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特許7149151複合材料製航空機用部品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】複合材料製航空機用部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B64C 1/00 20060101AFI20220929BHJP
   B64F 5/10 20170101ALI20220929BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20220929BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20220929BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20220929BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20220929BHJP
   B32B 27/04 20060101ALI20220929BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20220929BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B64C1/00 B
B64F5/10
B29C43/34
B29C70/16
B29C70/42
B32B5/26
B32B27/04 Z
B32B3/30
B32B5/02 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018187994
(22)【出願日】2018-10-03
(65)【公開番号】P2020055447
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-09-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「次世代構造部材創製・加工技術開発/次世代複合材及び軽金属構造部材創製・加工技術開発(第二期)高レート設計・製造技術開発」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中山 良博
(72)【発明者】
【氏名】越智 さやか
(72)【発明者】
【氏名】奥村 謙士郎
(72)【発明者】
【氏名】金澤 昇平
【審査官】姫島 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-013489(JP,A)
【文献】特開2018-075827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 1/00
B64F 5/10
B29C 43/34
B29C 70/16
B29C 70/42
B32B 5/26
B32B 27/04
B32B 3/30
B32B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維および樹脂組成物から少なくとも構成される複合材料層が複数積層された積層構造を有するとともに、立体構造として立設部、凸部および湾曲部の少なくともいずれかを有する、複合材料製航空機用部品であって、
前記複合材料層の少なくとも1つは、前記強化繊維が、接合部を含まない単一の連続繊維で構成され、かつ、部分的な切込部を含む層であり
同一の積層構造を有し立体構造を有さない平板成形体の厚さを基準厚さとしたときに、前記積層構造を保持した状態で前記基準厚さよりも厚さが小さい薄板部を含み、
さらに、前記強化繊維には、前記切込部が開いた状態である開切込部が含まれていることを特徴とする、
複合材料製航空機用部品。
【請求項2】
前記凸部が1つ以上存在することを特徴とする、
請求項1に記載の複合材料製航空機用部品。
【請求項3】
前記湾曲部は、一次元の湾曲または二次元の湾曲を含むものであることを特徴とする、
請求項1または2に記載の複合材料製航空機用部品。
【請求項4】
前記基準厚さを100%としたときに、前記薄板部の厚さは60%以上100%未満であることを特徴とする、
請求項1から3のいずれか1項に記載の複合材料製航空機用部品。
【請求項5】
前記樹脂組成物は、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を含有するものであることを特徴とする、
請求項1から4のいずれか1項に記載の複合材料製航空機用部品。
【請求項6】
前記強化繊維は炭素繊維であることを特徴とする、
請求項1から5のいずれか1項に記載の複合材料製航空機用部品。
【請求項7】
前記基準厚さは、前記平板成形体における繊維体積含有率と、当該平板成形体の硬化前の複合材料積層体を構成する、硬化前のそれぞれの複合材料層における繊維目付と、を用いて算出された、当該平板成形体の算出厚さであることを特徴とする、
請求項1から6のいずれか1項に記載の複合材料製航空機用部品。
【請求項8】
強化繊維および樹脂組成物から構成される複合材料層を複数積層して積層体を形成し、
当該積層体を成形型に設置して加熱加圧成形する、複合材料製航空機用部品の製造方法であって、
前記複合材料層として、部分的な切込部を複数含む切込領域を有し、かつ、接合部を含まない単一の強化繊維および樹脂組成物から構成されるものが少なくとも1つ用いられ、
前記成形型として、雌型部およびこれに嵌合する雄型部を備え、前記雄型部および前記雌型部の間に形成されるキャビティには、立体構造として立設部、凸部および湾曲部の少なくともいずれかを形成するための領域が含まれ、
前記積層体を前記成形型に設置したときには、前記立体構造に対応する部位およびその隣接部位の少なくとも一方に前記切込領域が位置するように、当該切込領域を前記複合材料層に形成することを特徴とする、
複合材料製航空機用部品の製造方法。
【請求項9】
前記切込領域を有する複合材料層を第一複合材料層としたときに、
前記複合材料層として、さらに、前記切込領域を有さず、接合部を含まない単一の強化繊維および樹脂組成物から構成される第二複合材料層が用いられることを特徴とする、
請求項8に記載の複合材料製航空機用部品の製造方法。
【請求項10】
前記切込領域は、前記複合材料層の一部であるか、当該複合材料層全体に及んでいることを特徴とする、
請求項8または9に記載の複合材料製航空機用部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料製航空機用部品およびその製造方法に関し、特に、製造個数が相対的に多くなる小型部品として好適な複合材料製航空機用部品と、その製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、これまで金属材料が用いられてきた分野において、繊維強化樹脂複合材料(以下、適宜「複合材料」と略す。)が広く用いられるようになっている。この複合材料の中でも、強化繊維として炭素繊維を用い、これにエポキシ樹脂等のマトリクス樹脂を含浸させて成形した炭素繊維強化型のもの(CFRP)は、金属材料よりも軽量であることに加え、より高強度である。それゆえ、航空機分野における複合材料製部品としては、例えば、翼または胴体等の大型の構造物が知られている。
【0003】
一般に、航空機分野における複合材料製部品の製造では、オートクレーブ成形を用いた製造方法が主流である。ただし、オートクレーブ成形は、成形時間が相対的に長くなるため一般に大量生産に不向きとされる。前述した大型の構造物は、航空機1機当たりの部品個数が少ないため、オートクレーブ成形で対応することが可能である。これに対して、1機当たりの部品点数がより多い小型の部品を製造する場合には、オートクレーブ成形では効率的な製造が困難になるおそれがある。
【0004】
近年、航空需要の拡大により航空機の運航効率を向上することが求められており、そのため、大型の航空機ではなく、中型機または小型機の需要が増加する傾向にある。このような中型機または小型機の需要が増加すれば、航空機の月産機数も増加するため、より製造効率を向上する必要がある。複合材料製航空機用部品は、前記の通り、より軽量かつ高強度であるため、中型機または小型機の部品として特に好適である。しかしながら、大型の部品だけでなく小型の部品もオートクレーブ成形により製造しようとしても、十分な製造効率を実現することは困難であると考えられる。
【0005】
例えば、航空機の胴体を構成するスキンの個数を、航空機1機当たり101 個と想定すれば、長尺部品であるビームは1機当たり102 個と想定されるが、同じく長尺部品であるストリンガおよびフレームは、いずれも1機当たり103 個すなわち数千個と想定される。さらには、より小型のクリップ等の部品は、異なる形状のものが数千種類存在し、1機当たり104 個すなわち数万個必要となる。このように長尺部品またはクリップ等の小型の部品は、1機当たり数千個から数万個となるので、このような部品を複合材料化してオートクレーブ成形することは、製造効率を大幅に低下させることが想定される。
【0006】
そこで、従来から、複合材料製航空機用部品を効率的かつ低コストで製造するための技術が提案されている。例えば、特許文献1には、複合材料を用いて細長い全体形状の部品(長尺部品)を、単純かつ低コストで製造する方法が開示されている。この方法では、複合材料を引抜成形して、樹脂が部分重合状態にある予成形物を得るとともに、樹脂が部分重合状態にある補強要素を準備し、予成形物に対して補強要素を付加して樹脂の重合を完了させることにより、航空機構造用の複合材料部品を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-214151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1によれば、前述したように、部分重合状態にある予成形物を補強要素により補強して硬化させることにより、複合材料製の長尺部品を単純かつ低コストで得ることができると記載している。しかしながら、この方法では、樹脂の硬化の一例としてオートクレーブ(または炉)を用いることを開示している。それゆえ、前述したように、数千個から数万個の部品を効率的に製造する用途には不適であると考えられる。
【0009】
また、特許文献1では、オートクレーブ以外の代替方法として熱間成形プレスを例示しており、このプレス成形によりオートクレーブへの依存を回避することが記載されている。しかしながら、オートクレーブに代えてプレス成形を利用することにより製造効率を向上することに関しては特に記載がない。
【0010】
ここで、クリップ等の小型部品は、その断面形状がL字型であるとともに、部分的な凸部または曲率半径が相対的に小さい湾曲部を有したりする複雑な立体構造を有している。このような平板状あるいはそれに近い単純形状の積層体から相対的に複雑な立体構造を有する複合材料製部品をプレス成形することは通常困難であり、実用上では、オートクレーブ成形を用いざるを得ない。
【0011】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、オートクレーブ成形を用いることなく、効率的に製造することが可能な、立体的な形状を含む複合材料製航空機用部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る複合材料製航空機用部品は、前記の課題を解決するために、強化繊維および樹脂組成物から少なくとも構成される複合材料層が複数積層された積層構造を有するとともに、立体構造として立設部、凸部および湾曲部の少なくともいずれかを有する、複合材料製航空機用部品であって、それぞれの前記複合材料層では、前記強化繊維が、接合部を含まない単一の連続繊維で構成され、かつ、部分的な切込部を含み、同一の積層構造を有し立体構造を有さない平板成形体の厚さを基準厚さとしたときに、前記積層構造を保持した状態で前記基準厚さよりも厚さが小さい薄板部を含み、さらに、前記強化繊維には、前記切込部が開いた状態である開切込部が含まれている構成である。
【0013】
前記構成によれば、強化繊維が接合部を含まない単一の連続繊維で構成され、かつ、部分的な切込部を含んでいる。このような強化繊維を含むプリプレグの積層体を成形型に設置して加熱加圧成形(ホットプレス成形)すると、成形型のキャビティ内で樹脂組成物が流動しつつ、強化繊維の切込部が開くことによって、強化繊維の積層構造が実質的に保持されるか積層構造が大幅に変化しない状態で、当該強化繊維も流動または伸展する。これにより、加熱加圧成形により、立設部、凸部または湾曲部を含む立体構造を容易に成形することができる。そのため、オートクレーブ成形を用いることなく複雑な構造の複合材料製航空機用部品をプレス成形で容易に製造することができるとともに、従来のようにプリプレグを切り貼りして積層する手間を省くことができるため、製造効率を向上することができる。
【0014】
また、前記構成によれば、立体構造を成形する際に、積層構造が維持された状態で切込部が開くことにより、強化繊維が局所的に流動したり、局所的または全体的に伸展したりする。それゆえ、得られる硬化物(航空機用部品)には、開切込部が生じるとともに、板厚が薄くなる薄板部が生じる。この薄板部は、積層構造を保持しているため、他の部位と同様に十分な強度および弾性率を実現することができる。それゆえ、強度または弾性率を補強するためにプリプレグを部分的に積層する必要がなくなり、複合材料製航空機用部品の軽量化を図ることができるとともに、積層作業の省力化を図ることも可能となる。
【0015】
前記構成の複合材料製航空機用部品においては、前記凸部が1つ以上存在する構成であってもよい。
【0016】
また、前記構成の複合材料製航空機用部品においては、前記湾曲部は、一次元の湾曲または二次元の湾曲を含むものである構成であってもよい。
【0017】
また、前記構成の複合材料製航空機用部品においては、前記基準厚さを100%としたときに、前記薄板部の厚さは60%以上100%未満である構成であってもよい。
【0018】
また、前記構成の複合材料製航空機用部品においては、前記樹脂組成物は、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を含有するものである構成であってもよい。
【0019】
また、前記構成の複合材料製航空機用部品においては、前記強化繊維は炭素繊維である構成であってもよい。
【0020】
また、前記構成の複合材料製航空機用部品においては、前記基準厚さは、前記平板成形体における繊維体積含有率Vfと、当該平板成形体の硬化前の複合材料積層体を構成する、硬化前のそれぞれの複合材料層における繊維目付と、を用いて算出された、当該平板成形体の算出厚さである構成であってもよい。
【0021】
また、本発明に係る複合材料製航空機用部品の製造方法は、前記の課題を解決するために、強化繊維および樹脂組成物から構成される複合材料層を複数積層して積層体を形成し、当該積層体を成形型に設置して加熱加圧成形する、複合材料製航空機用部品の製造方法であって、前記複合材料層として、部分的な切込部を複数含む切込領域を有し、かつ、接合部を含まない単一の強化繊維および樹脂組成物から少なくとも構成されるものが用いられ、前記成形型として、雌型部およびこれに嵌合する雄型部を備え、前記雄型部および前記雌型部の間に形成されるキャビティには、立体構造として立設部、凸部および湾曲部の少なくともいずれかを形成するための領域が含まれ、前記積層体を前記成形型に設置したときには、前記立体構造に対応する部位およびその隣接部位の少なくとも一方に前記切込領域が位置するように、当該切込領域を前記複合材料層に形成する構成である。
【0022】
前記構成の複合材料製航空機用部品の製造方法においては、前記切込領域を有する複合材料層を第一複合材料層としたときに、前記複合材料層として、さらに、前記切込領域を有さず、接合部を含まない単一の強化繊維および樹脂組成物から構成される第二複合材料層が用いられる構成であってもよい。
【0023】
また、前記構成の複合材料製航空機用部品の製造方法においては、前記切込領域は、前記複合材料層の一部であるか、当該複合材料層全体に及んでいる構成であってもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、以上の構成により、オートクレーブ成形を用いることなく、効率的に製造することが可能な、立体的な形状を含む複合材料製航空機用部品を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】(A)は、本発明の実施の形態に係る複合材料製航空機用部品およびその素材であるプリプレグ積層体の一例を模式的に示す断面の対比図であり、(B)は、(A)に示すプリプレグ積層体の強化繊維が有する切込部の一例を模式的に示す部分平面図であり、(C)は、(A)に示す航空機用部品の強化繊維に含まれる開切込部の一例を模式的に示す部分平面図であり、(D),(E)は、(A)に示す航空機用部品のうち湾曲部材の一例を示す模式的斜視図である。
図2】本発明の実施の形態に係る複合材料製航空機用部品には含まれず、従来の複合材料製航空機用部品に含まれる接合部の一例を示す模式的分解断面図である。
図3】(A)は、本発明の実施の形態に係る複合材料製航空機用部品の製造方法の代表的な一例を示す工程図であり、(B)は、従来の複合材料製航空機用部品の製造方法の代表的な一例を示す工程図である。
図4】(A)~(D)は、図1(A)に示すプリプレグ積層体における切込部を有する領域と、複合材料製航空機用部品における切込部を有する領域および薄板部との対比を示す模式図である。
図5図1(C)に示す開切込部の具体的な一例を示す図である。
図6】(A)は、図1(A)に示す複合材料製航空機用部品の具体的な一例を示す図であり、(B)は、(A)に示す複合材料製航空機用部品の部分的な断面の一例を示す図である。
図7】(A)は、図1(A)に示す複合材料製航空機用部品の具体的な一例を示す図であり、(B)は、(A)に示す複合材料製航空機用部品におけるI-I線矢視断面の一例を示す図であり、(C)は、(A)に示す複合材料製航空機用部品におけるII-II線矢視断面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の代表的な実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0027】
[複合材料製航空機用部品]
まず、本開示に係る複合材料製航空機用部品の一例について、図1(A)~(C)を参照して具体的に説明する。
【0028】
本開示に係る複合材料製航空機用部品(以下、適宜「航空機用部品」と略す)は、強化繊維および樹脂組成物から少なくとも構成される複合材料層が複数積層された積層構造を有するとともに、立体構造として立設部、凸部、および湾曲部の少なくともいずれかを有する。積層構造を構成するそれぞれの複合材料層では、強化繊維が、接合部を含まない単一の連続繊維で構成され、かつ、部分的な切込部を含んでいる。さらに、本開示に係る航空機用部品は、同一の積層構造を有し立体構造を有さない平板成形体の厚さを基準厚さとしたときに、積層構造を保持した状態で基準厚さよりも厚さが小さい薄板部を含み、強化繊維には、切込部が開いた状態である開切込部が含まれている。
【0029】
例えば、図1(A)に示す例では、図中最上段が、航空機用部品となる素材としてのプリプレグ積層体10であり、複数の複合材料層が積層された積層構造を有している。図1(A)における2段目が、プリプレグ積層体10をそのまま加熱および加圧して平板状に成形した平板成形体11すなわち立体構造を有さない従来の成形体である。図1(A)における3段目から5段目が、それぞれT字状部材21、凸状部材22、湾曲部材23であり、これらは、航空機用部品の代表的な例である。
【0030】
T字状部材21は、立体構造として、平坦な基板部20aに対して立設する立設部20bを有している。凸状部材22は、立体構造として、基板部20aにおける例えば中央部に当該基板部20aの面方向(広がり方向)に対して膨らむように突出する凸部20cを有している。湾曲部材23は、立体構造として、全体的に湾曲した形状すなわち湾曲部20dを有している。
【0031】
後述するように、本開示においては、プリプレグ積層体10をプレス成形することにより、立体構造を有する航空機用部品、例えば、T字状部材21、凸状部材22、湾曲部材23が製造される。プリプレグ積層体10は、複数のプリプレグ(半硬化状態の複合材料層)が積層されて構成されているので、このプリプレグ積層体10を素材として製造される航空機用部品も複数の硬化した複合材料層が積層されたもの(積層構造を有するもの)となっている。
【0032】
複合材料層は、強化繊維および樹脂組成物から少なくとも構成されるが、本開示においては、複合材料層として、部分的な切込部を複数含む切込領域を有し、かつ、接合部を含まない単一の強化繊維を備えるものが、少なくとも用いられる。具体的には、例えば図1(B)に模式的に示すように、成形前の複合材料層12(すなわちプリプレグ)には、部分的な切込部13aが複数形成されている領域(切込領域)が含まれる。後述するように、この切込領域は、複合材料層12の一部であってもよいし、当該複合材料層12全体に及んでもよい。なお、本開示に係る航空機用部品に含まれない接合部については後述する。
【0033】
また、プリプレグ積層体10を構成する複数の複合材料層12は、全て強化繊維が切込領域を有するものであってもよいし、強化繊維が切込領域を有さないものを含んでもよい。強化繊維が切込領域を有する複合材料層12を、説明の便宜上「第一複合材料層」と称するときに、強化繊維が切込領域を有さない複合材料層を「第二複合材料層」と称することができる。本開示においては、第一複合材料層および第二複合材料層を構成する強化繊維は、いずれも接合部を含まない単一のもの、すなわち、1枚の複合材料層は、1層の強化繊維を有しており、複数層の強化繊維を含まない。
【0034】
プリプレグ積層体10をプレス成形して製造される航空機用部品は、前記の通り立体構造(立設部20b、凸部20c、湾曲部20d等)を有する。当該航空機用部品を構成する硬化した複合材料層のうち、第一複合材料層(すなわち強化繊維が切込部13aを有する複合材料層)では、プレス成形に際して、強化繊維が引き伸ばされて、これに伴って複数の切込部13aの多くが開いた状態となる。開いた切込部13aは、樹脂組成物が硬化することで開いた状態が維持されるので、例えば図1(C)に示すように、製造される航空機用部品20には、切込部13aが開いたままの状態である開切込部13bが生じる。
【0035】
また、得られる航空機用部品においては、薄板部が必ず含まれる。この薄板部は、適切な品質が得られるようにプリプレグ積層体10を平板状に加熱加圧成形して得られる平板成形体11の厚さを「基準厚さ」としたときに、積層構造を保持した状態で基準厚さよりも、その厚さが小さい(薄い)部位である。この基準厚さについて具体的に説明する。
【0036】
図1(A)における最上段に示すように、成形前のプリプレグ積層体10の厚さT0 とし、図1(A)における2段目に示すように、プリプレグ積層体10を標準的な条件で加熱加圧成形して得られる平板成形体11の厚さT1 とする。このプリプレグ積層体10は、複合材料の単層となるプリプレグを複数積層した状態であるため、各層の間に隙間が生じたり空気が入り込んだりしている。これに対して、平板成形体11は、加熱加圧成形されることにより各層が強固に密着するので、プリプレグ積層体10の層間に生じていた隙間が消失し、層間に入り込んでいた空気も実質的に除去される。それゆえ、成形後の平板成形体の厚さT1 は、成形前のプリプレグ積層体10の厚さT0 に比べて小さくなっている(T1 <T0 )。そこで、平板成形体11の厚さT1 を「基準厚さ」とする。
【0037】
本開示においては、後述するように、強化繊維が切込部13aを有するため、加熱加圧成形時に樹脂組成物とともに強化繊維も流動または伸展(もしくはその両方)することが可能である。そのため、例えば、図1(A)におけるT字状部材21(図中2段目)では、加熱加圧成形により立設部20bが形成されるに伴って、樹脂組成物および強化繊維が流動または伸展する。その結果、基板部20aの厚さT21は、平板成形体11の厚さすなわち基準厚さT1 よりも小さく(薄く)なる(T21<T1 )。したがって、T字状部材21の基板部20aは薄板部に相当する。
【0038】
また、凸状部材22(図中3段目)では、加熱加圧成形により凸部20cが形成されるに伴って、樹脂組成物および強化繊維が流動または伸展する。その結果、凸部20cの厚さT22は基準厚さT1よりも小さく(薄く)なる(T22<T1 )。したがって、凸状部材22の凸部20cは薄板部に相当する。なお、図1(A)に示す例では、凸状部材22の基板部20aでは、樹脂組成物および強化繊維が流動または伸展が生じていないため、その厚さは基準厚さT1 のままである。
【0039】
また、湾曲部20dを有する湾曲部材23では、加熱加圧成形により湾曲部20dが形成されるに伴って、樹脂組成物および強化繊維が全体的に流動または伸展する。その結果、湾曲部材23の厚さT23は基準厚さT1よりも小さく(薄く)なる(T23<T1 )。したがって、湾曲部材23においては、その全体が薄板部となっている。
【0040】
これら薄板部は、樹脂組成物および強化繊維の流動および/または伸展により、成形前のプリプレグ積層体10の積層構造が実質的に保持されている。そのため、立体構造を有さない平板成形体11の厚さ(すなわち基準厚さT1 )よりも薄いにもかかわらず、十分な強度特性を有する。積層構造が保持されていることで強度計算が可能になるとともに強度のバラツキが大きくなることを抑制することも可能になる。
【0041】
なお、T字状部材21の立体構造である立設部20bも基準厚さT1 よりも薄いが、プリプレグ積層体10の積層構造がそのまま保持されているわけではないので、薄板部に該当しない。ただし、加熱加圧成形時に樹脂組成物および強化繊維の流動および伸展により、立設部20bは、その頂部(先端部)で折り返すように強化繊維が折り曲げられたような積層構造を有している。それゆえ、立設部20bも十分な強度特性を有する。また、立設部20bの頂部における強化繊維の折り返しは、曲率半径が非常に小さい「湾曲部」と見なすことができる。
【0042】
ここで、基準厚さT1 すなわち立体構造を有さない平板成形体11の厚さは、成形前のプリプレグ積層体10の積層数に応じて常に一定になるわけではなく、積層数に加えて加熱加圧成形の諸条件によってさまざまな厚さに設定することができる。そこで、本開示においては、次に説明する計算式で厚さを算出し、この算出厚さを「基準厚さT1 」と定義する。実際、公知の適正な効果サイクルを用いてプリプレグ積層体10を硬化することにより、硬化後の平板成形体11の厚さの実測値(実測厚さ)と算出厚さとは、十分な精度で一致(または良好に近似)する。
【0043】
複合材料の硬化後の厚さは、プリプレグの繊維目付Wfと、硬化後の成形体(硬化物)の繊維体積含有率Vfとによって決定することができる。繊維目付Wfは、プリプレグを構成する繊維材料(強化繊維)の集合体(クロス基材)における単位面積当たりの繊維材料の重量を指す。プリプレグは、通常、繊維材料の集合体(クロス基材)に樹脂材料(または樹脂組成物)を含浸させることにより製造される。それゆえ、繊維目付Wfを大きくすればプリプレグの厚さが大きくなるか、クロス基材の織目(布目)等が密になる。
【0044】
本開示のように、硬化中に樹脂材料を積極的に流出させずに硬化物(平板成形体11)を成形する場合に、当該硬化物(平板成形体11)の算出厚さをTcとすると、この算出厚さTcは次の式(1)に基づいて算出することができる。なお、式(1)におけるρfはプリプレグの繊維比重である。本開示においては、この式(1)による算出厚さTcを、同一の積層構造を有し立体構造を有さない平板成形体11の厚さすなわち基準厚さT1 とする(Tc=T1 )。
Tc=Wf/ρf/Vf ・・・ (1)
【0045】
ここで、繊維体積含有率Vfは、後述するように公知の規定に準じて算出すればよいが、本開示においては、例えば次の式(2)に基づいて算出することができる。式(2)におけるρrはプリプレグの樹脂比重(本開示では樹脂材料または樹脂組成物の比重に相当)であり、Wrはプリプレグの樹脂含有率(本開示では樹脂材料または樹脂組成物の含有率に相当)である。
Vf=ρr×(1-Wr/100)/{ρf-(ρf-ρr)×(1-Wr/100)} ・・・ (2)
【0046】
一般に、市販のプリプレグにおいては、メーカーのカタログに繊維目付Wf、樹脂含有量Wr、繊維比重ρf、樹脂比重ρrが記載されていることが多い。繊維目付Wfの定義は前記の通りであるが、樹脂含有率Wrは単位重量のプリプレグに含まれる、樹脂材料の重量%であり、樹脂比重ρfはプリプレグを構成する樹脂材料(樹脂組成物)および繊維材料(強化繊維)のうち繊維材料単体の比重であり、樹脂比重ρrはプリプレグを構成する樹脂材料および繊維材料のうち樹脂材料単体の比重である。
【0047】
市販のプリプレグにおいては、繊維目付Wf、樹脂含有率Wr、繊維比重ρf、樹脂比重ρrには製造公差がある。そのため、前記の式(2)で算出される繊維体積含有率Vf、並びに、前記式(1)で算出される硬化物の算出厚さTcにもある程度のバラツキが生じる。このような製造公差に由来する算出値のバラツキは本開示においては許容範囲に入るものとして取り扱う。したがって、平板成形体11の実測厚さと算出厚さTc(基準厚さT1 )とは、前記の通り、常に一致するものではなく許容範囲内で近似していればよい。
【0048】
薄板部の具体的な厚さの範囲は特に限定されないが、基準厚さT1 を100%としたときに、60%以上100%未満を挙げることができる。本開示では、強化繊維が切込部13aを有することにより、プレス成形時に樹脂組成物とともに強化繊維も流動させたり伸展させたりすることが可能であるが、強化繊維の流動または伸展にも限界があり、それゆえ、薄板部は、基本的には基準厚さT1 の60%未満の厚さにならないと考えられる。また、薄板部は、基準厚さT1 よりも薄ければよいので、その厚さの上限は100%未満であるが、諸条件にもよるが、例えば、基準厚さT1 の70~97%の範囲内に入ることが多い。
【0049】
本開示において、複合材料層を構成する強化繊維および樹脂組成物の具体的な種類は特に限定されず、航空機用部品に適用可能な材料を適宜選択して用いることができる。強化繊維は、航空機用部品において良好な物性(強度等)を実現できるものであれば、その具体的な種類は特に限定されないが、例えば、炭素繊維、ポリエステル繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、ボロン繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、シリカ繊維(石英繊維)、炭化ケイ素(SiC)繊維、ナイロン繊維、等を挙げることができる。これら強化繊維は、1種類のみが用いられてもよいし2種類以上が適宜組み合わせて用いられてもよい。これらの中でも、特に航空機分野では炭素繊維が好適に用いられる。また、強化繊維の使用形態は特に限定されないが、代表的には、組物、織物、編物、不織布等で構成された基材として用いることができる。
【0050】
強化繊維に含浸される樹脂組成物は、基材を支持するマトリクス材(母材)として使用可能な樹脂材料を含有していればよい。具体的な樹脂材料としては、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とが挙げられる。
【0051】
熱硬化性樹脂の具体的な種類は特に限定されないが、代表的には、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、シアネートエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。これら熱硬化性樹脂は単独種で用いられてもよいし、複数種が組み合わせられて用いられもよい。また、これら熱硬化性樹脂のより具体的な化学構造も特に限定されず、公知の種々のモノマーが重合されたポリマーであってもよいし、複数のモノマーが重合されたコポリマーであってもよい。また、平均分子量、主鎖および側鎖の構造等についても特に限定されない。
【0052】
また、熱可塑性樹脂の具体的な種類も特に限定されないが、特に航空機用部品の分野では、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)等のエンジニアリングプラスチックが好適に用いられる。これら熱可塑性樹脂もより具体的な化学構造は特に限定されず、公知の種々のモノマーが重合されたポリマーであってもよいし、複数のモノマーが重合されたコポリマーであってもよい。また、平均分子量、主鎖および側鎖の構造等についても特に限定されない。
【0053】
複合材料のマトリクス材は、前述した熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のみで構成されてもよい(すなわちマトリクス材は公知の樹脂材料のみであってもよい)が、公知の硬化剤、硬化促進剤、繊維基材以外の補強材または充填材、その他公知の添加剤を含んでいてもよい。硬化剤、硬化促進剤等の添加剤の具体的な種類、組成等についても特に限定されず、公知の種類または組成のものを好適に用いることができる。
【0054】
つまり、本開示においては、マトリクス材は、熱硬化性樹脂および他の成分を含有する熱硬化性樹脂組成物、あるいは、熱可塑性樹脂および他の成分を含有する熱可塑性樹脂組成物であってもよい。したがって、本開示においては、複合材料は、強化繊維と熱硬化性樹脂または熱硬化性樹脂組成物とで構成される「熱硬化型」であってもよいし、強化繊維と熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物とで構成される「熱可塑型」であってもよい。
【0055】
航空機用部品の素材となるプリプレグ積層体10は、前記の通り、半硬化状態の複合材料層であるプリプレグを積層したものである。プリプレグは、強化繊維で構成される基材に熱硬化性樹脂組成物または熱可塑性樹脂組成物を含浸させて半硬化状態としたシート体である。プリプレグの具体的な構成は特に限定されない。また、プリプレグを積層して形成されるプリプレグ積層体10の具体的な構成も特に限定されない。例えば、プリプレグの形状、プリプレグの積層枚数、プリプレグの積層方向等については、得られる航空機用部品の形状、用途、種類等に応じて適宜設定することができる。
【0056】
また、プリプレグ積層体10は、プリプレグすなわち複合材料層以外の他の材料層が含まれてもよい。つまり、本開示に係る航空機用部品は、複合材料以外の他の材料を含んでもよい。例えば、プリプレグ積層体10の表面には、伸展性を有する樹脂(または樹脂組成物)により形成された樹脂層が積層されてもよい。このような樹脂層を含むプリプレグ積層体10を後述するように加熱加圧成形することで、表面に樹脂層が形成された航空機用部品を製造することができる。表面の樹脂層としては、機械加工性を付与する(例えば後述する穴開け時にバリまたはささくれ等の発生を防止する)目的、あるいは、航空機用部品の外観を向上する目的のものが挙げられるが、特に限定されない。
【0057】
本開示に係る航空機用部品は、前記の通り、立設部20b、凸部20c、または湾曲部20d等の立体構造を含むとともに、積層構造を保持した状態で基準厚さT1 より薄い薄板部を含むものであればよく、その具体的な構成は特に限定されない。例えば、立設部20bの高さ、角度、厚さ、あるいは、凸部20cの大きさ(広がり面積)、突出の程度、凸部20cの曲率、あるいは、湾曲部20dの曲率等については、当該航空機用部品の形状、用途、種類等に応じて適宜設定することができる。
【0058】
また、本開示に係る航空機用部品に含まれる立体構造は、単一であってもよいし複数であってもよい。すなわち、航空機用部品は、立設部20bまたは凸部20cを1つのみ含んでもよいし、立設部20bを複数含んでもよいし、凸部20cを複数含んでもよい。あるいは、複数種類の立体構造を含んでもよい。例えば、1つ以上の立設部20bおよび凸部20cをそれぞれ含んでもよいし、湾曲部20dとともに1つ以上の立設部20bおよび凸部20cをそれぞれ含んでもよい。
【0059】
さらには、航空機用部品が有する湾曲部20dの具体的な構成も特に限定されない。例えば、湾曲部20dは一次元の湾曲であってもよいし二次元の湾曲であってもよい。一次元の湾曲としては、図1(D)に示すように、第一方向D1 において湾曲し、第二方向D2 においては湾曲していない(直線状である)一次元湾曲部材24を挙げることができる。また、二次元の湾曲としては、図1(E)に示すように、第一方向D1 および第二方向D2 のいずれにおいても湾曲している二次元湾曲部材25を挙げることができる。
【0060】
また、立体構造は、立設部20b、凸部20c、および湾曲部20dに限定されず、基板部20aを基準として3次元的な形状を有するものであればよい。例えば、基板部20aの少なくともいずれかの周縁を折り曲げた折曲部を立体構造として含んでもよいし、基板部20aに含まれる部分的な薄板部としての凹部を含んでもよい。
【0061】
本開示に係る航空機用部品における強化繊維の含有率は特に限定されず、当該航空機用部品に要求される諸物性または諸条件に応じて好適な含有率を設定することができる。本開示においては、航空機用部品における強化繊維の含有率は、前述した繊維体積含有率Vfで規定することができる。繊維体積含有率Vfは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の分野等において公知であり、複合材料全体に含有される繊維の量(含有量)を体積比で示す指標である。繊維体積含有率Vfの算出方法は、JIS K7075またはASTM D3171に準じて行えばよい。代表的には、前記式(2)により算出することができる。
【0062】
本開示に係る航空機用部品における繊維体積含有率Vfは、50~70%の範囲内であればよく、好ましくは55~65%の範囲内を挙げることができる。繊維体積含有率Vfが小さ過ぎると、航空機用部品として良好な物性等を実現できない場合がある。一方、繊維体積含有率Vfが大き過ぎると、マトリクス材である樹脂組成物が少なくなり過ぎて、強化繊維を良好に支持できなくなるだけでなく、強化繊維が切込部13aを有していても、強化繊維が相対的に多くなり過ぎて、プレス成形時に良好に流動または伸展できなくなるおそれがある。
【0063】
ここで、本開示に係る航空機用部品に含まれていない接合部について図2を参照して具体的に説明する。図2には、従来の航空機用部品50の一部を模式的に図示している。図2に示す例では、従来の航空機用部品50の一部を、複合材料層を3層含む平板状の構成として図示しているが、実際の航空機用部品50は、複合材料層が3層に限定されず2層以上含むものであればよい。また、実際の航空機用部品50は、平板状に限定されず前述した立体構造を含むもの、あるいは、その他の公知の構造を有するものであればよい。
【0064】
航空機用部品50では、それぞれの複合材料層を構成する強化繊維14に一つの接合部15が設けられている。接合部15では、一方の強化繊維14に対して他方の強化繊維14が部分的に重なっている構成である。航空機用部品では、接合部15の間隔Wは例えば13mm以上を挙げることができる。また、隣接する上下層においては、接合部15同士の間隔は例えば25mm以上を挙げることができる。図2に示す例では、最下層(第3層)の強化繊維14における接合部15と中間層(第2層)の強化繊維14における接合部15との間隔が25mm以上であればよい。
【0065】
航空機用部品が前述した立体構造を含む場合、従来では、プリプレグを手作業等により所定形状に積層してプリプレグ積層体10を形成してからオートクレーブにより加熱加圧成形している。この積層に際しては、図2に示すように、各層に接合部15を含むようにプリプレグが積層される。このような接合部15を含まないようにプリプレグが積層されてプリプレグ積層体10が形成された場合には、加熱加圧成形により得られる航空機用部品50において部分的に十分な強度または弾性率を実現できなくなるおそれがある。
【0066】
これに対して、本開示に係る航空機用部品では、複合材料層を構成する強化繊維が単一の連続繊維で構成され、かつ、部分的な切込部を含んでいる。そのため、加熱加圧成形時に樹脂組成物とともに強化繊維も流動または伸展(もしくはその両方)することができる。その結果、前述した立設部、凸部、および湾曲部の少なくともいずれかの立体構造を有する航空機用部品を、図2に示すような接合部15を形成することなく製造することができる。
【0067】
[複合材料製航空機用部品の製造方法]
次に、本開示に係る複合材料製航空機用部品の製造方法について、図3(A),(B)および図4(A)~(D)を参照して具体的に説明する。
【0068】
図3(A)に示す工程図は、図1(A)~(C)に例示する航空機用部品を製造する際の代表的な工程を示している。これに対して、図3(B)に示す工程図は、従来の一般的な航空機用部品を製造する際の代表的な工程を示している。複合材料の種類、プリプレグの種類、形状、あるいは、航空機用部品の種類、形状、用途等の諸条件によって実施される工程は異なるが、図3(A),(B)に示すそれぞれの工程図は、一般的な航空機用部品の代表的な製造方法の一例である。
【0069】
航空機用部品を従来の一般的な製造方法で製造する場合、まず、プリプレグを積層して平板状のプリプレグ積層体10を準備し(工程P11)、このプリプレグ積層体10をホットドレープ成形して立体構造を形成する(工程P12)。ホットドレープ成形では、プリプレグ積層体10を雄型治具上に載置し、樹脂組成物は硬化しないが流動性が生じる条件で、加熱および加圧を行う。これにより、立体構造が形成されたプリプレグ積層体10が得られる。その後、耐熱フィルムおよびシール材等を用いて、雄型治具とともにプリプレグ積層体10をバギング処理し(工程P13)、オートクレーブ成形する(工程P14)。オートクレーブ成形によりプリプレグ積層体10が加熱および加圧されるため、当該プリプレグ積層体10は、立体構造を保持した状態で硬化し、硬化物すなわち航空機用部品が得られる。
【0070】
オートクレーブ成形が終了すれば、バギングされた状態の雄型治具および航空機用部品をデバッグ処理して、当該航空機用部品を脱型する(工程P15)。オートクレーブ成形に際しては、樹脂組成物が流れ出して硬化した余剰部分が周囲に発生する。そのため、この余剰部分を除去するために硬化物をトリム処理する(工程P16)。トリム処理の後に、硬化物を穴開け処理し(工程P17)、その後に硬化物について非破壊検査(Non Destructive Inspection:NDI)を行う(工程P18)。NDIでは、硬化物の品質に影響を与える(またはその可能性のある)欠陥、例えば、層間剥離、空隙(ボイド)、ポロシティ等の有無について検査する。さらにNDIの後に、硬化物をエッジシール処理する(工程P19)。エッジシール処理により、トリム処理によってトリム端に露出した繊維からの吸湿を防止することができるとともに、露出した繊維を介した電食を防止することも可能となる。
【0071】
これに対して、本開示に係る航空機用部品の係る製造方法では、従来と同様に、プリプレグを積層してプリプレグ積層体10を準備するが(工程P01)、このプリプレグ積層体10を所定の成形型を用いてホットプレス成形(加熱加圧成形)する(工程P02)。このとき、成形型のキャビティ内で樹脂組成物が流動しつつ、強化繊維の切込部が開くことによって、強化繊維の積層構造が実質的に保持されたままで、当該強化繊維も流動または伸展する。そのため、ホットプレス成形により、立設部20b、凸部20cまたは湾曲部20dを含む立体構造を容易に成形することができる。また、強化繊維の切込部が開いて流動または伸展することで、当該強化繊維の配向角を希望の角度になるように制御することができる。
【0072】
また、ホットプレス成形に際しては、プリプレグ積層体10の積層構造が維持された状態で切込部13aが開くことにより、強化繊維が局所的に流動したり、局所的または全体的に伸展したりするため、前記の通り、板厚が薄くなる薄板部が生じる。しかしながら、この薄板部は、積層構造を保持しているため、前記の通り、薄板部以外の部位と同様に十分な強度および弾性率を実現することができる。
【0073】
それゆえ、本開示に係る製造方法では、複雑な構造の複合材料製航空機用部品をプレス成形で容易に製造することができるとともに、従来のようにプリプレグを切り貼りして積層する手間を省くことができるため、製造効率を向上することができる。また、薄板部が生じても、当該薄板部は良好な強度および弾性率を有しているため、強度または弾性率を補強するためにプリプレグを部分的に積層する必要がなくなる。そのため、複合材料製航空機用部品の軽量化を図ることができるとともに、積層作業の省力化を図ることも可能となる。
【0074】
また、本開示に係る製造方法では、従来の製造方法のように、加熱とともに加圧を行うオートクレーブが必要なくなる。オートクレーブは、ホットプレス成形の設備に比べて相対的に高価であるので、本開示に係る製造方法であれば、製造設備の費用の増加を抑制することができる。また、オートクレーブが不要となれば、バギング処理およびデバッグ処理も必要なくなる。バギング処理およびデバッグ処理は、工数も作業時間も相対的に大きくなるので、これら処理を削減することで、製造方法をより効率化することができる。
【0075】
ホットプレス成形により硬化物すなわち航空機用部品が得られれば、当該航空機用部品に対して、前述したようにトリム処理(工程P03)および穴あけ処理(工程P04)を行ってから、当該航空機用部品についてNDIを行い(工程P05)、その後に硬化物をエッジシール処理する(工程P06)。ここで、本開示に係る製造方法では、ホットプレス成形(工程P02)に際して、プリプレグ積層体10を構成する複合材料(強化繊維および樹脂組成物)の流動を制御することができるので、航空機用部品の形状、複合材料の種類、ホットプレス成形の条件等の諸条件に応じて、エッジシール処理を省略することも可能となる。
【0076】
ここで、本開示に係る航空機用部品の製造方法において、複合材料の流動制御および伸展制御について説明する。前記の通り、本開示においては、プリプレグ積層体10を構成する複合材料層に、第一複合材料層すなわち強化繊維に切込領域(切込部13aが形成されている領域)を含むので、ホットプレス成形に際して、樹脂組成物だけでなく強化繊維も流動させたり伸展させたりすることができる。
【0077】
プリプレグ積層体10における切込領域の位置は特に限定されず、得られる航空機用部品の立体構造に応じた好適な位置を適宜設定することができる。例えば、図4(A)に示す例では、図中2段目のT字状部材21Aまたは図中3段目の凸状部材22Aを製造する場合に、図中最上段のプリプレグ積層体10Aには、立設部20bまたは凸部20cに対応する中央部に、切込領域10aが設けられている(図中交差線のハッチング)。T字状部材21Aまたは凸状部材22Aでは、立設部20bまたは凸部20cの周囲は基板部20aであるので、立体構造に対応する中央部のみに切込領域10aを設けることで、プレス成形に際して複合材料の流動制御が可能になる。
【0078】
T字状部材21Aのプレス成形に際しては、平板状のプリプレグ積層体10Aに対して、立設部20bに対応する隙間を含むキャビティを有する成形型を用いればよい。これにより、プレス成形に際して、中央部の切込領域10aにおいて樹脂組成物とともに強化繊維も隙間に流動していくため、プリプレグ積層体10の面方向(横方向または水平方向)に広がっている強化繊維を法線方向(縦方向または垂直方向)に摘み上げるようなかたちで、強化繊維が流動する。これにより、立設部20bには、樹脂組成物だけでなく強化繊維が所在することになり、しかも、当該強化繊維は良好な積層状態を有している。それゆえ、立設部20bは良好な強度を有することになる。
【0079】
また、図4(A)に示すように、中央部の切込領域10aから立設部20bに向かって複合材料が流動したため、T字状部材21Aにおいては、立設部20bに近接する中央部の厚さが小さくなっている。すなわち、T字状部材21Aは、立設部20bに近接する基板部20aに薄板部20eが形成されている。前記の通り、薄板部20eは、成形前のプリプレグ積層体10の積層構造が良好に保持されているため、当該薄板部20eは良好な強度を有している。
【0080】
あるいは、凸状部材22Aのプレス成形に際しては、平板状のプリプレグ積層体10Aに対して、凸部20cに対応するキャビティを有する成形型を用いればよい。これにより、プレス成形に際して、中央部の切込領域10aにおいて樹脂組成物とともに強化繊維も凸状のキャビティに伸展していくため、凸部20cを形成することができる。この場合、凸部20cが薄板部に相当するが、この凸部20cにおいては、強化繊維の積層構造が良好に保持されているため、良好な強度を有している。
【0081】
なお、図4(A)に示す例では、T字状部材21Aおよび凸状部材22Aのいずれにおいても、立体構造の周辺に位置する基板部20a(T字状部材21Aの場合には、基板部20aのうち薄板部20eを含まない部位)は切込領域10aに対応しない。それゆえ、基板部20aは、薄板部にはなっておらず、その厚さは基準厚さT1 が維持されている。
【0082】
また、例えば、図4(B)に示す例では、図中2段目のT字状部材21Bまたは図中3段目の凸状部材22Bを製造する場合に、図中最上段のプリプレグ積層体10Bは、その全体が切込領域であってもよい(図中交差線のハッチング)。
【0083】
この例では、T字状部材21Bまたは凸状部材22Bのプレス成形に際しては、プリプレグ積層体10Bを構成する複合材料が全体的に流動することが可能である。そのため、T字状部材21Bにおいては、強化繊維および樹脂組成物で構成される立設部20bが形成されるとともに、基板部20a全体が薄板部となる。また、凸状部材22Bにおいては、積層構造を保持した凸部20cが形成されるともに、凸部20cだけでなく基板部20aも含めた全体が薄板部となる。
【0084】
図4(A)に示す例では、切込領域はプリプレグ積層体10の面方向の一部として設けられているが、切込領域の位置はこれに限定されず、厚さ方向の一部として設けられてもよい。例えば、図4(C)に示す例では、プリプレグ積層体10Cにおける一方の表面(例えば上面)側に、切込領域10bが偏在しており、他方の表面(例えば下面)側は、切込領域ではない。このようなプリプレグ積層体10Cでは、上面側は第一複合材料層すなわち切込部13aを有する複合材料層で構成され、下面側は第二複合材料層すなわち通常の複合材料層で構成されている。
【0085】
図4(C)では、航空機用部品の一例として、図4(A),(B)と同様に、T字状部材21Cを挙げている。このT字状部材21Cのプレス成形に際しては、上面側の切込領域10bにおいて、樹脂組成物とともに強化繊維も立設部20bに対応する隙間に流動していく。そのため、強化繊維および樹脂組成物で構成される立設部20bが形成されるとともに、基板部20aの上面側が流動して薄くなるため、基板部20a全体が薄板部となる。
【0086】
あるいは、図4(D)に示す例では、プリプレグ積層体10Dにおける一方の表面(例えば上面)側の中央部に、切込領域10bが偏在しており、切込領域10bの周囲(上面の中央部以外の周縁部)、並びに、他方の表面(例えば下面)側は、切込領域ではない。このようなプリプレグ積層体10Dでは、上面側を構成する複合材料層は第一複合材料層であって、立設部20bに対応する中央部に切込領域10aが設けられている(図中交差線のハッチング)。一方、プリプレグ積層体10Dの下面側は第二複合材料層すなわち通常の複合材料層で構成されている。
【0087】
図4(D)では、航空機用部品の一例として、図4(C)に示す例と同様に、T字状部材21Dを挙げている。このT字状部材21Dのプレス成形に際しては、上面側中央部の切込領域10bにおいて、樹脂組成物とともに強化繊維も立設部20bに対応する隙間に流動していく。そのため、強化繊維および樹脂組成物で構成される立設部20bが形成されるとともに、基板部20aの上面側中央部が流動して薄くなるため、基板部20aの中央部(基板部20aにおける立設部20bに隣接する部位)が薄板部20eとなる。
【0088】
このように、本開示に係る航空機用部品の製造方法では、プリプレグ積層体10において切込領域の位置を適宜設定することで、複雑な立体構造をプレス成形により製造することができる。従来においても、プリプレグ積層体をプレス成形して立体構造を有する航空機用部品を製造することは可能であったものの、複雑な立体構造を良好な品質で形成することは困難であった。
【0089】
なお、図4(A)~(D)に示す例(あるいは図1(A)に示す例)では、プリプレグ積層体10として平板状のものを例示しているが、本開示においては、プリプレグ積層体10は平板状に限定されない。本開示においては、例えば、製造しようとする航空機用部品の構造に応じて平板状でない形状を予め付与してもよい。例えば、プリプレグ積層体10をある程度湾曲させたものとして準備しておき、これをプレス成形することで、例えば図1(D)に示す一次元湾曲部材24または図1(E)に示す二次元湾曲部材25を製造することもできる。
【0090】
本開示に係る製造方法では、例えば、従来では製造が困難であった、曲率半径R=4mm程度の湾曲部または凸部を形成することができる。あるいは、本開示に係る製造方法では、凸部が少なくとも1つ存在する立体構造を成形することができるとともに、凸部が複数(2つ以上)存在する立体構造も成形することができる。さらには、本開示に係る製造方法では、従来では製造が困難であった、凸部が3つ以上存在する立体構造も成形することができる。
【0091】
あるいは、前述した二次元の湾曲部を有する硬化物は、従来でも製造可能であるものの、実際には、強化繊維が十分に伸展しないため、周縁部にしわが発生した。これに対して、本開示に係る製造方法では、例えば曲率半径がR=6mm~10mm程度の二次元の湾曲部であっても、しわを生じさせることなく製造することができる。また、立設部20bの頂部における強化繊維の折り返しを「湾曲部」と見なした場合には、この頂部の曲率半径Rを1.0mm未満にすることができる。
【0092】
[航空機用部品の具体例]
次に、図5図6(A),(B)、並びに図7(A)~(C)を参照して、実際に製造した航空機用部品の一例について説明する。図5は、図1(C)に模式的に示す開切込部13bの実際の一例であり、このような開切込部は、図6(A)に示すT字状部材の基板部の表面、あるいは、図7(A)に示すL字状部材の表面に観察される。図5に示す例は、航空機用部品の表面に形成された開切込部13bの一例であり、本開示に係る航空機用部品の特徴的な構成である。
【0093】
図6(A)に示すT字状部材は、図1(A)あるいは図4(A)~(D)に例示するように、基板部に対して垂直に立設部が設けられている形状である。ここで、図6(B)に示すように、このT字状部材における基板部は、厚さの小さい薄板部になっているものの、複合材料層の積層構造が良好に保持されている。また、基板部から分岐している立設部では、前述したように、樹脂組成物とともに強化繊維が流動することにより、良好な積層構造が生じている。
【0094】
あるいは、図7(A)に示すL字状部材は、凸部としてのコルゲート部が3つ形成されている。このコルゲート部について、縦断面すなわち図7(A)におけるI-I線矢視方向の断面を見ると、図7(B)に示すように、コルゲート部の縦断面は、薄板部になっているものの複合材料層の積層構造が良好に保持されている。また、コルゲート部の横断面すなわち図7(A)におけるII-II線矢視方向の断面を見ると、図7(C)に示すように、コルゲート部の横断面も、薄板部になっているものの複合材料層の積層構造が良好に保持されている。
【0095】
このように、本開示に係る航空機用部品は、強化繊維および樹脂組成物から少なくとも構成される複合材料層が複数積層された積層構造を有するとともに、立体構造として立設部、凸部および湾曲部の少なくともいずれかを有するものであり、それぞれの複合材料層では、強化繊維が、接合部を含まない単一の連続繊維で構成され、かつ、部分的な切込部を含み、同一の積層構造を有し立体構造を有さない平板成形体11の厚さを基準厚さとしたときに、積層構造を保持した状態で基準厚さよりも厚さが小さい薄板部を含み、さらに、強化繊維には、前記切込部が開いた状態である開切込部が含まれている構成である。
【0096】
また、本開示に係る航空機用部品の製造方法は、強化繊維および樹脂組成物から構成される複合材料層を複数積層して積層体を形成し、当該積層体を成形型に設置して加熱加圧成形する際に、複合材料層として、部分的な切込部を複数含む切込領域を有し、かつ、接合部を含まない単一の強化繊維および樹脂組成物から構成されるものが、少なくとも用いられ、成形型として、雌型部およびこれに嵌合する雄型部を備え、雄型部および雌型部の間に形成されるキャビティには、立体構造として立設部、凸部および湾曲部の少なくともいずれかを形成するための領域が含まれ、積層体を成形型に設置したときには、立体構造に対応する部位およびその隣接部位の少なくとも一方に切込領域が位置するように、当該切込領域を複合材料層に形成する構成である。
【0097】
このような構成によれば、強化繊維が接合部を含まない単一の連続繊維で構成され、かつ、部分的な切込部を含んでいる。このような強化繊維を含むプリプレグの積層体を成形型に設置して加熱加圧成形(ホットプレス成形)すると、成形型のキャビティ内で樹脂組成物が流動しつつ、強化繊維の切込部が開くことによって、強化繊維の積層構造が実質的に保持されるか積層構造が大幅に変化しない状態で、当該強化繊維も流動または伸展する。これにより、加熱加圧成形により、立設部、凸部または湾曲部を含む立体構造を容易に成形することができる。そのため、オートクレーブ成形を用いることなく複雑な構造の複合材料製航空機用部品をプレス成形で容易に製造することができるとともに、従来のようにプリプレグを切り貼りして積層する手間を省くことができるため、製造効率を向上することができる。
【0098】
また、前記構成によれば、立体構造を成形する際に、積層構造が維持された状態で切込部が開くことにより、強化繊維が局所的に流動したり、局所的または全体的に伸展したりする。それゆえ、得られる硬化物(航空機用部品)には、開切込部が生じるとともに、板厚が薄くなる薄板部が生じる。この薄板部は、積層構造を保持しているため、他の部位と同様に十分な強度および弾性率を実現することができる。それゆえ、強度または弾性率を補強するためにプリプレグを部分的に積層する必要がなくなり、複合材料製航空機用部品の軽量化を図ることができるとともに、積層作業の省力化を図ることも可能となる。
【0099】
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、複合材料製の航空機用部品を製造する分野、特に、クリップ等のように立体的な形状を有する小型の航空機用部品を複合材料で製造する分野に広く好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0101】
10:プリプレグ積層体
11:平板成形体
12:複合材料層
13a:切込部
13b:開切込部
14:強化繊維
15:接合部
20:航空機用部品
20a:基板部
20b:立設部
20c:凸部
20d:湾曲部
20e:薄板部
21,21A~21D:T字状部材
22,22A,22B:凸状部材
23:湾曲部材
24:一次元湾曲部材
25:二次元湾曲部材
50:従来の航空機用部品
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7