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特許7148757ポリイミド樹脂前駆体、ポリイミド樹脂、金属張り積層板、積層体及びフレキシブルプリント配線板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂前駆体、ポリイミド樹脂、金属張り積層板、積層体及びフレキシブルプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20220928BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20220928BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20220928BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C08G73/10
B32B15/088
B32B27/34
H05K1/03 610P
H05K1/03 630H
H05K1/03 670
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022523317
(86)(22)【出願日】2021-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2021036515
(87)【国際公開番号】W WO2022085398
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2022-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2020177202
(32)【優先日】2020-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000155698
【氏名又は名称】株式会社有沢製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100194179
【弁理士】
【氏名又は名称】中澤 泰宏
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100197701
【弁理士】
【氏名又は名称】長野 正
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義徳
(72)【発明者】
【氏名】松山 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】今野 喜彦
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-150544(JP,A)
【文献】特開2012-233198(JP,A)
【文献】特開2005-304207(JP,A)
【文献】特開2018-028076(JP,A)
【文献】特開2018-024932(JP,A)
【文献】特開2021-011567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00-73/26
B32B 15/088、27/34
H05K 1/03
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミンと、酸無水物と、を反応させて得られるポリイミド樹脂前駆体であって、
前記ジアミンは、p-フェニレンジアミンと、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼンと、2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール-5-アミンと、を含み、
前記酸無水物は、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含み、
前記ジアミン全体に対して、前記p-フェニレンジアミンの含有量が30~75mol%、前記ビス(アミノフェノキシ)ベンゼンの含有量が10~30mol%、前記2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール-5-アミンの含有量が10~50mol%であり、
前記酸無水物全体に対して、前記ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の含有量が78mol%以上である、ポリイミド樹脂前駆体。
【請求項2】
前記ビス(アミノフェノキシ)ベンゼンが、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、請求項1に記載のポリイミド樹脂前駆体。
【請求項3】
前記酸無水物に、前記酸無水物全体に対して、ピロメリット酸二無水物を0~22mol%含む、請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂前駆体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂前駆体が硬化されてなるポリイミド樹脂。
【請求項5】
100~200℃の範囲における線膨張係数が30ppm/K以下である、請求項4に記載のポリイミド樹脂。
【請求項6】
常態における誘電率が3.50以下である、請求項4又は5に記載のポリイミド樹脂。
【請求項7】
常態における誘電正接が0.0040以下である、請求項4から6のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂。
【請求項8】
23℃の純水に24時間浸漬した後の吸水率が1.5%以下である、請求項4から7のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂。
【請求項9】
金属箔の粗面又は光沢面に、ポリイミド樹脂から構成されるポリイミド樹脂層が積層された金属張り積層板であって、
前記ポリイミド樹脂は、請求項4から8のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂から構成され、
前記ポリイミド樹脂層が積層された前記金属箔の粗面又は光沢面の表面粗さ(Sa)が、0.09~0.18μmである、金属張り積層板。
【請求項10】
層状の熱可塑性ポリイミド樹脂の両面に、請求項9に記載の金属張り積層板を構成するポリイミド樹脂層が接するように前記金属張り積層板がそれぞれ積層されている積層体。
【請求項11】
配線が形成された基板と、基材と前記基材の片面に積層された接着材層とから構成されるカバーレイフィルムと、を備え、前記基板の配線が形成された面に前記接着材層が接するように前記カバーレイフィルムが積層されているフレキシブルプリント配線板であって、
前記基板が請求項9に記載の金属張り積層板又は請求項10に記載の積層体から構成される、フレキシブルプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂前駆体、ポリイミド樹脂、金属張り積層板、積層体及びフレキシブルプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
移動通信分野において4Gから5Gへの移行に伴い、より大きな情報量を電波で伝送することが可能となる。その伝送に際しては電波の周波数を高くする必要がある。一方で、周波数の高い電波を電子機器が受信した際に、電子機器内部で伝送損失が発生する。この伝送損失を小さくするための材料として、例えば金属張り積層板及びフレキシブルプリント配線板が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、周波数の高い電波に対応した低誘電率、低誘電正接、低線膨張係数及び低吸水率を有するポリイミド樹脂が開示されている。また、同文献には、このポリイミド樹脂を用いた金属張り積層板及びフレキシブルプリント配線板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-150544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなポリイミド樹脂が使用された金属張り積層板及びフレキシブルプリント配線板から構成される電子機器の伝送損失は小さい。一方で、金属張り積層板に使用される金属箔の粗面の凹凸(表面粗さ)を小さくすることで、伝送損失をより小さくすることができるという改善の余地がある。しかし、表面の凹凸が小さい金属箔を用いた金属張り積層板は、金属箔とポリイミド樹脂層との間で十分な密着力が得られないという課題を有する。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、誘電率、誘電正接、線膨張係数及び吸水率が低いポリイミド樹脂、ポリイミド樹脂と金属箔との密着力が高い金属張り積層板及び積層体、伝送損失が小さいフレキシブルプリント配線板を提供し、さらに、当該ポリイミド樹脂を構成するポリイミド樹脂前駆体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定のジアミン及び特定の酸無水物を特定の割合で含むポリイミド樹脂前駆体、このポリイミド樹脂前駆体から構成されるポリイミド樹脂が、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
ジアミンと、酸無水物と、を反応させて得られるポリイミド樹脂前駆体であって、前記ジアミンは、p-フェニレンジアミンと、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼンと、2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール-5-アミンと、を含み、前記酸無水物は、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含み、前記ジアミン全体に対して、前記p-フェニレンジアミンの含有量が30~75mol%、前記ビス(アミノフェノキシ)ベンゼンの含有量が10~30mol%、前記2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール-5-アミンの含有量が10~50mol%であり、前記酸無水物全体に対して、前記ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の含有量が78mol%以上、である、ポリイミド樹脂前駆体。
【0009】
[2]
前記ビス(アミノフェノキ)シベンゼンが、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、[1]に記載のポリイミド樹脂前駆体。
【0010】
[3]
前記酸無水物に、前記酸無水物全体に対して、ピロメリット酸二無水物を0~22mol%含む、[1]又は[2]に記載のポリイミド樹脂前駆体。
【0011】
[4]
[1]から[3]のいずれかに記載のポリイミド樹脂前駆体が硬化されてなるポリイミド樹脂。
【0012】
[5]
線膨張係数が30ppm/K以下である、[4]に記載のポリイミド樹脂。
【0013】
[6]
常態における誘電率が3.50以下である、[4]又は[5]に記載のポリイミド樹脂。
【0014】
[7]
常態における誘電正接が0.0040以下である、[4]から[6]のいずれかに記載のポリイミド樹脂。
【0015】
[8]
吸水率が1.5%以下である、[4]から[7]のいずれかに記載のポリイミド樹脂。
【0016】
[9]
金属箔の粗面又は光沢面に、ポリイミド樹脂から構成されるポリイミド樹脂層が積層された金属張り積層板であって、前記ポリイミド樹脂は、[4]から[8]のいずれかに記載のポリイミド樹脂から構成され、前記ポリイミド樹脂層が積層された前記金属箔の粗面又は光沢面の表面粗さ(Sa)が、0.09~0.18μmである、金属張り積層板。
【0017】
[10]
層状の熱可塑性ポリイミド樹脂の両面に、[9]に記載の金属張り積層板を構成するポリイミド樹脂層が接するように前記金属張り積層板がそれぞれ積層されている積層体。
【0018】
[11]
配線が形成された基板と、基材と前記基材の片面に積層された接着材層とから構成されるカバーレイフィルムと、を備え、前記基板の配線が形成された面に前記接着材層が接するように前記カバーレイフィルムが積層されているフレキシブルプリント配線板であって、前記基板が[9]に記載の金属張り積層板又は[10]に記載の積層体から構成される、フレキシブルプリント配線板。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、誘電率、誘電正接、線膨張係数及び吸水率が低いポリイミド樹脂、ポリイミド樹脂と金属箔との密着力が高い金属張り積層板及び積層体、伝送損失が小さいフレキシブルプリント配線板を提供し、さらに、当該ポリイミド樹脂を構成するポリイミド樹脂前駆体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0021】
(ポリイミド樹脂前駆体)
実施形態のポリイミド樹脂前駆体は、硬化させてポリイミド樹脂として用いることができる。また、このポリイミド樹脂は、主に、金属張り積層板、積層体及びフレキシブルプリント配線板等に好適に用いられる。なお、ポリイミド樹脂前駆体は、ポリアミック酸ともいわれる。
【0022】
実施形態のポリイミド樹脂前駆体は、ジアミンと酸無水物とを反応させて得られるポリイミド樹脂前駆体である。ジアミンは、p-フェニレンジアミンと、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼンと、2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール-5-アミンと、を含む。酸無水物は、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含む。
【0023】
p-フェニレンジアミンの含有量は、ジアミンの成分全体に対して、30~75mol%であり、好ましくは50~72mol%であり、より好ましくは62~72mol%である。p-フェニレンジアミンの含有量が30~75mol%であることで、ポリイミド樹脂の耐熱性を高め、線膨張係数(以下、CTEともいう。)を低く抑えることができる。
【0024】
ビス(アミノフェノキシ)ベンゼンの含有量は、ジアミンの成分全体に対して、10~30mol%であり、好ましくは10~18mol%である。ビス(アミノフェノキシ)ベンゼンの含有量が10~30mol%であることで、ポリイミド樹脂と金属箔との密着性が向上し、誘電正接及び線膨張係数を低く抑えることができる。
【0025】
ビス(アミノフェノキシ)ベンゼンは、ポリイミド樹脂と金属箔との密着性を向上させる観点から、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含むことが好ましい。さらに誘電率を低く抑え、表面粗さが非常に小さい金属箔とポリイミド樹脂との密着性を向上させる観点から、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンであることが好ましい。
【0026】
2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール-5-アミンの含有量は、ジアミンの成分全体に対して、10~50mol%である。2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール-5-アミンの含有量が10~50mol%であることで、ポリイミド樹脂と金属箔との密着力が高い状態を維持したまま誘電正接及び線膨張係数を低く抑えることができる。2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール-5-アミンの含有量は、好ましくは10~30mol%であり、より好ましくは10~20mol%である。
【0027】
ジアミンは、p-フェニレンジアミン、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン、2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール-5-アミン以外に、他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、4,4'-ジアミノビフェニル、4,4'-ジアミノ-2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、3,3'-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4'-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2-ビス[4-(4- アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ) フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン等が挙げられる。
【0028】
上記成分の中でも、他の成分としては、価格や入手容易性の観点から、2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含むことが好ましい。
【0029】
他の成分としては、ポリイミド樹脂の線膨張係数を低く抑える観点から、2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含むことが好ましい。
【0030】
他の成分としては、ポリイミド樹脂の低誘電化の観点から、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼンから選ばれる少なくとも1種以上を含むことが好ましい。
【0031】
上記ジアミン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0032】
酸無水物は、酸無水物全体に対して、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を78mol%以上含む。これにより、ポリイミド樹脂と金属箔との密着性を向上させ、ポリイミド樹脂の線膨張係数を30ppm/K以下に抑えることができる。
【0033】
ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上であり、中でも、線膨張係数を低く抑える観点から、3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましい。
【0034】
酸無水物は、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物以外に、他の成分を含んでもよい。他の酸無水物の成分としては、例えば、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、p-フェニレンビス(トリメリテート無水物)等が挙げられる。上記成分の中でも、ポリイミド樹脂の線膨張係数を低く抑える観点から、ピロメリット酸二水物が好ましい。実施形態のポリイミド樹脂前駆体では、ピロメリット酸二水物を0~22mol%含む。
【0035】
(ポリイミド樹脂前駆体の製造方法)
実施形態におけるポリイミド樹脂前駆体は、ジアミンと酸無水物とを公知の方法により縮重合させることで得られる。ポリイミド樹脂前駆体の製造方法の手順は、以下の通りである。まず、溶剤にジアミンを添加した後、室温で溶解させる。次に、その溶液を撹拌しながら、酸無水物を徐々に添加する。添加した後、さらに室温で30分以上撹拌してポリイミド樹脂前駆体を得る。撹拌する際の温度は、-10℃から溶剤の沸点以下の温度、好ましくは室温である。溶剤にポリイミド樹脂前駆体が溶解している溶液をポリイミド樹脂前駆体溶液という。
【0036】
ポリイミド樹脂前駆体を製造する際に用いる溶剤は、ポリイミド樹脂前駆体を溶解させる溶剤であれば、特に限定されない。溶剤としては、例えば、非プロトン性極性溶剤、エーテル系溶剤、水溶性アルコール系溶剤、非水溶性アルコール系溶剤、ケトン系溶剤等が挙げられる。上記溶剤は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
非プロトン性極性溶剤としては、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルフォスフォラアミド等が挙げられる。
【0038】
エーテル系溶剤としては、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-(メトキシ)エトキシエタノール、2-イソプロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
【0039】
水溶性アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
【0040】
非水溶性アルコール系溶剤としては、ベンジルアルコールが挙げられる。
【0041】
ケトン系溶剤としては、1,5,5-トリメチル-3-シクロヘキサノンが挙げられる。さらに、その他の溶剤としてγ-ブチロラクトンが挙げられる。
【0042】
ポリイミド樹脂前駆体溶液中に含まれる溶剤の割合は、加工性と外観を良好にする観点から、ポリイミド樹脂前駆体溶液全体を100質量%としたとき、70~90質量%であり、好ましくは80~90質量%である。
【0043】
ポリイミド樹脂前駆体溶液の粘度は、1~50Pa・s(1000~50000CP)であり、好ましくは2~30Pa・s(2000~30000CP)であり、より好ましくは2~20Pa・s(2000~20000CP)である。粘度を1~50Pa・s(1000~50000CP)とすることにより、ポリイミド樹脂前駆体溶液を金属箔に塗布した後の塗布面の外観が良好となる。
【0044】
(ポリイミド樹脂)
実施形態のポリイミド樹脂は、ポリイミド樹脂前駆体を硬化(イミド化)させることにより得られる。具体的には、ポリイミド樹脂前駆体溶液を、例えば、銅箔、アルミニウム箔、ガラス板等の基材上に塗布し、加熱により溶剤を蒸発させることで、ポリイミド樹脂前駆体が得られる。次に、このポリイミド樹脂前駆体をイミド化することで、ポリイミド樹脂が得られる。イミド化するための温度は、200℃以上、好ましくは250℃以上、より好ましくは300℃以上である。加熱する時間は、5分以上、好ましくは30分以上である。
【0045】
ポリイミド樹脂前駆体溶液を基材に塗布する装置は、例えば、ダイコータ、コンマコータ、グラビアコータ、スピンコータ、スプレイコータ等である。
【0046】
実施形態のポリイミド樹脂は、例えば、金属張り積層板や積層体を構成する樹脂として使用することができる。また、実施形態のポリイミド樹脂をフィルム状に加工することでポリイミドフィルムとして使用することができる。
【0047】
ポリイミドフィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、2~125μmである。ポリイミドフィルムは、例えば、耐熱絶縁テープ、カバーレイフィルム、コンデンサー等に用いることができる。
【0048】
実施形態のポリイミド樹脂の線膨張係数は、30ppm/K以下であり、好ましくは28ppm/K以下であり、より好ましくは25ppm/K以下である。30ppm/K以下であれば、ポリイミド樹脂の線膨張係数が小さいため、ポリイミド樹脂は金属箔と同じ挙動を示す。従って、このようなポリイミド樹脂を用いた金属張り積層板、積層体、フレキシブルプリント配線板は、温度変化に伴う積層構成の変化も生じ難く、フレキシブルプリント配線板においては伝送損失が小さい。
【0049】
線膨張係数は、熱機械分析装置TMAを用いて測定することができる。測定用サンプルは、厚さ25μmのフィルム状のポリイミド樹脂を、幅5mm、長さ15mmの矩形にカットしたものである。測定は、例えば、10℃/minの昇温速度で100~200℃の範囲における寸法の変化を測定することにより行う。
【0050】
実施形態のポリイミド樹脂の常態における誘電率(比誘電率)は、3.50以下であり、好ましくは3.40以下であり、より好ましくは3.30以下である。常態における誘電率を3.50以下にすることにより、フレキシブルプリント配線板の伝送損失が小さくなる。ここで、常態とは、測定用サンプルを23℃、50%RHの雰囲気下で24時間以上静置した状態をいう。以下、実施形態において同じである。
【0051】
実施形態のポリイミド樹脂の吸水後における誘電率は、3.60以下であり、好ましくは3.50以下であり、より好ましくは3.40以下である。吸水後における誘電率が3.60以下であることにより、電子機器の使用環境に左右されず,伝送損失を小さくすることができる。ここで、吸水後とは、測定用サンプルを23℃の純水に24時間浸漬させ、その後、測定用サンプル表面に付着した水分を拭き取った直後の状態をいう。以下、実施形態において同じである。
【0052】
誘電率は、SPDR法(スプリットポスト誘電体共振器法)により測定することができる。測定用サンプルはフィルム状のポリイミド樹脂を所定のサイズにカットしたものである。測定条件は、例えば、23℃雰囲気下、周波数10GHzである。
【0053】
実施形態のポリイミド樹脂の常態における誘電正接は、0.0040以下であり、好ましくは0.0035以下である。常態における誘電正接を0.0040以下にすることにより、フレキシブルプリント配線板の伝送損失を小さくすることができる。
【0054】
実施形態のポリイミド樹脂の吸水後における誘電正接は、0.0080以下であり、好ましくは0.0070以下であり、より好ましくは0.0060以下である。吸水後における誘電正接が0.0080以下であることにより、電子機器の使用環境に左右されず、フレキシブルプリント配線板の伝送損失を小さくすることができる。
【0055】
誘電正接は、誘電率と同様の方法で測定することができる。
【0056】
実施形態のポリイミド樹脂の吸水率は1.5%以下であり、好ましくは1.2%以下であり、より好ましくは1.0%以下である。吸水率が1.5%以下であることにより、フレキシブルプリント配線板の伝送損失を小さくすることができる。低い吸水率が好ましい理由は、水の誘電率及び誘電正接が非常に高いためである。
【0057】
吸水率は、純水に浸漬させる前と後の質量変化から求めることができる。測定用サンプルは、フィルム状のポリイミド樹脂であり、所定のサイズにカットしたものである。浸漬前の測定用サンプルは、105℃の雰囲気下で、30分間静置したものである。浸漬後の測定用サンプルは、23℃の純水に24時間浸漬し、その後、測定用サンプル表面に付着した水分を拭き取った直後のものである。
【0058】
(金属張り積層板)
実施形態の金属張り積層板は、金属箔の粗面又は光沢面に、実施形態のポリイミド樹脂から構成されるポリイミド樹脂層が積層されている。ポリイミド樹脂層が積層される金属箔の粗面又は光沢面の表面粗さ(Sa)は、0.09~0.18μmである。ポリイミド樹脂層が積層される金属箔の粗面又は光沢面をラミネート面又は塗布面ともいう。ラミネート面又は塗布面には、防錆処理や、シランカップリング剤等の表面処理がされていてもよい。この金属張り積層板は、片面金属張り積層板ともいう。
【0059】
金属箔としては、例えば、銅箔、アルミニウム箔、SUS箔等が挙げられる。導電性、金属箔への回路加工性の観点から、銅箔が好ましい。金属箔の種類は、電解金属箔及び圧延金属箔があり、どちらでも使用することができる。屈曲用途に用いられる金属張り積層板の場合、金属箔は圧延金属箔が好ましい。金属箔の厚みは、特に限定されるものではないが、2~35μmである。
【0060】
表面粗さ(Sa)は、算術平均高さであり、IS025178に準じて求めることができる。実施形態の金属箔の表面粗さ(ポリイミド樹脂が積層される金属箔の表面の粗さ)は、伝送損失を小さくする観点から、0.09~0.18μmであり、好ましくは0.09~0.13μmである。
【0061】
積層されているポリイミド樹脂層の厚さは、特に限定されるものではないが、2~100μmである。
【0062】
実施形態の金属張り積層板における金属箔とポリイミド樹脂層との密着力は、6N/cm以上であり、好ましくは8N/cm以上であり、より好ましくは10N/cm以上である。このような高い密着力を有する実施形態の金属張り積層板は、金属箔とポリイミド樹脂層とが密着する界面において層間剥離を生じがたい。これにより、実施形態の金属張り積層板から構成される電子機器は、長期使用での信頼性が高いものとなる。
【0063】
密着力は、引き剥がし強度(ピール強度)を測定することで評価することができる。サンプルの作製及び引き剥がし強度の測定は、JIS C6471.8.1に準拠して行う。引き剥がし強度(ピール強度)は、サンプルの金属箔を90°方向(金属張り積層板の銅層表面に対して直角となる方向)に引っ張った際の強度を測定することにより求められる。測定条件は、引張速度は50mm/minである。
【0064】
(金属張り積層板の製造方法)
実施形態の金属張り積層板の製造方法は、ポリイミド樹脂前駆体溶液を金属箔の粗面側に塗布する工程と、金属箔に塗布されたポリイミド樹脂前駆体溶液を乾燥する工程と、ポリイミド樹脂前駆体をイミド化してポリイミド樹脂にする工程と、を備える。
【0065】
ポリイミド樹脂前駆体溶液を金属箔の粗面側に塗布する工程において、金属箔に形成されるポリイミド樹脂前駆体溶液の塗布厚さは、2~150μmの間で適宜設定される。塗布装置としては、例えば、コンマコータ、ダイコータ、グラビアコータ等が挙げられる。実施形態の金属張り積層板の製造方法においては、ポリイミド樹脂前駆体溶液を金属箔の粗面に塗布しているが、用途に応じて金属箔の光沢面に塗布してもよいし、金属箔の両面に塗布してもよい。
【0066】
金属箔に塗布されたポリイミド樹脂前駆体溶液を乾燥する工程において、温度は80~200℃の範囲で適宜設定される。乾燥させる時間は、温度により適宜調整される。乾燥後のポリイミド樹脂前駆体に含まれる残存溶剤の量は、ポリイミド樹脂前駆体の樹脂成分100質量%に対して、50質量%以下であることが好ましい。これにより、金属箔の粗面に形成されたポリイミド樹脂前駆体層の表面のベタツキがなくなるため(タック性が小さくなるため)、Roll to Rollで銅張り積層板を巻き取ることができる。また、金属箔とポリイミド樹脂前駆体層との界面において、金属箔の表面の細部にポリイミド樹脂前駆体が行き渡るため、ポリイミド樹脂前駆体をイミド化した後のポリイミド樹脂と金属箔との密着性が向上する。
【0067】
ポリイミド樹脂前駆体をイミド化してポリイミド樹脂にする工程において、温度は300~400℃の範囲で適宜設定される。ポリイミド樹脂前駆体をイミド化するための時間は、温度により適宜調整される。
【0068】
(積層体)
実施形態の積層体は、層状の熱可塑性ポリイミド樹脂の両面に、実施形態の金属張り積層板を構成するポリイミド樹脂層が接するように金属張り積層板がそれぞれ積層されている。この積層体は、両面金属張り積層板ともいう。
【0069】
実施形態の熱可塑性ポリイミド樹脂は、ガラス転移温度(Tg)以上に加熱すると軟化し、Tg以上において弾性率が著しく低下する樹脂である。熱可塑性ポリイミド樹脂の弾性率は、動的粘弾性測定(DMA)により測定することができる。熱可塑性ポリイミド樹脂をDMAで測定すると、温度上昇と共に、弾性率(E’)が徐々に低下し、Tg付近で極端に低下する。
【0070】
熱可塑性ポリイミド樹脂は、例えば2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパンに代表されるジアミンと、3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に代表される酸二無水物と、を反応させて得られる熱可塑性ポリイミド樹脂前駆体をイミド化させて得ることができる。市販されている熱可塑性ポリイミド樹脂としては、例えば、倉敷紡績株式会社製のMidfil(商品名)、荒川化学工業株式会社製のPIAD(商品名)、三井化学株式会社製のオーラム(商品名)等が挙げられる。熱可塑性ポリイミド樹脂は、ワニス状、シート状にして用いることができる。例えば、ワニス状の熱可塑性ポリイミド樹脂を金属箔に塗布する場合は、乾燥後の厚みが、3~16μmである。また、シート状の場合は、厚みが2~8μmである。
【0071】
(積層体の製造方法)
実施形態の積層体の製造方法は、片面金属張り積層板を構成するポリイミド樹脂層に熱可塑性ポリイミド樹脂前駆体溶液を塗布し乾燥する工程と、熱可塑性ポリイミド樹脂前駆体をイミド化し熱可塑性ポリイミド樹脂層を形成する工程と、熱可塑性ポリイミド樹脂層が形成された2つの片面金属張り積層板を互いの熱可塑性ポリイミド樹脂層が接するように積層する工程と、2つの片面金属張り積層板が積層された積層体を熱圧着する工程と、を備える。
【0072】
片面金属張り積層板を構成するポリイミド樹脂層に熱可塑性ポリイミド樹脂前駆体溶液を塗布し乾燥する工程において、ポリイミド樹脂層に塗布される熱可塑性ポリイミド樹脂前駆体は、乾燥後の厚さが3~16μmである。塗布装置は、塗布厚さに応じて適宜選択でき、例えば、コンマコータ、ダイコータ、グラビアコータ等が挙げられる。乾燥する際の温度は、80~200℃の範囲で適宜設定される。時間は、設定する温度により適宜調整される。
【0073】
熱可塑性ポリイミド樹脂前駆体をイミド化し熱可塑性ポリイミド樹脂層を形成する工程において、イミド化する温度は300~400℃の範囲で適宜設定される。時間は、温度により適宜調整される。
【0074】
熱可塑性ポリイミド樹脂層が形成された2つの片面金属張り積層板を互いの熱可塑性ポリイミド樹脂層が接するように積層する工程において、積層する際は加圧してもよい。
【0075】
2つの片面金属張り積層板が積層された積層体を熱圧着する工程において、熱圧着は、熱プレスやロールラミネートにより行う。加熱する温度は熱可塑性ポリイミドのTg以上、380℃以下の範囲で適宜設定される。圧力は、0.5~5MPaの範囲で適宜設定される。時間は、5sec~120minの範囲で適宜設定される。
【0076】
積層体の別の製造方法は、片面金属張り積層板を構成するポリイミド樹脂層にシート状の熱可塑性ポリイミド樹脂を積層する工程と、別の片面金属張り積層板を構成するポリイミド樹脂層とシート状の熱可塑性ポリイミド樹脂とが接するように積層する工程と、積層された積層体を熱圧着する工程と、を備える。
【0077】
(フレキシブルプリント配線板)
実施形態のフレキシブルプリント配線板は、配線が形成された基板と、基材と基材の片面に積層された接着材層とから構成されるカバーレイフィルムと、を備え、基板の配線が形成された面に接着材層が接するようにカバーレイフィルムが積層されており、基板が実施形態の金属張り積層板又は実施形態の積層体から構成されている。
【0078】
基板に形成される配線は、例えば、銅張り積層板の銅層がエッチング処理により形成された配線である。銅に代えて、SUS、アルミニウム、亜鉛等の他の金属で構成されてもよい。
【0079】
実施形態のフレキシブルプリント配線板に用いられる基板の厚さは、基板が柔軟性を有する観点から15~200μmである。
【0080】
(フレキシブルプリント配線板の製造方法)
実施形態のフレキシブルプリント配線板の製造方法は、金属張り積層板を構成する金属層部分に配線が形成された基板とカバーレイフィルムとを準備する工程と、基板の配線が形成された面に接着材層が接するようにカバーレイフィルムを積層する工程と、基板にカバーレイフィルムが積層された積層体を熱圧着する工程と、を備える。
【0081】
積層体を熱圧着する工程において、熱圧着する際の温度は120~250℃の範囲で適宜設定される。圧力は1~10MPaの範囲で適宜設定される。時間は5sec~120minの範囲で適宜設定される。
【実施例
【0082】
以下の実施例及び比較例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0083】
実施例及び比較例において用いたジアミン、酸無水物、溶剤及び銅箔は、以下のものを用いた。
【0084】
(ジアミン)
p-PDA:p-フェニレンジアミン、
TPE-R:1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、
TPE-Q:1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、
APB:1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、
5ABO:2-(4-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール-5-アミン、
ODA:4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、
m-TB:2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、
BAPP:2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン。
【0085】
(酸無水物)
s-BPDA:3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、
PMDA:ピロメリット酸二無水物、
TAHQ:p-フェニレンビス(トリメリテート無水物)。
【0086】
(溶剤)
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド、
NMP:N-メチルピロリドン。
【0087】
(銅箔)
銅箔A:銅箔粗面の表面粗さ(Sa)0.13μm、最大高さ(Rz)0.8μm、JX金属社製、BHM処理圧延銅箔12μm、
銅箔B:銅箔光沢面の表面粗さ(Sa)0.18μm、最大高さ(Rz)0.8μm、福田金属箔粉工業社製、FLEQ HD電解銅箔12μm、
銅箔C:銅箔粗面の表面粗さ(Sa)0.09μm、最大高さ(Rz)0.6μm、JX金属社製、GHY5処理圧延銅箔12μm、
銅箔D:銅箔粗面の表面粗さ(Sa)0.30μm、最大高さ(Rz)1.2μm、古河電気工業社製、F2-WS電解銅箔12μm。
【0088】
実施例及び比較例において各評価方法及び測定方法は以下の方法により行った。
【0089】
<表面粗さ(Sa)>及び<最大高さ(Rz)>
銅箔の粗面又は光沢面の表面粗さ(Sa)及び最大高さ(Rz)について、測定した。
(1)測定用サンプル
使用する銅箔を一辺の長さが100mmの正方形になるようにカットし、それを測定用サンプルとした。
【0090】
(2)測定方法
(1)で準備したサンプルをISO25178に準じて表面粗さ(Sa)、すなわち算術平均高さを測定した。測定装置は、Bruker社製のCONTOUR GT-Kを用いた。なお、最大高さ(Rz)はSaを測定する際に同時に計測した。
【0091】
<密着力>
密着力は、引き剥がし強度(ピール強度)を測定し評価した。
(1)測定用サンプル
実施例及び比較例で得られた銅張り積層板を構成する銅層の表面を、所定の模様にエッチングし、23℃、50%RHの雰囲気下に24時間以上静置したものを測定用サンプルとした。なお、所定の模様とは、長さ200mm、幅3mmの矩形が矩形の長さの方向と直交する方向に複数配列している模様である。
【0092】
(2)測定方法
(1)で作製した測定用サンプルをJIS C 6471の8.1項に準じて測定した。測定機器は、島津製作所社製オートグラフAGS-500を用いた。測定は、90°方向(銅張り積層板の銅層表面に対して直角となる方向)におけるピール強度を測定した。測定条件は、テストスピードを50mm/minとし、口出しした銅層(銅箔)の一端を掴んで引き剥がす方法(銅箔引き)で行った。
【0093】
(3)評価基準
評価基準は、以下の通りとした。
Excellent:ピール強度が10N/cm以上、
Good:ピール強度が6.0N/cm以上10.0N/cm未満、
Poor:ピール強度が6.0N/cm未満。
【0094】
<線膨張係数(CTE)>
線膨張係数は、温度を変えた際の寸法変化を測定し評価した。
(1)測定サンプル
実施例1~13及び比較例1~21で得られた銅張り積層板を構成する銅層(銅箔)全てをエッチングにより除去し、23℃、50%RHの雰囲気下に24時間以上静置した後、長さ15mm、幅5mmの矩形にカットして、それを測定用サンプル(常態サンプル)とした。
【0095】
(2)測定方法
島津製作所社製の熱機械分析装置TMA-60を用いて、100~200℃までの寸法変化の測定データから、100~200℃の温度範囲における線膨張係数を算出した。測定条件は、荷重5g、10℃/minの昇温速度とした。
【0096】
(3)評価基準
評価基準は、以下の通りとした。
Excellent:25ppm/K以下、
Good:26ppm/K以上、30ppm/K以下、
Poor:31ppm/K以上。
【0097】
<誘電率、誘電正接>
誘電率及び誘電正接は、SPDR法(スプリットポスト誘電体共振器法)により測定し評価した。
(1)測定サンプル
(1-1)常態サンプル
実施例1~13及び比較例1~21で得られた銅張り積層板を構成する銅層(銅箔)全てをエッチングにより除去し、23℃、50%RHの雰囲気下に24時間以上静置したものを常態サンプルとした。サンプル形状は、一辺の長さが100mmの正方形とした。
(1-2)吸水後サンプル
実施例1~13及び比較例1~21で得られた銅張り積層板を構成する銅層(銅箔)全てをエッチングにより除去し、23℃の純水に24時間浸漬させた後、表面の余分な水分を拭き取った直後のものを吸水後サンプルとした。サンプル形状は、一辺の長さが100mmの正方形とした。
【0098】
(2)測定方法
(1)で作製した測定サンプルを専用治具(SPDRフィクスチャ)に取り付け、Agilent Technologies社製Network Analyzer N5230Aを用いて測定した。測定条件は、23℃の雰囲気下、周波数10GHzとした。n=5で測定を行い、その平均値を測定サンプルの誘電率、誘電正接とした。
【0099】
(3)評価基準
(3-1)常態における誘電率、誘電正接の評価基準
常態における誘電率の評価基準は、以下の通りとした。
Excellent:3.30以下、
Good:3.31以上3.50以下、
Poor:3.51以上。
常態における誘電正接の評価基準は、以下の通りとした。
Excellent:0.0035以下、
Good:0.0036以上、0.0040以下、
Poor:0.0041以上。
【0100】
(3-2)吸水後における誘電率、誘電正接の評価基準
吸水後における誘電率の評価基準は、以下の通りとした。
Excellent:3.40以下、
Good:3.41以上、3.60以下、
Poor:3.61以上。
吸水後における誘電正接の評価基準は、以下の通りとした。
Excellent:0.0060以下、
Good:0.0061以上、0.0080以下、
Poor:0.0081以上。
【0101】
<吸水率>
吸水率は、サンプルを純水に浸漬させる前と後の質量変化を測定し評価した。
(1)測定サンプル
実施例1~13及び比較例1~21で得られた銅張り積層板を構成する銅層(銅箔)全てをエッチングにより除去し、一辺の長さが50mmの正方形にカットした。浸漬前の測定サンプルは、105℃の雰囲気下で、30分間、静置し、室温まで冷却したものとした。浸漬後の測定サンプルは、23℃の純水に24時間浸漬し、その後測定サンプル表面に付着した水分を拭き取った直後のものとした。
【0102】
(2)測定方法
浸漬前の測定サンプルの質量を測定し、それをm0とした。浸漬後の測定サンプルの質量を測定し、それをmdとした。この測定した値を式((md-m0)×100)/m0=吸水率(%)に代入し、吸水率を測定した。n=3で測定を行い、その平均値を測定サンプルの吸水率とした。
【0103】
(3)評価基準
吸水率の評価基準は、以下の通りとした。
Excellent:1.0%以下、
Good:1.1%以上1.5%以下、
Poor:1.6%以上。
【0104】
<伝送損失>
伝送損失を測定するための専用のサンプルを作製し、そのサンプルを用いてマイクロストリップライン法により、伝送損失(信号の減衰)を測定した。
(1)測定サンプル
実施例14~16及び比較例22で得られた両面銅張り積層板を構成する片面の銅層(銅箔)に、長さ100mm、幅91μmの線状の回路をエッチングにより形成した。もう一方の面の銅層(銅箔)はエッチングしないでそのままの状態を維持した。ここで、この線状の回路をマイクロストリップラインともいう。
【0105】
マイクロストリップラインの幅は、インピーダンスを50Ωとし、マイクロストリップラインの厚さ(銅箔の厚さ)、両面銅張り積層板を構成する絶縁層の厚さ及び誘電率を、マイクロストリップラインの設計計算式に代入して求めた。ここで、実施例14~16及び比較例22で得られた両面銅張り積層板の絶縁層とは、ポリイミド樹脂層/熱可塑性ポリイミド樹脂層/熱可塑性ポリイミド樹脂層/ポリイミド樹脂層の順で積層された層をいう。
【0106】
(2)測定装置
測定に際して、サンプルの伝送利得を測定するアンリツ社製フィクスチャー3680Vと、その測定したデータを解析して伝送損失を測定するAgilent Technologies社製Netwok Analyzer N5247Aとから構成される装置を測定装置とした。
【0107】
(3)測定方法
(1)で作製したサンプルを、アンリツ社製フィクスチャー3680Vに付設されている専用治具に取り付けた。その後、測定周波数20GHzにより、伝送損失を測定した。
【0108】
(4)評価基準
伝送損失の評価基準は、以下の通りとした。
Good:-5dB/10cm以上、
Poor:-5dB/10cm未満。
【0109】
実施例1では、密着力等を測定するための片面銅張り積層板を作製した。
(実施例1)
500mLのフラスコに、NMPを85g、p-PDAを2.2844g(ジアミン100mol%に対して62mol%)、5ABOを1.5349g(ジアミン100mol%に対して20mol%)、及びTPE-Rを1.7929g(ジアミン100mol%に対して18mol%)、添加した後、室温で溶解するまで撹拌した。得られた溶液に、s-BPDAを7.7643g(酸無水物100mol%に対して78mol%)、PMDAを1.6235g(酸無水物100mol%に対して22mol%)徐々に添加した。その後、室温で6時間撹拌することにより、ポリイミド樹脂前駆体溶液を得た。
【0110】
得られたポリイミド樹脂前駆体溶液を銅箔Aの粗面に、イミド化後の樹脂厚さが25μmとなるように、バーコータを用いて塗布し、130℃の雰囲気下で15分間乾燥させ、ポリイミド樹脂前駆体層が形成された銅箔Aを得た。
【0111】
この銅箔Aを室温まで冷却し、その後、昇温速度35℃/分で360℃(物温)まで昇温し、360℃で3分保持した。その後、室温まで自然冷却し、片面銅張り積層板を得た。
【0112】
(実施例2)~(実施例13)、(比較例1)~(比較例21)
表1A~表3Bに示すように、各成分の種類、含有量及び銅箔の種類を変更した以外は実施例1と同様の方法により、片面銅張り積層板を作製した。なお、実施例4の片面銅張り積層板は、銅箔Bの光沢面にポリイミド樹脂層が形成された構成となるように作製した。
【0113】
【表1A】
【0114】
【表1B】
【0115】
【表2A】
【0116】
【表2B】
【0117】
【表3A】
【0118】
【表3B】
【0119】
実施例14では、伝送損失を測定するための両面銅張り積層板を作製した。
(実施例14)
(熱可塑性ポリイミド樹脂前駆体溶液の作製)
500mLのフラスコに、DMAcを87g、BAPPを7.6044g(0.01852mol)添加した後、室温で溶解するまで撹拌した。得られた溶液に、s-BPDAを5.3956g(0.01834mol)徐々に添加した。その後、室温で3時間撹拌することにより、熱可塑性ポリイミド樹脂前駆体溶液を得た。
【0120】
(熱可塑性ポリイミド樹脂付き片面銅張り積層板の作製)
実施例1で得たポリイミド樹脂前駆体溶液を、銅箔Aの粗面に、イミド化後の樹脂厚さが23μmとなるように、バーコータを用いて塗布し、130℃の雰囲気下で15分間乾燥させ、ポリイミド樹脂前駆体層が形成された銅箔Aを得た。次に、その塗布面に、先に作製した熱可塑性ポリイミド樹脂前駆体溶液を、乾燥後の樹脂厚さが2μmとなるように塗布して、130℃の雰囲気下で5分間乾燥させた。乾燥後、銅箔から近い順に、ポリイミド樹脂前駆体層、熱可塑性ポリイミド樹脂前駆体層の順で積層された銅箔Aを得た。
【0121】
この銅箔Aを室温まで冷却し、その後、昇温速度35℃/分で360℃(物温)まで昇温し、360℃で3分保持した。その後、室温まで自然冷却し、熱可塑性ポリイミド樹脂層付き片面銅張り積層板を得た。
【0122】
(両面銅張り積層板の作製)
得られた片面銅張り積層板を2枚準備し、互いの熱可塑性ポリイミド樹脂層が接する状態で片面銅張り積層板を積層した。この積層体を、320℃、4MPa、10分間の条件でプレスすることにより、両面銅張り積層板を得た。なお、実施例14の両面銅張り積層板の構成は、銅箔(12μm)/ポリイミド樹脂層(23μm)/熱可塑性ポリイミド樹脂層(2μm)/熱可塑性ポリイミド樹脂層(2μm)/ポリイミド樹脂層(23μm)/銅箔(12μm)の順で積層された構成であった。
【0123】
(実施例15)、(実施例16)、(比較例22)
表4に示すように、銅箔の種類を変更した以外は実施例14と同じ材料を用いて、同様の方法により、両面銅張り積層板を作製した。なお、実施例15で用いた片面銅張り積層板は、銅箔Bの光沢面にポリイミド樹脂層が形成された構成となるように作製した。
【0124】
【表4】
【0125】
表4の「絶縁層(*)」は、ポリイミド樹脂層、熱可塑性ポリイミド樹脂層、熱可塑性ポリイミド樹脂層及びポリイミド樹脂層の4層をまとめた層を意味する。
【0126】
表1A及び表1Bに示されているように、実施例1~13の銅張り積層板は、ポリイミド樹脂層と金属箔との密着性に優れ、誘電率、誘電正接、線膨張係数及び吸水率にも優れていた。このような積層板から構成された積層体、フレキシブルプリント配線板を用いた電子機器の伝送損失は小さいものとなる。
【0127】
この裏付けとして、表4に示されているように、実施例14~16の銅張り積層板は、銅箔の表面粗さが小さいにもかかわらずポリイミド樹脂層と金属箔との密着性に優れ、かつ、伝送損失も優れていることがわかった。
【0128】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変更が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、請求の範囲によって示される。そして、請求の範囲及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【0129】
本出願は、2020年10月22日に出願された、日本国特許出願特願2020-177202号に基づく。本明細書中に日本国特許出願特願2020-177202号の明細書、特許請求の範囲全体を参照して取り込むものとする。