(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】耐火壁の構築方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/14 20060101AFI20220929BHJP
E04G 3/18 20060101ALI20220929BHJP
E04G 21/32 20060101ALI20220929BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20220929BHJP
B66B 7/00 20060101ALI20220929BHJP
A62C 2/06 20060101ALI20220929BHJP
A62C 2/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
E04G21/14
E04G3/18 D
E04G21/32 C
E04G21/32 B
E04B1/94 F
E04B1/94 L
B66B7/00 G
A62C2/06 509
A62C2/00 X
(21)【出願番号】P 2018071266
(22)【出願日】2018-04-03
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】本橋 高彦
(72)【発明者】
【氏名】篠▲崎▼ 智一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏治
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-154540(JP,A)
【文献】特開2011-201613(JP,A)
【文献】特開平07-149483(JP,A)
【文献】特開2012-172370(JP,A)
【文献】特開2000-008511(JP,A)
【文献】特開昭55-031729(JP,A)
【文献】実開昭53-089024(JP,U)
【文献】実開昭59-012357(JP,U)
【文献】特開昭58-160474(JP,A)
【文献】特開2000-053350(JP,A)
【文献】特開2015-227561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/14
E04G 3/18
E04G 21/32
E04B 1/94
B66B 7/00
A62C 2/06
A62C 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の階層を含む工区毎に、躯体工事の進捗状況の影響を受けることなく、建物の躯体工事と並行して、エレベータシャフト用の開口部の周囲に竪穴区画を形成する耐火壁の構築方法であって、
前記工区内の前記開口部の周囲に設けられる柱および梁を組み立てる工程と、
前記工区の最下層において前記開口部を床スラブで覆う工程と、
前記床スラブ上に複数階にわたって連続して前記工区の上部に至る仮設足場を組み立てる工程と、
前記仮設足場を利用して、前記開口部の周囲に耐火壁を形成する工程と、
を備え
、
前記仮設足場を前記開口部の周囲に沿って組み立てるとともに、対向する前記仮設足場同士の間に防護ネットを架設し、
前記工区の最下層以外の階層において、前記開口部の周囲に進入阻止手段を設置し、
前記耐火壁を形成する工程では、前記工区の上部に至る仮設足場を利用して、前記開口部の周囲に一度に複数階に亘って竪穴区画用の耐火壁を構築することを特徴とする、耐火壁の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物のエレベータシャフト等の周囲に竪穴区画として耐火壁を構築するための耐火壁の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータシャフト等、複数階にわたって連続する吹き抜け空間は、火災時の火や煙等の伝播経路となり得る。エレベータシャフト等によって火や煙が伝播すると、短時間で広範囲に被害が広がる恐れがある。そのため、エレベータシャフト等の吹き抜け空間に対しては、延焼防止の観点から、耐火壁によって区画(竪穴区画)することが義務付けられている。
このような竪穴区画用の耐火壁の構造として、例えば、特許文献1には、竪穴区画の周囲に配設された横架材と、横架材の下面に上端部が取付固定された耐火材とを有するものが開示されている。
また、本出願人等は、特許文献2に示すように、天井部の梁に固定された上部受枠と、床構造に固定さえた下部受枠と、上下の受枠の間に跨って配設されたスタッドと、スタッドのエレベータシャフトの内側および外側にそれぞれ固定された石膏ボードとからなる耐火壁を開発し、実用化に至っている。
竪穴区画用の耐火壁を構築する際には、建物の躯体工事を先行させて構築した後、エレベータシャフトの周囲に形成された床版上に仮設足場を組んだ状態で、当該仮設足場を利用してエレベータシャフトの周囲に耐火壁を構築するのが一般的であった。そのため、従来の耐火壁の工事は、躯体工事の進捗の影響を受けてしまう。
そのため、特許文献3では、躯体工事の進捗に影響を受けることなくエレベータシャフトを施工する方法として、軽量発泡コンクリートで形成されたエレベータシャフト本体ユニットを高さ方向に積み重ねることにより、エレベータシャフトを施工する方法が開示されている。エレベータシャフト本体ユニットは、エレベータシャフトの周囲を囲う断面形状を有しているとともに、階高以上の高さを有したプレキャスト部材である。
ところが、特許文献3の施工方法は、エレベータシャフト本体ユニットをクレーンで吊り込むための大型のクレーンが必要となる。また、プレキャスト製のエレベータシャフト本体ユニットの輸送に手間と費用がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-172370号公報
【文献】特開平10-140704号公報
【文献】特開平5-171809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、エレベータシャフト周りにおける複数階に亘る竪穴区画用耐火壁の構築工事を、建物躯体工事と並行して行うことが可能で、かつ、施工時の安全性の向上を図ることで、簡易かつ安価に施工を行うことを可能とした耐火壁の構築方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、エレベータシャフトの空間内に仮設足場を設けて、建物の躯体工事と並行して竪穴区画の施工を行うことで工期短縮化を図るとともに、仮設足場を開口部の位置を示す目印とすることで安全性の向上を図ることができることに着眼して、本発明の耐火壁の構築方法に至った。
前記課題を解決するために本発明は、複数の階層を含む工区毎に、躯体工事の進捗状況の影響を受けることなく、建物の躯体工事と並行して、エレベータシャフト用の開口部の周囲に竪穴区画を形成する耐火壁の構築方法である。第1の発明の耐火壁の構築方法では、前記工区内の前記開口部の周囲に設けられる柱および梁を組み立てる工程と、前記工区の最下層において前記開口部を床スラブで覆う工程と、前記床スラブ上に複数階にわたって連続して前記工区の上部に至る仮設足場を組み立てる工程と、前記仮設足場を利用して、前記開口部の周囲に耐火壁を形成する工程とを備えている。
かかる耐火壁の構築方法によれば、工区の最下層においてエレベータシャフトの開口部に床スラブを敷設するとともに、当該床スラブ上に仮設足場を設置することで、躯体工事の進捗状況の影響を受けることなく、エレベータシャフトの周囲に竪穴区画用の耐火壁を構築することができる。また、エレベータシャフトに先行して仮設足場を設置することで、開口部の位置を視認しやすくなり、また、仮設足場が落下防止手段としても機能する。
【0006】
また、本発明の耐火壁の構築方法では、前記仮設足場を前記開口部の周囲に沿って組み立てるとともに、対向する前記仮設足場同士の間に防護ネットを架設し、前記工区の最下層以外の階層において、前記開口部の周囲に進入阻止手段を設置し、前記耐火壁を形成する工程では、前記工区の上部に至る仮設足場を利用して、前記開口部の周囲に一度に複数階に亘って竪穴区画用の耐火壁を構築する。このようにすれば、建設資材、工具あるいは作業員が万が一落下したとしても、途中階において防護ネットに受け止められるため、落下事故の影響範囲の拡大を防止できる。
また、開口部の位置を明示することができるとともに、作業員などが誤って開口部に進入することを阻止することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の耐火壁の構築方法によれば、エレベータシャフト周りにおける複数階に亘る竪穴区画用耐火壁の構築工事を、建物躯体工事と並行して行うことができる。また、本発明の耐火壁の構築方法によれば、施工時の安全性の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る建物のエレベータシャフトを示す断面図である。
【
図2】本実施形態の耐火壁の概要を示す図であって、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
【
図3】本実施形態の耐火壁の構築方法の各施工段階を示す断面図であって、(a)は躯体形成工程、(b)はスラブ形成工程である。
【
図4】
図3(b)に続く耐火壁の構築方法の各施工段階を示す図であって、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態では、複数階にわたるエレベータシャフト11周りにおける竪穴区画用の耐火壁2を、建物1の躯体工事と並行して構築することで、工期短縮化を図る場合について説明する(
図1参照)。本実施形態の建物1は、鉄筋コンクリート造、または鉄骨造、或いは鉄骨鉄筋コンクリート造とするが、建物1のエレベータシャフト11周りの躯体構造は限定されるものではない。
本実施形態の耐火壁の構築方法では、エレベータシャフト11の施工を、建物1を高さ方向で複数の工区A、A、…に分割して行う。そして、各階に形成されたエレベータシャフト11用の開口部12の周囲に耐火壁2を設けることで竪穴区画を形成する。各工区A、A、…は、複数の階層(本実施形態では3階分)を含んでいる。具体的には、
図1に示すように複数の階層に及ぶ工区Aに耐火壁2を構築した後、その建設工区の最下層階の仮設床スラブを存置したまま、上方階側の新たな工区Aにおいて、耐火壁2の構築を繰り返し行い、全ての建物階にエレベータシャフト11用の耐火壁2を構築する。
【0010】
耐火壁2は、
図1に示すように、各階毎(フロア毎)に形成するものとし、開口の周囲において、上階の床版4の下側に横架された梁3と当該階の床版4との間に形成された空間を遮蔽する。すなわち、耐火壁2は、各階において、壁面がエレベータシャフト11に面するように平面視ロ型形状に構築されている。耐火壁2は、
図2(a)および(b)に示すように、下地材21と、下地材21の表面(エレベータシャフト11と反対側の面)および裏面(エレベータシャフト11側の面)にそれぞれ固定された壁部材(第一壁部材22および第二壁部材23)とを備えている。
下地材21は、耐火鋼(FR鋼:Fire Resistant Steel)からなる断面視コ字状の鋼材を組み合わせることにより形成されている。下地材21は、梁3の下面および床版4の上面に沿って配設された横材24と、上下の横材24同士の間に立設された縦材25とにより構成されている。なお、下地材21を構成する材料および各部材(横材24および縦材25)の配置等は限定されるものではない。
壁部材は、石膏ボードにより形成されている。下地材21の表面に設けられた第一壁部材22の厚さは、下地材21の裏面に設けられた第二壁部材23の厚さよりも大きい。本実施形態の第一壁部材22は2枚の石膏ボード22a,22bを積層することにより形成されている。なお、第一壁部材22および第二壁部材23を構成する材料は、石膏ボードに限定されるものではなく、耐火性を有していればよい。また、耐火壁2の構成は限定されるものではなく、例えば、第二壁部材23を省略して、下地材21の表面のみに壁部材(第一壁部材22)を設置してもよい。また、第一壁部材22と第二壁部材23との間(下地材21、第一壁部材22および第二壁部材23の間に形成された空間)には、断熱材を充填してもよい。
【0011】
耐火壁2は、工区A毎の躯体形成工程と、スラブ形成工程と、足場組立工程と、壁施工工程とを行うことにより構築する。なお、耐火壁2は、下側の工区Aから順に実施することを基本とするが、複数の工区Aを並行して実施してもよい。但し、上側の工区Aは、少なくとも直下の工区Aの躯体形成工程が終了してから実施する。
躯体形成工程は、いわゆる躯体工事である。
図3(a)に示すように、躯体形成工程では、エレベータシャフト11用の開口部12の周囲に設けられる柱5および梁3を組み立てる。なお、開口部12の周囲の柱5および梁3等の施工は、建物1の他の領域の柱5や梁3等の施工とともに行う。柱5および梁3の寸法や配置等は限定されるものではない。梁3は、隣り合う柱5同士の間に横架する。開口部12の周囲において梁3を形成したら、開口部12の周囲に床版4を形成する。床版4は、プレキャスト部材を敷設することにより形成してもよいし、場所打ちコンクリートにより形成してもよい。床版4を形成した後、工区Aの最下層以外の階層において、開口部12の周囲で、平面視ロ型形状に組み上げた仮設足場との間に隙間を設けて、その床スラブ上に複数段の水平材を備えた進入阻止手段6を設置する。進入阻止手段6としては、手すりを形成する。
【0012】
スラブ形成工程は、
図3(b)に示すように、躯体形成工程における柱5や梁3等の施工後、工区Aの最下層において開口部12を仮設床スラブ7または本設床スラブで覆う工程である。
仮設床スラブ7は、パイプ材(いわゆる単管パイプ)を組み合わせることにより形成された支持材71と、支持材71の上面に敷設された面材72とにより形成されている。支持材71の周縁部は、開口部12の周囲の床版4または梁3に固定する。支持材71を設置したら、支持材71の上面を面材72で覆う。面材72は、複数の足場板が組み合わされたものであってもよいし、鋼板等であってもよい。仮設床スラブ7には、既成の仮設床材(例えばフラットデッキ)を配設する。また、支持材71は、パイプ材または形鋼材で形成する。
仮設床スラブ7の下側には、防護ネット8を設置しておく。防護ネット8は、開口部12を平面視で覆うように設ける。防護ネット8の縁部は、開口部12の周囲に設けられた梁3の下側のフランジ端部を固定する。
【0013】
足場組立工程は、
図4(a)および(b)に示すように、仮設床スラブ7上に工区Aの上部に至る仮設足場9を組み立てる工程である。
図4(a)は開口部12に組み立てる仮設足場9と耐火壁2等の位置関係を示す断面図であり、
図4(b)は同平面図である。
仮設足場9は、開口部12の周囲(エレベータシャフト11の周縁部)に沿って組み立てる。仮設足場9は、複数階にわたって連続している。対向する仮設足場9同士の間には、防護ネット81を架設する。防護ネット81は、対向する仮設足場9同士の間(仮設足場9によって囲まれた空間)を遮蔽するように設けるものとし、各階(中階と上階)のフロア高に応じて、各階ごとに複数の高さ位置に設置する。また、必要に応じて仮設足場9同士をつなぐ補強材91を配置することで、複数階に亘って鉛直方向に組み立てられた仮設足場9の安定性を確保する。
【0014】
壁施工工程は、
図4(a)および(b)に示すように、仮設足場9を利用して、エレベータシャフト11の周囲に耐火壁2を形成する工程である。
壁施工工程では、まず、下地材21を固定するための治具を開口部12(エレベータシャフト11)の周囲に設けられた梁3に固定する。治具の取り付けは、エレベータシャフト11内に設けられた仮設足場9から行う。
治具を固定したら下地材21を形成する。そして、下地材21の表面と裏面に壁部材(第一壁部材22および第二壁部材23)を固定する。
【0015】
以下に、本実施形態の耐火壁の構築方法の作用効果を述べる。
本実施形態の耐火壁の構築方法によれば、
図4(a)に示すように工区Aの最下層においてエレベータシャフト11の開口部12に仮設床スラブ7または本設床スラブを設置するとともに、当該工区Aの最下層の床スラブ(仮設床スラブ7または本設床スラブ)上に工区Aの上部に至る仮設足場9を設置することで、耐火壁2の施工を複数階にわたって連続して施工することができる。そのため、建設中建物において、各階ごとに実施されていく躯体工事等、他の工区Aでの施工の進捗状況の影響を受けることなく、エレベータシャフト11の周囲に一度に複数階に亘って竪穴区画用の耐火壁2を構築することができる。
また、開口部12(エレベータシャフト11)を資材の輸送路として使用することができるため、各階毎に資材を輸送する場合に比べて作業性に優れている。
また、エレベータシャフト11に先行して仮設足場9を設置することで、開口部12の位置を視認しやすくなる。また、仮設足場9が落下防止手段としても機能する。また、開口部12の周囲に進入阻止手段6を設置することで、開口部12の位置を明示することができるとともに、作業員、作業台車などが誤って開口部12に進入することを阻止することができる。
また、仮設足場9を開口部12の縁部に沿って組み立てるとともに、仮設足場9の内側空間に防護ネット81を架設しているため、建設資材、工具あるいは作業員が万が一落下したとしても、途中階において防護ネット81に受け止められる。そのため、落下事故の影響範囲の拡大を防止できる。
【0016】
以上、本発明に係る実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、耐火壁2の施工を、エレベータシャフト11内に設けられた仮設足場9を利用して行うものとしたが、エレベータシャフト11の外側に仮設足場9を設置して、エレベータシャフト11の内外から耐火壁2の施工を行ってもよい。また、前記実施形態では、耐火壁2は第一壁部材22および第二壁部材23を構成する石膏ボードを複数枚設置して構築したが、耐火壁2を構成する壁材(石膏ボード)の枚数および厚さは限定されるものではなく、耐火壁を1枚の壁材で形成させてもよい。また、上記実施形態では、耐火壁2は梁の下面と床版4との間に構築したが、直上階の床版4の下面に沿って横材24を設置し、当該階の床版4の上面との間に耐火壁2を構築してもよい。
【符号の説明】
【0017】
1 建物 11 エレベータシャフト 12 開口部
2 耐火壁 21 下地材 22 第一壁部材
23 第二壁部材 3 梁 4 床版
5 柱 6 進入阻止手段 7 仮設床スラブ(床スラブ)
71 支持材 72 面材 8、81 防護ネット
9 仮設足場 10 エレベータかご