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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】ラックバーの製造装置
(51)【国際特許分類】
   B21J 13/02 20060101AFI20220929BHJP
   B62D 3/12 20060101ALI20220929BHJP
   B21K 1/76 20060101ALI20220929BHJP
   B21J 5/02 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B21J13/02 N
B62D3/12 503Z
B21K1/76 A
B21J5/02 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018196017
(22)【出願日】2018-10-17
(65)【公開番号】P2020062662
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山脇 崇
(72)【発明者】
【氏名】野村 聖人
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-262694(JP,A)
【文献】特開2001-137997(JP,A)
【文献】特開平10-085884(JP,A)
【文献】特開2008-194704(JP,A)
【文献】特開2003-305529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 13/02
B62D 3/12
B21K 1/76
B21J 5/02 - 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空の軸材に設けられた平潰し部にラックが形成されてなるラックバーの前記軸材に前記平潰し部を形成するラックバーの製造装置であって、
前記軸材の外周面に押し付けられる平潰しパンチと、
前記軸材に対する前記平潰しパンチの押し付け方向と垂直な方向に開閉可能であり、前記平潰しパンチの加工範囲以上の長さに亘って前記軸材の外周を保持する一対の金型と、
前記一対の金型の開閉方向に前記一対の金型を挟む一対の係合部を有し、前記軸材に対する前記平潰しパンチの押し付け方向に加圧されることにより、前記一対の係合部を前記一対の金型に係合させ、前記一対の金型を閉じるカムと、
前記軸材に対する前記平潰しパンチの押し付け方向に前記カムが嵌合する嵌合孔を有する環状のホルダと、
を備え、
前記カムは、前記一対の金型の突合せ面を境にして、第1カムブロックと第2カムブロックとに二分されており、
前記第1カムブロック及び前記第2カムブロックは、互いに組み合わされた状態で円柱状を呈し、
前記一対の金型を形成している材料の硬度をAとし、
前記第1カムブロック及び前記第2カムブロックを形成している材料の硬度をBとし、
前記ホルダを形成している材料の硬度をCとして、
A≧B≧Cである製造装置。
【請求項2】
請求項1記載の製造装置であって、
前記一対の金型は、前記軸材を収容する断面半円形状の溝をそれぞれ有し、
前記溝は、前記平潰しパンチの加工範囲以上の長さに亘って延びる平面部を、当該溝の底に有する製造装置。
【請求項3】
中空の軸材に設けられた平潰し部にラックが形成されてなるラックバーの前記軸材に前記平潰し部を形成するラックバーの製造装置であって、
前記軸材の外周面に押し付けられる平潰しパンチと、
前記軸材に対する前記平潰しパンチの押し付け方向と垂直な方向に開閉可能であり、前記平潰しパンチの加工範囲以上の長さに亘って前記軸材の外周を保持する一対の金型と、
前記一対の金型の開閉方向に前記一対の金型を挟む一対の係合部を有し、前記軸材に対する前記平潰しパンチの押し付け方向に加圧されることにより、前記一対の係合部を前記一対の金型に係合させ、前記一対の金型を閉じるカムと、
前記軸材に対する前記平潰しパンチの押し付け方向に前記カムが嵌合する嵌合孔を有する環状のホルダと、
を備え、
前記カムは、前記一対の金型の突合せ面を境にして、第1カムブロックと第2カムブロックとに二分されており、
前記第1カムブロック及び前記第2カムブロックは、互いに組み合わされた状態で円柱状を呈し、
前記一対の金型は、前記軸材を収容する断面半円形状の溝をそれぞれ有し、
前記溝は、前記平潰しパンチの加工範囲以上の長さに亘って延びる平面部を、当該溝の底に有する製造装置。
【請求項4】
請求項2又は3記載の製造装置であって、
前記平面部の幅は、0.3mm以上10mm以下である製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックバーの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラックアンドピニオン式ステアリング装置等に用いられるラックバーとして、例えば中実の軸材にラックが形成された、いわゆる中実ラックバーが知られている。また、中空の軸材にラックが形成され、軽量化が図られた、いわゆる中空ラックバーも知られている。
【0003】
中空ラックバーは、例えば次のようにして製造される。まず、中空の軸材に平潰しパンチが押し付けられることにより、中空の軸材の外周面に平潰し部が形成される。次に、ラック歯型が平潰し部の平坦な外面に押し付けられた状態で平潰し部の内部に芯金が圧入され、圧入される芯金が次第に大きなものとされて芯金の圧入が繰り返されることにより、ラックが平潰し部の外面に形成される。そして、ラックの硬度を高めるため、ラックの焼入れが行われる。
【0004】
特許文献1に記載されたプレス加工装置は、中空ラックバーの素材となる中空の軸材の外周面に平潰し部を形成するものである。このプレス加工装置は、水平方向に開閉される左右型と、左右型によって挟持された軸材の上部に押し付けられる平潰しパンチと、下方に向けて押圧されることによって左右型を閉じるように構成された支持ブロックとを備える。
【0005】
支持ブロックの下面には、左右型を収容する凹部が設けられており、凹部の左右の側面及び凹部の側面に対向する左右型の側面には、互いに係合するテーパ面が設けられている。支持ブロックに加えられる下方に向けた押圧力は、凹部のテーパ面と左右型のテーパ面との係合により、左右型を閉じる水平方向の押圧力に変換される。そして、変換された水平方向の押圧力により、左右型は閉じられ且つ閉状態に保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-262694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたプレス加工装置では、支持ブロックの押し下げに応じて左右型を閉じるためのテーパ面が、支持ブロックの凹部及び凹部に収容される左右型に設けられている。このため、上下方向に垂直な断面において、凹部及び左右型は矩形状に形成されている。平潰しパンチが中空の軸材の上部に押し付けられた際に、軸材を挟持する左右型を開く水平方向の力が左右型に作用し、この力は支持ブロックによって受け止められる。ここで、凹部の断面形状が矩形状であると、例えば凹部の四隅に応力集中が生じ、支持ブロックが破断する虞がある。凹部を囲む枠部の厚みを大きくすることによって支持ブロックの破断は抑制し得るが、支持ブロックの重量が増大し、支持ブロックの昇降に必要な設備の大型化が懸念される。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みなされたものであり、ラックバーの製造装置の耐久性の向上及び小型化を図ることを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様のラックバーの製造装置は、中空の軸材に設けられた平潰し部にラックが形成されてなるラックバーの前記軸材に前記平潰し部を形成する製造装置であって、前記軸材の外周面に押し付けられる平潰しパンチと、前記軸材に対する前記平潰しパンチの押し付け方向と垂直な方向に開閉可能であり、前記平潰しパンチの加工範囲以上の長さに亘って前記軸材の外周を保持する一対の金型と、前記一対の金型の開閉方向に前記一対の金型を挟む一対の係合部を有し、前記軸材に対する前記平潰しパンチの押し付け方向に加圧されることにより、前記一対の係合部を前記一対の金型に係合させ、前記一対の金型を閉じるカムと、前記軸材に対する前記平潰しパンチの押し付け方向に前記カムが嵌合する嵌合孔を有する環状のホルダと、を備え、前記カムは、前記一対の金型の突合せ面を境にして、第1カムブロックと第2カムブロックとに二分されており、前記第1カムブロック及び前記第2カムブロックは、互いに組み合わされた状態で円柱状を呈する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラックバーの製造装置の耐久性の向上及び小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態を説明するための、ラックバーの一例の斜視図である。
図2図1のラックバーの製造における予備成形工程の模式図である。
図3図1のラックバーの製造における歯成形工程の模式図である。
図4図2の予備成形工程を行う製造装置の平面図である。
図5図4の製造装置のV-V線断面図である。
図6図4の製造装置の各部に作用する力を示す模式図である。
図7図4の製造装置の各部に作用する力を示す模式図である。
図8図4の製造装置の変形例の断面図である。
図9図8の製造装置を用いて製造されたラックバーの断面図である。
図10図9のラックバーを用いたステアリング装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の実施形態を説明するための、ラックバーの一例を示す。
【0013】
図1に示すラックバー1は、断面円形状の中空の軸材2からなる、いわゆる中空ラックバーである。軸材2にはラック3が形成されている。ラック3が形成されている区間(以下、ラック形成区間という)の断面形状は非円形状であり、ラック形成区間から外れた区間の断面形状は円形状である。中空ラックバー1は、例えば次のようにして製造される。
【0014】
図2及び図3は、中空ラックバー1の製造工程の概略を示す。
【0015】
素材である軸材2は、例えばJIS-S45C等の鋼からなる断面円形状の中空の軸材であり、軸材2の軸方向の両端は開口している。軸材2には、典型的には、成形性及び防食性を高める燐酸亜鉛皮膜処理等が施される。
【0016】
<予備成形工程>
図2に示すように、軸材2の外周面に、軸材2の軸方向に延びる平潰し部4が形成される。この平潰し部4の平坦な外面には、図3に示す歯成形工程によってラック3が形成される。平潰し部4は、軸材2の外周面がラック3の歯底高さ付近まで平坦状に押し潰されることによって形成される。
【0017】
<歯成形工程>
次に、図3に示すように、軸材2の平潰し部4の平坦な外面に、ラック3が形成される。ラック3を形成する歯成形装置10は、歯成形用金型11と、複数の芯金12と、複数の芯金12を保持する芯金ホルダ13と、第1の芯金押棒14と、第2の芯金押棒15とを備える。
【0018】
歯成形用金型11は、図示しない型締め機構によって上下方向に開閉される上型16と下型17とを有する。上型16と下型17とは、軸材2を上下方向に挟み、軸材2の外周を保持する。上型16にはラック歯型18が取外し可能に装着されており、ラック歯型18は平潰し部4の略平坦な外面に当接した状態で固定される。平潰し部4の外面に接するラック歯型18の成形面18aには、ラック3を成形する複数の歯溝が設けられている。
【0019】
芯金ホルダ13に保持されている複数の芯金12のうち一つの芯金12が、軸材2の軸方向一端側の第1の開口5から軸材2に挿入され、第1の芯金押棒14によって平潰し部4の内部に圧入される。そして、圧入された芯金12は、軸材2の軸方向他端側の第2の開口6から軸材2に挿入される第2の芯金押棒15によって押し戻され、軸材2から排出される。
【0020】
芯金12が平潰し部4の全長に亘って往復移動される過程で、平潰し部4の材料が芯金12によってしごかれ、ラック歯型18に向けて塑性流動する。芯金12が次第に大きなものに替えられ、芯金12の圧入が繰り返されることにより、平潰し部4の材料がラック歯型18の成形面18aの歯溝に次第に食い込み、成形面18aの形状が平潰し部4に転写され、平潰し部4にラック3が形成される。
【0021】
ラック3が形成された軸材2は、必要に応じて、歯の成形に伴う曲りの矯正、外周面の研削が施され、そして、ラック3の硬度を高めるために焼入が施される。焼入の際の加熱は、例えば高周波誘導加熱によって行うことができるが、高周波誘導加熱に限定されない。また、焼入の際の加熱範囲は、ラック形成区間を含む限りにおいて特に限定されず、ラック形成区間だけでもよいし、軸材2の全長でもよい。また、焼入の際には、好ましくは、ラック形成区間が上下方向及び左右方向から拘束され、焼入に起因する軸材2の曲がりが抑制される。
【0022】
図4及び図5は、図2に示した予備成形工程を行うラックバーの製造装置の一例を示す。
【0023】
製造装置100は、平潰しパンチ101と、予備成形用金型102と、カム103と、ホルダ104と、加圧機構105とを備える。
【0024】
平潰しパンチ101は、加圧機構105によって軸材2に押し付けられ、軸材2の外周面に平潰し部4を形成する。本例では、水平に配置される軸材2の上方から軸材2に押し付けられる。
【0025】
予備成形用金型102は、対をなす第1金型110及び第2金型111を有し、第1金型110及び第2金型111は、軸材2に対する平潰しパンチ101の押し付け方向と垂直な方向に開閉される。本例では、水平に配置された軸材2に対して、平潰しパンチ101が軸材2の上方から軸材2に押し付けられており、軸材2の軸方向を前後方向として、第1金型110及び第2金型111は、上下方向及び前後方向に垂直な左右方向に開閉される。第1金型110及び第2金型111の下方にはイジェクトピン112が配置されている。イジェクトピン112は、突き合わされた第1金型110と第2金型111との間に差し込まれ、第1金型110と第2金型111とを分離させる。
【0026】
第1金型110及び第2金型111それぞれの突合せ面には、突合せ面を前後方向に横断する断面半円形状の保持溝113が形成されている。これらの保持溝113は、第1金型110及び第2金型111が閉じられた際に互いに組み合され、平潰しパンチ101の加工範囲以上の長さに亘って軸材2を収容する円筒状の成形空間を形成し、この成形空間に収容した軸材2の外周を保持する。また、第1金型110及び第2金型111それぞれの突合せ面には、第1金型110及び第2金型111それぞれの上面から保持溝113に達する連通溝114が形成さている。平潰しパンチ101は、第1金型110及び第2金型111それぞれの連通溝114が組み合わされてなる連通孔を通して、上記成形空間に収容された軸材2の外周面に押し付けられる。
【0027】
第1金型110の突合せ面とは反対側の外側面には、上下方向に傾斜した傾斜面115が設けられており、傾斜面115は、第1金型110の上面から少なくとも保持溝113の下端の位置まで延びている。第2金型111の外側面にも、同様の傾斜面116が設けられている。
【0028】
カム103は、第1カムブロック120及び第2カムブロック121を有する。第1カムブロック120及び第2カムブロック121は、第1金型110及び第2金型111の開閉方向に第1金型110及び第2金型111を挟んで、互いに対向して配置されている。カム103は、全体として略円柱状を呈し、第1カムブロック120及び第2カムブロックは、第1金型110及び第2金型111の突合せ面を境にして円柱を二分してなる半円柱状に形成されている。
【0029】
第1カムブロック120及び第2カムブロック121それぞれの対向面には、凹部(係合部)122が形成されている。第1カムブロック120の凹部122には、第1金型110が収容されており、第1金型110の傾斜面115に摺接する傾斜面123が設けられている。第2カムブロック121の凹部122には、第2金型111が収容されており、第2金型111の傾斜面116に摺接する傾斜面124が設けられている。
【0030】
ホルダ104は、直方体状のブロックからなり、このブロックを上下方向に貫通する断面円形状の嵌合孔130を有する。ホルダ104は、嵌合孔130の外周を囲む環状に形成されている。第1金型110及び第2金型111は、嵌合孔130の中央に配置されており、第1カムブロック120は、第1金型110と嵌合孔130の内周面との間に配置され、第2カムブロック121は、第2金型111と嵌合孔130の内周面との間に配置されている。第1カムブロック120及び第2カムブロック121は、上下方向に移動可能に嵌合孔130に嵌合している。なお、第1カムブロック120及び第2カムブロック121並びにホルダ104には、第1金型110及び第2金型111によって形成される上記成形空間に通じる挿入孔131が形成されている。
【0031】
第1カムブロック120及び第2カムブロック121は、平潰しパンチ101とは独立に、加圧機構105によって押し下げられる。第1カムブロック120及び第2カムブロック121が押し下げられることにより、第1カムブロック120の傾斜面123と第1金型110の傾斜面115とが係合し、第2カムブロック121の傾斜面124と第2金型111の傾斜面116とが係合する。これらの傾斜面の係合により、第1カムブロック120及び第2カムブロック121に作用する下方に向けた押圧力は、左右方向の押圧力に変換されて第1金型110及び第2金型111に作用する。これにより、第1金型110と第2金型111とが閉じられ、且つ閉じられた状態で強固に保持される。
【0032】
予備成形工程では、まず、平潰しパンチ101と、第1カムブロック120及び第2カムブロック121とが加圧機構105によって持ち上げられ、第1金型110及び第2金型111が開かれている状態で、軸材2が、挿入孔131を通じ、第1金型110の保持溝113と第2金型111の保持溝113との間の所定位置に配置される。次に、第1カムブロック120及び第2カムブロック121が押し下げられ、第1金型110及び第2金型111が閉じられる。そして、平潰しパンチ101が押し下げられ、軸材2の外周面に押し付けられる。これにより、軸材2の外周面に平潰し部4が形成される。
【0033】
図6及び図7は、予備成形工程において製造装置100の各部に作用する力を模式的に示す。
【0034】
平潰しパンチ101が軸材2に押し付けられた際に、軸材2を保持する第1金型110及び第2金型111には、第1金型110及び第2金型111を開く左右方向の力F1が作用する。この力F1は、第1カムブロック120及び第2カムブロック121に負荷されるが、第1カムブロック120の傾斜面123と第1金型110の傾斜面115との係合及び第2カムブロック121の傾斜面124と第2金型111の傾斜面116との係合により、上下方向の力F2と、左右方向の力F3とに分解される。このうち、上下方向の力F2は、加圧機構105によって受け止められる。
【0035】
左右方向の力F3は、第1カムブロック120及び第2カムブロック121を左右方向に押し広げるように第1カムブロック120及び第2カムブロック121に作用し、第1カムブロック120及び第2カムブロック121を介してホルダ104に伝わり、ホルダ104によって受け止められる。ここで、第1カムブロック120及び第2カムブロック121は、そもそも左右方向に分離されているので、第1カムブロック120及び第2カムブロック121が力F3に起因して破断することはない。そして、第1カムブロック120及び第2カムブロック121が半円柱状に形成されていることから、左右方向の力F3は、放射状に分散された力F4となってホルダ104に作用する。これにより、力F3に起因してホルダ104が破断することを抑制でき、製造装置100の耐久性を高められる。
【0036】
また、左右方向の力F3を受け止めるホルダ104は、予備成形工程を通して固定されており、力F3に起因して破断することがない第1カムブロック120及び第2カムブロック121は、ホルダ104に比べて小型化できる。したがって、第1カムブロック120及び第2カムブロック121を昇降させる加圧機構105も小型化できる。これにより、製造装置100を小型化できる。
【0037】
好ましくは、第1金型110及び第2金型111を形成している材料の硬度をAとし、第1カムブロック120及び第2カムブロック121を形成している材料の硬度をBとし、ホルダ104を形成している材料の硬度をCとして、A≧B≧Cである。例えば、第1金型110及び第2金型111の材料は、ロックウェル硬さ58~62HRCの冷間工具鋼とし、第1カムブロック120及び第2カムブロック121の材料は、ロックウェル硬さ54~58HRCの冷間工具鋼とし、ホルダ104の材料は、ロックウェル硬さ48~54HRCの熱間工具鋼とすることができる。なお、各材料のロックウェル硬さは、JIS2245:2016に規定されるロックウェル硬さ試験によって測定される値とする。
【0038】
一般に、鋼の硬度と靱性とはトレードオフであり、硬度が高いほど靱性は低い。第1金型110及び第2金型111を形成している材料の靱性をaとし、第1カムブロック120及び第2カムブロック121を形成している材料の靱性をbとし、ホルダ104を形成している材料の靱性をcとして、上記硬度の関係式A≧B≧Cを靱性の関係式に変換すればa≦b≦cとなる。第1金型110及び第2金型111の材料を相対的に高硬度とすることにより、軸材2と接する第1金型110及び第2金型111の摩耗を抑制でき、ホルダ104の材料を相対的に高靱性とすることにより、左右方向の力F3を受け止めるホルダ104の破断を抑制でき、製造装置100の耐久性を一層高められる。
【0039】
図8は、製造装置100の変形例を示す。
【0040】
図8に示す例では、第1金型110及び第2金型111それぞれの断面半円形状の保持溝113の底に、平面部117が設けられている。この平面部117は、平潰しパンチ101の加工範囲以上の長さ亘って延びている。
【0041】
図9は、図8に示した製造装置100を用いて製造された中空ラックバー1のラック形成区間の断面形状を示し、平面部117によって成形された平面部7が、ラック3の左右両側に形成されている。
【0042】
図10は、図9の中空ラックバー1を用いたステアリング装置の一例を示し、ステアリング装置200は、中空ラックバー1を軸方向に移動自在に支持するケーシング201と、中空ラックバー1のラック3と噛み合うピニオンギア202と、ピニオンギア202との間に中空ラックバー1を挟み、中空ラックバー1を摺動自在に支持するラックガイド203と、ラックガイド203を中空ラックバー1に向けて押圧するスプリング204とを備える。
【0043】
中空ラックバー1の平面部7は、ラックガイド203と平面接触する部分を形成することになるので、ラックガイド203による中空ラックバー1の支持が安定する。
【0044】
平面部7の幅W及び平面部7を成形する保持溝113の平面部117の幅Wは、0.3mm以上10mm以下であることが好ましい。また、中空ラックバー1の外径Dを基準とした場合、ラック3とは反対側で左右の平面部7の間に挟まれる円弧面部の中心角度をα°として、幅Wは、下式を満たすことが好ましい。
W≦D×sin[(180°-α°)/2]
【0045】
以上、説明したとおり、本明細書に開示されたラックバーの製造装置は、中空の軸材に設けられた平潰し部にラックが形成されてなるラックバーの前記軸材に前記平潰し部を形成するラックバーの製造装置であって、前記軸材の外周面に押し付けられる平潰しパンチと、前記軸材に対する前記平潰しパンチの押し付け方向と垂直な方向に開閉可能であり、前記平潰しパンチの加工範囲以上の長さに亘って前記軸材の外周を保持する一対の金型と、前記一対の金型の開閉方向に前記一対の金型を挟む一対の係合部を有し、前記軸材に対する前記平潰しパンチの押し付け方向に加圧されることにより、前記一対の係合部を前記一対の金型に係合させ、前記一対の金型を閉じるカムと、前記軸材に対する前記平潰しパンチの押し付け方向に前記カムが嵌合する嵌合孔を有する環状のホルダと、を備え、前記カムは、前記一対の金型の突合せ面を境にして、第1カムブロックと第2カムブロックとに二分されており、前記第1カムブロック及び前記第2カムブロックは、互いに組み合わされた状態で円柱状を呈する。
【0046】
また、本明細書に開示されたラックバーの製造装置は、前記一対の金型を形成している材料の硬度をAとし、前記第1カムブロック及び前記第2カムブロックを形成している材料の硬度をBとし、前記ホルダを形成している材料の硬度をCとして、A≧B≧Cである。
【0047】
また、本明細書に開示されたラックバーの製造装置は、前記一対の金型が、前記軸材を収容する断面半円形状の溝をそれぞれ有し、前記溝は、前記平潰しパンチの加工範囲以上の長さに亘って延びる平面部を、当該溝の底に有する。
【0048】
また、本明細書に開示されたラックバーの製造装置は、前記平面部の幅が、0.3mm以上10mm以下である。
【符号の説明】
【0049】
1 中空ラックバー
2 軸材
3 ラック
4 平潰し部
5 第1の開口
6 第2の開口
7 平面部
10 歯成形装置
11 歯成形用金型
12 芯金
13 芯金ホルダ
14 第1の芯金押棒
15 第2の芯金押棒
16 上型
17 下型
18 ラック歯型
100 製造装置
101 パンチ
102 予備成形用金型
103 カム
104 ホルダ
105 加圧機構
110 第1金型
111 第2金型
112 イジェクトピン
113 保持溝
114 連通溝
115 傾斜面
116 傾斜面
117 平面部
120 第1カムブロック
121 第2カムブロック
122 凹部(係合部)
123 傾斜面
124 傾斜面
130 嵌合孔
131 挿入孔
200 ステアリング装置
201 ケーシング
202 ピニオンギア
203 ラックガイド
204 スプリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10