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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】カメラ構造、撮像装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 27/146 20060101AFI20220929BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20220929BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20220929BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20220929BHJP
   G03B 11/00 20210101ALI20220929BHJP
   G02B 7/02 20210101ALI20220929BHJP
【FI】
H01L27/146 D
G02B5/26
G02B5/28
G02B5/22
G03B11/00
G02B7/02 D
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019166737
(22)【出願日】2019-09-13
(62)【分割の表示】P 2018529082の分割
【原出願日】2018-02-23
(65)【公開番号】P2020074366
(43)【公開日】2020-05-14
【審査請求日】2020-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2017033173
(32)【優先日】2017-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300075751
【氏名又は名称】株式会社オプトラン
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】小泉 達也
(72)【発明者】
【氏名】島田 修一
(72)【発明者】
【氏名】並木 恵一
(72)【発明者】
【氏名】小泉 直哉
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 大刀夫
(72)【発明者】
【氏名】津守 昌彦
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/192715(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/171219(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/169447(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/168190(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/099060(WO,A1)
【文献】特開2014-059550(JP,A)
【文献】登録実用新案第3206578(JP,U)
【文献】国際公開第2014/088063(WO,A1)
【文献】特開2014-191346(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0259103(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/146
G02B 5/26
G02B 5/28
G02B 5/22
G03B 11/00
G02B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外領域の光を吸収する近赤外光吸収部と、
近赤外領域の光を反射する近赤外光反射部と、
を備え、
前記近赤外光吸収部は、光の波長として685nm~755nmで定義される光波長領域の中に、700nmで光透過率が2%未満とな状態を有し、
前記近赤外光反射部への入射光の波長が増大するのに伴って光の透過率が減少して50%となる波長を、前記近赤外光反射部の近赤外光カットオフ波長と定義するとき、前記近赤外光反射部は、前記近赤外光カットオフ波長より長い波長の光を略全反射する特性を有し、
前記近赤外光反射部への入射光の入射角度を0°~30°の範囲で変化させたときに、前記近赤外光反射部の前記近赤外光カットオフ波長は、常に前記光波長領域の中に含まれており、
前記近赤外光吸収部及び前記近赤外光反射部を含む構成を近赤外光カットフィルタと定義する際に、前記近赤外光カットフィルタにおける前記光波長領域の全ての光の透過率が1%未満となることを特徴とするカメラ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は撮像装置に設けられるカメラ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
今世紀に入り、撮像装置、すなわちカメラは、固体撮像素子(撮像素子)を用いた撮像装置、いわゆるデジタルカメラが主流になった。またパーソナルコンピューター(PC)、タブレットPCやスマートフォン等の情報通信機器が普及し、日常的に使用されるようになっている。これら情報通信機器は、小型のカメラモジュールを内蔵することが多く、現在は、撮像素子の画素数が1000万を超える高性能なものを備えることもある。情報通信機器、特に携帯通信機器であるスマートフォンは薄く軽くなる傾向が強く、その部品であるカメラモジュールも小型化、省スペース化が必要になっている。また使用者にとってスマートフォンが唯一の撮像装置であることも多くなったため、カメラモジュールが小型になってもより良い画質を求める要求は強い。
【0003】
近年、自動車の自動運転に対するニーズも高まっており、一部の車種においては車載カメラを利用しての自動車庫入れや、自動ブレーキ、夜間運転の補助がすでに実用化されている。車載カメラに利用されるカメラモジュールも小型化、高性能化が進んでおり、また画像認識をするため、画像からゴーストなどのノイズを除去することが強く求められている。
【0004】
なお光強度の大きな光源方向に撮像装置が有するレンズを向けると、レンズ面等に光が反射を繰り返して、不要な画像が写り込む現象をフレア現象(フレア)、ゴースト現象(ゴースト)と呼ぶ。画像の一部が過度に露光される現象をフレア現象と呼び、レンズ面で光が反射を繰り返してはっきりとした不要画像が映り込む現象をゴースト現象と呼ぶ。
【0005】
図11(A)で示すように、従来のカメラ構造のカメラモジュール1は、レンズユニット50、レンズキャリア40、マグネットホルダ30、光学フィルタ60、撮像素子70から主に構成され、スマートフォン筐体20に固定されている(例えば、特開2013-153361号公報参照)。このうち光学フィルタ60は、主として近赤外領域の光をカットする役割を果たしている。人間の目は波長380nm~780nmの可視領域の光(可視光)に対して感度を持つ。一方、撮像素子は一般に可視光を含め、より長波長の光、すなわち波長約1.1μmの光まで感度を持つ。したがって撮像素子に捉えられた画像をそのまま写真にすると、人間の目には自然な色合いには見えず、違和感を生じさせる原因になる。そこでカメラモジュール1は、近赤外領域の光をカットする光学フィルタ60(近赤外光カットフィルタ)を内蔵する構成としてきた。
【0006】
近赤外光カットフィルタ60としては、例えばブルーガラスと呼ばれる近赤外領域の光を吸収するリン酸塩あるいは弗リン酸塩を含むガラスが用いられている。
【0007】
なお従来のカメラ構造が備えるカバーガラス10は、材質として強化ガラスやサファイアガラスを用いる。
【0008】
本明細書では光学レンズ群を含むレンズユニット、レンズキャリア、撮像素子、マグネットホルダなど、撮像に必須な撮像装置の内部機構をカメラモジュールと定義する。またカメラモジュールに、撮像装置の内部機構を外界から保護するカバーガラスを含めたものを、カメラ構造と定義する。
【0009】
図11(B)には、従来のカメラ構造でおこなった実験の実験方法を説明する説明図を示す。実験は特定の中心波長を有する発光ダイオードを光源として、その発光を撮像した。実験では、光源300として中心波長460nmの発光ダイオードを使用した。発生するフレア現象やゴースト現象を見やすくするために、光源300の背景には低反射材320を配置し、低反射材320の周囲に高反射材310を置いた。
【0010】
従来のカメラ構造は、光の入射側から順に、カバーガラス10と、光学レンズ群50と、近赤外光カットフィルタ60と、撮像素子70を備える。近赤外光カットフィルタ60は光学レンズ群50と撮像素子70の間に配置される。
【0011】
図11(C)は、カバーガラス10の断面図である。カバーガラス10は、透明ガラス360に反射防止膜370を備える。反射防止膜370は透明ガラス360の光学レンズ群50側に設けられる。
【0012】
図11(D)は、近赤外光カットフィルタ60の断面図である。近赤外光カットフィルタ60は、基材であるブルーガラス380を基準として、入射側に近赤外光反射膜390を備え、撮像素子70側に、反射防止膜370を有する。ここでブルーガラス380は近赤外光を吸収する機能を有する。
【0013】
図11(E)は、図11(A)~図11(D)で説明した従来のカメラ構造の撮像素子70によって撮像した画像である。光源300を中心として花びら様のゴーストGが生じており、画質が劣化していることがわかる。このようなゴースト現象は、光源300の中心波長を420nm~660nmと変えても生じうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2013-153361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ゴースト現象、フレア現象を低減するためには、一般にはカメラが備える光学レンズ群をより高度で複雑な構造にすること、レンズ素子自体の光反射防止コーティングをより良くすることが必要である。しかし、小型軽量でしかも安価であることが求められる情報通信機器のカメラモジュールや、車載カメラのカメラモジュールにおいては、これは困難な課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
ゴースト現象の主要な原因として、近赤外光の反射膜を含む近赤外線カットフィルタが撮像素子の近傍にあることが挙げられる。したがって近赤外光反射部をカメラモジュールのなるべく外界側、例えばカバーガラスに配置することで、ゴースト現象を大幅に抑制することができる。また近赤外光反射部を外界側に持ってくることで、入射角度が大きな光がカメラモジュール内に入り込むことにより生じ得る、近赤外光のカットオフ波長のシフトを防止するために、近赤外光吸収部の分光特性と近赤外光反射部の分光特性を調整して、画質が入射光の角度に依存しないようにする。
【0017】
(1)本発明は、撮像をおこなうカメラ構造であって、光の入射側に配置される光学レンズ群と、前記光学レンズ群を介して入射した光を受光する撮像素子と、近赤外領域の光を反射する近赤外光反射部と、近赤外領域の光を吸収する近赤外光吸収部と、を備え、前記近赤外光反射部と、前記近赤外光吸収部は、別体であることを特徴とするカメラ構造を提供する。
【0018】
上記(1)の発明によれば、近赤外光反射部を配置する場所と、近赤外光吸収部を配置する場所に自由度が生じるので、カメラ構造の中でそれぞれ最適な位置に配置できるようになり、画質の向上という顕著な効果を奏する。
【0019】
(2)本発明は、前記近赤外光反射部と前記近赤外光吸収部が、光の入射側から順に、前記近赤外光反射部、前記近赤外光吸収部と配置されることを特徴とする上記(1)に記載のカメラ構造を提供する。
【0020】
近赤外光吸収部が吸収する波長の光よりも長波長側の光は透過してしまう場合がある。そのため、光の入射側から順に、近赤外光吸収部、近赤外光反射部、と配置されると、近赤外光吸収部が吸収する波長の光よりも長波長側の光がカメラモジュール内に入射しやすくなり、長波長側の光をカットできる近赤外光反射部に到達する前に、レンズ面などに反射して迷光となることで画質を落とす原因になる。
【0021】
上記(2)の発明によれば、近赤外光反射部と近赤外光吸収部が、光の入射側から順に、近赤外光反射部、近赤外光吸収部と配置されるので、長波長側の迷光を抑止しうるという効果を奏する。
【0022】
(3)本発明は、前記近赤外光反射部が、前記カメラ構造において、前記光学レンズ群を構成するレンズ素子を含み、該レンズ素子よりも光の入射側に配置されることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のカメラ構造を提供する。
【0023】
上記(3)の発明によれば、近赤外光反射部が光学レンズ群を構成するレンズ素子を含み、該レンズ素子よりも光の入射側に配置されるので、従来の近赤外光カットフィルタの位置よりも、近赤外光反射部から撮像素子からの距離が大きくなる。近赤外光反射部は、光の入射角が軸方向垂直からずれると、紫外領域の光を通しやすくなる場合がある。撮像素子からの距離が大きくなれば、近赤外光反射部から撮像素子を見込む角度が小さくなるので、近赤外光反射部を透過して撮像素子に直接到達する余分な紫外領域の光を低減しうるという効果を奏する。
【0024】
(4)本発明は、前記近赤外光吸収部が、前記カメラ構造において、前記光学レンズ群を構成するレンズ素子を含み、該レンズ素子よりも撮像素子側に配置されることを特徴とする上記(1)乃至(3)のうちのいずれかに記載のカメラ構造を提供する。
【0025】
上記(4)の発明によれば、近赤外光吸収部は、透過率が光の入射角によらないことが多い。したがって近赤外光吸収部が、カメラ構造において、光学レンズ群を構成するレンズ素子を含み、該レンズ素子よりも撮像素子側に配置されることで、さまざまな方向から撮像素子に入射しようとする迷光を効果的に抑制しうるという顕著な効果を奏する。
【0026】
(5)本発明は、光が入射する側から見て前記撮像素子の少なくとも一部を覆う撮像素子カバーが、前記光学レンズ群と前記撮像素子の間に配置されることを特徴とする上記(1)乃至(4)のうちのいずれかに記載のカメラ構造を提供する。
【0027】
撮像素子上に光を透過しにくいゴミが付着すると、画質が劣化する。上記(5)の発明によれば、光が入射する側から見て撮像素子の少なくとも一部を覆う撮像素子カバーが、光学レンズ群と撮像素子の間という撮像素子に近接した位置に配置されるので、撮像素子に付着しうるゴミを低減して、画質の劣化を防ぎうるという顕著な効果を奏する。
【0028】
(6)本発明は、前記撮像素子カバーが、ガラスであることを特徴とする上記(5)に記載のカメラ構造を提供する。
【0029】
上記(6)の発明によれば、温度変化による変形が少ない撮像素子カバーを安価に作製できるという効果を奏する。
【0030】
(7)本発明は、前記撮像素子カバーが、合成樹脂フィルムであることを特徴とする上記(5)に記載のカメラ構造を提供する。
【0031】
合成樹脂フィルムは、厚さ100μm以下のものが容易に作製できる。上記(7)の発明によれば、薄く安価な撮像素子カバーを安価に作製できるという効果を奏する。
【0032】
(8)本発明は、前記撮像素子カバーの厚みが、0.2mm以下であることを特徴とする上記(5)乃至(7)のうちのいずれかに記載のカメラ構造を提供する。
【0033】
上記(8)の発明によれば、従来よりも厚みの薄いカメラモジュールを提供しうるという顕著な効果を奏する。
【0034】
(9)本発明は、前記撮像素子カバーが、少なくとも可視領域の光の反射を防止する反射防止層を備えることを特徴とする上記(5)乃至(8)のうちのいずれかに記載のカメラ構造を提供する。
【0035】
撮像素子カバーは、光学レンズ群と撮像素子の間という撮像素子に近接した位置に配置される。したがって撮像素子カバーが光を反射すると、撮像素子が取得する画像の画質を著しく劣化させる原因となる。
【0036】
上記(9)の発明によれば、撮像素子カバーが、少なくとも可視領域の光の反射を防止する反射防止層を備えることで、画質が向上するという顕著な効果を奏する。
【0037】
(10)本発明は、前記撮像素子カバーの両面に、少なくとも可視領域の光の反射を防止する反射防止層を備えることを特徴とする上記(5)乃至(8)のうちのいずれかに記載のカメラ構造を提供する。
【0038】
上記(10)の発明によれば、入射光をより多く取り込むことが可能になり、且つ、撮像素子カバーに起因する反射光、特に撮像素子自身からの反射光が、さらに撮像素子カバーに反射されて撮像素子に戻ることを防止し、画質が向上するという顕著な効果を奏する。
【0039】
(11)本発明は、前記反射防止層が、前記撮像素子カバーの表面に形成される微細な突起からなる微細突起構造であることを特徴とする上記(9)または(10)に記載のカメラ構造を提供する。
【0040】
撮像素子カバーの表面に形成される微細な突起からなる微細突起構造、いわゆるモスアイ構造の反射防止層は、広帯域に渡って光の反射を防止する。したがって上記(12)の発明によれば、モスアイ構造の反射防止層を形成することで、撮像素子カバーに起因する反射光が広帯域に渡って著しく低減され、画質が向上されうるという顕著な効果を奏する。
【0041】
(12)本発明は、前記反射防止層は、前記内側透明プレートの表面に形成される塗膜であることを特徴とする上記(9)または(10)に記載のカメラ構造を提供する。
【0042】
互いに異なる光の屈折率を持つ2種類の薄膜を交互に積層した多層膜は、光の反射防止膜を形成しうる。そしてこのような多層膜は、合成樹脂を塗布することでも得られることが知られている。上記(12)の発明によれば、安価で大量に安定した品質の反射防止膜を備えた内側透明プレートを製造できるという著しい効果を奏する。
【0043】
(13)本発明は、前記撮像素子カバーが前記近赤外光吸収部を含むことを特徴とする上記(5)乃至(12)のうちのいずれかに記載のカメラ構造を提供する。
【0044】
上記(13)の発明によれば、撮像素子カバーが近赤外光吸収部を含むので部品点数の低減、及び、カメラ構造作製における工程数の削減という顕著な効果を奏する。
【0045】
(14)本発明は、前記近赤外光吸収部が、近赤外領域の光を吸収する近赤外光吸収膜であり、有機色素を含むことを特徴とする上記(1)乃至(13)のうちいずれかに記載のカメラ構造を提供する。
【0046】
上記(14)の発明によれば、近赤外光吸収部が近赤外光吸収膜を有し、近赤外光吸収膜には、近赤外光を吸収する有機色素が含まれるので、近赤外領域の光を吸収するためのフィルタの材料として一般に使用されるブルーガラスを用いることなく、光の入射角度依存性が少ない状態で、近赤外光領域の光を抑止することが可能になるという効果を奏する。
【0047】
(15)本発明は、前記カメラ構造が、撮像装置の内部機構を外界から保護するカバーガラスをさらに有し、該カバーガラスが前記近赤外光反射部を含むことを特徴とする上記(1)乃至(14)のうちのいずれかに記載のカメラ構造を提供する。
【0048】
上記(15)の発明によれば、カバーガラスが、光を反射する近赤外光反射膜を有するので、外界からの近赤外光を撮像装置の内部機構に入射させない効果を奏しうる。また、撮像素子に近接した領域に、近赤外光反射膜を備えた部材を入れる必要が無くなるので、撮像装置の内部機構に入射した光の反射を抑制することができ、結果として迷光を抑え、ゴーストやフレアの原因を減少させる効果を奏しうる。
【0049】
(16)本発明は、撮像をおこなうカメラ構造であって、光の入射側に配置される光学レンズ群と、前記光学レンズ群を介して入射した光を受光する撮像素子と、近赤外領域の光を反射する近赤外光反射部と、近赤外領域の光を吸収する近赤外光吸収部とを備え、前記近赤外光反射部、及び、前記近赤外光吸収部が、前記光学レンズ群に含まれる一体の光学素子に含まれることを特徴とするカメラ構造を提供する。
【0050】
上記(16)の発明によれば、近赤外光反射部と近赤外光吸収部を同時に含む一体の光学素子が光学レンズ群に含まれるので、撮像素子に近接した位置に近赤外光反射膜を備えた部材を入れる必要が無くなる。したがって撮像装置の内部機構に入射した光の反射を抑制することができ、結果として迷光を抑え、ゴーストやフレアの原因を減少させる効果を奏しうる。
【0051】
(17)本発明は、近赤外領域の光を吸収する近赤外光吸収部と、近赤外領域の光を反射する近赤外光反射部とを備え、前記近赤外光吸収部は、光の波長として685nm~755nmの領域の中に、光透過率が2%未満である光吸収波長領域を有し、前記近赤外光反射部への入射光の波長が増大するのに伴って光の透過率が減少して50%となる波長を近赤外光カットオフ波長と定義するとき、前記近赤外光反射部は、前記近赤外光カットオフ波長より長い波長の光を略全反射する特性を有し、前記近赤外光反射部への入射光の入射角度を0°~30°の範囲で変化させたときに、前記近赤外光カットオフ波長は常に前記光吸収波長領域の中に含まれることを特徴とするカメラ構造を提供する。
【0052】
近赤外光吸収部と近赤外光反射部を合わせた効果として、所定の波長における光の透過率が1%以上となると取得画像に影響を与える。したがって近赤外光吸収部の分光特性として、光透過率が2%以上の光波長領域において、近赤外光反射部の光透過率が50%になると、取得画像の画質が肉眼で見た色味とは異なることになる。また近赤外光反射部を、例えば誘電体多層膜で形成するときには、入射光の入射角度により光透過率が変化するので、取得画像の周辺部と中央部で、透過率の光波長依存性が異なってしまい、いわゆる「赤抜け」という画質の悪化現象が生じる。特に赤外線反射部を、カメラモジュールの外界側、具体的にはカバーガラスに配置した場合には、入射角の大きな光がカメラモジュール内に入射可能になるため、この画質悪化が顕著になる。
【0053】
上記(17)に記載の発明によれば、近赤外光吸収部と近赤外光反射部を合わせた効果として、685nm~755nmの光波長領域のうち近赤外光カットオフ波長より長い光波長領域において光の透過率が1%未満となるので、取得画像の画質と肉眼でみたものとの差が小さくなるという優れた効果も奏する。また近赤外光反射部への入射光の入射角度を0°~30°の範囲で変化させたとき、常に、近赤外光反射部の近赤外光カットオフ波長は光透過率が2%未満である光吸収波長領域に入るので、近赤外領域の光に対する分光特性の入射角度依存性が小さくなり、取得画像の周辺部と中央部で透過率の光波長依存性が変わらなくなるため画質が向上するという優れた効果を奏する。
【0054】
(18)本発明は、近赤外領域の光を吸収する近赤外光吸収部と、近赤外領域の光を反射する近赤外光反射部とを備え、前記近赤外光吸収部は、光の波長として685nm~755nmの領域の中に、光透過率が2%未満である光吸収波長領域を有し、前記近赤外光反射部は、光の透過率が減少して50%となる波長を近赤外光カットオフ波長と定義するとき、前記近赤外光カットオフ波長より長い波長の光を略全反射する特性を有し、前記近赤外光反射部への入射光の入射角度を0°~30°の範囲で変化させたときに、前記近赤外光カットオフ波長は常に前記光吸収波長領域の中に含まれることを特徴とする上記(1)乃至上記(16)のうちのいずれかに記載のカメラ構造を提供する。
【0055】
近赤外光反射部が、カメラ構造の外界に近い側、例えばカバーガラスに設けられる場合には、入射角の大きな光までカメラ構造内に入り込む。近赤外光反射部を、例えば誘電体多層膜で形成するときには、入射光の入射角度により光透過率が変化するので入射光の入射角度により光透過率が変化するので、取得画像の周辺部と中央部で、透過率の光波長依存性が異なってしまい、いわゆる「赤抜け」という画質の悪化現象が生じる。
上記(18)に記載の発明によれば、近赤外光反射部への入射光の入射角度を0°~30°の範囲で変化させたとき、常に、近赤外光反射部の近赤外光カットオフ波長は光透過率が2%未満である光吸収波長領域に入るので、近赤外領域の光に対する分光特性の入射角度依存性が小さくなり、取得画像の周辺部と中央部で取得され得る光波長が変わらないため画質が向上するという優れた効果を奏する。
【0056】
また赤外光吸収部と近赤外光反射部を合わせた効果として、685nm~755nm685nm~755nmの光波長領域のうち近赤外光カットオフ波長より長い光波長領域において光の透過率が1%未満となるので、取得画像の画質と肉眼でみたものとの差が小さくなるという優れた効果も奏する。
【0057】
(19)本発明は、撮像装置の内部機構を外界から保護するカバーガラスと前記カバーガラス側に配置される光学レンズ群と前記カバーガラス及び前記光学レンズ群を介して入射した光を受光する撮像素子とを備え、前記カバーガラスは光を透過する透明基板と、前記近赤外光吸収部と、前記近赤外光反射部と、を有し、前記光学レンズ群から前記撮像素子までの光路間に近赤外領域の光をカットする近赤外光カットフィルタを配置しないことを特徴とする上記(17)に記載のカメラ構造を提供する。
【0058】
近赤外光反射部が、カメラ構造の外界に最も近い側、すなわちカバーガラスに設けられので入射角の大きな光までカメラ構造内に入り込む。近赤外光反射部を、例えば誘電体多層膜で形成するときには、入射光の入射角度により光透過率が変化するので、取得画像の周辺部と中央部で、透過率の光波長依存性が異なってしまい、いわゆる「赤抜け」という画質の悪化現象が生じる。
【0059】
上記(19)に記載の発明によれば、近赤外光反射部への入射光の入射角度を0°~30°の範囲で変化させたとき、常に、近赤外光反射部の近赤外光カットオフ波長は光透過率が2%未満である光吸収波長領域に入るので、近赤外領域の光に対する分光特性の入射角度依存性が小さくなり、取得画像の周辺部と中央部で透過率の光波長依存性が変わらなくなるため画質が向上するという優れた効果を奏する。
【0060】
また赤外光吸収部と近赤外光反射部を合わせた効果として、685nm~755nmの光波長領域685nm~755nmの光波長領域のうち近赤外光カットオフ波長より長い光波長領域において光の透過率が1%未満となるので、取得画像の画質と肉眼でみたものとの差が小さくなるという優れた効果も奏する。
【0061】
さらに光学レンズ群から前記撮像素子までの光路間に近赤外領域の光をカットする近赤外光カットフィルタを配置しないので、カメラ構造全体としての低背化に資する。
【0062】
(20)本発明は、近赤外領域の光を遮断する近赤外光カットフィルタを備えるカメラ構造であって、前記近赤外光カットフィルタは、入射光の波長を増大させた際に光の透過率が減少して10%になる波長を近赤外光遮断波長と定義すると、前記入射光の入射角度を0°~30°の範囲で変えた時の前記近赤外光遮断波長の角度依存変化幅が5nm以下であることを特徴とするカメラ構造を提供する。
【0063】
近赤外光カットフィルタが、例えば誘電体多層膜を備える近赤外光反射部を有する場合、近赤外光反射部における光の透過率の波長依存性は、入射光の入射角度により変化する。すなわち例えば近赤外光反射部の近赤外光遮断波長が、入射光の入射角度が0°であるとき約700nm程度だったものが、入射光の入射角度が30°になると約675nmになるような入射角度依存性が生じることがある。すると近赤外光カットフィルタが近赤外光吸収部を有するとして、近赤外光反射部と組み合わせられて実現する光透過率が、入射光の入射角度によって大きく変化してしまうことがあり得る。具体的には、近赤外光反射部と近赤外吸収部を有する近赤外光カットフィルタは、入射光の入射角度を0°~30°の範囲で変えた時の近赤外光遮断波長の角度依存変化幅が30nm程度になってしまうことがあり得る。逆に言えば近赤外光領域の所定の光波長において、近赤外光カットフィルタの光透過率が、入射光の入射角度により大きく変動してしまうということである。例えば光の波長が660~690nmの光が入射したとすると、取得画像の中心部で入射角度が小さなときは光透過率が20%程度で、取得画像の周縁部で入射角度が大きな時には光透過率がほぼ0%になるといった現象が生じ、結果的に取得画像の周辺部と中央部で、透過率の光波長依存性が異なってしまい、いわゆる「赤抜け」という画質の悪化現象が生じる。
【0064】
上記(20)に記載の発明によれば、近赤外光カットフィルタにおいて、入射光の入射角度を0°~30°の範囲で変えた時の近赤外光遮断波長の角度依存変化幅が5nm以下なので、取得画像内での色の表現に差が生じ難くなり、画質が向上するという優れた効果を奏する。
【0065】
(21)本発明は、近赤外領域の光を吸収する近赤外光吸収部と、近赤外領域の光を反射する近赤外光反射部とを備え、前記近赤外光吸収部の光透過率は、光の波長について700nm~750nmの範囲で2%未満であり、光の波長について630nm~750nmの範囲、且つ、光の透過率が2%以上の範囲で、前記近赤外光吸収部の光透過率の周波数依存曲線が、前記近赤外光反射部に入射する入射角度が0°~30°の時の前記近赤外光反射部の光透過率の周波数依存曲線よりも、短波長側にあることを特徴とするカメラ構造を提供する。
【0066】
上記(21)に記載の発明によれば、近赤外光反射部における光透過率の波長依存性が入射光の入射角度によって変化する現象が生じても、近赤外光反射部と近赤外光吸収部を合わせて考えたときの近赤外光領域における光透過率の分光特性が、近赤外光吸収部の光透過率の分光特性に支配されるので、取得画像内での色の表現に差が生じ難くなり、画質が向上するという優れた効果を奏する。
【0067】
(22)本発明は、上記(1)乃至上記(21)のいずれかに記載のカメラ構造を有することを特徴とする撮像装置を提供する。
【0068】
上記(22)の発明によれば、従来よりも画質が向上したカメラ構造を搭載する撮像装置を安価に実現できるという著しい効果を奏する。
【発明の効果】
【0069】
本発明によれば、近赤外光反射部を配置する場所と、近赤外光吸収部を配置する場所に自由度が生じるので、カメラ構造の中でそれぞれ最適な位置に配置できるようになり、撮像装置における画質の向上という顕著な効果を奏しうる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1】(A)本発明の第一実施形態に係る撮像装置である携帯通信機器Aに適用されるカメラ構造の断面図である。(B)近赤外光反射部を含む近赤外光反射機能付きカバーガラスの構造図である。(C)近赤外光吸収部を含む近赤外光吸収機能付き撮像素子カバーの構造図である。
図2】(A)光学フィルタ機能付きカバーガラスの構造図である。(B)近赤外光反射膜についての分光透過率の入射角度依存性を示す図である。(C)入射角度の定義を説明する説明図である。
図3】近赤外光吸収膜と近赤外光反射膜を備えた光学フィルタ機能付きカバーガラスにおける分光透過率の入射角度依存性を示す図である。
図4】光学フィルタ機能付きカバーガラス、近赤外光吸収膜を備えたガラス、近赤外光反射膜を備えたガラスについて分光透過率を比較した図である。
図5】デュアルバンドのカバーガラスについての分光透過率を説明する説明図である。
図6】(A)本発明の第三の実施形態に係る撮像装置である携帯通信機器Aに適用されるカメラ構造の断面図である。(B)近赤外光反射部を含む近赤外光反射機能付きカバーガラスの構造図である。(C)近赤外光吸収機能付きプレートの構造図である。(D)透明ガラスを基材として反射防止層を複数備えた撮像素子カバーの構造図である。(E)両面に反射防止機能を発揮するモスアイ構造を備えた透明合成樹脂フィルムを基材とした撮像カバーの構造図である。
図7】(A)本発明の第四の実施形態に係る撮像装置である携帯通信機器Aに適用されるカメラ構造の断面図である。(B)近赤外光吸収部を備えた光学レンズ素子をふくむレンズユニットの断面図である。(C)近赤外光吸収部を備えた光学レンズ素子をふくむレンズユニットの断面図である。
図8】(A)本発明の第五の実施形態に係る撮像装置に適用されるカメラ構造の断面図である。(B)近赤外光反射部を含む光学レンズ素子と近赤外光吸収部を含む光学レンズ素子を備えるレンズユニットの断面図である。
図9】(A)本発明の第六の実施形態に係る撮像装置に適用されるカメラ構造の断面図である。(B)近赤外光吸収部を含む近赤外光吸収機能付き光学素子を備えるレンズユニットの断面図である。(C)近赤外光吸収機能付き光学素子の構造図である。
図10】(A)本発明の第7の実施形態に係る撮像装置に適用されるカメラ構造の断面図である。(B)近赤外光反射部、及び、近赤外光吸収部を含む光学フィルタ機能付き光学素子を備えるレンズユニットの断面図である。(C)光学フィルタ機能付き光学素子530の構造図である。
図11】(A)携帯通信機器における従来のカメラ構造の断面図である。(B)従来のカメラ構造でおこなった実験の実験方法を説明する説明図である。(C)従来のカバーガラスの断面図である。(D)従来の近赤外光カットフィルタの断面図である。(E)従来のカメラ構造によって撮像した画像である。
図12】(A)従来の光吸収インクを用いた近赤外光吸収部における光透過率の分光特性と、近赤外光反射部における光透過率の分光特性の入射光角度依存性を示すグラフである。(B)近赤外光吸収部と近赤外光反射部を組み合わせた際の、光透過率の分光特性の入射光角度依存性を示すグラフである。
図13】(A)近赤外光領域において光吸収帯が従来よりも広い光吸収インクを用いた近赤外光吸収部における光透過率の分光特性と、近赤外光反射部における光透過率の分光特性の入射光角度依存性を示すグラフである。(B)近赤外光吸収部と近赤外光反射部を組み合わせた際の、光透過率の分光特性の入射光角度依存性を示すグラフである。
図14】(A)本発明の第九実施形態に係る撮像装置である携帯通信機器Aに適用されるカメラ構造の断面図である。(B)反射防止膜を複数備えた光学フィルタ機能付きカバーガラスの構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0071】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0072】
図1図10及び図12図14は、発明を実施する形態の一例であって、図中、同一の符号を付した部分は同一物を表わす。
【0073】
図1(A)は、本発明の第一実施形態に係る撮像装置である携帯通信機器Aに適用されるカメラ構造の断面図である。
【0074】
当該カメラ構造は、撮像装置の内部機構を外界から保護する近赤外光反射機能付きカバーガラス215と、カメラモジュール1を備える。カメラモジュール1は、撮像装置の内部機構である光学レンズ群、すなわちレンズユニット50と、レンズユニット50を保持するレンズキャリア40と、自動焦点機能を実現するためにレンズユニット50を軸方向に移動させるマグネットホルダ30と、近赤外光反射機能付きカバーガラス215及びレンズユニット50を介して入射した光を受光する撮像素子70と、レンズユニット50と撮像素子70の間に配置され、光を透過する透明ガラスを基材とした、近赤外光吸収機能付き撮像素子カバー244を備える。近赤外光吸収機能付き撮像素子カバー244は、軸方向、レンズユニット50側から撮像素子70を見たときに、撮像素子70表面の少なくとも一部分を覆っている。
【0075】
図1(B)は、近赤外光反射部を含む近赤外光反射機能付きカバーガラス215の構造図である。近赤外光反射機能付きカバーガラス215は、光を透過する透明基板として結晶化ガラス130を使用し、紫外領域の光を反射し、且つ、可視領域の光の反射を抑止する反射防止膜120が、結晶化ガラス130を基準として光の入射側に形成される。そして光が入射する側の最も外側に、外界からの汚れを防止するための防汚コート膜110を備える。光の出射側に、結晶化ガラス130を基準として最も遠い側から順に、反射防止膜120と、近赤外領域の光を反射する近赤外反射部である近赤外光反射膜150を形成する。
【0076】
なお、近赤外光反射機能付きカバーガラス215において、最も撮像素子70側の反射防止膜120は無くても良い。
【0077】
図1(C)は、少なくとも可視領域の光の反射を防止する反射防止層230を複数備え、近赤外光吸収部である近赤外光吸収膜140をさらに備える近赤外光吸収機能付き撮像素子カバー244の構造図である。すなわち近赤外光吸収機能付き撮像素子カバー244は両面に、少なくとも可視領域の光の反射を防止する反射防止層230を備える。反射防止層230は、反射防止膜120と類似した材質、構造を持ち、作製方法も同様である。
【0078】
近赤外光吸収機能付き撮像素子カバー244は、透明ガラス220を基材とし、透明ガラス220に隣接して近赤外光吸収膜140が設けられる。反射防止層230は、透明ガラス220を基準として光の入射側に形成され、光の出射側に、透明ガラス220を基準として最も遠い側から順に、反射防止層230と、近赤外光吸収膜140が備えられる。
【0079】
すなわち発明の第一実施形態に係る撮像装置である携帯通信機器Aに適用されるカメラ構造は、光の入射側に配置される光学レンズ群(光学ユニット50)と、レンズユニット50を介して入射した光を受光する撮像素子70と、近赤外領域の光を反射する近赤外光反射部である近赤外光反射膜150と、近赤外領域の光を吸収する近赤外光吸収部である近赤外光吸収膜140とを備え、近赤外光反射部と、近赤外光吸収部は、別体に形成されることを特徴とするカメラ構造である。近赤外光反射部である近赤外光反射膜150と、近赤外光吸収部である近赤外光吸収膜140が、光の入射側から順に、近赤外光反射膜150、近赤外光吸収膜140と配置される。近赤外光反射部である近赤外光反射膜150が、当該カメラ構造において、レンズユニット50を構成するレンズ素子を含み、該レンズ素子よりも光の入射側に配置される。近赤外光吸収部である近赤外光吸収膜140が、当該カメラ構造において、レンズユニット50を構成するレンズ素子を含み、該レンズ素子よりも撮像素子70側に配置される。光が入射する側から見て撮像素子70の少なくとも一部を覆う近赤外光吸収機能付き撮像素子カバー244が、レンズユニット50と撮像素子70の間に配置される。近赤外光吸収機能付き撮像素子カバー244は前記撮像素子近赤外光吸収部を含む。近赤外光吸収部は、近赤外領域の光を吸収する近赤外光吸収膜140であり、有機色素を含む。当該カメラ構造は、撮像装置の内部機構を外界から保護する近赤外光反射機能付きカバーガラス215をさらに有し、該カバーガラスが近赤外光反射部である近赤外光反射膜150を含む。
【0080】
なお近赤外光吸収機能付き撮像素子カバー244を実現する手段としては、例えば基材として、近赤外領域の光を吸収する有機色素を少なくとも一部に含有する合成樹脂の薄板を使用しても良い。また従来の近赤外光カットフィルタと同様に、近赤外領域の光を吸収するいわゆるブルーガラスのプレートを使用しても良い。透明なプレートに近赤外光をカットするフィルムを貼り付けて実現することも考えられる。
【0081】
一般に結晶化ガラスは、結晶粒子が大きいため光を通しにくかった。しかし最近の技術の進歩により、例えば株式会社オハラ社製の耐衝撃・高硬度クリアガラスセラミックスのように、結晶粒子をナノメートルサイズに制御することが可能になり光の透過率が高まった。このような結晶化ガラスを使えば、耐衝撃性とクラックが入りにくい破壊靱性を兼ね備えたカバーガラスを製造することができる。そしてこのようなカバーガラスに上記の積層構造を形成することで近赤外光反射機能付きカバーガラス215が実現される。なお近赤外光反射機能付きカバーガラス215としてブルーガラスを使用することも理論上は考えられるが、耐衝撃性が低く、またクラックが入りにくい破壊靱性に欠けるため適切でない。強化ガラスに、後述する近赤外光反射膜150を成膜して近赤外光反射機能付きカバーガラス215とすることも考えられるが、結晶化ガラス130を使う場合に比べて耐衝撃性が低い欠点を持つ。また硬度が高いサファイアガラスに、近赤外光反射膜150を成膜して近赤外光反射機能付きカバーガラス215とすることも考えられるが、コストが著しく上がり、また結晶化ガラス130を使う場合に比べて加工性が低い。
【0082】
防汚コート膜110は、指紋汚れ、皮脂汚れを防ぐとともに、汚れを拭き取りやすくする。防汚コート膜110はフッ素系のコーティング剤等で形成され、塗布やスプレーにより、カバーガラスの積層構造において光の入射側の最も外側に成膜される。
【0083】
反射防止膜120は、紫外領域の光を反射し、且つ、可視領域の光の反射を抑止する。反射防止膜120は誘電体多層膜であり、且つ、窒化膜と酸化膜を交互に積層して構成される。反射防止膜120を構成する誘電体膜は、窒化膜と酸化膜を交互に複数積層して構成される。窒化膜としては、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素または窒化アルミニウムなどを用いることができる。酸窒化ケイ素を用いる場合には、酸素と窒素との化学量論比(酸素/窒素)が1以下であることが望ましい。酸化膜としては、酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)などを用いることができる。反射防止膜120の膜として窒化ケイ素または酸窒化ケイ素を用いることにより、後述する近赤外光反射膜150と同じ成膜方法及び成膜装置を用いて反射防止膜120を形成することができるのでプロセス的に有利である。
【0084】
反射防止膜120は、窒化膜の代わりに酸化膜を用いることもできる。このような酸化膜の材質としては、酸化ケイ素の他に、酸化チタン(TiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ニオブ(Nb2O5)などを用いることができる。なお反射防止膜120を屈折率の異なる複数種類の酸化膜で構成する場合には、前記酸化物から適宜選択する。
【0085】
反射防止膜120は、公知の成膜方法、たとえば真空蒸着法、スパッタ法、イオンビームアシスト蒸着法(IAD法)、イオンプレーティング法(IP法)、イオンビームスパッタ法(IBS法)などを用いることができる。窒化膜の成膜には、スパッタ法、イオンビームスパッタ法を用いることが望ましい。
【0086】
近赤外光吸収膜140は、可視領域の光を透過するとともに、赤色領域から近赤外領域の光の一部を吸収する機能を有する。近赤外光吸収膜140には、有機色素が含まれ、650nmから750nmの範囲に最大吸収波長を有する樹脂膜から構成される(図4破線参照)。近赤外光吸収膜140は、結晶化ガラス130に隣接するため、両者の屈折率差を小さくして界面での反射率を低下させることが望ましい。このような近赤外光吸収膜140を有することにより、入射角度による分光透過率特性の依存性を低減して優れた近赤外光カット性を有することができる。
【0087】
有機色素としては、アゾ系化合物、フタロシアニン系化合物、シアニン系化合物、ジイ
モニウム系化合物などを用いることができる。近赤外光吸収膜140を構成するバインダー(色素の結着剤)としての樹脂材料としては、ポリアクリル、ポリエステル、ポリカーボネイト、ポリスチレン、ポリオレフィンなどを用いることができる。樹脂材料は、複数の樹脂を混合してもよく、また上記樹脂のモノマーを用いた共重合体であってもよい。また、樹脂材料は、可視領域の光に対して透過率の高いものであればよく、有機色素との相性、成膜プロセス、コスト等を考慮して選択される。また、近赤外光吸収膜140の耐紫外線性を向上させるために、樹脂材料に硫黄化合物などのクエンチャー(消光色素)を添加してもよい。
【0088】
近赤外光吸収膜140の形成には、たとえば以下の方法を用いることができる。まず、樹脂バインダーをメチルエチルケトン、トルエン等の公知の溶剤によって溶解し、さらに上述の有機色素を添加して塗布液を調製する。次いで、この塗布液をたとえばスピンコート法により結晶化ガラス130に所望の膜厚で塗布し、乾燥炉にて乾燥、硬化させる。
【0089】
近赤外光反射膜150は、反射防止膜120と同様に屈折率の異なる誘電体を交互に複数積層して形成される誘電体多層膜である。ただし近赤外光反射膜150を構成する誘電体多層膜は、屈折率が互いに異なる複数種類の酸化膜を複数積層させることで形成され、隣接する前記酸化膜は互いに異なる種類の酸化膜である。本第一実施形態で近赤外光反射膜150は、2種類の酸化膜を交互に数十層積層して形成される。酸化膜としては酸化ケイ素の他に、酸化チタン(TiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ニオブ(Nb2O5)などを用いる。
【0090】
近赤外光反射膜150において、それぞれの酸化膜の膜厚は、反射をしたい光の波長をλとして、λ/4の厚みで形成する。こうすることで交互層のすべての界面から反射された光は、入射面に達すると同じ位相になり、光は強め合う結果になる、つまり波長λ付近で反射率が大きくなって光反射膜として機能する。本実施形態においては、λとして近赤外領域の光を反射するように膜の設計を行えば良い。なお近赤外光反射膜150についても、上述の反射防止膜120と同様の成膜方法及び成膜装置を用いて成膜する。
【0091】
人間の目は、波長380nm~780nmのいわゆる可視光に対して感度を持つ。一方、撮像素子は、一般に可視光を含め、より長波長の光、すなわち波長約1.1μmの光まで感度を持つ。したがって撮像素子で捉える画像をそのまま写真にすると、自然な色合いには見えず、違和感を生じる原因になる。
【0092】
近赤外光反射部、及び、近赤外光吸収部を有する一体の光学フィルタ機能付きカバーガラス100を、例えば図2(A)のような積層構造として形成すると、誘電体多層膜による近赤外光反射膜150を備えるため、近赤外光吸収膜140では吸収しきれない700nm以上の長さの波長の光をカットして、自然な色合いの画像を取得することが可能になる。また近赤外光反射膜150だけで近赤外領域の光をカットしようとすると、後述するように入射光の入射角度により反射率が大きく変化してしまう。近赤外光反射膜150と、光吸収率について入射角度依存性のない近赤外光吸収膜140とを組み合わせることで、光の透過率が、光の入射角度に対して依存性の少ない近赤外光カットフィルタを構成することが可能になる。
【0093】
また、スマートフォン筐体20内のカメラを外界から保護するカバーガラス100が反射防止膜120により紫外領域の光をカットすることができるので、カメラの構成部品である合成樹脂で形成された光学レンズ群(レンズユニット50)が紫外線によって劣化することを防ぐことができ、且つ、有機色素を含む近赤外光吸収膜140が紫外線により劣化することも防ぐことができる。また、可視領域の光に対する反射防止機能により、入射光をより多く取り込み、明るい画像を取得できる。
【0094】
なお反射防止膜120は、窒化膜と酸化膜を交互に積層して構成されるが、一般に窒化膜は、酸化膜と比べて高硬度であり、鉛筆硬度試験において、9H以上の硬度に達する。したがって反射防止膜120を窒化膜も含めて構成することで、耐傷性を高める効果を奏する。また窒化膜は、酸化膜と比べて充填密度が高く緻密である。成分として酸素を含まないため、酸素の供給源にもならない。したがって窒化膜を近赤外光吸収膜140より外側に設けることで、近赤外光吸収膜140への酸素および水分の侵入を防ぎ、近赤外光吸収膜140の劣化を抑制する効果を奏する。
【0095】
一般に光学フィルタは、多数の光学境界面を持っている。一方レンズには高度な反射防止膜を施している。近赤外領域の光をカットする光学フィルタでレンズ並みの透過率を実現することは難しく、レンズ側に反射光を戻すことが生じる。これが画像にゴーストを生む迷光の原因になる。従来のカメラ構造においては、光学フィルタ60がレンズユニット50と撮像素子70の間の光路上で、撮像素子70直近に置かれているため、上記のようなゴーストを生じることは避けがたかった。しかし本実施形態に係るカメラ構造によれば、上述のような迷光を生じることはないため画質を向上させる著しい効果を奏する。
【0096】
次に参考のために、近赤外光反射部、及び、近赤外光吸収部を有する一体の光学フィルタ機能付きカバーガラス100の分光透過率特性について説明する。光学フィルタ機能付きカバーガラス100の機能を、例えば、別体である、近赤外光反射機能付きカバーガラス215と、近赤外光吸収機能付き撮像素子カバー244に分けた場合でも、同様の効果が得られる。
【0097】
図2(B)は、誘電体膜によって構成された近赤外光反射膜の分光透過率特性が、光の入射角度に対してどのように依存するかについての実験結果を示す。入射角度Aは図2(C)のように定義する。また、縦軸の「T」は、分光透過率を示し、単位は%(パーセント)である。また横軸の「λ」は光の波長を示し、単位はnm(ナノメートル)である(以下の図でも同様)。サンプルはガラスに二酸化チタン(TiO2)と二酸化ケイ素(SiO2)とを所定の膜厚で交互に40層積層したものである。実線が光の入射角度0度の場合、破線が光の入射角度が30度の場合の分光透過率を示す。図2(B)から赤色領域である波長700nm付近の光に対して、光の入射角度0度と30度で著しい分光透過率の差が生じてしまうことが確認された。このような差があると、画像の色合いが画像中心と周辺部で大きく変わってしまうことにつながり、最終的な画質低下の原因となる。
【0098】
図3は、近赤外光吸収膜と近赤外反射膜の両者を備えた光学フィルタ機能付きカバーガラス100の分光透過率が、光の入射角度に対してどのように依存するかについての実験結果を示す。近赤外光吸収膜としては、有機色素を含む厚さ5μm以下の樹脂膜を用いており、近赤外光反射膜としては図2の場合と同様の構成である。実線が光の入射角度0度の場合、破線が光の入射角度が15度の場合、一点鎖線が光の入射角度が30度の場合の分光透過率を示す。図2の場合と比べて入射角度依存性が小さくなっているのが確認できる。
【0099】
図4は、近赤外光吸収膜140及び近赤外光反射膜150を備えた光学フィルタ機能付きカバーガラス100(実線)と、近赤外光吸収膜140のみを形成したカバーガラス(破線)と、近赤外光反射膜150のみを形成したカバーガラス(一点鎖線)の分光透過率測定における実験結果を比較した図である。近赤外光吸収膜140と近赤外光反射膜150の構成は図2図3の場合と同様なので説明を省略する。ただしすべて光の入射角度は0度である。近赤外光吸収膜140のみの場合だと、650~750nmの光については、強い光吸収をするが、800nm以上の光は、ほとんど透過してしまう。前述のように人間の目は、波長380nm~780nmのいわゆる可視光に対して主に感度を持つため、撮像素子70が感度を持つ800nm以上の領域まで画像化すると上述のように人間の目には不自然な画像となる。近赤外光反射膜150は、波長700nm以上の光についてはカットするように設計されており、実際に700nm付近で急峻な分光透過率の減少が測定されている。近赤外光吸収膜140と近赤外光反射膜150を組み合わせて、構成したのが光学フィルタ機能付きカバーガラス100であり、図4の実線で示すように、可視領域の光のうち400~650nmについては、高い透過率を実現し、且つ、波長700nm以上の光をカットしていることが確認できる。
【0100】
本発明の実施形態に係るカメラ構造によれば、近赤外光反射部を配置する場所と、近赤外光吸収部を配置する場所に自由度が生じるので、カメラ構造の中でそれぞれ最適な位置に配置できるようになり、画質の向上という顕著な効果を奏する。
【0101】
近赤外光吸収部が吸収する波長の光よりも長波長側の光は透過してしまう場合がある。そのため、光の入射側から順に、近赤外光吸収部、近赤外光反射部、と配置されると、近赤外光吸収部が吸収する波長の光よりも長波長側の光がカメラモジュール内に入射しやすくなり、長波長側の光をカットできる近赤外光反射部に到達する前に、レンズ面などに反射して迷光となることで画質を落とす原因になる。
【0102】
本発明の実施形態に係るカメラ構造によれば、近赤外光反射部と近赤外光吸収部が、光の入射側から順に、近赤外光反射部、近赤外光吸収部と配置されるので、長波長側の迷光を抑止しうるという効果を奏する。
【0103】
本発明の実施形態に係るカメラ構造によれば、近赤外光反射部が光学レンズ群を構成するレンズ素子を含み、該レンズ素子よりも光の入射側に配置されるので、従来の近赤外光カットフィルタの位置よりも、近赤外光反射部から撮像素子からの距離が大きくなる。近赤外光反射部は、光の入射角が軸方向垂直からずれると、紫外領域の光を通しやすくなる場合がある。撮像素子からの距離が大きくなれば、近赤外光反射部から撮像素子を見込む角度が小さくなるので、近赤外光反射部を透過して撮像素子に直接到達する余分な紫外領域の光を低減しうるという効果を奏する。
【0104】
本発明の実施形態に係るカメラ構造によれば、近赤外光吸収部は、透過率が光の入射角によらないことが多い。したがって近赤外光吸収部が、カメラ構造において、光学レンズ群を構成するレンズ素子を含み、該レンズ素子よりも撮像素子側に配置されることで、さまざまな方向から撮像素子に入射しようとする迷光を効果的に抑制しうるという顕著な効果を奏する。
【0105】
撮像素子上に光を透過しにくいゴミが付着すると、画質が劣化する。本発明の実施形態に係るカメラ構造によれば、光が入射する側から見て撮像素子の少なくとも一部を覆う撮像素子カバーが、光学レンズ群と撮像素子の間という撮像素子に近接した位置に配置されるので、撮像素子に付着しうるゴミを低減して、画質の劣化を防ぎうるという顕著な効果を奏する。
【0106】
本発明の実施形態に係るカメラ構造によれば、温度変化による変形が少ない撮像素子カバーを安価に作製できるという効果を奏する。
【0107】
撮像素子カバーは、光学レンズ群と撮像素子の間という撮像素子に近接した位置に配置される。したがって撮像素子カバーが光を反射すると、撮像素子が取得する画像の画質を著しく劣化させる原因となる。本発明の実施形態に係るカメラ構造によれば、撮像素子カバーが、少なくとも可視領域の光の反射を防止する反射防止層を備えることで、画質が向上するという顕著な効果を奏する。
【0108】
本発明の実施形態に係るカメラ構造によれば、入射光をより多く取り込むことが可能になり、且つ、撮像素子カバーに起因する反射光、特に撮像素子自身からの反射光が、さらに撮像素子カバーに反射されて撮像素子に戻ることを防止し、画質が向上するという顕著な効果を奏する。
【0109】
本発明の実施形態に係るカメラ構造によれば、撮像素子カバーが近赤外光吸収部を含むので部品点数の低減、及び、カメラ構造作製における工程数の削減という顕著な効果を奏する。
【0110】
本発明の実施形態に係るカメラ構造によれば、近赤外光吸収部が近赤外光吸収膜を有し、近赤外光吸収膜には、近赤外光を吸収する有機色素が含まれるので、近赤外領域の光を吸収するためのフィルタの材料として一般に使用されるブルーガラスを用いることなく、光の入射角度依存性が少ない状態で、近赤外光領域の光を抑止することが可能になるという効果を奏する。
【0111】
本発明の実施形態に係るカメラ構造によれば、カバーガラスが、光を反射する近赤外光反射膜を有するので、外界からの近赤外光を撮像装置の内部機構に入射させない効果を奏しうる。また、撮像素子に近接した領域に、近赤外光反射膜を備えた部材を入れる必要が無くなるので、撮像装置の内部機構に入射した光の反射を抑制することができ、結果として迷光を抑え、ゴーストやフレアの原因を減少させる効果を奏しうる。
【0112】
図5は、本発明の第二実施形態に係るカメラ構造が有する光学フィルタ機能付きカバーガラスの分光透過率を示す図である。本実施形態では、夜間でも画像を取得できる、いわゆるデュアルバンドの光学フィルタ機能付きカバーガラスとカメラ構造を提供する。カメラ構造の基本構成は第一実施形態と同様だが、近赤外光反射機能付きカバーガラス215の代わりに、近赤外光吸収膜140及び近赤外光反射膜150を備える光学フィルタ機能付きカバーガラス100を配置し、近赤外光吸収機能付き撮像素子カバー244を省略している(図示省略)。
【0113】
また近赤外光反射機能付きカバーガラス215は、近赤外領域の光の一部について光透過率を高くした近赤外光反射膜Dを備える。近赤外光反射膜Dの膜構造は公知技術なので説明を省略する。
【0114】
図5の破線で示す近赤外光吸収膜140と、図5の一点鎖線で示す近赤外領域の光の一部について光透過率を高くした近赤外反射膜Dを組み合わせると、図5の実線のように可視領域の光と近赤外領域の光の一部を透過するデュアルバンドカバーガラスを実現できる。ただし図5において、近赤外光反射膜D及びデュアルバンドカバーガラスの分光透過率については、750nm以上の波長においては、計算値を表している。このようなデュアルバンドカバーガラスを備えたカメラ構造によれば、夜間の道路において車線境界線や車道外側線が見えやすくなるという著しい効果が得られるため、車載カメラに好適である。
【0115】
図6(A)は、本発明の第三の実施形態に係る撮像装置である携帯通信機器Aに適用されるカメラ構造の断面図である。本カメラ構造は、近赤外光を反射する近赤外光反射機能付きカバーガラス215と、近赤外光を吸収する近赤外光吸収機能付きプレート217と、透明ガラスを基材とした撮像素子カバー240を備える。他の構成は前述の第一実施形態と同様であるから記載を省略する。
【0116】
図6(B)は、近赤外光反射部を含む近赤外光反射機能付きカバーガラスの構造図である。近赤外光反射機能付きカバーガラス215は、光を透過する透明基板として結晶化ガラス130を使用し、紫外領域の光を反射し、且つ、可視領域の光の反射を抑止する反射防止膜120が、結晶化ガラス130を基準として光の入射側に形成される。そして光が入射する側の最も外側に、外界からの汚れを防止するための防汚コート膜110を備える。光の出射側に、結晶化ガラス130を基準として最も遠い側から順に、少なくとも可視領域の光の反射を防止する反射防止膜120と、近赤外領域の光を反射する近赤外光反射膜150を形成する。
【0117】
なお、近赤外光反射機能付きカバーガラス215において、最も撮像素子70側の反射防止膜120は無くても良い。
【0118】
図6(C)は、近赤外光吸収機能付きプレート217の構造図である。近赤外光吸収機能付きプレート217は少なくとも可視領域の光の反射を防止する反射防止層230を複数備え、近赤外光吸収膜140をさらに備える。近赤外光吸収機能付きプレート217は、透明ガラス220を基材とし、透明ガラス220に隣接して近赤外光吸収膜140が設けられる。反射防止層230が、透明ガラス220を基準として光の入射側に形成され、光の出射側に、透明ガラス220を基準として最も遠い側から順に、反射防止層230と、近赤外光吸収膜140が備えられる。
【0119】
近赤外光吸収機能付きプレート217は、近赤外光反射機能付きカバーガラス215より、内部構造側、すなわちレンズユニット50側に配置される。
【0120】
なお、近赤外光吸収機能付きプレート217を実現する手段としては、例えば基材として、近赤外領域の光を吸収する有機色素を少なくとも一部に含有する合成樹脂の薄板を使用しても良い。また従来の近赤外光カットフィルタと同様に、近赤外領域の光を吸収するいわゆるブルーガラスのプレートを使用しても良い。透明なプレートに近赤外光をカットするフィルムを貼り付けて実現することも考えられる。
【0121】
図6(D)は、透明ガラス220を基材として反射防止層230を複数備えた、透明ガラスを基材とした撮像素子カバー240の構造図である。撮像素子カバー240は、透明ガラス220の両面に反射防止層230を備える。
【0122】
図6(E)は、第三実施形態に係る撮像装置である携帯通信機器Aに適用されるカメラ構造において、透明ガラスを基材とした撮像素子カバー240を、透明合成樹脂フィルム222を基材とした撮像素子カバー242に置き換えた変形実施例の一部である。すなわち、透明合成樹脂フィルム222を基材として、両面に反射防止機能を発揮するモスアイ構造を備えた透明合成樹脂フィルムを基材とした撮像素子カバー242の構造図である。透明合成樹脂フィルムを基材とした撮像素子カバー242の厚みは、0.2mm以下である。透明合成樹脂フィルムを基材とした撮像素子カバー242は、少なくとも可視領域の光の反射を防止するモスアイ構造232を両面に備える。
【0123】
モスアイ構造とは、誘電体多層膜のように干渉効果を利用して反射を低減するのでは無く、屈折率が急激に変化する境界面を排除することで反射を低減する。具体的には、表面に数百nm程度の高さを持つ多数の微細な突起からなる微細突起構造が形成され、その突起の繰り返し周期が反射低減の効果の現れる波長範囲と関連する。モスアイ構造については周知技術なので記載を省くが、本変形実施例の場合、例えば、透明合成樹脂フィルム222として透明なアクリル樹脂を使用し、転写や成型加工によってモスアイ構造を形成することで反射防止機能を実現する。
【0124】
すなわち透明合成樹脂フィルムを基材とした撮像素子カバー242の表面に形成される微細な突起からなる微細突起構造、いわゆるモスアイ構造232は、広帯域に渡って光の反射を防止する。モスアイ構造232は、少なくとも可視領域の光の反射防止機能を有し、紫外領域の光と、近赤外領域の光についても反射防止機能を有することが望ましい。
【0125】
合成樹脂フィルムは、厚さ100μm以下のものが容易に作製できる。本発明の実施形態に係るカメラ構造によれば、薄く安価な撮像素子カバーを安価に作製できるという効果を奏する。
【0126】
本発明の実施形態に係るカメラ構造によれば、従来よりも厚みの薄いカメラモジュールを提供しうるという顕著な効果を奏する。
【0127】
撮像素子カバーの表面に形成される微細な突起からなる微細突起構造、いわゆるモスアイ構造の反射防止層は、広帯域に渡って光の反射を防止する。したがって本発明の実施形態に係るカメラ構造によれば、モスアイ構造の反射防止層を形成することで、撮像素子カバーに起因する反射光が広帯域に渡って著しく低減され、画質が向上されうるという顕著な効果を奏する。
【0128】
さらに内側透明プレート240についての他の変形実施例としては、基材である透明合成樹脂フィルム222の表面に反射防止層として、合成樹脂を塗布することで得られる多層膜を形成したものも考えられる。一般に互いに異なる光の屈折率を持つ2種類の薄膜を交互に積層して得られる多層膜は、光の反射防止膜を形成しうる。そしてこのような多層膜は、合成樹脂を塗布することでも得られることが知られている。
【0129】
例えば、光の屈折率が互いに異なる2種類の合成樹脂であって、それらの屈折率が、いずれも空気の屈折率より大きく、且つ、透明合成樹脂フィルム222の屈折率より小さいものを用意する。これらを交互に透明合成樹脂フィルム222に塗布することで、安価に安定した品質の反射防止膜を備えた内側透明プレート240を製造しうる。透明合成樹脂フィルム222への合成樹脂の塗布の方法としては、例えばローラーコート法などが考えられる。本変形実施例によれば、反射防止膜を備えた内側透明プレートを、安定した品質のもと、大量に、しかも安価に製造できるという著しい効果を奏する。
【0130】
図7(A)は、本発明の第四の実施形態に係る撮像装置である携帯通信機器Aに適用されるカメラ構造の断面図である。当該カメラ構造は、近赤外光反射機能付きカバーガラス215と、カメラモジュール1を備える。カメラモジュール1は、レンズユニット50とレンズユニット50を保持するレンズキャリア40と、撮像素子70と、撮像素子カバー240を備える。近赤外光反射機能付きカバーガラス215と、撮像素子カバー240の構造は、第三の実施形態における記載と同様なので省略する。また近赤外反射膜150、反射防止膜120の作製方法は第一実施形態と同様なので記載を省略する。
【0131】
図7(B)は、近赤外光吸収部を備えたレンズ素子をふくむレンズユニットの断面図である。レンズユニット50、すなわち光学レンズ群は複数のレンズ素子から構成される。光学レンズ群のうち最も撮像素子70側に配置されたレンズ素子が、近赤外光吸収部を備えるレンズ素子250である。近赤外光吸収部は有機色素であり、近赤外光吸収部を備えるレンズ素子250を形成する合成樹脂中均一に含有される。
【0132】
図7(C)は、近赤外光吸収部を備えたレンズ素子をふくむレンズユニットの断面図である。本変形実施例では、近赤外光吸収部を備えたレンズ素子は、透明なレンズ素子255の最も撮像素子70側表面に、近赤外光吸収膜140を設けることで実現される。近赤外光吸収膜140の作製方法は、第一の実施形態に記載したものと同様なので省略する。
【0133】
なお近赤外光吸収膜140のさらに撮像素子70側に、反射防止層230を設けても良い。
【0134】
本発明の実施形態によれば、光を反射する近赤外光反射部を有するので、外界からの近赤外光を撮像装置の内部機構に入射させない効果を奏しうる。また、撮像素子に近接した領域に、近赤外光反射部を備えた部材を入れる必要が無くなるので、撮像装置の内部機構に入射した光の反射を抑制することができ、結果として迷光を抑え、ゴーストやフレアの原因を減少させる効果を奏しうる。
【0135】
本発明の実施形態によれば、近赤外光吸収部が近赤外光を吸収する有機色素が含むので、近赤外領域の光を吸収するためのフィルタの材料として一般に使用されるブルーガラスを用いることなく、光の入射角度依存性が少ない状態で、近赤外光領域の光を抑止することが可能になるという効果を奏する。
【0136】
図8(A)は、本発明の第五の実施形態に係る撮像装置に適用されるカメラ構造の断面図である。当該カメラ構造のカメラモジュール1は、レンズユニット50とレンズユニット50を保持するレンズキャリア40と、撮像素子70を有し、車体22に固定される。すなわち、当該カメラ構造は、いわゆる車載カメラの構造である。
【0137】
図8(B)は、近赤外光反射部を含む光学レンズ素子270と、近赤外光吸収部を含む光学レンズ素子250を備えるレンズユニットの断面図である。近赤外光反射部を備えるレンズ素子270の光入射側表面には、近赤外光反射膜150が設けられる。近赤外光吸収部を備えるレンズ素子250において、近赤外光吸収部は有機色素であり、近赤外光吸収部を備えるレンズ素子250を形成する合成樹脂中均一に含有される。変形実施例として、近赤外光吸収部を備えるレンズ素子250は、近赤外光吸収膜140を最も撮像素子70側に設けた透明なレンズ素子255であっても良い(図7(C)参照)。本実施形態では、アクチュエータなど機械的に動く部材が含まれないため、ダストが発生しにくい。また撮像素子70の表面が地面と略垂直なので、撮像素子70にダストが付着しにくい。そのため撮像素子カバー240を省いている。レンズユニット50の光入射側に、汚れよけのためのカバーガラスを備えても良い。もちろん撮像素子70に近接して、撮像素子カバー240を設けても良い。
【0138】
このような構造であれば、部品点数も少なくて済み、生産工程も著しく省略できるため安価に製造することが可能である。もちろん近赤外光反射部と、近赤外光吸収部を有するので画質の向上という効果も奏する。
【0139】
また変形実施例として、カメラ構造において近赤外光反射部を備えるレンズ素子270はそのままに、撮像素子カバーについては第一実施形態の図1(C)に示した、近赤外光吸収機能付き撮像素子カバー244を用いることで、レンズ素子に近赤外領域の光吸収機能を持たせないことも考えられる。
【0140】
図9(A)は、本発明の第六の実施形態に係る撮像装置に適用されるカメラ構造の断面図である。当該カメラ構造は、近赤外光反射機能付きカバーガラス215と、カメラモジュール1を備える。カメラモジュール1は、レンズユニット50とレンズユニット50を保持するレンズキャリア40と、撮像素子70と、撮像素子カバー240を備える。近赤外光反射機能付きカバーガラス215と、撮像素子カバー240の構造は、第三の実施形態における記載と同様なので省略する。
【0141】
図9(B)は、近赤外光吸収部を含む近赤外光吸収機能付き光学素子500を備えるレンズユニットの断面図である。レンズユニット50は、近赤外光吸収機能付き光学素子500を最も光の入射側に備えている。ただし近赤外光吸収機能付き光学素子500は、レンズユニット50の内部であれば、軸上のどの位置にあっても良い。
【0142】
図9(C)は、近赤外光吸収機能付き光学素子500の構造図である。近赤外光吸収機能付き光学素子500は、少なくとも可視領域の光の反射を防止する反射防止層230を複数備え、近赤外光吸収膜140をさらに備える。近赤外光吸収機能付きプレート217は、透明ガラス220を基材とし、透明ガラス220に隣接して近赤外光吸収膜140が設けられる。反射防止層230が、透明ガラス220を基準として光の入射側に形成され、光の出射側に、透明ガラス220を基準として最も遠い側から順に、反射防止層230と、近赤外光吸収膜140が備えられる。
【0143】
なお、近赤外光吸収機能付き光学素子500を実現する手段としては、例えば基材として、近赤外領域の光を吸収する有機色素を少なくとも一部に含有する合成樹脂の薄板を使用しても良い。また従来の近赤外光カットフィルタと同様に、近赤外領域の光を吸収するいわゆるブルーガラスのプレートを使用しても良い。透明なプレートに近赤外光をカットするフィルムを貼り付けて実現することも考えられる。
【0144】
なお、近赤外反射膜150、反射防止膜120、近赤外光吸収膜140の作製方法は第一実施形態と同様なので記載を省略する。
【0145】
図10(A)は、本発明の第7の実施形態に係る撮像装置に適用されるカメラ構造の断面図である。当該カメラ構造は、カバーガラス550と、カメラモジュール1を備える。カメラモジュール1は、レンズユニット50とレンズユニット50を保持するレンズキャリア40と、撮像素子70と、撮像素子カバー240を備える。撮像素子カバー240の構造は、第三の実施形態における記載と同様なので省略する。
【0146】
カバーガラス550は、基材として従来の強化ガラスやサファイアガラス等を用いてもよい。またもちろん結晶化ガラスを用いても良い。カバーガラス550は、その撮像素子70側表面に、紫外領域の光を反射し、且つ、可視領域の光の反射を抑止する反射防止膜120を有する(図示省略)。
【0147】
図10(B)は、近赤外光反射部、及び、近赤外光吸収部を含む光学フィルタ機能付き光学素子530を備えるレンズユニットの断面図である。レンズユニット50は、光学フィルタ機能付き光学素子530を最も光の入射側に備えている。ただし光学フィルタ機能付き光学素子530は、レンズユニット50の内部であれば、軸上のどの位置にあっても良い。
【0148】
図10(C)は、光学フィルタ機能付き光学素子530の構造図である。光学フィルタ機能付き光学素子530は、少なくとも可視領域の光の反射を防止する反射防止層230を複数備え、近赤外光吸収膜140をさらに備える。光学フィルタ機能付き光学素子530は、透明ガラス220を基材とし、透明ガラス220に隣接して近赤外光吸収膜140が設けられる。反射防止層230が、透明ガラス220を基準として光の入射側に形成され、光の出射側に、透明ガラス220を基準として最も遠い側から順に、反射防止層230と、近赤外光反射膜150と、近赤外光吸収膜140が備えられる。
【0149】
なお、光学フィルタ機能付き光学素子530を実現する手段としては、例えば基材として、近赤外領域の光を吸収する有機色素を少なくとも一部に含有する合成樹脂の薄板を使用しても良い。また従来の近赤外光カットフィルタと同様に、近赤外領域の光を吸収するいわゆるブルーガラスのプレートを使用しても良い。透明なプレートに近赤外光をカットするフィルムを貼り付けて実現することも考えられる。
なお近赤外光吸収膜140、近赤外反射膜150、反射防止膜120の作製方法は第一実施形態と同様なので記載を省略する。
【0150】
当該カメラ構造によれば、レンズユニット50に光学フィルタ機能付き光学素子530を追加するだけでよく、他の構成は従来の部材を流用できる。また、近赤外光反射部と近赤外光吸収部を同時に含む一体の光学素子が光学レンズ群に含まれるので、撮像素子の直近に、近赤外光反射膜を備えた部材を入れる必要が無くなる。したがって撮像装置の内部機構に入射した光の反射を抑制することができ、結果として迷光を抑え、ゴーストやフレアの原因を減少させる効果を奏しうる。
【0151】
さて、発明者がさらに鋭意研究を行った結果、従来のカメラ構造については、取得画像の中心部と周縁部の間で色味の違いが生じるという別の課題が生じていることがわかった。この課題は、特に近赤外反射部をカバーガラスに備える態様において入射光の入射角度が大きくなり得る場合に顕著に生じる。
【0152】
図12(A)は、従来の光吸収インクを用いた近赤外光吸収部における光透過率の分光特性と、近赤外光反射部における光透過率の分光特性の入射光角度依存性を示すグラフである。縦軸に光の透過率T(単位は%)を示し、横軸に入射光の波長(単位はnm)を示す。具体的には、近赤外光吸収部として近赤外光吸収膜140を有する近赤外光吸収機能付き撮像素子カバー244(図1(C)参照)と、近赤外光反射部として近赤外光反射膜150(図1(B)参照)を有する近赤外光反射機能付きカバーガラス215を備える光学系を考える。
【0153】
図12(A)において、実線A1は、近赤外光吸収機能付き撮像素子カバー244単体についての光透過率の分光特性を示す。点線R1は、入射光の入射角度が0°の時の近赤外光反射機能付きカバーガラス215単体における光透過率の分光特性を示し、破線R2は、入射光の入射角度が30°の時の近赤外光反射機能付きカバーガラス215単体における光透過率の分光特性を示す。従来の近赤外光吸収インクの分光特性を示す曲線A1と、入射角30°のときの従来の近赤外反射部の分光特性を示す破線R2が、光の波長領域として660~700nmにおいて、ほぼ重なり合っていて、従来の近赤外光吸収インクの分光特性を示す実線A1と、入射角0°のときの従来の近赤外反射部の分光特性を示す点線R1は、720nm付近の交点まで重なりがない。
【0154】
図12(B)は、近赤外光吸収部と近赤外光反射部を組み合わせた際の、光透過率の分光特性の入射光角度依存性を示すグラフである。具体的には点線C1が入射角0°のときの分光特性であり、破線C2が入射角30°のときの分光特性である。言い換えると図12(A)における実線A1と点線R1を組み合わせた光学系の分光特性が点線C1であり、図12(A)における実線A1と破線R2を組み合わせた光学系の分光特性が破線C2である。660nm~690nmの範囲で点線C1と破線C2の間にギャップG1が生じている。
【0155】
ここで、入射光の波長を増大させた際に光の透過率が減少して10%になる波長を近赤外光遮断波長と定義する。近赤外光反射部と近赤外吸収部を有する近赤外光カットフィルタを考えると、入射光の入射角度を0°~30°の範囲で変えた時の近赤外光遮断波長の角度依存変化幅が30nm程度になってしまうことがありうる。逆に言えば近赤外光領域の所定の光波長において、近赤外光カットフィルタの光透過率が、入射光の入射角度により大きく変動している。具体的には、例えば光の波長が660~690nmの光が入射したとすると、取得画像の中心部で入射角度が小さなときは光透過率が20%程度で、取得画像の周縁部で入射角度が大きな時には光透過率がほぼ0%になるといった現象が生じ、結果的に取得画像の周辺部と中央部で、透過率の光波長依存性が異なってしまい、いわゆる「赤抜け」という画質の悪化現象が生じる。
【0156】
本発明の第八の実施形態に係るカメラ構造として、図13(A)に分光特性を示す新たな光吸収インクを用いた近赤外光吸収部と、新たな近赤外光反射部の組み合わせを備えるカメラ構造を挙げる。近赤外光吸収部の構成は、図1(C)に示す近赤外光吸収機能付き撮像素子カバー244と同様であり、近赤外光反射部の構成は、図1(B)に示す近赤外光反射機能付きカバーガラス215と同様である。具体的には、近赤外光吸収部として近赤外光吸収膜140を有する近赤外光吸収機能付き撮像素子カバー244(図1(C)参照)と、近赤外光反射部として近赤外光反射膜150(図1(B)参照)を有する近赤外光反射機能付きカバーガラス215を備える光学系である。
【0157】
図13(A)は、新たな光吸収インクを用いた近赤外光吸収部における光透過率の分光特性と、新たな近赤外光反射部における光透過率の分光特性の入射光角度依存性を示すグラフである。縦軸に光の透過率T(単位は%)を示し、横軸に入射光の波長(単位はnm)を示す。具体的には、近赤外光吸収部として近赤外光吸収膜140を有する近赤外光吸収機能付き撮像素子カバー244(図1(C)参照)と、近赤外光反射部として近赤外光反射膜150(図1(B)参照)を有する近赤外光反射機能付きカバーガラス215を備える光学系を考える。
【0158】
図13(A)において、実線A2は、近赤外光吸収機能付き撮像素子カバー244単体についての光透過率の分光特性を示す。点線R3は、入射光の入射角度が0°の時の近赤外光反射機能付きカバーガラス215単体における光透過率の分光特性を示し、破線R4は、入射光の入射角度が30°の時の近赤外光反射機能付きカバーガラス215単体における光透過率の分光特性を示す。
【0159】
具体的には、本発明の第八の実施形態に係るカメラ構造は、近赤外領域の光を吸収する近赤外光吸収部140と、近赤外領域の光を反射する近赤外光反射部150とを備え、近赤外光吸収部140は、光の波長として685nm~755nmの領域の中に、光透過率が2%未満である光吸収波長領域700を有し、近赤外光反射部150への入射光の波長が増大するのに伴って光の透過率が減少して50%となる波長を近赤外光カットオフ波長と定義するとき、近赤外光反射部150は、近赤外光カットオフ波長より長い波長の光を略全反射する特性を有し、近赤外光反射部150への入射光の入射角度を0°~30°の範囲で変化させたときに、近赤外光カットオフ波長は常に光吸収波長領域700の中に含まれることを特徴とする。
【0160】
言い換えれば、入射光の入射角度が0°における近赤外光反射部150の近赤外光カットオフ波長CF1と、入射光の入射角度が30°における近赤外光反射部150の近赤外光カットオフ波長CF2が、光吸収波長領域700に含まれる。
【0161】
なお近赤外光反射部150における、近赤外光カットオフ波長より長い波長の光に対する分光特性としては、750nm~1000nm程度で1%未満の光透過率が望ましく、
1000nm程度より長い波長域では、若干の、例えば数%の光透過性があってもよい。
【0162】
図13(B)は、近赤外光吸収部140と近赤外光反射部150を組み合わせた際の、光透過率の分光特性の入射光角度依存性を示すグラフである。具体的には点線C3が入射角0°のときの分光特性であり、破線C4が入射角30°のときの分光特性である。言い換えると図13(A)における実線A2と点線R3を組み合わせた光学系の分光特性が点線C3であり、図13(A)における実線A2と破線R4を組み合わせた光学系の分光特性が破線C4である。
【0163】
ここで、入射光の波長を増大させた際に光の透過率が減少して10%になる波長を近赤外光遮断波長と定義する。
【0164】
近赤外光反射部150と近赤外吸収部140を有する近赤外光カットフィルタを考えると、入射光の入射角度を0°~30°の範囲で変えた時の近赤外光遮断波長の角度依存変化幅G2が5nm以下になっている。すなわち近赤外光カットフィルタの光透過率が、入射光の入射角度依存をし難い。
【0165】
近赤外光カットフィルタが、例えば誘電体多層膜を備える近赤外光反射部150を有する場合、近赤外光反射部150における光の透過率の周波数依存性は、入射光の入射角度により変化する。すなわち例えば近赤外光反射部150の近赤外光遮断波長が、入射光の入射角度が0°であるとき約700nm程度だったものが、入射光の入射角度が30°になると約675nmになるような入射角度依存性が生じることがある。すると近赤外光カットフィルタが近赤外光吸収部140を有するとして、近赤外光反射部150と組み合わせられて実現する光透過率が、入射光の入射角度によって大きく変化してしまうことがあり得る。具体的には、近赤外光反射部150と近赤外吸収部140を有する近赤外光カットフィルタは、入射光の入射角度を0°~30°の範囲で変えた時の近赤外光遮断波長の角度依存変化幅が30nm程度になってしまうことがあり得る。逆に言えば近赤外光領域の所定の光波長において、近赤外光カットフィルタの光透過率が、入射光の入射角度により大きく変動してしまうということである。例えば光の波長が660~690nmの光が入射したとすると、取得画像の中心部で入射角度が小さなときは光透過率が20%程度で、取得画像の周縁部で入射角度が大きな時には光透過率がほぼ0%になるといった現象が生じ、結果的に取得画像の周辺部と中央部で、透過率の光波長依存性が異なってしまい、いわゆる「赤抜け」という画質の悪化現象が生じる。
【0166】
本発明の第八実施形態に係るカメラ構造によれば、近赤外光カットフィルタにおいて、入射光の入射角度を0°~30°の範囲で変えた時の近赤外光遮断波長の角度依存変化幅が5nm以下なので、取得画像内での色の表現に差が生じ難くなり、画質が向上するという優れた効果を奏する。
【0167】
近赤外光吸収部140と近赤外光反射部150を合わせた効果として、所定の波長における光の透過率が1%以上となると取得画像に影響を与える。したがって近赤外光吸収部140の分光特性として、光透過率が2%以上の光波長領域において、近赤外光反射部150の光透過率が50%になると、取得画像の画質が肉眼で見た色味とは異なることになる。また近赤外光反射部150を、例えば誘電体多層膜で形成するときには、入射光の入射角度により光透過率が変化するので、取得画像の周辺部と中央部で、透過率の光波長依存性が異なってしまい、いわゆる「赤抜け」という画質の悪化現象が生じる。
【0168】
本発明の第八実施形態に係るカメラ構造によれば、近赤外光吸収部140と近赤外光反射部150を合わせた効果として685nm~755nmの光波長領域で光の透過率が1%未満となるので、取得画像の画質と肉眼でみたものとの差が小さくなるという優れた効果も奏する。また近赤外光反射部150への入射光の入射角度を0°~30°の範囲で変化させたとき、常に、近赤外光反射部150の近赤外光カットオフ波長は光透過率が2%未満である光吸収波長領域700に入るので、近赤外領域の光に対する分光特性の入射角度依存性が小さくなり、取得画像の周辺部と中央部で取得され得る光波長が変わらないため画質が向上するという優れた効果を奏する。
【0169】
図14(A)は、本発明の第九実施形態に係る撮像装置である携帯通信機器Aに適用されるカメラ構造の断面図である。本実施形態の場合、固体撮像装置は情報通信機器、携帯通信機器Aである。カメラ構造は、光の入射する側から、光学フィルタ機能付きカバーガラス400と、スマートフォン等の携帯通信機器Aの筐体520内に収容されるカメラモジュール501を有する。カメラモジュール501は、光学フィルタ機能付きカバーガラス400側に配置される光学レンズ群であるレンズユニット450と、光学フィルタ機能付きカバーガラス400及びレンズユニット450を介して入射した光を受光する撮像素子570とを備え、レンズユニット450から撮像素子570までの光路間に近赤外領域の光をカットする近赤外光カットフィルタを配置しないことを特徴としている。詳細には図14(A)のように、光学フィルタ機能付きカバーガラス400、レンズユニット450、レンズキャリア540、マグネットホルダ430。撮像素子570、そして基板580から主に構成され、スマートフォン筐体520に固定される。撮像素子570と基板580の接続についてはワイヤボンディングでつないでも、フリップチップ実装をおこなっても良い。
【0170】
図11(A)の従来のカメラ構造と大きく違うのは、従来、画質向上のために必要だった近赤外光をカットする光学フィルタ60(図11(A)参照)を省略した点である。その代わりに従来は、カメラモジュール1を保護する役割を主に担っていたカバーガラス10に近赤外領域の光をカットするフィルタ機能を付加した。このような構造にすることで、カメラ構造全体の長さを従来よりも短くすることができるとともに、撮像素子70の近傍に光学フィルタ60を配置しないため、光学フィルタ60の製造過程で、該フィルタの表面に付着する粒状のゴミ(パーティクル)が、撮像素子70の表面に落下して画像を悪化させることもなくなる著しい効果を奏する。また、カメラモジュール1の組立工程において、近赤外光カットフィルタ60を配置、組み付けるための工程も必要なくなり、一層のコスト低減、歩留まりの向上、作業の効率化に資する。
【0171】
また図14(A)のカメラ構造を備えることで、携帯通信機器Aは、より小型に、より薄く、より安価に製造できる効果を奏する。
【0172】
図14(B)に、携帯通信機器Aの筐体に連続して設置され、内部機構であるカメラモジュールを外界から保護する光学フィルタ機能付きカバーガラス400の積層構造を示す。光学フィルタ機能付きカバーガラス400は、光を透過する透明基板として結晶化ガラス630を使用し、紫外領域の光を反射し、且つ、可視領域の光の反射を抑止する反射防止膜620が、結晶化ガラス630を基準として光の入射側に形成される。そして光が入射する側の最も外側に、外界からの汚れを防止するための防汚コート膜610を備える。光の出射側に、結晶化ガラス630を基準として最も遠い側から順に、近赤外領域の光を反射する近赤外反射部としての近赤外光反射膜650と、近赤外領域の光を吸収する近赤外光吸収部としての近赤外光吸収膜640とが形成される。光の出射側の最遠い側に、さらに反射防止膜620を形成しても良い。
【0173】
一般に結晶化ガラスは、結晶粒子が大きいため光を通しにくかった。しかし最近の技術の進歩により、例えば株式会社オハラ社製の耐衝撃・高硬度クリアガラスセラミックスのように、結晶粒子をナノメートルサイズに制御することが可能になり光の透過率が高まった。このような結晶化ガラスを使えば、耐衝撃性とクラックが入りにくい破壊靱性を兼ね備えたカバーガラスを製造することができる。そしてこのようなカバーガラスに上記の積層構造を形成することで光学フィルタ機能付きカバーガラス400が実現される。なお光学フィルタ機能付きカバーガラス400としてブルーガラスを使用することも理論上は考えられるが、耐衝撃性が低く、またクラックが入りにくい破壊靱性に欠けるため適切でない。強化ガラスに、後述する近赤外光吸収膜640や近赤外光反射膜650を成膜して光学フィルタ機能付きカバーガラス400とすることも考えられるが、結晶化ガラス630を使う場合に比べて耐衝撃性が低い欠点を持つ。また硬度が高いサファイアガラスに、近赤外光吸収膜640や近赤外光反射膜650を成膜して光学フィルタ機能付きカバーガラス400とすることも考えられるが、コストが著しく上がり、また結晶化ガラス630を使う場合に比べて加工性が低い。
【0174】
防汚コート膜610は、指紋汚れ、皮脂汚れを防ぐとともに、汚れを拭き取りやすくする。防汚コート膜610はフッ素系のコーティング剤等で形成され、塗布やスプレーにより、カバーガラスの積層構造において光の入射側の最も外側に成膜される。
【0175】
反射防止膜620は、紫外領域の光を反射し、且つ、可視領域の光の反射を抑止する。反射防止膜620は誘電体多層膜であり、且つ、窒化膜と酸化膜を交互に積層して構成される。反射防止膜620を構成する誘電体膜は、窒化膜と酸化膜を交互に複数積層して構成される。窒化膜としては、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素または窒化アルミニウムなどを用いることができる。酸窒化ケイ素を用いる場合には、酸素と窒素との化学量論比(酸素/窒素)が1以下であることが望ましい。酸化膜としては、酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)などを用いることができる。反射防止膜620の膜として窒化ケイ素または酸窒化ケイ素を用いることにより、後述する近赤外光反射膜150と同じ成膜方法及び成膜装置を用いて反射防止膜620を形成することができるのでプロセス的に有利である。
【0176】
反射防止膜620は、窒化膜の代わりに酸化膜を用いることもできる。このような酸化膜の材質としては、酸化ケイ素の他に、酸化チタン(TiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ニオブ(Nb2O5)などを用いることができる。なお反射防止膜120を屈折率の異なる複数種類の酸化膜で構成する場合には、前記酸化物から適宜選択する。
【0177】
反射防止膜620は、公知の成膜方法、たとえば真空蒸着法、スパッタ法、イオンビームアシスト蒸着法(IAD法)、イオンプレーティング法(IP法)、イオンビームスパッタ法(IBS法)などを用いることができる。窒化膜の成膜には、スパッタ法、イオンビームスパッタ法を用いることが望ましい。
【0178】
近赤外光吸収膜640は、結晶化ガラス630において上述の反射防止膜620とは反対側の面、すなわち光学フィルタ機能付きカバーガラス400の撮像素子570側(図14(A)参照)に形成される。近赤外光吸収膜640は、可視領域の光を透過するとともに、赤色領域から近赤外領域の光の一部を吸収する機能を有する。近赤外光吸収膜640には、有機色素が含まれ、700nmから750nmの範囲に最大吸収波長を有する樹脂膜から構成される(図13(A)実線A2参照)。近赤外光吸収膜640は、結晶化ガラス630に隣接するため、両者の屈折率差を小さくして界面での反射率を低下させることが望ましい。このような近赤外光吸収膜640を有することにより、入射角度による分光透過率特性の依存性を低減して優れた近赤外光カット性を有することができる。
【0179】
有機色素としては、アゾ系化合物、フタロシアニン系化合物、シアニン系化合物、ジイモニウム系化合物などを用いることができる。近赤外光吸収膜640を構成するバインダー(色素の結着剤)としての樹脂材料としては、ポリアクリル、ポリエステル、ポリカーボネイト、ポリスチレン、ポリオレフィンなどを用いることができる。樹脂材料は、複数の樹脂を混合してもよく、また上記樹脂のモノマーを用いた共重合体であってもよい。また、樹脂材料は、可視領域の光に対して透過率の高いものであればよく、有機色素との相性、成膜プロセス、コスト等を考慮して選択される。また、近赤外光吸収膜640の耐紫外線性を向上させるために、樹脂材料に硫黄化合物などのクエンチャー(消光色素)を添加してもよい。
【0180】
近赤外光吸収膜640の形成には、たとえば以下の方法を用いることができる。まず、樹脂バインダーをメチルエチルケトン、トルエン等の公知の溶剤によって溶解し、さらに上述の有機色素を添加して塗布液を調製する。次いで、この塗布液をたとえばスピンコート法により結晶化ガラス630に所望の膜厚で塗布し、乾燥炉にて乾燥、硬化させる。
【0181】
近赤外光反射膜650は、反射防止膜620と同様に屈折率の異なる誘電体を交互に複数積層して形成される誘電体多層膜である。ただし近赤外光反射膜650を構成する誘電体多層膜は、屈折率が互いに異なる複数種類の酸化膜を複数積層させることで形成され、隣接する前記酸化膜は互いに異なる種類の酸化膜である。本第一実施形態で近赤外光反射膜650は、2種類の酸化膜を交互に数十層積層して形成される。酸化膜としては酸化ケイ素の他に、酸化チタン(TiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ニオブ(Nb2O5)などを用いる。
【0182】
近赤外光反射膜650において、それぞれの酸化膜の膜厚は、反射をしたい光の波長をλとして、λ/4の厚みで形成する。こうすることで交互層のすべての界面から反射された光は、入射面に達すると同じ位相になり、光は強め合う結果になる、つまり波長λ付近で反射率が大きくなって光反射膜として機能する。本実施形態においては、λとして近赤外領域の光を反射するように膜の設計を行えば良い。なお近赤外光反射膜650についても、上述の反射防止膜620と同様の成膜方法及び成膜装置を用いて成膜する。
【0183】
人間の目は、波長380nm~780nmのいわゆる可視光に対して感度を持つ。一方、撮像素子は、一般に可視光を含め、より長波長の光、すなわち波長約1.1μmの光まで感度を持つ。したがって撮像素子で捉える画像をそのまま写真にすると、自然な色合いには見えず、違和感を生じる原因になる。
【0184】
光学フィルタ機能付きカバーガラス400を上記図14(B)のような積層構造にすると、誘電体多層膜による近赤外光反射膜650を備えるため、近赤外光吸収膜640では吸収しきれない700nm以上の長さの波長の光をカットして、自然な色合いの画像を取得することが可能になる。
【0185】
近赤外光反射膜650の光透過率の光波長依存性については、図13(A)に示す。具体的には、点線R3は、入射光の入射角度が0°の時の近赤外光反射膜650単体における光透過率の分光特性を示し、破線R4は、入射光の入射角度が30°の時の近赤外光反射膜650単体における光透過率の分光特性を示す。
【0186】
本実施形態において、近赤外光反射膜650への入射光の波長が増大するのに伴って光の透過率が減少して50%となる波長を近赤外光カットオフ波長と定義するとき、
近赤外光反射部650への入射光の入射角度を0°~30°の範囲で変化させても、常に、近赤外光反射部650の近赤外光カットオフ波長は光透過率が2%未満である光吸収波長領域700に入るので、近赤外領域の光に対する分光特性の入射角度依存性が小さくなり、取得画像の周辺部と中央部で取得され得る光波長が変わらないため画質が向上するという優れた効果を奏する。
【0187】
すなわち近赤外光反射膜650と、光吸収率について入射角度依存性のない近赤外光吸収膜640とを組み合わせることで、光の透過率が、光の入射角度に対して依存性の少ない近赤外光カットフィルタを構成することが可能になる(図13(B)参照)。
【0188】
また、スマートフォン筐体520内のカメラを外界から保護するカバーガラス400が反射防止膜620により紫外領域の光をカットすることができるので、カメラの構成部品である合成樹脂で形成された光学レンズ群(レンズユニット450)が紫外線によって劣化することを防ぐことができ、且つ、有機色素を含む近赤外光吸収膜640が紫外線により劣化することも防ぐことができる。また、可視領域の光に対する反射防止機能により、入射光をより多く取り込み、明るい画像を取得できる。
【0189】
なお反射防止膜620は、窒化膜と酸化膜を交互に積層して構成されるが、一般に窒化膜は、酸化膜と比べて高硬度であり、鉛筆硬度試験において、9H以上の硬度に達する。したがって反射防止膜120を窒化膜も含めて構成することで、耐傷性を高める効果を奏する。また窒化膜は、酸化膜と比べて充填密度が高く緻密である。成分として酸素を含まないため、酸素の供給源にもならない。したがって窒化膜を近赤外光吸収膜640より外側に設けることで、近赤外光吸収膜640への酸素および水分の侵入を防ぎ、近赤外光吸収膜640の劣化を抑制する効果を奏する。
【0190】
一般に光学フィルタは、多数の光学境界面を持っている。一方レンズには高度な反射防止膜を施している。近赤外領域の光をカットする光学フィルタでレンズ並みの透過率を実現することは難しく、レンズ側に反射光を戻すことが生じる。これが画像にゴーストを生む迷光の原因になる。従来のカメラ構造においては、光学フィルタ60がレンズユニット50と撮像素子70の間の光路上で、撮像素子70直近に置かれているため、上記のようなゴーストを生じることは避けがたかった(図11(A)参照)。しかし本実施形態に係るカメラ構造によれば、上述のような迷光を生じることはないため画質を向上させる著しい効果を奏する。
【0191】
本発明の第九実施形態によれば、従来よりも画質が向上したカメラ構造を搭載する撮像装置を安価に実現できるという著しい効果を奏する。
【0192】
尚、本発明の実施形態に係るカメラ構造及び撮像装置は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0193】
1 カメラモジュール
10 カバーガラス
20 スマートフォン筐体
22 車体
30 マグネットホルダ
40 レンズキャリア
50 レンズユニット
60 光学フィルタ
70 撮像素子
80 基板
100 光学フィルタ機能付きカバーガラス
110 防汚コート膜
120 反射防止膜
130 結晶化ガラス
140 近赤外光吸収膜
150 近赤外光反射膜
160 入射面
170 出射面
180 測定対象
190 入射光
200 垂直軸
210 光学フィルタ機能付きカバーガラス
215 近赤外光反射機能付きカバーガラス
217 近赤外光吸収機能付きプレート
220 透明ガラス
222 透明合成樹脂フィルム
230 反射防止層
232 モスアイ構造
240 撮像素子カバー
242 透明合成樹脂フィルムを基材とした撮像素子カバー
244 近赤外光吸収機能付き撮像素子カバー
250 近赤外光吸収部を備えるレンズ素子
255 透明なレンズ素子
270 近赤外光反射部を備えるレンズ素子
300 光源
310 高反射材
320 低反射材
360 透明ガラス
370 反射防止膜
380 ブルーガラス
390 近赤外光反射膜
400 光学フィルタ機能付きカバーガラス
430 マグネットホルダ
450 レンズユニット
500 近赤外光吸収機能付き光学素子
501 カメラモジュール
520 スマートフォン筐体
530 光学フィルタ機能付き光学素子
540 レンズキャリア
550 カバーガラス
570 撮像素子
580 基板
610 防汚コート膜
620 反射防止膜
630 結晶化ガラス
640 近赤外光吸収膜(近赤外光吸収部)
650 近赤外光反射膜(近赤外光反射部)
700 光吸収波長領域
A 携帯通信機器
A1 従来の近赤外光吸収インクの分光特性
A2 新たな近赤外光吸収インクの分光特性
C1 入射角0°のときの分光特性
C2 入射角30°のときの分光特性
C3 入射角0°のときの分光特性
C4 入射角30°のときの分光特性
G ゴースト
R1 入射角0°のときの従来の近赤外反射部の分光特性
R2 入射角30°のときの従来の近赤外反射部の分光特性
R3 入射角0°のときの新たな近赤外反射部の分光特性
R4 入射角30°のときの新たな近赤外反射部の分光特性
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14