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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】金属樹脂複合体、及び、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20220929BHJP
   B29C 45/27 20060101ALI20220929BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20220929BHJP
   B32B 15/09 20060101ALI20220929BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20220929BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220929BHJP
   H01L 33/64 20100101ALI20220929BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C45/27
B32B15/08 N
B32B15/09 Z
C08K3/00
C08L101/00
H01L33/64
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2017521691
(86)(22)【出願日】2016-05-30
(86)【国際出願番号】 JP2016002615
(87)【国際公開番号】W WO2016194361
(87)【国際公開日】2016-12-08
【審査請求日】2019-04-02
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2015113372
(32)【優先日】2015-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江▲崎▼ 俊朗
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】井口 猶二
【審判官】加々美 一恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-52671(JP,A)
【文献】特開2008-31358(JP,A)
【文献】特開2004-50488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性樹脂組成物よりなる部材と、表面処理により表面に数平均内径が1~200nmである凹部が形成された金属よりなる部材とが、前記熱伝導性樹脂組成物の射出成形によって前記凹部に前記熱伝導性樹脂組成物が流入して固着することで、接触接合されている金属樹脂複合体であって、
前記熱伝導性樹脂組成物が熱可塑性樹脂(A)と無機充填材(B)を含有し、面方向の熱伝導率が1W/(m・K)以上のものであり、
前記熱可塑性樹脂(A)が、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートの何れか1種以上であり、
前記無機充填材(B)が以下の(B1)から選択される少なくとも1種であり、
前記熱伝導性樹脂組成物全体100重量%に対し前記無機充填材(B)の含有量が30~60重量%であることを特徴とする、金属樹脂複合体。
(B1)熱伝導率が2W/(m・K)以上で、体積平均粒子径が68~200μmである鱗片状黒鉛。
【請求項2】
前記表面処理が、金属よりなる部材を、酸性水溶液及び/又は塩基性水溶液に浸漬する処理を含むことを特徴とする請求項1に記載の金属樹脂複合体。
【請求項3】
前記表面処理が、金属よりなる部材を、酸性水溶液及び/又は塩基性水溶液に浸漬する第一処理と、前記第一処理後の前記金属よりなる部材を、アンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む水溶液に浸漬する第二処理とを含むことを特徴とする請求項1に記載の金属樹脂複合体。
【請求項4】
前記表面処理が、金属よりなる部材の表面にレーザーを照射する処理を含むことを特徴とする請求項1に記載の金属樹脂複合体。
【請求項5】
前記レーザーが連続波レーザーであり、前記凹部が前記金属よりなる部材の厚さ方向に形成されるとともに、該凹部がさらに微細な凹部で覆われていることを特徴とする請求項4に記載の金属樹脂複合体。
【請求項6】
前記熱伝導性樹脂組成物の比重が1.2~2.1であることを特徴とする、請求項1~5の何れかに記載の金属樹脂複合体。
【請求項7】
前記金属樹脂複合体に含まれる鱗片状黒鉛(B1)が、固定炭素量が98質量%以上であり、アスペクト比が21以上であることを特徴とする、請求項1~6の何れかに記載の金属樹脂複合体。
【請求項8】
前記鱗片状黒鉛(B1)が、天然黒鉛であることを特徴とする請求項1~7の何れかに記載の金属樹脂複合体。
【請求項9】
前記無機充填材(B)が、(B2)熱伝導率が1W/(m・K)以上で、数平均繊維径1~50μm、数平均繊維長6mm以下である無機繊維をさらに含有する、請求項1~8の何れかに記載の金属樹脂複合体。
【請求項10】
前記ポリブチレンテレフタレート、及びポリエチレンテレフタレートの数平均分子量が12,000~70,000であることを特徴とする、請求項1~9の何れかに記載の金属樹脂複合体。
【請求項11】
前記熱伝導性樹脂組成物の厚み方向の熱伝導率が0.5W/(m・K)以上であることを特徴とする、請求項1~10の何れかに金属樹脂複合体。
【請求項12】
前記金属が、アルミニウム、銅、マグネシウム及びこれらの合金からなる群より選ばれる金属であることを特徴とする、請求項1~11の何れかに記載の金属樹脂複合体。
【請求項13】
絶縁性を有する樹脂又は樹脂組成物から形成された部材をさらに含むことを特徴とする、請求項1~12の何れかに記載の金属樹脂複合体。
【請求項14】
前記金属樹脂複合体がゲート痕および基盤部を有するものであって、前記ゲート痕の厚みに対して、前記基盤部の厚み比が2以上であることを特徴とする、請求項1~13の何れかに記載の金属樹脂複合体。
【請求項15】
前記ゲート痕が、2つ以上であることを特徴とする、請求項14に記載の金属樹脂複合体。
【請求項16】
前記金属樹脂複合体が、発熱体を冷却するための複合体であり、該発熱体は前記金属部材側に設置することを特徴とする、請求項1~15の何れかに記載の金属樹脂複合体。
【請求項17】
前記金属樹脂複合体は、フィンを含むヒートシンク形状であることを特徴とする、請求項1~16の何れかに記載の金属樹脂複合体。
【請求項18】
前記金属樹脂複合体が、LEDモジュールを冷却するためのヒートシンクであることを特徴とする、請求項1~17の何れかに記載の金属樹脂複合体。
【請求項19】
前記ヒートシンクが、自動車用LEDランプヒートシンクであることを特徴とする、請求項18に記載の金属樹脂複合体。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載の金属樹脂複合体を製造する方法であって、
前記表面処理により表面に数平均内径が1~200nmである凹部が形成された金属よりなる部材の存在下、前記熱伝導性樹脂組成物を射出成形して前記凹部に前記熱伝導性樹脂組成物が流入して固着することで、前記熱伝導性樹脂組成物よりなる部材と前記金属よりなる部材とを接触接合する工程を含む、方法。
【請求項21】
前記熱伝導性樹脂組成物を溶融混練により製造する工程をさらに含み、
当該溶融混練前の鱗片状黒鉛(B1)の体積平均粒子径が10~700μmであることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性樹脂組成物と表面処理を施した金属を射出成形により一体成形した金属樹脂複合体に関するものである。さらに詳しくは、優れた放熱性及び成形加工性を有し、金属に比べて軽量可能な金属樹脂複合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の小型化、高集積化に伴い、実装部品の発熱や使用環境の高温化が顕著となり、構成部材の放熱性向上に対する要求が高くなっている。特に自動車部材やハイパワーLEDの放熱部材には現在熱伝導率の高い金属やセラミックスが用いられているが、軽量化、加工性や形状の自由度を高めるために、高い熱伝導性、及び成形加工性を有した熱伝導性樹脂材料が求められている。しかし、熱伝導性樹脂材料の高熱伝導化には限界があり、金属に比べて放熱性が劣る場合があり、放熱性を高める技術が求められている。
【0003】
放熱性を高める方法として、樹脂と金属を一体化させる方法が知られている。特許文献1には、熱伝導性を有する液晶ポリエステル樹脂組成物と金属との複合体について記載されている。しかし、これは表面処理を施していない金属との複合体であり、金属と樹脂との接合挙動については記載されていない。
【0004】
一般的に、樹脂は成形時に熱収縮するため、表面処理していない金属と樹脂を複合させる際、金属と樹脂の接合面には空間が生じる。その空間が熱抵抗となり、伝熱が不十分となるため改良の余地があった。また、熱伝導性樹脂組成物は高い熱伝導性を有しており、溶融樹脂が金型内に流入する際、固化速度が速いため、表面処理によって生じた金属表面の微細な凹部に樹脂が流入しにくく、接合強度は不十分になるという問題があった。そのため、金属と熱伝導性樹脂組成物を一体化させる場合、金属と樹脂の界面に熱抵抗を低減させる別の材料を用いる必要があったが、これら材料は一般的に高価な材料であるため、コストが高くなる問題があった。また、事前に樹脂の成形体を作製した後、金属部材と樹脂部材を接着剤、熱溶着や振動溶着等によって固定する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-024959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、熱伝導性樹脂組成物と表面処理を施した金属を射出成形により一体成形させることで金属と樹脂の界面を密着させた、容易に製造可能な金属樹脂複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、熱可塑性樹脂と特定の形状を有する無機充填材とを含有する熱伝導性樹脂組成物と表面処理を施した金属を射出成形によって一体成形して、金属表面の微細な凹部に熱伝導性樹脂組成物が流入して固着することで、樹脂と金属の界面を接合させることができる。さらには、金属と樹脂の界面に熱低減材料の設置や金属固定を要する工程を行う必要がなく、優れた放熱性を有する金属樹脂複合体を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記1)~29)である。
1)熱伝導性樹脂組成物よりなる部材と、表面処理により表面に微細な凹部が形成された金属よりなる部材とが、前記熱伝導性樹脂組成物の射出成形によって前記凹部に前記熱伝導性樹脂組成物が流入して固着することで、接触接合されている金属樹脂複合体であって、
前記熱伝導性樹脂組成物が熱可塑性樹脂(A)と無機充填材(B)を含有し、面方向の熱伝導率が1W/(m・K)以上のものであり、
さらに前記無機充填材(B)が以下の(B1)および(B2)よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、金属樹脂複合体。
(B1)熱伝導率が2W/(m・K)以上で、体積平均粒子径が1~700μmである無機粒子。
(B2)熱伝導率が1W/(m・K)以上で、数平均繊維径1~50μm、数平均繊維長6mm以下である無機繊維。
2)前記表面処理が、金属よりなる部材を、酸性水溶液及び/又は塩基性水溶液に浸漬する処理を含むことを特徴とする1)に記載の金属樹脂複合体。
3)前記表面処理が、金属よりなる部材を、酸性水溶液及び/又は塩基性水溶液に浸漬する第一処理と、前記第一処理後の前記金属よりなる部材を、アンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む水溶液に浸漬する第二処理とを含むことを特徴とする1)に記載の金属樹脂複合体。
4)前記凹部は、数平均内径が1~200nmであることを特徴とする3)に記載の金属樹脂複合体。
5)前記表面処理が、金属よりなる部材の表面にレーザーを照射する処理を含むことを特徴とする1)に記載の金属樹脂複合体。
6)前記レーザーが連続波レーザーであり、前記凹部が前記金属よりなる部材の厚さ方向に形成されるとともに、該面がさらに微細凹で覆われた形状であることを特徴とする5)に記載の金属樹脂複合体。
7)前記無機充填材(B)がタルク、六方晶窒化ホウ素、黒鉛、酸化マグネシウム、及び炭素繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種である、1)~6)の何れかに記載の金属樹脂複合体。
8)前記熱伝導性樹脂組成物が、熱可塑性樹脂(A)20~95重量%、及び無機充填材(B)5~80重量%を少なくとも含有し、比重が1.2~2.1であることを特徴とする、1)~7)の何れかに記載の金属樹脂複合体。
9)前記金属樹脂複合体に含まれる無機粒子(B1)が、鱗片状、または球状であることを特徴とする1)~8)の何れかに記載の金属樹脂複合体。
10)前記金属樹脂複合体に含まれる無機粒子(B1)が、固定炭素量が98質量%以上であり、球状黒鉛か、またはアスペクト比が21以上である鱗片状黒鉛であることを特徴とする、1)~9)の何れかに記載の金属樹脂複合体。
11)前記黒鉛が、天然黒鉛であることを特徴とする7)に記載の金属樹脂複合体。
12)前記熱可塑性樹脂(A)が、非晶性または結晶性ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、液晶性ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂の何れか1種類以上であることを特徴とする、1)~11)の何れかに記載の金属樹脂複合体。
13)前記ポリエステル系樹脂が、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、及びポリエステル-ポリエーテル共重合体、の何れか1種以上であることを特徴とする、12)に記載の金属樹脂複合体。
14)前記ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、及びポリエステル-ポリエーテル共重合体の数平均分子量が12,000~70,000であることを特徴とする、13)に記載の金属樹脂複合体。
15)前記ポリエステル-ポリエーテル共重合体が、芳香族ポリエステル単位95~45重量%と変性ポリエーテル単位5~55重量%からなる、13)又は14)の何れかに金属樹脂複合体。
16)前記変性ポリエーテル単位が、下記一般式(1)で表される変性ポリエーテル単位である、15)に記載の金属樹脂複合体。
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、-A-は、-O-、-S-、-SO-、-SO-、-CO-、炭素数1~20のアルキレン基、または炭素数6~20のアルキリデン基であり、R、R、R、R、R、R、R7、およびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~5の1価の炭化水素基であり、R、およびR10は、それぞれ独立して、炭素数1~5の2価の炭化水素基である。mおよびnはそれぞれOR単位またはR10O単位の繰り返し単位数を示し、それぞれ独立して、1以上の整数である。m+nの数平均は2~50である)
17)前記芳香族ポリエステル単位が、ポリエチレンテレフタレート単位、ポリブチレンテレフタレート単位、及びポリプロピレンテレフタレート単位からなる群から選ばれる1種以上である、15)又は16)に記載の金属樹脂複合体。
18)前記ポリアミド系樹脂が、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン4,6、又はナイロン12であることを特徴とする、12)に記載の金属樹脂複合体。
19)前記熱伝導性樹脂組成物の厚み方向の熱伝導率が0.5W/(m・K)以上であることを特徴とする、1)~18)の何れかに金属樹脂複合体。
20)前記金属が、アルミニウム、銅、マグネシウム及びこれらの合金からなる群より選ばれる金属であることを特徴とする、1)~19)の何れかに記載の金属樹脂複合体。
21)絶縁性を有する樹脂又は樹脂組成物から形成された部材をさらに含むことを特徴とする、1)~20)の何れかに記載の金属樹脂複合体。
22)前記金属樹脂複合体がゲート痕および基盤部を有するものであって、前記ゲート痕の厚みに対して、前記基盤部の厚み比が2以上であることを特徴とする、1)~21)の何れかに記載の金属樹脂複合体。
23)前記ゲート痕が、2つ以上であることを特徴とする、22)に記載の金属樹脂複合体。
24)前記金属樹脂複合体が、発熱体を冷却するための複合体であり、該発熱体は前記金属部材側に設置することを特徴とする、1)~23)の何れかに記載の金属樹脂複合体。
25)前記金属樹脂複合体は、フィンを含むヒートシンク形状であることを特徴とする、1)~24)の何れかに記載の金属樹脂複合体。
26)前記金属樹脂複合体が、LEDモジュールを冷却するためのヒートシンクであることを特徴とする、1)~25)の何れかに記載の金属樹脂複合体。
27)前記ヒートシンクが、自動車用LEDランプヒートシンクであることを特徴とする、26)に記載の金属樹脂複合体。
28)1)~27)のいずれか1項に記載の金属樹脂複合体を製造する方法であって、
前記表面処理により表面に微細な凹部が形成された金属よりなる部材の存在下、前記熱伝導性樹脂組成物を射出成形して前記凹部に前記熱伝導性樹脂組成物が流入して固着することで、前記熱伝導性樹脂組成物よりなる部材と前記金属よりなる部材とを接触接合する工程を含む、方法。
29)前記熱伝導性樹脂組成物を溶融混練により製造する工程をさらに含み、
当該溶融混練前の無機粒子(B1)の体積平均粒子径が10~700μmであることを特徴とする、28)に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属樹脂複合体は、熱可塑性樹脂と特定の形状を有する無機充填材を含有する熱伝導性樹脂組成物と表面処理した金属を射出成形によって一体成形することで、樹脂と金属の界面を接合させ、優れた放熱性及び成形加工性を有し、軽量であり、且つ容易に安価で製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の金属樹脂複合体の代表的な形態の斜視図
図2】本発明の金属樹脂複合体の代表的な形態の断面図
図3】本発明の金属樹脂複合体の他の代表的な形態の斜視図
図4】本発明の金属樹脂複合体の他の代表的な形態の斜視図
図5】本発明の金属樹脂複合体の他の代表的な形態の断面図
図6】本発明の金属樹脂複合体の他の代表的な形態の上面図
図7】接合強度を測定する際に作製した金属樹脂複合体の上面図及び側面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における表面処理とは、金属表面に微細な凹部を形成させる処理である。例えば、酸性水溶液、塩基性水溶液、特殊薬液等を用いた化学エッチング処理または微細エッチング処理、機械研磨やレーザー照射等の物理的研磨処理、陽極酸化処理等が挙げられる。また、これら複数の表面処理技術を併用してもよい。
【0014】
本発明における熱伝導性樹脂組成物と金属の接合原理では、後述する射出成形工程において射出された溶融状態の樹脂が、表面処理により金属表面に形成された凹部に流入して固着することで接合される。金属部材と樹脂部材の接合面積が大きい程、伝熱が良好になるため放熱性が高まり、金属部材の放射率が低い程、放熱性はより向上する。また、形成された凹部の形状が微細であり、複雑である程、アンカー効果により樹脂部材と金属部材の接合強度が高まる。上記理由により、金属部材の処理面に形成された凹部は、微細である程、好ましい。
【0015】
本発明における表面処理により金属表面に形成した凹部は、電子顕微鏡観察での測定で、数平均内径が10μm以下であり、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは3μm以下である。下限値については、特に限定されないが、好ましくは1nm以上であり、より好ましくは10nm以上である。凹部の数平均内径をかかる範囲にすることで、金属部材における接合予定面に十分な凹部を付与でき、後述する射出成形工程において射出された溶融状態の熱伝導性樹脂組成物が該凹部に入り込み、樹脂部材と金属部材との接合強度が高まる。凹部の数平均内径が10μm超では、アンカー効果が発現できず、十分に接合できない場合がある。また、1nm未満では、溶融した熱伝導性樹脂組成物が流入できず、接合できない場合がある。
【0016】
前記凹部の数平均内径は、金属表面処理条件(処理時間、処理液の種類、処理液の濃度、処理温度等)を調整することで容易に所望の範囲に調整することができる。特に、処理液の種類によっては、金属表面上の水酸基量を増やすことができるため、樹脂部材と金属部材との接合強度の化学結合による向上も期待できる。本発明における上記表面処理方法の中でも好ましい表面処理方法を以下に記載する。
【0017】
[表面処理方法1]
表面処理方法1は、化学エッチング処理および/または微細エッチング処理である。ここでいう化学エッチング処理は、金属表面に、1~100μm周期で、高低差がその周期の半分程度までの凹部を形成する処理方法である。微細エッチング処理は、金属表面に、1~500nm周期の微細な凹部を形成する処理である。使用する金属種により、化学エッチング処理の実施が微細エッチング処理を兼ねる場合もある。また、化学エッチング処理は、金属表面の皮膜の除去を兼ねる場合もある。各処理工程単独でも本発明の効果は発現するが、両方の処理工程を併用することが好ましく、特に、化学エッチング処理を行った後、微細エッチング処理を行うことが好ましい。2つの処理を併用することで、金属表面に形成させたミクロンオーダーの凹部に、さらにナノオーダーの微細な凹部を形成させることができる。形成した凹部に溶融樹脂が流入することでアンカー効果によってより強固に接合することができるためである。
【0018】
化学エッチング処理としては、接合予定面にミクロンオーダーの凹部を形成できる技術であれば特に限定されず、従来公知の方法を使用できる。処理液の例として、過酸化水素、硫酸、硝酸、塩酸、ベンゾトリアゾール、水酸化ナトリウム、又は、塩化ナトリウムを含む水溶液が挙げられる。これら処理液に金属部材を浸漬することにより、化学エッチングによる表面処理を行う。これら化学エッチング処理の中でも、酸性水溶液及び/又は塩基性水溶液に金属部材を浸漬する処理が好ましい。
【0019】
化学エッチング処理で使用する酸性水溶液は特に限定されないが、0.5~5.0%濃度のハロゲン水素酸、弗化水素酸誘導体、硝酸が好ましく、特に塩酸、硝酸、又は1水素2弗化アンモニウムの水溶液を35~40℃に温度制御して使うことがより好ましい。塩基性水溶液は特に限定されないが、0.5~3.0%濃度の水酸化アルカリ金属水溶液、特に苛性ソーダ水溶液を35~40℃に温度制御して使うことが好ましい。処理液の使い分けは金属中に含まれる各金属の組成によるので、個々には実際に試験をして最適の条件の水溶液を選ぶ。浸漬時に超音波を使用すればより再現性が向上することがある。
【0020】
微細エッチング処理としては特に限定されないが、アンモニアやヒドラジン等の水溶性アミン化合物の水溶液に金属部材を浸漬することが好ましい。前記水溶液で処理した場合、金属表面に生じる超微細な凹部を形成させるとともに、金属表面にアミン化合物の吸着が発生する。金属表面に化学吸着したアミン化合物と溶融樹脂が反応し発熱するために溶融樹脂の固化が遅れ、凹部に溶融樹脂が流入しやくなる。この原理を「NMT(nano molding technologyの略)」理論と称する。
【0021】
微細エッチング処理に使用するのは広い意味のアミン化合物であり、具体的には、アンモニア、ヒドラジン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、アリルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アニリン、その他のアミン類が含まれる。
【0022】
これらの内、特にヒドラジンが好ましい。理由は臭気が小さいこと、低濃度で有効なこと、安価なこと、等による。金属部材の浸漬は、40~80℃、特に好ましくは50~70℃で行う。水溶液の濃度は使用する化合物によって異なるが、ヒドラジンの場合は1水和ヒドラジン(N・HO)として2~10%濃度、特に3~5%の水溶液が好ましく、浸漬時間は30~90秒が好ましい。この浸漬後、水洗し、40~90℃で熱風乾燥する。
【0023】
表面処理を施した金属部材は、乾燥空気下で保存し、湿気に触れることがないようにすることが好ましく、処理後、1週間以内に使用することが好ましい。
【0024】
表面処理方法1で金属表面に形成された凹部の数平均内径は、好ましくは1~200nmであり、より好ましくは5~100nmであり、さらに好ましくは10~80nmである。
【0025】
上記においては、化学エッチング処理と微細エッチング処理の一例としてNMT理論による処理方法を上述したが、本発明は本処理方法に限定されるものではない。例えば、金属表面に所定の形状を有する微細な凹部を形成させた後、金属表面をセラミック質の硬質相の薄層で覆う方法等も用いることができる。例えば、主として酸化第2銅またはリン酸亜鉛系化合物の薄層で覆われている黄銅製の部材を用いることが好ましい。
【0026】
[表面処理方法2]
表面処理方法2は、金属表面にレーザー照射することにより、金属表面に微細な凹部を形成させる方法である。レーザー光の種類は特に限定されないが、より微細、且つ複雑な形状の凹部を形成しやすいことより、連続波レーザーを連続照射することが好ましい。これにより、凹部が金属よりなる部材の厚さ方向に形成されるとともに、該凹部がさらに微細な凹部で覆われている構造を形成することができる。
【0027】
連続波レーザーの最適な照射条件については、国際公開第2015/008771号に記載されているように、以下のとおりである。
【0028】
連続波レーザーの照射速度は、2,000~20,000mm/secが好ましく、5,000~20,000mm/secがより好ましく、8,000~20,000mm/secがさらに好ましい。連続波レーザーの照射速度が前記範囲の場合、加工速度を高めることができ、接合強度も高いレベルに維持することができる。
【0029】
この工程では、下記要件(i)および(ii)を満足する場合の加工時間が0.01~30秒の範囲になるようにレーザー光を連続照射することが好ましい。
(i)レーザー光の照射速度が5000~20000mm/sec
(ii)金属樹脂複合体の接合面の面積が100mm
要件(i)および(ii)を満足する場合の加工時間を上記範囲内にするとき、接合予定面の全面に凹部を形成することができる。
【0030】
レーザー光の連続照射は、例えば次のような条件で実施することができる。出力は4~4,000Wが好ましく、50~1,000Wがより好ましく、100~500Wがさらに好ましい。波長は300~1,200nmが好ましく、500~1,200nmがより好ましい。ビーム径(スポット径)は5~200μmが好ましく、5~100μmがより好ましく、5~50μmがさらに好ましい。焦点位置は‐10~+10mmが好ましく、-6~+6mmがより好ましい。
【0031】
連続波レーザーは公知のものを使用することができ、例えば、YV04レーザー、ファイバーレーザー(好ましくはシングルモードファイバーレーザー)、エキシマレーザー、炭酸ガスレーザー、紫外線レーザー、YAGレーザー、半導体レーザー、ガラスレーザー、ルビーレーザー、He-Neレーザー、窒素レーザー、キレートレーザー、色素レーザーを使用することができる。これらの中でもエネルギー密度が高められることから、ファイバーレーザーが好ましく、特にシングルモードファイバーレーザーが好ましい。
【0032】
本発明の表面処理を施した金属は、必要に応じて、その金属表面に化学物質を固着させる処理、陽極酸化等によって酸化皮膜を形成させる処理等を併用してもよい。
【0033】
金属表面に固着させる化学物質としては、金属と反応し、固着可能な公知な化合物であれば特に限定されず、例えばエポキシシランやアミノシラン等の各種シランカップリング剤やトリアジンジチオール誘導体が挙げられる。トリアジンジチオール誘導体の具体例としては、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール・モノナトリウム、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール・トリエタノールアミン、6-アニリノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-アニリノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール・モノナトリウム、6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール・モノナトリウム、6-ジアリルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジアリルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール・モノナトリウム、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール・ジテトラブチルアンモニウム塩、6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール・テトラブチルアンモニウム塩、6-ジチオクチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジチオクチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール・モノナトリウム、6-ジラウリルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジラウリルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール・モノナトリウム、6-ステアリルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ステアリルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール・モノカリウム、6-オレイルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-オレイルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール・モノカリウムが挙げられる。
【0034】
金属表面に上記化学物質を固着させる方法としては、上記化学物質の水溶液、または、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、アセトン、トルエン、エチルセルソルブ、ジメチルホルムアルデヒド、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、ベンゼン、酢酸エチルエーテルなどの有機溶剤を溶媒とした溶液を用い、金属部材を陽極に、白金板チタン板またはカーボン板などを陰極とし、これに20V以下で、0.1mA/dm~10A/dmの電流を、0~80℃、0.1秒~10分間、通じて行なう方法が挙げられる。
【0035】
陽極酸化皮膜とは、金属部材を陽極として電解質溶液中で通電した際に、金属表面に生じる酸化皮膜のことをさし、電解質としては、例えば、前記の水溶性アミン化合物が挙げられる。
【0036】
表面処理を施す金属の材質は特に制限されないが、アルミニウム及びこれを含む合金(アルミニウム合金)、銅及びこれを含む合金(黄銅、青銅、アルミニウム黄銅等)、ニッケル、クロム、チタン、鉄、コバルト、スズ、亜鉛、パラジウム、銀、ステンレス、マグネシウム及びこれを含む合金(マグネシウム合金)、マンガン等が挙げられる。これら金属の中でも、40W/(m・K)以上の熱伝導率を有し、容易に入手できるという観点より、アルミニウム及びこれを含む合金、銅及びこれを含む合金、マグネシウム及びこれを含む合金が好ましく、より好ましくはアルミニウム及びこれを含む合金である。
【0037】
アルミニウム及びこれを含む合金の種類は、特に限定されず、日本工業規格のA1000~7000番系のもの、鋳造用アルミニウム合金のADC12等が挙げられ、要求される用途に合わせて少なくとも1種以上用いられる。これらの中でも、熱伝導性、使用頻度の観点より、A1000番台、A5052、ADC12が好ましい。
【0038】
上記金属部材の厚みは、特に限定されないが、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下、さらに好ましくは2mm、とくに好ましくは1mm以下である。厚みが薄い程、軽量化できるため好ましい。
【0039】
上記金属部材の形状は、特に限定されないが、平板状、曲板状、棒状、筒状、塊状等が挙げられ、これらの組み合わせからなる構造体であってもよい。また、貫通穴、折り曲げ部等を有してもよい。
【0040】
長期間の放置で金属表面に錆等の存在があると思われるものは研磨して取り除くことが好ましい。また、ADC12等の鋳造用アルミニウム合金を使用し鋳造で形状化したものは、表層組成が内部組成と異なっているうえに表層組成が均一でないのが普通である。従って、この材料については、研磨等で、組成が均一でない表層を予め除いておくことが好ましい。
【0041】
金属表面には、通常、加工油や指脂が付いているので、脱脂し水洗浄することが好ましい。油の付着量が大きいものは脱脂工程を2段にする。市販の脱脂剤水溶液に水洗を挟んで2段脱脂する方法でもよく、トリクレンなどの有機溶剤で洗浄して油分の大部分を取り除きその後に脱脂剤水溶液による脱脂をしてもよい。
【0042】
本発明における射出成形による接触接合とは、射出成形機の出口に金型を取り付け、金型内に表面処理を施した金属部材を設置した後、射出成形機にて溶融可塑化された熱伝導性樹脂組成物を金型内に注入し、冷却固化させて取り出す成形方法である。この際用いられる射出成形機や金型には特に制限はない。本発明の効果をより効率よく発現させるためには、金属表面の微細な凹部に溶融樹脂を流入させることを目的として、金型温度を樹脂の軟化点及び結晶化温度以上に設定して成形した後、金型温度を瞬時に固化温度まで冷却して成形体を取出すヒート&クール射出成形法や、金型のランナー部に、樹脂の融点以上に設定可能なホットランナーゲートを用いることが好ましい。
【0043】
本発明における射出成形は、従来の射出成形とほぼ同様の条件で実施できるが、より効率よく両部材を接合させるためには、ガスを十分に逃がして障害をなくした状態で、高温高圧の溶融樹脂を金属部材表面に接触させることが好ましい。そのため、金型を構成する段階でガス抜きが十分に行われることが好ましい。
【0044】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)および無機充填材(B)を含有する樹脂組成物である。
【0045】
[熱可塑性樹脂(A)]
本発明の熱可塑性樹脂(A)としては、ポリスチレンなどの芳香族ビニル系樹脂、ポリアクリロニトリルなどのシアン化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニルなどの塩素系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のポリメタアクリル酸エステル系樹脂やポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンや環状ポリオレフィン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニルなどのポリビニルエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂及びこれらの誘導体樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂やポリアクリル酸系樹脂及びこれらの金属塩系樹脂、ポリ共役ジエン系樹脂、マレイン酸やフマル酸及びこれらの誘導体を重合して得られるポリマー、マレイミド系化合物を重合して得られるポリマー、非晶性半芳香族ポリエステルや非晶性全芳香族ポリエステル、ポリカーボネートなどの非晶性ポリエステル系樹脂、結晶性半芳香族ポリエステルや結晶性全芳香族ポリエステルなどの結晶性ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリアミドや脂肪族-芳香族ポリアミドや全芳香族ポリアミドなどのポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアルキレンオキシド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂、フェノキシ系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、液晶ポリマー、及びこれら例示されたポリマーのランダム、ブロック、またはグラフト共重合体、などが挙げられる。これら熱可塑性樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上の複数を組み合わせて用いることができる。2種以上の樹脂を組み合わせて用いる場合には、必要に応じて相溶化剤などを添加して用いることもできる。これら熱可塑性樹脂(A)は、目的に応じて適宜使い分ければよい。
【0046】
これら熱可塑性樹脂の中でも好ましい熱可塑性樹脂として、非晶性または結晶性ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、液晶性ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
【0047】
これら熱可塑性樹脂の中でも、樹脂の一部あるいは全部が結晶性あるいは液晶性を有する熱可塑性樹脂であることが、得られた樹脂組成物の熱伝導率が高くなる傾向があるから好ましい。これら結晶性あるいは液晶性を有する熱可塑性樹脂は、樹脂全体が結晶性であっても、ブロックあるいはグラフト共重合体樹脂の分子中における特定ブロックのみが結晶性や液晶性であるなど樹脂の一部のみが結晶性あるいは液晶性であっても良い。樹脂の結晶化度には特に制限はない。また熱可塑性樹脂として、非晶性樹脂と結晶性あるいは液晶性樹脂とのポリマーアロイを用いることもできる。樹脂の結晶化度には特に制限はない。
【0048】
樹脂の一部あるいは全部が結晶性あるいは液晶性を有する熱可塑性樹脂の中には、結晶化させることが可能であっても、単独で用いたり特性の成形加工条件で成形したりすることにより場合によっては非晶性を示す樹脂もある。このような樹脂を用いる場合には、延伸処理や後結晶化処理をするなど成形加工方法を工夫したりすることにより、樹脂の一部あるいは全体を結晶化させることができる場合もある。
【0049】
結晶性あるいは液晶性を有する熱可塑性樹脂の中でも好ましい樹脂として、結晶性ポリエステル系樹脂、結晶性ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、液晶性ポリマー、結晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリオレフィン系ブロック共重合体、等を例示することができるが、これらに限らず各種の結晶性樹脂や液晶性樹脂を用いることができる。
【0050】
結晶性ポリエステル系樹脂の具体例としてはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレートおよびポリエチレン-1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレートなどのほか、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレートおよびポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリエステル/ポリエーテルなどの結晶性共重合ポリエステル等が挙げられる。これら結晶性ポリエステルの中でも、成形加工性や機械的特性などの観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエステル/ポリエーテル等を用いることが好ましい。
【0051】
結晶性ポリアミド系樹脂の具体例としては、例えば環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物、ジカルボン酸とジアミンとの重縮合物などが挙げられ、具体的にはナイロン6、ナイロン4・6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン6・12、ナイロン11、ナイロン12などの脂肪族ポリアミド、ポリ(メタキシレンアジパミド)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリノナンメチレンテレフタルアミド、ポリ(テトラメチレンイソフタルアミド)、ポリ(メチルペンタメチレンテレフタルアミド)などの脂肪族-芳香族ポリアミド、およびこれらの共重合体が挙げられる。共重合体として例えばナイロン6/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン66/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6/ナイロン6・6/ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6/ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン12/ポリ(ヘキサメチレンテレフタラミド)、ポリ(メチルペンタメチレンテレフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)などを挙げることができる。なお、共重合の形態としてはランダム、ブロックいずれでもよいが、成形加工性の点からランダム共重合体であることが好ましい。
【0052】
結晶性ポリアミド系樹脂の中でも、成形加工性や機械的特性などの観点から、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン4・6、ナイロン12、ポリノナンメチレンテレフタルアミド、ナイロン6/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン66/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6/ナイロン6・6/ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6/ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン12/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6/ナイロン6・6/ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリ(メチルペンタメチレンテレフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)などのポリアミド、等を用いることが好ましい。これらポリアミド系樹脂の中でも、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン4,6、ナイロン12がより好ましい。
【0053】
液晶性ポリマーとは異方性溶融相を形成し得る樹脂であり、エステル結合を有するものが好ましい。具体的には芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位、アルキレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位からなり、かつ異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステル、あるいは、上記構造単位と芳香族イミノカルボニル単位、芳香族ジイミノ単位、芳香族イミノオキシ単位などから選ばれた構造単位からなり、かつ異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルアミドなどが挙げられる。
【0054】
液晶性ポリエステルの具体例としては、p-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p-ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸から生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物および/または脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p-ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、4,4’-ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p-ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p-ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸およびイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p-ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、4,4’-ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボンから生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p-ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステルなどが挙げられる。また液晶性ポリエステルアミドとしては、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位、アルキレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位以外にさらにp-アミノフェノールから生成したp-イミノフェノキシ単位を含有した異方性溶融相を形成するポリエステルアミド、などが挙げられる。
【0055】
結晶性ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、これら樹脂と各種オレフィン系化合物との共重合体、等が挙げられる。また、結晶性ポリオレフィン系樹脂として、結晶性樹脂と非晶性樹脂とのブロックあるいはグラフトコポリマーを用いることもできる。このような樹脂のうち、ブロックコポリマーの具体例としては、SEPS樹脂、SIS樹脂、SEBS樹脂、SIBS樹脂、等が挙げられる。またグラフトコポリマーの具体例としては、特開2003-147032号公報記載の樹脂等が例示される。
【0056】
前記ポリエステル/ポリエーテル(以降ポリエステル-ポリエーテル共重合体という)は、ポリエステル単位とポリエーテル単位からなるブロックまたはランダム共重合体である。ポリエーテル単位としては、例えば、ポリエチレンオキサイド単位、ポリブチレンオキサイド単位等のポリアルキレンオキサイド単位、変性ポリエーテル単位等が挙げられる。変性ポリエーテル単位は下記一般式(1)で表されることが好ましい。成形性、及び耐熱性の観点から、ポリエステル-ポリエーテル共重合体は、芳香族ポリエステル単位95~45重量%、及び変性ポリエーテル単位5~55重量%からなる重合体であることが好ましく、より好ましくは芳香族ポリエステル単位80~50重量%、及び変性ポリエーテル単位20~50重量%からなる重合体であり、さらに好ましくは芳香族ポリエステル単位80~60重量%、及び変性ポリエーテル単位20~40重量%からなる重合体である。
【0057】
【化2】
【0058】
ポリエステル-ポリエーテル共重合体の製造方法は、アンチモン化合物、場合によってゲルマニウム化合物を含む触媒を用いて、(1)芳香族ジカルボン酸、ジオール、変性ポリエーテルの三者の直接エステル化法、(2)芳香族ジカルボン酸ジアルキル、ジオール、変性ポリエーテル、及び/又は、変性ポリエーテルのエステルの三者のエステル交換法、(3)芳香族ジカルボン酸ジアルキル、ジオールのエステル交換中、又は、エステル交換後に変性ポリエーテルを加えて、重縮合する方法、(4)高分子の芳香族ポリエステルを用い、変性ポリエーテルと混合後、溶融減圧下でエステル交換する方法等が挙げられ、これらに限定されるものではないが、組成コントロール性の観点から、前記(4)の製造法が好ましい。
【0059】
前記触媒として用いられるアンチモン化合物としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモングリコキサイド等が挙げられ、これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。これらのアンチモン化合物の中では、三酸化アンチモンが特に好ましい。重合時に投入するアンチモン化合物触媒量は、反応速度の観点、及び経済的観点から、樹脂量の50~2000重量ppmとするのが好ましく、より好ましくは100~1000重量ppmとすることである。
【0060】
前記触媒として用いられるゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム酸化物、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトライソプロポキシド等のゲルマニウムアルコキシド、水酸化ゲルマニウム及びそのアルカリ金属塩、ゲルマニウムグリコレート、塩化ゲルマニウム、酢酸ゲルマニウム等が挙げられ、これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。これらのゲルマニウム化合物の中では、二酸化ゲルマニウムが特に好ましい。重合時に投入する二酸化ゲルマニウム触媒量は、反応速度の観点、及び経済的観点から、樹脂量の50~2000重量ppmとするのが好ましく、より好ましくは100~1000重量ppmとすることである。
【0061】
前記芳香族ジカルボン酸は、特にテレフタル酸が好ましく、その他イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸等が例示される。これら芳香族ジカルボン酸と共に、少ない割合(15%以下)のオキシ安息香酸等の芳香族オキシカルボン酸、あるいは、アジピン酸、セバチン酸、シクロヘキサン1,4-ジカルボン酸等の脂肪族、又は肪環族ジカルボン酸を併用してもよい。
【0062】
前記ジオールは、エステル単位を形成する低分子量グリコール成分であり、炭素数2~10の低分子量グリコール、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサンジオール、デカンジオール、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。特にエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールが、入手のし易さの点から好ましい。
【0063】
前記芳香族ジカルボン酸ジアルキルのアルキル基としては、メチル基がエステル交換反応性の観点から好ましい。
【0064】
前記高分子の芳香族ポリエステルの溶液粘度としては、得られる成形品の耐衝撃性、耐薬品性や成形加工性の観点から、フェノール/テトラクロロエタン=1/1(重量比)混合溶媒中、25℃で濃度0.5g/dlにおける対数粘度(IV)が0.3~2.0、さらには0.5~1.5の範囲のものが好ましい。
【0065】
(芳香族ポリエステル単位)
前記芳香族ポリエステル単位は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とから得られる重合体ないし共重合体であって、通常、交互重縮合体であり、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート単位、ポリブチレンテレフタレート単位、及びポリプロピレンテレフタレート単位からなる群から選ばれる1種以上である。前記芳香族ポリエステル単位の好ましい具体例としては、ポリエチレンテレフタレート単位、ポリエチレンテレフタレート共重合体単位、ポリブチレンテレフタレート単位、ポリブチレンテレフタレート共重合体単位、ポリプロピレンテレフタレート単位、あるいはポリプロピレンテレフタレート共重合体単位が挙げられ、より好ましくは、ポリエチレンテレフタレート単位、ポリブチレンテレフタレート、及びポリプロピレンテレフタレート単位よりなる群から選ばれる1種以上である。
【0066】
(変性ポリエーテル単位)
前記変性ポリエーテル単位は、前記一般式(1)で表される単位であり、一般式(1)中のOR単位またはR10O単位の繰り返し単位数m、nは、それぞれ独立して、1以上の整数である。(m+n)の数平均は、好ましくは2~50であり、より好ましくは10~50であり、さらに好ましくは18~50である。
【0067】
【化3】
【0068】
(式中、-A-は、-O-、-S-、-SO-、-SO-、-CO-、炭素数1~20のアルキレン基、または炭素数6~20のアルキリデン基であり、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~5の1価の炭化水素基であり、R、およびR10は、それぞれ独立して、炭素数1~5の2価の炭化水素基である。mおよびnはそれぞれOR単位またはR10O単位の繰り返し単位数を示し、それぞれ独立して、1以上の整数である。m+nの数平均は2~50である。)
前記変性ポリエーテル単位は、入手のし易さの観点から、好ましくは下記一般式(2)で表される化合物から2個の末端水素を除いた単位であり、(m+n)が2の場合の当該単位の式量は314、(m+n)が50の場合の当該単位の式量は2426である。従って、一般式(2)で表される化合物の好ましい分子量は316~2430であり、より好ましくは670~2430であり、さらに好ましくは1020~2430であり、さらに好ましくは、1330~2000である。
【0069】
【化4】
【0070】
これら結晶性ポリエステル系樹脂の中でも、成形加工性や機械的特性などの観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエステル-ポリエーテル共重合体等を用いることが好ましく、安価且つ容易に入手できるという観点より、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル-ポリエーテル共重合体がより好ましい。
【0071】
本発明の熱可塑性樹脂(A)の数平均分子量とは、ポリスチレンを標準とし、p-クロロフェノールとトルエンの体積比3:8混合溶媒に2.5重量%濃度となるように溶解して調製した溶液を用いて高温GPC(Viscotek:350 HT-GPC System)にてカラム温度80℃、検出器を示差屈折計(RI)として測定した値である。
【0072】
前記ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル-ポリエーテル共重合体の数平均分子量は12,000~70,000であることが好ましく、15,000~60,000であることがより好ましく、16,000~55,000であることがさらに好ましく、17,000~40,000であることがとくに好ましい。これらの樹脂の数平均分子量が12,000未満では、機械強度が低くなる場合があり、70,000超では、成形加工性が悪くなり、金属と樹脂との接合が困難となる場合がある。
【0073】
本発明の金属樹脂複合体は、熱可塑性樹脂(A)、無機充填材(B)、および必要に応じてその他成分を溶融混練することで熱伝導性樹脂組成物を製造した後、表面処理した金属よりなる部材の存在下、前記組成物を射出成形することによって作製され得る。本発明でいう数平均分子量は、溶融混練または射出成形前後のいずれでもよいが、射出成形後に測定することが好ましい。
【0074】
[無機充填材(B)]
本発明の無機充填材(B)は、以下の(B1)および(B2)よりなる群から選択される少なくとも1種である。
(B1)熱伝導率が2W/(m・K)以上で、体積平均粒子径が1~700μmである無機粒子。
(B2)熱伝導率が1W/(m・K)以上で、数平均繊維径1~50μm、数平均繊維長6mm以下である無機繊維。
【0075】
[無機粒子(B1)]
本発明の無機充填材(B)のうち、無機粒子(B1)は、繊維状の無機充填材を除く、種々の形状のものが適用可能である。例えば、鱗片状、フレーク状、板状、球状、凝集粒子状、チューブ状、ワイヤ状、ロッド状、不定形、ラグビーボール状、六面体状のものが挙げられる。特に限定されないが、鱗片状、球状、板状、繊維状のものが好ましく、鱗片状、球状がより好ましい。
【0076】
本発明に用いる無機粒子(B1)単体の熱伝導率は、2W/(m・K)以上であり、好ましくは10W/(m・K)以上であり、より好ましくは30W/(m・K)以上であり、さらに好ましくは100W/(m・K)以上であり、特に好ましくは150W/(m・K)である。無機粒子(B1)単体での熱伝導率の上限は特に制限されず、高ければ高いほど好ましいが、一般的には3000W/(m・K)以下、さらには2500W/(m・K)以下が好ましい。
【0077】
本発明の金属樹脂複合体は、射出成形によって一体成形され、その複合体中に含まれる無機粒子(B1)の体積平均粒子径は、1~700μmであり、好ましくは10~300μm、より好ましくは20~200μm、とくに好ましくは40~100μmである。無機粒子(B1)の体積平均粒子径が1μm未満では、樹脂組成物の熱伝導性が低下し、金属部材と樹脂部材の接合強度は低下する場合がある。また、粒子径は大きい程、熱伝導率及び成形加工性は向上し、金属部材と樹脂部材の接合はしやすくなる傾向にあるが、700μm超では、樹脂組成物の強度が低下する場合がある。本発明において、体積平均粒子径の測定は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置マイクロトラックを用い、水溶媒中に無機粒子を分散させ、超音波を30秒与えた後、室温下で実施する。
【0078】
球状以外の形状を有する無機粒子(B1)のアスペクト比は、特に限定されないが、好ましくは5以上であり、より好ましく10以上であり、さらに好ましくは21以上である。アスペクト比の上限については、高ければ高い程よく、特に限定されないが、好ましい範囲は3,000以下であり、より好ましい範囲は1,000以下であり、さらに好ましくは500以下である。アスペクト比が高ければ高い程、熱伝導性及び成形加工性が向上し、金属部材と樹脂部材との接合も容易になる。
【0079】
[無機繊維(B2)]
本発明の無機充填材(B)のうち、無機繊維(B2)は、繊維状の充填材である。繊維状の場合、熱伝導性だけでなく、樹脂部材の強度を向上させることができる。
【0080】
本発明の金属樹脂複合体中に含まれる無機繊維(B2)の数平均繊維径は1~50μmであり、3~30μmが好ましく、5~20μmがより好ましい。また、数平均繊維長は、6mm以下が好ましく、4mm以下がより好ましく、3mm以下がさらに好ましく、2mm以下が特に好ましい。数平均繊維径が1μm未満では、強度向上が小さくなる場合があり、50μm超では、成形性が低下する場合がある。また、数平均繊維長については、6mm超では、成形性が低下する場合がある。本発明において、数平均繊維径、数平均繊維長の決定は、電子顕微鏡観察により無機繊維100個の繊維径、繊維長を測定し、その平均値を算出することにより行う。
【0081】
本発明に用いる無機繊維(B2)単体の熱伝導率は、1W/(m・K)以上であり、好ましくは5W/(m・K)以上であり、より好ましくは10W/(m・K)以上であり、さらに好ましくは50W/(m・K)以上であり、特に好ましくは100W/(m・K)である。無機繊維(B2)単体での熱伝導率の上限は特に制限されず、高ければ高いほど好ましいが、一般的には3000W/(m・K)以下、さらには2500W/(m・K)以下が好ましい。
【0082】
本発明の無機充填材(B)は上記条件を満たしていれば、特に限定されない。本発明の金属樹脂複合体を特に電気絶縁性が要求されない用途に用いる場合には、無機充填材としては、金属系化合物や導電性炭素化合物等が好適に用いられる。これらの中でも、熱伝導性に優れることから、黒鉛、炭素繊維、グラフェン等の導電性炭素材料、各種金属を微粒子化した導電性金属粉、各種金属を繊維状に加工した導電性金属繊維、軟磁性フェライト等の各種フェライト類、酸化亜鉛等の金属酸化物、等の無機充填材を好適に用いることができる。これらの中でも、高熱伝導性を有し、比較的安価、且つ低比重であることから、黒鉛、炭素繊維が好ましい。なお、電気絶縁性を有する無機充填材と併用してもよい。
【0083】
本発明の金属樹脂複合体を電気絶縁性が要求される用途に用いる場合には、無機充填材(B)としては、電気絶縁性を示す無機充填材が好適に用いられる。電気絶縁性とは具体的には、電気抵抗率1Ω・cm以上を示すこととするが、好ましくは10Ω・cm以上、より好ましくは10Ω・cm以上、さらに好ましくは1010Ω・cm以上、最も好ましくは1013Ω・cm以上を示すことが好ましい。電気抵抗率の上限には特に制限は無いが、一般的には1018Ω・cm以下である。本発明の熱伝導性樹脂組成物から得られる成形体の電気絶縁性も上記範囲にあることが好ましい。
【0084】
電気絶縁性を示す無機充填材としては、具体的には、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化ベリリウム、酸化銅、亜酸化銅等の金属酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の金属窒化物、炭化ケイ素等の金属炭化物、炭酸マグネシウムなどの金属炭酸塩、ダイヤモンド等の絶縁性炭素材料、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、ウォラストナイト、タルク、ガラス繊維等が挙げられる。これらは単独あるいは複数種類を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、熱伝導性、容易に入手でき、取り扱いやすいという観点より、タルク、六方晶窒化ホウ素、酸化マグネシウム、ガラス繊維が好ましい。
【0085】
本発明でいう「面方向の熱伝導率」とは、射出成形の際に溶融樹脂が流動する方向に対する熱伝導率のことを示す。また、樹脂流動方向に対して垂直方向の熱伝導率を「厚み方向の熱伝導率」という。
【0086】
本発明の熱伝導性樹脂組成物の面方向の熱伝導率は1W/(m・K)以上であり、好ましくは3W/(m・K)以上であり、より好ましくは5W/(m・K)以上、さらに好ましくは10W/(m・K)以上である。上限値は特に限定されず、高ければ高い程よいが、一般的には100W/(m・K)以下である。
【0087】
本発明の熱伝導性樹脂組成物の厚み方向の熱伝導率は、特に限定されず、高ければ高い程よい。好ましくは0.5W/(m・K)以上であり、より好ましくは0.8W/(m・K)以上であり、さらに好ましくは1W/(m・K)以上であり、とくに好ましくは1.2W/(m・K)以上である。
【0088】
本発明の熱伝導性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂(A)の含有量は、熱伝導性樹脂組成物全体を100重量%とした場合、好ましくは20~95重量%であり、より好ましくは30~80重量%であり、さらに好ましくは40~75重量%であり、特に好ましくは40~70重量%である。熱可塑性樹脂(A)の含有量が20重量%未満では、金属部材との接合が困難になる場合があり、95重量%超では、熱伝導性樹脂組成物自体が優れた放熱性を発現しない場合がある。
【0089】
無機充填材(B)の含有量は、熱伝導性樹脂組成物全体を100重量%とした場合、好ましくは5~80重量%であり、より好ましくは20~70重量%であり、さらに好ましくは25~60重量%であり、特に好ましくは30~60重量%である。
【0090】
本発明の熱伝導性樹脂組成物の比重は、好ましくは1.2~2.1であり、より好ましくは1.4~1.9であり、さらに好ましくは1.5~1.8である。比重が1.2未満の場合、熱伝導性が十分発現されず、放熱性が不十分になる場合がある。
【0091】
無機粒子(B1)が黒鉛の場合、固定炭素量は98質量%以上が好ましく、より好ましくは98.5質量%、さらに好ましくは99質量%以上である。黒鉛の固定炭素量が98質量%未満では、熱伝導率が低下する場合がある。上記固定炭素量は、溶融混練、成形加工前後で変化しないとものとする。なお、固定炭素量は、JIS M8511に準じて測定することができる。
【0092】
金属樹脂複合体中の黒鉛は、球状黒鉛か、または、鱗片状黒鉛が好ましく、鱗片状黒鉛のアスペクト比は、21以上が好ましい。アスペクト比の上限については、高ければ高い程よく、特に限定されないが、好ましい範囲は1,0000以下であり、より好ましい範囲は5,000以下であり、さらに好ましくは3,000以下である。なお、アスペクト比は、電子顕微鏡等により黒鉛粒子の最大径及び厚みの各長さを測定し、最大径/厚みにより算出することができる。
【0093】
本発明の熱伝導性樹脂組成物において、溶融混練前の無機粒子(B1)の体積平均粒子径は、大きければ大きい程よく、好ましくは10~700μmであり、より好ましくは20~650μmであり、さらに好ましくは40~500μmであり、とくに好ましくは201~40μmである。一般的に、溶融混練または成形加工の際に無機粒子は破砕される傾向にあるため、溶融混練前の無機粒子(B1)の体積平均粒子径が大きい程、溶融混練または成形加工後の無機粒子(B1)の体積平均粒子径は大きく保持され、熱伝導率や成形加工性が向上し、金属部材と樹脂部材との接合はしやすくなる。
【0094】
本発明で無機粒子(B1)として用いられる黒鉛は、天然黒鉛及び人造黒鉛のいずれでもよく、組み合わせて併用してもよいが、安価に入手できるという観点で天然黒鉛が好ましい。さらに、α-黒鉛及びβ-黒鉛のいずれでもよく、これらを組み合わせてもよい。
【0095】
無機粒子(B1)の粒度分布については特に限定されないが、粒度分布を測定して得られた累積体積がそれぞれ20%または80%であるときの粒子径D20及びD80の比D80/D20の比が好ましくは1~20であり、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~5である。
【0096】
本発明の熱伝導性樹脂組成物には、無機充填材(B)と共に、その他の熱伝導性フィラーを配合してもよい。その他の熱伝導性フィラーの形状については、特に限定されず、例えば鱗片状、繊維状、フレーク状、板状、球状、粒子状、微粒子状、ナノ粒子、凝集粒子状、チューブ状、ナノチューブ状、ワイヤ状、ロッド状、不定形、ラグビーボール状、六面体状、大粒子と微小粒子とが複合化した複合粒子状、液体等種々の形状が挙げられる。
【0097】
その他の熱伝導性フィラーの具体例としては、アルミニウム、ニッケル等の金属フィラー、液相線温度300℃以上、かつ固相線温度150℃以上250℃以下の低融点合金、 酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化ベリリウム、酸化銅、亜酸化銅等の金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の金属窒化物、炭化ケイ素等の金属炭化物、炭酸マグネシウムなどの金属炭酸塩、ダイヤモンド等の絶縁性炭素材料、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、アルミナ、窒化ホウ素、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウイスカー、窒化珪素繊維、カーボンナノチューブ、タルク、ウォラストナイトが挙げられる。上記熱伝導性フィラーは天然物であってもよいし、合成されたものであってもよい。天然物の場合、産地等には特に限定はなく、適宜選択することができる。
【0098】
その他の熱伝導性フィラーの添加量としては特に限定されないが、添加量が増加するにつれて、熱伝導性を向上させることができる。
【0099】
本発明の樹脂組成物には、前記の熱伝導性フィラー以外にも、その目的に応じて公知の充填材を配合することができる。熱伝導性フィラー以外の充填材としては、例えばケイソウ土粉、塩基性ケイ酸マグネシウム、焼成クレイ、微粉末シリカ、石英粉末、結晶シリカ、カオリン、三酸化アンチモン、微粉末マイカ、二硫化モリブデン、ロックウール、セラミック繊維、アスベスト等の無機質繊維、及び、ガラス繊維、ガラスパウダー、ガラスクロス、溶融シリカ等のガラス製充填材が挙げられる。これら充填材を用いることで、例えば熱伝導性、機械強度、または耐摩耗性など樹脂組成物を応用する上で好ましい特性を向上させることが可能となる。さらに必要に応じて紙、パルプ、木材、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ボロン繊維等の合成繊維、ポリオレフィン粉末等の樹脂粉末、等の有機充填材を併用して配合することができる。
【0100】
本発明に用いるフィラーは、樹脂とフィラーとの界面の接着性を高めたり、作業性を容易にしたりするため、シラン処理剤やステアリン酸やアクリル系モノマー等の各種表面処理剤で表面処理がなされたものであってもよい。
【0101】
表面処理剤としては特に限定されず、例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤等従来公知のものを使用することができる。中でも、エポキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤、及び、アミノシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤、ポリオキシエチレンシラン等が樹脂の物性を低下させることが少ないため好ましい。フィラーの表面処理方法としては特に限定されず、通常の処理方法を利用できる。
【0102】
本発明の熱伝導性樹脂組成物には、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ウレタン樹脂等いかなる公知の樹脂とアロイ化させてもよい。
【0103】
本発明の熱伝導性樹脂組成物には、上記樹脂やフィラー以外の添加剤として、さらに目的に応じて他のいかなる成分、例えば、補強剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、増粘剤、離型剤、可塑剤、カップリング剤、難燃剤、耐炎剤、抗菌剤、着色剤、その他の助剤等を本発明の効果を失わない範囲で、添加することができる。これらの添加剤の使用量は、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、合計で0~20重量部の範囲であることが好ましい。
【0104】
上記熱安定剤としては、ホスファイト類、ヒンダードフェノール類、チオエーテル類等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0105】
上記酸化防止剤としては、ホスファイト類、ヒンダードアミン類、ハイドロキノン類、ヒンダードフェノール類、硫黄含有化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0106】
上記紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、サリチル酸エステル類、金属錯塩類等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0107】
上記難燃剤としては、有機系難燃剤、無機系難燃剤、反応系難燃剤等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0108】
有機系難燃剤としては、臭素化エポキシ系化合物、臭素化アルキルトリアジン化合物、臭素化ビスフェノール系エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、臭素化ビスフェノール系ポリカーボネート樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化架橋ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールシアヌレート樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ビスマレイミド、デカブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノールA及びそのオリゴマー等のハロゲン系難燃剤;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トキヘキシルホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、ジメチルエチルホスフェート、メチルジブチルホスフェート、エチルジプロピルホスフェート、ヒドロキシフェニルジフェニルホスフェート等のリン酸エステルやこれらを各種置換基で変性した化合物、各種の縮合型のリン酸エステル化合物、リン元素及び窒素元素を含むホスファゼン誘導体等のリン系難燃剤;ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0109】
無機系難燃剤としては、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ジルコニウム系、モリブデン系、スズ酸亜鉛、グアニジン塩、シリコーン系、ホスファゼン系化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0110】
反応系難燃剤としては、テトラブロモビスフェノールA、ジブロモフェノールグリシジルエーテル、臭素化芳香族トリアジン、トリブロモフェノール、テトラブロモフタレート、テトラクロロ無水フタル酸、ジブロモネオペンチルグリコール、ポリ(ペンタブロモベンジルポリアクリレート)、クロレンド酸(ヘット酸)、無水クロレンド酸(無水ヘット酸)、臭素化フェノールグリシジルエーテル、ジブロモクレジルグリシジルエーテル、下記一般式(3)(式中、nは2~20の整数である)で表される有機りん系難燃剤等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0111】
【化5】
【0112】
なお、本発明の組成物に難燃剤を含有させる場合には、難燃助剤を配合することが好ましい。この難燃助剤としては、三酸化二アンチモン、四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、酒石酸アンチモン等のアンチモン化合物や、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、水和アルミナ、酸化ジルコニウム、ポリリン酸アンモニウム、酸化スズ、酸化鉄等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、難燃性を改良するために、シリコーンオイルを配合することができる。
【0113】
上記老化防止剤としては、例えば、ナフチルアミン系化合物、ジフェニルアミン系化合物、p-フェニレンジアミン系化合物、キノリン系化合物、ヒドロキノン誘導体系化合物、モノフェノール系化合物、ビスフェノール系化合物、トリスフェノール系化合物、ポリフェノール系化合物、チオビスフェノール系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、亜リン酸エステル系化合物、イミダゾール系化合物、ジチオカルバミン酸ニッケル塩系化合物、リン酸系化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0114】
上記可塑剤としては、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ブチルオクチルフタレート、ジ-(2-エチルヘキシル)フタレート、ジイソオクチルフタレート、ジイソデシルフタレート等のフタル酸エステル類;ジメチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジ-(2-エチルヘキシル)アジペート、ジイソオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、オクチルデシルアジペート、ジ-(2-エチルヘキシル)アゼレート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソブチルアゼレート、ジブチルセバケート、ジ-(2-エチルヘキシル)セバケート、ジイソオクチルセバケート等の脂肪酸エステル類;トリメリット酸イソデシルエステル、トリメリット酸オクチルエステル、トリメリット酸n-オクチルエステル、トリメリット酸系イソノニルエステル等のトリメリット酸エステル類;ジ-(2-エチルヘキシル)フマレート、ジエチレングリコールモノオレート、グリセリルモノリシノレート、トリラウリルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリ-(2-エチルヘキシル)ホスフェート、エポキシ化大豆油、ポリエーテルエステル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0115】
上記抗菌剤としては、銀系ゼオライト、銀-亜鉛系ゼオライト等のゼオライト系抗菌剤、錯体化銀-シリカゲル等のシリカゲル系抗菌剤、ガラス系抗菌剤、リン酸カルシウム系抗菌剤、リン酸ジルコニウム系抗菌剤、銀-ケイ酸アルミン酸マグネシウム等のケイ酸塩系抗菌剤、酸化チタン系抗菌剤、セラミック系抗菌剤、ウィスカー系抗菌剤等の無機系抗菌剤;ホルムアルデヒド放出剤、ハロゲン化芳香族化合物、ロードプロパルギル誘導体、チオシアナト化合物、イソチアゾリノン誘導体、トリハロメチルチオ化合物、第四アンモニウム塩、ビグアニド化合物、アルデヒド類、フェノール類、ピリジンオキシド、カルバニリド、ジフェニルエーテル、カルボン酸、有機金属化合物等の有機系抗菌剤;無機・有機ハイブリッド抗菌剤;天然抗菌剤等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0116】
上記着色剤としては、有機染料、無機顔料、有機顔料等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0117】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法としては、特に限定されるものではない。例えば、上述した成分や添加剤等を乾燥させた後、単軸、2軸等の押出機のような溶融混練機にて溶融混練することにより製造することができる。混練温度は、熱可塑性樹脂(A)の種類に応じて選択される。また、配合成分が液体である場合は、液体供給ポンプ等を用いて溶融混練機に途中添加して製造することもできる。
【0118】
本発明の金属樹脂複合体は、絶縁性を付与するために、セラミックスより形成された部材、または、絶縁性を有する樹脂もしくは樹脂組成物より形成された部材をさらに含むものであってもよい。安価に絶縁性を付与できるという点で、絶縁性を有する樹脂もしくは樹脂組成物より形成された部材と複合化することが好ましい。
【0119】
複合化する方法としては、特に限定されないが、インサート成形や二色成形等の一体成形による方法や、絶縁部材のみを別途作製した後、接着剤、振動溶着、超音波溶着、熱融着等によって複合化する方法等が挙げられる。
【0120】
本発明の金属樹脂複合体の形状は、特に限定されないが、より効率よく放熱できるという観点で、以下に示すフィンを有するヒートシンク形状に設計することが好ましい。ヒートシンクの代表的な形態を図1及び2に示す。なお、図1は斜視図、図2は断面図である。
【0121】
図1および図2のヒートシンクは、ヒートシンクの基盤3と、ヒートシンクのフィン4から構成され、基盤3の上面には回路基板2とLEDモジュール1が配置される。ヒートシンクのフィン4は、互いに平行に配置された複数の平板状部材からなり、各々がヒートシンクの基盤3の下面から垂直方向に伸長している。このヒートシンクでは、ヒートシンクの基盤部の厚み方向の熱伝導率を高めることで、発熱体であるLEDモジュールの熱をフィン部に効率よく伝え、放熱性を向上できる。ヒートシンクを製造する際にヒートシンクの厚みに対して狭いゲート(流入口)から金型キャビティ内に樹脂を流入させること、すなわち、ヒートシンクに形成されたゲート痕(図3中の符号5)の厚みに対する該ヒートシンクの厚み比(ヒートシンクの厚み/ゲート痕の厚み比)が2以上となる条件で設計することが好ましく、より好ましくは3以上であり、さらに好ましくは5以上である。ヒートシンクの厚み/ゲート痕の厚み比が2以上であることにより、無機充填材(B)を成形体の厚み方向に配向させることができ、ヒートシンクの厚み方向の熱伝導率がより効率的に高められる。この製品設計は、ヒートシンクの形状に限定されず、フィンの有無に関わらず、全ての形状に適用できる。ここで、ゲート痕の厚みとは、ゲート痕の径も含む。また、ヒートシンクの厚みとは、フィン部以外の厚みを示し、特に限定されないが、好ましくヒートシンクの基盤部の厚みである。
【0122】
ゲートの種類は特に限定されず、例えばダイレクトゲート、サイドゲート、ピンポイントゲート、フィルムゲート、ディスクゲート、リングゲート、ファンゲート、タブゲート、サブマリンゲート、ホットランナーゲートが挙げられるが、無機充填材(B)の配向をヒートシンクの厚み方向により配向させやすいという観点で、ダイレクトゲート、ピンポイントゲート、フィルムゲートなどが好ましい。また、溶融した樹脂ができるだけ固化しにくい状態で金型内に流入させやすいという観点より、ダイレクトゲートが好ましい。
【0123】
ゲート痕の設置箇所は特に限定されないが、金属部材と樹脂部材をより接合させやすくできるという観点より、図3に示すような設置箇所が好ましい。つまり、金属表面に形成された凹部の方向(-z方向)と溶融樹脂の流入方向(-z方向)が同方向になり、且つ金型内に溶融樹脂が流入すると同時に金属表面に衝突できる位置に設置することが好ましい。そうすることで、溶融樹脂が固化する前に金属表面の微細な凹部に緻密に流入することができ、さらにはアンカー効果によって、優れた接合を発現させることができる。
【0124】
ゲート痕の数は特に限定されないが、放熱性、成形性の観点より2つ以上が好ましい。ゲート痕の数が二つ以上の場合、樹脂が充填される際に発生するウェルド部の厚み方向の熱伝導率を高めることができ、発熱体の熱をフィンに効率よく伝えることができる。ゲート痕を2つ以上設置する場合、成形性の観点よりヒートシンクに対してできるだけ対称的な箇所に設置することが好ましい。
【0125】
本発明の金属樹脂複合体は、熱伝導性樹脂組成物よりなる部材と、表面処理した金属よりなる部材とが接触接合されてなるものである。本発明の金属樹脂複合体における金属部材の配置箇所は特に限定されないが、発熱体の熱を金属部材で拡散させた後、熱伝導性樹脂組成物よりなる部材によって放熱させることで効率よく放熱できるという観点で、金属部材を、本発明の金属樹脂複合体の受熱面部に配置することが好ましい。
【0126】
発熱体の設置箇所は特に限定されないが、上記の理由で金属部材表面に設置することが好ましい。
【0127】
本発明の金属樹脂複合体の形状は、特に限定されないが、フィンを有するヒートシンクの形状であってよく、この場合、金属部材上にフィンを設置することが好ましい。
【0128】
本発明の金属樹脂複合体は、優れた放熱性、成形加工性、低比重を有することから放熱筐体や放熱シャーシ、ヒートシンクに適している。本発明の金属樹脂複合体は、例えば、その外面に発熱体が設置されるか、または、その内部に発熱体が収容されて用いることができる。
【0129】
発熱体としては、それ自体が発熱性である物であっても外部から加熱されて発熱する物であってもよい。代表的な発熱体は発熱性の部品ないしは機器(装置)であり、例えば、LD(レーザーダイオード)、IC(集積回路)等の電子部品、パソコン、ワープロ、テレビゲーム等のコンピューターを利用した電子機器、自動車のエンジンへの空気吸入量やスロットル開度などの情報を元にして燃料噴射量や点火タイミングを決定するコンピューターであるエンジンコントロールユニット(ECU)、LEDランプ照明、インバーター、自動車用ランプのヒートシンク、ハウジング、コイル、ボビン、コネクタ、バスバー、パワーステアリング、車載用CCDカメラ等、放熱性が求められる各種用途の放熱筐体が挙げられる。
【0130】
放熱シャーシは、キーシャーシ又はサブシャーシとして、発熱体から熱を逃がすために用いられる。発熱体としては、代表的にはそれ自体が発熱体である発熱性部品が挙げられ、その具体例としては、携帯電話、TV等の電子・電気製品におけるLD、IC等の電子部品が挙げられる。これらは、放熱シャーシに搭載(固定)して用いられる他、放熱シャーシに固定せず、接触または近接して配置される。また、放熱シャーシは、LED(発光ダイオード)照明パッケージとしても好適に用いられる。LEDモジュールを冷却するためのヒートシンク、ソケット等として好適に用いられ、特に自動車用LEDランプヒートシンクに適している。
【0131】
自動車用LEDランプヒートシンクは、基盤とフィンを有する構造であれば全て該当する。自動車用LEDランプは大別すると内装用ランプ、外装用ランプがあり、例えば、内装用ランプとしてルームランプ、マップランプ、外装ランプとしてリアランプ、フロントランプ、ヘッドランプが挙げられる。具体的には、リアランプとしては、テールランプ、ストップランプ、リアターンシグナルランプ、リアフォグランプ、ハイマウントストップランプ、バックランプ、ナンバープレートランプ等が挙げられ、フロントランプとしては、フロントフォグランプ、フロントターンシグナルランプ、フロントポジショニングランプ、サイドターンシグナルランプ、デイランプ、ファッションランプ等が挙げられる。これら自動車用LEDランプの中でも高輝度のLEDモジュールが用いられ、放熱性が求められる観点より、リアランプ、フロントランプ、ヘッドランプが好適であり、好ましくはテールランプ、ストップランプ、フォグランプ、ポジショニングランプ、ターンシグナルランプ、デイランプ、ヘッドランプである。
【0132】
自動車用LEDランプのLED1つ当りの消費電力は、用途によって異なっており、また、LEDモジュールは複数用いられる場合がある。一般的にリアランプやフロントランプには0.1~15WのLEDモジュールが用いられ、好ましくは0.1~10W、より好ましくは、0.1~8W、さらに好ましくは0.1~5W、とくに好ましくは0.1~3Wである。また、ヘッドランプには1W以上のLEDモジュールが用いられ、好ましくは5~40Wであり、より好ましくは10~30Wであり、さらに好ましくは10~25Wであり、とくに好ましくは10~20Wである。
【0133】
自動車用LEDランプヒートシンクの大きさは、特に限定されないが、使用するランプ用途の種類によって、LEDの消費電力が異なり、放熱に必要なヒートシンクの大きさは異なる。
【0134】
リアランプ用ヒートシンクにおける最長の辺の長さは一般的には100mm以下であり、好ましくは70mm以下であり、より好ましくは50mm以下であり、さらに好ましくは40mm以下である。フロントランプ用ヒートシンクにおける最長の辺の長さは一般的には200mm以下であり、好ましくは120mm以下であり、より好ましくは80mm以下であり、さらに好ましくは50mm以下である。ヘッドランプ用ヒートシンクにおける最長の辺の長さは一般的には300mm以下であり、好ましくは200mm以下であり、より好ましくは100mm以下であり、さらに好ましくは80mm以下である。
【0135】
ヒートシンクサイズが小さくなるにつれて、軽量化できるが、ヒートシンクに要求される放熱性は高くなるため、形状の自由度が要求される。そのため、優れた成形性を有する本発明の熱可塑性樹脂組成物が好適であり、ヒートシンクサイズが小さいリアランプ用途が好適である。
【0136】
ヒートシンクの基盤部の厚みは、特に限定されないが、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下、さらに好ましくは3mm以下、特に好ましくは2mm以下である。基盤部の厚みが10mm超では、LEDモジュールの熱を効率よくヒートシンクのフィンに伝えられない場合がある。
【0137】
ヒートシンクのフィン部の高さは、特に限定されないが、放熱性を向上できるという観点で、高さは高い程好ましい。その場合、フィン部の面方向の熱伝導率は基盤部の面方向の熱伝導率より高い程好ましく、それを実施するための形状として、ヒートシンクの基盤部の厚みに対するヒートシンクのフィン部の厚み比は、1以下が好ましい。フィンの厚みが均一でない場合、フィンの根元部の厚みを採用して、上記厚み比を算出する。
【0138】
本発明の金属樹脂複合体は、金型内に、表面処理した金属よりなる部材を設置し、その金型内に、熱伝導性樹脂組成物を射出成形することによって得られる。その成形条件については特に限定されないが、より接合させやすくするということで、以下に記載する成形条件が好ましい。
【0139】
溶融樹脂の温度は、高ければ高い程よく、好ましくは熱可塑性樹脂(A)の融点+10℃以上であり、より好ましくは+20℃以上であり、さらに好ましくは+30℃以上である。また、金型温度は高ければ高い程よい。
【0140】
金型内に設置する金属部材は、金型温度と同じ温度となるように事前に加熱しておくことが好ましい。さらに、金型内に金属部材を設置してから、溶融樹脂が金型内に流入するまでの時間は長い程よく、好ましくは金属設置後+5秒以上、より好ましくは+10秒以上、さらに好ましくは+20秒以上である。上記の条件で成形することで、溶融樹脂の流動性が向上し、かつ金型内での樹脂の固化が遅くなるため、金属表面の微細な孔に樹脂が流入しやすくなり、より接合しやすくなる。
【0141】
本発明の金属樹脂複合体の金属部材と樹脂部材は接合されているが、より強固に金属を固定させるために振動溶着、超音波溶着、熱融着等の固定方法と併用して接合させてもよい。振動溶着を行う場合の振動数は100~300Hz程度が好ましく、超音波溶着を行う場合の振動数は10~50kHzが好ましい。また、総振動回数は、振動溶着の場合300~10000回が好ましく、超音波振動の場合は1万~15万回が好ましい。
【0142】
本発明の金属樹脂複合体は、放射率に優れる。本発明でいう放射率は、放射率測定器を用いて成形体の放射率を測定して得られ、0.65以上が好ましく、より好ましくは0.75以上、さらに好ましくは0.8以上である。
【実施例
【0143】
次に、本発明について、製造例、実施例及び比較例を挙げさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに制限されるものではない。
【0144】
樹脂組成物の調製に用いる原料成分を、以下に示す。
熱可塑性樹脂(A):
ポリエチレンテレフタレート(A-1):三菱化学社製 ノバペックス PBKII(商品名)、数平均分子量28,000
ポリエチレンテレフタレート(A-2):クラレ社製 KS710B-8S(商品名)、数平均分子量61,000
ポリブチレンテレフタレート(A-3):三菱エンジニアプラスチックス社製 ノバデュラン5008L(商品名)、数平均分子量19,000
ポリエステル-ポリエーテル共重合体(A-4):ポリエステル-ポリエーテル共重合体としては、以下の方法で製造したものを使用した。すなわち、攪拌機、ガス排出出口を備えた反応器に、アンチモン系触媒で製造されたアンチモン金属濃度200重量ppmのポリエチレンテレフタレート(PET)(IV=0.65のもの)70重量部、PET及びポリエーテルに対して160ppmとなる三酸化アンチモン、及び酸化防止剤(チバ・スペシャリティーケミカルズ製のイルガノックス1010)0.2重量部、以下で説明するビスオール18ENであるポリエーテル30重量部を仕込んだ後、270℃で2時間保持した後、真空ポンプで減圧し、1torr、3時間保持後とりだし、ポリエステル-ポリエーテル共重合体を得た。得られたポリエステル-ポリエーテル共重合体の数平均分子量は、25,400であった。前記ビスオール18ENは、前記一般式(2)の構造における(m+n)の数平均が18のものである。
ポリアミド系樹脂(A-5):ナイロン6、ユニチカ社製 A1020BRL(商品名)
ポリフェニレンスルフィド系樹脂(A-6):ポリプラスチックス社製 DURAFIDE W-220A(商品名)
無機粒子(B1):
鱗片状黒鉛(B1-1):中越黒鉛工業所社製 CPB-80(商品名)、体積平均粒子径300μm、固定炭素量99.9重量%、アスペクト比100
鱗片状黒鉛(B1-2):中越黒鉛工業所社製 BF-40AK(商品名)、体積平均粒子径50μm、固定炭素量99.9重量%、アスペクト比30
無機繊維(B2):
ガラス繊維:日本電気硝子株式会社製 T187H/PL(商品名)、単体での熱伝導率1.0W/(m・K)、数平均繊維径13μm、数平均繊維長3.0mm
難燃剤(D):アルベマール社製臭素系難燃剤SAYTEX7010P(商品名)
難燃助剤(E):日本精鉱社製三酸化アンチモンPATOX-P(商品名)
[金属表面処理方法]
外寸が20mm×20mm、厚み1mmであるアルミニウム合金A5052(JIS H4040:2006に規定)からなる板状部品に対し、以下の金属表面処理を行った。
【0145】
<処理1>
市販のアルミニウム用脱脂材「NE-6(日本国東京都、メルテックス株式会社製)」を15%濃度で含む水溶液を用意し液温を75℃とした。この脱脂材水溶液にアルミニウム合金板を5分浸漬し、水洗した。続いて別の槽に1%濃度の塩酸水溶液を用意し液温を40℃とした。ここへ先ほどのアルミニウム合金板を1分間浸漬し水洗した。
【0146】
続いて別の槽に1%苛性ソーダ水溶液を用意し、液温を40℃とした。ここへ先ほどのアルミニウム合金板を1分間浸漬し水洗した。続いて別の槽に1%塩酸水溶液を用意し、液温を40℃とした。ここへ先ほどのアルミニウム合金板を1分間浸漬し水洗した。続いて3.5%量の一水和ヒドラジン水溶液を60℃とした中に先ほどのアルミニウム合金板を1分間浸漬し、水洗して、60℃×20分間温風乾燥機で乾燥した。得られたアルミニウム合金板をアルミ箔で包み、これをポリエチレン袋に入れて封じた。翌日、電子顕微鏡「S-4800(日本国東京都、株式会社日立製作所製)」で、10万倍率でアルミニウム合金板の表面を観察したところ、径が20~40nmの範囲にあってかつ数平均内径が25nmの凹部で表面全面が覆われていることを確認した。
【0147】
<処理2>
アルミニウム合金板の端部に穴を開け、十数個に対し塩化ビニルでコートした銅線を通し、アルミニウム合金板同士が互いに重ならないよう銅線を曲げて加工し、全て同時にぶら下げられるようにした。槽にアルミニウム合金用脱脂剤「NE-6(メルテックス株式会社製)」7.5%を水に投入した後で75℃として加熱溶解し、前記のアルミニウム合金板を5分浸漬し、よく水洗した。
【0148】
続いて別の槽に50℃とした10%苛性ソーダ水溶液を用意し、これに前記のアルミニウム合金板を0.5分浸漬してよく水洗した。続いて別の槽に90℃とした60%硝酸液を用意し、15秒浸漬してよく水洗した。続いて別の槽に20℃とした5%硫酸水溶液を用意し、前記のアルミニウム合金板の穴部に直流電源装置「ASR3SD-150-500(中央製作所製)」の陽極を結線し、陰極は槽に入れた鉛板に結線して5A/dmの電流密度になる定電流制御で陽極酸化した。40分陽極酸化して水洗し、60℃とした温風乾燥機に1時間入れて乾燥した。1日後、アルミニウム合金板の表面を電子顕微鏡によって観察し、数平均内径17nmの微細孔(凹部)が表面を覆っていることを確認した。
【0149】
<処理3>
アルミニウム合金板を下記組成のエッチング液A(水溶液)に1分間浸漬して防錆皮膜除去を行い、次に下記組成のエッチング液B(水溶液)に5分間浸漬して金属部品表面をエッチングした。このエッチングにより、アルミニウム合金板の表面を粗面化した。アルミニウム合金板の表面を電子顕微鏡によって観察し、数平均内径8μmの凹部が表面を覆っていることを確認した。
エッチングA液(温度20℃):
過酸化水素 26g/L
硫酸 90g/L
エッチングB液(温度25℃):
過酸化水素 80g/L
硫酸 90g/L
ベンゾトリアゾール 5g/L
塩化ナトリウム 0.2g/L
<処理4>
メック社製「AMALPHA(アマルファ)」の技術によりアルミニウム合金板の表面処理を行った。処理方法は、まず、脱脂処理した後、市販されているアルカリ性水溶液、酸性水溶液に順次浸漬させ、粗面化した。粗面化処理後、アルミニウム合金板表面に析出した金属酸化物を除去することで、表面処理を施した。アルミニウム合金板の表面を電子顕微鏡によって観察し、数平均内径3μmの凹部が表面を覆っていることを確認した。
【0150】
<処理5>
アルミニウム合金板の表面に、国際公開第2015/008771号の実施例3に記載の連続波レーザー照射による表面処理を施した。
【0151】
[評価方法]
押出混練温度:
熱伝導性樹脂組成物は、押出溶融混練によって作製されるが、その際の温度は熱可塑性樹脂(A)によって異なり、表1に示す押出バレル温度で押出溶融混練を行った。
【0152】
成形加工条件:
成形加工温度は、使用する熱可塑性樹脂(A)によって異なり、表1に示す成形加工温度で射出成形を行って、成形体を得た。また、射出速度150mm/s、射出圧力150MPaに固定して成形を行った。
【0153】
接合性評価:
金型内に処理1~5を施した金属板をそれぞれ設置し、射出成形機[東洋機械金属(株)製、Si-30IV]を用いて、図3に示す金属樹脂複合体(ダイレクトゲート、ゲート径3mm)を作製した。得られた複合体の金属と樹脂の接合面を剥離させ、その破壊面の状態により次のように接合性を評価した。
○:剥離させるのに工具を要し、金属側に樹脂が残る。
△:取り出し後、手で剥がれるが、抵抗感があり、金属側に樹脂が残る。
×:取り出し後、手で剥がれ、金属側に樹脂が残らない。もしくは、手を触れることなく剥離する。
【0154】
接合強度:
金型内に処理1~5を施した金属板をそれぞれ設置し、射出成形機[日精樹脂工業(株)製、FN1000]を用いて、図7に示す金属樹脂複合体を作製した(樹脂部6と金属部7の接合面の面積は50mm)。ISO19095に準拠して、得られた金属樹脂複合体の樹脂部の端部と金属部の端部を逆方向に引っ張り、接合面の引張破断強度、すなわち接合強度の測定を行った。
【0155】
黒鉛の体積平均粒子径:
マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装社製 MICROTRAC MT3300EXII)を用いて、水溶媒中に黒鉛粒子を投入した後、60秒間超音波振動させた後、測定を行った。成形加工後の黒鉛粒子の体積平均粒子径については、金属板に処理2を行い接合性評価で得られた金属樹脂複合体の樹脂部のみを取り出し、620℃で1時間焼成させた後、樹脂中に含まれる黒鉛粒子のみを取り出し、測定を行った。
【0156】
黒鉛のアスペクト比:
走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子社製 JSM-6060LA)を用いて、黒鉛粒子100個の最長径及び最短径の各平均値を用いて算出した。成形加工後の黒鉛粒子のアスペクト比については、金属板に処理2を行い接合性評価で得られた金属樹脂複合体を用いて同様の方法で算出した。
【0157】
数平均分子量:
金属板に処理2を行い接合性評価で得られた金属樹脂複合体の樹脂部の一部をp-クロロフェノール(東京化成工業製)とトルエンの体積比3:8混合溶媒に0.25重量%濃度となるように溶解させた後、熱可塑性樹脂のみを抽出し、試料を調製した。標準物質はポリスチレンとし、同様の試料溶液を調製した。高温GPC(Viscotek社製 350 HT-GPC System)にてカラム温度:80℃、流速1.00mL/minの条件で測定した。検出器としては、示差屈折計(RI)を使用した。
【0158】
熱伝導率:
得られた熱伝導性樹脂組成物のペレットを用いて、射出成形機[東洋機械金属(株)製、Si-15IV]にて、φ26mm×1mm厚の成形体を作製し、ASTM E1461規格に準拠して、レーザーフラッシュ法熱伝導率測定装置(NETZSCH社製 LFA447)により、室温大気中における面方向と厚み方向の熱伝導率を測定した。
【0159】
比重:
φ26mm×1mm厚の成形体を用いて、ISO1183規格に準拠して、水中置換法にて比重を測定した。
【0160】
成形加工性:
得られた熱伝導性樹脂組成物のペレットを、射出成形機[東洋機械金属(株)製、Si-30IV]を用いて、熱可塑性樹脂に合わせて、表1に示す成形温度、金型温度にし、射出圧力150MPa、射出速度150mm/sで、10mm幅×1mm厚(ピッチ5mm)で中心からスパイラル状に樹脂充填する成形体における溶融樹脂の流動長を測定し、次のように成形加工性を判断した。○:流動長が120mm以上、△:流動長が80~120mm、×:流動長が80mm未満。
【0161】
燃焼性:
以下に示すUL94規格の規定に準じて行った。試験片の上端をクランプで止めて試験片を垂直に固定し、下端に所定の炎を10秒間当てて離し、試験片の燃焼時間(1回目)を測定する。消火したら直ちに再び下端に炎を当てて離し、試験片の燃焼時間(2回目)を測定する。5片について同じ測定を繰り返し、1回目燃焼時間のデータ5個と、2回目燃焼時間のデータ5個の、計10個のデータを得る。10個のデータの合計をT、10個のデータのうち最大値をMとする。Tが50秒以下、Mが10秒以下でクランプまで燃え上がらず、炎のついた溶融物が落ちて12インチ下の木綿に着火するようなことがなければV-0相当、Tが250秒以下、Mが30秒以下でその他はV-0と同様の条件を満たせばV-1相当となる。難燃剤を含まない熱伝導性樹脂組成物については、燃焼性をすべてHBとして記載する。
【0162】
金属樹脂複合体の放熱性:
得られた熱伝導性樹脂組成物のペレットから、射出成形機[東洋機械金属(株)製、Si-100IV]を用いて、金型内にアルミニウム合金板(20mm×20mm、厚み1mm)を設置し、図4~6に記載のヒートシンクを作製した。アルミニウム合金板は、図4に記載のヒートシンク上面部8の凹部に設置した。アルミニウム合金板の中心に5mm×5mm×厚み2mmの発熱体を設置した。ヒートシンクのフィンが下になるように固定し、20℃雰囲気下、発熱体に10W印加した。2時間放置後、発熱体の温度を測定した。
【0163】
【表1】
【0164】
[実施例1~11]
熱可塑性樹脂を、熱風乾燥機を用いて4時間乾燥[乾燥温度:(A-1)~(A~4)、(A-6)は140℃、(A-5)は120℃]し、表2に示された重量比率となるように表2記載の各成分を混合したものを準備した。これに、フェノール系安定剤(株式会社ADEKA製AO-60)およびリン系酸化防止剤(株式会社ADEKA製アデカスタブPEP-36)を樹脂組成物100重量部に対してそれぞれ0.3重量部加えた。この混合物を、株式会社テクノベル製25mm同方向回転完全噛合型二軸押出機MFU25TW-60HG-NH-1300を用いて、吐出量20kg/h、スクリュー回転数150rpm、押出バレル温度を表1に示す温度に設定して溶融混練することで、樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物のペレットから射出成形によって、各成形体を作製し、各種評価した。各種評価結果を表2に示す。
【0165】
[実施例12~13]
実施例4で得られた樹脂組成物のペレットを用いて、図4~6に記載のヒートシンクを作製した。処理1又は4を施したアルミニウム合金板をそれぞれ用いた。得られた複合体を用いて、接合性、放熱性評価を行い、その結果を表3に示す。
【0166】
[比較例1~3]
アルミニウム合金板を表面処理を行っていないものに変更し、配合比を変更した以外は、実施例2、8、9と同様にした。金属表面には凹部は形成されておらず、凹部の数平均内径は0μmであった。各種評価結果を表4に示す。
【0167】
[比較例4]
アルミニウム合金板を表面処理を行っていないものに変更した以外は、実施例12と同様にした。金属表面には凹部は形成されておらず、凹部の数平均内径は0μmであった。得られた複合体の接合性、放熱性評価を行い、その結果を表3に示す。
【0168】
[比較例5]
比較例4で得られた複合体のリブ部9を超音波溶着し、金属板を固定した以外は、比較例4と同様にした。得られた複合体の接合性、放熱性評価を行い、その結果を表3に示す。
【0169】
【表2】
【0170】
【表3】
【0171】
【表4】
【0172】
接合性について、実施例2と比較例1の結果より、本発明の表面処理を施した金属板を用いることで、優れた接合性を発現していることが分かる。
【0173】
実施例2と3の結果より、溶融混練前の黒鉛粒子の体積平均粒子径が大きい程、金属樹脂複合体中に含まれる黒鉛粒子の体積平均粒子径が大きくなり、接合性はより向上していることが分かる。それに加えて、黒鉛粒子の体積平均粒子径が大きい程、成形加工性が向上している。これら二つのことより、表面処理により生じた微細な凹部に大粒子径の黒鉛粒子は入りにくく、樹脂のみが流入しやすくなっていると言える。
【0174】
実施例2、7~11の結果より、本発明によると、熱可塑性樹脂の種類、フィラー量に限らず、良好な接合性を発現できると言える。
【0175】
放熱性について、実施例12又は13と比較例4の結果より、金属表面処理を施した金属板を用いることで、金属と樹脂の界面が密着し、発熱体の熱を金属で拡散させた後、効率よく樹脂部に伝熱できているといえる。また、比較例5で金属板を固定した場合でも、比較例4とほぼ同等の結果が得られたことから、金属部材と樹脂部材の界面を密に密着させることが重要と言える。
【0176】
本発明の金属樹脂複合体は、射出成形により一体成形させることができ、従来の方法よりも工程を減らすことができる上、金属と樹脂の界面抵抗を減らすための材料は不要であり、容易、且つ安価に製造できる。さらには優れた熱伝導性、成形加工性、低比重を有するため、熱伝導性が高い金属等の代替にすることができ、軽量化や形状の自由度が高く、電子・電気機器部品、自動車用途をはじめ、様々な用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0177】
1 LEDモジュール
2 回路基板
3 ヒートシンクの基盤
4 ヒートシンクのフィン
5 ゲート
6 樹脂部
7 金属部
8 ヒートシンク上面部
9 リブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7