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特許7148920既設管の部分補修方法及び部分補修方法を実行するための部分補修システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】既設管の部分補修方法及び部分補修方法を実行するための部分補修システム
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/26 20060101AFI20220929BHJP
   E03F 7/00 20060101ALI20220929BHJP
   F16L 55/18 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B29C65/26
E03F7/00
F16L55/18 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018147834
(22)【出願日】2018-08-06
(65)【公開番号】P2020023068
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】595053777
【氏名又は名称】吉佳エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597022975
【氏名又は名称】エスジーシー下水道センター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】大岡 太郎
(72)【発明者】
【氏名】大岡 伸吉
(72)【発明者】
【氏名】近藤 昌司
(72)【発明者】
【氏名】張 満良
(72)【発明者】
【氏名】日沼 史人
(72)【発明者】
【氏名】関野 勇
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-127243(JP,A)
【文献】特開2000-002395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/26
E03F 7/00
F16L 55/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設された既設管を含浸基材に熱硬化性樹脂及び反応開始剤の混合物を含浸させた補修材によって部分的に補修する既設管の部分補修方法であって、
前記混合物を前記含浸基材に含浸させる際に、前記混合物からなるサンプル片を作成する工程と、
前記補修材の設置箇所に近い領域に前記サンプル片を設置し、該サンプル片の硬化状態に基づいて前記補修材の硬化作業時間を設定する工程と、
を含み、
前記サンプル片は、補修対象となる既設管に連結されたマンホール内又は該マンホールに連結された既設管内に設置されることを特徴とする既設管の部分補修方法。
【請求項2】
地中に埋設された既設管を含浸基材に熱硬化性樹脂及び反応開始剤の混合物を含浸させた補修材によって部分的に補修する既設管の部分補修方法であって、
前記混合物を前記含浸基材に含浸させる際に、前記混合物からなるサンプル片を作成する工程と、
前記補修材の設置箇所に近い領域に前記サンプル片を設置し、該サンプル片の硬化状態に基づいて前記補修材の硬化作業時間を設定する工程と、
を含み、
温度センサが検出した前記サンプル片の硬化反応過程における温度の変化から前記補修材の硬化作業時間を設定することを特徴とする既設管の部分補修方法。
【請求項3】
前記補修材は、前記既設管の内壁に押圧された状態で硬化され、この押圧状態は、前記サンプル片の硬化反応温度がピーク温度に達した後、所定の養生時間を経過するまで継続されることを特徴とする請求項に記載の既設管の部分補修方法。
【請求項4】
前記補修材は、前記設置箇所で加熱手段によって加熱された状態で硬化され、前記サンプル片が前記ピーク温度に到達した後、前記養生時間の間に前記加熱手段を停止することを特徴とする請求項に記載の既設管の部分補修方法。
【請求項5】
地中に埋設された既設管を含浸基材に熱硬化性樹脂及び反応開始剤の混合物を含浸させた補修材によって部分的に補修する既設管の部分補修方法であって、
前記混合物を前記含浸基材に含浸させる際に、前記混合物からなるサンプル片を作成する工程と、
前記補修材の設置箇所に近い領域に前記サンプル片を設置し、該サンプル片の硬化状態に基づいて前記補修材の硬化作業時間を設定する工程と、
を含み、
前記サンプル片は、前記補修材を前記設置場所で前記既設管の内壁に押圧する押圧力と同程度の押圧力で加圧されることを特徴とする既設管の部分補修方法。
【請求項6】
前記サンプル片の加圧は、前記補修材の設置場所の上流側又は下流側の管路内に配置されて該管路を閉鎖する止水部材によって行われることを特徴とする請求項に記載の既設管の部分補修方法。
【請求項7】
請求項2~4のいずれか1項に記載の部分補修方法を実行するための部分補修システムであって、
前記サンプル片の温度を検出する温度センサと、
該温度センサの検出結果に基づいて前記補修材の硬化作業終了時間を設定する制御部と、
該制御部が設定した硬化作業終了時間を通知する通知手段と、を備えたことを特徴とする部分補修システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設管の損傷個所を熱硬化性樹脂が含浸された補修材により部分的に補修する既設管の部分補修方法及び該部分補修方法を実行するための部分補修システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下水管等の既設管は長年の使用により劣化し、その耐用年数は一般に約50年とされており、耐用年数を超えた既設管は年々増加している。老朽化した既設管は変形や亀裂等が生じ、例えば、老朽化した下水管では、下水の流下機能が低下し、また、亀裂等を介して下水管周囲の地下水や土砂が下水管内に流入することにより地中に空洞が生じて地面陥没の原因になっている。さらに、地中に埋設される下水管は地震等の地盤変動による影響を受けやすいという事情もあり、所定の時期に何らかの補修が必要となるのが現状である。
【0003】
下水管の補修方法には、マンホール間に埋設された下水管全体を補修する全体補修(スパン補修)と、特定箇所の亀裂や破損等を部分的に補修する部分補修がある。一般に、全体補修は下水管全体が老朽化し破損箇所が多く、強度も低下している場合に採用され、部分補修は下水管全体の強度は一定の水準にあるものの、部分的に亀裂や破損が生じている場合や、下水管を構成するヒューム管等の構成単位管同士の接合部における漏水が生じて周囲の地下水や土砂が下水管内に流入している場合に採用される。
【0004】
このような下水管の更新事業において、全体補修では多大な費用を要することから、下水管を部分的に内面補強工法により補修する部分補修が多く採用されており、経済的な観点から補修材の基材としてガラス繊維を使用したものが採用されている。
【0005】
このような部分補修方法としては、特許文献1に記載の方法が知られている。この方法では、ガラス繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた筒状の補修材を下水管の内部へ導入し、補修部分の内周面に加圧密着させ、熱硬化性樹脂の熱硬化によって補修材を硬化させる。このようにして硬化された補修材により、下水管の損傷部位を部分的に補修している。
【0006】
ガラス繊維に含浸される熱硬化性樹脂は、単独では硬化反応を生じないため、設置作業現場において、熱硬化性樹脂に反応開始剤を混入してから、ガラス繊維に含浸させる。熱硬化性樹脂と反応開始剤との熱硬化反応は、これらの混合時から始まる。
【0007】
また、一般に、補修材の設置場所は作業者が入り込めない狭い管路内であって、補修材の硬化状態を直接的に確認することは困難であることから、硬化反応が完了するまでの時間(硬化時間)は、補修材に含浸させる熱硬化性樹脂及び反応開始剤と同一成分の材料による既知の硬化反応に関するデータから推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-214636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、硬化時間は、熱硬化性樹脂の温度や反応開始剤の量などの使用材料の要因だけでなく、補修対象の存在する領域の気温やその周囲の地下水の状況などの環境要因にも大きく左右されることから、一律的に定めることができない。
【0010】
それ故、実際の作業現場では、補修材を管路内で確実に硬化させる必要性から、硬化作業工程において補修材の硬化完了時間を実際の硬化時間よりも十分に長くなるように設定している。
【0011】
しかしながら、このように環境要因に寄らずに硬化完了時間を設定しようとすると、硬化作業工程の作業時間が不要に長く設定される傾向となり、作業効率の低下を招いていた。それ故、硬化作業工程を最適化できる方法が求められていた。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、地中に埋設された既設管の部分補修作業において、補修剤を確実に硬化させるとともに補修材の硬化作業工程の最適化を図ることができる既設管の部分補修方法及び該方法を実行するための部分補修システムを提供することを目的とする。
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の既設管の部分補修方法は、
地中に埋設された既設管を含浸基材に熱硬化性樹脂及び反応開始剤の混合物を含浸させた補修材によって部分的に補修する既設管の部分補修方法であって、
前記混合物を前記含浸基材に含浸させる際に、前記混合物からなるサンプル片を作成する工程と、
前記補修材の設置箇所に近い領域に前記サンプル片を設置し、該サンプル片の硬化状態に基づいて前記補修材の硬化作業時間を設定する工程と、
を含み、
前記サンプル片は、補修対象となる既設管に連結されたマンホール内又は該マンホールに連結された既設管内に設置されることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、補修材とサンプル片とが同一成分の熱硬化性樹脂及び反応開始剤からなる混合物によって作成され、このサンプル片を補修材の設置箇所と近い領域に設置しているので、サンプル片と補修材との硬化条件をほぼ同じくすることができ、このサンプル片の硬化状態を確認することにより補修材の硬化状態を間接的に知ることができる。これにより、補修材の設置場所に応じた硬化作業時間をその都度設定することができ、その結果、硬化作業工程において作業時間が不要に長くなることを解消しながら、補修材を確実に硬化させることができ、硬化作業工程の最適化を図ることができる。
【0016】
この構成によれば、サンプル片が硬化する際の環境条件を容易に補修材の設置箇所の環境条件と近似させることができるので、硬化作業工程を複雑化することなく、作業時間を最適化することができる。
【0017】
また、請求項2に記載の既設管の部分補修方法は、
地中に埋設された既設管を含浸基材に熱硬化性樹脂及び反応開始剤の混合物を含浸させた補修材によって部分的に補修する既設管の部分補修方法であって、
前記混合物を前記含浸基材に含浸させる際に、前記混合物からなるサンプル片を作成する工程と、
前記補修材の設置箇所に近い領域に前記サンプル片を設置し、該サンプル片の硬化状態に基づいて前記補修材の硬化作業時間を設定する工程と、
を含み、
温度センサが検出した前記サンプル片の硬化反応過程における温度の変化から前記補修材の硬化作業時間を設定することを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、補修材及びサンプル片を構成している反応開始剤を添加した熱硬化性樹脂は、硬化反応の進捗状況により温度が変化し、硬化反応が完了するまで温度が上昇することから、サンプル片の硬化反応過程における温度の変化によって補修材の硬化状態を間接的に検知し、適切な硬化作業時間を設定することができる。
【0019】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の既設管の部分補修方法において、
前記補修材は、前記既設管の内壁に押圧された状態で硬化され、この押圧状態は、前記サンプル片の硬化反応温度がピーク温度に達した後、所定の養生時間を経過するまで継続されることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、熱硬化性樹脂の硬化反応は、硬化反応温度がピーク温度に達した時に完了するので、補修材を確実に硬化させることができる。さらに、ピーク温度発生後、所定の養生時間経過するまでを補修材の押圧状態を継続することで、硬化反応後に補修材が温度低下によって収縮することを防止することができる。
【0021】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の既設管の部分補修方法において、
前記補修材は、前記設置箇所で加熱手段によって加熱された状態で硬化され、該補修材が前記ピーク温度に到達した後、前記養生時間の間に前記加熱手段を停止することを特徴
とする。
【0022】
この構成によれば、加熱手段によって補修材を加熱することで、補修材の硬化時間を短縮することができる。また、サンプル片のピーク温度発生後も補修材を加熱することで硬化を確実にすることができる。さらに、養生時間の間に加熱手段を停止し、その後、養生時間が経過するまでの間、補修材の押圧状態を継続することで、補修材の温度が急激に低下して管径が収縮することを防止することができる。
【0023】
また、請求項5に記載の既設管の部分補修方法は、
地中に埋設された既設管を含浸基材に熱硬化性樹脂及び反応開始剤の混合物を含浸させた補修材によって部分的に補修する既設管の部分補修方法であって、
前記混合物を前記含浸基材に含浸させる際に、前記混合物からなるサンプル片を作成する工程と、
前記補修材の設置箇所に近い領域に前記サンプル片を設置し、該サンプル片の硬化状態に基づいて前記補修材の硬化作業時間を設定する工程と、
を含み、
前記サンプル片は、前記補修材を前記設置箇所で前記既設管の内壁に押圧する押圧力と同程度の押圧力で加圧されることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、サンプル片が硬化する際の条件を補修材が硬化する際の状態により近づけることができるので、補修材の硬化作業時間をより適切に設定することができる。
【0025】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の既設管の部分補修方法において、
前記サンプル片の加圧は、前記補修材の設置箇所の上流側又は下流側の管路内に配置された該管路を閉鎖する止水部材によって行われることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、補修作業を行う際に既設管の管路を閉鎖して管路内の流体の流れを止める止水部材をサンプル片の加圧に利用することができる。
【0027】
請求項に記載の発明は、請求項のいずれか1項に記載の部分補修方法を実行するための部分補修システムであって、
前記サンプル片の温度を検出する温度センサと、
該温度センサの検出結果に基づいて前記補修材の硬化作業終了時間を設定する制御部と、
該制御部が設定した硬化作業終了時間を通知する通知手段と、を備えたことを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、温度センサが検出したサンプル片の温度に基づいて補修材の硬化作業終了時間を自動的に設定し、これを通知手段により通知することができるので、硬化作業工程を最適化することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の既設管の部分補修方法及び該部分補修方法を実行するための部分補修システムによれば、地中に埋設された既設管の部分補修作業において、補修材の硬化作業工程の最適化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施形態である既設管の部分補修システムの説明図。
図2】サンプル片及び温度センサの設置場所の他の例を示す説明図。
図3】管路を部分的に補修する工程を説明する図。
図4】熱硬化性樹脂及び反応開始剤の混合物の温度の時間変化を示すグラフ。
図5】補修装置の変形例を説明する図3(b)と同様の図。
図6】サンプル片の設置態様の変形例の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、本発明の一実施形態である既設管の部分補修システムの説明図である。なお、本発明の説明に用いる図は、要部を強調して示しており、実際の寸法比を示すものではない。本実施の形態において、補修対象となる既設管は地中に埋設された下水管30である。下水管30は、地中に埋設された2つのマンホール40,41の間に、これらを連通するように配設されている。部分補修システム10は、下水管30の補修に用いられる補修材12と、下水管30内で補修材12を搬送する補修装置14と、補修装置14の制御を行う補修機制御装置16と、サンプル片20と、サンプル片20の温度を検出する温度センサ22と、温度センサ22と接続されるサンプル片温度記録装置24とを備える。
【0032】
補修材12は、熱硬化性樹脂に反応開始剤を添加した混合物を含浸基材に含浸させたものである。補修材12を構成する含浸基材としては、例えば、ガラス繊維、ポリエステル繊維などの繊維基材やフェルトなどの不織布を用いることができる。また、補修材12を構成する熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂等を単独で又は組み合わせて用いることができる。補修材12の厚さは、例えば硬化後の状態で2mm~15mm程度であり、一般に補修対象管の径が大きいほど厚さの大きい補修材12が用いられる。
【0033】
補修材12は、下水管30の形状に合わせて略円筒状に形成されており、未硬化状態では可撓性を有し、硬化後に補修対象となる下水管30の内径と対応する外径を有する。なお、補修材12は、未硬化状態のシートを一部が重なるように筒状に巻き付け、硬化した際にシートの重ね合わせ部分が一体化した円筒状に形成されるものであってもよい。補修材12は、必要に応じてその筒状体の内面及び外面を保護するインナーフィルム及びアウターフィルムを有する構成とすることができる。補修材12のインナーフィルム及びアウターフィルムとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどを用いることができる。インナーフィルムは補修材12が硬化した後に剥離される。
【0034】
補修材12の厚さは限定されるものではなく、対象となる下水管30の管路の径、地盤の地下水位や補修部分の長さ等に応じて適宜設定することができる。補修材12は、下水管30内を移動可能な補修装置14に取付けられて、設置箇所まで搬送される。
【0035】
補修装置14は、筒状に形成されて半径方向に膨張・収縮可能な本体部52と、本体部52に取付けられた複数の車輪54と、本体部52内に圧縮空気を導入する流体導入管56とを備える。
【0036】
本体部52はゴム材により構成され、両端部がそれぞれ蓋体により密閉されており、流体導入管56の一端は、一方の蓋体に形成された貫通孔に挿入され、この貫通孔を介して本体部52内に圧縮空気を導入する。流体導入管56の他端は、地上に配置される補修機制御装置16の空気供給手段に連結されている。空気供給手段としては、例えばコンプレッサを用いることができる。
【0037】
サンプル片20は、補修材12の硬化作業工程において、補修材12の硬化状態を間接的に確認するために用いられ、補修材12を構成する熱硬化性樹脂及び反応開始剤と同一成分の熱硬化性樹脂及び反応開始剤の混合物によって構成される。サンプル片20は、この混合物のみで構成されていてもよいが、補修材12を構成する含浸基材と同一の含浸基材に混合物を含浸させたものであることが好ましい。
【0038】
サンプル片20は、例えば、1辺が約5cm~10cmの正方形状又は長方形状のシート状とすることができる。サンプル片20の厚さは、補修材12の厚さと同等の厚さに形成することが好ましい。サンプル片20は未硬化状態で粘性の高い液状であるため、例えば、薄厚の透明のフィルムによって全表面を覆った状態で所定の箇所に設置される。サンプル片20を包むフィルムは、例えばポリエチレン等の樹脂材料を用いて形成することができるが、これに限られず、サンプル片20が硬化する際に発生する反応熱に対して耐熱性を有し、且つ温度センサ22がフィルムの影響をほぼ受けずにサンプル片20の温度を検出可能となるような材料や厚さのものを適宜選択して用いることができる。
【0039】
なお、図示していないが、サンプル片20は上部が開口した容器に収容した態様とすることができる。かかる場合、容器内のサンプル片20の上面に薄厚のフィルムを敷き、その上に温度センサ22を載置する。
【0040】
サンプル片20は、補修材12の硬化作業工程において、補修材12の設置箇所となる下水管30の補修部位と近い領域、すなわち、補修材12の設置箇所と周辺環境が約同一条件となる領域に設置される。ここで、周辺環境が約同一条件の領域とは、主に、周辺の地下水の状況がほぼ同じとなる領域であり、例えば、補修材12の設置箇所とほぼ等しい地中深さであって、補修材12の設置箇所と地下水の水位がほぼ等しくなる領域をいう。周辺環境が約同一条件となる領域として、具体的には、補修対象の下水管30と連通する他の近隣の下水管内や、補修対象の下水管30又は近隣の下水管に連結されたマンホール内を挙げることができ、このような場所に設置することで、地下水の状況のみならず、管路内の気温や湿度も近似させることができる。なお、マンホール内とは、マンホールの底部に形成されたインバート上も含む概念である。図1に示す部分補修システム10の例において、補修材12の設置箇所と周辺環境が近似する領域とは、例えば、下水管30に連結されたマンホール40又は41内(図1のサンプル片20の位置を参照)や、補修対象となる下水管30内であって補修箇所よりもマンホール40又は41に近い領域(例えば、図2において実線で示す下水管30内のサンプル片20の位置)や、補修対象となる下水管30と連通する近隣の下水管32又は34内(例えば、図2において仮想線で示す下水管32内のサンプル片20の位置)が挙げられる。本実施の形態では、サンプル片20を補修対象の下水管30の端部に連結された一方のマンホール40内に設置している。設置したサンプル片20は、温度センサ22により温度が検出される。
【0041】
温度センサ22は、サンプル片20に対して接触状態又は非接触状態で設置することができ、本実施の形態では、サンプル片20を覆うフィルムを介してサンプル片20上に載置される。温度センサ22は、ケーブル23を介して、地上に配置されたサンプル片温度記録装置24に接続されている。
【0042】
サンプル片温度記録装置24は、制御部と、通知手段とを備えている。制御部は、例えば、CPU等の情報処理手段、RAMやROM等の記憶手段、入出力インターフェイス等からなるマイクロコンピュータを備えて構成される。制御部は、温度センサ22の検出結果に基づいて、補修材12の硬化作業終了時間を設定する。通知手段は、制御部が設定した硬化作業終了時間を視覚的及び/又は聴覚的な方法で作業者に通知するものであり、例えば、硬化作業終了時間になった際にアラーム音を発生するアラーム装置とすることができる。
【0043】
次に、上述した補修システムを用いた補修材12による下水管30の部分補修方法について説明する。
【0044】
まず、補修材12を構成する熱硬化性樹脂に反応開始剤を添加した混合物を作成し、この混合物を含浸基材に含浸させて補修材12を作成するとともに、混合物の余剰分から、サンプル片20を作成する(補修材及びサンプル片の作成工程)。一般に、熱硬化性樹脂及び反応開始剤の混合は、補修対象となる下水管30の近辺の地上で行われる。
【0045】
次に、補修材12を補修装置14の本体部52に取付け、その後、補修装置14を下水管30内に導入するとともに、フィルムで覆われたサンプル片20を下水管30の端部に連結されたマンホール40の底部に設置する(補修材及びサンプル片の設置工程)。サンプル片20には温度センサ22が取付けられる。図1に示すように、作業時には、マンホール41,42に連結された補修対象外の下水管内に、止水部材であるパッカー35,36が配置され、下水の流れが堰き止められる。
【0046】
補修装置14は、地上から一方のマンホール40を介して下水管30に導入され、図3(a)に示すように、他方のマンホール41側から牽引ロープ57で牽引することにより、下水管30の補修場所まで搬送される。なお、図1では、牽引ロープ57及びこれを牽引する牽引装置の記載を省略している。図3(b)に示すように、補修材12は、設置箇所において補修装置14の本体部52を膨張させて拡径することにより、外周面が下水管30の内壁面に押圧された状態で接触し、設置状態となる。本体部52は、補修機制御装置16から流体導入管56を介して内部に圧縮空気が導入されることで膨張・拡径する。
【0047】
設置後、補修材12は下水管30の内壁への押圧状態を保持しながら硬化される(硬化工程)。その間、温度センサ22によりサンプル片20の温度(すなわち、混合物の温度)を継続的に検出し、サンプル片20の硬化反応過程における温度の変化から補修材12の硬化作業時間を設定する(硬化作業時間の設定工程)。具体的には、温度センサ22による温度の検出結果は、地上に配置されたサンプル片温度記録装置24の制御部へ送信され、制御部は、サンプル片20の硬化反応過程における温度のピーク値に基づいて硬化作業時間を設定する。
【0048】
補修材12の構成材料である熱硬化性樹脂に反応開始剤を添加・混合すると、図4(a)に示すように、この混合物は温度と時間との関係を表すグラフで、ほぼ一定の曲線形状を示すことが検証テストで確認されている。具体的には、混合物は、重合反応により硬化開始すると時間の経過とともに温度が上昇し、ピーク温度で重合反応が終了して、その後、温度がなだらかに下降する。
【0049】
図4(b)においてヒータ未使用時のグラフが示すように、本実施の形態において混合物の温度は、硬化反応が開始する(すなわち、熱硬化性樹脂に反応開始剤を添加・混合して重合反応が開始する)と、重合反応に伴う発熱反応によって上昇し、重合反応が終了すると温度が下降する。それ故、温度センサ22によりサンプル片20のピーク温度を検出することにより、サンプル片20の硬化反応の終了を検出することができ、これと同一成分の混合物からなり、かつ互いに近似する周辺環境にある補修材12の硬化時間をサンプル片20のピーク温度の発生時間から間接的に検知することができ、硬化作業終了時間は、サンプル片20のピーク温度発生時よりも後に設定される。なお、図4(b)において、硬化剤とは反応開始剤を意味し、施工機とは補修装置14を意味している。また、本実施の形態のサンプル片温度記録装置24では、図4に示す様なサンプル片20の温度の時間変化のグラフをモニタ表示や紙を用いた印刷表示等の視認可能な方法で表示することが可能である。
【0050】
本実施の形態では、硬化作業時間をサンプル片20の硬化反応温度がピーク温度に達した後、所定の養生時間を経過するまでとしている。補修材12は、養生時間の経過時まで下水管30の内壁に押圧された状態が維持される。養生時間は、例えば、20分以上であって40分以下に設定することができる。サンプル片20のピーク温度発生時から予め設定した養生時間が経過する、すなわち硬化作業終了時間になると、制御部は、通知手段であるアラーム装置を作動させ、アラーム音を発生させる。
【0051】
養生時間が経過した後、図3(c)に示すように、補修装置14の本体部52を収縮させて縮径し、下水管30内から補修装置14を撤去する。これにより、下水管30の一部が硬化した補修材12で被覆された状態となる。サンプル片20は、ピーク温度を検出した後に撤去することができ、本実施の形態では、補修装置14を撤去する際にサンプル片20をマンホール40内から撤去している。
【0052】
上述した部分補修方法では、補修材12と同一成分の混合物からなるサンプル片20とを補修材12の設置箇所と近似する環境に設置することで、サンプル片20と補修材12との硬化条件をほぼ同じくすることができ、このサンプル片20の硬化状態を確認することで、補修材12の硬化状態を間接的に知ることができる。一般に、補修装置14を用いて行う補修材12の設置箇所は、作業者が直接進入することができない狭い下水管30内であり、この下水管30内には、補修装置14の他に、施工状態を確認するためのTVカメラ装置等が導入されるため、補修材12に直接、温度センサによりを取付けて温度を検出することが困難な状況にある。また、補修材12に温度センサを取付けると、硬化後に作業困難な場所から温度センサを回収する手間が必要となり、作業が煩雑化してしまう。本実施の形態の補修方法では、サンプル片20を用いることにより、補修材12の硬化状態を直接検知することなく、設置場所に応じた補修材12の硬化作業時間をその都度設定することができるため、簡易な方法で作業時間の不要な長時間化を解消しながら、補修材12を確実に硬化させて、硬化作業工程の最適化を図ることができる。なお、本実施の形態において硬化作業工程とは、補修材12の硬化反応開始時から硬化作業終了時間まで(すなわち、養生時間経過時まで)をいう。
【0053】
また、温度センサ22によるサンプル片20の硬化反応過程における温度の変化に基づいて、硬化作業時間を設定しているので、硬化反応過程のピーク温度から硬化完了を適切に把握し、適切な作業時間を設定することができる。通常、ピーク温度の高さは、設置箇所の周辺環境によって変化し、例えば、下水管30,32,33内や、これに隣接するマンホール40,41内では、これらが周辺の地下水によって冷やされた状態にあり、サンプル片20はこれらによって熱が吸収されることにより、ピーク温度が地上で検出した場合よりも低くなる。しかし、地上、地中のいずれの場合であっても、硬化反応が行われている間は温度が上昇し、硬化反応が終了すると温度が下降することから、ピーク温度の発生時を検出することで硬化反応終了時を検知すること可能となり、硬化させる際のサンプル片20と補修材12の周辺環境を近似させることで、ピーク温度が発生するまでの時間を近似させて、補修材12の硬化時間を間接的に知ることが可能となる。
【0054】
また、サンプル片20の設置場所を補修対象となる下水管30に連結されたマンホール40内とすることで、サンプル片20が硬化する際の環境条件を容易に補修材12の設置箇所の環境条件と近似させることができ、硬化作業工程を複雑化することなく、作業時間を最適化することができる。さらに、本実施の形態では、サンプル片温度記録装置24により温度センサ22が検出したピーク温度に基づいて補修材12の硬化作業終了時間を自動的に設定し、アラーム装置により硬化作業終了時間をアラーム通知させているので、作業者が硬化状態を確認する手間をなくし、作業をより最適化すことができる。
【0055】
また、硬化作業工程において、サンプル片20の硬化反応温度がピーク温度に達した後、所定の養生時間経過するまでを補修材12の押圧状態を継続することで、硬化反応後に補修材12が温度低下によって収縮することを防止して、補修品質を高めることができる。
【0056】
次に、図5及び図6を用いて、上述した部分補修システムの変形例について説明する。なお、図5及び図6において、上述した実施の形態と対応する部位には同一符号を付している。また、以下の変形例において、上述した実施の形態と同一の構成や同一の作業工程については詳細な説明を省略する。
【0057】
(変形例1)
図5は、補修装置14の変形例を説明する図であり、下水管路を部分的に補修する工程を説明する図であって、図3(b)と同様に補修材12の設置箇所において補修装置14の本体部52を膨張させて拡径した状態を示している。
【0058】
変形例の補修装置14では、本体部52の内部に加熱手段55が配設されている。本変形例では、加熱手段55としてヒータを用いている。加熱手段55は図示していないケーブルを介して地上に配置される施工車28に搭載された補修機制御装置16に接続され、補修機制御装置16により通電状態が制御される。
【0059】
この補修装置14を用いた補修方法では、補修材及びサンプル片の設置工程の後、硬化工程において、補修装置14の本体部52により補修材12の下水管30内壁への押圧状態を保持し、かつ加熱手段55によって補修材12を加熱しながら補修材12を硬化する。その間、温度センサ22によりサンプル片20の温度を継続的に検出し、サンプル片20の硬化反応過程における温度の変化から補修材12の硬化作業時間を設定する(硬化作業時間の設定工程)。
【0060】
図4(b)においてヒータ使用時のグラフが示すように、混合物の温度は、硬化反応が開始すると、重合反応に伴う発熱反応によって上昇し、重合反応が終了すると温度が下降するとともに、ヒータ使用時においては、ヒータ未使用時に比してピーク温度が発生するタイミングが早くなる。すなわち、硬化工程で、補修材12を加熱することにより硬化時間は短くなり、ヒータによる加熱がなされていないサンプル片20のピーク温度を温度センサ22で検出し、ピーク温度発生後に硬化作業完了時間を設定することで、補修材12の硬化がより確実なものとなる。温度センサ22の検出結果は、地上に配置されたサンプル片温度記録装置24の制御部へ送信され、制御部は、サンプル片20の温度のピーク値の発生により硬化作業時間を設定する。本変形例において、硬化作業時間は、サンプル片20の硬化反応温度がピーク温度に達した後、所定の養生時間を経過するまでであり、この養生時間は、ヒータ使用時よりも短い時間(例えば、15分以上)とすることができる。養生時間が経過した後、補修装置14の本体部52を収縮させて縮径し、下水管30内から補修装置14を撤去する。
【0061】
加熱手段55は、サンプル片20がピーク温度に達した後、設定された養生時間の間に停止することが好ましい。一例として、養生時間を15分とした場合、ピーク温度発生から10分経過まで加熱手段55を通電状態とし、その後、加熱手段55を停止し、さらに5分間、加熱を停止した状態で補修材12の下水管30内壁への押圧状態を継続させるようにすることができる。このように、養生時間が経過する前に加熱手段55を停止し、その後、養生時間が経過するまでの間、補修材12の押圧状態を継続することで、補修材12の温度が急激に低下して補修材12の管径が収縮することを防止することができ、補修品質を高めることができる。
【0062】
(変形例2)
図6は、サンプル片20の設置態様の変形例の説明図である。本変形例では、サンプル片20の設置工程において、サンプル片20を加圧手段29により加圧し、硬化工程において、加圧状態にあるサンプル片20の温度を温度センサ22により検出する。サンプル片20は、加圧手段29により、補修材12の下水管30内壁への押圧力と同等の押圧力で加圧される。補修材12の押圧力は、例えば0.05MPa~0.1MPa、好ましくは0.07MPa~0.09MPaであり、例えば、補修材12の押圧力を0.08MPaとした際にサンプル片20の押圧力を0.82Kg/cmとすることができる。
【0063】
加圧手段29としては、例えば所定の大きさ及び質量を有する重りを用いることができる。重りは、鉛等の金属材料や、樹脂材料、コンクリート等、適宜の材料を用いることができるが、比重が高く熱伝導率の低い材料で形成されることが好ましい。
【0064】
このように、硬化工程において、サンプル片20に対して補修材12と同等の押圧力を付与することで、サンプル片20が硬化する際の条件を補修材12が硬化する際の状態により近づけることができるので、サンプル片20と補修材12の硬化時間をより近似させることができ、硬化作業時間をより適切に設定することが可能となる。また、図示していないが、サンプル片20を容器に収容した態様とした場合には、サンプル片20が加圧部材29に押し潰されることによる形状変化を抑止することができる。
【0065】
さらに、加圧手段の変形例として、管路を閉鎖する止水部材35,36を用いることができる。図6では、止水部材35により加圧されるサンプル片20の状態を仮想線で示している。このように、サンプル片20を止水部材35により補修材12と同程度の押圧力で加圧することで、補修システム10の構成部材が増加することを防止しながら、サンプル片20の硬化条件を補修材12と近似させて、硬化作業時間を適切に設定することが可能となる。
【0066】
なお、本発明は上述した実施の形態及び変形例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、補修対象となる既設管は、下水管に限られず、農業用水路管や工業用水路管等であってもよい。
【0067】
また、上述した実施の形態では、サンプル片20の温度を検出して硬化作業時間を設定しているが、硬化作業時間の設定工程において、温度によらず、作業者がサンプル片20の硬化状態を感触等で確認することにより、補修材12の硬化作業時間を設定してもよい。
【符号の説明】
【0068】
10 補修材
14 補修装置
16 補修機制御装置
20 サンプル片
22 温度センサ
24 サンプル片温度記録装置
29 加圧手段
30 下水管
35,36 止水部材
40,41 マンホール
55 加熱手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6