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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】紡糸冷却装置
(51)【国際特許分類】
   D01D 5/092 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
D01D5/092 103
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018094243
(22)【出願日】2018-05-16
(65)【公開番号】P2019199659
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳平
(72)【発明者】
【氏名】川本 和弘
【審査官】静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-001875(JP,U)
【文献】特表平08-506393(JP,A)
【文献】特開2008-239294(JP,A)
【文献】特開2003-286613(JP,A)
【文献】特開昭61-258011(JP,A)
【文献】特表2003-520303(JP,A)
【文献】特開昭61-239008(JP,A)
【文献】実開昭54-014006(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00-13/02
B65H 51/00-51/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却風が供給される筒状空間が上下方向に形成され、紡糸部から紡出される合成樹脂製のフィラメントが前記筒状空間を走行した後に下側の出口部から出てくるように構成された紡糸冷却装置であって、
前記出口部の周縁に、前記フィラメントが接触したときに、接触した前記フィラメントに静電気が生じることを抑制する、絶縁性を有する静電気抑制部が設けられており、
前記静電気抑制部は、前記出口部とは別の絶縁部材によって構成されており、
前記絶縁部材は、前記出口部に着脱自在に構成されていることを特徴とする紡糸冷却装置。
【請求項2】
前記絶縁部材は、前記出口部の周縁全周にわたるリング形状を有することを特徴とする請求項1に記載の紡糸冷却装置。
【請求項3】
前記リング形状を有する前記絶縁部材の内径は、前記筒状空間の径と同じであることを特徴とする請求項2に記載の紡糸冷却装置。
【請求項4】
前記絶縁部材の下端部のうち少なくとも内周側は、湾曲状に形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の紡糸冷却装置。
【請求項5】
前記絶縁部材はセラミックス製であることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の紡糸冷却装置。
【請求項6】
前記絶縁部材に梨地加工が施されていることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の紡糸冷却装置。
【請求項7】
前記筒状空間を延長させるための延長筒を前記出口部に装着可能に構成されており、
前記延長筒を取り付けた場合、前記絶縁部材は前記延長筒の下端部に取り付けられることを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の紡糸冷却装置。
【請求項8】
前記冷却風が周壁の一部から流入可能な筒体と、
前記筒体を収容する箱体と、
を備えており、
前記絶縁部材は、前記箱体の下面に前記筒体とともに共締めされていることを特徴とする請求項7に記載の紡糸冷却装置。
【請求項9】
複数の前記フィラメントを冷却することを特徴とする請求項1~の何れか1項に記載の紡糸冷却装置。
【請求項10】
前記フィラメントの1本の太さが6dtex以下であることを特徴とする請求項に記載の紡糸冷却装置。
【請求項11】
前記フィラメントは、ナイロン6又はPET-カチオンからなることを特徴とする請求項1~10の何れか1項に記載の紡糸冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸部から紡出される合成樹脂製のフィラメントを冷却するための紡糸冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載の紡糸冷却装置は、紡糸ビームから紡出された合成樹脂製のフィラメントが走行する冷却筒及び仕切筒を有しており、冷却筒の周壁から流入する冷却風によってフィラメントを冷却して固化する。冷却筒及び仕切筒は、金属製の箱体に収容されており、箱体の下面に形成された出口部から冷却されたフィラメントが出てくる。
【0003】
一般的な紡糸生産設備では、紡糸ビーム及び紡糸冷却装置は上階に配置されており、糸を巻き取る巻取装置等は下階に配置されている。このため、糸の生産開始時には、上階にいるオペレータが紡糸冷却装置の出口部から出てきたフィラメントを下階に下ろし(以下、糸下ろし作業と言う)、下階にいる他のオペレータがこれを受け取って巻取装置等への糸掛け作業を行う。上階と下階とはダクトでつながっており、ダクト内でフィラメントが下ろされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-145525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
糸下ろし作業では、オペレータが紡糸冷却装置の出口部から出てきたフィラメントを掴んで側方に引っ張ることがあり、その際にフィラメントが出口部の周縁に接触することがあった。その他、例えば、特許第6291049号公報の図7(a)のように傾斜板を用いた際に、傾斜板上のフィラメントを掴んで側方に引っ張る場合や、図7(b)のように糸吸引装置でフィラメントを吸引した場合に、フィラメントが出口部の周縁に接触することもあった。箱体は金属で構成されているため、合成樹脂製のフィラメントが出口部に接触すると、フィラメントと出口部との間で電荷の移動が生じ、フィラメントに静電気が発生する。すると、フィラメントが紡糸冷却装置やオペレータにまとわりついたり、上階と下階とを接続するダクトの内周面にへばりついたりし、糸下ろし作業が困難になるという問題があった。また、フィラメント同士が反発し合って広がることで収束せず、オペレータがフィラメントを掴むこと自体が困難になることもあった。
【0006】
以上の課題に鑑みて、本発明に係る紡糸冷却装置は、フィラメントが出口部に接触することで生じる静電気を抑え、糸下ろし作業を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、冷却風が供給される筒状空間が上下方向に形成され、紡糸部から紡出される合成樹脂製のフィラメントが前記筒状空間を走行した後に下側の出口部から出てくるように構成された紡糸冷却装置であって、前記出口部の周縁に、前記フィラメントが接触したときに、接触した前記フィラメントに静電気が生じることを抑制する、絶縁性を有する静電気抑制部が設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る紡糸冷却装置では、出口部の周縁に、フィラメントが接触したときに、接触したフィラメントに静電気が生じることを抑制する、絶縁性を有する静電気抑制部が設けられている。フィラメントと絶縁性を有する静電気抑制部との間では、互いに接触しても電荷の移動がほとんど生じない。このため、フィラメントを出口部ではなく、静電気抑制部に接触させるように糸下ろし作業を行えば、フィラメントに静電気が生じることを抑え、糸下ろし作業を容易にすることができる。
【0009】
本発明において、前記静電気抑制部は、前記出口部とは別の絶縁部材によって構成されているとよい。
【0010】
例えば、絶縁塗料を出口部に塗布することで、静電気抑制部を構成することも可能である。しかしながら、この場合、使用できる塗料にも制限があり、フィラメントとの接触で塗料が剥離するおそれもある。この点、静電気抑制部を塗料等ではなく、出口部とは別の絶縁部材で構成すれば、材料の選択肢が豊富となり、種々の観点から最適な材料を選ぶことができる。
【0011】
本発明において、前記絶縁部材は、前記出口部の周縁全周にわたるリング形状を有するとよい。
【0012】
絶縁部材がリング形状であれば、糸下ろし作業の際にフィラメントを確実に絶縁部材に接触させることができる。このため、フィラメントに静電気が生じることをより効果的に抑えることができる。
【0013】
本発明において、前記リング形状を有する前記絶縁部材の内径は、前記筒状空間の径と同じであるとよい。
【0014】
リング形状の絶縁部材の内径が筒状空間の径より小さいと、筒状空間を狭めることになり、フィラメントの走行に支障をきたすおそれがある。一方、絶縁部材の内径が筒状空間の径より大きいと、フィラメントが絶縁部材ではなく出口部に接触しやすくなってしまう。そこで、上述のように、絶縁部材の内径を筒状空間の径と同じにすることで、筒状空間を狭めることなく、フィラメントを確実に絶縁部材に接触させることができる。
【0015】
本発明において、前記絶縁部材の下端部のうち少なくとも内周側は、湾曲状に形成されているとよい。
【0016】
こうすれば、フィラメントは絶縁部材のうち湾曲状に形成された部分に接触するので、絶縁部材との接触によりフィラメントが受けるダメージを抑えることができる。
【0017】
本発明において、前記絶縁部材はセラミックス製であるとよい。
【0018】
セラミックスは耐摩耗性に優れているため、絶縁部材をセラミックス製とすれば、フィラメントが接触することによる絶縁部材の摩耗を抑えることができる。
【0019】
本発明において、前記絶縁部材に梨地加工が施されているとよい。
【0020】
絶縁部材に梨地加工を施すことによって、表面に微小な凹凸ができるので、フィラメントの接触抵抗を減少させることができる。その結果、摩擦により生じる静電気をより効果的に抑えることができる。
【0021】
本発明において、前記絶縁部材は、前記出口部に着脱自在に構成されているとよい。
【0022】
絶縁部材が着脱自在であれば、絶縁部材に摩耗等が生じた際に、容易に交換することができる。
【0023】
本発明において、前記筒状空間を延長させるための延長筒を前記出口部に装着可能に構成されており、前記延長筒を取り付けた場合、前記絶縁部材は前記延長筒の下端部に取り付けられるとよい。
【0024】
冷却効果を高めるために出口部に延長筒を取り付ける場合があるが、絶縁部材が着脱自在であれば、絶縁部材を容易に出口部から延長筒に付け替えることができる。
【0025】
本発明において、前記冷却風が周壁の一部から流入可能な筒体と、前記筒体を収容する箱体と、を備えており、前記絶縁部材は、前記箱体の下面に前記筒体とともに共締めされているとよい。
【0026】
絶縁部材を筒体と共締めすることによって、部品点数や組立工数を削減できる。
【0027】
本発明において、複数の前記フィラメントを冷却するとよい。
【0028】
複数のフィラメントから1本の糸を生産する場合、1本のフィラメントは細くなるため、静電気の影響を受けやすく、糸下ろし作業が困難になる。したがって、フィラメントに静電気が生じることを抑えられる本発明が特に有効となる。
【0029】
本発明において、前記フィラメントの1本の太さが6dtex以下であるとよい。
【0030】
上述のように、フィラメントが細いほど、静電気の影響を受けやすく、糸下ろし作業が困難となるため、本発明が特に有効となる。
【0031】
本発明において、前記フィラメントは、ナイロン6又はPET-カチオンからなるとよい。
【0032】
ナイロン6やPET-カチオンを材料とするフィラメントは、出口部に接触したときに発生する静電気量が特に多い。したがって、フィラメントに静電気が生じることを抑えられる本発明が特に有効となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本実施形態に係る溶融紡糸装置の断面図である。
図2図1のII-II断面図である。
図3】本実施形態の紡糸冷却装置の出口部付近の拡大図である。
図4】延長筒を取り付けた場合の図である。
図5】ナイロン6及びPET-カチオンの化学式である。
図6】検証実験の結果を示す表である。
図7】絶縁部材の変形例を示す図である。
図8】絶縁部材の変形例を示す図である。
図9】従来の紡糸冷却装置の出口部付近の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明に係る紡糸冷却装置を適用した溶融紡糸装置の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0035】
(溶融紡糸装置)
図1は、本実施形態に係る溶融紡糸装置の断面図であり、図2は、図1のII-II断面図である。本実施形態の溶融紡糸装置1の上下方向、前後方向、及び、左右方向は、図1及び図2に示すように定義する。溶融紡糸装置1は、紡糸ビーム2(本発明の紡糸部に相当)と、紡糸冷却装置3と、油剤ガイド4と、を備える。
【0036】
紡糸ビーム2は、複数の合成樹脂製の糸Yを紡出するためのものである。紡糸ビーム2のパックハウジング11には、複数の紡糸パック12が装着されている。紡糸パック12は、左右方向に沿って千鳥状に2列に配列されている。紡糸パック12の下端部には、複数のノズル14が形成された紡糸口金13が配置されている。図示しない配管等から溶融ポリマーが紡糸パック12に供給されると、紡糸口金13の複数のノズル14から溶融ポリマーがフィラメントfとして紡出される。つまり、本実施形態の紡糸ビーム2は、複数のフィラメントfからなるマルチフィラメント糸Yを紡出する。
【0037】
紡糸冷却装置3は、紡糸ビーム2から紡出された複数のフィラメントfを冷却するためのものである。紡糸冷却装置3は、紡糸ビーム2の下方に配置されている。紡糸冷却装置3は、直方体状の箱体20と、箱体20に収容された複数の筒体21と、を有する。箱体20及び筒体21は、いずれも金属製である。筒体21は、紡糸パック12の直下において上下方向に延びており、紡糸パック12の配列に対応して、左右方向に沿って千鳥状に2列に配列されている(図2参照)。筒体21の内部空間は、紡糸パック12から紡出された複数のフィラメントfが走行する、上下方向に延びる筒状空間22となっている。
【0038】
箱体20の内部空間は、略水平に配置された整流板23によって上下に仕切られている。整流板23は、パンチングメタル等の整流機能を有する材料で構成されている。筒体21は、箱体20の上部空間(整流板23よりも上側の空間)に配置された冷却筒24と、箱体20の下部空間(整流板23よりも下側の空間)に配置された仕切筒25とが、上下方向に連続的につながって構成されている。冷却筒24の周壁は、パンチングメタル等の整流機能を有する材料で構成されており、後述の冷却風が内部に流入可能となっている。一方、仕切筒25の周壁は、冷却筒24とは異なり、冷却風を通過させない材料で構成されている。
【0039】
箱体20の上面26及び下面27のうち、筒体21が配置されている部分にはそれぞれ筒体21の内径と略同径の開口部26a、27aが形成されている。開口部26a、27aは、筒体21内の筒状空間22に連通している。紡糸ビーム2から紡出されたフィラメントfは、開口部26aから筒状空間22に入り、開口部27aから出てくる。つまり、開口部27aが本発明の出口部に相当する。以下では、開口部27aを出口部27aと言う。後で詳細に説明するが、出口部27aには、絶縁ユニット30が設けられている。
【0040】
箱体20の下部の後側部分には接続部28が形成されており、接続部28にはダクト29が接続されている。ダクト29は、不図示の冷却風供給源に接続されている。冷却風供給源から供給される冷却風は、ダクト29を経由して箱体20の下部空間に流入する。図1にて矢印で示すように、箱体20の下部空間に流入した冷却風は、整流板23を通過して上向きに整流され、箱体20の上部空間へ流れる。箱体20の上部空間に流入した冷却風は、冷却筒24の周壁を通過する際に整流されて、冷却筒24内へ流れ込む。これにより、筒体21内の筒状空間22を走行する複数のフィラメントfが、冷却風によって冷却され固化される。なお、仕切筒25の周壁は冷却風を通過させないため、箱体20の下部空間から仕切筒25内へ直接冷却風が流れ込むことはない。
【0041】
油剤ガイド4は、糸Yに油剤を付与するためのものである。油剤ガイド4は、紡糸冷却装置3の下方に配置される。油剤ガイド4には、紡糸冷却装置3で冷却された糸Yが接触する。その際に、油剤ガイド4は糸Yに対して油剤を吐出して、糸Yに油剤を付与する。油剤ガイド4によって油剤が付与された糸Yは、油剤ガイド4の下方に配置された不図示の巻取装置によってボビンに巻き取られ、パッケージが形成される。
【0042】
(従来の問題点)
図9は、従来の紡糸冷却装置103の出口部27a付近の拡大図である。本実施形態と共通する部位については同じ符号を付している。一般的な紡糸生産設備では、紡糸ビーム2及び紡糸冷却装置3は上階に配置されており、糸Yを巻き取る不図示の巻取装置等は下階に配置されている。このため、糸Yの生産開始時には、上階にいるオペレータが紡糸冷却装置103の出口部27aから出てきたフィラメントfを下階に下ろす糸下ろし作業を行い、下階にいる他のオペレータが上階から下ろされた糸Yを受け取って巻取装置等への糸掛け作業を行う。上階と下階とはダクトでつながっており、ダクト内でフィラメントfが下ろされる。
【0043】
糸下ろし作業では、オペレータが出口部27aから出てきた複数のフィラメントfの不要な部分を切断したり、複数のフィラメントfを下階に投げ下ろしたりする際に、複数のフィラメントfが側方に引っ張られることがある。この際に、図9に示すように、従来の紡糸冷却装置103では、フィラメントfが出口部27aの周縁に接触することがあった。出口部27a(箱体20)は金属で構成されているため、合成樹脂製のフィラメントfが出口部27aに接触すると、フィラメントfと出口部27aとの間で電荷の移動が生じ、フィラメントfに静電気が発生する。すると、フィラメントfが紡糸冷却装置103やオペレータにまとわりついたり、上階と下階とを接続するダクトの内周面にへばりついたりし、糸下ろし作業が困難になるという問題があった。また、フィラメントf同士が反発し合って広がることで収束せず、オペレータがフィラメントfを掴むこと自体が困難になることもあった。
【0044】
(絶縁部材)
そこで、本実施形態では、糸下ろし作業の際にフィラメントfに静電気が発生することを抑えるため、出口部27aの周縁に絶縁ユニット30を設けている。図3は、本実施形態の紡糸冷却装置3の出口部27a付近の拡大図である。絶縁ユニット30は、絶縁部材31と取付部材32とを有する。絶縁部材31は、絶縁性を有するセラミックス製のリング形状(円筒形状)の部材である。一方、取付部材32は、金属製のリング形状の部材である。絶縁部材31と取付部材32とは、例えばビス止めや接着等の適切な方法で一体化されており、これによって絶縁ユニット30が構成されている。絶縁部材31及び取付部材32の内径は、何れも筒状空間22の径(筒体21の内径)と略同じにされている。
【0045】
絶縁ユニット30は、出口部27aに着脱自在に構成されており、絶縁部材31が下側、取付部材32が上側になるように出口部27aに取り付けられる。具体的には、取付部材32の上端部には、フランジ部32aが形成されている。また、箱体20の中に配置されている筒体21(仕切筒25)の下端部には、フランジ部25aが形成されている。取付部材32のフランジ部32a及び筒体21のフランジ部25aは、何れも箱体20の下面27に下側からボルト33によって固定されている。つまり、絶縁部材31は、取付部材32を介して、筒体21とともに箱体20の下面27に共締めされている。
【0046】
図3に示すように、糸下ろし作業時に出口部27aから出てきたフィラメントfを側方に引っ張ると、フィラメントfは絶縁部材31の下端部に接触する。絶縁部材31は絶縁性を有しているため、フィラメントfが絶縁部材31に接触しても、フィラメントfと絶縁部材31との間で電荷の移動はほとんど生じない。このため、糸下ろし作業時にフィラメントfに静電気が発生することを抑えられる。本実施形態では、絶縁部材31に梨地加工を施している。これによって、絶縁部材31の表面に微小な凹凸ができ、フィラメントfの接触抵抗を減少させることができるので、摩擦により生じる静電気をより効果的に抑えることができる。また、フィラメントfが絶縁部材31に接触した際のダメージを抑えるため、絶縁部材31の下端部は下に凸の湾曲状に形成されている。
【0047】
(延長筒を取り付ける場合)
図4は、延長筒35を取り付けた場合の出口部27a付近の拡大図である。紡糸冷却装置3によるフィラメントfの冷却効果を向上させるために、図4に示すように、出口部27aの下方に延長筒35が取り付けられることがある。延長筒35は、上下端部にフランジ部35a、35bを有する筒状の部材であり、流体を通過させない材料で構成されている。延長筒35を取り付けて筒状空間22を延長させることにより、フィラメントfを冷却風によってより効果的に冷却することができる。
【0048】
延長筒35を取り付ける際には、ボルト33を緩めて、絶縁ユニット30が箱体20の下面27から取り外される。代わりに、延長筒35の上側のフランジ部35aが、ボルト33によって箱体20の下面27に固定される。そして、延長筒35の下側のフランジ部35bに、ボルト36によって絶縁ユニット30が取り付けられる。このように、本実施形態の絶縁ユニット30(絶縁部材31)は、出口部27a及び延長筒35のそれぞれに対して着脱自在に構成されている。
【0049】
(フィラメントの種類)
本実施形態の紡糸ビーム2から紡出される溶融ポリマーは、例えば、図5のa図に示す化学式を有するナイロン6(PA6)や、図5のb図に示す化学式を有するPET(polyethylene terephthalate:ポリエチレンテレフタレート)-カチオンである。本発明者らは、これらを材料とするフィラメントfの場合は、特に静電気量が多くなることを経験的に見出している。したがって、フィラメントfに生じる静電気を抑えることのできる本発明が特に有効である。また、フィラメントfの1本の太さが、例えば6dtex(デシテックス)以下の場合に本発明は好適に適用される。というのも、細いフィラメントfの場合には、静電気の影響を受けやすいからである。ただし、フィラメントfの材料はナイロン6及びPET-カチオン以外の合成樹脂でもよいし、フィラメントfの太さも6dtex以下に限定されるものではない。
【0050】
(検証実験)
次に、絶縁部材31を設けた場合に、実際にどの程度の効果が得られるかを調べるための検証実験を行った。図6は、検証実験の結果を示す表である。本検証実験は、PET-カチオンからなるマルチフィラメント糸Yを生成する場合を対象としている。このマルチフィラメント糸Yは、144本のフィラメントfからなり、太さが136dtexである。1本のフィラメントfの太さは、約0.94dtexである。本検証実験では、梨地加工を施した絶縁部材31を設けた場合、磨き加工を施した絶縁部材31を設けた場合、及び、絶縁部材31を設けなかった場合の3ケースについて、フィラメントfの静電気量及び糸下ろし作業の可否を調べた。
【0051】
図6に示すように、絶縁部材31を設けなかった場合と比較すると、梨地加工を施した絶縁部材31を設けた場合には、静電気量が1/80~1/15程度と大幅に減少し、糸降ろし作業も良好に行えるようになった。また、磨き加工を施した絶縁部材31を設けた場合は、梨地加工の場合よりは静電気低減の効果は小さいものの、静電気量を1/10程度まで減少させることができ、絶縁部材31がない場合には困難だった糸下ろし作業ができるようになった。このように、紡糸冷却装置3の出口部27aに絶縁性の絶縁部材31を設けることによって、大きな効果が得られることが示された。
【0052】
(効果)
本実施形態では、紡糸冷却装置3の出口部27aの周縁に、フィラメントfが接触したときに、接触したフィラメントfに静電気が生じることを抑制する、絶縁性を有する静電気抑制部(絶縁部材31)が設けられている。フィラメントfと絶縁性を有する静電気抑制部31との間では、互いに接触しても電荷の移動がほとんど生じない。このため、フィラメントfを出口部27aではなく、静電気抑制部31に接触させるように糸下ろし作業を行えば、フィラメントfに静電気が生じることを抑え、糸下ろし作業を容易にすることができる。
【0053】
本実施形態では、静電気抑制部は、出口部27aとは別の絶縁部材31によって構成されている。例えば、絶縁塗料を出口部27aに塗布することで、静電気抑制部を構成することも可能である。しかしながら、この場合、使用できる塗料にも制限があり、フィラメントfとの接触で塗料が剥離するおそれもある。この点、静電気抑制部を塗料等ではなく、出口部27aとは別の絶縁部材31で構成すれば、材料の選択肢が豊富となり、種々の観点から最適な材料を選ぶことができる。
【0054】
本実施形態では、絶縁部材31は、出口部27aの周縁全周にわたるリング形状を有する。絶縁部材31がリング形状であれば、糸下ろし作業の際にフィラメントを確実に絶縁部材31に接触させることができる。このため、フィラメントfに静電気が生じることをより効果的に抑えることができる。
【0055】
本実施形態では、リング形状を有する絶縁部材31の内径は、筒状空間22の径と略同じにされている。リング形状の絶縁部材31の内径が筒状空間22の径より小さいと、筒状空間22を狭めることになり、フィラメントfの走行に支障をきたすおそれがある。一方、絶縁部材31の内径が筒状空間22の径より大きいと、フィラメントfが絶縁部材31ではなく出口部27aに接触しやすくなってしまう。そこで、上述のように、絶縁部材31の内径を筒状空間22の径と同じにすることで、筒状空間22を狭めることなく、フィラメントfを確実に絶縁部材31に接触させることができる。
【0056】
本実施形態では、絶縁部材31の下端部のうち少なくとも内周側は、湾曲状に形成されている。こうすれば、フィラメントfは絶縁部材31のうち湾曲状に形成された部分に接触するので、絶縁部材31との接触によりフィラメントfが受けるダメージを抑えることができる。
【0057】
本実施形態では、絶縁部材31はセラミックス製とされている。セラミックスは耐摩耗性に優れているため、絶縁部材31をセラミックス製とすれば、フィラメントfが接触することによる絶縁部材31の摩耗を抑えることができる。
【0058】
本実施形態では、絶縁部材31に梨地加工が施されている。絶縁部材31に梨地加工を施すことによって、表面に微小な凹凸ができるので、フィラメントfの接触抵抗を減少させることができる。その結果、摩擦により生じる静電気をより効果的に抑えることができる。
【0059】
本実施形態では、絶縁部材31は、出口部27aに着脱自在に構成されている。絶縁部材31が着脱自在であれば、絶縁部材31に摩耗等が生じた際に、容易に交換することができる。
【0060】
本実施形態では、筒状空間22を延長させるための延長筒35を出口部27aに装着可能に構成されており、延長筒35を取り付けた場合、絶縁部材31は延長筒35の下端部に取り付けられる。冷却効果を高めるために出口部27aに延長筒35を取り付ける場合があるが、絶縁部材31が着脱自在であれば、絶縁部材31を容易に出口部27aから延長筒35に付け替えることができる。
【0061】
本実施形態では、紡糸冷却装置3が、冷却風が周壁の一部から流入可能な筒体21と、筒体21を収容する箱体20と、を備えており、絶縁部材31は、箱体20の下面27に筒体21とともに共締めされている。絶縁部材31を筒体21と共締めすることによって、部品点数や組立工数を削減できる。
【0062】
本実施形態では、紡糸冷却装置3が、複数のフィラメントfを冷却する。複数のフィラメントfから1本の糸Yを生産する場合、1本のフィラメントfは細くなるため、静電気の影響を受けやすく、糸下ろし作業が困難になる。したがって、フィラメントfに静電気が生じることを抑えられる本発明が特に有効となる。
【0063】
本実施形態では、フィラメントの1本の太さが6dtex以下とされている。上述のように、フィラメントfが細いほど、静電気の影響を受けやすく、糸下ろし作業が困難となるため、本発明が特に有効となる。
【0064】
本実施形態では、フィラメントfは、ナイロン6又はPET-カチオンからなる。ナイロン6やPET-カチオンを材料とするフィラメントfは、出口部27aに接触したときに発生する静電気量が特に多い。したがって、フィラメントfに静電気が生じることを抑えられる本発明が特に有効となる。
【0065】
(他の実施形態)
上記実施形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。
【0066】
上記実施形態では、本発明の静電気抑制部として、出口部27aとは別部材の絶縁部材31を設けるものとした。しかしながら、例えば、絶縁塗料を出口部27aに塗布することで、静電気抑制部を構成することも可能である。
【0067】
上記実施形態では、絶縁部材31が出口部27aの周縁全周にわたるリング形状を有するものとした。しかしながら、絶縁部材31がリング形状であることは必須ではない。図7は、絶縁部材の変形例を示す図であり、図7のb図は、出口部27aを下側から見た図である。例えば、図7に示すように、上記実施形態の絶縁ユニット40(絶縁部材41及び取付部材42)を、出口部27aの周縁の一部にのみ設けてもよい。図7では、絶縁部材41を出口部27aの周縁の半周に設けているが、半周に限定されるものではない。絶縁部材41が周縁の全周ではなく一部に設けられている場合には、糸下ろし作業の際に絶縁部材41が設けられている側にフィラメントfを引っ張るようにすればよい。そうすれば、フィラメントfを出口部27aではなく絶縁部材41に接触させることができ、フィラメントfに生じる静電気を抑えることができる。
【0068】
上記実施形態では、絶縁部材31が取付部材32を介して、出口部27aに着脱自在に取り付けられるものとした。しかしながら、図8に示すように、絶縁部材51を直接出口部27a(箱体20の下面27)に取り付けるようにしてもよい。また、絶縁部材を着脱自在でない形態(例えば接着等)で、出口部27aに取り付けてもよい。
【0069】
上記実施形態では、絶縁部材31がセラミックス製であるものとした。しかしながら、絶縁部材は絶縁性を有する材料であれば、セラミックス以外の材料でもよい。
【0070】
上記実施形態では、絶縁部材31の内径が、筒状空間22の径と略同じであるものとした。しかしながら、絶縁部材31の内径が、筒状空間22の径より多少大きくても小さくても構わない。具体的には、両者の差が1mm程度までなら、絶縁部材31の内径が、筒状空間22の径より大きくても小さくても特に問題はない。
【0071】
上記実施形態では、絶縁部材31の内径が、筒状空間22の径と略同じ円筒形状であるものとした。しかしながら、絶縁部材31の内径が開口部27aに近づくほど広がるテーパー形状を有していてもよい。
【符号の説明】
【0072】
2:紡糸ビーム(紡糸部)
3:紡糸冷却装置
20:箱体
21:筒体
22:筒状空間
27:箱体の下面
27a:出口部
31、41、51:絶縁部材(静電気抑制部)
35:延長筒
f:フィラメント
Y:糸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9