(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】高アミロース澱粉とセルロースナノファイバーを含有する組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 29/00 20160101AFI20220929BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20220929BHJP
C08L 3/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
A23L29/00
C08L1/02
C08L3/00
(21)【出願番号】P 2018041181
(22)【出願日】2018-03-07
【審査請求日】2020-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508046362
【氏名又は名称】西岡 昭博
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西岡 昭博
(72)【発明者】
【氏名】大木 加奈絵
(72)【発明者】
【氏名】金野 晴男
(72)【発明者】
【氏名】岩堀 文子
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/030392(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/199924(WO,A1)
【文献】特開2017-079600(JP,A)
【文献】特開2017-176034(JP,A)
【文献】特開平08-242784(JP,A)
【文献】特開平09-107899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
A23L 29/00-29/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーを有効成分とする高アミロース米および/または高アミロース米粉を含む澱粉系食品用の澱粉老化抑制剤であって、
高アミロース米および/または高アミロース米粉に含まれる澱粉の絶乾総質量に対するセルロースナノファイバーの添加量が1質量%以上である、澱粉老化抑制剤。
【請求項2】
セルロースナノファイバーが、化学変性セルロースナノファイバーを含む、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
セルロースナノファイバーが、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを含む、請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
セルロースナノファイバーが、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01~0.50であるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の剤を
、高アミロース米および/または高アミロース米粉に含まれる澱粉の絶乾総質量に対するセルロースナノファイバーの添加量が1質量%以上となるように、前記澱粉系食品の原料に添加することを含む、
高アミロース米および/または高アミロース米粉を含む澱粉系食品の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の剤を
、高アミロース米および/または高アミロース米粉に含まれる澱粉の絶乾総質量に対するセルロースナノファイバーの添加量が1質量%以上となるように、前記澱粉系食品の原料に添加することを含む、
高アミロース米および/または高アミロース米粉を含む澱粉系食品の改質方法。
【請求項7】
(A)成分:アミロース含量22質量%以上の澱粉を少なくとも含む、澱粉系原料、および
(B)成分:セルロースナノファイバー
を含み、
(A)成分が、高アミロース米および/または高アミロース米粉を含み、
RVA測定機器:PhysicaMCR301、Anton paar社製;
温度条件:昇温速度10.75℃/minで50℃から93℃まで昇温し、7分間保持した後、降温速度10.75℃/minで93℃から50℃まで降温し3分間保持;
回転速度:160rpm;及び
治具:ST24/-2V-2V
にて測定される粘度が、以下:
(1)測定開始から800秒経過(降温開始時)の粘度に対する1200秒経過(降温終了時)の粘度の比が、2.0以下であること。
(2)(B)成分の代わりに水を用いた組成物の、測定開始から1200秒後の粘度が0.2Pa・s以上である
澱粉系食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高アミロース澱粉とセルロースナノファイバーを含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
澱粉を水分と共に加熱すると、白濁した状態から、粘度が増し、透明度の高い状態となる。このような澱粉の現象は糊化と呼ばれ、食品に独特の形態やテクスチャーを与えることから、澱粉は増粘剤、安定剤、ゲル化剤等として、たれ、ソース類、餅、菓子等の澱粉系食品に幅広く使用されている。しかし、糊化した澱粉は、時間の経過とともに保水力を失い、水を遊離してゲルのような不溶状態となり、次第に白濁する等の老化現象を起こす。これにより硬くなる、パサつく等、食品の味質及び食感の著しい低下が生じ得る。そのため、澱粉老化を効果的に抑制する方法が望まれている。澱粉の老化の原因は、糊化により分散した澱粉分子の再結晶化、不溶化と考えられている。また、老化速度は、温度、pH、澱粉の分子構造等の要因に依存すると考えられている。澱粉系食品の澱粉老化を抑制する方法として、これまでにも様々な技術が提案されてきた。
【0003】
特許文献1には、澱粉質食品の原料にトレハロースを添加すると、澱粉質食品の老化を防止できることが記載されている。特許文献2には、β-アミラーゼとトレハロースを餅類の生地に添加することで餅類の老化を防止できることが記載されている。特許文献3には、セルロースナノファイバーとパン酵母を生地に添加して焼成食品を製造すると、焼成食品の保水性が良好となることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-242784号公報
【文献】特開平9-107899号公報
【文献】特開2017-176034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2の方法では、多量のトレハロースを用いるため、トレハロースの甘味が食品本来の味質、風味を変えてしまうおそれがある。また、特許文献3の方法では、焼成生地の保水性は向上するものの澱粉の老化抑制が不十分である。
【0006】
本発明は、澱粉系食品の澱粉の老化を効率よく抑制できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の〔1〕~〔8〕を提供する。
〔1〕(A)成分:アミロース含量15質量%以上の澱粉を少なくとも含む、澱粉系原料、および
(B)成分:セルロースナノファイバー
を含む組成物。
〔2〕(A)成分に含まれる澱粉の総質量に対する(B)成分の質量の比が、0.1~50質量%である、〔1〕に記載の組成物。
〔3〕(B)成分が、化学変性セルロースナノファイバーを含む、〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
〔4〕化学変性セルロースナノファイバーが、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01~0.50であるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーである、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の組成物。
〔5〕〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の組成物を有効成分とする、澱粉老化抑制剤。
〔6〕〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の組成物を有効成分とする、澱粉系食品用添加剤。
〔7〕〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の組成物を澱粉系食品の原料である澱粉の少なくとも一部に代えて用いることを含む、澱粉系食品の製造方法。
〔8〕〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の組成物を澱粉系食品の原料である澱粉の少なくとも一部に代えて用いる、澱粉系食品の改質方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の組成物は、澱粉系食品に添加することにより、澱粉の老化を抑制し、保存性を高めることができる。
【0009】
本発明によりこれらの効果が得られる理由は定かではないが、本発明では、澱粉老化の主要因であるアミロースの再結晶化をセルロースナノファイバーが阻害していること等の作用が影響していると推測される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例1と比較例1のRVA測定の結果を表すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例2と比較例2のRVA測定の結果を表すグラフである。
【
図3】
図3は、比較例3及び4のRVA測定の結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の組成物は、下記の(A)および(B)成分を含有する。これにより、本発明の組成物を食品に添加をすると、保存性を高めることができる。例えば、食品中の澱粉の老化を抑制でき、食品が硬くなる、パサつく等の、食品本来の味質および食感の著しい低下を抑制できる。
【0012】
<(1)(A)成分:澱粉系原料>
(A)成分は、澱粉系原料である。澱粉系原料は、澱粉を含む原料である。澱粉系原料は、アミロース含量が、15質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは22質量%以上の澱粉を少なくとも含む。これにより、澱粉の老化を効率的に抑制できる。上限は、特に限定されず、通常は50質量%以下である。アミロース含量とは、澱粉の総質量に対するアミロースの質量の比(質量%)である。
【0013】
澱粉系原料は特に限定されないが、例えば、米、トウモロコシ、小麦、大麦、そば、豆類(ダイズ、インゲン、グリーンピース)、イモ類(ジャガイモ、サツマイモ、サトイモ)、タピオカ、サゴヤシ、バナナ等の植物の少なくとも一部(いわゆる穀物自体、又はその一部(例、種子、根、根茎、果実))およびその加工品(例えば、粉末)が挙げられ、これらの植物の高アミロース種(例、高アミロース米、高アミロース小麦、高アミロースそば)およびその加工品が好ましく、高アミロース米またはその米粉がより好ましい。高アミロース種は、アミロース含量が上述の範囲を満たすことが好ましい。高アミロース米の銘柄としては、例えば、越のかおり、ミズホチカラ、モミロマン、ホシニシキ、こしのめんじまん、ホシユタカ、夢十色、ホシニシキ、ゆきひかり、とおせんぼが挙げられる。高アミロース米であれば、ジャポニカ米だけでなくインディカ米又はジャバニカ米でもよい。インディカ米の産地としては、例えば、タイ、ベトナム、ラオス、ミャンマー、インドネシア、マレーシア、シンガポール等の東南アジア;インド、バングラデシュ等の南アジア;中国中南部;カスピ海沿岸地方;アメリカ合衆国;ラテンアメリカ等が挙げられる。澱粉系原料に含まれる澱粉の量は、種類によって異なり一概には特定できないが、例えば、高アミロース米の米粉の場合には90質量%以上である。
【0014】
<(2)(B)成分:セルロースナノファイバー>
(B)成分は、セルロースナノファイバーである。セルロースナノファイバーは、セルロースの微細繊維である。セルロースナノファイバーは、未変性セルロースをセルロース原料とするものおよび変性セルロース(例えば、化学変性セルロース)を原料とするもののいずれでもよい。セルロースナノファイバーの平均繊維径は、通常3~500nm程度、好ましくは3nm以上500nm以下である。セルロースナノファイバーの平均アスペクト比は、通常50以上である。アスペクト比の上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。平均アスペクト比は、下記の式により算出することができる:
(式) アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0015】
セルロースナノファイバーの平均繊維径および平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各繊維を観察した結果から得られる繊維径および繊維長を平均することによってそれぞれ得ることができる。平均繊維長と平均繊維径は、セルロースナノファイバーを製造する際の、変性処理(例えば、酸化処理)、解繊処理等の条件により調整できる。
【0016】
セルロースナノファイバーの製造方法は特に限定されないが、例えば、セルロース原料(例えば、パルプ)に機械的な力を加えて微細化する方法、セルロース原料に変性処理(例えば化学変性処理)を行い得られる変性セルロース(例えば、カルボキシル化セルロース(酸化セルロースとも呼ぶ)、カルボキシメチル化セルロース、エステル化セルロース(例えば、リン酸エステル化セルロース)、カチオン化セルロース等の化学変性セルロース)を解繊する方法、セルロース原料を解繊して得られる解繊セルロース繊維に変性処理を行う方法が挙げられる。
【0017】
<(2-1)セルロース原料>
セルロース原料(例えば、セルロース繊維)の由来は、特に限定されないが、例えば、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等が挙げられる。本発明で用いるセルロース原料は、これらのいずれかであってもよいし2種類以上の組み合わせであってもよいが、好ましくは植物又は微生物由来のセルロース原料、より好ましくは植物由来のセルロース原料である。
【0018】
セルロース原料の数平均繊維径は、特に制限されないが、一般的なパルプである針葉樹クラフトパルプの場合30~60μm程度、広葉樹クラフトパルプの場合10~30μm程度である。その他の、一般的な精製を経たパルプの数平均繊維径は、50μm程度である。チップ等の数cm大のものを精製してセルロース原料を得る場合、リファイナー、ビーター等の離解機で機械的処理を行い、その数平均粒子径を50μm程度に調整することが好ましい。
【0019】
<(2-2)分散>
セルロース原料の解繊処理および変性処理の少なくともいずれかの処理の際には、分散処理を行ってもよい。分散処理は、セルロース原料、解繊セルロース繊維または変性セルロースを溶媒に分散し、分散体を調製する処理である。
【0020】
分散処理においては通常、溶媒にセルロース原料、解繊セルロース繊維または変性セルロースを分散する。溶媒は、変性セルロースを分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒(例えば、メタノール等の親水性の有機溶媒)、それらの混合溶媒が挙げられる。食品に使用することおよびセルロース原料が親水性であることから、溶媒は水が好ましい。
【0021】
分散体中の変性セルロースの固形分濃度は、通常は0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。これにより、セルロース繊維原料の量に対する液量が適量となり効率的である。上限は、通常10質量%以下、好ましくは6質量%以下である。これにより流動性を保持することができる。
【0022】
解繊処理又は分散処理に先立ち、必要に応じて予備処理を行ってもよい。予備処理は、高速せん断ミキサーなどの混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて行えばよい。
【0023】
<(2-3)化学変性セルロースナノファイバー>
(B)成分は、化学変性セルロースナノファイバーを含むことが好ましい。これにより、組成物を食品に添加した際に、より良好な食感を実現できる。また、(B)成分は、化学変性セルロースナノファイバーであることが好ましい。化学変性セルロースナノファイバーは、繊維の微細化が十分に進み、繊維長および繊維径が均一であり、食品の食感をより向上させることができる。
【0024】
化学変性セルロースナノファイバーの製造方法は特に限定されないが、セルロース原料または解繊セルロース繊維の化学変性処理を経る方法が挙げられる。化学変性処理は、セルロースの少なくとも一部を化学変性する処理であればよく、特に限定されないが、例えば、酸化、エーテル化、リン酸化、エステル化、およびカルボキシメチル化が挙げられ、酸化、カルボキシメチル化、またはエステル化が好ましく、カルボキシメチル化がより好ましい。
【0025】
[カルボキシメチル化]
カルボキシメチル化の方法として例えば、セルロース原料または解繊セルロース繊維をマーセル化しその後エーテル化する方法が挙げられる。カルボキシメチル化反応の際は通常溶媒を用いる。溶媒としては、例えば、水、アルコール(例、低級アルコール)およびこれらの混合溶媒が挙げられる。低級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、第3級ブチルアルコールが挙げられる。混合溶媒における低級アルコールの混合割合は、通常下限が60質量%以上であり、通常上限が95質量%以下であり、好ましくは60~95質量%である。溶媒の量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維に対して、通常3質量倍以上である。また、溶媒の量の上限は特に限定されないが、セルロース原料または解繊セルロース繊維に対し、通常20質量倍以下である。したがって、溶媒の量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維に対し、好ましくは3~20質量倍である。
【0026】
マーセル化は、通常セルロース原料または解繊セルロース繊維とマーセル化剤とを混合して行う。マーセル化剤としては、例えば、水酸化アルカリ金属(例、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)が挙げられる。
【0027】
マーセル化剤の使用量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維の無水グルコース残基当たり、下限が通常0.5倍モル以上である。また、上限は通常20倍モル以下である。したがって、マーセル化剤の使用量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維の無水グルコース残基当たり、好ましくは0.5~20倍モルである。
【0028】
マーセル化の反応温度の下限は、通常0℃以上、好ましくは10℃以上である。上限は、通常70℃以下、好ましくは60℃以下である。したがって、マーセル化の反応温度は、通常0~70℃であり、好ましくは、10~60℃である。
【0029】
マーセル化の反応時間の下限は、通常15分間以上、好ましくは30分間以上である。下限は、通常8時間以下、好ましくは7時間以下である。したがって、マーセル化の反応時間は、通常15分間~8時間、好ましくは、30分間~7時間である。
【0030】
エーテル化反応は、通常カルボキシメチル化剤をマーセル化後に反応系に添加して行う。カルボキシメチル化剤としては、例えば、モノクロロ酢酸ナトリウムが挙げられる。
【0031】
カルボキシメチル化剤の添加量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維のグルコース残基当たり、下限が、通常0.05倍モル以上である。上限は、通常10.0倍モル以下である。したがって、カルボキシメチル化剤の添加量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維のグルコース残基当たり、通常0.05~10.0倍モルである。エーテル化の反応温度は、下限が、通常30℃以上、好ましくは40℃以上である。上限は、通常90℃以下、好ましくは80℃以下である。したがって、エーテル化の反応温度は、通常30~90℃であり、好ましくは40~80℃である。
【0032】
エーテル化の反応時間は、下限が、通常30分間以上であり、好ましくは1時間以上である。上限は、通常10時間以下であり、好ましくは4時間以下である。したがって、エーテル化の反応時間は、通常30分間~10時間であり、好ましくは1時間~4時間である。
【0033】
カルボキシメチル化セルロースまたはカルボキシメチル化セルロースナノファイバーの、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.10以上、更に好ましくは0.15以上である。上限は、好ましくは0.50以下、より好ましくは0.40以下、更に好ましくは0.35以下である。従って、カルボキシメチル置換度は、好ましくは0.01~0.50、より好ましくは0.10~0.40、更に好ましくは0.15~0.35である。
【0034】
グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定方法としては、例えば、次の方法が挙げられる:1)カルボキシメチル化セルロース繊維またはカルボキシメチル化セルロースナノファイバー(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる;2)メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えて得られた硝酸メタノール溶液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(カルボキシメチル化セルロース)をカルボキシル基を有するカルボキシメチル化セルロース(以下、「酸型カルボキシメチル化セルロース」ともいう)にする;3)酸型カルボキシメチル化セルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる;4)80%メタノール15mLで酸型カルボキシメチル化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする;5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する;6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(酸型カルボキシメチル化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:酸型カルボキシメチル化セルロース1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのH2SO4のファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター
【0035】
なお、本明細書において「カルボキシメチル化セルロースナノファイバー」は、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものをいう。したがって、後述する水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースとは区別される。「カルボキシメチル化セルロースナノファイバー」の水分散液を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができる。一方、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロース(通常は粉末)の水分散液を観察しても、繊維状の物質は観察されない。また、「カルボキシメチル化セルロースナノファイバー」はX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるが、水溶性高分子のカルボキシメチルセルロースではセルロースI型結晶はみられない。
【0036】
[カルボキシル化]
カルボキシル化(酸化)方法としては、例えば、セルロース原料または解繊セルロース繊維を、N-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物との存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法が挙げられる。この酸化により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(-COOH)またはカルボキシレート基(-COO-)とを有するセルロース繊維を得ることができる。反応時のセルロースの濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。
【0037】
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)およびその誘導体(例えば4-ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。
【0038】
N-オキシル化合物の使用量は、セルロースを酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01~10mmolが好ましく、0.01~1mmolがより好ましく、0.05~0.5mmolがさらに好ましい。また、反応系に対し0.1~4mmol/L程度が好ましい。
【0039】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。
【0040】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などが挙げられる。中でも、安価で環境負荷が少ないため、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。酸化剤の使用量は、絶乾1gのセルロースに対して、0.5~500mmolが好ましく、0.5~50mmolがより好ましく、1~25mmolがさらに好ましく、3~10mmolがさらにより好ましい。また、例えば、N-オキシル化合物1molに対して1~40molが好ましい。
【0041】
セルロースの酸化は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。よって、反応温度は4~40℃が好ましく、また15~30℃程度の室温でもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8~12、好ましくは10~11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱容易性や、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。
【0042】
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5~6時間、例えば、0.5~4時間程度である。
【0043】
酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることができる。これにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、2段目の反応で効率よく酸化させることができる。
【0044】
カルボキシル化(酸化)方法の別の例としては、オゾンを含む気体とセルロース原料または解繊セルロース繊維とを接触させることにより酸化する方法が挙げられる。この酸化により、グルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50~250g/m3が好ましく、50~220g/m3がより好ましい。セルロース原料または解繊セルロース繊維に対するオゾン添加量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維の固形分を100質量部に対し、0.1~30質量部であることが好ましく、5~30質量部であることがより好ましい。オゾン処理温度は、0~50℃が好ましく、20~50℃がより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、通常は1~360分程度、30~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化および分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となり得る。オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、例えば、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸が挙げられる。追酸化処理としては例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を調製し、溶液中にセルロース原料または解繊セルロース繊維を浸漬させる方法ができる。
【0045】
カルボキシル化(酸化)セルロースまたはカルボキシル化(酸化)セルロースナノファイバー中のカルボキシル基の量は、カルボキシル化(酸化)セルロースまたはカルボキシル化(酸化)セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して、0.6~2.0mmol/gが好ましく、1.0~2.0mmol/gがより好ましい。カルボキシル基の量は、酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件のコントロールにより調整できる。
【0046】
[エステル化]
エステル化方法としては、例えば、セルロース原料または解繊セルロース繊維にリン酸系化合物Aの粉末または水溶液を混合する方法、セルロース原料または解繊セルロース繊維のスラリーにリン酸系化合物Aの水溶液を添加する方法等のリン酸エステル化方法が挙げられる。
【0047】
リン酸系化合物Aとしては、例えば、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸、およびこれらのエステルが挙げられる。リン酸系化合物Aは塩の形態でもよい。リン酸系化合物Aは、低コストであり、扱いやすく、またパルプ繊維のセルロースにリン酸基を導入して、解繊効率の向上が図れる等の理由から、リン酸基を有する化合物が好ましい。リン酸基を有する化合物としては、例えば、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。リン酸系化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊しやすく、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムがより好ましい。リン酸系化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。これにより、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率を高めることができる。リン酸系化合物Aの水溶液のpHは、7以下が好ましく、これにより、リン酸基導入の効率を高めることができる。斯かるpHは、3~7がより好ましく、これにより、パルプ繊維の加水分解を抑えることができる。
【0048】
リン酸エステル化方法としては例えば、以下の方法を挙げることができる。固形分濃度0.1~10質量%のセルロース原料または解繊セルロース繊維の分散液に、リン酸系化合物Aを撹拌しながら添加してセルロースにリン酸基を導入する。リン酸系化合物Aの添加量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維100質量部に対するリン原子の量として、0.2質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。これにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。上限は、500質量部以下が好ましく、400質量部以下がより好ましい。これにより、収率向上が頭打ちとなることがなく、コスト面でも効率的である。従って、0.2~500質量部が好ましく、1~400質量部がより好ましい。
【0049】
エステル化の際、セルロース原料または解繊セルロース繊維、及びリン酸系化合物Aの他に、他の化合物(化合物B)の粉末や水溶液を混合してもよい。化合物Bは特に限定されないが、塩基性を示す窒素含有化合物が好ましい。本明細書において「塩基性」とは、フェノールフタレイン指示薬の存在下で水溶液が桃~赤色を呈すること、または水溶液のpHが7より大きいことを意味する。塩基性を示す窒素含有化合物は、本発明の効果が発揮される限り特に限定されないが、アミノ基を有する化合物が好ましい。アミノ基を有する化合物としては例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられるが、特に限定されない。この中でも低コストで扱いやすいことから、尿素が好ましい。化合物Bの添加量は、セルロース原料または解繊セルロース繊維の固形分100質量部に対し、2~1000質量部が好ましく、100~700質量部がより好ましい。反応温度は0~95℃が好ましく、30~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、通常は1~600分程度であり、30~480分がより好ましい。エステル化反応の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度にエステル化されて溶解しやすくなることを防ぐことができ、エステル化セルロースの収率が良好となり得る。得られたリン酸エステル化セルロース懸濁液を脱水した後、セルロースの加水分解を抑える観点から、100~170℃で加熱処理することが好ましい。さらに、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下、好ましくは110℃以下で加熱し、水を除いた後、100~170℃で加熱処理することが好ましい。
【0050】
エステル化されたセルロースのグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001以上が好ましい。これにより、その後の解繊を十分に行うことができる。上限は、0.40以下が好ましい。これにより、セルロースの膨潤または溶解を抑制し、ナノファイバーを効率的に得ることができる。従って、リン酸基置換度は、0.001~0.40が好ましい。セルロースへのリン酸基導入により、セルロース同士が電気的に反発する。このため、リン酸基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。その後の解繊を効率よく行い得るため、調製されたリン酸エステル化セルロースまたはリン酸エステル化セルロースナノファイバーは、煮沸後、冷水で洗浄することが好ましい。
【0051】
上記各化学変性後に得られる生成物が塩型の場合、脱塩処理を行い、塩(例えば、ナトリウム塩)をプロトンに置換してもよい。
【0052】
<(2-4)解繊>
解繊処理の方法としては、例えば、セルロース原料または変性セルロース(好ましくはその水分散体)に、高圧を印加する方法、強力なせん断力を印加する方法、および、高圧及び強力なせん断力の両方を印加する方法が挙げられる。高圧は特に限定されないが、通常50MPa以上、好ましくは100MPa以上、より好ましくは140MPa以上が挙げられる。解繊に用いる装置は特に限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式が挙げられる。これらの装置を用いることにより、セルロースまたは化学変性セルロース(好ましくはセルロースまたは化学変性セルロースの水分散体)に強力なせん断力を印加することができる。これらのうち、前記水分散体に高圧および強力なせん断力を印加できる装置(例えば、湿式の高圧または超高圧ホモジナイザー)が好ましい。これにより、解繊を効率よく行うことができる。解繊装置の処理(パス)回数は、1回でもよいし2回以上でもよく、2回以上が好ましい。解繊処理に先立ち、必要に応じて、混合、攪拌、乳化、分散等の予備処理を施してもよい。予備処理には、高速せん断ミキサーなどの装置を用いればよい。
【0053】
<(3)(A)および(B)成分の質量比>
本発明の組成物の(A)および(B)成分のそれぞれの含有量は特に限定されないが、(A)成分に含まれる澱粉の総質量(絶乾総質量)に対する(B)成分の質量(絶乾総質量)の比が、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。これにより、十分な澱粉老化抑制効果を得られ得る。上限は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは質量20%以下である。これにより、食品の食感がより良好となる。したがって、上記比は、好ましくは0.1~50質量%、より好ましくは1~30質量%、さらに好ましくは5~20質量%である。
【0054】
<(4)水溶性高分子>
本発明の組成物は、水溶性高分子を含んでもよい。水溶性高分子としては、(A)成分以外の水溶性高分子であればよく、例えば、セルロース誘導体(例、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース)、キサンタンガム、キシログルカン、デキストリン、デキストラン、カラギーナン、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸塩、プルラン、アラビアガム、ジェランガム、ゲランガム、ポリデキストロース、ペクチン、キチン、水溶性キチン、キトサン、カゼイン、アルブミン、大豆蛋白溶解物、ペプトン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミノ酸、ポリ乳酸、ポリリンゴ酸、ポリグリセリン、ラテックス、ロジン系サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド・ポリアミン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミン、植物ガム、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー、ポリアクリル酸塩、でんぷんポリアクリル酸共重合体、タマリンドガム、グァーガムおよびコロイダルシリカ並びにそれら1種以上の混合物が挙げられる。中でも、カルボキシメチルセルロースおよびその塩から選ばれる1種以上が、相溶性の点から好ましい。
【0055】
(B)成分の質量(絶乾総質量)に対する水溶性高分子の質量の比は、好ましくは5質量%以上である。これにより、再分散性の効果を十分得ることができる。一方、上限は、好ましくは50質量%以下である。これにより、セルロースナノファイバーの粘度特性および分散安定性が向上し得る。したがって、上記比は、好ましくは5~50質量%である。
【0056】
<(5)ラピッド・ビスコ・アナライザーで測定される組成物の粘度>
本発明の組成物のラピッド・ビスコ・アナライザー(RVA)により以下の測定条件:
RVA測定機器:PhysicaMCR301、Anton paar社製;
温度条件:昇温速度10.75℃/minで50℃から93℃まで昇温し、7分間保持した後、降温速度10.75℃/minで93℃から50℃まで降温し3分間保持;
回転速度:160rpm;及び
治具:ST24/-2V-2V
にて測定される粘度が、以下を満たすことが好ましい:
(1)測定開始から800秒経過(降温開始時)の粘度に対する1200秒経過(降温終了時)の粘度の比が、2.0以下、好ましくは1.8以下であること。
(2)(B)成分の代わりに水を用いた組成物の、測定開始から1200秒後の粘度が0.2Pa・s以上であること。
【0057】
<(6)任意成分>
本発明の組成物は、必要に応じて、(A)成分、(B)成分および水溶性高分子以外の成分(任意成分)を含んでもよい。任意成分としては、例えば、界面活性剤、加工澱粉、澱粉老化抑制剤(高アミロース含有澱粉及びセルロースファイバー以外)、改質剤、これら以外に食品用の任意成分として許容されている成分が挙げられる。界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルまたはショ糖脂肪酸エステルが挙げられる。加工澱粉としては例えば、アセチル化澱粉等が挙げられる。
【0058】
改質剤としては、例えば、弾力増強剤、タンパク質冷凍変性抑制剤、マスキング剤、褐変防止剤、酸化防止剤、日持向上剤が挙げられる。弾力増強剤としては例えば、卵タンパク、乳タンパクが挙げられる。タンパク質冷凍変性抑制剤としては、冷凍過程にて肉のパサつきを予防する効果を発揮するものであればよい。
【0059】
<(7)組成物の製造方法>
本発明の組成物の製造方法は、澱粉とセルロースナノファイバーを混合することを含む方法であればよい。例えば、セルロースナノファイバーの分散液、該分散液の乾燥固形物、該分散液の湿潤固形物、セルロースナノファイバーと水溶性高分子との混合液、該混合液の乾燥固形物、該混合液の湿潤固形物、その他公知の形態のセルロースナノファイバーに、澱粉を添加し、混合する方法が挙げられる。本明細書において、湿潤固形物とは、分散液または混合液と、乾燥固形物との中間の態様の固形物である。乾燥固形物として用いる場合、材料を混合する際における分散性の観点から、セルロースナノファイバーは、水溶性高分子と混合された形態であることが好ましい。
【0060】
上記乾燥固形物および湿潤固形物は、セルロースナノファイバーの分散液または混合液を脱水および/または乾燥して調製すればよい。脱水方法および乾燥方法は特に限定されないが、例えば、スプレードライ、圧搾、風乾、熱風乾燥、真空乾燥、およびその他従来公知の方法が挙げられる。乾燥装置としては、例えば以下の装置が挙げられる:連続式の乾燥装置(例えば、トンネル乾燥装置、バンド乾燥装置、縦型乾燥装置、垂直ターボ乾燥装置、多重段円板乾燥装置、通気乾燥装置、回転乾燥装置、気流乾燥装置、スプレードライヤ乾燥装置、噴霧乾燥装置、円筒乾燥装置、ドラム乾燥装置、スクリューコンベア乾燥装置、加熱管付回転乾燥装置、振動輸送乾燥装置)、および、回分式の乾燥装置(例えば、箱型乾燥装置、通気乾燥装置、真空箱型乾燥装置、撹拌乾燥装置)。これらの乾燥装置は単独で用いてもよいし、2つ以上組み合わせて用いてもよい。乾燥装置は、ドラム乾燥装置が好ましい。これにより、均一に被乾燥物に熱エネルギーを直接供給できるので、エネルギー効率を高めることができる。また、必要以上に熱を加えずに、直ちに乾燥物を回収できる。
【0061】
<(8)組成物の形態>
本発明の組成物の形態は特に限定されず、例えば、液状(例えば、水溶液、分散液、ゲル状、固体状(例えば、乾燥固形物、湿潤固形物)が挙げられる。
【0062】
<(9)澱粉老化抑制剤>
本発明の組成物は、澱粉の少なくとも一部を本発明の組成物で置き換えることにより、置き換え前の澱粉と比較して、澱粉の老化を抑制できる。そのため、本発明の組成物は、澱粉老化抑制剤の有効成分として有用である。
【0063】
澱粉(好ましくは、先述の澱粉系原料)は、特に限定されないが、高アミロース澱粉(好ましくは、先述した、アミロース含量15質量%以上の澱粉)が好ましい。高アミロース澱粉は他の澱粉と比べて老化しやすいが、本発明の組成物を添加することにより老化を抑制することができる。
【0064】
<(10)澱粉系食品の製造方法、改質方法>
本発明の組成物は、澱粉系食品の原料である澱粉の少なくとも一部の代わりに用いることにより、通常の澱粉系食品と比較して、澱粉の老化による経時劣化を抑制できる。そのため、本発明の組成物は、澱粉系食品の製造、及び澱粉系食品の保存性向上、風味向上、食感低下抑制等の改質に用いることができる。
【0065】
澱粉系食品は、澱粉を原料とする食品であれば特に制限されないが、例えば、チャーハン、炊き込み御飯、おにぎり等の米飯;餅、せんべい、おかき等の米加工品;うどん、パスタ、中華麺、そば等の麺;求肥、大福、わらびもち等の和菓子;スポンジケーキ、ワッフル、カスタードクリーム、ドーナツ、焼成菓子(例えば、クッキー、ビスケット、クラッカー、乾パン、プレッツェル、パイ)等の洋菓子;食パン、フランスパン、クロワッサン、蒸しパン等のパン;あんまん、肉まん等の中華まん;フラワーペースト、フィリング等の製菓材料;インスタントカレー等のレトルト食品;カレールー、ケチャップ、マヨネーズ、たれ、ソース等の調味料類が挙げられる。本発明において澱粉系食品は、澱粉(好ましくは、先述した、澱粉系原料)として高アミロース澱粉(好ましくは、先述した、アミロース含量15質量%以上の澱粉)を原料とする澱粉系食品であることが好ましい。
【0066】
本発明の組成物の、澱粉系食品の添加量は、澱粉の老化を抑制できる有効量であれば特に限定されないが原料中の高アミロース澱粉と本発明の組成物中の(A)成分の含量の合計に対する(B)成分の含量の比が、通常は0.1質量%以上、好ましくは、1質量%以上である。上限は特に限定されないが、50質量%以下である。
【0067】
また、本発明の組成物の食品への添加方法は、特に限定されず、澱粉含有原料に直接添加してもよく、製造工程において、澱粉含有原料や他の原料と共に任意のタイミングで添加してもよい。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
[カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの製造]
パルプを混ぜることができる撹拌機に、パルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙製)を乾燥質量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で111g(発底原料の無水グルコース残基当たり2.25倍モル)加え、パルプ固形分が20%(w/v)になるように水を加えた。その後、30℃で30分攪拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを216g(有効成分換算、パルプのグルコース残基当たり1.5倍モル)添加した。30分撹拌した後に、70℃まで昇温し1時間撹拌した。その後、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のカルボキシルメチル化したパルプを得た。これを水で固形分1%とし、高圧ホモジナイザーにより20℃、150MPaの圧力で5回処理することにより解繊し、1%濃度のカルボキシメチル化セルロースナノファイバーの水分散液を得た。平均繊維径は15nm、アスペクト比は50であった。
【0070】
<実施例1>
タイ米の結晶性米粉(アミロース含量25%、タイ産を気流粉砕したもの)3g(澱粉含量:2.8g)及びカルボキシメチル化セルロースナノファイバー0.18g(固形分換算、1%水分散液18gとして添加)を撹拌してサンプルを得た。サンプルの粘度特性を検討するため、RVA(ラピッド・ビスコ・アナライザー)測定を行った。測定機器は、PhysicaMCR301、Anton paar社製を用いた。測定条件は、以下のとおりとした:
温度:昇温速度10.75℃/minで50℃から93℃まで昇温し、7分間保持した後、降温速度10.75℃/minで93℃から50℃まで降温し3分間保持;
回転速度:160rpm;及び
治具:ST24/-2V-2V。
【0071】
<比較例1>
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの水分散液の代わりに水18gを添加したほかは、実施例1と同様に行った。
【0072】
<実施例2>
タイ米の結晶性米粉の代わりに、モミロマン(アミロース含量25.30%、平成27年度産を気流粉砕したもの)を用いたほかは、実施例1と同様に行った。
【0073】
<比較例2>
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの水分散液の代わりに水18gを添加したほかは、実施例2と同様に行った。
【0074】
<比較例3>
タイ米の結晶性米粉の代わりに、ゆきむすび(アミロース含量8.1%、平成26年宮城県産を気流粉砕したもの)を用いたほかは、実施例1と同様に行った。
【0075】
<比較例4>
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの水分散液の代わりに水18gを添加したほかは、比較例3と同様に行った。
【0076】
実施例1及び比較例1の結果、実施例2及び比較例2の結果、並びに、比較例3及び4の結果を、それぞれ
図1、2及び3に示した。また、各実施例及び比較例の粘度及び粘度比を、表1に示した。
【0077】
【0078】
図1より、実施例1のサンプルは、比較例1のサンプルと比較して、冷却に伴う粘度上昇が抑えられていることが示された。
図2より、実施例2のサンプルも、比較例2のサンプルと比較して、冷却に伴う粘度上昇が抑えられていることが示された。一方、
図3から明らかなとおり、比較例3及び4では、冷却による粘度上昇がほとんど観察されなかった。米の老化は、アミロースが凝集し結晶構造を再構築する現象であることから、以上の結果は、セルロースナノファイバーが、高アミロース含量の澱粉の老化を抑制できることを示している。