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特許7148937リチウムイオン二次電池の正極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の正極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1391 20100101AFI20220929BHJP
   H01M 4/36 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
H01M4/1391
H01M4/36 E
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021153746
(22)【出願日】2021-09-22
(65)【公開番号】P2022064294
(43)【公開日】2022-04-25
【審査請求日】2021-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2020172825
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 勝弥
(72)【発明者】
【氏名】是津 信行
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】獅野 和幸
【審査官】石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/169129(WO,A1)
【文献】特開2012-238494(JP,A)
【文献】特開2012-212669(JP,A)
【文献】特開2002-373654(JP,A)
【文献】特開2010-070427(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0393479(US,A1)
【文献】特開2001-155728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の正極の製造方法であって、
正極基材の表面に正極活物質を含む塗膜を形成する工程と、
前記塗膜をプレスする工程と
を含み、
前記正極活物質は、リチウム複合酸化物の単粒子からなる第1活物質と、リチウム複合酸化物の単粒子が凝集した二次粒子からなる第2活物質との混合物であり、
前記第1活物質を構成する単粒子は、フラックス法で合成された結晶であり、
前記第1活物質の平均粒径は、前記第2活物質の平均粒径よりも小さく、かつ、前記第1活物質の粒径の標準偏差は、前記第2活物質の粒径の標準偏差よりも小さく、
前記塗膜において、前記第1活物質が前記第2活物質の間に充填されていることを特徴とするリチウムイオン二次電池の正極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池およびその正極に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高く、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータ等の携帯型電子機器の電源として広く用いられている。また、リチウムイオン二次電池は、作動電圧が高いことから、近年はハイブリッド自動車や電気自動車の電源としての開発、使用も進められており、高容量化が望まれている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、一般に、正極活物質を有する正極活物質層を正極集電体の表面に形成した正極と、負極活物質を有する負極活物質層を負極集電体の表面に形成した負極とが、非水電解質を介して接続されて構成されている。そして、リチウムイオン二次電池の性能は、正極における正極活物質の組成や構造に大きく依存している。特許文献1(特開2006-228733号公報)には、相対的に大粒径粒子の正極活物質と、相対的に小粒径粒子の正極活物質とを混合して粒子を稠密にすることにより、正極活物質の密度を向上させて電池性能の向上を図ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-228733号公報
【文献】特開2013-065468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のリチウムイオン二次電池の正極活物質は、粒子の大小に関わらずいずれも単粒子が凝集した二次粒子からなるものであった。二次粒子中には、図2-IIに示すような空間(ボイド)が形成されている。したがって、二次粒子の密度を向上させても、実際には正極活物質の密度が十分には向上せず、十分な電池性能が発揮され難いという課題がある。
【0006】
また、正極集電体の表面に正極活物質層を形成する際、正極集電体である正極基材の表面に形成した正極活物質を含む塗膜をプレスするが、二次粒子からなる正極活物質では、プレス圧によって粒子に変形やクラックが生じ易く、電池性能が低下してしまうという課題がある。この点、特許文献2(特開2013-065468号公報)には、プレス圧から粒子を保護するために、大小粒子の粒径を調整して、小粒径粒子が大粒径粒子同士の隙間に入り込み易くすることが記載されている。しかしながら、この場合、小粒径粒子が局所に集中して分散され難くなることによって、十分な電池性能が発揮され難くなってしまうという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、正極活物質の高密度化が図られて優れた電池性能を発揮でき、プレス耐性が向上して所定のプレス圧に対しても電池性能が低下しないリチウムイオン二次電池およびその正極を提供することを目的とする。
【0008】
本発明は、一実施形態として以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0009】
本発明に係る正極は、正極基材の表面に正極活物質を含む塗膜がプレスされてなるリチウムイオン二次電池の正極であって、前記正極活物質は、リチウム複合酸化物の単粒子からなる第1活物質と、リチウム複合酸化物の単粒子が凝集した二次粒子からなる第2活物質との混合物であることを特徴とする。
【0010】
これによれば、前記塗膜において、前記第1活物質が前記第2活物質の間に充填された構成をとることができる。したがって、ボイドを有しない単粒子を二次粒子の間に充填して正極活物質の高密度化を図ることができる。また、二次粒子よりも硬い単粒子が二次粒子の周囲に在って二次粒子を拘束することができるため、プレス圧に対して二次粒子の変形やクラック等の破損を抑制することができる。したがって、塗膜のプレス耐性を向上させることができる。
【0011】
また、前記塗膜においては、前記第1活物質が前記塗膜全体に分散して点在し、前記第1活物質が該第1活物質を介して前記第2活物質同士を結び付けるように、前記第2活物質同士の間に介在した構成をとることができる。したがって、単粒子を介して粒子間の接触面積を増加させて、リチウムイオンおよび自由電子の伝導経路を増加させることができる。
【0012】
また、前記第1活物質が分散される結果、前記塗膜中のバインダや電動助剤は、該バインダおよび/または該導電助剤を介して前記正極活物質同士を結び付けるように、前記正極活物質同士の間に介在した構成をとることができる。したがって、各粒子間にリチウムイオンおよび自由電子の伝導経路が多岐に分岐して、当該正極を使用して優れた電池性能を発揮させることが可能になる。
【0013】
ここで、前記単粒子は、単結晶であることが好ましい。この場合、安定した構造および十分な硬さを有して、正極活物質の高密度化および塗膜のプレス耐性の向上をより確実に実現できる。
【0014】
また、前記単粒子は、フラックス法で合成された結晶からなることが好ましい。フラックス法で合成された結晶は、各々の粒子が十分に結晶成長した単結晶粒子からなる。したがって、第1活物質を構成する単粒子を単結晶とすることができる。また、フラックス法によれば、生成する結晶粒子の粒径を比較的容易に制御できるため、二次粒子(第2活物質)の粒径に応じた最適な粒径の単粒子(第1活物質)が混合された正極活物質を構成することができる。
【0015】
前記第1活物質の平均粒径は、前記第2活物質の平均粒径よりも小さいことが好ましい。これにより、第1活物質が第2活物質の間に充填され易くなり、ボイドを有しない単粒子を二次粒子の間に充填して正極活物質の高密度化を図ることができる。
【0016】
また、単粒子(第1活物質)の粒径の標準偏差は、二次粒子(第2活物質)の粒径の標準偏差よりも小さい。これにより、二次粒子の隙間に、単粒子がより入りやくなり、その結果、二次粒子と単粒子とがより稠密に混合された正極活物質を得ることができるため、正極活物質の高密度化および塗膜のプレス耐性の向上をより確実に実現できる。
【0017】
また、本発明に係る他の正極は、正極基材の表面に正極活物質を含む塗膜がプレスされてなるリチウムイオン二次電池の正極であって、前記正極活物質は、相対的に粒径の小さいリチウム複合酸化物の単結晶からなる第1活物質と、相対的に粒径の大きいリチウム複合酸化物の単結晶からなる第2活物質との混合物であり、前記塗膜において、前記第1活物質が前記第2活物質の間に充填されていることを特徴とする。
【0018】
これによれば、密に形成された単結晶のみで正極活物質を構成すると共に、大小サイズの結晶を混合して空間に占める割合を増加させて、正極活物質の高密度化を顕著に図ることができる。また、安定的で硬質な単結晶のみで正極活物質を構成して、塗膜のプレス耐性を顕著に向上させることができる。
【0019】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池は、上記の正極を有する電池である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、正極活物質の高密度化を図ることができ、優れた電池性能を発揮できる。また、正極のプレス耐性を向上させることができ、所定のプレス圧に対しても電池性能が低下しない電池を実現できる。その結果、小型且つ軽量で優れた電池性能を発揮できるリチウムイオン二次電池を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】NCM単粒子(フラックス法で合成されたNCM結晶)のSEM写真である。
図2】NCM二次粒子のSEM写真である。
図3】従来例に係るNCM二次粒子からなる正極活物質の塗膜のSEM写真である。
図4】本発明の第1の実施形態に係るNCM二次粒子とNCM単粒子(フラックス法で合成されたNCM結晶)との混合物である正極活物質の塗膜のSEM写真である。
図5】本発明の第1の実施形態に係るNCM二次粒子とLCO単粒子(フラックス法で合成されたLCO結晶)との混合物である正極活物質の塗膜のSEM写真である。
図6】本発明の第2の実施形態に係るそれぞれフラックス法で合成された小粒径のNCM結晶と大粒径のNCM結晶との混合物である正極活物質の塗膜のSEM写真である。
図7】NCM二次粒子とNCM単粒子(フラックス法で合成されたNCM結晶)との混合割合が相違する正極活物質の塗膜のSEM写真である。
図8】NCM二次粒子とNCM単粒子(フラックス法で合成されたNCM結晶)との混合割合が相違する正極活物質の塗膜の容量密度を示すグラフである。
図9】NCM二次粒子からなる正極活物質の塗膜断面のSEM写真である。
図10】NCM二次粒子とNCM単粒子(フラックス法で合成されたNCM結晶)との混合物である正極活物質の塗膜断面のSEM写真である。
図11】本発明に係るリチウムイオン二次電池の構成例について説明する説明図であって、リチウムイオン二次電池の一部を切欠いた斜視図である。
図12】第1活物質と第2活物質とを混合する際の各粒子(各結晶)の粒径の設定例について説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[正極]
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る正極は、正極基材の表面に正極活物質を含む塗膜がプレスされてなるリチウムイオン二次電池の正極であって、前記正極活物質は、リチウム複合酸化物の単粒子からなる第1活物質と、リチウム複合酸化物の単粒子が凝集した二次粒子からなる第2活物質との混合物であることを特徴とする。以下、図面を参照して詳しく説明する。
【0023】
図1は、NCM単粒子(フラックス法で合成されたNCM結晶)のSEM写真である。
図1(a)および図1(b)に、粒径の相違する2種類のNCM結晶を示す(倍率はいずれも5000倍)。また、図2は、NCM二次粒子のSEM写真である。このうち、IIはIのa部断面を拡大した写真である(倍率は、Iは5000倍、IIは20000倍)。
【0024】
先ず、本実施形態に係る正極は、正極基材の表面に正極活物質を含む塗膜がプレスされてなる。正極は、正極集電体の表面に正極活物質を有する正極活物質層が形成されたものであって、上記の正極基材が正極集電体に相当し、また、上記の塗膜が正極活物質層に相当する。塗膜(正極活物質層)は正極基材(正極集電体)の一方の面に形成されていてもよく、両面に形成されていてもよい。
【0025】
ここで、正極の製造方法を概説すると、先ず正極活物質をバインダ(接着材・結着材)や導電助剤等と共に溶媒に分散させる。次いでこの分散液を正極基材の表面に塗布し、乾燥させて溶媒を揮発させることで正極基材の表面に正極活物質を含む塗膜を形成する。さらに正極活物質の高密度化を図る等の目的で、形成した塗膜をプレスして正極とする。
【0026】
バインダには、例えばPVDF、EPDM等が使用できるが、これらに限定されない。また、導電助剤には、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等が使用できるが、これらに限定されない。また、溶媒には、通常、バインダを溶解する有機溶媒を使用し、例えばNMP、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が使用できるが、これらに限定されない。また、正極基材には、例えばアルミニウム、ステンレス鋼等の箔、網等が使用できるが、これらに限定されない。
【0027】
また、正極活物質等を溶媒に分散させる際には、例えばプラネタリーミキサー等の公知の装置を用いることができる。また、塗膜をプレスする際には、例えばロールプレス装置等の公知の装置を用いることができる。ただし、プレスの方法がロールによるものに限定される訳ではない。その他、本実施形態に係る正極が得られる方法であればその製造方法は特に限定されない。
【0028】
次に、本実施形態に係る正極活物質は、第1活物質と第2活物質との混合物であることを特徴とする。第1活物質および第2活物質はいずれもリチウム複合酸化物である。具体的には、例えばLCO(コバルト酸リチウム(LiCoO))、LNO(ニッケル酸リチウム(LiNiO))、LMO(マンガン酸リチウム(LiMnO))、LFP(リン酸鉄リチウム(LiFePO))、NCM系酸化物(Li(Ni-Co-Mn)O)、NCA系酸化物(Li(Ni-Co-Al)O)等に例示される、Li元素と1または複数種類の遷移金属元素とを構成元素とするリチウム複合酸化物とすることができる。第1活物質と第2活物質とで組成が同じでもよく、異なっていてもよい。また、第1活物質と第2活物質とで組成が同じ場合、元素の分布が同じでもよく、異なっていてもよい。
【0029】
また、第1活物質は、単粒子からなる(図1参照)。ここでいう単粒子は、後述する二次粒子との対比で、凝集していない基本粒子としての一次粒子を意味する。ただし、本発明の目的および効果に影響を与えない程度の不純物(例えば、微量の単粒子が凝集したもの等)を含んでいてもよい。
【0030】
第1活物質を構成する単粒子は、好適には単結晶が好ましい。単結晶は密に形成され、後述する二次粒子に見られるような空間(ボイド)は形成されず、また、安定した構造および十分な硬さを有している。
【0031】
また、上記の単粒子は、より好適にはフラックス法で合成された結晶が好ましい。フラックス法は、無機化合物や金属の溶媒(フラックス)を用いた結晶育成法であって、溶融するフラックス中に結晶材料を溶かし、溶液の冷却による過飽和を駆動力として溶液を結晶化させる。
【0032】
フラックス法によりリチウム複合酸化物結晶を析出する場合、一例として、目的結晶の構成元素(例えばLi、Co、Ni、Mn、Al等)を各々含む酸化物、炭酸塩、硝酸塩等を各々の元素源(結晶材料)として使用し、一方、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を含む炭酸塩、硝酸塩、塩化物、酸化物等をフラックスとして使用することができる。なお、1つの元素源に複数種類の化合物を使用してもよく、複数の元素源に1種類の化合物を使用してもよい。また、フラックスに複数種類の化合物を使用してもよい。また、アルカリ金属であるLi元素を含む化合物を、Li源およびフラックスとして併用してもよい。
【0033】
フラックス法の具体的な手順は、先ず各々の元素源およびフラックスを所定のモル比で混合した混合物をるつぼに投入し、このるつぼを加熱炉内で加熱してフラックスを溶融させる。次いで所定温度に保持した後に冷却することで、融解したフラックス中で目的のリチウム複合酸化物を析出させて結晶成長させる。次いで室温付近まで冷却したるつぼを加熱炉内から取出し、温水に浸漬する等して残存するフラックスを除去することで、リチウム複合酸化物の単結晶を得ることができる。
【0034】
このようにして析出されてなるフラックス法で合成された結晶は、各々の粒子が十分に結晶成長した単結晶粒子からなる。したがって、第1活物質に係る単粒子としてフラックス法で合成された結晶を用いることによって、第1活物質を各々の粒子が十分に結晶化された単結晶からなるものとすることができる。また、図1(a)および図1(b)に示すように、フラックス法によれば、温度や濃度等の条件を変化させて生成する結晶粒子の粒径を比較的容易に制御できるため、所要サイズの粒径を有する単結晶粒子からなるリチウム複合酸化物を得ることができる。したがって、二次粒子(第2活物質)の粒径に応じた最適な粒径の単粒子(第1活物質)が混合された正極活物質を構成することができる。
【0035】
また、上記の第1活物質に対して、第2活物質は、単粒子が凝集した二次粒子からなる(図2参照)。すなわち、第2活物質を構成する各々の粒子は結晶化されたものではなく、複数の粒子が集まって1つの粒子を形成したものである。ただし、第2活物質は、本発明の目的および効果に影響を与えない程度の不純物(例えば、二次粒子を構成しない凝集前の基本粒子としての一次粒子等)を含んでいてもよい。
【0036】
リチウム複合酸化物の二次粒子は、例えば特許文献2(特開2013-065468号公報)記載の方法等に例示される公知の方法によって得ることができる。具体的には、遷移金属の水酸化物または酸化物からなる前駆体と、リチウム系の化合物とを所定割合で混合し、焼成することにより、得ることができる。
【0037】
なお、二次粒子は単粒子が凝集したものであり、二次粒子中には、図2-IIに示すような空間(ボイド)が形成されている。したがって、プレス圧によって粒子に変形やクラック等の破損が生じ易く、相対的にプレス耐性が小さい。一方、単粒子は凝集していない基本粒子としての一次粒子であり、図1に示すように、密に形成されてボイドを有しない。したがって、二次粒子よりも硬く、相対的にプレス耐性が大きい。
【0038】
ここで、第1活物質と第2活物質との混合物である本実施形態に係る正極活物質は、より具体的に、相対的に平均粒径の小さい単粒子からなる第1活物質と、相対的に平均粒径の大きい二次粒子からなる第2活物質との混合物であることを特徴とする。なお、以下、相対的に粒径が小さいことを、単に「小さい」乃至「小粒径」、また、相対的に粒径が大きいことを、単に「大きい」乃至「大粒径」と表記する場合がある。
【0039】
図3図4および図5に、正極活物質の塗膜(正極活物質層)のSEM写真を示す。このうち、図3は、正極活物質が1種類の二次粒子からなる従来の塗膜(50[kN]でプレスした正極活物質層)である。これに対して、図4および図5は、正極活物質が小粒径の単粒子(フラックス法で合成された結晶)と大粒径の二次粒子との混合物である本実施形態に係る塗膜(75[kN]でプレスした正極活物質層)である。なお、図4は、NCM同士の混合物であるのに対して、図5は、LCO(単粒子)とNCM(二次粒子)との混合物である。また、倍率は、各図ともIは1000倍、IIは5000倍である。
【0040】
図3に示すように、二次粒子からなる塗膜には、二次粒子同士の隙間や二次粒子の周囲に空間が形成されている。一方、図4および図5に示すように、単粒子と二次粒子との混合物からなる塗膜では、二次粒子同士の隙間や二次粒子の周囲に単粒子が充填されて空間が埋められている。このように、正極活物質が小粒径の単粒子(第1活物質)と大粒径の二次粒子(第2活物質)との混合物であることによって、これを含む塗膜において、単粒子(第1活物質)が二次粒子(第2活物質)の間に充填された構成を形成することができる。なお、図5においても、図4と同様の構成を形成できたことから、単粒子(第1活物質)と二次粒子(第2活物質)で組成が異なっていてもよい。
【0041】
上記の構成によれば、ボイドを有しない単粒子で二次粒子同士の隙間を埋めて正極活物質の高密度化を図ることができ、その結果、体積抵抗値を低下させて電池性能を向上させることができる。また、二次粒子よりも硬い単粒子が二次粒子の周囲に在って二次粒子を拘束することができ、プレス圧に対して二次粒子の変形やクラック等の破損を抑制することができる。したがって、塗膜のプレス耐性を向上させることができ、プレス圧を例えば100[kN]まで高めても電池性能が低下しないことが確認された(実施例6)。
【0042】
また、本実施形態に係る塗膜においては、単粒子が局所に集中することなく、二次粒子同士の隙間に加えて二次粒子の周囲を含む二次粒子間に点在している構成を特徴とする。これによれば、単粒子(第1活物質)が、単粒子(第1活物質)を介して二次粒子(第2活物質)同士を結び付けるように二次粒子(第2活物質)同士の間に介在し、粒子間の接触面積を増加させてリチウムイオンおよび自由電子の伝導経路を増加させることができる。また、このように単粒子が塗膜全体に分散される結果、塗膜中のバインダや電動助剤も二次粒子同士の隙間等の局所に溜まることなく分散されて、各粒子を相互に結び付けるように二次粒子や単粒子の間に介在した構成をとることができる。したがって、各粒子間にリチウムイオンおよび自由電子の伝導経路が多岐に分岐するため、当該正極を使用して優れた電池性能を発揮させることが可能になる。
【0043】
また、フラックス法で合成された単粒子(第1活物質)は、結晶粒子の粒径を比較的容易に制御できるため、単粒子(第1活物質)の粒径の標準偏差を、二次粒子(第2活物質)の粒径の標準偏差よりも小さくできる。これにより、二次粒子の隙間に、単粒子が入りやくなり、二次粒子及び単結晶粒子が稠密に混合された正極活物質を得ることができる。
【0044】
なお、変形例として、本実施形態に係る正極活物質は、相対的に粒径の大きい単粒子からなる第1活物質と、相対的に粒径の小さい二次粒子からなる第2活物質との混合でもよい。二次粒子は単粒子が凝集したものであり、一般に、単粒子は相対的に粒径が小さく、二次粒子は相対的に粒径が大きい。しかしながら、例えばフラックス法によれば、所要サイズの粒径を有する単結晶粒子からなるリチウム複合酸化物を得ることができる。そこで、フラックス法で合成された比較的粒径の大きい結晶を第1活物質(単粒子)とし、一方、比較的粒径の小さい二次粒子を第2活物質とすることも可能である。これによれば、当該正極活物質を含む塗膜において、二次粒子(第2活物質)が単粒子(第1活物質)の間に充填された構成を形成することができる。
【0045】
この構成によれば、ボイドを有しない単粒子を大粒径粒子として空間の大部分を占有して、正極活物質の高密度化を図ることができる。また、相対的に硬い単粒子を核として塗膜を構成することができ、塗膜(正極活物質)のプレス耐性を向上させることができる。
(第2の実施形態)
続いて、本発明の第2の実施形態に係る正極は、正極基材の表面に正極活物質を含む塗膜がプレスされてなるリチウムイオン二次電池の正極であって、前記正極活物質は、相対的に粒径の小さいリチウム複合酸化物の単結晶からなる第1活物質と、相対的に粒径の大きいリチウム複合酸化物の単結晶からなる第2活物質との混合物であり、前記塗膜において、前記第1活物質が前記第2活物質の間に充填されていることを特徴とする。以下、第1の実施形態との相違点を中心に本実施形態について説明する。
【0046】
前述の第1の実施形態に係る正極活物質は、相対的に粒径の小さい単粒子からなる第1活物質と、相対的に粒径の大きい二次粒子からなる第2活物質との混合物であった。これに対して、本実施形態に係る正極活物質は、相対的に粒径の小さい単結晶からなる第1活物質と、相対的に粒径の大きい単結晶からなる第2活物質との混合物である。すなわち、本実施形態に係る正極活物質は、単粒子同士の混合物であって、それぞれの単粒子が単結晶とされている。
【0047】
図6に、それぞれフラックス法で合成された小粒径のNCM結晶と大粒径のNCM結晶との混合物である本実施形態に係る正極活物質の塗膜(100[kN]でプレスした正極活物質層)のSEM写真を示す(倍率は、Iは1000倍、IIは5000倍)。
【0048】
図6に示すように、本実施形態に係る塗膜では、大きい結晶同士の隙間や大きい結晶の周囲に小さい結晶が充填されて空間が埋められている。このように、正極活物質が小粒径結晶(第1活物質)と大粒径結晶(第2活物質)との混合物であることによって、これを含む塗膜において、小粒径結晶(第1活物質)が大粒径結晶(第2活物質)の間に充填された構成を形成することができる。
【0049】
上記の構成によれば、密に形成された単結晶のみで正極活物質を構成すると共に大小サイズの結晶を混合して空間に占める割合を増加させて、正極活物質の高密度化を顕著に図ることができる。また、安定的で硬質な単結晶のみで正極活物質を構成して、塗膜のプレス耐性を顕著に向上させることができる。本実施形態によれば、より小型且つ軽量でありながら、一定の電池性能を発揮させることができる正極を実現できる。
【0050】
また、本実施形態に係る塗膜においても、第1の実施形態に係る塗膜と同様に、小粒径結晶が局所に集中することなく、大粒径結晶同士の隙間に加えて大粒径結晶の周囲を含む大粒径結晶間に点在している構成を特徴とする。したがって、小粒径結晶(第1活物質)が、小粒径結晶(第1活物質)を介して大粒径結晶(第2活物質)同士を結び付けるように大粒径結晶(第2活物質)同士の間に介在し、結晶間の接触面積を増加させてリチウムイオンおよび自由電子の伝導経路を増加させることができる。また、このように小粒径結晶が塗膜全体に分散される結果、塗膜中のバインダや電動助剤も大粒径結晶同士の隙間等の局所に溜まることなく分散されて、各結晶を相互に結び付けるようにこれらの間に介在した構成をとることができる。したがって、各結晶間にリチウムイオンおよび自由電子の伝導経路が多岐に分岐するため、当該正極を使用して優れた電池性能を発揮させることが可能になる。
【0051】
なお、第1の実施形態および第2の実施形態に係る正極活物質において第1活物質と第2活物質とを混合する際の各粒子(各結晶)の粒径は、例えば以下のように設定するとよい。
【0052】
図12に示すように、立方体空間に粒径(粒子の直径)xの球状大粒径粒子(図中の塗り潰しのない粒子)が最密充填されている場合、一辺の長さは√2・xとなる。この空間に対して、充填可能な球状小粒径粒子(図中の塗り潰した粒子)の最大粒径は(√2・x)-xすなわちx{(√2)-1}となる。したがって、少なくとも小粒径粒子を大粒径粒子同士の隙間に充填させるには、「小粒径粒子の粒径<大粒径粒子の粒径×{(√2)-1}」を満たすように、各粒子(各結晶)の粒径を設定すればよい。
【0053】
また、小粒径粒子が単粒子からなり、大粒径粒子が二次粒子からなる場合、二次粒子(第2活物質)同士の隙間の最小値は、(二次粒子の平均粒径)-(二次粒子の標準偏差)で表される。一方、単粒子(第1活物質)の大きさの最大値は、(単粒子の平均粒径)+(単粒子の標準偏差)で表される。従って、平均粒径から標準偏差を減算した粒径を有する二次粒子(第2活物質)で形成される隙間よりも、単粒子(第1活物質)の平均粒径に標準偏差を加算した値を小さいく設定すれば、二次粒子(第2活物質)の隙間に、単粒子(第1活物質)を最密充填することができる。
【0054】
ただし、本方法は一例であって、また、理論的に導き出した基準である。実際には、必ずしも粒子は球状に限らず、大粒径粒子または小粒径粒子の1粒1粒の形状や粒径にはばらつきもあることから、第1活物質と第2活物質とを混合する際の各粒子(各結晶)の粒径が必ず上記基準を満たすように設定されなければならない訳ではない。
【0055】
[電池]
本発明の実施形態に係る電池は、これまで述べた第1の実施形態に係る正極または第2の実施形態に係る正極を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池(LIB)である。したがって、本実施形態に係る電池は、少なくとも上記の正極を有する限りにおいて、その他はリチウムイオン二次電池の取り得るいずれの構成でもよい。
【0056】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成例として、図11に、試験研究等に用いられる比較的簡易な構成を有するコインセル10を示す。コインセル10は、正極ケース17および負極ケース18内に正極12、セパレータ13、負極14、および非水電解質15が所定の配置で収容されており、これらの部材を適宜リング16等で所定の箇所に固定しながら組立てることで製造することができる。
【0057】
ここで、正極12の構成は、これまで述べた通りである。負極14は、正極と同様に、負極集電体の表面に負極活物質を有する負極活物質層が形成されて適宜これをプレスしてなる構成とすることができる。負極活物質には例えばグラファイト、コークス等が使用でき、負極集電体には例えば銅、ステンレス鋼等の箔、網等が使用できるが、これらに限定されない。一方、負極活物質と負極集電体とを一体としたリチウム金属箔等を使用することもできる。
【0058】
また、セパレータ13および非水電解質15は、正極12と負極14との間に介在するように配置され、正極12と負極14との間に挟持されたセパレータ13に非水電解質15が含浸されている。セパレータ13は正極12と負極14とが接触しないように絶縁すると共に、リチウムイオンの移動を阻害しない状態で非水電解質15を保持する。セパレータ13には、例えば多孔質樹脂等が使用できるが、これに限定されない。また、非水電解質15は正極12と負極14との間でリチウムイオンの輸送を行う。非水電解質15には、例えば有機溶媒に支持塩を溶解したもの等が使用できるが、これに限定されない。また、正極ケース17および負極ケース18は、それぞれ正極端子および負極端子を兼ねる。これらには、例えばステンレス鋼等が使用できるが、これに限定されない。
【0059】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、上記のコインセル10等に例示されるが、本発明の実施形態に係る正極が使用されていれば、負極や非水電解質等の材料や、正極を含む各部材の形状等は一切限定されず、公知のいずれの構成も取ることができる。そして、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池が得られる方法であればその製造方法も特に限定されない。
【0060】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池によれば、正極活物質の高密度化を図ることができ、優れた電池性能を発揮できる。また、正極のプレス耐性を向上させることができ、所定のプレス圧に対しても電池性能が低下しない電池を実現できる。その結果、小型且つ軽量で優れた電池性能を発揮できるリチウムイオン二次電池を実現できる。
【実施例
【0061】
表1及び表2に示す配合で正極活物質を製造し、これらの正極活物質に表1に示すプレス圧をかけて正極を製造した。また、これらの正極からリチウムイオン二次電池(LIB)を製造した。なお、表1及び表2において、正極活物質が二次粒子またはフラックス法で合成された結晶のみからなるものについては、視認し易いように、二次粒子を大粒径、フラックス法で合成された結晶を小粒径の項目に表記した。なお、表1は、比較例及び実施例を示し、表2は参考例を示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
(フラックス法で合成されたNCM結晶)
結晶材料として、炭酸リチウム(LiCO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化コバルト(Co)、および酸化マンガン(MnO)を用いた。一方、フラックスとして、ホウ酸リチウム(LiBO)を用いた。上記の結晶材料を所定の割合で混合した溶質と、フラックスとのモル比が、溶質:フラックス=80[mol%]:20[mol%]となるように混合した。
【0065】
上記混合粉末を酸化マグネシウムの坩堝に充填し、加熱炉内で加熱した。酸素0.5[L/分]流量下で、600[℃/時間]の昇温速度で昇温し、900[℃]で3[時間]保持した。次いで室温まで空冷した。その後、60[℃]温水洗浄してフラックスを除去し、乾燥させてNCM系酸化物(Li(Ni-Co-Mn)O)の単結晶(フラックス法で合成された結晶)を、850[℃]でアニールして得た。
【0066】
(フラックス法で合成されたLCO結晶)
結晶材料として、水酸化リチウム(LiOH)および酸化コバルト(Co)を用いた。一方、フラックスとして、塩化ナトリウム(NaCl)を用いた。上記の結晶材料を所定の割合で混合した溶質と、フラックスとのモル比が、溶質:フラックス=95[mol%]:5[mol%]となるように混合した。
【0067】
上記混合粉末を酸化マグネシウムの坩堝に充填し、加熱炉内で加熱した。酸素0.5[L/分]流量下で、600[℃/時間]の昇温速度で昇温し、900[℃]で5[時間]保持した。次いで200[℃/時間]の降温速度で2[時間]冷却した後、室温まで空冷した。その後、60[℃]温水洗浄してフラックスを除去し、乾燥させてLCO(LiCoO)の単結晶(フラックス法で合成された結晶)を、700[℃]でアニールして得た。
【0068】
(二次粒子)
二次粒子には、市販のNCM系酸化物(NCM523-ME5E12D,宝泉製)を用いた。
【0069】
(正極活物質)
正極活物質は、正極の製造に際して、上記の方法で得た二次粒子および/またはフラックス法で合成された結晶を正極活物質として用いるかたちで製造した。なお、二次粒子およびフラックス法で合成された結晶の粒径は、レーザ回折式粒子径分布測定装置(SALD-7100nano,島津製作所製)を用いてレーザ回析・散乱法により測定した。
【0070】
表3は、二次粒子、及びフラックス法で合成した一次粒子の平均粒径、及び標準偏差を示した表である。なお、一次粒子の粒径は、フラックス法で合成する際の温度や濃度の条件を変化させることにより制御した。表3に示すように、一次粒子の粒径の標準偏差は、二次粒子の粒径の標準偏差よりも小さいことが分かる。また、二次粒子を粉砕して粒径を小さくしても、粉砕後における二次粒子の粒径の標準偏差は、一次粒子の粒径の標準偏差ほど小さくはならない。
【0071】
【表3】
【0072】
(正極)
NMP中に、表1及び表2に示す配合の正極活物質(二次粒子および/またはフラックス法で合成された結晶)、PVDF(バインダ)、およびアセチレンブラック(導電助剤)を所定の割合で分散させて正極合材を製造した。次いでこの正極合材をアルミニウム箔からなる正極基材(正極集電体)の一方の表面に塗布し、乾燥させて溶媒を揮発させた。こうして、アルミニウム箔上に塗膜(正極活物質層)を形成させた。次いで塗膜が形成したアルミニウム箔を直径(φ)が14[mm]の円形に型抜きし、プレス装置(P-1B-041B,理研機器製)を用いて表1に示す所定のプレス圧で1[分]プレスして正極を製造した。
【0073】
(リチウムイオン二次電池)
LIBは、図11に示すコインセル10を組立てることで製造した。正極ケース17および負極ケース18には、導電性のステンレス鋼(SUS316)を用いた。セパレータ13には、絶縁性の多孔質フィルム(商品名:セルガード#2400)を用いた。負極14には、負極活物質と負極集電体とを一体としたリチウム金属箔を用いた。非水電解質15には、市販の電解液(LGB-00018,キシダ化学製)を用いた。
【0074】
(正極の構造の分析)
各例の正極の塗膜構造(二次粒子およびフラックス法で合成された結晶の状態)を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。既に説明した図5および図6は、それぞれ実施例7および実施例8のSEM写真である。また、図7に、NCM二次粒子とフラックス法で合成されたNCM結晶との混合割合が相違する正極活物質の塗膜(50[kN]でプレスした正極活物質層)であって、比較例1(図7(a))、実施例3(図7(b))、実施例4(図7(c))、実施例5(図7(d))、実施例6(図7(e))および参考例2(図7(f))に係る塗膜のSEM写真を示す(倍率はいずれも1000倍)。
【0075】
また、各例の正極の塗膜密度(塗膜における正極活物質の密度)を、以下の方法により測定した。電子天秤(GH-120,エー・アンド・デイ製)で「正極の重量」を測定し、「正極の重量」から「直径(φ)が14[mm]の円形に型抜きしたアルミニウム箔の重量」を差引いて「塗膜の重量(W)」を算出した。
【0076】
次いでマイクロメータ(MDC-25SX,ミツトヨ製)で「正極の厚さ」を測定し、「正極の厚み」から「アルミニウム箔の厚さ」を差し引いて「塗膜の厚さ(T)」を算出し、ここから「(円柱形である)塗膜の体積(V)」を算出した。
【0077】
「塗膜の体積(V)」=πrh=π×(14/2)×「塗膜の厚さ(T)」
以上の方法で算出した「塗膜の重量(W)」および「塗膜の体積(V)」から「塗膜密度[g/cm]」を算出した。各例の塗膜密度を表1及び表2に示す。
【0078】
「塗膜密度[g/cm]」=「塗膜の重量(W)」/「塗膜の体積(V)」
(正極のプレス耐性およびリチウムイオン二次電池の性能の評価)
各例の正極に係るLIBに対して電池充放電装置(HJ1005SD8,北斗電工製)を用いて充放電を行って性能を評価した。具体的に、各例の正極に係るLIBに対して10[C]での定電流放電を行って、容量[mAh]を測定し、重量エネルギー密度[mAh/g]を求めた。そして、プレス圧を高めた正極に係るLIBで、重量エネルギー密度が低下したか否かでプレス耐性を評価した。具体的には、例えばプレス圧を50[kN]から75[kN]に高めた場合に重量エネルギー密度が低下しなければプレス耐性を75[kN]、プレス圧を75[kN]から100[kN]に高めた場合に重量エネルギー密度が低下しなければプレス耐性は100[kN]とした。各例のプレス耐性を、基となる重量エネルギー密度と共に表1及び表2に示す。
【0079】
また、0.05[C]乃至10[C]の所定の充放電レートでの充放電を3サイクルずつ行って、容量[mAh]を測定し、容量密度(重量エネルギー密度[mAh/g]および体積エネルギー密度[mAh/cm])を求めた。図8に、NCM二次粒子とフラックス法で合成されたNCM結晶との混合割合が相違する正極活物質の塗膜(50[kN]でプレスした正極活物質層)の容量密度を示すグラフであって、比較例1、比較例2、実施例3、実施例4、実施例5、実施例6および参考例2に係る容量密度を示す(図8(a)は重量エネルギー密度、図8(b)は体積エネルギー密度)。
【0080】
[NCM二次粒子×フラックス法で合成されたNCM結晶(実施例1~6、9)]
以下、「フラックス法で合成された結晶」を表1及び表2と同様に「フラックス育成結晶」と表記する場合がある。塗膜密度については、表1および図7に示すように、50[kN]のプレス圧に係る正極において、平均粒径12.5[μm]のNCM二次粒子のみからなる比較例1(NCMフラックス育成結晶0[wt%])では2.11[g/cm]であった(図7(a))。これに対して、前述の「小粒径粒子の粒径<大粒径粒子の粒径×{(√2)-1}」を満たす平均粒径4.7[μm]のフラックス法で合成されたNCM結晶を5[wt%]混合した実施例3(NCMフラックス育成結晶の平均粒径4.7[μm]<NCM二次粒子の平均粒径12.5[μm]×{(√2)-1}≒5.2)では、二次粒子同士の隙間や二次粒子の周囲にフラックス法で合成された結晶が充填され、塗膜密度は2.46[g/cm]に向上した(図7(b))。また、小粒径の割合を、実施例3と同じ5[wt%]でNCM二次粒子同士を混合した比較例3と比べて、実施例3の重量エネルギー密度は向上した。さらに、フラックス法で合成されたNCM結晶の割合が大きくなるに従って正極活物質(二次粒子およびフラックス法で合成された結晶)がより密になって塗膜密度も大きくなった(実施例4(フラックス育成結晶10[wt%])および実施例5(フラックス育成結晶20[wt%])、図7(c)および図7(d))。そして、フラックス法で合成されたNCM結晶を40[wt%]混合した実施例6では3.07[g/cm]となって、フラックス法で合成されたNCM結晶のみからなる参考例2(フラックス育成結晶100[wt%])の3.01[g/cm]よりも塗膜密度は大きくなった(図7(e)および図7(f))。
【0081】
また、比較例1と実施例5との塗膜構造をさらに比較する。図9は、比較例1の塗膜(50[kN]でプレスした正極活物質層)断面のSEM写真であって、このうち、IIはIのb部を拡大した写真である。また、図10は、実施例5の塗膜(50[kN]でプレスした正極活物質層)断面のSEM写真であって、このうち、IIはIのc部を拡大した写真である(倍率は、各図ともIは1000倍、IIは5000倍)。比較例1の塗膜では、バインダおよび導電助剤が大粒径粒子同士の隙間等の局所に集中し(例えば、図9-IIの矢印dで示した暗色部分)、各粒子(二次粒子およびフラックス法で合成された結晶)を比較的明瞭に視認できた。これに対して、実施例5の塗膜では、バインダおよび導電助剤が塗膜の広範囲に分散して点在すると共にフラックス法で合成された結晶と混合して各粒子(二次粒子およびフラックス法で合成された結晶)を明瞭に視認し難かった。このことから、二次粒子とフラックス法で合成された結晶とを混合することによって、バインダおよび導電助剤がフラックス法で合成された結晶と共に塗膜全体に分散することが示された。そして、図7および図10に示すように、フラックス法で合成された結晶が当該結晶を介して二次粒子同士を結び付けるように二次粒子同士の間に介在し、また、バインダや電動助剤がこれらを介して各粒子や各結晶を互いに結び付けるように粒子や結晶の間に介在した構成をとることが示された。
【0082】
また、NCM二次粒子同士を混合した比較例2(平均粒径12.5[μm]粒子:平均粒径5.0[μm]粒子=80[wt%]:20[wt%])の塗膜密度は2.88[g/cm]であったのに対して、ほぼ同サイズのNCM二次粒子とフラックス法で合成されたNCM結晶とを同割合で混合した実施例5(平均粒径12.5[μm]粒子:平均粒径4.7[μm]結晶=80[wt%]:20[wt%])では2.92[g/cm]で、NCM二次粒子よりもフラックス法で合成されたNCM結晶を混合する方が塗膜密度を向上させられることが示された。
【0083】
また、電池性能について、NCM二次粒子のみからなる比較例1とフラックス法で合成されたNCM結晶を混合した実施例1~6とを比較すると、表1および図8(a)に示す重量エネルギー密度[mAh/g]に関しては、0.05[C]から5[C]までの低レートでは比較例1との間で明確な差異はみられなかったが、10[C]の高レートでは実施例1、2、5で比較例1よりも12.7[%]~25.2[%]大きくなった。一方、図8(b)に示す体積エネルギー密度[mAh/cm]に関しては、いずれの充放電レートでも比較例1よりも16[%]~58[%]大きくなった。このように、実施例1~6では比較例1よりも電池性能が向上し、特に塗膜密度が向上したため、体積当たりの容量(体積エネルギー密度[mAh/cm])が大きく向上した。
【0084】
また、NCM二次粒子同士を混合した比較例2と、ほぼ同サイズのNCM二次粒子とフラックス法で合成されたNCM結晶とを同割合で混合した実施例5とを比較すると、重量エネルギー密度[mAh/g]に関しては、いずれの充放電レートでも同程度であったが、体積エネルギー密度[mAh/cm]に関しては、いずれの充放電レートでも比較例2よりも2.5[%]~4.7[%]程度大きくなって、電池性能が向上した。
【0085】
また、実施例同士を比較すると、フラックス法で合成されたNCM結晶の割合が小さい実施例3、4よりもフラックス法で合成されたNCM結晶の割合が大きい実施例5、6の方が容量密度(重量エネルギー密度[mAh/g]および体積エネルギー密度[mAh/cm])が大きくなって、フラックス法で合成されたNCM結晶の割合が大きくなるに従って電池性能がより向上する傾向がみられた。
【0086】
また、NCM結晶の割合が同じ20[wt%]の実施例同士を比較すると、小粒径のサイズが小さい実施例1、9よりも、小粒径のサイズが大きい実施例2、5の方が、プレス耐圧が向上した(プラス耐性75[kN])。
【0087】
また、プレス耐性について、NCM二次粒子同士を混合した比較例2では、75[kN]のプレス圧で電池性能(重量エネルギー密度[mAh/g])が低下した(プレス耐性50[kN])。これに対して、ほぼ同サイズのNCM二次粒子とフラックス法で合成されたNCM結晶とを同割合で混合した実施例5では、75[kN]のプレス圧でも電池性能が低下せず、プレス耐性が向上した(プレス耐性75[kN])。また、フラックス法で合成されたNCM結晶の混合割合をより大きくした実施例6(フラックス育成結晶40[wt%])では、100[kN]のプレス圧でも電池性能が低下せず、プレス耐性がさらに向上した(プレス耐性100[kN])。
【0088】
なお、実施例1(NCMフラックス育成結晶の平均粒径が3.1[μm])、および実施例3(NCMフラックス育成結晶の混合割合が5[wt%])では、他の実施例2、4、5、6と比較してプレス耐性が低くなった。これは、混合する結晶の大きさ(粒径)が小さくなるまたは結晶の混合割合が小さくなる程、大粒径の二次粒子を拘束し難くなるためと考えられる。したがって、粒径の大きいフラックス育成結晶程、その混合割合を少なくしてプレス耐性を向上させることが可能である。
【0089】
[NCM二次粒子×フラックス法で合成されたLCO結晶(実施例7)]
NCM二次粒子にフラックス法で合成されたLCO結晶を混合した実施例7では、表1に示すように、フラックス法で合成されたNCM結晶を混合した実施例1~6、9と同様に、各プレス圧に係る正極において、NCM二次粒子のみからなる比較例1よりも塗膜密度が向上した。実施例7に係る正極活物質では、Ni元素が少ないため、NCM系酸化物のみからなる正極活物質(例えば、フラックス育成結晶の混合割合が同じ40[wt%]である実施例6)よりも電池性能(重量エネルギー密度[mAh/g])は低いが、プレス圧を75[kN]に高めても電池性能が低下せず(プレス耐性75[kN])、むしろ電池性能は実施例6(+6.84[mAh/g])と比較しても大きく向上した(+32.56[mAh/g])。なお、実施例7に係るLIBについて充放電レートを変化させてみると、重量エネルギー密度[mAh/g]に関しては、0.05[C]から2[C]までは比較例1と同程度に推移し、また、体積エネルギー密度[mAh/cm]に関しては、0.05[C]から5[C]までは比較例1よりも大きくなり、(Ni元素が少ないながらも)低レートではNCM系酸化物のみからなる正極活物質と同等の電池性能を発揮した。
【0090】
[フラックス法で合成されたNCM結晶×フラックス法で合成されたNCM結晶(実施例8)]
それぞれフラックス法で合成された大粒径のNCM結晶と小粒径のNCM結晶とを混合した実施例8では、表1及び表2に示すように、フラックス法で合成されたNCM結晶のみからなる参考例1、2、3と同等の100[kN]のプレス耐性を示した。また、100[kN]のプレス圧に係る正極の塗膜密度は3.41[g/cm]で、全ての実施例および参考例の中で最も正極活物質の密度が大きい正極塗膜が形成された。なお、実施例8に係るLIBについて充放電レートを変化させてみると、重量エネルギー密度[mAh/g]に関しては、いずれの充放電レート(0.05[C]~10[C])でも比較例1と同程度であったが、体積エネルギー密度[mAh/cm]に関しては、いずれの充放電レートでも比較例1よりも大きくなって、電池性能が向上した。
【0091】
以上の結果から、正極活物質を、二次粒子と単粒子(例えば、フラックス法で合成された単結晶)との混合物とし、あるいは大小サイズの異なる単粒子(例えば、フラックス法で合成された単結晶)同士の混合物とすることによって、正極の塗膜密度を向上させて特に体積当たりの容量(体積エネルギー密度[mAh/cm])を大きくすることができる。また、プレス耐性も向上することから、本発明に係る正極を有する電池(すなわち本発明に係る電池)として、小型且つ軽量で優れた電池性能を発揮できる電池を好適に作製できる。
【符号の説明】
【0092】
10 コインセル
12 正極
13 セパレータ
14 負極
15 非水電解質
16 固定リング
17 正極ケース
18 負極ケース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12