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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】無電解パラジウムめっき液
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/44 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
C23C18/44
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017195651
(22)【出願日】2017-10-06
(65)【公開番号】P2019070172
(43)【公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000189327
【氏名又は名称】上村工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】前田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】田邉 克久
(72)【発明者】
【氏名】和田 真輔
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-009305(JP,A)
【文献】特開2007-098563(JP,A)
【文献】特開2000-256866(JP,A)
【文献】特開2011-225927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム化合物と、
次亜リン酸化合物、および亜リン酸化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種と、
アミンボラン化合物、及びヒドロホウ素化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種と、
錯化剤とを含有することを特徴とする無電解パラジウムめっき液。
【請求項2】
前記アミンボラン化合物は、ジメチルアミンボラン、及びトリメチルアミンボランよりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記ヒドロホウ素化合物は水素化ホウ素塩である請求項1に記載の無電解パラジウムめっき液。
【請求項3】
前記錯化剤はアンモニア、及びアミン化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の無電解パラジウムめっき液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無電解パラジウムめっき液、及び無電解パラジウムめっき皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
電子工業分野においてプリント基板の回路、ICパッケージの実装部分や端子部分などの表面処理法として、はんだ接合性、及びワイヤボンディング性などのめっき皮膜特性に優れた効果を付与できる無電解ニッケル/無電解パラジウム/置換金法(Electroless Nickel Electroless Palladium Immersion Gold:ENEPIG)が汎用されており、ENEPIGプロセスによって無電解ニッケルめっき皮膜(以下、「Niめっき皮膜」ということがある)、無電解パラジウムめっき皮膜(以下、「Pdめっき皮膜」ということがある)、置換金めっき皮膜(以下、「Auめっき皮膜」ということがある)を順次施しためっき皮膜(以下、「無電解Ni/Pd/Auめっき皮膜」ということがある)が汎用されている。
【0003】
近年、電子部品の小型化、高密度化に伴って要求されるめっき皮膜特性に対応するために例えば無電解パラジウムめっき液(以下、「無電解Pdめっき液」ということがある)を改良することでめっき皮膜特性を改良する技術が提案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、安定化剤として硫黄化合物に代えてビスマスまたはビスマス化合物を用いることにより、硫黄化合物を用いた場合と同程度に浴安定性が高く、耐食性、ハンダ接合性、ワイヤボンディング性に優れた皮膜が得られる無電解Pdめっき液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4596553号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
汎用されている無電解Ni/Pd/Auめっき皮膜は、リフロー処理など高温の熱履歴に晒される前であれば優れたワイヤボンディング性を示すが、高温の熱履歴後はワイヤボンディング性が著しく低下するという問題があった。
【0007】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、高温の熱履歴後も優れたワイヤボンディング性を有するめっき皮膜を構成するPdめっき皮膜が得られる無電解Pdめっき液、及びPdめっき皮膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決した本発明の無電解パラジウムめっき液は、パラジウム化合物と、次亜リン酸化合物、および亜リン酸化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種と、アミンボラン化合物、及びヒドロホウ素化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種と、錯化剤とを含有することに要旨を有する。
【0009】
本発明の無電解パラジウムめっき液の好ましい実施態様として以下の要件を任意に組み合わせた構成も含まれる。
(i)上記アミンボラン化合物はジメチルアミンボラン、及びトリメチルアミンボランよりなる群から選ばれる少なくとも1種であること、
(ii)上記ヒドロホウ素化合物は水素化ホウ素塩であること、
(iii)上記錯化剤はアンモニア、及びアミン化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種であること
【0010】
また本発明にはリン、及びホウ素を含有することを特徴とする無電解パラジウムめっき皮膜も含まれる。該無電解パラジウムめっき皮膜の表面に更に無電解金めっき皮膜を有する構成も無電解パラジウムめっき皮膜の好ましい実施態様である。
【0011】
本発明には上記無電解パラジウムめっき皮膜を有する電子機器構成部品も含まれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の無電解Pdめっき液を用いることによって、リフロー処理など高温の熱履歴後も優れたワイヤボンディング性を有するめっき皮膜を構成するPdめっき皮膜が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
Pdめっき皮膜上にAuめっき皮膜を形成した積層めっき皮膜(以下、「Pd/Au積層めっき皮膜」ということがある)がリフローなど高温の熱履歴に晒されると、その後のワイヤボンディングの接続成功率が著しく低下する原因について本発明者らが鋭意検討した。その結果、高温の熱履歴に晒されるとPdがAuめっき皮膜表面に拡散し、Auめっき皮膜表面で形成されたPd-Au固溶体に起因してワイヤボンディングの接続成功率が低下すると考えた。このような問題の解決策の一つとして、Auめっき皮膜を厚く形成することが考えられるが、コストが大幅に上昇する。
【0014】
本発明者らが更に検討を重ねた結果、Auめっき皮膜の下地層としてP、及びB両方を含有するPdめっき皮膜(以下、「P-B-Pd三元系合金皮膜」ということがある)を形成すれば高温の熱履歴後のワイヤボンディング性を改善できることを見出した。すなわち、Pdめっき皮膜にPとBの両方を含有させると、高温の熱履歴を受けてもAuめっき皮膜表面でのPd-Au固溶体の形成を抑制でき、その結果、従来のAuめっき皮膜と同等、或いはそれ以下の厚みであっても従来よりも優れたワイヤボンディング性が得られることが判明した。
【0015】
このような効果を奏するP-B-Pd三元系合金皮膜は、本発明の無電解Pdめっき液を用いることによって容易に形成できる。具体的に本発明の無電解Pdめっき液は、パラジウム化合物と、次亜リン酸化合物、および亜リン酸化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種と、アミンボラン化合物、及びヒドロホウ素化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種と、錯化剤とを含有する無電解Pdめっき液である。
【0016】
なお、無電解Pdめっき液に使用する還元剤は複数知られており、本発明のめっき液に用いられる次亜リン酸化合物、亜リン酸化合物、アミンボラン化合物、及びヒドロホウ素化合物もその一部である。しかしながら従来は還元力の異なる複数の還元剤を併用すると、めっき液の安定性が悪くなり、異常析出などが生じてめっき皮膜特性が悪化するため還元剤を併用することはなかった。特に次亜リン酸化合物や亜リン酸化合物は単独で十分な還元力を有しているため、他の還元剤と併用する必要性も全くなかった。ところが、熱履歴によるPdのAuめっき皮膜への固溶抑制効果は還元剤の単独添加や上記以外の還元剤の併用では得られず、本発明の上記特定の組み合わせにおいてのみ、上記問題を生じることなく、実用レベルでPdめっき皮膜を形成できることが明らかになったと共に、このような固溶抑制効果は、上記組み合わせでのみ得られる特有の効果である。
【0017】
パラジウム化合物
パラジウム化合物はパラジウムめっきを得るためのパラジウムイオンの供給源である。パラジウム化合物としては、水溶性であればよく、例えば塩化パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウムなどの無機水溶性パラジウム塩;テトラアミンパラジウム塩酸塩、テトラアミンパラジウム硫酸塩、テトラアミンパラジウム酢酸塩、テトラアミンパラジウム硝酸塩、ジクロロジエチレンジアミンパラジウムなどの有機水溶性パラジウム塩などを用いることができる。これらのパラジウム化合物は、単独、又は2種以上を混合して用いてもよい。無電解Pdめっき液中のPdイオン濃度は限定されないが、Pdイオン濃度が低すぎるとめっき皮膜の析出速度が著しく低下することがある。一方、Pdイオン濃度が高すぎると異常析出などにより皮膜物性が低下するおそれがある。したがってめっき液中のパラジウム化合物の含有量はPdイオン濃度として、好ましくは0.01g/L以上、より好ましくは0.1g/L以上、更に好ましくは0.3g/L以上、より更に好ましくは0.5g/L以上、好ましくは10g/L以下、より好ましくは5g/L以下、更に好ましくは3g/L以下である。なお、Pdイオンは原子吸光分光光度計を用いた原子吸光分光分析(Atomic Absorption Spectrometry,AAS)による測定である。
【0018】
本発明の無電解Pdめっき液では、Pdの固溶抑制効果を発揮させるために(1)次亜リン酸化合物、および亜リン酸化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種と(以下、「リン酸化合物」ということがある)、(2)アミンボラン化合物、及びヒドロホウ素化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種(以下、「ホウ素化合物」ということがある)とを併用する必要がある。
【0019】
(1)次亜リン酸化合物、および亜リン酸化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種
これらはPdめっき皮膜へのP供給源であると共に、無電解Pdめっき液においてはPdを析出させる還元剤として作用する。次亜リン酸化合物としては次亜リン酸、及び次亜リン酸ナトリウムなどの次亜リン酸塩が例示され、亜リン酸化合物としては亜リン酸、及び亜リン酸ナトリウムなどの亜リン酸塩が例示される。次亜リン酸化合物、及び亜リン酸化合物は単独、又は組み合わせてもよい。無電解Pdめっき液中の次亜リン酸化合物、及び/または亜リン酸化合物の含有量が少なすぎるとめっき処理時の析出速度が低下すると共に、高温熱履歴によるAuめっき皮膜へのPdの固溶抑制効果が十分に得られず、ワイヤボンディング性が悪化することがある。無電解Pdめっき液中の次亜リン酸化合物、及び亜リン酸化合物の含有量が多いほど、上記固溶抑制効果は向上するが、無電解Pdめっき液の安定性が低下することがある。無電解Pdめっき液中の次亜リン酸化合物、及び亜リン酸化合物の含有量(単独で含むときは単独の量であり、2種以上を含むときは合計量である。)は好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは0.5g/L以上、更に好ましくは1g/L以上、より更に好ましくは2g/L以上であって、好ましくは100g/L以下、より好ましくは50g/L以下、更に好ましくは20g/L以下、より更に好ましくは15g/L以下である。
【0020】
(2)アミンボラン化合物、及びヒドロホウ素化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種
これらはPdめっき皮膜へのホウ素供給源であると共に、無電解Pdめっき液においてはパラジウムを析出させる還元剤として作用する。アミンボラン化合物としてはジメチルアミンボラン(DMAB)、及びトリメチルアミンボラン(TMAB)が例示され、ヒドロホウ素化合物としては水素化ホウ素ナトリウム(SBH)、及び水素化ホウ素カリウム(KBH)などの水素化ホウ素アルカリ金属塩が例示される。本発明ではジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、水素化ホウ素ナトリウム、および水素化ホウ素カリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。無電解Pdめっき液中のホウ素化合物の含有量が少なすぎるとめっき処理時の析出速度が低下すると共に、高温熱履歴によるAuめっき皮膜へのPdの固溶抑制効果が十分に得られず、ワイヤボンディング性が悪化することがある。無電解Pdめっき液中のホウ素化合物含有量が多いほど、上記固溶抑制効果が向上するが、無電解Pdめっき液の安定性が低下することがある。無電解Pdめっき液中のホウ素化合物の含有量(単独で含むときは単独の量であり、2種以上を含むときは合計量である。)は好ましくは0.01g/L以上、より好ましくは0.1g/L以上、更に好ましくは0.5g/L以上、より更に好ましくは1g/L以上であって、好ましくは100g/L以下、より好ましくは50g/L以下、更に好ましくは30g/L以下、より更に好ましくは20g/L以下である。
【0021】
錯化剤
錯化剤は、主に無電解Pdめっき液のPdの溶解性を安定化させる作用を有する。錯化剤としては各種公知の錯化剤でよく、好ましくはアンモニア、及びアミン化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種、より好ましくはアミン化合物である。アミン化合物としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ベンジルアミン、メチレンジアミン、エチレンジアミン、エチレンジアミン誘導体、テトラメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、エチレンジアミン四酢酸(Ethylene Diamine Tetraacetic Acid:EDTA)、又はそのアルカリ金属塩、EDTA誘導体、グリシンなどが挙げられる。錯化剤は単独、又は2種以上を併用できる。無電解Pdめっき液中の錯化剤の含有量(単独で含むときは単独の量であり、2種以上を含むときは合計量である。)は上記作用が得られるように適宜調整すればよく、好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは1g/L以上、更に好ましくは3g/L以上、より更に好ましくは5g/L以上であって、好ましくは50g/L以下、より好ましくは30g/L以下である。
【0022】
本発明の無電解Pdめっき液は上記成分組成を有すれば上記効果を奏するため、上記成分組成のみで構成されていてもよいが、必要に応じてpH調整剤、安定化剤などの各種添加剤を含有していてもよい。
【0023】
pH調整剤
本発明の無電解Pdめっき液は、pHが低すぎるとPdの析出速度が低下しやすく、一方、pHが高すぎると無電解Pdめっき液の安定性が低下することがある。好ましくはpH4~10、より好ましくはpH6~8である。無電解Pdめっき液のpHは公知のpH調整剤を添加して調整できる。pH調整剤としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、りん酸等の酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等のアルカリが挙げられる。これらは1種又は2種以上を併用できる。
【0024】
安定化剤
安定化剤は、めっき安定性、めっき後の外観向上、めっき皮膜形成速度調整などの目的で必要に応じて添加される。本発明の無電解Pdめっき液は、公知の硫黄含有化合物を更に含有できる。硫黄含有化合物としては、例えば、チオエーテル化合物、チオシアン化合物、チオカルボニル化合物、チオール化合物、チオ硫酸及びチオ硫酸塩から選ばれる1種又は2種以上が好ましい。具体的には、メチオニン、ジメチルスルホキシド、チオジグリコール酸、ベンゾチアゾール等のチオエーテル化合物;チオシアン酸、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウム等のチオシアン化合物;チオ尿素又はその誘導体などのチオカルボニル化合物;システイン、チオ乳酸、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、ブタンチオール等のチオール化合物;チオ硫酸ナトリウム等のチオ硫酸塩が挙げられる。これらの硫黄含有化合物は、単独、又は二種以上を混合して用いることもできる。無電解Pdめっき液中の安定化剤の含有量(単独で含むときは単独の量であり、2種以上含む場合は合計量である。)はめっき安定性などの効果が得られるように適宜調整すればよく、好ましくは0.1mg/L以上、より好ましくは0.5mg/L以上、好ましくは500mg/L以下、より好ましくは100mg/L以下である。
【0025】
なお、本発明の無電解Pdめっき液には界面活性剤は含まない。本発明の無電解Pdめっき液に界面活性剤を添加すると、得られるPdめっき皮膜表面に界面活性剤が吸着された状態となり、Auめっき皮膜の成膜性が劣る。その結果、ワイヤボンディング性も悪化する。界面活性剤とは各種公知の非イオン性、カチオン性、アニオン性、及び両性界面活性剤である。
【0026】
本発明には、上記無電解Pdめっき液を用いたP、及びBを含有するPdめっき皮膜が含まれる。Pdの固溶抑制効果はPdめっき皮膜にP、及びB両方が含まれていれば得られるため、各含有量は限定されないが、Pdめっき皮膜に含まれるPやBの含有量が増えると、より優れたPdの固溶抑制効果が得られる。Pdめっき皮膜中のP含有量は好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。またPdめっき皮膜におけるB含有量は好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。またPとBの比率を適切に制御することでより優れたPdの固溶抑制効果が得られる。無電解Pdめっき皮膜中におけるPとBの含有量の質量比率(P:B)は、好ましくは10:1~1:10、より好ましくは5:1~1:5である。本発明のPdめっき皮膜はP、Bが含まれていればよく、更に上記各種添加剤に由来する成分が含まれていてもよい。残部はPb、及び不可避的不純物である。
【0027】
本発明の無電解Pdめっき液は好ましくは電子部品のボンディング用めっきなどに使用されるPdめっき皮膜にAuめっき皮膜を積層させたPd/Au積層めっき皮膜用途にも好適である。したがって本発明のPdめっき皮膜とAuめっき皮膜とを有する積層めっき皮膜とすることも好ましい実施態様である。本発明のPdめっき皮膜は少なくともAuめっき皮膜を積層させたPd/Au積層めっき皮膜においてPdの固溶抑制効果を確認できる。したがってPdめっき皮膜を形成する下地は限定されず、AlやAl基合金、CuやCu基合金など各種公知の基材や、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ag、Au、Ptなど、及びこれらの合金といったPdめっき皮膜の還元析出に触媒性のある金属で基材を被覆しためっき皮膜を挙げることができる。また触媒性のない金属であっても、種々の方法により被めっき物として用いることができる。
【0028】
また好ましい他の実施態様として、本発明の無電解Pdめっき液は、ENEPIGプロセスに適用できる。ENEPIGプロセスでは、例えば電極を構成するAlやAl基合金、CuやCu基合金の上に、Niめっき皮膜、次いで、Pdめっき皮膜、次いでその上にAuめっき皮膜を形成することで本発明のPdめっき皮膜を含む無電解Ni/Pd/Auめっき皮膜が得られる。なお、各めっき皮膜の形成は、通常行われている方法を採用すればよい。以下、ENEPIGプロセスに基づいて本発明のPdめっき皮膜を有する無電解Ni/Pd/Auめっき皮膜の製造方法について説明するが、本発明のPdめっき皮膜の形成条件はこれに限定されず、公知技術に基づいて適宜変更可能である。
【0029】
無電解Niめっき液を用いて無電解Niめっきを行うときのめっき条件及びめっき装置は特に限定されず、各種公知の方法を適宜選択できる。例えば温度50~95℃の無電解Niめっき液に被めっき物を15~60分程度接触させればよい。Niめっき皮膜の膜厚は要求特性に応じて適宜設定すればよく、通常は3~7μm程度である。また無電解Niめっき液にはNi-P合金、Ni-B合金など各種公知の組成を使用できる。
【0030】
本発明の無電解Pdめっき液を用いて無電解Pdめっきを行うときのめっき条件及びめっき装置は特に限定されず、各種公知の方法を適宜選択できる。例えば温度50~95℃の無電解Pdめっき液にNiめっき皮膜が形成された被めっき物を15~60分程度接触させればよい。Pdめっき皮膜の膜厚は要求特性に応じて適宜設定すればよく、通常は0.001~0.5μm程度である。
【0031】
無電解金めっき液を用いて無電解金めっきを行うときのめっき条件及びめっき装置は特に限定されず、各種公知の方法を適宜選択できる。例えば温度40~90℃の無電解金めっき液にPdめっき皮膜が形成された被めっき物を3~20分程接触させればよい。金めっき皮膜の膜厚は要求特性に応じて適宜設定すればよく、通常は0.01~2μm程度である。
【0032】
本発明のPdめっき皮膜を用いれば、リフロー処理などめっき皮膜形成後の実装工程での熱履歴によってPdめっき皮膜からのパラジウムのAuめっき皮膜への拡散、固溶が抑制できるため、熱履歴後も優れたワイヤボンディング性を実現できる。熱履歴の温度は実装工程で想定される温度であり、特に限定されない。本発明のPdめっき皮膜を用いれば、例えば50℃以上、より好ましくは100℃以上の高温の熱履歴後でも優れたワイヤボンディング性を実現できる。
【0033】
電子機器構成部品
本発明には上記めっき皮膜を有する電子機器構成部品も包含される。電子機器構成部品として、例えばチップ部品、水晶発振子、バンプ、コネクタ、リードフレーム、フープ材、半導体パッケージ、プリント基板等の電子機器を構成する部品が挙げられる。特にウェハー上のAl電極またはCu電極に対して、はんだ接合およびワイヤボンディング(W/B)接合を目的としたUBM(Under Barrier Metal)形成技術に好適に用いられる。本発明の無電解Pdめっき液を用いたPdめっき皮膜に、Auめっき皮膜を積層させることで熱履歴後も優れたワイヤボンディング性を実現できる。
【実施例
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0035】
BGA基板(Ball Grid Array:上村工業製、5cm×5cm)に表1に示す前処理、めっき処理を順次行って基板側から順にNiめっき皮膜、Pdめっき皮膜、Auめっき皮膜が形成された試験片1~18を製造した。得られた試験片のワイヤボンディング性を調べた。
【0036】
ワイヤボンディング性
試験装置(TPT社製セミオートマチックワイヤボンダHB16)によりワイヤボンディングを行い、Dage社製ボンドテスターSERIES4000により、以下の測定条件で1条件につき20点評価した。なお、測定は熱処理前、及び熱処理後(175℃で16時間保持)に行った。ワイヤボンディング性評価として熱処理後のワイヤボンディング平均強度が9.0g以上である場合を「優」、8.5g以上9.0g未満である場合を「良」、7.5g以上8.5g未満を「可」、7.5g未満である場合を「不良」とした。
【0037】
[測定条件]
キャピラリー:B1014-51-18-12(PECO社製)
ワイヤー:1mil-Auワイヤー(SPM社製)
ステージ温度:150℃
超音波(mW):250(1st),250(2nd)
ボンディング時間(ミリ秒):200(1st),50(2nd)
引っ張り力(gf):25(1st),50(2nd)
ステップ(第1から第2への長さ):0.7mm
測定方式:ワイヤープルテスト
装置:万能型ボンドテスター#4000(ノードソン・アドバンスト・テクノロジー社製)
テストスピード:170μm/秒
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
表2に示す様に、本発明で規定する[錯化剤]と、[次亜リン酸化合物、及び/又は亜リン酸化合物]と、[アミンボラン化合物、及び/又はヒドロホウ素化合物]と、を含む無電解Pdめっき液を使用した試験片No.1~9の熱処理後のワイヤボンディング性はいずれも「良」評価以上であった。
【0041】
一方、本発明の規定を満足しないPdめっき液を使用した試験片No.10~18の熱処理後のワイヤボンディング性はいずれも「不良」評価であった。