(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】ドデシル硫酸塩がドープされたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 65/00 20060101AFI20220928BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20220928BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220928BHJP
C08K 5/41 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C08L65/00
C08G61/12
C08J5/18 CEZ
C08K5/41
(21)【出願番号】P 2021520422
(86)(22)【出願日】2019-08-20
(86)【国際出願番号】 KR2019010583
(87)【国際公開番号】W WO2020075967
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】10-2018-0120286
(32)【優先日】2018-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521149596
【氏名又は名称】フレックソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ、チョン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソン ソ
(72)【発明者】
【氏名】マ、フォン
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/130326(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/054814(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/201471(WO,A1)
【文献】特開2011-192688(JP,A)
【文献】特開平04-216821(JP,A)
【文献】特開平04-234453(JP,A)
【文献】特開2018-117123(JP,A)
【文献】Improvement of the electrosynthesis and physicochemical properties of poly(3,4-ethylenedioxythiophene) using a sodium dodecyl sulfate micellar aqueous medium,American chemical society,1999年,Vol.15, No.7,pp.2566-2574
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 65/00
C08G 61/12
C08J 5/18
C08K 5/41
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドデシル硫酸金属塩を酸化剤として用いる気相重合法によって形成されたものであることを特徴とする、ドデシル硫酸塩(Dodecyl Sulfate)がドーパントとして含有されたPEDOTフィルム。
【請求項2】
前記ドデシル硫酸金属塩がFe(DS)
3であることを特徴とする、請求項
1に記載のPEDOTフィルム。
【請求項3】
前記ドデシル硫酸塩ドーパントの含有量が5~50%の範囲内であることを特徴とする、請求項1
又は2に記載のPEDOTフィルム。
【請求項4】
電気伝導度が5,500S/cm以上であることを特徴とする、請求項1
~3のいずれか一項に記載のPEDOTフィルム。
【請求項5】
電気伝導度が10,000S/cm以上であることを特徴とする、請求項
4に記載のPEDOTフィルム。
【請求項6】
20nmの厚さで550nmの波長に対して90%以上の光透過率を示すことを特徴とする、請求項1
~5のいずれか一項に記載のPEDOTフィルム。
【請求項7】
300,000回の曲げサイクル後の電気抵抗の変化が9%以下であるか、或いは30%引張後の電気抵抗の変化が10%以下であることを特徴とする、請求項1
~6のいずれか一項に記載のPEDOTフィルム。
【請求項8】
脱イオン水に20日以上浸漬した後にも、電気抵抗の変化が5%以下であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のPEDOTフィルム。
【請求項9】
PEDOT分子層の間にドデシル硫酸塩分子がドープされたラメラ構造であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載のPEDOTフィルム。
【請求項10】
前記PEDOT分子層の間に2つのドデシル硫酸塩分子がドープされたことを特徴とする、請求項
9に記載のPEDOTフィルム。
【請求項11】
請求項1
~10のいずれか一項に記載のPEDOTフィルムを含む電子素子。
【請求項12】
前記PEDOTフィルムは電極として含まれることを特徴とする、請求項
11に記載のPEDOTフィルム。
【請求項13】
基板上にドデシル硫酸金属塩を含む酸化剤膜をコートするステップと、
前記酸化剤膜がコートされた基板上に、気相重合法でPEDOTフィルムを形成するステップと、
前記PEDOTフィルムを洗浄及び乾燥するステップと、を含むことを特徴とする、PEDOTフィルムの製造方法。
【請求項14】
前記ドデシル硫酸金属塩はFe(DS)
3を含むことを特徴とする、請求項
13に記載のPEDOTフィルムの製造方法。
【請求項15】
抑制剤を使用しないことを特徴とする、請求項
13又は
14に記載のPEDOTフィルムの製造方法。
【請求項16】
気相重合法でPEDOTフィルムを製造するのに使用するための酸化剤の製造方法であって、
再結晶法でドデシル硫酸金属塩を析出させるステップと、
前記析出したドデシル硫酸金属塩を洗浄するステップと、
真空凍結乾燥するステップと、を含む、酸化剤の製造方法。
【請求項17】
前記ドデシル硫酸金属塩はFe(DS)
3を含むことを特徴とする、請求項
16に記載の酸化剤の製造方法。
【請求項18】
前記再結晶法でドデシル硫酸金属塩を析出させるステップは、遠心分離法で不純物を除去するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項
17に記載の酸化剤の製造方法。
【請求項19】
前記再結晶法でドデシル硫酸金属塩を析出させるステップは、
ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate)溶液を製造するステップと、
前記ドデシル硫酸ナトリウム溶液にFeCl
3を添加するステップと、を含むことを特徴とする、請求項
17に記載の酸化剤の製造方法。
【請求項20】
前記FeCl
3の添加によって、前記ドデシル硫酸ナトリウム溶液に発生した析出物をメタノールに溶解させて、メタノール溶液を製造するステップと、
前記メタノール溶液に脱イオン水を添加してFe(DS)
3再結晶を析出させるステップと、をさらに含むことを特徴とする、請求項
19に記載の酸化剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年10月10日付の韓国特許出願第2018-0120286号に基づく優先権の利益を主張し、その韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は、本明細書の一部として含まれる。
本発明は、優れた特性のPEDOTフィルム及びその製造方法に係り、特に、ドデシル硫酸塩がドープされたPEDOTフィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機導電性物質(organic conductive material)は、柔軟性、軽量、低コストなどの特性により、フレキシブルデバイス(flexible device)を始めとする様々な電子素子の電極物質として注目されている。有機導電性物質が電極物質として使用されるためには、高い電気伝導度が要求される。ところが、いろいろの導電性高分子の中で盛んに研究されている物質は、ごく少数に過ぎず、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(poly(3,4-ethylenedioxythiophene))(以下、「PEDOT」という)が代表的な物質である。
【0003】
PEDOTは、バンドギャップエネルギーが1.5~1.7eV程度と小さく、透明であり、熱的安定性及び大気中安定性にも優れるため、有機トランジスタ、光電変換素子(photovoltaic device)、ディスプレイ、有機発光素子(OLED:organic light emitting diode)などの様々な素子の透明フレキシブル電極として注目されている。
【0004】
PEDOTフィルムを形成する方法としては、電気重合法(EP:electropolymerization)、気相重合法(VP:vapor-phase polymerization)、溶液キャスティング重合法(SCP:solution casting polymerization)がある。この中でも、電気重合法は、導電性表面にのみコーティングが可能であるという限界があり、溶液キャスティング重合法は、均質なフィルムを得るためには高度の技術が必要であるだけでなく、重合混合物の可使時間(pot life)が短いため、10~20分後には溶液中に不溶性のPEDOT凝集物が形成されるという問題がある。一方、気相重合法は、PEDOTの単量体であるEDOTを気化させて酸化剤(oxidizing agent)がコートされた基板上で重合させる方法であって、相対的に容易に高純度の均質なPEDOTフィルムを得ることができるという利点がある。また、気相重合法で得られたPEDOTフィルムは、電気伝導度が、他の方法を用いた場合に比べて一般的に優れるという結果が報告されている。
【0005】
しかし、現在までに報告されたPEDOTフィルムの電気伝導度は、金属電極を代替するほどではないため、PEDOTフィルムの電気伝導度をさらに向上させることが重要な課題として認識されている。また、PEDOTフィルムをフレキシブルデバイス、ディスプレイ、バイオ素子などに適用するためには、機械的耐久性、可視光透過度、水溶液抵抗性なども確保されなければならないので、このようなフィルム特性に対しても多くの改善が求められている。
【0006】
一方、気相重合法によるPEDOTフィルムの形成において、酸化剤は、重合開始剤として非常に重要な役割を果たすだけでなく、また、酸化剤の陰イオンが高分子のドーパントとして作用する核心的な物質である。知られている酸化剤としては、FeCl3、H2O2、CuCl2、HAuCl4、Fe(III)Tosylate(Fe(Tos)3)、iron(III)fluoromethanesulfonate(Fe(OTf)3)、iron(III)fluride(FeF3)などがあるが、これらの酸化剤は、反応性が大きく、容易に結晶化されるため、PEDOTの効率的な重合と反応制御が難しく、フィルム内に欠陥を発生させるので、高品質のPEDOTフィルムの形成のための酸化剤としては適さない。また、容易に結晶化された酸化剤は、高分子膜が成長するときに酸化剤の陰イオンの効率的なドーピングを防ぐので、高い電気伝導度の高分子膜を合成するのに限界がある。
【0007】
酸化剤の高いpHを下げ且つ反応性を調節するために、DUDO(diurethanediol)、(PEG-PPG-PEG)(poly(ethylene glycol)-block-poly(propylene glycol)-block-poly(ethylene glycol))などの抑制剤(inhibitor)が通常使用されるが、この場合、抑制剤がPEDOTフィルム内に残留して電気伝導度とフィルム安定性に悪影響を及ぼすという問題がある。よって、抑制剤などの添加剤なしに、気相重合法によって、電気伝導度が高い、非常に安定なPEDOTフィルムを形成することができるようにする新規の酸化剤が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来の問題点を解決するもので、その目的は、金属電極を代替することができるほどに優れた電気伝導度を有するPEDOTフィルムを提供することにある。
本発明の他の目的は、機械的耐久性、柔軟性、可視光透過度、水溶液抵抗性に優れたPEDOTフィルムを提供することにある。
本発明の別の目的は、高品質のPEDOTフィルムを形成することができる方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、PEDOTフィルムを抑制剤の添加なしに気相重合法で形成するのに適した新規の酸化剤及びその合成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態によるPEDOTフィルムは、ドデシル硫酸塩(Dodecyl Sulfate)がドーパントとして含有されたPEDOTフィルムであることを特徴とする。前記PEDOTフィルムは、ドデシル硫酸金属塩を酸化剤として用いる気相重合法によって形成されたものであり、前記ドデシル硫酸金属塩は、Fe(DS)3であることができる。前記PEDOTフィルムは、電子素子の電極として形成できる。
【0010】
前記ドデシル硫酸塩ドーパントの含有量は5~50%の範囲内であることができる。ここで、PEDOTフィルムは、一つ以上、好ましくは2つのドデシル硫酸塩分子がPEDOT分子層の間にドープされたラメラ構造であることができる。
また、本発明の実施形態によるPEDOTフィルムは、電気伝導度が5,500S/cm以上、好ましくは10,000S/cm以上であることができる。
また、本発明の実施形態によるPEDOTフィルムは、20nmの厚さで550nmの波長に対して90%以上の光透過率を示すことができる。
また、本発明の実施形態によるPEDOTフィルムは、300,000回の曲げサイクル後の電気抵抗の変化が9%以下であるか、或いは30%引張後の電気抵抗の変化が10%以下であることができる。
また、本発明の実施形態によるPEDOTフィルムは、脱イオン水に20日以上浸漬した後にも、電気抵抗の変化が5%以下であることができる。
【0011】
本発明の実施形態によるPEDOTフィルムの製造方法は、基板上にドデシル硫酸金属塩を含む酸化剤膜をコートするステップと、前記酸化剤膜がコートされた基板上に、気相重合法でPEDOTフィルムを形成するステップと、前記PEDOTフィルムを洗浄及び乾燥するステップとを含むことを特徴とする。前記ドデシル硫酸金属塩はFe(DS)3を含むことができる。また、本発明の実施形態によるPEDOTフィルムの製造方法は、抑制剤を使用しなくてもよい。
【0012】
本発明の実施形態による気相重合法でPEDOTフィルムを製造するのに使用するための酸化剤の製造方法は、再結晶法でドデシル硫酸金属塩を析出させるステップと、前記析出したドデシル硫酸金属塩を洗浄するステップと、真空凍結乾燥するステップとを含むことを特徴とする。前記ドデシル硫酸金属塩は、Fe(DS)3を含むものであってもよい。
【0013】
ここで、前記再結晶法でドデシル硫酸金属塩を析出させるステップは、遠心分離法で不純物を除去するステップをさらに含むことができる。
また、前記再結晶法でドデシル硫酸金属塩を析出させるステップは、ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate)溶液を製造するステップと、前記ドデシル硫酸ナトリウム溶液にFeCl3を添加するステップとを含むことができる。また、前記FeCl3の添加によって、前記ドデシル硫酸ナトリウム溶液に発生した析出物をメタノールに溶解させて、メタノール溶液を製造するステップと、前記メタノール溶液に脱イオン水を添加してFe(DS)3再結晶を析出させるステップとをさらに含むことができる。
【0014】
本発明の他の実施形態によるPEDOTフィルムは、PEDOT分子層の間に陰イオン分子が一つ以上ドープされたラメラ構造のPEDOTフィルムであって、前記陰イオン分子は、炭化水素鎖の長さが8C乃至18CであるCH3(CH2)nSO4(n=7~17)のドーパント陰イオンであることを特徴とする。ここで、前記PEDOT分子層の間にドープされた陰イオン分子は、二つであることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、PEDOTフィルムにドデシル硫酸塩をドープすることにより、金属電極を代替することができるほどに優れた電気伝導度を有するPEDOTフィルムを提供することができるという効果がある。
また、本発明によれば、機械的耐久性、柔軟性、可視光透過度、水溶液抵抗性に優れたPEDOTフィルムを提供することができるという効果がある。
また、本発明によれば、Fe(DS)3などのドデシル硫酸金属塩を酸化剤として用いる気相重合法を採用することにより、抑制剤の使用なしに高品質のPEDOTフィルムを形成することができる方法を提供することができるという効果がある。
また、本発明は、Fe(DS)3の合成時に凍結乾燥法を採用することにより、PEDOTフィルムの気相重合に使用可能な高純度、高品質のFe(DS)3酸化剤を提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係るドデシル硫酸塩がドープされたPEDOTフィルムを形成する方法を説明するための図である。
【
図2】本発明に係るドデシル硫酸塩がドープされたPEDOTフィルム形成方法のフローチャートである。
【
図3】本発明に係るドデシル硫酸金属塩酸化剤を製造する方法を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の実施形態によるFeCl
3酸化剤を製造する方法を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の実施形態によって製造されたFe(DS)
3酸化剤のTGA分析結果である。
【
図6】本発明の実施形態によって製造されたFe(DS)
3酸化剤のDSC分析結果である。
【
図7】本発明の実施形態によって製造されたFe(DS)
3酸化剤を100℃で熱処理した結果である。
【
図8】本発明の実施形態によって形成したPEDOTフィルムのモルフォロジー観察結果である。
【
図9】本発明の実施形態によって形成したPEDOTフィルムの電気伝導度測定結果である。
【
図10】PET基板上に形成したPEDOTフィルムの厚さによる波長550nmでの光透過率のグラフである。
【
図11】(a)Fe(DS)
3酸化剤フィルム、及び(b)PEDOTフィルムのXPS分析結果である。
【
図12】本発明の実施形態によるPEDOTフィルムの機械的特性を測定した結果である。
【
図13】本発明の実施形態によるPEDOTフィルムを脱イオン水に浸漬して時間による面抵抗の変化を測定した結果である。
【
図14】本発明の実施形態によるドデシル硫酸塩がドープされたPEDOT薄膜のin-plane XRD及びout-of-plane GIWAXS分析結果である。
【
図15】本発明の実施形態によるドデシル硫酸塩がドープされたPEDOTフィルムの結晶構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明を詳細に説明する。以下の説明は、具体的な実施形態を含むが、本発明が説明された実施形態によって限定又は制限されるものではない。本発明を説明するにあたり、関連する公知の技術についての具体的な説明が本発明の要旨を曖昧にするおそれがあると判断された場合、その詳細な説明を省略する。
【0018】
本発明者は、金属電極を代替することができるほどの高い電気伝導度を有するPEDOTフィルムを形成するための研究を行う過程で、PEDOTフィルムにドデシル硫酸塩をドープする場合、非常に高い電気伝導度が得られることを見出し、本発明に至った。特に、本発明によるドデシル硫酸塩がドープされたPEDOTフィルムは、優れた電気伝導度だけでなく、機械的耐久性、可視光透過度、水溶液抵抗性にも優れるため、フレキシブルディスプレイなどの各種フレキシブルデバイス及びバイオ素子にも成功的に適用できる。
また、本発明は、このような優れた特性を有するPEDOTフィルムを形成するための製造方法を開示する。本発明によるPEDOTフィルムの製造方法は、ドデシル硫酸金属塩を酸化剤として用いる気相重合法によるフィルム形成方法と、優れた品質のドデシル硫酸金属塩酸化剤の製造方法を含む。
【0019】
下記化学式1は、本発明によるドデシル硫酸塩がドープされたPEDOTフィルムを構成するPEDOTとドデシル硫酸塩ドーパントの化学式である。
【化1】
【0020】
本発明によるドデシル硫酸塩がドープされたPEDOTフィルム内のドデシル硫酸塩の含有量は、5~50%の範囲、好ましくは20~45%の範囲、より好ましくは30~40%の範囲であることができる。
【0021】
本発明によるドデシル硫酸塩がドープされたPEDOTフィルムは、電子素子の電極として適用できるほどに優れた電気伝導度特性を有し、5,500S/cm以上、好ましくは9,000S/cm以上、より好ましくは10,000S/cm以上であることができる。
本発明によるドデシル硫酸塩がドープされたPEDOTフィルムは、ディスプレイに適用できるほどに優れた光透過率を有し、550nmの波長に対して約20nmの厚さで90%以上の光透過率を有することができる。
本発明によるドデシル硫酸塩がドープされたPEDOTフィルムは、フレキシブル電子素子に適用できる程度に優れた機械的特性を有する。例えば、30万回の曲げサイクル(bending cycle)の実行後にも、電気抵抗の変化は9%以下であることができる。また、PEDOTフィルムを両方に引っ張って約30%伸ばした後にも、電気抵抗増加が10%以下であることができる。
また、本発明によるドデシル硫酸塩がドープされたPEDOTフィルムは、バイオ素子に適用できるほどに優れた耐水性(water-resistant property)を有することができる。例えば、脱イオン水に長期間浸漬した状態で面抵抗を測定する場合、20日間浸漬した後にも、電気抵抗増加が5%以下であることができる。
【0022】
図1と
図2はそれぞれ本発明によるドデシル硫酸塩がドープされたPEDOTフィルムを形成する方法を説明するための図及びフローチャートである。
【0023】
図1及び
図2を参照すると、本発明によるドデシル硫酸塩がドープされたPEDOTフィルムの形成方法は、基板上に酸化剤膜をコートするステップ(S11)、気相重合法によってPEDOTフィルムを形成するステップ(S12)、及び洗浄/乾燥ステップ(S13)を含む。
【0024】
まず、基板上に酸化剤膜をコートするステップ(S11)は、PEDOTフィルムの形成のための触媒として作用する酸化剤を基板上にコートするステップである。酸化剤のコーティングは、スピンヘッド(spin head)上に支持された基板の表面に、酸化剤が含まれている溶液を吐出し、スピンヘッドを高速で回転させて均一な酸化剤膜が形成されるようにするスピンコーティング法で行われ得る。
【0025】
酸化剤としては、化学式Mx(DS)yのドデシル硫酸金属塩を用いることができる。ここで、DSはドデシル硫酸塩であり、Mは金属であってFe、Cr、Co、Ni、Mn、V、Rh、Au、Cu、Moであることができるが、これに限定するものではない。例えば、酸化剤としては、Fe(DS)3を用いることができる。本発明は、酸化剤としてドデシル硫酸金属塩を用いる気相重合法でPEDOTフィルムを形成することにより、ドデシル硫酸塩がドープされたPEDOTフィルムを形成することができる。また、ドデシル硫酸金属塩を酸化剤として用いることにより、抑制剤を使用しなくても、欠陥の少ない高品質のPEDOTフィルムを形成することができる。
【0026】
次に、S12ステップでは、酸化剤膜がコートされた基板を、気相重合チャンバー内に装着する。この時、
図1に示されているように、酸化剤膜が下方を向くようにチャンバーの上部に装着することができる。チャンバーの下部には、それぞれEDOT単量体及び水が収容された容器が配置され、気化されたEDOT単量体と水が基板上に到達するように構成される。このような構成による気相重合法によって、基板上にはPEDOTフィルムが形成される。この時、チャンバーの壁に形成された流路を介して温度調節された高温水(hot water)を循環させることにより、チャンバー内の温度を調節することができ、温度測定のための温度センサーがチャンバーの内部に設置できる。
図1には、基板がチャンバーの上部に装着されることを示したが、基板をチャンバーの床面に装着してもよい。
【0027】
PEDOTフィルムが形成された基板は、気相重合チャンバーでアンロードされて洗浄及び乾燥を行う(S13ステップ)。洗浄は、フィルムの表面に残存する過剰酸化剤及びEDOT単量体を除去するためのものであることができ、エタノールを用いて行うことができる。洗浄後は、約70℃で1~2時間乾燥して洗浄液を除去することができる。
【0028】
図3は本発明の実施形態によるドデシル硫酸金属塩酸化剤を製造する方法を示すフローチャートである。
【0029】
図3を参照すると、まず、再結晶法でドデシル硫酸金属塩を析出させる(S21ステップ)。ここで、再結晶法は、ドデシル硫酸塩が溶解した溶液に金属化合物(例えば、塩化金属)を添加してドデシル硫酸金属塩を析出させる方法であることができる。この時、金属化合物は、水溶液の形でドデシル硫酸塩の溶解した溶液に添加でき、均一に混合されるように溶液を攪拌しながら添加することができる。
【0030】
S21ステップは、遠心分離法で不純物を除去するステップをさらに含むことができる。例えば、ドデシル硫酸塩溶液に金属化合物を添加して得られた析出物には、不純物が含まれていることがあるが、このような析出物をメタノールなどに溶解させた後、遠心分離することにより、溶解していない不純物を除去することができる。このように不純物が除去された溶液から、最終のドデシル硫酸金属塩析出物を得ることができる。
【0031】
次に、析出したドデシル硫酸金属塩を洗浄し(S22ステップ)、真空凍結乾燥(vacuum freeze drying)するステップである(S23ステップ)。洗浄は、脱イオン水を用いて繰り返し行うことができ、真空凍結乾燥は、減圧雰囲気下で行うことができる。
【0032】
図4は本発明の実施形態によるFe(DS)
3酸化剤を製造する方法をより具体的に示すフローチャートである。
【0033】
図4を参照すると、まず、ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate、SDS)を脱イオン水(DI water)に溶解させてSDS溶液を製造する(S31ステップ)。この時、透明なSDS溶液が得られるまで攪拌しながら溶解させることができる。
【0034】
次に、前記SDS溶液にFeCl3を添加するステップである(S32ステップ)。FeCl3は、水溶液状態でSDS溶液に添加することができる。
【0035】
次に、FeCl3の添加によって、SDS溶液に発生した析出物をメタノールに溶解させて、メタノール溶液を製造する(S33ステップ)。析出物は、一応脱イオン水で繰り返し洗浄した後、メタノールに溶解させることができ、メタノール溶液は、高速で遠心分離して、溶解していない不純物を除去することができる。
【0036】
不純物を除去したメタノール溶液に脱イオン水を添加してFe(DS)3再結晶を析出させる(S34ステップ)。析出したFe(DS)3は、繰り返し洗浄した後、真空凍結乾燥法で乾燥する。この時、乾燥は2日以上行うことが好ましい。
【0037】
以下、具体的な実施形態に基づいて、本発明をより詳細に説明する。
【0038】
1.実験方法
(1)Fe(DS)3酸化剤の製造
10.2520gのSDS(sodium dodecyl sulfate)を40℃の脱イオン水(DI water)に溶解させ、透明になるまで攪拌して0.148mol/LのSDS溶液を得た。前記SDS溶液を攪拌しながら、SDSとFeCl3のモル比が3:1となるように0.197mol/LのFeCl3水溶液をゆっくりと添加した。発生した析出物を脱イオン水で10回以上繰り返し洗浄した後、45mlのメタノールに溶解させ、5000rpmで遠心分離することにより、溶解していない不純物を除去した。不純物を除去したメタノール溶液をゆっくりと攪拌しながら、200mlの脱イオン水を添加した。溶液から再結晶化されて析出したFe(DS)3は、5回以上繰り返し洗浄した後、2日以上真空凍結乾燥した。
【0039】
(2)PEDOTフィルムの形成
熱酸化膜が形成されたシリコン基板、PET基板などの様々な基板をエタノール内で30分間超音波洗浄した後、酸化剤が10wt%乃至60wt%含まれている溶液をスピンコートして基板上に酸化剤フィルムを形成した。
酸化剤がコートされた基板を、酸化剤膜が下方を向くように気相重合チャンバーに装着した後、チャンバー内に備えられたEDOT単量体と水を気化させて基板上でPEDOTフィルムを形成した。この時、チャンバーの壁に高温水を循環させてチャンバー温度を50℃に調節し、チャンバーの内部に備えられた温度センサーでチャンバーの温度をモニタリングした。エタノールで洗浄して過剰酸化剤及びEDOT単量体を除去した後、70℃で1時間の間、減圧下に乾燥させてエタノールを除去した。
【0040】
(3)特性の分析
Fe(DS)3の熱安定性を示差走査熱量計(DSC;differential scanning calorimeter)と熱重量分析(TGA;thermogravimetric analysis)で分析した。
電界放出走査型電子顕微鏡(FE-SEM;Field emission scanning electron microscope)と原子力顕微鏡(AFM:atomic force microscope)を用いてPEDOTフィルムのモルフォロジー(morphology)を分析した。PEDOTフィルムの面抵抗(Sheet resistance、R)を4点プローブ(four-point probe)を用いて測定した後、FE-SEMで測定したフィルム厚さを用いて電気伝導度を計算した。
その他に、X線光電子分光法(XPS;X-ray photoelectron spectroscopy)、ラマン分光法(The Raman spectroscopy)、微小角入射X線回折法(Grazing incidence X-ray diffraction)などを用いたPEDOTフィルム分析を行った。
【0041】
2.Fe(DS)3酸化剤特性の分析結果
製造されたFe(DS)3酸化剤のXPS分析結果を表1に示した。Cl(2p)の濃度が0%であるため、本発明による酸化剤の製造方法によって、Clイオンが完全に除去された高純度の酸化剤が得られたことが確認された。
【0042】
【0043】
図5はTGA分析結果である。
図5の重量減少(weight loss)グラフから確認されるように、30~350℃の範囲で幾つかの異なる傾きが観察される。この中でも30~126℃の範囲の第1領域(Region 1)で現れる一番目の重量減少は、酸化剤に含まれている水分子の放出に起因するものであって、当該温度範囲での重量減少(10.2%)に基づくと、本発明の実施形態によって製造された酸化剤の正確な化学式は、Fe(DS)
3・5.3H
2Oで表される。
【0044】
図6は本発明の実施形態によって製造された酸化剤のDSC分析結果である。水分子の放出に関連する吸熱ピークが約48℃で現れることが確認される。約76℃で現れるピークは、典型的な中間液晶相(intermediate liquid crystalline phase)の形成に起因し、約97℃で始まって116℃でピークが現れる吸熱反応は、Fe(DS)
3の化学的変化(chemical transformation)に起因するものと推定される。このような化学的変化の影響を観察した結果を
図7に示した。本発明の実施形態によって製造されたFe(DS)
3酸化剤を100℃で10分間熱処理すると、褐色から黒色に変化し、熱処理の前には、メタノールに溶解して透明な褐色の溶液となり、これに対し、熱処理の後には、不透明な懸濁液が形成されることが観察された。
140℃で現れる強い吸熱ピークは、化合物の化学分解(chemical decomposition)によるものと判断される。
【0045】
このような熱分析結果によれば、Fe(DS)3酸化剤は、約76℃以下の温度で化学的に安定した状態であることが分かり、これは、Fe(DS)3酸化剤の製造工程温度が約76℃を超えないように調節することが好ましいことを意味する。本発明の実施形態において、Fe(DS)3酸化剤の乾燥のために通常の高温熱処理を施すことなく、真空凍結乾燥を行ったのもこれと関連があり、真空凍結乾燥を介して初めて気相重合法でPEDOTフィルムを形成するのに活用可能な高品質のFe(DS)3酸化剤の製造が可能であった。
【0046】
3.PEDOTフィルムの分析結果
(1)モルフォロジーの分析結果
本発明の実施形態によるFe(DS)
3酸化剤を用いて気相重合法で形成したPEDOTフィルムのモルフォロジーをAFM及びFE-SEMで分析した結果を
図8に示した。
図8(a)乃至
図8(d)はPET基板、
図8(e)はPI基板、
図8(f)はSiO
2基板上にPEDOT膜を形成した結果である。
【0047】
図8(a)のAFM分析結果によると、PEDOTフィルムの表面粗さは、RMS(root-mean-square)粗さで約1.87nmの平らな表面が得られた。また、FE-SEM写真によれば、基板の種類に関係なく、高密度の滑らかな表面が観察されるため、すべての基板で均一なPEDOTフィルムが成長したことが確認された。
【0048】
(2)電気的特性及び光学的特性の分析結果
図9は本発明の実施形態によるFe(DS)
3酸化剤を用いて気相重合法によって形成したPEDOTフィルムの電気伝導度測定結果である。
図9は基板としてPET基板を用いた結果であるが、基板の種類とは無関係に、類似した電気伝導度特性が得られた。
図9(a)~(c)はそれぞれ重合時間(polymerization time)、重合温度(polymerization temperature)、酸化剤の濃度による電気伝導度の変化を示す。
【0049】
図9(a)は重合温度40℃、酸化剤の濃度50wt%で重合時間による電気伝導度の変化を示すもので、重合時間が増加するほどフィルムの厚さが増加するにも拘らず、電気伝導度は低下することが分かった。したがって、実験の範囲内で、重合時間は30分が最適に選択できる。
【0050】
図9(b)は重合時間30分、酸化剤の濃度50%で重合温度による電気伝導度の変化を示すもので、重合温度が30℃から60℃まで増加するにつれて、フィルムの厚さは持続的に増加し、特に50℃以上で急激な増加が現れるが、電気伝導度は50℃で最大値が現れることが分かる。つまり、実験範囲内で重合温度は50℃と選択できる。
【0051】
図9(c)は最適に選択された重合時間30分、重合温度50℃で酸化剤の濃度による電気伝導度を実験した結果である。酸化剤の濃度が10%から30%まで増加するにつれて、電気伝導度も持続的に増加するが、30%以上では再び減少し始めることが分かった。したがって、最適の酸化剤の濃度は30%と選択できる。この時の電気伝導度は、10,307±500S/cmであった。これまでに報告された気相重合法によるPEDOTフィルムの最高電気伝導度が、tosylateドープされたPEDOTフィルムの5,400S/cmであるという点で、本発明の実施形態によって形成されたPEDOTフィルムの電気伝導度は、従来技術の電気伝導度をほぼ2倍増加させたものである。また、30%の酸化剤濃度だけでなく、
図9(c)の殆どの酸化剤濃度の範囲で従来の電気伝導度よりも優れた電気伝導度特性が得られた。したがって、本発明の実施形態によるPEDOTフィルムの高い電気伝導度特性は、Fe(DS)
3酸化剤を用いてドデシル硫酸塩がドープされた効果であるといえる。
【0052】
図10はPET基板上に形成したPEDOTフィルムの厚さによる波長550nmでの光透過率を示すグラフである。47nm以下の厚さで87%以上の光透過率を示し、21.3nmの厚さでは90%以上の光透過率を示した。このような光透過率は、ディスプレイ装置などの透明電極として十分に活用可能なレベルである。
【0053】
表2は基板によるPEDOTフィルムの電気的、光学的特性を示すものである。基板の種類に関係なく、約10,000S/cmに至る高い電気伝導度及び90%以上の高い光透過率特性を示した。
【0054】
【0055】
(3)ドーピングレベルの分析結果
図11はFe(DS)
3酸化剤フィルム(
図11(a))、及びその上に形成されたPEDOTフィルム(
図11(b))のXPS分析結果である。
図11(a)の結果と比較すると、
図11(b)の166eVと172eVとの間に現れる二つのXPSバンドは、ドデシル硫酸塩(DS)成分の硫黄原子のS2pバンドであり、
図11(b)の162eVと166eVの間に現れる二つのXPSバンドはPEDOT内の硫黄原子のS2pバンドである。ドデシル硫酸塩(DS)によるS2pピークが、PEDOT内では167.65eVと169.13eVで現れるため、Fe(DS)
3内での169.5eVと170.5eVとは違いがある。
図11(b)でXPSピークの割合から計算したドデシル硫酸塩(DS)のドーピングレベルは、約37%であった。
【0056】
(4)機械的特性の分析結果
図12(a)はPET基板上に形成したPEDOTフィルムサンプルを曲げた後、電気抵抗の変化を測定した結果である。曲げ曲率半径が0mmに達するまでも、電気抵抗の変化が殆どないことが分かる。
【0057】
図12(b)は曲げサイクルを繰り返しながら電気抵抗の変化を測定した結果であって、曲げ周波数は0.5Hzと2Hzを使用した。周波数に関係なく、10,000回の曲げサイクル後にも電気抵抗の変化が殆どないことを確認した。また、200,000回の曲げサイクルの実行後にも、電気抵抗の変化は7~10%のレベルに過ぎず、具体的には、30万回の曲げサイクルの実行後にも、電気抵抗の変化は9%以下であることを確認した。
【0058】
図12(c)はポリウレタン基板上にPEDOT膜を形成した後、ストレッチテストを行った結果である。
図12(c)によれば、PEDOTフィルムを両方に引っ張って約30%伸ばした場合にも、電気抵抗の増加は10%のレベルに過ぎなかった。
【0059】
このように、本発明の実施形態によるPEDOTフィルムは、曲げやストレッチによっても電気抵抗の変化が微々たるものであるので、ウェアラブル電子素子、フレキシブルディスプレイ、フォルダブル電池などの様々なフレキシブルデバイスに適用が可能であることが分かる。
【0060】
(5)水溶液中での安定性
本発明の実施形態によるPEDOTフィルムを脱イオン水に浸漬して時間による面抵抗の変化を測定することにより、耐水性(water-resistant property)を分析し、その結果を
図13に示した。初期の面抵抗である46.1ohm/sq.で20日間脱イオン水に浸漬した後にも、50ohm/sq.以下に維持されるため、本発明の実施形態によるPEDOTフィルムの耐水性が非常に優れることを確認した。
【0061】
(6)結晶構造の分析
本発明の実施形態によるドデシル硫酸塩がドープされたPEDOT薄膜の結晶構造を分析するために、in-plane XRD(X-ray diffraction)とout-of-plane GIWAXS(Grazing incidence wide angle x-ray scattering)分析を実施し、その結果をそれぞれ
図14(a)及び
図14(b)に示した。
【0062】
図14(a)のin-plane XRD結果は、PEDOTフィルムの表面に平行なxy平面上の結晶性を示すものであり、2θ=26.72°に存在するピークは、PEDOT主鎖間のπ-πスタッキング(π-π stacking)の距離が0.34nmであることを意味する。また、2θ=19.792°と36.256°のピークは、それぞれ0.45nmと0.49nmの周期性を有する010と020方向のピークであって、ドデシル硫酸塩陰イオンドーパント分子のxy方向のパッキング距離(packing distance)が平均約0.47nmであることを意味する。
【0063】
図14(b)のout-of-plane GIWAXS結果は、PEDOTフィルムの厚さ方向であるz軸方向の結晶性を示すものであり、2θ=6.7°のピークは、100面方向に沿ってPEDOT結晶のラメラ層間距離が1.32nmであることを示す。
【0064】
以上の結晶構造分析結果に基づく構造予測によれば、本発明の実施形態によるドデシル硫酸塩がドープされたPEDOTフィルムの構造は、
図15に示すようである。
【0065】
PEDOTフィルムの表面に平行なxy平面における、PEDOT主鎖が並んでいる方向をx軸方向とし、これと垂直な方向をy軸方向とし、PEDOTフィルムの厚さ方向をz軸方向とすると、
図15(a)はx軸方向から見たフィルムの断面図、
図15(b)はx軸方向から見たフィルムの透視図、
図15(c)はy軸方向から見たフィルムの透視図である。
図15はフィルム内の一つの粒子(grain)内部の構造である。
図15(a)はPEDOT分子がラメラ構造(lamella structure)からなり、ラメラ層間距離(PEDOT主鎖軸間の距離)は1.32nmであることを示す。これは、
図14(b)のout-of-plane GIWAXS結果によって裏付けられる。ここで、PEDOT分子の幅を考慮すると、PEDOT分子層間の有効な空間は0.57nmであると計算されるが、この空間は、ドデシル硫酸塩分子が2つ積層された理論上の幅である0.56nmとほぼ一致する。つまり、本発明の実施形態によるPEDOTフィルムは、PEDOT分子層の間にドデシル硫酸塩分子が2つドープされたラメラ構造であることができる。
このように2つのドデシル硫酸塩分子がドープされた構造の場合、PEDOTラメラ層の上下に周期的に露出している疎水性のエチレン(-CH
2CH
2-)基がドーパント分子のドデシル基と非常に緊密なファンデルワールス相互作用を行うことができるので、エネルギー面でも有利である。
【0066】
図15(b)はx軸方向から見たフィルムの透視図である。
図15(a)がx軸方向に一つのレイヤー(one layer)のみを示すものであるのに対し、
図15(b)はx軸方向に二つのレイヤー(two layer)が重ねられて見える図である。
図15(b)によれば、二つのPEDOT主鎖が2つのラメラ層を形成しており、それぞれのラメラ層は合計12個のEDOTを含んでいる。すなわち、
図15(b)上に合計24個のEDOT分子があり、ドデシル硫酸塩分子は、8つがラメラ層同士の間に配置されている。これは、XPS分析から計算したドデシル硫酸塩ドーピングレベルである約37%とよく一致する結果である。
【0067】
図15(c)はy軸方向から見たフィルムの透視図であり、合計6つのPEDOT主鎖がπ-πスタッキング(π-π stacking)して上下に2つのラメラ層を形成した結晶構造を示している。ここで、PEDOT主鎖間のπ-πスタッキングの距離は0.34nm、ドデシル硫酸塩ドーパント分子の炭化水素鎖間の距離は0.47nmとなるように、一定に周期的に配置されている。これは、
図14(a)のin-plane XRD結果によって裏付けられる。
【0068】
このような結晶構造によると、PEDOT結晶層の上下に位置したドデシル硫酸塩が非常に効率よくドープされているとともに、長い炭化水素鎖が稠密に結晶層を取り囲んでいる構造を持つことが分かる。このような構造は、本発明の実施形態によるドデシル硫酸塩がドープされたPEDOTフィルムの高い電気伝導度、非常に柔軟な弾力性、優れた機械的耐久性をよく説明する。また、高い疎水性を呈する炭化水素鎖が各PEDOT結晶層を稠密に取り囲んでいる結晶構造によれば、水溶液中で或いは高い湿度でも非常に良い膜質と電気伝導度を維持することができると予想される。これは、本発明の実施形態によるドデシル硫酸塩がドープされたPEDOTフィルムの優れた水溶液安定性の結果ともよく一致する。
【0069】
本発明の実施形態では、ドーパント陰イオンとしてドデシル硫酸塩に限定して説明したが、
図15のような結晶構造によれば、ドーパント陰イオンは、ドデシル硫酸塩よりも炭化水素の長さが多少短いか多少長くても構わないと予想することができる。実際に、本発明者の実験によれば、炭化水素鎖の長さが8C乃至18Cの範囲であるドーパント陰イオンを適用した結果、程度の差はあるが、従来の報告されたPEDOTフィルムよりも優れた特性を得ることができた。つまり、CH
3(CH
2)
nSO
4(n=7~17)のドーパント陰イオンがドープされたPEDOTフィルムも、本発明の範囲内に含まれるものと理解されるべきである。
【0070】
以上、限られた実施形態及び図面を参照して説明したが、これは例示的なものであり、本発明の技術思想の範囲内で様々な変形実施が可能であるというのは、通常の技術者にとって自明であろう。
よって、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲の記載及びその均等範囲によって定められるべきである。
本開示に係る態様には以下の態様も含まれる。
<1> ドデシル硫酸塩(Dodecyl Sulfate)がドーパントとして含有されたPEDOTフィルム。
<2> 前記PEDOTフィルムは、ドデシル硫酸金属塩を酸化剤として用いる気相重合法によって形成されたものであることを特徴とする、<1>に記載のPEDOTフィルム。
<3> 前記ドデシル硫酸金属塩がFe(DS)
3
であることを特徴とする、<2>に記載のPEDOTフィルム。
<4> 前記ドデシル硫酸塩ドーパントの含有量が5~50%の範囲内であることを特徴とする、<1>乃至<3>のいずれか1つに記載のPEDOTフィルム。
<5> 電気伝導度が5,500S/cm以上であることを特徴とする、<1>乃至<3>のいずれか1つに記載のPEDOTフィルム。
<6> 電気伝導度が10,000S/cm以上であることを特徴とする、<5>に記載のPEDOTフィルム。
<7> 20nmの厚さで550nmの波長に対して90%以上の光透過率を示すことを特徴とする、<1>乃至<3>のいずれか1つに記載のPEDOTフィルム。
<8> 300,000回の曲げサイクル後の電気抵抗の変化が9%以下であるか、或いは30%引張後の電気抵抗の変化が10%以下であることを特徴とする、<1>乃至<3>のいずれか1つに記載のPEDOTフィルム。
<9> 脱イオン水に20日以上浸漬した後にも、電気抵抗の変化が5%以下であることを特徴とする、<1>乃至<3>のいずれか1つに記載のPEDOTフィルム。
<10> PEDOT分子層の間にドデシル硫酸塩分子がドープされたラメラ構造であることを特徴とする、<1>乃至<3>のいずれか1つに記載のPEDOTフィルム。
<11> 前記PEDOT分子層の間に2つのドデシル硫酸塩分子がドープされたことを特徴とする、<10>に記載のPEDOTフィルム。
<12> <1>乃至<3>のいずれか1つに記載のPEDOTフィルムを含む電子素子。
<13> 前記PEDOTフィルムは電極として含まれることを特徴とする、<12>に記載のPEDOTフィルム。
<14> 基板上にドデシル硫酸金属塩を含む酸化剤膜をコートするステップと、前記酸化剤膜がコートされた基板上に、気相重合法でPEDOTフィルムを形成するステップと、前記PEDOTフィルムを洗浄及び乾燥するステップと、を含むことを特徴とする、PEDOTフィルムの製造方法。
<15> 前記ドデシル硫酸金属塩はFe(DS)
3
を含むことを特徴とする、<14>に記載のPEDOTフィルムの製造方法。
<16> 抑制剤を使用しないことを特徴とする、<14>又は<15>に記載のPEDOTフィルムの製造方法。
<17> 気相重合法でPEDOTフィルムを製造するのに使用するための酸化剤の製造方法であって、再結晶法でドデシル硫酸金属塩を析出させるステップと、前記析出したドデシル硫酸金属塩を洗浄するステップと、真空凍結乾燥するステップと、を含む、酸化剤の製造方法。
<18> 前記ドデシル硫酸金属塩はFe(DS)
3
を含むことを特徴とする、<17>に記載の酸化剤の製造方法。
<19> 前記再結晶法でドデシル硫酸金属塩を析出させるステップは、遠心分離法で不純物を除去するステップをさらに含むことを特徴とする、<18>に記載の酸化剤の製造方法。
<20> 前記再結晶法でドデシル硫酸金属塩を析出させるステップは、ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate)溶液を製造するステップと、前記ドデシル硫酸ナトリウム溶液にFeCl
3
を添加するステップと、を含むことを特徴とする、<18>に記載の酸化剤の製造方法。
<21> 前記FeCl
3
の添加によって、前記ドデシル硫酸ナトリウム溶液に発生した析出物をメタノールに溶解させて、メタノール溶液を製造するステップと、前記メタノール溶液に脱イオン水を添加してFe(DS)
3
再結晶を析出させるステップと、をさらに含むことを特徴とする、<20>に記載の酸化剤の製造方法。
<22> PEDOT分子層の間に陰イオン分子が一つ以上ドープされたラメラ構造のPEDOTフィルムであって、前記陰イオン分子は、炭化水素鎖の長さが8C乃至18CであるCH
3
(CH
2
)
n
SO
4
(n=7~17)のドーパント陰イオンであることを特徴とする、PEDOTフィルム。
<23> 前記PEDOT分子層の間にドープされた陰イオン分子が二つであることを特徴とする、<22>に記載のPEDOTフィルム。
<24> PEDOT主鎖が並んでいる方向をx軸方向とし、これと垂直な方向をy軸方向とするとき、前記PEDOT分子は、y軸方向にπ-πスタッキング(π-π stacking)されており、前記ドープされた陰イオン分子は、前記π-πスタッキングされたPEDOT分子の上下部に周期的に配置されたことを特徴とする、<22>に記載のPEDOTフィルム。