(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】糖尿病予防又は改善用液状物
(51)【国際特許分類】
A61K 33/00 20060101AFI20220929BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
A61K33/00
A61P3/10
(21)【出願番号】P 2017086073
(22)【出願日】2017-04-25
【審査請求日】2020-03-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】599166459
【氏名又は名称】株式会社田中金属製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 和弘
(72)【発明者】
【氏名】山下 貴敏
(72)【発明者】
【氏名】田中 和広
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-156320(JP,A)
【文献】特開2016-063804(JP,A)
【文献】特開2015-127301(JP,A)
【文献】特開2008-214207(JP,A)
【文献】Obesity,2011年,19(7), 1396-1403
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/00
A61P 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状媒体中に、平均径が500nm以下である、空気
の気泡を含有する、食後の血糖上昇を抑制するための糖尿病予防又は改善用液状物。
【請求項2】
前記液状媒体が水である、請求項1記載の糖尿病予防又は改善用液状物。
【請求項3】
前記気泡の平均径が30~500nmである、請求項1又は2に記載の糖尿病予防又は改善用液状物。
【請求項4】
前記気泡のD
10が80~500nmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の糖尿病予防又は改善用液状物。
【請求項5】
前記気泡のD
50が100~500nmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の糖尿病予防又は改善用液状物。
【請求項6】
前記気泡の濃度が、1×10
7個/ml以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の糖尿病予防又は改善用液状物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病の予防又は改善、特に食後高血糖の抑制又は空腹時高血糖の抑制に有用な液状物に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、血液中の糖濃度が病的に高まる内分泌系疾患である。世界の糖尿病有病者数は4億人を超え、更に増加し続けている。糖尿病は1型と2型に大別される。日本の成人の糖尿病患者の95%以上は2型糖尿病である。2型糖尿病は、遺伝的素因と加齢、栄養摂取の過剰、及び運動不足等の環境因子が組み合わさることが成因とされている。2型糖尿病の病態の特徴として、インスリン分泌障害及びインスリン抵抗性が挙げられる。糖尿病は、腎障害、網膜症、神経障害、及び動脈硬化等の合併症をきたすことが知られている。よって、糖尿病の予防及び治療は重要である。
【0003】
2型糖尿病では、食後の急激な高血糖(グルコーススパイク)も大きな問題として注目されている。近年、食物繊維の摂取不足及び主食の精白による糖質の易消化、並びに清涼飲料水等に配合される砂糖及び異性化液糖等の速やかに吸収される糖質の摂取増加により、グルコーススパイクが起こり易い。食後のグルコーススパイクが大きいほど、血管内皮に悪影響を与え、糖尿病及びその合併症(腎症、網膜症、神経症等)の悪化因子となる。グルコーススパイクは、インスリンの分泌過多を引き起こし、内臓脂肪の蓄積及びインスリン抵抗性、更にはインスリン分泌能の低下を惹起して血糖コントロール不全の原因となることも知られている。高血糖状態の持続はタンパク糖化反応(グリケーション)を引き起こし、これが合併症の進展に大きく関与している。従って、食後の高血糖を抑制することは、糖尿病や血管疾患の予防に役立つと考えられている。
【0004】
糖尿病を治療するために、各種の糖尿病治療薬、例えば、インスリン分泌促進剤(スルホニル尿素剤)及びインスリン抵抗性改善剤(ピオグリタゾン等)が知られている。また、グルコーススパイクを抑制するために、水溶性食物繊維及び難消化性デキストリン等の糖質吸収遅延剤、並びにアカルボース及びボグリボース等のα-グルコシダーゼ阻害剤が知られている。
【0005】
液体中に気泡を混入させることにより、洗浄効果を高め、肌に刺激を与える等の効果が得られることが知られている(特許文献1~3)。また、本願の出願人は、液体中に微細気泡を発生させる装置を開示しており(特許文献4)、かかる微細気泡含有液体が各種洗浄のために使用できることも開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-7315号公報
【文献】特開2009-274026号公報
【文献】特開2009-78140号公報
【文献】特許第4999996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、従来、インスリン分泌促進剤等の化学物質の投与により、糖尿病の予防及び改善を実現していた。このような化学物質を用いる方法では、継続的な摂取が容易ではなく、経済的負担も大きい。また、グルコーススパイクを抑制するために現在使用されている成分(アカルボース等)は、その性質上、食直前に服用する必要があり、服用時期が制限される。また、アカルボース等は食直前という特異な時期に服用しなければならず、飲み忘れも生じやすい。飲み忘れが続けばグルコーススパイクを抑制することができず、血糖値のコントロールも困難になる。
【0008】
本発明は、容易且つ継続的に摂取することができ、糖尿病の予防又は改善、特に食後の急激な血糖上昇の抑制又は空腹時高血糖の抑制に有用な気泡含有液状物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の糖尿病予防又は改善用液状物は、液状媒体中に平均径が500nm以下の気泡を含有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液状物は、化学物質の投与と比べて継続的な摂取が容易である。また、従来のα-グルコシダーゼ阻害剤のように服用時期が限定されないことから、飲み忘れを防ぐことができる。更に、グルコーススパイクの抑制に加え、インスリン抵抗性の改善等により、高血糖状態を是正することができる。よって、本発明の液状物は、糖尿病の予防及び改善に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】試験例1~3で用いた超純水、FB1、及びFB2中の気泡の粒径分布の測定結果を示す図である。
【
図2】試験例1の経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の結果を示す図である。(A)は投与5週目、(B)は投与12週目の結果を示す。
【
図3】試験例2の経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の結果を示す図である。(A)は投与4週目、(B)は投与6週目の結果である。
【
図4】試験例3の経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の結果を示す図である。(A)は投与12週目、(B)は投与18週目の結果を示す。
【
図5】試験例3のC-ペプチド量の測定結果を示す図である。
【
図6】試験例3のインスリン負荷試験(ITT)の結果を示す図である。
【
図7】試験例3のHbA1cの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明の糖尿病予防又は改善用液状物(以下、「本液状物」という。)は、液状媒体中に平均径が500nm以下の気泡を含有する。
【0014】
前記気泡内に含まれる気体は、糖尿病の予防又は改善効果を阻害しない限り特に限定はない。前記気体は1種でもよく、2種以上の混合気体でもよい。前記気体としては、例えば、空気、酸素、水素、窒素、アルゴン、及び二酸化炭素並びにこれらの混合気体が挙げられる。
【0015】
前記気泡の「平均径」は、流体力学径(液中粒子の直径)の個数平均を意味する。該平均径は、具体的には、ナノサイト ナノ粒子解析システムのナノ粒子トラッキング解析により測定された値である。該解析は、例えば、ナノサイト社製「NS500」及び「LM10」により行うことができる。
【0016】
前記平均径は500nm以下である。前記平均径の上限値は、500nm、450nm、400nm、350nm、300nm、250nm、及び200nmからなる群から選択することができる。前記平均径の下限値は、10nm、20nm、30nm、40nm、50nm、60nm、70nm、80nm、85nm、90nm、95nm、100nm、105nm、110nm、115nm、及び120nmからなる群から選択することができる。前記平均径の好ましい範囲は、前記の上限値及び下限値の組み合わせとすることができる。例えば、前記平均径は、1~500nm、10~500nm、20~500nm、30~500nm、40~500nm、50~500nm、60~500nm、70~500nm、80~500nm、80~400nm、80~300nm、90~200nm、95~200nmとすることができる。前記平均径が前記範囲内であると、糖尿病の予防及び改善効果、特にグルコーススパイク又は空腹時高血糖を抑制することができる。
【0017】
前記気泡の粒度は必要に応じて適宜決定することができる。例えば、前記気泡のD10は80~500nm、80~400nm、80~300nm、80~200nm、85~200nmとすることができる。また、前記気泡のD50は100~500nm、100~400nm、100~300nm、100~200nm、120~200nmとすることができる。「D10」とは、粒子の10%(個/ml)が、規定されたD10値よりも小さいサイズを有する気泡の粒度を意味する。「D50」は、粒子の50%(個/ml)が、規定されたD50値よりも小さいサイズを有する気泡の粒度を意味する。
【0018】
前記気泡の濃度(個数濃度)は、糖尿病の予防又は改善効果を阻害しない限り、必要に応じて適宜決定することができる。前記気泡の濃度として好ましくは1×107個/ml以上、好ましくは1.5×107個/ml以上、更に好ましくは2×107個/ml以上、より好ましくは2.5×107個/ml以上である。前記気泡の濃度が前記範囲内であると、糖尿病の予防及び改善効果、特に食後の血糖値上昇又は空腹時高血糖の抑制を抑制することができるので好ましい。尚、前記気泡の個数濃度は、上記のナノ粒子トラッキング解析により測定することができる。
【0019】
前記液状媒体は、ヒト等の動物が摂取可能であり、糖尿病の予防又は改善効果を阻害しない限り特に限定はない。前記溶媒として通常は水が用いられる。前記水として、例えば、蒸留水、超純粋、高純粋、純水、水道水、イオン交換水、濾過水、電解水、及び天然水が使用できる。
【0020】
糖尿病の予防又は改善を阻害しない限り、本液状物は前記気泡以外の他の成分を含んでいてもよい。例えば、本液状物は、糖尿病の予防又は改善効果を有する他の物質又は天然由来成分を含んでいてもよい。また、本液状物は、矯味・矯臭及び変質防止等のために、香料又は保存剤等を含んでいてもよい。
【0021】
前記「予防」は、正常な血糖値を維持することだけでなく、糖尿病と診断されていない場合でも血糖値が高い傾向を示す状態から糖尿病に進展することを抑制することも含む。前記「改善」は、糖尿病を治療することだけでなく、糖尿病と診断されていない場合でも血糖値が高い傾向を示す状態から血糖値を低下させることも含む。また、前記「予防」及び「改善」のいずれも、食後の血糖上昇(グルコーススパイク)又は空腹時高血糖を抑制することを含む。
【0022】
本液状物の調製方法には特に限定はない。本液状物は、例えば、常温又は加圧下で前記液状媒体に気体を吹き込み、撹拌及びせん断等の方法で微細気泡を発生させることにより調製することができる。前記気泡の平均径及び/又は個数濃度は、気体の吹き込み量、撹拌及び先端等の条件を適宜設定することにより調整することができる。また、本液状物は、特許第4999996号公報に記載のバブル発生器を水道蛇口に取り付け、水道水を該バブル発生器に通すことにより調製することができる。この方法によれば、本液状物を日常的に調製して摂取することができる。その結果、長期に渡って血糖値を適切にコントロールし、容易に糖尿病を予防又は改善することができる。
【0023】
本液状物の利用の形態には特に限定はない。上記のように、適宜のバブル発生器を水道蛇口に取り付け、水道水を該バブル発生器に通すことにより調製された本液状物を摂取してもよい。前記気泡の水中での安定性が極めて高い場合には、本液状物を飲料(例えば、お茶、ミネラルウォーター)として、特に糖尿病の予防又は改善を目的とする機能性飲料として利用することができる。本液状物は、食後の血糖上昇の抑制又は空腹時高血糖の抑制に優れている。よって、本液状物は、食後の血糖上昇又は空腹時高血糖を抑制するために用いることができる。例えば、本液状物は、食後の血糖上昇又は空腹時高血糖を抑制する機能性飲料として利用することができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、実施例に示す形態に限定されない。本発明の実施形態は、目的及び用途等に応じて、本発明の範囲内で種々変更することができる。
【0025】
(1)ナノ気泡含有水の調製及び分析
水道(岐阜大学生命科学総合研究支援センター動物実験分野の井戸水を供給する水道。尚、実施例中、「水道水」はこの井戸水を意味する。)の蛇口に、特許第4999996号記載のバブル発生器(田中金属製作所製)を設置した。水圧0.3MPaの水道水を該発生器に通すことにより、ナノ気泡含有水1(FB1)を得た。また、該発生器内のオリフィス径をφ3.5からφ2.5に変更する以外は、ナノ気泡含有水1を得るのと同じ方法により、ナノ気泡含有水2(FB2)を得た。
【0026】
超純水(対照)、FB1、及びFB2について、「LM10V-HS」(ナノサイト社製)を用いて(英国Malvern社製CMOSカメラ、紫色レーザー(405nm、<60mW)、解析ソフト:NTA3.2)、水中の気泡の粒径分布及び濃度を測定した。その結果を表1及び
図1に示す。
【0027】
【0028】
(2)試験例1
(A)実験動物及び飼育方法
実験動物として、Goto-Kakizaki(GK)ラット(5週齢オス12匹)を用いた。該ラットは日本人の2型糖尿病(非肥満型;インスリン分泌能低下)モデルとされている。GKラット及びその起源であるWistar系ラット(オス6匹)を、12時間明暗サイクル(午前8時点灯、午後8時消灯)、湿度60%、温度22℃±2℃の条件で、個別ゲージで飼育した。給餌及び給水は週3回行った。
【0029】
GKラット及びWistar系ラットに飼育繁殖用基本試料(日本クレア社製;「CE-2」)及び水道水を自由摂取させて1週間馴化した。馴化後、GKラットを各群6匹ずつの2群に分けた。6週齢~19週齢までの13週間、GKラット及びWistar系ラットに、飼料2型糖尿病・肥満研究用の高脂肪飼料「Quick Fat」(日本クレア社製;30kcal%脂肪)を自由摂取させ、飲料として、水道水又はFB1を自由摂取させた。各群の動物、匹数、飲料、及び飼料を表2に示す。表2中、「W」は水道水であり、「QF」は高脂肪飼料を表す。
【0030】
【0031】
(B)経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)
飲料(水道水又はナノ気泡含有水1)の摂取開始から5週間後(11週齢)及び12週間後(18週齢)にOGTTを実施した。一晩絶食後、ラットの体重を測定し、胃ゾンデを用いてグルコースを経口投与した。該グルコース(D(+)グルコース;和光純薬工業社製)の経口投与量は2gグルコース/4ml蒸留水/kg体重である。投与後、0、30、60、120、180分に尾静脈から血液を採取し、各経過時間における血糖値を測定した。血糖値は、血糖自己測定器「ニプロ・フリースタイルフリーダムライト」(ニプロ社製)を用いて測定した。結果を
図2に示す。
【0032】
(C)評価
図2より、投与5週目及び12週目の全群において、血糖は30~60分でピークを示し、その後、経時的に減少した。1-1群(正常ラット+水道水)と比べて、1-2群(GKラット+水道水)及び1-3群(GKラット+FB1)のいずれも、急激な血糖値の上昇が認められた。これは、糖尿病において食後の急激な高血糖(グルコーススパイク)が生じたことを示している。
【0033】
一方、投与5週目及び12週目において、投与60分後の段階で、FB1を摂取した1-3群は、水道水を摂取した1-2群と比べて、血糖値上昇が有意に減少した。また、投与5週目の投与120~180分後の段階でも、1-3群は、1-2群と比べて血糖値上昇が低下する傾向を示した。同様に、投与12週目の投与30~180分後の段階でも、1-3群は、1-2群と比べて血糖値上昇が低下する傾向を示した。これらの結果から、ナノ気泡を含有するFB1を摂取することにより、インスリン分泌能低下が低下した糖尿病患者において、食後の急激な高血糖を抑制することができることが分かる。
【0034】
(3)試験例2
(A)実験動物及び飼育方法
実験動物として、Zucker Diabetic Fatty(ZDF)ラット(5週齢オス18匹)を用いた。該ラットはヒト成人の2型糖尿病に近い病態を発症し、欧米型(肥満・重度)2型糖尿病モデルとされている。ZDFラット及びLeanラット(オス6匹)を、12時間明暗サイクル(午前8時点灯、午後8時消灯)、湿度60%、温度22℃±2℃の条件で、個別ゲージで飼育した。給餌及び給水は週3回行った。
【0035】
ZDFラット及びLeanラットに普通食(日本クレア社製;「CE-2」)及び水道水を自由摂取させて1週間馴化した。馴化後、ZDFラットを各群6匹ずつの3群に分けた。6週齢~20週齢までの14週間、ZDFラット及びLeanラットに、飼料として2型糖尿病・肥満研究用の高脂肪飼料「Quick Fat」(日本クレア社製;30kcal%脂肪)を自由摂取させ、飲料として、水道水、FB1、及びFB2を自由摂取させた。各群の動物、匹数、飲料、及び飼料を表3に示す。表3中、「W」は水道水であり、「QF」は高脂肪飼料を表す。
【0036】
【0037】
(B)経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)
飲料(水道水又はFB1)の摂取開始から4週間後(10週齢)及び6週間後(12週齢)にOGTTを実施した。OGTTは、試験例1と同じ方法により行った。OGTTの結果を
図3に示す。
【0038】
(C)評価
図3より、投与4週目及び6週目の全群において、血糖値は30~60分でピークを示し、その後、経時的に減少した。2-1群(正常ラット)と比べて、2-2~4群(ZDFラット)では急激な血糖の上昇が認められた。これは、試験例1と同様に、糖尿病において食後の急激な高血糖(グルコーススパイク)が生じたことを示している。
【0039】
一方、投与4週目において、投与60~120分後の段階で、FB1及びFB2を摂取した2-3群及び2-4群では、水道水を摂取した2-2群と比べて、血糖値上昇が低下する傾向を示した。また、投与6週目では、投与30分後の段階で、FB1及びFB2を摂取した2-3群及び2-4群では、水道水を摂取した2-2群と比べて、血糖値が有意に減少し、また、60分後の段階でも、血糖値上昇が低下する傾向を示した。これらの結果から、試験例1と同様に、ナノ気泡を含有するFB1及びFB2を摂取することにより、食後の急激な高血糖を抑制することができることが分かる。
【0040】
(4)試験例3
(A)実験動物及び飼育方法
実験動物として、C57BL/6Jマウス(5週齢オス42匹)を用いた。該マウスは高脂肪食により肥満型・2型糖尿病を誘発する。該マウスを、12時間明暗サイクル(午前8時点灯、午後8時消灯)、湿度60%、温度22℃±2℃の条件で、個別ゲージで飼育した。給餌及び給水は週3回行った。
【0041】
前記マウスに普通食(日本クレア社製;「CE-2」)及び水道水を自由摂取させて1週間馴化した。馴化後、前記マウスを4群に分けた。6週齢~19週齢までの13週間、前記マウスに、飼料として2型糖尿病・肥満研究用の高脂肪飼料「D12451」(Research Diets,Inc製;脂質45kcal%)又は前記普通食を自由摂取させ、飲料として、水道水、FB1、及びFB2を自由摂取させた。各群の動物、匹数、飲料、及び飼料を表4に示す。表4中、「W」は水道水であり、「CD」は普通食を表し、「FD」は高脂肪飼料を表す。
【0042】
【0043】
(C)経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)
飲料(水道水及びFB1)の摂取開始から12週間目及び18週間目後にOGTTを実施した。OGTTは、試験例1と同じ方法により行った。結果を
図4に示す。
【0044】
(D)C-ペプチド量の測定
について、C-ペプチド量を測定した。「モリナガ マウスC-ペプチド測定キット」(森永生科学研究所)を使用し、測定装置として「GE Healthcare,Ultrospec Visible Plate Reader II 96」を用いて、18週間目のOGTT血漿(0分、30分、及び60分)中のC-ペプチド量を測定した。結果を
図5に示す。
【0045】
(E)インスリン負荷試験(ITT)
飲料(水道水、FB1又はFB2)の摂取開始から17週間目にITTを実施した。一晩絶食後、ラットの体重を測定し、インスリン製剤(日本イーライリリー社製「ヒューマリンR」100単位;10μL/g体重)を腹腔内投与した。その後、0、30、60、120、180分に尾静脈から血液を採取し、各経過時間における血糖値を測定した。血糖値は、血糖自己測定器「ニプロ・フリースタイルフリーダムライト」(ニプロ社製)を用いた。結果を
図6に示す。
【0046】
(F)HbA1cの測定
飲料(水道水、FB1又はFB2)の摂取開始から19週間目に、一晩絶食後、ソムノペンチル(50mg/kg体重)麻酔下で心臓採血及びヘパリン抗凝固処理を行った。得られた血液を用い、全血液を試料として、自動グリコヘモグロビン分析計「HLC-723GHbV」(東ソー株式会社)を使用し、総ヘモグロビン中のグリコヘモグロビンの割合(%)を測定することにより、HbA1cを測定した。結果を
図7に示す。
【0047】
(G)評価
図4より、投与12週目及び18週目の全群において、血糖値は30~60分でピークを示し、その後、経時的に減少した。投与12週目では、3-2群(高脂肪食+水道水)と3-3群及び3-4群(高脂肪食+FB1又はFB2)とで、血糖値の減少に差異が認められなかった。しかし、投与18週目では、3-2群(高脂肪食+水道水)と比べて、3-3群及び3-4群(高脂肪食+FB1又はFB2)では、血糖値の減少が急であり、血糖値の変化が正常マウス(3-1群)のそれに近い結果を示した。この結果から、FB1及びFB2を継続的に摂取することにより、食後の血糖値の上昇を抑制できることが分かる。また、食後の血糖値の上昇を抑制する既存のα-グルコシダーゼ阻害剤と異なり、食直前に摂取していない場合でも、食後の血糖値の上昇を抑制できることが分かる。この結果は、食後の血糖値の上昇抑制が、α-グルコシダーゼ阻害作用に必ずしも起因するものでないことを示している。
【0048】
C-ペプチドは、プロインスリンが分解されて発生する物質である。C-ペプチドはほとんどが分解されずに血液中を循環し、尿と共に排出される。よって、C-ペプチドは膵臓からのインスリン分泌の指標となる。
【0049】
図5より、3-1群ではC-ペプチド量に大きな変化が認められないのに対し、3-2群では糖負荷から20分後にC-ペプチド量が大きく増加した。これは、糖尿病により組織及び細胞のインスリン抵抗性が高まり、これを打ち消すためにインスリン分泌が増加したと考えられる。一方、3-2群(水道水)と比べて、3-3群及び3-4群(FB1及びFB2摂取)では、糖負荷から20分後のC-ペプチド量の増加が抑制された。この結果から、FB1及びFB2の摂取により、組織及び細胞のインスリン抵抗性を改善することができ、糖尿病の予防又は改善に有効であることが分かる。
【0050】
図6より、インスリン負荷試験において、3-2群(水道水)と比べて、3-3群及び3-4群(FB1及びFB2摂取)では、血糖値が有意に低下した。3-3群及び3-4群は、3-2群と比べて、インスリンの効果が表れていることが分かる。
【0051】
HbA1cは、ヘモグロビンのβ鎖の末端にグルコースが結合した糖化タンパク質である。高血糖状態が長期間続き、血管内の余分なグルコースとヘモグロビンとが結合することにより形成される。よって、HbA1cは過去1月~2月の血糖値の指標となる。
【0052】
図7より、正常状態の3-1群と比べて、3-2~4群はいずれもHbA1cが大きく、糖尿病状態であることが分かる。一方、3-2群(水道水摂取)と比べて、3-3群(FB1摂取)では、HbA1cが有意に減少しており、また、3-4群(FB2摂取)でも、HbA1cの減少傾向が認められた。この結果から、FB1及びFB2の摂取により、長期間にわたり血糖値の上昇を抑制できることが分かる。
【0053】
OGTT(
図4)の結果から、FB1及びFB2の摂取による血糖上昇抑制のメカニズムは、消化・吸収阻害及びインクレチン分泌以外の耐糖能改善作用と推測される。かかる推測とITT(
図6)の結果を考慮すると、FB1及びFB2の摂取による血糖上昇抑制のメカニズムは、インスリン抵抗性改善作用であると示唆される。そのため、本発明の液状物は、アカルボース等の既存のα-グルコシダーゼ阻害剤のように、食直前に服用しなくても、食後の血糖上昇を抑制することができると考えられる(尚、実験例における考察は、単に発明者個人の考察を示しているに過ぎず、何ら本発明を定義する記載ではなく、また、本発明を定義する意図も全く存在しない。)。