(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】フォージャサイト型ゼオライト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/24 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
C01B39/24
(21)【出願番号】P 2018146911
(22)【出願日】2018-08-03
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱▲崎▼ 裕一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 弘史
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 俊二
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-534433(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105712369(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105709848(CN,A)
【文献】Sami M. T. Almutairi et al.,Influence of Extraframework Aluminum on the Bronsted Acidity and Catalytic Reactivity of Faujasite Zeolite,ChemCatChem,2013年,vol.5,pp.452-466
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20-39/54
B01J 21/00-38/74
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(3)の工程を含む、
SiとAlとのモル比(SiO
2/Al
2O
3)が13未満であるフォージャサイト型ゼオライトの製造方法。
(1)フォージャサイト構造を有し、
SiとAlとのモル比が13未満であり、
Naの含有量がNa
2O換算で0.5質量%以上、2質量%未満の範囲にある、
スチーム処理用のゼオライトを準備する工程。
(2)上記スチーム処理用のゼオライトを、
その格子定数が2.434nm以上、2.443nm以下となるようにスチーム処理して、
酸処理用のゼオライトを調製する工程。
(3)上記酸処理用のゼオライトを、
温度が35℃以上、60℃未満の範囲にある酸溶液で酸処理する工程。
【請求項2】
下記(A)~(
F)構成を満たすフォージャサイト型ゼオライト。
(A)SiとAlとのモル比(SiO
2/Al
2O
3)が13未満である。
(B)ルイス酸を含む。
(C)ブレンステッド酸強度が、0.05以上の範囲にある。
(D)ブレンステッド酸量が、150μmol/g以上である。
(E)ルイス酸量が、50μmol/g以上、625μmol/g以下である。
(F)ブレンステッド酸量とルイス酸量の比率(ブレンステッド酸量/ルイス酸量)が、0.8以上、2.2以下の範囲にある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォージャサイト型ゼオライト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトを触媒として用いる反応の多くは、その固体酸性質を利用したものである。特に、ゼオライトのブレンステッド酸を利用した反応に多く用いられており、例えば、接触分解、キシレンの異性化、エチルベンゼン又はクメンの合成、或いは、n-ブテンのイソブテンへの異性化等がある(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1)。また、近年では、酸強度の異なるゼオライトが種々合成されており、前述の炭化水素に関する反応だけでなく、種々の反応への応用が期待されている。
【0003】
ゼオライトのブレンステッド酸点は、ゼオライト骨格の部分構造に起因することが知られている。例えば、フォージャサイト構造を有するY型ゼオライトは、酸素を介してケイ素イオンとアルミニウムイオンが結合した構造を有しており、3価のアルミニウムイオンが四面体構造の4価のケイ素イオンと同型置換することによって-1の残余電荷を有している。この残余電荷のカウンターカチオンとして、プロトンや多価陽イオンが存在する場合、このY型ゼオライトはブレンステッド酸点を発現する。カウンターカチオンがプロトンの場合、そのブレンステッド酸の強度は、酸素を介して結合するケイ素イオンとアルミニウムイオンの距離や角度等によって影響を受けることが知られている。しかし、これらをコントロールしてブレンステッド酸の強度を変えることは、結晶構造のコントロールでもあり、これまで困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表平7-504936号公報
【文献】特表2001-515499号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】小野嘉夫、八嶋建明編、「ゼオライトの科学と工学」、第1版、株式会社講談社、2000年7月10日、p.119~134
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、フォージャサイト構造を有するゼオライトにおいて、より簡便な方法で、ブレンステッド酸強度を高めることができるフォージャサイト型ゼオライトの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、ブレンステッド酸強度が高いフォージャサイト型ゼオライトを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のフォージャサイト型ゼオライトの製造方法は、下記(1)~(3)の工程を含む、SiとAlとのモル比(SiO2/Al2O3)が13未満であるフォージャサイト型ゼオライトを製造する方法である。
(1)フォージャサイト構造を有し、
SiとAlとのモル比(SiO2/Al2O3)が13未満であり、
Naの含有量がNa2O換算で0.5質量%以上、2質量%未満の範囲にある、
スチーム処理用のゼオライトを準備する工程。
(2)上記スチーム処理用のゼオライトを、
その格子定数が2.434nm以上、2.443nm以下となるようにスチーム処理して、
酸処理用のゼオライトを調製する工程。
(3)上記酸処理用のゼオライトを、
温度が35℃以上、60℃未満の範囲にある酸溶液で酸処理する工程。
【0008】
本発明では、フォージャサイト構造を有するゼオライト(以下、「フォージャサイト型ゼオライト」ともいう。)の結晶構造に含まれるAl(以下、「FAL」ともいう。)の近傍に、結晶構造外のAl(以下、「EFAL」ともいう。)を析出させることで、FALに由来するブレンステッド酸とEFALに由来するルイス酸との相互作用を起こし、ブレンステッド酸強度を高めた。
【発明の効果】
【0009】
本発明を用いることで、ブレンステッド酸強度が高いゼオライトが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、まず、本発明のフォージャサイト型ゼオライトの製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)の実施形態について詳述する。
【0011】
[本発明の製造方法]
本発明の製造方法は、(1)フォージャサイト構造を有し、SiとAlとのモル比(SiO2/Al2O3)が13未満であり、Naの含有量がNa2O換算で0.5質量%以上、2質量%未満の範囲にある、スチーム処理用のゼオライトを準備する工程、(2)上記スチーム処理用のゼオライトを、その格子定数が2.434nm以上、2.443nm以下となるようにスチーム処理して、酸処理用のゼオライトを調製する工程、(3)上記酸処理用のゼオライトを温度が35℃以上、60℃未満の範囲にある酸溶液で酸処理する工程、を含む、SiとAlとのモル比(SiO2/Al2O3)が13未満であるフォージャサイト型ゼオライトの製造方法である。
【0012】
本発明の製造方法は、SiとAlとのモル比(SiO2/Al2O3)(以下、「ケイバン比」ともいう。)が、13未満であるフォージャサイト型ゼオライトの製造方法である。ケイバン比が13未満であるフォージャサイト型ゼオライトの製造方法は種々知られている。このような製造方法は、例えば、特開平4-187514号公報、特表2008-514533号公報などに記載されている。本発明の製造方法は、これらの製造方法と比較して、格子定数が2.434nm以上、2.443nm以下となるように、Naの含有量がNa2O換算で0.5質量%以上、2質量%未満の範囲にあるフォージャサイト型ゼオライトをスチーム処理する点で異なっている。
【0013】
フォージャサイト型ゼオライトをスチーム処理する工程では、一般的に、フォージャサイト型ゼオライトの結晶構造から結晶構造を破壊することなくAlを脱離させること(つまり、FALをEFALとして析出させること)を目的としている。この時、フォージャサイト型ゼオライトのFALのカウンターカチオンは、その種類や量によって、スチーム処理後のフォージャサイト型ゼオライトの物性に大きな影響を与える。一般的には、FALのカウンターカチオンをアンモニウムイオンとしてスチーム処理する方法が知られている。しかし、本発明の製造方法では、前述の先行技術とは異なり、フォージャサイト型ゼオライトにFALのカウンターカチオンとしてNa+を一定量存在させる。これは、Na+がカウンターカチオンとして存在するFALはスチーム処理によって抜けにくくなることを利用し、スチーム処理後であっても一定量のFALがフォージャサイト型ゼオライトに存在するようにするためである。さらに、Na+がカウンターカチオンとして存在しないFALは、スチーム処理によってEFALとなってフォージャサイト型ゼオライトの結晶表面に析出する。これを低温で酸処理することで結晶表面にEFALを残しつつ、EFALで覆われたFAL(ブレンステッド酸点を構成するAl)を結晶表面に露出させることで、FALの近傍にEFALが存在するような製造方法を設計した。このような製造方法により得られたゼオライトは、EFALに由来するルイス酸の相互作用によってFALに由来するブレンステッド酸の強度が高くなると考えられる。
【0014】
本発明の製造方法は、ケイバン比が13未満であるフォージャサイト型ゼオライトの製造方法に関する。本発明の製造方法では、ブレンステッド酸量が多いフォージャサイト型ゼオライトを提供することも目的の一つとしている。そして、本発明の製造方法では、フォージャサイト型ゼオライトのブレンステッド酸は、フォージャサイト型ゼオライトの結晶構造に含まれるAl(つまり、FAL)に由来するものであるため、ケイバン比を低く(即ち、Alの含有量を多く)している。本発明の製造方法で調製されるフォージャサイト型ゼオライトのケイバン比は、9以上、13未満の範囲にあることが好ましい。ケイバン比が低すぎるフォージャサイト型ゼオライトは、親水性が高いので、例えば炭化水素の分解反応等の炭化水素との反応に使用する際は、好ましくない。
【0015】
本発明の製造方法で調製されるフォージャサイト型ゼオライトは、フォージャサイト構造を有する。フォージャサイト構造は、X線回折測定により得られるX線回折パターンから判別することができ、そのX線回折パターンにフォージャサイト構造に由来するピークがあれば、フォージャサイト構造を有していると判断することができる。X線回折測定の条件及びフォージャサイト構造の判別方法は、後述の実施例で詳述する。
【0016】
以下、本発明の製造方法の各工程について、詳述する。
【0017】
(スチーム処理用のゼオライトの準備工程)
本発明の製造方法は、スチーム処理用のゼオライトを準備する工程を含む。このスチーム処理用のゼオライトは、フォージャサイト構造を有し、ケイバン比が13未満であり、Naの含有量がNa2O換算で0.5質量%以上、2質量%未満の範囲にある。このようなゼオライトは、市販されているものを購入してもよく、また従来公知の方法で合成してもよい。例えば、ケイバン比が前述の範囲となるようにSi原料、Al原料を加え、さらにNa原料及び水を加えた後、80~120℃程度の温度で水熱処理することで、フォージャサイト型ゼオライトが得られる。これを、Naの含有量が前述の範囲となるまでアンモニウム塩でイオン交換する方法で合成することができる。
【0018】
このスチーム処理用のゼオライトは、Naの含有量がNa2O換算で0.7質量%以上、2質量%未満であることが好ましい。スチーム処理用のゼオライトに含まれるNaが少なすぎると、Na+がカウンターカチオンとして存在するFALが減少し、スチーム処理をする際にFALがEFALとして過度に結晶構造から脱離してしまうので、最終的に得られるフォージャサイト型ゼオライトのブレンステッド酸量が低下することがある。また、このスチーム処理用のゼオライトに含まれるNaが多すぎても、スチーム処理する際にFALがEFALとして脱離せず、FALの近傍にEFALを存在させることが困難になる。そうすると、最終的に得られるゼオライトのブレンステッド酸がEFALのルイス酸との相互作用を受けにくくなり、その酸強度が低下してしまう。
【0019】
このスチーム処理用のゼオライトは、その格子定数が2.443nm以上、2.465nm以下の範囲にあることが好ましい。フォージャサイト型ゼオライトにおける格子定数は、その結晶構造中のSi及びAlの比率によって変化し、結晶構造中のSiとAlの比率を判断する指標の一つである。例えば、結晶構造中のAlが増加すると格子定数は増加する傾向があり、結晶構造中のSiが増加すると格子定数は減少する傾向がある。本発明の製造方法において、スチーム処理用のゼオライトの格子定数が大きすぎると、Naの含有量にもよるが、結晶構造中から大量のAlがスチーム処理により引き抜かれ、ゼオライトの結晶構造が壊れる可能性がある。このように結晶構造が壊れたゼオライトをスチーム処理のゼオライトとして用いると、本発明の製造方法により得られるゼオライトの結晶性も低下してしまう。また、この格子定数が小さすぎても、ブレンステッド酸点を構成する結晶構造中のAl(つまり、FAL)が少なくなるので、本発明の製造方法により得られるゼオライトのブレンステッド酸量が低下する可能性がある。
【0020】
スチーム処理用のゼオライトは、そのケイバン比が4以上、8以下の範囲にあることが好ましい。ケイバン比が高すぎると、後述のスチーム処理の際に析出するEFALの量が少なくなり、最終的に得られるゼオライトのブレンステッド酸の強度が低下することがある。また、その酸量も低下することがある。一方、ケイバン比が低すぎても、後述のスチーム処理工程でEFALが過度に析出してしまい、その結晶構造が壊れてしまうことがあるので好ましくない。
【0021】
(スチーム処理工程)
本発明の製造方法は、上記スチーム処理用のゼオライトを、その格子定数が2.434nm以上、2.443nm以下となるようにスチーム処理して、酸処理用のゼオライトを調製する工程を含む。この工程では、スチーム処理用のゼオライトに含まれるFALをEFALとして結晶構造から脱離させることを目的としている。具体的には、スチーム処理温度、スチーム処理時間及びスチーム濃度を制御して、スチーム処理用のゼオライトをその格子定数が2.434nm以上、2.443nm以下となるようにスチーム処理する。
【0022】
この工程におけるスチーム処理温度は、500℃以上、800℃以下の範囲にあることが好ましい。スチーム処理温度が前述の範囲より高い場合、ゼオライトの結晶構造が壊れる可能性があり、前述の範囲より低い場合、FALがEFALとして析出しにくくなる。したがって、スチーム処理温度は、前述の範囲にあることが好ましい。また、スチーム処理温度は、640℃以上、760℃以下の範囲にあることがより好ましい。
【0023】
この工程におけるスチーム処理時間は、酸処理用のゼオライトの格子定数が前述の範囲となるように前述のスチーム処理温度と併せてコントロールされる。このスチーム処理時間は、概ね20分以上、12時間以下の範囲にあることが好ましい。前述のスチーム処理温度にもよるが、処理時間が短すぎてもスチーム処理によってFALがEFALとして析出せず、ゼオライトの格子定数があまり変化しない。また、スチーム処理温度が一定の状態で処理時間を長くしても、ゼオライトの格子定数はそれほど変化しなくなるので、ゼオライトの格子定数が前述の範囲となるようにスチーム処理温度と併せて適切にコントロールすることが重要である。
【0024】
この工程におけるスチーム濃度は、飽和水蒸気量の50%以上であり、90%以上であることが好ましい。飽和水蒸気量が低い状態でスチーム処理をすると、ゼオライトの結晶構造が壊れやすくなる傾向にある。この理由は、FALがEFALとして析出する際にできる結晶の欠陥によって結晶構造が不安定になるためと考えられる。一方、前述の飽和水蒸気量の範囲であれば、ゼオライトの結晶構造は壊れにくくなる傾向にある。この理由は、結晶の表面又は結晶構造内のSiが移動して結晶の欠陥に再挿入され、結晶構造が安定化されるためと考えられる。したがって、スチーム濃度が前述の下限以上となるようにして、スチーム処理することが好ましい。
【0025】
(酸処理工程)
本発明の製造方法は、上記酸処理用のゼオライトを温度が35℃以上、60℃未満の範囲にある酸溶液で酸処理する工程を含む。上記スチーム処理を経て得られた酸処理用のゼオライトはFALの表面がEFALで覆われているので、本工程ではこの一部を酸処理によって除去しFALを表面に露出させることを目的とする。この時、EFALが全て除去されるような条件ではなく、EFALが一部残留する条件で酸処理することで、FALの近傍にEFALを残留させる。この残留したEFALに由来するルイス酸との相互作用によって、FALに由来するブレンステッド酸の強度が高まるものと考えられる。また、酸溶液によってFALのカウンターカチオンをH+にイオン交換することも目的の一つである。このようにFALのカウンターカチオンがH+である場合、ブレンステッド酸が発現する。
【0026】
この工程における酸溶液は、酸を含む溶液であって、硫酸、塩酸、硝酸といった従来公知の無機酸を含む。また、EFALを除去できる酸であれば、クエン酸や酢酸等の有機酸を用いてもよい。
【0027】
この工程における酸溶液の温度は、35℃以上、60℃未満の範囲にある。酸溶液の温度によってEFALの除去しやすさは変わり、通常のフォージャサイト型ゼオライトでは、EFALを完全に除去することを目的とするものが多く、酸溶液の温度も高く設定されることが多い。しかし、本発明の製造方法では、FALを覆っているEFALを除去しつつそれ以外のEFALを残すことを目的としているため、あえて酸溶液の温度を低くしている。
【0028】
この工程における酸溶液には、アンモニウムイオンを含む塩を添加してもよい。このように、アンモニウムイオンが存在する酸溶液を用いて酸処理を行うと、FALのカウンターカチオンであるNa+がより除去されやすくなる。
【0029】
この工程における酸溶液に含まれる酸は、酸処理用のゼオライトの重量に対して、0.8倍以下の添加量であることが好ましい(例えば、硫酸を用いて酸処理用のゼオライト1gを酸処理する際には、硫酸(H2SO4)の添加量が0.8g以下であることが好ましい。)。酸の添加量が多すぎると、EFALが過度に除去され、ブレンステッド酸の強度を高める効果が得られにくくなることがある。
【0030】
この工程における酸処理の時間は、酸処理の温度や酸の量にもよるが、概ね1時間以上、24時間以下であることが好ましい。酸処理の時間が概ねこの範囲内であれば、酸処理工程の目的を十分に達成することができる。
【0031】
酸処理後の酸溶液とゼオライトは、ろ過等の方法で固液分離することができる。また、この時に分離したゼオライトには酸溶液に由来する成分が残留することがある。そのため、分離したゼオライトを再度イオン交換水に懸濁する、濾布上で温水を掛ける等の洗浄処理を行うことが好ましい。この洗浄処理は、濾液の電導度が0.1mS/cm以下となるまで繰り返すとよい。分離したゼオライトは、温度80℃以上、400℃以下の範囲で乾燥させて、ゼオライトを得ることができる。さらに、必要に応じてこのゼオライトを大気雰囲気下において、温度400℃以上、600℃以下の範囲で焼成してもよい。このような処理を行うことで、部分的に残留したアンモニウムイオンやその他成分を除去することができる。
【0032】
次に、本発明のフォージャサイト型ゼオライト(以下、「本発明のゼオライト」ともいう。)の実施形態について、詳述する。
【0033】
[本発明のゼオライト]
本発明のゼオライトは、(A)SiとAlとのモル比(SiO2/Al2O3)が、13未満であり、(B)ルイス酸を含み、(C)ブレンステッド酸強度が0.05以上の範囲にある。
【0034】
本発明のゼオライトは、ブレンステッド酸点を構成するFALの近傍にルイス酸を有するEFALが存在することで、これらの相互作用によりブレンステッド酸の強度が高くなる。本発明においては、まず、ゼオライトのブレンステッド酸量を測定し、次にクメン分解反応により得られたベンゼンの収量で除することで、ゼオライトのブレンステッド酸強度を見積もった。これは、クメン分解反応により得られるベンゼンの収量がブレンステッド酸量と酸強度に依存することを利用し、ブレンステッド酸量とベンゼンの収量から酸強度を逆算したものである。本発明のゼオライトは、炭化水素の分解反応用の触媒に用いられる場合、そのブレンステッド酸強度が0.065以上、0.15以下の範囲にあることが好ましい。ブレンステッド酸強度がこの範囲にあると、炭化水素の分解を効率よく行うことができる。なお、ブレンステッド酸強度が低すぎる場合は炭化水素の分解反応が進みにくくなることがあり、高すぎても炭化水素の分解反応が進みすぎてしまうことがある。
【0035】
本発明のゼオライトは、炭化水素の分解反応用の触媒に用いられる場合、そのブレンステッド酸量が150μmol/g以上であることが好ましい。ブレンステッド酸量が150μmol/g以上であれば、炭化水素の分解に必要な活性点がより多くなるので、炭化水素の分解をより効率よく行うことができる。なお、本発明のゼオライトのブレンステッド酸量は、150μmol/g以上、500μmol/g以下の範囲にあることがより好ましい。
【0036】
本発明のゼオライトはルイス酸を含む。このルイス酸はEFALに由来するルイス酸であって、ブレンステッド酸の近傍に存在しているものと考えられる。ブレンステッド酸の近傍にルイス酸が存在するとブレンステッド酸強度が高くなることが知られており、本発明のゼオライトもブレンステッド酸強度が高いことから、ブレンステッド酸の近傍にルイス酸が存在しているものと考えられる。さらに、本発明のゼオライトにおけるブレンステッド酸量とルイス酸量の比率(ブレンステッド酸量/ルイス酸量)は、0.8以上、2.2以下の範囲にあることが好ましい。この比率が高すぎると、ブレンステッド酸に対してルイス酸が少なすぎるので、ブレンステッド酸強度があまり高くならない。一方、この比率が低すぎても、ルイス酸であるEFALがゼオライトの表面を過度に覆ってしまい、ブレンステッド酸点を構成するFALを被覆してしまうので、ブレンステッド酸量が低下することがある(同じAl含有量のゼオライトで比較した場合)。
【0037】
本発明のゼオライトにおけるルイス酸量は、50μmol/g以上、625μmol/g以下であることが好ましく、150μmol/g以上、300μmol/g以下の範囲にあることがより好ましい。ルイス酸量がこの範囲内であると、ブレンステッド酸の酸強度をより高めることができる。
【0038】
本発明のゼオライトのNa含有量は、Na2O換算で0.15質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。本発明のゼオライトに含まれるNaはFALのカウンターイオンとして存在しており、Na+がカウンターイオンとして存在するFALはブレンステッド酸点とならないので、このNa含有量はより低いほうが好ましい。
【0039】
本発明のゼオライトの格子定数は、2.430nm以上、2.440nm以下の範囲にあることが好ましい。ゼオライトの格子定数が2.430nmより低い場合、ブレンステッド酸点を構成するFALの数が少なくなり、炭化水素の分解反応等に用いるとその分解活性が不十分になる可能性がある。
【0040】
本発明のゼオライトの比表面積は、700m2/g以上、850m2/g以下の範囲にあることが好ましい。ゼオライトの比表面積が700m2/gより低い場合、本発明のゼオライトが有するフォージャサイト構造に由来する細孔構造が十分に発達していないおそれがある。このようなゼオライトは、部分的に非晶質となっており、ゼオライトの結晶構造に由来する細孔を反応場として使用できなかったり、細孔が途中で閉塞していたりすることがある。このようなゼオライトを触媒反応に使用すると、反応場が少なくなって活性が低下したり、細孔が閉塞してコーキングを引き起こすことがあるので、好ましくない。また、本発明のゼオライトは、FALをEFALとして引き抜いているので比表面積が850m2/gより大きくはなりにくく、このようなゼオライトは、EFALの生成が不十分となっている可能性がある。
【0041】
(本発明のゼオライトの用途)
本発明のゼオライトはブレンステッド酸強度が高いという特徴を有しているため、例えば、石油精製における流動接触分解用触媒や水素化分解用触媒の構成成分の一つとして用いることができる。流動接触分解においては、本発明のゼオライトを用いることで、ガソリン成分の増量だけでなく、従来のY型ゼオライトでは生成量が少なく近年需要が高まっているプロピレンなどの軽質オレフィンの生成を高めることができると考えられる。また、水素化分解においては、本発明のゼオライトを用いることで、ナフサの生成量を高めることが期待できる。石油精製において、ブレンステッド酸点は石油成分を分解する活性点として働き、その酸強度よって得られる留分が変化する。そこで、このような石油精製の分野で用いられる触媒の酸強度を細かくコントロールする必要がある。このような分野において、酸強度を制御した本発明のゼオライトは、触媒の酸性質をコントロールする構成成分の一つとして非常に有用である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明のゼオライト及びその製造方法について、実施例を用いて詳述するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0043】
本発明の実施例における測定及び評価は、次の方法で行った。
【0044】
(組成分析)
蛍光X線測定装置(RIX-3000)を用いて、ゼオライトのSi、Al、Na含有量を測定した。この測定結果から、Si、Al含有量を、それぞれSiO2、Al2O3に換算して、SiO2/Al2O3モル比を算出した。
【0045】
(結晶構造の確認)
乳鉢で粉砕した粉末試料をX線回折装置(リガク社製RINT-Ultima、線源:CuKα)にセットし、2θ=14~33oまでスキャンしてX線回折測定した。得られた試料のX線回折パターンから、フォージャサイト構造(FAU)に帰属される回折面にピークが確認できたものは、フォージャサイト構造を有していると判断した。具体的には、(331)、(511)、(440)、(533)、(642)及び(555)面に帰属される回折ピークの有無を確認した。なお、これらの回折面に帰属されるピークの位置は、技術文献(M. M. J. Treacy, J. B. Higgins, COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITES, Fifth Revised Edition, Elsevier)から確認することができる。なお、ピークの位置は測定条件等によって多少変動することがあるので、上記文献に記載されたピーク位置から±0.5°の範囲にあれば、フォージャサイト構造に由来するピークを有しているものとみなせる。
【0046】
(格子定数測定)
試料粉末を約2/3重量部、内部標準としてTiO2アナターゼ型の粉末(関東化学製、酸化チタン(IV)(アナターゼ型))を約1/3重量部秤量し、乳鉢を用いて混合した。この粉末をX線回折装置(リガク社製RINT-Ultima、線源:CuKα)にセットし、2θ=23~33oまでスキャンしてX線回折パターンを測定した。得られたパターンから、TiO2アナターゼ型、フォージャサイト型ゼオライトの(533)面、(642)面のそれぞれのピーク半値幅の中心を示す2θを用いて、以下の数式(1)~(3)から格子定数を算出した。
【0047】
【0048】
(ブレンステッド酸量及びルイス酸量測定)
試料粉末20mgを20mmΦのディスクに成型した後、真空ラインに接続されたIRセルに設置して、500℃で一時間真空排気処理を行った。真空排気処理後、150℃に降温して、ピリジン蒸気の導入前後の試料ディスクのIRスペクトルを日本分光社製FT/IR-4600で測定した。ブレンステッド酸点とルイス酸点の定量は、技術文献(C.A.Emeis,J.Catal.,141,347-354(1993))の記載に基づいて行った。
【0049】
(クメン分解反応によるベンゼン収量測定)
SiC粉末を1000mg、試料粉末を10mgそれぞれ測り取って、乳鉢で均一に混合した。混合された粉末を50.5mg計量して、クメン分解活性測定装置の反応管に詰め、加熱装置に設置した。反応管にArガスを流通させ、その状態で350℃に昇温して試料粉末に付着した吸着水分等を除去した。次いで、反応管を325℃に調整した。次いで、クメンガス濃度が0.6体積%となるようにArガスとクメンを混合して得られた混合ガスをパルスで反応管に導入し、試料粉末に接触させた。試料粉末に接触させたガスをFIDガスクロマトグラフィーに供することによってベンゼンの含有量を測定し、試料粉末1gあたりのベンゼン収量を算出した。
【0050】
(ブレンステッド酸強度の算出)
ブレンステッド酸強度は、ゼオライト単位重量当たりのベンゼン収量(mol/g)をゼオライト単位重量当たりのブレンステッド酸量(mol/g)で除算して算出した。
【0051】
(比表面積測定)
不活性ガス雰囲気下にて500℃で1Hrの前処理を実施した試料粉末について、マウンテック社製MacSorb-1220を用いてN2の吸着量及び脱離量を測定した。得られたN2の脱離量から、BET1点法に基づいて比表面積を算出した。
【0052】
[実施例1]
(スチーム処理用のゼオライトの準備工程)
SiO2/Al2O3モル比が5.2、格子定数が2.466nm、比表面積が720m2/g、Naの含有量がNa2O換算で13.0質量%であるNa-Y型ゼオライト(Y型ゼオライトとは、フォージャサイト型ゼオライトの1種である。また、Na-Y型ゼオライトとは、イオン交換サイトのカチオンがNa+であるY型ゼオライトである。以下、「NaY」ともいう)を用い、このNaY50.0kgを温度60℃の水500Lに加え、さらに硫酸アンモニウム14.0kgを加えて懸濁液を得た。この懸濁液を70℃で1時間攪拌し、ろ過した。ろ過により得られた固体を水で洗浄した。次いで、この固体を、温度60℃の水500Lに硫酸アンモニウム14.0kgを溶解した硫酸アンモニウム溶液で洗浄し、さらに、60℃の水500Lで洗浄し、130℃で20時間乾燥して、NaYに含まれるNaの約65質量%がアンモニウムイオン(NH4
+)でイオン交換されたY型ゼオライト(NH4Y)を約45kg得た。このNH4YのNa含有量はNa2O換算で4.5質量%であった。このNH4Y40kgを、飽和水蒸気雰囲気中にて670℃で1時間焼成し、超安定Y型ゼオライト(以下、「USY(a)」という)を得た。このUSY(a)を温度60℃の水400Lに加え、次いで硫酸アンモニウム49.0kgを加え懸濁液を得た。この懸濁液を90℃で1時間攪拌し、ろ過した。ろ過により得られた固体を温度60℃の水200Lで洗浄した。次いで、この固体を130℃で20時間乾燥して、当初のNaYに含まれるNaの約93質量%がNH4でイオン交換された超安定Y型ゼオライト(NH4USY)を約37kg得た。これをスチーム処理用のゼオライトとした。このゼオライトの性状は、表1の通りである。
【0053】
(スチーム処理工程)
このスチーム処理用のゼオライト3.0kgを、飽和水蒸気雰囲気中にて750℃で2時間スチーム処理し、酸処理用のゼオライトを約2.7kg得た。この時、酸処理用のゼオライトの格子定数は、2.437nmであった。このゼオライトの性状は、表1の通りである。
【0054】
(酸処理工程)
次いで、この酸処理用のゼオライト20.0gを、室温の水200mLに懸濁し、40℃まで昇温した。この懸濁液に、25質量%の硫酸28.8gを徐々に加えて酸溶液を調製した後、これを40℃で4時間攪拌した。撹拌終了後の酸溶液をろ過して得られた固体を、60℃のイオン交換水200mLで洗浄し、さらに130℃で20時間乾燥し、本発明のゼオライトを調製した。得られたゼオライトの性状は、表1の通りである。
【0055】
[実施例2]
スチーム処理用のゼオライトを飽和水蒸気雰囲気中にて660℃で2時間焼成したこと及び酸溶液に硫酸アンモニウム37gを添加したこと以外は、実施例1と同様の方法で本発明のゼオライトを調製した。得られたゼオライトの性状は、表1の通りである。
【0056】
[比較例1]
25質量%の硫酸の添加量を50.5gとしたこと及び酸溶液の温度を75℃としたこと以外は実施例1と同様の方法でゼオライトを調製した。得られたゼオライトの性状は、表1の通りである。
【0057】
[比較例2]
酸溶液の温度を75℃としたこと及び硫酸アンモニウムを添加しなかったこと以外は、実施例2と同様の方法でゼオライトを調製した。得られたゼオライトの性状は、表1の通りである。
【0058】
[比較例3]
スチーム処理温度を630℃としたこと及び、酸溶液の温度を75℃とした以外は、実施例1と同様の方法でゼオライトを調製した。得られたゼオライトの性状は、表1の通りである。
【0059】