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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】機能性成分含浸ゾノトライト中空体
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/24 20060101AFI20220929BHJP
   D01F 1/10 20060101ALI20220929BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20220929BHJP
【FI】
C01B33/24 101
D01F1/10
D03D15/20 100
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020156236
(22)【出願日】2020-09-17
(65)【公開番号】P2022049931
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】594059569
【氏名又は名称】日本ケイカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501021678
【氏名又は名称】株式会社セラフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 勤
(72)【発明者】
【氏名】影山 一
(72)【発明者】
【氏名】水野 里民
(72)【発明者】
【氏名】佐野 昌隆
(72)【発明者】
【氏名】草刈 重樹
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-247111(JP,A)
【文献】特開2018-050513(JP,A)
【文献】特開2011-213750(JP,A)
【文献】特開平02-038308(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0277360(US,A1)
【文献】特開2008-132212(JP,A)
【文献】特開2016-222606(JP,A)
【文献】特開2012-072190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/24
D01F 1/10
D03D 15/20
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性成分が含浸された中空体であって、
前記中空体は、
多数のゾノトライト針状結晶の集合体で構成された多孔質の球体状からなるとともに、
その外殻にコロイダルシリカによるコーティング層が形成されており、
前記機能性成分の放出をコントロールできるようにしたことを特徴とする機能性成分含浸ゾノトライト中空体。
【請求項2】
請求項1に記載の機能性成分含浸ゾノトライト中空体において、
機能性成分として銀イオンを含浸させたものであることを特徴とする銀イオン含浸ゾノトライト中空体。
【請求項3】
請求項2の銀イオン含浸ゾノトライト中空体を付着させた加湿フィルター。
【請求項4】
請求項1に記載の機能性成分含浸ゾノトライト中空体において、
機能性成分としてビタミンを含浸させたものであることを特徴とするビタミン含浸ゾノトライト中空体。
【請求項5】
請求項4のビタミン含浸ゾノトライト中空体を付着させたビタミン放出用フィルター。
【請求項6】
請求項1に記載の機能性成分含浸ゾノトライト中空体において、
機能性成分として緑茶カテキンを含浸させたものであることを特徴とする緑茶カテキン含浸ゾノトライト中空体。
【請求項7】
請求項6の緑茶カテキン含浸ゾノトライト中空体を樹脂に練り込んだ繊維。
【請求項8】
請求項7の緑茶カテキン含浸ゾノトライト中空体を樹脂に練り込んだフィルム。
【請求項9】
請求項1に記載の機能性成分含浸ゾノトライト中空体において、
機能性成分として、プラチナ粒子とビタミンC粉末とを含浸させたものであることを特徴とするプラチナ含浸ゾノトライト中空体。
【請求項10】
請求項9のプラチナ含浸ゾノトライト中空体を樹脂に練り込んだ繊維。
【請求項11】
請求項9のプラチナ含浸ゾノトライト中空体を樹脂に練り込んだ織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数のゾノトライト針状結晶の集合体で構成された多孔質の球体状からなり、機能性成分が含浸された機能性成分含浸ゾノトライト中空体に関する。
【背景技術】
【0002】
ゾノトライトは、珪酸カルシウム水和物の代表的な針状結晶であり、一般的には製造工程の最終工程で成形加工を施し、珪酸カルシウム・ボードとして用いられる場合が多い。
また、その用途には建材や保温材ボードとして使用される為、その強度等の物性を向上させるためにシリカ材料と石灰質材料以外にマトリックスを形成する際、セメントや繊維が配合されていることが多い。
また、ゾノトライトは、平均粒子径30μm~100μmのスラリー状のまま濾水成形され、乾燥ラインで脱水されてボードやパイプカバーに成形され商品化されている場合がお多い。
このようなゾノトライトに関する先行技術文献としては、以下のような特許文献が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平2-120283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ゾノトライトは優れた特性を有しているものの、現行の珪酸カルシウム水和物は成形物とされ、その目的が建材や保温材といして使われてるのものが多く、中空体の粒状パウダーとして他分野での用途展開可能な珪酸カルシウム水和物は見あたらない。また、機能性成分を含有させたゾノトライト中空体の文献も見あたらない。
本発明は、ゾノトライト中空体に機能性を与え、新規な用途を見いだせれば、ゾノトライト中空体の応用範囲が広がるものと考え、機能性成分含浸ゾノトライト中空体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の特徴を有する。
(1)機能性成分が含浸された中空体であって、
前記中空体は、
多数のゾノトライト針状結晶の集合体で構成された多孔質の球体状からなるとともに、
その外殻にコロイダルシリカによるコーティング層が形成されており、
前記機能性成分の放出をコントロールできるようにしたことを特徴とする機能性成分含浸ゾノトライト中空体。
(2)請求項1に記載の機能性成分含浸ゾノトライト中空体において、
機能性成分として銀イオンを含浸させたものであることを特徴とする銀イオン含浸ゾノトライト中空体。
(3)請求項2の銀イオン含浸ゾノトライト中空体を付着させた加湿フィルター。
(4)請求項1に記載の機能性成分含浸ゾノトライト中空体において、
機能性成分としてビタミンを含浸させたものであることを特徴とするビタミン含浸ゾノトライト中空体。
(5)請求項4のビタミン含浸ゾノトライト中空体を付着させたビタミン放出用フィルター。
(6)請求項1に記載の機能性成分含浸ゾノトライト中空体において、
機能性成分として緑茶カテキンを含浸させたものであることを特徴とする緑茶カテキン含浸ゾノトライト中空体。
(7)請求項6の緑茶カテキン含浸ゾノトライト中空体を樹脂に練り込んだ繊維。
(8)請求項7の緑茶カテキン含浸ゾノトライト中空体を樹脂に練り込んだフィルム。
(9)請求項1に記載の機能性成分含浸ゾノトライト中空体において、
機能性成分として、プラチナ粒子とビタミンC粉末とを含浸させたものであることを特徴とするプラチナ含浸ゾノトライト中空体。
(10)請求項9のプラチナ含浸ゾノトライト中空体を樹脂に練り込んだ繊維。
(11)請求項9のプラチナ含浸ゾノトライト中空体を樹脂に練り込んだ織物。
【発明の効果】
【0006】
本発明の機能性成分含浸ゾノトライト中空体は、今まで成形体では使えなかったシートやフィルム、フィラメントへの用途展開が可能となる。
また、ゾノトライトパウダーとすることにより、断熱機能、耐熱機能を有するシートやフィルム、フィラメント、インキ、塗料などにも適用できる。
更に、既存のこれら素材にデッピングなどにより後加工ができ、多方面に渡る新規機能性を提供可能となる。
そして、外殻構造を有する中空体に機能性成分を含浸させることで、消臭、除菌、抗カビ、抗ウイルス、保湿、抗酸化効果などの高機能性を付与でき、より付加価値のある製品が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】スプレードライヤー時に、ゾノトライト中空体に機能性成分であるナノプラチナ液を混合して、ゾノトライト中空体に含浸させた実施形態のゾノトライトパウダーのSEM画像である。(a)は1000倍、(b)は2000倍、(c)は5000倍の表面画像である。
図2】ゾノトライトパウダーを破砕してその断面状態を観察したSEM画像である。図1(c)の5000倍に相当する倍率から、ゾノトライトパウダーの外殻のおよその厚みを測定できる。
図3】ゾノトライトパウダーをスプレードライヤーによって製造する基本工程を示す概略図である。
図4】不織布に機能性成分含浸ゾノトライトパウダーを付着させるディッピング加工の模式的図面及びフィルターである。
図5】ディッピング加工したゾノトライト担持不織布をプリーツ加工した加湿フィルターの斜視図である。
図6】加湿フィルターの除菌性能測定結果を表である。
図7】ビタミン放出量の相対比較を示すグラフである。
図8】緑茶カテキンフィルターによる消臭率を示すグラフである。
図9】保湿試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の機能性成分含浸中空体粒子は、機能性成分が含浸された中空体であって、前記中空体は、多数のゾノトライト針状結晶の集合体で構成された多孔質の球体状からなるとともに、機能性成分が含浸されたものであることを特徴とする。
図1にその詳細を示す。
図1は、実施形態の、スプレードライヤー時に、ゾノトライト中空体に機能性成分であるナノプラチナ液を混合して、ゾノトライト中空体に機能性成分(ナノプラチナ液)を含浸させたゾノトライトパウダーのSEM画像である。
図1(a)は×1000の画像であり、横白線の幅が10μmのスケールの画像であり、
(b)は×2000の画像であり、横白線の幅が10μmのスケールの画像であり、
(c)は×5000の画像であり、横白線の幅が5μmのスケールの画像である。
【0009】
図2は、図1ゾノトライトパウダーを破砕した断面を示すSEM画像である。
このSEM画像は、図1の(c)に対応した×5000の画像であり、その径はおよそ10μmである。このスケールから、パウダーの外殻の厚みはおよそ2μmと推定することができる。
いくつかのゾノトライトパウダーを破砕してその大きさや外殻の厚みを求めると、ゾノトライトパウダーの外径は3~50μmの範囲にあり、外殻の厚みはおよそ0.5~2μmの範囲であると判断することができた。
なお、本発明では、技術用語を以下のように定義する。
(ア)ゾノトライト中空体:水熱反応で合成した球体状の粒子(いわゆるマリモのような形態)
(イ)ゾノトライト中空体スラリー:ゾノトライト中空体の水溶液
(ウ)機能性成分含浸ゾノトライト中空体:ゾノトライト中空体に機能性成分を含浸させた粒子
(エ)ゾノトライトパウダー:スプレードラヤーを用いて作製した粉末
以下、本発明の構成について詳細に説明する。
【0010】
ゾノトライト(Xonotlite)>
ゾノトライトは、Ca6Si6O17(OH)2 の多数の針状結晶が絡まって、層状の外殻を形成した中空体(図2参照)となっている。
また、図1から分かるように、外殻は針状結晶の集合体から形成されたものであることから多孔質であり、中空体の中に含浸された機能性成分を徐々に外部に放出することができる。
【0011】
ゾノトライトの針状結晶は、原料(石灰質原料、珪酸質原料に水を加えて原料スラリーとする)を圧力容器(オートクレーブ)に入れた状態で、混合撹拌しながら水蒸気を加え、ゆっくりと化学反応(水熱合成)させることにより作製することができる。
針状結晶の大きさや密度は、オートクレーブ中での圧力や反応時間、混合撹拌時間をコントロールすることによって、用途に応じて種々のものを作製することができる。
また、混合撹拌しながら水熱合成させることによって、球体状の中空体とすることができる。
なお、水熱合成において、オートクレーブ中における原料スラリー濃度としては、3~8%とすることが好ましい。
この範囲において、ナノサイズのゾノトライト針状結晶を多数作製しやすいからである。
【0012】
ゾノトライト針状結晶を作製する原料としては、石灰質原料として生石灰、消石灰等を使用することができ、珪酸質原料として、非晶質でナノサイズのシリカゾル(例えばコロイダルシリカなど)を用いることが好ましい。
<珪酸質原料>
シリカゾルとしては、ブレーン値が3000cm2/g~15000cm2/gの範囲の結晶質シリカを50質量%以上使用することが好ましい。
特に、結晶質シリカとしては微粉化したケイ石粉を使用することが好ましい。
また、その他の珪酸質原料としてブレーン値が3000cm2/g以上の非晶質シリカ、(例えば、けい藻土、シリカヒューム、マイクロシリカ等)を使用することもできる。
【0013】
<配合>
また、ゾノトライト針状結晶を作製するに際しての、石灰質原料、珪酸質原料の配合割合は、それぞれCaOとSiOに換算して、モル比で0.8~1.2(CaO/SiO)とすることが好適である。
さらに、上記の石灰質原料、珪酸質原料に、質量比で5~20倍、好ましくは7~16倍の水を加え、混合分散させて原料スラリーとする。
この原料スラリーを、撹拌可能な圧力容器(オートクレーブ)内の中で水熱合成反応を行う。
なお、オートクレーブ中における水熱合成反応は、40~90分かけて150~230℃に上昇させ、1~12時間かけ降温させることが、ゾノトライト針状結晶を多数作製しやすいので好ましい。
また、オートクレーブ中においては、12~18kg/cmの水蒸気圧下で、回転や振動を与えながらゆるく撹拌する。
上記の数値範囲を外れると、石灰質原料と珪酸質原料との間で水熱合成反応が起こりにくくなり、ゾノトライトに代わってトバモライトという別の結晶体ができやすくなり好ましくない。
トバモライトは針状のままで球状の形態にならないので、機能性成分を担持する中空部を備えていない。また、耐熱性も低い。
なお、オートクレーブ中の水蒸気圧が低いと結晶反応が起こらない。
上記のようにして、水熱合成反応の条件を制御することによって、原料スラリーからゾノトライト針状結晶を得るとともに、オートクレーブ中において混合撹拌を制御することによって、ゾノトライト中空体のサイズや外殻の厚みをコントロールすることができる。
【0014】
<機能性成分含浸>
つぎに、作製した球体状のゾノトライト中空体に、機能性成分を含浸させる。
本発明において「含浸」とは、多孔質物質に液状物質をしみ込ませることをいい、以下のような態様がある。
(1)液状物質を、多孔質物質中でそのまま保持する。
(2)液状物質を多孔質物質内部にしみ込ませ、液体を蒸発させて、液体物質内成分を多孔質物質内で析出させる。
(3)液状物質をそのまま固化させ多孔を埋めて、ち密体を作成する。
などが挙げられる。
【0015】
<機能性成分をゾノトライト中空体に含浸させる方法>
機能性成分をゾノトライト中空体に含浸させる方法として、以下のような方法が挙げられる。
(1)オートクレーブ処理前の原料スラリー(ゾノトライトゲルともいう)に混合して、機能性成分を含浸した機能性成分含浸中空体を作製する。
この場合に混合する主な機能性成分としては、機能性成分が弱酸性、中性または塩基性に制限される。
例えば、銀イオン、銅イオン、ビタミン誘導体、クエン酸鉄、酸化チタン、酸化タングステンなどが挙げられる。
(2)また、オートクレーブ処理後、得られたゾノトライト中空体のスラリ-(濃度5~20%)に機能性成分を加えて混合し、ゾノトライト中空体に機能性成分を含浸させた状態で、スプレードライヤーで粉末化する。
この場合に混合する主な機能性成分としては、アスコルビン酸、コラーゲン、タンニン酸、カテキン、キシリトール、ヒノキチオール、フィトンチッド、硫酸銅、キトサン銅、酢酸銀、クエン酸などが挙げられる。
(3)スプレードライヤーなどによって得られた乾燥後のゾノトライトパウダーに、機能性成分を含浸させる方法もある(後述)。
この場合に混合する主な機能性成分としては、油溶性ビタミン(A,B,C,D,E)や、スクワラン油、オリーブ油、アルガン油、アマニ油などが挙げられる。
これらの油溶性成分は、ゾノトライトパウダーの内部に吸収される。
量産では真空装置に入れて短時間に吸収させることができる。
【0016】
<機能性成分>
機能性成分とは、その物質に備わっている働きをいうと定義できるが、
本発明では、例えば、以下のものが挙げられる。
(1)脱臭剤、除菌剤など(エア・フィルターなどに適用できる)
(2)ビタミン剤、ヒアルロン酸、コラーゲン、香料など(化粧品などに適用できる)
(3)消臭剤、吸音材、光触媒、防虫剤など(壁紙、建材などに適用できる)
また、本発明では、特に、
緑茶カテキン、フィトンチッド、活性炭(墨)などの抗菌・脱臭などの機能を有する成分、
アロマなどの香り成分やダニ、蚊などに忌避効果のある天然樹木成分、
野菜やフルーツの鮮度保持効果のある抗菌成分、
VOCなどの臭気成分の脱臭成分なども挙げられる。
アロマ成分は癒し、眠りなどに効果があるフィトンチッド、ローズマリー、ラベンダー、レモングラスなど、防虫効果には、ユーカリオイル、ヒノキチオール、レモングラスなど、保湿成分には、ナノプラチナ、低分子コラーゲンなどがある。
【0017】
<コーティング>
なお、機能性成分を含浸させたあとのゾノトライト中空体の外殻に、さらにコーティング層を形成することもできる。
コーティング層としては、コロイダルシリカなどが挙げられる。
コーティング層を形成することによって、機能性成分の外気への放出量をコントロールすることができる。
また、ゾノトライト中空体の強度や耐水性を確保することもできる。
【0018】
<乾燥装置>
つぎに、機能性成分を含浸させたゾノトライト中空体をスラリー状にして、乾燥装置にて水分を飛散させて乾燥粉末(ゾノトライトパウダーともいう)にする。
水分を飛散させる乾燥装置としては、スプレードライヤー、スラリードライヤー、流動槽乾燥機など、スラリーを加熱及び乾燥してパウダーに加工する装置が挙げられる。
図3に、ゾノトライトパウダーを製造する一例としての基本フロー図を示す。
【0019】
まずは、スプレードライヤーに投入する前に、水熱合成反応用の原料スラリーを作製する。
ゾノトライト中空体作製の原料液として、石灰質原料5、珪酸質原料5、水90の割合で原料スラリーを作製する。
この原料スラリーをオートクレーブに入れ、12kg/cm2 の水蒸気圧下で、8時間、回転及び振動を与えながら撹拌し、水熱合成を行い、多数のゾノトライト針状結晶の集合体で構成された多孔質の球体(ゾノトライト中空体スラリー)を形成させた。
なお、ゾノトライト中空体の形成において、石灰質原料は、粒径100μm以下の消石灰を用い、珪酸質原料が、粒径100nm以下のシリカゾルを用いた。
そして、形成させたゾノトライト中空体スラリーに、機能性成分としてナノプラチナ液を混合して、機能性成分含浸ゾノトライト中空体(ゾノトライト中空体に機能性成分を含浸させた粒子)のスラリーを作製した。
このときの機能性成分含浸ゾノトライト中空体のスラリーを作製するにあたって、機能性成分としてのナノプラチナ液の混合割合は、以下のようにした。
すなわち、最終的に、ゾノトライトパウダーに含まれるナノプラチナ濃度が0.5~1ppmとなるように、10ppmのナノプラチナ濃度の液を、質量比で5~10%を加えて調整した。
なお、ナノプラチナ液として用いた薬品は、株式会社セラフト製造の「ナノプラチナ粒子水PTB-10」である。
【0020】
<粒径のコントロール>
つぎに、スプレードライヤーを用いてゾノトライトパウダーを作製する。
このとき、噴霧するエアの温度や風量、強さなどを調整することによって、ゾノトライトパウダーのサイズを制御することができる。
また、スラリーの粘性を500cpセンチポイズ以下に調整する(例えば、界面活性剤の添加)ことにより、ナノオーダーのサイズにコントロールすることができる。
【0021】
<ゾノトライトパウダーの用途例>
つぎに、ゾノトライトパウダーの用途例を説明する。
例えば、以下のようなものが挙げられる。
(1)樹脂などへの素材にゾノトライトパウダーを練り込み加工する。
(a)繊維の例
PP、ナイロン、ポリエステルなどの素材に練り込んだものを繊維に加工し、この繊維を編んで、フィルター、衣料、寝装具、車両シートカバーなどに加工する。
これらの製品に、断熱、除菌、抗カビ、抗ウイルス、調質、保湿、防虫、抗酸化などの機能を付与させることができる。
なお、繊維への練り込みは、鞘、芯の2重構造を有する芯鞘型繊維を用いることが好ましい。
例えば、PP複合モノフィラメント構造の繊維には、鞘部(外周)には、ポリプロピレンにハイブリッドカテキンを練り込み、芯材には、ポリプロピレン100%のものなどを使用することができる。
(b)インキや塗料などの例
これらに添加して、断熱、除菌、抗カビ、防虫、香料(アロマなど)などの機能を付与させることができる。
(c)その他の例
PET、PE、ウレタン、塩ビなどの素材に練り込み、これらをフィルム、シート化して、これらを用いた製品に鮮度保持効果を付与させることができる。
(2)ゾノトライトパウダーを分散させた溶液にディッピング加工する。
(a)不織布の例
PET、ナイロン、レーヨンなどの不織布をディッピング加工して、不織布表面および内部間隙にゾノトライトパウダーを担持させる。
これにより、不織布に、断熱、除菌、抗カビ、抗ウイルス、保湿、防虫、抗酸化などの機能を付与させることができる。
(b)綿、ウール、シルク糸などの繊維の例
繊維をディッピング加工して、これらを用いた製品に、除菌、抗カビ、抗ウイルス、保湿、防虫、紫外線・抗酸化などの機能を付与させることができる。
(c)カーテン、シーツなど織物の例
織物をディッピング加工して、これらを用いた製品に、断熱、除菌、防虫、香料(アロマなど)などの機能を付与させることができる。
【0022】
つぎに、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1として、機能性成分としてビタミンを含浸させた不織布を、抗菌・加湿フィルターに適用した例を示す。
スプレードライヤー用の原料スラリーの配合として、
ゾノトライト中空体(粒径100μm以下)を固形分として:10~20質量部、
機能性成分として、10μm以下の粒度調整した銀セラミックス(銀イオン、東亜合成ノバロン330):1~5質量部、
コロイダルシリカ:10~30質量部、
水:残、
を混合してスプレードライヤ用の原料スラリーを作製した。
作製した原料スラリーを、スプレードライヤーを用いて、平均粒径10μmの銀イオン含浸ゾノトライトパウダーを製造した。
この銀イオン含浸ゾノトライトパウダー:5~20質量部に、
アクリルエマルジョン:10~30質量部、
残:水、を加えて粘度調整したディッピング液を作製した。
【0023】
<ディッピング加工>
つぎに、作成したディッピング液に不織布をディッピング加工して、不織布に均一かつ規定の量だけ銀イオン含浸ゾノトライトパウダーを付着させた。
そして、図4に示すように、ディッピング加工した不織布を引き上げ、乾燥炉で100~130℃で加熱乾燥させ、ゾノトライト担持不織布を製造した。
このゾノトライト担持不織布を、図5に示すフィルターとして用いるためにプリーツ加工して、加湿フィルターとした。
この加湿フィルターは、加湿器や空気清浄機などに搭載する。
【0024】
図6に、上記のようにして製造した加湿フィルターの除菌性能測定結果を示す。
図6の表に示すように、上記ディッピング液の濃度を、質量比で2%、5%、7.5%と変化させ、加湿フィルターの性能の効果を調査した。
その結果、いずれの濃度においても、空気中に浮遊している一般細菌(大腸菌、黄色ブドウ球菌など)の初発菌数(ブランク6.5×10 個)からの低下を示した。
すなわち、銀イオンを2%含有させた加湿フィルターを通過させた空気は、
初期(Start時)は菌数が400個であったが、
それぞれ2、4、6月経過後には、3.3×10 、5.1×10、2.1×10 個にまで減少した。
また、5~10質量%含有させた加湿フィルターは、いずれも20個未満であった。
なお、上記ディッピング液には、バインダーとして、水性エマルジョンのアクリルバインダーや酢酸ビニルバインダーなどを、約5%添加している。
[実施例2]
【0025】
実施例2として、機能性成分としてビタミンを含浸させた不織布をビタミン放出用のフィルターに適用した例を示す。
スプレードライヤー用の原料スラリーの配合として、
ゾノトライト中空体(粒径100μm以下)を固形分として:30~50質量部、
機能性成分として、10μm以下の粒度調整したビタミン:15~40質量部、
コロイダルシリカ:10~30質量部、
水:残、
を混合してスプレードライヤ用の原料スラリーを作製した。
作製した原料スラリーを、スプレードライヤーを用いて、平均粒径10μmのビタミン含浸ゾノトライトパウダーを製造した。
このビタミン含浸ゾノトライトパウダー:30~50質量部に、
アクリルエマルジョン:10~30質量部、
残:水、を加えて粘度調整したディッピング液を作製した。
ここで、ビタミンとは以下のビタミンBやビタミンCなどの成分を有するものをいう。
ビタミンCとしては、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸リン酸マグネシウムなどが挙げられ、
ビタミンBとしては、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビオチンなどが挙げられる。
これらの一つまたは複数を組み合わせてビタミンとする。
【0026】
<ディッピング加工>
つぎに、作成したディッピング液を基材である不織布へ含浸させるためディッピング加工して、不織布に均一かつ規定の量だけビタミン含浸ゾノトライトパウダーを付着させた。
そして、図4に示すように、ディッピング加工した不織布を引き上げ、乾燥炉で100~130℃で加熱乾燥させ、ゾノトライト担持不織布を製造した。
このゾノトライト担持不織布を、図4の下に示すような形状に加工してビタミン放出用フィルターとし、エアコンや空気清浄機などに搭載した。
【0027】
図7に、実施例2のビタミン放出用フィルターにおけるビタミン放出量の調査結果を示す。
横軸にビタミン含浸割合(質量%)を5~40%変化させたときのビタミン放出量(縦軸にアスコルビン酸濃度(ppm))を示す。
すなわち、上記ディッピング液のビタミン濃度を、質量比で5~40%と変化させ、
ビタミン放出用フィルターのビタミン放出量の効果を調査した。
いずれの濃度においても、ビタミン放出用フィルターからビタミンが効果的に放出されていることが分かる。
[実施例3]
【0028】
実施例3として、機能性成分として緑茶カテキンを樹脂に練り込んだ繊維やフィルムに適用した例を示す。
スプレードライヤー用の原料スラリーの配合として、
ゾノトライト中空体(粒径100μm以下)を固形分として:5~10質量部、
機能性成分として、10μm以下の粒度調整した緑茶カテキン:15~40質量部、
コロイダルシリカ:10~30質量部、
水:残、
を混合してスプレードライヤ用の原料スラリーを作製した。
作製した原料スラリーを、スプレードライヤーを用いて、平均粒径10μmの緑茶カテキン含浸ゾノトライトパウダーを製造した。
機能性成分(緑茶カテキン)を含浸したゾノトライトパウダーの大きさは、10μm以下とすることが好ましい。
大きいと、鞘部分の厚みよりも大きくなって、脱離しやすい。
小さいと、鞘部分の内部に潜りこみ、表面に露出しにくくなる。機能性成分の効果が出にくくなる。
この緑茶カテキン含浸ゾノトライトパウダー:2~15質量部を、樹脂に練り込んだものを繊維やフィルムに加工して、機能性繊維やシート、ラップ材を得た。
樹脂は、用途により適した樹脂を選択することができ、特に衣料ではナイロン、ポリエステルなどの樹脂に練り込むことが好ましい。
繊維は、マルチフィラメントに加工したものは、主に衣料用繊維として製品化し、
モノフィラメントは、エアコンや空気清浄機などのエアーフィルターとして製品化、フィルムは、鮮度保持フィルムとして製品化することができる。
【0029】
図8に、実施例3の練り込み繊維に適用した緑茶カテキンフィルターを用いた場合の消臭効果を示す。
芯鞘の二重構造(芯はポリプロピレン、鞘はポリプロピレンにカテキンを練り込み)複合繊維を用いた緑茶カテキンPPフィルター(カテキンPPフィルター及びカテキンPPフィルター+染色ウレタンフィルター)は、縦軸のアンモニア消臭率%が80%を以上となり,従来品に比較して優れた効果を示した。
なお、実施例3では緑茶カテキンを用いたが、その他の機能性成分の含浸も適用できる。
例えば、アロマなどの香り成分やダニ、蚊などに忌避効果のある天然樹木成分、野菜やフルーツの鮮度保持効果のある抗菌成分、VOCなどの臭気成分の脱臭成分などが挙げられる。
アロマ成分は癒し、眠りなどに効果があるフィトンチッド、ローズマリー、ラベンダー、レモングラスなど、防虫効果には、ユーカリオイル、ヒノキチオール、レモングラスなど、保湿成分には、ナノプラチナ、低分子コラーゲンなどがある。
また、抗菌・脱臭成分には、フィトンチッド、活性炭(墨)などが挙げられる。
[実施例4]
【0030】
実施例4として、実施例3の緑茶カテキンに変えて、プラチナ粒子とビタミンC粉末とを水に溶かした水溶液(機能性成分)(nanoPtと表記)を樹脂に練り込んだ繊維に適用した例を示す。
用いた繊維は、芯鞘の二重構造(芯はナイロン、鞘はナイロンにnanoPtを練り込み)複合繊維を用いた。
図9に、その複合繊維を用いて製造した織物(タイツとストッキング)の保湿試験結果を示す。
タイツとストッキングの着用前後の被験者の肌弾力および肌水分量の評価を、ナイロン製の市販品(表中、コントロールと表記)と比較評価した。
測定器は、商品名「モデラス」(ヤマキ電気社製フェイスケアセンサ)の触覚センサ及び水分センサを用いて以下のようにして行った。
・装着前および装着後の肌弾力、水分量を測定した。
・実施例のサンプルとコントロールを、25℃、55%の空調空間で着用し、3時間ずつ同じデスクワークをさせた。
・それぞれ、着用後3時間が経過したら、着用した部位である内腿の肌弾力・水分量を測定した。測定箇所は3か所とした。
この結果、実施例のストッキングは、市販品(コントロール)を100とした場合に、
肌保湿相対値(弾力+水分量)は118~122%にアップした。
同じく、実施例のタイツは、131~140%にアップした。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の機能性成分含浸ゾノトライト中空体は、今まで成形体では使えなかったシートやフィルム、フィラメントへの用途展開が可能となる。
また、ゾノトライトパウダーとすることにより、断熱機能、耐熱機能を有するシートやフィルム、フィラメント、インキ、塗料などにも適用できる。
更に、既存のこれら素材にデッピングなどにより後加工ができ、多方面に渡る新規機能性を提供可能となる。
そして、消臭、除菌、抗カビ、抗ウイルス、保湿、抗酸化効果などの高機能性を付与でき、より付加価値のある製品が提供でき、産業上の利用可能性が高い。
図1
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図9