(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】車両構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
B62D25/08 J
(21)【出願番号】P 2019220168
(22)【出願日】2019-12-05
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】濱岡 由典
(72)【発明者】
【氏名】玉木 善規
(72)【発明者】
【氏名】芦田 喜孝
(72)【発明者】
【氏名】藤本 和広
(72)【発明者】
【氏名】坂野 公彦
(72)【発明者】
【氏名】松村 知範
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-316032(JP,A)
【文献】特開2014-227108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の支持部材に支持され、かつ下部よりも上部の方が車両後方側に位置するように後傾した状態で車室の前部に設けられているステアリングコラムと、
このステアリングコラムまたは前記支持部材に
ブレース上部連結部を介して上部が連結されているブレースと、
車幅方向に互いに間隔を隔てた配置で車両前後方向に延びており、かつ長手方向途中箇所には、前記車室のフロア部の前寄り領域に沿って前上がり状に傾斜するキックアップ部が設けられている左右一対のフロントサイドメンバと、
を備えている、車両構造であって、
前記ブレースは、前記ブレース上部連結部よりも車両後方側の位置において上下高さ方向に延びる本体部と、この本体部の上部から車両前方側に延びて前記ブレース上部連結部に到るように前記本体部に対して屈曲した形態に繋がった屈曲アーム部と、を有しており、
前記ブレースの
前記本体部の下部は、前記各フロントサイドメンバへの車両前方側からの所定以上の荷重入力によって前記キックアップ部が下降した際に前記ステアリングコラムの上部側を下降させることが可能に、前記キックアップ部または前記キックアップ部とともに下降する部位に
ブレース下部連結部を介して連結され、かつこのブレース下部連結部も、前記ブレース上部連結部よりも車両後方側に位置していることを特徴とする、車両構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両構造の具体例として、特許文献1,2に記載の構造がある。
これらの文献に記載された車両構造においては、ステアリングシャフトを支持するステアリングコラムが、車両のピラー・ツー・ピラーメンバ(車両の左右一対のピラー間に架け渡されたメンバ)に取付けられて車室の前部に配されている。一方、車室のフロア部上には、ブレースが起立して設けられ、このブレースの上部は、前記ピラー・ツー・ピラーメンバに連結されている。
このような構成によれば、ステアリングコラムの支持剛性がブレースを利用して高められ、ステアリングコラム、ひいてはステアリングシャフトやステアリングホイールの振動抑制効果などが得られる。
【0003】
しかしながら、前記従来技術においては、次に述べるように、未だ改善すべき余地があった。
【0004】
すなわち、車両の前突が発生した場合、車両の前部にはその車両前方側から大きな衝突荷重が入力し、この荷重の一部がステアリングコラムに作用する場合がある。一方、ステアリングコラムは、下部よりも上部の方が車両後方側に位置するように後傾した状態で取付けられているのが一般的である。このため、ステアリングコラムに荷重が入力する際には、ステアリングコラムの下部側が車両後方側に変位する結果、ステアリングコラムが本来の後傾姿勢よりも垂直に近い姿勢に立ち上がって、その上部側は上昇する。これに伴い、運転者が操作するステアリングシャフトも上昇する。運転者保護(乗員保護)の観点からすると、このような現象は適切に防止または抑制することが望まれる。
なお、前記した不具合を解消する手段としては、前記ブレースが連結されているフロア部の剛性(たとえば、フロアトンネル部の剛性)を高めることが考えられる。ただし、このような手段を採用したのでは、車両重量の増加や製造コストの上昇を招く。また、ステアリングコラムの上部側を積極的に下降させようとする手段ではないため、ステアリングコラムの上部側の上昇を防止する効果は小さい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-128025号公報
【文献】特開2014-227108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、車両重量の増加や製造コストの上昇を抑制しつつ、車両の前突が発生した際にステアリングコラムの上部側が上昇する不具合を適切に防止または抑制することが可能な車両構造を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明により提供される車両構造は、所定の支持部材に支持され、かつ下部よりも上部の方が車両後方側に位置するように後傾した状態で車室の前部に設けられているステアリングコラムと、このステアリングコラムまたは前記支持部材にブレース上部連結部を介して上部が連結されているブレースと、車幅方向に互いに間隔を隔てた配置で車両前後方向に延びており、かつ長手方向途中箇所には、前記車室のフロア部の前寄り領域に沿って前上がり状に傾斜するキックアップ部が設けられている左右一対のフロントサイドメンバと、を備えている、車両構造であって、前記ブレースは、前記ブレース上部連結部よりも車両後方側の位置において上下高さ方向に延びる本体部と、この本体部の上部から車両前方側に延びて前記ブレース上部連結部に到るように前記本体部に対して屈曲した形態に繋がった屈曲アーム部と、を有しており、前記ブレースの前記本体部の下部は、前記各フロントサイドメンバへの車両前方側からの所定以上の荷重入力によって前記キックアップ部が下降した際に前記ステアリングコラムの上部側を下降させることが可能に、前記キックアップ部または前記キックアップ部とともに下降する部位にブレース下部連結部を介して連結され、かつこのブレース下部連結部も、前記ブレース上部連結部よりも車両後方側に位置していることを特徴としている。
【0009】
このような構成によれば、車両の前突が発生し、その衝突荷重がステアリングコラムの下部側に入力することにより、ステアリングコラムの上部側が上昇する虞があることに対し、次のような効果が得られる。
すなわち、車両の前突が発生し、所定以上の大きな衝突荷重がフロントサイドメンバに対して車両前方側から入力すると、このフロントサイドメンバの前上がり状に傾斜するキックアップ部は下降する。これに伴って、前記ブレースも下降し、ステアリングコラムの上部側を下降させることが可能である。したがって、車両の前突が発生した際に、ステアリングコラムの上部側、ひいてはステアリングホイールが上昇することを効果的に抑制し、乗員保護を適切に図ることが可能である。ステアリングホイールエアバッグの展開動作も的確に行なわせることができる。
一方、本発明においては、ステアリングコラムの上部側を下降させるための手段として、ブレースの下部をキックアップ部に直接連結し、またはフロア部のうちのキックアップ部とともに下降する部位に連結する手段を採用しているため、その構成は簡易かつコンパクトなものとすることができる。したがって、車両重量の増加や、製造コストの上昇も抑制することが可能である。
【0010】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(a)は、本発明に係る車両構造の一例を示す要部概略側面断面図であり、(b)は、(a)の要部概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0013】
図1に示す車両構造Bは、車室10の前部に設けられたステアリングコラム2、ブレース3、キックアップ部4bを有するフロントサイドメンバ4、キックアップ部リインフォース5、および車室10のフロア部11上に設定されたクロスメンバ6を備えている。
【0014】
ステアリングコラム2は、上端にステアリングホイール20が装着されるステアリングシャフト21を回転可能に支持する部材であり、ピラー・ツー・ピラーメンバ7(本発明でいう支持部材の一例に相当)に固定されたブラケット70に支持されることにより、その取付けが図られている。ステアリングコラム2は、下部よりも上部の方が車両後方側に位置するように後傾した取付け姿勢である。ピラー・ツー・ピラーメンバ7は、車両Aの左右一対のピラー間に架け渡されたメンバであり、たとえば円筒状パイプ材を用いて構成されている。
【0015】
ブレース3は、上部がピラー・ツー・ピラーメンバ7に連結され、かつ下部がフロア部11のフロアトンネル部11aに連結されており、上部には屈曲アーム部30を有し、ピラー・ツー・ピラーメンバ7よりも車両後方側の位置において上下高さ方向に起立している。このブレース3は、本来的には、ピラー・ツー・ピラーメンバ7の強度、ひいてはステアリングコラム2の支持強度を高めるためのものであるが、本実施形態においては、後述するように、車両Aの前突が発生した際に、ステアリングコラム2の上部側が上昇することを抑制する役割を果たす。
【0016】
フロントサイドメンバ4は、車両前後方向に延びる車体骨格部材であって、たとえば断面ハット状部材を用いて構成されており、車幅方向に間隔を隔てて左右一対で設けられている。このフロントサイドメンバ4は、エンジンルーム12に位置するフロント部4aに加え、このフロント部4aの後端に繋がった前上がり傾斜状のキックアップ部4b、およびこのキックアップ部4bの後端からさらに車両後方側に延びる延設部4cを有している。キックアップ部4bおよび延設部4cは、車室10のフロア部11の下面側に接合されており、フロア部11のうち、キックアップ部4b上に位置する前寄り領域は、キックアップ部4bと同様に傾斜している。
【0017】
キックアップ部リインフォース5は、フロントサイドメンバ4と同様な断面ハット状部材を用いて構成されており、フロア部11上のうち、フロントサイドメンバ4のキックアップ部4bおよび延設部4cの前端寄り領域に重なった位置に配されている。
より具体的には、
図2によく表れているように、キックアップ部リインフォース5は、フロア部11を挟んでフロントサイドメンバ4と対向するように配され、かつこのキックアップ部リインフォース5の一対のフランジ部50と、フロントサイドメンバ4の一対のフランジ部40とは、フロア部11を介してスポット溶接などの手段を用いて接合されている。
【0018】
クロスメンバ6は、たとえば屈曲状の金属板、あるいは断面ハット状部材などを用いて構成されており、ブレース3の下部とフロアトンネル部11aとが連結されているブレース下部連結部Jを、キックアップ部リインフォース5に橋渡し接続している。クロスメンバ6の車幅方向の一端部6aおよび中間部6cは、キックアップ部リインフォース5およびフロア部11にそれぞれ接合されている。
これに対し、クロスメンバ6の車幅方向の他端部6bは、フロアトンネル部11aの側壁部と、フロアトンネル部11aの上部に接合されたフロアトンネルリインフォース14との間に挟み込まれた状態でこれらと接合されている。
【0019】
ブレース下部連結部Jにおいては、ブレース3の下部が、前記したフロアトンネルリインフォース14、クロスメンバ6の他端部6b、およびフロアトンネル部11aの側壁部の三者に重ねられた状態で、これら三者に対してボルト9を用いた連結が図られている。ボルト9を用いた連結手段に代えて、または加えて、溶接などの手段を用いてもよい。
このような構成により、フロアトンネル部11aのうち、ブレース下部連結部Jは、クロスメンバ6、キックアップ部リインフォース5、およびフロア部11を介してキックアップ部4bに対してリジッドに連結されており、後述するように、車両Aの前突が発生してキックアップ部4bが下降した際には、これに伴って下降するようになっている(フロアトンネル部11aのうち、ブレース下部連結部Jが設けられている部位は、本発明でいう「キックアップ部とともに下降する部位」の一例に相当する)。
【0020】
次に、前記した車両構造Bの作用について説明する。
【0021】
車両Aの前突が発生し、
図1に示すように、衝突荷重Fの一部が、ステアリングシャフト21の下部を押圧する力F1として作用すると、ステアリングコラム2の上部、および
ステアリングホイール20が、矢印Naに示すように上昇する虞がある。このような虞は、適切に解消することが望まれる。
【0022】
これに対し、本実施形態によれば、
図3に示すように、フロントサイドメンバ4にその車両前方側から所定以上の大きな衝突荷重Fが入力すると、フロントサイドメンバ4のフロント部4aが圧縮変形し、衝撃吸収作用が得られる一方、フロント部4aが車両後方側に変位することにより、キックアップ部4bの後部側は、矢印Nbに示すように下降する。すると、これに伴って、ブレース下部連結部Jも下降し、ブレース3はピラー・ツー・ピラーメンバ7を矢印Ncに示すように下降させる。したがって、ステアリングコラム2も下降し、ステアリングコラム2の上部側およびステアリングホイール20が
図1の矢印Naで示すように上昇することは適切に防止または抑制される。
【0023】
また、本実施形態において、ブレース3が下降する際には、ブレース3の屈曲アーム部30がピラー・ツー・ピラーメンバ7を、矢印Ndに示す方向に回転させる(
図3)。この回転は、ステアリングコラム2の上部側を下降させる。その結果、ステアリングコラム2の上部側およびステアリングホイール20が上昇することをより徹底して防止または抑制することができる。
【0024】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る車両構造の各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0025】
上述した実施形態においては、ブレース3の下部を、フロアトンネル部11a、フロアトンネルリインフォース14、およびクロスメンバ6が重ねられて接合された箇所に連結しているが、本発明はこれに限定されない。たとえば、クロスメンバ6の他の部分、あるいはキックアップ部リインフォース5に、ブレース3の下部を連結してもよく、この場合においても、車両Aの前突が発生した際に、ブレース3を下降させることができ、本発明が意図する作用を得ることが可能である。
また、本発明においては、キックアップ部4bに、キックアップ部リインフォース5やクロスメンバ6とは異なる部材を接続し、かつこの部材が車両Aの前突が発生した際にキックアップ部4bとともに下降するように設定した上で、前記部材にブレース3の下部を連結した構成とすることもできる。
一方、本発明においては、ブレース3の下部を、フロントサイドメンバ4のキックアップ部4bに直結した構成とすることもできる。
【0026】
ブレース3の上部は、ステアリングコラム2の支持部材、またはステアリングコラム2自体に連結されていればよい。前記支持部材は、ピラー・ツー・ピラーメンバ7に限定されない。
【符号の説明】
【0027】
B 車両構造
J ブレース下部連結部
10 車室
11 フロア部
2 ステアリングコラム
3 ブレース
4 フロントサイドメンバ
4b キックアップ部(フロントサイドメンバの)
5 キックアップ部リインフォース
6 クロスメンバ
7 ピラー・ツー・ピラーメンバ (支持部材)