に貯蔵された水素を放出するためには高い熱エネルギーが供給されなければならず、250℃以上の高温においてのみHガスを放出することができる。
【0009】
Ti-Fe合金システムは、比較的に安価であり、水素解離平衡圧が室温で数気圧しかならないという利点を有するが、初期水素化のためには約350℃の高温および30気圧以上の高圧が必要であるため、合金システムは、比較的に低い水素吸着/脱着速度を有する。また、履歴現象(hysteresis)の問題により、Hガスが完全に放出されることができない。
【0010】
Ti-Mn合金システムは、水素に対する親和性が高く、原子量が少ないため、材料単位当たりに多い量の水素貯蔵を許容する。しかし、合金システムとして依然として前述した問題を有している。
【0011】
過去には、有機水溶液の形態で2種類の水素貯蔵キャリアが研究された。水(HO)-媒介伝達は主に加熱無しに触媒的に制御される条件下で活性化合物の加水分解に依存する。このようなシステムは、熱駆動固体反応に比べて相対的に簡単であり、加水分解水素放出の場合、NaBHおよびNHBHのようなボロン含有化合物が最も多く研究された。しかし、NaBHの低い溶解度により多量の水を必要とし、これは、水素貯蔵容量を4.0重量%未満に下げる結果を招き、低い溶解度の加水分解生成物は沈殿した。また、NaBHと水との間の反応を抑制するために強力な塩基性安定剤が必要であるが、このような溶液は腐食性が高くてエンジニアリング問題を引き起こした。
【0012】
水素を貯蔵する方法のうちの一つであるLOHC(Liquid Organic Hydrogen Carrier)は、液状有機物に水素を貯蔵し、脱水素化反応を通じて水素を放出させる技術である。
【0013】
水素貯蔵に適用するために、水素が豊富な液体有機炭化水素に対しては多くの研究がなされた。しかし、低い融点、高い沸点、適切な脱水素動力学(dehydrogenation kinetics)および低い作動温度などの特性を満たすためには、液体有機炭化水素に対して解決しなければならない問題が依然として存在する。
【0014】
現在、水素貯蔵に好適な化合物として最高の候補のうちの一つはメチルシクロヘキサン(methylcyclohexane)であり、メチルシクロヘキサン化合物は脱水素化されてトルエンを提供する。理論的には、メチルシクロヘキサンは6.1重量%のHおよび47.4kgのH/mを有する。しかし、効率的な脱水素化は350°C以上の高温および0.3MPa超過の高圧を要求し、トルエンに高い選択性を有する触媒とコークスの形成を最小化するために適切な酸度を設計するのは相当に難しい実情である。
【0015】
このような問題を解決するための突破口として、最近、潜在的な液体水素キャリアとして新しい種類の炭素-ホウ素-窒素(CBN)化合物の合成が試みられた。炭素-ホウ素-窒素(CBN)化合物では、脱水素化過程で一般的なLOHC(Liquid Organic Hydrogen Carrier)のC-H結合ではない、より弱いB-HおよびN-Hが切断されてHを形成する。これは、LOHC(Liquid Organic Hydrogen Carrier)燃料の脱水素化および再水素化サイクルの間、より温和な条件が使用可能であることを意味する。また、このような物理的特性および分子構造の変化は、重合体の最終生成物を除去する間、有利な融点、揮発性および溶解度を提供するようにする。
【0016】
エチレンジアミンビスボラン(Ethylenediamine bisborane、EDAB)は、化合物の全体分子量に比べて比較的高い比率のB-HおよびN-H結合を有し、且つ、最も単純なCBN化合物のうちの一つとして水素貯蔵可能媒体と見なされたが、従来、EDABの脱水素反応においては典型的に約120℃の温度が使われたし、この場合、完全な脱水素化のためには数十時間が必要であった。
【0017】
したがって、従来の水素貯蔵物質が有する問題を解決すると共に、高い貯蔵容量、好適な脱着温度/圧力、優れた動力学、優れた可逆性、Hガスに存在する汚染物質による中毒に対する抵抗性を有し、且つ、比較的に安価な水素貯蔵物質の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、前述した従来のLOHC(Liquid Organic Hydrogen Carrier)の問題点を解決するための新しい水素貯蔵システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、エチレンジアミンビスボラン(EDAB)をLOHC(Liquid Organic Hydrogen Carrier)として活用して、低い脱水素化反応温度および低い水素化反応エンタルピーを有し、常温で容易に脱水素化が可能な水素貯蔵システムを提供する。
【0020】
本発明の一実現例は、エチレンジアミンビスボラン(EDAB)溶液を含む水素貯蔵システムであって、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)またはこれらの組み合わせを含む不均一系金属触媒の存在下で、20℃~200℃の温度で可逆的な脱水素化/水素化反応が可能な水素貯蔵システムを提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の水素貯蔵システムは、高い貯蔵容量、好適な脱着温度/圧力、優れた動力学、優れた可逆性、Hガスに存在する汚染物質に対する抵抗性を有する。
【0022】
本発明によれば、室温および金属触媒の存在下で脱水素化が可能な新しい水素貯蔵システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1a】1モル%のPt/Cの触媒下、EDAB/EDシステムの水素発生量を示すものである。
図1b】1モル%のNiCl、FeClおよびCoCl触媒でEDAB/EDシステムの水素発生量を示すものである。
図2】脱水素化反応後に生成された主要化合物に対するMS分析結果である。
図3a】脱水素化反応後に生成された主要化合物の提案構造および分子式である。
図3b】脱水素化反応後に生成された主要化合物の提案構造および分子式である。
図3c】脱水素化反応後に生成された主要化合物の提案構造および分子式である。
図4】EDABおよびその脱水素化および再水素化生成物の11B NMRスペクトルを示すものである。
図5】本願発明の水素貯蔵物質システムを基盤に水素の伝達経路を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明において、エチレンジアミンビスボラン(EDAB)およびエチレンジアミン(ED)を含む溶液を含む水素貯蔵システムは、室温の条件下で、優れた反応速度で脱水素化反応して相当な量のHガスを放出する。
【0025】
EDABおよびEDを含む水素貯蔵システムは、低い脱水素化反応温度および低い水素化反応エンタルピーを有するため、脱水素化反応時に高温および高圧条件が要求されない。
【0026】
EDABは、分子内に高い比率のB-HおよびN-H結合を有することによって、脱水素化および水素化反応に好適である。EDABは、不均一系金属触媒の存在下で、短い時間内に水素が吸着/脱着するように優れた動力学を有する。
【0027】
【化1】
【0028】
本発明の一実現例は、エチレンジアミンビスボラン(EDAB)およびエチレンジアミン(ED)を含む溶液を含む水素貯蔵システムであって、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)またはこれらの組み合わせを含む不均一系金属触媒の存在下で、20℃~200℃の温度で可逆的な脱水素化/水素化反応が可能な水素貯蔵システムを提供する。
【0029】
本発明の一実現例において、前記水素貯蔵システムは、常温で可逆的な脱水素化/水素化反応が可能である。本発明の一実現例において、前記水素貯蔵システムは、常温で溶液の形態で存在する。
【0030】
前記エチレンジアミンビスボラン(EDAB)およびエチレンジアミン(ED)を含む溶液は、追加溶媒として、ジオキサン(dioxane)、テトラヒドロフラン(THF)、ベンゼン(Benzene)、塩化メチル(Methyl chloride)、n-ヘキサン(n-Hexane)、ジメチルエーテル(Dimethyl ether)およびこれらの組み合わせを含むことができる。
不均一系金属触媒の存在下で、前記水素貯蔵システム内に存在するEDAB内のBHとED内のNHとの間に脱水素化反応が起こり、この時、EDはEDABの脱水素化反応において重要な役割をすると見られる。
【0031】
本発明の一実現例において、前記溶液内のEDABとEDは1:1~1:10の比率で混合され、好ましい一実現例として、EDABとEDは1:5の比率で混合されることが好ましい。一例として、前記水素貯蔵システムは、1mmolの1mLのED内に2mmolのEDABの溶液を含むことができる。EDABとEDの混合比率が前記範囲より低い場合にはEDABが溶解されず、高い場合には反応性が低くなる。
【0032】
本発明の前記水素貯蔵システムの脱水素化反応時、EDABモル当たりのH生成率は3当量以上であり、好ましくは、4当量、5当量、6当量以上である。
【0033】
本発明の水素貯蔵システムは、不均一系金属触媒の存在下で脱水素化反応する。本願において、「不均一触媒」とは、触媒に反応する物質と触媒の相が異なるものを意味する。前記不均一系金属触媒の金属としては、好ましくは、周期律表の第8族に属する白金族元素(platinum metals)のうち、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)からなる群より選択される1種以上の遷移金属であってもよく、好ましくは、白金(Pt)を含む。本発明の一実現例として、不均一触媒は、前記前述した金属を基に金属/C触媒、すなわち、炭素ベースの支持体を含む触媒であってもよく、例えば、Pt、Ru、Rh、Pdなどのイオンが内部に混入した木炭であってもよい。最も好ましい例としては、不均一系金属触媒はPt/Cである。前記不均一系金属触媒として前述した触媒が1種以上用いられてもよい。
【0034】
不均一系金属触媒は、可逆的な水素貯蔵特性を向上させるために提供される。不均一系金属触媒の量は、触媒の効果が十分に現れ、触媒によって水素貯蔵容量が大きく減少しない限度内で決定されるべきであり、前記溶液内の不均一系金属触媒の含量は1~10モル%であってもよい。前記不均一系金属触媒は、その後の触媒サイクルのために容易に回収される。
【0035】
本発明の他の実現例は、前記水素貯蔵システムの製造方法を提供する。
【0036】
前記水素貯蔵システムの製造方法は、EDABを準備するステップ、前記EDABとEDを混合して溶液を製造するステップ、および前記溶液内に不均一系金属触媒をロードするステップを含む。
【0037】
一実現例として、前記EDABは、ボラン錯体とアミン化合物を反応させて得ることができる。この時、ボラン錯体およびアミン化合物を混合して反応させ、一実現例として、前記反応時にボラン錯体およびアミン化合物は1:1~1:10の比率で反応し、好ましくは、2:1の比率で反応する。
前記ボラン錯体としては、ボランピリジン錯体、ボランピコリン錯体、ボランテトラヒドロフラン錯体、ボランジメチルスルフィド錯体が挙げられ、前記アミン化合物の例としては、エチレンジアミン(ED)などが挙げられる。
【0038】
好ましい例として、ボランジメチルスルフィド(BHDMS)とEDを2:1の比率で反応させることができる。
【0039】
前記反応により製造されたEDABにEDを混合して溶液を製造する。この時、溶液内のEDABとEDの混合比率は1:1~1:10であり、好ましくは、1:5である。
【0040】
前記EDABとEDを含む溶液を製造した後、溶液内に不均一系金属触媒をロードして水素貯蔵システムを製造する。前記溶液は、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、ベンゼン(Benzene)、塩化メチル(Methyl chloride)、n-ヘキサン(n-Hexane)、ジメチルエーテル(Dimethyl ether)などの溶媒をさらに含むことができる。
【実施例
【0041】
<製造例1:エチレンジアミンビスボラン(EDAB)の合成>
EDABは、ボラン錯体、例えば、ボランジメチルスルフィド(BHDMS)とエチレンジアミン(ED)を2:1の比率で混合して、標準温度と圧力において数時間反応させて合成した。ジメチルスルフィドは溶媒としてのみ用いられ、溶媒と過量のBH-DMSを真空において除去して、高純度の白色粉末としてEDABを得た。
【0042】
【化2】
【0043】
<実施例1:エチレンジアミンビスボラン(EDAB)の脱水素化反応>
前記製造例で得られたEDABとEDを混合した溶液を不均一系金属触媒(Pt/C)の存在下で、下記の方法により脱水素化反応させた。
【0044】
1~2モル%のPt/C触媒ロードを有する1mLのED内に2mmolのEDABが溶解された溶液を室温で1時間完全に脱水素化させた。その結果、EDABモル当たりに6当量のHガスが放出された。
【0045】
<比較例1>
実施例1と同様の方法を利用するが、Pt/C触媒の代わりにNiClを用いて、EDAB/EDシステムの時間に応じた水素発生量を測定した。
【0046】
<比較例2>
実施例1と同様の方法を利用するが、Pt/C触媒の代わりにFeClを用いて、EDAB/EDシステムの時間に応じた水素発生量を測定した。
【0047】
<比較例3>
実施例1と同様の方法を利用するが、Pt/C触媒の代わりにCoClを用いて、EDAB/EDシステムの時間に応じた水素発生量を測定した。
【0048】
図1aおよび図1bは、前記実施例1および比較例1~3の各々の結果をEDAB 1モル当たりのHのモル当量で示すものである。図1aおよび図1bから分かるように、実施例1の場合、遥かに短い時間内に脱水素化が進行して過量の水素が発生したことを確認した。
【0049】
<実験例1:脱水素化生成物の確認>
実施例1の反応が完了した後、脱水素化生成物を確認するために、高分解能MS分析を行った。その結果、図2に示すように、三つの主要化合物が確認された。これらの主要化合物の提案分子式を図3a~3cに示す。
【0050】
図3a~3cに示された主要化合物は、分子内に、二重結合を有する「窒素-ホウ素-窒素」下位構造を有するため、室温でNaBHによって還元が可能である。図3a~3cにおいて、上段グラフはm/zの実験スペクトルであり、下段グラフはm/zの理論的な同位元素パターンを示す。
【0051】
図4は、EDABおよびその脱水素化および再水素化生成物の11B NMRスペクトルを示すものであり、図5は、本願発明の水素貯蔵システムを基盤に水素の伝達経路を示すものである。
【0052】
図4によれば、不均一系金属触媒の存在下でEDABが脱水素化され、再び還元されることによって、還元された生成物が得られる。したがって、図3a~3cに示された脱水素化生成物は、Hガスによる還元反応によってリサイクルが可能である(図5を参照)。この時、EDABの再生産は、HOの触媒的含量の存在下で、NaBHによって還元されることによって可能である。HOの触媒的含量がない場合、還元反応が起こることはできるが、反応が不完全であり、脱水素化生成物および残余NaBHが24時間後にも残り続けるようになる。それに対し、HO触媒化された還元では、脱水素化またはNaBHが残らない。HO触媒の効果は再水素化工程で現場で生成されたHの役割を暗示し、これはHガスによってのみ工程が促進できることを示す。
図1a
図1b
図2
図3a
図3b
図3c
図4
図5