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特許7148965低誘電熱伝導材用組成物、及び低誘電熱伝導材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】低誘電熱伝導材用組成物、及び低誘電熱伝導材
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/373 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
H01L23/36 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018210603
(22)【出願日】2018-11-08
(65)【公開番号】P2020077777
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000242231
【氏名又は名称】北川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 健広
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 政宏
(72)【発明者】
【氏名】祐岡 輝明
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-199776(JP,A)
【文献】特開2000-186214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/373
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種又は2種以上の(メタ)アクリレートを重合してなるアクリル系重合体、並びに1種又は2種以上の(メタ)アクリレートを含むアクリル樹脂組成物と、平均粒径が20μm以上の結晶性シリカと、平均粒径が5μm以上15μm以下の金属水酸化物と、多官能モノマーと、重合開始剤とを有し、
前記アクリル樹脂組成物100質量部に対して、前記結晶性シリカが330質量部以上440質量部以下、前記金属水酸化物が90質量部以上190質量部以下、前記多官能モノマーが0.01質量部以上0.5質量部以下、前記重合開始剤が0.6質量部以上1.3質量部以下の割合でそれぞれ配合されている低誘電熱伝導材用組成物。
【請求項2】
前記金属水酸化物が、水酸化アルミニウムからなる請求項1に記載の低誘電熱伝導材用組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の低誘電熱伝導材用組成物の硬化物からなる低誘電熱伝導材。
【請求項4】
アスカーC硬度が50以下であり、比誘電率が5.0以下であり、熱伝導率が1.4W/m・K以上である請求項3に記載の低誘電熱伝導材。
【請求項5】
前記低誘電熱伝導材用組成物の前記硬化物がシート状に形成されたものからなる請求項3又は請求項4に記載の低誘電熱伝導材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電熱伝導材用組成物、及び低誘電熱伝導材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱源(例えば、IC)と放熱板(ヒートシンク)との間に熱伝導材を介在させると、それが一種のコンデンサとなる。熱伝導材の誘電率が高いほど、そのコンデンサの静電容量が大きくなるため、場合によっては、そのようなコンデンサが高周波ノイズを発生させる原因となっていた。そのため、従来、誘電率を低く抑えた熱伝導材(以下、低誘電熱伝導材)が提供されている(例えば、特許文献1参照)。この種の低誘電熱伝導材には、誘電率を低く抑えるために、中空フィラーが添加されている。中空フィラーとしては、例えば、ガラスバルーン、フライアッシュバルーン等が用いられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-119674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
低誘電熱伝導材の製造方法によっては、母材となる樹脂と中空フィラーとを混練する際に、中空フィラーが破損してしまい、所望の低い誘電率が得られない場合があった。また、中空フィラーの種類によっては、安定的に市場へ供給されず、入手が困難なことがあった。このような事情等により、中空フィラーを使用しない他の低誘電熱伝導材の提供が望まれていた。
【0005】
本発明の目的は、中空フィラーを使用しない新しい低誘電熱伝導材等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 1種又は2種以上の(メタ)アクリレートを重合してなるアクリル系重合体、並びに1種又は2種以上の(メタ)アクリレートを含むアクリル樹脂組成物と、平均粒径が20μm以上の結晶性シリカと、平均粒径が15μm以下の金属水酸化物と、多官能モノマーと、重合開始剤とを有し、前記アクリル樹脂組成物100質量部に対して、前記結晶性シリカが330質量部以上440質量部以下、前記金属水酸化物が90質量部以上190質量部以下、前記多官能モノマーが0.01質量部以上0.5質量部以下、前記重合開始剤が0.6質量部以上1.3質量部以下の割合でそれぞれ配合されている低誘電熱伝導材用組成物。
【0007】
<2> 前記金属水酸化物が、水酸化アルミニウムからなる前記<1>に記載の低誘電熱伝導材用組成物。
【0008】
<3> 前記<1>又は<2>に記載の低誘電熱伝導材用組成物の硬化物からなる低誘電熱伝導材。
【0009】
<4> アスカーC硬度が50以下であり、比誘電率が5.0以下であり、熱伝導率が1.4W/m・K以上である前記<3>に記載の低誘電熱伝導材。
【0010】
<5> 前記低誘電熱伝導材用組成物の前記硬化物がシート状に形成されたものからなる前記<3>又は<4>に記載の低誘電熱伝導材。
【発明の効果】
【0011】
本願発明によれば、中空フィラーを使用しない新しい低誘電熱伝導材等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態の低誘電熱伝導材用組成物は、低誘電熱伝導材を作製するための組成物であり、室温(23℃)条件下で、流動性を有する液状(シロップ状)をなしている。低誘電熱伝導材用組成物は、主として、アクリル樹脂組成物、多官能モノマー、結晶性シリカ、金属水酸化物、重合開始剤を備えている。
【0013】
アクリル樹脂組成物は、1種又は2種以上の(メタ)アクリレートを重合してなるアクリル系重合体と、1種又は2種以上の(メタ)アクリレートとを少なくとも含む組成物である。また、アクリル樹脂組成物は、更に、芳香族系エステル類を含んでもよい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「メタクリレート及び/又はアクリレート」(アクリレート及びメタクリレートのうち、何れか一方又は両方)を意味する。
【0014】
アクリル系重合体としては、炭素数が2~18の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレート(以下、「アルキル(メタ)アクリレート」と称する場合がある。)を、単独で又は2種以上を組み合わせて重合したものからなる。アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、i-ペンチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、i-オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、i-ノニル(メタ)アクリレート、i-デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、i-ミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、i-ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0015】
アクリル樹脂組成物は、アクリル系重合体とともに、モノマーである(メタ)アクリレートを含んでいる。モノマーとしての(メタ)アクリレートは、上記アクリル系重合体の材料として例示した(メタ)アクリレート(つまり、アルキル(メタ)アクリレート)を、単独で又は2種以上を組み合わせたものであってもよいし、アルキル(メタ)アクリレート以外の(メタ)アクリレートであってもよい。前記モノマーは、炭素-炭素二重結合を含む重合性官能基を有する。
【0016】
アクリル樹脂組成物は、アクリル系重合体、及びモノマーとしての(メタ)アクリレート以外に、他の共重合性モノマーを含んでもよい。他の共重合性モノマーとしては、ビニル基を有する共重合性ビニルモノマー(例えば、アクリルアミド、アクリロニトリル、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、酢酸ビニル、塩化ビニル等)、芳香族系(メタ)アクリレート(例えば、フェニル(メタ)アクリレート、ハロゲン置換フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-フェニルエチル(メタ)アクリレート)等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0017】
アクリル樹脂組成物におけるアクリル系重合体の含有率(質量%)は、例えば、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。また、アクリル樹脂組成物における(メタ)アクリレートの含有率(質量%)は、40質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、60質量%以下が好ましく、55質量%以上がより好ましい。また、アクリル樹脂組成物における芳香族エステル類の含有率(質量%)は、例えば、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましい。
【0018】
アクリル樹脂組成物としては、上市されているもの(例えば、株式会社日本触媒製のアクリキュアー(登録商標)HD-Aシリーズ等)を用いてもよい。
【0019】
低誘電熱伝導材の母材として、上記アクリル樹脂組成物を用いると、低誘電熱伝導材の硬度を所望の低い値に設定することがきる。
【0020】
多官能モノマーは、分子内に2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーからなる。分子内に2つの(メタ)アクリロイル基を有する2官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、2-エチル-2-ブチル-プロパンジオール(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ステアリン酸変性ペンタエリスリトールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(メタ)アクリロキシテトラエトキシフェニル]プロパン等が挙げられる。
【0021】
3官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス[(メタ)アクリロキシエチル]イソシアヌレート等が挙げられる。4官能以上の(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
多官能モノマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、 これらの多官能モノマーのうち、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が好ましい。
【0023】
低誘電熱伝導材用組成物において、多官能モノマーは、アクリル樹脂組成物100質量部に対して、0.01質量部以上、好ましくは0.03質量部以上、0.5質量部以下、好ましくは0.3質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下の割合で配合される。低誘電熱伝導材用組成物が、多官能モノマーを上記割合で含んでいると、低誘電熱伝導材用組成物より製造された低誘電熱伝導材の硬度を所望の低い値に設定することができる。
【0024】
重合開始剤は、過酸化物からなり、所定温度以上に加熱されると、ラジカルを発生する。重合開始剤としては、例えば、ジ-(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ラウロイルパーオキサイド、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、4-(1,1-ジメチルエチル)シクロヘキサノール等の有機過酸化物等からなる。重合開始剤のうち、ジ-(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートが好ましい。これらの重合開始剤は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0025】
低誘電熱伝導材用組成物において、重合開始剤は、アクリル樹脂組成物100質量部に対して、0.6質量部以上、好ましくは0.7質量部以上、1.3質量部以下、好ましくは1.2質量部以下の割合で配合される。低誘電熱伝導材用組成物が、重合開始剤を上記割合で含んでいると、低誘電熱伝導材用組成物より製造された低誘電熱伝導材の硬度を所望の低い値に設定することができる。
【0026】
結晶性シリカは、粒子状であり、低誘電熱伝導材の熱伝導率を高くし、かつ誘電率を低くするために用いられる。結晶性シリカの平均粒径(下限値)は、20μm以上、好ましくは25μm以上、より好ましくは30μm以上である。結晶性シリカの平均粒径の上限値は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましい。結晶性シリカの平均粒径がこのような範囲であると、低誘電熱伝導材用組成物より製造された低誘電熱伝導材の熱伝導率を所望の高い値に設定することができ、しかも誘電率(比誘電率)を所望の低い値に設定することができる。
【0027】
なお、本明細書における結晶性シリカ等のフィラーの平均粒径は、レーザー回折法による体積基準の平均粒径(D50)である。平均粒径は、レーザー回折式の粒度分布測定器で測定することができる。
【0028】
また、結晶性シリカの熱伝導率は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、7W/m・K以上が好ましく、10W/m・K以上がより好ましい。
【0029】
また、結晶性シリカの比誘電率は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、4.0以下が好ましく、3.9以下がより好ましい。
【0030】
また、結晶性シリカの比重は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、2.5以上が好ましく、2.6以上がより好ましい。
【0031】
低誘電熱伝導材用組成物において、結晶性シリカは、アクリル樹脂組成物100質量部に対して、330質量部以上、好ましくは340質量部以上、より好ましくは350質量部以上、440質量部以下、好ましくは430質量部以下、より好ましくは420質量部以下の割合で配合される。低誘電熱伝導材用組成物が、結晶性シリカを上記割合で含んでいると、低誘電熱伝導材用組成物より製造された低誘電熱伝導材の熱伝導率を所望の高い値に設定することができ、しかも誘電率(比誘電率)を所望の低い値に設定することができる。また、低誘電熱伝導材用組成物が、結晶性シリカを上記割合で含んでいると、結晶性シリカ等のフィラーの沈降が抑制され、ポットライフが長くなり、保存性に優れ、しかも塗工が可能である適度な流動性(粘性)を有することになる。
【0032】
なお、溶融シリカは、結晶性シリカと比べて熱伝導率が低い等の理由により、低誘電熱伝導材に用いることは好ましくない。
【0033】
金属水酸化物は、粒子状(略球状)であり、低誘電熱伝導材の耐湿性、難燃性等を確保するために使用される。金属水酸化物としては、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、水酸化アルミニウムが好ましい。
【0034】
金属水酸化物の平均粒径(上限値)は、15μm以下であり、好ましくは13μm以下、より好ましくは12μm以下である。金属水酸化物の平均粒径の下限値は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、5μm以上が好ましく、7μm以上がより好ましい。
【0035】
金属水酸化物として、水酸化アルミニウムが使用される場合、水酸化アルミニウムとしては、可溶性ナトリウム量が100ppm未満である低ソーダ水酸化アルミニウムが好ましい。本明細書において、可溶性ナトリウム量とは、低ソーダ水酸化アルミニウムと水とを接触させた時に水中へ溶解するナトリウムイオン(Na)の量である。
【0036】
低誘電熱伝導材用組成物において、金属水酸化物は、アクリル樹脂組成物100質量部に対して、90質量部以上、好ましくは100質量部以上、より好ましくは110質量部以上、190質量部以下、好ましくは180質量部以下、より好ましくは170質量部以下の割合で配合される。
【0037】
低誘電熱伝導材用組成物が、金属水酸化物(例えば、水酸化アルミニウム)を上記割合で含んでいると、低誘電熱伝導材の耐性(非吸水性)、難燃性等が確保される。また、低誘電熱伝導材用組成物が、金属水酸化物を上記割合で含んでいると、金属水酸化物等のフィラーの沈降が抑制され、ポットライフが長くなり、保存性に優れ、しかも塗工が可能である適度な流動性(粘性)を有することになる。
【0038】
低誘電熱伝導材用組成物は、本発明の目的を損なわない限り、更に、他の成分が配合されてもよい。他の成分としては、例えば、酸化防止剤、増粘剤、着色剤(顔料、染料等)、可塑剤、難燃剤、防腐剤、溶剤等が挙げられる。
【0039】
酸化防止剤としては、例えば、ラジカル捕捉作用をもつフェノール系の酸化防止剤を使用することができる。このような酸化防止剤を配合すると、低誘電熱伝導材の製造時のアクリル系樹脂の重合反応を抑制(調節)することができ、低誘電熱伝導材の硬度を所望の低い値に低く抑え易い。
【0040】
低誘電熱伝導材用組成物において、酸化防止剤は、アクリル樹脂組成物100質量部に対して、例えば、好ましくは0.6質量部以上、より好ましくは0.7質量部以上、好ましくは1.3質量部以下、より好ましくは1.2質量部以下の割合で配合されてもよい。酸化防止剤は、重合開始剤と同じ割合(同量)で配合されてもよい。
【0041】
増粘剤は、粒子状であり、低誘電熱伝導材用組成物の粘度(流動性)を、適度なものに調整する際に、配合されてもよい。増粘剤としては、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、高密度疎水性フュームドシリカ等が使用される。なお、高密度疎水性フュームドシリカは、ジメチルジクロロシラン等で表面処理が施されていてもよい。増粘剤の平均粒径(上限値)は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましく、20nm以下が特に好ましい。なお、増粘剤の平均粒径の下限値は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、1nm以上が好ましく、5nm以上が好ましい。
【0042】
低誘電熱伝導材用組成物において、増粘剤は、アクリル樹脂組成物100質量部に対して、例えば、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下の割合で配合されてもよい。
【0043】
可塑剤は、低誘電熱伝導材の硬度を、所望の低い値に調整する等の目的で、必要に応じて配合される。可塑剤としては、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、トリメリット酸エステル系可塑剤が使用されてもよい。
【0044】
低誘電熱伝導材用組成物において、可塑剤は、アクリル樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは4質量部以下、より好ましくは3.5質量部以下の割合で配合されてもよい。
【0045】
本実施形態の低誘電熱伝導材の製造方法は、上述した低誘電熱伝導材用組成物を利用して低誘電熱伝導材を製造する方法である。低誘電熱伝導材の製造方法は、低誘電熱伝導材用組成物を支持基材の表面に塗工し、低誘電熱伝導材用組成物からなる塗工層を形成する塗工工程と、塗工層を加熱して塗工層を硬化させ、塗工層の硬化物からなる低誘電熱伝導材を得る加熱工程とを備える。
【0046】
塗工工程では、低誘電熱伝導材用組成物が、所定の支持基材上に、公知の塗工方法(例えば、コーター等を利用した塗工方法)を利用して、塗工される。支持基材は、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチックフィルムからなり、支持基材の表面上に、低誘電熱伝導材用組成物の塗工層が形成される。なお、支持基材の表面上には、最終的に、塗布層の硬化物を剥離し易いように、剥離処理が施されていてもよい。
【0047】
支持基材上に形成される低誘電熱伝導材用組成物の塗工層の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて、適宜、設定される。
【0048】
また、支持基材は、低誘電熱伝導材の使用時に最終的に剥離されるものであり、低硬度制振材の製造過程では、低誘電熱伝導材用組成物からなる塗工層の片面又は両面に配置されてもよい。
【0049】
ここで、コーターを使用した塗工工程を説明する。コーターは、所定の間隔を保ちつつ、上下方向に対向配置された一対のロールと、その一対のロール間に向けて下端が開口したホッパを備えている。また、一対のロールにはそれぞれプラスチックフィルムが巻回されており、それらのロールの回転に伴い、一対のプラスチックフィルムが同方向(ホッパの反対方向)に向けて所定の距離を隔てて送り出されるようになっている。
【0050】
予め用意された低誘電熱伝導材用組成物は、一対のプラスチックフィルム間に押し出され、シート状の塗工層が成形される。なお、後述するように、一対のプラスチックフィルム開で挟まれたシート状の塗工層は、加熱工程で、加熱されて硬化される。
【0051】
加熱工程では、支持基材上に形成された塗工層が、低誘電熱伝導材用組成物の硬化温度以上に加熱されて、塗工層をなす低誘電熱伝導材用組成物で硬化反応が進行する。加熱工程では、低誘電熱伝導材用組成物中の重合開始剤(過酸化物)からラジカルが発生し、低誘電熱伝導材用組成物内で重合反応が進行することで、塗工層が硬化する。
【0052】
加熱工程では、ヒーター等の公知の加熱装置が利用される。例えば、上記コーターの下流側に加熱装置(ヒータ)を設置し、一対のプラスチックフィルム間で挟まれたシート状の塗工層を、加熱装置で加熱して硬化させてもよい。
【0053】
このように塗工層が加熱硬化されると、塗工層の硬化物からなる低誘電熱伝導材が得られる。なお、低誘電熱伝導材の形状は、シート状であってもよいし、他の形状であってもよい。
【0054】
本実施形態の低誘電熱伝導材は、誘電率(比誘電率)が低く、具体的には、5.0以下であり、誘電結合による高周波ノイズの発生を抑制することができる。誘電率(比誘電率)の測定方法は、後述する。
【0055】
また、低誘電熱伝導材は、熱伝導率が高く、具体的には、1.4W/m・K以上であり、熱伝導性に優れている。熱伝導率の測定方法は、後述する。また、低誘電熱伝導材は、アスカーC硬度が50以下であり、適度な硬さ(柔軟性)を備えている。また、低誘電熱伝導材は、難燃性、耐湿性、加工性、被着体に対する密着性等にも優れている。
【0056】
以上のように、本実施形態では、ガラスバルーン、フライアッシュバルーン等の中空フィラーを使用せずに、所定の結晶性シリカ等を使用することで、誘電率が低く、しかも熱伝導性、難燃性、耐湿性等に優れた低誘電熱伝導材を得ることができる。
【0057】
本実施形態の低誘電熱伝導材は、例えば、熱源(例えば、IC)と放熱板(例えば、ヒートシンク)との間に介在されて、熱源からの熱を放熱板へ伝達するために利用される。また、本実施形態の低誘電熱伝導材は、高周波ノイズの発生が抑制されるため、光通信や電子・OA機器における、大容量かつ高周波帯域におけるデータ伝送損失を低減することができる。
【実施例
【0058】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0059】
〔低誘電熱伝導材用組成物の作製〕
(実施例1~6)
アクリル樹脂組成物100質量部に対して、結晶性シリカ、水酸化アルミニウム、増粘剤、着色剤、可塑剤、多官能モノマー、重合開始剤、及び酸化防止剤を、表1及び表2に示される配合量(質量部)で添加し、それらを混合して、実施例1~6の低誘電熱伝導材用組成物を得た。各成分の詳細は、以下の通りである。
【0060】
「アクリル樹脂組成物」:商品名「アクリキュアー(登録商標) HD-A218」(株式会社日本触媒製、(メタ)アクリル酸エステル系重合体、アクリル酸2-エチルヘキシル及び芳香族エステル類を含む組成物)
「結晶性シリカ」:商品名「S」(フミテック株式会社製、結晶シリカパウダー、平均粒径:31.4μm)
「水酸化アルミニウム」:商品名「BF083」(日本軽金属株式会社製、低ソーダ水酸化アルミニウム、平均粒径:10μm)
「増粘剤」:商品名「AEROSIL(登録商標) R972 CF」(日本アエロジル株式会社製、高密度疎水性フュームドシリカ(ジメチルジクロロシランで表面処理)、平均粒径:16nm)
「着色剤」:商品名「ダイイチバイオレット DV-10」(第一化成株式会社製、Pigment Violet 15、顔料:紫色)
「可塑剤」:商品名「アデカサイザー(登録商標) C-880」(株式会社ADEKA製、トリメリット酸エステル系可塑剤、粘度:100mPa・s(25℃))
「多官能モノマー」:商品名「ライトアクリレート(登録商標) 1.6HX-A」(共栄社化学株式会社製、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート)
「重合開始剤」:商品名「パーカドックス(登録商標) 16」(化薬アクゾ株式会社製、ジ-(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、4-(1,1-ジメチルエチル)シクロヘキサノール)
「酸化防止剤」:商品名「アデカスタブ(登録商標) AO-60」(株式会社ADEKA製、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン)
【0061】
(比較例1~11)
各成分の配合量(質量部)を、表1及び表2に示されるものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1~11の組成物を得た。
【0062】
(比較例12)
各成分の配合量(質量部)を、表3に示されるものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例12の組成物を得た。
【0063】
(比較例13)
結晶性シリカとして、商品名「R」(フミテック株式会社製、結晶シリカパウダー、平均粒径:3.9μm)を使用し、かつ各成分の配合量(質量部)を、表3に示されるものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例13の組成物を得た。
【0064】
〔低誘電熱伝導材の作製〕
(実施例1~6)
実施例1~6の各低誘電熱伝導材用組成物を、剥離処理されたPET基材の表面上に、塗工機(コーター)を利用して、各低誘電熱伝導材用組成物の塗工層を形成し、その後、各塗工層を90℃で、5分間加熱して、実施例1~6の各低誘電熱伝導材用組成物からなるシート(低誘電熱伝導材の一例、厚み:1mm)を得た。
【0065】
(比較例1~13)
比較例1~13の各組成物を用いて、実施例1と同様、シートを作製した。
【0066】
なお、比較例1及び比較例4の各組成物は、樹脂成分と結晶性シリカ等のフィラーとが分離してしまったため、シートを形成することができなかった。また、比較例3の組成物は、流動性が低く硬いため、PET基材の表面上に塗布することができず、シートが得られなかった。
【0067】
〔評価〕
(加工性、性状)
各実施例及び各比較例の組成物について、「分離が発生しているか否か」、及び「塗工機で塗工可能な程度の流動性(粘性)であるか否か」、「フィラーの凝集が発生しているか否か」を確認した。また、各実施例及び各比較例のシートについて、「外観に問題があるか否か」等を確認した。これらの問題がすべてない場合、「〇」と表した。結果は、表1~表3に示した。
【0068】
(硬度)
ゴム硬度計用定圧荷重器(有限会社エラストロン製)と、アスカーC硬度計を用いて、JIS K7312に準拠し、各実施例及び各比較例のシートにおける硬度を測定した。具体的には、各実施例及び各比較例のシートから切り出した試験片に対して、硬度計の押針を接触させ、荷重がすべてかかった状態から、30秒後の値を読み取った。結果は、表1~表3に示した。なお、アスカーC硬度計が50以下の場合、好ましい硬さ(柔らかさ)を備えていると言える。
【0069】
(熱伝導率)
各実施例及び各比較例のシートについて、ホットディスク法(ISO/CD 22007-2)を利用して、熱伝導率(W/m・K)を測定した。結果は、表1~表3に示した。なお、熱伝導率が1.4W/m・K以上の場合、好ましい熱伝導性を備えていると言える。
【0070】
(比誘電率)
各実施例及び各比較例のシートについて、JIS C2138に準拠して、比誘電率を求めた(周波数:100MHz)。結果は、表1~表3に示した。なお、比誘電率が5.0以下の場合、高周波ノイズを抑制する上で好ましいと言える。
【0071】
(難燃性)
各実施例及び各比較例において、得られたシートから、所定の大きさの試験片(縦125mm、横13mm、厚み1mm)を切り出し、その試験片について、UL94V規格に準拠した垂直難燃試験を行った。結果は、表1~表3に示した。なお、難燃性の結果が「V-0」であると好ましいと言える。
【0072】
(耐湿性)
85℃、85%RHに設定された恒温恒湿槽内に、各実施例及び各比較例の評価サンプルを250時間放置した。その後、恒温恒湿槽から評価サンプルを取り出し、比誘電率を測定した。比誘電率の上昇が、恒温恒湿槽に入れる前と比べて、0.6以下の場合、耐湿性がある(記号「〇」)と判断し、0.6を超える場合は、耐湿性がない(記号「×」)と判断した。結果は、表1~表3に示した。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
実施例1~6のシートは、表1及び表2に示されるように、比誘電率が低く、熱伝導性に優れることが確かめられた。また、実施例1~6のシートは、適度な硬度を備え、かつ難燃性、耐湿性、加工性に優れることも確かめられた。
【0077】
比較例1は、結晶性シリカの配合量が少な過ぎる場合である。比較例1の組成物は、上述したように、組成物が分離したため、それからシートを作製することができなかった。
【0078】
比較例2は、結晶性シリカの配合量が比較例1よりは多いものの、少な過ぎる場合である。比較例2では、組成物よりシートを作製することはできたものの、組成物に少量の分離が発生し、加工性に問題があった。
【0079】
比較例3は、結晶性シリカの配合量が多過ぎる場合である。比較例3の組成物は、組成物の粘度が高くなり、上述したように、流動性が低く、かつ硬くなってしまった。そのため、その組成物を用いてシートを作製することができなかった。
【0080】
比較例4は、水酸化アルミニウムの配合量が少な過ぎる場合である。比較例4の組成物は、上述したように、組成物が分離したため、それからシートを作製することができなかった。
【0081】
比較例5は、水酸化アルミニウムの配合量が比較例4よりは多いものの、少な過ぎる場合である。比較例5では、組成物よりシートを作製することはできたものの、組成物に少量の分離が発生し、加工性に問題があった。比較例5のシートは、難燃性の結果が「V-2」となり、難燃性に問題があった。
【0082】
比較例6は、水酸化アルミニウムの配合量が多過ぎる場合である。比較例6では、組成物よりシートを作製することはできたものの、組成物の流動性がやや低く、加工性に問題があった。比較例6のシートは、硬度が高過ぎる結果となった。
【0083】
比較例7は、組成物中の重合開始剤の配合量が少な過ぎる場合である。比較例7では、架橋反応(重合反応)が不十分であり、シート表面に貼り付けられている保護フィルムを剥離する際に、シートを構成する材料の一部が分離して、保護フィルム側に付着したまま残ってしまった。
【0084】
比較例8,9は、組成物中の重合開始剤の配合量が多過ぎる場合である。比較例8,9のシートは、アクリル樹脂組成物中に含まれるモノマー等の重合反応が多く進行したため、硬度が高過ぎる結果となったと推測される。
【0085】
比較例10,11は、可塑剤の配合量が多過ぎる場合である。実施例5に示されるように、可塑剤を使用することで、シートの硬度を低く抑えることができるものの、入れ過ぎると、シート作製時に、PET基材から剥離する際に、シートが変形する結果となった。比較例10では、やや変形し、比較例11ではそれよりも多く変形する結果となった。
【0086】
比較例12は、水酸化アルミニウムを含まない場合である。比較例12のシートは、難燃性が「V-2」となり、また、水を吸収してしまうことが確かめられた。比較例12の組成物は、水酸化アルミニウムを含んでいないため、粘性が低く抑えられるものの、結晶性シリカ等が沈殿する結果となった。そのため、得られたシートの下面側に、結晶性シリカ等が偏った状態となり、そのような下面と反対側の上面とでは、粘着性に差が生じた。上面側は樹脂成分が多いため粘着性が高く、反対に、下面側は樹脂成分が少ないため粘着性が低くなったと推測される。
【0087】
比較例13は、平均粒径の小さい結晶性シリカを使用した場合である。比較例12の組成物では、結晶性シリカ等のフィラーの凝集が見られた。比較例13のシートは、熱伝導率が低い結果となった。これは、結晶性シリカが凝集してしまったため、シート中で均一に分散されず、結晶性シリカによる熱の移動経路が十分に形成されなかったためと推測される。また、比較例13のシートは、難燃性が「V-2」となり、水を吸収してしまうことも確かめられた。