(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】ガスタービン燃焼器及びガスタービン
(51)【国際特許分類】
F02C 7/18 20060101AFI20220929BHJP
F23R 3/42 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F02C7/18 C
F23R3/42 D
(21)【出願番号】P 2018190878
(22)【出願日】2018-10-09
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】堀内 康広
(72)【発明者】
【氏名】小金沢 知己
(72)【発明者】
【氏名】萩田 達哉
(72)【発明者】
【氏名】森▲崎▼ 哲郎
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-038166(JP,A)
【文献】特開2004-084601(JP,A)
【文献】特開2006-105076(JP,A)
【文献】特開2017-089639(JP,A)
【文献】特開2016-166606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02C 7/18
F23R 3/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼ガスをタービンに供給する燃焼器尾筒を備え、前記燃焼器尾筒と前記タービンの入口との間に隙間を介在させて組み付けられるガスタービン燃焼器において、
前記燃焼器尾筒の出口部に接続されるフランジに複数のシェイプト孔を設け
、
前記燃焼器尾筒に前記燃焼器尾筒の冷却用の冷却孔が複数設けてあり、
前記複数のシェイプト孔が、前記フランジの外周側から内周側に向かって前記タービンの側に、前記冷却孔よりも大きな角度で傾斜しているガスタービン燃焼器。
【請求項2】
請求項1のガスタービン燃焼器において、
前記フランジが、シール部材を保持する突起部を備えており、
前記複数のシェイプト孔が、タービン軸方向における位置範囲が前記突起部と重複するように前記フランジに形成されているガスタービン燃焼器。
【請求項3】
請求項1のガスタービン燃焼器において、前記複数のシェイプト孔の出口開口が、前縁に対して後縁が幅広な形状であるガスタービン燃焼器。
【請求項4】
請求項1のガスタービン燃焼器において、前記複数のシェイプト孔が、前記フランジにおけるタービン径方向の内周側及び外周側の少なくとも一方側に配置されているガスタービン燃焼器。
【請求項5】
請求項1のガスタービン燃焼器において、前記複数のシェイプト孔が、タービン周方向に並んでいるガスタービン燃焼器。
【請求項6】
燃焼ガスをタービンに供給する燃焼器尾筒を備え、前記燃焼器尾筒と前記タービンの入口との間に隙間を介在させて組み付けられるガスタービン燃焼器において、
前記燃焼器尾筒の出口部に接続されるフランジに複数のシェイプト孔を設け、
前記複数のシェイプト孔が、タービン軸方向に複数列設けられており、タービン軸方向に隣り合う列同士で前記シェイプト孔の位置がタービン周方向にずれているガスタービン燃焼器。
【請求項7】
請求項
6のガスタービン燃焼器において、
前記フランジが、シール部材を保持する突起部を備えており、
少なくとも前記タービンに最も近い列に属するシェイプト孔の後縁が、前記突起部の後縁よりも前記タービンに近いガスタービン燃焼器。
【請求項8】
空気を圧縮する圧縮機と、
請求項1
又は6のガスタービン燃焼器と、
前記ガスタービン燃焼器で発生した燃焼ガスで駆動されるタービンと、
前記燃焼器尾筒とタービン初段の静翼エンドウォールとの間の隙間をシールするシール部材とを備えているガスタービン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスタービン燃焼器及びガスタービンに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンは、圧縮機で圧縮した圧縮空気を燃焼器で燃料と共に燃焼させて高温の作動流体である燃焼ガスを発生させ、燃焼ガスでタービンを駆動するように構成されている(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高温の燃焼ガスに晒されるタービンの部品は、酸化又は熱応力による亀裂や溶損が発生しないように、燃焼ガスよりも温度が低い低温流体を冷却空気に用いて冷却する必要がある。また、タービンの部品には、熱変形による応力集中を緩和する他、保守点検や交換を容易にする目的で、分割構造が採用されることが多い。このことから、部品間の隙間に燃焼ガスが流入しないように、燃焼ガス流路の外側から部品間の隙間にシール空気として高圧の低温流体を供給する必要がある。しかし、冷却空気やシール空気としてタービンに供給する低温流体は一般に圧縮機から抽気されるので、過剰に抽気量を増やすとタービンを駆動する燃焼ガスの流量が減少しガスタービン全体の効率低下につながる。そのため、タービンの部品間の隙間にはシールプレートが架け渡されている。但し、これらシールプレートはタービンの部品間の隙間を完全に密閉する訳ではなく、タービン部品との間に微小な低温流体のリークを発生させ、このリーク空気がシールプレートやタービン部品の冷却に貢献する。
【0005】
しかし、環境問題の深刻化に伴って高効率化が急務となる発電用ガスタービンにあっては燃焼ガス温度(タービン入口温度)が年々上昇しており、タービン部品、例えば燃焼器の直ぐ下流に位置するタービンの初段静翼の熱負荷が増加しつつある。特に燃焼器尾筒との間に隙間が介在するタービン初段の静翼エンドウォールは薄肉で冷却構造を適用することが難しい。燃焼器尾筒との間の隙間からのリーク空気が静翼エンドウォールのフィルム冷却に活用できるが、この付近は馬蹄形渦等の二次流れの影響を強く受ける複雑な流れ場であり、安定したフィルム冷却膜が形成し難い。
【0006】
本発明の目的は、燃焼器尾筒とタービン静翼の間の隙間からのリーク空気を活かしてタービンの初段の静翼エンドウォールの冷却効率を向上させることができるガスタービン燃焼器及びガスタービンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、燃焼ガスをタービンに供給する燃焼器尾筒を備え、前記燃焼器尾筒と前記タービンの入口との間に隙間を介在させて組み付けられるガスタービン燃焼器において、前記燃焼器尾筒の出口部に接続されるフランジに複数のシェイプト孔を設け、前記燃焼器尾筒に前記燃焼器尾筒の冷却用の冷却孔が複数設けてあり、前記複数のシェイプト孔が、前記フランジの外周側から内周側に向かって前記タービンの側に、前記冷却孔よりも大きな角度で傾斜しているガスタービン燃焼器を提供する。
また、燃焼ガスをタービンに供給する燃焼器尾筒を備え、前記燃焼器尾筒と前記タービンの入口との間に隙間を介在させて組み付けられるガスタービン燃焼器において、前記燃焼器尾筒の出口部に接続されるフランジに複数のシェイプト孔を設け、前記複数のシェイプト孔が、タービン軸方向に複数列設けられており、タービン軸方向に隣り合う列同士で前記シェイプト孔の位置がタービン周方向にずれているガスタービン燃焼器を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、燃焼器尾筒とタービン静翼の間の隙間からのリーク空気を活かしてタービンの初段の静翼エンドウォールの冷却効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るガスタービン燃焼器を適用するガスタービンの一例の模式図
【
図2】本発明の一実施形態に係るガスタービン燃焼器とタービンの接続部との断面図
【
図3】本発明の一実施形態に係るガスタービン燃焼器に備えられた燃焼器尾筒をタービン側から見た後面図
【
図8】
図3に示した燃焼器尾筒の後縁部をタービン初段の静翼と共に表した図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
-ガスタービン-
図1は本発明の一実施形態に係るガスタービン燃焼器を適用するガスタービンの一例の模式図である。本実施形態では、ガスタービン燃焼器を燃焼器と略称する。
図1に示したガスタービン100は、圧縮機51、燃焼器52及びタービン53を備えている。圧縮機51は、吸気部を介して吸い込んだ空気Aを圧縮し、高圧の圧縮空気Cを生成して燃焼器52に供給する。燃焼器52は、圧縮機51で圧縮した圧縮空気Cを燃料と共に燃焼し、高温の燃焼ガスHを発生させてタービン53に供給する。タービン53は、燃焼器52で発生した燃焼ガスHで駆動される。圧縮機51及びタービン53は同軸に連結され、また圧縮機51又はタービン53には負荷機器(本実施形態では発電機54)が連結される。タービン53で得られる回転動力は、一部が圧縮機51の動力として使用され、一部が発電機54の動力として使用される。タービン53を駆動した燃焼ガスHは、排気ガスEとしてタービン53から排出される。
【0012】
なお、
図1では単軸のガスタービンを本発明の適用対象として例示したが、他のタイプのガスタービンにおいても燃焼器尾筒に本発明を適用した場合には同様の効果を得ることができる。例えば、圧縮機に連結された高圧タービン、及び高圧タービンと分離されて負荷機器に連結された低圧タービンを有する二軸ガスタービンにも本発明は適用可能であり、同様の効果を得ることができる。
【0013】
-燃焼器-
図2は本実施形態に係る燃焼器とタービンの接続部の断面図(タービン回転軸を含む断面図)である。
図2に示したように、燃焼器52は、燃焼ガスHをタービン53に供給する燃焼器尾筒16を備えている。この燃焼器尾筒16は、タービン53の入口との間に隙間Sを介在させて組み付けられている。タービン53は、静翼翼列55及び動翼翼列56を一列ずつ含むタービン段落57を少なくとも1段備えている。同一の段落においては、タービン軸方向の上流側から順に静翼翼列55及び動翼翼列56が並んでいる。本実施形態においては複数のタービン段落57を備える場合を図示しており、初段(第1段落)の静翼翼列55と動翼翼列56に符号を付して説明するが、第2段落以降の静翼翼列及び動翼翼列も概ね同様の構成である。
【0014】
静翼翼列55はタービン周方向(タービン回転方向)に並ぶ複数の静翼を含んで環状に構成されており、タービン周方向に複数のセグメント(
図8)に分割されている。動翼翼列56もタービン周方向に並ぶ複数の動翼を含んで構成されている。静翼翼列55の1つのセグメントは、内周側及び外周側の2枚の静翼エンドウォール17及び少なくとも1つの翼部18を有している(
図8も参照)。静翼エンドウォール17は、静翼翼列55における燃焼ガス流路(燃焼ガスHが流通する環状の流路)の内外周を画定する薄板状の部材である。翼部18は、燃焼ガスHを整流する役割を果たすものであって、タービン径方向に延びて内外周の静翼エンドウォール17を連結している。外周側の静翼エンドウォール17をタービンケーシング15に係合させることで、静翼翼列55はタービンケーシング15に対して固定されている。動翼翼列56は、ディスク13の外周部に複数の動翼12を取付けて構成されている。動翼翼列56における環状の燃焼ガス流路は、外周側がシュラウド14により、内周側がディスク13の外周面で画定されている。シュラウド14は、タービン周方向に複数のセグメントに分割されており、各セグメントがタービンケーシング15に対して固定されている。
【0015】
-シール機構-
図2に示したように、タービン初段の内外周の静翼エンドウォール17の前縁と燃焼器尾筒16の後縁は、上記の隙間Sを介してタービン軸方向に対向している。燃焼器尾筒16の後縁と静翼エンドウォール17の前縁との間の隙間Sは、シール部材6でシールしてある。
【0016】
燃焼器尾筒16は本体部における燃焼ガスの出口部にフランジ19を備えており、フランジ19が静翼エンドウォール17に対向する。このフランジ19は額縁とも呼ばれ、燃焼器尾筒本体の出口部に接続(接合)されて本体と一体に構成されている。フランジ19は弓形の矩形状に形成されており、タービン周方向に燃焼器尾筒16が複数配置されると、各フランジ19の出口開口が周方向に並んで環状に形成される。また、フランジ19には上記シール部材6を保持する突起部20が備わっている。突起部20はフランジ19のタービン径方向の内外の周壁から燃焼ガス流路と反対側に延びている。つまりフランジ19におけるタービン径方向の外側の突起部20は、フランジ19におけるタービン径方向の外側を向いた壁面からタービン径方向外側に突出している。反対にフランジ19におけるタービン径方向の内側の突起部20は、フランジ19におけるタービン径方向の内側を向いた壁面からタービン径方向内側に突出している。
【0017】
前述したように、静翼エンドウォール17は燃焼ガス流路の内外周を画定しており、燃焼ガス流路を流れる高温の燃焼ガスHと、燃焼ガス流路の外側の空間を満たす低温流体Lとを隔てている。これら静翼エンドウォール17は、燃焼器尾筒16との対向面にシール溝21を有している。シール溝21はタービン周方向に延びると共に燃焼器尾筒16に向かって開口している。
【0018】
前述したシール部材6は、例えば板材を曲げ加工して形成した部材であり、フック部7とシールプレート部8とを備えている。フック部7はU字状に曲成されており、燃焼器尾筒16のフランジ19の突起部20に被せられて突起部20を抱え込む。このフック部7の内壁面は突起部20に接触するか又は突起部20との間に僅かな間隙が介在する。シールプレート部8はフック部7の後縁から静翼エンドウォール17に向かってタービン軸方向に延在する部分であり、静翼エンドウォール17のシール溝21に挿入され、燃焼器尾筒16(フランジ19)と静翼エンドウォール17との間の隙間Sを跨ぐ。シール部材6のフック部7で燃焼器尾筒16の突起部20の周囲がシールされ、シールプレート部8で隙間Sがシールされる。但し、これらシール部材6は隙間Sを完全に密閉する訳ではなく、隙間Sに微小な低温流体Lのリークを発生させる。このリーク空気L’はタービン初段の静翼エンドウォール17等の冷却に活用される。
【0019】
-初段静翼エンドウォールの冷却機構-
図3は本実施形態に係る燃焼器に備えられた燃焼器尾筒をタービン側から見た後面図である。
図4は
図3中のIV-IV線による矢視断面図、
図5は
図3中の矢印Vによる矢視図、
図6は
図3中の矢印VIによる矢視図、
図7は
図5中のVII-VII線による矢視断面図である。また
図8は
図3に示した燃焼器尾筒の後縁部をタービン初段の静翼と共に表した図である。
図8、
図5及び
図6は燃焼ガス流路から見た図である。これらの図において、説明済みの要素については既出図面と同符号を付して適宜説明を省略する。
【0020】
燃焼器尾筒16は、前述したフランジ19の他、複数のシェイプト孔23,24(
図5-
図8)及びその他の冷却孔25(
図5-
図7)を備えている。冷却孔25は燃焼器尾筒16を冷却するためのもので、燃焼器尾筒16の外周面に広く分布して多数設けられており、それぞれ燃焼器尾筒16の周壁を貫通している。燃焼器尾筒16の外側を流れる低温流体Lが、これら冷却孔25を通って燃焼器尾筒16の内側に流入する。冷却孔25を設置する目的は、内部を流通する低温流体Lにより燃焼器尾筒16のメタル温度を抑制することにある。対して、シェイプト孔23,24は、燃焼器尾筒16ではなく、タービン初段の静翼エンドウォール17を冷却することを目的として冷却孔25とは別に設置されたものである。冷却孔25は直交断面が円形であるのに対し、シェイプト孔23,24は直交断面が非円形であり、シェイプト孔23,24の出口開口は前縁(燃焼ガスの流れ方向の上流側)に対して後縁(同下流側)が幅広な形状(本例では台形状)をしている。
【0021】
シェイプト孔23,24は、冷却孔25と異なり燃焼器尾筒16のフランジ19にのみ設けられている。これらシェイプト孔23,24は、冷却対象であるタービン初段の内外の静翼エンドウォール17に対応して、フランジ19におけるタービン径方向の内側及び外側の周壁に配置されている。本実施形態ではフランジ19におけるタービン径方向の内側の周壁に設けたシェイプト孔23,24を図示しているが、タービン径方向の外側の周壁に設けたシェイプト孔23,24も同様の構成である。
図6に示したようにフランジ19のタービン周方向を向いた側壁にシェイプト孔23,24は設けられていない。同図の領域Xは、フランジ19の周壁のコーナー(タービン径方向の内側の周壁と側壁とでなるコーナー)の内壁のR部分である。
【0022】
シェイプト孔23,24はそれぞれタービン周方向に並んで列を形成している。つまりシェイプト孔23,24によりタービン軸方向に複数の列(本実施例では2列)が形成されており、シェイプト孔23の列のタービン53側に更にシェイプト孔24の列が存在している。これらタービン軸方向に隣り合う列同士でシェイプト孔の位置はタービン周方向にずれている(つまりシェイプト孔23,24の位置がタービン周方向にずれている)。本実施形態ではシェイプト孔23,24のピッチは同一であり、シェイプト孔23がシェイプト孔24に対してタービン周方向に半ピッチずれた構成を例示している。また、シェイプト孔23,24の列は、フランジ19の内壁のうちのタービン径方向の内外の壁面におけるタービン周方向の実質全域をカバーしている。
【0023】
図7に示したように前述した冷却孔25は、燃焼器尾筒16の外側から内側に向かって(燃焼ガス流路に向かって)タービン53側に傾斜している。シェイプト孔23,24は、フランジ19の外周側から内周側に向かってタービン53側に、この冷却孔25よりも大きな角度で傾斜している。つまり、フランジ19の内壁面の法線に対するタービン周方向から見た冷却孔25の傾斜角度をβ(
図7)とすると、同様に採ったシェイプト孔23,24の傾斜角度αは傾斜角度βよりも大きい(例えば75°より大きい)。こうしてシェイプト孔23,24をタービン軸方向に長く延ばし、タービン軸方向におけるシェイプト孔23,24の少なくとも一部の位置範囲を突起部20と重複させてある。特にタービン53に最も近い列に属するシェイプト孔24は突起部20を跨いで延在しており、シェイプト孔24の後縁は突起部20の後縁(後面)よりもタービン53に近く、出口がタービン初段の静翼エンドウォール17に接近している。
【0024】
なお、タービン軸方向における突起部20との位置範囲の重複がシェイプト孔24に比べて少ないシェイプト孔23は、フランジの周壁(突起部20を除く薄板部分)に入口が開口するレイアウトである。そのため、制作上の都合でシェイプト孔23の傾斜角度α’はシェイプト孔24の傾斜角度αよりも幾分小さくなり得るが、冷却孔25の傾斜角度βよりは十分に大きい。本実施形態においては、タービン周方向から見てシェイプト孔23の出口側を
図7に示したようにタービン53側に広げ、傾斜角度α,α’に差が生じてもシェイプト孔23,24から噴出する低温流体L”の噴出角度が差を抑えられるようにしてある。
【0025】
-動作-
ガスタービンの運転中、圧縮機51の圧縮空気流路(不図示)から圧縮空気が一部抽気され、シール空気や冷却空気として各所に供給される。燃焼器尾筒16の周囲の空間にも、例えば圧縮機51の出口から吐出された圧縮空気が高圧の低温流体Lとして供給される。燃焼器尾筒16の周囲の空間に低温流体Lが供給されると、燃焼ガス流路の内外の圧力差によってシール部材6が燃焼ガス流路側に押し付けられて燃焼器尾筒16とタービン初段の静翼エンドウォール17との間の隙間Sをシールする。同時に、シール部材6でシールしきれないリーク空気L’が隙間Sから燃焼ガス流路に流入する。また、タービン初段の静翼エンドウォール17の直ぐ上流側の位置において、シェイプト孔23,24から燃焼ガスHの流れに倣うようにして低温流体L”が燃焼ガス流路に流入する。これらシェイプト孔23,24から噴出した低温流体L”は燃焼ガス流路内においてフランジ19の内壁面に沿って流れ、隙間Sから燃焼ガス流路に漏れ出すリーク空気L’に合流してタービン初段の静翼エンドウォール17を覆うフィルム冷却膜を形成する。
【0026】
-効果-
(1)本願発明者等の実験では、燃焼器尾筒16(フランジ19)と静翼エンドウォール17との間の隙間Sからのリーク空気L’のみでは、フィルム冷却効果が隙間Sの直ぐ下流の領域に限定され、翼部18の前縁や正圧面の付近まで及ばなかった。それに対し、本実施形態のようにフランジ19にシェイプト孔23,24を設けて同様に試験したところ、フィルム冷却効果の及ぶ範囲がタービン初段の静翼エンドウォール17における翼部18の前縁や正圧面の付近まで広がることが知見された。静翼エンドウォール17の直ぐ上流側の位置にシェイプト孔23,24を設けたことで、シェイプト孔23,24から噴出して壁面に沿って流れる低温流体L”により静翼エンドウォール17の表面付近の渦構造を弱められたためと考えられる。隙間Sからのリーク空気L’のみの場合に比べ、同程度の空気流量であっても隙間Sとシェイプト孔23,24から分配して噴出させた方が、静翼エンドウォール17の広範囲で冷却性能が向上した。以上のように、本実施形態によれば、隙間Sからのリーク空気L’を活かしてタービンの初段の静翼エンドウォール17の冷却効率を向上させることができる。
【0027】
(2)シェイプト孔23,24は大きな傾斜角度αで傾斜しており、また出口開口が前縁に対して後縁が幅広の形状であるため、フランジ19の内壁面に沿って低温流体L”を噴出させることができ、フィルム冷却膜を効果的に形成することができる。
【0028】
(3)シェイプト孔23,24をフランジ19におけるタービン径方向の内周側及び外周側においてタービン周方向に並べて配置したことにより、タービン径方向の内外の静翼エンドウォール17の直ぐ上流にシェイプト孔23,24の列を設けることができる。これにより静翼エンドウォール17の概ね全幅をフィルム冷却膜でカバーすることができ、効果的である。
【0029】
なお、本実施形態ではフランジ19におけるタービン径方向の内周側及び外周側の双方の周壁にシェイプト孔23,24を設けた構成を説明した。しかし、シェイプト孔23,24が全く存在しない従来構造に比べてフィルム冷却効果を向上させる上では、タービン径方向の内周側及び外周側のうちのいずれか一方側のシェイプト孔23,24を省略しても良い。
【0030】
(4)シェイプト孔23,24を千鳥状に配置したことで、シェイプト孔23,24から噴き出す低温流体L”によるフィルム冷却膜のタービン周方向の分布を均一化することができる。これによりシェイプト孔を単列で形成した場合に比べて安定したフィルム冷却膜を形成することができる。
【0031】
但し、基本的な上記効果(1)を得る限りにおいては、シェイプト孔23の列とシェイプト孔24の列のいずれか一方を省略しても良い。反対にシェイプト孔の列を3列以上にしても良い。
【0032】
(5)シェイプト孔24の後縁が突起部20の後縁よりもタービンに近く、タービン初段の静翼エンドウォール17にシェイプト孔23,24が接近した構成としたことで、静翼エンドウォール17の直ぐ上流から低温流体L”を噴出させることができる。これにより低温流体L”及びリーク空気L’によるフィルム冷却膜を静翼エンドウォール17のより極力広範囲に形成することができる。
【0033】
但し、上記効果(1)を得る限りでは、シェイプト孔24の後縁が突起部20の後縁よりもタービンに近い構成でなくとも、タービン軸方向においてフランジ19と位置範囲が重複する程度に静翼エンドウォール17にシェイプト孔24が接近していれば良い。また、シェイプト孔24に加えてシェイプト孔23の出口開口の後縁が突起部20よりタービン53に近い構成であっても何ら問題ない。
【符号の説明】
【0034】
6…シール部材、16…燃焼器尾筒、17…静翼エンドウォール、19…フランジ、20…突起部、23,24…シェイプト孔、25…冷却孔、51…圧縮機、52…ガスタービン燃焼器、53…タービン、100…ガスタービン、A…空気、C…圧縮空気、H…燃焼ガス、S…隙間、α,α’…シェイプト孔の傾斜角度、β…冷却孔の傾斜角度