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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】運転席エアバッグ
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/231 20110101AFI20220928BHJP
   B60R 21/203 20060101ALI20220928BHJP
   B60R 21/2338 20110101ALI20220928BHJP
   B62D 1/04 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
B60R21/231
B60R21/203
B60R21/2338
B62D1/04
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020571088
(86)(22)【出願日】2020-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2020002142
(87)【国際公開番号】W WO2020162182
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2019021106
(32)【優先日】2019-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】森田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】安部 和宏
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-020737(JP,A)
【文献】特開2018-167681(JP,A)
【文献】特開2005-271736(JP,A)
【文献】特開平11-342819(JP,A)
【文献】特開2008-094341(JP,A)
【文献】特開2001-219801(JP,A)
【文献】特開2008-049834(JP,A)
【文献】特表2013-529577(JP,A)
【文献】特許第3991739(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/231
B60R 21/203
B60R 21/2338
B62D 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のステアリングホイールと、
前記ステアリングホイールに収容されるインフレータと、
前記インフレータと共に前記ステアリングホイールに収容され膨張展開して乗員を拘束するエアバッグクッションとを備えた運転席用エアバッグであって、
前記エアバッグクッションは、
前記ステアリングホイール側に位置するステアリング側パネルと、
前記乗員側に位置する乗員側パネルと、
前記ステアリング側パネルの縁と前記乗員側パネルの縁とをつないでいて該エアバッグクッションの側部を構成するサイドパネルとを含み、
前記乗員側パネルは、前記ステアリング側パネルよりも面積が広く、
前記膨張展開したエアバッグクッションの上部は、該エアバッグクッションの下部に比べて車両前後方向に厚く、
前記膨張展開したエアバッグクッションは、前記乗員側パネルの中央が前記ステアリング側パネルの中央よりも上方に位置していて、
前記サイドパネルは、平面上に広げた状態において、弧を描く帯状であって、
前記サイドパネルは、前記ステアリング側パネルの縁の全周と前記乗員側パネルの縁の全周との間に設けられていて、
前記膨張展開したエアバッグクッションを車幅方向から見たとき、前記サイドパネルと前記乗員側パネルとの境界は上方へ向かうほど車両後方へ傾斜して延びていることを特徴とする運転席用エアバッグ。
【請求項2】
前記ステアリングホイールは、
前記インフレータおよびエアバッグクッションを収容する中央のハブと、
前記ハブを中心にして回転するグリップと、を含み、
前記グリップは、円環以外の異形であることを特徴とする請求項1に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項3】
前記弧を描く帯状のサイドパネルの長手方向の中央は、前記膨張展開したエアバッグクッションの上部に位置し、長手方向の両端は、該エアバッグクッションの下部に位置し、
前記弧を描く帯状のサイドパネルの長手方向の中央は、長手方向の両端よりも幅が広いことを特徴とする請求項1または2に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項4】
前記弧を描く帯状のサイドパネルの長手方向の両端は、前記膨張展開したエアバッグクッションの下部で互いに接続されていて、
前記弧を描く帯状のサイドパネルの長手方向の中央の幅は、長手方向の両端の幅に比べて1.1倍から2.7倍であることを特徴とする請求項に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項5】
前記サイドパネルは、前記ステアリング側パネルの縁の少なくとも一部または前記乗員側パネルの縁の少なくとも一部に連続していることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項6】
前記ステアリング側パネルは、円形であって、
前記円形のステアリング側パネルは、前記ステアリングホイールに固定される固定領域を有し、
前記固定領域は、前記円形のステアリング側パネルの中央もしくは該中央よりも上側に設けられていることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項7】
前記膨張展開したエアバッグクッションの前記乗員側パネルの上端は、成人男性の頭部重心の±100mmの範囲内の高さに位置することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項8】
前記エアバッグクッションは、前記サイドパネルに開けられてガスを排出する第1のベントホールを有することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項9】
前記エアバッグクッションは、前記サイドパネルと前記ステアリング側パネルとの境界の一部を開放した状態になっていてガスを排出する第2のベントホールを有することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項10】
前記エアバッグクッションは、前記ステアリング側パネルに開けられてガスを排出する第3のベントホールを有することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項11】
前記エアバッグクッションはさらに、前記乗員側パネルと前記ステアリング側パネルとに差し渡される1または複数のテザーを含み、
前記テザーは、前記エアバッグクッションが膨張展開したときに緊張して前記乗員側パネルを前記ステアリング側パネル側に引っ張る寸法を有することを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項12】
前記エアバッグクッションはさらに、前記乗員側パネルの内側に円形の縫製によって接続される所定面積の中央パネルを有し、
前記テザーは、複数設けられていて、
前記複数のテザーは、前記中央パネルの複数箇所から前記ステアリング側パネルに向かって延びていることを特徴とする請求項11に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項13】
前記複数のテザーは、前記中央パネルの左右対称の箇所から延びていることを特徴とする請求項12に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項14】
前記中央パネルは、前記乗員側パネルの下側に偏った位置に接続されていることを特徴とする請求項12または13に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項15】
前記テザーは、前記乗員側パネルの中央の下側に接続されていることを特徴とする請求項11に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項16】
前記テザーは、前記乗員側パネルの中央の上側に接続されていることを特徴とする請求項11に記載の運転席用エアバッグ。
【請求項17】
前記インフレータの一部は、前記ステアリング側パネルから前記エアバッグクッション内に挿入されていて、該一部には所定のガス排出口が形成されていて、
前記エアバッグクッションはさらに、前記ステアリング側パネルに接続されていて前記インフレータの一部を覆う整流布を有し、
前記整流布は、前記インフレータの一部の下方に開口部を有していることを特徴とする請求項1から16のいずれか1項に記載の運転席用エアバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急時に乗員を拘束する運転席用エアバッグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、車両のステアリングホイールには、運転席用エアバッグがほぼ標準装備されている。運転席用エアバッグのエアバッグクッションは、主にステアリングホイールの中央のハブに収容されていて、乗員から見て円形に膨張展開する(例えば特許文献1)。通常、ステアリングホイールは、上側が車両前方へ傾斜した姿勢になっている。特許文献1のエアバッグ1は、上部を車両前後方向に厚くすることで、傾斜したステアリングホイールから膨張展開した際にもフロント面1f(乗員拘束面)が鉛直になる構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3991739号公報
【発明の概要】
【0004】
近年、電気的な信号を介して操舵力をホイールに伝える新たなステアリングホイールが開発されつつあり、ステアリングホイールのデザインが多様化している。特に、電気的に接続される新たなステアリングホイールは、ステアリングシャフトを介して操舵力を物理的に伝える従来のステアリングホイールと異なり、大きく回転させる必要が無い。具体的には、新たなステアリングホイールのグリップは、従来のリムのように左右の手で持ちかえながら180°以上に回転させる操作が不要であるため、円環状である必要が無い。したがって、新たなステアリングホイールは、例えば中央のハブに対して左右にのみグリップが存在するなど、円環以外の異形のデザインを採用することが可能になっている(以下、円環以外のグリップを備えたステアリングホイールを「異形ステアリングホイール」と称呼する)。
【0005】
上記引用文献1に開示されたエアバッグ1は、上部の厚みを確保するために、リヤパネル7がフロントパネル8よりも大きくなっている。ステアリングホイール4が従来の円環状のリムを備えたものであれば、大径のリヤパネル7はステアリングホイール4に好適に接触し、エアバッグ1はステアリングホイール4から反力を得ながら乗員を十全に拘束することができる。しかしながら、上述した異形ステアリングホイールであると、一般に従来のステアリングホイールよりも小型かつ偏った形状であり、エアバッグクッションとの接触範囲が減ってしまう。このような接触範囲の狭いステアリングホイールに適用する場合、引用文献1の大径のリヤパネル7を備えたエアバッグ1では形状に無駄が多いため、改良の余地がある。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、接触範囲の狭いステアリングホイールに適用した場合にも乗員を十全に拘束することが可能な運転席用エアバッグを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる運転席用エアバッグの代表的な構成は、車両のステアリングホイールと、ステアリングホイールに収容されるインフレータと、インフレータと共にステアリングホイールに収容され膨張展開して乗員を拘束するエアバッグクッションとを備えた運転席用エアバッグであって、エアバッグクッションは、ステアリングホイール側に位置するステアリング側パネルと、乗員側に位置する乗員側パネルと、ステアリング側パネルの縁と乗員側パネルの縁とをつないでいてエアバッグクッションの側部を構成するサイドパネルとを含み、乗員側パネルは、ステアリング側パネルよりも面積が広く、膨張展開したエアバッグクッションの上部は、エアバッグクッションの下部に比べて車両前後方向に厚いことを特徴とする。
【0008】
上記構成のエアバッグクッションは、上部が車両前後方向に厚く、下部の厚みが減った形状になっている。したがって、エアバッグクッションの上部はその厚みをもって乗員の頭部を十全に拘束することが可能であり、下部はステアリングホイールと乗員の腹部との狭い空間に入り込みやすくなっている。特に、エアバッグクッションの下部がステアリングホイールと腹部とによって挟まれることで、エアバッグクッションは姿勢が崩れ難くなり、上部による頭部の拘束性能も向上させることができる。特に、当該エアバッグクッションであれば、乗員の腹部方向に早期に展開を開始し、乗員に対して腹部から初期拘束を開始することが可能となる。
【0009】
上記構成のエアバッグクッションは、乗員拘束面となる乗員側パネルが広く、ステアリングホイールから反力を得るステアリング側パネルが狭い構成となっている。上述したように、当該エアバッグクッションは、下部がステアリングホイールと腹部とによって挟持されることで、姿勢が安定する。そのため、当該エアバッグクッションは、乗員拘束力を下げることなく、ステアリング側パネルを面積の狭いものにすることができる。これによれば、ステアリング側パネルのうちステアリングホイールに接触しない部分を省き、材料の使用量を減らしたり、エアバッグクッションのガス容量を抑えたりするなど、コスト削減に資することができる。ガス容量を抑えることは、エアバッグクッションの膨張が完了するまでにかかる時間を早めることになるため、乗員拘束性能の向上にもつながる。
【0010】
上記のステアリングホイールは、インフレータおよびエアバッグクッションを収容する中央のハブと、ハブを中心にして回転するグリップと、を含み、グリップは、円環以外の異形であってもよい。
【0011】
近年開発が進んでいる新たなステアリングホイールには、従来のような円環状のリムでないものも多く、ハブの左右にのみグリップが設けられるなど、様々なデザインのものが存在する。これら円環以外のグリップを備えた異形ステアリングホイールは、円環状のリムを備えた従来のステアリングホイールに比べて、エアバッグクッションとの接触範囲が狭い。このような異形ステアリングホイールに対しても、上記構成のエアバッグクッションであれば好適に適用することができる。特に、面積の小さいステアリング側パネルを採用することで、上記エアバッグクッションはより小さな収容形態に折り畳み等することができ、収容空間の限られた異形ステアリングホイールにも容易に取り付けることが可能である。
【0012】
上記の膨張展開したエアバッグクッションは、乗員側パネルの中央がステアリング側パネルの中央よりも上方に位置してもよい。乗員側パネルをステアリング側パネルに対して上方寄りに配置することで、乗員の上半身を拘束しやすくなる。
【0013】
上記のサイドパネルは、平面上に広げた状態において、弧を描く帯状であって、弧を描く帯状のサイドパネルの長手方向の中央は、膨張展開したエアバッグクッションの上部に位置し、長手方向の両端は、エアバッグクッションの下部に位置し、弧を描く帯状のサイドパネルの長手方向の中央は、長手方向の両端よりも幅が広くてもよい。この構成によれば、車両前後方向において上部の幅が下部の幅よりも厚いエアバッグクッションを好適に実現することができる。
【0014】
上記の弧を描く帯状のサイドパネルの長手方向の両端は、膨張展開したエアバッグクッションの下部で互いに接続されていて、弧を描く帯状のサイドパネルの長手方向の中央の幅は、長手方向の両端の幅に比べて1.1倍から2.7倍であってもよい。この構成によっても、車両前後方向において上部の幅が下部の幅よりも厚いエアバッグクッションを好適に実現することができる。
【0015】
上記のサイドパネルは、ステアリング側パネルの縁の全周と乗員側パネルの縁の全周との間に設けられていてもよい。このように、ステアリング側パネルと乗員側パネルとが直接には縫製されない構成とすると、エアバッグクッションを袋状に形成するうえで縫製が行いやすくなり、有益である。
【0016】
上記のサイドパネルは、ステアリング側パネルの縁の少なくとも一部または乗員側パネルの縁の少なくとも一部に連続していてもよい。このように、サイドパネルとステアリング側パネルまたは乗員側パネルが一体になった構成であっても、上記エアバッグクッションを好適に形成することができる。
【0017】
上記の膨張展開したエアバッグクッションを車幅方向から見たとき、サイドパネルと乗員側パネルとの境界は上方へ延び、または上方へ向かうほど車両後方へ傾斜して延びていていてもよい。この構成によれば、エアバッグクッションの形状を、上部が乗員との頭部を受け止めやすく、下部がステアリングホイールと乗員の腹部との間に入りやすいものにすることができる。
【0018】
上記のステアリング側パネルは、円形であって、円形のステアリング側パネルは、ステアリングホイールに固定される固定領域を有し、固定領域は、円形のステアリング側パネルの中央もしくは中央よりも上側に設けられていてもよい。固定領域が中央または上側にあることで、ステアリング側パネルおよびクッションの全体の位置を下げ、クッションの下部をステアリングホイールと腹部との間に入り込ませやすくすることができる。
【0019】
上記の膨張展開したエアバッグクッションの乗員側パネルの上端は、成人男性の頭部重心の±100mmの範囲内の高さに位置するとよい。乗員側パネルが顎や額などの頭部の上下の端に位置する部位から接触すると、頭部に前屈や後屈などの回転動作を引き起こすおそれがある。これら頭部の前屈や後屈は、人体の構造上、傷害値が高くなりやすい。上記構成では、頭部の重心の位置(鼻の付近)から乗員側パネルを接触させ、傷害値を抑えることが可能になっている。
【0020】
上記のエアバッグクッションは、サイドパネルに開けられてガスを排出する第1のベントホールを有してもよい。サイドパネルに設けた第1ベントホールであれば、乗員の存在しない方向にガスを排出することが可能になる。
【0021】
上記のエアバッグクッションは、サイドパネルとステアリング側パネルとの境界の一部を開放した状態になっていてガスを排出する第2のベントホールを有してもよい。この第2のベントホールによっても、乗員の存在しない方向にガスを排出することが可能になる。
【0022】
エアバッグクッションは、ステアリング側パネルに開けられてガスを排出する第3のベントホールを有してもよい。この第3のベントホールによっても、乗員の存在しない方向にガスを排出することが可能になる。
【0023】
上記のエアバッグクッションはさらに、乗員側パネルとステアリング側パネルとに差し渡される1または複数のテザーを含み、テザーは、エアバッグクッションが膨張展開したときに緊張して乗員側パネルをステアリング側パネル側に引っ張る寸法を有してもよい。このテザーによれば、乗員側パネルの形状を変化させ、乗員拘束性能を高めたり、傷害値を抑えたりすることが可能になる。
【0024】
上記のエアバッグクッションはさらに、乗員側パネルの内側に円形の縫製によって接続される所定面積の中央パネルを有し、テザーは、複数設けられていて、複数のテザーは、中央パネルの複数箇所からステアリング側パネルに向かって延びていてもよい。この構成によれば、乗員側パネルの形状を制御し、目的とする形状に膨張させることが可能になる。
【0025】
上記の複数のテザーは、中央パネルの左右対称の箇所から延びていてもよい。この構成によって、乗員側パネルの形状を制御しやすくなる。
【0026】
上記の中央パネルは、乗員側パネルの下側に偏った位置に接続されていてもよい。乗員側パネルの下部の膨張を抑えることで、乗員側パネルの下部をステアリングホイールと乗員の腹部との間に入り込ませやすくすることができる。
【0027】
上記のテザーは、乗員側パネルの中央の下側に接続されている。乗員側パネルの下部の膨張を抑えることで、乗員側パネルの下部をステアリングホイールと乗員の腹部との間に入り込ませやすくすることができる。
【0028】
上記のテザーは、乗員側パネルの中央の上側に接続されている。乗員側パネルの上側の膨張を抑えることで、乗員の頭部に対する傷害値を抑えることが可能になる。
【0029】
上記のインフレータの一部は、ステアリング側パネルからエアバッグクッション内に挿入されていて、一部には所定のガス排出口が形成されていて、エアバッグクッションはさらに、ステアリング側パネルに接続されていてインフレータの一部を覆う整流布を有し、整流布は、インフレータの一部の下方に開口部を有していてもよい。
【0030】
上記の整流布であれば、インフレータから供給されるガスを開口部を通じて下方へと流すことができ、エアバッグクッションを下部側から膨張させることができる。したがって、エアバッグクッションは、乗員の腹部方向に早期に展開を開始し、ステアリングホイールと乗員の腹部との間に迅速に入り、腹部から初期拘束を開始することが可能となる。
【0031】
上記のエアバッグクッションは、ガス容量が50リットルから60リットルの範囲であってもよい。この範囲のガス容量であれば、高出力インフレータは不要であり、なるべく小型かつ低廉なインフレータを採用することが可能となる。
【0032】
上記のインフレータは、出力が200kPaから230kPaの範囲であってもよい。この出力のインフレータであれば、小型かつ低廉であるため、軽量化やコスト削減の点で有益である。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、接触範囲の狭いステアリングホイールに適用した場合にも乗員を十全に拘束することが可能な運転席用エアバッグを提供可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の実施形態にかかる運転席用エアバッグの概要を例示する図である。
図2図1(b)の膨張展開時のクッションを各方向から例示した図である。
図3図2(b)のクッションを構成する各パネルを例示した図である。
図4図2(b)のクッションと座席に着座した乗員とを例示した図である。
図5図2(a)のクッションの内部構造を例示した図である。
図6図4のクッションの変形例を例示した図である。
図7図3(b)のステアリング側パネルの変形例を例示した図である
図8図3の各パネルの変形例を例示した図である。
図9図2(c)のベントホールの変形例を例示した図である。
図10図5(a)のテザーの変形例を例示した図である。
図11図2(a)のクッションの内部構造の変形例を例示した図である。
図12図4のクッションの概要を例示した図である。
【符号の説明】
【0035】
100…運転席用エアバッグ、102…座席、104…クッション、104a…クッションの上部、104b…クッションの下部、104L…クッションの下端部、104U…クッションの上端部、106…異形ステアリングホイール、106a…ステアリングホイールの表面、108…ハブ、110…カバー、112…インフレータ、116…ガス排出口、118…スタッドボルト、120…乗員側パネル、120a…乗員側パネルの上端、122…ステアリング側パネル、124…サイドパネル、126a、126b…第1のベントホール、128…固定領域、130…大径側の弧、132…小径側の弧、134…サイドパネルの中央、136a、136b…サイドパネルの両端、138…乗員、140…頭部、142…腹部、144…内部テザー、146a、146b…補助テザー、148…中央パネル、150a、150b…テザー、152a、152b…補助テザーの端部、154…屈曲部、200…変形例のクッション、200a…クッションの上部、202…サイドパネル、220…ステアリング側パネル、222…固定領域、240…第1の一体型パネル、242…サイドパネル、244…ステアリング側パネル、260…第2の一体型パネル、262…サイドパネル、264…乗員側パネル、280a、280b…第2のベントホール、282…サイドパネルとステアリング側パネルの境界、300a、300b…第3のベントホール、320…第1変形例のテザー、340…第2変形例のテザー、360…整流布、364…開口部、366a、366b…排気口、368…挿入口、D0…クッションの中央の厚さ、D1…クッションの上部の厚さ、D2…クッションの下部の厚さ、H1…クッションの上側の上下の寸法、H2…クッションの下側の上下の寸法、L1…ステアリング側パネルの中央から延ばした仮想線、L2…サイドパネルと乗員側パネルとの境界、L3…サイドパネルと乗員側パネルとの境界、M…ステアリングホイールの回転軸、P1…乗員側パネルの中央、P2…ステアリング側パネルの高さ方向の中央、P3…頭部重心、S1…乗員側パネルと内部テザーとの縫製、W1…クッションの上部の幅、W2…クッションの下部の幅、W3…サイドパネルの長手方向の中央の幅、W4…サイドパネルの両端の幅
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0037】
図1は、本発明の実施形態にかかる運転席用エアバッグ100の概要を例示する図である。図1(a)は運転席用エアバッグ100の稼動前の車両を例示した図である。以降、図1その他の図面において、車両前後方向をそれぞれ矢印F(Forward)、B(Back)、車幅方向の左右をそれぞれ矢印L(Left)、R(Right)、車両上下方向をそれぞれ矢印U(up)、D(down)で例示する。
【0038】
本実施形態では、運転席用エアバッグ100を、左ハンドル車における運転席用(前列左側の座席102)のものとして実施している。以下では、前列右側の座席102を想定して説明を行うため、例えば車幅方向車外側(以下、車外側)とは車両左側を意味し、車幅方向内側(以下、車内側)とは車両右側を意味する。また、本実施形態に関しては、座席102に正規に着座した乗員から見て、正面の方向を「前」とし、背中側の方向を「後」として記載する。同様に、正規に着座した乗員の右手の方向を「右」とし、左手の方向を「左」として記載する。さらに、このときの乗員の身体の中心に対して、頭部に向かう方向を「上」とし、脚部に向かう方向を「下」とする。
【0039】
運転席用エアバッグのエアバッグクッション(以下、クッション104(図1(b)参照))は、折畳みや巻回等された状態で、座席102の着座位置の前方にて、ステアリングホイール(後述する異形ステアリングホイール106)の中央のハブ108の内部に収容されている。ハブ108は、クッション104を収容するハウジング(図示省略)およびカバー110等を含んで構成されている。ハブ108の内部には、クッション104と共にインフレータ112(図2(a)参照)も収容されている。
【0040】
本実施形態にてクッション104を設置する異形ステアリングホイール106は、乗員の操作を電気的な信号に変換してホイールに伝える構成のものを想定している。異形ステアリングホイール106は、円環以外の形状のグリップ114を備えていて、従来の円環状のリムを備えたステアリングホイールとは形状が異なっている。グリップ114は、中央のハブ108を中心にして回転させる操作を受け付けるが、従来の円環状のリムとは異なり、大きな角度で回転させる操作は不要であるため、左右の手で持ちかえる必要が無いる。そのため、グリップ114はハブ108の左右および下側にのみ存在する形状になっていて、ハブ108の上側には構造物が存在していない。
【0041】
図1(b)は運転席用エアバッグのクッション104の膨張展開後の車両を例示した図である。クッション104は、インフレータ112(図2(a)参照)からのガスによってカバー110を開裂しながら膨張を開始し、座席102の着座位置の前方に袋状に膨張展開し、前方へ移動しようとする乗員の上半身や頭部を拘束する。クッション104は、着座位置側から見て円形で、その表面を構成する複数のパネルを重ねて縫製または接着することによって形成されている。
【0042】
図2は、図1(b)の膨張展開時のクッション104を各方向から例示した図である。図2(a)は、図1(b)のクッション104を車外側のやや上方から見て例示している。図2(a)では、クッション104を構成するパネルの一部を切り欠いて、内部のインフレータ112を露出させている。
【0043】
本実施形態におけるクッション104は、特徴的な形状として、異形ステアリングホイール106側(図1(a)参照)から乗員側(車両後方側)に向かって径の広がった、円錐台に近い形状になっている。
【0044】
インフレータ112は、ガスを供給する装置であって、本実施例ではディスク型(円盤型)のものを採用している。インフレータ112は、ガス排出口116の形成された一部がステアリング側パネル122からクッション104内に挿入されていて、不図示のセンサから送られる衝撃の検知信号に起因して稼働し、クッション104にガスを供給する。インフレータ112は、複数のスタッドボルト118が設けられている。スタッドボルト118は、クッション104のステアリング側パネル122を貫通し、上述した異形ステアリングホイール106(図1(a)参照)のハブ108の内部に締結される。このスタッドボルト118の締結によって、クッション104もハブ108の内部に固定されている。
【0045】
なお現在普及しているインフレータには、ガス発生剤が充填されていてこれを燃焼させてガスを発生させるタイプや、圧縮ガスが充填されていて熱を発生させることなくガスを供給するタイプ、または燃焼ガスと圧縮ガスとを両方利用するハイブリッドタイプのものなどがある。インフレータ112としては、いずれのタイプのものも利用可能である。
【0046】
図2(b)は、図2(a)のクッション104を車幅方向左側から例示した図である。クッション104は複数のパネルから形成されていて、乗員側に位置する乗員側パネル120(乗員から見て手前に位置するためフロントパネルとも称呼される)、異形ステアリングホイール106側(図1(a)参照)に位置するステアリング側パネル122(乗員から見て奥手に位置するためリアパネルとも称呼される)、およびこれら乗員側パネル120とステアリング側パネル122とをつないでクッション104の側部を構成しているサイドパネル124とを含んでいる。当該図2(b)では、乗員側パネル120およびステアリング側パネル122の奥側の縁をそれぞれ破線で例示している。
【0047】
膨張展開したクッション104は、円錐台に沿った形状でありつつも、全体的にやや傾斜した形状になっている。具体的には、乗員側パネル120の高さ方向の中央P1が、ステアリング側パネル122の高さ方向の中央P2から水平に延ばした仮想線L1に対して上方に位置するように、傾斜した形状になっている。また、クッション104が膨張展開したとき、乗員側パネル120はほぼ鉛直に延びるよう配置されているが、ステアリング側パネル122は上部が車両前側(図2(b)中左側)に倒れるよう傾斜して配置されている。これによって、車両前後方向において、膨張展開したエアバッグクッション104の上部104aの幅W1は、エアバッグクッション104の下部104bの幅W2に比べて厚い構成となっている。
【0048】
図2(c)は、図2(a)のクッション104を上方から例示した図である。クッション104は、上方から見ると、ほぼ左右対称な円錐台の形状になっている。サイドパネル124には、ガスを排出する2つの第1のベントホール126a、126bが開けられている。ベントホール126a、126bは、サイドパネル124のうち上側の左右2箇所に設けられている。この位置のベントホール126a、126bであれば、クッション104の膨張展開時において乗員の存在しない方向にガスを排出することが可能である。
【0049】
図3は、図2(b)のクッション104を構成する各パネルを例示した図である。図3では、各パネルを平面上に広げた状態で例示している。図3(a)は、図2(b)の乗員側パネル120を例示した図である。乗員側パネル120は、円形であって、クッション104の膨張展開時には乗員を拘束する乗員拘束面として機能する。乗員側パネル120の中央およびその四隅には、後述する内部テザー144(図5(a)参照)との縫製S1が存在している。
【0050】
図3(b)は、図2(b)のステアリング側パネル122を例示した図である。ステアリング側パネル122は、円形であって、クッション104(図1(b)参照)の膨張展開時には異形ステアリングホイール106(図1(a)参照)から反力を得る反力面として機能する。当該クッション104は乗員側に広がる円錐台状に膨張展開するため、ステアリング側パネル122は乗員側パネル120(図3(a)参照)よりも面積が狭い構成となっている。ステアリング側パネル122の中央には、インフレータ112(図2(a)参照)を挿入しハブ108の内部に固定される固定領域128が形成されている。
【0051】
図3(c)は、図2(b)のサイドパネル124を例示した図である。サイドパネル124は、平面上に広げた状態において、弧を描く帯状になっている。2つの弧130、132のうち、大径側の弧130は乗員側パネル120の縁に縫製によって接合され、小径側の弧132はステアリング側パネル122の縁に縫製によって接合される。
【0052】
サイドパネル124の2つの弧130、132は、ステアリング側パネル122の縁の全周と、乗員側パネル120の縁の全周とに接合される。すなわち、本実施形態のクッション104は、乗員側パネル120とステアリング側パネル122との間には全体にわたってサイドパネル124が介在していて、ステアリング側パネル122と乗員側パネル120とが直接に縫製される箇所が存在していない。また、クッション104には、計3枚のパネルが重なって同時に縫製される箇所も存在していない。これらの構成によって、クッション104を袋状に効率よく縫製し製造することが可能になっている。
【0053】
クッション104(図2(a)参照)を形成するときにおいて、弧を描く帯状のサイドパネル124は、その長手方向の中央134が膨張展開したクッション104の上部に位置し、長手方向の両端136a、136bがクッション104の下部に位置するよう配置される。特に、両端136a、136bは、膨張展開したクッション104の下部で互いに接続される。
【0054】
サイドパネル124の2つの弧130、132は曲率が異なっていて、大径側の弧130は小径側の弧132よりも曲率がやや大きい。これによって、サイドパネル124の長手方向の中央134の幅W3は、長手方向の両端136a、136bの幅W4よりも広くなっている。一例として、長手方向の中央134の幅W3は、両端136a、136bの幅W4に比べて、1.1倍から2.7倍に設定することが可能である。この構成によって、図2(b)に例示したように、車両前後方向におけるクッション104の車両前後方向における上部104aの幅を、下部の幅よりも厚く形成することが可能になっている。
【0055】
図4は、図2(b)のクッション104と座席102に着座した乗員138とを例示した図である。図4は、クッション104および乗員138を車幅方向左側から見て例示している。
【0056】
本実施例では、図2(b)を参照して説明したように、膨張展開したクッション104の上部104aは、クッション104の下部104bに比べて、車両前後方向に厚い構成となっている。特に、膨張展開したクッション104は、車幅方向から見たとき、サイドパネル124と乗員側パネル120との境界L2が上方へ延びるような姿勢で設置されている。緊急時において車両前方に移動しようとする乗員138は、クッション104の上部104aから早期に接触する。そして、クッション104の上部104aは、その厚みをもって乗員138の頭部140からの荷重を吸収する。
【0057】
図2(b)を参照して説明したように、クッション104の下部104bの車両前後方向の幅W2は、上部104aの幅W1に比べて、やや小さい。一般の車両では、ステアリングホイールは車両前側に約20°から25°程度の角度で傾斜していて、ステアリングホイールと乗員138との間の空間は、下方の腹部142側に向かって車両前後方向に狭くなっている。本実施例のクッション104であれば、下部104bに向かうほど車両前後方向の幅は減少していくため、下部104bが異形ステアリングホイール106と腹部142との狭い空間に入り込みやすくなっている。
【0058】
上記構成によれば、クッション104の下部104bが異形ステアリングホイール106と腹部142とによって挟まれることで、クッション104の姿勢が崩れ難くなっている。またそれによって、クッション104の上部104aの、乗員138の頭部140に対する拘束性能も向上する構成となっている。特に、クッション104の姿勢が安定することで、乗員138の頭部140の前屈や後屈など、傷害値の高くなりやすい頭部140の動きを防ぐことが可能になる。
【0059】
図12を参照して、クッション104の形状について詳細に説明する。図12は、図4のクッション104の概要を例示した図である。図12に例示するように、乗員を拘束する前の状態における膨張展開したクッション104は、下部104bの前後の厚さD2が上部104aの厚さD1よりも小さくなっている。厚さD1および厚さD2は、ステアリングホイール106のリムの乗員側の表面106aから計測された、ステアリングホイール106の回転軸Mと平行な方向におけるクッション104の上端部(最高部)104Uの厚さ、および下端部(最下部)104Lの厚さと規定することができる。このとき、クッション104の上端部104Uおよび下端部104Lは、ステアリングホイール106の回転軸Mに垂直な方向で、当該回転軸Mから上方、下方の最も遠い地点である。
【0060】
膨張展開したクッション104は、ステアリングホイール106の回転軸Mより下側の部分の上下の寸法H2が、回転軸Mより上側の部分の上下の寸法H1よりも長くなるよう構成されている。このとき、寸法H1、H2は、膨張展開したクッション104を側方から見たときに、ステアリングホイール106の回転軸Mと直交して、ステアリングホイール106のリムの表面106aに平行に延びる方向における長さと規定することができる。
【0061】
乗員を拘束する前の状態における膨張展開したクッション104の厚さD0は、ステアリングホイール106のリムの乗員側の表面106aから計測された、上端部104Uと下端部104Lの間における乗員側パネル120の後端(乗員側の端部)までの厚さである。クッション104では、所定の位置より上側ではD0>D1>D2になるよう設定され、当該位置より下側ではD1>D0´>D2になるよう設定されている。
【0062】
また、上端部104Uが、当該クッション104の最高部であると同時に最後部(最も乗員側の部分)であった場合、クッション104は全体的にD1>D0>D2となるように構成してよい。このような設定を適用することで、クッション104の展開形状が比較的なめらかになり、クッション104の容量増大を抑制することができる。これらの構成を有するクッション104によれば、乗員138の腹部142の方向に早期に展開を開始し、乗員138に対して腹部142から初期拘束を開始することが可能になっている。
【0063】
上述したように、本実施例のクッション104は、乗員拘束面となる乗員側パネル120の面積が広く、異形ステアリングホイール106から反力を得るステアリング側パネル122の面積が狭い構成となっている。異形ステアリングホイール106は、従来の円形のステアリングホイールに比べて、エアバッグクッションとの接触範囲が狭い。ステアリング側パネル122は、異形ステアリングホイール106に接触しない部分を省くよう、異形ステアリングホイール106に応じた寸法に設定することができる。これによって、ステアリング側パネル122を構成する材料の使用量を減らしたり、クッション104のガス容量を抑えたりすることが可能になり、コスト削減に資することができる。
【0064】
本実施形態のクッション104は、小径のステアリング側パネル122を採用することで、ガス容量が50リットルから60リットルの範囲内に設定することができる。これによって、クッション104を構成するパネルの量が抑えられるため、クッション104はより小さな収容形態に折り畳み等することができ、収容空間の限られた異形ステアリングホイール106にも容易に取り付けることが可能になる。
【0065】
上記範囲内のガス容量であれば、高出力インフレータは不要であり、インフレータ112(図2(a)参照)としてなるべく小型かつ低廉なものを採用可能になっている。例えば、インフレータ112には、出力が200kPaから230kPaの範囲のものを採用することができる。この出力のインフレータであれば、小型かつ低廉であり、軽量化やコスト削減の点で有益である。また、クッション104のガス容量を抑えることは、クッション104の膨張が完了するまでにかかる時間を早めるため、乗員拘束性能の向上にもつながる。
【0066】
本実施形態では、膨張展開したクッション104の乗員側パネル120の上端120aは、成人男性の頭部重心の±100mmの範囲内の高さに位置するよう設定している。例えば、図4の乗員138は、平均的な米国成人男性の50%に適合する体格を模した試験用のダミー人形AM50(50th percentile 男性相当で身長175cm、体重78kg)を想定したものである。クッション104の乗員側パネル120の上端120aは、このAM50の頭部重心P3の±100mmの範囲内の高さに位置するよう設定している。
【0067】
乗員138の頭部140は、乗員側パネル120に対して顎や額などから接触すると、前屈や後屈などの回転動作を引き起こすおそれがある。前述したように、頭部140の前屈や後屈は、人体の構造上、傷害値が高くなりやすい。本実施形態のクッション104は、頭部重心P3の位置から乗員側パネル120を接触させ、頭部140を過度に動かすことなく拘束し、傷害値を抑えることを可能にしている。
【0068】
図5は、図2(a)のクッション104の内部構造を例示した図である。図5(a)は、図2(a)のクッション104の各パネルを透過して内部構造を例示している。
【0069】
図5(a)に例示するように、クッション104は、乗員側パネル120とステアリング側パネル122とに差し渡される内部テザー144を備えている。内部テザー144は、クッション104の膨張展開時に乗員側パネル120の形状を制御する部材である。また、クッション104の内部には、内部テザー144の機能を補助する2つの補助テザー146a、146bも設けられている。
【0070】
図5(b)は、図5(a)の内部テザー144を平面上に広げた図である。内部テザー144は、所定面積の円形の中央パネル148と、中央パネル148の左右両縁から延びたテザー150a、150bを備えている。中央パネル148は、乗員側パネル120の内側に円形の縫製S1によって接続される。テザー150a、150bは、中央パネル148の左右両縁に対称に設けられていて、ステアリング側パネル122に向かって延びる。
【0071】
テザー150a、150bの長さは、クッション104が膨張展開したときに緊張し、中央パネル148を介して乗員側パネル120をステアリング側パネル122側に引っ張る寸法に設定されている。かかるテザー150a、150bによれば、乗員側パネル120の形状を変化させ、乗員拘束力を高めたり、傷害値を抑えたりすることが可能になる。特に、テザー150a、150bは、中央パネル148の左右対称の箇所から延びているため、中央パネル148を介して乗員側パネル120の形状を効率よく制御することができる。
【0072】
図5(c)は、図5(a)の補助テザー146aを平面状に広げた図である。補助テザー146a、146は同じ構成であるため、補助テザー146aのみを例として挙げる。補助テザー146aは、2つの辺が一箇所で交わった形状になっていて、2つの端部152a、152bで乗員側パネル120に接続され、屈曲部154でテザー150aに接続される。クッション104の膨張展開時において、上述したテザー150a、150bが緊張すると、これらテザー150a、150bを通じて補助テザー146a、146bもステアリング側パネル122側に引っ張られる。補助テザー146a、146bを備えることで、乗員側パネル120の形状を効率よく制御し、目的とする形状に膨張させることが可能になる。
【0073】
なお、中央パネル148は、乗員側パネル120の下側に偏った位置に接続されていてもよい。中央パネル148を通じて乗員側パネル120の下部104bの膨張を抑えることで、図4を参照して説明したように、乗員側パネル120の下部104bを異形ステアリングホイール106と乗員138の腹部142との間に入り込ませやすくすることができる。また、テザー150a、150bは、本実施形態では中央パネル148の左右から延びる構成としているが、上下から延びる構成とすることも可能であり、また本数を増やすことも可能である。複数のテザーを設ける場合は、インフレータ112(図2(a)参照)からのガスが直接的に当たらない箇所に設けると好適である。
【0074】
(変形例)
以下、上述した運転席用エアバッグ100の各構成要素の変形例について説明する。以降の図6から図11に例示する各変形例において、既に説明した構成要素と同じものについては、同じ符号を付することによって説明を省略する。また、既に説明した構成要素と同じ名称のものについても、例え異なる符号を付していても、特に明記しない場合は同じ機能を有するものとする。
【0075】
図6は、図4のクッション104の変形例(クッション200)を例示した図である。クッション200は、膨張展開した状態において車幅方向から見たとき、サイドパネル202と乗員側パネル120との境界L3が、上方へ向かうほど車両後方、すなわち乗員138側へ傾斜して延びている。この構成によれば、クッション200の上部200aが他の部位に先んじて乗員138に接触することになり、頭部140の早期拘束を達成することが可能になる。また、上部200aが乗員138側に突出することに反比例して、クッション200の下部200bの車両前後方向の厚みは抑えられるため、下部200bが乗員138の腹部142との間に入りやすくなっている。
【0076】
図7は、図3(b)のステアリング側パネル122の変形例(ステアリング側パネル220)を例示した図である。ステアリング側パネル220は、図3(b)のステアリング側パネル122に比べて、固定領域222が当該ステアリング側パネル220の中央P4よりも上側に設けられている。
【0077】
ステアリング側パネル220は、固定領域222が上側にあることで、異形ステアリングホイール106(図4等参照)に取り付けたとき、異形ステアリングホイール106に対して下側に寄った位置に配置されることになる。そして、ステアリング側パネル220と共に、クッション200の全体もやや下方に配置される。これによって、クッション200は乗員138の腹部142の前方に位置しやすくなり、クッション200の形状を変化させることなく、異形ステアリングホイール106と腹部142とによるクッション200の挟持を起こしやすくすることができる。
【0078】
図8は、図3の各パネルの変形例を例示した図である。図8(a)は、図3(c)のサイドパネル124と図3(b)のステアリング側パネル122とが一体になった構成(第1の一体型パネル240)を例示している。一体型パネル240では、サイドパネル242の小径側の弧とステアリング側パネル244の縁の一部が連続していて、上記サイドパネル124とステアリング側パネル122とが一枚のパネルで実現されている。この一体型パネルと図3(a)の乗員側パネルとを合わせることによっても、上述した円錐台状のクッション104を好適に実現することが可能である。
【0079】
図8(b)は、図3(c)のサイドパネル124と図3(a)の乗員側パネル120とが一体になった構成(第2の一体型パネル260)を例示している。一体型パネル260では、サイドパネル262の大径側の弧と乗員側パネル264の縁の一部が連続していて、上記のサイドパネル124と乗員側パネル120とが一枚のパネルで実現されている。この一体型パネル260と図3(b)のステアリング側パネル122とを合わせることによっても、上述した円錐台状のクッション104を好適に実現することが可能である。
【0080】
図9は、図2(c)のベントホール126a、126bの変形例を例示した図である。図9(a)は、図2(c)のベントホール126a、126bの第1変形例(第2のベントホール280a、280b)を例示している。このベントホール280a、280bは、サイドパネル124とステアリング側パネル122との境界282の一部を開放することで形成されている。サイドパネル124とステアリング側パネル122との境界は車両前側に位置していて、特に上側であれば周囲に乗員138(図4参照)の身体は位置していない。そこで、サイドパネル124とステアリング側パネル122との境界282の上側の一部を開放してベントホール280a、280bとすることで、乗員138の存在しない方向にガスを排出することが可能になる。
【0081】
図9(b)は、図2(c)のベントホール126a、126bの第2変形例(第3のベントホール300a、300b)を例示している。このベントホール300a、300bは、ステアリング側パネル122に設けられている。ステアリング側パネル122のうち異形ステアリングホイール106(図4等参照)とは接触しない箇所にベントホール300a、300bを開けることによっても、乗員138の存在しない方向にガスを排出することが可能になる。
【0082】
なお、上述した第1のベントホール126a、126b、第2のベントホール280a、280bおよび第3のベントホール280a、280bは、一つのエアバッグクッションに対して同時に実施することも可能である。エアバッグクッションは、乗員との位置関係や周囲の構造物の配置に応じて、これら各ベントホールを適宜実施することが可能である。
【0083】
図10は、図5(a)のテザー150a、150bの変形例を例示した図である。図10(a)は、図5(a)のテザー150a、150bの第1変形例(テザー320)を例示した図である。テザー320は、クッション104の内部に1本のみ設けられていて、乗員側パネル120の中央の下側とステアリング側パネル122の下側とに接続されている。テザー320の寸法もまた、クッション104の膨張展開時に緊張して乗員側パネル120をステアリング側パネル122側に引っ張る長さに設定されている。テザー320を備えることで、乗員側パネル120の下部104bの膨張を抑え、クッション104を乗員138(図4参照)の腹部142の前方に入り込ませやすくすることができる。
【0084】
図10(b)は、図5(a)のテザー150a、150bの第2変形例(テザー340)を例示した図である。テザー340もまた、クッション104の内部に1本のみ設けられていて、乗員側パネル120の中央の上側とステアリング側パネル122の上側とに接続されている。テザー340の寸法もまた、クッション104の膨張展開時に緊張して乗員側パネル120をステアリング側パネル122側に引っ張る長さに設定されている。
【0085】
テザー340によれば、乗員側パネル120の上部の膨張を抑えることができる。例えば、乗員側パネル120に窪みを形成し、この窪みによって乗員138(図4参照)の頭部140に対する負荷を低減することができる。特に、乗員138が非正規着座位置(通称アウトオブポジション)にいた場合、乗員138の乗員側パネル120への接触時の荷重が大きくなるおそれがある。その場合、テザー340によって乗員側パネル120のうち頭部140の接触しそうな箇所の膨張を抑えることで、頭部140に対する傷害値を抑えることが可能になる。
【0086】
なお、上述した第1変形例のテザー320および第2変形例のテザー340は、一つのエアバッグクッションに対して同時に実施することも可能である。この構成によって、エアバッグクッションは、下部を乗員の腹部の前方に入り込ませつつ、上部では窪みを形成して頭部に対する負荷を抑えることが可能になる。
【0087】
図11は、図2(a)のクッション104の内部構造の変形例を例示した図である。図11(a)は、図2(a)のクッション104の各パネルを透過して内部構造を例示している。クッション104には、新たな内部構造として、整流布360が備えられている。
【0088】
整流布360は、インフレータ112(図2(a)参照)のガスを特定の方向に導く部材であり、クッション104の内部にて、挿入されたインフレータ112のガス排出口116を有する部分を覆った状態で、ステアリング側パネル122に接続されている。整流布360は、インフレータ112の下方にガスを排出する開口部364を有し、側部にもガスを排出する小径の排気口366a、366b(図11(c)参照)を有している。
【0089】
図11(b)は、図11(a)の整流布360を側方から例示した図である。整流布360は、縫製によって袋状に形成されていて、下方側の縁が開放されて開口部364が形成されている。
【0090】
図11(c)は、図11(b)の整流布360の縫製を解いて平面上に広げた状態を例示している。整流布360は、中央にインフレータ112(図2(a)参照)の一部が挿入される挿入口368が設けられていて、インフレータ112のスタッドボルト118によってステアリング側パネル122と共にハブ108(図1(a)参照)の内部に固定される。排気口366a、366bは、左右の二箇所に設けられていて、ガスをクッション104の中央付近へと供給する。開口部364は、排気口366a、266bよりも大きな径に形成され、排気口366a、266bよりもガスの通過量が多い。
【0091】
上記の整流布360によって、インフレータ112から供給されるガスは、開口部364を通じてクッション104(図11(a))の下部104bへと優先的に供給される。これによって、クッション104は、下部104b側から乗員の腹部方向に向かって早期に展開を開始する。この構成によれば、クッション104は、下部104bを早期に異形ステアリングホイール106(図4参照)と乗員138の腹部142との間に入り込ませ、乗員138に対して腹部138から初期拘束を開始しつつ、下部104bを異形ステアリングホイール106と腹部142とに挟持させて全体の姿勢を安定させることが可能になる。
【0092】
なお、整流布360は、上述した内部テザー144等の各テザーとも同時に実施することが可能である。このとき、各テザーは、整流布360の開口部364からのガスの流れを阻害しない位置に設けると好適である。
【0093】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0094】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、緊急時に乗員を拘束する運転席用エアバッグに利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12