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特許7148758複合シート及びその製造方法、並びに、積層体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】複合シート及びその製造方法、並びに、積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/83 20060101AFI20220928BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20220928BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20220928BHJP
   C04B 35/583 20060101ALI20220928BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C04B41/83 G
B32B5/18
B32B9/00 A
C04B35/583
C04B38/00 303Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022528624
(86)(22)【出願日】2022-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2022005177
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2021059683
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】南方 仁孝
(72)【発明者】
【氏名】金子 政秀
(72)【発明者】
【氏名】吉松 亮
(72)【発明者】
【氏名】坂口 真也
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/022956(WO,A1)
【文献】特開2008-073875(JP,A)
【文献】国際公開第2020/203586(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/155110(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/172345(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/111978(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
C04B 35/583 - 35/5835
C04B 38/00
C04B 41/83
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の窒化物焼結板と、前記窒化物焼結板の気孔に充填された樹脂と、を含む複合シートであって、
シートの外周縁を含む硬化領域を有し、
前記硬化領域における樹脂の硬化率が、その他の領域における樹脂の硬化率よりも高く、
前記硬化領域のシートの厚さ方向に沿った断面における幅が、シートの全長の1~20%であり、
前記硬化領域における樹脂の硬化率が60%以上であり、
前記樹脂の硬化率の最大値と最小値との差が30%以上である、
複合シート。
【請求項2】
前記硬化領域はシートの外周縁の全周に亘って設けられる、請求項1に記載の複合シート。
【請求項3】
前記硬化領域はシートの厚さ方向に沿って延在する、請求項1又は2に記載の複合シート。
【請求項4】
前記硬化領域が前記窒化物焼結板の側面に設けられた樹脂層である、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合シート。
【請求項5】
前記樹脂が熱硬化性樹脂を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の複合シート。
【請求項6】
前記樹脂の充填率が89%以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の複合シート
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の複合シートと、前記複合シート上に設けられた金属シートと、を備える、積層体。
【請求項8】
多孔質の窒化物焼結板に樹脂組成物を含浸して樹脂含浸シートを得る含浸工程と、
前記樹脂含浸シートを加熱して気孔に充填された前記樹脂組成物を半硬化する第一硬化工程と、
前記樹脂含浸シートの外周縁を含む領域に対して熱又はレーザー光を照射することによって、前記樹脂組成物を硬化又は半硬化させることによって、シートの外周縁を含む硬化領域を有し、前記硬化領域における樹脂の硬化率が、その他の領域における樹脂の硬化率よりも高く、前記硬化領域のシートの厚さ方向に沿った断面における幅が、シートの全長の1~20%であり、前記硬化領域における樹脂の硬化率が60%以上であり、前記樹脂の硬化率の最大値と最小値との差が30%以上である、複合シートを得る第二硬化工程と、を有する、複合シートの製造方法。
【請求項9】
多孔質の窒化物焼結板の外周縁を含む領域に第1樹脂組成物を含浸して第1樹脂含浸シートを得る第一含浸工程と、
前記第1樹脂含浸シートを加熱して気孔に充填された前記第1樹脂組成物を硬化又は半硬化して外周縁を含む領域に樹脂を含む第1樹脂充填シートを得る第一硬化工程と、
前記第1樹脂充填シートに第2樹脂組成物を含浸して第2樹脂含浸シートを得る第二含浸工程と、
前記第2樹脂含浸シートを加熱して、前記第2樹脂組成物を硬化又は半硬化させることによって、シートの外周縁を含む硬化領域を有し、前記硬化領域における樹脂の硬化率が、その他の領域における樹脂の硬化率よりも高く、前記硬化領域のシートの厚さ方向に沿った断面における幅が、シートの全長の1~20%であり、前記硬化領域における樹脂の硬化率が60%以上であり、前記樹脂の硬化率の最大値と最小値との差が30%以上である、複合シートを得る第二硬化工程と、を有する、複合シートの製造方法。
【請求項10】
多孔質の窒化物焼結板に樹脂組成物を含浸して樹脂含浸シートを得る含浸工程と、
前記樹脂含浸シートを加熱して気孔に充填された前記樹脂組成物を硬化又は半硬化して第1樹脂を含む樹脂充填シートを得る硬化工程と、
前記樹脂充填シートの側面を第3樹脂で被覆することによって、シートの外周縁を含む硬化領域を有し、前記硬化領域のシートの厚さ方向に沿った断面における幅が、シートの全長の1~20%である複合シートを得る被覆工程と、を有し、
前記第3樹脂の硬化率は、前記第1樹脂の硬化率よりも高く
前記硬化領域における樹脂の硬化率が60%以上であり、前記樹脂の硬化率の最大値と最小値との差が30%以上である、複合シートの製造方法。
【請求項11】
前記樹脂の充填率が89%以上である、請求項8~10のいずれか一項に記載の複合シートの製造方法
【請求項12】
請求項8~11のいずれか一項に記載の製造方法で得られた複合シートと、金属シートと、を積層し、加熱及び加圧する積層工程を有する、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合シート及びその製造方法、並びに、積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、及びCPU等の部品においては、使用時に発生する熱を効率的に放熱することが求められる。このような要請から、従来、電子部品を実装するプリント配線板の絶縁層の高熱伝導化を図ったり、電子部品又はプリント配線板を、電気絶縁性を有する熱インターフェース材(Thermal Interface Materials)を介してヒートシンクに取り付けたりすることが行われてきた。このような絶縁層及び熱インターフェース材には、放熱部材として、樹脂と窒化ホウ素等のセラミックスとで構成される複合体が用いられる。
【0003】
このような複合体として、多孔性のセラミックス焼結体(例えば、窒化ホウ素焼結体)に樹脂を含浸させた複合体が検討されている(例えば、特許文献1参照)。また、回路基板と樹脂含浸窒化ホウ素焼結体とを有する積層体において、窒化ホウ素焼結体を構成する一次粒子と回路基板とを直接接触させて、積層体の熱抵抗を低減し、放熱性を改善することも検討されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/196496号
【文献】特開2016-103611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高電圧下で使用される回路基板等と共に使用される複合体にはより絶縁性に優れることが求められる。
【0006】
本開示は、被着体への接着性に優れ、且つ被着体への接着後に優れた絶縁性を発揮し得る複合シート及びその製造方法を提供することを目的とする。本開示はまた、優れた絶縁性を有する積層体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述のような複合体では樹脂部が半硬化状態に維持されており、金属シート等の被着体との接続時に樹脂を更に硬化させることによって接着性の向上を図っている。本発明者らは検討によって、樹脂が半硬化状態であり接続時の加熱によって流動的となることで、複合体の側面から樹脂の一部が流れ出し、複合体中の樹脂量の低下、ボイド等の発生を招き、期待し得るほどの絶縁性が発揮されない場合があることを見出した。本開示は、当該知見に基づいてなされたものである。
【0008】
本開示の一側面は、多孔質の窒化物焼結板と、上記窒化物焼結板の気孔に充填された樹脂と、を含む複合シートであって、シートの外周縁を含む硬化領域を有し、上記硬化領域における樹脂の硬化率が、その他の領域における樹脂の硬化率よりも高い、複合シートを提供する。
【0009】
上記複合シートは、外周縁を含む領域に、その他の領域よりも硬化率の高い硬化領域を有することによって、被着体への接続時に樹脂が流れ出すことを抑制し、得られる被着体は優れた絶縁性を発揮し得る。上記複合シートは上記硬化領域以外の領域における樹脂の硬化率が硬化領域よりも低いことによって、被着体との接着性も確保し得る。
【0010】
上記硬化領域はシートの外周縁の全周に亘って設けられていてよい。硬化領域がシートの外周縁の全周に亘って設けられることによって、被着体への接続時における樹脂の流れ出しをより一層抑制することが可能であり、得られる積層体の絶縁性をより向上し得る。
【0011】
上記硬化領域はシートの厚さ方向に沿って延在してよい。硬化領域がこのように設けられることによって、シートの側面からの樹脂の流れ出しをより一層抑制することができる。
【0012】
上記硬化領域のシートの厚さ方向に沿った断面における幅が、シートの全長の1~20%であってよい。硬化領域の幅が上記範囲内であることによって、被着体への接着性と、被着体との接続によって得られる積層体の絶縁性とをより高水準で両立することができる。
【0013】
上記硬化領域が上記窒化物焼結板の側面に設けられた樹脂層であってよい。
【0014】
上記樹脂が熱硬化性樹脂を含有してよい。上記樹脂が熱硬化性樹脂を含有することで、被着体との接続時に硬化を促進させ、複合シートの硬化樹脂以外の領域からの樹脂の流れ出しをより抑制することができる。
【0015】
上記樹脂の硬化率の最大値と最小値との差が30%以上であってよい。例えば、硬化領域における樹脂の硬化率(最大値に相当)とその他領域における樹脂の硬化率(最小値に相当)との差が30%以上であることによって、被着体への接続時における樹脂の流れ出しをより低減し、接着性も十分に確保することができる。
【0016】
上記硬化領域における樹脂の硬化率が60%以上であってよい。
【0017】
本開示の一側面は、上述の複合シートと、上記複合シート上に設けられた金属シートと、を備える、積層体を提供する。
【0018】
上記積層体は、上述の複合シートを備えることから、優れた絶縁性を発揮し得る。
【0019】
本開示の一側面は、多孔質の窒化物焼結板に樹脂組成物を含浸して樹脂含浸シートを得る含浸工程と、上記樹脂含浸シートを加熱して機構に充填された上記樹脂組成物を半硬化する第一硬化工程と、上記樹脂含浸シートの外周縁を含む領域に対して熱又はレーザー光を照射することによって、上記樹脂組成物を硬化又は半硬化する第二硬化工程と、を有する、複合シートの製造方法を提供する。
【0020】
上記製造方法は、外周縁を含む領域に対して硬化反応を促進する複数の処理を行うことによって、シートの外周縁を含む領域に硬化領域を形成することができる。これによって、上述の複合シートを製造できる。
【0021】
本開示の一側面は、多孔質の窒化物焼結板の外周縁を含む領域に第1樹脂組成物を含浸して第1樹脂含浸シートを得る第一含浸工程と、上記第1樹脂含浸シートを加熱して気孔に充填された前記第1樹脂組成物を硬化又は半硬化して外周縁を含む領域に樹脂を含む第1樹脂充填シートを得る第一硬化工程と、上記第1樹脂充填シートに第2樹脂組成物を含浸して第2樹脂含浸シートを得る第二含浸工程と、上記第2樹脂含浸シートを加熱して、上記第2樹脂組成物を硬化又は半硬化する第二硬化工程と、を有する、複合シートの製造方法を提供する。
【0022】
上記製造方法は、窒化物焼結板の外周縁を含む領域に予め第1樹脂組成物を含浸し、硬化又は半硬化させた後に、窒化物焼結板の全面に第2樹脂組成物を含浸し、硬化又は半硬化させる工程を有する。このような工程を経ることによって、シートの外周縁を含む領域については、硬化反応を促進する複数の処理を行うことになり、当該領域の硬化がその他の領域よりも進行する。そのため、上述の複合シートを製造できる。
【0023】
本開示の一側面は、多孔質の窒化物焼結板に樹脂組成物を含浸して樹脂含浸シートを得る含浸工程と、上記樹脂含浸シートを加熱して気孔に充填された上記樹脂組成物を硬化又は半硬化して第1樹脂を含む樹脂充填シートを得る硬化工程と、上記樹脂充填シートの側面を第3樹脂で被覆する被覆工程と、を有し、上記第3樹脂の硬化率は、上記第1樹脂の硬化率よりも高い、複合シートの製造方法を提供する。
【0024】
上記製造方法は、従前と類似の方法によって樹脂充填シートを調整したうえで、当該樹脂充填シートの側面に、上記樹脂充填シートを構成する樹脂の硬化率よりも硬化率が高い第3樹脂で被覆することによって、上述の複合シートを製造できる。
【0025】
本開示の一側面は、上述の製造方法で得られた複合シートと、金属シートと、を積層し、加熱及び加圧する積層工程を有する、積層体の製造方法を提供する。
【0026】
上記製造法は、上述の複合シートを用いることから、優れた絶縁性を発揮し得る積層体を提供できる。
【発明の効果】
【0027】
本開示によれば、被着体への接着性に優れ、且つ被着体への接着後に優れた絶縁性を発揮し得る複合シートを提供できる。本開示によればまた、優れた絶縁性を有する積層体及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、複合シートの一例を示す斜視図である。
図2図2は、図1のII-II線に沿った断面を示す模式図である。
図3図3は、複合シートの別の例を示す模式断面図である。
図4図4は、積層体の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、場合によって図面を参照して、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合によって重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0030】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0031】
複合シートの一実施形態は、多孔質の窒化物焼結板と、上記窒化物焼結板の気孔に充填された樹脂と、を含む。複合シートは、シートの外周縁を含む硬化領域を有し、上記硬化領域における樹脂の硬化率が、その他の領域における樹脂の硬化率よりも高い。シートの形状は特に限定されるものではないが、一般に直方体形状である。
【0032】
図1は、複合シートの一例を示す斜視図である。図2図1のII-II線に沿った断面を示す模式図である。複合シート10は、シートの外周縁の全周に設けられた硬化領域14と、硬化領域14に囲まれる領域(その他の領域12)とを有する。図1において複合シート10は、硬化領域14がシートの外周縁の全周に亘るように連続的に設けられた例で示したが、不連続に設けられてもよい。複合シート10を加熱処理した際の樹脂の流れ出しを抑制する観点からは、外周縁の全周に亘るように連続的に硬化領域14が設けられるのがより望ましい。なお、硬化領域14であるか否かは、複合シート10の主面の中央領域における樹脂の硬化率を基準として、シートの外周縁における樹脂の硬化率が大きいことを調べることによって、確認できる。簡易には、該当箇所(例えば、外周縁を含み、外周縁から中央に向かって1mm程度の領域)から採取した樹脂のサンプルについて示差走査熱量測定によって発熱量を調べることによって行うことができる。
【0033】
複合シート10の断面において、硬化領域14はシートの厚さ方向に沿って延在し、且つ一様の幅で連続的に形成された例で示した。硬化領域14の幅t1及びt2のシート厚さ方向に沿った断面における幅は、複合シート10に求める性能によって調整することができる。硬化領域14の幅は、例えば、複合シート10の全長Lを基準として、20%以下、15%以下、又は10%以下であってよい。硬化領域14の幅は、例えば、同じ断面における複合シート10の全長Lを基準として、1%以上、3%以上、又は5%以上であってよい。硬化領域14の幅は上述の範囲内で調整してよく、複合シート10の全長Lを基準として、例えば、1~20%、又は5~10%であってよい。硬化領域の幅t1及びt2は互いに同じであってよく、異なってもよいが、両者が異なる場合であっても、硬化領域の幅t1及びt2の両方が上述の範囲内であることが望ましい。
【0034】
複合シート10の厚さは、例えば、10.0mm未満、5.0mm以下、又は2.0mm以下であってもよい。複合シート10の厚さの下限は、例えば、0.1mm以上、0.2mm以上、又は0.3mm以上であってよい。これによって、複合シート10を十分に小型化することができる。このような複合シート10は、例えば半導体装置の部品として好適に用いられる。複合シート10の厚さは上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.1~10.0mm、又は0.2~2.0mmであってよい。
【0035】
複合シート10の厚さは、主面に直交する方向に沿って測定される。複合シート10の厚さが一定ではない場合、任意の10箇所を選択して厚さの測定を行い、その算術平均値が上述の範囲であればよい。
【0036】
複合シート10のサイズは特に限定はなく、例えば、50mm以上、200mm以上、500mm以上、800mm以上、又は1000mm以上であってもよい。
【0037】
多孔質の窒化物焼結板としては、例えば、窒化ホウ素焼結板等が挙げられる。窒化物焼結板は、窒化物の一次粒子同士が焼結して構成される窒化物粒子と気孔とを含有する。窒化物焼結板の気孔のメジアン細孔径は、例えば、6.0μm以下、5.0μm以下、4.0μm以下、又は3.5μm以下であってよい。このような窒化物焼結板は、気孔のサイズが小さいことから、窒化物粒子の粒子同士の接触面積を十分に大きくすることができる。したがって、熱伝導率を高くすることができる。窒化物焼結板の気孔のメジアン細孔径は、例えば、0.3μm以上、0.5μm以上、1.0μm以上、又は1.5μm以上であってよい。このような窒化物焼結板は、接着する際に加圧すると十分に変形できるため、他部材(被着体)との密着性に優れる。窒化物焼結板の気孔のメジアン細孔径は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.3~6.0μmであってよい。
【0038】
窒化物焼結板の気孔のメジアン細孔径は、以下の手順で測定することができる。まず、複合体を加熱して半硬化樹脂層及び第1樹脂を除去する。そして、水銀ポロシメーターを用い、0.0042MPaから206.8MPaまで圧力を増やしながら窒化物焼結板を加圧したときの細孔径分布を求める。横軸を細孔径、縦軸を累積細孔容積としたときに、累積細孔容積が全細孔容積の50%に達するときの細孔径がメジアン細孔径である。水銀ポロシメーターとしては、例えば、株式会社島津製作所製のものを用いることができる。
【0039】
窒化物焼結板の気孔率、すなわち、窒化物焼結板における気孔の体積(V1)の比率は、30~65体積%であってよく、40~60体積%であってよい。気孔率が大きくなり過ぎると窒化物焼結板の強度が低下する傾向にある。一方、気孔率が小さくなり過ぎると複合体が他部材と接着される際にしみ出す樹脂が少なくなる傾向にある。
【0040】
気孔率は、窒化物焼結板の体積及び質量から、かさ密度[B(kg/m)]を算出し、このかさ密度と窒化物の理論密度[A(kg/m)]とから、下記式(1)によって求めることができる。窒化物焼結板は、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、又は窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも一種を含んでよい。窒化ホウ素の場合、理論密度Aは2280kg/mである。窒化アルミニウムの場合、理論密度Aは3260kg/mである。窒化ケイ素の場合、理論密度Aは3170kg/mである。
気孔率(体積%)=[1-(B/A)]×100 (1)
【0041】
窒化物焼結板が窒化ホウ素焼結体である場合、かさ密度Bは、800~1500kg/mであってよく、1000~1400kg/mであってもよい。かさ密度Bが小さくなり過ぎると窒化物焼結板の強度が低下する傾向にある。一方、かさ密度Bが大きくなり過ぎると樹脂の充填量が減少して複合体の良好な接着性が損なわれる場合がある。
【0042】
窒化物焼結板の厚さは、例えば、10.0mm以下、5.0mm以下、又は2.0mm以下であってもよい。窒化物焼結板の厚さの下限は、例えば、0.1mm以上、0.2mm以上、0.3mm以上、又は0.5mm以上であってよい。窒化物焼結板の厚さは上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.1~10.0mm、又は0.3~2.0mmであってよい。窒化物焼結板の厚さは、主面に直交する方向に沿って測定され、厚さが一定ではない場合、任意の10箇所を選択して厚さの測定を行い、その算術平均値が上述の範囲であればよい。
【0043】
複合シート10に含まれる樹脂は、主剤及び硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物(Cステージ)又は半硬化物(Bステージ)である。硬化物は、樹脂組成物の硬化反応が完全に進行したものである。半硬化物は、樹脂組成物の硬化反応が一部進行したものである。半硬化物は、その後の硬化処理によって、更に硬化させることができる。
【0044】
樹脂は、樹脂組成物中の主剤及び硬化剤が反応して生成する熱硬化性樹脂等を含んでもよい。上記半硬化物は、樹脂成分として、熱硬化性樹脂に加えて主剤及び硬化剤等のモノマーを含んでもよい。複合シート10に含まれる樹脂が硬化物(Cステージ)となる前の半硬化物(Bステージ)であることは、例えば、示差走査熱量計によって確認することができる。
【0045】
複合シート10の硬化領域14における樹脂の硬化率が、その他の領域における樹脂の硬化率よりも進行した状態にある。硬化領域14における樹脂の硬化率は、例えば、40%以上、50%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、又は80%以上であってよい。硬化領域14における樹脂の硬化率が上記範囲内であると、被着体との接着時におけるその他の領域から樹脂が複合シート10の外部に流れ出すことをさらに抑制し、得られる積層体の絶縁性を更に向上させることができる。硬化領域14における樹脂の硬化率の上限値は、特に限定されるものではないが、例えば、90%以下、88%以下、又は86%以下であってよい。硬化領域14における樹脂の硬化率の上限値が上記範囲内であることによって、柔軟性を適度に確保することができ、流通時、被着体への加圧接着時などにおいて複合体が破損等することをより抑制できる。硬化領域14における樹脂の硬化率は上述の範囲内で調整してよく、例えば、20~90%、50~86%、又は60~86%であってよい。
【0046】
複合シート10における樹脂の硬化率の最大値と最小値との差は、望ましくは10%以上、20%以上、又は30%以上である。上記差は、例えば、硬化領域における樹脂の硬化率(最大値に相当)とその他領域における樹脂の硬化率(最小値に相当)との差であってよい。上記差は、例えば、35%以上、40%以上、45%以上、又は50%以上であってよい。上記差が上述の範囲内であると、被着体への接続時における樹脂の流れ出しをより低減し、接着性も十分に確保することができる。なお、上記差は80%以下であってよく、70%以下であってよく、60%以下であってよい。複合シート10における樹脂の硬化率の最大値と最小値との差は上述の範囲内で調整してよく、例えば、10~80%、又は30~60%であってよい。
【0047】
本明細書における樹脂の硬化率は、示差走査熱量計を用いた測定によって決定することができる。まず、未硬化の状態の樹脂組成物2mgを完全に硬化させた際に生じる単位質量当たりの発熱量Qを測定する。そして、複合シートが備える樹脂から採取したサンプル10mgを同様に昇温させて、完全に硬化させた際に生じる単位質量当たりの発熱量Rを求める。このとき、示差走査熱量計による測定に使用するサンプルの質量は、発熱量Qの測定に用いた樹脂組成物と同一とする。樹脂中に熱硬化性を有する成分がc(質量%)含有されているとすると、下記式(A)によって複合シートに含浸している樹脂組成物の硬化率が求められる。なお、樹脂が完全に硬化したか否かは、示差走査熱量測定によって得られる発熱曲線において、発熱が終了することで確認することができる。
含浸されている樹脂組成物の硬化率(%)={1-[(R/c)×100]/Q}×100・・・(A)
【0048】
樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シアネート樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド樹脂、マレイミド変性樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリフタルアミド、及びポリアセタールからなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでいてよい。
【0049】
複合シートの変形例では、例えば、窒化物焼結板の外周側面に樹脂層を設けた物であってよい。この場合、複合シートの硬化領域は上記樹脂層によって構成され、その他の領域は樹脂が含浸された窒化物焼結板(樹脂含浸体)であってよい。
【0050】
図3は、複合シートの別の例を示す模式断面図である。図3において複合シート10は、樹脂含浸体13と、樹脂含浸体13の外周側面に設けられた樹脂層15とを有する。当該複合シート10において、樹脂層15が硬化領域に相当し、樹脂含浸体13がその他の領域に相当する。
【0051】
上記樹脂層15の成分は樹脂含浸体13を構成する樹脂と同一であっても、異なってもよいが、樹脂含浸体13と樹脂層15との接着性を向上させ、複合シート10と被着体とを接着した後の絶縁性を向上させる観点からは、同一の樹脂で構成されることが望ましい。
【0052】
上述の複合シート10は、加熱時の樹脂の流れ出しが抑制されていることから、金属シート等と積層する積層体等、高度な絶縁性を要求される積層体を形成するために有用である。積層体の一実施形態は、上記複合シートと、上記複合シート上に設けられた金属シートと、を有する。上記複合シートと、金属シートとは複合シートの有する樹脂の硬化物によって接合されていてもよい。つまり、積層体の一態様では、複合シートと金属シートとは硬化樹脂を介して接合されている。
【0053】
金属シートは、シート形状を有する金属製のものであれば特に制限されない。上述の複合体の説明で挙げた被着体(他部材)が金属シートであってよい。金属シートは、金属板であってよく、金属箔であってもよい。金属シートの材質は、例えば、アルミニウム、及び銅等が挙げられる。
【0054】
図4は、積層体の一例を示す断面図である。図4は、積層体20を積層方向に沿って切断したときの断面を示している。積層体20は、上述の複合シート10と、複合シート10の一対の主面(2つの主面)上に積層された金属シート22とを備える。複数ある金属シート22の材質及び厚さは互いに同じであってよく、異なっていてもよい。また、複合シート10の両方の主面に金属シート22を備えることは必須ではない。変形例では、複合シート10の一方の主面のみに金属シート22を備えていてもよい。
【0055】
積層体20における金属シート22は、複合シート10に接している。これによって、金属シート22と複合シート10とが高い密着性で接着している。この状態を固定するために、複合シート10を硬化させ、硬化樹脂によって両者を接合してもよい。積層体20は、このように金属シート22と複合シート10とが高い密着性で接着しているため、例えば放熱部材として、半導体装置等に好適に用いることができる。
【0056】
積層体20の厚さは、例えば、12.0mm未満、6.0mm未満、又は3.0mm未満であってよい。積層体20の厚さの下限は、例えば、0.6mm以上であってよい。これによって、積層体20を十分に小型化することができる。このような積層体20は、例えば半導体装置の部品として好適に用いられる。積層体20の厚さは上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.6~12.0mm、又は0.6~6.0mmであってよい。
【0057】
積層体20は、複合シート10を備えるため、熱伝導性と絶縁信頼性を高水準に両立することができる。例えば、硬化領域における樹脂の硬化率を予め高めておくことによって、積層体を形成する際の樹脂の流れ出しを十分に抑制されており、複合シート10に期待される絶縁性を十分に発揮させ得る。
【0058】
上述の複合シートは、例えば、窒化物焼結板に樹脂を含浸させた後、外周縁を含む領域に対して複数回の硬化処理を行う方法(製法A)、窒化物焼結板の外周部のみ樹脂を含浸し、硬化又は半硬化させた後に、更に樹脂を含浸させて全体に対して同様の硬化又は半硬化させることによって、外周縁を含む領域における樹脂の硬化率をその他の領域よりも進行させる方法(製法B)、又は予め調製した樹脂含浸体の側面部に対して、樹脂含浸体における樹脂よりも硬化率の高い樹脂で構成される樹脂層を設ける方法(製法C)等によって調製することができる。硬化領域の範囲の調整を容易とする観点からは製法Aが望ましい。
【0059】
複合シートの製造方法(製法A)の一実施形態は、多孔質の窒化物焼結板に樹脂組成物を含浸して樹脂含浸シートを得る含浸工程と、上記樹脂含浸シートを加熱して機構に充填された上記樹脂組成物を半硬化する第一硬化工程と、上記樹脂含浸シートの外周縁を含む領域に対して熱又はレーザー光を照射することによって、上記樹脂組成物を硬化又は半硬化する第二硬化工程と、を有する。
【0060】
多孔質の窒化物焼結板は、予め調製された窒化物焼結板を使用してもよく、また、次のような焼結工程によって調製した窒化物焼結板を用いてもよい。多孔質の窒化物焼結板として、予め調製された窒化物焼結板を使用する場合には、後述する焼結工程は省略することができる。
【0061】
焼結工程によって窒化物焼結板を調製する場合には、まず、窒化物を含む原料粉末を準備する。原料粉末に含まれる窒化物は、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも一種の窒化物を含有してよい。窒化ホウ素を含有する場合、窒化ホウ素は、アモルファス状の窒化ホウ素であってよく、六方晶状の窒化ホウ素であってもよい。窒化物焼結板として窒化ホウ素焼結板を調製する場合、原料粉末として、例えば、平均粒径が0.5~10μmであるアモルファス窒化ホウ素粉末、又は、平均粒径が3.0~40μmである六方晶窒化ホウ素粉末を用いることができる。
【0062】
焼結工程では、窒化物粉末を含む配合物を成形して焼結し窒化物焼結体を得てもよい。成形は、例えば、一軸加圧で行ってよく、冷間等方加圧(CIP)法で行ってもよい。成形の前に、焼結助剤を配合して配合物を得てもよい。焼結助剤としては、例えば、酸化イットリウム、酸化アルミニウム及び酸化マグネシウム等の金属酸化物、炭酸リチウム及び炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、並びにホウ酸等が挙げられる。焼結助剤を配合する場合は、焼結助剤の配合量は、例えば、窒化物及び焼結助剤の合計100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上、又は0.1質量部以上であってよい。焼結助剤の配合量は、窒化物及び焼結助剤の合計100質量部に対して、例えば、20質量部以下、15質量部以下又は10質量部以下であってよい。焼結助剤の添加量を上記範囲内とすることで、窒化物焼結体のメジアン細孔径を後述の範囲に調整し易くなる。焼結助剤の配合量は上述の範囲内で調整してよく、窒化物及び焼結助剤の合計100質量部に対して、例えば、0.01~20質量部、又は0.01~10質量部であってよい。
【0063】
配合物は、例えば、ドクターブレード法によってシート状の成形体としてよい。成形方法は特に限定されず、金型を用いてプレス成形を行って成形体としてもよい。成形圧力は、例えば、5~350MPaであってよい。成形体の形状は、厚さが2mm未満のシート状であってよい。このようなシート状の成形体を用いて窒化物焼結板を製造すれば、窒化物焼結板を切断することなく、厚さが2mm未満のシート状の複合体を製造することができる。また、ブロック状の窒化物焼結体を切断してシート状とする場合に比べて、成形体の段階からシート状にすることによって、加工による材料ロスを低減することができる。したがって、高い歩留まりで複合体を製造することができる。
【0064】
焼結工程の焼結温度は、例えば、1600℃以上であってよく、1700℃以上であってもよい。焼結温度は、例えば、2200℃以下であってよく、2000℃以下であってもよい。焼結時間は、例えば、1時間以上であってよく、30時間以下であってもよい。焼結時の雰囲気は、例えば、窒素、ヘリウム、及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気下であってよい。
【0065】
焼結には、例えば、バッチ式炉及び連続式炉等を用いることができる。バッチ式炉としては、例えば、マッフル炉、管状炉、及び雰囲気炉等を挙げることができる。連続式炉としては、例えば、ロータリーキルン、スクリューコンベア炉、トンネル炉、ベルト炉、プッシャー炉、及び大形連続炉等を挙げることができる。このようにして、窒化物焼結体又は窒化物焼結板を得ることができる。窒化物焼結体はブロック状であってよい。
【0066】
窒化物焼結体がブロック状である場合、2mm未満の厚さとなるように加工する切断工程を行ってもよい。切断工程では、窒化物焼結体を、例えば、ワイヤーソーを用いて切断する。ワイヤーソーは、例えば、マルチカットワイヤーソー等であってよい。このような切断工程によって、例えば、厚さが2mm未満のシート状の窒化物焼結板を得ることができる。これによって、次の含浸工程において、窒化物焼結板に樹脂組成物を円滑に含浸することができる。
【0067】
含浸工程では、窒化物焼結体の気孔に10~500mPa・sの粘度を有する樹脂組成物を含浸して樹脂含浸体を得る。窒化物焼結体の厚さを小さくすることで、樹脂組成物の含浸を円滑にすることができる。また、樹脂組成物の粘度を含浸に適した範囲にすることによって、樹脂含浸体における樹脂の充填率を十分に高くすることができる。
【0068】
窒化物焼結板に樹脂組成物を含浸する際の樹脂組成物の粘度は、例えば、440mPa・s以下、390mPa・s以下、又は340mPa・s以下であってよい。このように樹脂組成物の粘度を低くすることによって、樹脂組成物の含浸を十分に促進することができる。窒化物焼結板に樹脂組成物を含浸する際の樹脂組成物の粘度は、例えば、15mPa・s以上、又は20mPa・s以上であってよい。このように樹脂組成物の粘度に下限を設けることによって、一旦気孔内に含浸した樹脂組成物が気孔から流出することをより抑制することができる。樹脂組成物の粘度は、モノマー成分を一部重合して調整してもよく、溶剤を加えて調整してもよい。窒化物焼結板に樹脂組成物を含浸する際の樹脂組成物の粘度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、15~440mPa・s、又は20~340mPa・sであってよい。
【0069】
樹脂組成物の上記粘度は、窒化物焼結板に樹脂組成物を含浸する際の樹脂組成物の温度(T1)における粘度である。この粘度は、回転式粘度計を用いて、剪断速度が10(1/秒)、温度(T1)の下で測定される値である。したがって、温度T1を変えることによって、窒化物焼結板に樹脂組成物を含浸する際の粘度を調節してもよい。
【0070】
窒化物焼結板に樹脂組成物を含浸する際の温度(T1)は、例えば樹脂組成物を半硬化する温度(T2)以上、且つ温度T3(=T2+20℃)未満であってよい。温度(T2)は、例えば、80~140℃であってよい。窒化物焼結板への樹脂組成物の含浸は、加圧下で行ってよく、減圧下で行ってもよい。含浸する方法は特に限定されず、樹脂組成物中に窒化物焼結板を浸漬してもよいし、窒化物焼結板の表面に樹脂組成物を塗布することで行ってもよい。
【0071】
含浸工程は、減圧条件下及び加圧条件下のどちらで行ってもよく、減圧条件下での含浸と、加圧条件下での含浸とを組み合わせて行ってもよい。減圧条件下で含浸工程を実施する場合における含浸装置内の圧力は、例えば、1000Pa以下、500Pa以下、100Pa以下、50Pa以下、又は20Pa以下であってよい。加圧条件下で含浸工程を実施する場合における含浸装置内の圧力は、例えば、1MPa以上、3MPa以上、10MPa以上、又は30MPa以上であってよい。
【0072】
窒化物焼結板における気孔の細孔径を調整することによって、毛細管現象による樹脂組成物の含浸を促進し、樹脂含浸体における樹脂の充填率を調整してもよい。このような観点から、窒化物焼結板のメジアン細孔径は、例えば、0.3~6.0μm、0.5~5.0μm、又は1.0~4.0μmであってもよい。
【0073】
樹脂組成物は、例えば、硬化又は半硬化反応によって上述の複合体の説明で挙げた樹脂となるものを用いることができる。
【0074】
樹脂組成物は溶剤を含んでいてもよい。溶剤としては、例えば、エタノール、及びイソプロパノール等の脂肪族アルコール、2-メトキシエタノール、1-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、1-エトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール、及び2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール等のエーテルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、及びエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びジイソブチルケトン等のケトン、並びに、トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0075】
樹脂組成物は、熱硬化性であり、例えば、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、硬化剤と、を含有してよい。
【0076】
シアネート基を有する化合物としては、例えば、ジメチルメチレンビス(1,4-フェニレン)ビスシアナート、及びビス(4-シアネートフェニル)メタン等が挙げられる。ジメチルメチレンビス(1,4-フェニレン)ビスシアナートは、例えば、TACN(三菱ガス化学株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0077】
ビスマレイミド基を有する化合物としては、例えば、N,N’-[(1-メチルエチリデン)ビス[(p-フェニレン)オキシ(p-フェニレン)]]ビスマレイミド、及び4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド等が挙げられる。N,N’-[(1-メチルエチリデン)ビス[(p-フェニレン)オキシ(p-フェニレン)]]ビスマレイミドは、例えば、BMI-80(ケイ・アイ化成株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0078】
エポキシ基を有する化合物としては、例えば、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、及び多官能エポキシ樹脂等が挙げられる。例えば、HP-4032D(DIC株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である1,6-ビス(2,3-エポキシプロパン-1-イルオキシ)ナフタレン等であってもよい。
【0079】
硬化剤は、ホスフィン系硬化剤及びイミダゾール系硬化剤を含有してもよい。ホスフィン系硬化剤はシアネート基を有する化合物又はシアネート樹脂の三量化によるトリアジン生成反応を促進し得る。ホスフィン系硬化剤としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート、及びテトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等が挙げられる。テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレートは、例えば、TPP-MK(北興化学工業株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0080】
イミダゾール系硬化剤はオキサゾリンを生成し、エポキシ基を有する化合物又はエポキシ樹脂の硬化反応を促進する。イミダゾール系硬化剤としては、例えば、1-(1-シアノメチル)-2-エチル-4-メチル-1H-イミダゾール、及び2-エチル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。1-(1-シアノメチル)-2-エチル-4-メチル-1H-イミダゾールは、例えば、2E4MZ-CN(四国化成工業株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0081】
ホスフィン系硬化剤の含有量は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、5質量部以下、4質量部以下又は3質量部以下であってよい。ホスフィン系硬化剤の含有量は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上又は0.5質量部以上であってよい。ホスフィン系硬化剤の含有量が上記範囲内であると、樹脂含浸体の調製が容易である。ホスフィン系硬化剤の含有量は上述の範囲内で調整してよく、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、0.1~5質量部であってよい。
【0082】
イミダゾール系硬化剤の含有量は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、0.1質量部以下、0.05質量部以下又は0.03質量部以下であってよい。イミダゾール系硬化剤の含有量は、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、0.001質量部以上又は0.005質量部以上であってよい。イミダゾール系硬化剤の含有量が上記範囲内であると、樹脂含浸体の調製が容易である。イミダゾール系硬化剤の含有量は上述の範囲内で調整してよく、シアネート基を有する化合物、ビスマレイミド基を有する化合物及びエポキシ基を有する化合物の合計量100質量部に対して、例えば、0.001~0.1質量部であってよい。
【0083】
樹脂組成物は、主剤及び硬化剤とは別の他の成分を含んでよい。他の成分としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、及びアルキド樹脂等のその他の樹脂、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤、表面調整剤、並びに湿潤分散剤等を更に含んでもよい。これらのその他の成分の含有量は、樹脂組成物全量を基準として、例えば、20質量%以下であってよく、10質量%以下であってよく、5質量%以下であってよい。
【0084】
第一硬化工程では、含浸工程によって得られた樹脂含浸体における樹脂組成物を半硬化させる。第一硬化工程では、樹脂組成物(又は必要に応じて添加される硬化剤)の種類に応じて、加熱、及び/又は光照射によって、樹脂組成物を半硬化させ、樹脂含浸シートを調製する。
【0085】
第一硬化工程において、加熱によって樹脂組成物を半硬化させる場合の加熱温度は、例えば、80~130℃であってよい。樹脂組成物の半硬化によって得られる半硬化樹脂は、樹脂成分として、シアネート樹脂、ビスマレイミド樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含有してよい。また半硬化樹脂は、硬化剤を含有してもよい。半硬化樹脂は、これらの成分の他に、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、及びアルキド樹脂等のその他の樹脂、並びに、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤、表面調整剤、及び湿潤分散剤等に由来する成分を含有してもよい。
【0086】
第二硬化工程では、第一硬化工程を経て得られる樹脂含浸シートの外周縁を含む領域に対して熱又はレーザー光を照射することによって、上記樹脂組成物を硬化又は半硬化する、若しくは半硬化樹脂を硬化することによって、上述の複合シートを調製する。熱又はレーザー光を照射された領域は、複数回の硬化処理に曝されることによって、その他の領域に比べて樹脂の硬化率が高まる。当該工程において樹脂含浸シートの上述の所定の領域を加熱又はレーザー照射する手法は特に限定されるものではない。例えば、マスクを用いて、部分的にレーザー光を照射してよい。
【0087】
第二硬化工程において、熱によって樹脂組成物の硬化又は半硬化、並びに半硬化樹脂の硬化を行う場合には、例えば、第一硬化工程よりも高い温度で部分的に加熱処理を行う方法、又は上述の所定領域のみ第一硬化工程と同等の加熱温度で加熱処理を行う方法を用いることができる。
【0088】
第二硬化工程において、レーザー光によって樹脂組成物の硬化又は半硬化、並びに半硬化樹脂の硬化を行う場合には、例えば、紫外光等を上述の所定領域のみに照射する方法を用いることができる。
【0089】
樹脂組成物の半硬化によって得られる半硬化樹脂及び半硬化樹脂の硬化によって得られる樹脂は、樹脂成分として、シアネート樹脂、ビスマレイミド樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含有してよい。また半硬化樹脂及び樹脂は、硬化剤を含有してもよい。半硬化樹脂及び樹脂は、これらの成分の他に、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、及びアルキド樹脂等のその他の樹脂、並びに、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤、表面調整剤、及び湿潤分散剤等に由来する成分を含有してもよい。
【0090】
第一硬化工程及び第二硬化工程は樹脂含浸体の周囲に樹脂組成物が存在する状況で行うことが好ましい。このようにすることによって、樹脂組成物の硬化収縮によって体積が減じる場合にも樹脂含浸体の周囲から樹脂組成物が供給され、空隙が生じることを更に抑制することができる。また硬化反応を停止させ、冷却する際に生じる樹脂の固化収縮によって体積が減じる場合にも周囲に同様の樹脂が存在することによって、やはり空隙の発生を抑制し得る。
【0091】
上述の製造方法は、焼結工程、含浸工程、第一硬化工程及び第二硬化工程の他の工程を有してもよい。他の工程としては、例えば、含浸工程の前に真空引きを行うことによって、焼結体の不純物を除去する工程等が挙げられる。
【0092】
複合シートの製造方法(製法B)の一実施形態は、多孔質の窒化物焼結板の外周縁を含む領域に第1樹脂組成物を含浸して第1樹脂含浸シートを得る第一含浸工程と、上記第1樹脂含浸シートを加熱して気孔に充填された前記第1樹脂組成物を硬化又は半硬化して外周縁を含む領域に樹脂を含む第1樹脂充填シートを得る第一硬化工程と、上記第1樹脂充填シートに第2樹脂組成物を含浸して第2樹脂含浸シートを得る第二含浸工程と、上記第2樹脂含浸シートを加熱して、上記第2樹脂組成物を硬化又は半硬化する第二硬化工程と、を有する。第1樹脂組成物及び第2樹脂組成物は、いずれも上述の製造方法(製法A)に用いる樹脂組成物として例示したものを使用できる。以下、上述の製造方法(製法A)と異なる点について説明する。
【0093】
第一含浸工程では、窒化物焼結板の外周縁を含む領域に第1樹脂組成物を含浸させる。この際、窒化物焼結板のその他の領域には第1樹脂組成物を含浸させないように調整する。例えば、第1樹脂組成物の溶融物又は溶液に対して、窒化物焼結板の外周縁を含む領域のみ浸漬させて、第1樹脂組成物を含浸させてもよく、窒化物焼結板の外周縁を含む領域のみに第1樹脂組成物の溶融物又は溶液を塗布することで第1樹脂組成物を含浸させてもよい。
【0094】
第一硬化工程では、第一含浸工程で含浸された第1樹脂組成物を半硬化又は硬化させることで窒化物焼結板の外周縁を含む領域のみに半硬化樹脂又は樹脂が充填された第1樹脂充填シートを調製する。この際、第1樹脂組成物を半硬化又は硬化させる方法は、加熱及び/又は光照射であってよく、上述の製造方法で説明したものと同じであってよい。
【0095】
第二含浸工程は、第一含浸工程及び第一硬化工程を経て得られた第1樹脂充填シートに第2樹脂組成物を含浸させる。第二含浸工程では、第1樹脂充填シートを第2樹脂組成物の溶融物又は溶液に浸漬させて、第2樹脂組成物を含浸させてもよく、第1樹脂充填シートに第2樹脂組成物の溶融物又は溶液を塗布してもよい。
【0096】
第二硬化工程では、第二含浸工程で得られた第2樹脂含浸シートを硬化又は半硬化させる。第二硬化工程では、第一硬化工程において樹脂組成物が硬化又は半硬化された領域についても再度、加熱及び/又は光照射が行われることになるため、得られる複合シートはシートの外周縁を含む領域における樹脂の硬化率がその他の領域に比べて高くなる。
【0097】
第1樹脂組成物及び第2樹脂組成物を含浸させる際の粘度は、同一であっても、異なってもよく、いずれも上述の製造方法で説明したものと同じであってよい。
【0098】
複合シートの製造方法(製法C)の一実施形態は、多孔質の窒化物焼結板に樹脂組成物を含浸して樹脂含浸シートを得る含浸工程と、上記樹脂含浸シートを加熱して気孔に充填された上記樹脂組成物を硬化又は半硬化して第1樹脂を含む樹脂充填シートを得る硬化工程と、上記樹脂充填シートの側面を第3樹脂で被覆する被覆工程と、を有する。上記第3樹脂の硬化率は、上記第1樹脂の硬化率よりも高い。含浸工程までは製法Aと同様である。以下、上述の製造方法(製法A)と異なる点について説明する。
【0099】
硬化工程では、樹脂含浸シート全体を加熱して、樹脂組成物を硬化又は半硬化することで樹脂充填シートを得る。この際、上述の製造方法(製法A)のように加熱の領域を特定する必要はない。樹脂組成物等は上述の製造方法(製法A)で例示したものを使用できることから、これに合わせて、硬化条件も製法Aで示したものを適用できる。
【0100】
樹脂充填シートは、予め調製されたものを用いてもよく、この場合、焼結工程、含浸工程、及び硬化工程は省略してもよい。
【0101】
被覆工程では、樹脂充填シートの側面に第1樹脂の流れ出しを抑制するための第3樹脂を含む樹脂層を設ける。第3樹脂は樹脂充填シートの側面全周に亘って、連続的に設けることが望ましいが、第1樹脂の流れ出しを抑制する観点からは、充填樹脂シートの側面の少なくとも一部に設けられてよく、不連続に形成されていてもよい。
【0102】
第3樹脂は、樹脂組成物の半硬化によって得られる半硬化樹脂及び半硬化樹脂の硬化によって得られる樹脂であってよい。第3樹脂の樹脂成分として、シアネート樹脂、ビスマレイミド樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含有してよい。また半硬化樹脂及び樹脂は、硬化剤を含有してもよい。半硬化樹脂及び樹脂は、これらの成分の他に、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、及びアルキド樹脂等のその他の樹脂、並びに、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤、表面調整剤、及び湿潤分散剤等に由来する成分を含有してもよい。第1樹脂と第3樹脂の構成成分は、同一であっても、異なってもよい。
【0103】
積層体の製造方法の一実施形態は、上述の複合シートと、金属シートと、を積層し、加熱及び加圧する積層工程を有する。上記複合シートとしては、上述のいずれかの製造方法で得られた複合シートを用いることができる。すなわち、積層体の製造方法は、上述の製造方法に加えて、上記積層工程を有する製造方法であってよい。金属シートは、金属板であってよく、金属箔であってもよい。
【0104】
積層工程では、複合シートの主面上に金属シートを配置する。複合シートと金属シートの主面同士を接触させた状態で、主面同士が対向する方向に加圧するとともに、加熱する。なお、加圧と加熱は必ずしも同時に行う必要はなく、加圧して圧着した後に加熱してもよい。
【0105】
このようにして得られた積層体は、半導体装置等の製造に用いることができる。一方の金属シート上に半導体素子を設けてもよい。他方の金属シートは冷却フィンと接合されてもよい。
【0106】
以上、本開示の幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例
【0107】
以下、本開示について、実施例及び比較例を用いてより詳細に説明する。なお、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0108】
(実施例1)
[窒化物焼結板の作製]
新日本電工株式会社製のオルトホウ酸100質量部と、デンカ株式会社製のアセチレンブラック(商品名:HS100)35質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合した。得られた混合物を、黒鉛製のルツボ中に充填し、アーク炉にて、アルゴン雰囲気で、2200℃にて5時間加熱し、塊状の炭化ホウ素(BC)を得た。得られた塊状物を、ジョークラッシャーで粗粉砕して粗粉を得た。この粗粉を、炭化珪素製のボール(φ10mm)を有するボールミルによってさらに粉砕して粉砕粉を得た。
【0109】
調製した粉砕粉を、窒化ホウ素製のルツボに充填した。その後、抵抗加熱炉を用い、窒素ガス雰囲気下で、2000℃、0.85MPaの条件で10時間加熱した。このようにして炭窒化ホウ素(BCN)を含む焼成物を得た。
【0110】
粉末状のホウ酸と炭酸カルシウムを配合して焼結助剤を調製した。調製にあたっては、100質量部のホウ酸に対して、炭酸カルシウムを50.0質量部配合した。このときのホウ素とカルシウムの原子比率は、ホウ素100原子%に対してカルシウムが17.5原子%であった。焼成物100質量部に対して焼結助剤を20質量部配合し、ヘンシェルミキサーを用いて混合して粉末状の配合物を調製した。
【0111】
配合物を、粉末プレス機を用いて、150MPaで30秒間加圧して、シート状(縦×横×厚さ=50mm×50mm×0.36mm)の成形体を得た。成形体を窒化ホウ素製容器に入れ、バッチ式高周波炉に導入した。バッチ式高周波炉において、常圧、窒素流量5L/分、2000℃の条件で5時間加熱した。その後、窒化ホウ素製容器から窒化ホウ素焼結体を取り出した。このようにして、シート状(四角柱状)の窒化ホウ素焼結体を得た。窒化ホウ素焼結板の厚さは0.36mmであった。
【0112】
<メジアン細孔径の測定>
得られた窒化ホウ素焼結板について、株式会社島津製作所製の水銀ポロシメーター(装置名:オートポアIV9500)を用い、0.0042MPaから206.8MPaまで圧力を増加しながら細孔容積分布を測定した。積算細孔容積が全細孔容積の50%に達する細孔径を、「メジアン細孔径」とした。上記窒化ホウ素焼結板のメジアン細孔径は、2.6μmであった。
【0113】
[複合シートの作製]
市販のエポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名:エピコート807)100質量部に対し、市販の硬化剤(日本合成化学工業株式会社製、商品名:アクメックスH-8を10質量部配合して、樹脂組成物を調製した。調製した樹脂組成物を120℃で15分間加熱した後、その温度を維持したままディスペンサーを用いて、窒化ホウ素焼結体の上側の主面上に滴下して樹脂組成物を含浸した。樹脂組成物の滴下量は、窒化ホウ素焼結体の気孔の総体積の1.5倍とした。樹脂組成物の一部は、窒化ホウ素焼結体に含浸せず、主面上に残存した。
【0114】
大気圧下、窒化ホウ素焼結体の上側の主面上に残存する樹脂組成物を、ステンレス製のスクレーパー(株式会社ナルビー製)を用いて平滑化した。余剰分の樹脂組成物を除去し、主面が平滑である樹脂含浸体を得た。
【0115】
樹脂組成物含浸体を、大気圧下、160℃で30分間加熱して樹脂組成物を半硬化させた。次に、樹脂含浸体の周端部から2.0mmの幅の領域(全周)に対して、160℃で30分間、更に加熱処理を行うことによって、樹脂含浸体の外周縁を含む領域に硬化領域を設けることによって、四角柱状の複合シート(縦×横×厚さ=50mm×50mm×0.36mm)を調製した。
【0116】
<樹脂の硬化率の測定>
複合シートに含浸された樹脂(硬化領域、及びその他の領域における樹脂)の硬化率は、示差走査熱量計を用いた測定によって決定した。まず、未硬化の状態の樹脂組成物2mgを完全に硬化させた際に生じる単位質量当たりの発熱量Qを測定した。そして、複合体が備える半硬化物から採取したサンプル10mgを同様に昇温させて、完全に硬化させた際に生じる単位質量当たりの発熱量Rを求めた。このとき、示差走査熱量計による測定に使用するサンプルの質量は、発熱量Qの測定に用いた樹脂組成物と同一とした。半硬化物中に熱硬化性を有する成分がc(質量%)含有されているとして、下記式(A)によって複合体に含浸している樹脂組成物の硬化率が求めた。硬化領域における樹脂の硬化率は85%であり、その他の領域における樹脂の硬化率は32%であった。なお、硬化領域からのサンプルの採取部位を図2の例を参考にすると、複合シート10の硬化領域14の内、複合シート10の全長Lの方向に対して垂直方向に15mm、全長Lの方向と水平方向に1mm分となるように領域を切り出して使用した。その他の領域は複合シートの中央部から上記同様のサイズでサンプルを切り出し使用した。
含浸されている樹脂組成物の硬化率(%)={1-[(R/c)×100]/Q}×100・・・(A)
【0117】
<樹脂の充填率の測定>
複合シートに含まれる樹脂の充填率を、以下の式(3)によって求めた。結果は表1に示すとおりであった。
複合シートにおける樹脂の充填率(体積%)={(複合シートのかさ密度-窒化ホウ素焼結板のかさ密度)/(複合シートの理論密度-窒化ホウ素焼結板のかさ密度)}×100 …(3)
【0118】
窒化ホウ素焼結板及び複合シートのかさ密度は、JIS Z 8807:2012の「幾何学的測定による密度及び比重の測定方法」に準拠し、窒化ホウ素焼結板又は複合シートの各辺の長さ(ノギスにより測定)から計算した体積と、電子天秤によって測定した窒化ホウ素焼結板又は複合シートの質量に基づいて求めた(JIS Z 8807:2012の9項参照)。複合シートの理論密度は、下記式(4)によって求めた。
複合シートの理論密度=窒化ホウ素焼結板のかさ密度+樹脂の真密度×(1-窒化ホウ素焼結板のかさ密度/窒化ホウ素の真密度) … (4)
【0119】
窒化ホウ素焼結板及び樹脂の真密度は、JIS Z 8807:2012の「気体置換法による密度及び比重の測定方法」に準拠し、乾式自動密度計を用いて測定した窒化ホウ素焼結板及び樹脂の体積及び質量から求めた(JIS Z 8807:2012の11項の式(14)~(17)参照)。
【0120】
<積層体の接着強度>
シート状の銅箔(縦×横×厚さ=100mm×20mm×0.035mm)と、シート状の銅板(縦×横×厚さ=100mm×20mm×1mm)との間に、上述の複合シート(縦×横×厚さ=50mm×20mm×0.36mm)を配置して、銅箔、複合シート及び銅板をこの順に備える積層体を作製した。当該積層体を200℃及び5MPaの条件下で5分間加熱及び加圧した後、200℃及び大気圧の条件下で2時間加熱処理した。これによって積層体を得た。この積層体に対し、万能試験機(株式会社エーアンドディ製、商品名:RTG-1310)を用い、JIS K 6854-1:1999「接着剤-はく離接着強さ試験方法」に準拠して実施例1、実施例2及び比較例1の積層体の90°はく離試験を実施した。なお、90°はく離試験剥離はシート状の銅箔と複合体の接着界面において行った。測定は、試験速度:50mm/min、ロードセル:5kN、測定温度:室温(20℃)の条件で行った。
【0121】
<積層体の絶縁破壊電圧の測定>
得られた複合シートを、2枚の銅板間に上記複合体を配置し、200℃及び5MPaの条件下で5分間加熱及び加圧して、更に200℃及び大気圧の条件下で2時間加熱して得られる積層体を調製した。得られた積層体の一方の面に、直径が20mmの円形状となるようにエッチングレジスト剤をスクリーン印刷し、上記積層構造体の他方の面には、全面にエッチングレジスト剤をスクリーン印刷した。印刷後、エッチングレジスト剤に紫外線を照射して硬化させレジストを形成した。次に、円形状のレジストが形成された側の銅板を塩化第二銅液でエッチングし、積層体の一方の面に直径が20mmの円形状の銅回路を形成した。このようにして、測定対象である、円形状の銅回路が形成された上記積層構造体を得た。得られた積層構造体を対象として、JIS C2110-1:2016にしたがって、耐圧試験器(菊水電子工業株式会社製、装置名:TOS-8700)を用い、絶縁破壊電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0122】
(実施例2)
[樹脂含浸体の作製]
容器に、シアネート基を有する化合物が80質量部、ビスマレイミド基を有する化合物が20質量部、エポキシ基を有する化合物が50質量部となるように測り取り、上記3種の化合物合計量100質量部に対して、ホスフィン系硬化剤を1質量部及びイミダゾール系硬化剤を0.01質量部加えて混合した。なお、エポキシ樹脂が室温で固体状態であったため、80℃程度に加熱した状態で混合した。得られた熱硬化性組成物の100℃における粘度は、10mPa・秒であった。調製した樹脂組成物を100℃にした後、その温度を維持したままディスペンサーを用いて、窒化ホウ素焼結体の上側の主面上に滴下して樹脂組成物を含浸した。樹脂組成物の滴下量は、窒化ホウ素焼結体の気孔の総体積の1.5倍とした。樹脂組成物の一部は、窒化ホウ素焼結体に含浸せず、主面上に残存した。
【0123】
熱硬化性組成物の調製には、以下の化合物を用いた。
【0124】
シアネート基を有する化合物:ジメチルメチレンビス(1,4-フェニレン)ビスシアナート(三菱ガス化学株式会社製、商品名:TA-CN)
ビスマレイミド基を有する化合物:N,N’-[(1-メチルエチリデン)ビス[(p-フェニレン)オキシ(p-フェニレン)]]ビスマレイミド(ケイ・アイ化成株式会社製、商品名:BMI-80)
エポキシ基を有する化合物:1,6-ビス(2,3-エポキシプロパン-1-イルオキシ)ナフタレン(DIC株式会社製、商品名:HP-4032D)
【0125】
ホスフィン系硬化剤:テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート(化学株式会社製、商品名:TPP-MK)
イミダゾール系硬化剤:1-(1-シアノメチル)-2-エチル-4-メチル-1H-イミダゾール(四国化成工業株式会社製、商品名:2E4MZ-CN)
【0126】
次に、大気圧下、窒化ホウ素焼結体の上側の主面上に残存する樹脂組成物を、ステンレス製のスクレーパー(株式会社ナルビー製)を用いて平滑化した。余剰分の樹脂組成物を除去し、主面が平滑である樹脂含浸体を得た。
【0127】
樹脂含浸体を、大気圧下、80℃で35時間加熱して樹脂組成物を半硬化させた。次に、樹脂含浸体の周端部から0.5mmの幅の領域(全周)に対して、120℃で60分間、更に加熱処理を行うことによって、樹脂含浸体の外周縁を含む領域に硬化領域を設けることによって、四角柱状の複合シート(縦×横×厚さ=50mm×50mm×0.36mm)を調製した。
【0128】
(比較例1)
樹脂含浸体の周端部を含む領域に対する追加加熱処理をおこなうことに代えて、樹脂含浸体の全体を160℃で60分間、更に加熱処理したこと以外は、実施例1と同様の手順によって、複合体及び積層体を調製した。
【0129】
(比較例2)
樹脂含浸体の周端部を含む領域に対する追加加熱処理を行わなかったこと以外は、実施例2と同様の手順によって、複合体及び積層体を調製した。
【0130】
実施例2、及び比較例1,2で調製した複合シート及び積層体について、硬化領域の幅、硬化領域及びその他の領域における樹脂の硬化率、並びに樹脂の充填率を実施例1と同様に測定した。実施例2、及び比較例1,2で調製した積層体について、接着強度及び絶縁破壊電圧の評価を行った。結果を表1に示す。
【0131】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0132】
本開示によれば、被着体への接着性に優れ、且つ被着体への接着後に優れた絶縁性を発揮し得る複合シートを提供できる。本開示によればまた、優れた絶縁性を有する積層体及びその製造方法を提供できる。
【符号の説明】
【0133】
10…複合シート、12…その他の領域、13…樹脂含浸体、14…硬化領域、15…樹脂層、20…積層体、22…金属シート。
【要約】
本開示の一側面は、多孔質の窒化物焼結板と、上記窒化物焼結板の気孔に充填された樹脂と、を含む複合シートであって、シートの外周縁を含む硬化領域を有し、上記硬化領域における樹脂の硬化率が、その他の領域における樹脂の硬化率よりも高い、複合シートを提供する。
図1
図2
図3
図4