(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】航空機
(51)【国際特許分類】
B64C 29/00 20060101AFI20220929BHJP
B64C 27/08 20060101ALI20220929BHJP
B64C 3/10 20060101ALI20220929BHJP
B64C 27/20 20060101ALI20220929BHJP
B64C 27/26 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
B64C29/00 A
B64C27/08
B64C3/10
B64C27/20
B64C27/26
(21)【出願番号】P 2018121641
(22)【出願日】2018-06-27
【審査請求日】2021-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002358
【氏名又は名称】新明和工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】大西 雄介
(72)【発明者】
【氏名】宮内 空野
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】服部 悟
(72)【発明者】
【氏名】柴田 認
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】仏国特許出願公開第03020622(FR,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0057113(US,A1)
【文献】仏国特許出願公開第03020039(FR,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 29/00
B64C 27/08
B64C 3/10
B64C 27/20
B64C 27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴体と、
前記胴体に固定された固定翼と、
それぞれ前記胴体または前記固定翼に取り付けられ、垂直推力を発生させる少なくとも3つのロータと、
前記胴体または前記固定翼に取り付けられ、前方推力を発生させるプロペラと、を備え、
前記ロータには、機体中心線の左側に配置された左ロータと、機体中心線の右側に配置された右ロータと、機体中心線上に配置された中央ロータとが含まれ、
前記固定翼は後退翼からなり、
前記左ロータの回転中心線と前記右ロータの回転中心線と前記中央ロータの回転中心線とを結んでなる三角形の内側に、機体重心が配置され
、
前記固定翼は、機体中心線の左右に配置されかつ第1の後退角を有する第1後退翼部分と、前記第1後退翼部分の左右方向の外側に配置されかつ前記第1の後退角よりも大きな第2の後退角を有する第2後退翼部分と、を有している、航空機。
【請求項2】
前記左ロータと前記右ロータと前記中央ロータとは、前記第2後退翼部分よりも左右方向の中央側に配置され、
前記固定翼の前記第2後退翼部分に設けられたエレボンを備えている、請求項
1に記載の航空機。
【請求項3】
前記固定翼には、少なくとも一つの孔が形成され、
前記左ロータ、前記右ロータ、および前記中央ロータのうち少なくとも一つのロータは、前記孔の内部に配置されている、請求項
1または2に記載の航空機。
【請求項4】
前記固定翼の前記第1後退翼部分には、少なくとも一つの孔が形成され、
前記左ロータ、前記右ロータ、および前記中央ロータのうち少なくとも一つのロータは、前記孔の内部に配置されている、請求項
1または2に記載の航空機。
【請求項5】
前記胴体または前記固定翼に固定され、孔が形成されたロータカバーを備え、
前記左ロータ、前記右ロータ、および前記中央ロータのうち少なくとも一つのロータは、前記ロータカバーの前記孔の内部に配置されている、請求項1~
4のいずれか一つに記載の航空機。
【請求項6】
前記プロペラは、前記固定翼よりも前方に配置され、
前記左ロータおよび前記右ロータは、前記プロペラの回転中心線から左右にずれた位置に配置されている、請求項1~
5のいずれか一つに記載の航空機。
【請求項7】
前記左ロータ、前記右ロータ、および前記中央ロータは、前記固定翼の前端よりも後側、かつ、前記固定翼の後端よりも前側に配置されている、請求項1~
6のいずれか一つに記載の航空機。
【請求項8】
垂直推力を発生させるロータとして、前記左ロータ、前記右ロータ、および前記中央ロータのみを備えている、請求項1~
7のいずれか一つに記載の航空機。
【請求項9】
前記固定翼の左右方向の先端に設けられた垂直板を備え、
尾翼を備えていない、請求項1~
8のいずれか一つに記載の航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転翼および固定翼を併せ持つ航空機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転翼(以下、ロータという)および固定翼を併せ持つ航空機が知られている。例えば特許文献1および2に、そのような航空機が開示されている。ロータおよび固定翼を併せ持つ航空機によれば、ロータにより垂直離着陸が可能であるので、滑走路が不要となる。また、固定翼による水平飛行が可能であるので、比較的速い速度で飛行することができ、また、航続距離を長くすることができる。
【0003】
特許文献1には、左右二対または左右三対のロータと、胴体から左右に延びる固定翼と、胴体の先端部に設けられたプロペラとを備えた航空機が開示されている。特許文献2には、左右四対のロータと、それぞれ胴体から左右に延びる前方および後方の固定翼と、後方の固定翼に設けられた左右一対のプロペラとを備えた航空機が開示されている。特許文献1および2に開示された航空機では、全てのロータが左右に対をなすように設けられ、各対のロータは左右対称に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2014-528382号公報
【文献】特許第5421503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者は、左右一対のロータとは別に、機体中心線上に他のロータを配置することを検討した。しかし、このような航空機では、特許文献1および2に開示されたような機体をそのまま採用することはできない。機体の構成に工夫を施さなければ、垂直離着陸のときに機体の安定性を損なうおそれがある。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、左右一対のロータおよび機体中心線上に配置されたロータと、固定翼とを備え、垂直離着陸時の機体の安定性に優れた航空機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る航空機は、胴体と、前記胴体に固定された固定翼と、それぞれ前記胴体または前記固定翼に取り付けられ、垂直推力を発生させる少なくとも3つのロータと、前記胴体または前記固定翼に取り付けられ、前方推力を発生させるプロペラと、を備える。前記ロータには、機体中心線の左側に配置された左ロータと、機体中心線の右側に配置された右ロータと、機体中心線上に配置された中央ロータとが含まれる。前記固定翼は後退翼からなっている。前記左ロータの回転中心線と前記右ロータの回転中心線と前記中央ロータの回転中心線とを結んでなる三角形の内側に、機体重心が配置されている。なお、「胴体または固定翼に取り付けられ」とは、胴体または固定翼に直接取り付けられている場合と、他の部材を介して間接的に取り付けられている場合とが含まれる。
【0008】
上記航空機によれば、左右一対のロータ(すなわち、左ロータおよび右ロータ)に加えて、機体中心線上に配置された中央ロータを備えている。しかし、固定翼が後退翼からなっているので、機体重心を比較的後方に位置付けることができる。そして、機体重心を左ロータの回転中心と右ロータの回転中心と中央ロータの回転中心とを結んでなる三角形の内側に配置することとした。そのため、機体中心線上に配置されたロータを備えつつ、垂直離着陸時の機体の安定性を確保しやすい。
【0009】
本発明によれば、前記固定翼は、機体中心線の左右に配置されかつ第1の後退角を有する第1後退翼部分と、前記第1後退翼部分の左右方向の外側に配置されかつ前記第1の後退角よりも大きな第2の後退角を有する第2後退翼部分と、を有している。
【0010】
本発明によれば、固定翼が上記構成(すなわち、多段階の後退翼)を有しているので、機体重心を比較的後方に配置しやすい。よって、機体重心を前記三角形の内側に無理なく配置することができる。したがって、垂直離着陸時の機体の安定性を容易に確保することができる。
【0011】
本発明の好ましい一態様によれば、前記左ロータと前記右ロータと前記中央ロータとは、前記第2後退翼部分よりも左右方向の中央側に配置されている。前記航空機は、前記固定翼の前記第2後退翼部分に設けられたエレボンを備えている。
【0012】
上記態様によれば、上記各ロータはエレボンの前方にないので、前方からエレボンに向かう気流が上記各ロータによって乱されることを防止することができる。よって、水平飛行の性能を向上させることができる。
【0013】
本発明の好ましい一態様によれば、前記固定翼には、少なくとも一つの孔が形成されている。前記左ロータ、前記右ロータ、および前記中央ロータのうち少なくとも一つのロータは、前記孔の内部に配置されている。
【0014】
上記態様によれば、左ロータ、右ロータ、および中央ロータのうち少なくとも一つのロータは、固定翼の孔の内部に配置されている。そのため、水平飛行時のロータの空気抵抗を減らすことができる。よって、水平飛行の性能を向上させることができる。
【0015】
本発明の好ましい一態様によれば、前記固定翼の前記第1後退翼部分には、少なくとも一つの孔が形成されている。前記左ロータ、前記右ロータ、および前記中央ロータのうち少なくとも一つのロータは、前記孔の内部に配置されている。
【0016】
上記態様によれば、左ロータ、右ロータ、および中央ロータのうち少なくとも一つのロータは、固定翼の第1後退翼部分の孔の内部に配置されている。そのため、水平飛行時のロータの空気抵抗を減らすことができる。また、第1後退翼部分は第2後退翼部分よりも翼面積を確保しやすいので、孔が形成されていても、第1後退翼部分の面積を容易に確保することができる。よって、空気抵抗の減少と翼面積の確保とにより、水平飛行の性能を向上させることができる。
【0017】
本発明の好ましい一態様によれば、前記航空機は、前記胴体または前記固定翼に固定され、孔が形成されたロータカバーを備えている。前記左ロータ、前記右ロータ、および前記中央ロータのうち少なくとも一つのロータは、前記ロータカバーの前記孔の内部に配置されている。
【0018】
上記態様によれば、左ロータ、右ロータ、および中央ロータのうち少なくとも一つのロータは、ロータカバーの孔の内部に配置されている。そのため、水平飛行時のロータの空気抵抗を減らすことができる。よって、水平飛行の性能を向上させることができる。
【0019】
本発明の好ましい一態様によれば、前記プロペラは、前記固定翼よりも前方に配置されている。前記左ロータおよび前記右ロータは、前記プロペラの回転中心線から左右にずれた位置に配置されている。
【0020】
上記態様によれば、遷移飛行時にはプロペラおよび上記ロータの全てが回転するが、左ロータおよび右ロータはプロペラから左右にずれた位置に配置されているので、プロペラの後方の乱れた流れが左ロータおよび右ロータに悪影響を与えることを抑制することができる。よって、遷移飛行の性能を向上させることができる。
【0021】
本発明の好ましい一態様によれば、前記左ロータ、前記右ロータ、および前記中央ロータは、前記固定翼の前端よりも後側、かつ、前記固定翼の後端よりも前側に配置されている。
【0022】
上記態様によれば、航空機の前後長さを抑えることができ、航空機をコンパクト化することができる。
【0023】
本発明の好ましい一態様によれば、垂直推力を発生させるロータとして、前記左ロータ、前記右ロータ、および前記中央ロータのみを備えている。
【0024】
ロータおよび固定翼を併せ持つ航空機では、垂直上昇の性能を高めるためには、ロータの数は多いほど好ましい。しかし、ロータは水平飛行の際に空気抵抗の増加要因となり、また、重量の増加要因となる。そのため、ロータの数が多いと、水平飛行の性能が低下する傾向がある。水平飛行の性能を高めるためには、ロータの数は少ないほど好ましい。しかし、単にロータの数を減らしただけでは、垂直離着陸のときに機体の安定性を損なうおそれがある。ところが前述したように、本発明に係る航空機では、3つのロータ(すなわち、左ロータ、右ロータ、および中央ロータ)の回転中心同士を結んでなる三角形の内側に、機体重心が配置されている。そのため、垂直離着陸時の機体の安定性を確保しやすい。上記態様によれば、安定性を確保しやすいという特性を活かして、ロータの数を3つにすることとした。これにより、左右に二対以上のロータ(言い換えると、4つ以上のロータ)を備える従来の航空機と比べて、ロータの数が少ないので、水平飛行の性能を向上させることができる。よって、上記態様によれば、垂直離着陸時の機体の安定性を確保しながら、従来よりも水平飛行の性能を向上させることができる。
【0025】
本発明の好ましい一態様によれば、前記航空機は、前記固定翼の左右方向の先端に設けられた垂直板を備え、尾翼を備えていない。
【0026】
尾翼は、垂直飛行時に空気抵抗の要因となり得る。しかし、上記態様によれば、尾翼を備えていないので、垂直飛行の性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、左右一対のロータおよび機体中心線上に配置されたロータと、固定翼とを備え、垂直離着陸時の機体の安定性に優れた航空機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態に係る航空機の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る航空機1の平面図である。
図2は航空機1の正面図であり、
図3は航空機1の左側面図である。航空機1は回転翼(ロータ)および固定翼を併せ持つ航空機であり、回転翼を利用した垂直離着陸と、固定翼を利用した水平飛行とが可能に構成されている。本実施形態に係る航空機1は無人機であるが、本発明に係る航空機は有人機であってもよい。
【0030】
図1~
図3に示すように、航空機1は、胴体10と、固定翼20と、プロペラ40と、3つのロータ31,32,33と、ロータカバー45と、エレボン23と、垂直板24とを備えている。航空機1はいわゆる無尾翼機であり、水平尾翼および垂直尾翼は備えていない。ただし、本発明に係る航空機は無尾翼機に限定されない。本発明に係る航空機は水平尾翼または垂直尾翼を備えていてもよい。
【0031】
図1において、CLは機体の中心線を表している。ここでは、胴体10は機体中心線CL上に配置されているが、特に限定されない。例えば、胴体10は左右に一対設けられ、左右の胴体10が機体中心線CL上になくてもよい。胴体10の構成は特に限定されない。
【0032】
プロペラ40は、胴体10の先端部に取り付けられている。プロペラ40は、前方に向かう推力(すなわち、前方推力)を発生させる。本実施形態では、プロペラ40の数は1つであるが、2つ以上設けられていてもよい。安定性が確保できる限り、プロペラ40は必ずしも機体中心線CL上に配置されていなくてもよい。また、プロペラ40は必ずしも胴体10に取り付けられていなくてもよい。プロペラ40は固定翼20に取り付けられていてもよい。
【0033】
固定翼20は後退翼からなっている。すなわち、固定翼20は、左右方向の中央側から外側に行くに従って後方に向かうように形成されている。なお、本明細書において、左右方向の中央側とは機体中心線CLに近づく側のことであり、左右方向の外側とは機体中心線CLから遠ざかる側のことである。
【0034】
固定翼20は1段の後退翼であってもよいが、本実施形態では2段の後退翼からなっている。固定翼20は、第1後退翼部分21と第2後退翼部分22とを有している。第1後退翼部分21は、機体中心線CLの左右に配置されており、第1の後退角θ1を有している。なお、後退角とは、翼の前縁から翼弦長の1/4の距離にある点を連ねる線が、機体中心線CLに垂直な左右軸線となす角のことである。第2後退翼部分22は、第1後退翼部分21の左右方向の外側に配置されており、第1の後退角θ1よりも大きな第2の後退角θ2を有している。
【0035】
第1後退翼部分21は、翼弦長が一定に形成されている。第2後退翼部分22は、左右方向の外側に行くほど翼弦長が短くなるように形成されている。ただし、これらは一例に過ぎず、第1後退翼部分21および第2後退翼部分22の形状および寸法は特に限定されない。
【0036】
エレボン23は、補助翼(エルロン)と昇降舵(エレベータ)の役割を兼ね備えた動翼である。エレボン23は左右に一対設けられており、ここでは左右の第2後退翼部分22の後側に設けられている。
【0037】
垂直板24は、固定翼20の左右方向の先端に設けられている。詳しくは、左の垂直板24は左の第2後退翼部分22の先端に設けられ、右の垂直板24は右の第2後退翼部分22の先端に設けられている。ただし、垂直板24が設けられる箇所は必ずしも固定翼20の先端でなくてもよい。また、垂直板24には動翼(ラダー)が備えられていてもよい。
【0038】
ロータ31,32,33は、上方に向かう垂直推力を発生させる。ロータ31は機体中心線CLの左側に配置されている。ロータ32は機体中心線CLの右側に配置されている。ロータ33は機体中心線CL上に配置されている。以下では、ロータ31、ロータ32、ロータ33のことを、それぞれ左ロータ31、右ロータ32、中央ロータ33と呼ぶこととする。左ロータ31、右ロータ32、中央ロータ33の形状および寸法は、互いに異なっていてもよいが、本実施形態では同一である。
【0039】
図1に示すように、固定翼20には、左右の孔25,26が形成されている。ここでは、左の第1固定翼部分21に孔25が形成され、右の第1固定翼部分22に孔26が形成されている。左ロータ31は左の孔25の内部に配置され、右ロータ32は右の孔26の内部に配置されている。左ロータ31および右ロータ32は、第2後退翼部分22よりも左右方向の中央側に配置されている。ただし、左右の第2固定翼部分22に孔25,26を形成し、左ロータ31および右ロータ32をそれらの孔25,26の内部に配置することも可能である。
【0040】
図2に示すように、左ロータ31および右ロータ32は、第1固定翼部分21よりも上方および下方に出っ張っておらず、水平飛行の際に空気抵抗が小さくなるように配置されている。本実施形態では、左ロータ31、右ロータ32の駆動源は、それぞれ電動モータ31E、32Eである。左ロータ31は電動モータ31Eに連結され、右ロータ32は電動モータ32Eに連結されている。第1固定翼部分21の内部には、ビーム34が配置されている。左の電動モータ31Eは左のビーム34に支持され、右の電動モータ32Eは右のビーム34に支持されている。
【0041】
孔25,26の前後方向の位置は特に限定されないが、ここでは、孔25,26の中心は、第1固定翼部分21の前縁と後縁との間の中間位置よりも前方に位置している。左ロータ31の回転中心31cおよび右ロータ32の回転中心32cは、第1固定翼部分21の前縁と後縁との間の中間位置よりも前方に位置している。
【0042】
ロータカバー45は、胴体10または固定翼20に固定されている。ロータカバー45には、孔46が形成されている。孔46の中心は、機体中心線CL上に位置している。
【0043】
中央ロータ33は、ロータカバー45の孔46の内部に配置されている。中央ロータ33の回転中心線33cは、機体中心線CL上に位置している。
図3に示すように、中央ロータ33を駆動する電動モータ33Eは、ロータカバー45の下方に配置されている。しかし、中央ロータ33は、ロータカバー45よりも上方および下方に出っ張っておらず、水平飛行の際に空気抵抗が小さくなるように配置されている。
図1に示すように、中央ロータ33の一部および電動モータ33Eは、胴体10の後方に配置されている。
【0044】
図1において、符号CGは航空機1の重心を表している。以下では、航空機1の重心のことを機体重心CGと呼ぶこととする。機体重心CGは機体中心線CL上に位置している。また、本実施形態に係る航空機1では、機体重心CGは比較的後方に配置されている。機体重心CGは、左ロータ31の回転中心線31cと右ロータ32の回転中心線32cと中央ロータ33の回転中心線33cとを結んでなる三角形50の内側に配置されている。なお、本実施形態では、回転中心線31cと回転中心線33cとの距離と、回転中心線32cと回転中心線33cとの距離とは等しい。回転中心線31cと回転中心線32cとの距離は、回転中心線31cと回転中心線33cとの距離よりも大きい。三角形50は二等辺三角形である。ただし、限定される訳ではない。三角形50は正三角形であってもよい。
【0045】
本実施形態では、左ロータ31、右ロータ32、および中央ロータ33は、第2後退翼部分22よりも左右方向の中央側に配置されている。また、左ロータ31、右ロータ32、および中央ロータ33は、固定翼20の前端20fよりも後側かつ後端20rよりも前側に配置されている。
【0046】
プロペラ40は固定翼20よりも前方に配置されており、機体中心線CL上に位置している。一方、左ロータ31は機体中心線CLよりも左側に配置され、右ロータ32は機体中心線CLよりも右側に配置されている。機体中心線CLはプロペラ40の回転中心線40cと一致する。よって、左ロータ31および右ロータ32は、プロペラ40の回転中心線40cから左右にずれた位置に配置されている。
【0047】
以上が航空機1の構成である。次に、航空機1の飛行態様について説明する。航空機1は、離着陸の際には垂直飛行を行う。すなわち、離陸の際には垂直に上昇し、着陸の際には垂直に下降する。また、航空機1は、離陸後に水平飛行が可能である。航空機1は、垂直飛行から水平飛行に移行する際、および、水平飛行から垂直飛行に移行する際には、遷移飛行を行う。
【0048】
垂直飛行の際には、プロペラ40は停止し、左ロータ31、右ロータ32,および中央ロータ33を駆動する。これにより、航空機1に上向きの垂直推力が発生する。そのため、航空機1は垂直上昇および垂直下降が可能となり、垂直離着陸を行うことができる。本実施形態に係る航空機1によれば、機体重心CGは、左ロータ31、右ロータ32、および中央ロータ33の回転中心線31c~33c同士を結んでなる三角形50の内側に配置されているので、垂直離着陸時の機体の安定性を容易に確保することができる。
【0049】
航空機1は、空中で静止するホバリング飛行も可能である。ホバリング飛行では、プロペラ40は停止し、左ロータ31、右ロータ32、および中央ロータ33は駆動する。空中で静止するホバリング飛行では、左ロータ31、右ロータ32、および中央ロータ33により、航空機1の自重と釣り合う上向きの垂直推力を発生させる。これにより、航空機1を空中で静止させることができる。
【0050】
遷移飛行の際には、プロペラ40、左ロータ31、右ロータ32、および中央ロータ33の全てを駆動する。垂直上昇中またはホバリング中にプロペラ40の回転を開始すると、航空機1は前方への飛行を開始する。航空機1が前方に飛行すると、固定翼20により揚力が発生する。固定翼20による揚力は、航空機1の水平方向の対気速度が大きくなるほど大きくなる。そのため、遷移飛行では、水平方向の対気速度の上昇に伴い、左ロータ31、右ロータ32、および中央ロータ33の回転速度を小さくする。そして、固定翼20による揚力が航空機1の自重と釣り合う程度まで大きくなると、左ロータ31、右ロータ32、および中央ロータ33の回転を停止し、遷移飛行を終了し、水平飛行に移行する。
【0051】
水平飛行では、左ロータ31、右ロータ32、および中央ロータ33は停止し、プロペラ40を駆動する。その結果、航空機1は、プロペラ40および固定翼20を利用した水平飛行を行うことになる。
【0052】
なお、水平飛行からホバリング飛行または垂直飛行に移行する際には、上述の動作と逆の遷移飛行が行われる。
【0053】
以上のように、本実施形態に係る航空機1によれば、固定翼20およびロータ31~33を併せ持っている。ロータ31~33により垂直離着陸が可能であるので、滑走路が不要である。また、固定翼20による水平飛行が可能であるので、比較的速い速度で飛行することができ、また、航続距離を長くすることができる。
【0054】
ところで、本実施形態に係る航空機1によれば、左右一対のロータ(すなわち、左ロータ31および右ロータ32)に加えて、機体中心線CL上に配置された中央ロータ33を備えている。全てのロータが左右に対となって配置された従来の航空機とは、構成が異なっている。そのため、従来と同様の機体構成では、垂直離着陸時の安定性が懸念される。しかし、本実施形態に係る航空機1によれば、固定翼20が後退翼からなっているので、機体重心CGを比較的後方に位置付けることができる。固定翼20を後退翼とすることにより、機体重心CGを左ロータ31の回転中心31cと右ロータ32の回転中心32cと中央ロータ33の回転中心33cとを結んでなる三角形50の内側に配置することとした。そのため、本実施形態に係る航空機1によれば、機体中心線CL上に配置された中央ロータ33を備えつつ、垂直離着陸時の機体の安定性を確保しやすい。したがって、本実施形態によれば、左右一対のロータ31,32と、機体中心線CL上に配置されたロータ33と、固定翼20とを備えながら、垂直離着陸時の機体の安定性に優れた航空機1を実現することができる。
【0055】
また、本実施形態に係る航空機1によれば、固定翼20は、第1の後退角θ1を有する第1後退翼部分21と、第2の後退角θ2を有する第2後退翼部分22を備えた2段の後退翼からなっている。そのため、固定翼20が第1の後退角θ1を有する1段の後退翼から構成されている場合に比べて、機体重心CGを後方に配置しやすい。よって、機体重心CGを前記三角形50の内側に無理なく配置することができる。したがって、垂直離着陸時の機体の安定性を容易に確保することができる。
【0056】
また、本実施形態に係る航空機1によれば、エレボン23は第2後退翼部分22に設けられているが、ロータ31~33は第2後退翼部分22よりも左右方向の中央側に配置されている。ロータ31~33はエレボン23の前方にはなく、エレボン23に対して左右方向にずれた位置に配置されている。そのため、航空機1が前進しているときに、前方からエレボン23に向かう気流がロータ31~33によって乱されることを防止することができる。よって、水平飛行の性能を向上させることができる。
【0057】
左ロータ31、右ロータ32、および中央ロータ33は、垂直飛行時に垂直推力を発生させるものであるが、水平飛行時には回転を停止する。左ロータ31、右ロータ32、および中央ロータ33は、水平飛行時に空気抵抗の増加要因となり得る。しかし、本実施形態に係る航空機1によれば、固定翼20に孔25および26が形成され、左ロータ31および右ロータ32は、それぞれ孔25および26の内部に配置されている。また、航空機1は孔46が形成されたロータカバー45を備え、中央ロータ33はロータカバー45の孔46の内部に配置されている。固定翼20は左ロータ31および右ロータ32の空気抵抗を低減し、ロータカバー45は中央ロータ33の空気抵抗を低減する役割を果たす。よって、本実施形態に係る航空機1によれば、水平飛行時のロータ31~33の空気抵抗を減らすことができ、水平飛行の性能を向上させることができる。
【0058】
一般的に、固定翼20には、翼端に近いほど翼弦長が短くなる傾向がある。翼端に近い部分ほど、翼面積を確保しにくい。本実施形態では、孔25および26は、固定翼20のうちの第1後退翼部分21に形成されている。すなわち、孔25および26は、固定翼20のうち、翼面積を確保しやすい部分に形成されている。よって、孔25および26が形成されているにも拘わらず、第1後退翼部分21の面積を確保することができる。よって、上述の空気抵抗の減少の効果と翼面積を確保できるという効果とにより、水平飛行の性能を向上させることができる。なお、本実施形態では、孔25,26がないと仮定した場合の第1後退翼部分21の翼面積は、第2後退翼部分22の翼面積よりも大きい。ただし、第1後退翼部分21の実際の翼面積(すなわち、孔25,26を除いた部分の翼面積)が、第2後退翼部分22の翼面積よりも大きくてもよい。
【0059】
本実施形態に係る航空機1によれば、遷移飛行時には、プロペラ40およびロータ31~33の全てが回転する。しかし、プロペラ40は固定翼20よりも前方に配置され、左ロータ21および右ロータ22は、プロペラ40の回転中心線40cから左右にずれた位置に配置されている。そのため、遷移飛行時に、プロペラ40の後方の乱れた気流が左ロータ31および右ロータ22に悪影響を与えることを抑制することができる。よって、遷移飛行の性能を向上させることができる。
【0060】
ロータ31~33の配置は特に限定されないが、本実施形態では、ロータ31~33は、固定翼20の前端20fよりも後側、かつ、後端20rよりも前側に配置されている。これにより、航空機1の前後長さを抑えることができ、航空機1をコンパクト化することができる。
【0061】
本実施形態では、ロータ31~33の数は3つである。本実施形態に係る航空機1は、垂直推力を発生させるロータとして、左ロータ31、右ロータ32、および中央ロータ33のみを備えている。水平飛行の性能を高めるためには、ロータの数は少ないほど好ましい。しかし、単にロータの数を減らしただけでは、垂直離着陸のときに機体の安定性を損なうおそれがある。ところが前述したように、本実施形態に係る航空機1では、3つのロータ31~33の回転中心線31c~33c同士を結んでなる三角形50の内側に、機体重心CGが配置されている。そのため、垂直離着陸時の機体の安定性を確保しやすい。本実施形態に係る航空機1では、安定性を確保しやすいという上記特性を活かして、ロータの数を3つにすることとした。これにより、左右に二対以上のロータ(言い換えると、合計4つ以上のロータ)を備える従来の航空機と比べて、ロータの数が少ないので、水平飛行の性能を向上させることができる。よって、本実施形態に係る航空機1によれば、垂直離着陸時の機体の安定性を確保しながら、従来よりも水平飛行の性能を向上させることができる。
【0062】
また、本実施形態に係る航空機1は、固定翼20の先端に設けられた垂直板24を備えているが、尾翼は備えていない。水平尾翼および垂直尾翼のいずれも備えていない。航空機1は水平飛行だけでなく垂直飛行も可能であるが、尾翼(特に水平尾翼)は垂直飛行時に空気抵抗の要因となり得る。しかし、本実施形態に係る航空機1によれば、尾翼を備えていないので、垂直飛行の性能も向上させることができる。
【0063】
なお、前述の飛行態様の説明では、航空機1は垂直離着陸を行うこととしたが、航空機1の離着陸は垂直離着陸(Vertical Takeoff and Landing; VTOL)に限定されない。離着陸の際にもプロペラ40を回転させることにより、短距離離着陸(Short Takeoff and Landing; STOL)も可能である。
【0064】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、前記実施形態は一例に過ぎない。他にも様々な実施形態が可能である。次に、他の実施形態の例について簡単に説明する。
【0065】
前記実施形態では、中央ロータ33の周囲を覆うロータカバー45を備えているが、
図4に示すように、ロータカバー45はなくてもよい。
【0066】
また、
図5に示すように、左ロータ31および右ロータ32は、必ずしも固定翼20の孔25,26の内部に配置されていなくてもよい。
図5に示すように、固定翼20に孔25,26が形成されていなくてもよい。左ロータ31および右ロータ32は、固定翼20の前方に配置されていてもよい。
【0067】
前記実施形態では、中央ロータ33は、左ロータ31および右ロータ32よりも後方に配置されている。一方、
図6に示すように、中央ロータ33は、左ロータ31および右ロータ32よりも前方に配置されていてもよい。
図6に示す実施形態では、固定翼20の第1後退翼部分21に孔27が形成され、中央ロータ33は孔27の内部に配置されている。左ロータ31および右ロータ32は、固定翼20の後方に配置されている。なお、孔46が形成されたロータカバー45を固定翼20の後側の左右にそれぞれ設け、左右のロータカバー45の孔46の内部に、それぞれ左ロータ31および右ロータ32を配置してもよい。
【0068】
前記各実施形態において、左ロータ31、右ロータ32、および中央ロータ33の形状および寸法は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0069】
前記各実施形態では、ロータの数は3つであるが、航空機1は4つ以上のロータを備えていてもよい。すなわち、航空機1は、左ロータ31、右ロータ32、および中央ロータ33の他に、垂直推力を発生させる他のロータを備えていてもよい。
【0070】
前記各実施形態において、固定翼20は2段の後退翼からなっているが、固定翼20は1段の後退翼からなっていてもよい。また、固定翼20は、3段以上の後退翼からなっていてもよい。前記各実施形態において、固定翼20の前縁および後縁は、直線状に延びている。しかし、固定翼20の前縁および後縁は、曲線状に延びていてもよい。
【0071】
前記各実施形態において、エレボン23は第2後退翼部分22に設けられているが、第1後退翼部分21に設けられていてもよい。
【0072】
前記各実施形態において、左ロータ31および右ロータ32は、プロペラ40の回転中心線40cから左右にずれた位置に配置されている。詳しくは、回転中の左ロータ31の全体および右ロータ32の全体が、プロペラ40の回転中心線40cと交差しないようになっている。しかし、プロペラ40が複数設けられている場合に、左ロータ31および右ロータ32は、いずれかのプロペラ40の回転中心線40c上に配置されていてもよい。すなわち、回転中の左ロータ31の一部および右ロータ32の一部が、いずれかのプロペラ40の回転中心線40cと交差するようになっていてもよい。
【0073】
前記各実施形態において、中央ロータ33は、固定翼20の前端20fよりも後側かつ後端20rよりも前側に配置されている。しかし、中央ロータ33の少なくとも一部は、固定翼20の前端20fよりも前側、または、後端20rよりも後側に配置されていてもよい。また、左ロータ31および右ロータ32の少なくとも一部は、固定翼20の前端20fよりも前側、または、後端20rよりも後側に配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1…航空機、10…胴体、20…固定翼、21…第1後退翼部分、22…第2後退翼部分、23…エレボン、24…垂直板、25…孔、26…孔、31…左ロータ、31c…左ロータの回転中心線、32…右ロータ、32c…右ロータの回転中心線、33…中央ロータ、33c…中央ロータの回転中心線、40…プロペラ、40c…プロペラの回転中心線、45…ロータカバー、46…孔、50…左ロータの回転中心線と右ロータの回転中心線と中央ロータの回転中心線とを結んでなる三角形