IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立建機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-自動運転作業機械 図1
  • 特許-自動運転作業機械 図2
  • 特許-自動運転作業機械 図3
  • 特許-自動運転作業機械 図4
  • 特許-自動運転作業機械 図5
  • 特許-自動運転作業機械 図6
  • 特許-自動運転作業機械 図7
  • 特許-自動運転作業機械 図8
  • 特許-自動運転作業機械 図9
  • 特許-自動運転作業機械 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】自動運転作業機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/20 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
E02F9/20 Q
E02F9/20 N
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019039782
(22)【出願日】2019-03-05
(65)【公開番号】P2020143481
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】山田 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】土江 慶幸
(72)【発明者】
【氏名】泉 枝穂
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-090120(JP,A)
【文献】特開2000-291077(JP,A)
【文献】特開平08-84375(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0133093(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体本体と、前記車体本体に搭載された作業機と、前記作業機を操作するための操作装置と、前記操作装置の操作によって生成される手動運転指令信号に基づいて前記作業機を駆動するアクチュエータと、前記作業機の姿勢に関する情報である姿勢情報を取得する姿勢情報計測装置と、前記手動運転指令信号を代替する自動運転指令信号を生成することで前記作業機に所定の動作を自動的に行わせる自動運転を行う自動運転コントローラとを備えた自動運転作業機械において、
前記自動運転作業機械の周囲の地形情報を取得する地形情報計測装置をさらに備え、
前記自動運転コントローラは、前記自動運転が終了した際に、前記地形情報計測装置で取得した地形情報に基づいて前記作業機を設置可能な接地可能範囲を検出する検出処理を実施し、接地可能範囲が検出された場合には前記作業機を前記接地可能範囲に接地させる自動運転指令信号を生成し、接地可能範囲が検出されない場合には前記作業機を所定の待機姿勢にさせる自動運転指令信号を生成することを特徴とする自動運転作業機械。
【請求項2】
請求項1記載の自動運転作業機械において、
前記車体本体は、下部走行体と、前記下部走行体に対して旋回可能に設けられ、前記手動運転指令信号に基づいて前記下部走行体に対して旋回動作される上部旋回体とから構成され、
前記自動運転コントローラは、前記自動運転が終了した際に、前記下部走行体と前記上部旋回体との相対的な旋回角度が予め定めた範囲内となるように前記上部旋回体を旋回動作させる自動運転指令信号を生成することを特徴とする自動運転作業機械。
【請求項3】
請求項2記載の自動運転作業機械において、
前記下部走行体を操作するための走行操作装置をさらに備え、
前記自動運転コントローラは、前記自動運転が終了した際に、前記走行操作装置の操作方向と前記走行操作装置の操作による前記下部走行体の走行方向との相対角度が予め定めた範囲内となるように前記上部旋回体を旋回動作させる自動運転指令信号を生成することを特徴とする自動運転作業機械。
【請求項4】
請求項1記載の自動運転作業機械において、
前記車体本体の傾斜角度および傾斜方向を姿勢情報として取得する姿勢情報計測装置をさらに備え、
前記自動運転コントローラは、前記自動運転が終了した際に、前記車体本体の傾斜角度が予め定めた範囲外の場合に、前記車体本体の走行方向と前記傾斜角度の傾斜方向との水平面投影における相対角度が予め定めた範囲内となるように前記車体本体を移動させる自動運転指令信号を生成することを特徴とする自動運転作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無人での運転が可能な自動運転作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車と同様に作業機械の自動化が進んでおり、オペレータの操作に伴う作業機の動作を予め与えられた目標面に沿って自動調整するようなマシンコントロールと呼ばれる技術が開発されている。また、これらの自動化技術の進展により、一部の作業をオペレータの操作を必要とせずに無人で行う自動運転を実施可能な作業機械(自動運転作業機械)が開発されている。
【0003】
このような自動運転作業機械に係る技術として、例えば、特許文献1には、教示操作により複数の位置が教示されて記憶されるとともに、再生操作により前記記憶された複数の位置に基づいて掘削から放土までの一連の動作を自動的に繰り返し行う自動運転ショベルにおいて、当該自動運転ショベルは、前記教示操作により教示されて記憶される前記複数の位置として、少なくとも、掘削位置、放土位置、および待機位置からなる位置を記憶する教示位置記憶手段と、前記待機位置への移動が指令された時、当該自動運転ショベルが前記掘削から放土までの一連の動作のいずれの動作状態にあるかを判別して、それぞれの動作状態に応じて所定の待機動作を行わせて、所定の待機位置に待機させる待機動作処理手段とを備える自動運転ショベルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-90120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような自動運転作業機械は、特定の作業を一定時間自動で行い、その間はオペレータの操作を必要としないため、オペレータが作業を指示して自動運転を開始した後は作業機械に乗っている必要はなく、別の場所で異なる作業に従事することができる。また、自動運転作業機械は、指示された作業が終了した場合、或いは、何らかの原因により作業を完遂できない場合などに、自動運転を終了し、次の自動運転の指示やオペレータの搭乗による操作があるまで待機することとなる。
【0006】
このように自動運転建設機械が自動運転を終了して待機する場合には、作業機械の待機姿勢が重要であり、待機姿勢はできる限り車体が安定する状態であることが望ましく、加えて無人状態からオペレータが搭乗して操作する状態に切り換える可能性があることも考慮しなければならない。
【0007】
上記従来技術においては、自動運転の終了時などに待機指令が発せられた場合は、ショベルを自動的に所定の待機動作を行わせるとともに、オペレータがショベルに乗降する場合には自動的に乗降しやすい位置(以下、待機位置という)へと移動させ、また、安定した姿勢であってオペレータの乗降時の安全性が確保しやすい所定の待機姿勢をとらせて待機させている。
【0008】
しかしながら、上記従来技術における待機姿勢は予め設定されたものであり、周囲の状況によっては予め設定された待機姿勢が適さない場合や待機姿勢をとることができない場合が考えられる。
【0009】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、自動運転が終了した際の周辺状況に応じて適した待機姿勢をとることができる自動運転作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、車体本体と、前記車体本体に搭載された作業機と、前記作業機を操作するための操作装置と、前記操作装置の操作によって生成される手動運転指令信号に基づいて前記作業機を駆動するアクチュエータと、前記作業機の姿勢に関する情報である姿勢情報を取得する姿勢情報計測装置と、前記手動運転指令信号を代替する自動運転指令信号を生成することで前記作業機に所定の動作を自動的に行わせる自動運転を行う自動運転コントローラとを備えた自動運転作業機械において、前記自動運転作業機械の周囲の地形情報を取得する地形情報計測装置をさらに備え、前記自動運転コントローラは、前記自動運転が終了した際に、前記地形情報計測装置で取得した地形情報に基づいて前記作業機を設置可能な接地可能範囲を検出する検出処理を実施し、接地可能範囲が検出された場合には前記作業機を前記接地可能範囲に接地させる自動運転指令信号を生成し、接地可能範囲が検出されない場合には前記作業機を所定の待機姿勢にさせる自動運転指令信号を生成するものとする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、通信ネットワークの通信性能に応じて適切に自動施工の継続実行を行うことができ、作業機械の作業効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施の形態に係る自動運転作業機械の一例である油圧ショベルの外観を模式的に示す外観図である。
図2】自動運転作業機械に搭載される車体制御システムの一例を油圧回路システムなどの関連構成とともに抜き出して示す概略図である。
図3】車体コントローラ及び自動運転コントローラの処理機能の詳細を示す図である。
図4】自動運転待機時における動作計画部の処理内容を示すフローチャートである。
図5】自動運転待機時における動作計画部の処理内容を示すフローチャートであり、図4における待機姿勢決定処理の処理内容を示すフローチャートである。
図6】油圧ショベルの姿勢例を示す図である。
図7】油圧ショベルの姿勢例を示す図である。
図8】油圧ショベルの姿勢例を示す図である。
図9】油圧ショベルの姿勢例を示す図である。
図10】第2の実施の形態に係る自動運転待機時における動作計画部の処理内容を示すフローチャートであり、待機姿勢決定処理の処理内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0014】
なお、本実施の形態では、自動運転作業機械の一例として、フロント装置(作業機)を備える油圧ショベルを例示して説明するが、例えば、ホイールローダやブルドーザなどのように作業機を備える他の自動運転作業機械にも本発明を適用することが可能である。
【0015】
また、以下の説明では、同一の構成要素が複数存在する場合、符号(数字)の末尾にアルファベットを付すことがあるが、当該アルファベットを省略して当該複数の構成要素をまとめて表記することがある。例えば、4つの姿勢情報計測装置3a,3b,3c,3dが存在するとき、これらをまとめて姿勢情報計測装置3と表記することがある。
【0016】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態を図1図9を参照しつつ説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態に係る自動運転作業機械の一例である油圧ショベルの外観を模式的に示す外観図である。また、図2は、自動運転作業機械に搭載される車体制御システムの一例を油圧回路システムなどの関連構成とともに抜き出して示す概略図であり、図3は車体コントローラ及び自動運転コントローラの処理機能の詳細を示す図である。
【0018】
図1図3において、油圧ショベル100は、垂直方向にそれぞれ回動する複数のフロント部材(ブーム13、アーム14、バケット15)を連結して構成された多関節型の作業機10と、車体本体を構成する上部旋回体11及び下部走行体12とを備えており、上部旋回体11は下部走行体12に対して旋回可能に設けられている。
【0019】
作業機10のブーム13の基端は上部旋回体11の前部に垂直方向に回動可能に支持されており、アーム14の一端はブーム13の基端とは異なる端部(先端)に垂直方向に回動可能に支持されており、アーム14の他端にはバケット15が垂直方向に回動可能に支持されている。フロント部材(ブーム13、アーム14、バケット15)は、油圧アクチュエータであるブームシリンダ18a、アームシリンダ18b、及びバケットシリンダ18cによりそれぞれ駆動される。なお、以下の説明では、ブームシリンダ18a、アームシリンダ18b、及び、バケットシリンダ18cをまとめて油圧シリンダ18と表記することがある。
【0020】
作業機10のアーム14とバケット15との間には、アーム14及びバケット15とともに四節リンク機構を構成するバケットリンク16,17が設けられている。バケットリンク16の一端はアーム14に回動可能に支持され、他端はバケットリンク17の一端に回動可能に支持され、バケットリンク17の他端はバケット15に回動可能に支持されている。一端をアーム14に、他端をバケットリンク16にそれぞれ回動可能に支持されているバケットシリンダ18cの伸縮に応じて、四節リンク機構を構成するバケットリンク16がアーム14に対して相対的に回動駆動され、このバケットリンク16の回動駆動と連動して、四節リンク機構を構成するバケット15がアーム14に対して相対的に回動駆動される。
【0021】
下部走行体12には、左右一対のクローラをそれぞれ駆動する走行油圧モータ19b,19c(図示しない減速機構を含む)が設けられている。なお、図1において、下部走行体12に設けられた左右一対の走行油圧モータ19b,19cについては一方のみを図示して符号を付し、他方の構成については図中に括弧書きの符号のみを示して図示を省略する。上部旋回体11は旋回油圧モータ19a(図2参照)によって下部走行体12に対して旋回駆動され、下部走行体12の左右一対のクローラはそれぞれ左右の走行油圧モータ19b,19cにより駆動される。上部旋回体11と下部走行体12との間の旋回駆動部には、下部走行体12に対する上部旋回体11の旋回角度を計測する旋回角センサ56が配置されている。なお、以下の説明では、旋回油圧モータ19a及び走行油圧モータ19b,19cをまとめて油圧モータ19と表記することがある。
【0022】
以上のように構成した油圧ショベル100の走行油圧モータ19b,19cを駆動することにより車体本体を所望の位置に移動し、旋回油圧モータ19aを駆動することにより上部旋回体11を所望の方向に旋回駆動し、ブームシリンダ18a、アームシリンダ18b、バケットシリンダ18cを適切な位置に駆動することにより、作業機10の先端に設けられたバケット15を任意の位置、姿勢に駆動して掘削などの所望の作業を行う。
【0023】
上部旋回体11、作業機10のブーム13、アーム14、及びバケット15のバケットリンク16には、それぞれ、姿勢に関する情報である姿勢情報を取得する姿勢情報計測装置3a~3dが取り付けられている。姿勢情報は、姿勢情報計測装置3a~3dが取り付けられた部材のそれぞれの傾斜角度や傾斜方向を示すものであり、例えば、水平面に対して相対的に、或いは、他の部材に対して相対的に示される。本実施の形態では、姿勢情報計測装置3a~3dとしてIMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)を用いる場合を例示して説明する。姿勢情報計測装置3a~3dは、各姿勢情報計測装置3a~3dに設定されたIMU座標系における加速度や角速度の計測値を姿勢情報として出力する。重力加速度は水平面に対して常に垂直であるので、これらの計測値と、姿勢情報計測装置3a~3dの取り付け状態(つまり、姿勢情報計測装置3a~3dと上部旋回体11、ブーム13、アーム14、及び、バケットリンク16)との相対的な位置関係)などの情報とを用いることで上部旋回体11や作業機10の各フロント部材(ブーム13、アーム14、バケット15)の水平面に対する傾斜角度や傾斜方向を取得することができ、自己姿勢を知ることができる。特に、四節リンク機構を構成するバケット15については、バケットリンク16に設けられた姿勢情報計測装置3dからの計測結果に加え、アーム14に設けられた姿勢情報計測装置3cからの計測結果と、四節リンク機構の寸法情報とに基づいて回転姿勢を知ることができる。なお、本実施の形態では姿勢情報計測装置としてIMUを用いる場合を例示して説明している、これに限るものではなく、同様の情報が得られればポテンショメータやシリンダストロークセンサ等を用いてもよい。
【0024】
また、上部旋回体11の前部であって、作業機10のブーム13の基端の支持部の横側(本実施の形態では左側)には、オペレータが搭乗して油圧ショベル100の運転を行うための運転室20が配置されている。運転室20には、作業機10を操作する操作装置としてのアーム操作レバー50a、ブーム操作レバー50b、及び、バケット操作レバー50cと、上部旋回体11の旋回動作を操作する操作装置としての旋回操作レバー50dと、下部走行体12の走行動作を操作する走行操作装置としての走行操作レバー50e,50fとが配置されている(図2参照)。なお、以下の説明では、上記の操作レバー50a~50fをまとめて操作レバー50と表記することがある。操作レバー50はレバーの操作量に応じた電圧または電流を出力するものであって車体コントローラ51(図2参照)に電気的接続されており、操作レバー50の各操作量が車体コントローラ51で読み取り可能となっている。
【0025】
上部旋回体11には、車体制御システムを構成する車体コントローラ51や自動運転コントローラ52、GNSSコントローラ53などのほかに、原動機であるエンジン41と、エンジン41によって駆動される固定容量型のパイロット油圧ポンプ42および可変容量型のメイン油圧ポンプ43と、メイン油圧ポンプ43から吐出されてブームシリンダ18a、アームシリンダ18b、バケットシリンダ18c、旋回油圧モータ19a、及び、左右の走行油圧モータ19b,19cなどの油圧アクチュエータに供給される作動油の方向及び流量を制御する方向制御弁45と、車体コントローラ51からの制御信号に基づいてパイロット油圧ポンプ42の吐出圧から方向制御弁45を制御するパイロット圧を生成する制御弁47a~47lが配置されており、これらによって油圧回路システムが構成されている。なお、以下の説明では、制御弁47a~47lをまとめて制御弁47と表記することがある。
【0026】
パイロット油圧ポンプ42及びメイン油圧ポンプ43は、エンジン41により駆動されることで圧油を油圧回路内に供給する。ここで、パイロット油圧ポンプ42により供給される油をパイロット油、メイン油圧ポンプ43により供給される油を作動油と区別して呼ぶこととする。パイロット油圧ポンプ42から供給されるパイロット油は、遮断弁46、制御弁47を経由して方向制御弁45に送られる。遮断弁46及び制御弁47は車体コントローラ51と電気的に接続されており、車体コントローラ51からの制御信号によって遮断弁46の弁の開閉や制御弁47の弁開度が制御される。
【0027】
方向制御弁45は、メイン油圧ポンプ43から各油圧シリンダ18及び各油圧モータ19に供給される作動油の量や方向を制御するものであり、制御弁47を経由したパイロット油に応じて、どの油圧シリンダ18または油圧モータ19にどれだけの作動油をどの方向に流すかが制御される。具体的には、制御弁47aを経由して方向制御弁45に送られたパイロット油に応じて、油圧シリンダ18bを伸長又は縮退の一方に駆動するような作動油の量が方向制御弁45内で決まり、制御弁47bを経由して方向制御弁45に送られたパイロット油に応じて、油圧シリンダ18bを他方に駆動するような作動油の量が方向制御弁45内で決まる。
【0028】
同様に、制御弁47c、47dを経由したパイロット油によって油圧シリンダ18aを駆動する作動油の量が、制御弁47e、47fを経由したパイロット油によって油圧シリンダ18cを駆動する作動油の量が、制御弁47g、47hを経由したパイロット油によって旋回油圧モータ19aを駆動する作動油の量が、制御弁47i、47jを経由したパイロット油によって走行油圧モータ19bを駆動する作動油の量が、制御弁47k、47lを経由したパイロット油によって走行油圧モータ19cを駆動する作動油の量がそれぞれ方向制御弁45内で決まる。
【0029】
また、上部旋回体11の上部の運転室20の後方付近には、作業現場における油圧ショベル100の地球座標系における位置を算出するためのGNSSを構成する2つのGNSSアンテナ2a,2bが配置されている。なお、以下の説明では、GNSSアンテナ2a,2bをまとめてGNSSアンテナ2と表記することがある。
【0030】
GNSSとは複数の衛星からの信号を受信し、地球上の自己位置を知る衛星測位システムのことである。GNSSアンテナ2は、地球上空に位置する複数のGNSS衛星(図示しない)からの信号(電波)を受信するものであり、得られた信号をGNSSコントローラ53(図2参照)に送って演算を行うことで、GNSSアンテナ2a、2bの地球座標における位置が取得される。なお、本実施の形態においては、上部旋回体11に設けた2つのGNSSアンテナ2a,2bの受信信号から位置を演算する場合を例示して説明するが、これに限定されるものではない。すなわち、測位の方法には様々な種類が存在し、例えば、現場に設置したGNSSアンテナを含む基準局から補正情報を受信し、より高精度に自己位置を取得するRTK-GNSS(Real Time Kinematic-GNSS)という手法を用いてもよい。この場合には、油圧ショベル100には基準局からの補正情報を受信するための受信機が必要となるが、GNSSアンテナ2の自己位置をより精度良く測定することができる。
【0031】
GNSSコントローラ53によって2つのGNSSアンテナ2a、2bの地球座標での位置(地球上の位置であって、例えば、緯度、経度、標高などの情報である)が得られる。また、予め上部旋回体11のどの位置にGNSSアンテナ2が配置されているかという情報を持っていれば、GNSSアンテナ2の位置から逆算して、上部旋回体11の地球上の位置を求めることができる。また、2つのGNSSアンテナ2a,2bのそれぞれの位置を計測することにより、上部旋回体11の向き、すなわち、作業機10がどの方向を向いているかも知ることができる。
【0032】
以上のように、GNSS(GNSSアンテナ2及びGNSSコントローラ53)と姿勢情報計測装置3aとの計測結果から上部旋回体11の位置、方位、前後傾斜、左右傾斜を知ることができ、上部旋回体11が地球上のどの位置にどのような姿勢で存在するかを求めることができる。また、ブーム13、アーム14、バケット15のそれぞれの寸法情報と、姿勢情報計測装置3b~3dから得られるブーム13、アーム14、バケットリンク16の各回転姿勢とから、上部旋回体11に対するバケット15のバケット先端150の位置を知ることができる。つまり、地球上のどの位置にどのような姿勢でバケット15を含む作業機10が存在するかを求めることができる。
【0033】
上部旋回体11には、油圧ショベル100の周囲の地形情報を取得する地形情報計測装置としてのレーザスキャナ57a~57dが配置されている。本実施の形態では、運転室20の上部に上部旋回体11の前方を計測するレーザスキャナ57aを、上部旋回体11の上部の右側に右側方を計測するレーザスキャナ57bを、上部旋回体11の上部の後方に後方を計測するレーザスキャナ57cを、上部旋回体11の上部の左側に左側方を計測するレーザスキャナ57dをそれぞれ配置した場合を例示して説明する。なお、以下の説明では、レーザスキャナ57a~57dをまとめてレーザスキャナ57と表記することがある。レーザスキャナ57は水平方向、垂直方向の一定範囲にレーザ光を照射することで物体の三次元形状を計測可能なセンサであり、上部旋回体11の前後左右にそれぞれ配置されたレーザスキャナ57により、油圧ショベル100の周辺の地形や物体の形状を計測する。なお、本実施の形態では、地形や物体の形状の計測にレーザスキャナを用いている場合を例示して説明しているが、これに限られず、同様の情報が得られればステレオカメラ等を用いても良い。
【0034】
ここで、油圧ショベル100の基本動作について説明する。
【0035】
油圧ショベル100の動作において、車体コントローラ51は、まず、操作レバー50からの操作入力を受けて、各アクチュエータ(油圧シリンダ18a~18c、油圧モータ19a~19c)をどの方向にどの程度の速度(目標速度)で動作させるかを決定する。次に、方向と目標速度から方向制御弁45の各部に流すパイロット油(目標パイロット油)の流量を決定する。
【0036】
このとき、車体コントローラ51は方向制御弁45の各部にどれだけのパイロット油が流れれば、各アクチュエータがどの方向にどれだけの速度で動作するかといった、パイロット油とアクチュエータ速度との変換マップを持っており、これを適用することで目標速度から目標パイロット油に変換することができる。目標パイロット油が求まると、車体コントローラ51は、動作させたいアクチュエータとその方向に対応しているいずれかの制御弁47の弁開度を調整し、方向制御弁45に対して目標の流量通りのパイロット油が流れるように制御する。
【0037】
また、制御弁47が車体コントローラ51から出力される電流によってその弁開度が制御されるものであったとすると、車体コントローラ51は各制御弁47毎にどれくらいの電流を流せばどれだけのパイロット油が流れるかという、電流とパイロット油との変換マップを持っており、これを適用することで目標パイロット油から制御弁47への出力電流を求め、制御弁47を通過するパイロット油が目標通りの流量となるように制御弁47の弁開度を制御することができる。
【0038】
このようにして、車体コントローラ51は、有人操作状態のときは、操作レバー50aの操作量に応じて生成した手動運転指令信号によって制御弁47a、47bの弁開度を制御し、操作レバー50bの操作量に応じて生成した手動運転指令信号によって制御弁47c、47dの弁開度を制御し、操作レバー50cの操作量に応じて生成した手動運転指令信号によって制御弁47e、47fの弁開度を制御し、操作レバー50dの操作量に応じて生成した手動運転指令信号によって制御弁47g、47hの弁開度を制御し、操作レバー50eの操作量に応じて生成した手動運転指令信号によって制御弁47i、47jの弁開度を制御し、操作レバー50fの操作量に応じて生成した手動運転指令信号によって制御弁47k、47lの弁開度を制御する。
【0039】
このような構成により、油圧ショベル100は、操作レバー50a、50b、50c、50d、50e、50fをそれぞれ操作することにより、アーム14、ブーム13、バケット15、上部旋回体11、左クローラ、右クローラを駆動することができ、オペレータが操作レバー50の操作によって車体を移動させて任意の作業を実施することができる。
【0040】
また、車体コントローラ51は前述の通り遮断弁46の弁開閉も制御できる。遮断弁46が閉じればパイロット油が制御弁47や方向制御弁45に供給されることを遮断でき、各アクチュエータが動作することはなくなるため、車体コントローラ51は、制御弁47の弁開度を制御することに加えて、より確実に全アクチュエータの動作を停止させることが可能となる。
【0041】
GNSSアンテナ2a、2bは、受信したGNSS衛星からの信号をGNSSコントローラ53へ送る。GNSSコントローラ53では、複数のGNSS衛星からの信号を基にGNSSアンテナ2a、2bの地球上の位置(例えば緯度、経度、標高)を演算し、その結果を自動運転コントローラ52へ送信する。自動運転コントローラ52には、GNSSコントローラ53に加え、姿勢情報計測装置3a~3dやモニタ54、旋回角センサ56、レーザスキャナ57、切替スイッチ58などが接続されている。
【0042】
姿勢情報計測装置3は、加速度、角速度などの計測結果を自動運転コントローラ52へ送り、自動運転コントローラ52ではそれらの情報を基に上部旋回体11の前後傾斜、左右傾斜、ブーム13の回転姿勢、アーム14の回転姿勢、バケット15の回転姿勢を演算する。具体的には、姿勢情報計測装置3であるIMUの計測結果について、角速度の積分処理による角度や重力加速度の取得による重力方向との成す角度などの情報を利用する相補フィルタやカルマンフィルタなどを用いることで、IMU(姿勢情報計測装置3)自体の重力方向に対する三次元角度が求まり、各姿勢情報計測装置3の油圧ショベル100の各取り付け部に対する取付姿勢を予め較正しておくことで、姿勢情報計測装置3自体の傾斜角度から上部旋回体11やブーム13、アーム14、バケットリンク16の回転姿勢が得られ、アーム14とバケットリンク16の回転姿勢からバケット15の回転姿勢が得られる。
【0043】
旋回角センサ56は、上部旋回体11と下部走行体12との間の旋回角度を計測するものであり、例えばロータリーエンコーダ等を用いることができる。旋回角センサ56の計測結果は自動運転コントローラ52へ送られ、自動運転コントローラ52は上部旋回体11と下部走行体12との間の旋回角度を知ることができる。
【0044】
レーザスキャナ57は、車体周囲の地面や物体等の三次元形状を計測し、自動運転コントローラ52へ形状情報(地形情報)を送信する。自動運転コントローラ52では、レーザスキャナ57から得られた車体周囲の形状情報と、上部旋回体11に対するレーザスキャナ57の配置箇所や配置姿勢情報とを基に、複数のレーザスキャナ57から得られた情報を車体基準での一つの形状情報に統合する。本実施の形態では上部旋回体11に四つのレーザスキャナ57を配置しており、これらの情報を統合することで車体の全周囲の地形情報を計測可能となっている。ただし、十分な計測範囲を持つセンサを使用することで、この個数を減らすことも可能であるし、冗長性を持たせる等の理由から個数を増やしてもよい。
【0045】
切替スイッチ58は、上部旋回体11の運転室内に設置されており、有人操作状態と無人自動運転状態を切り替えるスイッチである。切替スイッチ58は自動運転コントローラ52に接続されており、切替スイッチ58から得られる信号を基に自動運転コントローラ52で有人操作状態と無人自動運転状態が切り替わる。
【0046】
モニタ54は、上部旋回体11の運転室20内に設置されているタッチパネル式の入出力デバイスであり、無人自動運転の作業内容を入力するのに用いられる。例えば、作業の種類(掘削積込、法面整形、土羽打ち、等)、作業範囲、目標形状等をモニタ54経由で自動運転コントローラ52に入力することができる。
【0047】
続いて、油圧ショベル100の自動運転動作について説明する。
【0048】
図3に示すように、自動運転コントローラ52は、認識部521、状態管理部522、及び、動作計画部523の三つの処理部を有している。また、車体コントローラ51は、車体制御部511を有している。
【0049】
自動運転コントローラ52の認識部521は、姿勢情報計測装置3、GNSSコントローラ53、旋回角センサ56、及び、レーザスキャナ57からの情報が入力され、上部旋回体11の傾斜角度や位置、方位、旋回角度、作業機各部の回転姿勢、車体周囲の地形などが演算される。演算結果は、状態管理部522と動作計画部523とに送られる。
【0050】
状態管理部522は、切替スイッチ58の信号が入力されており、状態管理部522において有人操作状態と無人自動運転状態との切り換えを管理する。また、無人自動運転状態では、状態管理部522において、認識部521から得られる各認識情報と動作計画部523から得られる動作計画情報とに基づいて自動運転作業の進捗状況を管理し、与えられた自動運転作業が完了した場合は自動運転作業完了を動作計画部523に通知する。
【0051】
動作計画部523は無人自動運転状態において、モニタ54から得られる自動運転作業内容と認識部521から得られる認識情報とに基づいて具体的な車体の動作を計画し、計画した動作を実行する各アクチュエータ(各油圧シリンダ18、各油圧モータ19)の目標動作速度を演算する。例えば、自動運転作業として一定範囲の法面を整形するといった内容の場合、目標とする法面形状がモニタ54経由で与えられると、下部走行体12を制御して整形範囲付近まで走行させ、目標法面に正対するように上部旋回体11を旋回させる動作計画を生成するとともに、バケット先端150が目標法面形状をなぞるような作業機10の各部の一連の動作計画を生成し、動作計画から各アクチュエータ速度を生成する。
【0052】
車体制御部511は、操作レバー50の各操作量を取得すると共に、状態管理部522から得られる有人操作状態か無人自動運転状態かの情報と、無人自動運転状態の場合、動作計画部523から得られる各アクチュエータの目標動作速度を取得する。車体制御部511では、有人操作状態の場合、操作レバー50の操作量に応じて各アクチュエータを動作させるよう制御弁47を駆動し、無人自動運転状態の場合は動作計画部523から得られる目標動作速度に応じて各アクチュエータを動作させるよう制御弁47を駆動する。
【0053】
このような構成により、自動運転コントローラ52は、オペレータの操作を代替する操作信号(自動運転指令信号)を生成し、車体コントローラ51に操作指令を送ることで、オペレータの操作を必要とせず、無人で油圧ショベル100を動かすことが可能となっている。
【0054】
図4及び図5は、自動運転待機時における動作計画部の処理内容を示すフローチャートであり、図5図4における待機姿勢決定処理の処理内容を示すフローチャートである。また、図6図9は、油圧ショベルの姿勢例をそれぞれ示す図である。
【0055】
図4において、動作計画部523は、まず、状態管理部522から渡される自動運転作業完了の情報を確認して、自動運転待機状態であるかどうかを判定し(ステップS101)、判定結果がNOである場合、すなわち、作業が完了していな位場合には処理を終了し、自動運転が継続される。
【0056】
また、ステップS101での判定結果がYESである場合、すなわち、作業完了状態である場合には、レーザスキャナ57からの情報を基に認識部521で演算された車体周囲の地面や物体の形状情報を取得する(ステップS102)。
【0057】
続いて、ステップS102で取得した情報を基に、車体周囲で作業機を接地できる場所を探索する(ステップS103)。
【0058】
なお、作業機接地可能範囲の探索は複数の方法が考えられ、例えば最も単純な方法では形状情報からバケット15を接地できるだけの平らな場所を探索することが考えられる。他には、自動運転コントローラ52が予め現場で測定されていた作業現場の現況地形情報を持っておき、現況地形と取得した地面や物体の形状情報との対応する箇所同士を比較し、現況地形に対して取得した形状が高さ方向に増加している箇所が一定範囲連続して存在する場合、その範囲を地面ではなく何らかの障害物であると認識してその箇所を作業機接地可能範囲から除外するといった方法も考えられる。
【0059】
また、自動運転コントローラ52に現況地形だけではなく作業現場の地図情報を与えておき、その地図に現場の機械が移動する走行範囲などの情報を付加しておけば、それらの範囲を作業機接地可能範囲から除外することも考えられる。この場合、これらの現況地形や地図情報は予め動作計画部523に与えられているものとする。
【0060】
また、作業機接地可能範囲を探索する際、走行しなければ作業機が到達しない範囲の場合、その位置まで走行可能かどうか(途中に障害物等がないかどうか)、上部旋回体11を旋回させなければならない範囲の場合、その位置まで旋回可能かどうかも考慮される。
【0061】
ステップS103において作業機接地可能範囲を探索し終えたら、続いて、待機姿勢決定処理を行う(ステップS104)。
【0062】
図5に示すように、待機姿勢決定処理(ステップS104)では、まず、ステップS103で探索した作業機接地可能範囲の結果に対して、作業機接地可能範囲が存在するかどうかを判定する(ステップS111)。
【0063】
ステップS111での判定結果がNOの場合、すなわち、ステップS103の探索の結果、作業機接地可能範囲が全く存在しないと判定された場合は、予め定められた作業機未接地姿勢を待機姿勢に決定し、待機姿勢決定処理を終了して図4のステップS105に進む。ここで、作業機未接地姿勢とは、例えば図9に示すようにブーム13を最大まで上げ、アーム14を最大までブーム13側に巻き込んだような姿勢であり、作業機を接地させない条件で最も車体が安定する姿勢である。
【0064】
また、ステップS111での判定結果がYESの場合、すなわち、作業機接地可能範囲が存在していると判定された場合には、作業機接地位置を決定する(ステップS112)。作業機接地位置の決定は、例えば、作業機接地可能範囲の中で現在の作業機位置から最も近い位置とすることが考えられる。この場合、作業機を移動させる距離が最小化され、素早く待機姿勢へと移行することが可能となる。また、作業機接地可能範囲の中で現在の姿勢から上部旋回体11の旋回角度が最小となる位置を作業機接地位置とすることも考えられる。この場合、上部旋回体11の旋回動作が最小化され、より安全に待機姿勢へと移行することが可能となる。
【0065】
ステップS112において作業機接地位置が決まると、続いて、作業機接地位置に作業機を接地させる待機姿勢を決定し(ステップS113)、待機姿勢決定処理を終了して図4のステップS105に進む。作業機接地での待機姿勢は、例えば図6図8に示すようなものが考えられる。作業機接地での待機姿勢の基本は図6に示すようにアーム14が垂直となりバケット15の背面部が地面に接地する姿勢である。十分な作業機接地可能範囲がある場合、この姿勢が待機姿勢として決定される。アーム14を垂直にした状態でバケット15を地面に接地できないような場合(例えば、途中に埋設した土管などの障害物200がある場合など)には、図7に示すようなブーム13、アーム14を前方に伸ばした状態でバケット15の背面部を地面に接地させる姿勢とすることが考えられる。また、地面が傾斜している場合などには、図8に示すようなバケット15のバケット先端150を地面に突き刺すように設置させる姿勢を待機姿勢とすることが考えられる。
【0066】
ステップS104の待機姿勢決定処理が終了すると、現在の姿勢からステップS104で決定した待機姿勢まで移動する待機姿勢移行動作計画を生成して車体制御部511へ送り(ステップS105)、処理を終了する。
【0067】
ここで、接地可能範囲および作業機接地位置の決定の手順についてさらに詳細に説明する。
【0068】
接地可能範囲の決定に係る基本的な考え方としては、作業機の接地面よりも広く平らな場所であれば接地可能と考えるものとする。ただし、地面ではない(障害物など)、外部から与えられるマップで待機禁止エリアに指定されている、などの場合は接地可能範囲から除外する。
【0069】
接地可能範囲の探索では、まず前提として、油圧ショベル100(自動運転作業機械)には自動(無人)動作を行う際に作業許可領域が与えられており、作業機械はこの領域を出ないように作業を行う(作業許可領域を出てはならない)ものとする。また、形状計測手段(実施例ではレーザスキャナ)で計測可能な範囲の中で接地可能範囲を探索する(移動してまで探さない。ただし探索した結果移動しないと届かない場所なら移動する)。
【0070】
この状態で、まず、形状計測手段で作業機械の周囲をスキャンし、3次元の立体形状を取得し、立体形状の中で地面である部分と地面ではない部分を分類し、地面ではない部分を障害物範囲とする(手順1)。
【0071】
また、地面として分類された領域の中で、作業機接地面以上の一定の面積を持つ平らな面が存在する範囲をさらに絞り込み、得られた範囲に対して、以下の手順1-1~手順1-3の処理を行う。まず、作業許可領域以外の範囲を除外する(手順1-1)。続いて、手順1-1で残った領域について、待機禁止エリアが指定されている場合、待機禁止エリアをさらに除外する(手順1-2)。さらに、手順1-2で残った領域について、障害物によって走行や旋回ができず到達不可能な範囲を除外する(手順1-3)。これらの手順を経て残った範囲を接地可能範囲として決定する。
【0072】
また、作業機接地位置の決定では、接地可能範囲に対して、できるだけアームが垂直となる姿勢(例えば、図6参照)でバケットが接地できる範囲を作業機接地位置とする。アームが垂直になれる範囲が複数存在する場合は、現在の姿勢から走行と旋回による移動量が少ない位置を作業機接地位置とする、すなわち、なるべく走行や旋回をせず、移動に伴うリスクを最小化することができる位置を作業機接地位置とする。
【0073】
以上のように構成した本実施の形態における効果を説明する。
【0074】
自動運転作業機械において、自動運転が終了した際に予め設定された待機姿勢しかとらないような従来技術においては、周囲の状況によって予め設定された待機姿勢が適さない場合や待機姿勢をとることができない場合が考えられる。
【0075】
これに対して本実施の形態においては、自動運転が終了した際に、地形情報計測装置(レーザスキャナ57)で取得した地形情報に基づいて作業機10を設置可能な接地可能範囲を検出する検出処理を実施し、接地可能範囲が検出された場合には作業機10を接地可能範囲に接地させる自動運転指令信号を生成し、接地可能範囲が検出されない場合には作業機10を所定の待機姿勢にさせる自動運転指令信号を生成するように構成したので、自動運転が終了した際の周辺状況に応じて適した待機姿勢をとることができる。
【0076】
すなわち、本実施の形態においては、油圧ショベル100が自動運転を終了した際、自動的に周囲の状況を認識し、状況に応じて最適な待機姿勢を自ら決定したのち、その待機姿勢へと移行し待機することが可能となり、より安定した状態で待機することができる。
【0077】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態を図10を参照しつつ説明する。
【0078】
本実施の形態は、第1の実施の形態に対して待機姿勢決定処理の処理内容が異なる場合を示すものである。
【0079】
図10は、本実施の形態における待機姿勢決定処理の処理内容を示すフローチャートである。図中、第1の実施の形態と同様の処理には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0080】
本実施の形態における待機姿勢決定処理(ステップS104A、図4のステップS104に相当する)においては、まず、認識部521から車体傾斜角度を取得する(ステップS121)。
【0081】
次に、車体傾斜角度が閾値以上かどうかを判定し(ステップS122)、判定結果がYESである場合、すなわち、車体傾斜角度が閾値以上である場合には、待機姿勢のうち下部走行体12の走行体姿勢を決定する(ステップS123)。車体が傾斜地にある場合、傾斜に対してより車体を安定させるためには、例えば図8に示したように下部走行体12のクローラの長尺方向を傾斜方向と合わせることが望ましい。このため、車体傾斜角度が閾値以上の場合はステップS123において下部走行体12が傾斜方向を向くよう走行体姿勢を決定する。
【0082】
ステップS122での判定結果がNOの場合、すなわち、車体傾斜角度が閾値よりも小さい場合、或いは、ステップS123の処理が終了した場合には、ステップS124~S127の処理に進む。なお、ステップS124~S127の処理は、第一の実施の形態の図5のステップS111~S114に対応する処理であり詳細な説明を省略する。ただし、すでにステップS123で走行体姿勢が決定している場合は、ステップS126,S127において新たな走行体姿勢は上書きされないものとする。
【0083】
すなわち、本実施の形態における作業機接地位置の決定に係る考え方としては、接地可能範囲に対して、まず車体が傾斜している場合、下部走行体の方向が傾斜方向を向くように移動(超信地旋回)し、その状態で図8で示した姿勢が取れるかどうかを判断し、不可能であれば第1の実施の形態と同じ手順で作業機接地位置を決定する、すなわち、傾斜に対してより安定する姿勢を取らせるものである。
【0084】
その他の構成については第1の実施の形態と同様である。
【0085】
以上のように構成した本実施の形態においても第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0086】
また本実施の形態においては、傾斜地における待機姿勢をより安定したものとすることができ、車体の安定性をさらに向上することができる。
【0087】
<第3の実施の形態>
本発明の第3の実施の形態について説明する。
【0088】
本実施の形態は、第1の実施の形態に対して待機姿勢決定処理の処理内容が異なる場合を示すものである。
【0089】
本実施の形態では、図5のステップS112で決定した作業機接地位置に対して、ステップS113で決定する待機姿勢を下部走行体12の油圧モータ19が搭載されていない側(以下、下部走行体の前方方向と呼ぶ)が作業機接地位置を向く姿勢とする。このように下部走行体12まで含んだ姿勢を決定することで、上部旋回体11と下部走行体12とが相対的に毎回所定の角度で待機させることが可能となる。
【0090】
第1の実施の形態では下部走行体12の向きを積極的に変化させることはせず、僅かな走行動作が入ることはあるが基本的には走行動作や(旋回機構がある場合は)旋回動作を最小化し、機械の移動に伴うリスクを低減させることを目的としている。一方、本実施の形態では、下部走行体12と上部旋回体11との相対角度を所定の範囲内に抑えることを目的とする。
【0091】
このように下部走行体12と上部旋回体11とを互いの前方方向が略一致している場合、待機状態から有人手動運転に切替ることを考えると、オペレータが運転室内に乗り込みやすいという利点や、走行レバーを倒した際に進む方向が毎回一致することにより、オペレータの誤操作を低減できるということが考えられる。
【0092】
無人自動運転から有人手動運転に移行する場合、オペレータは無人で動いていた間の機械の状態を知らないため、手動操作の最初は誤操作のリスクが相対的に高まる傾向がある。特に油圧ショベルにおける走行方向は上部旋回体11と下部走行体12とが0度と180度の旋回角度関係にある場合で、同じ向きに走行レバーを倒しても前後逆の動作をすることがあり、誤操作に繋がりやすい。
【0093】
本実施の形態においては、作業機接地位置に対して常に下部走行体12の前方方向を向けるようにしたので、誤操作のリスクを低減することが可能である。
【0094】
すなわち、本実施の形態における作業機接地位置の決定に係る考え方としては、第1の実施の形態と同じ手順で作業機接地位置を決定するが、決定後に接地方向に下部走行体を向ける(超信地旋回)という動作を行う。これにより、下部走行体12と上部旋回体11が毎回同じ向きとなる、すなわち、相対角度が所定の範囲内となるとなるので、オペレータの乗り降りのしやすさや、走行レバーの向きと走行方向を毎回合わせて誤操作リスクを減らすことができる。
【0095】
次に上記の各実施の形態の特徴について説明する。
【0096】
(1)上記の実施の形態では、車体本体(例えば、下部走行体12及び上部旋回体11)と、前記車体本体に搭載された作業機10と、前記作業機を操作するための操作装置(例えば、操作レバー50)と、前記操作装置の操作によって生成される手動運転指令信号に基づいて前記作業機を駆動するアクチュエータ(例えば、油圧シリンダ18)と、前記作業機の姿勢に関する情報である姿勢情報を取得する姿勢情報計測装置3と、前記手動運転指令信号を代替する自動運転指令信号を生成することで前記作業機に所定の動作を自動的に行わせる自動運転を行う自動運転コントローラ52とを備えた自動運転作業機械(例えば、油圧ショベル100)において、前記自動運転作業機械の周囲の地形情報を取得する地形情報計測装置(例えば、レーザスキャナ57)をさらに備え、前記自動運転コントローラは、前記自動運転が終了した際に、前記地形情報計測装置で取得した地形情報に基づいて前記作業機を設置可能な接地可能範囲を検出する検出処理を実施し、接地可能範囲が検出された場合には前記作業機を前記接地可能範囲に接地させる自動運転指令信号を生成し、接地可能範囲が検出されない場合には前記作業機を所定の待機姿勢にさせる自動運転指令信号を生成するものとした。
【0097】
これにより、自動運転が終了した際の周辺状況に応じて適した待機姿勢をとることができる。
【0098】
(2)また、上記の実施の形態では、(1)の自動運転作業機械(例えば、油圧ショベル100)において、前記車体本体は、下部走行体12と、前記下部走行体に対して旋回可能に設けられ、前記手動運転指令信号に基づいて前記下部走行体に対して旋回動作される上部旋回体11とから構成され、前記自動運転コントローラ52は、前記自動運転が終了した際に、前記下部走行体と前記上部旋回体との相対的な旋回角度が予め定めた範囲内となるように前記上部旋回体を旋回動作させる自動運転指令信号を生成するものとした。
【0099】
(3)また、上記の実施の形態では、(2)の自動運転作業機械(例えば、油圧ショベル100)において、前記下部走行体を操作するための走行操作装置をさらに備え、前記自動運転コントローラ52は、前記自動運転が終了した際に、前記走行操作装置の操作方向と前記走行操作装置の操作による前記下部走行体の走行方向との相対角度が予め定めた範囲内となるように前記上部旋回体を旋回動作させる自動運転指令信号を生成するものとした。
【0100】
(4)また、上記の実施の形態では、(1)の自動運転作業機械(例えば、油圧ショベル100)において、前記車体本体の傾斜角度および傾斜方向を姿勢情報として取得する姿勢情報計測装置をさらに備え、前記自動運転コントローラ52は、前記自動運転が終了した際に、前記車体本体の傾斜角度が予め定めた範囲外の場合に、前記車体本体の走行方向と前記傾斜角度の傾斜方向との水平面投影における相対角度が予め定めた範囲内となるように前記車体本体を移動させる自動運転指令信号を生成するものとした。
【0101】
<付記>
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例や組み合わせが含まれる。また、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【符号の説明】
【0102】
2a,2b…GNSSアンテナ、3a~3d…姿勢情報計測装置、10…作業機、11…上部旋回体、12…下部走行体、13…ブーム、14…アーム、15…バケット、16,17…バケットリンク、18a…ブームシリンダ、18b…アームシリンダ、18c…バケットシリンダ、19a…旋回油圧モータ、19b,19c…走行油圧モータ、20…運転室、41…エンジン、42…パイロット油圧ポンプ、43…メイン油圧ポンプ、45…方向制御弁、46…遮断弁、47a~47l…制御弁、50a…アーム操作レバー、50b…ブーム操作レバー、50c…バケット操作レバー、50d…旋回操作レバー、50e,50f…走行操作レバー、51…車体コントローラ、52…自動運転コントローラ、53…GNSSコントローラ、54…モニタ、56…旋回角センサ、57a~57d…レーザスキャナ、58…切替スイッチ、100…油圧ショベル、150…バケット先端、200…障害物、511…車体制御部、521…認識部、522…状態管理部、523…動作計画部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10