(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】鋏
(51)【国際特許分類】
B26B 13/28 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
B26B13/28 Z
(21)【出願番号】P 2019195870
(22)【出願日】2019-10-29
【審査請求日】2021-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】591130102
【氏名又は名称】株式会社シゲル工業
(74)【代理人】
【識別番号】100084102
【氏名又は名称】近藤 彰
(72)【発明者】
【氏名】藤田 茂
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3130866(JP,U)
【文献】特開平07-031752(JP,A)
【文献】実開平01-072862(JP,U)
【文献】実開昭60-168471(JP,U)
【文献】米国特許第04982500(US,A)
【文献】米国特許第07810242(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26B 13/00 - 13/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方に刃部を形成し他方に操作部を設けた動刃体と静刃体を交差させ、前記交差部分における動刃体に、刃先側の回動主軸と操作部側のガイド従軸を設け、静刃体に、刃部の左右中心線と平行に形成して前記回動主軸が摺動自在に納まる主軸ガイド溝と、前記主軸ガイド溝の操作部側端部の近接位置から刃縁・操作部方向へ傾斜させて形成して前記ガイド従軸が摺動自在に納まる従軸ガイド溝を備え、刃体の閉口操作時に動刃体が静刃体に対して操作部方向にスライドする鋏において、
主軸ガイド溝に、刃先方向先端部分において刃縁に向かう延長溝部を設けると共に、従軸ガイド溝に、主軸ガイド溝の操作部側端近接部分から刃峰・刃先方向へ向かう延長溝部を設けてなることを特徴とする鋏。
【請求項2】
主軸ガイド溝を縦溝部と延長溝部である横溝部で構成し、縦溝部と横溝部のコーナー部分をR状に形成し、従属ガイド溝の延長溝部を主軸ガイド溝の前記横溝部でガイドされて移動する回動主軸を中心とする弧状に形成してなる請求項1記載の鋏。
【請求項3】
主軸ガイド溝及び従軸ガイド溝の各々の延長溝部が、主軸ガイド溝の刃先方向先端位置と、従属ガイド溝における主軸ガイド溝の操作部側端部の近接位置に、回動主軸とガイド従軸が各々位置して対向刃部の開口角度が20~40度となる溝中間部から、対向刃部の開口角度が70度に至るまでの長さに形成してなる請求項1又は2記載の鋏。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向刃部が切断時にスライドして引き切り作用を備えた鋏に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一方に刃部を形成し他方に操作部を設けた刃体を交差させ、操作部の開閉操作時に対向刃部が開閉動作(切断動作)と同時に相対的なスライド移動して引き切り作用を行う鋏は、前記交差部分における一方の対向刃部(動刃部)に、2個の軸部(回動主軸とガイド従軸)を設け、他方の対向刃部(静刃部)に、刃体中心線の上下に配置したガイド溝を設け、各軸を各ガイド溝に沿わせて切断操作する刃部開閉構造が知られている(特許文献1,2)。
【0003】
静刃側に設けられた二つのガイド溝の一方(主軸ガイド溝)は、刃先側に刃縁と略平行に形成され、他方のガイド溝(従軸ガイド溝)は、前記主軸ガイド溝に対して斜め方向に形成されている。
【0004】
鋏の開閉操作によって開口状態の動刃部を回動させると、動刃部と静刃部の開口角度が小さくなって切断作用を実現すると共に、主軸及び従軸が各々のガイド溝に沿って移動することで動刃部が相対的に静刃部に対して刃縁方向にスライド移動するものである。尚従属ガイド溝の傾斜方向によって引き切り(特許文献1)となるか押し切り(特許文献2)となるかが定まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開平1-72862号公報。
【文献】特開平11-114242号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した静刃部の交差部分に主軸ガイド溝と従軸ガイド溝を備え、各々が直線溝に形成されている場合は、対向刃部の回動角度に対応する相対的スライド距離は、主軸ガイド溝に対する従属ガイド溝の傾斜角度によって定まるが、交差部分の面積によって溝長にはおのずと限界があり、また対向刃部の最大開口角度は、主軸ガイド溝における刃先側端位置と従軸ガイド溝の刃先側端の形成位置によって定まり、交差部分の形成範囲(形成面積)によって、おのずと限界がある。
【0007】
特に理容鋏においては、その使用目的から対向刃部の交差部分の幅及び長さはある程度のコンパクト化が必要であり、直線状の主軸ガイド溝と従軸ガイド溝を採用したのでは対向刃部間の最大開口角度や引き切り作用のスライド状態の設定に限度がある。
【0008】
そこで本発明はガイド溝の改良を施して理容鋏に適する引き切り作用を備えた鋏を提案した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1記載に係る鋏は、一方に刃部を形成し他方に操作部を設けた動刃体と静刃体を交差させ、前記交差部分における動刃体に、刃先側の回動主軸と操作部側のガイド従軸を設け、静刃体に、刃部の中心線(刃縁と峰部の間で想定される中心線)と平行に形成して前記回動主軸が摺動自在に納まる主軸ガイド溝と、前記主軸ガイド溝の操作部側端部の近接位置から刃縁・操作部方向へ傾斜させて形成して前記ガイド従軸が摺動自在に納まる従軸ガイド溝を備え、刃体の閉口操作時に動刃体が静刃体に対して操作部方向にスライドする鋏において、主軸ガイド溝に、刃先方向先端部分において刃縁に向かう延長溝部を設けると共に、従軸ガイド溝に、主軸ガイド溝の操作部側端近接部分から刃峰・刃先方向へ向かう延長溝部を設けてなることを特徴とするものである。
【0010】
而して前記鋏は、主として理容鋏に適するもので、操作部の開閉操作で対向刃部が回動し、対向刃縁で切断作用をなし、前記切断時において、回動主軸及びガイド従軸が各々主軸ガイド溝及び従軸ガイド溝に沿って移動することで動刃部が相対的に静刃部に対して刃縁方向にスライド移動し引き切り作用が発揮される。
【0011】
特に主軸ガイド溝及び従軸ガイド溝に延長溝部を延設したことによって、回動主軸及びガイド従軸が延長溝部内を移動して刃体回動がなされる分、対向刃体の開口角度が大きくなる。
【0012】
また本発明の請求項2記載に係る鋏は、主軸ガイド溝を縦溝部と延長溝部である横溝部で構成し、縦溝部と横溝部のコーナー部分をR状に形成し、従属ガイド溝の延長溝部を主軸ガイド溝の前記横溝部でガイドされて移動する回動主軸を中心とする弧状に形成してなるもので、直線状に形成するガイド溝を採用した場合に比較して刃体の開閉操作が滑らかになる。
【0013】
また本発明の請求項3記載に係る鋏は、主軸ガイド溝及び従軸ガイド溝の各々の延長溝部が、主軸ガイド溝の刃先方向先端位置と、従属ガイド溝における主軸ガイド溝の操作部側端部の近接位置に、回動主軸とガイド従軸が各々位置して対向刃部の開口角度が30~40度となる溝中間部から、対向刃部の開口角度が70度に至るまでの長さに形成してなる。
【0014】
従前の直線ガイド溝では溝中間部において開口角度が最大(40~30度)となるが、延長溝部を設けることによって最大開度を大きくすることができ、特に理容鋏において実用的な最大角度を設定することで、交差部分のコンパクト化とのバランスが取れる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の構成は上記のとおりで、公知の主軸・従軸の二軸と主軸ガイド溝と従属ガイド溝の二ガイド溝構成を採用して動刃体引き切り構作用をなす鋏において、主軸ガイド溝の鉤状延長溝部及び従属ガイド溝の弧状延長溝部を付加することによって、狭い箇所である鋏交差部分であっても、鋏の最大開口度を大きくすることを実現できたものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】同分解平面図で(イ)は全体図(ロ)は要部拡大図。
【
図3】同動刃体の開口状態の説明図(最大開口状態)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明の実施形態について説明する。図示した実施形態は理容鋏の例で、通常の理容鋏のとおり、基方に親指を装着する操作部(指孔)11を備え、先方を刃部(動刃部)12とした動刃体1と、基方に中指他を装着する操作部(指孔)21を備え、先方を刃部(静刃部)22とした静刃体2とを中間部分で交差させ、前記交差部13,23を中心に動刃体1と静刃体2が回動するように連結している。
【0019】
特に本発明は、通常の鋏のように交差部を枢結したものではなく、操作部11,21の開閉動作時(開度動作時)に対向する動刃部12及び静刃部22が相対的なスライド移動して引き切り作用を行うように、動刃体1の交差部13に、2個の軸部(回動主軸14とガイド従軸15)を設け、他方の静刃体2の交差部23に、前記回動主軸14及びガイド従軸15の動作を制する主軸ガイド溝24及び従軸ガイド溝25を設けてなる。尚刃先と交差部を結ぶ方向を「縦」、横断する方向を「横」として以下に説明する。
【0020】
特に交差部13,23は、動刃体1・静刃体2における動刃部12・静刃部22の刃部全体の左右の中心とみなすことができる縦方向の刃部中心線A1・A2で左右対称となる従前の理容鋏と異なり、前記した回動主軸14、ガイド従軸15、主軸ガイド溝24、従軸ガイド溝25を設けるため、動刃部12の刃縁側及び静刃部22の峰側に弧状に膨出して形成している。
【0021】
回動主軸14は従前の理容鋏と同様に刃体開閉の回動中心となるが、スライド切断機能を備えると共に、最大開口角度を大きくするために前記の交差部12の膨出に合わせて、刃部中心線A1から平行に刃縁方向に2~4mm平行にずれた回動中心線B1上に設け、ガイド従軸15は、回動主軸14から前記の(動刃体1の)回動中心線B1に対して20~30度(理容鋏を使用する際に想定される対向刃部の開口角度(A1・B1-A2・B2のなす角度)で任意に定められるもので「標準開口角度」と定義する。図示例は22度)傾斜した軸線C上に、主軸ガイド溝24と従軸ガイド溝25と対応する間隔で設けたものである。
【0022】
また回動主軸14は、ボルト体141とナット体142で構成し、ボルト体141の軸部を静刃体2の交差部23より突出させてナット体142を装着して刃体1,2を連結するもので、ガイド従軸15は、刃体を重ね合せた際の静刃体2の交差部23の表面から突出しない長さに設けたものである。
【0023】
主軸ガイド溝24は、交差部23を表裏貫通し、回動主軸14がガタつかずに移動する幅に形成したもので、縦方向の縦溝部241と縦溝部241の刃先側で刃縁方向に設け横溝部(延長溝部)242からなる。
【0024】
縦溝部241は、動刃体の回動中心線B1と同様に刃部中心線A2から平行に峰方向に平行にずれた回動中心線B2に溝中心が一致させ、両刃部12,22が閉じた状態で回動主軸14が縦溝部241の基端と一致し(
図7)、両刃部12,22が標準開口角度に開いた状態(
図5:図示例は22度)で回動主軸14が縦溝部241の先端に位置するように形成したものである。
【0025】
更に横溝部(延長溝部)242は、前記縦溝部241の先端から刃縁に向かうように交差部23の範囲内で納まるように適宜形成したもので、特に縦溝部241から横溝部242に連続するコーナー部分は回動主軸14の移動がスムーズになされるようにR状に形成してなる。
【0026】
従軸ガイド溝25は、前記縦溝部241の基端に近接した位置で主軸ガイド溝24の縦溝部241の幅に対応する範囲を溝中間部251とし、溝中間部251の刃先方向に延設した上方溝部(延長溝部)252と操作部方向に延設した下方溝部253で構成されている。
【0027】
溝中間部251は、刃縁側が下方となる傾斜形状に形成され、上方溝部(延長溝部)252は、縦溝部241が中心となる円弧状に形成し、下方溝部253は操作部方向(溝端方向)を回動中心線B2に対しての傾斜角度を小さくしている。
【0028】
そして溝中間部251は、従属ガイド軸15が位置した際に、刃体開口角度が40~20度の動作範囲に対応し、下方溝部253は刃体開口角度が20度以下の動作に対応し、上方溝部(延長溝部)252は、40度から最大開口角度(図示例は70度)までの動作範囲に対応する。
【0029】
而して前記理容鋏は、回動主軸14を主軸ガイド溝操作部(指孔)11,21の開閉操作で対向する動刃部12と静刃部22が開閉動作(主として動刃体1を操作する)して毛髪切断を行うものであるが、特に通常の鋏のような枢結軸を採用したものではなく、回動主軸14及びガイド従軸15が各々主軸ガイド溝24及び従軸ガイド溝25に沿って移動することで動刃部12が相対的に静刃部22に対して刃縁方向にスライド移動し引き切り作用が発揮される。
【0030】
即ち動刃部12を閉じた状態(
図7:刃部中心線A1,A2及び回動中心線B1,B2が一致している状態)で、回動主軸14が縦溝部241の基端に位置し、ガイド従軸15が従軸ガイド溝25の下方溝部253の端部(最基方)に位置し(15aの位置)、当該状態からの開閉操作に際して動刃体1(回動主軸14及びガイド従軸15)の位置は主軸ガイド溝24及び従軸ガイド溝25によって定められることになる。
【0031】
理容鋏の通常の使用時は、動刃部12が閉じた状態から標準的開口角度に開いた状態までの間を細かく繰り返し開閉操作が行われる。即ち回動主軸14が回動中心線B2上での縦溝部241内の往復動となり、ガイド従軸15が従軸ガイド溝25の溝中間部251から下方の下方溝部253内を往復動となる。
【0032】
前記の通常時の切断使用(標準的開口角度での使用)において、開閉時の動刃部12の刃縁方向へのスライド移動がなされるが、特に下方溝部253が基方側の傾斜角度が小さくなっているので、開口角度に対応してスライド移動距離が微妙に変化する。
【0033】
図5の標準的開口角度の状態におけるガイド従軸15の位置(15c)と
図6に示す閉口途中(10度開口)のガイド従軸15の位置(15b)の間に移動する下方溝部253の傾斜角度と、前10度開口時のガイド従軸15の位置(15b)から
図7に示す閉口時のガイド従軸15の位置(15a)に至る下方溝部253の角度が相違し、前記の傾斜角度の相違によって開口角度に対応するスライド距離が変化することになる。即ち閉口角度が小さくなるほど角度変化に対するスライド距離が大きくなり、引き切り作用が大きく働き、刃先使用での細かな毛髪切断作業にスライド切断(切れ味向上)の効果が発揮される。
【0034】
また本理容鋏においては、主軸ガイド溝24には縦溝部241から連続して横溝部(延長溝部)252が設けられ、回動主軸14が横溝部(延長溝部)242を移動し、ガイド従軸15が上方溝部(延長溝部)252を移動することで、標準開口角度より更に大きく開口できる。
【0035】
前記の回動主軸14及びガイド従軸15の両ガイド溝24,25内の移動は、前記両ガイド溝24,25における縦溝部241から横溝部242への移動並びに溝中間部251から上方溝部252への移動は、溝形態が滑らかに形成されているので、操作部11,21の開閉操作によってと両刃部12,22が自然に開口される。
【0036】
例えば
図4に示すようなガイド従軸15が溝中間部251に位置し(15dの位置)、刃体開口角度が標準的開口角度に近い40度の開口角度から切断操作を繰り返すこともスムーズになされる。
【0037】
従って回動主軸14が横溝部(延長溝部)242の端部に位置し、ガイド従軸15が従軸ガイド溝25の上方溝部252の上端に位置した状態(15eの位置)の約70度が最大開口角度となり、その開口角度範囲内であれば、何ら支障なく動刃部12・静刃部22か開口して切断操作がなされる。
【0038】
特に本発明は狭い範囲の交差部23内でも、横溝部(延長溝部)242及び上方溝部(延長溝部)252を採用することで開口角度を大きくすることができたものである。
【符号の説明】
【0039】
1 動刃体
11 操作部(指孔)
12 動刃部
13 交差部
14 回動主軸
141 ボルト体
142 ナット体
15 ガイド従軸
2 静刃体
21 操作部(指孔)
22 静刃部
23 交差部
24 主軸ガイド溝
241 縦溝部
242 横溝部(延長溝部)
25 従軸ガイド溝
251 溝中間部
252 上方溝部(延長溝部)
253 下方溝部
A1,A2 刃部中心線
B1,B2 回動中心線