(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル樹脂組成物およびそれを用いた導電性接着剤
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20220929BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20220929BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20220929BHJP
C09J 9/02 20060101ALI20220929BHJP
C09J 175/14 20060101ALI20220929BHJP
C09J 133/14 20060101ALI20220929BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C08F290/06
C09J11/04
C09J11/06
C09J9/02
C09J175/14
C09J133/14
H01B1/22 D
(21)【出願番号】P 2018537207
(86)(22)【出願日】2017-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2017030394
(87)【国際公開番号】W WO2018043296
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2020-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2016172136
(32)【優先日】2016-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】太田 総一
(72)【発明者】
【氏名】桑原 裕典
(72)【発明者】
【氏名】真舩 仁志
(72)【発明者】
【氏名】小玉 智也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】長田 誠之
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/089061(WO,A1)
【文献】特開2004-189954(JP,A)
【文献】特開2004-043608(JP,A)
【文献】特開2009-209246(JP,A)
【文献】特開2007-262243(JP,A)
【文献】特開2015-135805(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0081820(US,A1)
【文献】特開2012-046658(JP,A)
【文献】特開2014-112224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F290,299、C08F4/34
C09J、H01B1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(C)成分を含み、安定剤として
ナトリウムを含有するキレート剤を含む(メタ)アクリル樹脂組成物:
(A)成分:(メタ)アクリル基を有するウレタン変性オリゴマー
(B)成分:表面張力が25~45mN/mである、分子内に水酸基および/またはカルボキシル基と、1つの(メタ)アクリル基と、を有するモノマー
(C)成分:下記の構造を有する有機過酸化物
:
【化1】
式中、R
2はそれぞれ独立した炭化水素基を指す。
【請求項2】
前記(B)成分は、表面張力が33~45mN/mである、請求項1に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【請求項3】
ゴム、エラストマーおよび熱可塑性樹脂を含まない、請求項1または2に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)成分が、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートおよび2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸からなる群から選択される少なくとも1種類である、請求項1~3のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、(D)成分として、導電性粒子を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【請求項6】
前記(D)成分が、ステアリン酸により表面処理された銀粉および銀メッキ粉から選択される少なくとも1種類の導電性粒子である、請求項5に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。
【請求項7】
請求項5または6に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物を含む、熱硬化型の導電性接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性を有する(メタ)アクリル樹脂組成物およびそれを用いた等方性の導電性接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル樹脂組成物において、保存性を維持する手法として、重合禁止剤などの安定剤を使用することが知られている。しかしながら、安定剤を入れすぎると硬化性が低下して、最悪の場合は硬化しないことが知られている。さらに、特開2000-53733号公報(特許文献1)の様な導電性接着剤では銀粉などの導電性粒子が多量に含まれているため、金属イオンが過酸化物に影響するためにゲル化しやすくなる。特に、通気性の無い容器に保存する際には、ゲル化が発生するという問題がある。これは、(メタ)アクリル樹脂組成物のラジカル重合では、一般的に硬化剤の種類を変えることで光硬化性、熱硬化性、嫌気硬化性を付与することができる。そのため、熱硬化性を付与した(メタ)アクリル樹脂組成物を設計したとしても、潜在的に嫌気硬化性が残っており、通気性の無い容器で保存した際には嫌気硬化性が発現してゲル化を早めると推測される。
【0003】
先行技術文献
特許文献1:特開2000-53733号公報
【発明の概要】
【0004】
従来の(メタ)アクリル樹脂組成物は、密閉された容器を使用して保存された際には、25℃雰囲気下における保存安定性と60~140℃雰囲気下で低温硬化性とを両立することが困難である。また、従来の導電性粒子を含む(メタ)アクリル樹脂組成物を含む導電性接着剤においては、さらに保存安定性と低温(60~140℃雰囲気)硬化性との両立が困難である。
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討した結果、(メタ)アクリル樹脂組成物およびそれを用いた導電性接着剤に関する手法を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明の要旨を次に説明する。本発明の第一の実施態様は、下記(A)~(C)成分を含む(メタ)アクリル樹脂組成物である:
(A)成分:(メタ)アクリル基を有するウレタン変性オリゴマー
(B)成分:表面張力が25~45mN/mである、分子内に水酸基および/またはカルボキシル基と、1つの(メタ)アクリル基と、を有するモノマー
(C)成分:後記の式1の構造を有する有機過酸化物。
【0007】
本発明の第二の実施態様は、前記(B)成分は、表面張力が33~45mN/mである、前記第一の実施態様に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物である。
【0008】
本発明の第三の実施態様は、ゴム、エラストマーおよび熱可塑性樹脂を含まない、前記第一または第二の実施態様に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物である。
【0009】
本発明の第四の実施態様は、前記(C)成分が、後記の式2の構造を有する有機過酸化物である、前記第一から第三の実施態様のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物である。
【0010】
本発明の第五の実施態様は、前記(B)成分が、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートおよび2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸からなる群から選択される少なくとも1種類である、前記第一から第四の実施態様のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物である。
【0011】
本発明の第六の実施態様は、さらに、(D)成分として、導電性粒子を含む、前記第一から第五の実施態様のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物である。
【0012】
本発明の第七の実施態様は、前記(D)成分が、ステアリン酸により表面処理された銀粉および銀メッキ粉から選択される少なくとも1種類の導電性粒子である、前記第六の実施態様に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物である。
【0013】
本発明の第八の実施態様は、前記第六または第七の実施態様のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂を含む、熱硬化型の導電性接着剤である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物は、(A)成分:(メタ)アクリル基を有するウレタン変性オリゴマー、(B)成分:表面張力が25~45mN/mである、分子内に水酸基および/またはカルボキシル基と、1つの(メタ)アクリル基と、を有するモノマー、並びに(C)成分:後記の式1の構造を有する有機過酸化物を含むことを特徴とするものである。かかる構成を有することにより、本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物は密閉された容器を使用して保存された際に、25℃雰囲気下における保存安定性と60~140℃雰囲気下での低温硬化性とを両立することができる。また、導電性粒子を含む本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物を含む導電性接着剤においてもその特性(すなわち、25℃雰囲気下における保存安定性と60~140℃雰囲気下での低温硬化性との両立)を発現できる。
【0015】
本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物(以下、単に「本発明の組成物」とも称する)の詳細を次に説明する。
【0016】
本発明で使用することができる(A)成分としては、(メタ)アクリル基を有するウレタン変性オリゴマーである。(A)成分としては、ポリオールとポリイソシアネートによりウレタン結合を形成して、未反応のイソシアネート基に水酸基と(メタ)アクリル基を有する化合物やアクリル酸を付加させる合成によって得られるものなどが知られている。また、本発明にかかる(A)成分として、市販品も使用されうる。市販品の具体例としては、共栄社化学株式会社製のAH-600、AT-600、UA-306H、およびUF-8001Gなど、ダイセルオルネクス株式会社製のエベクリルシリーズとしてのエベクリル220などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
本発明で使用することができる(B)成分としては、表面張力が25~45mN/mである、分子内に水酸基および/またはカルボキシル基と、1つの(メタ)アクリル基と、を有するモノマーである。本発明にかかる(B)成分の表面張力が25~45mN/mである場合、(メタ)アクリル樹脂組成物としての保存安定性が向上できる。また、保存安定性をより向上させる観点から、表面張力は33~45mN/mであることがより好ましい。ここで、(B)成分において、水酸基とカルボキシル基は炭化水素基に付加しているものが好ましい。明確な理由は分かっていないが、(B)成分の表面張力と後記の有機過酸化物である(C)成分との相溶性が関与していると推測される。
【0018】
ここで、表面張力の測定方法とはプレート法、リング法、懸滴法、最大泡圧法などが挙げられる。具体的な装置としては、協和界面科学株式会社製の自動表面張力計YD-200などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
(B)成分としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、保存安定性と硬化性とを両立できる観点から、(B)成分は、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートおよび2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸からなる群から選択される少なくとも1種類であることが好ましい。
【0020】
また、(B)成分の市販品の具体例としては、日本触媒株式会社製のHEMAなど、大阪有機化学工業株式会社製のHEA、4HBAなど、共栄社化学株式会社製のHO-MS(N)、HOB(N)などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0021】
(A)成分と(B)成分の合計が100質量部の場合に、(A)成分と(B)成分の比率((A)成分の質量部:(B)成分の質量部)は、20:80~80:20であることが好ましい。(A)成分が20質量部より多いと低温硬化性を維持することができ、80質量部より少ないと粘度を低くすることができて取扱性が良好である。また、前記効果をより発揮させる観点から、(A)成分と(B)成分の比率は、40:60~60:40であることがより好ましい。
【0022】
さらに、本発明の特性(効果)を損なわない範囲において、本発明の組成物に(B)成分以外の(メタ)アクリル基を1つ有するモノマーを添加することができる。(B)成分以外のモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェニルポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エピクロロヒドリン(以下ECHと略記)変性ブチル(メタ)アクリレート、ECH変性フェノキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド(以下EOと略記)変性フタル酸(メタ)アクリレート、EO変性コハク酸(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートアシッドホスフェート、ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
なお、本発明の特性を損なわない範囲において、本発明の組成物に、分子内に(メタ)アクリル基を2つ以上有するモノマーを添加することができるが、導電性接着剤においては導電性の発現を考慮すると、分子内に(メタ)アクリル基を2つ以上有するモノマーを添加しない方が好ましい。
【0024】
本発明で使用することができる(C)成分としては、下記の式1の構造を有する有機過酸化物である。本発明の効果(すなわち、保存安定性と低温硬化性との両立)をより発揮させる観点から、より好ましくは下記の式2の構造を有する有機過酸化物である。式1中、置換基として左右二つのR1は存在しているが、それぞれのR1は独立した炭化水素基を指し、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。また、式2中、置換基として左右二つのR2は存在しているが、それぞれのR2は独立した炭化水素基を指し、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。また、R1とR2はそれぞれ独立した炭化水素基を指し、直鎖状でも環状でも良い。なお、R1とR2とは、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0025】
本発明において、(C)成分を使用することで、60~140℃雰囲気下で低温硬化性を実現する。また、(C)成分の具体例としては、ジ-n-プロピル-パーオキシジカーボネート、ジ-iso-プロピル-パーオキシジカーボネート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(「ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート」とも称する)、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチル-パーオキシジカーボネートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
【0027】
(C)成分の市販品の具体例としては、日油株式会社製のパーロイルシリーズとしてNPP-50M、IPP-50、IPP-27、TCP、OPP、SBPなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0028】
本発明において、(C)成分の含有量は特に限定されないが、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して(C)成分を、1~20質量部含むことが好ましく、より好ましくは5~15質量部含み、さらに好ましくは6~10質量部を含む。(C)成分が1質量部以上では低温で低温硬化し、20質量部以下では保存安定性を維持することができる利点がある。
【0029】
本発明の組成物は、さらに(D)成分として、導電性粒子を含むことができる。かような導電性粒子を含む本発明の組成物は、後述する熱硬化型の導電性接着剤に好ましく使用できる。本発明で使用することができる(D)成分としては導電性粒子が挙げられ、特にステアリン酸により表面処理された導電性粒子がより好ましい。明確な理由は分かっていないが、滑剤(例えばステアリン酸など)で処理した導電性粒子は特に保存安定性を向上させる効果がある。
【0030】
導電性粒子としては、電気伝導性を発現すれば良く粒子の材質、粒子の形状は限定されない。導電性粒子の材質としては、銀粉、ニッケル粉、パラジウム粉、カーボン粉、タングステン粉、メッキ粉など挙げられ、特に銀粉が好ましい。また、導電性粒子はコストと導電性を考慮すると、銀粉および銀メッキ粉であることが好ましい。さらに、上述した保存安定性をより発揮させる観点から、本発明の(D)成分は、ステアリン酸により表面処理された銀粉および銀メッキ粉から選択される少なくとも1種類の導電性粒子であることが好ましい。
【0031】
また、導電性粒子の形状としては、球状、不定形、フレーク状(鱗片状)、フィラメント状(針状)および樹枝状など挙げられる。複数の種類を混合して使用しても良い。特に、原料原価が安いことから、絶縁性酸化金属、ニッケル粉または絶縁体の粉体を銀メッキ処理した導電性粒子が好ましい。絶縁性酸化金属とは、具体的に銅粉、アルミニウム粉または鉄粉などが挙げられ、金属表面に不動態が形成されており導電性が発現しない様な金属である。
【0032】
(A)成分や(B)成分に混練するためには、導電性粒子の50%平均粒径が100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが特に好ましい。
【0033】
ステアリン酸などの滑剤による表面処理方法としては、溶剤に希釈した滑剤を導電性粒子と共にボールミル等で処理した後に溶剤を乾燥させる方法などが知られているが、これらに限定されるものではない。
【0034】
本発明において、(D)成分の含有量は特に限定されないが、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(D)成分を、100~1000質量部含むことが好ましく、200~500質量部含むことがさらに好ましい。(D)成分が100質量部以上の場合、等方性の導電性が発現し、1000質量部以下の場合には糸ひき等が発生せずに作業性に問題が出ない利点がある。
【0035】
さらに、本発明の特性を損なわない範囲において安定剤を添加しても良い。安定剤は、重合禁止剤やキレート剤などが含まれる。発生したラジカル種を捕捉することで保存安定性を保つために重合禁止剤を使用することもできる。また、発生した金属イオンを捕捉するためにキレート剤を使用することができる。
【0036】
重合禁止剤の具体例としては、ヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、ベンゾキノン、p-tert-ブチルカテコール等のキノン系重合禁止剤、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、2-tert-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)、2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール等のアルキルフェノール系重合禁止剤、アルキル化ジフェニルアミン、N,N′-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、フェノチアジン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1,4-ジヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1-ヒドロキシ-4-ベンゾイリオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等のアミン系重合禁止剤、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル等のN-オキシル系重合禁止剤などが上げられるが、これに限定されるものではない。
【0037】
キレート剤の具体例としては、株式会社同人化学研究所製のEDTA・2Na、EDTA・4Na(「4NA」とも称し;エチレンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸四ナトリウム塩四水和物)などが挙げられ、また、25℃で液状のキレート剤としてはキレスト株式会社製のMZ-8などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
安定剤は添加量が多すぎると保存安定性が良くなる一方で、反応性が遅くなる虞があるため、安定剤は組成物全体に対して、0.001~1.0質量%にすることが好ましい。
【0039】
さらに、本発明の特性を損なわない範囲において(D)成分以外の成分として充填剤を添加することができる。充填剤は、無機充填剤や有機充填剤に分類される。無機充填剤として、導電性を発現しない金属粉(表面が酸化による不動態を形成した金属粉)、アルミナ粉、炭酸カルシウム粉、タルク粉、シリカ粉、ヒュームドシリカ粉等が挙げられ、有機充填剤としては、アクリル粒子、ゴム粒子、スチレン粒子などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。充填剤を添加することで粘度やチクソ性を制御することができると共に、強度の向上を計ることができる。平均粒径や形状などの粉体特性については特に限定はないが、組成物への分散のし易さとノズル詰まりを考慮すると、50%平均粒径は0.001~50μmが好ましい。特に、ヒュームドシリカ粉は添加することでチクソ性を付与すると共に保存安定性も維持される。ヒュームドシリカ粉の具体例としては、日本アエロジル株式会社製のAEROSIL R805、R972などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。平均粒径は、一般的にはレーザー粒度計やSEMにより測定されるがこれらに限定されるものではない。
【0040】
(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(D)成分以外の充填剤は0.1~10質量部添加されることが好ましい。(D)成分以外の充填剤が0.1質量部以上の場合は流動性を安定化すると共に作業性を向上することができ、10質量部以下の場合は保存安定性を維持することができる。
【0041】
本発明の組成物には、本発明の特性を損なわない範囲において、顔料、染料などの着色剤、難燃剤、酸化防止剤、消泡剤、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤等の添加剤を適量配合しても良い。これらの添加により導電性、樹脂強度、接着強さ、作業性、保存安定性等に優れた組成物またはその硬化物が得られる。ただし、異方導電性接着剤の分野では、ゴム、エラストマーおよび熱可塑性樹脂をモノマーや溶剤などで溶解(相溶)させて成膜剤として使用するが、本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物は、ゴム、エラストマーおよび熱可塑性樹脂を使用すると粘性が高くなり糸ひきなど作業性に支障が出るため、ゴム、エラストマーおよび熱可塑性樹脂を含まないことが好ましい。ここで、ゴムとしては、特に制限されるものではなく、例えば、天然ゴム;イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ポリイソブチレン(ブチルゴム)、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等の合成ゴムが挙げられる。エラストマーとしては、特に制限されるものではなく、例えば、スチレン系、オレフィン/アルケン系、塩ビ系、ウレタン系、アミド系等の(熱可塑性)エラストマーが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、特に制限されるものではなく、例えば、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリアルキレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。
【実施例】
【0042】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0043】
実施例1~9、および比較例1~19
(メタ)アクリル樹脂組成物または導電性接着剤を調製するために下記成分を準備した。以下、(メタ)アクリル樹脂組成物または導電性接着剤を単に「組成物」とも呼ぶ。
【0044】
(A)成分:(メタ)アクリル基を有するウレタン変性オリゴマー
・分子内に官能基数(アクリル基)を6つ有する芳香族ウレタンアクリレート(エベクリル220 ダイセルオルネクス株式会社製)
(B)成分:表面張力が25~45mN/mである、分子内に水酸基および/またはカルボキシル基と、1つの(メタ)アクリル基を有するモノマー
・2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA 日本触媒株式会社製)
・4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA 大阪有機化学工業株式会社製)
・2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA 大阪有機化学工業株式会社製)
・2-メタクリロイロキシエチルコハク酸(HO-MS(N) 共栄社化学株式会社製)
・2-ヒドロキシプロピルメタクリレート(HOB(N) 共栄社化学株式会社製)
(B’)成分:(B)成分以外の(メタ)アクリル基を1つ有するモノマー
・イソノニルアクリレート(INAA 大阪有機化学工業株式会社製)
・イソボルニルメタクリレート(IBX 大阪有機化学工業株式会社製)
・ジシクロペンタニルメタクリレート(ファンクリルFA-513M 日立化成株式会社製)
・環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート(ビスコート#200 大阪有機化学工業株式会社製)
・テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA 大阪有機化学工業株式会社製)
・イソボルニルアクリレート(IBXA 大阪有機化学工業株式会社製)
・ジメチルアクリルアミド(DMAA KJケミカルズ株式会社製)
・フェノキシエチルアクリレート(ビスコート#192 大阪有機化学工業株式会社製)
・アクリロイルモルホリン(ACMO KJケミカルズ株式会社製)
(C)成分:前記式1の構造を有する有機過酸化物
・ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(25℃で固体)(パーロイルTCP 日油株式会社製)
(D)成分:導電性粒子
・銀粉1:下記の粉体特性を有するステアリン酸により表面処理されたフレーク状銀粉
タップ密度:3.17g/cm3
50%平均粒径:5.0μm(レーザー粒度計)
BET比表面積:0.67m2/g
・銀粉2:下記の粉体特性を有するステアリン酸により表面処理されたフレーク状銀粉
タップ密度:3.57g/cm3
50%平均粒径:1.2μm(レーザー粒度計)
BET比表面積:2.01m2/g
その他成分:安定剤
・2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)(試薬)
・エチレンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸四ナトリウム塩四水和物(25℃で固体)(4NA(EDTA・4Na) 株式会社同人化学研究所製)
表面張力測定(プレート法)
(B)成分および(B’)成分の表面張力の測定を行った。測定方法としては、25℃環境下にて協和界面科学株式会社製の自動表面張力計YD-200を用いて表面張力の測定を行った。測定子が液体の表面に触れると、液体が測定子に対してぬれ上がり、このとき、測定子の周辺に沿って表面張力が働くため、測定子を液中に引き込もうとする。この引き込む力を読み取り、「表面張力(mN/m)」とする。測定子は白金プレートを用いた。その結果を表1と表3にまとめた。
【0045】
(A)成分、(B)成分(または(B’)成分)およびその他成分を秤量して撹拌釜に投入して、1時間撹拌した。さらにその後、(C)成分を秤量して撹拌釜に投入して1時間撹拌して、各実施例および比較例の(メタ)アクリル樹脂組成物を調製した。詳細な調製量は表1に従い、数値は全て質量部で表記する。
【0046】
【0047】
実施例1~5および比較例1~9に対して、保存安定性確認、および硬化性確認を実施した。その結果を表2にまとめた。
【0048】
保存安定性確認
ポリテトラフルオロエチレン製の棒で各実施例および比較例の組成物を撹拌した後に2.0cc計量し、温調装置により25℃に設定した状態でブルックフィールド(型番:DV-2+Pro)を用いて粘度を測定した。測定条件としては、コーンロータにはCPE-41(3°×R2.4)を使用し、回転速度は10rpmにて行う。3分後の粘度を「初期粘度(Pa・s)」とする。その後、組成物を入れた通気性の無い軟膏容器を25℃雰囲気下に保管した。保管開始から24時間毎に粘度を測定し、初期粘度の測定と同じ方法で粘度測定を行う。粘度が初期粘度の2倍以上に増粘した時点で安定性を損なったと判断して、2倍以上になった時間の前の時間を「保存安定性(時間)」とする。最初の24時間で既に2倍以上になっていた場合は「24未満」と記載する。作業時の粘度変化を考慮すると、100時間以上の保存安定性を保持することが好ましい。
【0049】
硬化性確認
長さ100mm×幅50mm×厚さ2.0mmのガラス板上に、長さ100mm×幅10mmになる様に、厚さ50μmマスキングテープを貼り付け、組成物をスキージして均一な塗膜を形成してテストピースを作製した(1つのテストピースにn=2)。テストピースを80℃雰囲気下の熱風乾燥炉にそれぞれ投入して、それぞれ10、20、30および40分放置した後、熱風乾燥炉からテストピースを取り出す。テストピースの温度が25℃に下がった後に、ポリテトラフルオロエチレン製の棒で硬化物の表面を触り、硬化物が変形しなくなる時間を「硬化性」として評価する。低温硬化を維持するためには、30分未満で硬化することが好ましい。
【0050】
【0051】
実施例1~5と比較例1~9とを比較すると、分子内に水酸基および/またはカルボキシル基と(メタ)アクリル基とを有すると共に表面張力が25~45mN/mの(B)成分を用いた実施例では硬化性を維持したまま保存安定性が100時間を超えていた。特に、実施例2~4においては500時間を超えて600時間にも達していた。一方、本発明の(B)成分を用いない場合は、100時間を超えず(比較例1~9を参照)、特に比較例7や9では保存安定性が24時間未満であった。
【0052】
(A)成分、(B)成分およびその他成分を秤量して撹拌釜に投入した。30分撹拌した後、(D)成分を撹拌釜に秤量してさらに30分脱気しながら撹拌した。最後に(C)成分を秤量して撹拌釜に投入して1時間撹拌して、各実施例および比較例の導電性接着剤を調製した。詳細な調製量は表3に従い、数値は全て質量部で表記する。
【0053】
【0054】
実施例6~9および比較例10~19に対して、前記と同じように、保存安定性確認および硬化性確認を実施し、また、後述の方法に従い体積抵抗率測定を実施した。その結果を表3にまとめた。
【0055】
体積抵抗率測定
厚さ2.0mm×幅50mm×長さ100mmのガラス板上に、長さ100mm×幅10mmになる様にマスキングテープ(50μm厚)を貼り付け、組成物をスキージして均一な塗膜を形成してテストピースを作製した(n=2)。テストピースを80℃雰囲気下の熱風乾燥炉にそれぞれ投入して、60分間放置した後、熱風乾燥炉からテストピースを取り出した。テストピースの温度が25℃に下がった後に、板状の電極を付けたデュアルディスプレイマルチメータを用いて、電極間の距離が50mmの状態で「抵抗値(Ω)」を測定した。(抵抗値)×(硬化物の幅×硬化物の厚さ(断面積))/(電極間の距離)より体積抵抗率を計算し、「導電性(×10-6Ω・m)」とする。導電性を確保する観点から、導電性は10.0×10-6Ω・m以下であることが好ましい。
【0056】
【0057】
上記の各実施例からでも分かるように、(A)~(C)成分を必須成分とする組成物に対して、さらに(D)成分を添加した場合、組成物としての初期粘度が高くなると共に25℃に保管した時の増粘もし易くなる。その様な状態であっても、実施例6~9と比較例10~19を比較すると、実施例で使用している分子内に水酸基および/またはカルボキシル基と1つの(メタ)アクリル基とを有すると共に表面張力が33~45mN/mである(B)成分を使用することにより、硬化性は同じであるが、実施例の方が導電性が良好であると共に保存安定性は100時間を超えていた。一方、比較例は保存安定性が100時間を超えず、特に比較例17と19では保存安定性が24時間未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の(メタ)アクリル樹脂組成物は、密閉された容器を使用し保存された際には25℃雰囲気下における保存安定性と60~140℃雰囲気下での硬化性を両立し、さらには導電性粒子を含む導電性接着剤においてもその特性(すなわち、保存安定性と低温硬化性との両立)を発現できる。これにより、長時間の吐出作業中に吐出量が変化することが無いと共に、低温硬化できれば加熱による被着体へのダメージを低減させることができる。これらの特性から、様々な電子部品などの組み立てに使用することができ、広い用途に展開される可能性がある。
【0059】
本出願は、2016年9月2日に出願された日本国特許出願第2016-172136号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。