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  • 特許-ECGピーク検出装置 図1
  • 特許-ECGピーク検出装置 図2
  • 特許-ECGピーク検出装置 図3
  • 特許-ECGピーク検出装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】ECGピーク検出装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/352 20210101AFI20220929BHJP
【FI】
A61B5/352
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018236116
(22)【出願日】2018-12-18
(65)【公開番号】P2020096710
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000189486
【氏名又は名称】上田日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 美継
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/129411(WO,A1)
【文献】特開2002-051997(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0038253(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0070006(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ECG信号を自乗して、自乗ECG信号を生成する自乗演算部と、
前記自乗ECG信号に対して微分演算を施して、微分・自乗ECG信号を生成する微分演算部と、
前記微分・自乗ECG信号のゼロクロスタイミングを検出するゼロクロスタイミング検出部と、
を備えることを特徴とするECGピーク検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載のECGピーク検出装置において、
前記自乗演算部、前記微分演算部および前記ゼロクロスタイミング検出部のそれぞれは、サンプリングされた信号を処理し、
前記ゼロクロスタイミング検出部は、前記微分演算部によって時系列で順次生成される前記微分・自乗ECG信号のサンプル値に対してゼロクロスタイミングを検出する検出処理を実行し、
前記検出処理は、
最新のサンプル値よりも所定個数だけ前のサンプル値が所定の判定値以上であり、最新のサンプル値が当該判定値未満であるときに、当該最新のサンプル値が得られたタイミングをゼロクロスタイミングとして検出する処理を含むことを特徴とするECGピーク検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ECGピーク検出装置に関し、特に、ECG信号のピークのタイミングを検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓の拍動を計測する装置として心電計が広く用いられている。心電計は、人体に接触させる複数の電極を備えている。心電計は、複数の電極間の電位差から心臓の拍動の時間波形を示す心電図(ECG:Electrocardiogram)を取得する。心臓の状態を評価する際には心拍間隔が評価されることが多い。心拍間隔は心電図波形におけるR波のピークが現れる時間間隔をいう。ここで、R波のピークとはR波の極大点をいい、以下の説明においてR波のピークを単にピークという。心電計は、心電図波形のピークが現れるタイミングを検出し、時間軸上で隣接するピークの時間間隔を求めることで、心拍間隔を求める。
【0003】
以下の特許文献1にはECGデータを分析するための携帯型システム(心電計)に関する記載がある。この文献には、ECGによって示される時間波形のピークを、非線形増幅によって誇張する処理が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2015-519087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、心電図波形のピークのタイミング検出は、心電図波形のレベルが所定の閾値を超えるタイミングを検出することで行われる。しかし、複数の電極間の電位差から求められた心電図波形にはノイズが含まれている。そのため、心電図波形のレベルにはノイズによる誤差が含まれており、検出されるタイミングに誤差が生じることがある。
【0006】
本発明は、心電図波形のピークタイミングの検出精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ECG信号を自乗して、自乗ECG信号を生成する自乗演算部と、前記自乗ECG信号に対して微分演算を施して、微分・自乗ECG信号を生成する微分演算部と、前記微分・自乗ECG信号のゼロクロスタイミングを検出するゼロクロスタイミング検出部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
望ましくは、前記自乗演算部、前記微分演算部および前記ゼロクロスタイミング検出部のそれぞれは、サンプリングされた信号を処理し、前記ゼロクロスタイミング検出部は、前記微分演算部によって時系列で順次生成される前記微分・自乗ECG信号のサンプル値に対してゼロクロスタイミングを検出する検出処理を実行し、前記検出処理は、 最新のサンプル値よりも所定個数だけ前のサンプル値が所定の判定値以上であり、最新のサンプル値が当該判定値未満であるときに、当該最新のサンプル値が得られたタイミングをゼロクロスタイミングとして検出する処理を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、心電図波形のピークタイミングの検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】心電計の構成を示す図である。
図2】ECG信号の例を示す図である。
図3】自乗ECG信号の例を示す図である。
図4】微分・自乗ECG信号の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1には、本発明の実施形態に係る心電計1の構成が示されている。心電計1は、電極E1~E3、ECG信号生成部10、ECGピーク検出部16、および心拍間隔演算部24を備えている。電極E1~E3は被検体に装着される。ECG信号生成部10は、3つの電極E1~E3の電位に基づいて、拍動の時間波形を示すECG信号を生成し、ECGピーク検出部16に出力する。ECGピーク検出部16は、ECG信号のピークタイミングを検出し、ピークタイミングを示すピークタイミング情報を心拍間隔演算部24に出力する。このピークタイミング情報は、被検体の心臓の拍動に伴って時間経過と共に順次現れるECG信号の各ピークについてピークタイミングを示す。ピークタイミング情報は、ECG信号の各ピークをパルス時間波形によって示す信号であってもよい。心拍間隔演算部24は、ピークタイミング情報に基づいて時間軸上で隣接するピークについて心拍間隔を求める。
【0012】
心電計1の具体的な構成および動作について説明する。ECG信号生成部10は、入力回路12およびA/D変換部14を備えている。入力回路12には電極E1~E3が接続されている。入力回路12は、電極E1~E3のそれぞれの電位を検出する。入力回路12は、電極E1~E3のそれぞれの電位に基づいて、心臓の拍動を示す検出信号を生成する。入力回路12はアナログ回路によって構成され、次のような動作によって検出信号を生成する回路であってよい。すなわち、入力回路12は、電極E3の電位を基準とした電極E1の電圧V1から、電極E3の電位を基準とした電極E2の電圧V2を減算した電圧に基づいて検出信号を生成してよい。
【0013】
A/D変換部14は、検出信号を所定のサンプリング周期でサンプリングし、時間軸上で連なるサンプル値を表すディジタル信号を生成する。A/D変換部14は、このようにして生成されたディジタル信号であるECG信号をECGピーク検出部16に出力する。
【0014】
ECGピーク検出部16は、自乗演算部18、微分演算部20、およびゼロクロスタイミング検出部22を備えている。ECGピーク検出部16は、プロセッサによって構成されてよい。プロセッサは、自らが記憶するプログラム、または外部の記憶装置から読み込まれたプログラムを実行することで、各構成要素(自乗演算部18、微分演算部20、およびゼロクロスタイミング検出部22)を構成する。また、ECGピーク検出部16に含まれる各構成要素は、ディジタル回路によって個別に構成されてもよい。
【0015】
自乗演算部18は、ECG信号を自乗して、自乗ECG信号を生成する。すなわち、自乗演算部18は、時間軸上で連なるECG信号の各サンプル値を自乗して、自乗ECG信号を生成する。微分演算部20は、自乗ECG信号に対して微分演算を施して、微分・自乗ECG信号を生成する。すなわち、微分演算部20は、最新のサンプル値から時間軸上でj個だけ前(所定時間だけ前)のサンプル値を減算した差分値を求め、微分・自乗ECG信号の最新のサンプル値を生成する。ここで、jは任意の自然数である。微分演算部20は、自乗演算部18から時間経過と共に順次出力される自乗ECG信号のサンプル値に対して、微分・自乗ECG信号のサンプル値を順次求める。
【0016】
ゼロクロスタイミング検出部22は、微分・自乗ECG信号のゼロクロスタイミングを検出することで、ECG信号および自乗ECG信号のピークタイミングを検出する。そして、検出されたピークタイミングに基づくピークタイミング情報を生成し、心拍間隔演算部24に出力する。ここで、ゼロクロスタイミングとは、微分・自乗ECG信号の極性が変化するタイミングをいう。微分・自乗ECG信号は、自乗ECG信号に微分演算を施した信号であるため、ゼロクロスタイミングは、ECG信号および自乗ECG信号のピークタイミングに一致する。
【0017】
ゼロクロスタイミングの検出は、例えば、次のようにして行われる。すなわち、微分・自乗ECG信号の最新のサンプル値が所定の判定値未満であり、最新のサンプル値よりもk個だけ前のサンプル値がその判定値以上であるという条件が成立したときに、ゼロクロスタイミング検出部22は、その最新のサンプル値が微分演算部20から出力されたタイミングをゼロクロスタイミングとして検出する。ここで、kは任意の自然数であり、上述の自然数jと同一の値であってもよい。なお、ゼロクロスタイミング検出部22は、上記の条件が成立したときにおける最新のサンプル値が微分演算部20から出力されたタイミングの他、このタイミングを所定時間だけ遅延させたものをゼロクロスタイミングとして、ピークタイミング情報を生成してもよい。
【0018】
ゼロクロスタイミング検出部22は、ゼロクロスタイミング、すなわち、ピークタイミングを示すピークタイミング情報を生成し、心拍間隔演算部24に出力する。心拍間隔演算部24は、ピークタイミング情報に基づいて時間軸上で隣接するピークについて心拍間隔を求める。
【0019】
図2にはECG信号の例が示されている。横軸は時間を示し、縦軸はECG信号のレベルを示す。ECG信号50には、包絡線上の値が極大となるP波、包絡線上の値が極小となるQ波、包絡線上の値が極大となるR波、包絡線上の値が極小となるS波、および包絡線上の値が極大となるT波が順に現れている。本実施形態に係る心電計1の検出対象は、R波のピークである。
【0020】
図3には自乗ECG信号の例が示されている。自乗ECG信号52は、ECG信号50を自乗したものであるため、ノイズレベルに対する信号レベルの比率を表す信号対雑音比(S/N比)が大きくなる。
【0021】
図4には微分・自乗ECG信号の例が示されている。図4には、微分・自乗ECG信号54と共に、判定値Tを示す直線およびサンプル点P1~P3が示されている。
【0022】
上記のように、ゼロクロスタイミング検出部22は、微分・自乗ECG信号54の最新のサンプル値が判定値T未満であり、最新のサンプル値よりもk個だけ前のサンプル値が判定値T以上であるという条件が成立したときに、最新のサンプル値が微分演算部20から出力されたタイミングをゼロクロスタイミングとして検出する。図4に示される例において、k=1とした場合、およびk=2とした場合のいずれの場合においても、最新のサンプル値P3のタイミングがゼロクロスタイミングとして検出される。すなわち、k=1の場合には、最新のサンプル値P3が判定値T未満であり、1つ前のサンプル値P2が判定値T以上であるという判断がされる。この判断に基づき、サンプル値P3のタイミングがゼロクロスタイミングとして検出される。k=2の場合には、最新のサンプル値P3が判定値T未満であり、2つ前のサンプル値P1が判定値T以上であるという判断がされる。この判断に基づき、サンプル値P3のタイミングがゼロクロスタイミングとして検出される。
【0023】
本実施形態に係る心電計1は、ECG信号から自乗ECG信号を生成し、S/N比を向上させた上で微分・自乗ECG信号を生成する。微分・自乗ECG信号は、自乗ECG信号の時間変化率を示す信号である。そのため、微分・自乗ECG信号のレベルは、自乗ECGに含まれるノイズレベルの影響を受け難く、さらには、微分・自乗ECG信号のゼロクロスタイミングもまた、ノイズレベルの影響を受け難い。したがって、本実施形態に係る心電計1によれば、ECG信号にピークが現れるタイミングが高精度で検出される。
【符号の説明】
【0024】
1 心電計、10 ECG信号生成部、12 入力回路、14 A/D変換部、16 ECGピーク検出部、18 自乗演算部、20 微分演算部、22 ゼロクロスタイミング検出部、24 心拍間隔演算部、50 ECG信号、52 自乗ECG信号、54 微分・自乗ECG信号、E1~E3 電極。
図1
図2
図3
図4