IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -眼内悪性リンパ腫の補助的診断法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】眼内悪性リンパ腫の補助的診断法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20220929BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20220929BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z ZNA
C12Q1/6876 Z
C12N15/09 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020562506
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2019051482
(87)【国際公開番号】W WO2020138435
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-06-30
(31)【優先権主張番号】62/785,732
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的医療シーズ実用化研究事業「難治性眼内悪性リンパ腫に対する副作用を軽減させたBruton型チロシンキナーゼ阻害剤を用いた治療プロトコールの作成」、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの。
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100137512
【弁理士】
【氏名又は名称】奥原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100178571
【弁理士】
【氏名又は名称】関本 澄人
(72)【発明者】
【氏名】田岡 和城
(72)【発明者】
【氏名】唐川 綾子
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】CANI AK. et al.,Next generation sequencing of vitreoretinal lymphomas from small-volume intraocular liquid biopsies: new routes to targeted therapies, Oncotarget, 2017, Vol. 8, No. 5, pp. 7989-7998
【文献】BONZHEIM I. et al.,High frequency of MYD88 mutations in vitreoretinal B-cell lymphoma: a valuable tool to improve diagnostic yield of vitreous aspirates, Blood, 2015, Vol. 126, No. 1, pp. 76-79
【文献】DUBOIS S. et al.,Next-Generation Sequencing in Diffuse Large B-Cell Lymphoma Highlights Molecular Divergence and Therapeutic Opportunities: a LYSA Study, Clin. Cancer Res., 2016, Vol. 22, No. 12, pp. 2919-2928
【文献】KARUBE K. et al.,Integrating genomic alterations in diffuse large B-cell lymphoma identifies new relevant pathways and potential therapeutic targets,Leukemia, Epub 2017 Sep 5, Vol. 32, pp. 675-684
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者由来の検体において、以下の(A)ないし(I)のいずれかの遺伝子変異の1または複数を検出することを含み、前記検出する遺伝子変異の少なくとも1つは、以下の(E)、(F)または(I)のいずれかである、眼内悪性リンパ種の診断を補助する方法。
(A)CD79Bのc.586T>A変異、
(B)CD79Bのc.586T>C変異、
(C)CD79Bのc.587A>C変異、
(D)CD79Bのc.587A>G変異、
(E)BTG2のc.133G>A変異、
(F)BTG2のc.142G>A変異、
(G)MYD88のc.794T>C変異、
(H)MYD88のc.728G>A変異、および
(I)PIM1のc.550C>T変異
【請求項2】
被験者由来の検体において、以下の(a)ないし(i)のいずれかの遺伝子変異の1または複数を検出することを含み、前記検出する遺伝子変異の少なくとも1つは、以下の(e)、(f)または(i)のいずれかである、眼内悪性リンパ種の診断を補助する方法
(a)CD79Bタンパク質のY196Nのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(b)CD79Bタンパク質のY196Hのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(c)CD79Bタンパク質のY196Sのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(d)CD79Bタンパク質のY196Cのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(e)BTG2タンパク質のA45Tのアミノ酸置換を伴うBTG2遺伝子変異、
(f)BTG2タンパク質のE48Kのアミノ酸置換を伴うBTG2遺伝子変異、
(g)MYD88タンパク質のL265Pのアミノ酸置換を伴うMYD88遺伝子変異、
(h)MYD88タンパク質のS243Nのアミノ酸置換を伴うMYD88遺伝子変異、および
(i)PIM1タンパク質のL184Fのアミノ酸置換を伴うPIM1遺伝子変異
【請求項3】
前記遺伝子変異の検出を、デジタルPCR法により検出することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項の検出を行う前に、デジタルPCRのドロプレット内で、multiplex PCRにより、予め検体由来のDNAを増幅することを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記検体が眼内液、髄液、末梢血または骨髄であることを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載の方法。
【請求項6】
眼内悪性リンパ種の診断を補助する方法を実施するためのキットであって、少なくとも以下の(E)、(F)または(I)のいずれかの遺伝子変異を検出するためのプローブおよび/またはプライマーを含むことを特徴とする、前記キット。
(E)BTG2のc.133G>A変異、
(F)BTG2のc.142G>A変異、
(I)PIM1のc.550C>T変異
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼内悪性リンパ腫の補助的診断法に関する。より具体的には、眼内悪性リンパ腫に特異的な遺伝子変異を指標とする補助的診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼内悪性リンパ腫は、脳中枢神経系へ60-80%と高率に播種し、5年生存率は30%から40%と眼疾患の中でも最も生命予後の悪い難治性疾患である(非特許文献1)。現在のところ、年間100万人に4.6人の希少疾患であることもあり、標準治療は世界的および本邦においても確立されていない。
【0003】
眼内悪性リンパ腫の診断は、診断自体が困難であるとされ、診断における平均期間は1年以上という報告がある。また、得られる検体が微量であり、組織診断が出来ないことから、通常のリンパ腫における病理診断が困難である。そのため、これまでに、IgHクローナリティ(免疫グロブリンH鎖)遺伝子再構成)、Il10/IL6、細胞診の特異度、感度を用いて診断確率を向上させてきた。近年では、MYD88CD79Bの遺伝子変異が眼内悪性リンパ腫に認められることが報告されている。しかしながら、微量な検体から効率よく診断する診断方法は未だ確立されていない。
【0004】
上記診断方法とは別に、眼内悪性リンパ腫の標的遺伝子解析についても研究が進められている。眼内悪性リンパ腫の約7割でMYD88におけるL265P変異が検出され、約35%でCD79Bにおける Y196(F、E、D、CおよびN)変異をみとめている(非特許文献2~非特許文献5)。しかしながら、高率に眼内悪性リンパ腫と補助診断できる遺伝子診断方法は未だ確立されてない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Grimmら, Ann Oncol. 2007; 18: 1851-1855.
【文献】Yoneseら, E Eur J Haematol. 2019 Feb;102(2):191-196.
【文献】Lauraら, JAMA Ophthalmol. 2018 Oct 1;136(10):1098-1104.
【文献】Rajaら, Retina. 2016 Mar;36(3):624-628.
【文献】Bonzheimら, Blood. 2015 Jul 2;126(1):76-79.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、眼内悪性リンパ腫に特異的な遺伝子変異を検出することを含む、眼内悪性リンパ種の診断を補助する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、これまでに知られている眼内悪性リンパ腫特異的な遺伝子変異以外の検索を行ったところ、眼内悪性リンパ腫特異的な変異遺伝子として新規にBTG2およびPIM1を見出した。
さらに、本発明者らは、眼内悪性リンパ腫の遺伝子解析のために調製できるDNA量が非常に微量であることに鑑み、この点を解決すべく、複数の遺伝子変異を同時に検出可能とするために、デジタルPCR(digital PCR;digital polymerase chain reaction)等による解析の前に、微量検体由来のサンプルDNAをmultiplex PCR法などにより前増幅することによって、1回のデジタルPCR等による解析で複数の変異遺伝子が同時に検出可能となることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(9)である。
(1)被験者由来の検体において、以下の(A)ないし(I)のいずれかの遺伝子変異の1または複数を検出することを含む、眼内悪性リンパ種の診断を補助する方法。
(A)CD79Bのc.586T>A変異、
(B)CD79Bのc.586T>C変異、
(C)CD79Bのc.587A>C変異、
(D)CD79Bのc.587A>G変異、
(E)BTG2のc.133G>A変異、
(F)BTG2のc.142G>A変異、
(G)MYD88のc.794T>C変異、
(H)MYD88のc.728G>A変異、および
(I)PIM1のc.550C>T変異
(2)前記遺伝子変異が、少なくとも、前記(E)、(F)または(I)のいずれかであることを特徴とする上記(1)に記載の方法。
(3)被験者由来の検体において、以下の(a)ないし(i)のいずれかの遺伝子変異の1または複数を検出することを含む、眼内悪性リンパ種の診断を補助する方法
(a)CD79Bタンパク質のY196Nのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(b)CD79Bタンパク質のY196Hのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(c)CD79Bタンパク質のY196Sのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(d)CD79Bタンパク質のY196Cのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(e)BTG2タンパク質のA45Tのアミノ酸置換を伴うBTG2遺伝子変異、
(f)BTG2タンパク質のE48Kのアミノ酸置換を伴うBTG2遺伝子変異、
(g)MYD88タンパク質のL265Pのアミノ酸置換を伴うMYD88遺伝子変異、
(h)MYD88タンパク質のS243Nのアミノ酸置換を伴うMYD88遺伝子変異、および
(i)PIM1タンパク質のL184Fのアミノ酸置換を伴うPIM1遺伝子変異
(4)前記遺伝子変異が、少なくとも、前記(e)、(f)または(i)のいずれかであることを特徴とする上記(3)に記載の方法。
(5)前記遺伝子変異の検出を、デジタルPCR法により検出することを特徴とする上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の方法。
(6)上記(5)の検出を行う前に、予め検体由来のDNAを増幅することを特徴とする(5)に記載の方法。
(7)前記検体が眼内液、髄液、末梢血または骨髄であることを特徴とする上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の方法。
(8)眼内悪性リンパ種の診断を補助する方法を実施するためのキット。
(9)以下の(A)ないし(I)のいずれかの遺伝子変異の1または複数を検出するためのプローブおよび/またはプライマーを含むことを特徴とする上記(8)に記載のキット。
(A)CD79Bのc.586T>A変異、
(B)CD79Bのc.586T>C変異、
(C)CD79Bのc.587A>C変異、
(D)CD79Bのc.587A>G変異、
(E)BTG2のc.133G>A変異、
(F)BTG2のc.142G>A変異、
(G)MYD88のc.728G>A変異、
(H)MYD88のc.794T>C変異、および
(I)PIM1のc.550C>T変異
【発明の効果】
【0009】
本発明により、微量検体による眼内悪性リンパ種特異的な変異遺伝子およびその変異の検出が可能となる。従って、本発明による診断補助方法を実施することで、予後不良とされる眼内悪性リンパ種の確度の高い診断が可能となる。
【0010】
これまでのMYD88CD79Bの遺伝子変異では、眼内悪性リンパ腫の70%程度しか補助診断の役割を果たしていなかった。本発明にかかる方法は、4遺伝子9箇所の変異箇所の検出により、症例の96%を網羅できており、MYD88CD79B だけでなく、BTG2PIM1変異遺伝子の4つの疾患特異的遺伝子変異を用いることで高率に診断を補助できる補助的診断方法である。従って、BTG2PIM1変異遺伝子を含む、本明細書よって初めて開示された新規な疾患特異的遺伝子を用いることでこれまで病理組織学的解析、病理細胞診では十分に診断できなかった症例に対して、補助診断として有用である。
【0011】
さらに、眼内悪性リンパ腫は、得られる検体量が微量であるため遺伝子解析が困難であったが、本発明において、multiplex PCR法を用いて、DNAの前増幅を行うことで、微量な検体量から変異遺伝子を検出する系を確立した。この増幅系を用いることで、微量な検体であってもデジタルPCR法等による測定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】眼内悪性リンパ種症例のデジタルPCR解析結果の代表例。プローブ6(BTG2 c.142G>A E48K)を用いて解析を行った。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1の実施形態は、被験者由来の検体において、以下の(A)ないし(I)のいずれかの遺伝子変異の1または複数を検出することを含む、眼内悪性リンパ種の診断を補助する方法である。
(A)CD79B(CD79b Molecule)のc.586T>A変異、
(B)CD79Bのc.586T>C変異、
(C)CD79Bのc.587A>C変異、
(D)CD79Bのc.587A>G変異、
(E)BTG2(BTG Anti-proliferation Factor 2)のc.133G>A変異、
(F)BTG2のc.142G>A変異、
(G)MYD88(MYD88 Innate Immune Signal Transduction Adaptor;Myeloid Differentiation Primary Response 88)のc.794T>C変異
(H)MYD88のc.728G>A変異、および
(I)PIM1(Pim-1 Proto-oncogene, Serine/Threonine kinase)のc.550C>T変異
【0014】
より具体的には、本発明の第1の実施形態は、前記(A)ないし(I)のいずれかの遺伝子変異の1または複数を検出することを含み、遺伝子変異が検出されたときに、当該被験者は眼内悪性リンパ種であると判定し、眼内悪性リンパ種の診断を補助する方法である。第1の実施形態における遺伝子検出工程において、少なくとも前記(E)、(F)または(I)のいずれか1つの遺伝子変異を検出することが好ましい。
【0015】
本発明の第2の実施形態は、被験者由来の検体において、以下の(a)ないし(i)のいずれかの遺伝子変異の1または複数を検出することを含む、眼内悪性リンパ種の診断を補助する方法
(a)CD79Bタンパク質のY196Nのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(b)CD79Bタンパク質のY196Hのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(c)CD79Bタンパク質のY196Sのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(d)CD79Bタンパク質のY196Cのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(e)BTG2タンパク質のA45Tのアミノ酸置換を伴うBTG2遺伝子変異、
(f)BTG2タンパク質のE48Kのアミノ酸置換を伴うBTG2遺伝子変異、
(g)MYD88タンパク質のL265Pのアミノ酸置換を伴うMYD88遺伝子変異、
(h)MYD88タンパク質のS243Nのアミノ酸置換を伴うMYD88遺伝子変異、および
(i)PIM1タンパク質のL184Fのアミノ酸置換を伴うPIM1遺伝子変異
【0016】
より具体的には、本発明の第2の実施形態は、前記(a)ないし(i)のいずれかの遺伝子変異の1または複数を検出することを含み、遺伝子変異が検出されたときに、当該被験者は眼内悪性リンパ種であると判定し、眼内悪性リンパ種の診断を補助する方法である。第1の実施形態における遺伝子検出工程において、少なくとも前記(e)、(f)または(i)のいずれか1つの遺伝子変異を検出することが好ましい。
なお、本明細書においては遺伝子名を表す場合には、遺伝子名に下線を付し、その遺伝子産物を表す場合には、遺伝子名に下線を付さずに記載する、または遺伝子名の後に「タンパク質」を記載することとする。
【0017】
本実施形態において、遺伝子変異を検出する方法は、いかなる方法であってもよく、特に限定はしないが、例えば、デジタルPCR法、allele-specific PCR(ASPCR)法、metagenomic deep sequencing法などを挙げることができる。特に、検体量が微量の場合には、上記例示した解析を行う前に、検体から抽出した微量DNAを、予めPCR法(例えばmultiplex PCR法、デジタルPCR法を用いたmultiplex PCR法)で増幅(前増幅)し、得られた増幅産物を使用して上記解析を行うことで、効率的な検出が可能となり、複数の遺伝子変異箇所を一度に検出することが可能となる。また、ある程度の検体量が確保できる場合には、サンガーシークエンスや次世代シークエンス(next generation sequencing:NGS)などを用いても遺伝子変異の検出が可能である。
【0018】
本実施形態において、被験者由来の検体は、眼内悪性リンパ種由来の染色体DNAが含まれている検体であればよく、特に限定はしないが、例えば、眼内液(例えば、硝子体液および前房水液など)、髄液、末梢血および骨髄などを挙げることができる。
【0019】
本発明の第3の実施形態は、本実施形態にかかる方法を実施するためのキットである。第3の実施形態にかかるキットには、少なくとも、前記(A)ないし(I)のいずれか、または、前記(a)ないし(i)のいずれかの遺伝子変異を検出するために必要な要素が含まれる。特に、第2の実施形態のキットには、少なくとも、前記(E)、(F)または(I)のいずれか1つの遺伝子変異、あるいは、前記(e)、(f)または(i)のいずれか1つの遺伝子変異を検出するために必要な要素が含まれることが好ましい。上記要素としては、特に限定はしないが、例えば、デジタルPCRやシークエンスを行うための、プライマーやプローブなどを挙げることができる。
【0020】
本明細書が英語に翻訳されて、単数形の「a」、「an」および「the」の単語が含まれる場合、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、単数のみならず複数のものも含むものとする。
以下に実施例を示してさらに本発明の説明を行うが、本実施例は、あくまでも本発明の実施形態の例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0021】
1.方法
1-1.硝子体液の検体処理とDNA抽出
眼内悪性リンパ腫と診断された患者の硝子体手術により得た硝子体液中に細胞を48 μmのナイロンメッシュのフィルターに通過させ、MACS bufferで洗浄し、1500 rpm、4℃で5分間遠心分離した。MACS bufferで更に2回洗浄し、2500rpm、4℃で5分間遠心分離し上清を破棄した。下液をAllPrep DNA/RNA Micro Kit (QIAGEN, Valencia, CA, USA)を用いてDNA抽出した。
上記眼内悪性リンパ種の診断は、以下の基準を用いて行った;(1)細胞診クラス4以上であること、または(2)細胞診クラス3、(3)IL10/IL6>1、(4)IgH遺伝子再構成(PCR法)陽性(LSIメディエンス)、(5)FACSでkappa/lambda ratio >3 or<05) (Davis et al, Am J Ophthalmol 2005, 140:822-29:Sagoo et al, Surv Ophthalmol 2014, 59:503-16)の(2)から(5)の4項目中2項目以上陽性であること。なお、細胞診クラス3とは異型性があり、悪性の疑いあり、クラス4とは悪性細胞の可能性が高いものをいう。
【0022】
1-2.変異遺伝子および解析箇所の選定
本実施例ではいくつかの眼内悪性リンパ腫と関連する候補遺伝子(CD79BBTG2MYD88および PIM1など)および変異箇所を選定し、表1に示す通り4遺伝子9箇所を解析箇所として選出した。4遺伝子9箇所はすべて一塩基置換である。
【表1】
【0023】
1-3.プライマーおよびプローブの作成
MYD88 L265P以外の4遺伝子8箇所のプローブおよびプライマー配列は、Custom TaqMan(登録商標)Assay Design Tool(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)を用いて合成した。MYD88 L265Pのプローブおよびプライマーは、中枢性悪性リンパ腫のMYD88 L265P検出を行った既報と同じ配列を設計した。
プライマーおよびプローブ配列(FAMは変異体のプローブ、VICは野生型のプローブを表す)を以下に示す。また、表2および表3には、各遺伝子の変異領域とDigital PCR解析のためのプライマーおよびプローブの設定位置を示す(なお、表2および表3に示す配列領域は、CD79B(c.586T>A、c.586T>C、c.587A>C、c.587A>G:配列番号33)、BTG2(c.133G>A、c142G>A:配列番号34)、MYD88(c.794T>c:配列番号35、c.728G>A:配列番号36)およびPIM1(c.550C>T:配列番号37)として配列表に示す)。表2および3において、変異箇所を[T/A](TからAへの変異)、[A/C](AからCへの変異)などのように示した。
【0024】
<プライマー配列>
CD79B c.586T>A
Forward;5’- GGGCCTGCCCCTCTC -3’(配列番号1)
Reverse;5’- AGCAAGGCTGGCATGGA -3’(配列番号2)
CD79B c.586T>C
Forward;5’- GGGCCTGCCCCTCTC -3’(配列番号1)
Reverse;5’- AGCAAGGCTGGCATGGA -3’(配列番号2)
CD79B c.587A>C
Forward;5’- CTGACCCCGAGGACTCAGA -3’(配列番号3)
Reverse;5’- GGCTGGCATGGAGGAAGA -3’(配列番号4)
CD79B c.587A>G
Forward;5’- CTGACCCCGAGGACTCAGA -3’(配列番号3)
Reverse;5’- GGCTGGCATGGAGGAAGA -3’(配列番号4)
BTG2 c.133G>A
Forward;5’- GAGCAGAGGCTTAAGGTCTTCA -3’(配列番号5)
Reverse;5’- GGCATGCGCTCACCTG -3’(配列番号6)
BTG2 c.142G>A
Forward;5’- GAGCAGAGGCTTAAGGTCTTCAG -3’(配列番号7)
Reverse;5’- AGGCCCCTCGGCATG -3’(配列番号8)
MYD88 c.794T>C
Forward;5’- CCTTGGCTTGCAGGT -3’(配列番号9)
Reverse;5’- TCTTTCTTCATTGCCTTGT -3’(配列番号10)
MYD88 c.728G>A
Forward;5’- GGTGGTGGTTGTCTCTGATGATTAC -3’(配列番号11)
Reverse;5’- TGAGTGCAAATTTGGTCTGGAAGT -3’(配列番号12)
PIM1 c.550C>T
Forward;5’- GAAAACATCCTTATCGACCTCAATCG -3’(配列番号13)
Reverse;5’- CGTGTAGACGGTGTCCTTGAG -3’(配列番号14)
【0025】
<プローブ配列>
CD79B c.586T>A
FAM;5’- AGATCACACCTTCGAGGTA -3’(配列番号15)
VIC;5’- AAGATCACACCTACGAGGTA -3’(配列番号16)
CD79B c.586T>C
FAM;5’- TCACACCTGCGAGGTA -3’(配列番号17)
VIC;5’- AAGATCACACCTACGAGGTA -3’(配列番号18)
CD79B c.587A>C
FAM;5’- CTTACCTCGTCGGTGTGA -3’(配列番号19)
VIC;5’- TCCTTACCTCGTAGGTGTGA -3’(配列番号20)
CD79B c.587A>G
FAM;5’- CTTACCTCGTGGGTGTG -3’(配列番号21)
VIC;5’- CCTTACCTCGTAGGTGTG -3’(配列番号22)
BTG2 c.133G>A
FAM;5’- CTCCAGGAGACACTCA -3’(配列番号23)
VIC;5’- CTCCAGGAGGCACTCA -3’(配列番号24)
BTG2 c.142G>A
FAM;5’- CACTCACAAGTGAGCG -3’(配列番号25)
VIC;5’- CACTCACAGGTGAGCG -3’(配列番号26)
MYD88 c.794T>C
FAM;5’- TGGGGATCGGTCGC -3’(配列番号27)
VIC;5’- TGGGGATCAGTCGCTT -3’(配列番号28)
MYD88 c.728G>A
FAM;5’- CACATTCCTTGTTCTGCA -3’(配列番号29)
VIC;5’- CACATTCCTTGCTCTGCA -3’(配列番号30)
PIM1 c.550C>T
FAM;5’- AAGTCGATGAACTTGAG -3’(配列番号31)
VIC;5’- AAGTCGATGAGCTTGAG -3’(配列番号32)
【0026】
【表2】
【表3】
【0027】
1-4.遺伝子変異の検出
デジタルPCR解析において、複数の遺伝子変異の有無を確認する場合、これまで各遺伝子変異について、各々デジタルPCR解析を行うことが必須であったが、これには解析に十分なDNA量が必要であった。しかし、発明者らは、微量なDNA量しか得ることができない微量検体から、複数の遺伝子変異を、同時に検出可能なデジタルPCR解析の検出系を初めて確立した。すなわち、微量検体より抽出した微量DNAを、デジタルPCRのドロップレット内で、multiplex PCR法を応用して前増幅することで、増幅効率を上げ、解析箇所として選定した4遺伝子9箇所を、一度のデジタルPCR解析で検出することに成功した。具体的には、以下の方法となる。
【0028】
1-4-1.前増幅
デジタルPCR解析に当たり、DNA総量が10 ngに満たない場合、既報を参考にmultiplex PCR法による前増幅を行った。multiplex PCRは、各プライマーの終濃度が5μMになるよう調整し、Master mixである2xddPCR SuperMix For Probe (no dUTP; Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA, USA)を用い、鋳型DNA、5μMのプライマー、nuclease free waterを含め20μlになるように調整した。この調整液20μlにDroplet Generator オイル For Probe (Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA, USA)を70μl加え、QX200 Droplet Generator (Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA, USA)にてドロップレットを作成した。このドロップレットを、MiniAmp Thermal Cycler applied biosystems (Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)を用いて、95℃で10分反応させた後、94℃30秒と60℃1分を10サイクル行い、98℃で10分反応させ、PCRによる前増幅を行った。
【0029】
1-4-2.アンプリコンの精製
前増幅後のアンプリコンをDNA Clean & Concentrator -5 Kit(Zymo Research, Irvine, CA, USA)を用いて精製し、最終量が20 μlとなるように調整した。
【0030】
1-4-3.デジタルPCR解析
前増幅し生成したアンプリコンを鋳型として、以下のようにドロップレットを作製後、デジタルPCR解析を行い、蛍光強度を読み取り解析した。
まず、プローブ7(MYD88 c.794T>C L265P)のアッセイについては、溶出した20 μlのアンプリコンの内5 μlを、それ以外の8アッセイについては溶出した20 μlのアンプリコンを10倍希釈した5 μlを鋳型DNAとして用い、この鋳型DNAに、2xddPCR SuperMix For Probe(no dUTP;Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA, USA)、TaqMan Assay 40x(Thermo Fisher Scientific, Waltham, Massachusetts, USA;FAMまたはVICのプローブ8 μM、各プライマー36 μMのミックス)、nuclease free waterを加え、全量が20 μlになるように調整した。この調整液20 μlにDroplet Generator オイル For Probe(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA, USA)を70 μl加え、QX200 Droplet Generator(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA, USA)にてドロップレットを作成した。このドロップレットを、MiniAmp Thermal Cycler applied biosystems(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)を用いて、95℃で10分反応させた後、94℃30秒と60℃1分を40サイクル行い、98℃で10分反応させ、QX200 Droplet Reader(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA, USA)にて蛍光強度を読み取り、QuantaSoft Software version 1.7(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA, USA)にて解析した。
【0031】
2.結果
デジタルPCR解析により、28例の眼の検体から変異遺伝子の検出を行った。プローブ6 (BTG2 c.142G>A E48K)を用いて解析した眼内悪性リンパ腫の代表的な解析結果を、図1に示す。本解析結果では、FAM陽性ドロップレットを多数みとめ、変異有りと判定できた。デジタルPCR解析結果から、変異遺伝子ごとに、変異をみとめた症例数と変異率を求めたところ、CD79Bは37%、BTG2は15%、MYD88は79%、PIM1は26%で変異をみとめ、眼内悪性リンパ腫と診断された症例の96%の症例で、4遺伝子9箇所のいずれかに少なくとも1つの変異が認められた。
以上の結果はから、MYD88CD79B だけでなく、BTG2PIM1変異遺伝子を用いることで、高率に眼内悪性リンパ腫の診断を補助できる補助的診断方法と考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の方法を用いることで、眼内悪性リンパ種の診断確度が顕著に上昇すると考えられる。従って、本発明は、医療分野における利用が期待される。
図1
【配列表】
0007149000000001.app