(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】摩擦攪拌点接合装置及びその運転方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
B23K20/12 340
B23K20/12 344
B23K20/12 310
B23K20/12 346
B23K20/12 364
(21)【出願番号】P 2018243328
(22)【出願日】2018-12-26
【審査請求日】2021-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】波多野 遼一
(72)【発明者】
【氏名】深田 慎太郎
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-202828(JP,A)
【文献】特開2006-239720(JP,A)
【文献】国際公開第2017/159627(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/127832(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0029581(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合された第1部材と第2部材との接触部分にシーラント材が塗布された被接合物を摩擦熱で軟化させることにより接合する摩擦攪拌点接合装置であって、
前記摩擦攪拌点接合装置は、
円柱状に形成されているピン部材と、
円筒状に形成され、前記ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、前記ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、
円筒状に形成され、前記ピン部材及び前記ショルダ部材が内部に挿通されているクランプ部材と、
前記ピン部材、前記ショルダ部材、及び前記クランプ部材を、それぞれ前記軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、
制御器と、を備え、
前記制御器は、前記ピン部材が、回転した状態で、前記被接合物を押圧するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を駆動させる(B)と、
前記(B)から予め設定されている第1所定時間経過後に、前記ピン部材及び前記ショルダ部材が、回転した状態で、前記被接合物を押圧するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を駆動させる(C)と、
前記(C)から予め設定されている第2所定時間経過後に、前記ピン部材及び/又は前記ショルダ部材が、回転した状態で、前記被接合物の被接合部内に圧入されて、前記被接合部を攪拌して接合するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を駆動させる(D)と、を実行するように構成されている、摩擦攪拌点接合装置。
【請求項2】
前記制御器は、前記(D)において、前記ピン部材が、回転した状態で、前記被接合部内に圧入するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を駆動させる(D1)と、前記(D1)の後に、前記ピン部材が、前記被接合部から引き抜かれるように、かつ、前記ショルダ部材が、回転した状態で、前記被接合部内に圧入するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を駆動させる(D2)と、を実行するように構成されている、請求項1に記載の摩擦攪拌点接合装置。
【請求項3】
前記制御器は、前記(D)において、前記ショルダ部材が、回転した状態で、前記被接合部内に圧入するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を駆動させる(D3)と、前記(D3)の後に、前記ショルダ部材が、前記被接合部から引き抜かれるように、かつ、前記ピン部材が、回転した状態で、前記被接合部内に圧入するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を駆動させる(D4)と、を実行するように構成されている、請求項1に記載の摩擦攪拌点接合装置。
【請求項4】
前記制御器は、前記(B)において、前記ピン部材の先端が、前記被接合物の上面に位置するように、前記進退駆動器を制御するように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の摩擦攪拌点接合装置。
【請求項5】
前記制御器は、前記(C)において、前記ピン部材及び前記ショルダ部材の先端が、それぞれ、前記被接合物の上面に位置するように、前記進退駆動器を制御するように構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の摩擦攪拌点接合装置。
【請求項6】
重ね合された第1部材と第2部材との接触部分にシーラント材が塗布された被接合物を摩擦熱で軟化させることにより接合する摩擦攪拌点接合装置の運転方法であって、
前記摩擦攪拌点接合装置は、
円柱状に形成されているピン部材と、
円筒状に形成され、前記ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、
前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、前記ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、
円筒状に形成され、前記ピン部材及び前記ショルダ部材が内部に挿通されているクランプ部材と、
前記ピン部材、前記ショルダ部材、及び前記クランプ部材を、それぞれ前記軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、を備え、
前記ピン部材が、回転した状態で、前記被接合物を押圧するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器が駆動する(B)と、
前記(B)から予め設定されている第1所定時間経過後に、前記ピン部材及び前記ショルダ部材が、回転した状態で、前記被接合物を押圧するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器が駆動する(C)と、
前記(C)から予め設定されている第2所定時間経過後に、前記ピン部材及び/又は前記ショルダ部材が、回転した状態で、前記被接合物の被接合部内に圧入されて、前記被接合部を攪拌して接合するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器が駆動する(D)と、を備える、摩擦攪拌点接合装置の運転方法。
【請求項7】
前記(D)は、前記ピン部材が、回転した状態で、前記被接合部内に圧入するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を駆動させる(D1)と、前記(D1)の後に、前記ピン部材が、前記被接合部から引き抜かれるように、かつ、前記ショルダ部材が、回転した状態で、前記被接合部内に圧入するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を駆動させる(D2)と、を有する、請求項6に記載の摩擦攪拌点接合装置の運転方法。
【請求項8】
前記(D)は、前記ショルダ部材が、回転した状態で、前記被接合部内に圧入するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を駆動させる(D3)と、前記(D3)の後に、前記ショルダ部材が、前記被接合部から引き抜かれるように、かつ、前記ピン部材が、回転した状態で、前記被接合部内に圧入するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を駆動させる(D4)と、を有する、請求項6に記載の摩擦攪拌点接合装置の運転方法。
【請求項9】
前記(B)は、前記ピン部材の先端が、前記被接合物の上面に位置するように、前記進退駆動器が動作する、請求項6~8のいずれか1項に記載の摩擦攪拌点接合装置の運転方法。
【請求項10】
前記(C)は、前記ピン部材及び前記ショルダ部材の先端が、それぞれ、前記被接合物の上面に位置するように、前記進退駆動器が動作する、請求項6~9のいずれか1項に記載の摩擦攪拌点接合装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌点接合装置及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、鉄道車両、航空機等の輸送機器においては、金属材料を連結するときには、抵抗スポット溶接又はリベット接合が用いられていた。特に、厳しい環境で使用される航空機等のリベット作業においては、耐食性を確保するために、被接合物間にシーラント材(シール材)を塗布することが求められる。
【0003】
シーラント材を塗布した被接合物を接合する場合に、良好な接合品質を実現し得る、摩擦攪拌点接合装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者等は、シーラント材を塗布した被接合物を接合する場合に、良好な接合品質を実現し得る、特許文献1に開示されている摩擦攪拌点接合装置とは異なる、新たな摩擦攪拌点接合装置及びその運転方法を見出し、本発明を想到した。
【0006】
本発明は、複動式の摩擦攪拌点接合法において、シーラント材を塗布した被接合物を接合する場合に、良好な接合品質を実現し得る、摩擦攪拌点接合装置及びその運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る摩擦攪拌点接合装置は、重ね合された第1部材と第2部材との接触部分にシーラント材が塗布された被接合物を摩擦熱で軟化させることにより接合する摩擦攪拌点接合装置であって、前記摩擦攪拌点接合装置は、円柱状に形成されているピン部材と、円筒状に形成され、前記ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、前記ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、円筒状に形成され、前記ピン部材及び前記ショルダ部材が内部に挿通されているクランプ部材と、前記ピン部材、前記ショルダ部材、及び前記クランプ部材を、それぞれ前記軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、制御器と、を備え、前記制御器は、前記ピン部材が、回転した状態で、前記被接合物を押圧するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を駆動させる(B)と、前記(B)から予め設定されている第1所定時間経過後に、前記ピン部材及び前記ショルダ部材が、回転した状態で、前記被接合物を押圧するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を駆動させる(C)と、前記(C)から予め設定されている第2所定時間経過後に、前記ピン部材及び/又は前記ショルダ部材が、回転した状態で、前記被接合物の被接合部内に圧入されて、前記被接合部を攪拌して接合するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器を駆動させる(D)と、を実行するように構成されている、摩擦攪拌点接合装置。
【0008】
これにより、シーラント材を塗布した被接合物を接合する場合であっても、シーラント材が接合される部分から押し出すことができる。特に、ピン部材及び/又はショルダ部材が回転した状態で、被接合部を押圧することにより、摩擦熱が発生する。そして、摩擦熱からの伝熱により、シーラント材が溶融して、その粘性が低下するので、シーラント材を容易に押し出すことができる。
【0009】
このため、シーラント材が被接合物の塑性流動部に流入(混入)することが抑制され、良好な接合品質を実現し得る。
【0010】
また、本発明に係る摩擦攪拌点接合装置の運転方法は、重ね合された第1部材と第2部材との接触部分にシーラント材が塗布された被接合物を摩擦熱で軟化させることにより接合する摩擦攪拌点接合装置の運転方法であって、前記摩擦攪拌点接合装置は、円柱状に形成されているピン部材と、円筒状に形成され、前記ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、前記ピン部材及び前記ショルダ部材を、前記ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、円筒状に形成され、前記ピン部材及び前記ショルダ部材が内部に挿通されているクランプ部材と、前記ピン部材、前記ショルダ部材、及び前記クランプ部材を、それぞれ前記軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、を備え、前記ピン部材が、回転した状態で、前記被接合物を押圧するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器が駆動する(B)と、前記(B)から予め設定されている第1所定時間経過後に、前記ピン部材及び前記ショルダ部材が、回転した状態で、前記被接合物を押圧するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器が駆動する(C)と、前記(C)から予め設定されている第2所定時間経過後に、前記ピン部材及び/又は前記ショルダ部材が、回転した状態で、前記被接合物の被接合部内に圧入されて、前記被接合部を攪拌して接合するように、前記回転駆動器及び前記進退駆動器が駆動する(D)と、を備える。
【0011】
これにより、シーラント材を塗布した被接合物を接合する場合であっても、シーラント材が接合される部分から押し出すことができる。特に、ピン部材及び/又はショルダ部材が回転した状態で、被接合部を押圧することにより、摩擦熱が発生する。そして、摩擦熱からの伝熱により、シーラント材が溶融して、その粘性が低下するので、シーラント材を容易に押し出すことができる。
【0012】
このため、シーラント材が被接合物の塑性流動部に流入(混入)することが抑制され、良好な接合品質を実現し得る。
【0013】
本発明の上記目的、他の目的、特徴、及び利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施形態の詳細な説明から明らかにされる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る摩擦攪拌点接合装置及びその運転方法によれば、シーラント材を塗布した被接合物を接合する場合であっても、良好な接合品質を実現し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す摩擦攪拌点接合装置の制御構成を模式的に示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図4A】
図4Aは、
図1に示す摩擦攪拌点接合装置による摩擦攪拌点接合の各工程の一例を模式的に示す工程図である。
【
図4B】
図4Bは、
図1に示す摩擦攪拌点接合装置による摩擦攪拌点接合の各工程の一例を模式的に示す工程図である。
【
図4C】
図4Cは、
図1に示す摩擦攪拌点接合装置による摩擦攪拌点接合の各工程の一例を模式的に示す工程図である。
【
図5A】
図5Aは、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置による摩擦攪拌点接合の各工程の一例を模式的に示す工程図である。
【
図5B】
図5Bは、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置による摩擦攪拌点接合の各工程の一例を模式的に示す工程図である。
【
図5C】
図5Cは、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置による摩擦攪拌点接合の各工程の一例を模式的に示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。また、全ての図面において、本発明を説明するために必要となる構成要素を抜粋して図示しており、その他の構成要素については図示を省略している場合がある。さらに、本発明は以下の実施の形態に限定されない。
【0017】
(実施の形態1)
本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置は、重ね合された第1部材と第2部材との接触部分にシーラント材が塗布された被接合物を摩擦熱で軟化させることにより接合する摩擦攪拌点接合装置であって、摩擦攪拌点接合装置は、円柱状に形成されているピン部材と、円筒状に形成され、ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、ピン部材及びショルダ部材を、ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、円筒状に形成され、ピン部材及びショルダ部材が内部に挿通されているクランプ部材と、ピン部材、ショルダ部材、及びクランプ部材を、それぞれ軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、制御器と、を備え、制御器は、ピン部材が、回転した状態で、被接合物を押圧するように、回転駆動器及び進退駆動器を駆動させる(B)と、(B)から予め設定されている第1所定時間経過後に、ピン部材及びショルダ部材が、回転した状態で、被接合物を押圧するように、回転駆動器及び進退駆動器を駆動させる(C)と、(C)から予め設定されている第2所定時間経過後に、ピン部材及び/又はショルダ部材が、回転した状態で、被接合物の被接合部内に圧入されて、被接合部を攪拌して接合するように、回転駆動器及び進退駆動器を駆動させる(D)と、を実行するように構成されている。
【0018】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置では、制御器は、(D)において、ショルダ部材が、回転した状態で、被接合部内に圧入するように、回転駆動器及び進退駆動器を駆動させる(D3)と、(D3)の後に、ショルダ部材が、被接合部から引き抜かれるように、かつ、ピン部材が、回転した状態で、被接合部内に圧入するように、回転駆動器及び進退駆動器を駆動させる(D4)と、を実行するように構成されていてもよい。
【0019】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置では、制御器は、(B)において、ピン部材の先端が、被接合物の上面に位置するように、進退駆動器を制御するように構成されていてもよい。
【0020】
さらに、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置では、制御器は、(C)において、ピン部材及びショルダ部材の先端が、それぞれ、被接合物の上面に位置するように、進退駆動器を制御するように構成されていてもよい。
【0021】
以下、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
[摩擦攪拌点接合装置の構成]
図1は、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の概略構成を示す模式図である。なお、
図1においては、図における上下方向を摩擦攪拌点接合装置における上下方向として表している。
【0023】
図1に示すように、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50は、ピン部材11、ショルダ部材12、工具固定器52、進退駆動器53、クランプ部材13、裏当て支持部55、裏当て部材56、及び回転駆動器57を備えている。
【0024】
ピン部材11、ショルダ部材12、工具固定器52、進退駆動器53、クランプ部材13、及び回転駆動器57は、C型ガン(C型フレーム)で構成される裏当て支持部55の上端部に設けられている。また、裏当て支持部55の下端部には、裏当て部材56が設けられている。ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13と、裏当て部材56と、は互いに対向する位置で裏当て支持部55に取り付けられている。なお、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13と、裏当て部材56と、の間には、被接合物60が配置される。
【0025】
ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13は、回転工具固定器521及びクランプ固定器522から構成される工具固定器52に固定されている。具体的には、ピン部材11及びショルダ部材12は、回転工具固定器521に固定されていて、クランプ部材13は、クランプ駆動器41を介して、クランプ固定器522に固定されている。そして、回転工具固定器521は、回転駆動器57を介して、クランプ固定器522に支持されている。なお、クランプ駆動器41は、スプリングにより構成されている。
【0026】
また、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13は、ピン駆動器531及びショルダ駆動器532から構成される進退駆動器53によって、上下方向に進退駆動される。
【0027】
ピン部材11は、円柱状に形成されていて、
図1には、詳細に図示されないが、回転工具固定器521により支持されている。また、ピン部材11は、回転駆動器57により、ピン部材11の軸心に一致する軸線Xr(回転軸)周りに回転し、ピン駆動器531により、矢印P1方向、すなわち軸線Xr方向(
図1では上下方向)に沿って、進退移動可能に構成されている。ピン駆動器531は、ピン部材11に加圧力を与える構成であればよく、例えば、ガス圧、油圧、サーボモータ等を用いた機構を好適に用いることができる。
【0028】
ショルダ部材12は、中空を有する円筒状に形成されていて、回転工具固定器521により支持されている。ショルダ部材12の中空内には、ピン部材11が内挿されている。換言すると、ショルダ部材12は、ピン部材11の外周面を囲むように配置されている。
【0029】
また、ショルダ部材12は、回転駆動器57により、ピン部材11と同一の軸線Xr周りに回転し、ショルダ駆動器532により、矢印P2方向、すなわち軸線Xr方向に沿って進退移動可能に構成されている。ショルダ駆動器532は、ショルダ部材12に加圧力を与える構成であればよく、例えば、ガス圧、油圧、サーボモータ等を用いた機構を好適に用いることができる。
【0030】
このように、ピン部材11及びショルダ部材12(回転工具)は、本実施の形態ではいずれも同一の回転工具固定器521によって支持され、いずれも回転駆動器57により軸線Xr周りに一体的に回転する。さらに、ピン部材11及びショルダ部材12は、ピン駆動器531及びショルダ駆動器532により、それぞれ軸線Xr方向に沿って進退移動可能に構成されている。なお、本実施の形態1においては、ピン部材11は単独で進退移動可能であるとともに、ショルダ部材12の進退移動に伴っても進退移動可能となっているが、ピン部材11及びショルダ部材12がそれぞれ独立して進退移動可能に構成されてもよい。
【0031】
クランプ部材13は、ショルダ部材12と同様に、中空を有する円筒状に形成されていて、その軸心が軸線Xrと一致するように設けられている。クランプ部材13の中空内には、ショルダ部材12が内挿されている。
【0032】
すなわち、ピン部材11の外周面を囲むように、円筒状のショルダ部材12が配置されていて、ショルダ部材12の外周面を囲むように円筒状のクランプ部材13が配置されている。換言すれば、クランプ部材13、ショルダ部材12及びピン部材11が、それぞれ同軸心状の入れ子構造となっている。
【0033】
また、クランプ部材13は、被接合物60を一方の面(表面)から押圧するように構成されている。クランプ部材13は、上述したように、本実施の形態1においては、クランプ駆動器41を介してクランプ固定器522に支持されている。クランプ駆動器41は、クランプ部材13を裏当て部材56側に付勢するように構成されている。そして、クランプ部材13(クランプ駆動器41及びクランプ固定器522を含む)は、ショルダ駆動器532によって、矢印P3方向(矢印P1及び矢印P2と同方向)に進退可能に構成されている。
【0034】
なお、クランプ駆動器41は、本実施の形態1においては、スプリングで構成したが、これに限定されるものではない。クランプ駆動器41は、クランプ部材13に付勢を与えたり加圧力を与えたりする構成であればよく、例えば、ガス圧、油圧、サーボモータ等を用いた機構も好適に用いることができる。
【0035】
ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13は、それぞれ先端面11a、先端面12a、及び先端面13aを備えている。また、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13は、進退駆動器53により進退移動することで、先端面11a、先端面12a、及び先端面13aは、それぞれ、被接合物60の表面(被接合物60の被接合部)に当接し、被接合物60を押圧する。
【0036】
裏当て部材56は、本実施の形態1においては、平板状の被接合物60の裏面を当接するように平坦な面(支持面56a)により、支持するように構成されている。裏当て部材56は、摩擦攪拌点接合を実施できるように被接合物60を適切に支持することができるものであれば、その構成は特に限定されない。裏当て部材56は、例えば、複数の種類の形状を有する裏当て部材56が別途準備され、被接合物60の種類に応じて、裏当て支持部55から外して交換できるように構成されてもよい。
【0037】
なお、本実施の形態1におけるピン部材11、ショルダ部材12、工具固定器52、進退駆動器53、クランプ部材13、裏当て支持部55、及び回転駆動器57の具体的な構成は、前述した構成に限定されず、広く摩擦攪拌接合の分野で公知の構成を好適に用いることができる。例えば、ピン駆動器531及びショルダ駆動器532は、摩擦攪拌接合の分野で公知のモータ及びギア機構等で構成されていてもよい。
【0038】
また、裏当て支持部55は、本実施の形態1においては、C型ガンで構成されているが、これに限定されない。裏当て支持部55は、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13を進退移動可能に支持するとともに、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13に対向する位置に裏当て部材56を支持することができれば、どのように構成されていてもよい。
【0039】
さらに、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50は、摩擦攪拌点接合用ロボット装置(図示せず)に配設される形態を採用している。具体的には、裏当て支持部55が、ロボット装置のアームの先端に取り付けられている。このため、裏当て支持部55も摩擦攪拌点接合用ロボット装置に含まれるとみなすことができる。裏当て支持部55及びアームを含めて、摩擦攪拌点接合用ロボット装置の具体的な構成は特に限定されず、多関節ロボット等、摩擦攪拌接合の分野で公知の構成を好適に用いることができる。
【0040】
なお、摩擦攪拌点接合装置50(裏当て支持部55を含む)は、摩擦攪拌点接合用ロボット装置に適用される場合に限定されるものではなく、例えば、NC工作機械、大型のCフレーム、及びオートリベッター等の公知の加工用機器にも好適に適用することができる。
【0041】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50は、二対以上のロボットが、摩擦攪拌点接合装置50における裏当て部材56以外の部分と、裏当て部材56と、を正対させるように構成されていてもよい。さらに、摩擦攪拌点接合装置50は、被接合物60に対して安定して摩擦攪拌点接合を行うことが可能であれば、被接合物60を手持ち型にする形態を採用してもよく、ロボットを被接合物60のポジショナーとして用いる形態を採用してもよい。
【0042】
[摩擦攪拌点接合装置の制御構成]
次に、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50の制御構成について、
図2を参照して具体的に説明する。
【0043】
図2は、
図1に示す摩擦攪拌点接合装置の制御構成を模式的に示すブロック図である。
【0044】
図2に示すように、摩擦攪拌点接合装置50は、制御器51、記憶器31、及び入力器32を備えている。
【0045】
記憶器31は、各種データを読み出し可能に記憶するものであり、記憶器31としては、公知のメモリ、ハードディスク等の記憶装置等で構成される。記憶器31は、単一である必要はなく、複数の記憶装置(例えば、ランダムアクセスメモリ及びハードディスクドライブ)として構成されてもよい。制御器51等がマイクロコンピュータで構成されている場合には、記憶器31の少なくとも一部がマイクロコンピュータの内部メモリとして構成されてもよいし、独立したメモリとして構成されてもよい。
【0046】
なお、記憶器31には、データが記憶され、制御器51以外からデータの読み出しが可能となっていてもよいし、制御器51等からデータの書き込みが可能になっていてもよいことはいうまでもない。
【0047】
入力器32は、制御器51に対して、摩擦攪拌点接合の制御に関する各種パラメータ、あるいはその他のデータ等を入力可能とするものであり、キーボード、タッチパネル、ボタンスイッチ群等の公知の入力装置で構成されている。本実施の形態1では、少なくとも、被接合物60の接合条件、例えば、被接合物60の厚み、材質等のデータが入力器32により入力可能となっている。
【0048】
制御器51は、摩擦攪拌点接合装置50を構成する各部材(各機器)を制御するように構成されている。具体的には、制御器51は、進退駆動器53を構成するピン駆動器531及びショルダ駆動器532と、回転駆動器57と、を制御する。これにより、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13の進出移動又は後退移動の切り替え、進退移動時のピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13における、先端位置の制御、移動速度、及び移動方向等を制御することができる。また、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13の被接合物60を押圧する押圧力を制御することができる。さらに、ピン部材11及びショルダ部材12の回転数を制御することができる。
【0049】
制御器51の具体的な構成は、特に限定されず、本実施の形態1では、制御器51は、マイクロコンピュータで構成されていて、CPUを備えている。制御器51は、CPUが記憶器31に格納された所定の制御プログラムを読み出し、これを実行することにより、進退駆動器53及び回転駆動器57の動作に関する演算を行うように構成されている。
【0050】
なお、制御器51は、単独の制御器で構成される形態だけでなく、複数の制御器が協働して、摩擦攪拌点接合装置50の制御を実行する制御器群で構成される形態であっても構わない。
【0051】
[摩擦攪拌点接合装置の動作(運転方法)]
次に、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50の動作について、
図3、
図4A、
図4B、及び
図4Cを参照して具体的に説明する。なお、
図4A、
図4B、及び
図4Cにおいては、被接合物60として、2枚の金属板61、62を用い、金属板62の上面(金属板61との接触面)に、シーラント材63を塗布し、これらを重ねて点接合にて連結する場合を例に挙げている。
【0052】
図3は、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図4A、
図4B、及び
図4Cは、
図1に示す摩擦攪拌点接合装置による摩擦攪拌点接合の各工程の一例を模式的に示す工程図である。
【0053】
なお、
図4A、
図4B、及び
図4Cにおいては、摩擦攪拌点接合装置の一部を省略し、矢印rは、ピン部材11及びショルダ部材12の回転方向を示し、ブロック矢印Fは、金属板61、62に加えられる力の方向を示す。また、裏当て部材56からも金属板61、62に対して力が加えられているが、説明の便宜上、
図4A、
図4B、及び
図4Cには図示していない。さらに、ショルダ部材12には、ピン部材11及びクランプ部材13との区別を明確とするために、網掛けのハッチングを施している。
【0054】
まず、
図4Aに示すように、裏当て部材56の上面に金属板(第2部材)62を載置し、シーラント材63を塗布する。シーラント材63は、シーリング材であってもよく、接着剤であってもよい。シーラント材63としては、例えば、ポリサルファイド系合成ゴム、天然ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の合成ゴム、四フッ化エチレンゴム樹脂等の合成樹脂等を用いることができる。ついで、シーラント材63を挟むように、金属板62の上面に金属板(第1部材)61を載置する(工程(1))。
【0055】
次に、制御器51は、予備動作(シーラント材63の押し出し動作)を実行する。具体的には、
図3及び
図4Aに示すように、制御器51は、クランプ部材13が予め設定されている押圧力で被接合物60の表面60cを押圧するように、進退駆動器53を駆動する(ステップS101;工程(A))。ここで、クランプ部材13の押圧力は、任意に設定することができ、予め実験等で設定され、例えば、2000~15000Nであってもよく、クランプ部材13の内外径及び被接合物60の厚みから適切に決定される。
【0056】
このとき、クランプ部材13の押圧力により、シーラント材63が、被接合物60の周面からはみ出る。
【0057】
次に、制御器51は、ピン部材11が、回転した状態で、第1押圧力P1で被接合物60の表面60c(金属板61の上面)を第1所定時間、押圧するように、回転駆動器57及び進退駆動器53(ピン駆動器531)を駆動する(ステップS102;工程(B))。
【0058】
ここで、第1押圧力は、任意に設定することができ、予め実験等で設定され、例えば、2000~15000Nであってもよく、ピン部材11の直径及び被接合物60の厚みから適切に決定される。また、ピン部材11の回転数は、予め設定されていて、例えば、500~3000rpmであってもよい。さらに、第1所定時間は、予め実験等で設定され、例えば、1~10秒であってもよい。
【0059】
なお、本実施の形態1においては、回転駆動器57は、ピン部材11及びショルダ部材12を回転させるように構成されているが、ピン部材11とショルダ部材12を別々に回転させるように構成されていてもよい。
【0060】
これにより、ピン部材11と裏当て部材56が、金属板61、シーラント材63、及び金属板62を挟み込む。そして、ピン部材11が、回転した状態で、被接合物60の表面60cを押圧することにより、ピン部材11の先端面11aと、被接合物60と、の間で摩擦熱が発生する。この発生した摩擦熱の伝熱により、鉛直方向から見て、ピン部材11の先端面11aと重なる部分近傍に位置するシーラント材63が、加熱されて、当該部分のシーラント材63の粘性が低下する。
【0061】
このため、鉛直方向から見て、ピン部材11の先端面11aと重なる部分近傍に位置するシーラント材63が、元の位置よりも外側に押し出され、被接合物60の周面からはみ出る。
【0062】
次に、制御器51は、ピン部材11及びショルダ部材12が、回転した状態で、第2押圧力で被接合物60の表面60cを第2所定時間、押圧するように、回転駆動器57及び進退駆動器53を駆動する(ステップS103;工程(C))。
【0063】
より詳細には、制御器51は、ショルダ部材12が回転した状態で、被接合物60の表面60cを押圧するように、ショルダ駆動器532を駆動する。このとき、制御器51は、ピン部材11の先端面11aが、被接合物60の表面60cに位置するように、ピン駆動器531を制御している。
【0064】
ここで、第2押圧力は、任意に設定することができ、予め実験等で設定され、例えば、2000~15000Nであってもよく、ショルダ部材12の内外径及び被接合物60の厚みから適切に決定される。また、ショルダ部材12の回転数は、予め設定されていて、例えば、500~3000rpmであってもよい。さらに、第2所定時間は、予め実験等で設定され、例えば、1~10秒であってもよい。なお、第2押圧力は、第1押圧力よりも大きくなるように設定されていてもよい。
【0065】
これにより、ピン部材11及びショルダ部材12と、裏当て部材56とが、金属板61、シーラント材63、及び金属板62を挟み込む。そして、ピン部材11及びショルダ部材12が、回転した状態で、被接合物60の表面60cを押圧することにより、ピン部材11の先端面11a及びショルダ部材12の先端面12aと、被接合物60と、の間で摩擦熱が発生する。この発生した摩擦熱の伝熱により、鉛直方向から見て、ピン部材11の先端面11a及びショルダ部材12の先端面12aと重なる部分近傍に位置するシーラント材63が、加熱されて、当該部分のシーラント材63の粘性が低下する。
【0066】
このため、鉛直方向から見て、ピン部材11の先端面11a及びショルダ部材12の先端面12aと重なる部分近傍に位置するシーラント材63が、元の位置よりも外側に押し出され、被接合物60の周面からはみ出る。なお、シーラント材63の一部は、被接合物60の周縁部に存在し、被接合物60の接合面をシールすることができる。
【0067】
次に、制御器51は、ピン部材11及びショルダ部材12が、回転した状態で、第3押圧力で被接合物60の表面60cを第3所定時間、押圧するように、回転駆動器57及び進退駆動器53を駆動する(工程(2);ステップS104)。
【0068】
ここで、第3押圧力は、任意に設定することができ、予め実験等で設定され、例えば、2000~15000Nであってもよく、ピン部材11の直径及びショルダ部材12の内外径と被接合物60の厚みから適切に決定される。また、ピン部材11及びショルダ部材12の回転数は、予め設定されていて、例えば、500~3000rpmであってもよい。さらに、第3所定時間は、予め実験等で設定され、例えば、3~10秒であってもよい。なお、第3押圧力は、第1押圧力よりも大きくなるように設定されていてもよい。
【0069】
この状態では、ピン部材11及びショルダ部材12共に進退移動しないので、被接合物60の表面60cを「予備加熱」することになる。これにより、金属板61の当接領域における金属材料が摩擦により発熱することで軟化し、被接合物60の表面60c近傍に塑性流動部60aが生じる。
【0070】
次に、制御器51は、ピン部材11又はショルダ部材12が所定の動作をするように、進退駆動器53を制御し(ステップS105)、本プログラムを終了する。具体的には、制御器51は、記憶器31に記憶されている所定の制御プログラムに従って、進退駆動器53を制御する。
【0071】
このとき、制御器51は、ピン部材11の先端面の面積をAp、ショルダ部材12の先端面の面積をAsとし、ピン部材11の圧入深さをPp、ショルダ部材12の圧入深さをPsとしたときに、次の式(I)
Ap・Pp+As・Ps=Tx ・・・ (I)
で定義されるツール平均位置Txの絶対値を小さくするように、進退駆動器53を制御することが好ましく、ツール平均位置Tx=0となるように、進退駆動器53を制御することがより好ましい。なお、ツール平均位置Txの絶対値を小さくする具体的な制御については、特開2012-196682号公報に詳細に開示されているため、ここでは、その説明を省略する。
【0072】
次に、制御器51は、進退駆動器53を制御して、ピン部材11を被接合物60の表面60cから後退させることで、ショルダ部材12を被接合物60の表面60cから、さらに内部に進入(圧入)させる(
図4Bの工程(D1)参照)。
【0073】
具体的には、制御器51は、ピン部材11が被接合物60から離れるように、ピン駆動器531を駆動する、又は、制御器51は、ショルダ部材12が被接合物60に向かって進むように、ショルダ駆動器532を駆動する。
【0074】
このとき、金属材料の軟化部位は、上側の金属板61から下側の金属板62にまで及び、塑性流動部60aのボリュームが増加する。さらに、塑性流動部60aの軟化した金属材料はショルダ部材12により押し退けられ、ショルダ部材12の直下からピン部材11の直下に流動するので、ピン部材11は後退し、ショルダ部材12に対して浮き上がる。
【0075】
次に、制御器51は、ピン部材11が被接合物60に向かって進むように、ピン駆動器531を駆動する、又は、制御器51は、ショルダ部材12が被接合物60から離れるように、ショルダ駆動器532を駆動する。これにより、ピン部材11が金属板61に向かって進み、ショルダ部材12が金属板61から後退する(
図4Cの工程(D2)参照)。なお、当該工程(D2)は、後述する工程(3)によって金属板61の表面60cが充分整形される場合には、実行されなくともよい。
【0076】
そして、制御器51は、工程(D1)から工程(D2)を経て工程(3)へ移行する場合には、進退駆動器53を制御して、ピン部材11を徐々に引き込ませる。なお、ピン部材11又はショルダ部材12は、いずれも引き込み動作中であっても、その先端による加圧力は維持されている(
図4Bの工程(D1)の矢印F及び
図4Cの工程(D2)の矢印F参照)。
【0077】
このため、ショルダ部材12が引き込まれる場合には、ピン部材11による回転及び押圧が維持されているので、塑性流動部60aの軟化した金属材料は、ピン部材11の直下からショルダ部材12の直下(ショルダ部材12の圧入により生じた凹部)に流動する。
【0078】
一方、ピン部材11が引き込まれる場合には、ショルダ部材12による回転及び押圧が維持されているので、塑性流動部60aの軟化した金属材料は、ショルダ部材12の直下からピン部材11の直下(ピン部材11の圧入により生じた凹部)に流動する。
【0079】
次に、制御器51は、進退駆動器53を制御して、ピン部材11の先端面11a及びショルダ部材12の先端面12aを、互いに段差がほとんど生じない程度に合わせる(面一とする)(
図4Cの工程(3)参照)。これにより、被接合物60の表面60cが整形され、実質的な凹部が生じない程度の略平坦な面が得られる。
【0080】
次に、制御器51は、進退駆動器53を制御して、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13を被接合物60から離し、その後、回転駆動器57を制御して、ピン部材11及びショルダ部材12の回転を停止させ、一連の摩擦攪拌点接合(被接合物60の接合工程)を終了させる(
図4Cの工程(4)参照)。これにより、ピン部材11及びショルダ部材12の当接による回転(及び押圧)は金属板61、62に加えられなくなるので、金属板61、62の双方に及ぶ塑性流動部60aでは、塑性流動が停止し、被接合部60bとなる。
【0081】
このようにして、2枚の金属板61、62は被接合部60bによって連結(接合)される。なお、シーラント材63は、所定期間が経過すると、硬化して、金属板61及び金属板62の接合面がシールされる。
【0082】
このように、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、制御器51が、ピン部材11を回転した状態で、被接合物60の表面60cを押圧するように、回転駆動器57及び進退駆動器53を駆動させるように構成されている(工程(B))。これにより、ピン部材11の先端面11aと、被接合物60と、の間で摩擦熱が発生する。この発生した摩擦熱の伝熱により、鉛直方向から見て、ピン部材11の先端面11aと重なる部分近傍に位置するシーラント材63が、加熱されて、当該部分のシーラント材63の粘性が低下する。
【0083】
このため、鉛直方向から見て、ピン部材11の先端面11aと重なる部分近傍に位置するシーラント材63が、元の位置よりも外側に押し出され、被接合物60の周面からはみ出る。
【0084】
したがって、ピン部材11及びショルダ部材12を回転させて、塑性流動部60aを生じさせるときに、シーラント材63が塑性流動部60aに流入(混入)することを抑制することができ、良好な接合品質を実現し得る。
【0085】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、シーラント材63が塑性流動部60aに流入(混入)することを抑制できるため、ピン部材11にシーラント材63が付着することが抑制される。このため、被接合物60を連続して接合するような場合に、ピン部材11の先端面11aが、被接合物60の表面60cを安定して押圧することができる。また、被接合物60の表面60cにシーラント材63が付着することが抑制され、良好な接合品質を実現し得る。
【0086】
さらに、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、制御器51が、ピン部材11及びショルダ部材12を回転した状態で、被接合物60の表面60cを押圧するように、回転駆動器57及び進退駆動器53を駆動させるように構成されている(工程(C))。これにより、ピン部材11の先端面11a及びショルダ部材12の先端面12aと、被接合物60と、の間で摩擦熱が発生する。この発生した摩擦熱の伝熱により、鉛直方向から見て、ピン部材11の先端面11a及びショルダ部材12の先端面12aと重なる部分近傍に位置するシーラント材63が、加熱されて、当該部分のシーラント材63の粘性が低下する。
【0087】
このため、鉛直方向から見て、ピン部材11の先端面11a及びショルダ部材12の先端面12aと重なる部分近傍に位置するシーラント材63が、元の位置よりも外側に押し出され、被接合物60の周面からはみ出る。なお、シーラント材63の一部は、被接合物60の周縁部に存在し、被接合物60の接合面をシールすることができる。
【0088】
したがって、ピン部材11及びショルダ部材12を回転させて、塑性流動部60aを生じさせるときに、シーラント材63が塑性流動部60aに流入(混入)することを抑制することができ、良好な接合品質を実現し得る。
【0089】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、シーラント材63が塑性流動部60aに流入(混入)することを抑制できるため、ピン部材11及び/又はショルダ部材12にシーラント材63が付着することが抑制される。このため、被接合物60を連続して接合するような場合に、ピン部材11及び/又はショルダ部材12の先端面が、被接合物60の表面60cを安定して押圧することができる。また、被接合物60の表面60cにシーラント材63が付着することが抑制され、良好な接合品質を実現し得る。
【0090】
なお、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、制御器51は、ピン部材11を回転させた状態で、被接合物60を押圧させ、その後、ピン部材11及びショルダ部材12を回転させた状態で、被接合物60を押圧させるように、回転駆動器57及び進退駆動器53を制御する形態を採用したが、これに限定されない。
【0091】
制御器51が、ピン部材11及びショルダ部材12を回転させた状態で、ピン部材11及びショルダ部材12が被接合物60を同時に押圧させるように、回転駆動器57及び進退駆動器53を制御する形態を採用してもよい。
【0092】
(実施の形態2)
本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置は、実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置において、制御器が、(D)において、ピン部材が、回転した状態で、被接合部内に圧入するように、回転駆動器及び進退駆動器を駆動させる(D1)と、(D1)の後に、ピン部材が、被接合部から引き抜かれるように、かつ、ショルダ部材が、回転した状態で、被接合部内に圧入するように、回転駆動器及び進退駆動器を駆動させる(D2)と、を実行するように構成されている。
【0093】
以下、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置は、実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置と基本的構成は同じであるため、その構成の説明は省略する。
【0094】
[摩擦攪拌点接合装置の動作(運転方法)]
図5A、
図5B、及び
図5Cは、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置による摩擦攪拌点接合の各工程の一例を模式的に示す工程図である。
【0095】
なお、
図5A、
図5B、及び
図5Cにおいては、摩擦攪拌点接合装置の一部を省略し、矢印rは、ピン部材11及びショルダ部材12の回転方向を示し、ブロック矢印Fは、金属板61、62に加えられる力の方向を示す。また、裏当て部材56からも金属板61、62に対して力が加えられているが、説明の便宜上、
図5A、
図5B、及び
図5Cには、図示していない。さらに、ショルダ部材12には、ピン部材11及びクランプ部材13との区別を明確とするために、網掛けのハッチングを施している。
【0096】
図5A~
図5Cに示すように、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置50の動作は、実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50の動作と基本的には同じであるが、工程(D1)及び工程(D2)に代えて、工程(D3)及び工程(D4)が実行される点が異なる。
【0097】
具体的には、制御器51は、工程(2)の後に、ピン部材11が被接合物60に向かって進むように、ピン駆動器531を駆動する、又は、制御器51は、ショルダ部材12が被接合物60から離れるように、ショルダ駆動器532を駆動する(
図5Bの工程(D3))。これにより、ピン部材11が金属板61に向かって進み、ショルダ部材12が金属板61から後退する。
【0098】
このとき、金属材料の軟化部位は、上側の金属板61から下側の金属板62にまで及び、塑性流動部60aのボリュームが増加する。さらに、塑性流動部60aの軟化した金属材料はピン部材11により押し退けられ、ピン部材11の直下から先端面12aの直下に流動するので、ショルダ部材12は後退し、ピン部材11に対して浮き上がる。
【0099】
次に、制御器51は、ピン部材11が被接合物60から離れるように、ピン駆動器531を駆動する、又は、制御器51は、ショルダ部材12が被接合物60に向かって進むように、ショルダ駆動器532を駆動する(
図5Cの工程(D4))。これにより、ショルダ部材12が金属板61に向かって進み、ピン部材11が金属板61から後退する。このとき、塑性流動部60aの軟化した金属材料は、ピン部材11の直下からショルダ部材12の直下(ショルダ部材12の圧入により生じた凹部)に流動する。
【0100】
次に、制御器51は、進退駆動器53を制御して、ピン部材11の先端面11a及びショルダ部材12の先端面12aを、互いに段差がほとんど生じない程度に合わせる(
図5Cの工程(3))。
【0101】
ついで、制御器51は、進退駆動器53を制御して、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13を被接合物60から離し、その後、回転駆動器57を制御して、ピン部材11及びショルダ部材12の回転を停止させ(
図5Cの工程(4)参照)、本プログラムを終了させる。
【0102】
このように構成された、本実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置50であっても、実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50と同様の作用効果を奏する。
【0103】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。したがって、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の形態を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより種々の発明を形成できる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の摩擦攪拌点接合装置及びその運転方法は、シーラント材を塗布した被接合物を接合する場合であっても、良好な接合品質を実現し得るため、有用である。
【符号の説明】
【0105】
11 ピン部材
11a 先端面
12 ショルダ部材
12a 先端面
13 クランプ部材
13a 先端面
31 記憶器
32 入力器
41 クランプ駆動器
50 摩擦攪拌点接合装置
51 制御器
52 工具固定器
53 進退駆動器
55 支持部
56 裏当て部材
56a 支持面
57 回転駆動器
60 被接合物
60a 塑性流動部
60b 被接合部
60c 表面
61 金属板
62 金属板
63 シーラント材
521 回転工具固定器
522 クランプ固定器
531 ピン駆動器
532 ショルダ駆動器
Xr 軸線