IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 南京大学の特許一覧

特許7148929シクロデキストリンポリマー及びその製造方法
<>
  • 特許-シクロデキストリンポリマー及びその製造方法 図1
  • 特許-シクロデキストリンポリマー及びその製造方法 図2
  • 特許-シクロデキストリンポリマー及びその製造方法 図3
  • 特許-シクロデキストリンポリマー及びその製造方法 図4
  • 特許-シクロデキストリンポリマー及びその製造方法 図5
  • 特許-シクロデキストリンポリマー及びその製造方法 図6
  • 特許-シクロデキストリンポリマー及びその製造方法 図7
  • 特許-シクロデキストリンポリマー及びその製造方法 図8
  • 特許-シクロデキストリンポリマー及びその製造方法 図9
  • 特許-シクロデキストリンポリマー及びその製造方法 図10
  • 特許-シクロデキストリンポリマー及びその製造方法 図11
  • 特許-シクロデキストリンポリマー及びその製造方法 図12
  • 特許-シクロデキストリンポリマー及びその製造方法 図13
  • 特許-シクロデキストリンポリマー及びその製造方法 図14
  • 特許-シクロデキストリンポリマー及びその製造方法 図15
  • 特許-シクロデキストリンポリマー及びその製造方法 図16
  • 特許-シクロデキストリンポリマー及びその製造方法 図17
  • 特許-シクロデキストリンポリマー及びその製造方法 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】シクロデキストリンポリマー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/28 20060101AFI20220929BHJP
   C08B 37/16 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C08G65/28
C08B37/16
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019107531
(22)【出願日】2019-06-09
(65)【公開番号】P2019210478
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-03-24
(31)【優先権主張番号】201810589683.7
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515190906
【氏名又は名称】南京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】謝 顕伝
(72)【発明者】
【氏名】許 貴洲
(72)【発明者】
【氏名】秦 龍
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-218535(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107376875(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109160962(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110172108(CN,A)
【文献】NATURE,2016年,Vol.529,No.7585,p.190-194
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 2/00- 85/00
C08B 37/00- 37/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリンポリマーを製造する方法であって、
シクロデキストリン、剛性架橋剤及び柔軟性架橋剤とを混合して、架橋反応させる工程を有し、
前記剛性架橋剤は、テトラフルオロテレフタロニトリルであり、
前記シクロデキストリン:前記剛性架橋剤(モル比)=1:0.375~1.5であり、
前記柔軟性架橋剤はエピクロロヒドリンであり、
前記シクロデキストリン:前記柔軟性架橋剤(モル比)=1:20~50であり、
前記架橋反応は、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの少なくとも一方を含むアルカリ水溶液中で行われる、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記シクロデキストリンは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンからなる群から選択される少なくとも1種である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルカリ水溶液の濃度は2~8mol/Lである、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロデキストリンポリマーに関し、さらに詳しくは、超高速吸着特性を有する新規シクロデキストリンポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
シクロデキストリンは、デンプンの加水分解によって得られる環状オリゴ糖の総称であり、通常6~12個のグルコースユニットを含む。これらの中でも、α、β、及びγ-シクロデキストリンと呼ばれる6、7、及び8個のグルコースユニットを含む分子はより実用的で多くの研究がなされている。シクロデキストリンは円筒形の空洞構造を有し、その外側が親水性で内側が疎水性であるため、様々なターゲット分子とホスト-ゲスト包接化合物を形成することができる。
【0003】
シクロデキストリンはある程度の水溶性を有するため、通常、必要に応じて様々なシクロデキストリンポリマーに調製される。これまで、ほとんどのシクロデキストリンポリマーは、シクロデキストリンと、クエン酸やエピクロロヒドリン等の柔軟性架橋剤との架橋反応によって得られてきた。このタイプの反応は水相中で容易に行われ、得られたシクロデキストリンポリマーはある程度の膨潤性を有する。しかしながら、使用される架橋剤は非剛性であるため、生成されたシクロデキストリンポリマーの分子セグメントは互いに絡み合う。そのため、このタイプのシクロデキストリンポリマーは無孔性であり、低い比表面積(<10 m/g)を有する。その結果、吸着速度が比較的遅く、吸着平衡に達するのに通常数時間以上かかることから、特に吸着材としての使用は限られていた。
【0004】
最近、このような問題を解決するために、Alsbaieeらは、剛性構造を有する架橋剤をシクロデキストリンと反応させることによって、高い比表面積を有する多孔性シクロデキストリンポリマー(P-CDP)を製造した。剛性構造の導入により、生成されたポリマーの分子鎖を任意に曲げることが困難であり、分子間パッキングが緊密ではなく、微孔性構造が形成される。このシクロデキストリンポリマーは、水中の様々な有機汚染物質に対して非常に高い吸着効果を示し、吸着速度は活性炭及び通常の無孔性シクロデキストリンポリマーの15~200倍に達する。
【0005】
しかしながら、従来技術では、多孔性シクロデキストリンポリマーP-CDPの合成は、密閉条件下で有機相において比較的長時間(48時間)の反応を必要とするため、工業的生産は制限された。Alsbaieeらは水相でシクロデキストリン及び剛性架橋剤を使用してシクロデキストリンポリマー(NP-CDP)を調製した。しかし、得られたポリマーは無孔性で、有機汚染物質の吸着速度が非常に遅かった。そのため、水相で簡単にシクロデキストリンポリマー材料を製造できるとともに、迅速な吸着性能を維持できる方法の開発が、新たな課題となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
A Alsbaiee, BJ Smith, L Xiao, Y Ling, DE Helbling, WR Dichtel、 Rapid removal of organic micropollutants from water by a porous β-cyclodextrin polymer, Nature 529 (7585), 190
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前の研究に基づいて、シクロデキストリンポリマーの調製において柔軟性架橋剤と剛性架橋剤を同時に使用することを提案する。柔軟性架橋剤の導入は、シクロデキストリンモノマーを架橋し、ポリマー材料に一定の膨潤特性を付与し得る。剛性架橋剤は構造調製剤として、ポリマー材料に一定の微孔性を与え、骨格として膨潤した後のポリマーの孔の安定性を維持することができる。このようにして調製されたシクロデキストリンポリマー材料は、水中の有機汚染物質に対して非常に速い吸着性能を示す。このポリマーの調製は水相中で実施するだけでよく、合成プロセスは非常に簡単であり、工業的生産を実施することが容易である。
本発明の技術的態様は以下のとおりである。
【0008】
本発明の超高速吸着特性を有する新規シクロデキストリンポリマーは、シクロデキストリンと柔軟性架橋剤及び剛性架橋剤とをアルカリ性水溶液中で一定の温度で架橋反応させ、反応終了後、ろ過し、水及びテトラヒドロフランで複数回洗浄し、乾燥して得られる。
【0009】
本発明は以下の方法を提供する。すなわち、本発明の方法は、
1.シクロデキストリンポリマーを調製する方法であって、シクロデキストリンと剛性架橋剤及び柔軟性架橋剤とを混合して架橋反応させることを特徴とする。
2.上記シクロデキストリンは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
3.上記剛性架橋剤はベンゼン環構造を有する架橋剤であることが好ましい。
4.上記ベンゼン環構造を有する架橋剤は、テトラフルオロテレフタロニトリル、デカフルオロビフェニル、デカフルオロベンゾフェノン及びオクタフルオロナフタレンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
5.上記シクロデキストリン:上記剛性架橋剤(モル比)=1:0.375~1.5であることが好ましい。
6.上記柔軟性架橋剤はエピクロロヒドリンであることが好ましい。
7.上記シクロデキストリン:上記柔軟性架橋剤(モル比)=1:20~50であることが好ましい。
8.上記架橋反応は、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの水溶液であるアルカリ水溶液中で行われることが好ましい。
9.上記アルカリ水溶液の濃度は2~8 mol L-1であることが好ましい。
また、本発明は以下のシクロデキストリンポリマーを提供する。すなわち、本発明のシクロデキストリンポリマーは、
10.シクロデキストリンと剛性架橋剤及び柔軟性架橋剤と混合して架橋反応させて得られたシクロデキストリンポリマーであって、上記シクロデキストリンポリマーは3次元網目構造を有することを特徴とする。
さらに、本発明では、
11.水中の有機物を除去するための、10に記載のシクロデキストリンポリマーの用途を提供する。
【0010】
本発明により、シクロデキストリンと柔軟性架橋剤及び剛性架橋剤と混合して架橋して得られたシクロデキストリンポリマーは、一定の膨潤性、多孔性及び剛性を併せ持つ。本発明の新規シクロデキストリンポリマーは、水中の有機物を非常に迅速に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】エピクロロヒドリン及びテトラフルオロテレフタロニトリルとシクロデキストリンとを混合して架橋することによって新規シクロデキストリンポリマーを調製する合成スキーム、並びに得られたポリマー構造を示す模式図である。
図2】実施例2及び比較例1、比較例2の試料の元素分析、吸水性分析及び比表面積分析のチャートである。
図3】実施例2及び比較例1、比較例2の試料の赤外吸収スペクトルである。
図4】実施例2及び比較例1、比較例2の試料の巨視的図(上)及び走査型電子顕微鏡観察写真(中及び下)である。中央の電子顕微鏡観察写真は5000倍の拡大写真、底部の電子顕微鏡観察写真は20000倍の拡大写真である。
図5】実施例2及び比較例1、比較例2の試料の粉末X線回折パターンである。
図6】実施例2及び比較例1、比較例2の試料の熱重量曲線である。
図7】実施例2及び比較例1、比較例2の試料のN(a)及びCO(b)吸脱着等温線図である。
図8】実施例2及び比較例1、比較例2の試料のビスフェノールA(BPA)の除去率の経時変化を示すグラフである。
図9】実施例2及び比較例1、比較例2の試料のBPAの吸着速度論に対するフィッティングパラメータを示すグラフである。
図10】実施例2及び比較例1、比較例2の試料のBPAの吸着速度論に対する擬二次速度式及びElovich式のフィッティングパラメータを示す表である。
図11】実施例2で調製されたシクロデキストリンポリマーCDP-2の繰り返し使用回数が材料のBPA吸着性能に及ぼす影響を示すグラフである。
図12】異なるタイプのシクロデキストリンにより調製されたポリマーのBPA除去効率の経時変化を示す図である。
図13】異なる剛性架橋剤により調製されたβシクロデキストリンポリマーのBPA除去効率の経時変化を示す図である。
図14】異なる量の剛性架橋剤により調製されたβシクロデキストリンポリマーのBPA除去効率の経時変化を示す図である。
図15】異なる量のエピクロロヒドリンにより調製されたβシクロデキストリンポリマーのBPA除去効率の経時変化を示す図である。
図16】異なるアルカリ環境で調製されたβシクロデキストリンポリマーのBPA除去効率の経時変化を示す図である。
図17】異なるアルカリ濃度で調製されたβシクロデキストリンポリマーのBPA除去効率の経時変化を示す図である。
図18】実施例2で調製されたシクロデキストリンポリマーCDP-2の、水中の様々な有機微小汚染物質に対する除去効率の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
シクロデキストリンポリマーの合成
丸底フラスコに一定量のシクロデキストリンを量り取り、アルカリ水溶液を加えて完全に溶解させた後、適量の剛性架橋剤及び柔軟性架橋剤を加える。磁気撹拌機を備えた油浴に丸底フラスコを置き、磁気攪拌子を入れ、油浴の温度及び回転速度を調節し、設定温度に達した後、3時間反応を続ける。反応が完了した後、混合液をろ過し、沈殿物を蒸留水、洗浄用有機溶媒(例えば、テトラヒドロフランやエタノールなど、完全に反応していない架橋剤を溶解できる溶剤)で順次複数回洗浄し、得られた固体を12時間真空乾燥して、新規シクロデキストリンポリマーを得る。
【0013】
図1は新規シクロデキストリンポリマーの合成スキームを示す模式図である。ポリマーの製造プロセスは非常に簡単であり、使用される原料は容易に入手可能である。そして得られるポリマーは3次元網目構造を有することが分かる。
【0014】
使用されるシクロデキストリンは、6~8個のグルコースユニットを有する環状オリゴ糖のシクロデキストリンである。具体的には、α、β又はγシクロデキストリンである。
【0015】
シクロデキストリンは、例えば、Aladdin、Sigma-Aldrich等の会社から市販品を直接購入してもよい。
【0016】
シクロデキストリンは、上記各シクロデキストリンの二量体、三量体などのポリマーであってもよい。
【0017】
剛性架橋剤としては、ベンゼン環、ナフタレン環、又は他の剛性環状構造などの構造を有する架橋剤を選択してもよい。また、架橋剤は、シクロデキストリンの水酸基と反応可能な基を少なくとも2つ有する必要がある。これらの剛性架橋剤は、テトラフルオロテレフタロニトリル、テトラクロロテレフタロニトリル、デカフルオロビフェニル、オクタフルオロナフタレンなど、又はそれらの混合物の中から選択することができる。コスト、反応活性の観点からは、テトラフルオロテレフタロニトリルが好ましい。
【0018】
柔軟性架橋剤としては、反応活性及び経済性の観点から、エピクロロヒドリンを選択することができる。当業者には、シクロデキストリン上の水酸基又は剛性架橋剤上の基と反応することができる任意の鎖架橋剤が理論的に選択され得ることは自明である。鎖の長さについては特に限定されないが、剛性架橋剤を溶解できる物質であることが望ましい。
【0019】
本発明のシクロデキストリンポリマーは、剛性材料及び柔軟性材料の利点を兼ね備え、一定の多孔性及び膨潤性を有し、膨潤後の材料も一定の孔構造を維持できる。そのため、本発明のポリマーは、様々な有機微小汚染物質に対して超高速の吸着性能を示す。
【0020】
吸着される有機微小汚染物質としては、環境に有害で、広く注目されている有機汚染物質等が挙げられる。主に内分泌攪乱物質、プラスチック成分、有機フェノール様物質などがある。内分泌攪乱物質としては、例えば、エチニルエストラジオール、エストリオール、およびエストラジオールが挙げられるが、これらに限定されない。プラスチック成分としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールSが挙げられるが、これらに限定されない。有機フェノール様物質としては、例えば、2-ナフトール、3-フェニルフェノール、2、4、6-トリクロロフェノールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
有機微小汚染物質の濃度は、溶解可能な限り、特に限定されない。シクロデキストリンポリマーの添加量は実際の必要量に基づいて決定される。実施例では、有機微小汚染物質の濃度は0.1 mmol/Lであったが、エチニルエストラジオール及びエストラジオールの濃度は0.05 mmol/Lであった。これらの物質の水への溶解度が低いためである。シクロデキストリンポリマーの添加量は1 mg/mlであった。
【0022】
シクロデキストリンポリマーと有機微小汚染物質水溶液を一定時間接触させた後、シクロデキストリンポリマーを濾過して分離する。濾液中の有機微小汚染物質の含有量は高速液体クロマトグラフィーにより分析し、有機微小汚染物質の除去効率を算出する。
【0023】
ろ過分離後のシクロデキストリンポリマーをメタノールで洗浄することにより、シクロデキストリンポリマーは再生される。再生されたシクロデキストリンポリマーは、本発明の方法において再使用することができる。
実施例
【0024】
本発明をよりよく理解するために、複数のシクロデキストリンポリマーを様々な条件(シクロデキストリン系、剛性架橋剤、柔軟性架橋剤の種類と添加量、アルカリ溶液の種類と濃度など)下で調製し、水溶液中の様々な有機微小汚染物質に対する吸着特性を評価した。実施例の具体的な条件は表1に示す。本発明のシクロデキストリンポリマーの吸着効果と比較するため、2つの異なるシクロデキストリンポリマーを文献参照して調製し、比較例とした。比較例1としては、吸着の分野において最も研究され商業化されているシクロデキストリンポリマー(EPI - CDP)を調製した。比較例1のポリマーは、非多孔質構造を有し、比表面積は小さい。比較例2としては、最近報告された高い表面積を有する多孔質シクロデキストリン材料(P - CDP)を調製した。報告によれば、このポリマーは多くのメソ孔を有し、その孔径は主に1.8~3.5nmに分布している。
表1では、1~4、10~11、14~15、17~20を実施例とし、5~9、12~13、16を参考例として挙げられている。
【0025】
表1. 実施例と参考例のまとめ表
*注:
TFTPN:テトラフルオロテレフタロニトリル
DFBP:デカフルオロビフェニル
DFBPN:デカフルオロベンゾフェノン
OFN:オクタフルオロナフタレン
EPI:エピクロロヒドリン
β+γ (1+1):βシクロデキストリンとγシクロデキストリンとの物質の量の比は1:1であった。
TFTPN+DFBPN (1+1):TFTPNとDFBPNとの物質の量の比は1:1であった。
非常に速い:10分以内に吸着平衡に達した。
比較的速い:20分以内に吸着平衡に達した。
比較的遅い:30分以内に吸着平衡に達した。
非常に遅い:30分以内に吸着平衡に達しなかった。
【0026】
比較例1:無孔性β-シクロデキストリンポリマーEPI-CDPの調製
EPI-CDPの調製は、非特許文献1に記載された方法に従った。
(1)丸底フラスコに3gのβ-シクロデキストリンを量り取り、5mlの6.25mol L-1 NaOHアルカリ液を加え、β-シクロデキストリンが完全に溶解するまで磁気撹拌機で攪拌した。(2)フラスコを油浴に入れ、温度を60℃、回転速度を120rpmに調整し、2.5mlのエピクロロヒドリン溶液を滴下し、滴下後1時間反応させた。(3)反応終了後、白色のゲルが生成した。このゲルをろ過し、蒸留水、テトラヒドロフラン、及びジクロロメタンの順で3~4回精製洗浄した。(4)精製した生成物を真空で12~24時間凍結乾燥して、非多孔質β-シクロデキストリンポリマーEPI - CDPを得た。
比較例2:多孔性β-シクロデキストリンポリマーP-CDPの調製
【0027】
P-CDPの調製は、非特許文献1に記載された方法に従った。
(1)まず厚肉耐圧瓶に3.08gのβ-シクロデキストリンと1.62gのテトラフルオロテレフタロニトリルを量り取り、54mlのテトラヒドロフランと6mlのジメチルホルムアミドを加えた。その後、厚肉耐圧瓶が窒素で満たされるまで、磁気撹拌下で窒素置換を数回行った。(2)厚肉耐圧瓶を油浴に入れ、温度を85℃に調整し、回転速度を120rpmに設定して、反応させた。反応は48時間後に終了した。(3)反応終了後、黄色沈殿物をろ過した。生成物をまず希塩酸で洗浄して中性にし、次いで溶離液が無色になるまで蒸留水及びテトラヒドロフランの順に15分間ずつ数回精製洗浄し、最後にジクロロメタンで1回洗浄した。(4)精製した生成物を12~24時間凍結乾燥して、多孔質β-シクロデキストリンポリマーP-CDPを得た。
【0028】
シクロデキストリンポリマーの特性評価
得られたシクロデキストリンポリマーの構造、形態、組成及び比表面積を評価した。具体的な評価内容及び評価機器と条件は以下のとおりである。
【0029】
元素分析:C、H、及びN元素は、CHN-O-Rapid元素分析計(ドイツのHeraeus社製)を用いて測定した。イオン選択電極を用いてF元素分析を行い、試料を酸素フラスコ燃焼法で燃焼させた後、アルカリで吸収させてから測定した。
【0030】
赤外線スペクトル測定:Bruker Tensor 27 フーリエ赤外線分光計を用いて、試料及びKBrを混合し粉砕した後に打錠して測定した。
【0031】
XRD測定:Bruker D8 - Advance X線粉末回折計を用いて、8°/分の走査速度、5~70°の走査範囲、θ/2θの走査モード、continueの走査方法、40 kV管電圧、40mAの管電流、及びCuターゲット(λ=1.54178A0)で測定を行った。
【0032】
固体核磁気共鳴スペクトル測定:Varian INOVA-600固体核磁気共鳴分光計を使用した。試料を7mmの外径を有する窒化ケイ素ローターに入れた後、マジック角検出器に入れて測定した。
【0033】
比表面積測定:Micromeritics ASAP 2020-M+C比表面積分析装置を使用した。50~100mgの試料を90℃で24時間活性化し、Nを充填した。次いで、N吸脱着等温線を液体窒素(77K)条件下で測定した。装置自体のBET法を用いて材料の比表面積を計算した。CO吸脱着等温線を273Kで測定し、Langmuir法を用いて材料の比表面積を計算した。
【0034】
熱重量分析:Mettler - Toledo(TGA / DSC)熱分析器を使用し、30~600℃の温度範囲、10℃/分の昇温速度及びN雰囲気下で熱重量曲線を測定した。
【0035】
走査型電子顕微鏡観察:S - 4800走査型電子顕微鏡を使用た。走査電圧は10kVとした。試料を測定する前に、導電性を付与するため金蒸着により表面を処理した。
【0036】
シクロデキストリンポリマーの評価結果を、実施例2、比較例1及び比較例2のシクロデキストリンポリマーを比較して説明する。
【0037】
図2にポリマーの元素分析、吸水分析及び比表面積測定の結果を示す。比較例2のポリマーP-CDP及び実施例2のシクロデキストリンポリマーCDP-2のNに対するFのモル比は、テトラフルオロテレフタロニトリルモノマーのモル比よりも低いことが分かる。これは、Fの部分置換を示し、テトラフルオロテレフタロニトリルが反応したことを示す。また、CDP-2の吸水率は、自重の263%に達したが、比較例1のエピクロロヒドリンのみをβ-シクロデキストリンと架橋して調製した非多孔質ポリマーEPI-CDPの346%の吸水率よりも低い。これは、エピクロロヒドリンセグメントの導入により材料がある程度の膨潤特性を維持するのため、一定の吸水能力を有するが、テトラフルオロテレフタロニトリルセグメントの導入により材料の剛性が高まるため、材料の膨潤性が低下し、吸水性も低下することを示す。比較例2のポリマーP-CDPは、それ自体が大きな比表面積を有するため、非常に高い吸水率(372%)を示した。
【0038】
図3に、ポリマーの赤外線吸収スペクトルを示す。シクロデキストリンモノマーと比較して、ポリマーEPI-CDP及びCDP-2の2930cm-1でのC-H非対称伸縮振動はより広くなり、1035cm-1でのC-OH伸縮振動と1160cm-1でのC-O-C伸縮振動とは重なった。これは、エピクロロヒドリンとシクロデキストリンが反応したことを示す。テトラフルオロテレフタロニトリルモノマーと比較して、ポリマーP-CDP及びCDP-2の2240cm-1での吸収は、シアノ基の伸縮振動に対応する。1035cm-1及び1473cm-1での吸収は芳香族炭素の伸縮振動に対応する。1267cm-1での吸収はC-F伸縮振動に対応する。その吸収は弱くなり、Fの部分置換を示す。これは、テトラフルオロテレフタロニトリルとシクロデキストリンが反応したことを示す。
【0039】
以上の結果、実施例で調製したシクロデキストリンポリマーCDP-2は、エピクロロヒドリン及びテトラフルオロテレフタロニトリルとβ-シクロデキストリンが架橋することによって得られたことがわかる。
【0040】
図4の走査型電子顕微鏡写真から、エピクロロヒドリンとβ-シクロデキストリンのみを架橋して得られた比較例1のポリマーEPI-CDPは緻密な構造を有し、明確な孔構造を有していないことがわかる。テトラフルオロテレフタロニトリルとβ-シクロデキストリンのみにより調製された比較例2のポリマーP-CDPは、粒子が小さくて構造がゆるく、明らかなマクロ孔構造である。エピクロロヒドリン及びテトラフルオロテレフタロニトリルを用いて混合及び架橋を行うことにより調製された実施例2のポリマーCDP-2は、明らかなハニカム状の構造を有し、明確なマクロ孔構造を有することがわかった。
【0041】
図5に、ポリマーの結晶構造をX線回折測定した結果を示す。シクロデキストリンモノマー及びテトラフルオロテレフタロニトリルモノマーともに明らかな回折ピークを有し、結晶構造であることが示さる。一方、比較例2、比較例1、実施例2で調製されたシクロデキストリンポリマーはいずれも鋭い回折ピークを有していない。2θが5~25の範囲に2つのブロードな突起を有し、これらのポリマーは非晶質であると認められる。
【0042】
ポリマーの熱安定性は、図6に示す熱重量分析により評価いた。比較例2、比較例1、実施例2で調製したシクロデキストリンポリマーは250℃以下で安定であることがわかる。また、ポリマーCDP-2の250~300℃の範囲における質量減少は、比較例1のポリマーEPI-CDPと比較例2のポリマーP-CDPとの中間的挙動であった。これにより、実施例2においては、エピクロロヒドリン及びテトラフルオロテレフタロニトリルとβ-シクロデキストリンとを混合して架橋することにより新規シクロデキストリンポリマーが成されたことを示す。
【0043】
図7に、ガス吸着法によりポリマーの比表面積を測定した結果を示す。N吸着法により測定した比較例2のP-CDPは、比較的大きなBET比表面積(169 m/g)を有し、比較例1のEPI-CDP及び実施例2のCDP-2は、低いBET比表面積(10 m/g以下)を有することがわかった。一般に、より小さなミクロ孔、さらには超ミクロ孔の測定には、CO吸着法はN吸着法よりも適している。これは、CO吸着法が0℃で行われ、液体窒素温度(-196℃)で行われるN吸着法と比較して、その分子拡散が比較的速く、吸着平衡が容易に達成されるからである。そのため、CO吸着法により幾つかのポリマーの比表面積をさらに測定した。図7の結果より、ポリマーCDP-2のLangmuir比表面積は103m/gに達し、比較例1のEPI-CDPのLangmuir比表面積は依然として1.2 m/gであった。また、比較例2のP-CDPのLangmuir比表面積はBET比表面積からわずかに増加した(約14%増加)。これは、CDP-2が多くの超ミクロ孔を含み、EPI-CDPは細孔を含まず、P-CDP比較的大きなミクロ孔及びメソ孔を含むことを示している。
【0044】
シクロデキストリンポリマーによる水からのビスフェノールAの除去
シクロデキストリンポリマーの優れた性能を評価するために、調製した各種シクロデキストリンポリマーによる水中のBPAの吸着速度論を評価して、市販の吸着剤である活性炭DARCO-AC及び吸着樹脂XAD-4と比較した。具体的なステップは以下の通りである。0.05gの吸着剤を100 mlのビーカーに添加し、撹拌磁石を入れ、磁気撹拌機の回転速度を150 rpmに調整し、0.1 mmol L-1の濃度の50 mlのBPA溶液を添加した。少量の液体試料を一定の時間間隔で注射器により採取し、PTFE-Qフィルター膜を通して液相バイアルで濾過し、吸着前後の液体試料中のBPAの濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した。
HPLC測定条件:Agilent高速液体クロマトグラフィー、Waters C-18カラム、UV検出器、検出波長:276nm、移動相:メタノール/水(70/30)、流速:1 ml min-1、カラム温度:30℃。
【0045】
溶液中のBPAの除去効率は以下の式で算出される。
【0046】
試料によるBPAの吸着量は以下の式で算出される。
【0047】
それぞれ擬二次速度式:
【0048】
本発明の実施例2で調製したシクロデキストリンポリマーCDP-2と、比較例1及び比較例2のシクロデキストリンポリマーEPI-CDP及びP-CDPの吸着性能を評価した、結果を図8に示す。BPA濃度が0.1 mmol L-1の条件下で、実施例2のCDP-2及び比較例2のP-CDPはBPAをほとんど除去することができ、除去効率は90%を超えることがわかった。エピクロロヒドリンのみを用いてシクロデキストリンを架橋することにより得た比較例1のポリマーEPI-CDPは、吸着速率が非常に遅く、30分以内に吸着平衡に達しなかった。テトラフルオロテレフタロニトリルのみを用いてシクロデキストリンを架橋することによって調製した比較例2のポリマーP-CDPは非常に速い吸着速率を有し、10分以内に吸着平衡に達した。これは、比較的大きな比表面積を有するためである。比較例1のポリマーEPI-CDPと比較して、実施例2のポリマーCDP-2の吸着速率は、明らかに高く、10分以内に吸着平衡に達し、高い比表面積を有する多孔質シクロデキストリンポリマーP-CDPに匹敵した。
【0049】
図9に、吸着データの速度論的シミュレーションを示す。擬二次速度式及びElovich式とも、実施例2のCDP-2、比較例1のEPI-CDP、及び比較例2のP-CDPがBPAを吸着する速度実験のデータとよく適合し、これらのポリマー上のBPAの吸着はマルチメカニズムであることがわかった。
【0050】
図10は、擬二次速度式及びElovich式という2つのモデルにより実験データをフィッティングする関連パラメータを示す。2つのモデルによるフィッティングの関連係数は比較的高い(>0.97)ことが示されることから、2つのモデルは実験データのフィッティングにうまく適していることがわかる。擬二次速度式によるフィッティングで得られた速度定数の結果から、実施例2で調製されたシクロデキストリンポリマーCDP-2上のBPAの吸着速度定数は7.61 g mmol-1-1に達したことがわかる。これは、高い比表面積を有する比較例2のシクロデキストリンポリマーP-CDPの吸着速度定数(7.45 g mmol-1-1)に匹敵する。また、エピクロロヒドリンのみでβ-シクロデキストリンを架橋することにより調製された比較例1のポリマーEPI-CDPの吸着速度定数(0.0445 g mmol-1-1)よりもはるかに大きかった。前述のEPI-CDPは無孔質であり、P-CDPは多孔性を有する。ポリマーCDP-2は多数の超ミクロ孔を有し、溶液中でメソ孔又はマクロ孔に膨潤することから、本発明のシクロデキストリンポリマーの多孔質構造及び膨潤性能により、吸着速度の著しい増加をもたらすと考えられる。
【0051】
シクロデキストリンポリマーのリサイクル
実施例2で調製したシクロデキストリンポリマーCDP-2を例として、ポリマーの再使用性を検討した。同様に、BPAをモデル汚染物質として使用した。異なる再使用回数で、試料によるBPAの吸着性能の変化を調べた。具体的なステップは以下の通りである。50 mgのCDP-2吸着剤を25℃の撹拌条件下で、50mlの0.1 mmol L-1BPA水溶液と10分間十分接触させた。その後、懸濁液を10000 r.p.mで遠心分離し、上清を取り、HPLCにより溶液中のBPAの濃度を測定し、BPAの除去効率を計算した。吸着後の試料を50mlのメタノールにより室温下で洗浄し、その後、次の吸着実験に使用した。このような吸着/脱着実験を合計5回行った。
【0052】
試料の再使用性を図11に示す。メタノール洗浄後、実施例2のCDP-2のBPAに対する吸着性能はほとんど変化せず、5回の反復実験すべてにおいてBPAの除去効率は90%以上に達した。これは、試料がメタノールにより室温で洗浄することにより容易に再生されることを示す。
【0053】
異なる条件(異なる実施例で調製されたシクロデキストリンポリマー)のビスフェノールAに対する吸着効果の比較
エピクロロヒドリンは高い反応活性を有し、低価格であるため、実施例ではエピクロロヒドリンを柔軟性架橋剤として選択した。しかし、これは他の柔軟性架橋剤を使用できないことを意味するものではない。
【0054】
実施例1~4では異なる種類のシクロデキストリン(α、β及びγ-シクロデキストリン)を使用してシクロデキストリンポリマーを調製した。これらのポリマーのBPAに対する吸着速度を図12に示す。α、β及びγの3種のシクロデキストリン及びその混合物により、BPAの除去効率は10分で約95%に達し、超高速吸着特性を有するポリマーを調製できたことがわかった。これは、シクロデキストリンの種類の違いは空洞の大きさにだけ影響を与え、反応基と吸着部位は同じであるためである。ビスフェノールAは、分子が小さいため、これらのシクロデキストリンの空洞によって吸着され得るので、得られたポリマーはいずれもビスフェノールAに対して良好な吸着性能を示す。当然のことながら、汚染物質分子の大きさが十分に大きい場合、異なるシクロデキストリンにより調製したこれらのポリマーの吸着性能は大きな違いを示す。
【0055】
実施例2、実施例5~8では、異なる剛性架橋剤を使用してシクロデキストリンポリマーを調製した。これらの剛性架橋剤としては、デカフルオロビフェニル、テトラフルオロテレフタロニトリル、デカフルオロベンゾフェノン、オクタフルオロナフタレン、及びそれらの組み合わせを用いた。図13に、異なる剛性架橋剤で調製したシクロデキストリンポリマーのBPAに対する吸着速度を示す。デカフルオロビフェニル、テトラフルオロテレフタロニトリル、デカフルオロベンゾフェノン及びオクタフルオロナフタレンのモノマー、ならびにそれらの組み合わせを剛性架橋剤として使用した場合も、非常に速い吸着速度を有するシクロデキストリンポリマーを調製できることがわかった。テトラフルオロテレフタロニトリル及びデカフルオロベンゾフェノンは最も好ましい。異なる剛性架橋剤で調製されたシクロデキストリンポリマーは、架橋度や孔構造などの違いにより、吸着性能に違いが生じる可能性がある。以上の結果、このようなベンゼン環構造を有する剛性架橋剤が主に剛性サポートとして機能し、ポリマー中に孔構造を形成していると考えられる。シクロデキストリンと反応可能な剛性架橋剤は、ポリマーの汚染物質に対する吸着を促進することが理論的に理解される。
【0056】
実施例2、実施例9~12では、テトラフルオロテレフタロニトリルを剛性架橋剤として、剛性架橋剤の量を変えてシクロデキストリンポリマーを調製した。実験で使用された剛性架橋剤とシクロデキストリンのモル比は0.1875~3であった。同様に、ビスフェノールAをモデル汚染物質として用いて各ポリマーの吸着特性を検討した。図14に、ポリマーのBPA吸着性能に対する剛性架橋剤の量が及ぼす影響を示す。この結果から、剛性架橋剤の添加量をシクロデキストリンの0.1875倍として調製したポリマーの吸着速度が最も遅く、30分以内に吸着平衡に達しなかったことがわかった。この原因としては、ポリマー中の剛性構造が少なく、十分な孔及びサポート構造を形成し難かった可能性が考えられる。また、剛性架橋剤の添加量が多すぎることも好ましくない。例えば、添加量をシクロデキストリンの3倍とした場合、吸着速度は比較的遅く、吸着平衡に達するのに30分かかった。この原因としては、多くの剛性基の導入により、材料の膨潤性能が低下した可能性が考えられる。テトラフルオロテレフタロニトリルを剛性架橋剤として使用する場合、剛性架橋剤の適切な添加量はシクロデキストリンの0.375~1.5倍であり、剛性架橋剤の添加量とシクロデキストリンのモル比が1:0.75(シクロデキストリン:剛性架橋剤)であるときの効果が最も高い。異なる剛性架橋剤では、適切な添加量も異なる。
【0057】
実施例2、実施例13~16では、異なる量の柔軟性架橋剤(EPI)を用いてシクロデキストリンポリマーを調製した。使用したEPIとシクロデキストリンとのモル比は5~65であった。図15に、柔軟性架橋剤の添加量が、BPAに対するポリマーの吸着性能に及ぼす影響を検討した結果を示す。。この結果から、EPIの量が多すぎても少なすぎても、調製したシクロデキストリンポリマーのBPAに対する吸着速度は遅く、吸着は30分で平衡に達せず、最終吸着量も減少することがわかった。これは、最終的なシクロデキストリンポリマーの吸着速度はポリマー中の剛性構造と柔軟性構造の比に依存し、材料に剛性及び膨潤性がある場合にのみ優れた吸着性能が得られためと考えられる。EPIの適切な量は、シクロデキストリンのモル量の20~50倍であり、35倍が最良である。柔軟性架橋剤は、シクロデキストリン上の水酸基又は剛性架橋剤上の基と反応可能な限り、エピクロロヒドリン以外の鎖状架橋剤を選択してもよい。異なる柔軟性架橋剤では適切な量も異なる。
【0058】
実施例2及び実施例17では、それぞれ異なるアルカリ環境下で、異なるシクロデキストリンポリマーを調製した。使用したアルカリはそれぞれNaOH及びKOHであった。図16に、2つの異なるアルカリ水溶液中で調製したシクロデキストリンポリマーのBPA吸着性能に対する影響を示す。KOH及びNaOHの2つの強アルカリ水溶液では、いずれも非常に速い吸着速度を有するシクロデキストリンポリマーを調製できることがわかった。BPAの除去効率はいずれも90%以上に達した。アルカリ環境では、主にシクロデキストリン上の水酸基から水素を除去してアニオンを形成し、さらに求核置換反応を起こすので、このような強いアルカリを使用してシクロデキストリンポリマーを調製する必要がある。
【0059】
実施例2及び実施例18~20では、異なるNaOH濃度でシクロデキストリンポリマーを調製した。図17に、異なるNaOH濃度で調製されたシクロデキストリンポリマーのBPA吸着性能に対する影響を比較した結果を示す。使用したNaOH溶液濃度は2~8 mol L-1であった。図より、上述の幾つかのアルカリ濃度で調製されたシクロデキストリンポリマーのBPAに対する吸着速度は非常に速く、10分以内に吸着平衡に達し、最終的な除去効率は90%以上に達することがわかった。
【0060】
シクロデキストリンポリマーによる異なる種類の水中有機汚染物質の吸着
実施例2で調製したシクロデキストリンポリマーCDP-2を吸着剤として使用し、水中の様々な異なる種類の有機微小汚染物質に対するその吸着効果を検討した。前述のビスフェノールA(BPA)に加え、選択した有機微小汚染物質は、ビスフェノールS(BPS、プラスチック中のビスフェノールAに代わる添加剤であり、環境的に持続性を有する)、3種類の典型的な内分泌攪乱物質(エチニルエストラジオール(EE2)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3))、3種類の典型的なフェノール性有機汚染物質(2-ナフトール、3-フェニルフェノール、2,4,6-トリクロロフェノール)を更に含む。吸着条件は、エチニルエストラジオール及びエストラジオールの水溶液の濃度が0.05 mmol/Lであること以外(両者の水中の溶解度が非常に低いため)、前述のビスフェノールAの吸着条件と同様である。他の汚染物質の濃度は0.1 mmol/Lであり、吸着剤用量は1 mg/mlであり、室温下で吸着した。CDP-2の様々な汚染物質に対する除去効率の経時変化を図18に示す。ビスフェノールAと同様に、全ての有機汚染物質をCDP-2により迅速かつ効率的に除去できた。吸着平衡には10分以内に達し、全ての汚染物質の除去効率は70%以上であった(BPA、EE2及び3-フェニルフェノールの除去効率は90%を超えた)。本発明で調製したシクロデキストリンポリマーは水中の様々な有機微小汚染物質の除去に効果的に使用できることが示された。
【0061】
上記の説明は例示目的のみのためであり、本発明の範囲を限定することを意図しない。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18