(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】ニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220929BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220929BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
(21)【出願番号】P 2020501491
(86)(22)【出願日】2018-07-13
(86)【国際出願番号】 IB2018055199
(87)【国際公開番号】W WO2019012497
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-04-09
(32)【優先日】2017-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000166443
【氏名又は名称】戸田工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 浩康
(72)【発明者】
【氏名】スン・シャン
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0351910(US,A1)
【文献】国際公開第2017/025957(WO,A1)
【文献】特開2018-206747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造のニッケル酸リチウム複合酸化物Li
1+aNi
1-b-cCo
bM
cO
2(Mは元素Mn、Al、B、Mg、Ti、Sn、Zn、Zrのうち少なくとも1種、-0.1≦a≦0.2、0.05≦b≦0.5、0.01≦c≦0.4)を芯粒子Xとし
、被覆化合物Yを有した正極活物質粒子粉末であって、前記被覆化合物Y
はAlを含む酸化物であって、平均膜厚が0.2~5nm、結晶化度が50~95%、エピタキシャル成長度が50~95%、被覆率が50~95%であることを特徴とする正極活物質粒子粉末。
【請求項2】
請求項1記載の正極活物質粒子粉末であって、前記被覆化合物Yにおける元素Niに対する被覆化合物Yに含まれる元素
Alの総原子数比の平均値が0.5以上である正極活物質粒子粉末。
【請求項3】
請求項1記載の正極活物質粒子粉末であって、水酸化リチウムLiOHの含有量が0.50重量%以下、炭酸リチウムLi
2CO
3の含有量が0.65重量%以下、水酸化リチウム含有量に対する炭酸リチウム含有量の重量比が0.9以上である正極活物質粒子粉末。
【請求項4】
請求項1記載の正極活物質粒子粉末であって、BET比表面積が0.05~0.70m
2/g、凝集粒子メジアン径D
50が1~30μm、2%粉体pHが11.6以下である正極活物質粒子粉末。
【請求項5】
請求項1記載の正極活物質粒子粉末を、正極活物質の少なくとも一部に用いた非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高エネルギー密度で且つ繰り返し性能に優れた正極活物質粒子粉末、及びそれを用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やパソコン等の電子機器の小型・軽量化に拍車がかかり、これらの駆動用電源として高エネルギー密度を有する二次電池への要求が高くなっている。このような状況下において、重量、及び体積当たりの充放電容量が大きく、且つ、充放電の繰り返し特性が高い電池が注目されている。
【0003】
従来、高エネルギー型のリチウムイオン二次電池に有用な正極活物質粒子粉末の一つとして、
図1に示すような4V級の電圧をもつ層状(岩塩型)構造のニッケル酸リチウムLiNiO
2が知られている。
図1はLi及びTM(遷移金属)のボール、並びに酸素のボールを結んだ六角格子で表わされ、ab平面に同種の原子が六角格子を形成しているように、層状構造を示している。前記LiNiO
2粒子粉末は、汎用の正極活物質のコバルト酸リチウムLiCoO
2粒子粉末に比べ、安価で高容量で、且つ出力特性にも優れているため、主に電動工具主電源に利用されている。近年、その特徴を活かして、電気自動車の駆動電源としても利用されつつある。しかしながら、活物質粒子粉末からのLi
+イオン以外の溶出や合成時における原料粉末同士の反応の不完全性から、充放電繰り返し特性の低下の問題を引き起こしている。そのため、更なる粉体特性改善が求められている。
【0004】
周知の通り、正極活物質粒子粉末のニッケル酸リチウム結晶を構成するNiO6八面体において、Ni3+イオンは室温で低スピン状態である。該Ni3+イオンのd軌道の電子配置はt2g
6eg
1であり、eg性の一つの電子がNi-O間の結合距離を伸ばし、該結合力を低下させる。結果的に、ニッケル酸リチウム結晶の安定性が高いとは言い難い。また、Ni2+イオンはLi+イオンとイオン半径が近く、合成時にカチオンミキシングといった構造欠陥を起こしやすい。充電状態のNi4+イオンも準安定状態であり、高温で酸素を放出する。そのため、Ni3+イオンをCo3+イオンやAl3+イオン等の異種元素のイオンで置換することで改善が図られている(非特許参考文献1)。
【0005】
一方、Ni3+イオンを異種元素イオンで置換したニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末においても、尚、不純物相として、炭酸リチウムや水酸化リチウムを必要以上に含んでいる。該未反応のリチウム化合物は、粉体pHを上げる主要因であり、電極スラリー作製時にゲル化を引き起こし、更には、二次電池充放電に伴い、高温保存時の副反応に伴うガス発生を引き起こす。特に、水酸化リチウムの影響が著しいため、該粒子粉末表面に存在する未反応物を炭酸化(特許参考文献1及び2)、或いは、水洗・乾燥による除去(非特許参考文献2)を施している。尚、副反応とは、二次電池の充放電時における、電極活物質からLi+イオンの出入りに伴う遷移金属の価数変化以外の電気化学反応や化学反応である。例えば、混入、或いは生成した水と電解質LiPF6との反応による電解液中のフッ酸の生成があり、該フッ酸により電極活物質が破壊される反応が副反応である。
【0006】
ニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末の更なる改善として、該粒子粉末を芯粒子とした表面処理が提案され、未反応の炭酸リチウムや水酸化リチウムを別のリチウム化合物に変えている。該表面処理による被膜は、充放電時の副反応物として生成するフッ酸の保護膜として働き、電池の寿命を延ばしている(非特許参考文献3)。
【0007】
ニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末の別の更なる改善として、該粒子粉末を芯粒子とした気相成長による表面処理が提案され、無機化合物の非常に薄い膜での被覆が検討されている。非常に薄い該被膜は前記粒子粉末におけるLi+イオンの出入りを妨げることなく、充放電に伴う該粒子の表面近傍の結晶構造の崩壊を抑制して、電池の寿命を延ばしている(非特許参考文献4、5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】C.Delmas等、 Electrochimica Acta、Vol.45、1999年、243-253頁
【文献】J.Kim等、Electrochem.and Solid-State Lett.、Vol.9、2006年、A19-A23頁
【文献】M.-J.Lee等、J.Mater.Chem.A、Vol.3、2015年、13453-13460頁
【文献】J.-S.Park等、Chem.Mater.、Vol.26、2014年、3128-3134頁
【文献】D.Mohanty等、Scientific Reports、Vol.6、2016年、26532-1-16頁
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平10-302779号公報
【文献】特開2004-335345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
高電圧充電による高容量を維持して、優れた充放電繰り返し特性を示す非水電解質二次電池用のニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末は、現在最も要求されているが、未だ十分なものは得られていない。
【0011】
即ち、非特許文献1及び2、並びに特許文献1及び2に記載された技術では、含有する水酸化リチウム及び/又は炭酸リチウムを低減できても、電解液と直接接触するため、正極活物質/電解液界面で生じる副反応を抑制することができず、優れた充放電繰り返し特性を示すとは言い難い。また、ニッケル酸リチウム複合酸化物粒子粉末の水洗、乾燥に掛る費用は比較的大きく、量産に向いた手法とは言い難い。
【0012】
非特許文献3記載の技術は、ゾル-ゲル法を用いてバナジウムでニッケル酸リチウム複合酸化物粒子粉末を表面処理する方法である。しかしながら、バナジウムは安全性が低く、また、ゾル-ゲル法という高価な製法であるため、量産に向いた手法とは言い難い。更に、得られる表面被膜の膜厚は17nmと正極活物質/電解液界面での副反応を抑制するには、十分すぎるくらい厚い。
【0013】
非特許文献4、5記載の技術は、原子堆積法を用いて、ニッケル酸リチウム複合酸化物粒子粉末の表面に、非常に薄い無機化合物の膜を形成させる方法である。しかしながら、該膜は十分な結晶化がなされているとは言い難く、耐久性を備えながら、正極活物質/電解液界面での副反応を十分に抑制されているとは言い難い。
【0014】
そこで、本発明は、高電圧で高容量を維持しながら、充放電繰り返し特性に優れたニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末、及びそれを用いた二次電池の提供を技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0016】
即ち、本発明は、層状構造のニッケル酸リチウム複合酸化物Li1+aNi1-b-cCobMcO2(Mは元素Mn、Al、B、Mg、Ti、Sn、Zn、Zrのうち少なくとも1種、-0.1≦a≦0.2、0.05≦b≦0.5、0.01≦c≦0.4)を芯粒子Xとし、元素Al、Mg、Zr、Ti、Siのうち少なくとも1種含む被覆化合物Yを有した正極活物質粒子粉末であって、前記被覆化合物Yの平均膜厚が0.2~5nm、結晶化度が50~95%、エピタキシャル成長度が50~95%、被覆率が50~95%であることを特徴とする正極活物質粒子粉末である正極活物質粒子粉末である(本発明1)。
【0017】
また、本発明は、本発明1記載の正極活物質粒子粉末であって、前記被覆化合物Yにおける元素Niに対する被覆化合物Yに含まれる元素Al、Mg、Zr、Ti、Siの総原子数比の平均値が0.5以上である正極活物質粒子粉末である(本発明2)。
【0018】
また、本発明は、本発明1記載の正極活物質粒子粉末であって、水酸化リチウムLiOHの含有量が0.50重量%以下、炭酸リチウムLi2CO3の含有量が0.65重量%以下、水酸化リチウム含有量に対する炭酸リチウム含有量の重量比が0.9以上である正極活物質粒子粉末である(本発明3)。
【0019】
また、本発明は、本発明1記載の正極活物質粒子粉末であって、BET比表面積が0.05~0.7m2/g、凝集粒子メジアン径D50が1~30μm、2%粉体pHが11.6以下である正極活物質粒子粉末である(本発明4)。
【0020】
また、本発明は、本発明1記載の正極活物質粒子粉末を、正極活物質の少なくとも一部に用いた非水電解質二次電池である(本発明5)。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末は、ニッケル酸リチウム複合酸化物芯粒子に被覆化合物を有している。該被覆化合物はエピタキシャル成長度の高いナノサイズの薄膜による保護層となるため、電池内部における、電解液とニッケル酸リチウム複合酸化物粒子粉末との直接接触を妨げて副反応を抑制し、且つLi+イオンの出入りを妨げることはない。結果として、高容量を維持して充放電繰り返し特性に優れた非水電解質二次電池正極活物質粒子粉末として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明で得られたニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末の結晶構造模式図、及び該結晶面の説明図である。
【
図2】本発明の実施例1で得られた正極活物質粒子粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)による低倍(×1k)の二次電子像である。
【
図3】本発明の実施例1で得られた正極活物質粒子粉末のSEMによる高倍(×25k)の二次電子像である。
【
図4】本発明の実施例1で得られた正極活物質粒子粉末の走査型透過電子顕微鏡(STEM)による低倍(×50k)の明視野像である。
【
図5】本発明の実施例1で得られた正極活物質粒子粉末のSTEMによる高倍(×1.2m)の明視野像と、エネルギー分散型X線分光(EDS)によるAl元素マップである。
【
図6】本発明の実施例1で得られた正極活物質粒子粉末のSTEMによる超高倍(×10m)の像とEDSライン分析の結果である。
【
図7】本発明の実施例1で得られた正極活物質粒子粉末のSTEMによる超高倍(×10m)の明視野像を拡大して解析した図である。
【
図8】本発明の実施例1で得られた正極活物質粒子粉末の電子エネルギー損失分光(EELS)によるライン分析の結果である。
【
図9】本発明の実施例1で得られた正極活物質粒子粉末のSEMによる超高倍(×100k)の二次電子像である。
【
図10】本発明の実施例1で得られた正極活物質粒子粉末の水洗後のSEMによる超高倍(×100k)の二次電子像である。
【
図11】本発明の比較例1で得られた正極活物質粒子粉末のSEMによる超高倍(×100k)の二次電子像である。
【
図12】本発明の実施例1で得られた正極活物質粒子粉末のオージェ電子分光(AES)のスペクトルであって、元素LiのKLLオージェ電子に起因するピークである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0024】
まず、本発明に係るニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末について述べる。
【0025】
本発明に係るニッケル酸リチウムLiNiO2は空間群R3-mの三方晶系の層状(岩塩)構造をとる。ここで、一般に、空間群の-は3上に書かれるが、便宜上このように記載した。また、本発明に係る同結晶構造のニッケル酸リチウム複合酸化物は該ニッケル酸リチウムを母体とし、化学式Li1+aNi1-b-cCobMcO2で表わされる。ここで、Mは元素Mn、Al、B、Mg、Ti、Sn、Zn、Zrのうち少なくとも1種であり、-0.1≦a≦0.2、0.05≦b≦0.5、0.01≦c≦0.4である。
【0026】
前記Mはニッケル酸リチウムLiNiO2に固溶するものが望ましく、Ni3+イオンを置換するため、Mの平均価数は3に近い方が好ましい。また、a、b、及びcの好ましい範囲は-0.1≦a≦0.2、0.05≦b≦0.5、0.01≦c≦0.4であり、更に好ましくは、-0.08≦a≦0.18、0.10≦b≦0.4、0.02≦c≦0.35である。
【0027】
本発明に係るニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末は、前記化学式で表わされる粒子を芯粒子Xとし、元素Al、Mg、Zr、Ti、Siのうち少なくとも1種を含むエピタキシャル成長の被覆化合物Yを有している。ここで、エピタキシャル成長とは芯粒子Xの結晶面に沿って、被覆化合物Yの結晶が成長することを意味する。エピタキシャル成長ができるよう、該被覆化合物Yの結晶構造は母体であるニッケル酸リチウム複合酸化物と同一、又は類似の結晶構造であることが好ましい。例えば、被覆化合物Yの結晶構造は層状構造、岩塩構造、スピネル構造等の酸化物が好ましい。即ち、酸素が面心立方格子、或いは歪んだ面心立方格子を形成し、酸素六方格子によるアニオン層間に元素Al、Mg、Zr、Ti、Siのうち少なくとも1種のカチオンを含む化合物が好ましい。より具体的には、γ-Al2O3、α-LiAlO2、MgO、Li2ZrO3、Li2TiO3、等が挙げられる。
【0028】
本発明に係るニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末の被覆化合物Yの平均膜厚は0.2~5nmである。0.2nm未満であると被覆率の低い被覆化合物Yとなり、また、5nmを超えるとイオンや電子の伝導の障壁となり、高電気抵抗で、電池特性に悪影響を及ぼす。好ましい該平均膜厚は0.21~2.0nmであり、より好ましくは0.22~1.0nmである。
【0029】
本発明に係るニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末の被覆化合物Yの結晶化度は50~95%である。50%未満であると充放電繰り返し時における被覆化合物Yの分解が抑制できず、結果、充放電繰り返し時の副反応を十分に低下させることはできない。また、95%を超えると他の粉体特性を悪化させる。好ましい該結晶化度は60~94%であり、より好ましくは70~93%である。
【0030】
本発明に係るニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末の被覆化合物Yのエピタキシャル成長度は50~95%である。該エピタキシャル成長度が50%未満であると充放電時における被覆化合物Yの分解が抑制できず、結果、充放電時の副反応を十分に低下させることはできない。また、95%を超えると他の粉体特性を悪化させる。好ましい該エピタキシャル成長度は60~94%であり、より好ましくは70~93%である。
【0031】
本発明に係るニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末の被覆化合物Yの被覆率は50~95%である。被覆率は芯粒子Xの表面積に対する被覆化合物Yの面積で表わされる。50%未満であると充放電時における副反応を十分に低下させることはでない。また、95%を超えると非常に厚い膜が形成される。好ましい該被覆率は60~94%であり、より好ましくは70~93%である。
【0032】
本発明に係るニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末の被覆化合物Yにおいて、元素Niに対する被覆化合物Yに含まれる元素Al、Mg、Zr、Ti、Siの総原子数比の平均値が0.5以上であることが好ましい。該平均値が0.5未満の場合、芯粒子Xと被覆化合物Yの区別ができているとは言い難く、また、被覆化合物Yが存在しているとは言い難い。前記平均値は1.0以上が更に好ましく、1.2以上は更により好ましい。
【0033】
本発明に係るニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末の被覆化合物Yに元素Liを含むことが好ましい。Liを含むことによって、被覆化合物YにおけるLiの移動がより簡易になり、結果として、電池の抵抗を低減させる。
【0034】
本発明に係るニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末は、さらに炭酸リチウムで被覆された正極活物質粒子粉末であることが好ましい。炭酸リチウムは充放電時の副反応生成物の一つであり、電池の充放電繰り返し特性を低減する要因の一つである。電池を構成する以前より炭酸リチウムを正極活物質中に含むことにより、充放電時の副反応生成物の炭酸リチウム形成を抑制し、電池の充放電繰り返し特性を良好にすることができる。
【0035】
本発明に係るニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末は、水酸化リチウムLiOHの含有量は0.50重量%以下、炭酸リチウムLi2CO3の含有量は0.65重量%以下であることが好ましい。特に、水酸化リチウム含有量が低い方が好ましく、水酸化リチウム含有量に対する炭酸リチウム含有量の比が0.9以上であることが好ましい。前記アルカリ源となり得る不純物化合物は極力低減させることがより好ましく、LiOHの含有量は0.47重量%以下、Li2CO3の含有量は0.55重量%以下、水酸化リチウム含有量に対する炭酸リチウム含有量の比が1.2以上である。更により好ましい水酸化リチウム含有量に対する炭酸リチウム含有量の比は1.4以上である。
【0036】
本発明に係るニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末において、BET比表面積は0.05~0.7m2/gが好ましい。0.05m2/g未満の場合粗粒が多くなり、また、0.7m2/gを超える場合嵩高い粒子粉末となり、いずれの場合も正極活物質粒子粉末として不適である。より好ましくは0.1~0.5m2/gである。
【0037】
本発明に係るニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末において、凝集粒子メジアン径D50は1~30μmであることが好ましい。1μm未満の場合嵩高い粒子粉末となり、30μmを超える場合粗粒が多くなり、いずれの場合も正極活物質粒子粉末として不適である。より好ましくは2~25μmである。さらにより好ましくは3~22μmである。
【0038】
本発明に係るニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末において、電極スラリーのゲル化の観点から、2%pHは11.6以下が好ましい。より好ましくは11.5以下である。
【0039】
次に、本発明に係るニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末における、ニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子Xの製造方法について述べる。
【0040】
本発明におけるニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子X製造において、水酸化ニッケル粒子粉末を前駆体とする。該粒子のニッケル元素はコバルト元素や元素M(Mn、Al、B、Mg、Ti、Sn、Zn、Zr)で置換されても構わない。該前駆体の製造方法は特に限定しないが、湿式反応によるアンモニア錯体を用いた晶析法が好ましい。該前駆体をリチウム原料と所望の添加物と混合し、得られた混合物を焼成する。リチウム原料は特に限定はしないが、炭酸リチウム、水酸化リチウム、及び水酸化リチウム・一水塩が用いられる。
【0041】
本発明に係るニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子Xは、前記操作である該前駆体と各原料の混合物の焼成による固相反応法を基に作製される。固相反応とは、目的の粒子粉末を構成する元素を含む原料を混合し、高温の熱処理により固体原料間での化学反応を促進させる方法である。該前駆体に対し、固相反応中のリチウムの拡散を容易にするために、リチウム原料の粒径は微細なものが望ましい。該前駆体と原料の混合は溶媒を用いない乾式法によることが望ましく、原料粉末の混合装置としては、らいかい機、ボールミル、ヘンシェルミキサー、ハイスピードミキサー等を用いることができる。
【0042】
周知の通り、ニッケル酸リチウムの固相反応合成において、高温での焼成時にニッケルの一部がNi2+イオンとなり、結晶中のLi+イオンと置換されるという構造欠陥が生じ、電池特性が阻害される。また、より高温における焼成ではNiOが生成することが知られている。(H.Arai等、Solid State Ionics、Vol.80、1995年、頁261-269参照)
【0043】
本発明に係るニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子Xの製造方法は、前記混合物を600~930℃の温度範囲で焼成することを特徴としている。焼成温度が600℃未満の場合、固相反応が十分に進まず、所望のニッケル酸リチウム複合酸化物粒子粉末を得ることができない。930℃を超える場合、構造欠陥としてリチウムサイトに侵入するNi2+イオンの量が増大し、岩塩構造のNiO不純物相として成長する。好ましくは700~900℃である。
【0044】
本発明に係るニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子Xは、Ni2+イオンの含有量低減のため、酸素濃度が高い雰囲気での焼成が好ましい。前記焼成温度の保持時間は5~15時間程度であり、昇温、降温速度は50~200℃/時間程度である。焼成炉としては、ガス流通式箱型マッフル炉、ガス流通式回転炉、ローラーハースキルン等を用いることができる。
【0045】
本発明に係るニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子Xは、被覆化合物Yを有する直前のニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子となり得る状態であっても、被覆化合物Yを有するニッケル酸リチウム複合酸化物における芯粒子となった状態であっても、X線回折による結晶情報の格子定数や結晶子サイズの変化はほとんど観察されず、
図1に示す層状構造を維持している。被覆化合物Yが非常に薄いため、前記結果が得られていると解釈している。
【0046】
続いて、本発明に係るニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子Xに対する、元素Al、Mg、Zr、Ti、Siのうち少なくとも1種を含むエピタキシャル成長の被覆化合物Yの製造方法について述べる。
【0047】
本発明に係る前記被覆化合物Yは、気相成長法により作製されることが好ましい。気相成長法として、化学気相析出(CVD)法、物理気相成長法(PVD)法、原子層堆積(ALD)法が列挙される。より好ましい方法の一つの原子層堆積方法は原子1層(約1Å)ずつを形成させる気相成長法であり、次に続く4つの工程を繰り返すことで原子を層状或いは粒子状として堆積させる方法である。1)被処理物へ原料ガスAを供給、即ち、被処理物表面で原料ガスAが反応、2)原料ガスAの排気、3)被処理物表面上で更に反応させる原料ガスBを供給、4)原料ガスBの排気。ここで、原料ガスAと原料ガスBは必ず異なった組成のガスである。(X.Meng、等、Adv.Mater.、Vol.24、2012年、3589-3615頁、A.W.Weimer、PARTEC2004、Particle Coating by Atomic Layer Deposition(ALD)参照)
【0048】
本発明に係る前記被覆化合物Yの製造方法の原子層堆積法において、原料ガスAと原料ガスBの好ましい組み合わせを以下に示す。原料ガスA/原料ガスB;Al2(CH3)6/H2O;Mg(C2H5)2/H2O;ZrCl4/H2O、;TiCl4/H2O、;SiCl4/H2O等があり、同法により酸化物、炭化物、或いは水酸化物を形成すると推定している。
【0049】
本発明に係る前記被覆化合物Yの製造方法の原子層堆積法において、工程1)から工程4)を繰り返す回数は1~100回である。好ましくは、2~50回、より好ましくは、2~10回である。
【0050】
本発明に係る前記被覆化合物Yの製造方法の原子層堆積法において、工程1)から工程4)を行う温度は10~250℃内の任意の温度である。
【0051】
本発明に係る前記被覆化合物Yの製造方法において、気相成長した膜は150~500℃内の任意の温度で熱処理を行うことで、前記被覆化合物Yのエピタキシャル成長度と結晶化度を高めることができる。より好ましい範囲は200~450℃である。
【0052】
本発明に係る前記被覆化合物Yは、気相成長法により芯粒子X上に成膜され、その後熱処理が施されている。そのため、前記被覆化合物Yは数nmと非常に薄く、且つエピタキシャル性の高い薄膜である。前記被覆化合物Yの結晶構造の同定のための粒子表面分析として、走査型透過電子顕微鏡(STEM)観察、飛行時間型二次イオン質量分析法による深さ方向の元素分析、X線光電子分光法による深さ方向の元素分析等が挙げられる。また、溶媒中の被覆化合物のみの化学的なエッチングで溶出した元素濃度から推定する方法も挙げられる。
【0053】
本発明に係る前記被覆化合物YのSTEMによる観察は次のようにして行われる。観察試料の前処理として、樹脂に包埋した本発明に係る粒子粉末をイオンスライサで100nm程度に薄片化し、該サイズの異なる凝集粒子の最表面に相当する箇所を10カ所程度STEMで観察する。その際、ランダムに最表面の結晶粒子を10カ所程度選択し、層状構造のニッケル酸リチウム複合酸化物の結晶の晶帯軸を合わせて、観察する。明視野(BF)像で静電ポテンシャルを反映した原子カラム、或いは原子層を観察し、晶帯軸を確定する。高角度散乱暗視野(HAADF)像から重たい原子の位置情報を得て、BF像で生じる可能性のある干渉縞の影響を取り除き、芯粒子Xと被覆化合物Yの境界面に関する情報を得る。該境界面の芯粒子Xの外側が被覆化合物Yとなるため、その箇所に相当するBF像から、被覆化合物Yの結晶情報を得る。低角度散乱暗視野(LAADF)像から被覆化合物Yに関連したニッケル酸リチウム複合酸化物の結晶における歪んだ層を確認する。備え付けのエネルギー分散型X線分光(EDS)装置でホウ素Bより重たい元素を同定し、該元素の位置情報を得る。また、電子エネルギー損失分光(EELS)装置でリチウムLi等の軽い元素を同定し、該元素の位置情報を得る。
【0054】
本発明に係るニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末に対する、更なる炭酸リチウムの被覆に関する製造方法について述べる。
【0055】
本発明に係る炭酸リチウムの被覆は、前記正極活物質粒子粉末に残存する水酸化リチウムLiOHを効率良く炭酸リチウムLi2CO3へ変える技術であり、従来の技術と異なる。即ち、過剰な加湿処理により、前記粒子粉末中に残存する水酸化リチウムLiOHを低温で炭酸化しやすいLiOH・H2Oへと化学変化させることを技術的な特徴としている。ニッケル酸リチウム複合酸化物から僅かにLiを溶出させて、LiOH・H2Oと化学変化させても構わない。
【0056】
本発明に係る前記炭酸リチウムの被覆は、前記正極活物質粒子粉末を過剰な加湿処理後、大気中150~500℃の熱処理で形成されることが好ましい。過剰な加湿処理の条件として、温度10~50℃、雰囲気ガスの相対湿度10~90%、処理時間0.5~15時間であることが好ましい。加湿が厳しい条件の温度50℃を超えて、雰囲気ガスの相対湿度90%を超えて、又は、処理時間15時間を超える場合、ニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子Xからリチウムが大量に溶出し始めると推定される。過剰な加湿処理により約1200ppmの水分を含有する粒子粉末へと変化し、例えば、原子堆積法における加湿処理とは程度が全く異なる。より好ましい過剰な加湿処理条件として、温度15~30℃、雰囲気ガスの相対湿度15~80%、処理時間1~10時間である。また、過剰な加湿処理後に生成したLiOH・H2OをLi2CO3へと化学反応させ、且つニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子Xからリチウムが溶出しないようにするために、大気中の熱処理温度のより好ましい範囲は200~450℃である。
【0057】
本発明に係る前記炭酸リチウムの被覆は、芯粒子Xとなり得る状態の粒子粉末に対し、過剰な加湿処理後、大気中150~500℃の熱処理で形成させても構わない。前記炭酸リチウム被覆処置の後、被覆化合物Yを備える操作が必要であるが、前記炭酸リチウム被覆で行われる熱処理と被覆化合物Yの結晶化を高めるための熱処理は同一であっても構わない。即ち、芯粒子Xとなり得る状態の粒子粉末を過剰な加湿処理後、気相成長法で被覆化合物Yを形成し、大気中150~500℃の熱処理を施すことも構わない。また、芯粒子Xとなり得る状態の粒子粉末に気相成長法で被覆化合物Yを形成し、過剰な加湿処理後、大気中150~500℃の熱処理を施すことも構わない。
【0058】
本発明に係る前記炭酸リチウムの被覆は、残存するLiOHを過剰な加湿処理でLiOH・H2Oとし、大気中の低温熱処理でLi2CO3へ変える技術であり、被覆された炭酸リチウムは粒子状またはフィルム状である場合もある。該構造の同定のための粒子表面分析として、STEM観察、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)観察、飛行時間型二次イオン質量分析法による深さ方向の元素分析、X線光電子分光法による深さ方向の元素分析等が挙げられる。
【0059】
次に、本発明に係るニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末を用いた非水電解質二次電池について述べる。
【0060】
本発明に係る正極活物質粒子粉末を用いて正極シートを製造する場合には、常法に従って、導電剤と結着剤を添加し、混合する。導電剤としてはカーボンブラック、グラファイト等が好ましい。結着剤としてはポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等が好ましい。溶媒として、例えば、N-メチル-ピロリドンを用いることが好ましい。正極活物質粒子粉末と導電材と結着剤を含むスラリーを蜂蜜状になるまで混練する。得られた正極合剤スラリーを溝が25μm~500μmのドクターブレードで塗布速度は約60cm/secで集電体上に塗布し、溶媒除去と結着剤軟化のため80~180℃で乾燥する。集電体には約20μmのAl箔を用いる。正極合剤を塗布した集電体に線圧0.1~3t/cmのカレンダーロール処理を行って正極シートを得る。
【0061】
負極活物質としては、リチウム金属、リチウム/アルミニウム合金、リチウム/スズ合金、黒鉛等を用いることができ、正極と同様のドクターブレード法や金属圧延により負極シートは作製される。
【0062】
また、電解液の溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルの組み合わせ以外に、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル等のカーボネート類や、ジメトキシエタン等のエーテル類の少なくとも1種類を含む有機溶媒を用いることができる。
【0063】
さらに、電解質としては、六フッ化リン酸リチウム以外に、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム等のリチウム塩の少なくとも1種類を上記溶媒に溶解して用いることができる。
【0064】
本発明に係る正極活物質粒子粉末を用いて製造した対極Liの二次電池は、25℃において、4.4Vの充電後の3.0Vまでの初期放電容量が、各々190mAh/g以上である。通常、Li対極4.3Vの充電に対し高電圧であるので、容量も高く、結果として、高エネルギー密度の二次電池が得られる。また、同電圧範囲で、20、40、60、・・・、140サイクルを0.5Cで、その他のサイクルを1Cで放電させた時、レート1Cでの放電初期容量に対し、140サイクルでの容量維持率は90%以上であり、141サイクルでの容量維持率は85%以上である。結果として、高電圧充電時の充放電繰り返し特性に優れた二次電池が得られる。
【0065】
<作用>
本発明に係るニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末は、気相成長法とその後の熱処理で形成されたエピタキシャル成長性の被覆化合物Yを有している。該被覆化合物Yは非常に薄く、高結晶化度、高エピタキシャル成長度、及び高被覆率を備えるため、二次電池の充放電の繰り返し時の際に、高い容量を示しつつ、生じる副反応を抑制する。結果として、高エネルギー密度で充放電繰り返し特性に優れた正極活物質粒子粉末、及び二次電池として好適である。
【実施例】
【0066】
本発明の具体的な実施の例を以下に示す。
【0067】
[実施例1]
前駆体であるコバルト含有水酸化ニッケルNi0.84Co0.16(OH)2は水溶媒中のアンモニア錯体を経由した晶析法で数日間かけて得られた。該水酸化物と水酸化リチウム・一水塩LiOH・H2Oと水酸化アルミニウムAl(OH)3を、モル比でLi:Ni:Co:Al=1.02:0.81:0.15:0.04になるよう所定量を計量後、ハイスピードミキサーで混合し、ローラーハースキルンにおいて酸素雰囲気下770℃で芯粒子Xとなり得るニッケル酸リチウム複合酸化物を得た。
【0068】
得られた芯粒子Xになり得る状態の粒子粉末に対し原子層堆積法で処理した。該法の原料ガスAにトリメチルアルミニウムAl(CH3)3、原料ガスBにH2Oを用いた。180℃で4サイクル処理して、被覆化合物Yを有するニッケル酸リチウム複合酸化物粒子粉末を得た。
【0069】
得られた被覆化合物Yを有するニッケル酸リチウム複合酸化物70gを2cubic feetの恒温槽に、25℃、3L/minで水バブリングさせた大気を流した相対湿度50%、2時間保持の加湿処理を行い、含有するLiOHをLiOH・H2Oへとした。続いて、大気中350℃、2時間の熱処理で該LiOH・H2OをLi2CO3へと変え、被覆されたLi2CO3を備えるエピタキシャル成長度の高い被覆化合物Yを有するニッケル酸リチウム複合酸化物粒子粉末を作製した。得られた酸化物粒子粉末を正極活物質粒子粉末として取り扱った。
【0070】
本発明のニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末の粉体評価は以下のように行った。得られた結果を表1及び3に記した。
【0071】
試料表面、及び形状を観察するために電界放出形走査型電子顕微鏡(FE-SEM)のS-4800[(株)日立ハイテクノロジーズ]を用いた。
【0072】
試料のBET比表面積は試料を窒素ガス下で250℃、10分間乾燥脱気した後、Macsorb[Quantachrome Instruments]を用い、測定した。
【0073】
試料の結晶相の同定と結晶構造パラメータの算出のため、粉末X線回折装置SmartLab3kW[(株)リガク]を用いて測定した。X線回折パターンはCu-Kα、40kV、44mAの条件下で、モノクロメータを通して測定し、15≦2θ(deg.)≦120、0.02°のステップで、3deg./min.で測定した。結晶情報算出のためRietveld法を採用した。
【0074】
試料の体積基準の凝集粒子メジアン径D50の計測に、レーザー回折・散乱式の粒度分布計SALD-2201[(株)島津製作所]を用いた。
【0075】
試料中のLiOHとLi2CO3は室温で水溶媒懸濁させた溶液の塩酸滴定曲線から算出されるワルダー法を採用した。ここで、10gの試料を50ccの水に1時間マグネチィックスターラーで懸濁させた。
【0076】
試料の2%pHは100ccの純水中に2gの試料を室温で懸濁させ、pHメータを用いて測定した。
【0077】
試料の主成分元素であるリチウムとニッケル、及び副成分のコバルト、アルミニウムの含有量は、該試料粉末を塩酸で完全に溶解後、ICP発光分光分析装置(ICP-OES)ICPS-7510[(株)島津製作所]を用い、検量線法で測定した。
【0078】
試料の芯粒子Xと被覆化合物Yの各々の結晶、形態、及び化学組成に関する情報はSTEM(JEM-ARM200F Cold FEG型[日本電子(株)])、EDS(JED-2300T DrySDD100mm[日本電子(株)])及びEELSを用いた。
【0079】
得られた正極活物質粒子粉末を用いて、下記製造方法によるCR2032型コインセルでの二次電池特性を評価した。得られた結果を表3に記した。
【0080】
正極活物質と導電剤であるアセチレンブラック、グラファイト及び結着剤のポリフッ化ビニリデンを重量比90:3:3:4となるよう精秤し、N-メチル-2-ピロリドンに分散させ、高速混練装置で十分に混合して正極合剤スラリーを調整した。次に該合剤スラリーを集電体のアルミニウム箔にドクターブレードPI-1210 film coater[Tester Sangyo Co., LTD]で塗布し、120℃で乾燥して、0.5t/cmに加圧して、1cm2当たり9mgの正極活物質粒子粉末を含有する正極シートを作製した。該正極シートを16mmφに打ち抜き、正極とした。
【0081】
負極として、16mmφに打ち抜いた金属リチウム箔を用いた。
【0082】
セパレーターとして、セルガード#2400[Celgard,LLC]20mmφを用いた。1mol/LのLiPF6を溶解したエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート(1:1体積比)混合溶媒を電解液として用いた。これら部材を組み立て、CR2032型コインセルを作製した。
【0083】
電解液や金属リチウムが大気により分解されないよう、露点を管理したアルゴン雰囲気のグローブボックス中で電池の組み立てを行った。
【0084】
25℃における初期放電容量の測定は充放電試験装置TOSCAT-3000[TOYO system]を用い、0.1Cの定電流下で、放電電圧下限を3.0Vとし、充電上限電圧を4.4Vとした条件の試験を行った。また、25℃における141回の充放電サイクル試験として、放電電圧下限を3.0Vとし、充電上限電圧を4.4Vとした条件の試験を行った。20、40、60、・・・、140サイクル目を0.5C、その他を1Cの定電流下で放電を行い、初期の放電容量に対する140回目のサイクルの放電容量維持率、及び141回目の放電容量維持率を算出した。
【0085】
得られたニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末は
図2の低倍SEM写真で観察できるように、15μm程度の凝集粒子径であり、
図3の高倍SEMで観察できるように、300nm程度の一次粒子径であった。また、前記固相反応により得られた芯粒子Xとなり得る状態のニッケル酸リチウム複合酸化物粒子粉末はICP組成分析とXRD相分析により、層状構造のLi
1.02Ni
0.81Co
0.15Al
0.04O
2であった。格子定数は六方格子で表わすと、a
hex=2.8651Å、c
hex=14.186Åであり、結晶子サイズは277nmであった。ニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末の格子定数と結晶子サイズは芯粒子Xとなり得る状態のニッケル酸リチウム複合酸化物粒子粉末と同じ値であった。従って、ニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末の芯粒子Xは層状構造のLi
1.02Ni
0.81Co
0.15Al
0.04O
2とみなした。
【0086】
得られたニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末は
図4から
図8で示すようにSTEMにより解析を行った。
図4の明視野像から凝集粒子表面の結晶粒も凝集粒子内部の結晶粒も同程度の300nm程度のサイズであった。該粒子サイズは
図3のSEMによる一次粒子サイズ、及びX線回折からの結晶子サイズと大凡一致した。
図5の明視野像とAl元素(kα線)の強度比マップから、ニッケル酸リチウム複合酸化物の芯粒子Xの右側の最表面にAl元素を含む被覆化合物Yの層が約50nmに渡って形成されていた。注意すべきは、例えば、芯粒子Xの上側の最表面にEDSのAlの強度が強く検出されていないため、被覆化合物Yが存在しないということではない。更に倍率を上げて観察することで、被覆化合物Yが微量ではあるが検出されることがしばしばであった。
【0087】
図6で得られた正極活物質粒子粉末の被覆化合物Yの膜厚の評価方法について述べる。
図6は表1の粒子Cに相当する。
図6(a)のBF像の右上側は樹脂(又は真空)で左下側は芯粒子Xで、その界面に被覆化合物Yが存在していた。芯粒子Xに相当する箇所の黒点はNi、Co、Al由来の原子列が紙面に対し垂直に並んでいることを示す。前記黒点の位置から芯粒子Xの晶帯軸は[2 1 1]
hexと算出され、図中の矢印で芯粒子Xのb軸方向([0 1 0]
hex)を描いた。
図1に示すように、晶帯軸[2 1 1]
hexおける観察は(-1 2 0)面に対し平行な方向から行われる。層状構造の芯粒子Xの結晶粒において、原子層に平行な結晶面をBasal面、垂直な面をEdge面とすると(
図1参照)、
図6(a)の前記界面は芯粒子XのEdge面に相当する。
図6(a)と同時に取得された(b)HAADF像、(c)LAADF像も同晶帯軸であり、
図6(a)の黒点の位置は
図6(b)、及び(c)の白点の位置とほとんど一致する。HAADF像からNi、Co、Al由来の原子列の位置を正確に決め、BF像における芯粒子Xの外側において干渉縞に該当する模様が無いことを確認した。
図7で説明するように被覆化合物Yは結晶化し、エピタキシャル成長であった。LAADF像の白く光っている箇所は結晶の歪に相当し、被覆化合物Yの下地の芯粒子Xの最表面は厚さ0.55nm幅23nmの歪んだ層を有していた。前記結晶の歪はエピタキシャル成長した被覆化合物Yの結晶との格子定数のミスマッチによるものと推定されるが、前記結晶の歪は被覆化合物Yの存在を示唆するとも解釈される。
図6(a)のBF像において、粒子Cの芯粒子XのEdge面に成長した被覆化合物Yの膜厚は4箇所の平均から1.2nmと算出された。
【0088】
図6(d)は得られたHAADF像であり、
図6(b)を55°時計回りに回転させた図である。中央に示す直線部分をEDSでライン分析し、縦軸を強度として、横軸をHAADF像と一致させたラインプロファイルを同図に下部に挿入した。ラインプロファイルは上からNi、O、Co、Alであり、酸素を除くと、芯粒子Xの化学組成比を反映させた順であった。ラインプロファイルにおいては、Alを除いて、左側の強度が高く、右に行くほど該強度は徐々に低下し、被覆化合物Yの近傍で急激に低下し、樹脂(又は真空)の部分では強度は0であった。観察試料厚みは約100nmの厚さに加工されているものの、厳密には観察試料厚みが樹脂(又は真空)方向に進むにつれ薄くなっている。前記の徐々に強度低下はそのためである。一方、Al由来のラインプルファイル強度は被覆化合物Yの近傍でピークを持つプロファイルであった。これは被覆化合物Yの存在を明らかにした。但し、被覆化合物Yは非常に薄く、EDSのライン分析は距離方向に対し大きな誤差を持つため、前記ピークを持つプロファイルはブロードであると考えられる。ラインプルファイルの強度比から算出すると、被覆化合物Yの近傍で最も高いAl/Niの原子数比は3.0であり、表1に記載した。EDSのライン分析の誤差を小さくすると更に高いAl/Niが得られ、Niの存在は非常に少ないと予想される。
【0089】
図6(a)で得られたBF像において被覆化合物Yを解析できるよう拡大した図が
図7である。図の横方向に並んだ黒点間の距離は格子定数b
hex(=格子定数a
hex)に相当する。図に示すように、芯粒子Xにおいて[0 1 0]
hexの方向に並んだ5列の間の実測距離は13.9Åであり、5×b
hex(=14.3Å)とほぼ一致する。被覆化合物Yは前記[0 1 0]
hexの垂直な方向に結晶面を構成し、且つその面間隔は格子定数b
hexの半分の値とほぼ等しい。図に5層の原子層が6.8Å(≒0.5×5×b
hex=7.2Å)の層厚で被覆化合物Yの結晶面が存在することを表わしている。芯粒子Xにおいても、[0 1 0]
hex方向に垂直な遷移金属からなる結晶面は格子定数b
hexの半分の値の間隔で存在する。BF像であるため、被覆化合物Yにおける前記5つの層は重たい原子に由来するものであり、前記EDSのライン分析結果から、Alに由来するものと推定される。従って、前記被覆化合物Y5つの原子層はγ-Al
2O
3の[1 1 0]晶帯軸か、α-LiAlO
2の[2 1 1]晶帯軸かのいずれかにより観察されたと考えている。故に、被覆化合物Yは結晶性のγ-Al
2O
3(或いは、α-LiAlO
2又はそれらの中間体)が芯粒子Xに対し、エピタキシャル成長していると言及でき、表1に記載した。尚、BF像における点線で囲んだ箇所を拡大するとより分かるように、穴開き丸でNi、Co、Alの原子列に由来する黒点に印を付けた。Liの原子列に相当する箇所に重たい原子列ができている箇所に、即ち、黒点間の中心の白い箇所が黒ずんでいる箇所に、穴無し丸で印を付けた。これはNi
2+イオンのカチオンミキシングに由来する原子列であり、二次電池容量は低下させるものの、ピラー効果により充放電サイクル試験の結果を向上させる可能性がある。
【0090】
図8に左側にHAADF像を、右側にライン分析した結果のライン上の各距離におけるEELSのスペクトルを示す。HAADF像において左側の黒い部分が樹脂(又は真空)で、右側の白い部分が芯粒子Xで、その界面に被覆化合物Yが存在している。EELSスペクトルは下から順に距離の値が低いものであるが、距離4、又は5nmの被覆化合物Yの層に相当する箇所で、Li由来のピークが観察されているならば、被覆化合物Yに元素Liが含まれている可能性がある。
【0091】
同様にして、他の芯粒子について、STEM観察を行った。芯粒子の名前をAからKの順で名前を付けて表1に記載した。観察した芯粒子Xの種々の晶帯軸と結晶面は多様であり、あらゆる方向から芯粒子Xを観察したとみなした。粒子GはSTEM像で被覆化合物Yに相当する箇所を見出せず、また、EDS分析でもAl/Ni原子数比も0.4と小さかった。そのため、被覆化合物Yの存在は確認できなかった。被覆化合物Yにおける主な元素はAlであり、EDSライン分析によるAl/Ni原子数比の平均値は1.7と高かった。この平均値には未測定の粒子H、KのAl/Ni原子数比や、被覆化合物Y未確認の粒子GのAl/Ni原子数比は考慮していない。被覆化合物Yの結晶化度やエピタキシャル成長は、被覆化合物Yの存在が確認された粒子に基づいて算出した。即ち、粒子Gを除く、すべての粒子に被覆化合物Yが確認され、粒子K以外、すべて結晶化し且つエピタキシャル成長した被覆化合物Yであった。よって、被覆化合物Yの結晶化度とエピタキシャル成長度は90%であった。粒子Gの被覆化合物Yの膜厚を0nmとすると、粒子AからKにおける被覆化化合物Yの平均膜厚は0.8nmであった。
【0092】
今回のSTEM観察はランダムに粒子を選んでいるが、観察の際、結晶の晶癖が確認できず、EDSで被覆化合物Yの存在が確認できなかった1粒子に関するデータは表から除外した。これを被覆化合物Yが存在しない箇所とみなし、被覆率を計算すると、12種の粒子中10種の粒子に被覆化合物Yの存在が確認できた。よって、被覆率は83%であった(表3参照)。
【0093】
得られた被覆率を検証するために、試料粒子表面の被覆化合物Yを溶解し、ICP-OESで元素分析を行った。溶解方法は高温のアルカリ水によるもので、試料5gを純水100ccに分散させ、煮沸、冷却で行った。検出されたAl量は121ppmであった。一方、得られたD50及び被覆化合物Yの膜厚と被覆化合物Yの密度3.7g/ccを用いると、100%被覆で127ppmであり、被覆率は95%であった。この値は表3の値と大凡一致した。
【0094】
得られたニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末に残存する炭酸リチウムの形態は下記のようにして評価した。即ち、
図9に得られたニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末の超高倍(×100k)のSEM写真を示すように、粒子粉末表面に50nm程度の異物が観測された。しかしながら、
図10に得られたニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末の水洗後の超高倍(×100k)のSEM写真を示すように、粒子粉末表面に存在していた50nm程度の異物はほとんど観測されなかった。また、
図11に、実施例1の芯粒子Xとなり得る状態のニッケル酸リチウム複合酸化物粒子粉末(後述する比較例1の粒子粉末)の超高倍(×100k)のSEM写真を示すように、
図10と同様に、ニッケル酸リチウム複合酸化物の300nm程度の一次粒子が確認できた。前記水洗の水に含まれる元素はICP発光分光分析装置からLiとAlが検出されたため、
図9に示される50nm程度の異物は炭酸リチウムであり、該炭酸リチウムはニッケル酸リチウム複合酸化物を被覆しているとみなした。
【0095】
得られたニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末の被覆化合物Yの形態は、X線光電子分光法と類似のオージェ電子分光(AES)法で評価した。試料に対し特別な前処理は行わず、試料台に両面カーボンテープ張り、その上に試料を固着させた。用いたAESの機種はJAMP-9500[日本電子(株)]で、加速電圧10kV、照射電流10nA、エネルギー分解能ΔE/Eは約0.3%、試料傾斜角度30度で、2万~4万倍の観察倍率で、任意に選んだ試料表面に対し約10nmφの範囲で深さ方向0.2~3nmの範囲を測定(所謂、点分析)した。ここで、深さ方向の範囲は得られるオージェ電子のエネルギーに依存し、元素Liの場合、0.3nm程度である。
【0096】
最初に、ワイドスキャン法(1eV間隔、繰り返し回数:5回、約15分間)で10~1500eVの広範囲のエネルギー帯の元素を定性分析した。次に、定量化のため、スプリットスキャン法(0.2eV間隔、繰り返し回数:5回、約15分間)で、元素Liは20~60eV、元素Cは 200~300eV、元素 Oは456~539eV、元素 NiとCoは620~870eV、元素Alは1368-1406eVの範囲を測定した。得られるスペクトルは横軸をオージェ電子の運動エネルギーE(単位:eV)に対し、縦軸は検出される電子数N(E)である。得られた各元素に対するスペクトルから直線法でバックグランドを除き、ガウス関数でフィッティングした。得られたフィッティング曲線の微分曲線として、横軸にオージェ電子の運動エネルギーE、縦軸に微分値d[N(E)]/dEをプロットし、極大値と極小値の差を数値化し表4に示した。
【0097】
尚、オージェ電子分光のスペクトル解析は下記の文献を参考にした。
K.Tsutsumi等、 JEOL News、Vol.49、2014年、59-72頁
【0098】
得られたオージェ電子スペクトルにおいて、各オージェ電子のメインピーク位置は次に示す通りである。即ち、元素LiのKLLオージェ電子の場合39eVに、元素CのKLLオージェ電子の場合258~262eVに、元素OのKLLオージェ電子の場合506eVに、元素AlのKLLオージェ電子の場合1383eVに示した。元素NiのLMMオージェ電子のピーク位置は840eVで得られたが、元素Coのオージェ電子は元素Niのオージェ電子ピーク位置(例えば、約770eVに示すピーク)と重なるため、元素Coのオージェ電子スペクトルの定量化は今回行っていない。
図12に直線法でバックグラウンドを除いたAESスペクトルを示すように、横軸オージェ電子の運動エネルギーEに対し、縦軸を検出される電子数N(E)がプロットされてある。39eVに最大値を示す元素LiのKLLオージェ電子由来のピークが観察された。
【0099】
表4に得られたニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末の任意の5箇所の点分析結果を示す。即ち、表4に元素Niオージェスペクトルの微分曲線の最大値と最小値の差を示す。また、各元素の微分曲線の最大値と最小値の差を算出し、Niの前記値と比を取った値を、Li/Ni、C/Ni、O/Ni、Al/Niとして表4示した。同様に、実施例1の芯粒子Xとなり得る状態のニッケル酸リチウム複合酸化物粒子粉末(後述する比較例1の粒子粉末)の4箇所のAES点分析結果を表4に示す。尚、比較例1のposition4のAES点分析のみ、活物質粒子表面の50nm程度の不定形粒子を選択した。それ以外のposition1~3は活物質粒子表面を選択した。そのため、position4のNiやAl/Niの値は低く、前記不定形の粒子は炭酸リチウムとみなすことができた。比較例1でLi/Niが0であったのは活物質粒子最表面にLiが存在せず、電池作動下で電解液からLiが補充される状態で、電池としては好ましくない状態であった。
【0100】
比較例1に比べ、実施例1のAl/Niの値が高いのは被覆化合物Yに由来するものである。実施例1のLi/Ni比やNiの値も高いので、実施例1の被覆化合物YはLiやNiと反応しており、被覆化合物YはNiが固溶したα-LiAlO
2に近いと推察される。また、実施例1は電池作動下で十分に電子やLiの出入りが容易に起こりやすい状態となっていたと推察できる。一方、
図9~11の説明で実施例1に炭酸リチウムが被覆されているにも拘らず、得られたC/Niの値が低いのは炭酸リチウムの上にも被覆化合物Yが存在していた可能性がある。
【0101】
得られたニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末の粉体特性及び電池特性を表3に示す。残存する水酸化リチウムと炭酸リチウムは、共に低い含有量を示し、その比は0.9以上であった。4.4V高電圧充電時の初期容量も190mAh/g程度を示し、同充電電圧での140回のサイクル特性の容量維持率も90%以上、141回のサイクル特性は85%以上であった。
【0102】
[実施例2]
実施例1で得られた芯粒子Xとなり得る層状構造のニッケル酸リチウム複合酸化物Li1.02Ni0.81Co0.15Al0.04O2を用い、原子層堆積法で被覆化合物Yを形成させた。同法での処理条件は実施例1と同様で、用いた原料ガスAはトリメチルアルミニウムAl(CH3)3、原料ガスBはH2Oであり、180℃で4サイクルの処理であった。その後、大気中350℃-2時間で被覆化合物Yの結晶化度を高めた。得られた粒子粉末はエピタキシャル成長度の高い被覆化合物Yを有するニッケル酸リチウム複合酸化物粒子粉末であった。得られた酸化物粒子粉末を正極活物質粒子粉末として、以下、評価した。
【0103】
表2にSTEM観察の結果を示すように、芯粒子Xに対し、粒子AからKの11種を実施例1と同手法で観察、解析した。観察した種々の晶帯軸と結晶面から、あらゆる方向による観察とみなした。前記11種すべての粒子に対し、被覆化合物Yが得られた。被覆化合物YのAl/Ni原子数比の平均値は1.9であり、結晶化度は73%、エピタキシャル成長度は73%、平均膜厚は0.9nmであった。実施例1と同様に、STEM観察はランダムに粒子を選んでいるが、観察の際、結晶の晶癖が確認できず、EDSで被覆化合物Yの存在が確認できなかった1粒子は表から除外した。これを被覆化合物Yが存在しない箇所とみなし、被覆率を計算すると、12種の粒子中11種の粒子に被覆化合物Yの存在が確認できた。よって、被覆率は92%であった(表3参照)。
【0104】
得られた被覆化合物Yの被覆率を検証するために、実施例1と同様に、試料を高温のアルカリ水に溶解させると、Al元素113ppmが得られた。一方、得られたD50及び被覆化合物Yの膜厚と被覆化合物Yの密度3.7g/ccを用いると、100%被覆で152ppmであり、被覆率は74%であった。この値は表3の値と大凡一致した。
【0105】
[比較例1]
実施例1で得られた芯粒子Xとなり得る層状構造のニッケル酸リチウム複合酸化物Li1.02Ni0.81Co0.15Al0.04O2を、表面処理することなく正極活物質粒子粉末として用いた。表3に示すように、得られた粉体特性において、LiOH含有量は0.5を超えており、Li2CO3/LiOHの強度比は0.9未満であり、電極スラリーのゲル化が起こりやすい特性であった。STEM観察で前記活物質粒子表面の10粒子をランダムに選び、EDS分析したところ、過剰なAlの存在は確認できなかった。従って被覆化合物Yの被覆率は0%であった。また、電池特性では初期放電容量は高いものの、140サイクルの放電容量維持率が90%未満であり141サイクルの放電容量維持率は85%未満であり、特性は低かった。
【0106】
[比較例2]
実施例1の途中の製造工程から抜き取った試料、即ち、原子層堆積法での処理後の試料を正極活物質として用いた。STEM観察で前記活物質粒子表面の10粒子をランダムに選び、EDS分析したところ、過剰なAlの存在は高い頻度で確認できた。表3に粉体特性及び電池特性を示すように、高い水酸化リチウムの含有量を示し、2%粉体pHも高く、二次電池のサイクル特性は低かった。
【0107】
[比較例3]
実施例1に用いた芯粒子Xとなり得るニッケル酸リチウム複合酸化物を、空気:CO2=3:1(体積比)の混合ガス条件下、250℃-2時間処理した。原子層堆積法での処理は行わなかった。残存するLiOH量は0.5未満と低いものの、二次電池のサイクル特性は良好であるとは言い難いものであった。
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
本発明に係るニッケル酸リチウム系正極活物質粒子粉末は、層状構造のニッケル酸リチウム複合酸化物を芯粒子Xとし、エピタキシャル成長度が高い被覆化合物Yを薄膜状に備えている正極活物質粒子粉末であった。また、得られる二次電池特性も、高電圧充電のため電池容量も高く、充放電サイクル特性も高いため、高性能であったと言及できる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、エピタキシャル成長度の高い薄膜状の被覆化合物を正極活物質に備えることで、高いエネルギー密度を有しつつ、高電圧充電時の充放電繰り返し特性に優れたニッケル酸リチウム複合酸化物の正極活物質粒子粉末及び非水電解質二次電池提供する。該ニッケル酸リチウム系正極活物質粒子は不純物の水酸化リチウムの含有量が極めて低く、得られる二次電池は寿命が長く、高エネルギー密度を有する。