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  • 特許-複素環化合物を含有する経口医薬組成物 図1a
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】複素環化合物を含有する経口医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/496 20060101AFI20220928BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20220928BHJP
   A61K 9/24 20060101ALI20220928BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220928BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20220928BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20220928BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20220928BHJP
   A61P 1/08 20060101ALI20220928BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20220928BHJP
   A61P 29/02 20060101ALI20220928BHJP
   A61P 25/06 20060101ALI20220928BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20220928BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220928BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
A61K31/496
A61K47/38
A61K9/24
A61P25/00
A61P25/18
A61P25/24
A61P25/22
A61P1/08
A61P3/04
A61P29/02
A61P25/06
A61P25/04
A61P25/28
A61P43/00 111
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021539312
(86)(22)【出願日】2020-08-13
(86)【国際出願番号】 JP2020030777
(87)【国際公開番号】W WO2021029430
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-06-14
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/031895
(32)【優先日】2019-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉村 元靖
(72)【発明者】
【氏名】藤井 拓也
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 直興
(72)【発明者】
【氏名】冨樫 亮平
(72)【発明者】
【氏名】青野 留太
(72)【発明者】
【氏名】王 新宇
【審査官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-510023(JP,A)
【文献】特開2018-177679(JP,A)
【文献】特開2008-115172(JP,A)
【文献】川上亘作,難水溶性薬物の経口製剤化技術最前線,株式会社シーエムシー出版,2016年,p.68-73
【文献】川上亘作,医薬品開発における結晶多形の制御と評価,株式会社シーエムシー出版,2011年,p.98-99
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンのフマル酸塩を有効成分として含有し、さらにセルロース系水溶性高分子を含有し、
当該セルロース系水溶性高分子が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びメチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種であり、
当該セルロース系水溶性高分子を薬物層に含む、
浸透圧ポンプ型組成物である、
放出制御性経口固形医薬組成物。
【請求項2】
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンのフマル酸塩を、遊離塩基の重量に換算して5mg~60mgの範囲で含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ヒト経口投与時の定常状態時の7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンの血中濃度が15ng/mL~400ng/mLの範囲で1週間維持される請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
週1回、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンのフマル酸塩を、遊離塩基の重量に換算して5mg~60mgの用量で投与するための請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
中枢神経疾患を予防または治療するための請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
統合失調症、治療抵抗性、難治性または慢性統合失調症、失調感情障害、精神病性障害、気分障害、双極性障害、うつ病、内因性うつ病、大うつ病、メランコリー及び治療抵抗性うつ病、気分変調性障害、気分循環性障害、不安障害、身体表現性障害、虚偽性障害、解離性障害、性障害、摂食障害、睡眠障害、適応障害、物質関連障害、無快感症、せん妄、認知障害、神経変性疾患に伴う認知障害、神経変性疾患に起因した認知障害、統合失調症の認知障害、治療抵抗性、難治性または慢性統合失調症に起因する認知障害、嘔吐、乗物酔い、肥満、偏頭痛、疼痛、精神遅滞、自閉性障害、トウレット障害、チック障害、注意欠陥多動性障害、行為障害、ダウン症候群、認知症に伴う衝動性症状、並びに境界性人格障害からなる群より選ばれる中枢神経疾患を予防または治療するための、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
有効成分が、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンのフマル酸塩の水和物である、請求項1~6のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンの塩を含有する経口医薬組成物(より好ましくは、放出制御性経口医薬組成物)等に関する。なお、本明細書に記載される全ての文献の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン(以下、化合物(I)又はブレクスピプラゾールともいう)又はその塩は、ドパミンD受容体パーシャルアゴニスト作用、セロトニン5-HT2A受容体アンタゴニスト作用及びアドレナリンα受容体アンタゴニスト作用を有する。また化合物(I)又はその塩は、それらの作用に加えてセロトニン取り込み阻害作用(あるいはセロトニン再取り込み阻害作用)を併有し、中枢神経疾患(特に統合失調症)に対して広い治療スペクトラムを有することが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-316052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
統合失調症等の中枢神経疾患の治療は、一般に、長期間に亘って薬物を治療に有効な濃度で血漿中に存在させることが重要である。そのため、低頻度で摂取できる経口投与用医薬組成物は、患者のコンプライアンスを増大させ、治療における再発率を低下させ得る点で有用である。低頻度で摂取できる経口投与用医薬組成物を得るためには、高用量の有効成分を組成物中に含有させることが考えられるが、治療に有効な血中濃度が維持されるためには、投与後の生体側の要因による過剰放出が起こることなく、組成物から有効成分が適切な速度で持続的に放出されることが求められる。
【0005】
今日、統合失調症の治療における化合物(I)又はその塩の使用は、1日1回の経口投与が推奨されているが、1日1回の経口投与は、長期間の投与が必要な多くの患者に過度な負担を強いることになる。それ故、1日1回投与よりも低頻度での投与に適した経口投与可能な医薬組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、化合物(I)の塩について、1日1回投与よりも低頻度での投与に適した経口投与可能な医薬組成物を提供するため、鋭意検討を進めた結果、化合物(I)のフマル酸塩とセルロース系水溶性高分子とを組み合わせて用いることによって、優れた過飽和溶出濃度プロファイルを示す経口固形医薬組成物が得られる可能性を見いだした。
【0007】
本開示は、例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンのフマル酸塩を有効成分として含有し、さらにセルロース系水溶性高分子を含有する、放出制御性経口固形医薬組成物。
項2.
セルロース系水溶性高分子が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びメチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の組成物。
項3.
浸透圧ポンプ型組成物である、項1又は2に記載の組成物。
項4.
ハイドロゲル徐放性製剤である、項1又は2に記載の組成物。
項5.
腸溶コーティングを備えた項4に記載の組成物。
項6.
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンのフマル酸塩を、遊離塩基の重量に換算して5mg~60mgの範囲で含有する、項1~5のいずれかに記載の組成物。
項7.
ヒト経口投与時の定常状態時の7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンの血中濃度が15ng/mL~400ng/mLの範囲で1週間維持される項1~6のいずれかに記載の組成物。
項8.
週1回、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンのフマル酸塩を、遊離塩基の重量に換算して5mg~60mgの用量で投与するための項1~7のいずれかに記載の組成物。
項9.
中枢神経疾患を予防または治療するための項1~8のいずれかに記載の組成物。
項10.
統合失調症、治療抵抗性、難治性または慢性統合失調症、失調感情障害、精神病性障害、気分障害、双極性障害、うつ病、内因性うつ病、大うつ病、メランコリー及び治療抵抗性うつ病、気分変調性障害、気分循環性障害、不安障害、身体表現性障害、虚偽性障害、解離性障害、性障害、摂食障害、睡眠障害、適応障害、物質関連障害、無快感症、せん妄、認知障害、神経変性疾患に伴う認知障害、神経変性疾患に起因した認知障害、統合失調症の認知障害、治療抵抗性、難治性または慢性統合失調症に起因する認知障害、嘔吐、乗物酔い、肥満、偏頭痛、疼痛、精神遅滞、自閉性障害、トウレット障害、チック障害、注意欠陥多動性障害、行為障害、ダウン症候群、認知症に伴う衝動性症状、並びに境界性人格障害からなる群より選ばれる中枢神経疾患を予防または治療するための、請求項9に記載の組成物。
項A-1.
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンの塩を有効成分として含有し、当該有効成分の持続放出時間が5~30時間の間である、項1~10のいずれかに記載の組成物。
項A-2.
薬物層に、
遊離塩基の重量に換算して5~200mg相当の7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンのフマル酸塩;
薬物層重量に対して5~94質量%の親水性ポリマー;
薬物層重量に対して5~40質量%のセルロース系水溶性高分子;
薬物層重量に対して1~50質量%の浸透圧調整剤;
薬物層重量に対して0.1~5質量%の滑沢剤;及び
薬物層重量に対して0.1~5質量%の流動化剤
を含有し、プッシュ層に、
プッシュ層重量に対して50~90質量%の高膨潤性ポリマー;
プッシュ層重量に対して5~50質量%の浸透圧調整剤;
プッシュ層重量に対して0.1~5質量%の滑沢剤;及び
プッシュ層重量に対して0.1~2質量%の色素
を含有し、
さらにコア製剤100質量部に対し、5~25質量部の半透膜及び1~15質量部の水溶性高分子膜を含み、半透膜に、
半透膜重量に対して70~100質量%のセルロース系ポリマー;及び
半透膜重量に対して0.01~30質量%のフラックス調整剤
を含有し、
カラーコーティング層を有していてもよい、項3に記載の組成物。
項A-3.
遊離塩基の重量に換算すると5~200mg相当の7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンのフマル酸塩;
コア錠剤の重量に対して30~90質量%の徐放性基材;
コア錠剤の重量に対して1~50質量%の水和促進剤;及び
コア錠剤の重量に対して0.1~5質量%の滑沢剤
を含有し、
コア製剤100質量部に対して1~40質量部の腸溶コーティングを備えた、項4に記載の組成物。
【発明の効果】
【0008】
本開示により、高用量で投与した場合でも医薬組成物からの有効成分(即ち、化合物(I)の塩)の初期の過剰放出を防止でき、当該有効成分を長時間にわたって治療有効量で持続的に放出可能な手段が提供される。これにより、長期間、当該有効成分の治療有効血中濃度を維持することができる。よって、本開示により、従来よりも低頻度の投与で化合物(I)の塩に応答性の疾患(例えば、統合失調症)を治療することを可能とするため、患者の服薬コンプライアンスの向上に有効である。
【0009】
尚、化合物(I)又はその塩に応答性の疾患は、例えば、以下である:統合失調症、治療抵抗性、難治性又は慢性統合失調症、失調感情障害、精神病性障害、気分障害、双極性障害(例えば、双極性I型障害及び双極性II型障害)、うつ病、内因性うつ病、大うつ病、メランコリー及び治療抵抗性うつ病、気分変調性障害、気分循環性障害、不安障害(例えば、パニック発作、パニック障害、広場恐怖、社会恐怖、強迫性障害、外傷後ストレス障害、全般性不安障害、急性ストレス障害等)、身体表現性障害(例えば、ヒステリー、身体化障害、転換性障害、疼痛性障害、心気症等)、虚偽性障害、解離性障害、性障害(例えば、性機能不全、性的欲求障害、性的興奮障害、勃起障害等)、摂食障害(例えば、神経性無食欲症、神経性大食症等)、睡眠障害、適応障害、物質関連障害(例えば、アルコール乱用、中毒及び薬物耽溺、覚醒剤中毒、麻薬中毒等)、無快感症(例えば、快感消失症、anhedonia、医原性無快感症、心理的、精神的な原因での無快感症、鬱病に伴う無快感症、統合失調症に伴う無快感症等)、せん妄、認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、その他の神経変性疾患に伴う認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病及び関連障害の神経変性疾患に起因した認知障害、統合失調症の認知障害、治療抵抗性、難治性又は慢性統合失調症等に起因する認知障害、嘔吐、乗物酔い、肥満、偏頭痛、疼痛、精神遅滞、自閉性障害(自閉症)、トウレット障害、チック障害、注意欠陥多動性障害、行為障害、ダウン症候群、認知症に伴う衝動性症状(例えば、アルツハイマー型認知症に伴う焦燥)、境界性人格障害等、中枢神経系の種々の障害。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1a】化合物(I)のフマル酸塩又は化合物(I)を含有する経口医薬組成物(浸透圧ポンプ型製剤)の溶出試験結果を示す。
図1b】化合物(I)のフマル酸塩又は化合物(I)を含有する経口医薬組成物(浸透圧ポンプ型製剤)の溶出試験結果を示す。
図2a】化合物(I)のフマル酸塩を含有する経口医薬組成物(浸透圧ポンプ型製剤)の溶出試験結果を示す。
図2b】化合物(I)のフマル酸塩を含有する経口医薬組成物(浸透圧ポンプ型製剤)の溶出試験結果を示す。
図3】化合物(I)のフマル酸塩を含有する経口医薬組成物(ハイドロゲル徐放性製剤)の溶出試験結果を示す。
図4a】化合物(1)のフマル酸塩の赤外吸収スペクトルを示す。
図4b】化合物(1)のフマル酸塩の粉末X線回折パターンを示す。
図5】放出制御性経口医薬組成物の一実施形態である浸透圧ポンプ型組成物の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、経口医薬組成物、当該経口医薬組成物の製造方法等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0012】
本開示に包含される経口医薬組成物は化合物(I)の塩を含有する。当該経口医薬組成物を、「本開示の経口医薬組成物」ということがある。化合物(I)は、下記の式(I)で表される化合物である。化合物(I)又はその塩は、特開2006-316052号公報(これは、援用によってその全体が本書に取り込まれる)に記載の方法、又はそれに準じた方法により製造することができる。
【0013】
【化1】
【0014】
化合物(I)の塩は、薬理学的に許容される塩である限り特に制限されず、例えば、各種の金属塩、無機塩基の塩、有機塩基の塩、無機酸塩、及び有機酸塩等を挙げることができる。金属塩としては、例えば、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩等)等を挙げることができる。無機塩基の塩としては、例えば、アンモニウム塩、炭酸アルカリ金属(例えば、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム等)、炭酸水素アルカリ金属(例えば、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等)、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等)等との塩を挙げることができる。有機塩基の塩としては、例えば、トリ(低級)アルキルアミン(例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N-エチルジイソプロピルアミン等)、ピリジン、キノリン、ピペリジン、イミダゾール、ピコリン、ジメチルアミノピリジン、ジメチルアニリン、N-(低級)アルキル-モルホリン(例えば、N-メチルモルホリン等)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1、8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)等との塩を挙げることができる。無機酸塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等を挙げることができる。有機酸塩としては、例えば、ギ酸、酢酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、炭酸塩、ピクリン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、グルタミン酸塩、安息香酸塩等を挙げることができる。なかでも、塩酸塩、硫酸塩、フマル酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩が好ましく、特にフマル酸塩が好ましい。
【0015】
化合物(I)の塩には、無水物、溶媒との溶媒和物(例えば、水和物、メタノレート、エタノレート、アセトニトレート等)、無水物及び溶媒和物の各種結晶形態、及びこれらの混合物も包含される。また、化合物(I)又はその塩には、その幾何異性体、立体異性体、及び光学異性体等の異性体も包含される。
【0016】
化合物(I)の塩は、薬学的に許容され得る共結晶塩であってもよい。ここで、共結晶または共結晶塩とは、各々が異なる物理的特性(例えば、構造、融点、融解熱等)を持つ、室温で2種若しくはそれ以上の独特な固体から構成される結晶性物質を意味する。共結晶塩は、公知の共結晶化法で製造することができる。
【0017】
本開示の経口医薬組成物は、化合物(I)の塩を消化管下部でも一定の溶出濃度を維持するのに好適である。加えて、好ましくは、化合物(I)の塩を長時間に亘って一様な速度で放出するのに好適である。つまり、放出制御性経口医薬組成物として好適である。
【0018】
ここで、化合物(I)の塩を含有する当該経口医薬組成物からの溶出率及び持続放出時間は、日本薬局方溶出試験法第二法(パドル法)により、シンク条件を達成するpH5.0以下の緩衝液(具体的には0.05mol/L酢酸緩衝液(pH4.3、酢酸、酢酸ナトリウム))を試験液として、化合物(I)の塩の溶出率及び持続放出時間を測定することにより、表すことができる。
【0019】
「溶出率」は、当該経口医薬組成物に含有される化合物(I)の塩全量に対する、溶出した化合物(I)の塩の割合をいう。よって、溶出率は、当該経口医薬組成物に含有される化合物(I)全量に対する、溶出した化合物(I)の割合、と言い換えることもできる。また、「持続放出時間」は、当該溶出試験の測定開始から最終溶出率に達するまでの時間をいう。「最終溶出率」は、当該溶出試験においてプラトーに達した時の溶出率をいい、「最終溶出量」は、当該溶出試験において、最終溶出率に達した時の溶出量をいう。なお、当該溶出試験において、ある時点(基準時点)の溶出率と、基準時点の2時間後の溶出率とを比べたとき、当該2時間後の溶出率が、基準時点の溶出率±1%以内となる(より好ましくは、基準時点の2時間以降の溶出率とを比べたとき、当該2時間以降の溶出率が、基準時点の溶出率±1%以内となる)ような、試験開始から最短の基準時点においてプラトーに達したということができる。ただし、当該基準時点の溶出率は20%を超えている(言い換えれば、溶出率が20%を超えていなければ、プラトーではない)ものとする。
【0020】
持続放出時間は、5時間以上であることが好ましい。また、30時間以下であることが好ましい。より好ましくは5~30時間である。当該範囲の上限または下限は、例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、又は29時間であってもよい。持続放出時間は、例えば、さらに好ましくは10~24時間、よりさらに好ましくは15~24時間である。
【0021】
なお、本開示の経口医薬組成物としては、最終溶出量が、経口医薬組成物(典型的には、経口医薬製剤)が含有する化合物(I)の塩の全量の、80質量%以上であることが好ましく、81、82、83、84、85、86、87、88、89、又は90質量%以上がより好ましい。
【0022】
また、消化管下部での一定の溶出濃度の維持に関しては、上記と同様に日本薬局方溶出試験法第二法(パドル法)により、消化管下部を模擬したpH7付近のリン酸緩衝液を試験液として、化合物(I)の塩の溶出時間あたりの過飽和溶出濃度プロファイルを測定することにより、評価することができる。
【0023】
「持続放出」を達成する上で、該組成物からの化合物(I)の塩の初期溶出の立ち上がりは、溶出試験開始直後から達成されてもよく、また測定開始後一定時間(例えば、1~3時間)経過後に達成されてもよい。ただし、溶出量が最終溶出量に対して5質量%以上となるまでの時間が5時間を超える場合は好ましくない。
【0024】
「過飽和溶出プロファイル」は、上記のpH7付近のリン酸緩衝液(消化管下部を模擬した試験液)でのパドル法溶出試験において、一時的に化合物(I)の溶解度以上に溶解した薬物濃度を経時的に定量することで評価することができる。好ましい過飽和溶出プロファイルは、溶出試験開始から4~18時間の間に溶出率のピークを迎えるプロファイルであり、さらに、そのピークが化合物(I)(遊離塩基)換算で1又は1.5μg/mL以上であることが好ましく、2、2.5、又は3μg/mL以上がより好ましく、3.5、4、4.5、5、5.5又は6μg/mL以上がさらに好ましい。過飽和濃度が高い方が、消化管下部での吸収寄与が増加するため、BA(bioavailability)の上昇や、PTF(Peak Trough Ratio)の低減が期待できると考えられる。これらのBA上昇やPTF低減により、PK(pharmacokinetics)ターゲットレンジにフィットしやすくなる。
【0025】
経口医薬組成物から長時間に亘って一様の速度で化合物(I)の塩が放出される様式は特に制限されず、徐放製剤の分野で知られる種々の技術によって達成され得る。好適な徐放アプローチは、拡散制御型組成物、溶解制御型組成物、又は浸透圧ポンプ型組成物等を利用したものであり、中でも好適な徐放アプローチとして、浸透圧ポンプ型(特にosmotic-controlled release oral delivery system:OROS)組成物及びハイドロゲル徐放性組成物が挙げられる。取り扱い性の観点から、このような経口医薬組成物は、経口固形医薬組成物(特に固形製剤)であることが好ましい。
【0026】
また、本開示の経口医薬組成物は、セルロース系水溶性高分子を含むことが好ましい。セルロース系水溶性高分子は、薬物含有組成物に含まれることが好ましい。セルロース系水溶性高分子としては、例えば、製剤学分野で公知のセルロース系水溶性高分子を好ましく用いることができる。また例えば、セルロースのOH基の一部が、水素原子がメチル基及び/又はヒドロキシプロピル基に置換した構造を有するものが好ましい。具体的には、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース等が好ましい。セルロース系水溶性高分子は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
特に、化合物(I)の塩としてフマル酸塩を用いる場合、当該フマル酸塩とセルロース系水溶性高分子とを組み合わせて用いることによって、著しく優れた過飽和溶出プロファイルを示す経口固形医薬組成物を得ることができる。
【0028】
次に、好ましい経口固形医薬組成物である、浸透圧ポンプ型組成物を例に、本開示をさらに詳細に説明する。なお、浸透圧ポンプ型組成物の製剤を浸透圧ポンプ型製剤と呼ぶことができる。
【0029】
浸透圧ポンプ型組成物は、一般に、薬物及び必要に応じて浸透圧を発生させる塩類等の物質(浸透圧剤)が半透膜で囲まれた構造を有し、半透膜には薬物の放出が可能な孔が設けられている。流体(例えば、水)が、浸透圧に従って半透膜内に浸入し、薬物及び浸透圧剤が溶解され、これによって半透膜を横切った浸透圧勾配が上昇し、更なる流体が半透膜内に侵入することで、薬物が更に溶解され放出される。浸透圧ポンプ型組成物は、薬物の放出速度が環境のpHに依存しないため、当該組成物が胃腸管を通過し、顕著に異なるpH環境に遭遇する場合であっても、長時間に亘って浸透圧に従った一様の速度で薬物を持続的に放出できる点で有利である。
【0030】
浸透圧ポンプ型組成物である本開示の経口医薬組成物の一実施形態について、以下に図面を参照して説明する。図5において、浸透圧ポンプ型組成物1(以下、単に製剤1とする場合もある)は、化合物(I)の塩を含む組成物が存在する内部区画5を囲む壁2を含む。壁2には、外部環境と内部区画とを連通する少なくとも一つの薬物放出口3が設けられている。内部区画5は、薬物層6とプッシュ層7を有する二層型圧縮コアを含む。薬物放出出口3は、薬物層6側の内部区画5と外部環境とを連通するように壁2に設けられることが好ましい。薬物放出出口3は、1又は複数存在してもよい。例えば、2つ又は3つあってもよい。
【0031】
壁2は、水や外部液体は透過するが、薬物、及び浸透圧活性成分等は透過しない半透膜である。薬物層6には、化合物(I)の塩が添加剤との混合物の状態で含まれる。プッシュ層7には、化合物(I)の塩は含まれず、浸透圧活性成分及び高膨潤性のポリマーが含まれる。浸透圧活性成分は、例えば無機塩並びに糖類及び/又は糖アルコールのような、水溶性で製剤中の電解質濃度を引き上げる性質の成分を意味する。高膨潤性のポリマーは、液体を吸収して膨潤するポリマー(比較的大きな分子量を有するポリマーが好ましい)を意味する。高膨潤性のポリマーが液体を吸収して膨潤することにより、薬物放出口3を通して化合物(I)の塩が放出される。薬物層6及びプッシュ層7は、他に、例えば、親水性ポリマー、浸透圧調整剤、水和促進剤、pH調整剤、結合剤、流動化剤、抗酸化剤、滑沢剤、及び色素のような添加剤を含んでいてもよい。
【0032】
浸透圧ポンプ型組成物では、経口摂取された後、水等の液体が半透膜を透過し当該組成物の内部へ浸透し、発生する浸透圧作用により、薬物層の化合物(I)の塩が放出可能な状態となり、同時にプッシュ層の高膨潤性ポリマーが膨潤する。そして、体液が内部区画に浸入し続けることにより、放出可能な化合物(I)の塩は、放出口3を通って放出される。化合物(I)の塩の放出により、体液がさらに浸入し、プッシュ層がさらに膨潤し、化合物(I)の塩の持続的な放出が達成される。
【0033】
用いられる半透膜としては、水や生体液のような外部液体の透過性は高いが、化合物(I)の塩、浸透圧調整剤、及び高膨潤性ポリマー等の透過性は実質的に不透過性であるものが好ましい。なお、かかる半透膜は、実質的に非浸食性(nonerodible)であり、生体内においては不溶性であることが好ましい。
【0034】
半透膜を形成するために用いられる代表的なポリマーとしては、半透性単独重合体、及び半透性共重合体等が例示され、これらにはセルロースエステル、セルロースエーテル及びセルロースエステル-エーテルのセルロース系ポリマー等が含まれる。また、より具体的には、例えば、セルロースアシレート、セルロースジアシレート、セルローストリアシレート、セルロースアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、モノ-、ジ-及びトリ-セルロースアルカニレート、モノ-、ジ-及びトリ-アルケニレート、モノ-、ジ-及びトリ-アロイレート等を挙げることができる。中でも、セルロースアセテートが好ましい。半透膜は、このようなポリマーから公知の方法により調製され得る。
【0035】
なお、上記以外にも浸透圧ポンプ型組成物の半透膜を形成するための半透性ポリマーとして、以下のものを使用することができる:セルロースアセトアルデヒドジメチルアセテート;セルロースアセテートエチルカルバメート;セルロースアセテートメチルカルバメート;セルロースジメチルアミノアセテート;半透性ポリウレタン;半透性スルホン化ポリスチレン;米国特許第3,173,876号、第3,276,586号、第3,541,005号、第3,541,006号及び第3,546,142号に開示されているような、アニオンとカチオンの共沈によって形成された架橋された選択的半透性ポリマー;米国特許第3,133,132号に開示されているような、半透性ポリマー;半透性ポリスチレン誘導体;半透性ポリ(スチレンスルホン酸ナトリウム);半透性ポリ(ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド);及び半透壁を通過する際の大気当たりの静水圧差又は浸透圧差として表わされる、10-5~10-2(cc ml/cm hr atm)の液透過度を示す半透性ポリマー。
【0036】
以上に例示するような半透膜の形成に用いられるポリマーは、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
半透膜は、フラックス調整剤(flux-regulating agent)を含んでもよい。フラックス調整剤は、半透膜を通る液体透過度又は液量を調整するのを助けるために添加される物質を意味する。すなわち、フラックス調整剤には、フラックスを向上させる作用を有する物質(以下、フラックス向上剤という)又はフラックスを低下させる作用を有する物質(以下、フラックス低下剤という)が含まれる。フラックス向上剤は、本質的に親水性であり、フラックス低下剤は本質的に疎水性である。
【0038】
フラックス調整剤には、例えば、多価アルコール、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンジオール、アルキレングリコールのポリエステル等が含まれる。
【0039】
代表的なフラックス向上剤には、ポリエチレングリコール(平均分子量が190~9000の範囲であり、例として、ポリエチレングリコール300、400、600、1500、3000、3350、4000、6000、又は8000等、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、及びポリアミレングリコール等の低分子量グリコール;ポリ(1,3-プロパンジオール)、ポリ(1,4-ブタンジオール)、及びポリ(1,6-ヘキサンジオール)等のポリアルキレンジオール;1,3-ブチレングリコール、1,4-ペンタメチレングリコール、及び1,4-ヘキサメチレングリコール等の脂肪酸;グリセリン、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ヘキサントリオール、及び1,3,6-ヘキサントリオール等のアルキレントリオール;エチレングリコールジプロピオネート、エチレングリコールブチレート、ブチレングリコールジプロピオネート、及びグリセロールアセテートエステル等のエステル等が含まれる。好適なフラックス向上剤としては、プルロニック(登録商標)類(pluronics)(BASF)として知られているプロピレングリコールの二官能性ブロック共重合体ポリオキシアルキレン誘導体等を挙げることができる。
【0040】
代表的なフラックス低下剤には、アルキル又はアルコキシで置換された或いはアルキル及びアルコキシ基の両方で置換されたフタレート、例えば、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、及び[ジ(2-エチルヘキシル)フタレート];アリールフタレート、例えば、トリフェニルフタレート、及びブチルベンジルフタレート;不溶性塩、例えば、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸カルシウム等;不溶性酸化物、例えば、酸化チタン;粉体、粒体等の形態のポリマー、例えば、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、及びポリスルホン;エステル、例えば、長鎖アルキル基でエステル化されたクエン酸エステル;不活性で且つ水不透過性の充填剤;セルロース系壁形成材料と適合性の樹脂等が含まれる。
【0041】
上記に例示するようなフラックス調整剤は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
半透膜の中には、半透膜に柔軟性及び伸長特性を付与するため、半透膜をより非脆性にするため、あるいは半透膜に引裂強度を与えるため等の目的で、その他の材料が含有されてもよい。そのような目的での添加に適した材料としては、可塑剤が例示され、フタレート系可塑剤、例えば、ジベンジルフタレート、ジヘキシルフタレート、ブチルオクチルフタレート、炭素数6~11の直鎖フタレート、ジ-イソノニルフタレート、ジ-イソデシルフタレート等が含まれる。また、可塑剤には、非フタレート、例えば、トリアセチン、ジオクチルアゼレート、エポキシ化タレート(epoxidized tallate)、トリイソオクチルトリメリテート、トリイソノニルトリメリテート、スクロースアセテートイソブチレート、エポキシ化大豆油等が含まれる。上記のような可塑剤が半透膜に含まれる場合、その配合割合は、例えば、半透膜の全成分の総量に対して約0.01質量%~30質量%又はそれ以上である。
【0043】
プッシュ層は、化合物(I)の塩を押出すための組成物を含み、例えば図5に示されるような、薬物層と接触した積層配置状態にある。上述したように、プッシュ層は、化合物(I)の塩を製剤の放出口を通して押し出すために水性液体又は生体液を吸収して膨潤する高膨潤性ポリマーを含む。高膨潤性ポリマーは、水又は水性の生物学的液体と相互作用して高度に膨潤又は膨張し、典型的には2~50倍の体積増加を示す、膨潤可能な親水性ポリマーが好ましい。高膨潤性ポリマーは架橋されていても、架橋されていなくてもよく、好ましい態様において、製剤から出るには大きすぎるポリマー網目構造を生じる程度に少なくとも架橋されている。従って、好ましい態様においては、膨張可能組成物はその有効寿命中は製剤内に保持される。
【0044】
用いられる高膨潤性ポリマーには、ポリエチレンオキサイドに代表されるような1~1500万の数平均分子量のポリ(アルキレンオキサイド)、及び500,000~3,500,000の数平均分子量のポリ(アルカリカルボキシメチルセルロース)(ここで、アルカリはナトリウム、カリウム又はリチウムである)等が含まれる。高膨潤性ポリマーの更なる例には、ハイドロゲルを形成するポリマー、例えば、カーボポール(Carbopol)(登録商標)、酸性カルボキシポリマー、カルボキシポリメチレンとしても知られているポリアリルスクロースで架橋されたアクリルポリマー、及び250,000~4,000,000の分子量を有するカルボキシビニルポリマー;シアナマー(Cyanamer)(登録商標)ポリアクリルアミド;架橋された水膨潤性無水インデンマレイン酸ポリマー;80,000~200,000の分子量を有するグッドライト(Good-rite)(登録商標)ポリアクリル酸;アクアキープス(Aqua-Keeps)(登録商標)、ジエステル架橋ポリグルカンのような縮合グルコース単位から成るアクリレートポリマーポリサッカライド;等が含まれる。ハイドロゲルを形成する代表的なポリマーは、例えば、米国特許第3,865,108号、米国特許第4,002,173号、米国特許第4,207,893号等に開示されている。
【0045】
上記に例示するような高膨潤性ポリマーは、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
浸透圧溶質(osmotic solute)又は浸透有効剤(osmotically effective agent)とも称される浸透圧調整剤(osmagent)は、薬物層とプッシュ層の両方に含むことができる。浸透圧調整剤は、半透膜を介して浸透圧勾配を示すものであれば特に制限されない。例えば無機塩、無機酸、有機塩、有機酸、糖、及び糖アルコール等が挙げられる。無機塩としては、例えば塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム(リン酸三ナトリウム)、リン酸カリウム(リン酸三カリウム)、リン酸水素ナトリウム(リン酸2水素ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム)、リン酸水素カリウム(リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム)、塩化カリウム、塩化リチウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、硫酸リチウム、酸性リン酸カリウム等が挙げられる。また、無機酸としては、例えば前述の無機塩を形成する酸が挙げられる。また、有機塩としては、例えばフマル酸ナトリウム(フマル酸二ナトリウム)、フマル酸水素ナトリウム(フマル酸一ナトリウム)、酒石酸水素ナトリウム、酒石酸水素カリウム,酒石酸ナトリウム,酒石酸ナトリウムカリウム,リンゴ酸ナトリウム(リンゴ酸二ナトリウム),コハク酸水素ナトリウム,コハク酸ナトリウム(コハク酸二ナトリウム),マレイン酸水素ナトリウム、マレイン酸ナトリウム(マレイン酸二ナトリウム),クエン酸水素ナトリウム(クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム),クエン酸ナトリウム(クエン酸三ナトリウム)等が挙げられる。また、有機酸としては、例えば前述の有機塩を形成する酸が挙げられる。また、糖及び糖アルコールとしては、例えばマンニトール、グルコース、ラクトース、フルクトース、スクロース、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、乳糖等が挙げられる。これらは、無水物であっても溶媒和物(例えば水和物)であってもよい。また、これらは、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
なお、薬物層は、化合物(I)の塩と共通するイオンを有する添加剤を含むことが好ましい。例えば、化合物(I)の塩が、フマル酸塩である場合、共通するイオンを有する添加剤としては、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、フマル酸二ナトリウム等が例示される。また、この場合、当該共通するイオンは、フマル酸イオンである。当業者であれば、用いる化合物(I)の塩の種類に応じて、適宜当該塩と共通するイオンを理解し、当該共通するイオンを有する添加剤を選択して用いることができる。その他、用い得る化合物(I)の塩と共通するイオンを有する添加剤の例としては、前述した通りである。
【0048】
浸透圧ポンプ型組成物又はその各構成要素を製造するために使用される好適な溶媒には、当該組成物に使用される物質に有害な影響を与えない水性又は不活性有機溶媒が含まれる。そのような溶媒としては、水性溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、脂肪族炭化水素、ハロゲン化溶媒、脂環式、芳香族、複素環式溶媒及びそれらの混合物から成る群から選択される1種以上を使用することができる。
【0049】
代表的な溶媒としては、例えば、アセトン、ジアセトンアルコール、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、メチルアセテート、エチルアセテート、イソプロピルアセテート、n-ブチルアセテート、メチルイソブチルケトン、メチルプロピルケトン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルアセテート、二塩化メチレン、二塩化エチレン、二塩化プロピレン、四塩化炭素、ニトロエタン、ニトロプロパンテトラクロロエタン、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、シクロヘキサン、シクロオクタン、ベンゼン、トルエン、ナフサ、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグリム、水、塩化ナトリウムや塩化カルシウム等の無機塩を含有する水性溶媒、及びそれらの混合物(例えば、アセトンと水、アセトンとメタノール、アセトンとエチルアルコール、二塩化メチレンとメタノール、及び二塩化エチレンとメタノール等)等が挙げられる。
【0050】
薬物層は、治療有効量の化合物(I)の塩とキャリヤーとから形成された組成物を含む。キャリヤーには親水性ポリマーが含まれ得る。親水性ポリマーは、例えば、化合物(I)の塩の一様な放出速度と制御された放出パターンに寄与する薬物組成物中の親水性ポリマー粒子を提供することができる。これらポリマーには、例えば、数平均分子量100,000~750,000のポリ(アルキレンオキサイド)、例えば、ポリ(エチレンオキサイド)、ポリ(メチレンオキサイド)、ポリ(ブチレンオキサイド)及びポリ(ヘキシレンオキサイド);数平均分子量40,000~400,000のポリ(カルボキシメチルセルロース)、代表的には、ポリ(アルカリカルボキシメチルセルロース)、ポリ(ナトリウムカルボキシメチルセルロース)、ポリ(カリウムカルボキシメチルセルロース)及びポリ(リチウムカルボキシメチルセルロース)等が含まれる。薬物組成物は当該組成物の放出特性を向上させるための、9,200~125,000の数平均分子量のヒドロキシプロピルアルキルセルロース、例えば、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルブチルセルロース及びヒドロキシプロピルペンチルセルロース;及び当該組成物の流動性(flow properties)を向上させるための、7,000~75,000の数平均分子量のポリ(ビニルピロリドン)等を含むことができる。これらの中で好ましいポリマーは、100,000~300,000の数平均分子量のポリ(エチレンオキサイド)である。
【0051】
薬物層に含み得るその他のキャリヤーには、単独で又は他の浸透圧調整剤と共に使用されるのに十分な浸透活量を示す炭水化物が含まれる。そのような炭水化物には、単糖類、二糖類及び多糖類が含まれる。それらの代表例には、マルトデキストリン(即ち、コーンスターチの加水分解によって生成されたグルコースポリマー)、乳糖、ブドウ糖、ラフィノース、白糖、マンニトール、ソルビトール等の糖類が含まれる。好ましいマルトデキストリンは、20以下のデキストロース当量(dextrose equivalence)(DE)を有するもの、好ましくは、約4~約20、より好ましくは9~20のDEを有するものである。9~12のDEを有するマルトデキストリンの使用は好適である。炭水化物(好ましくはマルトデキストリン)は、別の浸透圧調整剤の添加なしで薬物層に使用することができ、当該組成物を長期安定化するというという観点から好ましい。
【0052】
薬物層は、例えば、キャリヤーと薬物の圧縮によって形成される均質な乾燥組成物である。薬物層は、粉砕された薬物及び添加ポリマーの粒子から形成され得る。造粒は、公知の技術を用いて実施することができ、例えば、造粒、噴霧乾燥、篩分け、凍結乾燥、破砕、粉砕及び細断等を包含する。このような造粒は次のような装置を用いて実施することができる:高速攪拌造粒機、押し出し造粒機、流動層造粒機、及びローラーコンパクターなどが挙げられる。
【0053】
薬物層には、界面活性剤及び崩壊剤が含まれていてもよい。そのような界面活性剤としては、例えば、約10~25のHLB値を有する界面活性剤(具体的には、ポリエチレングリコール400モノステアレート、ポリオキシエチレン-4-ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン-20-ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン-20-ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレン-20-モノラウレート、ポリオキシエチレン-40-ステアレート、オレイン酸ナトリウム等)を挙げることができる。また、崩壊剤としては、澱粉、クレー、セルロース、アルギン、ガム、架橋澱粉、セルロース及びポリマー等を挙げることができる。好適な崩壊剤は、コーンスターチ、ポテトスターチ、クロスカルメロース、クロスポビドン、スターチグリコール酸ナトリウム、ビーガム(Veegum)HV、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、グアーガム等である。
【0054】
また、薬物層には、軽質無水ケイ酸などが含まれてもよい。
【0055】
二層圧縮コアの表面への半透膜の形成は、例えば、パンコーティング(pan coating)を使用して行うことができる。具体的には、半透膜を形成する組成物を、回転パンの中で転動する薬物層とプッシュ層とから構成される二層圧縮コアの表面に吹き付けることによって実施され得る。パンコーティング以外のコーティング手段も圧縮コアを被覆するために使用できる。例えば、半透膜は、エアサスペンジョン操作を使用する手法で形成されてもよい。この手法は、圧縮コアを、空気と半透膜を形成する組成物の流れの中に懸濁し、コア上に半透膜が形成されるまで転動させることで実施される。エアサスペンジョンは、半透膜を独立に形成するのに適している。このようなエアサスペンジョン技術は公知である(例えば、米国特許第2,799,241号)。ワースター(Wurster)(登録商標)エアサスペンジョンコーターやアエロマティック(Aeromatic)(登録商標)エアサスペンジョンコーターを用いることも可能である。
【0056】
半透膜で被覆後、例えば、強制通風炉又は温度と湿度が制御された炉で半透膜を乾燥することにより、溶媒が除去される。乾燥条件は入手可能な装置、周囲条件、溶媒、コーティング材、コーティング厚さ等を考慮して適宜選択することができる。
【0057】
本開示の経口医薬組成物は、公知の製剤技術を利用することにより製造することができる。例えば、既存の湿式造粒技術や乾式造粒技術によって製造することができる。湿式造粒技術を用いる場合を例としてさらに説明すると、造粒用溶液として変性無水アルコール等の有機溶媒が使用され、薬物及び添加剤を造粒機内で混合し、上記の溶媒を用いて連続的に造粒して顆粒を得る。造粒用溶液は湿潤混合物が生成されるまで添加され、その湿塊混合物はオーブントレー上で予め設置されたスクリーンに通される。次に混合物は、強制通風炉内で乾燥される。別の造粒方法としては、流動層造粒機の中での各層の粉末成分の造粒操作が挙げられる。粉末成分が造粒機で乾式混合された後、造粒用液体が粉体上に吹き付けられる。被覆された粉体は造粒機で乾燥される。これらの方法で得られた乾燥粒体は、解砕機構の付いた整粒機にてサイズが整えられ、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤が添加され、ブレンダー(例えば、V型ブレンダー又は運搬型ブレンダー(tote blender))を使用して粒体に混合される。このようにして得られた組成物が、例えば、マネスティ(Manesty)(登録商標)プレス機又はコーシュ(Korsch)LCTプレス機等で層状にプレスされる。二層コアにする場合は、はじめに薬物含有層をプレスし、次に湿式造粒技術により同様にして製造されたプッシュ層の湿潤混合物を薬物含有層に対してプレスする。二層圧縮コアは、必要に応じて水溶性ポリマーコートが付与され、次いで上記のような半透膜材料で被覆される。当該組成物の薬物層端部に1つ又は複数の出口(孔)が設けられる。必要に応じて、水溶性オーバーコートが施されてもよく、オーバーコート用のコーティングは、着色されたものでも透明のものでもよい。
【0058】
また例えば、別の方法として乾式造粒技術を用いる場合、予め混合された組成物をローラー型圧縮成形機にて層状生成物を調製し、それを解砕機構付きスクリーン粉砕機にて整粒される。サイズが整えられた造粒物は、上記と同様にステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤が添加され、ブレンダーを使用して粒体に混合され、上述の製法と同様にプレスされる。
【0059】
浸透圧ポンプ型組成物には少なくとも一つの放出口が設けられる。放出口は、当該組成物の製造中又は使用時の液体環境下での当該組成物による薬物送達中に設けられ得る。放出口という表現は、例えば、通路、開口、オリフィス、及び内腔(bore)という意味を包含する。またこの表現には、外壁から物質又はポリマーが浸食、溶解、又は浸出することによって形成される孔が包含される。そのような物質又はポリマーには、例えば、半透膜の中の浸食性ポリ(グリコール酸)又はポリ(乳酸);ゼラチン状フィラメント;水除去性ポリ(ビニルアルコール);浸出性化合物、例えば、無機及び有機の塩、酸化物又は炭水化物からなる群から選ばれた流体除去性の細孔形成物質等が含まれる。放出口は、例えば、ソルビトール、マンニトール、乳糖、果糖、マルチトール、マルトース、デキストリン、ブドウ糖、マンノース、ガラクトース、タロース、塩化ナトリウム、塩化カリウム、及びクエン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種の物質を浸出させて、薬物を一様に放出制御するに適したサイズの細孔の放出口を設けることによって形成することができる。放出口は当該組成物からの薬物の一様な速度での放出を可能にする限り、円形、矩形、正方形、楕円等の任意の形状とすることができる。浸透圧ポンプ型組成物は、一定の間隔で設けられた1つ又は2つ以上の放出口を有し得る。放出口径は、圧縮コアと協働して薬物の放出を制御可能である限り特に限定されないが、好ましくは0.1mmから3mmである。放出口の形成には、例えば、機械的孔あけ及びレーザー孔あけ等を含む半透膜を貫通する孔あけ技術を広く使用することができる。このような放出口を形成する装置は公知である(例えば、米国特許第3,916,899号、米国特許第4,088,864号)。
【0060】
化合物(I)の塩の、経口医薬組成物への配合量としては、例えば、1製剤あたり、遊離塩基の重量に換算して1mg未満~200mg相当程度量又はそれ以上の量が挙げられる。例えば、後述する実施例の浸透圧ポンプ型組成物の薬物層は、30mg(遊離塩基当量)の化合物(I)を含む。当該浸透圧ポンプ型組成物は、約10時間又はそれ以上のT90値を有する。投与後約3~4時間以内に、化合物(I)の塩は一様な速度で放出されるようになり、一様な速度での放出は少なくとも約12時間の長時間にわたって続く。その後に、薬物放出は製剤が消耗されるまで更に数時間続く。
【0061】
本開示の経口医薬組成物は、好ましくは、ある程度一様な放出速度で長時間薬物が放出される。患者に投与されると、本開示の経口医薬組成物は長時間にわたって、従来の製剤(例えば速放性製剤)よりも変動の少ない血液血漿中薬物濃度を与え得る。本開示の経口医薬組成物が投与された場合、好ましくは、従来の製剤(例えば速放性製剤)投与後に現われる定常状態ピーク血漿中濃度より遅い時間にピークが現われ、且つ、そのピークはより小さく、治療上有効な平均の定常状態血漿中濃度を与え得る。
【0062】
本開示は患者に本開示の経口医薬組成物を経口投与することによって化合物(I)による処置に応答性である疾病状態及び病状を治療する方法を含む。この方法は、例えば、化合物(I)の塩を少なくとも約4時間以上、好ましくは5~30時間、より好ましくは10~24時間、更に好ましくは15~24時間にわたって一様な放出速度で放出するのに適合している製剤で実施される。
【0063】
統合失調症の治療のために患者に本開示の経口医薬組成物を1日1回よりも低頻度で経口投与する目的として上記方法の実行は好ましい。統合失調症の症状と臨床上診断されるかも知れない他の疾病状態及び病状は、本開示の放出制御性経口医薬組成物で治療され得る。
【0064】
特に制限はされないが、 本開示の経口医薬組成物は、ヒト(特に成人)へ経口投与した時の定常状態時の化合物(I)の血中濃度が、例えば15ng/mL~400ng/mL又は50ng/mL~300ng/mLの範囲で1週間維持されることが好ましい。
化合物(I)を含む普通錠(非放出制御製剤)0.5mg錠、1mg錠、2mg錠については、日米欧を含む多数の国で統合失調症の治療薬として既に上市されている。普通錠は、臨床試験において安全性及び統合失調症等の中枢神経疾患に対する有効性が認められており、また薬物動態の詳細な解析も行われている。普通錠に関するこうした情報を考慮すれば、ヒト投与時に定常状態で15ng/mL~400ng/mL又は50ng/mL~300ng/mL程度の化合物(I)の血中濃度を維持できる経口医薬組成物であれば、既に上市されている普通錠と同様に、統合失調症等の中枢神経疾患を予防又は治療するために用いることが可能であると理解できる。
したがって、本開示の経口医薬組成物は、1日1回よりも低頻度で、例えば週1回、経口投与され得る。本開示の経口医薬組成物は、1回あたり1錠投与してもよいし、1回あたり2錠以上、例えば1回あたり2錠、3錠、4錠、又は5錠、投与してもよい。また、当業者であれば、上記の普通錠に関する薬物動態の情報及び本開示の経口医薬組成物に対する単回投与プロトコール及び連続投与プロトコールに基づいた評価等から、上記の血中濃度を達成するための本開示の経口医薬組成物の投与量を適切に決定することができる。例えば、1回あたりの投与量は、化合物(I)の遊離塩基の重量に換算すると5mg~60mg相当程度、あるいは10mg~60mg、20mg~60mg、又は45mg~60mg相当程度が挙げられる。
【0065】
上記の通り、本開示の経口医薬組成物のうち、特に好ましい一実施形態として、浸透圧ポンプ型の経口固形医薬製剤が挙げられる。浸透圧ポンプ型の経口固形医薬製剤の中でも、特に好ましい各実施形態について、以下に更に詳述する。なお、以下の記載は、上記の記載と一部重複する場合もある。また、以下の記載は、上記の記載が適用されることを妨げるものではない。
【0066】
浸透圧ポンプ型の経口固形医薬製剤は、薬物層及びプッシュ層が積層してなるコア製剤が、半透膜によりコーティングされた構造を有する、浸透圧ポンプ型の経口固形医薬製剤であって、前記薬物層は、化合物(I)の塩を含有する、医薬製剤であることが好ましい。当該製剤の一実施形態としては、図5に記載の製剤が挙げられる。
【0067】
薬物層とプッシュ層の質量割合は、例えば、薬物層100質量部に対して、プッシュ層が20~125質量部程度が挙げられる。当該範囲の上限または下限は例えば25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、又は120質量部であってもよい。例えば、当該範囲は、35~100質量部、又は40~60質量部程度であってもよい。
【0068】
また、薬物層のプッシュ層に対する質量比としては、例えば0.8~5程度が挙げられる。当該範囲の上限または下限は、例えば、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、又は4.9であってもよい。例えば、薬物層のプッシュ層に対する質量比は、1~4、又は2~3程度であってもよい。また、また、より具体的には2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、又は3.0であってもよい。
【0069】
化合物(I)の塩としては、薬学的に許容される塩であれば特に制限はされず、上述した各種の金属塩、無機塩基の塩、有機塩基の塩、無機酸塩、及び有機酸塩等を挙げることができる。特に限定はされないが、フマル酸塩、塩酸塩、及び硫酸塩等が好ましく例示され、フマル酸塩が特に好ましい。
【0070】
なお、当該塩は、溶媒和物の形態のものを包含し、溶媒和物の形態で当該医薬製剤に含有されていてもよい。溶媒和物としては、例えば、水和物、メタノール和物、エタノール和物等が挙げられる。また、溶媒和物は、一溶媒和物、二溶媒和物、三溶媒和物等であってもよい。例えば、一水和物、二水和物、三水和物等であってもよい。このような塩の溶媒和物として、特に好ましい例として、フマル酸塩一水和物が挙げられる。
【0071】
薬物層に含まれる化合物(I)の塩の量としては、例えば遊離塩基の重量に換算すると5~200mg相当程度が例示できる。当該範囲の上限又は下限は例えば、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、又は195mgであってもよい。例えば、当該範囲は、遊離塩基の重量に換算すると5~60mg相当程度、15~150mg相当程度又は20~100mg相当程度であってもよい。
【0072】
また、薬物層に含まれる化合物(I)の塩の量は、例えば薬物層の1~35質量%程度であることができる。当該範囲の上限または下限は、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、又は34質量%であってもよい。例えば、当該範囲は、2~30質量%程度又は5~20質量%程度であってもよい。
【0073】
薬物層には、当該塩以外にも添加剤、例えば浸透圧調整剤、親水性ポリマー等を含むことができる。
【0074】
薬物層に含まれる浸透圧調整剤としては、半透膜を介して浸透圧勾配を示すものであれば特に制限されない。例えば無機塩、無機酸、有機塩、有機酸、糖、及び糖アルコール等が挙げられる。無機塩としては、例えば塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム(リン酸三ナトリウム)、リン酸カリウム(リン酸三カリウム)、リン酸水素ナトリウム(リン酸2水素ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム)、リン酸水素カリウム(リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム)、塩化カリウム、塩化リチウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、硫酸リチウム、酸性リン酸カリウム等が挙げられる。また、無機酸としては、例えば前述の無機塩を形成する酸が挙げられる。また、有機塩としては、例えばフマル酸ナトリウム(フマル酸二ナトリウム)、フマル酸水素ナトリウム(フマル酸一ナトリウム)、酒石酸水素ナトリウム、酒石酸水素カリウム,酒石酸ナトリウム,酒石酸ナトリウムカリウム,リンゴ酸ナトリウム(リンゴ酸二ナトリウム),コハク酸水素ナトリウム,コハク酸ナトリウム(コハク酸二ナトリウム),マレイン酸水素ナトリウム、マレイン酸ナトリウム(マレイン酸二ナトリウム),クエン酸水素ナトリウム(クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム),クエン酸ナトリウム(クエン酸三ナトリウム)等が挙げられる。また、有機酸としては、例えば前述の有機塩を形成する酸が挙げられる。また、糖及び糖アルコールとしては、例えばマンニトール、グルコース、ラクトース、フルクトース、スクロース、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、乳糖等が挙げられる。これらは、無水物であっても溶媒和物(例えば水和物)であってもよい。これらは、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、薬物層に含まれる浸透圧調整剤は、化合物(I)の塩と共通するイオンを有するものが好ましい。例えば、当該塩がフマル酸塩である場合、共通するイオンを有する浸透圧調整剤としては、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、フマル酸二ナトリウム等が例示される。また、浸透圧調整剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
また、薬物層の浸透圧調整剤の含有量としては、例えば、薬物層重量に対して、1~50質量%程度が挙げられる。当該範囲の上限又は下限は、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、又は49質量%であってもよい。例えば、当該範囲は、10~38質量%又は15~35質量%であってもよい。
【0076】
また、薬物層に含まれる親水性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール等が挙げられる。ポリエチレンオキサイドとしては、低粘度ポリエチレンオキサイドが好ましい。より具体的には、ポリエチレンオキサイドとしては、平均分子量10万~30万程度のポリエチレンオキサイドが好ましく、平均分子量15万~25万程度又は18万~22万程度のポリオキシエチレンオキサイドがより好ましい。また、ポリエチレングリコールとしては、例えば、酸化エチレン単位が平均で4000~8000程度重合したものが好ましく、4500~7500、5000~7000、又は5500~6500程度重合したものがより好ましい。また、薬物層に含まれる親水ポリマーとして、製剤中の薬物の再結晶化を阻害する目的で、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルブチルセルロース及びヒドロキシプロピルペンチルセルロース等)等のセルロース系水溶性高分子、ポリビニルアルコール,ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコールグラフトコポリマー,ポリビニルピロリドン,コポリビドン等も配合することができる。ヒドロキシプロピルアルキルセルロースとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが特に好ましい。また、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとしては、例えばメトキシ基含有量が16~30%程度、より好ましくは27~30%程度、含むヒドロキシプロピルメチルセルロースが好ましい。また、親水性ポリマーは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0077】
なお、上述の通り、本開示の経口医薬組成物においては、薬物含有組成物にセルロース系水溶性高分子に含まれることが好ましい。よって、薬物層に含まれる親水性ポリマーとして、セルロース系水溶性高分子が含まれることが好ましい。
【0078】
薬物層の親水性ポリマーの含有量は、例えば、薬物層重量に対して、5~94質量%程度が挙げられる。当該範囲の上限又は下限は、例えば6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、1、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、又は93質量%であってもよい。例えば、当該範囲は、20~90質量%であってもよい。
また、薬物含有組成物に特にセルロース系水溶性高分子が含まれる場合、薬物層中のセルロース系水溶性高分子の含有量は、薬物層重量に対して例えば5~40質量%程度が挙げられる。また例えば、10~30質量%又は10~20質量%であってもよい。
【0079】
なお、薬物層において、親水性ポリマーとして、特に、(i)ポリエチレンオキサイドと、(ii)ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルアルキルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、ポリビニルピロリドン、及びコポリビドンからなる群より選択される少なくとも1種と、を同時に含有する場合には、例えば、薬物層重量に対して、(i)を10~60質量%、(ii)を5~40質量%程度含有することができる。
【0080】
薬物層は、さらに他の添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、例えば滑沢剤や流動化剤等が挙げられる。滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウムが好ましく挙げられる。また、流動化剤としては、例えば二酸化ケイ素(特に軽質無水ケイ酸)が好ましく挙げられる。
【0081】
薬物層において、滑沢剤(特にステアリン酸マグネシウム)は、例えば、薬物層重量に対して、0.1~5質量%又は0.2~3質量%程度含有されることができる。また、流動化剤(特に二酸化ケイ酸)は、例えば、薬物層重量に対して、0.1~5質量%又は0.1~3質量%程度含有されることができる。
【0082】
また、プッシュ層は、化合物(I)の塩を押出すための成分を含む。当該成分としては、例えば高膨潤性ポリマーが挙げられる。高膨潤性ポリマーとしては、例えばポリアルキレンオキサイドが挙げられ、より具体的には例えばポリエチレンオキサイドが挙げられる。プッシュ層に含まれるポリエチレンオキサイドは、高粘度ポリエチレンオキサイドであることが好ましい。より具体的には、例えば平均分子量300万~700万、400万~700万、又は400万~600万程度のポリエチレンオキサイドが好ましい。
【0083】
プッシュ層において、高膨潤性ポリマーの配合量としては、薬物層中の薬物の特性、含有量等の因子により左右されるが、膨潤することにより薬物層の薬物を所望の放出速度で溶出することができる量であれば特に制限されない。例えば、高膨潤性ポリマーは、プッシュ層重量に対して、50~90質量%、50~85質量%、50~80質量%、55~75質量%、又は60~70質量%程度含有することができる。
【0084】
プッシュ層は、さらに他の添加剤を含有してもよい。例えば、浸透圧調整剤を含有することができる。プッシュ層に含まれる浸透圧調整剤としては、例えば無機塩、無機酸、有機塩、有機酸、糖、及び糖アルコール等が挙げられる。無機塩としては、例えば塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム(リン酸三ナトリウム)、リン酸カリウム(リン酸三カリウム)、リン酸水素ナトリウム(リン酸2水素ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム)、リン酸水素カリウム(リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム)、塩化カリウム、塩化リチウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、硫酸リチウム、酸性リン酸カリウム等が挙げられる。また、無機酸としては、例えば前述の無機塩を形成する酸が挙げられる。また、有機塩としては、例えばフマル酸ナトリウム(フマル酸二ナトリウム)、フマル酸水素ナトリウム(フマル酸一ナトリウム)、酒石酸水素ナトリウム、酒石酸水素カリウム,酒石酸ナトリウム,酒石酸ナトリウムカリウム,リンゴ酸ナトリウム(リンゴ酸二ナトリウム),コハク酸水素ナトリウム,コハク酸ナトリウム(コハク酸二ナトリウム),マレイン酸水素ナトリウム、マレイン酸ナトリウム(マレイン酸二ナトリウム),クエン酸水素ナトリウム(クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム),クエン酸ナトリウム(クエン酸三ナトリウム)等が挙げられる。また、有機酸としては、例えば前述の有機塩を形成する酸が挙げられる。また、糖及び糖アルコールとしては、例えばマンニトール、グルコース、ラクトース、フルクトース、スクロース、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、乳糖等が挙げられる。これらは、無水物であっても溶媒和物(例えば水和物)であってもよい。
【0085】
なお、プッシュ層に含まれる浸透圧調整剤としては、中でも塩化ナトリウム,塩化カリウム,フマル酸水素ナトリウム,フマル酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,リン酸水素ナトリウム,リン酸ナトリウム,リン酸水素カリウム,リン酸カリウム,硫酸ナトリウム,フルクトース,スクロース、キシリトール,ソルビトール,グルコース,マンニトール,エリスリトール,乳糖が好ましく、特に炭酸水素ナトリウムが好ましい。また、浸透圧調整剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0086】
プッシュ層において、浸透圧調整剤は、例えば、プッシュ層重量に対して、5~50質量%、15~50質量%、20~50質量%、25~45質量%、又は30~40質量%程度含有することができる。
【0087】
また、プッシュ層は、さらに他の添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、例えば滑沢剤,流動化剤及び色素等が挙げられる。滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウムが好ましく挙げられる。また、流動化剤としては、例えば二酸化ケイ素(特に軽質無水ケイ酸)が好ましく挙げられる。また、色素としては、例えば酸化鉄が好ましく挙げられる。
【0088】
プッシュ層において、滑沢剤(特にステアリン酸マグネシウム)は、例えば、プッシュ層重量に対して、0.1~5質量%含有されることができる。また、流動化剤(特に二酸化ケイ酸)は、例えば、0.1~5質量%又は0.1~3質量%程度含有されることができる。また、色素(特に酸化鉄)は、例えば0.1~2質量%含有されることができる。
【0089】
コア製剤をコーティングする半透膜は、上述したように、例えばセルロース系ポリマー、好ましくはセルロースアセテートを含む。また、半透膜は、フラックス調整剤を含んでもよい。上述したように、フラックス調整剤としては、例えばポリエチレングリコール(特に平均分子量が、2000~6000、3000~5000、又は3000~6000程度)が好ましい。
【0090】
セルロース系ポリマーは、半透膜において、例えば、半透膜重量に対して70~100質量%、75~95質量%程度含有することができる。また、フラックス調整剤としては、例えば、半透膜重量に対して、0.01~30質量%又は5~25質量%程度含有することができる。
【0091】
また、半透膜のコーティング量としては、水や生体液のような外部液体透過性は高いが、化合物(I)の塩、浸透圧調整剤、高膨潤性ポリマー等の透過性は実質的に不透過性とできる量であることが好ましい。半透膜は、コア製剤100質量部に対して、例えば5~25質量部程度であることができる。当該範囲の上限または下限は、例えば6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、又は24質量部であってもよい。例えば、当該範囲は、5~25質量部程度あってもよい。
【0092】
また、浸透圧ポンプ型の経口固形医薬製剤においては、コア製剤と半透膜との間には、水溶性高分子コーティングが施されていてもよい。言い換えれば、当該製剤は、コア製剤に水溶性高分子膜及び半透膜がこの順に積層(好ましくはコーティング)された構造を有していてもよい。
【0093】
当該水溶性高分子膜は、水溶性高分子として、例えば上記薬物層において含まれ得る親水ポリマーとして説明したものを用いることができる。中でも、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコールグラフトコポリマー及びポリビニルピロリドンを好ましく例示することができる。当該水溶性高分子は、1種のみを使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。当該水溶性高分子膜がヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む場合、例えば水溶性高分子膜の60~100質量%がヒドロキシプロピルメチルセルロースであってもよい。また、当該水溶性高分子膜がポリビニルピロリドンを含む場合、例えば水溶性高分子膜の0~40質量%がポリビニルピロリドンであってもよい。
【0094】
また、水溶性高分子膜は、コア製剤100質量部に対して、例えば1~15質量部程度であることができる。
【0095】
本開示の経口固形医薬製剤は、例えば、前記の成分を含有し、カラーコーティング層を施さない素錠として用いることができる。また、例えば製剤の識別性の付与、あるいは長期的な保存安定性や光による劣化の防止という観点から、カラーコーティング層を施したコーティング錠とすることが好ましい。コーティング層には、コーティング剤、可塑剤、分散剤、消泡剤など、通常経口投与医薬品のコーティング(皮膜)処理を施す際に用いられる医薬品添加物を必要に応じて添加することができる。なお、カラーコーティング層を備える場合は、カラーコーティング層は最外層であることが好ましい。カラーコーティング層には、公知のコーティング剤を用いることができ、例えば、オパドライ(OPADRY)のような代表的なプレミックス添加剤をコーティング剤として用いることができる。また例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコールグラフトコポリマー,ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等を基材として含み、着色剤、滑沢剤、可塑剤等を含むコーティング剤を好ましく用いることができる。
【0096】
本開示の浸透圧ポンプ型経口固形医薬製剤の好ましい一例は、薬物層に、化合物(I)のフマル酸塩を遊離塩基の重量に換算すると5~200mg相当含有し、親水性ポリマーを薬物層重量に対し5~94質量%(うちセルロース系水溶性高分子を薬物層重量に対し5~40質量%)、浸透圧調整剤を薬物層重量に対し1~50質量%、滑沢剤を薬物層重量に対し0.1~5質量%、流動化剤を薬物層重量に対し0.1~5質量%含み、プッシュ層に、高膨潤性ポリマーをプッシュ層重量に対し50~90質量%、浸透圧調整剤をプッシュ層重量に対し5~50質量%、滑沢剤をプッシュ層重量に対し0.1~5質量%、色素をプッシュ層重量に対し0.1~2質量%含み、さらにコア製剤100質量部に対し、5~25質量部の半透膜及び1~15質量部の水溶性高分子膜を含み、半透膜にセルロース系ポリマーを半透膜重量に対し70~100質量%、フラックス調整剤を半透膜重量に対し0.01~30質量%含み、カラーコーティング層を有していてもよい、製剤である。
【0097】
また、上述の通り、本開示の経口医薬組成物の別の好ましい一形態としてハイドロゲル徐放性組成物を挙げることができる。すなわち、本開示のハイドロゲル徐放性組成物(ハイドロゲル徐放性製剤)は、化合物(I)のフマル酸塩を好ましく有効成分として含有し、セルロース系水溶性高分子をさらに含有する。ハイドロゲル徐放性組成物としては、ハイドロゲルマトリクス錠を好ましく挙げることができる。ハイドロゲルマトリクス錠は、(腸溶コーティングを施した錠剤の場合は胃排泄後のpH上昇によってコーティング皮膜が溶解して)消化管の水分を吸収して形成されるハイドロゲルが薬物放出を制御する公知の技術である。
【0098】
ハイドロゲルマトリクス錠における徐放性基剤(ハイドロゲル形成基剤)としては、上述の親水性ポリマーを使用することができ、より具体的には例えば、セルロース系水溶性高分子、ポリアルキレンオキサイド(例えばポリエチレンオキサイド)、ポリアルキレングリコール(例えばポリエチレングリコール)、ポリビニルアルコール等を用いることができる。徐放性基材として、上記の親水性ポリマーを1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、少なくとも1種のセルロース系水溶性高分子を含むことが特に好ましい。また、徐放性基剤に主としてセルロース系水溶性高分子以外の親水性ポリマー(例えばポリエチレンオキサイド)を用いる場合は、少なくとも一種のセルロース系水溶性高分子と組み合わせることが好ましい。
【0099】
セルロース系水溶性高分子としては、例えば、製剤学分野で公知のセルロース系水溶性高分子を好ましく用いることができる。また例えば、セルロースのOH基の一部が、水素原子がメチル基及び/又はヒドロキシプロピル基に置換した構造を有するものが好ましい。具体的には、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース等が好ましい。セルロース系水溶性高分子は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
セルロース系水溶性高分子としては、任意のセルロース系水溶性高分子、例えば2%水溶液としての粘度が2.5~35,000mm/sのセルロース系水溶性高分子を用いることができるが、特に2%水溶液としての粘度が2.5~17.5mm/sのセルロース系水溶性高分子が好ましい。
【0100】
また、徐放性基剤に主としてセルロース系水溶性高分子(例えばヒプロメロース)を用いる場合、当該セルロース系水溶性高分子は目的とする溶出速度に応じて、2%水溶液としての粘度が80~35,000mm/sのものを用いるのが好ましい。なお、ここである親水性ポリマーを「主として」用いるとは、その親水性ポリマーの量が、徐放性基剤の総質量に対し50質量%以上、例えば80質量%以上又は90質量%以上占めることをいう。
【0101】
徐放性基剤は、例えば、コア錠剤の重量に対して、30~90質量%又は50~80質量%程度含有されることができる。
【0102】
ハイドロゲルマトリクス錠は、さらに他の添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、例えば水和促進剤、滑沢剤、及び流動化剤等が挙げられる。
【0103】
水和促進剤としては、無機塩、無機酸、有機塩、有機酸、糖、及び糖アルコール等が挙げられる。無機塩としては、例えば塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム(リン酸三ナトリウム)、リン酸カリウム(リン酸三カリウム)、リン酸水素ナトリウム(リン酸2水素ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム)、リン酸水素カリウム(リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム)、塩化カリウム、塩化リチウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、硫酸リチウム、酸性リン酸カリウム等が挙げられる。また、無機酸としては、例えば前述の無機塩を形成する酸が挙げられる。また、有機塩としては、例えばフマル酸ナトリウム(フマル酸二ナトリウム)、フマル酸水素ナトリウム(フマル酸一ナトリウム)、酒石酸水素ナトリウム、酒石酸水素カリウム,酒石酸ナトリウム,酒石酸ナトリウムカリウム,リンゴ酸ナトリウム(リンゴ酸二ナトリウム),コハク酸水素ナトリウム,コハク酸ナトリウム(コハク酸二ナトリウム),マレイン酸水素ナトリウム、マレイン酸ナトリウム(マレイン酸二ナトリウム),クエン酸水素ナトリウム(クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム),クエン酸ナトリウム(クエン酸三ナトリウム)等が挙げられる。また、有機酸としては、例えば前述の有機塩を形成する酸が挙げられる。また、糖及び糖アルコールとしては、例えばマンニトール、グルコース、ラクトース、フルクトース、スクロース、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、乳糖等が挙げられる。これらは、無水物であっても溶媒和物(例えば水和物)であってもよい。これらは、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、水和促進剤としては、化合物(I)のフマル酸塩と共通するイオンを有するものが好ましい。例えば、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、フマル酸二ナトリウム等が例示される。水和促進剤は、例えば、コア錠剤の重量に対して、1~50質量%又は10~30質量%程度含有されることができる。
【0104】
滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウムが好ましく挙げられる。滑沢剤は、例えば、コア錠剤の重量に対して、0.1~5質量%又は0.2~3質量%程度含有されることができる。流動化剤としては、例えば二酸化ケイ素(特に軽質無水ケイ酸)が好ましく挙げられる。流動化剤は、例えば、コア錠剤の質量に対して、0.1~5質量%又は0.1~3質量%程度含有されることができる。
【0105】
ハイドロゲルマトリクス錠は、腸溶コーティングを備えたものがより好ましい。腸溶コーティングには、公知の腸溶コーティング組成物を用いることができる。例えば、オイドラギット等の腸溶基剤、クエン酸トリエチル等の可塑剤、タルク等の滑沢剤を含む腸溶コーティング組成物を好ましく用いることができる。腸溶コーティングは、例えば、コア錠剤100質量部に対して、1~40質量部又は10~30質量部程度含有されることができる。
【0106】
本開示のハイドロゲル徐放性製剤の好ましい一例は、化合物(I)のフマル酸塩を遊離塩基の重量に換算すると5~200mg相当含有し、徐放性基材をコア錠剤の重量に対し30~90質量%、水和促進剤をコア錠剤の重量に対し1~50質量%、滑沢剤をコア錠剤の重量に対し0.1~5質量%含有し、コア製剤100質量部に対して1~40質量部の腸溶コーティングを備えた、製剤である。
【0107】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0108】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例
【0109】
以下に実施例及び試験例等を示し、本開示をさらに具体的に説明するが、本開示はこれらの例に限定されない。なお、化合物(I)とは、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンを示す。
【0110】
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)-ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンフマル酸塩の調製
水32.5L、エタノール22.16kg、フマル酸4.22kgの懸濁液を、撹拌しながら還流させることで溶解させた(還流温度:約82℃)。得られた溶液を、エタノール11.86kgで洗浄しながら濾過し、フマル酸溶液を得た。7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)-ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン15.0kg、水25.96kg、酢酸8.32kg、エタノール34.0Lの懸濁液を、撹拌しながら還流させることにより溶解させた(還流温度:約83℃)。得られた溶液を、フマル酸溶液に加えた後、エタノール11.86kgで洗浄しながらろ過した。ろ液を還流下、15分(還流温度:約82℃)撹拌した後、30℃以下まで冷却し、固液分離した。得られた固形物を水で洗浄し、80℃で乾燥した後、加湿し、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)-ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンフマル酸塩16.86kgを得た。
【0111】
[赤外吸収スペクトル]
上記方法により調製されたフマル酸塩について、島津製作所社製のフーリエ変換形赤外分光光度計(IRPrestige-21)を用いて、KBr錠剤法によりフマル酸塩のIRスペクトルを測定した。IRスペクトルは図4aに示すように、波数3657cm-1、1711cm-1、1643cm-1、1416cm-1、1227cm-1及び839cm-1付近に吸収を認めた。
【0112】
[粉末X線回折]
上記方法により調製したフマル酸塩について、Bruker AXS社製のX線回折装置(D8 ADVANCE)を用いて粉末X線回折を測定した。図4bにフマル酸塩の粉末X線回折パターンを示す。図4bに示すように,2θ=7.6°、15.1°、17.7°、18.9°及び19.2°に回折ピークを認めた。それ以外のピークとしては、2θ=9.8°、11.3°、12.2°、14.0°、16.5°、17.0°、21.2°、22.3°、22.7°、23.8°、24.2°、24.7°、25.4°、26.5°、26.9°、27.9°、28.9°、31.9°、32.3°、32.6°及び34.2°に回折ピークを認めた。
【0113】
[水分測定]
調製されたフマル酸塩の水分を測定した。具体的には、メトローム社製の水分測定装置(タイトランド852)を用いて、カールフィッシャー法(電量滴定法)により水分を測定した。その結果、フマル酸塩の水分は3.01重量%であった。
【0114】
薬物持続放出性製剤の調製及び評価1
化合物(I)の塩の持続放出を提供するための薬物層とプッシュ層からなる二層圧縮コアを含む浸透圧ポンプ型組成物(製剤)を、通常の既知の製造プロセスに従って製造した。即ち、化合物(I)の塩とその他の不活性剤とを含有する薬物層組成物、及び、浸透圧剤と高粘性ポリマーとを含有するプッシュ層組成物を別々に製造し、各組成物を公知のコア圧縮技法を使用して二層錠剤コアに圧縮した。
【0115】
次いで、二層圧縮コアを水溶性高分子からなる組成物で被覆した。水溶性高分子の組成物としては、ヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース;TC-5、信越化学工業株式会社)とポビドン(ポリビニルピロリドン;Kollidon K30、BASF)と(70:30(W/W%))を固形分として8%となるように水に溶解してコーティング液を調製した。この水溶性高分子コーティング溶液を上記のように製造された二層圧縮コアにパンコーターを用いて、コーティング成分が二層圧縮コア質量の10%になるまで被覆した。
【0116】
更に、得られた水溶性コーティング二層圧縮コアを半透膜組成物で被覆した。半透膜組成物としては、酢酸セルロースとポリエチレングリコール4000(85:15(W/W%))をアセトン/水(95:5(W/W%))を溶媒として、固形分として5%となるように溶解してコーティング液を調製した。このコーティング溶液を上記で製造された水溶性コーティング二層圧縮コアに、パンコーターを用いて、コーティング成分が二層圧縮コア質量の10%になるまで被覆し、パンコーターから取り出したのちに、棚式乾燥機にて40℃で24時間乾燥処理した。
【0117】
このようにして得られたコーティング処理された二層圧縮コアについて、自動化されたレーザーを使用して薬物層側面に直径0.8mmの薬物放出口を設けて、浸透圧ポンプ型製剤とした。
【0118】
当該浸透圧ポンプ型製剤に使用された各成分を下記表1A又は表1Bに示す。
【0119】
【表1A】
【表1B】
得られた各例の製剤を、以下の試験例1に供し、評価した。
【0120】
なお、低粘度ポリエチレンオキサイドとしては、POLYOX(商標)WSR N-80(平均分子量約200,000,粘度55-90mPa・s(5%W/V水溶液,25℃))を用いた。また、高密度ポリエチレンオキサイドとしては、POLYOX(登録商標) WSR Coagulant(平均分子量:500万、粘度:5500-7500mPa・s(1%W/V水溶液、25℃))を用いた。
【0121】
[試験例1:過飽和溶出濃度プロファイルの測定]
各例の製剤からの放出速度を、化合物(I)の塩の溶出率を18又は24時間にわたって1又は2時間間隔で測定することにより評価した。溶出試験は、第十五改正日本薬局方溶出試験第二法(パドル法)に従って行った。試験液として、日本薬局方収載の溶出試験第二液(pH約7、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム)900mLを用い、37℃、パドル回転速度50rpmで行った。経時的にサンプリングを行い、サンプリング溶液中の化合物(I)(遊離塩基)をUV検出器(吸光度測定波長:323nm及び380nm)にて定量した。第一波長(323nm)は主薬の吸光度が最大限検出できる波長、第二波長(380nm)は主薬由来の吸光度が検出されない波長として設定した。結果を示す図において、Dissolved(μg/mL)は、溶出した化合物(I)(遊離塩基)の濃度を示す。
【0122】
なお、試験例1では溶出液のpHが約7であり、試験例1で評価される溶出試験の結果は、経口医薬組成物が経口投与され胃を通過した後の消化管下部において、どの程度化合物(I)の塩が溶出するかの指標となる。なお、この試験例1において、化合物(I)の塩の溶解度が化合物(I)の溶解度より高いことから、製剤からの溶出濃度が一時的に化合物(I)の溶解度を超えて過飽和濃度を示し、その後化合物(I)の再結晶化に伴い溶出濃度は低下する現象がみられる。この時得られたプロファイルを過飽和溶出プロファイルとし、消化管下部での吸収性の指標として評価することができる。
【0123】
得られた各例の製剤の試験例1の結果を図1a又は図1bに示す。実施例の製剤(化合物(I)のフマル酸塩含有製剤)は、比較例の製剤(化合物(I)含有製剤)に比べ、優れた過飽和溶出プロファイルを示した。
【0124】
薬物持続放出性製剤の調製及び評価2
さらに優れた過飽和溶出プロファイルを示す経口医薬組成物を検討したところ、化合物(I)のフマル酸塩は、水溶性高分子と組み合わせて薬物含有組成物を調製すると、特に優れた過飽和溶出プロファイルを示す可能性が見いだされた。そこで、化合物(I)のフマル酸塩と各種水溶性高分子とを組み合わせて用い、表2の組成に従って、上述した方法と同様にして、浸透圧ポンプ型製剤を調製した。なお、表2のメトローズSM-4はメチルセルロースであり、HPC-SLはヒドロキシプロピルセルロースであり、PVP Kollidon25はポリビニルピロリドンであり、Kollicoat IRは、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマーである。
【0125】
【表2】
得られた各例の製剤についても、上記試験例1と同様にして過飽和溶出プロファイルを測定した。結果を図2aに示す。いずれの実施例の製剤も、実施例1-1の製剤の過飽和溶出プロファイル(図1)より優れた(特に、ピークの高さが高い)過飽和溶出プロファイルを示した。また、特にセルロース系水溶性高分子を用いた例では過飽和溶出プロファイルのピークの高さが比較的高く、より好ましかった。
【0126】
またさらに、これらの製剤について、以下の試験例2のようにして、放出速度を検討した。
【0127】
[試験例2:放出速度の測定]
各例の製剤からの放出速度を、化合物(I)の塩の溶出率を24時間にわたって30分~2時間間隔で測定することにより評価した。溶出試験は、第十五改正日本薬局方溶出試験第二法(パドル法)に従って行った。試験液として、0.05mol/L酢酸緩衝液(pH約4.3、酢酸、酢酸ナトリウム)900mLを用い、37℃、パドル回転速度50rpmで行った。経時的にサンプリングを行い、サンプリング溶液中の化合物(I)(遊離塩基)量をUV検出器(吸光度測定波長:323nm及び380nm)にて定量した。製剤に含まれる化合物(I)(遊離塩基)全量(質量)を100%としたときの化合物(I)(遊離塩基)の溶出質量割合(%)を溶出率とした。なお、当該溶出率値は、製剤に含まれる化合物(I)の塩全量(質量)を100%としたときの化合物(I)の塩の溶出質量割合(%)と同値であるので、当該溶出率値を化合物(I)の塩の溶出率としても用いることができる。
結果を示す図において、Dissolved(%)は溶出率を示す。
【0128】
なお、試験例2では溶出液のpHが約4.3であり、試験例2で評価される溶出試験の結果は、経口医薬組成物が経口投与された後に消化管全体において、どの程度化合物(I)の塩が溶出するかの指標となる。得られたプロファイルから、経口医薬組成物の持続放出時間を評価することができる。
【0129】
結果を図2bに示す。いずれの実施例の製剤も、優れた持続放出性を示すことが分かった。
【0130】
薬物持続放出性製剤の調製及び評価3
表3に記載の組成に従って、ハイドロゲル徐放性製剤(ハイドロゲルマトリクス錠)を調製した。具体的には、各成分を混合して流動層造粒した後、打錠してハイドロゲルマトリクス錠(素錠)を調製した。なお、ハイドロゲルマトリクス錠は、(コーティングを施した錠剤の場合は胃排泄後のpH上昇によってコーティング皮膜が溶解して)消化管の水分を吸収して形成されるハイドロゲルが薬物放出を制御する公知の技術である。表3の実施例3-1組成では、ポリエチレンオキサイド及びヒプロメロースを徐放性基剤(ハイドロゲル形成基剤)として用い、比較例3-2組成では、ポリエチレンオキサイドを徐放性基剤(ハイドロゲル形成基剤)として用いている。
【0131】
【表3】
得られた各例の製剤についても、上記試験例1と同様にして過飽和溶出プロファイルを測定した。結果を図3に示す。実施例の製剤は、比較例の製剤に比べ、優れた過飽和溶出プロファイルを示した。
【0132】
浸透圧ポンプ型製剤処方例
表4に、本開示の経口医薬組成物である浸透圧ポンプ型製剤の処方例を示す。表4では、薬物層及びプッシュ層の各成分の処方は質量部で示され、コーティング層の処方はコア部100質量部に対する質量部で示されている。なお、「コア部」は薬物層とプッシュ層の組み合わせ部を示す。
【0133】
【表4】
【0134】
ヒト経口投与時の化合物(I)の血中濃度の評価
本開示の経口医薬組成物をヒトに経口投与した際の定常状態の化合物(I)の血中濃度を、以下の単回投与プロトコール及び連続投与プロトコールに基づいて評価する。本評価において使用する製剤(試験製剤)は、有効成分として化合物(I)のフマル酸塩を含む、本開示に従って調製される浸透圧ポンプ型製剤である。なお、以下に示す投与量及び錠剤中の含有量は、遊離塩基相当、つまり化合物(I)の重量に換算したものである。単回投与プロトコールは、試験製剤24mg(24mg錠を1錠)を空腹時、単回投与する。その後、休薬期間をおいて試験製剤48mg(24mg錠を2錠)を空腹時、単回投与する。連続投与プロトコールは、以下の投与方法1~5のいずれかの方法で、試験製剤を空腹時、反復投与する。それぞれのプロトコールにおいて、化合物(I)のPKパラメータを解析する。定常状態で週1回製剤として望ましい化合物(I)の血中濃度が維持されることが観察される(例えば15ng/mL~400ng/mL)。
【0135】
【表5】
図1a
図1b
図2a
図2b
図3
図4a
図4b
図5