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特許7149188炭素繊維強化成形体および炭素繊維強化成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】炭素繊維強化成形体および炭素繊維強化成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/06 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
C08J5/06 CFC
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018568500
(86)(22)【出願日】2018-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2018004706
(87)【国際公開番号】W WO2018151053
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2020-12-11
(31)【優先権主張番号】P 2017024610
(32)【優先日】2017-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017130651
(32)【優先日】2017-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 麻季
(72)【発明者】
【氏名】中井 勉之
(72)【発明者】
【氏名】小向 拓治
(72)【発明者】
【氏名】輝平 広美
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-076198(JP,A)
【文献】国際公開第2014/175319(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/159122(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/063809(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/159121(WO,A1)
【文献】特表2009-535530(JP,A)
【文献】特開2003-239171(JP,A)
【文献】国際公開第2016/159125(WO,A1)
【文献】特開2007-070593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04-5/10,5/24
B29B 11/16,15/08-15/14
D06M 11/74
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列した複合素材と樹脂硬化物とを含む炭素繊維強化成形体であって、
前記複合素材は、複数の連続した炭素繊維が配列した炭素繊維束と、前記炭素繊維のそれぞれの表面に付着したカーボンナノチューブとを備え、前記カーボンナノチューブは前記炭素繊維の表面の全体で均等に分散して絡み合うことで互いに直接接触ないしは直接接続されてネットワーク構造を形成し、
緩衝材を介した3点曲げ試験を行って得られる弾性率EM1および前記緩衝材なしで前記3点曲げ試験を行って得られる弾性率EM0が、下記式を満たすことを特徴とする炭素繊維強化成形体。
EM1(GPa)≦0.615×EM0(GPa)
(ここで、前記3点曲げ試験は、幅15mm、厚さ1.8mmの板状で前記幅を前記複合素材の長手方向とする試験片について、支点間距離80mm、負荷速度1m/sで行われ、
前記緩衝材は、長さ30mm、幅20mm、厚さ5mmの寸法を有する。)
【請求項2】
記弾性率EM0は、前記カーボンナノチューブを含まない場合より大きく、
記弾性率EM1は、前記カーボンナノチューブを含まない場合より小さいことを特徴とする請求項1記載の炭素繊維強化成形体。
【請求項3】
前記弾性率EM0は、8~12GPaの範囲内であることを特徴とする請求項記載の炭素繊維強化成形体。
【請求項4】
前記炭素繊維束の長手方向が直交するように積層された複数の複合素材を含み、
幅15mm、厚さ1.8mmの試験片について、JIS K7077に準拠したシャルピー衝撃試験を行った際、ハンマが試験片に接触してから0.5msの間に測定された衝撃力の振れ幅が72N以下であることを特徴とする請求項1記載の炭素繊維強化成形体。
【請求項5】
前記樹脂硬化物は、エポキシ樹脂の硬化物であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項記載の炭素繊維強化成形体。
【請求項6】
請求項1記載の炭素繊維強化成形体の製造方法であって、
カーボンナノチューブが単離分散した分散液中に、前記複数の連続した炭素繊維を浸漬して走行させ、前記炭素繊維のそれぞれの表面に前記カーボンナノチューブを付着させ、前記複合素材を作製する工程と、
前記複合素材を、マトリックス樹脂を含侵させてプリプレグとする工程と、
前記プリプレグの前記マトリックス樹脂を加熱硬化させて前記樹脂硬化物とする工程と、を備え、
前記複合素材を作製する工程では、前記複数の連続した炭素繊維は、平ローラーに支持された状態で引張り応力を受けることで直線性が向上していることを特徴とする炭素繊維強化成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料などで形成された繊維と、前記繊維表面に形成された構造体とを備える複合素材が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1においては、前記構造体は、複数のカーボンナノチューブを含み、前記複数のカーボンナノチューブが、互いに直接接続されたネットワーク構造を形成していると共に、前記繊維表面に直接付着している。こうした複合素材を含む成形体は、繊維本来の機能を発現できると同時に、CNT由来の電気導電性、熱伝導性、機械強度等の機能を発揮できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/175319号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複合素材として炭素繊維を用いた成形体(以下、これを炭素繊維強化成形体と称する)は、航空機、自動車、一般産業、スポーツ用品など、様々な分野に用途が拡大している。こうした炭素繊維強化成形体に対する強度等の特性に対する要求は、より一層厳しくなってきている。
【0005】
炭素繊維強化成形体には、強度に加えて、振動がより速く減衰して衝撃を吸収できること、いわゆる制振性も求められている。高い強度を有するとともに制振性に優れた炭素繊維強化成形体は、未だ得られていない。
【0006】
そこで本発明は、高い強度を有するとともに制振性に優れた炭素繊維強化成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る炭素繊維強化成形体は、配列した複合素材と樹脂硬化物とを含む炭素繊維強化成形体であって、前記複合素材は、複数の連続した炭素繊維が配列した炭素繊維束と、前記炭素繊維のそれぞれの表面に付着したカーボンナノチューブとを備え、緩衝材を介した3点曲げ試験を行って得られる弾性率は、前記緩衝材なしで前記3点曲げ試験を行って得られる弾性率より小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の炭素繊維強化成形体は、複合素材と樹脂硬化物とを含み、緩衝材を介した3点曲げ試験による弾性率が、緩衝材なしの3点曲げ試験による弾性率より小さいので、制振性が優れているといえる。
【0009】
しかも、本発明の炭素繊維強化成形体に含まれる複合素材は、炭素繊維束における炭素繊維のそれぞれの表面にCNTが付着している。それによって、本発明の炭素繊維強化成形体は、より高い強度を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る炭素繊維強化成形体の構成を示す断面図である。
図2】3点曲げ試験に供する試験片を説明する斜視図である。
図3】3点曲げ試験方法を説明する概略図であり、図3Aは緩衝材なしでの3点曲げ試験、図3Bは緩衝材を介した3点曲げ試験の状態を示す。
図4】炭素繊維強化成形体に含まれる複合素材の構成を説明する概略図である。
図5】炭素繊維の絡まり合いの評価方法を説明する概略図である。
図6】CNT付着工程を説明する概略図である。
図7】ガイドローラーを説明する側面図である。
図8】試験片が狭い領域に衝撃を受けた状態を説明する概略図である。
図9】試験片が広い領域に衝撃を受けた状態を説明する概略図である。
図10】振動減衰特性の評価に用いる試験片を示す斜視図である。
図11】振動減衰特性の評価方法を説明する概略図である。
図12】測定された変位量の時間変化の一例を示すグラフである。
図13】実施例1の炭素繊維強化成形体の弾性率を示すグラフである。
図14】比較例1(従来のCFRP)の弾性率を示すグラフである。
図15】緩衝材なしの3点曲げ試験による弾性率を比較して示すグラフである。
図16】緩衝材を介した3点曲げ試験による弾性率を比較して示すグラフである。
図17】シャルピーの衝撃試験に用いる試験片を示す斜視図である。
図18】シャルピーの衝撃試験の結果を示すグラフであり、図18Aは実施例2、図18Bは比較例2である。
図19】落錘試験の結果を示す図である。
図20図19における枠部分の拡大図であり、図20Aは実施例3、図20Bは比較例3である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
1.全体構成
図1に示すように、本実施形態の炭素繊維強化成形体100は、複合素材10と樹脂硬化物50とを備えている。複合素材10は、紙面に直交する方向に延びて複数配列している。本実施形態の炭素繊維強化成形体100は、所定の板状の試験片として所定の2つの条件で3点曲げ試験を行った際、求められる2つの弾性率が所定の関係にある。
【0013】
3点曲げ試験には、図2に示すような幅D、長さL、厚さtの板状の試験片100Aを用いることができる。試験片100Aは、幅Dが15mm、長さLが100mmであり、厚さtが1.8mmである。複数の複合素材10は、試験片100Aの幅Dを長手方向として配列している。
【0014】
試験は、まず、図3Aに示すように、試験片100Aの長手方向に所定の距離xで配置された2本の支点200で、試験片100Aを支持する。支点200間の距離xは、80mmである。ロードセル220で荷重を測定しつつ、1m/sの負荷速度で圧子210を試験片100Aに直接衝突させる。圧子210は、試験片100Aの幅D方向を長手方向とする厚さ10mm程度の金属性の板である。圧子210は、丸形状(曲率半径5mm)の先端辺で試験片100Aに接して、試験片100Aを横切ることができる。試験片100Aが破断した際の荷重を用いて、緩衝材なしの場合の弾性率EM0を求める。
【0015】
次に、図3Bに示すように、同じ構成の別の試験片100Aと圧子210との間に緩衝材230を配置する以外は同様の条件で、3点曲げ試験を行う。緩衝材230としては、長さ30mm、幅20mm、厚さ5mmのスポンジゴムを用いる。スポンジゴムは、天然ゴム製とすることができる。緩衝材230は、アスカーC硬度が20~80程度であることが好ましい。前述と同様に、試験片100Aが破断した際の荷重を用いて、緩衝材ありの場合の弾性率EM1を求める。
【0016】
緩衝材230を介した3点曲げ試験による弾性率EM1は、緩衝材230なしの3点曲げ試験による弾性率EM0より小さい。本実施形態においては、緩衝材230を介した場合の弾性率EM1は、緩衝材230なしの場合の弾性率EM0の0.615倍以下である。緩衝材230なしの場合の弾性率EM0は、8~12GPaの範囲内であることが好ましい。
【0017】
炭素繊維強化成形体100における樹脂硬化物50は、エポキシ樹脂の硬化物である。樹脂硬化物50の体積含有率は、10~40%が好ましく、15~33%がより好ましい。樹脂硬化物50は、弾性率が2~5GPa程度であることが好ましい。
【0018】
炭素繊維強化成形体100に含まれている複合素材10について、図4を参照して詳細に説明する。複合素材10は、複数の連続した炭素繊維12aが一方向に配列した炭素繊維束12を備えている。炭素繊維12aは、直径が約5~20μmであり、化石燃料由来の有機繊維や、木材や植物繊維由来の有機繊維の焼成によって得られる。
【0019】
図面には、説明のために10本のみの炭素繊維12aを示しているが、本実施形態における炭素繊維束12は、1千~10万本の炭素繊維12aを含むことができる。炭素繊維束12を構成している炭素繊維12aは、実質的に互いに絡まり合うことなく直線性を保っている。こうした炭素繊維12aを含む本実施形態の複合素材10は、厚み方向に炭素繊維12aが3~30本並んだ帯状である。
【0020】
各炭素繊維12aの表面には、CNT14aが付着している。CNT14aは、炭素繊維12aの表面のほぼ全体で均等に分散して絡み合うことで、互いに直接接触ないしは直接接続されてネットワーク構造を形成することができる。CNT14a同士の間には、界面活性剤などの分散剤や接着剤等の介在物が存在しないことが好ましい。また、CNT14aは、炭素繊維12aの表面に直接付着している。ここでいう接続とは、物理的な接続(単なる接触)を含む。また、ここでいう付着とは、ファンデルワールス力による結合をいう。さらに「直接接触ないし直接接続」とは、複数のCNTが単に接触している状態を含む他に、複数のCNTが一体的になって接続している状態を含む。
【0021】
CNT14aの長さは、0.1~50μmであるのが好ましい。CNT14aは長さが0.1μm以上であると、CNT14a同士が絡まり合って直接接続される。またCNT14aは長さが50μm以下であると、均等に分散しやすくなる。一方、CNT14aは長さが0.1μm未満であるとCNT14a同士が絡まりにくくなる。またCNT14aは長さが50μm超であると凝集しやすくなる。
【0022】
CNT14aは、平均直径約30nm以下であるのが好ましい。CNT14aは直径が30nm以下であると、柔軟性に富み、各炭素繊維12aの表面でネットワーク構造を形成することができる。一方、CNT14aは直径が30nm超であると、柔軟性がなくなり、各炭素繊維12a表面でネットワーク構造を形成しにくくなる。なお、CNT14aの直径は透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)写真を用いて測定した平均直径とする。CNT14aは、平均直径が約20nm以下であるのがより好ましい。
【0023】
複数のCNT14aは、炭素繊維束12中の炭素繊維12aのそれぞれの表面に、均一に付着していることが好ましい。炭素繊維12a表面におけるCNT14aの付着状態は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により観察し、得られた画像を目視により評価することができる。
【0024】
さらに、複数のCNT14aが付着している炭素繊維12aの表面の少なくとも一部は、サイジング剤と称される樹脂で覆われている。サイジング剤としては、一般的にはウレタンエマルジョンやエポキシエマルジョンが用いられる。炭素繊維強化成形体100中の複合素材10の場合、炭素繊維12aの表面のサイジング剤は、存在を確認するのが困難な場合がある。
【0025】
上述したとおり、炭素繊維束12に含まれている炭素繊維12aは、実質的に互いに絡まり合うことなく直線性を保っている。炭素繊維束12中における炭素繊維12aの絡まり合いは、炭素繊維12a同士の直線性により評価できる。
【0026】
図5を参照して、炭素繊維12a同士の直線性を評価する方法を説明する。評価には、上下に移動可能な横棒部34が起立部32に設けられた支持台30を用いることができる。複合素材10は、所定長さ(例えば、150~300mm程度)に切断して測定用サンプル10Bを用意する。
【0027】
測定用サンプル10Bは、長手方向を上下にし、一端に連結部材36を介して横棒部34に取り付ける。測定用サンプル10Bが弛まないように、適切な重さの錘24を測定用サンプル10Bの他端に接続する。錘24の重さは、測定用サンプル10Bの本来の長さが維持されるように選択される。適切な重さの錘24を用いることによって、測定用サンプル10Bは、支持台30の横棒部34から安定に吊り下げられる。
【0028】
支持台30の起立部32には、検査針20(直径0.55mm)が横方向に延びて設けられている。測定用サンプル10Bの表面に略垂直に検査針20を刺し、横棒部34を上方に移動させることで、測定用サンプル10Bと検査針20とを相対的に移動させる。移動速度は300mm/minとし、移動距離は40mmとする。
【0029】
検査針20には、図示しないロードセルが接続されている。測定用サンプル10Bと検査針20とを相対的に移動させる際、これらの間に作用する荷重がロードセルにより測定される。測定された荷重が小さいほど、炭素繊維束12における炭素繊維12a(図4参照)は直線性が優れている。すなわち、炭素繊維束12に含まれている炭素繊維12a同士は、絡まり合いが少ないことになる。
【0030】
本実施形態に用いられる複合素材10は、所定の条件で検査針20と相対的に移動させた際、複合素材10と検査針20との間に作用する荷重の最大値が0.5N未満であるので、複数の連続した炭素繊維12aは、実質的に絡まり合うことなく直線性を保って配列している。直線性を保って配列している炭素繊維12aは、複合素材10の強度の向上に寄与できる。
【0031】
複合素材10と検査針20との間に作用する荷重の平均値は、0.4N未満であることが好ましい。作用する荷重の平均値は、複合素材10と検査針20とを40mm相対的に移動させる間に810点の荷重を測定し、その810点の荷重の平均として算出する。
【0032】
2.製造方法
次に、本実施形態に係る炭素繊維強化成形体100の製造方法を説明する。炭素繊維強化成形体100は、複合素材10を含むプリプレグを作製し、プリプレグを硬化させて製造することができる。
【0033】
<複合素材の作製>
複合素材10は、CNT14aが単離分散したCNT分散液(以下、単に分散液とも称する)中に、複数の炭素繊維12aを含む炭素繊維束12を浸漬して走行させて、炭素繊維12aのそれぞれの表面にCNT14aを付着させることにより製造することができる。以下、各工程について順に説明する。
【0034】
(分散液の調製)
分散液の調製には、以下のようにして製造されたCNT14aを用いることができる。CNT14aは、例えば特開2007-126311号公報に記載されているような熱CVD法を用いてシリコン基板上にアルミニウム、鉄からなる触媒膜を成膜し、CNTの成長のための触媒金属を微粒子化し、加熱雰囲気中で炭化水素ガスを触媒金属に接触させることによって、作製することができる。
【0035】
不純物を極力含まないCNTであれば、アーク放電法、レーザー蒸発法などその他の方法により作製されたCNTを使用してもよい。製造後のCNTを不活性ガス中で高温アニールすることで、不純物を除去することができる。こうして製造されるCNTは、直径が30nm以下で長さが数100μmから数mmという高いアスペクト比と直線性とを備えている。CNTは、単層および多層のいずれでもよいが、好ましくは多層である。
【0036】
上記のように作製されたCNT14aを用いて、CNT14aが単離分散した分散液を調製する。単離分散とは、CNT14aが1本ずつ物理的に分離して絡み合わずに分散媒中に分散している状態をいい、2以上のCNT14aが束状に集合した集合物の割合が10%以下である状態をさす。
【0037】
分散液は、ホモジナイザーやせん断力、超音波分散機などによりCNT14aの分散の均一化を図る。分散媒としては、水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類;トルエン、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、ヘキサン、ノルマルヘキサン、エチルエーテル、キシレン、酢酸メチル、酢酸エチルなどの有機溶媒を用いることができる。
【0038】
分散液の調製には、分散剤、界面活性剤等の添加剤は必ずしも必要とされないが、炭素繊維12aおよびCNT14aの機能を阻害しない範囲であれば、こうした添加剤を用いてもよい。
【0039】
(CNTの付着)
上記のようにして調製した分散液中に、炭素繊維束12を浸漬して所定の条件で走行させつつ、分散液に機械的エネルギーを付与することで炭素繊維12a表面にCNT14aを付着させる。
【0040】
図6を参照して、炭素繊維12aにCNT14aを付着させる工程を説明する。分散液46が収容されたCNT付着槽40内には、炭素繊維束12を矢印A方向に走行させるためのガイドローラー42が複数配置されている。ガイドローラー42は、図7の側面図に示すように、直径D0が50mm、長さL0が100mmの平ローラーである。
【0041】
炭素繊維束12は、厚み方向に炭素繊維12aが3~30本並んだ程度である。ガイドローラー42の長さL0が炭素繊維束12の幅wに対して十分に大きい。炭素繊維束12は、より小さい巻付角(90°以下)でガイドローラー42に巻き付けられるのが好ましい。ガイドローラー42は、炭素繊維束12を直線状に走行させるように配置するのが好ましい。
【0042】
炭素繊維束12は、ガイドローラー42に確実に支持されて、収縮せずに分散液46中を走行することができる。炭素繊維束12に含まれている炭素繊維12aは、ガイドローラー42に支持された状態で引張り張力を受けることで、絡まり合いが低減されて直線性が向上する。
【0043】
図6に示すように、複数のガイドローラー42によって、炭素繊維束12はCNT付着槽40内の一定の深さを、過度な負荷を受けずに走行速度で走行する。走行中、炭素繊維束12は屈曲されることがないので、炭素繊維束12に含まれている炭素繊維12aが絡まり合うおそれは低減される。炭素繊維束12の走行速度は、1~20m/min程度とすることが好ましい。走行速度が遅いほど、炭素繊維束12における炭素繊維12aの直線性を高めることができる。
【0044】
分散液46に対しては、振動、超音波、搖動などの機械的エネルギーを付与する。これによって、分散液46中では、CNT14aが分散する状態と凝集する状態とが常時発生する可逆的反応状態が作り出される。
【0045】
可逆的反応状態にある分散液中に、複数の連続した炭素繊維12aを含む炭素繊維束12が浸漬されると、炭素繊維12a表面においてもCNT14aの分散状態と凝集状態との可逆的反応状態が起こる。CNT14aは、分散状態から凝集状態に移る際、炭素繊維12a表面に付着する。
【0046】
凝集する際は、CNT14aにファンデルワールス力が作用しており、このファンデルワールス力により炭素繊維12a表面にCNT14aが付着する。こうして、炭素繊維束12中の炭素繊維12aそれぞれの表面にCNT14aが付着した炭素繊維束10Aが得られる。
【0047】
その後、サイジング処理および乾燥を行って、複合素材10が製造される。サイジング処理は、一般的なサイジング剤を用いて一般的な方法により行うことができる。乾燥は、サイジング処理後の炭素繊維束を、例えばホットプレート上に載置して達成することができる。
【0048】
<プリプレグの作製>
複合素材10は、マトリックス樹脂としてのエポキシ樹脂を含浸させてプリプレグとすることができる。エポキシ樹脂の硬化物は、弾性率が2~5GPa程度である。
【0049】
<炭素繊維強化成形体の製造>
プリプレグを所定の長さに裁断し、長手方向を揃えて積層する。積層物に圧力を付与しながら、マトリックス樹脂を加熱硬化させて樹脂硬化物50とする。熱と圧力を付与する方法としては、例えばプレス成形、オートクレーブ成形、真空圧成形、シートワインディング法および内圧成形法が挙げられる。
【0050】
マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合には、80~180℃で0.5~5時間の加熱により樹脂硬化物50が得られる。こうして、複合素材10と樹脂硬化物50とを備えた本実施形態の炭素繊維強化成形体100が製造される。
【0051】
3.作用及び効果
本実施形態に係る炭素繊維強化成形体100は、緩衝材を介した3点曲げ試験を行って得られる弾性率が、緩衝材なしでの3点曲げ試験により得られる弾性率より小さい。3点曲げ試験が、負荷速度が1m/sという高速で行われる場合、炭素繊維強化成形体100の試験片100Aには、図8に示すような狭い領域X1に局所的に大きな衝撃が与えられる。緩衝材230を介した3点曲げ試験では、図9に示すように、衝撃を受ける領域が領域X2に広がるため、試験片100Aに局所的に与えられる衝撃が低減される。
【0052】
炭素繊維強化成形体100は、弾性率の高い炭素繊維12aを含む複合素材10と、弾性率の低い樹脂硬化物50とを備えている。炭素繊維12aの表面に付着しているCNT14aは、樹脂硬化物50の弾性率に影響を及ぼす。炭素繊維強化成形体100が受ける衝撃と弾性率との関係について、以下のように考察した。
【0053】
炭素繊維強化成形体100中の複合素材10に含まれている炭素繊維12aは、衝撃が与えられると変位する。炭素繊維12aの変位は、与えられる衝撃が大きいほど大きくなる。炭素繊維12aの変位が大きい場合、表面に付着しているCNT14aが十分に伸び切るので、CNT14aのネットワーク構造により大きい拘束効果が得られる。すなわち、こうしたCNT14aは、CNTの特性が発揮されて樹脂硬化物50の弾性率を高めることができる。
【0054】
緩衝材なしの3点曲げ試験による弾性率EM0には、樹脂硬化物50の高められた弾性率が反映される。緩衝材を介しない場合、炭素繊維強化成形体100に対し局所的に衝撃が与えられて、微小領域における変位幅が大きくなる。炭素繊維12a表面に付着しているCNT14aのネットワークにより拘束効果が大きく働いて、高弾性となる。
【0055】
炭素繊維12aの変位が小さい場合、すなわち炭素繊維強化成形体100が局所的に受ける衝撃が小さい場合には、炭素繊維12a表面のCNT14aは、伸び切ることができず屈曲しているので、得られる拘束効果が小さい。CNT14aは、伸び切っていない状態では、樹脂硬化物50の弾性率を高める効果を発揮できない。このため、樹脂硬化物50は本来の弾性率を保つ。
【0056】
炭素繊維12aにCNT14aが付着していることで、炭素繊維強化成形体100は振動減衰効果が高い。すなわち、炭素繊維強化成形体100は、外部から与えられた衝撃を効率的に吸収する。炭素繊維強化成形体100は、炭素繊維12a間にCNT14aと樹脂との複合層(図示せず)が存在する。炭素繊維12a間を振動が伝播する際、複合層での摩擦によるエネルギー吸収が生じることから、効率的に衝撃エネルギーを吸収することができる。
【0057】
したがって、炭素繊維12aの変位が小さい場合、炭素繊維強化成形体100は、CNT14aが含まれていない成形体に比べて弾性率が低くなる。炭素繊維12a同士は絡まり合いが少なく、直線性が優れているので、炭素繊維12aの変位の影響が顕著に現れる。
【0058】
このような理由から、緩衝材を介した3点曲げ試験による弾性率EM1は、緩衝材なしの3点曲げ試験による弾性率EM0より小さい値となる。炭素繊維強化成形体100は、緩衝材を介した3点曲げ試験による弾性率EM1が、緩衝材なしの3点曲げ試験による弾性率EM0より小さいので、制振性が優れている。
【0059】
さらに、炭素繊維強化成形体100は、複合素材10に含まれている炭素繊維12aのそれぞれの表面にCNT14aが付着しているので、高い強度を有する。
【0060】
4.変形例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0061】
炭素繊維強化成形体100に含まれる樹脂硬化物50は、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂、フェノキシ樹脂やポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、およびポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂の硬化物とすることができる。
【0062】
3点曲げ試験に用いる試験片100Aは、長さLを100mmとしたが、これに限定されない。80mm離して配置された2つの支点200で支持して3点曲げ試験を実施でき、幅が15mmで厚さが1.8mmであれば、任意の長さLを有する試験片100Aを用いることができる。
【0063】
試験片100Aの弾性率EM0およびEM1を求める際には、緩衝材を介した3点曲げ試験を行って弾性率EM1を求めた後に、緩衝材なしの3点曲げ試験を行って、弾性率EM0を求めてもよい。
【0064】
上記実施形態の場合、炭素繊維強化成形体は、プリプレグを所定の長さに裁断し、長手方向を揃えて積層した場合について説明したが、本発明はこれに限らない。炭素繊維強化成形体は、炭素繊維の長手方向が、重なり合う他の層の炭素繊維と交差するように積層してもよい。
【0065】
5.実施例
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0066】
<プリプレグの作製>
まず、上記製造方法に示す手順で、炭素繊維強化成形体に用いるプリプレグを作製した。CNT14aとしては、熱CVDによりシリコン基板上に直径10~15nm、長さ100μm以上に成長させたMW-CNT(Multi-walled Carbon Nanotubes、多層カーボンナノチューブ)を用いた。
【0067】
CNT14aは、硫酸と硝酸の3:1混酸を用いて洗浄して触媒残渣を除去した後、濾過乾燥した。分散媒としてのMEKにCNT14aを加えて、分散液を調製した。CNT14aは、超音波ホモジナイザーを用いて粉砕して0.5~10μmの長さに切断した。分散液中におけるCNT14aの濃度は、0.01wt%とした。この分散液には、分散剤や接着剤が含有されていない。
【0068】
図6に示したようなCNT付着槽40を用意し、こうして調製された分散液46を収容した。CNT付着槽40には、図7を参照して説明したようなガイドローラー42(直径50mm、長さ100mm)が設けられている。分散液46には、機械的エネルギーとしての振動や超音波、搖動を付与した。
【0069】
炭素繊維束12としては、T700SC-12000(東レ(株)製)を用いた。この炭素繊維束12には、12000本の炭素繊維12aが含まれている。炭素繊維12aの直径は7μm程度であり、長さは100m程度である。炭素繊維束12を分散液46中に浸漬し、ガイドローラー42を介して3.5m/minの速度で走行させた。
【0070】
その後、サイジング剤としてエポキシ樹脂を用いてサイジング処理を施し、約80℃のホットプレート上で乾燥させた。このようにして、複合素材10を作製した。複合素材10は、厚み方向に炭素繊維が12本並んだ帯状であった。
【0071】
複合素材10は、炭素繊維束12に含まれている炭素繊維12aの表面に複数のCNT14aが均等に分散して付着していることが、SEM観察により確認された。
【0072】
得られた複合素材10について、炭素繊維束に含まれている炭素繊維の絡まり合いを評価した。評価は、図5を参照して説明したような方法により、炭素繊維同士の直線性を調べることにより行った。
【0073】
複合素材10は150mmの長さに切断して、測定用サンプル10Bを準備した。測定用サンプル10Bは、支持台30の横棒部34に一端を固定し、他端には20gの錘24を接続した。支持台30の起立部32から延びて設けられた検査針20(直径0.55mm)を、測定用サンプル10Bの長手方向を横切って刺した。測定用サンプル10Bと検査針20との間に作用する荷重を、図示しないロードセルで測定しつつ、測定用サンプル10Bを吊り下げた横棒部34を300mm/minの速度で40mm上昇させた。
【0074】
測定された荷重の最大値、最小値および平均値は、それぞれ0.172N、0.00286N、および0.0764Nであった。複合素材10は、炭素繊維束中の炭素繊維同士の絡まり合いが実質的に存在せず、直線性を保って配列していることが確認された。
【0075】
次いで、マトリックス樹脂としてのエポキシ樹脂を複合素材10に含浸させて、プリプレグを作製した。プリプレグにおける樹脂の体積含有率は、30%であった。複合素材の目付量は、180g/mとした。
【0076】
<予備試験>
プリプレグを用いて、図10に示すような板状の試験片100Bを作製した。試験片100Bは、幅Dが15mm、長さLが200mm、厚さtが1.72~1.78mmの炭素繊維強化成形体である。試験片100Bは、200mmの長さに切断されたプリプレグの長手方向を揃えて積層し(16層)、145℃で1時間加熱してマトリックス樹脂を硬化させて得られた。試験片100Bは、長さLを長手方向して配列した複合素材10と樹脂硬化物50とを備えている。
【0077】
試験片100Bについて、振動減衰特性を評価した。図11を参照して、振動減衰特性の評価方法を説明する。試験片100Bの長辺の一端(50mm)を支持台300に固定する。試験片100Bの他端を矢印B方向に約5mm押し下げて解放することで、試験片100Bを上下(矢印C方向)に振動させる。
【0078】
試験片100Bの変位量は、コントローラー320を介して電源330に接続されたレーザー変位計((株)キーエンス製、LK-G5000V/LK-H0850)310により測定する。測定された変位データは、PC340に収集される。試験片100Bを3つ用意し、それぞれについて3回ずつ、変位量を測定した。
【0079】
測定された変位量の時間変化の一例を、図12のグラフに示す。図12中、縦軸は振幅であり、横軸は時間である。変位の振幅は、時間の経過にともなって減少していることが示されている。最大振幅(正ピーク)から10点の減衰率を平均化して、対数減衰率δを求めた。対数減衰率δは、0.0552であった。
【0080】
試験片100Bと同様の板状に作製した従来のCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)は、前述と同様にして求めた対数減衰率δが0.0499であった。従来のCFRPの作製には、複合素材を、炭素繊維の表面にCNTが付着していない炭素繊維束に変更した以外は前述と同様のプリプレグを用いた。従来のCFRPは、前述の試験片100Bより対数減衰率δが小さいので、振動が長続きして減衰に時間を要する。
【0081】
複合素材10を含む炭素繊維強化成形体100は、従来のCFRPよりも振動減衰効果が高いことが確認された。炭素繊維強化成形体100は、与えられた衝撃をより速く吸収することができる。制振性の向上は、複合素材10に含まれている炭素繊維12aの表面に付着しているCNT14aに起因するものと推測される。
【0082】
<実施例1>
前述のプリプレグを用いて、図2に示したような板状の試験片100Aを作製した。試験片100Aは、幅Dが15mm、長さLが100mm、厚さが1.8mmの炭素繊維強化成形体である。試験片100Aは、15mmの長さに切断されたプリプレグの長手方向を揃えて積層し、145℃で1時間の加熱によりマトリックス樹脂を硬化させて作製した。試験片100Aは、幅Dを長手方向として配列した複合素材10と樹脂硬化物50とを備えている。
【0083】
試験片100Aについて、3点曲げ試験を行なった。試験には、高速衝撃試験機(島津製作所製、EHF-22H-20L)を用いた。まず、図3Aを参照して説明したように、80mm離して設けられた2本の支点200で試験片100Aを支持した。ロードセル220で荷重を測定しつつ、1m/sの負荷速度で圧子210を試験片100Aに直接衝突させた。試験片100Aが破断した際の荷重を用いて、緩衝材なしの場合の弾性率EM0を求めた。
【0084】
次に、図3Bに示したように、緩衝材230として長さ30mm、幅20mm、厚さ5mmのNRスポンジゴム(和気産業(株)、NRS-07)を試験片100Aの上に配置し、前述と同様に圧子210を1m/sの負荷速度で試験片100Aに衝突させた。NRスポンジゴムは、比重が0.08g/cm3、発泡倍率が11倍、日本ゴム協会標準規格(SRIS)に準拠して求めたアスカーC硬度が23である。試験片100Aが破断した際の荷重を用いて、緩衝材ありの場合の弾性率EM1を求めた。
【0085】
求められた弾性率EM0およびEM1を、図13のグラフに示す。実施例1の炭素繊維強化成形体は、緩衝材なしで試験を行った際の弾性率EM0は11.7GPaであるのに対して、緩衝材を介して試験を行った際の弾性率EM1は7.2GPaである。緩衝材を介して圧子を試験片に衝突させると、弾性率EM1は緩衝材なしの場合の弾性率EM0の0.615倍に減少している。
【0086】
<比較例1>
試験片100Aと同様の板状に作製した従来のCFRPについて、前述と同様にして求めた弾性率(EM0およびEM1)を、図14に示す。従来のCFRPの作製には、複合素材を、炭素繊維の表面にCNTが付着していない炭素繊維束に変更した以外は実施例1と同様のプリプレグを用いた。
【0087】
比較例1(従来のCFRP)は、緩衝材なしで試験を行った際の弾性率EM0が、10.5GPaであるのに対して、緩衝材を介して試験を行った際の弾性率EM1が8.6GPaである。比較例1においても、実施例1と同様、緩衝材を介して圧子を衝突させると弾性率は減少している。しかしながら、緩衝材ありの場合の弾性率EM1は、緩衝材なしの場合の弾性率EM0の0.819倍であり、実施例1より減少の程度が少ない。
【0088】
<弾性率EM0同士、弾性率EM1同士の比較>
実施例1と比較例1の弾性率を、図15および図16にまとめて示す。図15には、緩衝材なしで3点曲げ試験を行って得られた弾性率EM0を示し、図16には、緩衝材を介して3点曲げ試験を行って得られた弾性率EM1を示す。
【0089】
図15に示すように、緩衝材なしで3点曲げ試験を行って得られた弾性率EM0は、比較例1より実施例1のほうが10.5%程度大きい。実施例1では、炭素繊維の表面に付着しているCNTによって、樹脂硬化物の弾性率が高められたことに起因すると推測される。
【0090】
緩衝材を介して3点曲げ試験を行って得られた弾性率EM1は、大小関係が逆転しており、実施例1は比較例1より18.2%程度小さい。実施例1では、炭素繊維の表面に付着しているCNTによる振動減衰効果が発揮されたものと推測される。
【0091】
<実施例2>
前述のプリプレグを用いて、図17に示すような板状の試験片100Cを作製した。試験片100Cは、幅Dが15mm、長さLが100mm、厚さtが1.8mmの炭素繊維強化成形体である。試験片100Cは、炭素繊維束の長手方向が直交するようにプリプレグを積層し(17層)、145℃で1.5時間加熱してマトリックス樹脂を硬化させて得られた。試験片100Cの両表面の層は、炭素繊維束の長手方向が、試験片100Cの長手方向に対し平行、すなわち0°となるように配置した。
【0092】
<比較例2>
比較として、複合素材を、炭素繊維の表面にCNTが付着していない炭素繊維束に変更した以外は、試験片100Cと同様とした試験片を作製した。
【0093】
(シャルピーの衝撃試験)
各試験片を4個ずつ用意し、振子式試験機(インスロトン社製、CEAST9050、ハンマ容量:25J)を用い、シャルピーの衝撃試験(JIS K 7077準拠)を行い、ハンマに設けたロードセルで衝撃力を測定した。その結果を図18A図18Bに示す。本図の横軸は時間(ms)、縦軸は衝撃力(N)、曲線は測定された試験片4個の衝撃力-荷重曲線を示す。各曲線におけるピークは、試験片がハンマに接触した後、試験片の慣性によって引き起こされる。本図から、実施例2は、比較例2より衝撃力の起伏が小さく、振動も少ないことが明らかである。
【0094】
本図に基づき、隣り合う谷と山の測定された衝撃力(N)の値の差(以下、振れ幅という)が最も大きい値を、表1に示す。ハンマが試験片に接触した後、0.5msの間の振れ幅の最大値は、実施例2が72(N)、比較例2が235(N)であった。このことから、実施例2は、比較例2に対し振れ幅が1/3程度であり、制振性に優れていることが確認された。
【0095】


【表1】
【0096】
<実施例3>
前述のプリプレグを用いて、実施例2と同様の手順で板状の試験片を作製した。試験片は、幅Dが60mm、長さLが60mm、厚さtが1.8mmの炭素繊維強化成形体である。
【0097】
<比較例3>
比較として、複合素材を、炭素繊維の表面にCNTが付着していない炭素繊維束に変更した以外は、実施例3の試験片と同様とした試験片を作製した。
【0098】
(落錘試験)
各試験片を落錘試験器に設置し、ステンレス製の先端が半球状の重り(直径30mm、重さ440g)を高さ350mmから落下させ、試験片に衝撃を与えた。試験後の試験片の内部を超音波探傷試験器((株)KJTD社製、デスクトップ型超音波探傷映像化装置)にて、解析した。解析を終えた試験片に、さらに上記手順で2回衝撃を与え、同様に内部の解析をした。その結果を図19及び図20に表面方向からの断面測定画面、及び側面方向からの断面測定画面を示す。なお、側面方向からの断面測定画面は、表面から深さ方向に0.45mmの位置から1.3mmの範囲である。同図の表面方向からの断面測定画面において、試験片の内部に剥離が生じていない場合、黒色で表示される。側面方向からの断面測定画面において、試験片の内部に剥離が生じている部分は、黒と白の中間色で表示される。
【0099】
実施例3は、表面方向からの断面測定画面においてほとんどが黒色で表示されており、また側面方向からの断面測定画面において中間色がほとんど認められないことから、内部にほとんど剥離が生じていないことが確認された。一方、比較例3は、表面方向からの断面測定画面において重りの打痕に対応した位置に中間色の部分が認められ、当該部分が大きく損傷していることが分かる。また比較例3の側面方向からの断面測定画面において、裏面側から0.2mm付近でも大きな剥離が発生しており、厚さ方向の全体にわたって剥離が生じていることが確認された。
【0100】
本結果から実施例3は、比較例3に比べ、格段に優れた耐衝撃性が得られることが分かった。
【符号の説明】
【0101】
100 炭素繊維強化成形体
10 複合素材
12 炭素繊維束
12a 炭素繊維
14a カーボンナノチューブ(CNT)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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図19
図20