(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】硫黄コーティング組成物の製造方法、およびゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C01B 17/12 20060101AFI20220929BHJP
C01B 17/10 20060101ALI20220929BHJP
C08K 3/06 20060101ALI20220929BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C01B17/12
C01B17/10
C08K3/06
C08L21/00
(21)【出願番号】P 2018002723
(22)【出願日】2018-01-11
【審査請求日】2020-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(73)【特許権者】
【識別番号】598047063
【氏名又は名称】日本乾溜工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】八尾 滋
(72)【発明者】
【氏名】大塚 翔太郎
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0325850(US,A1)
【文献】特開2016-199755(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105038317(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105037803(CN,A)
【文献】特表2007-532714(JP,A)
【文献】特表2017-535913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 17/12
C01B 17/10
C08K 3/06
C08L 21/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子硫黄および/または斜方硫黄を含有する硫黄と、親水性ブロックおよび疎水性ブロックを有する機能性ブロック共重合体と、を含有する硫黄含有液を調整する工程と、
前記硫黄含有液の溶媒を揮発させる工程とを有し、前記硫黄の少なくとも一部を前記機能性ブロック共重合体で被覆した硫黄コーティング組成物の製造方法。
【請求項2】
前記機能性ブロック共重合体の前記親水性ブロックが、
酢酸ビニル、ジエチルグリコールモノエチルエーテルアクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、2-(tert-ブチルアミノ)エチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、及びN,N-ジエチルアクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1以上のモノマーを重合した高分子ブロックを有する請求項1
に記載の製造方法。
【請求項3】
前記機能性ブロック共重合体の前記親水性ブロックが、モノマーの酢酸ビニルを重合した高分子ブロックを有し、さらに前記酢酸ビニルを重合した高分子ブロックがポリビニルアルコールを含む構造に処理される請求項
2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記機能性ブロック共重合体の前記疎水性ブロックが、
スチレン、αメチルスチレン、4メチルスチレン、ベヘニルアクリレート、ステアリルアクリレート、ヘキサデシルアクリレート、及びラウリルアクリレートからなる群から選択される少なくとも1以上のモノマーを重合した高分子ブロックを有する請求項1~
3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記硫黄含有液の溶媒が、テトラクロロメタン、トリクロロメタン、ジクロロメタン、クロロメタン、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトンからなる群から選択される少なくとも1以上の溶媒を含有する請求項1~
4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒を揮発させる工程の温度が、45℃以下である請求項1~
5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
プロセスオイルにより硫黄コーティング組成物を混合する工程を有する請求項1~
6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
硫黄の少なくとも一部を親水性ブロックおよび疎水性ブロックを有する機能性ブロック共重合体で被覆した硫黄コーティング組成物
を含有するゴム組成物。
【請求項9】
融点が105℃以上である硫黄コーティング組成物
を含有する請求項8に記載のゴム組成物。
【請求項10】
平均粒子径が50μm以下である硫黄コーティング組成物
を含有する請求項8または9に記載のゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硫黄コーティング組成物およびその製造方法、ならびにその硫黄コーティング組成物を含有するゴム組成物に関する。特に機能性ブロック共重合体により硫黄をコーティングした硫黄コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
硫黄は様々な同素体を形成する元素である。硫黄はゴム組成物の加硫に用いられる。ゴム組成物の製造や使用時に斜方硫黄を用いると、斜方硫黄がゴムに可溶であるためゴム中で流動し、ブルーミングが生じる。このブルーミングを抑制するために、ゴムに不溶である不溶性硫黄が用いられる。一方、不溶性硫黄は熱安定性が低くゴム製造工程の熱負荷により斜方硫黄に転移しブルーミングが生じる場合がある。よって、不溶性硫黄の熱安定性を向上させることが検討されている。
【0003】
特許文献1はチアゾール系化合物を利用し、特許文献2はアミンのハロゲン酸塩化合物を利用し、特許文献3は界面活性剤やプロセスオイルを利用する不溶性硫黄(組成物)を開示するものである。
【0004】
また特許文献4~6は、ゴム添加剤組成物として利用される、硫黄や結晶性硫黄といったゴム添加剤を含むマイクロカプセルに関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-115910号公報
【文献】特開平6-144807号公報
【文献】特開2003-268240号公報
【文献】特表2001-524568号公報
【文献】特表2005-538231号公報
【文献】特開2007-46058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、ゴム状硫黄や高分子硫黄とも呼ばれる不溶性硫黄はゴムに不溶な硫黄の同素体であることから、ゴム組成物の添加用として用いられている。不溶性硫黄は高純度化することで熱安定性が向上し、ゴム成形に利用したときのブルーミングを抑制できる。しかし、不溶性硫黄を高純度化する工程はそのコスト上昇の原因となる場合がある。また、不溶性硫黄は熱に不安定であり保存環境や保存時間、利用時の製造工程等により熱安定性が低い斜方硫黄などの硫黄同素体に転移する場合がある。
【0007】
特許文献1~6に開示された技術でも不溶性硫黄等の熱安定性向上に一定の効果があるが、新たな硫黄の熱安定性向上手法も求められている。特許文献4~6にはポリマーなどを用いたマイクロカプセル化が開示されているが、マイクロカプセル化に用いるポリマー種の選択や製造条件の調整が困難であったり、耐熱性が明確ではなかったり、マイクロカプセル層と硫黄等の内部との吸着性等が不安定な場合があった。また、例えばオイルコーティングを行う場合は、分散性が問題となる場合があった。
【0008】
係る状況下、本発明の目的は、硫黄のゴム組成物におけるブルーミングを抑制する硫黄コーティング組成物およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0010】
<1> 硫黄と、親水性ブロックおよび疎水性ブロックを有する機能性ブロック共重合体と、を含有する硫黄含有液を調整する工程と、前記硫黄含有液の溶媒を揮発させる工程とを有し、前記硫黄の少なくとも一部を前記機能性ブロック共重合体で被覆した硫黄コーティング組成物の製造方法。
<2> 前記硫黄が、高分子硫黄および/または斜方硫黄を含有する前記<1>記載の製造方法。
<3> 前記機能性ブロック共重合体の前記親水性ブロックが、
酢酸ビニル、ジエチルグリコールモノエチルエーテルアクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、2-(tert-ブチルアミノ)エチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、及びN,N-ジエチルアクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1以上のモノマーを重合した高分子ブロックを有する前記<1>または<2>記載の製造方法。
<4> 前記機能性ブロック共重合体の前記親水性ブロックが、モノマーの酢酸ビニルを重合した高分子ブロックを有し、さらに前記酢酸ビニルを重合した高分子ブロックがポリビニルアルコールを含む構造に処理される前記<3>記載の製造方法。
<5> 前記機能性ブロック共重合体の前記疎水性ブロックが、
スチレン、αメチルスチレン、4メチルスチレン、ベヘニルアクリレート、ステアリルアクリレート、ヘキサデシルアクリレート、及びラウリルアクリレートからなる群から選択される少なくとも1以上のモノマーを重合した高分子ブロックを有する前記<1>~<4>のいずれかに記載の製造方法。
<6> 前記硫黄含有液の溶媒が、テトラクロロメタン、トリクロロメタン、ジクロロメタン、クロロメタン、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトンからなる群から選択される少なくとも1以上の溶媒を含有する前記<1>~<5>のいずれかに記載の製造方法。
<7> 前記溶媒を揮発させる工程の温度が、45℃以下である前記<1>~<6>のいずれかに記載の製造方法。
<8> プロセスオイルにより硫黄コーティング組成物を混合する工程を有する前記<1>~<7>のいずれかに記載の製造方法。
【0011】
<9> 硫黄の少なくとも一部を親水性ブロックおよび疎水性ブロックを有する機能性ブロック共重合体で被覆した硫黄コーティング組成物。
<10> 融点が105℃以上である前記<9>記載の硫黄コーティング組成物。
<11> 平均粒子径が50μm以下である前記<9>または<10>に記載の硫黄コーティング組成物。
<12> 前記<9>~<11>のいずれかに記載の硫黄コーティング組成物を含有するゴム組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、硫黄を被覆した硫黄コーティング組成物が提供され、この硫黄コーティング組成物はゴム組成物におけるブルーミングなどを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例に係る共重合体(1a)のIRスペクトルである。
【
図2】実施例に係る共重合体(1)のIRスペクトルである。
【
図3】本発明に係る硫黄コーティング組成物の拡大観察像である。
【
図4】本発明に係る硫黄コーティング組成物の拡大観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0015】
本発明の硫黄コーティング組成物は、硫黄の少なくとも一部を親水性ブロックおよび疎水性ブロックを有する機能性ブロック共重合体で被覆した硫黄コーティング組成物に関する。また、本発明の製造方法は、硫黄と、親水性ブロックおよび疎水性ブロックを有する機能性ブロック共重合体と、を含有する硫黄含有液を調整する工程と、前記硫黄含有液の溶媒を揮発させる工程とを有し、前記硫黄の少なくとも一部を前記機能性ブロック共重合体で被覆した硫黄コーティング組成物の製造方法に関する。
【0016】
本発明の硫黄コーティング組成物は、ゴム組成物におけるブルーミングを抑制した硫黄として用いることができる。この硫黄コーティング組成物は、機能性ブロック共重合体の親水性ブロックが硫黄側となり、疎水性ブロックが外層となる被覆がされていると考えられる。このとき硫黄と親水性ブロックが吸着性に優れた状態となる。また外層の疎水性ブロックによりゴム組成物に混合されたとき、ゴム組成物中で過剰に移動することを防止でき、ブルーミングを抑制できる。また内層の硫黄に用いられうる高分子硫黄(不溶性硫黄)がコーティング層により保護され安定となり保存時や使用時にも硫黄の同素体の構造等が変化しにくくなる。また分散性に優れた硫黄コーティング組成物が得られる。
本発明の製造方法はこのような硫黄コーティング組成物の製造方法に関する。本発明の製造方法は、操作性に優れ、製造条件の調整も行いやすい。
【0017】
[硫黄]
本発明の硫黄コーティング組成物は、硫黄を含む。この硫黄は、高分子硫黄および/または斜方硫黄を含有することができる。本発明によれば硫黄をゴム組成物に混合するときブルーミングを抑制でき、この被覆される硫黄は硫黄の種々の同素体を任意の比率で含むものでよい。本発明の硫黄コーティング組成物は、主としてゴム組成物などに用いられる。一般に、ゴム組成物におけるブルーミング等を抑制するためには、ゴム中での流動性が低い不溶性の硫黄等を用いる。このような観点から、本発明の硫黄は、高分子硫黄(不溶性硫黄)を主とする硫黄とすることができる。本発明の硫黄は高分子硫黄を含むとき、高分子硫黄を40質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことが好ましく、55質量%以上含むことが特に好ましい。高分子硫黄(不溶性硫黄)の含有量はJIS K6222-1(2010)に準じて、二硫化炭素を用いる試験法により測定することができる。
【0018】
本発明の硫黄の高分子硫黄比率の上限は特に定めなくてもよいが、高分子硫黄濃度が高いほどその製造工程が複雑になったり手間がかかったりして入手しにくい場合がある。またこれにより製造コストが上昇傾向にある。また高分子硫黄は不安定なため高純度の状態を維持することが難しい場合がある。本発明によれば高分子硫黄純度が高いものでなくても熱安定性を向上させることができる。このような観点から、本発明の硫黄は、高分子硫黄と斜方硫黄を共に含むものであってもよい。斜方硫黄とは、8員環構造の硫黄である。このとき本発明の硫黄の高分子硫黄の上限は99%以下や、95%以下、90%以下、80%以下、70%以下とできる。このとき高分子硫黄以外の残部の上限を斜方硫黄の上限としてよい。本発明の目的を損なわない範囲で他の硫黄の同素体を含んでもよい。
【0019】
また、本発明の硫黄コーティング組成物に用いる硫黄は、斜方硫黄であってもよい。斜方硫黄は、硫黄の典型的な同素体であり、環状のS8硫黄である。一般に、斜方硫黄は、ゴム組成物中においてブルーミングしやすいが、本発明によれば、斜方硫黄であっても、機能性ブロック共重合体によるコーティング層によりこのブルーミングを抑制できる。よって、本発明に用いる硫黄としては、斜方硫黄単独や、斜方硫黄を主とするものを用いてもよい。斜方硫黄を用いる場合、実質的に斜方硫黄からなるものとしても良いし、斜方硫黄を80質量%以上や、90質量%以上、95質量%以上含むように、その下限を設けて用いてもよい。
【0020】
[機能性ブロック共重合体]
本発明の硫黄コーティング組成物およびその製造方法は、機能性ブロック共重合体を用いる。本発明の機能性ブロック共重合体とは、親水性ブロックと疎水性ブロックとを有するブロック共重合体である。このブロック共重合体は、親水性ブロックをAブロック、疎水性ブロックをBブロックとしたとき、ABブロック共重合体、ABAブロック共重合体、BABブロック共重合体等のいずれのブロック共重合体構造を有する共重合体であってもよい。また、親水性ブロックを複数種(例えば、Aブロック、A´ブロックの二種)用いたり、疎水性ブロックを複数種(例えば、Bブロック、B´ブロックの二種)を用いたりして、これらを組み合わせた構造としてもよい。例えば、ABB´ブロック共重合体や、AA´Bブロック共重合体などであってもよい。
硫黄に対するコーティング性の観点から、硫黄に対する親水性ブロックと疎水性ブロックとの配置を適正化しやすいABブロック共重合体やABB´ブロック共重合体、AA´Bブロック共重合体が好ましく用いられる。
【0021】
本発明の機能性ブロック共重合体は、親水性ブロックが、酢酸ビニル、ジエチルグリコールモノエチルエーテルアクリレート(アクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル)(Diethylene Glycol Monoethyl Ether Acrylate (stabilized with MEHQ))、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(2-(Dimethylamino) ethyl Methacrylate、DMAEMA)、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート(2-(Dimethylamino) ethyl Acrylate、DMAEA)、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート(2-(Diethylamino) ethyl Methacrylate、DEAEMA)、2-(ジエチルアミノ)エチルアクリレート(2-(Diethylamino) ethyl Acrylate、DEAEA)、2-(tert-ブチルアミノ)エチルメタクリレート(2-(tert- Butylamino) ethyl Methacrylate、TBAEMA)、N,N-ジメチルアクリルアミド(N,N-Dimethylacrylamide、DMAA)、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(N,N-Dimethylaminopropyl Acrylamide、DMAPAA)、及びN,N-ジエチルアクリルアミド(N,N-Diethylacrylamide、DEAA)からなる群から選択される少なくとも1以上のモノマーを重合してなる高分子ブロックを有することが好ましい。
【0022】
本発明の硫黄コーティング組成物に関して、機能性ブロック共重合体の前記親水性ブロックは、モノマーの酢酸ビニルを重合した高分子ブロックを有し、さらに前記酢酸ビニルを重合した高分子ブロックがポリビニルアルコールを含む構造に処理されることが好ましい。酢酸ビニルをモノマーとして選択したとき、ブロック共重合体として重合した後に、けん化処理を行い、酢酸ビニルの重合ブロックの一部、あるいは全てをポリビニルアルコールのブロックとして用いることが好ましい。けん化は、例えば、ブロック共重合体を酢酸ブチルに溶解させ、沈殿物が析出しないようにイソプロパノールを添加し、その後NaOH水溶液を加えて撹拌し、生じる沈殿をイソプロパノールで洗浄しながらろ過して回収し乾燥することで、けん化することができる。このようなポリビニルアルコールのブロックは、硫黄の被覆性に優れている点で好適である。
けん化の程度は、IR分析を行って、酢酸ビニルの構造が検出される程度により決定することができる。酢酸ビニル由来の酢酸基はけん化されて水酸基となっていることが好ましい。
【0023】
また、親水性ブロックに用いられる好ましいモノマーとしては、ジエチルグリコールモノエチルエーテルアクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、2-(tert-ブチルアミノ)エチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、及びN,N-ジエチルアクリルアミドからなる群から選択される1以上が挙げられる。これらのモノマーを用いることで、そのモノマー由来のブロックは、硫黄コーティング組成物において硫黄の被覆性に優れている点で好適である。
【0024】
本発明の機能性ブロック共重合体は、疎水性ブロックが、スチレン、αメチルスチレン、4メチルスチレン、ベヘニルアクリレート、ステアリルアクリレート、ヘキサデシルアクリレート、及びラウリルアクリレートからなる群から選択される少なくとも1以上のモノマーを重合してなる高分子ブロックを有することが好ましい。特に、スチレンをモノマーとして、ポリスチレンのブロックとすることが好ましい。スチレンは、熱安定性に優れ、機能性ブロック共重合体をNMP法などで製造しやすい点で好適である。
【0025】
[機能性ブロック共重合体の調製]
機能性ブロック共重合体は、各種リビング重合法(ラジカル、アニオン、カチオン)等の公知の技術により重合することが可能である。リビングラジカル重合法としては、NMP法やATRP法、RAFT法などを用いることができる。
【0026】
例えば、選択された疎水性ブロックのモノマー(モノマー(B))を重合溶媒に開始剤と共に混合してモノマー(B)混合溶液を調製するモノマー(B)混合溶液調製工程を行う。次に、この混合溶液調製工程で調製されたモノマー(B)混合溶液を、適当な重合温度(例えば約90~120℃)で、リアクター内で適宜撹拌しながら、窒素雰囲気等の下でリビングラジカル重合等の開始剤の重合機構に基づくモノマー(B)重合工程を行い、モノマー(B)ブロック重合体を得る。さらに、このモノマー(B)ブロック重合体を混合させている溶液に、別途親水性ブロックのモノマー(モノマー(A))を混合して、溶液中のラジカル等によってさらにモノマー(A)を重合させるモノマー(A)重合工程を行う。これにより、モノマー(B)由来ブロックとモノマー(A)由来ブロックを有するブロック共重合体を得ることができる。モノマー(B)とモノマー(A)との重合を行う順序は、重合させようとするモノマー種や分子量、それぞれの重合条件等に応じて変更してもよい。
【0027】
本発明の共重合体において、親水性ブロックのモノマー(A)由来の構造に対応する分子量(g/mol)と、疎水性ブロックのモノマー(B)由来の構造に対応する分子量(g/mol)とは、それぞれ500以上であることが好ましい。モノマー(A)由来の構造に対応する分子量が500以上であることで、硫黄との親和性を有し硫黄の周辺に配置される。モノマー(A)由来の構造に対応する分子量は、1,000以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましい。
【0028】
また、疎水性ブロックのモノマー(B)由来の構造に対応する分子量が500以上であることで、硫黄コーティング組成物としたときの熱安定性がより安定する。モノマー(B)由来の構造に対応する分子量は、1,000以上でより安定し、2,000以上が好ましく、3,000以上がより好ましい。
【0029】
モノマー(A)、(B)由来の構造に対応する分子量の上限は特に定めなくてもよいが、重合条件の調整のしやすさや得られる共重合体の取り扱い性等を考慮して、それぞれ独立して、10万以下や、5万以下、3万以下などとしてもよい。
【0030】
共重合体は、モノマー(A)及びモノマー(B)から成るものであってもよいし、本発明の目的を損なわない範囲でさらにその他のモノマーを含んでいてもよい。なお、これらの分子量は、GPCにより得られる結果から、ポリスチレン換算で求めることができる値「Mw:重量平均分子量」である。
【0031】
本発明の共重合体は、例えば、下記式(I)の一般式で表される共重合体とすることができる。この式(I)の共重合体は、親水性ブロックとしてポリビニルアルコールブロックと、疎水性ブロックとしてポリスチレンブロックとを有するブロック共重合体である。
なお、下記式(I)において、nは2~1,000であることが好ましく、mは2~1,000程度であることが好ましい。このnは、より安定して本発明の硫黄コーティング組成物としたときゴム組成物中での移動を防止できブルーミングを抑制できるためには、5以上や、10以上とすることがより好ましい。一方、このmは、より安定した硫黄への吸着効果を得るためには5以上や、10以上、50以上とすることがより好ましい。これらのn及びmは、それぞれの効果が十分に得られる範囲で、それぞれ2000以下や、1500以下、1000以下としてもよい。
【0032】
【0033】
[硫黄含有液の調製]
本発明の製造方法は、硫黄と機能性ブロック共重合体とを含有する硫黄含有液を調整する工程を有する。溶媒中に、硫黄と機能性ブロック共重合体とを溶質として含有させた硫黄含有液を調整することで、硫黄含有液中で機能性ブロック共重合体や硫黄が分散され、溶媒中の硫黄微粒子や硫黄分子の周囲を機能性ブロック共重合体の親水性ブロックが選択的に取り囲み、疎水性ブロックは外層をなすものとなる。なお、本発明の製造方法において、硫黄含有液とは、溶媒に硫黄と機能性ブロック共重合体とが溶解したものや分散したものを含む概念であり、これらを含めて溶液と説明する場合がある。
【0034】
[溶媒]
本発明の硫黄含有液の溶媒は、硫黄と機能性ブロック共重合体を分散させることができ、その溶媒中で硫黄を機能性ブロック共重合体が取り囲むことができるものを用いることができる。本発明の硫黄含有液の溶媒としては、テトラクロロメタン、トリクロロメタン、ジクロロメタン、クロロメタン、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトンからなる群から選択される少なくとも1以上の溶媒を含有することが好ましい。これらの溶媒は、いずれか単独を用いてもよいし、適宜混合して用いてもよい。本発明の硫黄含有液の溶媒は、揮発工程で除去される。このため、揮発しやすいものが好ましく、さらに揮発工程は過剰な加熱は行わずに実施することが好ましい。
【0035】
[溶質濃度]
本発明の硫黄含有液における溶質濃度の下限は、10(g-溶質/L-溶液)以上が好ましい。以下、「g-溶質/L-溶液」を単に「g/L」と記載する。溶質濃度が低すぎる場合、硫黄含有液からの溶媒乾燥時間が長時間化したり、製造設備等が過剰に大型化したりして製造効率が低下する場合がある。この下限は、15g/L以上がより好ましく、20g/L以上がさらに好ましい。溶解・分散が十分にできる範囲で溶質濃度が高いほど製造効率が高くなる。
【0036】
本発明の硫黄含有液における溶質濃度の上限は、200g/L以下が好ましい。溶質濃度が高すぎる場合、溶解・分散が適度に行われず機能性ブロック共重合体により硫黄が被覆されにくくなったり、溶液の粘度が高すぎて作業性が低下する場合がある。この上限は、150g/L以下がより好ましく、100g/L以下が特に好ましい。
【0037】
[溶質混合比率]
本発明の硫黄含有液における、硫黄と機能性ブロック共重合体の含有比率は、硫黄1質量部に対して機能性ブロック共重合体を、0.03質量部以上とすることが好ましい。この下限は、0.05質量部以上、0.15質量部以上としてもよい。硫黄1質量部に対する機能性ブロック共重合体の含有比率の上限は、1.0質量部以下とすることが好ましい。0.8質量部以下、0.5質量部以下としてもよい。
【0038】
[硫黄含有液]
硫黄含有液は、混合後、適宜、所定の時間撹拌してもよい。これらの混合時には、硫黄をふるいにかけて微粉末として利用するなどの調整を行っても用いてもよい。また被覆性を均一なものとするために、スターラー等を用いて、一定時間以上撹拌することが好ましい。撹拌時間は、後述の揮発工程を行う時機や撹拌状態などに応じて適宜設定することができ、例えばその下限を30分以上や、1時間以上、2時間以上としてもよく、その上限を10時間以内や8時間以内程度としてよい。
【0039】
[揮発工程]
本発明の製造方法は、硫黄含有液の溶媒を揮発させる工程を有する。硫黄含有液の溶媒を揮発させることで、硫黄の少なくとも一部を機能性ブロック共重合体で被覆した硫黄コーティング組成物を得ることができる。
【0040】
硫黄含有液の溶媒の揮発は、溶媒を揮発させることができる任意の方法で行うことができる。例えば、加熱乾燥や、減圧乾燥、スプレードライ乾燥、自然乾燥等や、これらを適宜組み合わせた乾燥を行うことができる。乾燥時は、硫黄含有液を含む容器内でそのまま乾燥してもよいし、乾燥時間を短縮するために、液を薄く展開して乾燥してもよい。
【0041】
乾燥時の温度は、70℃以下や50℃以下とすることができ、45℃以下が好ましく、35℃以下がより好ましい。乾燥時の温度が高いと、不溶性硫黄が斜方硫黄に多量に転移するなど同素体の構造が変化する恐れがある。このため乾燥時は常温程度(例えば20~30℃)で乾燥してもよい。また常温程度で乾燥することから、効率よく乾燥するために減圧乾燥を行うことが好ましい。乾燥時間は、硫黄コーティング組成物として許容される溶媒の残存量等を考慮して、適宜設定される。乾燥時の硫黄含有液の濃度や、乾燥温度、液量にもよるが、例えば、常温の減圧乾燥で1日以上、好ましくは2日以上乾燥することで、粉状の硫黄コーティング組成物を得ることができる。
【0042】
また、このようにして製造された硫黄コーティング組成物は、硫黄用のプロセスオイルと混合してもよい。例えば、乾燥後の粉状の硫黄コーティング組成物をプロセスオイルに浸漬し、撹拌分散させて、プロセスオイルと混合してオイルコーティングを行うことができ、スラリー状などで取り扱うことができる。オイルコーティングすることで、危険物としての危険性が低下しより取扱いやすいものとなる。
プロセスオイルとしては、ゴム配合用に用いられている任意のオイルを用いることができる。例えば、芳香族系、パラフィン系、ナフテン系からなる群から選択される1以上のものを用いることができる。プロセスオイルと、硫黄コーティング組成物との混合比率は、硫黄コーティング組成物100質量部に対して、プロセスオイルを1~100質量部や、5~50質量部程度とすることができる。
【0043】
[硫黄コーティング組成物]
本発明の硫黄コーティング組成物は、前述したような本発明の製造方法により得ることができる。本発明の硫黄コーティング組成物は、硫黄の少なくとも一部を機能性ブロック共重合体で被覆した硫黄コーティング組成物である。好ましくは、硫黄の全体が機能性ブロック共重合体で被覆されていることが好ましい。硫黄が被覆されている程度は、電子顕微鏡で観察しその硫黄コーティング組成物の形状から判断することができる。機能性ブロック共重合体で被覆されることで、硫黄の周囲に機能性ブロック共重合体の層が観察される。
【0044】
本発明の硫黄コーティング組成物は、熱安定性が向上する。この熱安定性は、硫黄の融点を指標とすることができる。硫黄の融点は、示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry、DSC)により測定することができる。DSCの昇温速度は5℃/分とし、雰囲気を窒素置換して測定する。被覆前の硫黄が明確な場合、その硫黄の融点に比して、融点が5℃以上、好ましくは8℃以上上昇していることで、本発明の硫黄コーティング組成物の熱安定性が向上したものとしてもよい。
【0045】
本発明の硫黄コーティング組成物は融点が105℃以上であることが好ましい。より好ましくは107℃以上である。このような融点は、不溶性硫黄の濃度が低い硫黄の場合、通常達成が困難な融点であるが、本発明によれば機能性ブロック共重合体により前記融点を示すものとすることもできる。融点が高いほど、熱安定性が高いものとして利用でき、ゴム組成物成形時のブルーミング等も抑制することができる。
【0046】
本発明の硫黄コーティング組成物は、粒子径が10~40μmを主とする。各粒子の粒子径は、レーザー回折式粒度分布計により測定することで、その分布を求めることができる。レーザー回折式粒度分布計としては実施例に後述するものなどを使用することができる。測定時は、分散媒としてエタノールを用いることができる。
【0047】
本発明の硫黄コーティング組成物は、平均粒子径が50μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。平均粒子径が小さいことで、ゴム組成物製造に利用した時の分散性などに優れたものとなる。平均粒子径は、前述したレーザー回折式粒度分布計により測定した平均径を用いる。
【0048】
従来の硫黄は、平均粒子径がおよそ80μm程度である。本発明により硫黄コーティング組成物とすることで、前述したように平均粒子径が50μm以下等を達成することができる。この粒子径は、分散性の指標とすることもでき、平均粒子径が小さいほど優れた分散性を示すと考えられる。分散性に優れることで、ゴム組成物成形時に、ゴムに均一に分散配合しやすい。
【0049】
[本発明の硫黄コーティング組成物の用途]
不溶性硫黄を用いた本発明の硫黄コーティング組成物は、不溶性硫黄相当以上の熱安定性を有する。このため、熱安定性が求められるゴムの架橋剤などの種々の用途の硫黄に用いることができる。また種々の硫黄を用いた本発明の硫黄コーティング組成物を用いてゴムの架橋を行うことで製造工程等でのブルーミングを抑制することができ、製造効率が向上する。
【0050】
[ゴム組成物]
本発明は、本発明の硫黄コーティング組成物を含有するゴム組成物とすることができる。ゴム組成物における硫黄の含有量は例えば0.3~5質量%程度であり、本発明の硫黄コーティング組成物も同量程度含有させることで、同等の加硫効果を得ることができる。硫黄コーティング組成物の含有量はゴムの種類や用途などに応じて加硫の程度は適宜変更され、1~5質量%や、4~5質量%、1~4質量%など適宜変更して含有することができる。これらのゴム組成物は、ゴム製品として成形されて用いられる。
【0051】
ゴム組成物の典型例として、タイヤ製造は各原材料を混ぜ合わせる混練り、タイヤのパーツを形作り貼り合わせる成形加工工程、そして最後の加硫工程からなる。混練りや成形加工工程は高温となるため、その時点で不溶性硫黄が斜方硫黄への転移を起こすとブルーミングが発生し、パーツの貼り合わせが安定せず成形不良の原因となる。本発明の硫黄コーティング組成物は、このようなタイヤ製造工程における高温に耐えることができる不溶性硫黄として用いることができ、これにより硫黄コーティング組成物を含有するタイヤとすることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
<評価項目>
【0054】
[IRスペクトル]
Perkin Elmer社製フーリエ変換赤外分光分析装置「Spectrum two(登録商標)」を用いて、測定した。
【0055】
[DSC(示差走査熱量測定)]
(株)パーキンエルマージャパン製「DSC8500」を用いて硫黄等の融点の測定を行った。融点測定時の運転条件は以下のものである。100℃~120℃付近にみられる吸熱ピークの吸熱ピーク値を示す温度を融点とした。
・開始温度40℃~停止温度180℃
・昇温速度:5℃/分
・雰囲気:窒素(N2)ガス置換
【0056】
[SEM(電子顕微鏡)観察]
JEOL製「JSM-6060」を用いて形状を観察した。
【0057】
[平均粒径]
ベックマン・コールター株式会社製レーザー回折式粒度分布計「LS230」を用いて、粒径分布をもとめ、平均粒径を求めた。
測定は、分散媒としてエタノールを用いて、エタノール125mLに、測定対象の粉末を約0.03g分散させて測定した。
【0058】
[ゴムへの拡散性評価]
ゴム組成物における硫黄のブルーミングの原因は、ゴム組成物における硫黄の拡散性が高いことによると考えた。このことから、ゴム組成物に硫黄組成物等を加熱状態で接触させて、その拡散を評価し、ブルーミングの指標とした。
(1)硫黄組成物を拡散させたブタジエンゴムシートの作製
1)ブタジエンゴムを適量切り取り、プレス(110℃、50MPa、5分間)してシート状にしてゴムシートとした。
2)前述のゴムシートが、温かいうちにプレス機から取り出し、3×4cm角に裁断した。
3)前述の裁断したゴムシートの中心部に、硫黄組成物を1.5mg配置し、その上に同様に作成した裁断したゴムシートを被せ、再度プレス(110℃、10MPa、15分間)して、ゴムシート間で硫黄組成物を拡散させた。
4)プレス後のゴムシートの中心部を2×5cm角に切り取り、後述するEPMAで分析した。
(2)EPMAによるゴムシート間の硫黄元素分布測定方法
電子線マイクロアナライザー(EPMA)(島津製作所製、型番1720H)を使用して、硫黄元素の分布を評価した。このEPMAは、試料表面に電子線を照射し、反射される電子像の種類により、元素種の濃度分布を解析する手法である。前述の硫黄組成物を拡散させたゴムシート間での硫黄元素の分布を検知して、その濃度の二次元マッピングデータを得た。
(3)拡散係数算出方法
前述のEPMAによるゴムシート間の硫黄元分布を測定し、元素濃度が最も高い点を拡散中心とした。その中心から一定距離の硫黄元素のカウント数(濃度)の円環平均を取り、中心からの距離に対する濃度分布を求めた。また、その濃度分布の傾きから、拡散係数を算出した。
【0059】
<原料>
[硫黄]
・硫黄(1):日本乾溜工業社製「セイミサルファー」を硫黄(1)として用いた。この硫黄は、不溶性硫黄をおよそ60%含有する
・硫黄(2):細井化学製「粉末硫黄(200メッシュ)」を硫黄(2)として用いた。この硫黄は、常温においてほぼ全量が斜方硫黄である。
【0060】
<重合体の製造>
[原料]
[モノマー(A)](親水性ブロックのモノマー)
・モノマー(A-1-1):酢酸ビニル(和光純薬工業(株) 和光特級 98.0%)
[モノマー(B)](疎水性ブロックのモノマー)
・モノマー(B-1-1):スチレン(東京化成工業(株) GR99%)
[重合開始剤] Block Builder MA
[溶媒] 酢酸ブチル(和光純薬工業(株) 和光特級)
【0061】
[共重合体の設計]
硫黄コーティング組成物に用いる機能性ブロック共重合体(1)の設計を試みた。まず、親水性を示し硫黄と接着させるための親水性ブロックのモノマーに、ビニルアルコールの由来となる酢酸ビニルを選択した。次に、疎水性を示し熱安定性を発揮させる疎水性ブロックのモノマーに、スチレンを選択した。そして、ここで選択されたモノマーを用いて、硫黄コーティング用の共重合体(1)の製造を行った。
【0062】
[共重合体(1)の調製]
【0063】
(重合工程)
まず、以下のようにスチレンブロックを重合し、その後酢酸ビニル由来のブロックを重合し、その後けん化処理を行った。
スチレン20g、酢酸ブチル20g、重合開始剤0.25gを混合した溶液を、重合温度約100℃、リアクターの撹拌速度80rpm、窒素雰囲気下でリビングラジカル重合することにより、モノマー(B)であるスチレンのブロック重合体を製造した。
さらに、これにより得られたスチレンのブロック重合体の溶液に、モノマー(A)となる酢酸ビニルを19g、スチレン1g、酢酸ブチル20gを投入してスチレンのブロック重合体に、ブロック重合体が結合したブロック共重合体である共重合体(1a)を得た。
なお、得られた共重合体(1a)の分子量(Mw:重量平均分子量)を、GPCにより測定し、ポリスチレン換算にて求めた。酢酸ビニル由来の構造は推算値として約6000(g/mol)、スチレン由来の構造が約27000(g/mol)の共重合体であった。
【0064】
(けん化工程)
共重合体(1a)2gを酢酸ブチル100mLに溶解させる比率で溶解させた。次に、沈殿物が析出しないようにイソプロパノールを添加した。その後、40%NaOH水溶液5mLを加えて30分撹拌した。この撹拌により生じた沈殿をイソプロパノールで洗浄しながらろ過して回収し乾燥することで、けん化処理され酢酸ビニルブロックがポリビニルアルコールブロックとなった共重合体(1)を得た。
【0065】
この共重合体(1)の構造式を以下に化学式(I)として示す。共重合体(1)は疎水性ブロックとしてポリスチレン重合体ブロックと、親水性ブロックとして酢酸ビニル重合体がけん化されたポリビニルアルコール重合体ブロックを有している。
【0066】
【0067】
図1は、けん化処理前の共重合体(1a)のIRスペクトルである。
図2はけん化処理後の共重合体(1)のIRスペクトルである。けん化処理により、
図2に示すように、ポリビニルアルコールの構造由来のスペクトルが観察され、共重合体(1)は十分にけん化処理され親水性が高いブロックを有していることを確認できた。また、酢酸ビニルのエステル基(-CO-O-)特有の1735cm
-1の吸収ピークがなくなる程度にけん化されている。
【0068】
[実施例1]
(硫黄含有液調整)
共重合体(1)をトリクロロメタンに溶解させて、共重合体溶液(1)を調整した。この共重合体溶液(1)の共重合体(1)の濃度は3.3g/Lである。この共重合体溶液150mLと、硫黄(1)7gを混合し、硫黄含有液(1)を調整した。
【0069】
(溶媒揮発)
硫黄含有液(1)を30℃減圧下(真空度:0.1MPa)にて、2日乾燥して、硫黄コーティング組成物(1)を得た。
【0070】
・IR分析結果
硫黄コーティング組成物(1)をIR分析した結果、共重合体(1)由来のスペクトルが観察された。この結果、共重合体(1)が硫黄をコーティングし硫黄コーティング組成物となっていることが確認された。
【0071】
・DSC分析結果
硫黄コーティング組成物(1)および硫黄(1)をDSCで評価し、融点を求めた。硫黄(1)の融点は99.6℃であり、硫黄コーティング組成物(1)は融点が110.8℃であり、約10℃以上融点の向上が確認された。
【0072】
・SEM観察
硫黄コーティング組成物(1)をSEMで観察した結果を、
図3、4に示す。
図3は1,000倍に拡大して撮像した像であり、
図4は2,500倍に拡大して撮像した像である。硫黄粒の周囲を包む滑らかな層がみられ共重合体(1)により被覆されていることが確認された。また硫黄の凝集などが少なく硫黄の各粒が分離して分散した状態を確認できた。なお、
図5は原料となる硫黄(1)をコーティングする前の状態で観察した像であり、コーティング層がなく、比較的粒径が大きく分散性が低い状態のものである。
【0073】
これらの結果から、本発明により硫黄を共重合体により被覆した硫黄コーティング組成物を得ることができた。また、不溶性硫黄を用いることで融点が向上し熱安定性に優れた硫黄コーティング組成物を得ることができた。
【0074】
[実施例2]
(硫黄含有液調整)
実施例1と同様の共重合体溶液(1)を用いて、共重合体溶液150mLと、硫黄(2)7gを混合し、硫黄含有液(2)を調整した。
【0075】
(溶媒揮発)
硫黄含有液(2)を30℃減圧下(真空度:0.1MPa)にて、2日乾燥して、硫黄コーティング組成物(2)を得た。
【0076】
・平均粒径
硫黄(1)、硫黄(2)、硫黄コーティング組成物(1)、硫黄コーティング組成物(2)の粒子径分布を測定し、平均粒子径を求めた。前述のベックマン・コールター株式会社製レーザー回折式粒度分布計「LS230」を用いた粒径分布により得られる粒子径分布の測定結果から、平均径を平均粒子径とした。結果を下表に示す。
本発明に係る硫黄コーティング組成物は、コーティング前の硫黄よりも平均粒子径が小さかった。このため、ゴム組成物に分散しやすいものとなる。
【0077】
【0078】
硫黄(1)、硫黄コーティング組成物(1)を、それぞれ前述の[ゴムへの拡散性評価]における硫黄組成物として用いて、ゴムへの拡散性を評価した。ただし、硫黄組成物の配置量を1.5mgから3mgに変更して試験した。
硫黄(1)を用いた場合、硫黄コーティング組成物(1)を用いた場合よりもゴムシートの表面に多量の硫黄元素が確認された。また、下表2に示すように拡散中心や拡散中心から0.1cmにおける硫黄カウント数から想定されるモル濃度も高かった。
これは、硫黄(1)は、不溶性硫黄であり、熱に弱くゴムへの拡散性評価時のプレス時の加熱により、ゴム内に硫黄が浸透せずブルーミングが発生したためと考えられる。
【0079】
【0080】
[拡散係数]
硫黄(2)、硫黄コーティング組成物(2)を、それぞれ前述の[ゴムへの拡散性評価]における硫黄組成物として用いて、ゴムへの拡散性を評価した。結果を下表3に示す。この拡散係数は、その絶対値が小さいほどゴムシートの中心から離れた場所にも硫黄が高濃度で存在するものとなる。よって、絶対値が小さいほど、拡散しやすくブルーミングが生じやすいと考えられる。また、絶対値が大きいほど、拡散しにくくブルーミングが生じにくいと考えられる。
本発明に係る硫黄コーティング組成物は、コーティング前の硫黄よりも拡散係数が小さかった。このため、ゴム組成物におけるブルーミングが生じにくい。
【0081】
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、ゴム組成物の加硫などに用いることができる硫黄コーティング組成物が提供される。この硫黄コーティング組成物は、熱安定性に優れブルーミング等を抑制することができ産業上有用である。