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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】鋳造設備及び鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/00 20060101AFI20220928BHJP
   B22D 11/10 20060101ALI20220928BHJP
   B22D 11/11 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
B22D11/00 N
B22D11/00 P
B22D11/10 310A
B22D11/10 310F
B22D11/11 D
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021523063
(86)(22)【出願日】2019-10-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-20
(86)【国際出願番号】 KR2019013908
(87)【国際公開番号】W WO2020085772
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-04-26
(31)【優先権主張番号】10-2018-0129153
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,テ イン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジュン ピョ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン ジュル
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】チェ ジュ
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-284459(JP,A)
【文献】特開平03-297537(JP,A)
【文献】特開平05-031555(JP,A)
【文献】国際公開第2000/051763(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれに溶鋼の収容が可能な第1のルーム及び第2のルームが設けられた取鍋と、
内部に前記第1のルームからの第1の溶鋼を収容できる第1の収容空間及び前記第2のルームからの第2の溶鋼を収容できる第2の収容空間が設けられたタンディッシュと、
前記タンディッシュから第1の溶鋼及び第2の溶鋼を受鋼し、前記タンディッシュからの第1の溶鋼と第2の溶鋼を凝固させて、表層と内層の成分が互いに異なる複層鋳片を鋳造できるように前記タンディッシュの下側において前記タンディッシュの第1の延長方向に並べて配置された複数の鋳型と、
前記タンディッシュの第1の溶鋼を複数の前記鋳型のそれぞれに供給する複数の上浸漬ノズルと、
前記タンディッシュの第2の溶鋼を複数の前記鋳型のそれぞれに供給する複数の下浸漬ノズルと、を備え、
前記複数の上浸漬ノズルの吐出口の高さが前記複数の下浸漬ノズルの吐出口の高さに比べて高いことを特徴とする鋳造設備。
【請求項2】
前記取鍋は、
内部空間を有するボディと、
前記第1のルームと第2のルームが前記ボディの内部空間を仕切って形成するように、前記ボディの内部に配設された仕切り部材と、
を備え、
前記仕切り部材の底面は前記ボディの底面と連結されるように配設されたことを特徴とする請求項1に記載の鋳造設備。
【請求項3】
前記取鍋は、
前記第1のルームへの不活性ガスの吹き込みが可能なように、前記第1のルームの底を上下方向に貫通するように設けられた第1のプラグと、
前記第2のルームへの不活性ガスの吹き込みが可能なように、前記第2のルームの底を上下方向に貫通するように設けられた第2のプラグと、
前記第1の溶鋼の排出が可能なように、前記第1のルームの底を上下方向に貫通するように設けられた第1の排出ノズルと、
前記第2の溶鋼の排出が可能なように、前記第2のルームの底を上下方向に貫通するように設けられた第2の排出ノズルと、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の鋳造設備。
【請求項4】
前記タンディッシュは、
内部空間を有する本体と、
前記本体内において前記第1の収容空間が外側空間となり、前記第2の収容空間が内側空間となるように、前記本体の内部に配設された隔壁部と、
を備え、
前記隔壁部の下端は前記本体の底に連結されていることを特徴とする請求項3に記載の鋳造設備。
【請求項5】
前記本体は、
前記第1の延長方向に延設された第1の胴体と、
前記第1の胴体から前記第1の延長方向と交差する第2の延長方向に延設された第2の胴体と、
を備え、
前記隔壁部は、
前記第1の胴体の延設方向に延設されて、前記第1の胴体の内部に収容された第1の隔壁体と、
前記第1の隔壁体の延設方向と交差する方向に延設されて、少なくとも一部が第2の胴体内に収容された第2の隔壁体と、
を備えることを特徴とする請求項4に記載の鋳造設備。
【請求項6】
前記鋳型は、前記タンディッシュの第1の胴体及び第1の隔壁体の下側に位置し、
前記取鍋は、前記タンディッシュの第2の胴体及び第2の隔壁体の上側に位置することを特徴とする請求項5に記載の鋳造設備。
【請求項7】
前記鋳型内に磁場を印加する磁場発生部を備えることを特徴とする請求項5に記載の鋳造設備。
【請求項8】
請求項1に記載の鋳造設備を使用して、表層と内層の成分が互いに異なる複層鋳片を製造する鋳造方法であって、
取鍋の第1のルームに収容された第1の溶鋼をタンディッシュの第1の収容空間に供給する過程と、
前記第1のルームから孤立して区画される前記取鍋の内部の第2のルームに収容された第2の溶鋼を前記タンディッシュの第2の収容空間に供給する過程と、
前記タンディッシュの第1及び第2の溶鋼を鋳型に供給して、鋳片を鋳造する過程と、
を含むことを特徴とする鋳造方法。
【請求項9】
前記取鍋の第1のルームに第1の溶鋼を用意し、前記第2のルームに第2の溶鋼を用意する過程を含み、
前記第1のルームに第1の溶鋼を用意し、前記第2のルームに第2の溶鋼を用意する過程は、
前記第1のルームに添加剤を投入する過程と、
前記第1のルーム及び第2のルームのそれぞれに成分の組成が同じである溶鋼を装入する過程と、
を含むことを特徴とする請求項8に記載の鋳造方法。
【請求項10】
前記第1のルームに第1の溶鋼を用意し、前記第2のルームに第2の溶鋼を用意した後、前記第1のルーム及び第2のルームのそれぞれに不活性ガスを吹き込む過程を含むことを特徴とする請求項9に記載の鋳造方法。
【請求項11】
前記鋳型内に磁場を印加する過程を含むことを特徴とする請求項9に記載の鋳造方法。
【請求項12】
前記鋳型内に磁場を印加するに当たって、
前記表層において、表面から内側の向きに前記添加剤に含まれている添加成分の濃度が減少する濃度勾配が形成されるように磁束密度を調節することを特徴とする請求項11に記載の鋳造方法。
【請求項13】
前記鋳型内の磁束密度が0.2テスラ~0.8テスラとなるように磁場を印加することを特徴とする請求項12に記載の鋳造方法。
【請求項14】
前記添加剤は、Cr、C、Si、Mn、Ni及びAlのうちの少なくとも一種の添加成分を含む合金鉄を含むことを特徴とする請求項12に記載の鋳造方法。
【請求項15】
請求項8乃至請求項14のいずれか一項に記載の鋳造方法により製造され、
表面から内側の向きに添加成分に対する濃度勾配を有する濃度勾配層を有することを特徴とする複層鋳片。
【請求項16】
前記濃度勾配層の厚さは、鋳片の全体の厚さの1.4%~8.5%であることを特徴とする請求項15に記載の複層鋳片。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造設備及び鋳造方法に関し、さらに詳しくは、複層鋳片を鋳造することのできる鋳造設備及び鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表層と中心の組成が互いに異なる複層鋳片を製造する鋳造装置は、それぞれ異なる組成の溶鋼である第1の溶鋼と第2の溶鋼を収容するタンディッシュと、タンディッシュから溶鋼を受け渡されて溶鋼を所定の形状に初期凝固させる鋳型と、タンディッシュ内の第1及び第2の溶鋼のそれぞれを鋳型に供給する第1及び第2のノズルと、鋳型内に直流磁場を生じさせる磁場発生部と、を備える。
【0003】
従来は、タンディッシュ内において成分が互いに異なる第1の溶鋼と第2の溶鋼を分離して収容するために、タンディッシュ内に堰を設けて、内部空間を、前記堰を基準として2つの空間、すなわち、第1の空間と第2の空間とに仕切っていた。
【0004】
タンディッシュの内部に設けられた堰は、タンディッシュの高さに比べて短い長さに設けられ、その下端がタンディッシュ内の底面から離れるように配設される。したがって、たとえタンディッシュの内部空間が堰を介して仕切られるとしても、堰とタンディッシュの底面とが離れているため、第1の溶鋼と第2の溶鋼との混合を完璧に防ぎ切ることはできない。
【0005】
特に、鋳片の連続鋳造に際して、取鍋が取り替えられる時点ではタンディッシュ内の溶鋼の量が減ってタンディッシュ内の下部において渦流が生じるため、その混合を避けることがさらにできなくなる。したがって、第1の溶鋼と第2の溶鋼との混合により鋳片の長手方向に成分が不均一な鋳片が製造される。
【0006】
このような問題を解決するために、タンディッシュの底面にArガスのバブリングを施すものの、タンディッシュ内における溶鋼の滞留時間が短いため、この方法によっても長手方向に成分が不均一な鋳片が製造される。
【0007】
上述した鋳造設備は、タンディッシュの下側に単一の鋳型と単一の2次冷却帯が設けられる構造である。このような単一のストランドの構造は、複層鋳片の生産率が低いという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国公開特許第10-2012-0071475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、複層鋳片の生産率を向上できる鋳造設備及び鋳造方法を提供することにある。より詳細には、鋳片の長手方向に成分が均一な複層鋳片を鋳造することができる鋳造設備及び鋳造方法を提供することにある。
【0010】
本発明の目的は、表面に目的とする機能を有する複層鋳片を鋳造することができる鋳造設備及び鋳造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による鋳造設備は、それぞれに溶鋼の収容が可能な第1のルーム及び第2のルームが設けられた取鍋と、内部に前記第1のルームからの第1の溶鋼を収容できる第1の収容空間及び前記第2のルームからの第2の溶鋼を収容できる第2の収容空間が設けられたタンディッシュと、前記タンディッシュの下側に位置して、前記タンディッシュからの第1の溶鋼と第2の溶鋼を凝固させて、表層と内層の成分が互いに異なる複層鋳片を鋳造する鋳型と、を備えることを特徴とする。
【0012】
前記取鍋は、内部空間を有するボディと、前記第1のルームと第2のルームが前記ボディの内部空間を仕切って形成するように、前記ボディの内部に配設された仕切り部材と、を備え、前記仕切り部材の底面は前記ボディの底面と連結されるように配設されることを特徴とする。
【0013】
前記取鍋は、前記第1のルームへの不活性ガスの吹き込みが可能なように、前記第1のルームの底を上下方向に貫通するように設けられた第1のプラグと、前記第2のルームへの不活性ガスの吹き込みが可能なように、前記第2のルームの底を上下方向に貫通するように設けられた第2のプラグと、前記第1の溶鋼の排出が可能なように、前記第1のルームの底を上下方向に貫通するように設けられた第1の排出ノズルと、前記第2の溶鋼の排出が可能なように、前記第2のルームの底を上下方向に貫通するように設けられた第2の排出ノズルと、を備えることを特徴とする。
【0014】
前記タンディッシュは、内部空間を有する本体と、前記本体内において前記第1の収容空間が外側空間となり、前記第2の収容空間が内側空間となるように、前記本体の内部に配設された隔壁部と、を備え、前記隔壁部の下端は前記本体の底に連結されることを特徴とする。
【0015】
前記本体は、第1の延長方向に延設された第1の胴体と、前記第1の胴体から前記第1の延長方向と交差する第2の延長方向に延設された第2の胴体と、を備え、前記隔壁部は、前記第1の胴体の延設方向に延設されて、前記第1の胴体の内部に収容された第1の隔壁体と、前記第1の隔壁体の延設方向と交差する方向に延設されて、少なくとも一部が第2の胴体内に収容された第2の隔壁体と、を備えることを特徴とする。
【0016】
前記鋳型は、前記タンディッシュの第1の胴体及び第1の隔壁体の下側に位置し、前記取鍋は、前記タンディッシュの第2の胴体及び第2の隔壁体の上側に位置することを特徴とする。
【0017】
前記鋳型は複数設けられ、複数の鋳型は、前記タンディッシュから第1の溶鋼及び第2の溶鋼を受鋼するように、前記タンディッシュの下側において前記第1の延長方向に並べて配置されることを特徴とする。
【0018】
前記鋳造設備は、前記タンディッシュの第1の溶鋼を複数の前記鋳型のそれぞれに供給する複数の上浸漬ノズルと、前記タンディッシュの第2の溶鋼を複数の前記鋳型のそれぞれに供給する複数の下浸漬ノズルと、を備えることを特徴とする。
【0019】
前記鋳造設備は、前記鋳型内に磁場を印加する磁場発生部を備えることを特徴とする。
【0020】
本発明のよる鋳造方法は、表層と内層の成分が互いに異なる複層鋳片を製造する鋳造方法であって、取鍋の第1のルームに収容された第1の溶鋼をタンディッシュの第1の収容空間に供給する過程と、前記第1のルームから孤立して区画される前記取鍋の内部の第2のルームに収容された第2の溶鋼を前記タンディッシュの第2の収容空間に供給する過程と、前記タンディッシュの第1及び第2の溶鋼を鋳型に供給して、鋳片を鋳造する過程と、を含むことを特徴とする。
【0021】
前記取鍋の第1のルームに第1の溶鋼を用意し、前記第2のルームに第2の溶鋼を用意する過程を含み、前記第1のルームに第1の溶鋼を用意し、前記第2のルームに第2の溶鋼を用意する過程は、前記第1のルームに添加剤を投入する過程と、前記第1のルーム及び第2のルームのそれぞれに成分の組成が同じである溶鋼を装入する過程と、を含むことを特徴とする。
【0022】
前記第1のルームに第1の溶鋼を用意し、前記第2のルームに第2の溶鋼を用意した後、前記第1のルーム及び第2のルームのそれぞれに不活性ガスを吹き込む過程を含むことを特徴とする。
【0023】
前記鋳型内に磁場を印加する過程を含むことを特徴とする。
【0024】
前記鋳型内に磁場を印加するに当たって、前記表層において、表面から内側の向きに前記添加剤に含まれている添加成分の濃度が減少する濃度勾配が形成されるように磁束密度を調節することを特徴とする。
【0025】
前記鋳型内の磁束密度が0.2テスラ~0.8テスラとなるように磁場を印加することを特徴とする。
【0026】
前記添加剤は、Cr、C、Si、Mn、Ni及びAlのうちの少なくとも一種の添加成分を含む合金鉄を含むことを特徴とする。
【0027】
本発明による複層鋳片は、表面から内側の向きに添加成分に対する濃度勾配を有する濃度勾配層を有していることを特徴とする。
【0028】
前記濃度勾配層の厚さは、鋳片の全体の厚さの1.4%~8.5%であることが効果的であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明による鋳造設備によれば、複数のストランドを備えるように設備を構成することにより、複層鋳片の生産率を向上させることができる。
【0030】
また、取鍋において第1の溶鋼と第2の溶鋼を分離して用意し、これらをタンディッシュに供給することにより、鋳片の長手方向に成分が均一な複層鋳片を鋳造することができる。
【0031】
さらに、取鍋の複数のルームのうちのいずれか一つに添加剤を投入し、かつ、溶鋼を装入した後、プラグを介して不活性ガスを底吹きすることにより、添加剤と溶鋼とが均一に混合された、もしくは、成分が均一な溶鋼を用意することができる。このため、表層においてその長手方向に成分が均一な複層鋳片を製造することができる。
【0032】
さらにまた、表面にのみ目的とする機能が現れるように鋳造することにより、従来に比べてさらに手軽に複層鋳片の鋳造が可能である。これにより、鋳型に大きな磁力を印加する必要がないので、磁場発生部を無理やりに又は過度に大きく製造する必要がないというメリットがあり、この理由から、商用化により一層有利である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明による鋳造設備を示す図である。
図2】本発明による鋳造設備において、取鍋及びタンディッシュを説明するための立体図である。
図3】本発明による取鍋を示す図である。
図4】本発明によるタンディッシュを示す上面図である。
図5】本発明による方法により鋳造された複層鋳片において、濃度勾配を説明するための概念図である。
図6】磁束密度の強さに応じた濃度勾配領域の厚さを示すグラフである。
図7】本発明による複層鋳片の鋳造方法を順々に示す手順図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態をより詳しく説明する。しかしながら、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、異なる様々な形態に具体化できる。
【0035】
本発明は、複層鋳片を鋳造することのできる鋳造設備及び鋳造方法に関する。より具体的に、本発明は、複層鋳片の生産率を向上させることができ、目的とする機能を有するように複層鋳片が鋳造可能な鋳造設備及び鋳造方法を提供する。
【0036】
図1は、本発明による鋳造設備を示す図である。図2は、本発明の実施形態による鋳造設備において、取鍋及びタンディッシュを説明するための立体図である。図3は、本発明による取鍋を示す図である。図4は、本発明によるタンディッシュを示す上面図である。図5は、本発明による方法により鋳造された複層鋳片において、濃度勾配を説明するための概念図である。図5の(b)は、図5の(a)のA-A’を結ぶ一直線上における添加成分の濃度を概念的に示すグラフである。図6は、磁束密度の強さに応じた濃度勾配領域の厚さを示すグラフである。
【0037】
図1及び図2に示すように、本発明による鋳造設備は、内部に溶鋼の収容が可能な第1のルーム130a及び第2のルーム130bが仕切られて設けられた取鍋100と、第1のルーム130a及び第2のルーム130bのそれぞれからの溶鋼の収容が可能なように仕切られて設けられた第1の収容空間330a及び第2の収容空間330bを有するタンディッシュ300と、それぞれがタンディッシュ300の第1の収容空間330a及び第2の収容空間330bから溶鋼を受鋼してこれらを凝固させて複層鋳片を鋳造する鋳型410a、410bを有し、タンディッシュ300の長手方向(X軸方向)に並べて配置された第1及び第2の鋳造装置400a、400bと、を備える。
【0038】
また、本発明による鋳造設備は、取鍋100の第1のルーム130aの溶鋼をタンディッシュ300の第1の収容空間330aに供給する第1の供給ノズル200aと、第2のルーム130bの溶鋼をタンディッシュの第2の収容空間330bに供給する第2の供給ノズル200bと、を備える。
【0039】
以下、説明の都合上、取鍋100の第1のルーム130a及びタンディッシュ300の第1の収容空間330aに収容された溶鋼を第1の溶鋼M1と称し、取鍋100の第2のルーム130b及びタンディッシュ300の第2の収容空間330bに収容された溶鋼を第2の溶鋼M2と称する。
【0040】
図2及び図3を参照すると、取鍋100は、溶鋼の収容が可能な内部空間を有するボディ110と、ボディ110の内部に配設されてボディ110の内部空間をタンディッシュ300の長手方向(X軸方向)と交差する幅方向(Y軸方向)に仕切る仕切り部材120と、第1のルーム130aに相当するボディ110の底を上下方向に貫通するように設けられ、ガスの吹き込みが可能な第1のプラグ140aと、第2のルーム130bに相当するボディ110の底を上下方向に貫通するように設けられ、ガスの吹き込みが可能な第2のプラグ140bと、第1のルーム130aに相当するボディ110の底を上下方向に貫通するように設けられて、第1のルーム130aの第1の溶鋼M1を排出する第1の排出ノズル150a及び第2のルーム130bに相当するボディ110の底を上下方向に貫通するように設けられて、第2のルーム130bの第2の溶鋼M2を排出する第2の排出ノズル150bを備える。
【0041】
仕切り部材120は、ボディ110の内部空間をタンディッシュ300の幅方向(Y軸方向)に仕切る手段である。このために、仕切り部材120は、ボディ110の高さ方向及びX軸方向に延設されて、その下端がボディ110の内部の底面と接触又は結合されるように取り付けられる。仕切り部材120の上下への延設長さは、ボディ110に比べて短いか又はそれに等しくてもよく、このため、仕切り部材120の上端の高さは、ボディ110の上端の高さに比べて低いかまたはそれに等しくてもよい。
【0042】
このような仕切り部材120により、ボディ110の内部空間は、前記仕切り部材120を基準として第1のルーム130aと第2のルーム130bとに画成される。換言すれば、仕切り部材120により第1のルーム130aと第2のルーム130bとが互いに孤立して区画される。
【0043】
仕切り部材120は、上下方向に延設された板(plate)状であるが、本発明はこれに何ら限定されるものではなく、ボディ110の内部空間をタンディッシュ300の幅方向(Y軸方向)に仕切りできる多種多様な形状に変更可能である。
【0044】
第1のルーム130aの下部に相当するボディ110の底には、第1のプラグ140aと第1の排出ノズル150aが設けられる。このとき、第1のプラグ140aと第1の排出ノズル150aは、タンディッシュ300の幅方向(Y軸方向)に並べて配置され、第1のプラグ140aがボディ110の側壁と相対的に隣接し、第1の排出ノズル150aは仕切り部材120と相対的に隣接するように配置されてもよい。
【0045】
第2のルーム130bの下部に相当するボディ110の底には、第2のプラグ140bと第2の排出ノズル150bが設けられる。このとき、第2のプラグ140bと第2の排出ノズル150bは、タンディッシュ300の幅方向(Y軸方向)に並べて配置され、第2のプラグ140bがボディ110の側壁と相対的に隣接し、第2の排出ノズル150bは仕切り部材120と相対的に隣接するように配置されてもよい。
【0046】
第1の排出ノズル150aと第2の排出ノズル150bは、その下端が取鍋100の底面の下側に突出するように設けられても良い。
【0047】
第1及び第2のプラグ140a、140b、第1及び第2の排出ノズル150a、150bの配置によれば、第1のプラグ140aと仕切り部材120との間に第1の排出ノズル150aが位置し、仕切り部材120と第2のプラグ140bとの間に第2の排出ノズル150bが位置するように並べて配置される。
【0048】
また、上述した第1及び第2のプラグ140a、140bのそれぞれには、不活性ガス、例えば、アルゴン(Ar)ガスを供給するガス供給部が接続されてもよい。ガス供給部及び第1及び第2のプラグ140a、140bを介して供給される不活性ガスは、第1のルーム130a及び第2のルーム130bのそれぞれに吹き込まれて第1及び第2の溶鋼M1、M2のそれぞれを攪拌させたり、介在物を分離して浮上させたりする役割を果たしてもよい。
【0049】
上述したように、この実施形態の鋳造設備は、表層と内層の成分が互いに異なる複層鋳片を鋳造する設備である。換言すれば、表層の特性と内層の特性とが互いに異なる複層鋳片を鋳造する設備である。
【0050】
本発明では、成分が互いに異なる第1の溶鋼M1と第2の溶鋼M2を用意するに当たって、取鍋100において第1の溶鋼M1と第2の溶鋼M2を用意する。具体的に説明すると、取鍋100の第1のルーム130a及び第2のルーム130bのうちのどちらか一方、例えば、第1のルーム130aに添加剤を投入した後、第1のルーム130aと第2のルーム130bに同一の成分の組成を有する溶鋼を装入する。このため、第1のルーム130aに装入された溶鋼と添加剤とが混合されることにより、第1の溶鋼M1が用意され、第2のルーム130bに収容されている溶鋼は、添加剤により、前記第1の溶鋼M1とは互いに異なる組成を有する第2の溶鋼M2となる。
【0051】
以上においては、第1のルーム130aに添加剤を投入した後、第1のルーム130aと第2のルーム130bに同一の組成の溶鋼を装入して第1の溶鋼M1と第2の溶鋼M2を用意する方法について説明した。しかしながら、本発明はこれに何ら限定されるものではなく、取鍋の第1のルーム130aに第1の溶鋼M1が、第2のルーム130bに第2の溶鋼M2が収容されるようにできる方法であれば、様々な方法の適用が可能である。例えば、取鍋100の外部において成分が互いに異なる第1の溶鋼M1と第2の溶鋼M2を用意し、前記第1の溶鋼M1を第1のルーム130aに装入し、第2の溶鋼M2を第2のルーム130bに装入してもよい。
【0052】
ここで、添加剤は、表層に目的とする機能を持たせるために必要な成分を含む材料である。以下では、目的とする機能又は所望の機能を持たせるために必要な成分を「添加成分」と称する。このため、添加剤は、添加成分を含む材料であると説明される。
【0053】
そして、表層に目的とする機能を持たせるために必要な成分、すなわち、添加成分は、Crであってもよく、添加剤は、Crを含有する材料、例えば、合金鉄であってもよい。
【0054】
添加成分は、上述したCrに何ら限定されるものではなく、表層に付加しようとする機能、例えば、めっき性、溶接性、電気的な特性に応じて、C、Si、Mn、Ni、Alのうちの少なくとも一種になる。
【0055】
添加剤が投入された第1のルーム130aと第2のルーム130bのそれぞれに溶鋼を装入した後、第1及び第2のプラグ140a、140bを用いて不活性ガスを吹き込むことにより、第1のルーム130aに装入された溶鋼と添加剤とを均一に混合することができ、第1のルーム130a及び第2のルーム130bのそれぞれにおいて生じる介在物を浮上させて分離することができ、その結果、成分の調整がさらに容易に行えるというメリットがある。
【0056】
タンディッシュ300は、図2及び図4に示すように、内部空間を有する本体310及び内部空間を有し、本体310の内部空間を内側空間と外側空間に仕切るように本体310の内部に配設された隔壁部320を備える。
【0057】
本体310の内部に内部空間を有する隔壁部320が配設されることにより、本体310の内部空間は、隔壁部320の外側に相当する空間と、隔壁部320の内側に相当する空間と、に画成される。以下では、本体310の内部空間のうち、隔壁部320の外側空間を第1の収容空間330aと称し、隔壁部320の内側空間を第2の収容空間330bと称する。
【0058】
以下、タンディッシュ300の構成について詳しく説明する。
【0059】
タンディッシュ300は、内部空間を有する本体310と、本体310の内部空間を第1の収容空間330a及び前記第1の収容空間330aの内側空間である第2の収容空間330bに仕切るように本体310の内部に配設された隔壁部320と、を備える。
【0060】
また、タンディッシュ300は、第1の収容空間330aに相当する本体310の底面を上下方向に貫通するように設けられて、第1の鋳造装置400aの鋳型410aに第1の溶鋼M1を供給する第1の上ノズル341及び第2の収容空間330bに相当する本体310の底面を上下方向に貫通するように設けられて、第1の鋳造装置400aの第1の鋳型410aに第2の溶鋼M2を供給する第2の上ノズル342を備える。
【0061】
さらに、タンディッシュ300は、第1の収容空間330aに相当する本体310の底面を上下方向に貫通するように設けられて、第2の鋳造装置400bの第2の鋳型410bに第1の溶鋼M1を供給する第3の上ノズル343と、第2の収容空間330bに相当する本体310の底面を上下方向に貫通するように設けられて、第2の鋳造装置400bの第2の鋳型410bに第2の溶鋼M2を供給する第4の上ノズル344と、を備える。
【0062】
本体310は、少なくとも底部及び所定の高さを有し、かつ、底部の上部の周縁を取り囲むように形成された側壁部を備える形状である。
【0063】
そして、本体310の底面には、上述したように、第1乃至第4の上ノズル341、342、343、344が設けられ、本体310の上側には取鍋100が位置して、第1及び第2の排出ノズル150a、150b及び第1及び第2の供給ノズル200a、200bから第1及び第2の溶鋼を受鋼する。
【0064】
このとき、取鍋100の第1及び第2の排出ノズル150a、150bから第1及び第2の溶鋼M1、M2がタンディッシュ300に供給される位置又は空間と、第1及び第2の溶鋼M1、M2を第1及び第2の鋳造装置400a、400bに排出する第1乃至第4の上ノズル341、342、343、344とが隣接して位置することなく、遠く離れていることが好ましい。
【0065】
このために、本体310は、X軸方向(長手方向又は第1の延長方向)に延設された第1の胴体311及び第1の胴体311の延設方向(X軸方向)と交差する方向、すなわち、Y軸方向(幅方向又は第2の延長方向)に延設された第2の胴体312を備えていてもよい。
【0066】
このとき、第2の胴体312のX軸方向への延設長さは、第1の胴体311のX軸方向への延設長さに比べて短い。なお、第1の胴体311のX軸方向の中心と第2の胴体312のX軸方向の中心とが一直線の上に位置するように備えられても良い。
【0067】
したがって、本体310は、全体的にはX軸方向に延設され、Y軸方向に突出した形状であると説明され得る。これにより、本体310の内部空間は、X軸方向に延び、第1の胴体311により形成された空間と、前記X軸方向に延びた空間からY軸方向に延び、第2の胴体312により形成された突出空間と、を含むように設けられる。
【0068】
このようなタンディッシュ300において、第2の胴体312の空間が、取鍋から第1及び第2の溶鋼M1、M2が供給される空間である。換言すれば、本体310の内部空間のうち、突出空間に取鍋100の第1及び第2の溶鋼M1、M2が供給される。このために、タンディッシュ300の第2の胴体312の上側に取鍋100を位置させる。
【0069】
隔壁部320は、本体310の内部に配設されて、本体310の内部を第1の収容空間330aと第2の収容空間330bとに仕切る。このような隔壁部320は、本体310の形状と対応する形状であることが好ましい。
【0070】
すなわち、隔壁部320は、第1乃至第4の上ノズル341、342、343、3444の並び方向(すなわち、X軸方向)又は第1の胴体311の延設方向に延設された第1の隔壁体321及び第1の隔壁体321の延設方向(すなわち、X軸方向)と交差する方向(Y軸方向)に延設された第2の隔壁体322を備えていてもよい。
【0071】
このとき、第2の隔壁体322のX軸方向への延設長さは、第1の隔壁体321のX軸方向への延設長さに比べて短い。なお、第1の隔壁体321のX軸方向の中心と第2の隔壁体322のX軸方向の中心とが一直線上に位置するように備えられてもよい。
【0072】
上述した隔壁部320を本体310の内部に配設するに当たって、第1の隔壁体321が第1の胴体311の内部に位置し、第2の胴体312の少なくとも一部が第2の胴体312の内部に位置するように配設されてもよい。
【0073】
このとき、Y軸方向を基準として第1の隔壁体321の他側面は、これと向かい合う第1の胴体311の内側面と接離するように配設されてもよい。なお、第1の隔壁体321の外側面のうち、前記他側面を除く他の側面は、第1の胴体311の内側面から離れるように配設される。
【0074】
また、第2の隔壁体322は、その全体が第2の胴体312の内部に位置するように配設されてもよく、あるいは、一部のみが第2の胴体312の内部に位置するように配設されてもよい。
【0075】
このように、タンディッシュ300の内部空間は、上述した本体310及び隔壁部320により、第1の収容空間330aと第2の収容空間330bとに仕切られる。すなわち、隔壁部320の外側に相当する第1の収容空間330aと、隔壁部320の内側に相当する第2の収容空間330bと、に仕切られる。
【0076】
そして、本体310及び隔壁部320の形状により、第1及び第2の収容空間330a、330bのそれぞれは、全体的にはX軸方向に延設され、Y軸方向に突出した形状であってもよい。換言すれば、第1及び第2の収容空間330a、330bのそれぞれは、X軸方向に延びて形成された空間と、前記X軸方向に延びた空間からY軸方向に延びて形成された突出空間と、を含む。
【0077】
このようなタンディッシュ300において、第2の隔壁体322の空間が、取鍋100から第1及び第2の溶鋼M2が供給される空間である。換言すれば、隔壁部320の内部空間のうち、突出空間に取鍋の第1及び第2の溶鋼M1、M2が供給される。
【0078】
このために、タンディッシュ300の第2の胴体312及び第2の隔壁体322の上側に取鍋100を位置させる。より具体的には、第1の溶鋼M1をタンディッシュ300に供給する第1の排出ノズル150aが第1の収容空間330aに対応して位置するように、第2の胴体312と第2の隔壁体322との間に位置するように配設される。なお、第2の溶鋼M2をタンディッシュ300に供給する第2の排出ノズル150bが第2の収容空間330bに対応して位置するように、第2の隔壁体322の内側に位置するように配設される。
【0079】
第1の供給ノズル200aは、第1の排出ノズル150aとタンディッシュ300との間に位置し、その上端が第1の排出ノズル150aと連結される。このため、第1の排出ノズル150aから排出された第1の溶鋼M1は、第1の供給ノズル200aを介してタンディッシュ300に供給される。すなわち、第1の供給ノズル200aは、タンディッシュ300の第1の収容空間330a又は第2の隔壁体322の外側空間に対応して位置するように配設される。
【0080】
第2の供給ノズル200bは、第2の排出ノズル150bとタンディッシュ300との間に位置し、その上端が第2の排出ノズル150bと連結される。このため、第2の排出ノズル150bから排出された第2の溶鋼M2は、第2の供給ノズル200bを介してタンディッシュ300に供給される。すなわち、第2の供給ノズル200bは、タンディッシュ300の第2の収容空間330b又は第2の隔壁体322の内側に対応して位置するように配設される。
【0081】
第1乃至第4の上ノズル341、342、343、344は、タンディッシュ300内に供給された第1及び第2の溶鋼M1、M2のそれぞれを第1及び第2の鋳造装置400a、400bのそれぞれの鋳型410a、410bに供給する手段である。
【0082】
第1乃至第4の上ノズル341、342、343、344は、叙上のように、X軸方向又は第1及び第2の鋳造装置400a、400bの鋳型410a、410bの並び方向に並べて配置される。
【0083】
より具体的に説明すると、第1及び第3の上ノズル341、343のそれぞれは、第1の溶鋼M1を排出するノズルであって、タンディッシュ300の第1の収容空間330aと連通されるように配設される。すなわち、第1の隔壁体321の一方の外側に第1の上ノズル341が設けられ、第1の隔壁体321の他方の外側に第3の上ノズル343が設けられる。このため、第1の上ノズル341と第3の上ノズル343は、第1の隔壁体321を間に挟んでX軸方向に隔置される。
【0084】
第2及び第4の上ノズル342、343のそれぞれは、第2の溶鋼M2を排出するノズルであって、タンディッシュ300の第2の収容空間330bと連通されるように配設される。すなわち、第1の隔壁体321の内側に第2及び第4の上ノズル342、344が配設されるが、第2の上ノズル342と第4の上ノズル344がX軸方向に並べて隔置される。
【0085】
このとき、第1の隔壁体321内に第2の上ノズル342及び第4の上ノズルが設けられるに当たって、第1の上ノズル341と第2の上ノズル342との離間距離が後述する第1の鋳造装置400aの鋳型410aの一方向の長さに比べて短く、第3の上ノズル343と第4の上ノズル344との離間距離が第2の鋳造装置400bの鋳型410bの一方向の長さに比べて短い。
【0086】
因みに、第2の上ノズル342と第4の上ノズル344との離間距離は、第1の上ノズル341と第2の上ノズル342との離間距離及び第3の上ノズル343と第4の上ノズル344との離間距離に比べて長くても良い。
【0087】
第1及び第2の鋳造装置400a、400bは、タンディッシュ300から第1の溶鋼M1及び第2の溶鋼M2を受鋼して複層鋳片を鋳造する装置である。これらの第1の鋳造装置400aと第2の鋳造装置400bは、全体的にタンディッシュ300の第1乃至第4の上ノズル341、342、343、344の並び方向又はX軸方向に並べて配置される。
【0088】
以下、第1及び第2の鋳造装置400a、400bについて説明する。
【0089】
第1の鋳造装置400aは、第1及び第2の溶鋼M1、M2を受け渡されて溶鋼を所定の形状に初期凝固させる第1の鋳型410aと、取鍋100から第1の溶鋼M1を受鋼して第1の鋳型410aに供給する第1の上浸漬ノズル420aと、取鍋100から第2の溶鋼M2を受鋼して第1の鋳型410aに供給し、第1の上浸漬ノズル420aに比べて下側の位置において第2の溶鋼M2を吐き出す第1の下浸漬ノズル430aと、第1の鋳型410a内に直流磁場を印加する第1の磁場発生部460aと、を備える。
【0090】
また、第1の鋳造装置400aは、第1の上ノズル341と第1の上浸漬ノズル420aとを係合し、第1の上ノズル341と第1の上浸漬ノズル420aとの連通を制御する第1のゲート440aと、第2の上ノズル342と第1の下浸漬ノズル430aとを係合し、第2の上ノズル342と第1の下浸漬ノズル430aとの連通を制御する第2のゲート450aと、第1の鋳型410aの下部に配備されて第1の鋳型410aから引き抜かれた半凝固状態の鋳片を2次冷却させながら一連の成形作業を行うように複数の第1のロール及び第1の噴射ノズルが連続して配列される第1の冷却帯(図示せず)と、を備える。
【0091】
第1の鋳型410aは、タンディッシュ300の第1及び第2の上ノズル341、342に対応して位置するように配設される。このような第1の鋳型410aは、タンディッシュ300から溶鋼を受け渡され、溶鋼を所定の形状に初期凝固させる。第1の鋳型410aは、例えば、その横断面の形状が矩形状であってもよい。すなわち、第1の鋳型410aは、それぞれが一方向(X軸方向)に延設され、延設方向と交差又は直交する方向(Y軸方向)に隔設された一対の長辺部及びそれぞれが長辺部と交差又は直交する方向(Y軸方向)に延設され、その延設方向と交差又は直交する方向(X軸方向)に隔設された一対の短辺部を備える。なお、第1の鋳型410aの短辺部及び長辺部のそれぞれの内部には、溶鋼を冷却させるための冷却水が流れる流路が設けられている。
【0092】
第1の上浸漬ノズル420aは、第1の鋳型410aに第1の溶鋼M1を供給し、第1の下浸漬ノズル430aは、第1の鋳型410aに第2の溶鋼M2を供給する手段であって、第1の上浸漬ノズル420aと第1の下浸漬ノズル430aは、鋳型の長辺部の延長方向(すなわち、X軸方向)に並べられて互いに隔置される。
【0093】
そして、第1の上浸漬ノズル420aと第1の下浸漬ノズル430aは、溶鋼が吐き出される吐出口の高さが互いに異なる。すなわち、第1の上浸漬ノズル420aの吐出口(以下、第1の上吐出口)の高さが第1の下浸漬ノズル430aの吐出口(以下、第1の下吐出口)の高さに比べて高い。換言すれば、第1の下吐出口431aの高さが第1の上吐出口421aの高さに比べて低い。
【0094】
このために、第1の上浸漬ノズル420aと第1の下浸漬ノズル430aは、互いに異なる長さに形成されてもよいが、第1の上浸漬ノズル420aの延長長さが第1の下浸漬ノズル430aの延長長さに比べて短くてもよく、第1の上浸漬ノズル420a及び第1の下浸漬ノズル430aのそれぞれの下部に吐出口が設けられても良い。なお、第1の上浸漬ノズル420a及び第1の下浸漬ノズル430aのそれぞれの上端は、第1の鋳型410aの上側に位置している第1及び第2の上ノズル431、432に連結されるが、その上端の高さが等しくなるように連結される。このため、第1の上吐出口421aの高さが第1の下吐出口431aの高さに比べて高く位置することになる。
【0095】
第1の磁場発生部460aは、第1の鋳型410a内に磁力を印加する手段であって、より具体的には、第1の鋳型410aの幅方向(Y軸方向)に均一な直流磁界を印加する手段である。このような第1の磁場発生部460aは、第1の鋳型の一対の短辺部のそれぞれの外側に位置するように配設されてもよい。
【0096】
第1の冷却帯は、図示はしないが、第1の鋳型410aの下側において一方向に並べて配置された複数の第1のロール及び複数の第1のロールの間に設けられて鋳片に向かって冷却水を吹き付ける第1の噴射ノズルを備える。ここで、第1のロール及び第1の噴射ノズルのそれぞれは、鋳片の上部面の上側及び下部面の下側に位置するように設けられても良い。このため、第1の鋳型から引き抜かれた鋳片は、第1のロールの並び方向に移動しながら第1の噴射ノズルから吹き付けられる冷却水により2次冷却されながら完全に凝固される。
【0097】
第2の鋳造装置400bは、上述した第1の鋳造装置400aと略同じ構成及び形状を有する。
【0098】
すなわち、第2の鋳造装置400bは、第1及び第2の溶鋼M1、M2を受け渡されて溶鋼を所定の形状に初期凝固させる第2の鋳型410bと、取鍋100から第1の溶鋼M1を受鋼して第2の鋳型410bに供給する第2の上浸漬ノズル420bと、取鍋100から第2の溶鋼M2を受鋼して第2の鋳型410bに供給し、第2の下浸漬ノズル430bに比べて下側の位置において第2の溶鋼M2を吐き出す第2の下浸漬ノズル430bと、第2の鋳型410b内に磁場を生じさせる第2の磁場発生部460bと、を備える。
【0099】
また、第2の鋳造装置400bは、第3の上ノズル343と第2の上浸漬ノズル420bとを係合し、第3の上ノズル343と第2の上浸漬ノズル420bとの連通を制御する第3のゲート440bと、第4の上ノズル344と第2の下浸漬ノズル430bとを係合し、第4の上ノズル344と第2の下浸漬ノズル430bとの連通を制御する第4のゲート450bと、第2の鋳型410bの下部に配備されて第2の鋳型410bから引き抜かれた半凝固鋳片を冷却させながら一連の成形作業を行うように複数の第2のロール及び第2の噴射ノズルが連続して配列される第2の冷却帯(図示せず)と、を備える。
【0100】
第2の鋳型410bは、第1の鋳型410aからX軸方向に離れて配置され、タンディッシュ300の第3の及び第4の上ノズル343、344の下側に対応して位置するように配設される。
【0101】
第2の上浸漬ノズル420bは、第2の鋳型410bに第1の溶鋼を供給し、第2の下浸漬ノズル430bは、第2の鋳型410bに第2の溶鋼M2を供給する手段であって、第2の上浸漬ノズル420bと第2の下浸漬ノズル430bは、第2の鋳型410bの長辺部の延長方向(すなわち、X軸方向)に並べられて互いに隔置される。
【0102】
そして、第2の上浸漬ノズル420bと第2の下浸漬ノズル430bは、溶鋼が吐き出される吐出口の高さが互いに異なる。すなわち、第2の上浸漬ノズル420bの吐出口(以下、第2の上吐出口421b)の高さが第2の下浸漬ノズル430bの吐出口(以下、第2の下吐出口431b)の高さに比べて高い。
【0103】
第2の冷却帯は、図示はしないが、第2の鋳型の下側において一方向に並べて配置された複数の第2のロール及び複数の第2のロールの間に設けられて鋳片に向かって冷却水を吹き付ける第2の噴射ノズルを備える。
【0104】
上述したように、第1の鋳型410aから引き抜かれた鋳片が複数の第1のロールの並び方向に移動しながら凝固され、第2の鋳型410bから引き抜かれた鋳片が複数の第2のロールの並び方向に移動しながら凝固される。
【0105】
ここで、溶鋼又は鋳型が通過する第1の鋳型410a及び第1の冷却帯は、第1のストランドと称され、第2の鋳型410b及び第2の冷却帯は、第2のストランドと称されてもよい。すなわち、本発明による鋳造設備は、複数のストランドを備える。
【0106】
以下、上述した第1の鋳造装置400aによる複層鋳片の鋳造方法について説明する。このとき、第1の鋳造装置400aと第2の鋳造装置400bにおける鋳片の鋳造方法は同様であるため、第2の鋳造装置400bにおける鋳片の鋳造方法についての説明は省略する。
【0107】
まず、成分が互いに異なる第1の溶鋼と第2の溶鋼を用意し、これを第1の鋳型410aに供給する。ここで、第1の溶鋼M1と第2の溶鋼M2は、例えば、0.018wt%のC、0.035wt%のSi、1.15wt%のMn、0.1wt%のNiを含む低炭素鋼用溶鋼であってもよい。なお、第2の溶鋼M2は、第1の溶鋼M1に比べて3wt%のCrをさらに含む溶鋼であってもよい。
【0108】
第1の上浸漬ノズル420aを介して第1の鋳型10に第1の溶鋼M1を供給すると、第1の溶鋼M1が凝固されることにより、凝固シェル(以下、第1の凝固シェルC1)が形成される。このとき、第1の鋳型410aの内壁に冷媒が流れる流路が埋設されているため、第1の鋳型410aの内壁の温度が最も低い。したがって、第1の溶鋼M1が供給されると、第1の鋳型410aの内壁面に沿って第1の凝固シェルC1が形成される。そして、第1の凝固シェルC1が第1の鋳型410aの内壁面に沿って形成されるため、第1の凝固シェルC1により取り囲まれた空間が形成されるが、この空間に第1の下浸漬ノズル430aを介して第2の溶鋼M2を供給する。換言すれば、第1の下浸漬ノズル430aから吐き出される第2の溶鋼M2は、第1の凝固シェルC1により画成された空間を埋め込むように供給される。なお、第1の下浸漬ノズル430aから供給された第2の溶鋼M2が凝固されて凝固シェル(以下、第2の凝固シェルC2)が形成されるに当たって、第1の溶鋼M1が供給される初期には、第1の凝固シェルC1の内壁面に沿って形成される。
【0109】
第1の上浸漬ノズル420aの第1の上吐出口421aと第1の下浸漬ノズル430aの第1の下吐出口431aとの間に、第1の磁場発生部460aが位置する。このため、第1の上吐出口421aから吐き出された第1の溶鋼M1は、第1の磁場発生部460aの上側に吐き出され、第1の下吐出口431aから吐き出された第2の溶鋼M2は、第1の磁場発生部460aの下側に吐き出される。
【0110】
このとき、第1の磁場発生部460aから加えられる磁場は、第1の溶鋼M1が第1の磁場発生部460aの下側に移動したり、第2の溶鋼M2が第1の磁場発生部460aの上側に移動したりすることを抑える抵抗体の役割を果たす。
【0111】
このため、第1の上浸漬ノズル420aの第1の上吐出口421aから吐き出された第1の溶鋼M1のほとんどは、第1の磁場発生部460aの下側に移動することができず、第1の磁場発生部460aの上側に滞留したり、第1の磁場発生部460aの延長方向の外側方向に移動する。
【0112】
したがって、第1の鋳型410a内において、第1の磁場発生部460aの近傍又は前記第1の磁場発生部460aと対応する位置を基準として、第1の溶鋼M1からなる溶鋼プール(すなわち、上プール)と、第2の溶鋼M2からなる溶鋼プール(すなわち、下プール)と、に画成される。
【0113】
複層鋳片は、上述したように、成分の組成が互いに異なる第1の溶鋼M1と第2の溶鋼M2を用いて鋳造されて、表層SLと内層ILの成分の組成が互いに異なる鋳片である。より具体的に、第1の溶鋼M1と第2の溶鋼M2は、添加成分に対する含量が互いに異なり、このため、表層SLと内層ILは、添加成分に対する含量が互いに異なる。このため、複層鋳片の表層SLと内層ILは、添加成分の含量(又は、濃度)に応じて定義又は区画される。
【0114】
また、この実施形態の複層鋳片は、表層SLにおいて、添加成分の濃度が表面から内側の向きに進むにつれて次第に減少する濃度勾配を有する(図5参照)。なお、第2の溶鋼M2及び内層ILのそれぞれには、添加成分が不可避的に少量含有されていてもよく、含有されていなくてもよい。
【0115】
上述したような複層鋳片において、鋳片の表面から第1の溶鋼M1に含まれている添加成分の含量の0.5%となる地点までを表層SLと称してもよい。換言すれば、第1の溶鋼M1に含まれている添加成分の含量の100%~0.5%(表面から内側の向きの順)までを表層と定義してもよい。
【0116】
因みに、第1の溶鋼M1に含まれている添加成分の含量の0.5%未満(0%を含む)の領域を内層ILと定義してもよい。
【0117】
上述した定義によれば、表層SLは、添加成分の含量が内側の向きに100%~0.5%の範囲内において変わる。なお、内層ILは、添加成分の含量が0.5%未満であり、0%であってもよい。
【0118】
上述したように、表層SLは、表面から内側の向きに添加成分の含量が減少するように変わるが、表層SLのうち、第1の溶鋼M1に含まれている添加成分の含量の90%となる地点から所定の割合となる地点までを濃度勾配層CGAと定義する。
【0119】
ここで、第1の溶鋼に含まれている添加成分の含量の90%となる地点が濃度勾配層の開始地点Asであり、前記所定の割合となる地点が濃度勾配層の終了地点Aeである。
【0120】
濃度勾配層の開始地点Asの基準となる添加成分の濃度は、第1の溶鋼M1に含まれている添加成分の含量の90%であるため、これを数式で表わすと、下記の数式1の通りである。
【0121】
【数1】
【0122】
例えば、第1の溶鋼M1中の添加成分であるCrの含量が3wt%であるとすれば、数式1により算出される濃度勾配層の開始地点Asとなる基準濃度は、2.7wt%となる。なお、算出された濃度となる地点が、濃度勾配層の開始地点Asである。
【0123】
また、濃度勾配層の終了地点Aeの基準となる添加成分の濃度は、第1の溶鋼M1に含まれている添加成分の含量の5%と第2の溶鋼M2中の添加成分の含量とを加算した値により決定される(数式2参照)
【0124】
【数2】
【0125】
例えば、第1の溶鋼M1中の添加成分であるCrの含量が3wt%であり、第2の溶鋼M2中のCrの含量が0.01wt%であるとしたとき、数式1にこれを適用すると、濃度勾配層の終了地点Aeとなる基準濃度は、0.16wt%である。なお、このようにして算出された終了地点の基準濃度となる地点が、表層の終了地点Aeであってもよい。
【0126】
このため、濃度勾配層CGAは、添加成分の含量が2.7wt%以上である地点から0.16wt%以下である地点までである。
【0127】
他の例によれば、第2の溶鋼M2に添加成分が含有されていなければ0%、濃度勾配層の終了地点となる基準濃度は、0.15wt%である。
【0128】
この実施形態においては、濃度勾配領域CGAの厚さTを鋳片の全体の厚さの1.4%~8.5%以下とする。ここで、濃度勾配領域CGAの厚さTとは、濃度勾配層の開始地点Asから濃度勾配層の終了地点Aeまでの長さをいう。
【0129】
このように、成分の組成が互いに異なる表層と内層を有する複層鋳片を鋳造するために、磁場発生部460a、460bを用いて鋳型410a、410bに磁場を印加する。そして、表層が濃度勾配を有するようにするために、もしくは、濃度勾配層CGAを有し、濃度勾配層CGAの厚さTが鋳片の全体の厚さの1.4%~8.5%以下となるようにするために、第1及び第2の磁場発生部460a、460bから印加される磁束密度の強さを0.2テスラ~0.8テスラに調節する。
【0130】
図6を参照すると、磁束密度の強さが減少すれば減少するほど、濃度勾配領域CGAの厚さTが増加する。濃度勾配領域CGAは、鋳片Sの全体の厚さの1.4%~8.5%以下であることが好ましく、このためには、図6に示すように、磁束密度の強さを0.2テスラ~0.8テスラ(0.2テスラ以上、かつ、0.8テスラ以下)にすることが好ましい。
【0131】
一方、磁束密度の強さが0.2テスラ未満である場合、鋳型の内部において境界領域が存在しない程度に第1の溶鋼と第2の溶鋼とが多量混合される。このため、表層と内層の成分の含量に差分がない鋳片が鋳造される虞がある。すなわち、複層鋳片が製造されない虞がある。
【0132】
逆に、磁束密度の強さが0.8テスラを超えると、鋳造設備の規模が大きくなり過ぎて商用化が困難になるという不都合がある。
【0133】
また、濃度勾配領域CGAの厚さが薄くなれば薄くなるほど、表層と内層との間の添加成分の濃度に対する境界がはっきりとしているという意味である。
【0134】
ところが、濃度勾配領域CGAの厚さが鋳片の全体の厚さの1.4%未満まで薄くないか、あるいは、はっきりとしておらず、たとえ濃度勾配領域CGAが1.4%以上であるとしても、鋳片Sの表層は、添加成分により付加しようとする機能(例えば、耐食性)を有することができる。このため、濃度勾配領域CGAの厚さを1.4%未満まで薄くする必要がない。
【0135】
したがって、磁束密度の強さを0.2テスラ~0.8テスラ(0.2テスラ以上、かつ、0.8テスラ以下)にして、濃度勾配領域CGAの厚さが鋳片の全体の厚さの1.4%~8.5%となるようにしている。
【0136】
実施形態の方法で複層鋳片を鋳造するに際して、表層が目的とする特性を有するか否かについて評価した。このとき、添加成分をCrとして、Crの含量が互いに異なる第1の溶鋼と第2の溶鋼を用いて実施形態の方法と同様にして複層鋳片を鋳造し、磁束密度の強さを0.2テスラ~0.8テスラにして、濃度勾配領域を有する複層鋳片を鋳造した。
【0137】
そして、耐食性の評価のために、製造された鋳片の一部をサンプリングして試片を用意した。なお、 試片に対して強酸の一種である硫酸(HS)の雰囲気下で引っ張り応力を印加し、破壊される降伏強度を測定して評価した。
【0138】
実施形態の方法により製造されて内部に厚さ方向に濃度勾配を有する試片の場合、指定された最小降伏強度(SMYS;Specified Minimum Yield Strength)を110%以上補正することを確認した。これは、実施形態の複層鋳片が常温降伏強度の110%を保証する。
【0139】
一方、表層と内層の成分が互いに同じである通常の鋳片をサンプリングした試片の場合、指定された最小降伏強度(SMYS;Specified Minimum Yield Strength)の90%レベルに保証した。
【0140】
このことから、表層に添加成分に対する濃度勾配を有する複層鋳片の場合であっても、所望の付加機能、例えば、耐食性を有することができるということが分かる。
【0141】
このように、本発明による複層鋳片は、従来のように、表層と内層との間に添加成分の濃度に対するはっきりとした境界を有さず、濃度勾配を有するように形成しつつも、表層に付加しようとする機能、例えば、十分な耐食性を有するように鋳造することができる。
【0142】
換言すれば、鋳片Sの表面は、付加しようとする機能、例えば、耐食性を有しながらも、表層と内層との間の境界を基準として表層と内層との成分の含量差が従来に比べて小さい。このため、成分差による表層と内層との分離、ひび割れ又は欠陥の発生を減らすことができる。
【0143】
以下、図1から図5及び図7に基づいて、本発明による複層鋳片の鋳造方法について説明する。
【0144】
図7は、本発明による複層鋳片の鋳造方法を順々に示す手順図である。
【0145】
まず、取鍋100内に第1のルーム130a及び第2のルーム130bのうちのどちらか一方、例えば、第1のルーム130aに添加剤を投入する(S100)。
【0146】
ここで、添加剤は、成分の組成が互いに異なる第1の溶鋼M1と第2の溶鋼M2を用意するためのものであって、差別化させようとする成分を含む合金鉄であってもよい。ここで、添加成分は、Crであり、添加剤は、Crを含有する材料、例えば、合金鉄であってもよい。
【0147】
取鍋100の第1のルーム130aにCrを含む添加剤が投入されると、前記第1のルーム130a及び第2のルーム130bのそれぞれに溶鋼を装入する(S200)。このとき、第1のルーム130a及び第2のルーム130bに装入される溶鋼は、同じ成分の組成を有する溶鋼であってもよい。例えば、第1のルーム130a及び第2のルーム130bに装入される溶鋼は、0.018wt%のC、0.035wt%のSi、1.15wt%のMn、0.1wt%のNiを含む低炭素鋼用溶鋼であってもよい。
【0148】
そして、第1のルーム130aに溶鋼が装入されると、溶鋼の温度により合金鉄が溶融されるが、このため、第1のルーム130aに収容された溶鋼は、第2のルーム130bに収容された溶鋼とはCrの含量が互いに異なる、もしくは、Crがさらに含まれている溶鋼として製造される。
【0149】
すなわち、第1のルーム130aにCrを含む添加剤を投入した後、第1のルーム130a及び第2のルーム130bのそれぞれに溶鋼を装入すると、第1のルーム130aに収容された溶鋼と第2のルーム130bに収容された溶鋼の組成が互いに異なってくる。すなわち、第1のルーム130aに用意された第1の溶鋼M1及び第2のルームに用意された第2の溶鋼M2は、少なくともCrの含量が互いに異なる。このとき、第1の溶鋼M1内のCrの含量が、例えば、3wt%となるようにしてもよく、これは、添加剤の投入量及び添加剤の種類を制御することにより調節可能である。
【0150】
ここで、Crを含有する第1の溶鋼M1を用意することは、表層の耐食性が向上した複層鋳片を鋳造するためである。
【0151】
取鍋100内に第1の溶鋼M1と第2の溶鋼M2が用意されると、第1及び第2のプラグ140a、140bのそれぞれに不活性ガス、例えば、Ar(アルゴン)ガスを吹き込む(S300)。第1及び第2のプラグ140bから吹き込まれたArガスにより、第1のルーム130a内の溶鋼と添加剤との混合が行われ、第1のルーム130a及び第2のルーム130bのそれぞれにおいて介在物の分離・浮上が行われることが可能になる。
【0152】
次いで、取鍋100をタンディッシュ300に上側に移動させて、タンディッシュ300に第1の溶鋼M1及び第2の溶鋼M2を供給する(S400)。このために、まず、取鍋100をタンディッシュ300の第2の胴体312及び第2の隔壁体322の上側に対応して位置させ、取鍋100とタンディッシュ300との間に第1及び第2の供給ノズル200a、200bを配置する。このとき、第1の排出ノズル150a及び第1の供給ノズル200aをタンディッシュの第1の収容空間330aの上側に対応して位置させ、第2の排出ノズル150b及び第2の供給ノズル200bをタンディッシュ300の第2の収容空間330bの上側に位置させる。次いで、第1の排出ノズル150aと第1の供給ノズル200aとを係合し、第2の排出ノズル150bと第2の供給ノズル200bとを係合する。
【0153】
続けて、第1の排出ノズル150aと第1の供給ノズル200aとを連通させ、第2の排出ノズル150bと第2の供給ノズル200bとを連通させると、取鍋100の第1及び第2の溶鋼M1、M2がタンディッシュに供給される。このとき、第1の溶鋼M1は、第1の排出ノズル150a及び第1の供給ノズル200aによりタンディッシュ300の第1の収容空間330aに供給され、第2の溶鋼M2は、第2の排出ノズル150b及び第2の供給ノズル200bによりタンディッシュ300の第2の収容空間330bに供給される。
【0154】
そして、第1乃至第4のゲート440a、450a、440b、450bを動作させて、第1の上ノズル341と第1の上浸漬ノズル420a、第2の上ノズル342と第1の下浸漬ノズル430a、第3の上ノズル343と第2の上浸漬ノズル420b、第4の上ノズル344と第2の下浸漬ノズル430bとをそれぞれ互いに連通させる。
【0155】
このため、タンディッシュ300の第1の収容空間330a内の第1の溶鋼M1が第1の上ノズル341、第1の上浸漬ノズル420aを介して第1の鋳型410aに供給され、タンディッシュ300の第2の収容空間330b内の第2の溶鋼M2が第2の上ノズル342、第1の下浸漬ノズル430aを介して第1の鋳型410aに供給される(S500)。
【0156】
また、タンディッシュ300の第1の収容空間330a内の第1の溶鋼M1が第3の上ノズル343、第2の上浸漬ノズル420bを介して第2の鋳型410bに供給され、タンディッシュ300の第2の収容空間330b内の第2の溶鋼M2が第4の上ノズル344、第2の下浸漬ノズル430bを介して第2の鋳型410bに供給される(S500)。
【0157】
第1及び第2の鋳型410a、410bのそれぞれに供給された第1の溶鋼M1及び第2の溶鋼M2は、前記第1及び第2の鋳型410a、410bのそれぞれの内部において半凝固され、表層と内層の成分が互いに異なる複層鋳片が製造される。すなわち、上側に供給された第1の溶鋼M1は表層となり、下側に供給された第2の溶鋼M2は内層となる複層鋳片が製造される。
【0158】
このとき、第1の磁場発生部460a及び第2の磁場発生部460bのそれぞれを動作させて第1及び第2の鋳型410bの内部に磁場を印加するが、このとき、磁束密度の強さが0.2テスラ~0.8テスラとなるようにする。
【0159】
さらに、第1及び第2の鋳型410a、410bから引き抜かれた鋳片のそれぞれは、第1の鋳型410aの下側の複数の第1のロール及び第2の鋳型410bの下側の複数の第2のロールに沿って移動しながら吹き付けられる冷却水により2次冷却されて完全に凝固される。
【0160】
このように、第1の鋳造装置400a及び第2の鋳造装置400bにより製造された鋳片Sは、表層と内層の成分が互いに異なる複層鋳片である。すなわち、表層は、Crが3wt%含有された第1の溶鋼により鋳造されるため、表層は、Crによる耐食性を有するステンレス鋼(stainless steel)の特性を有する。なお、内層は、第2の溶鋼により鋳造されたものであって、低炭素鋼の特性を有する。
【0161】
さらにまた、第1及び第2の鋳型410bのそれぞれに磁力を印加するに当たって、磁束密度の強さが0.2テスラ~0.8テスラとなるようにすることで、表層SLが添加成分に対する濃度勾配を有する複層鋳片が製造される。すなわち、表層SLは、表面から内層の向きに進むにつれて添加成分の濃度が次第に減少する濃度勾配層CGAを有する。換言すると、表層SLにおける添加成分の濃度が内層に比べて高く、かつ、表層SLの中でも、鋳片Sの最外郭の表面の向きに進むにつれて添加成分の濃度が増加する。なお、濃度勾配層の厚さは、鋳片の全体の厚さの1.4%~8.5%以下であってもよい。
【0162】
このように、たとえ濃度勾配を有するように複層鋳片を製造するとしても、表層SLが濃度勾配を有さない複層鋳片の表層に見合う機能、例えば、耐食性を有する。このため、複層鋳片を製造するに当たって、0.8テスラを超えるように磁力を印加する必要がないので、0.8テスラを印加するために設備を無理やりに又は過度に大きく製造する必要がないというメリットがあり、この理由から、商用化により一層有利である。
【0163】
また、取鍋100において第1の溶鋼M1と第2の溶鋼M2を分離して用意し、これらをタンディッシュに供給することにより、長手方向に成分が均一な複層鋳片を鋳造することができる。
【0164】
そして、取鍋100の第1のルーム130a内に添加剤を投入し、かつ、溶鋼を装入した後、第1のプラグ140aを介して不活性ガスを底吹きすることにより、添加剤と溶鋼とが均一に混合された、もしくは、成分が均一な第1の溶鋼を用意することができる。このため、表層において、その長手方向に成分が均一な複層鋳片を製造することができる。
【0165】
さらに、取鍋100及びタンディッシュ300が第1の溶鋼M1及び第2の溶鋼M2のそれぞれを収容可能なようにし、複数のストランドを備えるように設備を構成することにより、複層鋳片の生産率を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明による鋳造設備によれば、複数のストランドを備えるので、複層鋳片の生産率を向上させることができる。なお、取鍋において第1の溶鋼と第2の溶鋼を分離して用意し、これらをタンディッシュに供給することにより、鋳片の長手方向に成分が均一な複層鋳片を鋳造することができる。
【符号の説明】
【0167】
100 取鍋
110 ボディ
120 仕切り部材
130a 第1のルーム
130b 第2のルーム
140a 第1のプラグ
140b 第2のプラグ
150a 第1の排出ノズル
150b 第2の排出ノズル
200a 第1の供給ノズル
200b 第2の供給ノズル
300 タンディッシュ
310 本体
311 第1の胴体
312 第2の胴体
320 隔壁部
321 第1の隔壁体
322 第2の隔壁体
330a 第1の収容空間
330b 第2の収容空間
400a 第1の鋳造装置
400b 第2の鋳造装置
410a 第1の鋳型
410b 第2の鋳型
420a 第1の上浸漬ノズル
420b 第2の上浸漬ノズル
430a 第1の下浸漬ノズル
430b 第2の下浸漬ノズル
440a 第1のゲート
440b 第3のゲート
450a 第2のゲート
450b 第4のゲート
460a 第1の磁場発生部
460b 第2の磁場発生部
IF
C1 第1の凝固シェル
C2 第2の凝固シェル
M1 第1の溶鋼
M2 第2の溶鋼
IL 内層
SL 表層
T 厚さ
CGA 濃度勾配層
Ae 終了地点
As 開始地点



図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7