(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】テストベンチ装置を調整するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G01M 15/05 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
G01M15/05
(21)【出願番号】P 2019525986
(86)(22)【出願日】2017-11-24
(86)【国際出願番号】 EP2017080315
(87)【国際公開番号】W WO2018096085
(87)【国際公開日】2018-05-31
【審査請求日】2020-09-04
(32)【優先日】2016-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】398055255
【氏名又は名称】アー・ファウ・エル・リスト・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(72)【発明者】
【氏名】コーカル・ヘルムート
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-501434(JP,A)
【文献】特開2013-015386(JP,A)
【文献】特開2013-053978(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0107347(US,A1)
【文献】H. Kokal、E. Gruenbacher、L. del Re、Martin Schmidt、M. Paulweber,“Bandsidth extension of dynamical test benches by modified mechanical design under adaptive feedforward disturbance rejection”,2010 American Control Conferense,米国,IEEE,2010年06月30日,Frb19.5,pp.6151-6156
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 15/00 - 15/14
G01M 17/00 - 17/10
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物(1)と連結軸(3)を介してこの被検査物(1)に連結されている負荷機(2)とを有するテストベンチ装置(4)を調整するための方法であって、前記テストベンチ装置(4)は、過酷試験装置に相当
し、
前記被検査物(1)の内部回転トルク(T
E)に対する推定値(T
E,est)が算出され、減衰信号(T
Damp)が、前記テストベンチ装置(4)の減衰すべき固有周波数と遅延(Delay)とを考慮して前記推定値(T
E,est)から算出され、調整回路内でフィードバックされる当該方法
において、
前記推定値(T
E,est
)は、前記被検査物の角速度(ω
E
)と回転トルク(T
ST
)とから算出され、
前記減衰すべき固有周波数を含む帯域が、前記減衰信号(T
Damp
)の算出時に前記推定値(T
E,est
)からフィルタ除去され、当該フィルタ除去された信号が、遅延(Delay)だけ遅延され、或る増幅率(Gain)だけ増幅されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記遅延(del)及び/又は前記増幅率(Gain)及び/又は前記帯域に対するパラメータが、シミュレーションに前もって決定されることを特徴とする請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記遅延(Delay)は、一定のパラメータであることを特徴とする請求項
1又は
2に記載の方法。
【請求項4】
被検査物(1)と連結軸(3)を介してこの被検査物(1)に連結されている負荷機(2)とを有するテストベンチ装置(4)を調整するための装置であって、前記テストベンチ装置(4)は、過酷試験装置に相当
し、
前記装置が、評価装置(9)とフィルタ(10)とを有する減衰装置(8)を備え、前記評価装置(9)が、前記被検査物(1)の内部回転トルク(T
E)に対する推定値(T
E,est)を作成し、前記フィルタが、前記テストベンチ装置(4)の減衰すべき固有周波数と遅延(Delay)とに基づいて前記推定値(T
E,est)から減衰信号(T
Damp)を作成し、調整回路内でフィードバックする当該装置
において、
前記評価装置(9)は、前記推定値(T
E,est
)を前記被検査物の角速度(ω
E
)と回転トルク(T
ST
)とから算出すること、及び
前記フィルタ(10)は、前記減衰すべき固有周波数を含む帯域を、前記減衰信号(T
Damp
)の作成時に前記推定値(T
E,est
)からフィルタ除去し、当該フィルタ除去された信号を、遅延(Delay)だけ遅延し、或る増幅率(Gain)だけ増幅することを特徴とする装置。
【請求項5】
前記評価装置(9)は、カルマンフィルタを有することを特徴とする請求項
4に記載の装置。
【請求項6】
前記フィルタ(10)は、FIFO記憶装置として構成された遅延要素(14)を有することを特徴とする請求項
4~
5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記テストベンチ装置(4)は、過酷試験装置に相当することを特徴とする請求項
4~
6のいずれか1項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査物と連結軸を介してこの被検査物に連結されている負荷機とを有するテストベンチ装置を調整するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
過酷試験装置におけるエンジンのテストベンチの場合、(特に、まだ開発段階にあるエンジンの場合の)1つの内燃機関の個々のシリンダ内の燃焼工程が、まだ良好に調整されていないので、当該テストベンチの固有周波数が頻繁に変動する。当該変動は、例えば、トルクの推移中に当該テストベンチの固有周波数を変動し得る0.5次の次数の発生によって出現し得る。この共振は、結果として当該内燃機関の回転トルクTの不自然な推移を引き起こす。このような現象は、当該内燃機関の正確な補正を困難にするか、又は、例えば点火失敗の認識時に、補正が不可能であると実証される。
【0003】
この場合、特に、こうして引き起こされた外乱は、直接に測定不可能であり、したがって考慮されていないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2011/022746号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、このような現象が強く低減され得るテストベンチを調整するための方法及び装置を提供することにある。
【0006】
国際公開第2011/022746号パンフレットは、テストベンチ装置用の調整方法を記載する。この場合、内燃機関の内部回転トルクが、制御特性を向上させるために回転角度の評価に基づいて算出され、繰り返し制御方法を使用して調整回路内でフィードバックされる。この国際公開第2011/022746号パンフレットは、テストベンチ装置の固有周波数の減衰を開示していない。
【0007】
実際のテストベンチの状況では、例えば回転角度のような所定の測定変数を十分な精度で測定することは、多くの場合に不可能である。このために必要なセンサが、従来の技術において存在しないか、又は、既知のセンサの設置と使用とを同時に引き起こす高い経費が、使用を不可能にする。それ故に、本出願の課題は、固有振動の減衰をテストベンチに一般的に存在するセンサを使用して可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、本出願のこの課題は、被検査物の内部回転トルクに対する推定値が算出される冒頭で述べた種類の方法によって解決される。この場合、減衰信号が、減衰すべき固有周波数と遅延とを考慮して当該推定値から算出され、調整回路内でフィードバックされる。当該フィードバックされた減衰信号は、場合によっては特に調整可能な増幅器を使用して好適な信号強度に調整され得る。したがって、当該被検査物に由来し且つ測定不可能な外乱が評価され得、減衰度に対して考慮され得る。この場合、一義的な外乱変数(内燃機関のテストベンチの場合には、当該外乱変数は、燃焼トルクである)が、推定値の形態で制御部への入力として使用される。同様な装置の場合、測定される変数(例えば、測定フランジの回転トルク、被検査物の回転数、負荷機の回転数等)を調整入力として使用することが既に知られている。しかしながら、多くの場合、これらの測定変数は、外乱によって変動された固有周波数の影響を既に含み、調整入力としてはあまり適さない。
【0009】
好ましくは、当該推定値は、被検査物の角速度と軸のトルクとから算出され得る。当該算出は、入力値の算出を容易にする。何故なら、テストベンチに一般的に存在するセンサが使用され得るからである。
【0010】
好適な実施の形態では、当該減衰すべき固有周波数含む帯域が、当該減衰信号の算出時に当該推定値からフィルタ除去され得、当該フィルタ除去された信号が、遅延だけ遅延され得、或る増幅率だけ増幅され得る。したがって、外乱の周期性に起因して、減衰エネルギーの同位相の調整信号が、負荷機にフィードバックされ得る。
【0011】
好ましくは、当該遅延及び/又は当該増幅率及び/又は当該帯域に対するパラメータが、シミュレーションに前もって決定され得る。当該決定は、試験運転に必要なテストベンチ時間を短縮し、実験及び間違いによる時間を消費するパラメータ化を回避する。
【0012】
好適な実施の形態では、当該遅延は、一定のパラメータでもよい。その結果、例えば、一定の遅延によってパラメータ化されたFIFO記憶装置を使用することで、非常に簡単な実行が可能になる。この場合、外乱変数の周期性とテストベンチ装置の一定の固有周波数とを利用することで、外乱変数が位相シフトされる。この場合、当該遅延が、調整回路のシステム性能に最適に適合され得る。
【0013】
上記の方法を好適に実行するため、本発明によれば、冒頭で述べた装置が、評価装置とフィルタとを有する減衰装置を備える。この場合、当該評価装置が、当該被検査物の内部回転トルクに対する推定値を作成し、当該フィルタが、減衰すべき固有周波数と遅延とに基づいて当該推定値から減衰信号を作成し、調整回路内でフィードバックする。
【0014】
好ましくは、当該評価装置は、当該推定値を当該被検査物の角速度と当該連結軸の回転トルクとから算出し得る。その結果、推定値の作成が、追加のセンサなしに可能になる。
好適な実施の形態では、当該評価装置は、カルマンフィルタを有し得る。その結果、当該推定値の簡単で且つ速い生成が可能になる。
【0015】
さらに好適な実施の形態では、当該フィルタは、FIFO記憶装置として構成された遅延要素を有し得る。その結果、パラメータ化が容易になり、遅延に対する一定のパラメータの使用が可能になる。外乱の周期性に起因して、制御区間のシステム遅延の補正が、調整変数にフィードバックされ得る。
【0016】
好ましくは、当該テストベンチ装置は、過酷試験装置に相当する。
以下に、本発明を例示的に、概略的に且つ限定しないで本発明の好適な実施の形態を示す
図1~4を参照して詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】デュアルマス揺動子の数学モデルの概略図である。
【
図3】本発明による例示的な制御構成のブロック図である。
【
図4】本発明による能動的な減衰部のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、テストベンチ内の主な構成要素を概略図で示す。被検査物1、例えば、試験運転にしたがって負荷トルクを被検査物に印加する内燃機関が、連結軸3を介して負荷機2に連結されている。被検査物1と負荷機2と連結軸3とから成る装置は、その具体的な記述と関連してテストベンチ装置4とも呼ばれる。
【0019】
自動化システム5が、複数の制御変数を算出し、これらの制御変数、例えば負荷機2の負荷機の回転トルクTDに対する制御変数及び被検査物1のペダル位置αに対する制御変数をテストベンチ装置4に予め設定する。これらの制御変数は、負荷機2の調整装置6又は被検査物2の調整装置6′によって対応する調整変数に変換される。
【0020】
当該調整変数の実際値、例えば
図1に示された被検査物の角速度ω
Eに対する実際値と負荷機の角速度ω
Dに対する実際値と軸の回転トルクT
STに対する実際値とが、対応する複数のセンサを介して自動化システム5によって検出される。
【0021】
テストベンチ装置4の揺動挙動(Schwingungsverhalten)が、
図2に示されているようにデュアルマス揺動子(Zweimassenschwinger)として数学的にモデル化され得る。上で規定した軸の回転トルクT
ST、負荷機の回転トルクT
D、被検査物の回転トルクT
E、負荷機の角速度ω
D及び被検査物の角速度ω
Eに対する値の他に、当該モデルは、軸の剛性度c、軸の減衰度d、被検査物の慣性トルクΘ
E及び負荷機の慣性トルクΘ
Dをさらに含む。当該系の固有周波数及びその減衰度が、これらの値に基づいて数学的に算出される。
【0022】
通常は、デュアルマス揺動子としてモデル化することで、一義的な固有周波数f0が、テストベンチ装置4に対して算出され得る。通常は、この固有周波数が、被検査物1の動作範囲の点火周波数未満になるように、連結軸3の寸法が選択される。この場合、当該固有周波数は、スタータの速度と当該被検査物のアイドリング速度との間にあり、したがって被検査物1の始動時にテストベンチ4によって短期間だけ発生する。このような装置は、「過酷試験装置(ueberkritische Anordnung)」と呼ばれる。
【0023】
例えば、600~6000rpmの動作範囲を有する4気筒エンジンが、例として考慮され得る。600rpmの場合、20Hzの点火周波数が発生する。それ故に、例えば15Hzの固有周波数が、当該テストベンチ装置に対して発生するように、その軸連結部が、過酷試験装置に対して寸法決めされる。
【0024】
しかしながら、実際の使用では、特にまだ試験されていない試作品による試験運転の場合、固有周波数をも誘発し得る点火周波数未満の外乱も発生し得る。当該固有周波数は、例えば当該被検査物から発生した外乱の(回転周波数の)0.5次の次数によって変動され得る。
【0025】
このような現象を強く低減するため、本明細書は、以下で
図3を参照して説明する能動的な減衰を開示する。この場合、
図3には、負荷機用の調整装置の構成の一部が概略的に示されている。
【0026】
負荷機の角速度の目標値ω
D,Sollと負荷機の角速度の実際値ω
Dとの差としての調整偏差が、速度調整器7の入力として生成される。この速度調整器7は、当該調整偏差に基づいて負荷機の回転トルクT
Dに対する制御変数を生成する。この制御変数は、テストベンチ装置4(又は
図1に示されたテストベンチ装置4の調整装置6)に伝達される。この場合、この制御変数は、軸の回転トルクT
STとテストベンチの角速度ω
Eとに基づいて減衰装置8によって算出される減衰信号T
Dampによって補正される。
【0027】
被検査物1の内部回転トルクTE
に対する推定値TE,estを算出するため、減衰装置8が、評価装置9を有する。被検査物1の内部回転トルクTEに対する推定値T
E,est
が算出され、減衰信号T
Damp
が、テストベンチ装置4の減衰すべき固有周波数と遅延(Delay)とを考慮して前記推定値T
E,est
から算出され、調整回路内でフィードバックされる。当該被検査物の内部回転トルクTEは、テストベンチで直接に測定可能でなく、調整回路の測定可能でない外乱変数とみなされ得る。しかし、この変数は、デュアルマス揺動子系に対する変動成分(Anregung)を含むので、この変数は、能動的な減衰部用の制御入力変数としての必須の変数である。
【0028】
内部回転トルクTEに対する推定値TE,estを作成するため、評価装置9が、対応する周波数帯域に対して最適化されていて推定値TE,estを軸の回転トルクTSTと被検査物の角速度ωEとに基づいて算出するカルマンフィルタを有する。このとき、フィルタ装置10が、評価装置9によって保持されている推定値TE,estを減衰信号TDampに変換する。
【0029】
フィルタ装置10は、
図4に詳しく図示されている。このフィルタ装置10内では、最初に、推定値T
E,estの信号の直流成分が、高域通過フィルタ11によって取り除かれる。後に続く低域通過フィルタ12は、オプションであり、負荷機2に対する調整変数中のより高い交流成分が、この負荷機2に対する限界値を超えるときにだけ必要になる。したがって、高域通過フィルタ11及び低域通過フィルタ12は、減衰すべき固有周波数を含む帯域を推定値T
E,estの信号からフィルタ除去する帯域通過フィルタ13とみなされ得る。
【0030】
このとき、遅延時間を相殺するため、当該信号が、遅延要素14内で遅延(Delay)が適用され、減衰信号TDampを減衰のために最適化された振幅で取得するため、当該信号は、増幅器15内で増幅される。
【0031】
(位相シフトとも解釈され得る)当該遅延を簡単に実現するため、当該遅延要素は、一定の(又はパラメータ化可能な)処理時間を有するFIFO記憶装置として実現され得る。一定で既知の周波数(固有周波数)が減衰されなければならないので、一定の処理期間が可能である。さらに、外乱が周期的であると仮定すると、当該仮定は、実験結果と一致し、文献でも確認される。
【0032】
したがって、この仮定の下では、以下の位相誤差が、FIFO記憶装置によって相殺可能である。
【0033】
-系統誤差(90°の位相誤差)。何故なら、減衰トルクが、軸に印加されるのではなくて、負荷機の空隙に印加されるからである。
-位相誤差。この位相誤差は、制御中に種々のフィルタネットワークの零でない位相応答に起因して発生するか、又は閉ループ調整回路における遅延時間に起因して発生する。
【0034】
減衰度の最適な程度が、増幅器15におけるパラメータ化可能な増幅によって調整され得る。
【0035】
当該増幅のパラメータ化可能な値と、位相補正との双方が、試験運転のシミュレーションに前もって算定され得るので、試行錯誤によって算出される必要がない。
【符号の説明】
【0036】
1 被検査物
2 負荷機
3 連結軸
4 テストベンチ装置
5 自動化システム
6,6′ 調整装置
7 速度調整器
8 減衰装置
9 評価装置
10 フィルタ
11 高域通過フィルタ
12 低域通過フィルタ
13 帯域通過フィルタ
14 遅れ要素
15 増幅器
α ペダル位置
TD 負荷機の回転トルク
TST 軸の回転トルク
ΘE 被検査物の慣性トルク
ωD 負荷機の角速度
ωE 被検査物の角速度
c 軸の剛性度
d 軸の減衰度
ΘD 負荷機の慣性トルク
ΘE 被検査物の慣性トルク