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特許7148679免震構造用ダンパー機構、免震構造用ダンパー機構の配置構造、免震構造用トリガー機構、免震構造用トリガー機構の配置構造、免震構造用すべり支承機構、及び建物
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  • 特許-免震構造用ダンパー機構、免震構造用ダンパー機構の配置構造、免震構造用トリガー機構、免震構造用トリガー機構の配置構造、免震構造用すべり支承機構、及び建物 図1A
  • 特許-免震構造用ダンパー機構、免震構造用ダンパー機構の配置構造、免震構造用トリガー機構、免震構造用トリガー機構の配置構造、免震構造用すべり支承機構、及び建物 図1B
  • 特許-免震構造用ダンパー機構、免震構造用ダンパー機構の配置構造、免震構造用トリガー機構、免震構造用トリガー機構の配置構造、免震構造用すべり支承機構、及び建物 図2
  • 特許-免震構造用ダンパー機構、免震構造用ダンパー機構の配置構造、免震構造用トリガー機構、免震構造用トリガー機構の配置構造、免震構造用すべり支承機構、及び建物 図3
  • 特許-免震構造用ダンパー機構、免震構造用ダンパー機構の配置構造、免震構造用トリガー機構、免震構造用トリガー機構の配置構造、免震構造用すべり支承機構、及び建物 図4
  • 特許-免震構造用ダンパー機構、免震構造用ダンパー機構の配置構造、免震構造用トリガー機構、免震構造用トリガー機構の配置構造、免震構造用すべり支承機構、及び建物 図5
  • 特許-免震構造用ダンパー機構、免震構造用ダンパー機構の配置構造、免震構造用トリガー機構、免震構造用トリガー機構の配置構造、免震構造用すべり支承機構、及び建物 図6
  • 特許-免震構造用ダンパー機構、免震構造用ダンパー機構の配置構造、免震構造用トリガー機構、免震構造用トリガー機構の配置構造、免震構造用すべり支承機構、及び建物 図7
  • 特許-免震構造用ダンパー機構、免震構造用ダンパー機構の配置構造、免震構造用トリガー機構、免震構造用トリガー機構の配置構造、免震構造用すべり支承機構、及び建物 図8
  • 特許-免震構造用ダンパー機構、免震構造用ダンパー機構の配置構造、免震構造用トリガー機構、免震構造用トリガー機構の配置構造、免震構造用すべり支承機構、及び建物 図9
  • 特許-免震構造用ダンパー機構、免震構造用ダンパー機構の配置構造、免震構造用トリガー機構、免震構造用トリガー機構の配置構造、免震構造用すべり支承機構、及び建物 図10
  • 特許-免震構造用ダンパー機構、免震構造用ダンパー機構の配置構造、免震構造用トリガー機構、免震構造用トリガー機構の配置構造、免震構造用すべり支承機構、及び建物 図11
  • 特許-免震構造用ダンパー機構、免震構造用ダンパー機構の配置構造、免震構造用トリガー機構、免震構造用トリガー機構の配置構造、免震構造用すべり支承機構、及び建物 図12
  • 特許-免震構造用ダンパー機構、免震構造用ダンパー機構の配置構造、免震構造用トリガー機構、免震構造用トリガー機構の配置構造、免震構造用すべり支承機構、及び建物 図13
  • 特許-免震構造用ダンパー機構、免震構造用ダンパー機構の配置構造、免震構造用トリガー機構、免震構造用トリガー機構の配置構造、免震構造用すべり支承機構、及び建物 図14
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】免震構造用ダンパー機構、免震構造用ダンパー機構の配置構造、免震構造用トリガー機構、免震構造用トリガー機構の配置構造、免震構造用すべり支承機構、及び建物
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20220928BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
E04H9/02 331E
F16F15/02 L
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021107090
(22)【出願日】2021-06-28
(62)【分割の表示】P 2017209381の分割
【原出願日】2017-10-30
(65)【公開番号】P2021156160
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】303046244
【氏名又は名称】旭化成ホームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100213436
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 直俊
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康明
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】特許第4470336(JP,B2)
【文献】特開2008-156945(JP,A)
【文献】特開2016-044724(JP,A)
【文献】特開2017-044036(JP,A)
【文献】特許第4048878(JP,B2)
【文献】特開2008-214986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00-9/16
F16F 15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造体と、下部構造体の上方に設けられた上部構造体との間に設けられ、
前記下部構造体と前記上部構造体とを連結する連結部材を備え、
前記下部構造体と前記上部構造体との間に所定量以上の変位が加わった場合に、前記下部構造体又は前記上部構造体と、前記連結部材との間の連結が解除されるよう構成されており、
前記連結部材は
記上部構造体の側から前記下部構造体の側に渡り水平面に沿って配置された板状部材であり、当該連結部材の水平方向の剛性が、前記連結部材の鉛直方向の剛性よりも大きく、
水平面に対して傾斜する方向に弾性変形させた状態で前記下部構造体及び前記上部構造体に連結されている、免震構造用トリガー機構。
【請求項2】
前記連結部材は、前記水平方向の剛性が前記鉛直方向の剛性の1000倍以上となるように構成されている、請求項1に記載の免震構造用トリガー機構。
【請求項3】
前記連結部材の水平方向の圧縮耐力が、前記下部構造体又は前記上部構造体と前記連結部材との連結が解除される際の力よりも大きい、請求項1又は2に記載の免震構造用トリガー機構。
【請求項4】
前記下部構造体又は前記上部構造体と前記連結部材とを連結する連結材を有し、該連結材は、所定の変位で切断するよう構成されている、請求項1からの何れか一項に記載の免震構造用トリガー機構。
【請求項5】
前記免震構造用トリガー機構は、前記下部構造体及び前記上部構造体の外周縁に設けられている、請求項1からの何れか一項に記載の免震構造用トリガー機構の配置構造。
【請求項6】
下部構造体と、下部構造体の上方に設けられた上部構造体との間に設けられ、
前記下部構造体又は前記上部構造体に固定されるすべり支承を有し、
前記上部構造体が前記すべり支承を介して前記下部構造体上を滑動するよう構成されており、
前記すべり支承は、その底面部が当該すべり支承が固定されている側の前記下部構造体又は前記上部構造体から他方に向けて凸となるように突出して当該他方に接し、且つ、当該固定されている側の前記下部構造体又は前記上部構造体との間に空間を形成する凹部を有し、
前記空間に硬化性流動体からなる充填体が設けられている、免震構造用すべり支承機構。
【請求項7】
前記充填体は、圧縮強度が40N/mm2以上である、請求項に記載の免震構造用すべり支承機構。
【請求項8】
請求項1からの何れか一項に記載の免震構造用トリガー機構と、
請求項又はに記載の免震構造用すべり支承機構と、を備える建物。
【請求項9】
免震構造用トリガー機構と、
請求項6又は7に記載の免震構造用すべり支承機構と、を備え、
前記免震構造用トリガー機構は、
下部構造体と、下部構造体の上方に設けられた上部構造体との間に設けられ、
前記下部構造体と前記上部構造体とを連結する連結部材を備え、
前記下部構造体と前記上部構造体との間に所定量以上の変位が加わった場合に、前記下部構造体又は前記上部構造体と、前記連結部材との間の連結が解除されるよう構成されており、
前記連結部材は、前記上部構造体の側から前記下部構造体の側に渡り水平面に沿って配置された板状部材であり、当該連結部材の水平方向の剛性が、前記連結部材の鉛直方向の剛性よりも大きい、建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造用ダンパー機構、免震構造用ダンパー機構の配置構造、免震構造用トリガー機構、免震構造用トリガー機構の配置構造、免震構造用すべり支承機構、及び建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地震に備えた建物の構造として、例えば、免震構造の建物がある。免震構造の建物は、基礎等の下部構造体と、下部構造体の上方に設けられた上部構造体と、下部構造体及び上部構造体の間に設けられた免震手段と、を備えている。免震手段は、例えば、オイルダンパー、鉛ダンパー、U型ダンパー等が知られており、上部構造体に加わる荷重を低減する機能を有している。
【0003】
ここで、特許文献1には、所要形状に形成した鉛柱体等よりなるダンパー本体の少なくとも一端に、建築物等の構造体に対する取付板を備えた鉛ダンパーが開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の鉛ダンパーの構造では、高さ方向の寸法が大きくなってしまい、建物全体としての高さが高くなってしまう。また、下部構造体と上部構造体との間に十分な高さの空間を確保しなければならず、比較的小規模な建物には適していない。
【0005】
また、特許文献2には、弾塑性材料からなるU字状の湾曲状部材の接合部を上部構造と下部構造にそれぞれ固定した減衰機構を有する、いわゆるU型ダンパーが開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載のU型ダンパーは、滑動時に初期の寸法を超えて上下に大きく変形するため、下部構造体と上部構造体との間に十分な高さの空間を確保しなければならず、比較的小規模な建物には適していない。
【0007】
なお、オイルダンパーは高価であり、採用すると建物全体のコストが増大してしまう。
【0008】
また、外力の大きさに応じて振動モードを切り替えることで構造物の損傷を低減することが可能なトリガー機構を持つ免震構造も知られている。
【0009】
例えば、特許文献3には、所定の地震レベルを超える地震が発生した場合に作動するトリガー機構が開示されている。これによれば、当該トリガー機構が作動することにより、免震装置が稼働して嫌振機器類を保護することができる。
【0010】
しかしながら、特許文献3に記載のトリガー機構では、トリガー機構が作動する際の荷重が一定の大きさを超えると、上部構造体の転倒モーメントによる引抜力、または耐力壁による局所的な引抜力により、トリガー部分に引張力が生ずる可能性がある。すると、当初想定した荷重よりも小さい荷重で、トリガー機構が作動してしまう虞がある。
【0011】
また、特許文献4には、所定の水平変位を超えない地震や風、交通振動等による小さな振動に対しては、第一の振動減衰装置と第二の振動減衰装置とを共に作動させ、所定の水平変位を超える地震による大きな振動に対しては、トリガー機構が作動して上部構造体及び下部構造体のうちの少なくとも一方に対する第二の振動減衰装置の連結を解除することにより第一の振動減衰装置のみを作動させるようにした構成が開示されている。
【0012】
しかしながら、特許文献4のようなトリガー機構は、構造が複雑で部材が大きくなることから、比較的小規模な建物には適していない。
【0013】
また、特許文献5には、すべり板と、当該すべり板に対して滑動可能に配置された本体部(摺動体)とを備えるすべり支承装置において、薄板鋼板を凹状に成型しグラウト材を充填することで、免震装置のすべり板を形成する技術が開示されている。
【0014】
しかしながら、特許文献5に記載のすべり支承装置は、上部構造体及び下部構造体の両方にグラウト材を充填した上沓及び下沓を備え、その間に摺動体を挟み込んでいるため、部品数が多く、免震装置の高さも高くなってしまう。このため、比較的小規模な建物には適していない。
【0015】
また、特許文献6には、住宅等の構造物に設置される、トリガー機構やゴム積層体からなる復元部材を有する免震装置について開示されている。
【0016】
しかしながら、従来のこれらのトリガー機構、復元部材、を備える免震装置では、装置が大型であるため建物全体としても大きくなってしまうこと、また、装置が高価になるといった問題がある。こういった建物は、住宅が密集する狭小地域には向いていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特許第4846142号公報
【文献】特許第3543004号公報
【文献】特許第4470336号公報
【文献】特許第4029685号公報
【文献】特許第4048878号公報
【文献】特開2004-100929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
それゆえ、本発明は、安価で、高さの低い免震構造用ダンパー機構、及びその配置構造を提供することを目的とする。また、本発明は、上部構造体の転倒モーメント等によりトリガー機構に浮上りが生じたとしても、所期した性能を発揮し得、高さの低い免震構造用トリガー機構、及びその配置構造を提供することを目的とする。また、本発明は、安価に製造可能で高さの低い免震構造用すべり支承機構を提供することを目的とする。さらに、本発明は、建物全体としての大型化を伴わず、安価に、上部構造体の損傷を軽減可能な免震構造の建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の免震構造用ダンパー機構は、
下部構造体と、下部構造体の上方に設けられた上部構造体との間に設けられ、
前記下部構造体と前記上部構造体との間に生じる変位を縮小する変位縮小機構を備え、
該変位縮小機構はリンク機構を有するとともに、変形によりエネルギーを吸収して変位を低減させる変位抑制部を有することを特徴とする。
【0020】
なお、本発明の免震構造用ダンパー機構にあっては、
前記変位縮小機構は、
複数の横材と、
隣り合う前記横材に対して両端部がそれぞれ回動可能に接続された複数の縦材と、
隣り合う前記縦材を接続する前記変位抑制部と、を有し、
前記複数の横材のうち、一の横材の端部が、下部構造体に直接又は間接的に接続され、他の横材の端部が、上部構造体に直接又は間接的に接続されていることが好ましい。
【0021】
また、本発明の免震構造用ダンパー機構にあっては、前記変位縮小機構が最大変形に達した際に、前記隣り合う縦材が相互に接触することで前記最大変形を超える変形を抑制することが好ましい。
【0022】
また、本発明の免震構造用ダンパー機構にあっては、前記変位抑制部は、低降伏点鋼及び極低降伏点鋼の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0023】
また、本発明の免震構造用ダンパー機構の配置構造は、一方の前記免震構造用ダンパー機構の支点間の距離が拡がった際に、他方の前記免震構造用ダンパー機構の支点間の距離は縮まるように、少なくとも2つの前記免震構造用ダンパー機構が対称に配置されていることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の免震構造用トリガー機構は、下部構造体と、下部構造体の上方に設けられた上部構造体との間に設けられ、
前記下部構造体と前記上部構造体とを連結する連結部材を備え、
下部構造体と上部構造体との間に所定量以上の変位が加わった場合に、下部構造体又は上部構造体と、連結部材との間の連結が解除されるよう構成されており、
前記連結部材の水平方向の剛性が、前記連結部材の鉛直方向の剛性よりも大きいことを特徴とする。
【0025】
また、本発明の免震構造用トリガー機構にあっては、前記連結部材は、水平面と略平行となるように配置された板状部材であることが好ましい。
【0026】
また、本発明の免震構造用トリガー機構にあっては、前記連結部材は、前記水平方向の剛性が前記鉛直方向の剛性の1000倍以上となるように構成されていることが好ましい。
【0027】
また、本発明の免震構造用トリガー機構にあっては、前記連結部材は、水平面に対して傾斜するように弾性変形させた状態で前記下部構造体及び前記上部構造体に連結されていることが好ましい。
【0028】
また、本発明の免震構造用トリガー機構にあっては、前記連結部材の水平方向の圧縮耐力が、前記下部構造体又は前記上部構造体と前記連結部材との連結が解除される際の力よりも大きいことが好ましい。
【0029】
また、本発明の免震構造用トリガー機構にあっては、前記下部構造体又は前記上部構造体と前記連結部材とを連結する連結材を有し、該連結材は、所定の変位で切断するよう構成されていることが好ましい。
【0030】
また、本発明の免震構造用トリガー機構の配置構造は、前記免震構造用トリガー機構は、前記下部構造体及び前記上部構造体の外周縁に設けられていることを特徴とする。
【0031】
また、本発明の免震構造用すべり支承機構は、
下部構造体と、下部構造体の上方に設けられた上部構造体との間に設けられ、
前記下部構造体又は前記上部構造体に固定されるすべり支承を有し、
前記上部構造体が前記すべり支承を介して前記下部構造体上を滑動するよう構成されており、
前記すべり支承は、
平板部と、
該平板部に連なる凹部と有し、
該凹部と、前記下部構造体又は前記上部構造体とで形成される空間に硬化性流動体からなる充填体が設けられていることを特徴とする。
【0032】
また、本発明の免震構造用すべり支承機構にあっては、前記充填体は、圧縮強度が40N/mm2以上であることが好ましい。
【0033】
また、本発明の免震構造用すべり支承機構にあっては、前記すべり支承の前記凹部は、側面部と底面部とを有することが好ましい。
【0034】
また、本発明の建物は、上記の何れかの免震構造用ダンパー機構および/または上記の免震構造用ダンパー機構の配置構造と、
上記の何れかの免震構造用トリガー機構および/または上記の免震構造用トリガー機構の配置構造と、
上記の何れかの免震構造用すべり支承機構と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、安価で、高さの低い免震構造用ダンパー機構、及びその配置構造を提供することができる。また、本発明によれば、上部構造体の転倒モーメント等によりトリガー機構に浮上りが生じたとしても、所期した性能を発揮し得、高さの低い免震構造用トリガー機構、及びその配置構造を提供することができる。また、本発明によれば、安価に製造可能で高さの低い免震構造用すべり支承機構を提供することができる。さらに、本発明によれば、建物全体としての大型化を伴わず、安価に、上部構造体の損傷を軽減可能な免震構造の建物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1A】本発明の一実施形態としての建物を示す側面図である。
図1B図1Aの建物において、上部構造体が水平移動した状態を示す側面図である。
図2】本発明のダンパー機構の一例を示す平面図である。
図3図1のダンパー機構の側面図である。
図4図2のダンパー機構の引張り方向の変位を示す平面図である。
図5図2のダンパー機構の圧縮方向の変位を示す平面図である。
図6】ダンパー機構の変形例を示す平面図である。
図7】ダンパー機構の他の変形例を示す平面図である。
図8】複数のダンパー機構を建物に設ける場合の一例を示す平面図である。
図9】建物に水平方向の変位が生じた場合の、ダンパー機構の変位の一例を示す平面図である。
図10】複数のダンパー機構を設ける場合の他の実施形態である。
図11】本発明のトリガー機構の一例を示す側面図である。
図12図11のトリガー機構の平面図である。
図13】本発明のすべり支承機構の一例を示す側面図である。
図14図13のすべり支承機構の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本発明の建物構造は、上部構造体10と、下部構造体20との間に、ダンパー機構30(免震構造用ダンパー機構)、トリガー機構40(免震構造用トリガー機構)、及びすべり支承機構50(免震構造用すべり支承機構)の少なくとも何れかを備えている。
【0038】
図1A図1Bに示すように、建物1は、例えば、二階建て或いは三階建て等の住宅である。建物1は、上部構造体10と、下部構造体としての基礎20とを備えている。基礎20は、地盤G上に設置され、上部構造体10等を支持する。
【0039】
建物1は、例えば、鉄骨造の軸組みを有する工業化住宅や、木造住宅等とすることができる。なお、工業化住宅としては例えば、鉄筋コンクリート造の基礎20と、柱や梁などの軸組部材で構成される軸組架構を有し、基礎20の上方に設けられた上部構造体10と、で構成される。なお、軸組架構を構成する軸組部材は、予め規格化(標準化)されたものとすることができ、その場合、予め工場にて製造されたのち建築現場に搬入されて組み立てられる。
【0040】
上部構造体10は、基礎20の上方に設けられており、内部に居室等の室内空間を有している。上部構造体10は、予め定められた設計規準に基づいて設計及び構築されている。ここで、予め定められた設計規準とは、日本における建築基準法、又は外国における建物に関する法律等、建物が満たすべき強度に関する基準を含む種々の法令又は定め等であってもよい。上部構造体10は、設計規準に示された強度に関する基準を満たし、耐震構造(制振構造)を実現できる構造であれば、種々の構造を採用できる。
【0041】
本例の建物1にあっては、上部構造体10と基礎20の間に、ダンパー機構30、トリガー機構40、及びすべり支承機構50が設けられている。平面視では、例えば図8に示すように、ダンパー機構30、トリガー機構40、及びすべり支承機構50が配置される。
【0042】
以下に、上部構造体10に水平荷重が加わった場合の各部の基本的な動作について説明する。上部構造体10に加わる水平荷重がトリガー機構40の破断強度(連結状態が解除され非連結となる強度)を超えるまでは、トリガー機構40によって上部構造体10と基礎20とが連結されているため、トリガー機構40が地震による水平荷重(地震力)に抵抗を付与する。すなわち、設計規準に基づいて設計された上部構造体10の構成によって、上部構造体10は耐震構造(制振構造)として修復性を発揮する。このように、設計規準で規定された地震(極めて稀に起きる地震)までは、建物1は耐震構造(制振構造)として損傷を抑制する。
【0043】
一方、地震等によって、上部構造体10にトリガー機構40の耐力(破断強度)を超える水平荷重が加わった場合、図1Bに示すように、トリガー機構40が破断して連結状態が解除される。この場合、上部構造体10は、ダンパー機構30及びすべり支承機構50によって移動が制限されつつ、すべり支承機構50によって水平に移動(滑動)する。すなわち、上部構造体10は免震状態として修復性を発揮する。このように、設計規準で規定された地震を超える地震(極めて大きな地震)が生じた場合、建物1は免震状態として損傷を抑制する。
【0044】
以下に、ダンパー機構30について説明する。図2は、ダンパー機構30の一例を示す平面図であり、図3は、側面図である。
【0045】
図2は、ダンパー機構30が変形する前の初期状態を示している。本例のダンパー機構30は、リンク機構を構成する変位縮小機構31を備える。
【0046】
変位縮小機構31は、変形によりエネルギーを吸収して変位を低減させる変位抑制部32を有する。変位抑制部32としては、例えば、縦材35、36や横材33、34よりも降伏点が低い低降伏点鋼、極低降伏点鋼、または、低降伏点鋼及び極低降伏点鋼の組合せや複合物とすることができるが、これに限られるものではない。
【0047】
本例において、変位縮小機構31は、基礎20と上部構造体10との相対的な水平方向の変位の変位を縮小して変位抑制部32に出力可能なリンク機構を構成している。なお、変位縮小機構31は、上部構造体10と基礎20との間に生じた変位を縮小可能なものであればよく、例えば、滑車機構、又は、てこ機構等としてもよい。
【0048】
変位縮小機構31は、略平行に配置された複数の横材33、34を備える。また変位縮小機構31は、隣り合う一対の横材33、34に対して両端部がそれぞれ回動可能に接続された複数の縦材35、36を備える。本例では、横材33、34は、同形状の長尺部材であり、一方の横材33に対して他方の横材34は、180°回転させた向きに平行に配置される。横材33、34及び縦材35、36は、鉄等の鋼材で形成することができるが、これに限定されず、例えば、ステンレス、エンジニアリングプラスチック、セラミック等で形成することも可能である。なお、変位縮小機構31は、3本以上の横材を有する構成としてもよい。例えば、3本の略平行な横材を有する場合、中央の横材と、中央の横材の一方側に位置する横材とを縦材で接続するとともに、中央の横材と他方側に位置する横材とを縦材で接続する構成とすることができる。
【0049】
本例では、複数の横材33、34のうち、一の横材33の端部33aが、基礎20に接続されている。また、他の横材34の端部34aが、上部構造体10に間接的に接続されている。横材33の端部33aは、本例のように接続部材37を介して間接的に基礎20に接続してもよいし、直接、基礎20に接続してもよい。また、図3に示すように、上部構造体10の下方には鉄骨基礎11を設けることができ、本例では、横材34の端部34aが、接続部材38を介して鉄骨基礎11に接続されている。なお、本例のように横材34の端部34aを間接的に上部構造体10に接続してもよいし、直接、上部構造体10に接続してもよい。鉄骨基礎11は、例えばH型鋼などで構成することができる。
【0050】
縦材35、36は、各横材33、34に対して固定されたボルト等の締結部材により回動可能に軸支されている。一対の縦材35、36は、同一形状の部材で構成され、一方の縦材35と、他方の縦材36とは対向する向きで平行に配置されている。また、本例では、一対の横材33、34の間に、4組(4対)の一対の縦材35、36が等間隔で配置されている。隣り合う縦材35、36には、一方の縦材35と他方の縦材36とを接続する変位抑制部32が固定されている。本例では、一対の縦材35、36の上面側及び下面側にそれぞれ等間隔に6個ずつ、つまり合計12個の変位抑制部32が配置されているが、変位抑制部32の数及び配置は適宜変更可能であり、上面側のみ、または下面側のみとしてもよい。変位抑制部32は、縦材35、36に対してボルト等の締結部材又は溶接等により固定される。なお、変位抑制部32と一対の縦材35、36とを、一体に形成した一つの部材で構成してもよい。変位抑制部32の大きさや数量は、想定される上部構造体10の変位から決定することができる。なお、変位縮小機構31は、3本以上の縦材を有する構成としてもよい。例えば、3本の略平行な縦材を有する場合、中央の縦材と、中央の縦材の一方側に位置する縦材とを変位抑制部で接続するとともに、中央の縦材と他方側に位置する縦材とを変位抑制部で接続する構成とすることができる。
【0051】
本例において、隣り合う一対の縦材35、36の間には、隙間39が形成されている。隙間39は、変位縮小機構31が許容される最大変形に達した際に、一対の縦材35、36同士が接触するように設定されており、これにより、最大変形を超える変形を抑制することができる。すなわち、ダンパー機構30を、基礎20に対する上部構造体10の移動範囲を規制するストッパーとしても機能させることができる。なお、隙間39の距離が大きすぎると、変位抑制部32が面外方向に変形した場合に当該隙間39に入り込む虞があるので、隙間39の距離は変位抑制部32が、入り込まない距離とすることが望ましい。ここで、変位縮小機構31の最大変形を超える変形を抑制する構成は、上記のような隙間39を設ける構成に限られるものではない。例えば、隣り合う縦材35、36を上下方向に異なる高さに配置した上で、何れか一方の縦材に突起を設けて、変位縮小機構31が最大変形に達した際に、当該突起が他方の縦材に接触して縦材を停止させる構成とすることができる。このような構成でも、変位縮小機構31の、最大変形を超える変形を抑制することができる。
【0052】
図4、5は、基礎20と上部構造体10との間で変位が生じた際の、ダンパー機構30の変形の様子を示している。図4、5は、基礎20に対する上部構造体10の変位の方向がそれぞれ異なる場合を示している。
【0053】
図4は、一方の横材33の端部33aと他方の横材34の端部34aとの距離が拡大するように変位縮小機構31が変形した場合、すなわち変位縮小機構31が引張り方向に変形した場合の、最大変形状態を示している。これに対して、図5は、変位縮小機構31が圧縮方向に変形した場合の、最大変形状態を示している。
【0054】
図4に示すように、基礎20に対して上部構造体10が、水平方向に長さL1だけ変位した場合、それぞれの変位抑制部32には、長さL2分の変位が生じる。つまり、基礎20と上部構造体10との間に生じる変位L1が、変位縮小機構31のリンク機構によって変位L2に縮小されて各変位抑制部32に伝わることとなる。具体的には、例えば、変位L1が約350mmである場合に変位L2が約34mmとなる、すなわち、変位の大きさが約1/10に縮小されるような構成とすることができる。
【0055】
このようにして、基礎20と上部構造体10との間に変位が生じる際に、各変位抑制部32にはせん断エネルギーが働き、せん断変形が生じることとなる。このように、各変位抑制部32が変形することにより、エネルギーが吸収されて、上部構造体10の移動速度が制限される。
【0056】
また、基礎20に接続された端部33aに対する、上部構造体10に接続された端部34aの移動範囲は所定の範囲内に制限されるため、基礎20に対する上部構造体10の移動範囲が制限されることとなる。
【0057】
このように、ダンパー機構30によれば、基礎20に対する上部構造体10の移動速度、及び移動範囲を制限することができる。
【0058】
また、本実施形態のダンパー機構30では、基礎20と上部構造体10との間に生じた変位の変位を、変位縮小機構31により縮小して変位抑制部32に伝える構成としたことにより、基礎20と上部構造体10との間に生じ得る変位の長さに対して、変位抑制部32の大きさを小さく設定することができる。これにより、安価で、低背のダンパー機構30を実現することができる。
【0059】
また、本実施形態のダンパー機構30では、リンク機構である変位縮小機構31と低降伏点鋼(または極低降伏点鋼)である変位抑制部32とを組み合わせたことで、比較的小さい変位抑制部32のせん断変形量で、大きな上部構造体10の変位に対応することができる。
【0060】
図6、7は、ダンパー機構30の変形例を示している。例えば、図6に示すように、一対の横材33、34に対して、一対の縦材35、36を3組(つまり、3対)設けた構成としてもよいし、図7に示すように、例えば4組の一対の縦材35、36のうち、変位抑制部32を設けない組を2組設ける等、変位抑制部32の数を増減してもよい。
【0061】
ここで、建物1に複数のダンパー機構30を設ける場合には、一方のダンパー機構30の支点間の距離が拡がった際に、他方のダンパー機構30の支点間の距離が縮まるように、少なくとも2つのダンパー機構を対称に配置することが好ましい。なお、ダンパー機構30の支点とは、ダンパー機構30において上部構造体10及び下部構造体(基礎20)にそれぞれ接続される点であり、本例では、変位縮小機構31において基礎20に接続される横材33の端部33aと、上部構造体10に接続される他の横材34の端部34aである。図8に示す例では、2つのダンパー機構301、302が、平面視における建物1の中心点の周りで点対称に配置されている。
【0062】
図8に示すように、さらにダンパー機構303と304を配置することで、ダンパー機構301、302に直交する荷重に対しても対応可能とすることができる。図8に示すように、2つのダンパー機構303、304も点対称に配置されている。図9の破線矢印に示す方向に上部構造体が水平移動した場合、一方のダンパー機構304には引張力が働いて支点間の距離が拡がり、他方のダンパー機構303には圧縮力が働いて支点間の距離が縮まる。これにより、ダンパー機構304、303のリンク機構の幾何学的非線形性による荷重変形関係の正と負の非対称性を相殺させることができ、結果として免震層の設計を容易化することができる。なお、一方のダンパー機構304に圧縮力が働いて支点間の距離が縮まる場合、他方のダンパー機構303には引張力が働いて支点間の距離が拡がる。なお、ダンパー機構301、302についても、一方のダンパー機構301に引張力が働いて支点間の距離が拡がる際に、他方のダンパー機構302には圧縮力が働いて支点間の距離が縮まるよう構成されている。また一方のダンパー機構301に圧縮力が働いて支点間の距離が縮まる際には、他方のダンパー機構302には引張力が働いて支点間の距離が拡がることとなる。これにより、特定の方向のみに免震効果が発揮されることを解消し、水平面内のあらゆる方向に免震効果を発揮させることができる。
【0063】
ここで、図8に示す例において、上部構造体10(鉄骨基礎11)が図8に矢印で示すX方向(図8における右側)に変位した場合、ダンパー機構301は支点間の距離が拡がり、ダンパー機構303は支点間の距離が縮まる。同様に、ダンパー機構304は支点間の距離が拡がり、ダンパー機構302は支点間の距離が縮まる。なお、ダンパー機構301とダンパー機構303とは、図8のY方向に平行な直線に対して線対称に配置され、ダンパー機構304とダンパー機構302とは、当該直線に対して線対称に配置されている。
【0064】
図8に示す例において、上部構造体10(鉄骨基礎11)が図8に矢印で示すY方向(図8における下側)に変位した場合、ダンパー機構304は支点間の距離が拡がり、ダンパー機構301は支点間の距離が縮まる。同様に、ダンパー機構302は支点間の距離が拡がり、ダンパー機構303は支点間の距離が縮まる。なお、ダンパー機構304とダンパー機構301とは、図8のX方向に平行な直線に対して線対称に配置され、ダンパー機構302とダンパー機構303とは、当該直線に対して線対称に配置されている。
【0065】
また、建物1に複数のダンパー機構30を設ける場合には、図8に示すように、下部構造体20に接続する端部33aが建物1の中心側に位置し、上部構造体10に接続する端部34aが外周縁側に位置することが好ましい。複数のダンパー機構30の干渉を防止しつつ、水平面内でのあらゆる方向の変位に対応させることができる。
【0066】
図10は、ここで、建物1に複数のダンパー機構30を設ける場合の他の例を示している。図10に示す例では、基礎20に接続される端部33aと、上部構造体10に接続される端部34aを、共に、建物1の中心から離れた位置に配置している。このような位置で複数のダンパー機構30(301、302、303、304)を配置することにより、免震層の捩じり剛性を高めることができる。これにより、免震構造として挙動する際の上部構造体の回転を抑制することができる。なお、図10の例では、4つのダンパー機構30を用いているが、これに限定されず、ダンパー機構30の数は適宜変更可能である。
【0067】
以下に、トリガー機構40について説明する。
【0068】
図11は、トリガー機構40を備えた建物1の一部を示す側面図であり、図12は平面図を示している。トリガー機構40は、下部構造体としての基礎20と上部構造体10とを連結する連結部材41を備える。
【0069】
連結部材41は、基礎20に対して第1連結部41aで連結され、上部構造体10(図示例では鉄骨基礎11)に対して第2連結部41bで連結されている。連結部材41は、基礎20と上部構造体10との間に所定量以上の水平方向の変位が加わった場合に、第1連結部41a連結が解除されて非連結となるように構成されている。なお、連結部材41は、基礎20と上部構造体10との間に所定量以上の水平方向の変位が加わった場合に、第2連結部41bの連結が解除されて非連結となるように構成してもよい。連結部材41は、金属製としてもよいし、エンジニアリングプラスチック等の樹脂製でもよい。
【0070】
連結部材41は、連結部材41の水平方向の剛性が、鉛直方向の剛性よりも大きくなるように構成されている。
【0071】
本例において、連結部材41は、水平面と略平行となるように配置された板状の部材で構成されている。また、本例の連結部材41は、平面視でL字状となっており、L字状の角部が基礎20に対して連結される第1連結部41aとなっており、2箇所の先端部が、上部構造体10に対して連結される第2連結部41bとなっている。
【0072】
本例の第1連結部41aには、連結部材41を基礎20に取付けるための、トリガー基礎取付部材43及びトリガー取付部材44が設けられている。トリガー基礎取付部材43は例えば鋼板で構成され、鋼板から突出して設けられた突出部に連結材としてのトリガーピン42が接続されるトリガーピン用の孔(ボルト孔)が設けられている。トリガー取付部材44は、例えば鋼板で形成される。第2連結部41bには、トリガー基礎取付部材43が設けられている。なお、第1連結部41a及び第2連結部41bの構成は図示例に限定されない。
【0073】
連結部材41は、板状の部材に限られず、例えば円柱、角柱等の棒状としてもよい。また、本例の連結部材41は、平面視でL字状となっているが、これに限られず、例えば長方形状、三角形状としてもよい。
【0074】
連結部材41は、水平面に対して傾斜するように弾性変形させた状態で基礎20及び上部構造体10に連結されている。より具体的には、上部構造体10側の第2連結部41bから、基礎20側の第1連結部41aに向けて、下方に向けて僅かに傾斜している。例えば第2連結部41bと第1連結部41aの高さが1mm~20mm程度異なる位置となるように、下方に向けて傾斜させてもよい。傾斜させすぎると連結部材41の水平方向の剛性による効果を得づらくなる可能性がある。このような構成より、連結部材41が基礎20または上部構造体10に対して非連結となったときに弾性変形していた連結部材41が復元力により水平面と平行な水平状態となり、基礎20に対して上部構造体10が変位する際に、連結部材41が基礎20又は上部構造体10に干渉し難くなる。その結果、非連結となった連結部材41の接触による基礎20または上部構造体10の損傷を防止することができる。
【0075】
また、本例において、連結部材41の水平方向の圧縮耐力は、基礎20又は上部構造体10と連結部材41との連結が解除される際の力(破断耐力)よりも大きくなっている。このような構成により、板状の連結部材41が原形を留めた状態で連結が解除されて非連結となる。つまり、連結部材41が座屈しないので、鉛直方向の剛性を低く保ちながらも確実にトリガーピンを破断させることができる。
【0076】
連結部材41は、第1連結部41aにおいて、基礎20に対して、トリガー基礎取付部材43及びトリガー取付部材44を介してトリガーピン42(連結材)で連結されている。また、連結部材41は、第2連結部41bにおいて、上部構造体10の鉄骨基礎11に対して、トリガー基礎取付部材43を介してボルト45で連結されている。トリガーピン42は、所定の変位で切断するよう構成されたボルトである。所定の変位で切断する連結材とは、例えば、強度区分10.9の中ボルト又は高力ボルト(F10T)とすることができる。このように、降伏比が高く脆性的に破断しやすいボルトを使用することで、所定の変位が働いたときに意図した変位でボルトを切断させることができる。すなわち、トリガー機構40の精度を高めることができる。なお、トリガーピン42は、所定の耐力を有し、伸びが少ないボルトであれば、前述以外のボルトも使用することができる。また、所定の耐力を有し、伸びの少ないものであればボルト以外の部材も使用することができる。また、トリガー機構40を複数設けた場合には、一か所のトリガーピン42が破断したした際に他のトリガーピン42も連続して破断し易い構成とすることが好ましい。複数のトリガーピン42が連続して破断せず一か所でも固定されていると、ダンパー機構30やすべり支承機構50が意図した効果を十分に発揮しない可能性がある。
【0077】
本実施形態のトリガー機構40にあっては、連結部材41の水平方向の剛性が、鉛直方向の剛性よりも大きくなるように構成されていることにより、上部構造体10の転倒モーメント等によりトリガー機構40に浮上りが生じたとしても、トリガーピン42に生ずる引張エネルギーは工学的に十分無視できる程度に留めることができる。なお連結部材41は、鉛直方向に対してはその浮上りに追従して変形する。同様の観点から、連結部材41を構成する板状部材の断面積、及び水平方向の長さにもよるが、例えば、連結部材41の水平方向の剛性が鉛直方向の剛性の1000倍以上となることが好ましい。
【0078】
また、本実施形態のトリガー機構40にあっては、連結部材41を板状部材とすることにより、安価に製造可能となるため、コスト削減が可能となる。また、連結部材41を板状部材とし、水平面(後述する、すべり支承の摺動面)と略平行に設けることで、トリガー機構40全体としての高さを低くする(低背とする)ことができる。また、連結部材41としての板状部材は面外方向の曲げ剛性が低く、面内方向の剛性が高いため、水平方向の剛性を鉛直方向の剛性よりも大きくなるように構成し易くなる。
【0079】
トリガー機構40は、基礎20及び上部構造体10の外周縁に設けられていることが好ましく、これによれば、建物1の外側からトリガー機構40の修復作業を容易に行うことができる。同様の観点から、基礎20の上面の外周縁と、上部構造体10の底面の外周縁は、同形状となっていることが好ましく、さらに、当該外周縁に沿ってトリガー機構40を設置することが好ましい。
【0080】
以下に、すべり支承機構50について説明する。すべり支承機構50は、基礎20上での上部構造体10の水平方向の移動を許容しつつ、上部構造体10の重量を基礎20に伝達する。
【0081】
図13は、すべり支承機構50を備えた建物1の一部を示す側面図であり、図14は平面図を示している。すべり支承機構50は、下部構造体としての基礎20または上部構造体10(鉄骨基礎11)に固定されるすべり支承51を備える。上部構造体10は、すべり支承51を介して基礎20上を滑動するよう構成されている。図12に示すように、すべり支承51は鉄骨基礎11に固定された補強梁59に対して固定してもよい。図13に示すように、本例におけるすべり支承51は、上部構造体10にボルトで固定されているが、上下逆転させて基礎20に固定してもよい。
【0082】
すべり支承51は、平板部52と、平板部52に連なる凹部53と有する。凹部53は、すべり支承51が固定されている上部構造体10側に開口を有する有底筒状部によって構成されており、側面部54と底面部55とを有する。換言すれば、凹部53は、上部構造体10側から基礎20に向けて突出した形状となっている。すべり支承51は、すべり支承取付部材58を介して鉄骨基礎11に対してボルトで固定されている。すべり支承取付部材58は、例えば鋼板で形成することができるが、これに限定されない。また、すべり支承取付部材58には、凹部53(空間S)に充填体56を投入するための開口(貫通孔)が設けられている。
【0083】
凹部53と上部構造体10とで形成される空間Sには、硬化性流動体からなる充填体56が設けられている。すべり支承51は、凹部53を構成する底面部55の下面55aが、基礎20に設けられた受け台57の滑動面57aを滑動するように構成されている。なお、底面部55の大きさは荷重計算によって適宜変更することができる。また、すべり支承51をすべり支承取付部材58に固定するボルトは滑動面57aに接触しないように構成されている。
【0084】
すべり支承51の平板部52と凹部53は、1mm以上の厚さの鋼板で構成されることが好ましい。例えば、鋼板が1mm未満であるとボルトの支圧に耐えられなくなる虞があるが、凹部53と上部構造体10とで形成される空間Sに硬化性流動体からなる充填体56が設けられている場合、鋼板が1mm以上あれば、例えば上部構造体10が、鉛直方向に一時的に浮き上り、着地した際の衝撃荷重に対して十分な耐力を持たせることができる。また、鋼板が厚過ぎると加工が難しくなるため、5mm以下であることが好ましい。このように鋼板を5mm以下とすることで、プレス加工だけで安価に製造することが可能となる。
【0085】
また、すべり支承51を構成する鋼板は、亜鉛メッキ鋼板、ステンレス又はアルミ製であることが好ましい。このように、例えば鋼板を亜鉛メッキ処理することで防錆効果が上がり耐久性があがる。またメッキ処理によりすべり支承51と、基礎20の滑動面57aとの間の摩擦係数を低減し適当な値とすることができる。より具体的には、当該鋼板は、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板とすることが好ましい。
【0086】
また、すべり支承51の凹部53における、基礎20の滑動面57aと滑動可能に接する面(底面部55の下面55a)が、クロメートフリー化成処理されていることが好ましい。この下面55aをクロメートフリー化成処理することで、基礎20の滑動面57aの摩擦を低減することができる。
【0087】
同様に、基礎20の滑動面57aは、クロメートフリー化成処理された鋼板からなることが好ましく、これによれば、すべり支承51の底面部55の下面55aとの摩擦を低減することができる。ここで、すべり支承51と、滑動面57aとの間の摩擦係数は、例えば、0.05以上0.4以下とすることができる。この場合、トリガーが破断するような大きな水平荷重が上部構造体10に加わった場合であっても、免震状態に移行した上部構造体10の滑動変位を抑制することができる。
【0088】
凹部53が側面部54と底面部55とを有する有底筒状であり、凹部53の開口を上部構造体10側の底面で塞ぐようにすることにより、上下左右全方位から拘束することができ、これにより、高圧縮耐力をより高い精度で実現することができる。
【0089】
本実施形態のすべり支承機構50にあっては、すべり支承51の凹部53に設けられた充填体56の周囲の拘束により高圧縮耐力を実現している。これにより、例えば上部構造体10が、鉛直方向に一時的に浮き上り、着地した際の衝撃荷重に対して十分な耐力を持たせることができる。
【0090】
すべり支承51により高圧縮耐力を実現することと、安価であることとの両立を図る観点から、充填体56は、圧縮強度が40N/mm2以上であることが好ましく、例えばモルタルまたはグラウト等の充填剤からなることがより好ましい。
【0091】
また、トリガー機構40は、下部構造体20のたわみ(変形)が少ない場所、例えばすべり支承機構50近傍に設置することが好ましい。たわみが少なく水平が保たれている場所にトリガー機構40を設置すると、トリガーピン42の破断後、下部構造体20に対して水平状態となった連結部材41が、上部構造体10や下部構造体20と衝突することを防止でき、すべり支承機構50やダンパー機構30の効果を発揮しやすくなる。ダンパー機構
【0092】
上述の通り、本発明によれば、建物全体としての大型化を伴わず、安価に、上部構造体の損傷を軽減可能な免震構造の建物1を提供することができる。
【0093】
本発明に係る建物は、上述した実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲で記載された内容を逸脱しない範囲で、様々な構成により実現することが可能である。例えば、建物1に、トリガー機構40およびすべり支承機構50を設けず、ダンパー機構30のみとしてもよいし、ダンパー機構30とトリガー機構40のみとしてもよい。また、ダンパー機構30に加えて、またはダンパー機構30に代えて、他のダンパー等を設けてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1:建物
10:上部構造体
11:鉄骨基礎
20:基礎(下部構造体)
30:ダンパー機構(免震構造用ダンパー機構)
31:変位縮小機構
32:変位抑制部
33、34:横材
33a:一方の横材の端部
34a:他方の横材の端部
35、36:縦材
37、38:接続部材
39:隙間
40:トリガー機構(免震構造用トリガー機構)
41:連結部材
41a:第1連結部
41b:第2連結部
42:トリガーピン(連結材)
43:トリガー基礎取付部材
44:トリガー取付部材
45:ボルト
50:すべり支承機構(免震構造用すべり支承機構)
51:すべり支承
52:平板部
53:凹部
54:側面部
55:底面部
55a:下面
56:充填体
57:受け台
57a:滑動面
58:すべり支承取付部材
G:地盤
L1:下部構造体と上部構造体との間の変位(長さ)
L2:変位抑制部の変位
S:空間
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14