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特許7149057セルロースアセテートトウバンド及びセルロースアセテートトウバンドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】セルロースアセテートトウバンド及びセルロースアセテートトウバンドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A24D 3/10 20060101AFI20220929BHJP
   D01F 2/30 20060101ALI20220929BHJP
   D01F 11/02 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
A24D3/10
D01F2/30
D01F11/02
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2017135268
(22)【出願日】2017-07-11
(65)【公開番号】P2019015009
(43)【公開日】2019-01-31
【審査請求日】2020-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小國 数馬
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-309173(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194007(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/152335(WO,A1)
【文献】特開2007-077525(JP,A)
【文献】特開2010-106419(JP,A)
【文献】特表2015-503038(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101864608(CN,A)
【文献】米国特許第03220083(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A24D 1/00 - 3/18
D01F 2/28 - 2/30
D01F 11/00 - 11/16
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアセテート繊維により構成される、シガレット用途のトウバンドであって、
トータルデニールが、8000以上44000以下の範囲の値に設定され、酸化チタンの含有量が、0重量%以上0.01重量%以下の範囲の値に設定され、前記トウバンドのジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量が、1m当たり5mgより大きく65mg以下の範囲の値に設定されている、セルロースアセテートトウバンド。
【請求項2】
フィラメントデニールが、1.0以上12.0以下の範囲の値に設定されている、請求項1に記載のセルロースアセテートトウバンド。
【請求項3】
フィラメントデニールが、1.0以上5.0未満の範囲の値に設定され、
前記セルロースアセテート繊維は捲縮されており、式1により算出される前記トウバンドのクリンピング(%)が、10%以上40%以下の範囲の値に設定されている、請求項1又は2に記載のセルロースアセテートトウバンド。
[式1]

クリンピング(%)=[(L1-L0)/L0]×100

但し、L0は、長さ250mmの前記トウバンドに前記セルロースアセテート繊維の捲縮を伸ばす方向に250gの荷重を負荷したときの前記トウバンドの長さである。L1は、長さ250mmの前記トウバンドに前記方向に2500gの荷重を負荷したときの前記トウバンドの長さである。
【請求項4】
フィラメントデニールが、5.0以上9.0以下の範囲の値に設定され、トータルデニールが、15000以上20000以下の範囲の値に設定され、前記トウバンドのジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量が、1m当たり10mg以上30mg以下の範囲の値に設定され、
前記セルロースアセテート繊維は捲縮されており、式1により算出される前記トウバンドのクリンピング(%)が、10%以上30%以下の範囲の値に設定されている、請求項1又は2に記載のセルロースアセテートトウバンド。
[式1]

クリンピング(%)=[(L1-L0)/L0]×100

但し、L0は、長さ250mmの前記トウバンドに前記セルロースアセテート繊維の捲縮を伸ばす方向に250gの荷重を負荷したときの前記トウバンドの長さである。L1は、長さ250mmの前記トウバンドに前記方向に2500gの荷重を負荷したときの前記トウバンドの長さである。
【請求項5】
前記繊維油剤の含有量が、1m当たり11.0mgより大きく65mg以下の範囲の値に設定されている、請求項1又は2に記載のセルロースアセテートトウバンド。
【請求項6】
前記繊維油剤の含有量が、1m当たり15.0mg以上42.8mg未満の範囲の値である、請求項5に記載のセルロースアセテートトウバンド。
【請求項7】
前記繊維油剤の含有量が、1m当たり41.0mg以上65mg以下の範囲の値である、請求項1又は2に記載のセルロースアセテートトウバンド。
【請求項8】
紡糸原液を作製する紡糸原液作製工程と、
前記紡糸原液を用いて、製造後のトウバンドのトータルデニールが、8000以上44000以下の範囲の値に設定されるように、複数本のセルロースアセテート繊維を紡糸する紡糸工程と、
製造後の前記トウバンドのジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量が、1m当たり5mgより大きく65mg以下の範囲の値に設定されるように、前記セルロースアセテート繊維に繊維油剤を添着する添着工程と、を備え、
前記紡糸原液作製工程では、製造後の前記トウバンドの酸化チタンの含有量が、0重量%以上0.01重量%以下の範囲の値に設定されるように調整された前記紡糸原液を作製する、シガレット用途のセルロースアセテートトウバンドの製造方法。
【請求項9】
前記紡糸工程では、フィラメントデニールが、1.0以上12.0以下の範囲の値に設定された前記セルロースアセテート繊維を紡糸する、請求項8に記載のセルロースアセテートトウバンドの製造方法。
【請求項10】
式1により算出される製造後の前記トウバンドのクリンピング(%)が、10%以上40%以下の範囲の値に設定されるように、前記セルロースアセテート繊維を捲縮する捲縮工程を更に備え、
前記紡糸工程では、フィラメントデニールが、1.0以上5.0未満の範囲の値に設定された前記セルロースアセテート繊維を紡糸する、請求項8又は9に記載のセルロースアセテートトウバンドの製造方法。
式1

クリンピング(%)=(L1-L0)/L0×100

但し、L0は、長さ250mmの製造後の前記トウバンドに前記セルロースアセテート繊維の捲縮を伸ばす方向に250gの荷重を負荷したときの前記トウバンドの長さである。L1は、長さ250mmの製造後の前記トウバンドに前記方向に2500gの荷重を負荷したときの前記トウバンドの長さである。
【請求項11】
式1により算出される製造後の前記トウバンドのクリンピング(%)が、10%以上30%以下の範囲の値に設定されるように、前記セルロースアセテート繊維を捲縮する捲縮工程を更に備え、
前記紡糸工程では、製造後の前記トウバンドのフィラメントデニールが、5.0以上9.0以下の範囲の値に設定され、トータルデニールが、15000以上20000以下の範囲の値に設定されるように、前記複数本のセルロースアセテート繊維を紡糸し、
前記添着工程では、前記トウバンドのジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量が、1m当たり10mg以上30mg以下の範囲の値に設定されるように、前記セルロースアセテート繊維に繊維油剤を添着する、請求項5又は6に記載のセルロースアセテートトウバンドの製造方法。
式1

クリンピング(%)=(L1-L0)/L0×100

但し、L0は、長さ250mmの製造後の前記トウバンドに前記セルロースアセテート繊維の捲縮を伸ばす方向に250gの荷重を負荷したときの前記トウバンドの長さである。L1は、長さ250mmの製造後の前記トウバンドに前記方向に2500gの荷重を負荷したときの前記トウバンドの長さである。
【請求項12】
前記添着工程では、前記トウバンドのジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量が、1m当たり11.0mg以上64.1mg以下の範囲の値に設定されるように、前記セルロースアセテート繊維に繊維油剤を添着する、請求項8又は9に記載のセルロースアセテートトウバンドの製造方法。
【請求項13】
前記添着工程では、前記トウバンドのジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量が、1m当たり15.0mg以上42.8mg未満の範囲の値に設定されるように、前記セルロースアセテート繊維に繊維油剤を添着する、請求項12に記載のセルロースアセテートトウバンドの製造方法。
【請求項14】
前記添着工程では、前記トウバンドのジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量が、1m当たり41.0mg以上65mg以下の範囲の値に設定されるように、前記セルロースアセテート繊維に繊維油剤を添着する、請求項8又は9に記載のセルロースアセテートトウバンドの製造方法。
【請求項15】
前記セルロースアセテート繊維をゴデットロールにより巻き取って予め定められた搬出方向下流側に搬送する搬送工程を更に備え、
前記紡糸工程では、複数の紡糸孔が形成された紡糸口金の前記複数の紡糸孔から前記紡糸原液を吐出させ、
前記セルロースアセテート繊維を前記ゴデットロールにより巻き取るときの巻取速度V2を、400m/min以上900m/min以下の範囲の値に設定し、且つ、前記紡糸口金の前記複数の紡糸孔から前記紡糸原液を吐出させるときの吐出速度V1と前記巻取速度V2との比V2/V1を、1.0以上1.8以下の範囲の値に設定する、請求項8~14のいずれか1項に記載のセルロースアセテートトウバンドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアセテートトウバンド及びセルロースアセテートトウバンドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本書では、以下ように定義された各用語を使用する。
【0003】
TD:全繊維度(トータルデニール)であり、トウの集合体(トウバンド)の繊維度(9000m当たりのグラム数)を指す。
【0004】
FD:単繊維度(フィラメントデニール)であり、単繊維(1本のフィラメント)の繊維度(9000m当たりのグラム数)を指す。単繊維デニールとも称される。
【0005】
フィラメント:連続した長繊維(long fiber)を指し、特には、下記紡糸孔から吐出された単繊維を指す。
【0006】
紡糸孔:フィラメントを吐出する下記紡糸口金の孔を指す。
【0007】
トウバンド:複数の紡糸筒のそれぞれから吐出されたフィラメント(単繊維)の集合体であるトウが合一され、TDが所定の数値に設定される。この合一され且つTDが所定の数値に設定されたトウは捲縮される。この捲縮されたトウ(フィラメントの集合体)がトウバンドである。即ち、トウバンドは、TDと捲縮数を持つものである。トウバンドは、ベール状に梱包される。
【0008】
トウ:紡糸孔から吐出された複数本のフィラメント集合体を指す。エンドやヤーンもトウのひとつの様態である。
【0009】
エンド:複数の紡糸孔から吐出された複数本のフィラメントが合一(収束)されて所定のトータルデニールを持つフィラメントの集合体を指す。
【0010】
ヤーン:1つの紡糸筒から紡糸されるフィラメントの束を指す。従って、ヤーンは、合一される前のフィラメントの集合体である。
【0011】
セルロースアセテート、特にはセルロースジアセテートからなる繊維は、電子たばこを含むシガレットで用いられるシガレットフィルターの材料や、衛生用品の吸収体の材料等として有用である。これらの用途には、セルロースアセテート繊維により構成されるセルロースアセテートトウバンドが用いられている。
【0012】
一般にセルロースアセテート繊維を紡糸する場合、紡糸口金の紡糸孔から、セルロースアセテートを有機溶媒に溶解させた紡糸原液(ドープとも称する。)を吐出させる。そして、紡糸原液中の溶媒を蒸発させることにより紡糸(賦形)する。従来の紡糸原液には、セルロースアセテート繊維の艶消剤等として、酸化チタンが必須成分として含まれている。セルロースアセテート繊維を紡糸する場合、紡糸原液に含められる有機溶媒としてはアセトンが使用されることが多い。(非特許文献1)
【0013】
特許文献1に開示されるように、セルロースアセテートトウバンド(以下、単にトウバンドとも称する。)を製造する場合、複数本のセルロースアセテート繊維によりヤーンが形成される。複数本のヤーンが合一されてトウが形成される。トウが捲縮されることでトウバンドが製造される。トウバンドは、梱包箱に充填されて圧縮梱包される。
【0014】
ここで特許文献2には、紡糸原液に、ある種のチタン化合物(例えばキレート型のチタン化合物)を添加することで、紡糸原液の粘度を向上させて紡糸性を向上を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】Issue edited by: P. Rustemeyer. March 2004.Cellulose Acetates: Properties and Applications.Pages 266-281
【文献】特開2004-68198号公報
【文献】英国特許公開第949505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
トウバンドは、セルロースアセテート繊維による優れた特性を有しているが、製造効率を向上させて生産コストを低減することが望まれている。しかしながら、セルロースアセテート繊維を高速で紡糸しようとすると糸切れが発生し、製造効率の向上を図ることが困難になるおそれがある。
【0017】
そこで本発明は、セルロースアセテート繊維を紡糸する際の糸切れを防止することにより、セルロースアセテートトウバンドの製造効率を向上可能にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明者の検討により、セルロースアセテート繊維を紡糸する際に糸切れが発生する原因の一つは、トウバンドに含まれている酸化チタンにあることが見出された。そして、製造されたトウバンドの酸化チタンの含有量が極力少なくなるようにセルロースアセテート繊維を紡糸することで、このような糸切れを防止できることが分かった。特には、フィラメントデニールが大きいトウバンドを製造する場合には、製造されたトウバンドの酸化チタンの含有量が極力少なくなるように、セルロースアセテート繊維を紡糸することが好ましいことが分かった。
【0019】
また、一般の技術常識として、酸化チタンは、繊維表面の凹凸を増やすので、セルロースアセテート繊維の摩擦抵抗を減少させると考えられていた。しかし、本願発明者の検討では、製造されたトウバンドの酸化チタンの含有量を低下させると、セルロースアセテート繊維の摩擦抵抗が減少した。このため、製造装置においてセルロースアセテート繊維を所定方向に案内したり、特に捲縮したりする際、セルロースアセテート繊維が外部から受ける摩擦力が低下した。
【0020】
セルロースアセテート繊維がガイディング(案内)部材から受ける摩擦力は、大き過ぎる場合には、セルロースアセテート繊維のフライ(毛羽立ちや短繊維の糸状体)の要因となる。一方、セルロースアセテート繊維がガイディング部材から受ける摩擦力は、小さ過ぎる場合には、ガイディング部材において、セルロースアセテート繊維(ヤーン及びエンド)のガイディング位置が安定しない。特には、エンドが捲縮装置内に入るときのエンドとニップロールとの相対的な位置関係が変動し、捲縮が一定に行われないおそれがある。このような捲縮をされたトウバンドは、捲縮状態が一定でない。このため、該トウバンドをシガレットフィルターの製造に用いた場合、シガレットフィルターの通気抵抗がトウバンドの長さ方向で変動することになり、問題が生じる。
【0021】
よって、セルロースアセテート繊維を適切にガイディング及び捲縮することが重要であり、そのためには、セルロースアセテート繊維の摩擦抵抗を一定範囲に設定することが必要である。特には、捲縮率が高いトウバンドの場合には、上記した問題が顕著に認められる。上記した問題は、特には、トータルデニールが小さいトウバンドにおいて見出された。従って、トータルデニールが小さく、捲縮率が高く、酸化チタンの含有量が少ないトウバンドは、製造が困難である。また、仮に捲縮ができたとしても、トウバンドの品質が低下するおそれがある。本発明は、このような知見に基づいている。
【0022】
本発明の一態様に係るセルロースアセテートトウバンドは、セルロースアセテート繊維により構成されるトウバンドであって、トータルデニールが、8000以上44000以下の範囲の値に設定され、酸化チタンの含有量が、0重量%以上0.01重量%以下の範囲の値に設定され、前記トウバンドのジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量が、1m当たり5mgより大きく65mg以下の範囲の値に設定されている。
【0023】
上記構成によれば、トータルデニールが、8000以上44000以下の範囲の値に設定されたセルロースアセテートトウバンドを製造する場合において、セルロースアセテートトウバンドの酸化チタンの含有量を、極力少なく、実質的にセルロースアセテートトウバンドが酸化チタンを含まない程度に設定できる。このため、セルロースアセテート繊維を高速で紡糸する際、紡糸口金直下での糸切れを良好に防止できる。
【0024】
また上記構成によれば、トウバンドのジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量が、1m当たり5mgより大きく65mg以下の範囲の値に設定される。よって、上記のように酸化チタンの含有量が設定されたセルロースアセテート繊維を例えば所定方向に案内又は捲縮する際、セルロースアセテート繊維が外部から受ける摩擦力が低下するのを防止できる。特に、セルロースアセテート繊維を捲縮する際の摩擦抵抗の低下による捲縮不良を抑制できる。従って、高品質のセルロースアセテートトウバンドを安定して製造できる。
【0025】
フィラメントデニールが、1.0以上12.0以下の範囲の値に設定されていてもよい。これにより、セルロースアセテート繊維を紡糸する際の糸切れを防止できる。また、セルロースアセテートトウバンドにおけるフィラメントデニールの設定自由度を高めることができる。
【0026】
フィラメントデニールが、1.0以上5.0未満の範囲の値に設定され、前記セルロースアセテート繊維は捲縮されており、式1により算出される前記トウバンドのクリンピング(%)が、10%以上40%以下の範囲の値に設定されていてもよい。
[式1]

クリンピング(%)=[(L1-L0)/L0]×100

但し、L0は、長さ250mmの前記トウバンドに前記セルロースアセテート繊維の捲縮を伸ばす方向に250gの荷重を負荷したときの前記トウバンドの長さである。L1は、長さ250mmの前記トウバンドに前記方向に2500gの荷重を負荷したときの前記トウバンドの長さである。
【0027】
上記構成によれば、フィラメントデニールが、1.0以上5.0未満の範囲の値に設定された比較的細いセルロースアセテート繊維を紡糸する際の糸切れを防止できる。また、セルロースアセテートトウバンドのクリンピング(%)を10%以上40%以下の範囲の値に設定することにより、適切に捲縮されたセルロースアセテートトウバンドを安定して製造できる。
【0028】
フィラメントデニールが、5.0以上9.0以下の範囲の値に設定され、トータルデニールが、15000以上20000以下の範囲の値に設定され、前記トウバンドのジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量が、1m当たり10mg以上30mg以下の範囲の値に設定され、前記セルロースアセテート繊維は捲縮されており、式1により算出される前記トウバンドのクリンピング(%)が、10%以上30%以下の範囲の値に設定されていてもよい。
[式1]

クリンピング(%)=[(L1-L0)/L0]×100

但し、L0は、長さ250mmの前記トウバンドに前記セルロースアセテート繊維の捲縮を伸ばす方向に250gの荷重を負荷したときの前記トウバンドの長さである。L1は、長さ250mmの前記トウバンドに前記方向に2500gの荷重を負荷したときの前記トウバンドの長さである。
【0029】
上記構成によれば、フィラメントデニールが、5.0以上9.0以下の範囲の値に設定され、トータルデニールが、15000以上20000以下の範囲の値に設定されることにより、フィラメントデニールが比較的大きく、トータルデニールが比較的小さく設定されていても、クリンピング(%)が上記範囲の値に設定されるように良好に捲縮されたトウバンドが得られる。
【0030】
本発明の一態様に係るセルロースアセテートトウバンドの製造方法は、紡糸原液を作製する紡糸原液作製工程と、前記紡糸原液を用いて、製造後のトウバンドのトータルデニールが、8000以上44000以下の範囲の値に設定されるように、複数本のセルロースアセテート繊維を紡糸する紡糸工程と、製造後の前記トウバンドのジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量が、1m当たり5mgより大きく65mg以下の範囲の値に設定されるように、前記セルロースアセテート繊維に繊維油剤を添着する添着工程と、を備え、前記紡糸原液作製工程では、製造後の前記トウバンドの酸化チタンの含有量が、0重量%以上0.01重量%以下の範囲の値に設定されるように調整された前記紡糸原液を作製する。
【0031】
上記方法によれば、トータルデニールが、8000以上44000以下の範囲の値に設定されたセルロースアセテートトウバンドを製造する場合において、セルロースアセテートトウバンドの酸化チタンの含有量を、極力少なく、実質的にセルロースアセテートトウバンドが酸化チタンを含まない程度に設定できる。このため紡糸工程において、セルロースアセテート繊維を高速で紡糸する際、紡糸口金直下での糸切れを良好に防止できる。
【0032】
また、上記方法によれば、製造後のトウバンドのジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量が、1m当たり55mgより大きく65mg以下の範囲の値に設定されるように、添着工程においてセルロースアセテート繊維に繊維油剤が添着される。
【0033】
よって、セルロースアセテートトウバンドを製造する際に必要な範囲内で、セルロースアセテートトウバンドの繊維油剤の含有量を比較的少なく設定できる。これにより、上記のように酸化チタンの含有量が設定されたセルロースアセテート繊維を例えば所定方向に案内又は捲縮する際、セルロースアセテート繊維が外部から受ける摩擦力が低下するのを防止できる。特に、セルロースアセテート繊維を捲縮する際の摩擦抵抗の低下による捲縮不良を抑制できる。従って、高品質のセルロースアセテートトウバンドを安定して製造できる。
【0034】
前記紡糸工程では、フィラメントデニールが、1.0以上12.0以下の範囲の値に設定された前記セルロースアセテート繊維を紡糸してもよい。この方法によれば、フィラメントデニールが、1.0以上12.0以下の範囲の値に設定される。また、酸化チタンを実質的に含まないセルロースアセテートトウバンドを安定して製造できる。
【0035】
式1により算出される製造後の前記トウバンドのクリンピング(%)が、10%以上40%以下の範囲の値に設定されるように、前記セルロースアセテート繊維を捲縮する捲縮工程を更に備え、前記紡糸工程では、フィラメントデニールが、1.0以上5.0未満の範囲の値に設定された前記セルロースアセテート繊維を紡糸してもよい。
[式1]

クリンピング(%)=[(L1-L0)/L0]×100

但し、L0は、長さ250mmの製造後の前記トウバンドに前記セルロースアセテート繊維の捲縮を伸ばす方向に250gの荷重を負荷したときの前記トウバンドの長さである。L1は、長さ250mmの製造後の前記トウバンドに前記方向に2500gの荷重を負荷したときの前記トウバンドの長さである。
【0036】
上記方法によれば、紡糸装置において、フィラメントデニールが1.0以上5.0未満の範囲の値に設定された比較的細いセルロースアセテート繊維を紡糸する際の糸切れを防止できる。また、クリンピング(%)が10%以上40%以下の範囲の値に設定されるように捲縮装置によりセルロースアセテート繊維を捲縮する。これにより、適切に捲縮されたセルロースアセテートトウバンドを安定して製造できる。
【0037】
式1により算出される製造後の前記トウバンドのクリンピング(%)が、10%以上30%以下の範囲の値に設定されるように、前記セルロースアセテート繊維を捲縮する捲縮工程を更に備え、前記紡糸工程では、製造後の前記トウバンドのフィラメントデニールが、5.0以上9.0以下の範囲の値に設定され、トータルデニールが、15000以上20000以下の範囲の値に設定されるように、前記複数本のセルロースアセテート繊維を紡糸し、前記添着工程では、前記トウバンドのジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量が、1m当たり10mg以上30mg以下の範囲の値に設定されるように、前記セルロースアセテート繊維に繊維油剤を添着してもよい。
[式1]

クリンピング(%)=[(L1-L0)/L0]×100

但し、L0は、長さ250mmの製造後の前記トウバンドに前記セルロースアセテート繊維の捲縮を伸ばす方向に250gの荷重を負荷したときの前記トウバンドの長さである。L1は、長さ250mmの製造後の前記トウバンドに前記方向に2500gの荷重を負荷したときの前記トウバンドの長さである。
【0038】
上記方法によれば、フィラメントデニールが、5.0以上9.0以下の範囲の値に設定され、トータルデニールが、15000以上20000以下の範囲の値に設定されることにより、フィラメントデニールが比較的大きく、トータルデニールが比較的小さいトウバンドでも、クリンピング(%)が上記範囲の値に設定されるように良好に捲縮できる。
【0039】
前記セルロースアセテート繊維をゴデットロールにより巻き取って予め定められた搬出方向下流側に搬送する搬送工程を更に備え、前記紡糸工程では、複数の紡糸孔が形成された紡糸口金の前記複数の紡糸孔から前記紡糸原液を吐出させ、前記セルロースアセテート繊維を前記ゴデットロールにより巻き取るときの巻取速度V2を、400m/min以上900m/min以下の範囲の値に設定し、且つ、前記紡糸口金の前記複数の紡糸孔から前記紡糸原液を吐出させるときの吐出速度V1と前記巻取速度V2との比V2/V1を、1.0以上1.8以下の範囲の値に設定してもよい。
【0040】
上記方法によれば、紡糸工程においてセルロースアセテート繊維を紡糸する際の糸切れを防止できる。また、比V2/V1を1.0以上1.8以下の範囲の値に設定する。これにより、セルロースアセテート繊維を張力を与えながら一層効率よく紡糸できる。
【0041】
また、比V2/V1の設定範囲を比較的広く確保できる。このため、例えば、同一の紡糸口金を用いながら、比V2/V1を調節することにより、フィラメントデニールが異なる複数の品種のセルロースアセテート繊維を効率よく紡糸できる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、セルロースアセテート繊維を紡糸する際の糸切れを防止することにより、セルロースアセテートトウバンドの製造効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】実施形態に係るトウバンド製造装置の全体図である。
図2】実施例及び比較例におけるヤーンの巻取速度と最高ドラフトとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
(実施形態)
本発明の実施形態について、図を参照して説明する。以下の説明において、搬送方向とは、セルロースアセテート(以下、CAとも称する。)フィラメント(繊維)30、ヤーン31、エンド32、及びCAトウバンド33(以下、トウバンド33とも称する。)の搬送方向を指す。
【0045】
図1は、セルロースアセテートトウバンド製造装置1(以下、製造装置1とも称する。)の全体図である。製造装置1は、乾式紡糸法によりCAフィラメント30を紡糸する。また製造装置1は、CAフィラメント30によりトウバンド33を製造する。
【0046】
製造装置1では、セルロースジアセテート等のセルロースアセテートフレークが有機溶媒に溶解された紡糸原液22が用いられる。この紡糸原液22は、混合装置2内で混合された後、濾過装置3で濾過される。濾過装置3を通過した紡糸原液22は、紡糸ユニット4の紡糸筒14上に備えられた紡糸口金15が有する複数の紡糸孔から吐出される。各紡糸孔から吐出された紡糸原液は、不図示の乾燥ユニットから紡糸筒14内に供給される熱風により、有機溶媒を蒸発させられることで乾燥する。これにより、固体のCAフィラメント30が形成される。
【0047】
CAフィラメント30は、案内装置(ガイディングとも称される)であるガイドピン7,8によりガイディングされる。この案内装置では、複数本のCAフィラメント30の糸条の幅が、幅決めガイドにより調整される。1つの紡糸筒14内を通過した複数本のCAフィラメント30は、幅決めガイドにより集束されてヤーン31となる。ヤーン31は、ガイドピン7,8によりガイディングされながら、油剤添着ユニット5(一例として回転ロール式)により繊維油剤(ここでは繊維油剤エマルション)を添着される。
【0048】
繊維油剤を添着されたヤーン31は、ガイドピン7,8により糸条の幅をさらに細く調整される。その後、ヤーン31は、ゴデットロール6により巻き取られる。ヤーン31は、ゴデットロール6の周面を約4分の3だけ周回走行した後、所定の巻取装置により引き取られる。このヤーン31を製造する一連のユニット、即ち、紡糸口金15からの紡糸原液22を吐出してCAフィラメント30を紡糸する紡糸ユニット4、乾燥ユニット、油剤添着ユニット5、及び、ゴデットロールを有する巻取ユニットは、併せてステーションと称される。通常では、複数のステーションが、一列に並べて配置されている。
【0049】
ヤーン31は、ゴデットロール6の周面から巻取装置により水平方向に引き取られる。各ステーションを通過したヤーン31は、ガイディングの方向をガイドピン7,8により90°転換される。各ヤーン31は、ステーションの配列方向に沿って搬送され、順次集積又は積層される。これにより、複数のヤーン31が収束されて、ヤーン31の偏平な集合体であるエンド(トウ)32が形成される。エンド32は複数のヤーン31を収束して最終的に所定のトータルデニールに設定されたものである。エンド32は水平状態で搬送されて捲縮装置9へと導かれる。
【0050】
捲縮装置9は、スタッフィングボックス(捲縮箱)18にエンド32を押し込むための一対のニップロール16,17を備えている。一対のニップロール16,17によるエンド32のスタッフィングボックス18への押し込みに伴って、スタッフィングボックス18内から抵抗が生じる。しかし、この抵抗よりも大きな力でエンド32をスタッフィングボックス18内に押し込むことにより、エンド32に捲縮が付与される。これにより、トウバンド33が製造される。捲縮装置9を通過したトウバンド33は、乾燥装置10により乾燥される。乾燥装置10を通過したトウバンド33は、集積された後、圧縮梱包されてベールとなる。
【0051】
ここで、本実施形態のトウバンド33の製造方法は、紡糸原液作製工程、紡糸原液濾過工程、紡糸原液搬送工程、紡糸工程、添着工程、案内工程、及び捲縮工程を備える。
【0052】
紡糸原液作製工程では、紡糸原液22を作製する。具体的には、紡糸原液22として、製造後のトウバンド33の酸化チタンの含有量(以下、単に酸化チタンの含有量とも称する。)が、0重量%以上0.01重量%以下の範囲の値に設定されるように調整された紡糸原液を作製する。即ち、本実施形態のトウバンド33においては、酸化チタンは含有されなくてもよい。従って、酸化チタンが0重量%以上というのは、酸化チタンが含有されていない場合と、酸化チタンが分析限界値以下の痕跡量しか含有されていない場合とを含む。
【0053】
しかしながら、上記の通りトウバンド33の製造方法は、紡糸原液作製工程、紡糸原液濾過工程、及び紡糸原液搬送工程を備えるものである。通常のトウバンドの製造においては、酸化チタンを含有するトウバンドが製造される。このため、本実施形態のトウバンド33の製造方法は、紡糸原液作製工程、紡糸原液濾過工程、或いは紡糸原液搬送工程において、酸化チタンが意図せず含有する場合をも含むものである。
【0054】
なお、製造後のトウバンド33における酸化チタンの含有量は、原子吸光分析法等により測定することができる。また、製造後のトウバンド33における酸化チタンの含有量は、JIS L 1013に規定される化学繊維フィラメント糸試験方法:2010に従って測定することもできる。このJIS L 1013に規定される試験方法に用いる器具としては、JIS K 0050に規定された器具を用いることができる。該試験方法は、具体的には以下の通りである。
【0055】
a)製造後のトウバンド33の試料約5gの絶乾質量を求め,該試料を電気炉中で強熱を避けて灰化する。これを少量の水で200mLのビーカーに移し、該ビーカーを加熱して水分を除く。その後、JIS K 8951に規定する特級の濃硫酸(比重1.84)15 mL、及び、JIS K 8960に規定する特級の硫酸アンモニウム約10gを加えて時計皿で覆う。そして、砂浴上で初めは徐々に、終わりは強く、液が透明になるまで加熱する。
【0056】
b)放冷後、液温が50℃以上にならないように注意しながら水を加えて全量を約100mLとする。これを1Lの全量フラスコに移し,水で標線まで希釈する。この液の中から、AmL(酸化チタン含有量及びセルの厚さによって,呈色液の吸光度が0.3~0.5となるような量とする。)の液をピペットで50mLの全量フラスコに移す。その後、全量フラスコの液にJIS K 8230に規定する特級の過酸化水素水(3 %)5mL、及び、JIS K 8951に規定する特級の1mol/L硫酸10mLを加えることにより、液を発色させる。その後,液を水で標線まで希釈する。
【0057】
c)この全量フラスコの液をセルに移し,光電比色計で波長420nmにおける吸光度を測定する。この測定値から、予め作成した検量線によって、酸化チタン濃度(g/50mL)を求める。そして、次の式2によって酸化チタンの百分率を算出し、2回の平均値をJIS Z 8401に規定する規則B(四捨五入法)によって小数点以下2桁に丸める。
[式2]
T1(%)=((B×1000)/(C×A))×100

但し、T1は酸化チタン(%)、Aは採取した希釈液(mL)、Bは酸化チタン濃度(g/50 mL)、Cは試料の絶乾質量(g)とする。なお、製造後のトウバンド33における酸化チタンの含有量は、上記した原子吸光法やJIS法以外に、重量法によっても測定できる。
【0058】
濾過工程では、紡糸原液22を濾過する。紡糸工程では、上記のように作製した紡糸原液22を用いて、製造後のトウバンド33のTDが8000以上44000以下の範囲の値に設定されるように、複数本のCAフィラメント30を紡糸する。また、製造後のトウバンド33のFDが1.0以上12.0(一例として1.0以上5.0未満)の範囲の値に設定されるように、CAフィラメント30を紡糸する。紡糸工程は、吐出工程と、乾燥工程とを有する。吐出工程では、濾過した紡糸原液22を紡糸口金15の紡糸孔から吐出する。乾燥工程では、熱風乾燥により紡糸原液22中のアセトンを蒸発させてCAフィラメント30を固化する。
【0059】
搬送工程では、CAフィラメント30をゴデットロール6により巻き取って予め定められた搬出方向下流側に搬送する。本実施形態の搬送工程では、CAフィラメント30をゴデットロール6により巻き取るときの巻取速度V2を、400m/min以上900m/min以下の範囲の値に設定し、且つ、紡糸口金15の複数の紡糸孔から紡糸原液を吐出させるときの吐出速度V1と巻取速度V2との比V2/V1を、1.0以上1.8以下の範囲の値に設定する。
【0060】
巻取速度V2は、500m/min以上900m/min以下の範囲の値であることが好ましく、550m/min以上900m/min以下の範囲の値であることがより好ましい。また、比V2/V1の下限値は、1.1以上の値であることが好ましく、1.2以上の値であることがより好ましい。また、比V2/V1の上限値は、1.7以下の値であることが好ましく、1.4以下の値であることがより好ましい。
【0061】
添着工程では、CAフィラメント30に繊維油剤を添着する。これにより、CAフィラメント30が製造装置1の各部材に接触して摩耗又は損傷するのを防止する。また、複数本のCAフィラメント30の集束性を向上させる。
【0062】
具体的に添着工程では、製造後のトウバンド33のジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量が、1m当たり5mgより大きく65mg以下の範囲の値に設定されるように、CAフィラメント30に繊維油剤を添着する。ジエチルエーテル抽出法による繊維油剤の含有量は、JIS L 1013:2010に従い測定することができる。ジエチルエーテル抽出法は、具体的には以下の通りである。
【0063】
製造後のトウバンド33の試料約5gの絶乾質量を求め、JIS R 3503に規定するソックスレー抽出器に、該試料を円筒濾紙を用いないで軽く入れる。その後、附属フラスコに100mL~150mLのJIS K 8103に規定する特級のジエチルエーテルを入れる。この附属フラスコを水浴上に載せて,抽出液が弱く沸騰を保つ程度(10分間に1回サイホン管を通して溶剤が還流する程度)に1.5時間加熱する。その後、試料部に溜まった溶液を附属フラスコに戻す。附属フラスコの内容物を10mL~15mLに濃縮した後、必要があれば、1G1又は3G1のガラス濾過器で濾過する。これを予め105±2℃で恒量を求めたはかり瓶に移す。
【0064】
抽出フラスコ(附属フラスコ)はジエチルエーテルで洗浄し、洗液を(ガラス濾過器を用いた場合は,前記ガラス濾過器で濾過後)はかり瓶に合わせ入れ、水浴上で溶剤を揮散する。その後、105±2℃の恒温乾燥器中に1.5時間放置し、デシケータ中で冷却して抽出分の質量を量る。
【0065】
抽出分は、ジエチルエーテル抽出量の絶乾試料質量に対する百分率で表し、2回の平均値をJIS Z 8401に規定する規則B(四捨五入法)によって小数点以下2桁に丸める。
【0066】
本実施形態の添着工程では、CAフィラメント30に繊維油剤エマルションを添着する。この繊維油剤エマルションには、繊維油剤と水とが含まれる。繊維油剤エマルションにおける繊維油剤の含有量は所定範囲内で設定可能である。繊維油剤は、210℃におけるセイボルトユニバーサル(Saybolt Universal Second:SUS)粘度が80秒以上130秒以内の範囲の値に設定された鉱物油を含む。このような鉱物油を用いることで、ガイドピン7,8によりヤーン31に適度な摩擦力を与えてヤーン31をガイディングし易くすることができる。また、捲縮装置9においてエンド32を適切に捲縮できる。この鉱物油の前記粘度は、90秒以上120秒以内の範囲の値であってもよく、95秒以上105秒以下の範囲の値であってもよい。
【0067】
なお、製造後のトウバンドのジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量が、1m当たり65mgを超えると、トウバンドの製造コストが上昇するおそれがある。また、ガイドピン7,8によりヤーン及びトウをガイディングすることが困難となるおそれがある。また、捲縮装置9においてトウを適切に捲縮できなくなるおそれがある。また、該トウバンドを用いてシガレットフィルターを製造する場合、シガレットフィルターの単位重量当たりのトウバンド重量が減少して必要な通気抵抗が得られなくなるおそれがある。
【0068】
また、トウバンドに繊維油剤が添着されていなかったり、製造後のトウバンドのジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量が、1m当たり5mg未満であったりすると、ヤーン及びトウがガイドピン7,8等に対する接触から受ける摩擦が大きくなる。これにより、ダメージやフライが生じるおそれがある。
【0069】
また、製造後のトウバンドのジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量が、1m当たり5mg未満であると、ヤーン31に添着される繊維油剤量がヤーン31の搬送中に減少して油膜を維持しにくくなるおそれがある。その結果、ヤーン31の走行位置が不安定になるおそれがある。また、後述する捲縮工程におけるエンド32の捲縮が不安定になるおそれがある。その結果、フライの発生量が増えたりするおそれがある。また、製造装置1においてヤーン31やエンド32が外部から受ける摩擦抵抗が過度になるおそれがある。
【0070】
案内工程では、繊維油剤が添着されたCAフィラメント30を少なくとも1つのガイド部材(ガイドピン7,8)によりガイディングする。案内工程では、CAフィラメント30がガイディングされてヤーン31が形成される。また、案内工程では、複数のヤーン31を合一するようにガイディングされてヤーンの集合体であるエンド32が形成される。
【0071】
捲縮工程では、エンド32を捲縮する。一例として、紡糸工程では、フィラメントデニールが、1.0以上5.0未満の範囲の値に設定されたCAフィラメント30を紡糸し、捲縮工程では、式1により算出される製造後のトウバンド33のクリンピング(%)が、10%以上40%以下の範囲の値に設定されるように、エンド32(複数本のCAフィラメント30)を捲縮する。
[式1]

クリンピング(%)=[(L1-L0)/L0]×100

但し、L0は、長さ250mmの製造後のトウバンド33にCAフィラメント30の捲縮を伸ばす方向に250gの荷重を負荷したときのトウバンド33の長さである。L1は、長さ250mmの製造後のトウバンド33に前記方向に2500gの荷重を負荷したときのトウバンド33の長さである。本実施形態では、トウバンド33の製造方法の各工程は、製造装置1において実現される。
【0072】
上記のように、乾式紡糸法によりCAフィラメントを紡糸する場合、紡糸原液の溶媒としてアセトンが用いられる。ここで、セルロースアセテートをアセトンに溶解した紡糸原液を用いてCAフィラメントを乾式紡糸法により紡糸する場合の一つの重要な問題は、糸切れである。糸切れとは、乾式紡糸中のCAフィラメントが、乾式紡糸工程の途中で破断することである。糸切れが発生する箇所は複数存在する。主な糸切れ箇所は、ゴデットロールやガイドピン等、CAフィラメントに対して摩擦が生じうる箇所である。
【0073】
近年、CAフィラメントの用途が、たばこ用途から衛生用品の吸収体の材料用途等に広がるに従い、紡糸速度を向上させてトウバンドの製造量を増大させることが試みられている。これに伴い、紡糸口金15の紡糸孔直下での糸切れが増大した。本実施形態は、この紡糸口金15の紡糸孔直下での糸切れを防止するものである。
【0074】
トウバンドの製造スピードを向上させることは、紡糸速度を大きくすることを意味する。同一の単繊維径(言い換えると同一のFD)のトウバンドを得ながら、紡糸速度を大きくすることは、紡糸原液が紡糸孔を通過する速度(紡糸孔からの紡糸原液の吐出速度[単位時間当たりの吐出量])を上げることを意味する。
【0075】
ここで本願発明者は、このような糸切れの原因の一つが、製造されたトウバンドに含まれる酸化チタンにあることを突き止めた。紡糸原液に酸化チタンが含まれている場合、CAフィラメントを紡糸する際の吐出速度をある程度以上に増大させると、糸切れが発生することがある。
【0076】
糸切れの発生原因は明らかではない。しかし、例えば、酸化チタンにより紡糸原液の粘性や流動性等の物性が変化することで、紡糸孔から吐出される紡糸原液の流れが不安定になることが考えられる。また、紡糸原液に固体として含まれる酸化チタンの一次粒子が凝集されて二次粒子となることがある。この二次粒子が紡糸口金の紡糸孔の少なくとも一部を閉塞し、紡糸液の紡糸孔近くの流れを阻害することが考えられる。このため、紡糸原液の吐出速度を上げてゆこうとすると、紡糸原液の溶液粘性の問題か、紡糸孔において紡糸原液の流動性が不安定となり、糸切れ頻度が大きくなる。
【0077】
そこで本実施形態は、紡糸原液22の酸化チタンを極力少なくなるように規定したものである。具体的に、本実施形態の紡糸原液作製工程では、紡糸原液22に対する酸化チタンの添加量を実質的に0となるように調整する。これにより、製造後のトウバンド33の酸化チタンの含有量が、0重量%以上0.01重量%以下の範囲となるようにする。また、本実施形態の紡糸工程では、紡糸原液22を用いて、製造後のトウバンド33のTDが、8000以上44000以下の範囲の値に設定されるように、複数本のCAフィラメント30を紡糸する。
【0078】
また添着工程では、製造後のトウバンド33のジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量が、1m当たり5mgより大きく65mg以下の範囲の値に設定されるように、CAフィラメント30に繊維油剤を添着する。
【0079】
これによりトウバンド33は、CAフィラメント30により構成され且つTDが8000以上44000以下の範囲の値に設定されている。またトウバンド33は、酸化チタンの含有量が、0重量%以上0.01重量%以下の範囲の値に設定されている。
【0080】
またトウバンド33は、製造後のジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量が、1m当たり5mgより大きく65mg以下の範囲の値に設定されている。
【0081】
これにより、トウバンド33を製造する場合において、紡糸液中の酸化チタンの含有量を、極力少なく、実質的に酸化チタンを含まない程度に設定できる。このため、CAフィラメント30を高速で紡糸する際、紡糸口金15直下での糸切れを良好に防止できる。
【0082】
なお、酸化チタンを実質的に含まないCAフィラメントは、酸化チタンを実質的に含むCAフィラメントとの物性の違いにより、ガイドピン等のガイド部材から受ける摩擦力が小さくなる。これにより、CAフィラメントがガイド部材により安定してガイディングされにくくなる。
【0083】
この場合、ヤーンのガイディングが不良であると、各紡糸筒から搬出される複数のヤーンを配列したエンドの中でのヤーンの分布が不均一となる。このため、捲縮装置によりエンドを均一に捲縮するのが困難になる。また、トウバンドの捲縮数を増大させにくくなる。また、捲縮装置の一対のニップロールに対するエンドの摩擦抵抗が減少する。このため、各ニップロールがエンドを擦ることでフライの発生量が増大するおそれがある。
【0084】
これに対して、トウバンド33のジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量を上記範囲の値に設定することにより、CAフィラメント30の摩擦抵抗が増大される。よって、上記のように酸化チタンの含有量が設定されたCAフィラメント30を例えば所定方向に案内又は捲縮する際、CAフィラメント30が外部から受ける摩擦力の低下を防止できる。特に、CAフィラメント30を捲縮する際の摩擦抵抗の低下による捲縮不良を抑制できる。従って、高品質で高捲縮の(クリンピング(%)の大きい)トウバンド33を安定して製造できる。
【0085】
また、トウバンド33を用いてシガレットフィルターを製造する場合、トウバンド33は、梱包箱から繰り出される。その後、トウバンド33は開繊され且つ可塑剤を添加されて円柱状に成型される。トウバンド33には、比較的高粘度の繊維油剤が油剤添着ユニット5により添着されている。このため、発明者の行った確認試験により、シガレットフィルターの製造工程においてトウバンド33を開繊する際のフライの発生量を従来に比べて約10%低減できることが明らかになっている。
【0086】
なお、トウバンド33のTDは、10000以上37000以下の範囲の値であることが好ましく、特に12000以上25000以下の範囲の値であることがより好ましく、12000以上22000以下の範囲の値であることが特に好ましい。また、トウバンド33のFDは、3.0以上10.0以下の範囲の値であることが好ましく、3.3以上9.0以下の範囲の値であることがより好ましく、5.0以上9.0以下の範囲の値であることが特に好ましい。
【0087】
また、製造後のトウバンド33のジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量は、1m当たり、5mgより大きく45mg以下の範囲の値であることが好ましく、5mgより大きく38mg以下の範囲の値であることがより好ましく、5mgより大きく35mg以下の範囲の値であることが特に好ましい。
【0088】
またトウバンド33は、FDが1.0以上12.0以下の範囲の値に設定され、且つ、TDが15000以上44000以下の範囲の値に設定されている。このため、CAフィラメント30を紡糸する際の糸切れを防止できる。また、トウバンド33におけるFDとTDとの設定自由度を高めることができる。
【0089】
また、本実施形態のトウバンド33は、一例として、FDが1.0以上5.0未満の範囲の値に設定され、クリンピング(%)が10%以上40%以下の範囲の値に設定されている。このため、CAフィラメント30を紡糸する際の糸切れを防止できる。また、適切に捲縮されたトウバンド33を安定して製造できる。
【0090】
ここでトウバンド33は、FDが5.0以上9.0以下の範囲の値に設定され、TDが15000以上20000以下の範囲の値に設定され、酸化チタンの含有量が0重量%以上0.01重量%以下の範囲の値に設定され、ジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量が、1m当たり10mg以上30mg以下の範囲の値に設定されていることが好ましい。この場合、トウバンド33は、クリンピング(%)が10%以上30%以下の範囲の値に設定されていることが好ましい。
【0091】
比較的FDが大きいトウバンドは、酸化チタンを含有しない場合には捲縮が困難であり、特には高捲縮が困難である。しかしながら本実施形態のトウバンド33は、FDが5.0以上9.0以下の範囲の値に設定され、TDが15000以上20000以下の範囲の値に設定されることにより、FDが比較的大きく、TDが比較的小さく設定されていても、上記した含有量で繊維油剤を含んでいるため、クリンピング(%)が10%以上30%以下の範囲の値に設定されるように良好に捲縮されている。
【0092】
具体的に、CAフィラメント30に対する捲縮は、エンド32(複数本のCAフィラメント30)に対して行われる。このため、トウバンド33の滑り性は、トウバンド33の繊維油剤の含有量により変化する。よって本実施形態では、トウバンド33の単位長さ(1m)当たりの繊維油剤の含有量を厳密に調整することで、トウバンド33が実質的に酸化チタンを含まない場合でも捲縮を適切に行える。特には、FDが大きく且つTDが小さく、酸化チタンを実質的に含まないトウバンド33を製造する場合であっても、製造後のトウバンド33が上記した含有量で繊維油剤を含むように設定することにより、クリンピング(%)が10%以上30%の範囲の値に設定されるように捲縮されたトウバンド33を良好に得ることができる。
【0093】
また、上記したトウバンド33の製造方法によれば、紡糸ユニット4においてCAフィラメント30を紡糸する際の糸切れを防止できる。また、比V2/V1を1.0以上1.8以下の範囲の値に設定することにより、CAフィラメント30を張力を与えながら一層効率よく紡糸できる。
【0094】
また、比V2/V1の設定範囲を比較的広く確保できる。このため、例えば、同一の紡糸口金15を用いながら、比V2/V1を調節することにより、FDが異なる複数の品種のCAフィラメント30を効率よく紡糸できる。
【0095】
また、トウバンド33は酸化チタンを実質的に含んでいない。このため、例えば、トウバンド33を衛生用品の吸収体等の材料として用いる場合、酸化チタンに対してアレルギーを有するユーザ等でも、この衛生用品を良好に用いることができる。
【0096】
なお、比V2/V1は、当然ながら上記以外の範囲の値(例えば、1.8より大きく10.0以下の範囲の値)に設定してもよい。また巻取速度V2は、例えば、100m/min以上400m/min未満の範囲の値に設定してもよい。比V2/V1及び巻取速度V2をそれぞれこのような数値範囲の値に設定しても、CAフィラメント30を良好に紡糸できる。
【0097】
(確認試験)
[試験1]
FDとTDとが異なる複数のトウバンドNo.1~6を作製し、各トウバンドにおける繊維油剤含有量の好適範囲を測定した。具体的には、紡糸原液22の目標組成を、CA(アセチル置換度2.5)29.0重量%、アセトン68.5重量%、及び水2.5重量%に設定して、CAがアセトンに溶解された紡糸原液22を作製した。
【0098】
一辺が所定長さの三角形状の開口形状を有する複数の紡糸孔が形成された紡糸口金15を用意した。紡糸原液22を50℃に加温し、濾過装置3により濾過した後、紡糸口金15の紡糸孔から吐出させてCAフィラメント30を紡糸した。このときの紡糸速度(一対のニップロール16,17の巻取速度)は500m/minに設定した。
【0099】
油剤添着ユニット5の繊維油剤エマルションは、繊維油剤をベースとする(w/o)ように調整した。具体的な繊維油剤の組成は、210℃におけるセイボルトユニバーサル粘度が80秒の鉱物油63重量%、ソルビタン脂肪酸エステル16重量%、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル14重量%、及び水7重量%に設定した。これを乳化することにより、濃度5%(繊維油剤が5重量%)のオイルインウォーターである繊維油剤エマルションを調整した。
【0100】
ヤーン31と油剤添着ユニット5との接触圧を調整して、ヤーン31に対する繊維油剤の添着量を調整した。即ち、添着工程において、CAフィラメント30に添着する繊維油剤量を、製造後のトウバンド33の1m当たりの繊維油剤の含有量が異なるように変化させた。
【0101】
このような条件で紡糸し且つ繊維油剤を添着したCAフィラメント30を用いてエンド32を作製し、エンド32を捲縮装置9により捲縮した。これにより、FD及びTDが所定値に設定された以下のNo.1~6のトウバンド33を得た。得られた各トウバンド33は、シガレットフィルター用トウバンドとして、梱包箱に圧縮梱包して(トウ)ベールとした。
【0102】
No.1:FDが3.0且つTDが35000に設定され、径方向の断面形状がY状であるトウバンド(表1では3Y35000と記載する。)。
【0103】
No.2:FDが3.0且つTDが28000に設定され、径方向の断面形状がY状であるトウバンド(表1では3Y28000と記載する。)。
【0104】
No.3:FDが4.0且つTDが25000に設定され、径方向の断面形状がY状であるトウバンド(表1では4Y25000と記載する。)。
【0105】
No.4:FDが5.0且つTDが20000に設定され、径方向の断面形状がY状であるトウバンド(表1では5Y20000と記載する。)。
【0106】
No.5:FDが6.0且つTDが17000に設定され、径方向の断面形状がY状であるトウバンド(表1では6Y17000と記載する。)。
【0107】
No.6:FDが8.0且つTDが15000に設定され、径方向の断面形状がY状であるトウバンド(表1では8Y15000と記載する。)。
【0108】
No.1~6のトウバンド33を製造する際のヤーン31のガイディングの安定性と、エンドの捲縮装置における安定性の評価を行った。ヤーン31のガイディングの安定性の評価は、ガイドピン7,8によりヤーン31が適切にガイディングされたか否かを確認することにより行った。
【0109】
具体的には、走行中のヤーン31の位置がガイドピン7,8の位置に対して一定で変動しない場合をA1と評価した。また、走行中のヤーン31の位置がガイドピン7,8の位置に対して変動しているものの紡糸可能の場合をA2と評価した。また、長時間のトウバンド33の製造過程において、ヤーン31のガイドピン7,8での巻き付きが発生した場合をA3と評価した。評価は、A1,A2,A3の順に低くなる。
【0110】
また、捲縮装置9のニップロール16,17の直前位置で、走行中のエンド32の位置がニップロール16,17の位置に対して一定で変動しない場合をB1と評価した。また、ニップロール16,17の直前位置で、走行中のエンド32の位置がニップロール16,17の位置に対して時々変動する場合をB2と評価した。
【0111】
また、ニップロール16,17の直前位置で、走行中のエンド32の位置がニップロール16,17の位置に対して安定しない場合をB3と評価した。また、ニップロール16,17の直前位置で、走行中のエンド32の位置がニップロール16,17の位置に対して常に変動する場合をB4と評価した。評価は、B1,B2,B3,B4の順に低くなる。
【0112】
この試験において、比較的良好な評価結果が得られたトウバンド33の1m当たりの繊維油剤含有量の範囲を表1に示す。表1では、製造後のトウバンド33のジエチルエーテル抽出法により測定した1m当たりの繊維油剤の含有量(mg)を記している。
【0113】
また、この試験において、ヤーン31のガイディングの安定性と、エンド32の捲縮装置9の入口(一対のニップロール16,17の直前位置)における安定性との評価結果を表2に示す。
【0114】
表2では、油剤添着条件X1~X10を示す。この油剤添着条件X1~X10では、X1からX10にいくほど、ヤーン31と油剤添着ユニット5との接触圧が増加し、且つ、ヤーン31への繊維油剤の添着量が増加する。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
表1に示すように、No.1~6のトウバンド33全体では、トウバンド1m当たりの繊維油剤の含有量が11.0mg以上64.1mg以内の範囲の値において比較的良好な結果が得られることが分かった。
【0118】
また表2に示すように、No.4~6、即ち、FDが5.0以上8.0以下の範囲の値に設定され、且つ、TDが15000以上20000以下の範囲の値に設定された場合では、トウバンド33の1m当たりの繊維油剤の含有量は、特には11.0mg以上27mg以下の範囲の値であると良好な結果が得られることが分かった。
【0119】
また、本願発明者らの別の検討により、No.1~6のトウバンド全体では、トウバンド1m当たりの繊維油剤の含有量が、15.0mg以上42.8mg未満の範囲の値である場合において一層良好な結果が得られることが分かった。
【0120】
また、No.1~6のトウバンドでは、それぞれのトウバンド1m当たりの繊維油剤の含有量が、5.0mgよりも大きく、特には11.0mg以上であれば、良好が結果が示されることが分かった。
【0121】
従って、酸化チタンを含有しないトウバンドでは、表1に示した下限値(mg)未満の範囲の値である場合においても、ある程度の良好な結果が得られることが分かった。
【0122】
また、表1及び2から明らかな通り、酸化チタンを含有せず、且つ、FDが大きくTDが小さいトウバンドでは、通常のトウバンド(No.1の3Y35000のトウバンド)よりも繊維油剤の含有量を少なくすることが製造安定性を得るために重要であることが判明した。次に、以下のように実施例1~4と比較例1~2を作製し、複数の確認試験を行った。実施例1~4と比較例1~2との捲縮数(個/インチ)は、特開平7-316975号公報に記載の測定方法により、照明を当てたトウバンドの表面を撮像手段により撮像し、撮像した画像をコンピュータ処理することで測定した。
【0123】
[実施例1]
紡糸原液22の目標組成を、CA(アセチル置換度2.5)29.0重量%、アセトン68.5重量%、及び水2.5重量%に設定して、CAがアセトンに溶解された紡糸原液22を作製した。即ち、実施例1のトウバンド33は、酸化チタンを含まないものとした。
【0124】
一辺が60μmの三角形状の開口形状を有する紡糸孔が600個形成された紡糸口金15を用意した。紡糸原液22を50℃に加温し、濾過装置3により濾過した後、紡糸口金15の紡糸孔から吐出させてCAフィラメント30を紡糸した。このときの紡糸速度(一対のニップロール16,17の巻取速度)は、500m/minに設定した。
【0125】
油剤添着ユニット5の繊維油剤エマルションは、繊維油剤をベースとする(w/o)ように調整した。具体的な繊維油剤の組成は、210℃におけるセイボルトユニバーサル粘度が80秒の鉱物油63重量%、ソルビタン脂肪酸エステル16重量%、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル14重量%、及び水7重量%に設定した。これを乳化することにより、濃度5%(繊維油剤が5重量%)のオイルインウォーターである繊維油剤エマルションを調整した。ヤーン31と油剤添着ユニット5との接触圧を調整して、ヤーン31に対する繊維油剤の添着量を調整し、製造後のトウバンド33のジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量を、1m当たり55.7mgとなるように設定した。
【0126】
このような条件で紡糸し且つ繊維油剤を添着したCAフィラメント30を用いてエンド32を作製し、エンド32を捲縮装置9により捲縮した。FDが3.0に設定され、且つ、TDが35000に設定された実施例1のトウバンド33を得た。実施例1のトウバンド33の捲縮数は、1インチ当たり34.0に設定した。得られたトウバンド33は、シガレットフィルター用トウバンドとして、梱包箱に圧縮梱包して(トウ)ベールとした。
【0127】
[実施例2]
製造後のトウバンド33のジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量を、1m当たり41.0mgとなるように調整し、繊維油剤エマルションに含まれる鉱物油として、210℃におけるセイボルトユニバーサル粘度が100秒の鉱物油を67.5部用いた以外は、実施例1と同様の方法により、FDが3.0に設定され、且つ、TDが35000に設定された実施例2のトウバンド33を得た。即ち、実施例2のトウバンド33は、酸化チタンを含まないものとした。実施例2のトウバンド33の捲縮数は、1インチ当たり34.0に設定した。
【0128】
[実施例3]
一辺が58μmの三角形状の開口形状を有する紡糸孔が350個形成された紡糸口金15を用いて紡糸し、製造後のトウバンド33のジエチルエーテル抽出法により測定した繊維油剤の含有量を、1m当たり41.0mgとなるように調整した以外は、実施例1と同様の方法により、FDが2.7より大きく3.0未満の範囲の値に設定され、且つ、TDが35000に設定された実施例3のトウバンド33を得た。即ち、実施例3のトウバンド33は、酸化チタンを含まないものとした。実施例3のトウバンド33の捲縮数は、1インチ当たり34.0に設定した。
【0129】
[実施例4]
一辺が56μmの三角形状の開口形状を有する紡糸孔が600個形成された紡糸口金15を用いて紡糸し、捲縮装置9の設定により捲縮数を変化させた以外は、実施例1と同様の方法により、FDが2.7に設定され、且つ、TDが35000に設定された実施例4のトウバンド33を得た。即ち、実施例4のトウバンド33は、酸化チタンを含まないものとした。実施例4のトウバンド33の捲縮数は、1インチ当たり33.5に設定した。
【0130】
[比較例1]
紡糸原液の目標組成をCA28.9重量%、二酸化チタン0.1重量%、アセトン68.5重量%、及び水2.5重量%に設定して紡糸原液を作製した以外は実施例1と同様の方法により、比較例1のトウバンドを得た。比較例1のトウバンド33の捲縮数は、1インチ当たり34.0に設定した。
【0131】
[比較例2]
紡糸原液の目標組成をCA28.9重量%、二酸化チタン0.1重量%、アセトン68.5重量%、及び水2.5重量%に設定して紡糸原液を作製した以外は実施例3と同様の方法により、比較例2のトウバンドを得た。比較例2のトウバンド33の捲縮数は、1インチ当たり34.0に設定した。これら実施例1~4及び比較例1~2の設定条件を表3に示す。
【0132】
【表3】
【0133】
[試験2]
実施例1及び比較例1の各ヤーンが製造装置1のガイドピン7によりガイディングされる際の各ヤーンとガイドピン7との間の動摩擦係数を測定した。具体的には、ヤーンとの接触領域の表面粗さが一定の複数のガイドピン7(直径10mm)を準備した。ガイドピン7に対するヤーンの接触角θは、135°に設定した。ここで言う接触角θは、ガイドピン7の軸方向から見て、ガイドピン7よりも搬送方向のヤーンと、ガイドピン7よりも搬出方向側のヤーンとの間の角度として定義される。
【0134】
これらのガイドピン7を用い、製造装置1のガイドピン7の搬出方向下流側において、巻取装置を用いて所定の巻取速度でヤーンを巻き取った。この巻き取りの際、ゴデットロール6とガイドピン7との間におけるヤーンの張力T1と、ガイドピン7と巻取装置との間におけるヤーンの張力T2との差分(T2-T1)を摩擦張力として計算した。なお、この計算方法については、例えば特開2004-068198号公報の記載を参照できる。
【0135】
前記巻取装置におけるヤーンの巻取速度は、200,400,600,800,及び1000m/minのいずれかに設定した。また動摩擦係数は、上記計算した摩擦張力値と、接触角θ[rad]とを用いて、以下の式3により算出した。
[式3]
動摩擦係数(μd)=1/θLog(T2/T1)

この測定結果を表4に示す。
【0136】
【表4】
【0137】
表4から明らかな通り、実施例1のヤーン31の動摩擦係数は、巻取速度により変化することが分かった。実施例1のヤーン31の動摩擦係数は、巻取速度が600m/minである場合に最大になったが、巻取速度が低速側又は高速側の何れに設定されている場合も、動摩擦抵抗は低下した。それに対して比較例1のヤーンは、巻取速度に対して略一定の高い動摩擦抵抗を示した。表3に示す結果から、ヤーンとガイドピンとの間の動摩擦係数は、ヤーンが酸化チタンを含まない場合の方が、ヤーンが酸化チタンを含む場合よりも小さくなることが確認された。
【0138】
[試験3]
実施例1,2及び比較例1の各ヤーンがガイドピン7,8によりガイドされる際のガイドピン7,8からヤーンに作用する低速摩擦力(g)を測定した。具体的には、水平方向に延びるように配置した直径1.5mmの金属ピン(ガイドピン7,8に見立てたもの)にヤーンを450°(5/4周分)巻き付けた状態とした。
【0139】
この状態で、ヤーンの一方の端部に所定荷重S1(ここでは30g)を負荷した状態で垂らし、且つ、ヤーンの他方の端部を金属ピンよりも上方に配置した滑車付バネ計に通した。
【0140】
そして、滑車付バネ計の滑車により、ヤーンの他方の端部を一方の端部側に180°回して下方に案内し、ヤーンの他方の端部を巻取りロールにより巻取速度3cm/minで巻き取った。この巻取時にヤーンに作用する張力S2を測定した。この測定値を用いて、以下の式3により低速摩擦力(g)を算出した。
[式3]

低速摩擦力(g)=(S2-S1)/2

但し、S1は、滑車付バネ計により測定した測定値である。S2は、ヤーンの前記一方の端部に掛けた荷重(上記場合は30g)である。この算出結果を表5に示す。
【0141】
【表5】
【0142】
表5に示されるように、トウバンドが酸化チタンを含まない場合(実施例1)は、トウバンドが酸化チタンを含む場合(比較例1)に比べて、ガイドピンに見立てた直径1.5mmの金属ピンからヤーンに作用する低速摩擦力が若干低下することが分かった。
【0143】
しかしながら、実施例2のようにトウバンドの繊維油剤の含有量を減少させた場合は、金属ピンからヤーンに作用する低速摩擦力は、比較例1と同程度まで増加することが分かった。
【0144】
具体的には、実施例2の金属ピンからヤーンに作用する低速摩擦力は、実施例1の金属ピンからヤーンに作用する低速摩擦力に比べて約5%増加することが分かった。これにより実施例2では、実施例1に比べてヤーンをガイドピン7,8から受ける摩擦力により安定してガイディングできると考えられる。
【0145】
[試験4]
実施例3及び比較例2において、ゴデットロールの巻取速度V2を700,800,及び900m/minのいずれかに設定した。これにより、紡糸口金に対する紡糸原液の供給量を変化させ、各紡糸孔から紡糸原液を安定して吐出可能なドラフト(draft)範囲を調べた。
【0146】
ここでドラフトとは、吐出速度V1と巻取速度V2との比V2/V1として定義される。紡糸口金への紡糸原液の供給量を減少していくと、紡糸孔から吐出される糸が細くなる。そして、CAフィラメントを安定して巻き取ることが不可能となる。この巻取りが不可能となる時点の比V2/V1が最高ドラフトと定義される。表6に、実施例3及び比較例2の異なる巻取速度V2において測定した最高ドラフトの値を示す。図2は、実施例3及び比較例2におけるヤーンの巻取速度V2と最高ドラフトとの関係を示す図である。
【0147】
【表6】
【0148】
表6及び図2に示すように、試験した巻取速度の範囲において、実施例3は、比較例2に比べて最高ドラフト範囲が広いことが分かった。これにより、上記実施形態によりトウバンドを製造する場合、ドラフトの安定範囲(ドラフトの下限値(1.0)とドラフトの上限値(最高ドラフト値)との間の範囲)を広く確保できると考えられる。
【0149】
ドラフトの安定範囲を広く確保することで、CAフィラメントを紡糸する際、紡糸原液の濃度、粘度、温度、及び流路の少なくともいずれかが変動することで糸切れが生じるのを防止できる。このように、CAフィラメントの曳糸性が向上されることで、CAトウバンドの製造効率の向上を期待できる。
【0150】
また、試験した巻取速度の範囲では、実施例3は、比較例2に比べて、最高ドラフト値が高いことが分かった。このように、最高ドラフト値を増大することで、ドラフトの設定自由度を向上できる。言い換えると、同一の紡糸口金15を用いて製造可能なCAフィラメント30のFDの範囲を拡大できる。
【0151】
具体的には、例えば、同一の紡糸口金15を用いて、ドラフト値を低減することによりFDの大きいCAフィラメント30を紡糸でき、且つ、ドラフト値を増大することによりFDの小さいCAフィラメント30を紡糸できる。
【0152】
従って、従来であれば、紡糸孔の孔径が小さい紡糸口金15に交換しなければ糸切れが発生するおそれのあるFDが小さいCAフィラメント30を紡糸する場合でも、紡糸口金15を交換することなく、ドラフト値を調整することにより、CAフィラメント30を安定して紡糸できる。これにより、紡糸口金15の交換のために製造ラインを停止させることなく、同一の紡糸口金15を用いて、FDが異なる複数の品種のCAフィラメント30を効率よく製造できる。
【0153】
また、同一の紡糸口金15を用いながらドラフト値を調整することで異なるFDのCAフィラメント30を紡糸できる。このため、例えば、紡糸孔の孔径を比較的大きい値に設定できる。これにより、万一、紡糸原液22中にある程度の大きさの不純物が含まれていても、不純物により紡糸口金15の紡糸孔が閉塞されるのが防止される。よって、CAフィラメント30を安定して紡糸できると考えられる。
【0154】
[試験5]
ボルグワルド(Borgwardt)(株)製試験機「トウテスターG02」を用いて、実施例4のトウバンド33のクリンピング(%)を測定した。この測定に際しては、捲縮装置9の設定(一対のニップロール16,17間の間隙や、スタッフィングボックス18に配置された上下一対の板状部材(図1参照)の水平方向に対する傾斜角度等の調整)により、クリンピング(%)の値が異なるように捲縮された9片の実施例4のトウバンド(長さ250mm)を用意した。
【0155】
各トウバンド33におけるCAフィラメント30の捲縮が伸びる方向の一端の位置を固定し、各トウバンド33におけるCAフィラメント30の他端を前記試験機の測定ヘッドに固定した状態で、測定ヘッドを前記方向に沿って移動速度300mm/分で移動させることにより、長さL0,L1を測定した。
【0156】
この測定方法により測定した9片の実施例4のトウバンド33は、クリンピング(%)の値が18%以上32%以下の範囲の値であった。これにより、実施例4のトウバンド33のクリンピング(%)が、10%以上40%以下の範囲の値に設定されていることが分かった。
【0157】
本発明は、実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その構成及び方法を変更、追加、又は削除できる。
【産業上の利用可能性】
【0158】
以上のように本発明は、セルロースアセテート繊維を紡糸する際の糸切れを防止することにより、セルロースアセテートトウバンドの製造効率を向上できる優れた効果を有する。従って、この効果の意義を発揮できるセルロースアセテートトウバンド、及び、セルロースアセテートトウバンドの製造方法に本発明を広く適用すると有益である。
【符号の説明】
【0159】
6 ゴデットロール
15 紡糸口金
22 紡糸原液
30 セルロースアセテート繊維
33 セルロースアセテートトウバンド
図1
図2