(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】印刷機用光源装置、印刷機用光源装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
B41F 23/04 20060101AFI20220929BHJP
B41F 13/04 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B41F23/04 B
B41F13/04
(21)【出願番号】P 2018192586
(22)【出願日】2018-10-11
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 瞬
(72)【発明者】
【氏名】井上 顕彰
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-005789(JP,A)
【文献】特開2009-184211(JP,A)
【文献】特開2009-072957(JP,A)
【文献】特開2012-224021(JP,A)
【文献】特開2018-088338(JP,A)
【文献】特開2013-129062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 23/04
B41F 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性のインクが塗布された状態で搬送された、印刷対象物であるメディアに対して光を照射するLED光源と、
前記メディアの搬送方向が正逆いずれの方向であるかを検出する検出部と、
前記LED光源の発光強度を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記検出部から送信された検出信号に基づき、前記メディアの搬送方向が逆方向である場合に、前記メディアの搬送方向が正方向である場合よりも発光強度を低下させるか、又は消灯する制御を行うことを特徴とする、印刷機用光源装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記メディアを搬送するための駆動用モータの軸の回転方向を検出することで、前記メディアの搬送方向が正逆いずれの方向であるかを検出することを特徴とする、請求項1に記載の印刷機用光源装置。
【請求項3】
前記LED光源は、前記メディアの面上において、前記メディアの搬送方向に直交する幅方向に沿って配置された複数のLED素子を含み、
前記制御部は、前記メディアの搬送方向が逆方向である場合に、前記幅方向に沿って配置された前記複数のLED素子の発光強度を一括して低下させる制御を行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の印刷機用光源装置。
【請求項4】
前記LED光源は、主たる発光波長が250nm以上450nm以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の印刷機用光源装置。
【請求項5】
印刷機用光源装置の制御方法であって、
光硬化性のインクが塗布された状態で正方向に搬送された、印刷対象物であるメディアに対してLED光源から光を照射する工程(a)と、
前記メディアが逆方向に搬送されるタイミングで、前記工程(a)よりも前記LED光源の発光強度を低下させるか、又は前記LED光源を消灯させる工程(b)とを有することを特徴とする、印刷機用光源装置の制御方法。
【請求項6】
前記工程(b)は、前記メディアが間欠送りされている時間帯に実行されることを特徴とする、請求項5に記載の印刷機用光源装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷機用光源装置、及び印刷機用光源装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光硬化型のインクを紙等のメディアに塗布した後、光源から出射された光を当該インクに照射させてインクを固定することで、印刷を行う技術が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シールラベル市場のオフセットや凸版などの有版印刷では、間欠輪転方式という印刷技術が用いられることがある。このような印刷技術に従って印刷する機械は、「間欠輪転印刷機」や「間欠輪転機」と称される。以下では、このような印刷機のことを、「間欠輪転機」と記載する。
【0005】
以下において、間欠輪転機の動作手順につき、一般的なオフセット印刷の手順を説明した後に説明する。
【0006】
図1は、一般的なオフセット印刷の方法を説明するための模式的な図面である。印刷機50は、インク塗布部20と、光源部30とを有する。メディア10は、メディアローラ11によって方向d1に沿って搬送される。光源部30は、インク塗布部20よりも下流に配置されている。
【0007】
インク塗布部20は、ブランケット胴21、版胴22、圧胴23、インクローラ24、水ローラ25などを含む。版胴22は、例えばアルミニウムなどからなる版が取り付けられたローラであり、インクローラ24からはインクが、水ローラ25からは水が供給される。版胴22は、印刷用の版の形状に対応して、印字部(画線部)にはインクが付着し、非印字部(非画線部)には水が付着した状態で回転する。
【0008】
ブランケット胴21は、例えばゴム製のブランケットが巻きつけられたローラであり、版胴22と一部接触した状態で回転する。版胴22との接触位置において、版胴22上に付着されていたインクが、ブランケット胴21に転写される。非画線部に水が付着されていることから、ブランケット胴21には画線部に対応するインクのみが転写される。
【0009】
圧胴23は、印刷対象物であるメディア10をブランケット胴21に密着させるためのローラである。メディア10がd1方向に搬送されると、メディア10とブランケット胴21との接触位置において、当該箇所のブランケット胴21にインクが存在していた場合には、このインクがメディア10の面に転写される。ブランケット胴21上には、版胴22から転写された版の形状に応じた分布の態様でインクが付着しているため、メディア10にも、同様に版の形状に応じた分布の態様でインクが転写される。
【0010】
メディア10は、インクが転写された後、光源部30側に搬送される。光源部30からメディア10に対して光L1が照射されることで、メディア10の面上に転写されていたインクが硬化し、印刷が完了する。
【0011】
なお、メディア10に対してカラー印刷を行う際には、インク塗布部20は色ごとに配置され、光源部30も色ごとにインク塗布部20の下流側に配置される。
図2は、一例として、4色の印刷を行う場合の構成を模式的に示した図面である。
図2に示された印刷機50は、ブラック印刷機構50K、シアン印刷機構50C、マゼンタ印刷機構50M、及びイエロー印刷機構50Yを備える。
【0012】
上述したように、ブランケット胴21上には、版の形状に応じた分布の態様でインクが塗布される。このため、ブランケット胴21の大きさに対して版の大きさが小さい場合には、ブランケット胴21の1周に対して、インクが塗布されている領域の割合が小さくなることが想定される。
【0013】
図3は、版の大きさがブランケット胴21の1周に対して比較的小さい場合に生じる課題を説明するための、模式的な図面である。
図3では、(a)、(b)、(c)、(d)の順に時間が経過している様子が示されている。
【0014】
ブランケット胴21が回転している間、メディア10は、d1方向に搬送され続ける。版27が形成されている領域内のインクが、メディア10の面上に接触すると、メディア10の面上に転写される(インク10a:
図3(b))。なお、
図3(b)では、版27に形成されていた領域内のインクが既にメディア10の面上に転写された後の状態であることを示すために、版27のハッチング模様を
図3(a)と異ならせている。
図3(c)以後についても同様である。
【0015】
その後も、引き続きブランケット胴21は回転を継続し、メディア10はd1方向に搬送され続ける。この結果、
図3(c)に示すように、
図3(b)の時点で転写されたインク10aは、ブランケット胴21に対して離れる方向に移動する。
【0016】
版27の大きさがブランケット胴21の1周に対して比較的小さい場合、ブランケット胴21にインクが塗布されていない領域28と搬送されるメディア10とが接触する時間が長くなる。この結果、
図3(d)に示すように、メディア10には印刷されない余白領域10bが発生する。具体的には、例えば1周が300mmのブランケット胴21に対して、版27の幅(周方向の長さ)が100mmである場合、200mmの余白領域10bを生成する。ブランケット胴21が連続的に回転して、メディア10に対して同一の版27の印刷が繰り返し実行される場合、メディア10上にはこの余白領域10bが繰り返し発生してしまい、メディア10の使用効率が低下する。
【0017】
なお、
図3(c)と
図3(d)との間には、版胴22からブランケット胴21に対してインクが転写されて、版27が形成されている領域に対してインクを付着させる工程が介在するが、図示が省略されている。
【0018】
このような課題に鑑み、
図4に示すように、ブランケット胴21が回転中に、ブランケット胴21上に版27が形成されていない領域がメディア10に接触する間には、メディアローラ11(
図1参照)によってメディア10を逆方向(方向d2)に搬送させるという技術が開発された。この技術が、上述した間欠輪転方式である。
図4は、
図3にならって図示されており、(a)、(b)、(c)、(d)の順に時間が経過している様子が示されている。
【0019】
この技術によれば、版27が存在する領域がメディア10に接触した後、1回転して再びこの版27がメディア10に接触する位置に達した時点で、メディア10はd2方向に逆搬送されているため、
図4(d)に示すように、
図3(d)の場合と比べてメディア10上に印刷されたインク10a同士の間隔10bを狭くすることができる。
【0020】
一般的なオフセット印刷機を始め、間欠輪転機においても、従来、光源30としては、メタルハライドランプや水銀ランプなどの放電ランプが利用されていた。しかし、近年、省電力、環境負荷に対する配慮などを理由に、光源部30としてLED(発光ダイオード)を利用することが検討されている。
【0021】
ところが、本発明者らが鋭意検討した結果、LEDによって光源部30を構成し、上述した間欠輪転方式でカラー印刷を行ったところ、色に応じて印刷のズレが生じるという課題を新たに見出した。なお、このような印刷のズレは、光源部30を放電ランプで構成していた場合には生じなかったことから、光源部30をLEDで構成したことに起因する新たな課題であると推察される。
【0022】
本発明は、上記の課題に鑑み、光硬化性のインクを硬化させる光源としてLEDを採用した場合においても、印刷時に印刷ズレを抑制することのできる、印刷機用光源装置を提供することを目的とする。また、本発明は、このような印刷ズレを抑制することのできる、印刷機用光源装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明に係る印刷機用光源装置は、
光硬化性のインクが塗布された状態で搬送された、印刷対象物であるメディアに対して光を照射するLED光源と、
前記メディアの搬送方向が正逆いずれの方向であるかを検出する検出部と、
前記LED光源の発光強度を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記検出部から送信された検出信号に基づき、前記メディアの搬送方向が逆方向である場合に、前記メディアの搬送方向が正方向である場合よりも発光強度を低下させるか、又は消灯する制御を行うことを特徴とする。
【0024】
上記構成によれば、LED光源からの出射光によってインクを硬化させることで印刷する場合であっても、印刷ズレを抑制することが可能となる。詳細は、「発明の詳細な説明」の項で後述される。
【0025】
前記検出部は、前記メディアを搬送するための駆動用モータの軸の回転方向を検出することで、前記メディアの搬送方向が正逆いずれの方向であるかを検出するものとしても構わない。
【0026】
上記の構成によれば、ランプを光源とした既存の印刷機に対して、光源をLEDに置き換えると共に、既存の駆動用モータの軸に検出部を取り付けるのみで、印刷ズレを抑制しながら光源をLEDに置き換えることが可能となる。すなわち、光源をランプからLEDに置き換える際に、既に用いられている印刷用の設備に代えて新たな設備を別途導入する必要がないため、光源をLEDに置き換える際の負担が軽減される。
【0027】
前記LED光源は、前記メディアの面上において、前記メディアの搬送方向に直交する幅方向に沿って配置された複数のLED素子を含み、
前記制御部は、前記メディアの搬送方向が逆方向である場合に、前記幅方向に沿って配置された前記複数のLED素子の発光強度を一括して低下させる制御を行うものとしても構わない。
【0028】
上記の構成によれば、簡易な制御によって印刷ズレを抑制することが可能となる。
【0029】
前記LED光源は、主たる発光波長が250nm以上450nm以下であるものとしても構わない。より詳細には、前記LED光源は、紫外域の光を発する素子で構成されることができる。
【0030】
本発明は、印刷機用光源装置の制御方法であって、
光硬化性のインクが塗布された状態で正方向に搬送された、印刷対象物であるメディアに対してLED光源から光を照射する工程(a)と、
前記メディアが逆方向に搬送されるタイミングで、前記工程(a)よりも前記LED光源の発光強度を低下させるか、又は前記LED光源を消灯させる工程(b)とを有することを特徴とする。
【0031】
前記工程(b)は、前記メディアが間欠送りされている時間帯に実行されるものとしても構わない。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、光硬化性のインクを硬化させる光源としてLEDを採用した場合においても、印刷ズレを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】一般的なオフセット印刷の方法を説明するための模式的な図面である。
【
図2】4色のカラー印刷を行う場合の方法を、
図1にならって示した模式的な図面である。
【
図3】版の大きさがブランケット胴の1周に対して比較的小さい場合に生じる課題を説明するための、模式的な図面である。
【
図4】間欠輪転方式による印刷方法を、
図3にならって示した模式的な図面である。
【
図5】本発明に係る印刷機用光源装置を含む、印刷機の構成例を模式的に示す図面である。
【
図6】LED光源がマトリクス状に配置された複数のLED素子を備える場合の構成を模式的に示した図面である。
【
図7】本発明に係る印刷機用光源装置を含む、カラー対応の印刷機の構成例を模式的に示す図面である。
【
図8】版に対応した印刷領域とトンボが印刷されたメディアを模式的に示す図面である。
【
図9】メタルハライドランプの発光スペクトルと、主たる発光波長が385nmのLED素子の発光スペクトルとを表示したグラフである。
【
図10】本発明に係る印刷機用光源装置を含む、印刷機の別実施形態の構成例を模式的に示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明に係る印刷機用光源装置、及び印刷機用光源装置の制御方法の実施形態につき、以下において、適宜図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は模式的に示されたものであり、図面上の寸法比は必ずしも実際の寸法比とは一致せず、また、図面間の寸法比も一致していない。
【0035】
[構成]
図5は、本発明に係る印刷機用光源装置を含む、印刷機の構成例を模式的に示す図面である。以下において、
図1~
図4と同一の構成要素については、同一の符号を付して、その説明を簡略化又は省略する。
【0036】
図5に示す印刷機51は、
図1に示す印刷機50と同様にインク塗布部20を有する。なお、印刷機51は、
図1の印刷機50と比較して、光源部30が、本発明の印刷機用光源装置1に置き換えられている。以下において、印刷機用光源装置1は、適宜、単に「光源装置1」と記載される。
【0037】
光源装置1は、LED光源2、制御部3、検出部4、及び電源部5を備える。制御部3は、電源部5からLED光源2に対する供給電流量を制御する機能部である。LED光源2は、制御部3によって供給電流量が制御されることで、点灯/消灯、及び発光強度の調整が可能に構成されている。
【0038】
LED光源2は、例えば、複数のLED素子が一列、又はマトリクス状に配置されることで構成される。
図6は、LED光源2が、マトリクス状に配置された複数のLED素子2aを備える場合の構成を模式的に示した図面である。
図6は、光源装置1、及び光源装置1の近傍を搬送されるメディア10を、メディア10の印刷面の上方から見た模式的な図面である。LED光源2は、光源装置1内に存在し、メディア10の面に向かって、すなわち
図6における紙面奥行き方向に光L1を出射する。
図6に示すように、LED光源2は、メディア10の幅10wに沿った方向(以下、「メディア10の幅方向」という。)に複数のLED素子を有しており、メディア10の幅10w全体にわたって、光L1を照射可能に構成されている。
【0039】
なお、LED光源2が備えるLED素子の数は、メディア10の幅10wの大きさやLED素子の大きさに応じて、適宜設定されるものとして構わない。すなわち、LED素子は、メディア10の幅方向に1個のLED素子のみを有しているものとしても構わないし、メディア10の搬送方向(正方向d1,逆方向d2)に1個のLED素子のみを有しているものとしても構わない。また、LED素子の配置の態様についても、必ずしもマトリクス状である必要はなく、放射状、同心円状、千鳥格子状など種々の配置態様を採用することができる。
【0040】
LED光源2は、主たる発光波長が250nm以上450nm以下である。一例として、LED光源2は、主たる発光波長が385nmである。
【0041】
検出部4は、メディア10の搬送方向が正方向d1であるか、逆方向d2(
図4(c)参照)であるかを検出する機能部である。例えば、メディアローラ11の回転方向を検知するセンサ12が、メディアローラ11又はメディアローラ11を回転駆動するための駆動モータ13に取り付けられており、検出部4は、このセンサ12からの信号を受信することで、メディア10の搬送方向を検知することができる。なお、センサ12とPLC制御ユニットを組み合わせて、メディア10の搬送方向を検知するものとしても構わない。また、センサ12から検出部4に対して信号を送信する方式は任意であり、有線であっても無線であっても構わない。
【0042】
制御部3は、検出部4から送信された検出信号に基づき、メディア10の搬送方向が正方向d1である場合には、LED光源2の発光強度が所定の第一発光強度となるように、電源部5に対して供給電流量を制御する。この第一発光強度は、LED光源2から照射される光L1によって、メディア10の面上に転写されていたインクを硬化させるのに必要な照度を実現できる程度の値である。一例として、この第一発光強度は、例えば最大強度とすることができる。
【0043】
一方で、制御部3は、検出部4から送信された検出信号に基づき、メディア10の搬送方向が逆方向d2である場合には、LED光源2の発光強度が、第一発光強度よりも低い第二発光強度となるように、又は消灯するように、電源部5に対して供給電流量を制御する。すなわち、制御部3は、メディア10の搬送方向が逆方向d2である場合、メディア10の搬送方向が正方向d1である場合よりも、LED光源2に対する供給電流量を低下させるように、又は通電しないように、制御する。
【0044】
一例として、メディア10の搬送方向が正方向d1である場合のLED光源2に対する供給電流量をI1、メディア10の搬送方向が逆方向d2である場合のLED光源2に対する供給電流量をI2とすると、I2/I1は、0%以上、70%以下であり、好ましくは、0%以上、50%以下であり、より好ましくは、0%以上、30%以下である。
【0045】
なお、印刷機51がカラー印刷機である場合には、
図7に示すように、
図2と同様に、例えば、ブラック印刷機構51K、シアン印刷機構51C、マゼンタ印刷機構51M、及びイエロー印刷機構51Yを備える。そして、それぞれの印刷機構(51K,51C,51M,51Y)には、本発明の光源装置1が備えられる。
【0046】
[検証]
本発明の光源装置1を用いることで、メディア10に対して印刷をした場合に印刷ズレが抑制される点につき、以下実施例を参照しながら説明する。
【0047】
(実施例)
実施例としては、
図7に示す4色カラー対応の印刷機51を用い、各印刷機構(51K,51C,51M,51Y)には、上述した制御部3を含む光源装置1が搭載されているものを採用した。
【0048】
メディア10としては、シール材を使用した。ブランケット胴21の回転数は、100rpmとした。
【0049】
ブランケット胴21の1周に対する版27の幅の割合は5%とした。なお、版27の末端には、色ごとの印刷ズレを検知するためのアライメント用のトンボ用版を付している。これにより、
図8に模式的に示すように、メディア10上には、版27に由来した、連続する印刷領域17の間に、各色のトンボ18が印刷される。トンボ18は、メディア10の幅方向(搬送方向(正方向d1,逆方向d2)に直交する方向)に離間した位置に2箇所印刷され、十字形状(クロス形状)やT字形状を示す。トンボ18の線の太さは0.1mmとした。
【0050】
より詳細には、メディア10の幅方向に離間した2箇所に配置されたトンボ18(18a,18b)のうち、一方のトンボ18aが印刷時のアライメントに利用される。
【0051】
例えば、ブラック印刷機構51Kによって、ブラックのトンボ18(以下、便宜上「トンボ18K」と記載する。)がメディア10上の幅方向に対向した位置の2箇所に印刷された後、シアン印刷機構51Cは、一方のトンボ18Kの位置にシアンのトンボ18(以下、便宜上「トンボ18C」と記載する。)が印刷されるように、位置合わせを行った上で印刷を行う。以下、マゼンタ印刷機構51M、及びイエロー印刷機構51Yについても同様に印刷を行う。
【0052】
メディア10が逆方向d2に搬送されているときのLED光源2に対する供給電流量I2を、メディア10の搬送方向が正方向d1である場合のLED光源2に対する供給電流量I1の、10%とした。なお、メディア10が逆方向d2に搬送される時間は、およそ0.3秒程度であった。
【0053】
(比較例)
比較例としては、前記供給電流量I2をI1に等しくした以外は、同一の条件とした。
【0054】
(結果)
比較例の方式で印刷したメディア10においては、アライメントに利用されたトンボ18(18a)とは反対側に印刷されたトンボ18(18b)が、各色につき0.2mm~0.3mm程度ずれていることが確認された。このずれは、トンボ18の線の太さの2倍~3倍に対応するため、無視できないズレ量である。
【0055】
これに対し、実施例の方式で印刷したメディア10においては、アライメントに利用されたトンボ18(18a)とは反対側に印刷されたトンボ18(18b)のずれは、0.01mm未満のズレに抑制されていることが確認された。
【0056】
(検証)
実施例の方法によれば、比較例の方法に比べて印刷ズレが抑制される理由につき、現時点では定かではないが、本発明者らは以下のように推察している。
【0057】
図9は、メタルハライドランプの発光スペクトルと、主たる発光波長が385nmのLED素子の発光スペクトルとを表示したグラフである。メタルハライドランプは、上述したように、従来の印刷機50の光源部30に利用されていた。メタルハライドランプを初めとする放電ランプは、
図9に示すように、広帯域のスペクトル分布を示す。これに対し、LED素子は、ピーク部分の強度はメタルハライドランプよりも高いものの、波長域はメタルハライドランプよりも極めて狭い。
【0058】
インクローラ24から導入されるインクの種類によっては、硬化させるのに必要な光の波長成分が異なることが考えられる。また、インクによっては、多くの波長成分の光を用いることで、硬化が促進される可能性もある。上述したように、放電ランプは、広帯域の光を示すため、多様なインクに対して確実に硬化させることが可能であったと推察される。
【0059】
これに対し、LED素子は帯域が狭いため、インクに対して多くの波長成分の光を十分に入射させることは困難である。また、LED素子のピーク波長の光が、硬化に適したインクが用いられる保障はない。インクは、色味に影響を及ぼすことから、放電ランプを光源部30とする従来の印刷機50で用いられていたインクを、LED光源2を含む光源装置1を印刷機用の光源装置とする場合においても引き続き利用したいという事情もある。つまり、LED光源2を含む光源装置1から放射される光は狭帯域であるにもかかわらず、LED光源2のピーク波長ではない、裾の波長成分の光がインクの硬化に寄与している可能性がある。現に、インクが塗布されたメディア10に対して、発光強度を低下させたLED光源2からの光を照射させても、インクが十分には乾かず、固定できないという問題が生じた。
【0060】
つまり、インクを硬化させるために必要な照射量を実現するためには、LED光源2をある程度高い発光強度で発光させる必要がある。しかし、上述したように、LED光源2はピーク波長における放射照度が高い。この結果、インクが塗布されていないメディア10の面に高いエネルギーを有する光が照射され続けることで、メディア10に含まれる水分が蒸発し、メディア10が収縮したものと推察される。比較例において、前段階で印刷された色の位置合わせ用のトンボ18(18a)に位置を合わせて印刷しているにもかかわらず他方のトンボ18(18b)に印刷ズレが生じているのは、メディア10が収縮したことに伴い、メディア10の幅が狭くなったことに起因するものと推察される。
【0061】
これに対し、実施例のように、逆方向に搬送する際にはLED光源2の発光強度を低下させることで、インクが塗布されていないメディア10の面に対して照射される光量が大幅に低下する。これによって、メディア10の収縮量が削減され、印刷ズレが抑制されたものと考えられる。
【0062】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0063】
〈1〉
図10に示すように、センサ12からの信号を受けて、制御部3が電源部5に対して通電量の制御を行うものとしても構わない。この場合、検出部4は、センサ12によって構成され、LED光源2とは離れた位置に配置される。センサ12よって構成された検出部4は、メディア10の搬送方向を検出すると、その検出信号を制御部3に送信する。制御部3の制御内容は、上述した実施形態と共通であるため、説明を省略する。
【0064】
〈2〉メディア10の搬送方向が逆方向d2である場合において、制御部3は、LED光源2に含まれる全てのLED素子に対して、一括で供給電流量を低下させる制御を行うものとしても構わないし、一部のLED素子に対してのみ低下させる制御を行うものとしても構わない。後者の場合には、メディア10の幅10wに沿った方向(幅方向)に配列されている複数のLED素子に対しては、一括で供給電流量を低下させる制御を行うのが好ましい。
【0065】
なお、供給電流量の低下割合についても、全てのLED素子に対して共通の値であっても構わないし、LED素子に応じて異なる値であっても構わない。
【0066】
〈3〉メディア10は、光源装置1から照射される光によって塗布されたインク硬化されることで印刷される対象物であればよく、例えば、上述した実施例で用いられたシール材の他、上質紙、アート紙、グロス紙、ホイル紙、カラー・ファンシー紙、特殊紙、可変情報用紙等の紙基材からなるものや、PET、PE、PVC、PP、PS、ABS等のフィルム基材からなるものなどを採用することができる。
【0067】
〈4〉光源装置1を含む印刷機51が、カラー印刷機である場合において、上記実施形態では、印刷されるインクが4色である場合を例に挙げて説明したが、色数は4色に限定されない。また、インクの色自体も任意である。
【符号の説明】
【0068】
1 : 印刷機用光源装置
2 : LED光源
3 : 制御部
4 : 検出部
5 : 電源部
10 : メディア
10a : メディア上のインク
10b : 余白領域
11 : メディアローラ
12 : センサ
13 : 駆動モータ
17 : 印刷領域
18,18a,18b : トンボ
20 : インク塗布部
21 : ブランケット胴
22 : 版胴
23 : 圧胴
24 : インクローラ
25 : 水ローラ
27 : 版
28 : ブランケット胴に版が形成されていない領域
30 : 光源部
50 : 印刷機
50C : シアン印刷機構
50K : ブラック印刷機構
50M : マゼンタ印刷機構
50Y : イエロー印刷機構
51 : 印刷機
51C : シアン印刷機構
51K : ブラック印刷機構
51M : マゼンタ印刷機構
51Y : イエロー印刷機構
d1 : 正方向
d2 : 逆方向