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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】クローズドインペラ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/62 20060101AFI20220929BHJP
   F04D 29/28 20060101ALI20220929BHJP
   F04D 29/44 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F04D29/62 C
F04D29/28 R
F04D29/44 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018231031
(22)【出願日】2018-12-10
(65)【公開番号】P2020094503
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-07-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 忠司
(72)【発明者】
【氏名】西村 公佑
(72)【発明者】
【氏名】上田 薫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 泰永
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-174652(JP,A)
【文献】特開2017-029989(JP,A)
【文献】特開2005-138122(JP,A)
【文献】特開2018-035386(JP,A)
【文献】特開2017-214610(JP,A)
【文献】特開2016-150355(JP,A)
【文献】特開2014-077179(JP,A)
【文献】特開平02-251393(JP,A)
【文献】特開平11-030195(JP,A)
【文献】特開平11-324983(JP,A)
【文献】特開平04-353294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 1/00 - 13/16
F04D 17/00 - 19/02
F04D 21/00 - 25/16
F04D 29/00 - 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金からなり、ハブ部と、前記ハブ部から突出した羽根部と、を備えたインペラ本体と、
前記羽根部を覆うシュラウドと、
前記羽根部と前記シュラウドとの間に介在し、前記羽根部と前記シュラウドとを接合するろう付継手と、を有し、
前記シュラウドは、
アルミニウム合金からなる心材と、前記心材上に配置され前記羽根部に対向する側の最表面に存在するろう材と、を備えたブレージングシートであり、
前記ろう付継手の接合強度は150MPa以上である、空気調和装置用クローズドインペラ。
【請求項2】
前記ろう付継手は、Mg:0.25質量%以上を含有するアルミニウム合金からなるろう材を有している、請求項1に記載の空気調和装置用クローズドインペラ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の空気調和装置用クローズドインペラの製造方法であって、
前記インペラ本体を準備し、
Mg:0.20質量%以上1.80質量%未満を含むアルミニウム合金からなる心材と、Al-Si系合金からなり、20~215μmの厚みを有し、最表面に配置されたろう材層と、を備えたブレージングシートを準備し、
前記ブレージングシートに成形加工を施して前記ろう材層を前記羽根部に対向する表面に配した前記シュラウドを作製し、
不活性ガス中において、フラックスを用いずに前記シュラウドの前記羽根部に対向する表面と前記インペラ本体の前記羽根部とをろう付し、
前記ろう付を行った後、前記クローズドインペラに溶体化処理を行い、次いで、前記クローズドインペラに人工時効処理を行う空気調和装置用クローズドインペラの製造方法。
【請求項4】
前記ブレージングシートは、Mg:0.30質量%以上1.80質量%未満を含むアルミニウム合金からなる前記心材と、前記心材上に積層された前記ろう材層と、を有し、前記ろう材層の厚みX[μm]と前記心材中のMg量Y[質量%]とが下記式(1)または下記式(2)のいずれかを満たす、請求項3に記載の空気調和装置用クローズドインペラの製造方法。
Y≧X/120(但し、X≧36) ・・・(1)
Y≧0.30(但し、X<36) ・・・(2)
【請求項5】
前記ブレージングシートは、Mg:0.80質量%以上6.50質量%未満を含有するアルミニウム合金からなり、前記心材と前記ろう材層との間に介在する中間材を有する、請求項3に記載の空気調和装置用クローズドインペラの製造方法。
【請求項6】
前記中間材には、更に、Si:2.0質量%以上13.0質量%以下が含まれている、請求項5に記載の空気調和装置用クローズドインペラの製造方法。
【請求項7】
前記ろう材層には、更に、Bi:0.0050質量%以上0.060質量%未満が含まれている、請求項3~6のいずれか1項に記載の空気調和装置用クローズドインペラの製造方法。
【請求項8】
前記ろう付において、前記不活性ガスにより圧力を1~110000Paの範囲内に制御した状態で前記シュラウドと前記インペラ本体とを加熱してろう付を行う、請求項3~7のいずれか1項に記載の空気調和装置用クローズドインペラの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クローズドインペラ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、空気調和装置等に組み込まれる圧縮機として、流体を吸入する吸入口と、流体を吐出する吐出口と、を備えたケーシングと、ケーシング内に回転可能に保持されたインペラと、を備えた遠心圧縮機が用いられることがある。遠心圧縮機のインペラは、ケーシング内で回転することにより、吸入口から吸いこんだ流体を圧縮しつつ吐出口へ導くことができる。この種のインペラとして、ケーシングに保持されるハブと、ハブから突出した羽根と、羽根を覆うシュラウドと、を備えたクローズドインペラが知られている。クローズドインペラにおいては、ハブと、羽根と、シュラウドとによって囲まれた空間が流体の流路となる。
【0003】
従来、クローズドインペラは、切削加工、精密鋳造またはろう付のいずれかの方法によって作製されている。切削加工においては、金属塊に切削加工を施すことにより、ハブ、羽根及びシュラウドを一体的に形成する。しかし、この場合には、切削加工を行うことができる範囲が加工装置や工具の構造に制約されるため、所望する形状のクローズドインペラを得られないことがある。
【0004】
精密鋳造は、切削加工に比べてインペラの形状の制約は小さいものの、寸法の精度が低いという問題がある。そのため、精密鋳造で得られたクローズドインペラは、遠心圧縮機の運転効率の低下を招くおそれがある。また、例えば100mm以下の直径を有する小型のインペラを作製しようとする場合には、石膏等の鋳型の材料が鋳造後に溶湯の流路に残留しやすい。更に、この鋳型の材料をインペラから排出することが難しく、製造コストが高くなりやすいという問題がある。
【0005】
ろう付においては、機械加工等によって、ハブと羽根とが一体的に形成されたインペラ本体と、シュラウドとを別々に作製した後、両者をろう付によって接合する。そのため、切削加工によってハブ、羽根及びシュラウドを一体的に形成する場合に比べて形状の制約が小さい。更に、インペラ本体とシュラウドとを機械加工によって形成するため、精密鋳造に比べて各部品の寸法精度を高くすることができる。
【0006】
例えば、特許文献1には、略円盤状のディスクと、該ディスクに対向配置されるカバーと、前記ディスクと前記カバーとの間に設けられるブレードとを備えたインペラの製造方法において、カバー、ブレード及びディスクを特定の配置とした状態でろう付を行う技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-174652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
インペラを構成する金属としては、金属の中でも比重が低いアルミニウム合金が採用されることがある。アルミニウム合金を用いたクローズドインペラをろう付により作製しようとする場合には、ディップろう付と呼ばれる方法が採用されている。ディップろう付では、予め、機械加工等により、ハブと羽根とを備えたインペラ本体と、羽根を覆うシュラウドとを作製する。そして、羽根とシュラウドとの間に、Al-Si系合金からなるろう材粉末とバインダとを含むろう材ペーストを介在させつつインペラ本体にシュラウドを取り付けて組立体を準備する。この組立体を溶融したフラックス浴中に浸漬することにより、インペラ本体とシュラウドとをろう付する。ろう付後の羽根とシュラウドとの間には、ろう材を含むろう付継手が形成される。
【0009】
クローズドインペラは、流体を高い効率で圧縮するため、ケーシング内で高速に回転する。また、クローズドインペラ内で流体が圧縮されると、クローズドインペラ内の圧力が上昇する。そのため、ろう付によってクローズドインペラを作製する場合には、ろう付継手の接合強度を高くする必要がある。
【0010】
しかし、ディップろう付においては、フラックスとろう材との反応や、バインダの熱分解等によってガスが発生する。このガスがろう付時に溶融したろうに取り込まれると、ろう内に気泡が形成される。それ故、ディップろう付により形成されたろう付継手のろう材内には、前述したガスに起因するボイドが形成されやすい。そのため、アルミニウム合金からなり、ろう付によって作製されたクローズドインペラは、切削加工や精密鋳造によって作製されたクローズドインペラに比べて羽根とシュラウドとの接合強度が低いという問題があった。
【0011】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、ろう付によって作製することができ、従来よりも羽根とシュラウドとの接合強度の高いクローズドインペラ及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、アルミニウム合金からなり、ハブ部と、前記ハブ部から突出した羽根部と、を備えたインペラ本体と、
前記羽根部を覆うシュラウドと、
前記羽根部と前記シュラウドとの間に介在し、前記羽根部と前記シュラウドとを接合するろう付継手と、を有し、
前記シュラウドは、
アルミニウム合金からなる心材と、前記心材上に配置され前記羽根部に対向する側の最表面に存在するろう材と、を備えたブレージングシートであり、
前記ろう付継手の接合強度は150MPa以上である、空気調和装置用クローズドインペラにある。
【0013】
本発明の他の態様は、前記の態様の空気調和装置用クローズドインペラの製造方法であって、
前記インペラ本体を準備し、
Mg:0.20質量%以上1.80質量%未満を含むアルミニウム合金からなる心材と、Al-Si系合金からなり、20~215μmの厚みを有し、最表面に配置されたろう材層と、を備えたブレージングシートを準備し、
前記ブレージングシートに成形加工を施して前記ろう材層を前記羽根部に対向する表面に配した前記シュラウドを作製し、
不活性ガス中において、フラックスを用いずに前記シュラウドの前記羽根部に対向する表面と前記インペラ本体の前記羽根部とをろう付し、
前記ろう付を行った後、前記クローズドインペラに溶体化処理を行い、次いで、前記クローズドインペラに人工時効処理を行う空気調和装置用クローズドインペラの製造方法にある。
【発明の効果】
【0014】
前記クローズドインペラにおけるシュラウドは、アルミニウム合金からなる心材と、前記羽根部に対向する最表面、つまり、シュラウドの内表面に存在するろう材と、を備えたブレージングシートである。そして、インペラ本体の羽根とシュラウドとが、ブレージングシートのろう材層に由来するろう材を備えたろう付継手を介して接合されている。このように、ブレージングシートからなるシュラウドを用いることにより、ろう付継手の接合強度をディップろう付によって形成された従来のろう付継手よりも高くすることができる。
【0015】
この点を、前記の製造方法に即してより詳しく説明する。前記の製造方法においては、インペラ本体と前記特定のブレージングシートからなるシュラウドとを別々に準備した後、フラックスを用いずに両者のろう付を行う。ブレージングシートのろう材層は、心材上に保持されている。そのため、前記製造方法では、ディップろう付のように、ろう材を保持するためのバインダを使用する必要がない。
【0016】
また、シュラウドを構成するブレージングシートの心材には、Mgが含まれている。Mgは、ろう付の初期段階において、ろう材層中を拡散してシュラウドの表面に移動する。また、ろう付が進行し、ろう材層が溶融した後は、溶融ろう中に溶出してシュラウドの表面に移動する。そして、心材中のMg量及びろう材層の厚みを前記特定の範囲とすることにより、ろう付加熱中に、シュラウドの表面に十分な量のMgを供給し、Mgによってシュラウド及びインペラ本体の表面に存在する酸化皮膜を破壊することができる。その結果、前記製造方法によれば、フラックスを用いることなくろう付を行うことができる。
【0017】
以上のように、前記の態様の製造方法は、従来のディップろう付において用いられていたバインダやフラックスを用いることなくろう付を行うことができる。それ故、ろう付継手内へのボイドの形成を抑制することができる。更に、ろう付後に形成されるろう付継手は、心材から拡散したMgによって強化される。これらの結果、ろう付継手の接合強度をディップろう付によって形成されたろう付継手よりも格段に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1における、クローズドインペラの斜視図である。
図2】実施例1における、クローズドインペラの分解斜視図である。
図3】実施例1における、シュラウドと羽根部との間に介在するろう付継手の一部断面図である。
図4】実施例1における、ろう付前のシュラウドと羽根部との当接部の一部断面図である。
図5】実施例2における、試験片の要部を示す一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
前記クローズドインペラにおけるインペラ本体は、ハブ部と、ハブ部から突出した羽根部と、を有している。インペラ本体は、遠心圧縮機の回転軸に保持され、遠心圧縮機のケーシング内において、回転軸とともに回転する。ハブ部と羽根部とは、例えば、アルミニウム合金の塊に切削加工を行うことにより、一体的に形成されていてもよい。ハブ部の形状や羽根部の形状、枚数及び配置は、特に限定されることはなく、所望の圧縮性能等に応じて適宜選択することができる。
【0020】
インペラ本体を構成するアルミニウム合金としては、所望の回転速度、圧縮性能等に応じて適切な合金を採用することができる。インペラ本体を構成するアルミニウム合金は、比較的強度の高いJIS A6000系合金またはA7000系合金であることが好ましい。
【0021】
インペラ本体の羽根部は、シュラウドにより覆われている。クローズドインペラにおけるシュラウドは、ろう付後のブレージングシート、つまり、アルミニウム合金からなる心材と、心材上に配置され羽根部に対向する最表面、つまり、シュラウドの内表面に存在するろう材と、を有している。なお、シュラウドのろう材は、ろう付加熱中にブレージングシートから生じた溶融ろうの一部が心材の表面に残留した状態で凝固することによって形成される。
【0022】
クローズドインペラにおけるシュラウドのろう材、つまり、ろう付後のろう材は、例えば、心材の表面上に形成されていてもよい。また、後述するように、ろう付前のブレージングシートが心材とろう材との間に中間材を有する場合には、ろう材は、中間材の表面上に形成されていてもよい。また、ろう材は、少なくとも、シュラウドの内表面における、羽根部に接合された部分に存在していればよい。つまり、クローズドインペラにおけるろう材は、シュラウドの内表面全体に層状に存在していてもよいし、内表面の一部に存在していてもよい。
【0023】
心材を構成するアルミニウム合金としては、Mgを含むアルミニウム合金の中から所望の回転速度、圧縮性能等に応じて適切な合金を採用することができる。心材を構成するアルミニウム合金は、比較的強度の高いJIS A6000系合金またはA7000系合金であることが好ましい。なお、心材の具体的な組成の例については、後述する。
【0024】
羽根部とシュラウドとの間には、ろう付継手が介在しており、羽根部とシュラウドとはろう付継手を介して接合されている。ここで、前述した「ろう付継手」は、羽根部とシュラウドの心材との間に充填されたろう材と、羽根部とシュラウドの心材との隙間から外方に延出したフィレットとを含む概念である。
【0025】
ろう付継手は、Mg:0.25質量%以上を含有するアルミニウム合金からなるろう材を有していることが好ましい。ろう付継手におけるろう材中のMg量を前記特定の範囲とすることにより、Mgによってろう材を強化することができる。その結果、ろう付継手の接合強度をより高めることができる。ろう付継手の接合強度をさらに高める観点からは、ろう付継手におけるろう材中のMg量は、0.40質量%以上であることがより好ましい。
【0026】
ろう付継手の接合強度は150MPa以上である。ろう付継手の接合強度を前記特定の範囲とすることにより、高速回転や流体の圧縮による内圧の上昇に対する耐久性をより向上させることができる。これらの耐久性をさらに向上させる観点からは、ろう付継手の接合強度は、170MPa以上であることがより好ましく、200MPa以上であることがさらに好ましい。
【0027】
ろう付継手の接合強度は、クローズドインペラから、いずれかのろう付継手と、ろう付継手を介して接合されたインペラ本体及びシュラウドとを含む小片を切り出した後、JIS Z2241:2011の規定に準じた方法によってこの小片の引張試験を行うことにより得られる値である。
【0028】
前記クローズドインペラは、前記の態様の製造方法により作製することができる。前記の態様の製造方法においては、まず、インペラ本体を準備する。前述したように、インペラ本体は、例えば、アルミニウム合金の塊に機械加工を施し、ハブ部と羽根部とを一体的に形成することによって作製することができる。
【0029】
また、インペラ本体とは別に、Mg:0.20質量%以上1.80質量%未満を含むアルミニウム合金からなる心材と、Al-Si系合金からなり、20~215μmの厚みを有し、最表面に配置されたろう材層と、を備えたブレージングシートを準備する。
【0030】
ブレージングシートの心材は、ろう付加熱において溶融せず、ろう付後にシュラウドの形状を構成する材料である。心材は、Mg:0.20質量%以上1.80質量%未満を含むアルミニウム合金から構成されている。より具体的には、心材を構成するアルミニウム合金は、Mg:0.20質量%以上1.80質量%未満を含み、残部がAl(アルミニウム)及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。また、心材を構成するアルミニウム合金には、必須成分としてのMg以外に、1種または2種以上の任意成分が含まれていてもよい。心材中の任意成分としては、例えば、Si、Cu(銅)、Mn(マンガン)、Zn(亜鉛)、Ti(チタン)等がある。
【0031】
心材中のMgは、ろう付加熱時に心材から拡散し、または溶融ろう中へ溶出してシュラウドの表面へ移動する。そして、シュラウドの表面に到達したMgは、シュラウドの表面や羽根部の表面に存在する酸化皮膜を破壊する。心材中のMg量を0.20質量%以上とすることにより、シュラウドの表面に到達するMg量を十分に多くし、シュラウドと羽根部との間にろう付継手を形成することができる。更に、ろう付後に形成されるろう付継手において、ろう材中のMg量を十分に多くし、接合強度を向上させることができる。
【0032】
心材中のMg量が0.20質量%未満の場合には、シュラウドの表面に到達するMgの量が不足するため、シュラウドと羽根部との間に健全なろう付継手を形成することが難しくなるおそれがある。心材中のMg量が1.80質量%以上の場合には、心材の融点が過度に低下するおそれがある。そのため、ろう付加熱中に、シュラウドの変形や溶融ろうが心材中へ浸透するエロージョンと呼ばれる現象が発生しやすくなる。
【0033】
ろう付前のブレージングシートにおける心材上には、Al-Si系合金からなるろう材層が設けられている。ろう材層を構成するAl-Si系合金としては、例えば、Si:6質量%以上13質量%以下を含むアルミニウム合金を採用することができる。より具体的には、Al-Si系合金は、Si:6質量%13質量%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。また、Al-Si系合金には、必須成分としてのSiの他に、1種または2種以上の任意成分が含まれていてもよい。
【0034】
例えば、ろう材層を構成するAl-Si系合金中には、任意成分として、Bi(ビスマス):0.0050質量%以上0.060質量%未満が含まれていてもよい。ろう材層中のBiは、溶融ろうの濡れ性をより向上させ、ろう付不良の発生をより効果的に抑制することができる。しかし、ろう材層中のBi量が過度に多い場合には、ブレージングシートの製造過程において、ろう材層の表面に形成される酸化皮膜が厚くなり、ろう付性の悪化を招くおそれがある。ろう材層中のBiの含有量を前記特定の範囲とすることにより、前述した問題を回避しつつ、ろう付不良の発生をより効果的に抑制することができる。
【0035】
また、ろう材層中のBi量は、0.010質量%以上0.060質量%未満であることがより好ましい。この場合には、羽根部とシュラウドとの間に健全なろう付接合をより確実に形成し、接合強度をより向上させることができる。
【0036】
また、ろう材層を構成するAl-Si系合金中には、任意成分として、Be(ベリリウム)、Li(リチウム)等が添加されていてもよい。
【0037】
ろう付前のブレージングシートにおけるろう材層の厚みは、20~215μmの範囲内から適宜設定することができる。ろう材層の厚みが20μm未満の場合には、ろう付時に生じる溶融ろうの量が不足し、ろう付不良の発生を招くおそれがある。ろう材層の厚みが215μmを超える場合には、心材からろう材層の表面までの距離が過度に長くなるため、ろう付加熱中に、シュラウドの表面に到達するMgの量が不足するおそれがある。そのため、この場合にも、ろう付不良の発生を招くおそれがある。
【0038】
ろう付前のブレージングシートは、心材と、心材上に積層されたろう材層と、を有する2層構造を有していてもよい。この場合、ブレージングシートは、Mg:0.30質量%以上1.80質量%未満を含有するアルミニウム合金からなる心材と、Al-Si系合金からなり、20~215μmの厚みを有し、心材上に積層されたろう材層と、を有しており、ろう材層の厚みX[μm]と心材中のMg量Y[質量%]とが下記式(1)または下記式(2)のいずれかを満たしていることが好ましい。
Y≧X/120(但し、X≧36) ・・・(1)
Y≧0.30(但し、X<36) ・・・(2)
【0039】
前述した2層構造のブレージングシートにおいて、ろう材層の厚みが36μm以上である場合、ろう材層の厚みが厚くなるほど、シュラウドの表面に到達するMgの量が少なくなりやすい。そのため、心材中のMg量を単に特定の範囲内にするだけではなく、前記式(1)のようにろう材層の厚みが厚いほど心材中のMg量を多くすることにより、ろう付時にシュラウドの表面に到達するMgの量を十分に多くし、ろう付性をより向上させることができる。一方、ろう材層の厚みが36μm未満である場合には、前記式(2)のように、心材中のMg量を0.30質量%以上とすればよい。
【0040】
また、ろう付前のブレージングシートは、心材と、心材上に積層された中間材と、中間材上に積層されたろう材層と、を有する3層構造を有していてもよい。3層構造のブレージングシートにおける心材及びろう材層の構成は、2層構造のブレージングシートと同様である。ブレージングシートが中間材を有する場合、心材中のMg量は0.40質量%以上1.60質量%未満であることが好ましい。
【0041】
中間材は、Mg:0.80質量%以上6.50質量%未満を含有するアルミニウム合金から構成されていることが好ましい。つまり、中間材を構成するアルミニウム合金は、Mg:0.80質量%以上6.50質量%未満を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。また、中間材を構成するアルミニウム合金には、必須成分としてのMg以外に、1種または2種以上の任意成分が含まれていてもよい。
【0042】
中間材中のMgも、心材中のMgと同様に、ろう付加熱中にろう材層中へ拡散し、シュラウドの表面に向かって移動する。そして、シュラウドの表面に到達したMgによって酸化皮膜を破壊し、ろう付を行うことができる。
【0043】
中間材中のMg量を前記特定の範囲とすることにより、シュラウドの表面に到達するMg量を十分に多くし、ろう付性をより向上させることができる。更に、ろう付後に形成されるろう付継手において、ろう材中のMg量を十分に多くし、接合強度をより向上させることができる。
【0044】
中間材中のMg量が0.80質量%未満の場合には、ろう付継手におけるろう材中のMg量が不足し、接合強度を向上させる効果が低くなるおそれがある。また、中間材中のMg量が6.50質量%以上の場合には、ブレージングシートの製造過程における中間材の圧延性が低くなり、ブレージングシートを作製することが難しくなるおそれがある。
【0045】
中間材には、必須成分としてのMg以外に、任意成分として、Si:2.0質量%以上13.0質量%以下が含まれていてもよい。この場合には、中間材の溶融開始温度をより低くし、ろう付加熱中における中間材からろう材層中へのMgの拡散及び溶融ろうへの溶出をより促進することができる。その結果、シュラウドの表面に到達するMg量を十分に多くし、ろう付性をより向上させることができる。
【0046】
中間材中のSiの含有量が2.0質量%未満の場合には、Siによる作用効果を十分に得ることが難しくなるおそれがある。中間材中のSiの含有量が13.0質量%を超える場合には、ブレージングシートの製造過程における中間材の圧延性が低くなり、ブレージングシートを作製することが難しくなるおそれがある。
【0047】
前述した構成のブレージングシートを準備した後、前記ブレージングシートに成形加工を施して前記シュラウドを作製する。成形加工の方法は特に限定されることはなく、例えば、プレス加工等を採用することができる。
【0048】
前記の製造方法においては、ブレージングシートを準備してからろう付するまでの間に、酸又はアルカリを用いてブレージングシートの表面にエッチングを施すことが好ましい。この場合には、ブレージングシートの製造過程において形成された厚い酸化皮膜をエッチングによって脆弱化し、ろう付性をさらに向上することができる。
【0049】
その後、不活性ガス中でフラックスを用いずに前記シュラウドと前記インペラ本体とをろう付する。ろう付の初期段階においては、心材中のMgが固体のろう材層中に拡散し、シュラウドの表面へ向かって移動する。また、ろう付が進行し、ろう材が溶融し始めると、心材から溶融ろうへのMgの移動速度が格段に上昇し、多量のMgがシュラウドの表面に到達する。そして、シュラウドの表面に到達したMgによって酸化皮膜が破壊されることにより、シュラウドと羽根部との間にろう付継手が形成される。
【0050】
また、ブレージングシートを用いたろう付においては、ブレージングシートの全面に溶融ろうが形成される。この溶融ろうは表面張力によって羽根部とシュラウドとの隙間に集まり、ろう付継手を形成する。溶融ろうの一部が羽根部とシュラウドとの間に移動しなかった場合、この溶融ろうは心材の表面に残留し、ろう付前よりも厚みが減少した層状のろう材として残存する。以上により、シュラウドとインペラ本体とをろう付し、クローズドインペラを得ることができる。
【0051】
ろう付に用いる不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどを使用することができる。ろう付中の不活性ガスの圧力は、例えば、1~110000Paの範囲内とすることができる。つまり、ろう付は、大気圧または大気圧よりも若干高い圧力下で行ってもよいし、1Pa以上の真空中で行ってもよい。
【0052】
ろう付中の不活性ガスの圧力が過度に低い場合には、ろう付加熱の際に溶融ろうからMgが蒸発しやすい。そのため、ろう付継手におけるろう材中のMg量が不足し、ろう付継手の強度の低下を招くおそれがある。ろう付中の不活性ガスの圧力を1Pa以上とすることにより、かかる問題を回避することができる。
【0053】
前記製造方法においては、ろう付を行った後、前記クローズドインペラに溶体化処理を行い、次いで、前記クローズドインペラに人工時効処理を行う。溶体化処理においては、クローズドインペラをろう材の溶体化処理温度まで加熱した後急冷することにより、ろう材をMgの過飽和固溶体とする。
【0054】
次に、人工時効処理を行うことにより、ろう付継手におけるろう材中に、Mgを含む金属間化合物を微細に析出させる。この金属間化合物は、ろう材の粒界に析出し、ろう材の強度をより向上させる作用を有する。それ故、溶体化処理及び人工時効処理を施すことにより、ろう付継手の接合強度をより向上させることができる。
【0055】
溶体化処理における処理温度は、例えば、480~560℃の範囲から適宜設定することができる。また、溶体化処理における急冷方法は特に限定されることはなく、例えば水焼入等を採用することができる。
【0056】
また、人工時効処理における保持温度は、例えば、160~220℃の範囲から適宜設定することができる。また、人工時効処理における保持時間は、例えば、4~24時間の範囲から適宜設定することができる。
【実施例
【0057】
(実施例1)
前記クローズドインペラ及びその製造方法の実施例を、図1図4を用いて説明する。図1及び図2に示すように、クローズドインペラ1は、アルミニウム合金からなり、ハブ部21と、ハブ部21から突出した羽根部22と、を備えたインペラ本体2と、羽根部22を覆うシュラウド3と、を有している。図3に示すように、羽根部22とシュラウド3とは、羽根部22とシュラウド3との間に介在するろう付継手4によって接合されている。また、シュラウド3は、アルミニウム合金からなる心材31と、心材31上に配置され羽根部22に対向する最表面33に存在するろう材32と、を備えたブレージングシート30である。なお、以下において、シュラウド3における羽根部22に対向する最表面33を「シュラウド3の内表面33」という。
【0058】
図1に示すように、本例のクローズドインペラ1は、略円錐台状を呈しており、最も外径が小さい小径部11と、最も外径が大きい大径部12と、を有している。また、クローズドインペラ1は、その回転中心を貫く貫通穴13を有している。クローズドインペラ1の貫通穴13には、遠心圧縮機の回転軸が挿入される。遠心圧縮機の回転軸は、モータ等の駆動装置に接続されており、駆動装置の駆動力が回転軸を介してクローズドインペラ1に伝達される。これにより、クローズドインペラ1を回転させることができる。
【0059】
小径部11は、クローズドインペラ1の軸方向に開口した吸入口111を有している。また、大径部12は、クローズドインペラ1の径方向の外方に開口した吐出口121を有している。そして、クローズドインペラ1の内部には、吸入口111と吐出口121とを接続する流路を有している。クローズドインペラ1の吸入口111は、具体的には、後述するハブ部21の前端部211と、羽根部22と、シュラウド3とによって囲まれた開口である。また、クローズドインペラ1の吐出口121は、後述するハブ部21の後端部213と、羽根部22と、シュラウド3とによって囲まれた開口である。そして、図には示さないが、クローズドインペラ1の流路は、後述するハブ部21の湾曲面214(図2参照)と、羽根部22と、シュラウド3とによって囲まれた空間である。
【0060】
本例のクローズドインペラ1は、遠心圧縮機内で回転させることにより、吸入口111から流体を吸入することができる。吸入口111から吸入された流体は、流路内において、クローズドインペラ1の回転に伴って加速されつつ吐出口121に導かれる。そして、吐出口121から吐出された流体は、遠心圧縮機のディフューザ内において圧縮される。
【0061】
本例のクローズドインペラ1は、より具体的には、図2に示すように、ハブ部21と羽根部22とを備えたインペラ本体2と、インペラ本体2を覆うシュラウド3と、を有している。インペラ本体2のハブ部21は、クローズドインペラ1と同様の略円錐台状を呈している。ハブ部21は、吸入口111側の端部である前端部211と、吐出口121側の端部である後端部213と、前端部211と後端部213とを接続する拡径部212と、前端部211、拡径部212及び後端部213を貫く貫通穴13とを有している。貫通穴13は、前端部211の中央及び後端部213の中央にそれぞれ開口している。
【0062】
拡径部212は、前端部211から後端部213へ向かうにつれて徐々に拡径している。また、拡径部212は、シュラウド3に対面する湾曲面214を有している。図には示さないが、拡径部212の湾曲面214は、クローズドインペラ1の回転中心を含む断面における輪郭が内側に凸となるように湾曲した湾曲形状を有している。
【0063】
図2に示すように、本例のインペラ本体2は、複数の羽根部22を有している。羽根部22は、拡径部212の湾曲面214からシュラウド3側に立設されている。羽根部22は、吸入口111側から視た平面視において螺旋状を呈しており、ハブ部21の前端部211から後端部213までの範囲に亘って延設されている。また、本例の羽根部22は、2mmの厚みを有している。羽根部22の厚みは、本例の態様に限定されるものではなく、例えば0.2~5.0mmの範囲から適宜設定することができる。また、羽根部22の厚みは一定である必要はない。
【0064】
図3に示すように、羽根部22におけるシュラウド3側の端面221は、ろう付継手4を介してシュラウド3に接合されている。本例の羽根部22の端面221は、シュラウド3の内表面33に沿って湾曲しており、シュラウド3の心材31に対向して配置されている。羽根部22の端面221と心材31との間には、ろう材34が充填されている。これにより、ろう付継手4に、端面221と心材31とが平面同士で接合されてなる面接合部41を形成することができる。
【0065】
本例のシュラウド3は、図2に示すように漏斗状を呈しており、羽根部22の端面221を覆うように配置されている。シュラウド3の中央には中央開口35が設けられており、図1に示すように、中央開口35内にハブ部21の前端部211が配置されている。また、シュラウド3の内表面33と羽根部22の端面221との間には、その全長に渡って図3に示すろう付継手4が形成されている。
【0066】
本例のシュラウド3は、図3に示すように、ろう付後のブレージングシート30から構成されている。つまり、シュラウド3は、その形状を形作る心材31と、心材31上に配置された層状のろう材32と、を有している。ろう材32は、ろう付前のブレージングシート30におけるろう材32のうち、ろう付加熱後に心材31上に残留した溶融ろうによって形成される。
【0067】
シュラウド3と羽根部22との間には、ろう付継手4が介在している。図3に示すように、本例のろう付継手4は、羽根部22の端面221とシュラウド3の心材31との隙間に充填されたろう材34を含む面接合部41と、面接合部41の外方に延出したろう材34からなるフィレット42とを有している。フィレット42は、シュラウド3の内表面33に存在する層状のろう材32に連なっており、羽根部22に近づくにつれて次第に厚みが厚くなっている。そして、フィレット42の厚みは、羽根部22の側面222と接する部分において最も厚みが厚くなっている。なお、本明細書におけるフィレット42は、ろう材34のうち、シュラウド3の内表面33に存在するろう材32の厚みよりも厚い部分をいう。
【0068】
本例のクローズドインペラ1は、例えば、以下の方法により作製することができる。まず、インペラ本体2と、シュラウド3とを別々に準備する。インペラ本体2は、例えば、アルミニウム合金の塊に機械加工を施し、ハブ部21と羽根部22とを一体的に形成することによって得ることができる。
【0069】
シュラウド3は、Mg:0.20質量%以上1.80質量%未満を含むアルミニウム合金からなる心材31と、Al-Si系合金からなり、20~215μmの厚みを有し、最表面に配置されたろう材層320と、を備えたブレージングシート300(図4参照)から構成されている。シュラウド3は、心材31と、ろう材層320とを備えたブレージングシートに成形加工を施すことによって作製することができる。ブレージングシートからシュラウド3を作製するに当たっては、ブレージングシートのろう材層320がクローズドインペラ1の内側、つまり、羽根部22に対向する側に配置されるように成形加工を行えばよい。
【0070】
このようにして準備したシュラウド3をインペラ本体2の羽根部22に重ね合わせて組立体10を作製する。図4に示すように、組立体10におけるインペラ本体2の羽根部22の端面221は、シュラウド3の内表面33に配置されたろう材層320に当接している。
【0071】
その後、不活性ガス中において組立体10を加熱し、フラックスを用いずにシュラウド3とインペラ本体2とをろう付する。以上により、シュラウド3と羽根部22との間に図3に示すろう付継手4を形成し、クローズドインペラ1を得ることができる。
【0072】
本例のクローズドインペラ1におけるシュラウド3は、アルミニウム合金からなる心材31と、シュラウド3の内表面33に存在するろう材32と、を備えたろう付後のブレージングシート30である。そして、インペラ本体2の羽根部22とシュラウド3とが、ろう付継手4を介して接合されている。このように、ブレージングシート30からなるシュラウド3を用いることにより、従来のディップろう付において用いられていたバインダやフラックスを用いることなくろう付を行うことができる。それ故、ろう付継手4内へのボイドの形成を抑制することができる。更に、ろう付後に形成されるろう付継手4は、心材31から拡散したMgによって強化される。これらの結果、ろう付継手4の接合強度をディップろう付によって形成されたろう付継手4よりも格段に高めることができる。
【0073】
また、本例のろう付継手4は、羽根部22と心材31とが平面同士で接合された面接合部41を有している。このように、ろう付継手4に面接合部41を設けることにより、ろう付継手4の接合強度をより向上させることができる。
【0074】
更に、本例のろう付継手4は、面接合部41の外部に延出したろう材34からなるフィレット42を有している。これにより、ろう付継手4における、ろう材34と羽根部22との接合面積、及び、ろう材34と心材31との接合面積をより広くし、ろう付継手4の接合強度をより向上させることができる。
【0075】
(実施例2)
本例は、シュラウド3と羽根部22との間に形成されるろう付継手4の接合強度を、シュラウド3及び羽根部22の形状を模擬した試験片100によって評価した例である。なお、本例以降の例において用いる符号のうち、既出の例において使用した符号と同一のものは、特に説明のない限り既出の例と同様の構成要素等を表す。
【0076】
本例において使用した試験片100は、図5に示すように、羽根部22を模擬した第1部品101と、シュラウド3を模擬した第2部品102と、を有している。第1部品101は、JIS A6061合金からなる厚み3mmの平板である。また、第2部品102は、表1に示す積層構造を有する厚み2mmのブレージングシート300(試験材1~21)である。
【0077】
なお、表1中の記号「Bal.」は、残部であることを示す記号であり、記号「-」は、当該元素を積極的に添加していないことを示す記号である。記号「-」により示された元素の含有量は、具体的には、0.05質量%以下(0質量%を含む)である。また、「クラッド率」欄には、ろう材層及び中間材のクラッド率、つまり、ろう付前のブレージングシート300の厚みに対するろう材層又は中間材の厚みの比率(%)を記載し、「厚み」欄には、ろう材層及び中間材の厚み(μm)を記載した。
【0078】
表1に示す試験材のうち、試験材17、19については、ブレージングシート300の製造過程において、圧延中に割れやクラッド接合不良などの問題が発生するため、以降の評価を行っていない。
【0079】
第1部品101及び第2部品102を準備した後、第2部品102のろう材層に第1部品101の端面103を突き当て、T字状の組立体を得る。この組立体を、大気圧の不活性ガス中または真空中で加熱してろう付を行うことにより、第1部品101と第2部品102との間に面接合部41及びフィレット42を含むろう付継手4を形成し、試験片100を得ることができる。
【0080】
大気圧の不活性ガス中でのろう付は、不活性ガス雰囲気炉を使用して行うことができる。具体的には、炉内に組立体を配置した後、窒素ガスによって炉内をパージし、炉内の酸素濃度を15体積ppmまで低下させる。その後、炉内温度が600℃に到達するまで組立体を加熱することにより、第1部品101と第2部品102とのろう付を行って試験片100とする。炉内の温度が600℃に到達した後、加熱を停止し、炉内にて溶融ろうが凝固するまで試験片100を冷却する。その後、試験片100を炉から取り出し、室温まで冷却する。
【0081】
真空中でのろう付は、真空炉を使用して行うことができる。具体的には、真空炉内に組立体を配置した後、炉内から大気を排気しつつ、組立体を550℃になるまで加熱する。組立体の温度が550℃に到達した時点の炉内の圧力は、例えば、5×10-3~7×10-3Paである。組立体の温度が550℃に到達した後、排気を継続しながら炉内にアルゴンガスを導入する。そして、炉内の圧力が1Pa以上となるようにアルゴンガスの供給量を調整しながら組立体を600℃で加熱する。これにより、第1部品101と第2部品102とのろう付を行って試験片100とする。炉内の温度が600℃に到達した後、加熱を停止し、炉内にて溶融ろうが凝固するまで試験片100を冷却する。その後、試験片100を炉から取り出し、室温まで冷却する。
【0082】
本例では、前記のいずれかの方法によってろう付を行った試験片100に、更に溶体化処理及び人工時効処理を行う。溶体化処理においては、具体的には、試験片100を550℃の塩浴炉に3分間浸漬して加熱した後、水焼入を行う。人工時効処理においては、溶体化処理を行った試験片100を、空気炉を用いて175℃の温度に8時間保持する。
【0083】
以上の処理を行った試験片100におけるろう付継手4の接合強度は、以下のようにして測定することができる。まず、引張試験機の固定チャックに、治具を介して第2部品102を取り付ける。この際、治具によって第2部品102を厚み方向における両面から拘束することにより、引張試験中の第2部品102の変形を抑制する。次に、引張試験機のクロスヘッドに第1部品101を取り付ける。そして、クロスヘッドの移動速度を10mm/分として引張試験を行い、荷重-変位曲線を取得する。
【0084】
得られた荷重-変位曲線における最大荷重を、ろう付継手4の最大断面積、つまり、フィレット42の面積と第1部品101の端面103の面積との合計で除することにより、ろう付継手4の引張強さが算出される。本例においては、この引張強さの値をろう付継手4の接合強度とする。表2の「大気圧」欄には、大気圧の不活性ガス中でろう付を行った試験片100におけるろう付継手4の接合強度を記載した。また、表2の「真空中」欄には、真空中でろう付を行った試験片100におけるろう付継手4の接合強度を記載した。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
表1及び表2に示すように、試験材1~16、18、20~21は、前記特定の範囲のMgを含む心材を有している。そのため、これらの試験材によれば、大気圧下でのろう付及び真空中でのろう付のいずれにおいても、110MPa以上の接合強度を有するろう付継手4を形成することができる。従来のディップろう付によるろう付接合の接合強度は、通常、100MPa程度であるため、これらの試験材によれば、ディップろう付よりもろう付継手4の接合強度を高くすることができる。
【0088】
これらの試験材の中でも、特に、心材中のMg量及び中間材中のMg量が前述した好ましい含有量の範囲内である試験材1~13、18、20は、150MPa以上の接合強度を有するろう付継手4を形成することができ、ディップろう付に比べてろう付継手4の接合強度を格段に向上させることができる。
【0089】
試験材14は、心材中のMg量が前述した好ましい含有量の範囲よりも少ないため、試験材1~13、18、20に比べてろう付継手4の接合強度が低くなりやすい。
試験材15は、心材中のMg量が前述した好ましい含有量の範囲よりも多いため、エロージョンが発生しやすい。
【0090】
試験材16は、中間材中のMg量が前述した好ましい含有量の範囲よりも少ないため、中間材中のMgによる強度向上の効果が不十分となりやすい。
試験材17及び試験材19は、中間材中のMg量またはSi量が前記特定の範囲よりも多いため、ブレージングシート300の製造過程において、心材とろう材層とを接合することが難しい。
【0091】
試験材20は、ろう中のBi量が前述した好ましい含有量の範囲よりも少ないため、Biによる強度向上の効果が不十分となりやすい。
試験材21は、ろう中のBi量が前述した好ましい含有量の範囲よりも多いため、試験材1~13、18に比べてろう付継手4の接合強度が低くなりやすい。
【0092】
(実施例3)
本例は、JIS A6061合金からなるインペラ本体2と、表1に示す試験材からなるシュラウド3とをろう付した際のろう付性を評価した例である。本例においては、まず、JIS A6061合金の塊に切削加工を施し、外径40mmのインペラ本体2を作製する。そして、表1に示す試験材を用い、インペラ本体2に対応するシュラウド3を作製する。これらのインペラ本体2とシュラウド3とを、実施例2に記載の方法によりろう付してクローズドインペラ1を得る。
【0093】
ろう付性の評価は、ろう付継手4に形成されるフィレット42の形状及びろう付継手4内の接合欠陥の発生状態に基づいて評価することができる。フィレット42の形状の評価に当たっては、まず、ろう付後のクローズドインペラ1を切断する。そして、切断部から目視可能なろう付継手4におけるフィレット42の形状を観察する。表3の「フィレットの形状」欄に記載した記号の意味は、以下の通りである。
【0094】
A+:均一な形状を有し、表面が平滑であり、脚長0.5mm以上のフィレットが形成されている
A:均一な形状を有し、表面が平滑であり、脚長0.5mm未満のフィレットが形成されている状態
B:均一な形状を有するが表面がやや粗いフィレット、または、やや不均一な形状を有するが表面が平滑なフィレットのいずれかが形成されている状態
C:形状が不均一なフィレット、または、表面が顕著に荒れているフィレットが形成されている状態
D:フィレットが断続的に形成されている、または、フィレットが全く形成されていない状態
【0095】
フィレット42の形状の評価においては、連続したフィレットが形成されている記号A+~Cの場合を、許容できる程度のろう付性を有しているため合格と判定し、連続したフィレットが形成されていない記号Dの場合を、ろう付性が低いため不合格と判定する。
【0096】
接合欠陥の発生状態の評価に当たっては、フィレット42の形状の評価と同様に、ろう付後のクローズドインペラ1を切断する。そして、ろう付継手4の断面を顕微鏡により観察する。表3の「接合欠陥」欄に記載した記号の意味は、以下の通りである。
【0097】
A+:ろう付継手4内にボイド等の接合欠陥が存在しない
A:ろう付継手4内に直径0.1mm以下のボイドが存在している
B:ろう付継手4内に直径0.1mmを超え0.2mm以下のボイドが存在している
C:ろう付継手4内に直径0.2mmを超えるボイドが存在している
【0098】
接合欠陥の評価においては、ろう付継手4内に存在するボイドの大きさが0.2mm以下である記号A+~Bの場合を、許容できる程度のろう付性を有しているため合格と判定し、ボイドの大きさが0.2mmを超える記号Cの場合を、ろう付性が低いため不合格と判定する。
【0099】
【表3】
【0100】
表3に示すように、前記特定の範囲のMgを含む心材を備えたブレージングシート(試験材1~16、18、20~21)を用いてろう付を行うことにより、シュラウド3と羽根部22との間にろう付継手4を形成可能であることが理解できる。なお、これらのブレージングシートを用いてろう付を行う場合には、図3に示すように、ろう付後におけるシュラウド3の内表面全体に層状のろう材32が形成される。
【0101】
これらの試験材の中でも、特に、心材中のMg量及び中間材中のMg量が前述した好ましい含有量の範囲である試験材1~13、18、20は、心材中のMg量が前述した好ましい含有量の範囲よりも少ない試験材14に比べてフィレット42の形状を改善するとともに、接合欠陥を更に低減することができる。
【0102】
更に、心材とろう材層との間に前記特定の中間材を設けた試験材6~11、18、20は、これら以外の試験材に比べて更にフィレット42の形状を改善することができる。
【0103】
試験材15は、心材中のMg量が前記特定の範囲よりも多いため、エロージョンが発生しやすい。それ故、試験材15は、試験材1~13、18、20に比べてフィレット42の形状が悪化するとともに、接合欠陥が多くなりやすい。
【0104】
試験材16は、中間材中のMg量が前記特定の範囲よりも少ないため、Mgによるろう付性向上の効果が不十分となりやすい。
試験材17及び試験材19は、中間材中のMg量またはSi量が前記特定の範囲よりも多いため、前述したように、ブレージングシート300を作製することが難しい。
【0105】
試験材21は、ろう中のBi量が前記特定の範囲よりも多いため、試験材1~13、18、20に比べてろう付性が悪化しやすい。
【0106】
(比較例)
本例は、フラックスを用いてシュラウド3とインペラ本体2とのろう付を行う例である。本例においては、インペラ本体2とシュラウド3との間に、Csを含有するフラックスと、バインダとを含むフラックスペーストを塗布した以外は、実施例3における大気圧中でのろう付と同様の方法により、インペラ本体2とシュラウド3とのろう付を行った。本例のクローズドインペラ1におけるフィレット42の形状及び接合欠陥の評価結果を表4に示す。
【0107】
【表4】
【0108】
表4に示すように、フラックスペーストを用いてろう付を行う場合、ろう付中にフラックス等から発生するガスによって接合欠陥が発生しやすくなる。そのため、フラックスペーストを用いる場合には、ろう付継手4の接合強度が低下しやすい。
【0109】
本発明に係るクローズドインペラ及びその製造方法の態様は、前述した各実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更することができる。
【0110】
例えば、前記実施例には、ブレージングシート30を用いてろう付を行うことにより、羽根部22とシュラウド3との間にMg:0.25質量%以上を含むろう材34を備えたろう付継手4を形成してなるクローズドインペラに係る発明が含まれている。
【0111】
この発明は、別の観点から視れば、Mgによって強化されたろう材を備えたろう付継手を有するクローズドインペラに係る発明として捉えることもできる。即ち、前記実施例は、アルミニウム材からなり、ハブ部と、前記ハブ部から突出した羽根部と、を備えたインペラ本体と、
アルミニウム材からなり、前記羽根部を覆うシュラウドと、
前記羽根部と前記シュラウドとの間に介在し、前記羽根部と前記シュラウドとを接合するろう付継手と、を有し、
前記ろう付継手は、Mg:0.25質量%以上を含有するアルミニウム合金からなるろう材を有している、クローズドインペラに係る発明の一態様として捉えることができる。
【0112】
なお、前述した「アルミニウム材」は、アルミニウムとアルミニウム合金とを含む概念である。
【0113】
前述したように、ろう付継手4におけるろう材34中のMgは、ろう材34を強化する作用を有している。従って、羽根部22とシュラウド3との間に前記特定の量のMgを含むろう材34を備えたろう付継手4を形成することができれば、ろう付継手の接合強度を向上させるという作用効果を奏することができる。
【0114】
また、例えば、前記実施例には、インペラ本体2を準備し、心材31と、ろう材層32と、を備えたブレージングシート300を準備し、ブレージングシート300に成形加工を施してろう材層32を内表面33側に配した前記シュラウド3を作製し、不活性ガス中において、フラックスを用いずにシュラウド3の内表面33とインペラ本体2の羽根部22とをろう付する、クローズドインペラ1の製造方法に係る発明が含まれている。
【0115】
この発明は、別の観点から視れば、インペラ本体とシュラウドとをフラックスフリーろう付法によって接合する発明として捉えることもできる。即ち、前記実施例は、アルミニウム材からなり、ハブ部と、前記ハブ部から突出した羽根部と、を備えたインペラ本体と、アルミニウム材からなり、前記羽根部を覆うシュラウドと、前記羽根部と前記シュラウドとの間に介在し、前記羽根部と前記シュラウドとを接合するろう付継手と、を有するクローズドインペラの製造方法であって、
前記インペラ本体と、前記羽根部を覆う前記シュラウドと、前記羽根部と前記インペラ本体との間に配置されたろう材を備えた組立体を作製し、
不活性ガス中においてフラックスを用いずに前記組立体をろう付する、クローズドインペラの製造方法に係る発明の一態様として捉えることもできる。
【0116】
前述したように、フラックスを用いてろう付を行う場合には、フラックスとアルミニウム材の表面に存在する酸化皮膜との反応等によってガスが発生することがある。このガスが溶融ろう中に溶存したまま溶融ろうが凝固すると、ろう付継手内にボイドが形成されるおそれがある。これに対し、前述したように、インペラ本体とシュラウドとをフラックスフリーろう付法、つまり、不活性ガス中においてフラックスを用いずにろう付を行う方法によって接合する場合には、フラックスに由来するガスの発生を回避することができる。従って、インペラ本体とシュラウドとをフラックスフリーろう付法によって接合することにより、ろう付継手におけるボイドの発生を抑制し、接合強度の向上という作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0117】
1 クローズドインペラ
2 インペラ本体
21 ハブ部
22 羽根部
3 シュラウド
31 心材
32 ろう材
33 内表面
4 ろう付継手
図1
図2
図3
図4
図5