(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】圧粉磁心及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/24 20060101AFI20220929BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H01F1/24
H01F41/02 D
(21)【出願番号】P 2018193296
(22)【出願日】2018-10-12
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】筒井 美紀子
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2013/051229(JP,A1)
【文献】特開2003-124016(JP,A)
【文献】特開2003-303711(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0232507(US,A1)
【文献】再公表特許第2016/199576(JP,A1)
【文献】特開2001-307914(JP,A)
【文献】特開2016-72553(JP,A)
【文献】特表2014-515880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/12- 1/38
H01F 1/44
H01F 41/00-41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被覆を与えられた扁平形状を有する軟磁性金属粉末の粒子間を結着剤にて結合させた圧粉磁心の製造方法であって、
酸化物からなる絶縁性の表面酸化皮膜を前記絶縁被覆として有する前記軟磁性金属粉末を準備する工程と、
樹脂に
粘土を含むバインダと前記軟磁性金属粉末とを
、前記バインダを7.0~20.0wt%含むように混合して混合物を形成し、前記混合物を加圧成形する
工程と、を含み、
前記混合物が前記粘土を2.0~15.0wt%含むことを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項2】
前記粘土は、木節粘土であることを特徴とする請求項1記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項3】
前記
樹脂は、熱硬化性樹脂
であることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂は、シリコーン樹脂であることを特徴とする請求項3記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項5】
絶縁被覆を与えられた扁平形状を有する軟磁性金属粉末の粒子間を結着剤にて結合させた圧粉磁心であって、
樹脂に粘土を含むバインダと、酸化物からなる絶縁性の表面酸化皮膜を前記絶縁被覆として有する前記軟磁性金属粉末とを混合して加圧成形されており、
粘土を2.0~15.0wt%含むことを特徴とする圧粉磁心。
【請求項6】
前記バインダを7.0~20.0wt%含むように混合して加圧成形されていることを特徴とする請求項5記載の圧粉磁心。
【請求項7】
前記粘
土は、木節粘土であることを特徴とする請求項
5又は6に記載の圧粉磁心。
【請求項8】
前記
樹脂は、熱硬化性樹脂
であることを特徴とする請求項
5乃至7のうちの1つに記載の圧粉磁心。
【請求項9】
前記熱硬化性樹脂は、シリコーン樹脂であることを特徴とする請求項8記載の圧粉磁心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性金属粉末の粒子間における絶縁性を確保しつつ結着剤で形状固定した圧粉磁心及びその製造方法に関し、特に、扁平形状を有する軟磁性金属粉末を用い高密度に加圧成形した圧粉磁心及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟磁性金属粉末の粒子間における絶縁性を確保しつつ結着剤で形状固定した圧粉磁心が知られている。かかる圧粉磁心は、例えば、絶縁被覆された軟磁性金属粉末をバインダと混合し金型に詰めて加圧成形し製造される。成形加工後には、適宜、熱処理を施すことで成形加工中に金属粉末に生じた歪みを除去し高い磁気特性を得られる。一方で、焼結磁石のような磁性金属粉末の粒子同士の接合がないため、この接合のために結着剤が必要となる。かかる結着剤は磁気特性に直接的な関係を有さないため、結着性を維持しつつ結着剤の量をなるべく減じて軟磁性金属粉末の密度を高めることで磁気特性を向上させ得る。このためには、より高い結着性を有する結着剤が求められる。
【0003】
例えば、特許文献1では、一般的なシリコーン樹脂よりも高い結着性を得られる結着剤として、ポリシロキサンの主鎖に、エポキシ基やビニル基を代表とする官能基を付加した高分子材料を開示している。ここでは、扁平形状を有する軟磁性金属粉末では比表面積が大きくなるため、加圧成形工程におけるスプリングバックによる密度低下がより生じやすくなること、これに対して、かかる高い結着性を有する結着剤を用いることでスプリングバックを抑制し、軟磁性金属粉末の密度を高めて磁気特性を向上させ得ることが述べられている。
【0004】
また、特許文献2では、軟磁性金属粉末の粒子同士の強固な結着を得る方法として、シロキサン結合を有する樹脂からなるバインダを用いることで、加圧成形工程後の熱処理でバインダを変化させて得られるシリカが軟磁性金属粉末の粒子の上に与えられている絶縁被覆同士を強固に結着させることを開示している。ここでは、まず、膜厚を数十nmまで薄膜化しても優れた耐熱性及び絶縁性を得られる膨潤性層状粘土鉱物は軟磁性金属粉末の粒子の上での絶縁被覆として優れるものの、結着力が弱いことを述べた上で、かかる熱処理による変化でシリカを得る方法によれば、軟磁性金属粉末の密度を高め磁気特性を向上させるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-13827号公報
【文献】特開2016-72553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1でも述べられているように、形状磁気異方性をもつ扁平形状を有する軟磁性金属粉末を配向させた磁心によれば、磁気特性、特に、高い透磁率を得ることができる。一方、高密度に加圧成形した圧粉磁心を得るには、加圧成形工程後のスプリングバックを抑制する必要がある。
【0007】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、扁平形状を有する軟磁性金属粉末を用い高密度に加圧成形した圧粉磁心及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による圧粉磁心の製造方法は、絶縁被覆を与えられた扁平形状を有する軟磁性金属粉末の粒子間を結着剤にて結合させた圧粉磁心の製造方法であって、粘土を含むバインダと前記軟磁性金属粉末とを混合して混合物を形成し、前記混合物を加圧成形することにより前記バインダを前記結着剤とすることを特徴とする。
【0009】
かかる特徴によれば、扁平形状を有する軟磁性金属粉末を加圧成形する加工の前後における形状安定性を高めることができて、磁気特性に優れる高密度に加圧成形した圧粉磁心を得られるのである。
【0010】
上記した発明において、前記粘土は木節粘土であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、成形加工性を高めつつ、加圧成形加工前後の形状安定性を高め得て、磁気特性に優れる高密度に加圧成形した圧粉磁心を得られるのである。
【0011】
上記した発明において、前記バインダは、熱硬化性樹脂をさらに含むことを特徴としてもよい。このとき、前記熱硬化性樹脂は、シリコーン樹脂であることを特徴としてもよい。また、前記混合物を加圧成形した後に、さらに熱処理を行うことにより前記バインダを乾燥させてもよい。かかる特徴によれば、成形加工性を高めるとともに粒子の結着性を高め、且つ、加圧成形加工前後の形状安定性を高め得て、磁気特性に優れる高密度に加圧成形した圧粉磁心を得られるのである。
【0012】
本発明による圧粉磁心は、絶縁被覆を与えられた扁平形状を有する軟磁性金属粉末の粒子間を結着剤にて結合させた圧粉磁心であって、前記結着剤が粘土鉱物を含むことを特徴とする。
【0013】
かかる特徴によれば、扁平形状を有する軟磁性金属粉末を高い密度で形状保持し得て、磁気特性、特に、透磁率に優れるのである。
【0014】
上記した発明において、前記粘土鉱物は、木節粘土由来であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、扁平形状を有する軟磁性金属粉末をより高い密度で形状保持し得て、磁気特性、特に、透磁率に優れるのである。
【0015】
上記した発明において、前記結着剤は、前記粘土鉱物を熱硬化性樹脂とともに含むことを特徴としてもよい。このとき、前記熱硬化性樹脂は、シリコーン樹脂であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、扁平形状を有する軟磁性金属粉末をより高い密度で形状保持し得て、磁気特性、特に、透磁率に優れるのである。
【0016】
上記した発明において、前記絶縁被覆は、前記軟磁性金属粉末の表面に形成された酸化皮膜であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、扁平形状を有する軟磁性金属粉末をより高い密度で形状保持しながら、粒子同士の絶縁性を確実に確保できて、磁気特性に優れるのである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の代表的な一例による圧粉磁心の製造プロセスを示す工程図である。
【
図2】本発明の変形例による圧粉磁心の製造プロセスを示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の代表的な一例による圧粉磁心及びその製造方法について、
図1を参照して説明する。
【0019】
圧粉磁心は、その表面に絶縁被覆を与えられた扁平形状を有する軟磁性金属粉末の粒子間を絶縁性結着剤で結合したものとして形成される。このような圧粉磁心は、軟磁性の金属粉末と粘土を含むバインダとを混合(混練)したものを加圧成形することにより得られるものであり、例えば、インダクタやリアクトルなどの環状のコアに適用される。
【0020】
軟磁性金属粉末は、扁平形状を与えられて用いられる金属粉末であって、純FeやFe合金、例えば、Fe-Si系合金、Fe-Ni系合金、Fe-Al系合金、Fe-Co系合金、Fe-Cr系合金、Fe-Si-Al系合金、Fe-Si-Cr系合金、Fe-Cr-Al系合金、又は、Fe基非晶質合金から選択されるFeを主成分とした金属粉末である。ここで、軟磁性金属粉末は、その一例として、平均粒径D50が1~100μmで、金属密度dが4.5g/cm3以上であるとともに、アスペクト比が1.5以上である扁平形状を有する。
【0021】
例えば、Fe-Si-Al系合金としては、質量%で、Feに、Si:7~10%、Alを5.0~6.5%でそれぞれ含む成分組成であることが好ましい。Siを含有すると軟磁性金属粉末の硬さが高くなるが、上記した平均粒径D50、アスペクト比、そして加工によって生じる微粉量などをバランスよく得られる。かかる成分組成では、特別な表面処理を加えることなく比較的容易に、酸化物からなる絶縁性の表面酸化皮膜を得ることができる。
【0022】
また、Fe-Si-Cr系合金としては、質量%で、Feに、Siを3~20%、Crを2~4%でそれぞれ含む成分組成であることがより好ましい。さらに好ましくは、Si:6~16%、Cr:2~3%の範囲内である。
【0023】
軟磁性金属粉末と混合されるバインダは、樹脂と、粘土と、の混合物として構成される。このようなバインダは、軟磁性金属粉末との混錬時に、重量%で全体の20%以下の範囲で含まれるのが好ましい。また、バインダに含まれる樹脂としては、熱硬化性樹脂が好ましく、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、エステル樹脂、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂、カーボネート樹脂、フッ素樹脂等が例示できる。
【0024】
また、上記のバインダに含まれる粘土は、カオリン族、アンティゴライト族、パイロフィライト族、スメクタイト族、バーミキュライト族、雲母族、緑泥石族、ゼオライトから選択される粘土鉱物を少なくとも1つ以上有機成分とともに含み、熱処理等により有機成分が抜けた後はほとんど粘土鉱物のみとなる。ここでは、木節粘土と称される可塑性に優れたカオリン粘土の粉末であることが好ましい。なお、バインダに含まれる粘土は、軟磁性金属粉末との混錬時に、重量%で全体の0.5~15%の範囲で含まれるのが好ましく、より好ましくは、2.0~10wt%の範囲である。
【0025】
図1は、本発明の代表的な一例による圧粉磁心の製造プロセスを示す工程図である。なお、上記した圧粉磁心の構成を得られれば、製造プロセスにおける工程の順序や手法は特に以下に限定されるものではない。
【0026】
図1に示すように、扁平形状を有する軟磁性金属粉末を準備する(ステップS1、粉末準備工程)。具体的には、軟磁性金属粉末を構成するFeを主成分とする合金を溶解し、これを粉体化した後、扁平化することにより、扁平形状を有する軟磁性金属粉末とする。もしくは、粉体化プロセスにおいて、扁平粉を得られるようにしてもよい。
【0027】
例えば、Fe-Si系合金、Fe-Si-Al系合金あるいはFe-Si-Cr系合金の合金溶湯を粉体化して合金粉体を得る。ここではアトマイズ法により粉体化を行う。このようなアトマイズ法の一例としては、アトマイズ装置にて合金溶湯を流下させつつ水又はガスを吹きつけて、合金溶湯を分断して落下させ、急冷し凝固させて、合金粉体を得る手法が挙げられる。
【0028】
続いて、得られた合金粉体に対して扁平化処理する。このような扁平化処理の一例としては、合金粉体を有機溶媒や、粉砕助剤などとともにアトライタ装置の容器内部に投入するとともにこの中に鋼球などの粉砕媒体を装填し、周面に回転羽根を設けられた攪拌棒を回転させて、容器内を攪拌することにより、粉砕媒体が合金粉体に衝突し衝撃を与えて、合金粉体を粉砕させながら平たく変形させ扁平化させていく手法が挙げられる。
【0029】
最後に、扁平化処理した合金粉体を乾燥させる。その一例としては、アトライタ装置から取り出したスラリー体をバット等の容器に流し込み、加熱しながら静置乾燥させる手法が挙げられる。このとき、合金粉体の表面を必要以上に酸化させないように、真空雰囲気や不活性ガス雰囲気とした雰囲気を調整可能な加熱炉等を用いることが好ましい。また、上記した乾燥作業と並行して、扁平化処理の加工で生じたひずみを除去するための熱処理を実行してもよい。
【0030】
次に、ステップS1で得られた軟磁性金属粉末と混合されるバインダを準備する(ステップS2、バインダ準備工程)。具体的には、有機溶媒を加えて液状に溶解した樹脂(例えば、熱硬化性樹脂)に粉末状の粘土を混合して攪拌することにより、所定の配合によるバインダを作成する。
【0031】
続いて、ステップS1で準備した軟磁性金属粉末とステップS2で準備したバインダとを混合して攪拌し混練する(ステップS3、混錬工程)。この混錬工程においては、例えば回転型ボールミルや遊星型ボールミル等の各種ボールミル装置、あるいはプラネタリーミキサ等の各種混合機等を用いることができる。これにより、軟磁性金属粉末とバインダとが均一に混合されるとともに、バインダに含まれる粘土も均一に分散される。
【0032】
次に、ステップS3で混錬された混合物を加圧成形する(ステップS4、成形工程)。この成形工程においては、例えば金型に封入した混合物をプレス機で圧入する方法や、対向する平板に挟んだ状態でプレス機又は圧延ロールで加圧する方法、あるいは静水等方プレス機で加圧する方法等の様々な手法を採用し得る。なお、ステップS4の成形工程において最終形状となるように加圧成形するか、あるいは最終製品形状となる仕上げ加工を実施してもよい。
【0033】
更に、ステップS4の成形工程の実施後、適宜、熱処理をしてバインダに含まれる樹脂の一部を蒸発させ硬化処理させてもよい(ステップS42、硬化工程)。このとき、バインダに含まれていた粘土から有機成分が抜けて粘土鉱物のみとなるとともに、軟磁性金属粉末の粒子間に残存する樹脂が化学変化するなどして、軟磁性金属粉末の粒子どうしが結着剤で結合された圧粉磁心となる。また、成形工程で軟磁性金属粉末に与えられた歪みを開放でき、磁気特性を向上させ得る。
【0034】
また、ステップS42の硬化工程における加熱条件は、ワークである混合物の大きさや、バインダに含まれる熱硬化性樹脂の材質等に応じて適切な条件が選定されるが、その一例として、Arガス雰囲気中で800℃×2時間の条件が例示できる。
【0035】
次に、
図2を参照して、本発明による圧粉磁心及び製造方法のより具体的な実施例を説明する。
【0036】
図2は、圧粉磁心の製造条件及び特性を示す一覧表である。なお、
図2に示す一覧表において、バインダ、粘土鉱物及び熱可塑性樹脂の添加量は、それぞれ硬化させる前の混合物全体に対する重量%を示している。本実施例においては、
図1に示した圧粉磁心の製造プロセスを用いて、軟磁性金属粉末として、Fe-9.5Si-6.5Al合金を用い、上記した粉末準備工程(ステップS1)により、平均粒径D50が55.0μm、粉末厚さ0.88μmで、アスペクト比が63の扁平形状を有する軟磁性金属粉末を得た。
【0037】
次に、
図2の実施例1~10及び比較例1及び2に示す配合のバインダを、バインダ準備工程(ステップS2)により作成し、これらを上記の混錬工程(ステップS3)の手法にしたがって軟磁性金属粉末と混錬して混合物を得た。そして、この混合物に対して上記した成形工程(ステップS4)乃至硬化工程(ステップS42)をそれぞれ実施し、外径がφ10mmm、内径がφ6mmのリング状の圧粉磁心を製造した。
【0038】
このようにして製造した実施例1~10及び比較例1及び2の圧粉磁心のサンプルを評価し
図2にまとめた。具体的には、それぞれのサンプルについての寸法及び重量を測定するとともに、一般的なインピーダンスアナライザを用いて個々のサンプルの周波数10kHzにおける比透磁率μ´を測定した。そして、測定された比透磁率μ´が170以上となるものを評価〇とし、これを下回るものを評価×として判定を行った。
【0039】
実施例1に示すように、熱硬化性樹脂としてのシリコーン樹脂5.0wt%に粘土としての木節粘土粉末を0.5wt%加えた5.5wt%のバインダを用いた場合、密度dが4.52g/cm3で比透磁率μ´が171となる圧粉磁心が得られた。これに対して、比較例1に示すように、シリコーン樹脂5.0wt%のみからなる5.0wt%のバインダを用いた場合には、圧粉磁心として成形することができなかった。これにより、バインダとして、熱可塑性樹脂に少なくとも0.5wt%の粘土を添加すれば、比透磁率の高い圧粉磁心を得られることがわかる。
【0040】
また、実施例2及び3に示すように、一定量のシリコーン樹脂(5.0wt%)に木節粘土粉末をそれぞれ1.0wt%及び2.0wt%加えたバインダを用いた場合、密度dがそれぞれ4.63g/cm3及び4.86g/cm3で、比透磁率μ´がそれぞれ197及び272である圧粉磁心が得られた。これにより、バインダ中の木節粘土の添加量の割合を増やすことで、密度及び比透磁率ともに増加する傾向にあることがわかった。
【0041】
また、実施例4及び5に示すように、同一のシリコーン樹脂(5.0wt%)に別の粘土としてセリサイト及びスメクタイトをそれぞれ2.0wt%加えたバインダを用いた場合、密度dがそれぞれ4.79g/cm3及び4.78g/cm3で、比透磁率μ´がそれぞれ259及び251である圧粉磁心が得られた。これにより、熱可塑性樹脂に他の粘土を加えたとしても、十分な密度及び比透磁率を有する圧粉磁心が得られることが確認できた。
【0042】
また、実施例6~8に示すように、一定量のシリコーン樹脂(5.0wt%)に木節粘土粉末をそれぞれ3.0wt%、5.0wt%及び8.0wt%加えたバインダを用いた場合、密度dがそれぞれ5.01g/cm3、5.07g/cm3及び4.92g/cm3で、比透磁率μ´がそれぞれ334、384及び295である圧粉磁心が得られた。これらの圧粉磁心は、例えば実施例1の場合と比べると密度及び比透磁率が極めて高い値を示しており、十分な磁界特性を有する圧粉磁心が得られている。特に、実施例7の場合が最も高い密度及び比透磁率の値を示しており、本実施形態の軟磁性金属粉末に対しては、熱可塑性樹脂5.0wt%に粘土5.0wt%を加えた10.0wt%のバインダを用いた場合が、最も良好な磁界特性が得られるものと考えられる。
【0043】
さらに、実施例9及び10に示すように、一定量のシリコーン樹脂(5.0wt%)に木節粘土粉末をそれぞれ10.0wt%及び15.0wt%加えたバインダを用いた場合、密度dがそれぞれ4.74g/cm3及び4.59g/cm3で、比透磁率μ´がそれぞれ212及び178である圧粉磁心が得られた。これに対して、比較例2に示すように、15.0wt%のCPE(塩素化ポリエチレン樹脂)のみからなるバインダを用いた場合には、密度dがそれぞれ4.46g/cm3で、比透磁率μ´が165である圧粉磁心が得られた。
【0044】
実施例9と比較例2とを対比すると、同一の添加量のバインダにおいて、粘土鉱物(木節粘土粉末)を加えていない場合は、成形が可能であったとしても、熱硬化性樹脂のスプリングバックにより圧粉磁心全体の密度dが低下してしまうため、比透磁率μ´も低下してしまうものと考えられる。これらのことから、圧粉磁心を得るためには、バインダの添加量が20wt%までの添加は可能であるが、この場合、熱硬化性樹脂に対する粘土の比率を高くする必要があるものと考えられる。
【0045】
以上の構成を備えることにより、圧粉磁心は、熱硬化性樹脂と粘土からなる粉末とを含むバインダを軟磁性金属粉末と混錬することにより、加圧成形後における圧粉磁心の密度を大きくすることができるため、高い粉末の充填率が得られるとともに、結果として、高い磁束密度及び高い透磁率を実現できる。
【0046】
以上、本発明の代表的な実施例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。