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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】機能性ポリオレフィン
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20220929BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220929BHJP
   B05D 7/02 20060101ALI20220929BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220929BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20220929BHJP
   C08F 220/34 20060101ALI20220929BHJP
   C08F 220/36 20060101ALI20220929BHJP
   C08F 220/24 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B32B27/32 C
B32B27/30 Z
B05D7/02
B05D7/24 302P
B05D7/24 302G
C08J7/04 U CEY
C08F220/34
C08F220/36
C08F220/24
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018231032
(22)【出願日】2018-12-10
(65)【公開番号】P2020093413
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-09-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年7月13日に、「第64回高分子研究発表会(神戸)」において発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 達生
(72)【発明者】
【氏名】原 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】西野 孝
(72)【発明者】
【氏名】北畑 繁
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 武
(72)【発明者】
【氏名】柏原 健二
(72)【発明者】
【氏名】岡野 祥平
(72)【発明者】
【氏名】志賀 健治
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-154131(JP,A)
【文献】特開2018-070716(JP,A)
【文献】特開平05-293937(JP,A)
【文献】特開2012-052843(JP,A)
【文献】Daegyung Sung et al.,Facile Immobilization of Biomolecules onto Various Surfaces Using Epoxide-Containing Antibiofouling Polymers,Langmuir,American Chemical Society,2012年,vol.28,p.4507-4514
【文献】Kaya Tokuda et al.,Highly Water Repellent but Highly Adhesive Surface with Segregation of Poly(ethylene oxide) Side Chains,Langmuir,American Chemical Society,2015年,vol.31,p.209-214
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
B05D 1/00- 7/26
C08J 7/04- 7/06
C08C 19/00- 19/44
C08F 6/00-246/00、301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にコーティング層を有し、
上記コーティング層が、アミノ基を有する構造単位およびフルオロ化炭化水素基を有する構造単位を含む(メタ)アクリレート樹脂と、変性ポリオレフィン樹脂を含み、
上記アミノ基を有する構造単位が、下記式で表されるものであることを特徴とする機能性ポリオレフィン。
【化1】
[式中、
1 はHまたはメチル基を示し、
Xは、式-Y-CR 2 3 -CR 4 5 -(-O-CR 2 3 -CR 4 5 -) n -(式中、YはOまたはNHであり、R 2 ~R 5 は、独立してHまたはC 1-6 アルキル基を示し、nは6以上の整数である。)で表されるリンカー基を示す。]
【請求項2】
上記フルオロ化炭化水素基がC2-15パーフルオロアルキル基である請求項1に記載の機能性ポリオレフィン。
【請求項3】
上記変性ポリオレフィン樹脂が、クロロ、ブロモおよびヨードからなる群より選択される1以上のハロゲノ基、並びに/または、カルボン酸基を有するものである請求項1または2に記載の機能性ポリオレフィン。
【請求項4】
更にアニオン性生体高分子を含み、当該アニオン性生体高分子が上記アミノ基を介して結合している請求項1~のいずれかに記載の機能性ポリオレフィン。
【請求項5】
上記アニオン性生体高分子が、DNAおよび/またはRNAである請求項に記載の機能性ポリオレフィン。
【請求項6】
上記(メタ)アクリレート樹脂における、(メタ)アクリレート単位:アミノ基を有する構造単位:フルオロ化炭化水素基を有する構造単位の割合が、モル比で60~85:5~20:5~30(合計100)である請求項1~5のいずれかに記載の機能性ポリオレフィン。
【請求項7】
上記(メタ)アクリレート樹脂に対する上記変性ポリオレフィン樹脂の割合が0.25質量倍以上、5質量倍以下である請求項1~6のいずれかに記載の機能性ポリオレフィン。
【請求項8】
機能性ポリオレフィンを製造するための方法であって、
ポリオレフィンを、アミノ基を有する構造単位およびフルオロ化炭化水素基を有する構造単位を含む(メタ)アクリレート樹脂と、変性ポリオレフィン樹脂を含む溶液に浸漬する工程を含み、
上記アミノ基を有する構造単位が、下記式で表されるものであり、
【化2】
[式中、
1 はHまたはメチル基を示し、
Xは、式-Y-CR 2 3 -CR 4 5 -(-O-CR 2 3 -CR 4 5 -) n -(式中、YはOまたはNHであり、R 2 ~R 5 は、独立してHまたはC 1-6 アルキル基を示し、nは6以上の整数である。)で表されるリンカー基を示す。]
上記溶液における上記(メタ)アクリレート樹脂の濃度が1質量%以上であり、且つ上記変性ポリオレフィン樹脂の濃度が0.1質量%以上、2質量%以下であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA等のアニオン性生体高分子を固定化することもできる機能性ポリオレフィン、および当該機能性ポリオレフィンの好適な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
材料表面の機能化は幅広い分野で求められており、ペプチドやDNAなどの機能性物質を表面に固定化したものはバイオチップなどのデバイスとして用いられる。近年、バイオチップ基板として安価に大量生産できる樹脂材料の使用が増加しているが、耐薬品性や非特異的な分子吸着が課題である。こうした課題を克服できる材料として、ポリオレフィンが広く知られている。ポリオレフィンは化学耐性に優れ、非特異的な分子吸着が比較的少なく多用されている材料である。ポリオレフィンの中でもポリプロピレンは耐薬品性などに加えて加工性にも比較的優れるため、容器やピペットマンチップなどの材料として利用されている。
【0003】
上記のポリオレフィンの利点は、非極性や低表面自由エネルギー、すなわち低反応性によるといえる。しかし反応性が乏しいということは、表面修飾が困難であるという不利点の原因ともなる。事実、未処理のポリオレフィン表面への塗装や接着は難しく、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、クロム酸処理、研磨処理などが事前に必要となる。これら物理的処理は煩雑であり、工業的に不利になるのみでなく、凹凸や曲面を有する成形品への均一処理が難しいという問題がある。
【0004】
ポリオレフィンの表面処理として、塗料や接着剤などとポリオレフィンとの両方に親和性の高いプライマーを塗布するプライマー処理が知られている。プライマー処理はディップコートや噴霧といった簡便な操作で行うことができ、また、凹凸や曲面を有する成形品への均一処理も可能である。プライマー処理といえるものではないが、非特許文献1には、環状オレフィン共重合体(COC)の表面に、疎水性相互作用を利用して、ドデシル基またはフェニル基、ポリエチレングリコール基およびエポキシ基を側鎖に有するポリメチルメタクリレート層を形成し、COC表面に生体分子を結合させる方法が記載されている。
【0005】
非特許文献2には、側鎖にフルオロ炭化水素基とポリエチレングリコール基を有するアクリレート系共重合体により、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン共重合体(P(2F-4F))とポリメチルメタクリレートとの混合マトリックス樹脂の表面に、撥水性と共に接着性を付与する技術が開示されている。かかる混合マトリックス樹脂の表面にはPEG鎖が提示されているため、親油性の汚れも付着し難いと考えられる。
【0006】
本発明者らは、不活性なポリオレフィンの表面へ簡便かつ安定的に機能性基を導入することができる機能性ポリオレフィンの製造方法を開発している(特許文献1)。かかる方法では、ポリオレフィンを、機能性基およびフルオロ化炭化水素基を有する(メタ)アクリレート樹脂と変性ポリオレフィン樹脂との混合樹脂でコーティングすることにより、ポリオレフィンの表面に機能性基を提示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-154131号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Daekyung Sungら,Langmuir,2012,28,4507-4514
【文献】Kaya Tokudaら,Langmuir,2015,31,209-214
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、本発明者らはポリオレフィンの表面に機能性基を導入する技術を開発している。具体的には、表面にポリエチレングリコール基やカルボキシ基を有するポリオレフィンの製造に成功している。
しかし本発明者らは、表面にカルボキシ基を導入したポリオレフィンには、DNA等のアニオン性生体高分子を固定化できないことを実験的に確認した。
そこで本発明は、アニオン性生体高分子の固定化が可能な機能性ポリオレフィン、および、当該機能性ポリオレフィンの好適な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、表面にアミノ基が提示された機能性ポリオレフィンであれば、アニオン性生体高分子の固定化も可能であることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0011】
[1] 表面にコーティング層を有し、
上記コーティング層が、アミノ基を有する構造単位およびフルオロ化炭化水素基を有する構造単位を含む(メタ)アクリレート樹脂と、変性ポリオレフィン樹脂を含むことを特徴とする機能性ポリオレフィン。
【0012】
[2] 上記アミノ基を有する構造単位が、下記式で表されるものである上記[1]に記載の機能性ポリオレフィン。
【化1】
[式中、R1はHまたはメチル基を示し、Xはリンカー基を示す。]
【0013】
[3] 上記リンカー基が、式-Y-CR23-CR45-(-O-CR23-CR45-)n-(式中、YはOまたはNHであり、R2~R5は、独立してHまたはC1-6アルキル基を示し、nは6以上の整数である。)で表されるものである上記[2]に記載の機能性ポリオレフィン。
【0014】
[4] 上記フルオロ化炭化水素基がC2-15パーフルオロアルキル基である上記[1]~[3]のいずれかに記載の機能性ポリオレフィン。
【0015】
[5] 上記変性ポリオレフィン樹脂が、クロロ、ブロモおよびヨードからなる群より選択される1以上のハロゲノ基、並びに/または、カルボン酸基を有するものである上記[1]~[4]のいずれかに記載の機能性ポリオレフィン。
【0016】
[6] 更にアニオン性生体高分子を含み、当該アニオン性生体高分子が上記アミノ基を介して結合している上記[1]~[5]のいずれかに記載の機能性ポリオレフィン。
【0017】
[7] 上記アニオン性生体高分子が、DNAおよび/またはRNAである上記[6]に記載の機能性ポリオレフィン。
【0018】
[8] 機能性ポリオレフィンを製造するための方法であって、
ポリオレフィンを、アミノ基を有する構造単位およびフルオロ化炭化水素基を有する構造単位を含む(メタ)アクリレート樹脂と、変性ポリオレフィン樹脂を含む溶液に浸漬する工程を含み、
上記溶液における上記(メタ)アクリレート樹脂の濃度が1質量%以上であり、且つ上記変性ポリオレフィン樹脂の濃度が0.1質量%以上、2質量%以下であることを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の機能性ポリオレフィンには、従来、ポリオレフィン表面への固定化が難しかったアニオン性生体高分子を良好に固定化することができる。よって本発明の機能性ポリオレフィンは、アニオン性生体高分子を固定化することによりバイオチップなどとして利用できるため、産業上非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、コーティング層を構成する(メタ)アクリレートの主鎖とアミノ基を連結するポリエチレングリコール基の長さと、ポリオレフィン表面に存在するアミノ基の密度との関係を示すグラフである。
図2図2は、コーティング層を形成するための溶液中の(メタ)アクリレート樹脂の濃度と、ポリオレフィン表面に存在するアミノ基の密度との関係を示すグラフである。
図3図3は、コーティング層を形成するための溶液中の変性ポリオレフィン樹脂の濃度と、ポリオレフィン表面に存在するアミノ基の密度との関係を示すグラフである。
図4図4は、原料ポリオレフィン、表面にカルボキシ基を導入した機能性ポリオレフィン、および表面にアミノ基を導入した本発明の機能性ポリオレフィンの表面に固定化されたDNAの密度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る機能性ポリオレフィンは、表面にコーティング層を有し、当該コーティング層が、アミノ基を有する構造単位およびフルオロ化炭化水素基を有する構造単位を含む(メタ)アクリレート樹脂と、変性ポリオレフィン樹脂を含むことを特徴とする。
【0022】
本発明において原材料として用いる「ポリオレフィン」は、ポリオレフィンを主な材料とするものであり、既にポリオレフィン製品として流通しているものや、ポリオレフィン基材などポリオレフィン製品のための中間製品、および、成形されたポリオレフィンのみならず、成形前のポリオレフィン材料などを含むものである。
【0023】
ポリオレフィンとは、その構造中に少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有するオレフィンモノマーの重合体をいう。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテンなどのポリ-α-オレフィン;ポリブタジエンなどのポリジオレフィン;ポリノルボルネンやポリ-ビシクロ[3.2.1]オクタ-2-エンなどのポリ環状オレフィンを挙げることができ、ポリ-α-オレフィンが好ましく、ポリエチレンまたはポリプロピレンがより好ましく、生物化学分野製品で汎用されているポリプロピレンがさらに好ましい。
【0024】
ポリオレフィンは、アイソタクチックポリプロピレンであってもよい。アイソタクチックポリプロピレンは、メチル基が同じ側に規則正しく並んだ構造を有するポリプロピレンであり、結晶性を示す。アイソタクチックポリプロピレンは、0.5質量%以上、2質量%以下程度のシンジオタクチックポリプロピレンおよび/またはアタクチックポリプロピレンを含んでいてもよい。
【0025】
「ポリオレフィンを主な材料」とするとは、主要な材料がポリオレフィンであることを意味し、例えば、材料全体に対するポリオレフィンの割合が50質量%以上であるものをいう。当該割合としては、60質量%以上または80質量%以上が好ましく、90質量%以上または95質量%以上がより好ましく、98質量%以上がさらに好ましい。或いは、不可避的不純物など以外、実質的にポリオレフィンのみからなることが好ましい。
【0026】
ポリオレフィン製品としては、例えば、ポリ容器やビニール袋、生物化学分野製品で用いられるピペットマンチップ、エッペンドルフチューブ、PCRチューブ、マイクロプレート、シャーレなどを挙げることができる。ポリオレフィン中間製品としては、例えば、バイオチップ基板、センサー部品、フィルタ、多孔質膜などを挙げることができる。
【0027】
本発明においてポリオレフィンをコーティングする(メタ)アクリレート樹脂は、アミノ基を有する構造単位とフルオロ化炭化水素基を有する構造単位を含む。
【0028】
本発明において(メタ)アクリレート樹脂の基本骨格は、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、およびアクリル酸-メタクリル酸共重合体のいずれであってもよい。また、アミノ基を有する構造単位とフルオロ化炭化水素基を有する構造単位の他、アクリル酸エステル単位および/またはメタクリル酸エステル単位や、ナトリウム塩などアクリル酸塩単位および/またはメタクリル酸塩単位などの(メタ)アクリレート単位を含んでいてもよい。エステルとしては、C1-6アルキルエステルを挙げることができ、C1-4アルキルエステルが好ましく、C1-2アルキルエステルがより好ましく、メチルエステルがより更に好ましい。
【0029】
フルオロ化炭化水素基は、主にその高い表面自由エネルギーにより、(メタ)アクリレート樹脂をコーティング層の表面に偏析させる機能を有する。その結果、アミノ基がコーティング層に埋没することなく、表面に提示される。なお、本発明者らの実験的知見によれば、カルボン酸基を有する変性ポリオレフィン樹脂のみでポリオレフィンをコーティングしたが、カルボン酸基はおそらくコーティング層中に埋没してしまい、表面に十分に提示されなかった。
【0030】
フルオロ化炭化水素基の炭素数は適宜調整すればよいが、2以上15以下が好ましく、4以上10以下がより好ましい。また、フルオロ化炭化水素基においては、炭化水素基の水素原子の80原子%以上がフルオロ化されていることが好ましい。当該割合としては、90原子%以上がより好ましく、95原子%以上がさらに好ましく、全ての水素原子がフルオロ基に置換されているパーフルオロアルキル基が特に好ましい。
【0031】
ポリオレフィンをコーティングする(メタ)アクリレート樹脂は、アミノ基を有する構造単位を含む。当該(メタ)アクリレート樹脂は、上述した通りフルオロ化炭化水素基を有する構造単位も含む。フルオロ化炭化水素基は電気陰性度の高いフロオロ基によりマイナスに帯電しているため、上記(メタ)アクリレート樹脂でコーティングされたポリオレフィンの表面は、アニオン性生体高分子が接近し難い環境にあるといえる。よって、本発明者らの実験的知見によれば、コーティング層の表面にカルボキシ基を提示したポリオレフィンに十分量のアニオン性生体高分子を固定化することはできなかった。それに対して、コーティング層の表面にアミノ基を提示したポリオレフィンには十分量のアニオン性生体高分子を固定化できることが実験的に確認されている。
【0032】
アミノ基およびフルオロ化炭化水素基は、(メタ)アクリレート樹脂の側鎖カルボキシ基を介して導入すればよい。例えば、保護されたアミノ基またはフルオロ化炭化水素基に置換されたアルコール化合物やアミノ化合物と、(メタ)アクリレート樹脂の主鎖を構成する(メタ)アクリル酸のカルボキシ基との間でエステル結合またはアミド結合を形成させた上で、(メタ)アクリレート系モノマーとラジカル共重合をさせればよい。或いは、保護されたアミノ基およびフルオロ化炭化水素基は、リンカー基を介して(メタ)アクリル酸のカルボキシ基に結合していてもよい。リンカー基は、(メタ)アクリレート系モノマーの合成を容易にしたり、コーティング層表面へのアミノ基の提示を促進する作用を示す。
【0033】
上記リンカー基は、上記作用を示すものであれば特に制限されないが、例えば、C1-6アルキレン基、エーテル基(-O-)、チオエーテル基(-S-)、カルボニル基(-C(=O)-)、チオニル基(-C(=S)-)、エステル基(-O-C(=O)-または-C(=O)-O-)、アミド基(-NH-C(=O)-または-C(=O)-NH-)、ウレア基(-NH-C(=O)-NH-)、チオウレア基(-NH-C(=S)-NH-)、ポリアルキレングリコール基、およびポリビニルアルコール基;および、2以上、5以下のこれら基が連結された基が挙げられる。連結された基としては、例えば、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、チオニル基、エステル基、アミド基、ウレア基、チオウレア基、ポリアルキレングリコール基、およびポリビニルアルコール基からなる群より選択される基を一端または両端に有するC1-6アルキレン基を挙げることができる。
【0034】
ポリアルキレングリコール基とポリビニルアルコール基は、上記(メタ)アクリレート樹脂へ親水性を付与することにより、親油性汚れの付着を抑制することも可能になる。また、ポリアルキレングリコール基とポリビニルアルコール基の自由体積効果により、上記(メタ)アクリレート樹脂がコーティング層の表面に偏在することになる。ポリアルキレングリコール基:-(-O-CR23-CR45-)n-およびポリビニルアルコール基:-(CR67-CR8(OH)-)m-の重合数nおよびmは特に制限されず、適宜調整すればよいが、例えば、4以上50以下とすることができる。当該重合数が4以上であれば、水溶性向上効果や防汚効果などをより確実に発揮させることができる。一方、当該重合数が50以下であれば、上記変性ポリオレフィン樹脂と十分に相溶させることができる。当該重合数としては、6以上がより好ましく、8以上がさらに好ましく、また、40以下または20以下がより好ましく、16以下または14以下がさらに好ましい。また、R2~R8は、独立してHまたはC1-6アルキル基を示す。
【0035】
上記(メタ)アクリレート樹脂における(メタ)アクリレート単位、アミノ基を有する構造単位、およびフルオロ化炭化水素基を有する構造単位の割合は、適宜調整すればよいが、例えば、モル比で60~85:5~20:5~30(合計100)とすることができる。なお、「x~y」の範囲には、xおよびyが含まれるものとする。
【0036】
上記(メタ)アクリレート樹脂は、(メタ)アクリレート単位、アミノ基を有する構造単位、およびフルオロ化炭化水素基を有する構造単位に対応するモノマーを共重合させることにより製造することができる。なお、上記(メタ)アクリレート樹脂は高分子であることから分析が困難であり、その構造を具体的に特定することは極めて難しい。よって、上記(メタ)アクリレート樹脂における各構造単位の割合は、共重合反応に用いた各モノマーのモル比として把握される。
【0037】
本発明で用いる「変性ポリオレフィン樹脂」は、ポリオレフィン系樹脂であるが故にポリオレフィンの表面に対する接着性が高い上に、変性されているが故に上記(メタ)アクリレート樹脂との親和性に優れるものである。即ち、ポリオレフィン自体は官能基を有さないためにポリオレフィンの表面は不活性であり、プラズマ処理や火炎処理など煩雑な事前処理を施さない限り、機能性基の導入やコーティングが難しい。しかし変性ポリオレフィン樹脂を用いることにより、ポリオレフィンの表面を上記(メタ)アクリレート樹脂を含むコーティング層で被覆することが可能になる。
【0038】
変性ポリオレフィン樹脂としては、クロロ基、ブロモ基およびヨード基からなる群より選択される1以上のハロゲノ基、並びに/または、カルボン酸基がポリオレフィン主鎖にグラフト付加しているものが好ましい。
【0039】
ハロゲノ基は、ポリオレフィンの極性を高めることにより、上記(メタ)アクリレート樹脂に対する親和性を高めるのみでなく、溶媒に対する溶解性を高める作用効果を示す。また、カルボン酸基は、水素結合などにより、上記(メタ)アクリレート樹脂に対する親和性を高める。ハロゲノ基やカルボン酸基は、ポリオレフィン主鎖に直接結合していてもよいし、上記で例示したリンカー基を介して結合していてもよいものとする。また、カルボン酸基には、カルボキシ基の他、カルボン酸無水物基も含まれる。カルボン酸無水物基としては、例えば、無水コハク酸基や無水マレイン酸基を挙げることができる。これらハロゲノ基およびカルボン酸基の導入量は適宜調整すればよいが、例えば、変性ポリオレフィン樹脂全体に対して10質量%以上、40質量%以下の範囲で調整することができる。
【0040】
変性ポリオレフィン樹脂はこれらハロゲノ基またはカルボン酸基のいずれか一方または両方で変性されていればよく、各基の導入量は適宜調整すればよい。例えば変性ポリオレフィン樹脂のハロゲノ基の導入量は、変性ポリオレフィン樹脂に対して5質量%以上、40質量%以下が好ましい。当該割合が5質量%以上であると、溶液安定性が特に良好となり、40質量%以下では、変性ポリオレフィン樹脂の結晶性が向上し、ポリオレフィンとの密着性が特に良好である。上記割合としては、8質量%以上がより好ましく、10質量%以上がより更に好ましく、12質量%以上が特に好ましく、14質量%以上が最も好ましく、また、38質量%以下がより好ましく、35質量%以下がより更に好ましく、32質量%以下が特に好ましく、30質量%以下が最も好ましい。変性ポリオレフィン樹脂のハロゲノ基の導入量は、例えばハロゲノ基がクロロ基である場合、JIS K-7229-1995に準じて滴定によって測定することができる。
【0041】
変性ポリオレフィン樹脂のカルボン酸基の導入量としては、変性ポリオレフィン樹脂に対して0.1質量%以上、10質量%以下が好ましい。当該割合としては、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がより更に好ましく、0.8質量%以上が特に好ましく、1質量%以上が最も好ましく、また、8質量%以下がより好ましく、7質量%以下がより更に好ましく、6質量%以下が特に好ましく、5質量%以下が最も好ましい。カルボン酸基として無水マレイン酸基を導入した場合の導入量は、FT-IRにより求めることができる。FT-IR測定装置としては、例えば島津製作所社製のFT-IR8200PCが挙げられる。具体的な測定条件としては、まず無水マレイン酸を任意の濃度で溶解して検量線溶液を作製する。検量線溶液のFT-IR測定を行い、無水マレイン酸のカルボニル(C=O)基の伸縮ピーク(1780cm-1)の吸光度より検量線を作成する。変性ポリオレフィン樹脂をクロロホルムに溶解させてFT-IR測定を行い、前記検量線をもとに無水マレイン酸のカルボニル結合の伸縮ピーク(1780cm-1)の吸光度より無水マレイン酸による酸変性量を求める。
【0042】
変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量(Mw)は、40,000以上、170,000以下の範囲であることが好ましい。当該重量平均分子量が40,000以上では、凝集力が強くなりポリオレフィンとの密着性に優れる傾向があり、170,000以下では、溶解性が良好である。当該重量平均分子量としては、50,000以上がより好ましく、60,000以上がより更に好ましく、70,000以上が特に好ましく、80,000以上が最も好ましく、また、160,000以下がより好ましく、150,000以下がより更に好ましく、140,000以下が特に好ましく、130,000以下が最も好ましい。本発明における重量平均分子量は、標準物質としてポリスチレン樹脂を用い、移動相としてテトラヒドロフランを用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」ともいう。)によって40℃の雰囲気下で測定した値をいうものとする。
【0043】
変性ポリオレフィン樹脂は、エチレンやプロピレンなどのオレフィンモノマーに加えて、上記ハロゲノ基および/またはカルボン酸基を側鎖に有するオレフィンモノマーを共重合させることにより製造することができる。また、ポリプロピレンやポリエチレンなどのオレフィンポリマーに、上記ハロゲノ基および/またはカルボン酸基を有する化合物をグラフト共重合させることによっても製造することができる。変性ポリオレフィン樹脂におけるハロゲノ基および/またはカルボン酸基の含有量は、上記オレフィンモノマーや上記化合物の使用割合により調整可能である。
【0044】
ポリオレフィンの表面をコーティングする上記(メタ)アクリレート樹脂と変性ポリオレフィン樹脂の混合割合は特に制限されず、適宜調整すればよいが、例えば、上記(メタ)アクリレート樹脂に対する上記変性ポリオレフィン樹脂の割合を0.25質量倍以上、5質量倍以下程度にすることが好ましい。当該割合が0.25質量倍以上であれば、ポリオレフィン表面へのコーティング層の接着性をより確実に確保することができる。一方、当該割合が5質量倍以下であれば、上記(メタ)アクリレート樹脂が有するアミノ基の機能がより効果的に発揮される。当該割合としては、0.5質量倍以上が好ましく、また、2質量倍以下が好ましく、1.5質量倍以下がより好ましい。
【0045】
次に、本発明に係る機能性ポリオレフィンの製造方法について説明する。
1.コーティング工程
本工程では、ポリオレフィンの表面を、アミノ基を有する構造単位およびフルオロ化炭化水素基を有する構造単位を含む(メタ)アクリレート樹脂と変性ポリオレフィン樹脂との混合樹脂でコーティングする。
【0046】
上記変性ポリオレフィン樹脂が溶媒に溶解可能である場合、上記(メタ)アクリレート樹脂と変性ポリオレフィン樹脂を溶媒に溶解して溶液とし、得られた溶液を使うことにより、ディップコーティング、スプレーコーティング、ブラシコーティング、スピンコーティングなどの簡便な方法でポリオレフィンをコーティングすることが可能になる。
【0047】
上記溶液の溶媒は、上記変性ポリオレフィン樹脂などに対する溶解性や除去の容易さなどを考慮して適宜選択すればよいが、例えば、クロロベンゼンやトルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒;脂肪族炭化水素系溶媒;アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;酢酸エチルなどのエステル系溶媒;およびこれら溶媒を2以上含む混合溶媒などを挙げることができる。
【0048】
上記溶液の濃度は適宜調整すればよいが、例えば、上記(メタ)アクリレート樹脂の濃度としては0.1質量%以上、10質量%以下とすることができる。当該濃度としては1質量%以上が好ましい。当該濃度が1質量%以上であれば、ポリオレフィンの表面に十分量のアミノ基をより確実に提示させることができる。当該濃度としては、2質量%以上または3質量%以上がより好ましく、4質量%以上がより更に好ましい。また、変性ポリオレフィン樹脂の濃度としては、0.1質量%以上、10質量%以下とすることができる。当該濃度が0.1質量%以上であれば、ポリオレフィンに対するコーティング層の接着性がより確実に確保される。当該濃度としては、0.25質量%以上が好ましく、また、5質量%以下または2質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下または1質量%以下がより更に好ましい。当該濃度が低いほど、ポリオレフィンの表面に十分量のアミノ基をより確実に提示させることができる。上記(メタ)アクリレート樹脂と変性ポリオレフィン樹脂の合計濃度を0.2質量%以上、20質量%以下程度とすることができる。溶液の作製時には、溶媒の沸点未満で加熱してもよい。
【0049】
ポリオレフィンを上記溶液に浸漬するか、或いはポリオレフィンに上記溶液を噴霧または塗布した後は、乾燥することにより上記溶媒を留去してコーティング層を形成することが好ましい。但し、下記の加熱処理工程を行う場合には、乾燥処理に続いて加熱処理を行ってもよいが、加熱処理は乾燥処理を兼ねるため、乾燥処理を別途行う必要はない。
【0050】
また、上記(メタ)アクリレート樹脂のアミノ基が保護されている場合には、保護基に応じた脱保護反応を、コーティング層を形成した段階か或いは次工程で行うことが好まし。
【0051】
2.加熱処理工程
本工程では、上記(メタ)アクリレート樹脂と変性ポリオレフィン樹脂の混合樹脂を含むコーティング層を表面に形成したポリオレフィンを、上記変性ポリオレフィン樹脂の融点以上、融点+40℃以下で加熱する。本工程の実施は任意であり、実施しなくてもよいが、実施することによりおそらく上記変性ポリオレフィン樹脂の少なくとも一部が溶融し、コーティング層表面への上記(メタ)アクリレート樹脂の偏析が促進されると考えられる。
【0052】
加熱処理時間は特に制限されず、適宜調整すればよいが、例えば、1時間以上、24時間以内とすることができる。
【0053】
上記コーティング工程を経て、または上記コーティング工程と加熱処理工程を経て製造された機能性ポリオレフィンでは、表面に上記(メタ)アクリレート樹脂と変性ポリオレフィン樹脂の混合樹脂コーティング層が形成されている。当該コーティング層は、上記変性ポリオレフィン樹脂の作用により不活性なポリオレフィン基材の表面への接着性が高く、また、その表面には上記(メタ)アクリレート樹脂が偏析しており、アミノ基が表面に露出していると考えられる。かかるアミノ基を介して、本発明に係る機能性ポリオレフィンの表面にアニオン性生体高分子を固定することができる。
【0054】
アニオン性生体高分子としては、全体としてマイナス電荷を有する生体高分子であれば特に制限されない。例えば、リン酸ジエステル基により全体としてマイナス電荷を有するDNAおよびRNA、塩基性アミノ酸残基に比べてアスパラギン酸およびグルタミン酸の酸性アミノ酸残基をより多く含むタンパク質やペプチド、および、ヒアルロン酸など酸性基を有する酸性多糖類を挙げることができる。
【0055】
本発明の機能性ポリオレフィンにアニオン性生体高分子を固定化する方法は適宜選択すればよく、特に制限されない。例えば、本発明の機能性ポリオレフィンの表面に提示されているアミノ基に、アニオン性生体高分子を直接反応させてもよい。その場合には、例えばアニオン性生体高分子に含まれるカルボキシ基を活性エステル化したり、酸クロライド化したり、縮合剤を用いてもよいし、アニオン性生体高分子にアミノ基と反応する反応性官能基を導入してもよい。或いは、機能性ポリオレフィン上のアミノ基やアニオン性生体高分子の官能基に、これらアミノ基または官能基に対する反応性基を有するリンカー基を結合させ、当該リンカー基の反応性基とアニオン性生体高分子の官能基または機能性ポリオレフィン上のアミノ基と反応させてもよい。
【0056】
従来、ポリオレフィンは安価で加工性や耐薬品性が高いために、生化学分野などの容器やチップの材料として期待されていたが、親水性が低く不活性であるために、水洗で容易に除去できない親油性の汚れが付着したり分子の導入が困難であった。しかし上記の通り、本発明によれば不活性なポリオレフィンの表面にアミノ基を安定かつ容易に導入できるため、ポリオレフィンの用途をより一層広げることが可能である。
【0057】
表面アミノ基を介してアニオン性生体高分子を結合させた機能性ポリオレフィンは、本来不活性であるというポリオレフィンの特性や、結合させたアニオン性生体高分子などに応じた用途に適用することができる。例えば、結合させたアニオン性生体高分子に親和性を示す化合物を検出可能なバイオチップ、溶液や分散液などから結合させたアニオン性生体高分子に親和性を示す化合物を分離可能なバイオフィルタ、分離膜、空気清浄材などとして用いることができる。
【実施例
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0059】
実施例1: 機能性ポリマーの合成
(1)機能性モノマーPEG11/NMAの合成
【化2】
THF(2mL)にBoc-N-アミド-dPEG11-アミン(150mg,0.23mmol)、およびトリエチルアミン(324μL,2.3mmol)を溶解し、溶液をよく攪拌した。当該溶液に、メタクリロイルクロライド(32μL,0.35mmol)を徐々に滴下した。反応液を遮光・攪拌しながら、室温にて24時間反応させた。生じた白色沈殿物を、メンブレンフィルター(「Millex(R)-HN filter」,孔径:0.45μm)を使って濾取し、更にTHFと酢酸エチルで洗浄した。洗浄後の生成物を60℃で減圧濃縮した後、1晩凍結乾燥した。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ(ppm)=6.41(s,H,-NH-),5.05(s,H,-NH-t-Boc),5.71(s,H,-CH=CH),5.32(s,H,-CH=CH),3.31-3.69(m,28H,-CO-CH2-CH2-CO-),1.97(s,3H,CH3-C=CH2),1.44(s,9H,-C-CH3
DART-TOF/MS
[M]+ calcd for C3364214,m/z=712.9; found,713.5(positive)
【0060】
(2)機能性ポリマーPEG11/N-Rfの合成
【化3】
メタクリル酸メチル(165μL)、2-(パーフルオロオクチル)エチル アクリレート(29μL)、上記(1)で合成した機能性モノマーPEG11/NMA(130mg)(モル比x:y:z=85:5:10)を、酢酸エチル(1.9mL)に溶解し、窒素バブリングを30分間行った。次いで、AIBN(1.6mg,全モノマーに対して0.5質量%)を加え、封かんにて70℃で20時間反応させた。
反応後の溶液を大過剰のn-ヘキサンに加え、生成物を沈殿させた。更に、沈殿をn-ヘキサンで3度洗浄した後、真空オーブンに入れ、60℃で一晩乾燥した。
1H NMR(500MHz,CDCl3)δ(ppm)=6.11(s,H,-NH-),5.06(s,H,-NH-t-Boc),4.31(m,3H,-CH2-CH2-CF2-),3.69-3.32(m,40H,-CO-CH2-CH2-CO-),1.90-1.81(m,24H,-C-CH2-),1.28-0.75(m,55H,C-CH3
GPC Mn=1.9×104,Mw/Mn=1.5
【0061】
実施例2,3
実施例1と同様にして、PEGの重合度がそれぞれ3および6であるPEG3/N-RfおよびPEG6/N-Rfを合成した。
【0062】
各ポリマーの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を下記の条件のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析し、分子量を求めた。機能性ポリマーにおける各構造単位の割合(モル比)、即ち機能性ポリマーの合成に使用した各モノマーのモル比と共に、分子量の測定結果を表1に示す。
装置: 高速GPC装置(「GPC8020」東ソー社製)
カラム: 水系サイズ排除クロマトグラフィー用カラム(「GF510」昭和電工社製,7.5×300mm)
移動相: THF
流速: 1.0mL/min
【0063】
【表1】
【0064】
実施例4: 機能性ポリオレフィン板の作製
(1)機能性ポリオレフィン板の作製
塩素化/酸変性ポリオレフィン(「ハードレン(R)」東洋紡社製,塩素含有量:24質量%,無水マレイン酸含有量:1.6質量%,重量平均分子量:60,000)、および実施例1~3で合成した機能性ポリマーPEG3/N-Rf、PEG6/N-Rf、またはPEG11/N-Rfを、トルエンにそれぞれ1.0質量%の濃度で溶解した。得られた各溶液に厚さ200μm×10mm×10mmのアイソタクチックポリプロピレン(it.PP)製板を浸漬した後、25℃で15時間乾燥した。
次に、it.PP製板を4M塩酸に浸漬し、40℃で一晩振とうした後、超純水で洗浄することにより、末端アミノ基を脱保護した。
【0065】
(2)切断可能な蛍光物質FITC-S-S-COOHの合成
【化4】
3-[(2-アミノエチル)ジチオ]プロピオン酸(25mg,0.13mmol)、およびFITC(50mg,0.14mmol)を、トリエチルアミンを2.5容量%含むTHF/超純水(12mL)に溶解し、室温で3.5時間反応させた。溶媒を減圧留去した後、残渣を1質量%炭酸ナトリウム水溶液(4mL)に溶解した。溶液に1M塩酸を加えることにより生じた沈殿物を濾取し、1mM塩酸で洗浄した。
1H NMR(500MHz,MeOD)δ(ppm)=8.00-6.59(m,9H,fluorescence),3.99-3.96(m,2H,-NH-C(=S)-NH-),3.39-2.87(m,8H,-CH2-)
【0066】
(3)表面提示アミノ基の定量
5容量%DMSOと5mM DMT-MMを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH8.0)(2mL)に、上記実施例4(2)で得たFITC-S-S-COOHを0.6mMの濃度となるように溶解した。得られた溶液に、上記実施例4(1)で得た各機能性ポリオレフィン板を浸漬し、振とうしながら2時間反応させた。また、比較のために、機能性ポリマーで被覆していないポリオレフィン板も同様に処理した。次いで、0.1Mリン酸緩衝液(pH8.0)で洗浄した。なお、以下の操作は遮光下で行った。各機能性ポリオレフィン板を、5mM水酸化ナトリウム水溶液(10mL)、5mM塩酸(10mL)、および5mM水酸化ナトリウム水溶液(10mL)に順次浸漬し、それぞれ40℃で1時間ずつ振とうした。最後に、0.1Mリン酸緩衝液(pH8.0)で洗浄した。
次いで、還元剤であるTCEPを2mMの濃度で0.1Mリン酸緩衝液(pH8.0)に溶解した。当該溶液(2mL)に各機能性ポリオレフィン板を浸漬し、40℃で1時間ずつ振とうすることにより、ジスルフィド結合を切断した。TCEP溶液の蛍光強度(ex.495nm,em.515nm,感度:low)を室温で測定した。結果を図1に示す。
図1に示される結果の通り、未処理のポリオレフィン板の表面にはアミノ基は存在せず、本発明に係る機能性ポリマーにより処理したポリオレフィン板の表面にはアミノ基が存在していた。また、エチレングリコール単位の繰り返しが6以上である場合には、検出されるアミノ基数が顕著に増加した。
【0067】
実施例5: 機能性ポリマー溶液濃度の検討
上記実施例4(1)において、PEG6/N-Rfを用い、且つその溶液濃度を0.25質量%または4.0質量%に調整した以外は上記実施例4(1)と同様にして機能性ポリオレフィン板を作製し、上記実施例4(3)と同様にして表面提示アミノ基を定量した。結果を図2に示す。
図2に示す結果の通り、ポリオレフィン板を表面処理するための機能性ポリマー溶液の濃度が高いほど、表面提示アミノ基の量が増えることが実験的に示された。なお、機能性ポリマー溶液の濃度としては、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましいことが分かった。
【0068】
実施例6: 機能性ポリマー溶液濃度の検討
上記実施例4(1)において、塩素化/酸変性ポリオレフィンの溶液濃度を0.25質量%または4.0質量%に調整した以外は上記実施例4(1)と同様にして機能性ポリオレフィン板を作製し、上記実施例4(3)と同様にして表面提示アミノ基を定量した。結果を図3に示す。
図3に示す結果の通り、機能性ポリマーと共にポリオレフィンの表面処理に用いた塩素化/酸変性ポリオレフィン溶液の濃度としては、表面提示アミノ基の量の観点からは2.0質量%以下が好ましい。一方、機能性ポリマーのポリオレフィンに対する接着性の観点からは、塩素化/酸変性ポリオレフィン溶液の濃度は高いほど好ましいと考えられる。
【0069】
実施例7: チオール化DNAの固定
(1)機能性ポリオレフィン板の作製
塩素化/酸変性ポリオレフィン(「ハードレン(R)」東洋紡社製,塩素含有量:24質量%,無水マレイン酸含有量:1.6質量%,重量平均分子量:60,000)、および実施例1で合成した機能性ポリマーPEG11/N-Rfを、トルエンにそれぞれ1.0質量%の濃度で溶解した。得られた各溶液に厚さ200μm×10mm×10mmのアイソタクチックポリプロピレン(it.PP)製板を浸漬した後、25℃で15時間真空乾燥した。
次に、ポリオレフィン板を4M塩酸に浸漬し、40℃で一晩振とうした後、超純水で洗浄することにより、末端アミノ基を脱保護した。
【0070】
(2)比較例機能性ポリオレフィン板の作製
比較のために、特開2017-154131号公報の実施例1を参照して、下記構造式を有する機能性ポリマーPEG8/C-Rfを合成し、機能性ポリマーPEG11/N-Rfの代わりに機能性ポリマーPEG8/C-Rfを用いた以外は上記(1)と同様にしてit.PP製板を表面処理した後、末端カルボキシ基を脱保護した。なお、下記構造式中、x,y,z=81,8,11である。
【化5】
【0071】
(3)チオール化DNAの固定実験
【化6】
MPO/PEG11/N-Rfを塗布したit.PP製板、および比較のために未処理のit.PP製板自体を、超純水で洗浄した。N-(6-マレイミドカプロイルオキシ)スルホスクシンイミド ナトリウム塩(sulfo-EMCS)を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解した5mM溶液(200μL)を、各基板に滴下し、室温で2時間反応させた。次いで、滅菌水で各基板を洗浄し、窒素ガスを吹きかけた後、真空乾燥した。
SH-DNA(HS-5’-TTA GTT CTC CAG CTA TCT T-3’)の水溶液を1M塩化カリウム含有50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解した5μM溶液(100μL)を、各基板に滴下し、室温で3時間反応させた。1M塩化カリウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で洗浄した。
上記SH-DNAと相補的な配列を有するFITC-DNA(FITC-5’-A AGA TAG CTG GAG AAC TA A-3’)を8×SSC緩衝液に溶解した1μM溶液(200μL)を滴下し、80℃で10分間加熱した後、加湿チャンバー内において40℃で15時間ハイブリダイゼーションを行った。次いで、8×SSC緩衝液で各基板を洗浄した。
90℃に予熱した0.1Mリン酸緩衝液(pH7.6)(2mL)に各基板を浸漬し、10分間加熱することにより、熱変性させた。放冷後、溶液の蛍光強度(ex.495nm,em.515nm)を測定し、表面に固定化されたDNAの密度を求めた。結果を図4に示す。
【0072】
(4)比較例機能性ポリオレフィン板へのDNAの固定実験
表面にカルボキシ基を導入した比較例機能性ポリオレフィン板に、100mM水溶性カルボジイミドと50mM N-ヒドロキシコハク酸イミドを含む50mMリン酸緩衝液(pH7.0)を200μL滴下し、室温にて2時間反応させることにより、表面カルボキシ基を活性エステル化した。滅菌水でポリオレフィン板を洗浄し、窒素ガスを吹きかけた後、真空乾燥した。1MのKClとNH2-DNA(NH2-5’-TTA GTT CTC CAG CTA TCT T-3’)を含む50mM リン酸緩衝液(pH7.0)を100μL滴下し、室温にて3時間反応させた。1MのKClを含む50mMリン酸緩衝液(pH7.0)でポリオレフィン板を洗浄した。
上記NH2-DNAと相補的な配列を有するFITC-DNA(FITC-5’-A AGA TAG CTG GAG AAC TA A-3’)を1μM含む8×SSC緩衝液を200μL滴下し、80℃で10分間加熱した後、加湿チャンバー内において40℃で15時間ハイブリダイゼーションを行った。次いで、8×SSC緩衝液で各基板を洗浄した。
90℃に予熱した0.1Mリン酸緩衝液(pH7.6)(2mL)に各基板を浸漬し、10分間加熱することにより、熱変性させた。放冷後、溶液の蛍光強度(ex.495nm,em.515nm)を測定し、表面に固定化されたDNAの密度を求めた。結果を図4に示す。
【0073】
図4に示された結果の通り、MPO/PEG11/N-Rfが塗布されることにより表面にアミノ基が提示されているit.PP製板には、DNAを有効に固定化することができ、その密度は13pmol/cm2であった。
一方、MPO/PEG8/C-Rfが塗布されることにより表面にカルボキシ基が提示されているit.PP製板には、表面官能基を有さない未処理のit.PP製板と同レベルでしかDNAを検出できなかった。その理由としては、リン酸ジエステル結合により全体としてはマイナス電荷を有するDNAが、マイナスに帯電するフルオロ基や基板表面のカルボキシ基と反発したことが考えられる。
図1
図2
図3
図4