(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】光通信装置及び作業機
(51)【国際特許分類】
H04B 10/27 20130101AFI20220929BHJP
H04B 10/80 20130101ALI20220929BHJP
H04L 7/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H04B10/27
H04B10/80
H04L7/00 040
(21)【出願番号】P 2020556507
(86)(22)【出願日】2018-11-14
(86)【国際出願番号】 JP2018042132
(87)【国際公開番号】W WO2020100231
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(74)【代理人】
【識別番号】100162237
【氏名又は名称】深津 泰隆
(74)【代理人】
【識別番号】100191433
【氏名又は名称】片岡 友希
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 憲司
(72)【発明者】
【氏名】長坂 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】金井 英和
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/142999(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/088214(WO,A1)
【文献】特開2018-042128(JP,A)
【文献】特開2017-229079(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0281198(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/27
H04B 10/80
H04L 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光通信による産業用ネットワークに接続され、セーフモードとユーザモードの2面ブート機能を有するスレーブと、
前記スレーブが前記2面ブートの内の前記ユーザモードへ遷移したことを示す遷移通知情報を、前記産業用ネットワークにおける他の装置へ通知する通知装置
と、
前記光通信のシリアル通信により伝送されるシリアルデータに埋め込まれたクロックを分離するCDR部と、
を備え、
前記スレーブは、
第1コンフィグ情報により第1論理回路を構築する前記セーフモードと、前記第1コンフィグ情報とは異なる第2コンフィグ情報により第2論理回路を構築し、前記産業用ネットワークにおけるマスターから前記シリアル通信を介して伝送される制御データを前記第2論理回路で処理する前記ユーザモードとを有する、光通信装置。
【請求項2】
前記通知装置は、
前記セーフモードから前記ユーザモードへ遷移し前記第2コンフィグ情報に基づいて前記第2論理回路の構築が完了したことに応じて前記遷移通知情報を通知する、請求
項1に記載の光通信装置。
【請求項3】
前記スレーブは、
前記光通信を介して前記遷移通知情報を送信した後、前記産業用ネットワークの確立処理を開始する、請求項
1又は請求項2に記載の光通信装置。
【請求項4】
前記産業用ネットワークで伝送される制御データを多重化して多重通信により伝送する多重化部を備え、
前記通知装置は、
前記多重通信により前記遷移通知情報を通知する、請求項1乃至請求
項3の何れか1項に記載の光通信装置。
【請求項5】
前記多重化部は、
時分割多重化方式により多重化を行う請求
項4に記載の光通信装置。
【請求項6】
前記スレーブと前記多重化部との間に接続される疑似信号送信部を備え、
前記疑似信号送信部は、
前記産業用ネットワークにおける通信規格に準拠した信号を疑似的に生成し、生成した信号を前記スレーブに伝送して前記スレーブとの間の通信を確立し、通信を確立した後に前記多重化部と前記スレーブとの間で前記制御データを伝送し、
前記通知装置は、
前記遷移通知情報を送信した後、前記疑似信号送信部に対して前記スレーブとの間の通信を確立するように指示する、
請求項4又は請求項5に記載の光通信装置。
【請求項7】
前記セーフモードは、
前記スレーブの起動時に前記第1コンフィグ情報に基づいて前記第1論理回路を構築し、前記第2コンフィグ情報に基づいた前記第2論理回路の構築を正常に行えるか否かを判断するモードであり、
前記ユーザモードは、
前記セーフモードから遷移した後、前記第2論理回路により前記制御データの処理を行うモードである、
請求項1又は請求項2に記載の光通信装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求
項7の何れか1項に記載の光通信装置を備え、作業に係わるデータを前記光通信装置により伝送する作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、産業用ネットワークのスレーブを備える光通信装置、及びその光通信装置を備える作業機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インターネットに代表されるネットワーク通信の技術は、FA(Factory Automation)分野にも活用されており、FA分野を対象とした産業用ネットワークと呼ばれるものがある。例えば、下記特許文献1に記載される電子部品装着装置では、産業用ネットワークの技術を用いて作業に係るデータを伝送している。産業用ネットワークにおける制御の一形態としては、例えば、スレーブと、スレーブを統括して制御するマスターとが設置される。スレーブは、産業用ネットワークを介してマスターから伝送される制御データに基づいて、電子部品装着装置に取り付けたセンサ、リレー、スイッチなどの制御を行う。特許文献1の電子部品装着装置は、スレーブで処理した制御データを多重処理装置により多重化し、多重通信回線を介してマスターや他のスレーブへ伝送する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したスレーブは、例えば、コンフィグ情報に基づいて論理回路を構築するプログラマブル論理デバイスで構成される。この種のスレーブには、コンフィグ情報に基づいて、セーフモードとユーザモードの異なる2つのモードを切り替えるものがある。スレーブは、例えば、モードの切り替えにともない論理回路の再構築をするため再起動する。スレーブは、再起動にともなって、産業用ネットワークにおける他の装置(マスターや他のスレーブ)との通信を切断する必要が生じる。しかしながら、他の装置側では、通信を切断された後も所定時間だけ状態を保持し、スレーブと接続された通信回線のデータを伝送する可能性がある。その結果、産業用ネットワークの通信の切断に起因して制御データにデータの誤りが発生した場合、データの誤りが発生した制御データを他のスレーブやマスターへ送信してしまう虞があった。
【0005】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、モードの切り替えを行うスレーブにおいて、誤りが発生した制御データの伝送を抑制できる光通信装置及び作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本明細書は、光通信による産業用ネットワークに接続され、セーフモードとユーザモードの2面ブート機能を有するスレーブと、前記スレーブが前記2面ブートの内の前記ユーザモードへ遷移したことを示す遷移通知情報を、前記産業用ネットワークにおける他の装置へ通知する通知装置と、前記光通信のシリアル通信により伝送されるシリアルデータに埋め込まれたクロックを分離するCDR部と、を備え、前記スレーブは、第1コンフィグ情報により第1論理回路を構築する前記セーフモードと、前記第1コンフィグ情報とは異なる第2コンフィグ情報により第2論理回路を構築し、前記産業用ネットワークにおけるマスターから前記シリアル通信を介して伝送される制御データを前記第2論理回路で処理する前記ユーザモードとを有する、光通信装置を開示する。尚、ここでいう、「産業用ネットワーク」とは、例えば、EtherCAT(登録商標)、MECHATROLINK(登録商標)-III、Profinet(登録商標)等の通信規格を用いて、リレーやスイッチ等を制御する制御データを伝送するネットワークである。
【0007】
また、本開示の内容は、光通信装置に限定されることなく、光通信装置を備える作業機として実施しても有益である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の光通信装置等によれば、スレーブは、ユーザモードへ遷移すると、遷移したことを遷移通知情報により他のスレーブやマスターへ通知する。遷移通知情報を受信したスレーブ等は、ユーザモードへの遷移を確認してから、即ち、モードの遷移に起因して産業用ネットワークの切断が発生しない状況となってから各種の処理(産業用ネットワークの構築など)を当該光通信装置に対して開始できる。その結果、誤りが発生した制御データの伝送を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の部品装着システムの概略構成を示す平面図である。
【
図2】部品装着機及びローダの概略構成を示す斜視図である。
【
図4】固定多重部の第1多重処理装置と、ヘッド部の第2多重処理装置の構成を示すブロック図である。
【
図5】ダミーPHYの概略構成を示すブロック図である。
【
図6】第1多重処理装置及び第2多重処理装置の起動時のシーケンス図である。
【
図7】ダミーPHYの処理内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の部品装着システム10の概略構成を示す平面図である。
図2は、部品装着機20及びローダ13の概略構成を示す斜視図である。なお、以下の説明では、
図1の左右方向をX方向と称し、前後方向をY方向と称し、X方向及びY方向に垂直な方向をZ方向(上下方向)と称して説明する。
【0011】
図1に示すように、部品装着システム10は、生産ライン11と、ローダ13と、管理コンピュータ15とを備えている。生産ライン11は、X方向に並べられた複数の部品装着機20を有し、基板17に対する電子部品の装着等を行う。基板17は、例えば、
図1に示す左側の部品装着機20から右側の部品装着機20へと搬出され、搬送中に電子部品の装着等を実行される。
【0012】
図2に示すように、部品装着機20は、ベース21と、モジュール22とを備えている。ベース21は、Y方向に長い略長方形の箱型をなし、部品装着機20を設置する工場の床等に載置される。ベース21は、例えば、隣り合うモジュール22の基板搬送装置23の位置を合わせるように上下方向の位置を調整され、隣の部品装着機20のベース21と互いに固定されている。モジュール22は、基板17に対する電子部品の装着等を行う装置であり、ベース21の上に載置されている。モジュール22は、ベース21に対して前後方向の手前側へ引き出し可能となっており、他のモジュール22と交換可能となっている。
【0013】
モジュール22は、基板搬送装置23と、フィーダ台24と、ヘッド部25と、ヘッド移動機構27とを備える。基板搬送装置23は、モジュール22内に設けられ、基板17をX方向に搬送する。フィーダ台24は、モジュール22の前面に設けられ、側面視がL字状の台である。フィーダ台24は、X方向に複数配列されたスロット(図示略)を備える。フィーダ台24の各スロットには、電子部品を供給するフィーダ29が装着される。フィーダ29は、例えば、電子部品を所定のピッチで収容するテープから電子部品を供給するテープフィーダである。なお、
図1に示すように、モジュール22の上部カバーの上には、部品装着機20に対する操作入力を行うタッチパネル26が設けられている。
図2は、上部カバーやタッチパネル26を取り外した状態を示している。
【0014】
ヘッド部25は、フィーダ29から供給された電子部品を吸着する吸着ノズル(図示略)を備え、吸着ノズルで吸着した電子部品を基板17に装着する。ヘッド部25は、例えば、複数の吸着ノズルの位置や、個々の吸着ノズルの位置を変更する駆動源として電磁モータ(図示略)を有している。ヘッド移動機構27は、モジュール22の上部部分において、X方向及びY方向の任意の位置にヘッド部25を移動させる。詳述すると、ヘッド移動機構27は、ヘッド部25をX方向に移動させるX軸スライド機構27Aと、ヘッド部25をY方向に移動させるY軸スライド機構27Bとを備える。X軸スライド機構27Aは、Y軸スライド機構27Bに取り付けられている。また、X軸スライド機構27Aは、後述する産業用ネットワークに接続される第3スレーブ65(
図3参照)を備える。第3スレーブ65は、X軸スライド機構27Aに設けられたリレー81やセンサ83(
図3参照)などの各種素子が接続され、装置本体部41のマスター53(
図3参照)から受信した制御データCDに基づいて、各種素子の入出力する信号を処理する。
【0015】
Y軸スライド機構27Bは、駆動源としてリニアモータ(図示略)を有している。X軸スライド機構27Aは、Y軸スライド機構27Bのリニアモータの駆動に基づいてY方向の任意の位置に移動する。また、X軸スライド機構27Aは、駆動源としてリニアモータ(図示略)を有している。ヘッド部25は、X軸スライド機構27Aに取り付けられ、X軸スライド機構27Aのリニアモータの駆動に基づいてX方向の任意の位置に移動する。従って、ヘッド部25は、X軸スライド機構27A及びY軸スライド機構27Bの駆動にともなってモジュール22の上部部分で任意の位置に移動する。
【0016】
また、ヘッド部25は、X軸スライド機構27Aにコネクタを介して取り付けられ、ワンタッチで着脱可能であり、種類の異なるヘッド部25、例えば、ディスペンサヘッド等に変更できる。従って、本実施形態のヘッド部25は、部品装着機20(作業機の一例)に対して着脱可能となっている。また、ヘッド部25には、基板17を撮影するためのマークカメラ69(
図3参照)が下方を向いた状態で固定されている。マークカメラ69は、ヘッド部25の移動に伴って、基板17の任意の位置を上方から撮像可能となっている。マークカメラ69が撮像した画像データGDは、モジュール22の本体制御装置51(
図3参照)において画像処理される。本体制御装置51は、画像処理によって、基板17に関する情報、装着位置の誤差等を取得する。
【0017】
また、ヘッド部25は、産業用ネットワークに接続される第2スレーブ61(
図3参照)を備える。第2スレーブ61は、ヘッド部25に設けられたリレー75やセンサ77などの各種素子が接続され、装置本体部41のマスター53(
図3参照)から受信した制御データCDに基づいて、各種素子の入出力する信号を処理する。また、ヘッド部25には、吸着ノズルに吸着保持した電子部品を撮像するパーツカメラ71が設けられている。パーツカメラ71が撮像した画像データGDは、モジュール22の本体制御装置51(
図3参照)において画像処理される。本体制御装置51は、画像処理によって、吸着ノズルにおける電子部品の保持位置の誤差等を取得する。
【0018】
また、
図2に示すように、ベース21の前面には、上部ガイドレール31と、下部ガイドレール33と、ラックギヤ35と、非接触給電コイル37とが設けられている。上部ガイドレール31は、X方向に延びる断面U字状のレールであり、開口部が下を向いている。下部ガイドレール33は、X方向に延びる断面L字状のレールであり、垂直面がベース21の前面に取り付けられ、水平面が前方に伸び出している。ラックギヤ35は、下部ガイドレール33の下部に設けられ、X方向に延び、前面に複数の縦溝が刻まれたギヤである。ベース21の上部ガイドレール31、下部ガイドレール33及びラックギヤ35は、隣接するベース21の上部ガイドレール31、下部ガイドレール33及びラックギヤ35と着脱可能に連結することができる。このため、部品装着機20は、生産ライン11に並んだ部品装着機20の数を増減することができる。非接触給電コイル37は、上部ガイドレール31の上部に設けられ、X方向に沿って配置されたコイルであり、ローダ13への電力の供給を行う。
【0019】
ローダ13は、部品装着機20に対するフィーダ29の補充及び回収を自動で行う装置であり、フィーダ29をクランプする把持部(図示略)を備える。ローダ13には、上部ガイドレール31に挿入される上部ローラ(図示略)と、下部ガイドレール33に挿入される下部ローラ(図示略)とが設けられている。また、ローダ13には、駆動源としてモータが設けられている。モータの出力軸には、ラックギヤ35と噛み合うギヤが取り付けられている。ローダ13は、部品装着機20の非接触給電コイル37から電力の供給を受ける受電コイルを備えている。ローダ13は、非接触給電コイル37から受電した電力をモータに供給する。これにより、ローダ13は、モータによってギヤを回転させることで、X方向(左右方向)へ移動することができる。また、ローダ13は、上部ガイドレール31及び下部ガイドレール33内でローラを回転させ、上下方向や前後方向の位置を保持しながらX方向へ移動することができる。
【0020】
図1に示す管理コンピュータ15は、部品装着システム10を統括的に管理する装置である。例えば、生産ライン11の部品装着機20は、管理コンピュータ15の管理に基づいて、電子部品の装着作業を開始する。部品装着機20は、基板17を搬送しながらヘッド部25によって電子部品の装着作業を行う。また、管理コンピュータ15は、フィーダ29の残りの電子部品の数を監視する。管理コンピュータ15は、例えば、フィーダ29の補給が必要であると判断すると、補給が必要な部品種を収容したフィーダ29をローダ13にセットする指示を画面に表示する。ユーザは、画面を確認して、フィーダ29をローダ13にセットする。管理コンピュータ15は、所望のフィーダ29がローダ13にセットされたことを検出すると、ローダ13に対して補給作業の開始を指示する。ローダ13は、指示を受けた部品装着機20の前方まで移動し、ユーザによってセットされたフィーダ29を把持部で挟持してフィーダ台24のスロットに装着する。これにより、新たなフィーダ29が部品装着機20に補給される。また、ローダ13は、部品切れになったフィーダ29を把持部で挟持してフィーダ台24から引き出して回収する。このようにして、新たなフィーダ29の補給及び部品切れとなったフィーダ29の回収を、ローダ13によって自動的行うことができる。
【0021】
次に、部品装着機20が備える多重通信システムについて説明する。
図3は、部品装着機20に適用される多重通信システムの構成を示すブロック図である。
図2に示すように、部品装着機20は、装置本体部41と、分岐スレーブ43と、固定多重部45をモジュール22内に備えている。装置本体部41、分岐スレーブ43、及び固定多重部45は、基板搬送装置23の下方におけるモジュール22内に設けられている。
【0022】
図3に示すように、本実施形態の多重通信システムでは、モジュール22内に固定された装置本体部41、分岐スレーブ43及び固定多重部45と、モジュール22内で移動する可動部(X軸スライド機構27A及びヘッド部25)との間のデータ伝送を多重通信により行う。装置本体部41は、本体制御装置51と、マスター53を有している。また、分岐スレーブ43は、マスター53と接続されている。固定多重部45は、第1多重処理装置55を備える。第1多重処理装置55の第1スレーブ57は、分岐スレーブ43と接続されている。ヘッド部25には、第2スレーブ61を有する第2多重処理装置63が設けられている。また、X軸スライド機構27Aには、第3スレーブ65を有する第3多重処理装置67が設けられている。
【0023】
分岐スレーブ43、第1スレーブ57、第2スレーブ61、及び第3スレーブ65は、マスター53によって制御される。マスター53は、産業用ネットワークに接続される分岐スレーブ43、第1スレーブ57、第2スレーブ61、及び第3スレーブ65を制御する制御データCDの伝送を統括的に制御する。産業用ネットワークは、例えば、EtherCAT(登録商標)である。なお、本開示の産業用ネットワークとしては、EtherCAT(登録商標)に限らず、例えば、MECHATROLINK(登録商標)-IIIやProfinet(登録商標)等の他のネットワーク(通信規格)を採用できる。
【0024】
本体制御装置51は、例えば、CPUを主体として構成される処理回路であり、マスター53によって収集した制御データCDや、第1多重処理装置55で受信した画像データGD等を入力し、次の制御内容(装着する電子部品の種類や装着位置など)を決定する。また、本体制御装置51は、決定した制御内容に応じた制御データCDをマスター53から送信させる。マスター53は、産業用ネットワークを介して分岐スレーブ43、第1スレーブ57、第2スレーブ61、及び第3スレーブ65へ制御データCDを送信する。
【0025】
ヘッド部25は、上記した第2多重処理装置63、マークカメラ69、パーツカメラ71等を有している。第2スレーブ61は、装置本体部41のマスター53から受信した制御データCDに基づいて、各種素子(リレー81やセンサ83など)で入出力される信号を処理する。例えば、制御データCDには、複数のスレーブ(第2スレーブ61など)の各々に対応した書き込み領域及び読み込み領域が設定されている。第2スレーブ61は、マスター53から受信した制御データCDのうち、当該第2スレーブ61用の読み込み領域から読み込んだデータに基づいてリレー81やセンサ83を駆動する。また、第2スレーブ61は、リレー81の駆動結果の信号やセンサ83の検出信号に応じたデータを、制御データCDのうち、当該第2スレーブ61用の書き込み領域へ書き込む。第2スレーブ61は、書き込みが終了した制御データCDを、マスター53や他のスレーブ(第3スレーブ65など)に向けて送信する。なお、制御データCDは、後述する多重の高速シリアル通信により伝送される。また、第1多重処理装置55の第1スレーブ57は、第2スレーブ61と同様に、マスター53から分岐スレーブ43を介して受信した制御データCDに基づいて、固定多重部45が備える各種素子を制御する。
【0026】
また、X軸スライド機構27Aの第3スレーブ65は、上記したヘッド部25の第2スレーブ61と同様に、制御データCDに基づいて、X軸スライド機構27Aに取り付けられたリレー81やセンサ83などを制御する。制御データCDは、例えば、マスター53、分岐スレーブ43、第1スレーブ57、第2スレーブ61、第1スレーブ57、第3スレーブ65、第1スレーブ57、分岐スレーブ43、マスター53の順に各スレーブを循環して伝送される。第3スレーブ65は、第1スレーブ57を経由してマスター53から受信した制御データCDの読み込み領域のデータに基づいてリレー81等を制御する。また、第3スレーブ65は、センサ83の検出データ等を制御データCDの書き込み領域に書き込み第1スレーブ57を経由してマスター53へ送信する。
【0027】
ヘッド部25やX軸スライド機構27A等が備える各種素子(制御データCDによって制御される素子)は、特に限定されない。例えば、X軸スライド機構27Aのリレー81は、X軸スライド機構27Aのリニアモータのブレーキを駆動する駆動信号を出力するリミットスイッチである。リレー81は、駆動信号を出力してブレーキを駆動することで、例えば、X軸スライド機構27Aのオーバーランを抑制する。また、X軸スライド機構27Aのセンサ83は、例えば、部品装着機20に設定された基準高さ位置に基づいて、基板17の上面の高さを計測する基板高さセンサである。
【0028】
次に、上記した産業用ネットワークの制御データCDやパーツカメラ71等の画像データGDを伝送する多重通信について説明する。本実施形態の部品装着機20は、上記した固定多重部45、X軸スライド機構27A及びヘッド部25の間のデータ伝送を多重の高速シリアル通信によって実行する。
図3に示すように、固定多重部45は、上記した第1多重処理装置55の他に、光変換モジュール85,87を有する。光変換モジュール85は、ヘッド部25が有する光変換モジュール89と、光ファイバケーブル91を介して接続されている。同様に、固定多重部45の光変換モジュール87は、X軸スライド機構27Aが有する光変換モジュール93と、光ファイバケーブル95を介して接続されている。光ファイバケーブル91,95は、例えば、ケーブル内の光ファイバ線の配置や太さを調整して、耐屈曲性を高めたものである。これにより、ヘッド部25やX軸スライド機構27Aの移動にともなって光ファイバケーブル91,95が屈曲した場合であっても、光ファイバ線を損傷させることなく、安定してデータを伝送できる。なお、固定多重部45、ヘッド部25、X軸スライド機構27Aを接続する通信は、光通信に限らず、例えば、Gigabit Ethernet(登録商標)の通信規格に準拠したLANケーブルを用いたパケット通信でも良い。また、部品装着機20が備える通信システムは、有線の通信システムに限らず、無線の通信システムでも良い。
【0029】
次に、第1多重処理装置55と第2多重処理装置63の間の通信について説明する。なお、第1多重処理装置55と第3多重処理装置67との間の通信の処理内容は、第1多重処理装置55と第2多重処理装置63との間の通信の処理内容と同様であるため、その説明を適宜省略する。
図4は、固定多重部45の第1多重処理装置55と、ヘッド部25の第2多重処理装置63の構成を示している。
【0030】
図4に示すように、固定多重部45の第1多重処理装置55は、上記した第1スレーブ57の他に、シリパラ変換回路101、CDR回路102、多重化部103、非多重化部104、送信バッファ部105、受信バッファ部106、ダミーPHY107、プロセッサ109を備えている。また、ヘッド部25の第2多重処理装置63は、上記した第2スレーブ61の他に、シリパラ変換回路111、CDR回路112、多重化部113、非多重化部114、送信バッファ部115、受信バッファ部116、ダミーPHY117、プロセッサ119を備えている。
図4に示すように、第1多重処理装置55と、第2多重処理装置63は、同様の構成となっている。このため、以下の説明では、主に第1多重処理装置55の構成を説明し、第2多重処理装置63の説明を適宜省略する。
【0031】
シリパラ変換回路101は、光変換モジュール85を介して光ファイバケーブル91に接続されている。光変換モジュール85は、光信号とデジタル信号の変換を実行する物理インターフェースである。光変換モジュール85は、シリパラ変換回路101に接続され、シリパラ変換回路101から入力されたデータを光信号に変換する。光変換モジュール85は、変換した光信号を、光ファイバケーブル91を介してヘッド部25の光変換モジュール89へ送信する。また、光変換モジュール85は、ヘッド部25の光変換モジュール89から受信した光信号をデジタ信号(シリアル信号)に変換してシリパラ変換回路101へ出力する。
【0032】
第1多重処理装置55は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのプログラム可能なロジックデバイスである。また、第1スレーブ57、第2スレーブ61、及び第3スレーブ65は、例えば、ロジックデバイスの論理回路の構築に使用されるIPコアである。なお、第1多重処理装置55は、FPGAに限らず、プログラマブルロジックデバイス(PLD)、複合プログラマブルロジックデバイス(CPLD)でも良い。また、第1多重処理装置55は、第1スレーブ57以外の回路を、特定用途向け集積回路(ASIC)などで構成しても良い。
【0033】
また、固定多重部45は、メモリ110を備えている。メモリ110には、FPGAの論理回路を構築するための第1コンフィグ情報CF11と、第2コンフィグ情報CF12とが記憶されている。同様に、ヘッド部25のメモリ120には、第1コンフィグ情報CF21と、第2コンフィグ情報CF22とが記憶されている。第1多重処理装置55は、メモリ110に記憶された第1コンフィグ情報CF11又は第2コンフィグ情報CF12に基づいて、シリパラ変換回路101、CDR回路102、多重化部103、非多重化部104、送信バッファ部105、受信バッファ部106、ダミーPHY107、及び第1スレーブ57の論理回路を構築する。メモリ110,120は、例えば、EEPROMなどの不揮発性メモリである。メモリ110,120は、不揮発性メモリに限らず、SRAMなどの揮発性メモリでもよい。また、コンフィグ情報を記憶する記憶装置は、メモリに限らず、ハードディスクなどの他の記憶装置でも良い。
【0034】
本実施形態の第1多重処理装置55は、セーフモードとユーザモードの2面ブート機能を有する。第1多重処理装置55は、例えば、メモリ110から第1コンフィグ情報CF11を読み込んで、第1コンフィグ情報CF11に基づいてシリパラ変換回路101等(第1論理回路の一例)を構築するセーフモードを備える。また、第1多重処理装置55は、第2コンフィグ情報CF12をメモリ110から読み込んで、第2コンフィグ情報CF12に基づいてシリパラ変換回路101等(第2論理回路の一例)を構築するユーザモードを備える。第1多重処理装置55は、例えば、部品装着機20の電源を投入され起動した後の初期段階でセーフモードとなり、次に、セーフモードからユーザモードへと遷移し、ユーザモードにおいて産業用ネットワークの制御データCDの伝送を行う。また、ヘッド部25は、部品装着機20の電源投入時だけでなく、ヘッド部25の交換時においても、モードの遷移が発生する。ヘッド部25は、X軸スライド機構27Aに取り付けられると起動処理を開始しセーフモードからユーザモードへと遷移する。
【0035】
第1多重処理装置55は、セーフモードにおいて、例えば、第2コンフィグ情報CF12の検証を行う。例えば、第1多重処理装置55は、セーフモードにおいて、第1コンフィグ情報CF11に基づいてシリパラ変換回路101等を構築した後、第2コンフィグ情報CF12に基づいてユーザモードの論理回路(シリパラ変換回路101等)を構築した場合に、論理回路の構築を正常に行えるか否かを判断する。第1多重処理装置55は、第2コンフィグ情報CF12のデータに誤りがないか、第2コンフィグ情報CF12で構築された場合の論理回路の接続や処理結果に誤りがないかなどを検査し、論理回路の構築を正常に行えるか否かを判断する。
【0036】
第1多重処理装置55は、正常に構築できると判断した場合、セーフモードからユーザモードへ遷移する。この際、第1多重処理装置55は、シリパラ変換回路101等の回路を再構築する再起動を行い、外部との通信を一時的に切断する。このため、第1多重処理装置55と接続された他の装置等は、モードの切り替えにより通信を切断される。
【0037】
また、第1多重処理装置55は、セーフモードからユーザモードへ遷移すると、第2コンフィグ情報CF12に基づいて構築したシリパラ変換回路101等により制御データCDなどの通信システムで伝送するデータの処理を行う。本実施形態の第1多重処理装置55及びヘッド部25は、セーフモードにおいては制御データCDを伝送する産業用ネットワークを確立せず、ユーザモードにおいて産業用ネットワークの確立処理を行う。
【0038】
また、
図4に示すシリパラ変換回路101は、シリアルデータとパラレルデータとの変換を行う。シリパラ変換回路101は、光変換モジュール85から入力したシリアルデータをパラレルデータに変換してCDR回路102へ出力する。また、シリパラ変換回路101は、CDR回路102から入力したパラレルデータをシリアルデータに変換して光変換モジュール85へ出力する。
【0039】
CDR回路102は、所謂、クロックデータリカバリ(Clock Data Recovery:CDR)回路であり、送受信の同期に用いるクロック信号の重畳、及び分離を行う。CDR回路102は、多重化部113から入力した多重化データにクロック信号を重畳したデータをシリパラ変換回路101に出力する。また、CDR回路102は、シリパラ変換回路101から入力したパラレルデータから、送信側のCDR回路112で重畳されたクロック信号を分離し、分離したクロック信号を用いて、パラレルデータから多重化データを取り出す。CDR回路102は、取り出した多重化データを非多重化部104へ出力する。
【0040】
多重化部103は、送信バッファ部105から入力したデータを多重化する。送信バッファ部105は、多重化するデータの数に合わせて複数設けられている。多重化部103は、例えば、産業用ネットワークの制御データCD、本体制御装置51からマークカメラ69等に送信する撮像の開始信号などを、各送信バッファ部105を介して入力し多重化する。多重化部103は、例えば、時分割多重化方式(TDM:Time Division Multiplexing)により多重化を行う。多重化部103は、例えば、送信バッファ部105を介して入力した各種データを、入力ポートに対して割り当てた一定時間(タイムスロット)に応じて多重化し、多重化した多重化データをCDR回路102へ出力する。尚、
図3及び
図4に示す多重通信システムの構成は、一例であり適宜変更可能である。例えば、ヘッド部25の吸着ノズルの駆動源である電磁モータのエンコーダのエンコーダ信号や、エンコーダに対する制御コマンドを多重化しても良い。また、
図3に示す本実施形態の多重通信システムでは、Y軸スライド機構27Bが接続されていない。しかしながら、例えば、Y軸スライド機構27Bのリニアモータに取り付けたリニアスケールのエンコーダ信号を、多重通信システムにより伝送しても良い。
【0041】
また、受信バッファ部106は、送信バッファ部105と同様に、多重化されたデータの数に合わせて複数設けられている。非多重化部104は、CDR回路102から入力した多重化データの非多重化を実行し、多重化データに多重化されたデータを分離する。非多重化部104は、分離した各種のデータを、対応する受信バッファ部116へ出力する。これにより、固定多重部45とヘッド部25との間において、制御データCD、画像データGD等の各種のデータを多重化した多重通信(高速シリアル通信)が実行される。
【0042】
複数の送信バッファ部105のうち、産業用ネットワークの制御データCDを蓄積する送信バッファ部105は、ダミーPHY107を介して第1スレーブ57に接続されている。同様に、複数の受信バッファ部106のうち、制御データCDを蓄積する受信バッファ部106は、ダミーPHY107を介して第1スレーブ57に接続されている。プロセッサ109は、例えば、固定多重部45のFPGA基板に実装されたCPU等の処理装置であり、第1スレーブ57やダミーPHY107に対する制御を実行する。プロセッサ109は、例えば、メモリ110からプログラムを読み込んで、第1スレーブ57やダミーPHY107に対する制御を実行する。以下の説明では、プログラムを実行するプロセッサ109のことを、単に装置名で記載する場合がある。例えば、「プロセッサ109が」という記載は、「プログラムを実行するプロセッサ109が」ということを意味する場合がある。
【0043】
(ダミーPHYについて)
図4に示すダミーPHY107,117は、例えば、MII(Media Independent Interface)の通信規格に準拠した信号を疑似的に生成し、第1スレーブ57や第2スレーブ61に生成した信号を送信して通信の確立処理を実行する。ここでいう疑似的に生成するとは、例えば、MIIの通信規格で規定されたデータ形式の信号を、FPGAで構築したダミーPHY107,117の論理回路により生成することをいう。尚、ダミーPHY107,117は、同様の構成である。このため、以下の説明では、ダミーPHY107について主に説明し、他のダミーPHY117についての説明を適宜省略する。
【0044】
図5は、ダミーPHY107の概略構成を示している。ダミーPHY107は、MII受信データ処理部131、MIIインターフェース133、MII送信データ処理部135、及び疑似信号生成部137を有する。これらの、MII受信データ処理部131等は、例えば、FPGAの論理回路である。
【0045】
ダミーPHY107は、非多重化部104によって非多重化された制御データCD、即ち、ヘッド部25から受信した制御データCDを、MII受信データ処理部131に入力する。MIIインターフェース133は、第1スレーブ57と接続されるインターフェースであり、MII規格に準拠した通信を実行する。MII受信データ処理部131は、受信バッファ部106から入力した制御データCDを、MIIインターフェース133を介して第1スレーブ57に出力する。第1スレーブ57は、例えば、第2スレーブ61から受信した制御データCDに対する読み込み処理等を実行する。また、第1スレーブ57は、例えば、処理後の制御データCDを次の第3スレーブ65へ送信する場合、光変換モジュール87に対応するダミーPHY(図示略)を介してX軸スライド機構27Aへ送信する。
【0046】
また、ダミーPHY107のMII送信データ処理部135は、MIIインターフェース133を介して第1スレーブ57からデータを入力する。第1スレーブ57は、例えば、分岐スレーブ43を介してマスター53(
図3参照)から受信した制御データCDを、MIIインターフェース133を介してMII送信データ処理部135へ出力する。MII送信データ処理部135は、第1スレーブ57から入力した制御データCDを、送信バッファ部105を介して多重化部103(
図4参照)へ出力する。多重化部103は、MII送信データ処理部135から入力した制御データCDを他のデータと多重化して多重化データを生成する。ここでいう他のデータとは、パーツカメラ71に対して撮像を指示する開始信号などである。これにより、マスター53から分岐スレーブ43を介して第1スレーブ57へ送信された制御データCDは、第2スレーブ61へ送信される。
【0047】
また、MIIインターフェース133は、第1スレーブ57との間で、
図5に示すTXD信号(送信データ)やRXD信号(受信データ)を送受信する。また、MIIインターフェース133は、TXD信号やRXD信号の他に、各種の制御用の信号を、第1スレーブ57との間で送受信する。例えば、MIIインターフェース133は、TX_CLK信号などの送信クロック信号、後述するマネージメント制御用のMDIO(Media Dependent Input/Output)信号、そのクロック信号であるMDC信号などを送信する。
【0048】
ここで、本実施形態のダミーPHY107を用いない場合、第1スレーブ57は、例えば、2つのPHYと、その2つのPHYを接続するケーブルを介して送信バッファ部105と接続しなければならない可能性がある。具体的には、この2つのPHYは、ケーブルでデータを伝送するために、デジタル信号とアナログ信号とを交換するものである。2つのPHYを接続するケーブルは、例えば、イーサネット(登録商標)規格に準拠したLANケーブルである。従来、産業用ネットワークに使用されるIPコアを第1スレーブ57として用いて、多重化部103や非多重化部104のような他の回路と接続する場合、このような2つのPHY及びLANケーブルを介して接続する必要があった。そして、産業用ネットワークで使用されるスレーブ用のIPコアの中には、LANケーブルを接続する2つのPHYの間で通信を確立した後でなければ、外部の回路、即ち、多重化部103等と通信を開始しない設定のものがあった。
【0049】
例えば、2つのPHYには、他方のPHYと通信が確立したか否かを示すレジスタが設けられている。そして、第1スレーブ57は、MDIO信号をPHYに送信し、PHYのレジスタに設定された情報を取得する。第1スレーブ57は、取得したレジスタ値が通信確立を示す値であった場合、2つのPHY及びLANケーブルを介して多重化部103等との間の通信を開始する。一方、第1スレーブ57は、通信確立を示すレジスタ値を取得できるまでの間、多重化部103等との間の通信を開始しない状態となる。
【0050】
そこで、
図5に示す本実施形態のダミーPHY107の疑似信号生成部137は、PHYと同様にレジスタ値を応答する処理を実行することで、上記した2つのPHYやその2つのPHYを接続するLANケーブルを不要とする。さらに、本実施形態の第1多重処理装置55は、上記したセーフモードにおいて、第2多重処理装置63及び第3多重処理装置67との産業用ネットワークの通信を確立しない。例えば、第1多重処理装置55は、下流側の第2多重処理装置63からユーザモードへ遷移したことを示す遷移通知情報141を受信するまで、産業用ネットワークの通信を確立しない。第1多重処理装置55のプロセッサ109は、第2多重処理装置63から多重の高速シリアル通信を介して遷移通知情報141を受信すると、ダミーPHY107に対して通信の確立処理を開始する指示を行う。
【0051】
詳述すると、
図6は、第1多重処理装置55と第2多重処理装置63の起動時のシーケンス図である。以下の説明では、一例として、部品装着機20の電源を投入して部品装着機20のシステムを起動する場合について説明する。まず、
図6のステップ(以下、単に「S」と表記する)11において、第1多重処理装置55は、部品装着機20の電源が投入されると、メモリ110から第1コンフィグ情報CF11を読み込み、論理回路を構築してセーフモードとなる。同様に、第2多重処理装置63は、部品装着機20の電源が投入されると、メモリ120から第1コンフィグ情報CF21を読み込み、論理回路を構築してセーフモードとなる(S13)。
【0052】
第1及び第2多重処理装置55,63は、セーフモードにおいて、第2コンフィグ情報CF12,CF22に基づく論理回路の検証を実行する。第1多重処理装置55は、第2コンフィグ情報CF12に基づいて論理回路を正常に構築できると判断すると、メモリ110から第2コンフィグ情報CF12を読み出し、論理回路を構築しユーザモードとなる(S15)。同様に、第2多重処理装置63は、第2コンフィグ情報CF22に基づいて論理回路を正常に構築できると判断すると、メモリ120から第2コンフィグ情報CF22を読み出してユーザモードとなる(S17)。この際に、第1及び第2多重処理装置55,63は、論理回路の再構築により、再起動を行う。
【0053】
ここで、例えば、第1及び第2多重処理装置55,63のモードの遷移するタイミングがずれ、第1多重処理装置55の第1スレーブ57が、第2多重処理装置63よりも先にユーザモードに遷移し産業用ネットワークの通信を確立させようとして、いまだセーフモードの状態の第2多重処理装置63の第2スレーブ61と通信を開始したとする。第1スレーブ57は、セーフモードの第2スレーブ61から多重通信を介して応答を受け取る。その後、遅れている第2スレーブ61がセーフモードからユーザモードへ遷移する際に再起動すると、確立した産業用ネットワークが切断される。その結果、第1多重処理装置55のCDR回路102は、高速シリアル通信に多重化された産業用ネットワークが切断された後も、クロックを保持して所定時間だけパラレルデータから多重化データ(制御データCD)を分離する。分離された制御データCDは、第1スレーブ57、他のスレーブ(分岐スレーブ43、第3スレーブ65)、あるいはマスター53に伝送される。その結果、産業用ネットワークの切断に起因して制御データCDに誤りが発生した場合、データの誤りが発生した制御データCDを、他のスレーブ等に送信してしまう虞がある。
【0054】
また、例えば、部品装着機20のシステムを起動し、基板17に対する電子部品の装着作業を開始した後、ヘッド部25の交換を実施する場合がある。この場合も、上記した起動時にモードの遷移がずれた場合と同様に、交換後のヘッド部25をX軸スライド機構27Aに装着すると、第2スレーブ61がセーフモードからユーザモードへ遷移するタイミングで産業用ネットワークが切断され、データの誤りが発生した制御データCDが伝送される虞がある。
【0055】
そこで、本実施形態の部品装着機20では、ダミーPHY107,117の切断状態を維持しセーフモードにおいては産業用ネットワークを確立させずに、ユーザモードへの遷移が完了した後に、産業用ネットワークの確立を開始させるようにする。
図6に示すように、第1及び第2多重処理装置55,63は、ユーザモードへ遷移すると、多重の高速シリアル通信の確立処理を行う(S19)。例えば、第2多重処理装置63のプロセッサ119は、高速シリアル通信を確立し、且つ第2スレーブ61のユーザモードへの遷移を完了させると、ユーザモードへ遷移したことを示す遷移通知情報141を、高速シリアル通信を介して第1多重処理装置55へ送信する(S21)。
【0056】
例えば、第2スレーブ61は、第2コンフィグ情報CF22に基づく論理回路の構築を完了させ、ユーザモードへの遷移を完了させると、遷移が完了したことを示す情報をプロセッサ119に出力する。プロセッサ119(通知装置の一例)は、第2スレーブ61から入力した情報に基づいて遷移通知情報141を生成し、送信バッファ部115に出力する。本実施形態の多重通信システムは、例えば、プロセッサ119等から出力されるI/Oデータを多重化して伝送可能となっている。遷移通知情報141は、例えば、モードの遷移の有無を示す1ビットのI/Oデータである。多重化部113は、送信バッファ部115を介して入力した遷移通知情報141を多重化して第1多重処理装置55へ送信する。なお、第2多重処理装置63は、遷移通知情報141を多重の高速シリアル通信以外の通信方法や通信回線により第1多重処理装置55へ送信しても良い。
【0057】
第1多重処理装置55のプロセッサ109は、受信バッファ部106を介して非多重化部104から遷移通知情報141を入力する。プロセッサ109は、遷移通知情報141を入力すると、産業用ネットワークの確立処理を開始しても良いか否かを判断する。プロセッサ109は、例えば、遷移通知情報141を入力し、高速シリアル通信を確立しており、且つ第1スレーブ57のユーザモードへの遷移が完了している場合、産業用ネットワークの確立処理を開始しても良いと判断する。
【0058】
プロセッサ109は、産業用ネットワークの確立処理を開始しても良いと判断すると、ダミーPHY107に対し、産業用ネットワークの確立処理を開始させる制御を行う(S23)。また、第2多重処理装置63のプロセッサ119は、遷移通知情報141を送信した後、ダミーPHY117に対し、産業用ネットワークの確立処理を開始させる制御を行う(S25)。なお、第2多重処理装置63は、遷移通知情報141に対する正常応答のデータを、第1多重処理装置55から受信した後に、S25の処理を開始しても良い。
【0059】
図7は、ダミーPHY107の処理手順を示している。ダミーPHY107は、例えば、自身のユーザモードの論理回路を構築した後、
図7に示す処理を開始する。まず、S41において、ダミーPHY107の疑似信号生成部137(
図5参照)は、レジスタ値を設定する。
図5に示すように、疑似信号生成部137は、通信確立又は通信切断を示す情報を記憶するレジスタ138を備えている。疑似信号生成部137は、産業用ネットワークの確立処理を開始する指示をプロセッサ109から入力するまでは、リンクダウンを示す値をレジスタ138に設定する。この状態では、ダミーPHY107は、第1スレーブ57からMDIO信号による問い合わせがあっても、リンクダウンを示すレジスタ値を応答する。これにより、第1スレーブ57は、第2スレーブ61との間の産業用ネットワークを切断された状態となり、データ誤りが発生した制御データCDを伝送するのを抑制される。
【0060】
また、MII受信データ処理部131及びMII送信データ処理部135は、疑似信号生成部137の制御に基づいて、データ転送の開始又は停止を制御可能となっている。疑似信号生成部137は、産業用ネットワークの確立処理を開始する指示をプロセッサ109から入力するまでの間、MII受信データ処理部131及びMII送信データ処理部135の転送動作を停止させる。尚、指示を入力しない状態において、第1スレーブ57から各種の問い合わせがあった場合に、疑似信号生成部137は、これに応答する処理を実行してもよい。例えば、疑似信号生成部137は、データの転送速度について第1スレーブ57から問い合わせがあった場合に、これに応答して適切な通信速度を設定するなど、いわゆるオートネゴシエーションを実行してもよい。
【0061】
疑似信号生成部137は、S41を実行した後、S43を実行する。S43において、疑似信号生成部137は、上記したプロセッサ109からの指示を入力したか否かを判断する。疑似信号生成部137は、プロセッサ109から指示を入力するまで(S43:NO)、リンクダウンの状態を維持する。一方で、疑似信号生成部137は、プロセッサ109から指示を入力すると(S43:YES)、レジスタ138にリンクアップを示す値を設定する(S45)。これにより、疑似信号生成部137は、第1スレーブ57からMDIO信号による問い合わせがあると、リンクアップを示すレジスタ値を応答する。
【0062】
次に、S47において、疑似信号生成部137は、MII受信データ処理部131及びMII送信データ処理部135に対してデータの転送処理を開始させる。また、第1スレーブ57は、疑似信号生成部137からリンクアップ、即ち、産業用ネットワークの確立処理を開始する旨のレジスタ値を取得すると、ダミーPHY107を介して第2多重処理装置63の第2スレーブ61との間の通信を開始する。MII送信データ処理部135は、第1スレーブ57から受信したデータを送信バッファ部105に転送する。また、MII受信データ処理部131は、受信バッファ部106から受信したデータを、第1スレーブ57に転送する。このようにして、ダミーPHY107は、多重化部103と第1スレーブ57との間で、データの受け渡しを適切に実施することが可能となっている。これにより、第1スレーブ57と多重化部103をダミーPHY107により接続することが可能となり、上記した2つのPHYやその2つのPHYを接続するLANケーブルが不要となる。さらに、モードの遷移完了に合わせて、第1スレーブ57と多重化部103を接続することができる。
【0063】
図6に示すように、第1多重処理装置55の第1スレーブ57は、第2多重処理装置63の第2スレーブ61との間で産業用ネットワークを確立する(S27)。これにより、ヘッド部25は、固定多重部45側(上流側)の産業用ネットワークに参加することができる。そして、部品装着機20は、産業用ネットワークを含めた全て通信の確立処理を完了させると、
図3に示す多重通信システムにより制御データCD等を伝送しながら装着作業を実行する(S29)。なお、上記した説明では、部品装着機20の電源を投入した起動時において、セーフモードからユーザモードへ遷移した後に、産業用ネットワークを確立する処理を説明した。しかしながら、例えば、ヘッド部25の交換の際に、交換したヘッド部25をX軸スライド機構27Aに装着する場合も同様の処理を実行できる。即ち、交換にともなってヘッド部25の起動が開始されヘッド部25がセーフモードからユーザモードへ遷移する場合にも、遷移通知情報141を用いて、ヘッド部25がセーフモードからユーザモードへ遷移した後に、産業用ネットワークの確立処理を開始することができる。
【0064】
上記したように、本実施形態の第2多重処理装置63は、光通信のシリアル通信により伝送されるシリアルデータに埋め込まれたクロックを分離するCDR回路112を備える。第2スレーブ61は、第1コンフィグ情報CF21により論理回路(第1論理回路の一例)を構築するセーフモードと、第2コンフィグ情報CF22により論理回路(第2論理回路の一例)を構築し、産業用ネットワークにおけるマスター53からシリアル通信を介して伝送される制御データCDを論理回路で処理するユーザモードとを有する。
【0065】
ここで、クロックが埋め込まれたシリアルデータを伝送するシリアル通信では、受信側においてCDR回路112を用いて、シリアルデータからクロックを分離する。この種のCDR回路112では、シリアル通信自体が切断された後や、シリアル通信に多重化された一部の通信が切断された後も、クロックを保持して所定時間だけシリアルデータに含まれるデータを分離して出力する虞がある。第2スレーブ61は、セーフモードからユーザモードに切り替わるのに応じて再起動する。通信先の第1多重処理装置55のCDR回路102は、シリアル通信回線に含まれる産業用ネットワークの通信が切断された後も、クロックを保持して所定時間だけシリアルデータからデータを分離し、分離したデータを他のスレーブ等へ伝送することとなる。その結果、産業用ネットワークの通信の切断に起因して制御データCDにデータの誤りが発生した場合、データの誤りが発生した制御データCDを、CDR回路102から他のスレーブに送信、ひいてはマスター53へ送信してしまう虞がある。これに対し、本実施形態の第2多重処理装置63では、このようなクロックを埋め込まれたシリアル通信において遷移通知情報141を送信することで、ユーザモードへの遷移を通知してからシリアル通信の確立などを実行できる。従って、シリアル通信の回線に接続されモードの切り替えを行うスレーブにおいて、誤りが発生した制御データCDの伝送を抑制できる。
【0066】
また、プロセッサ119は、セーフモードからユーザモードへ遷移し第2コンフィグ情報CF22に基づいて論理回路の構築が完了したことに応じて遷移通知情報141を通知する。これによれば、ユーザモードの論理回路を構築し、制御データCDを確実に処理できる状態となってから遷移通知情報141を通知できる。
【0067】
また、第2スレーブ61は、光通信を介して遷移通知情報141を送信した後(S21)、産業用ネットワークの確立処理を開始する(S27)。これによれば、第2スレーブ61は、自身がユーザモードへ遷移したことを、光通信を介して遷移通知情報141により通知した後、産業用ネットワークの確立処理を開始する。これにより、ユーザモードへ確実に遷移した後に、産業用ネットワークの確立処理を開始できる。
【0068】
また、第2多重処理装置63は、産業用ネットワークで伝送される制御データCDを多重化して多重通信により伝送する多重化部113を備える。プロセッサ119は、多重通信により遷移通知情報141を通知する。これによれば、産業用ネットワークの確立処理を開始するのに先立って、多重通信を確立しておけば、多重通信により遷移通知情報141を通知できる。
【0069】
また、多重化部113は、時分割多重化方式により多重化を行う。これによれば、時分割多重により遷移通知情報141を多重化して通知できる。
【0070】
また、第2多重処理装置63は、第2スレーブ61と多重化部113との間に接続されるダミーPHY117を備える。ダミーPHY117は、MIIの通信規格に準拠した信号を疑似的に生成し、生成した信号を第2スレーブ61に伝送して第2スレーブ61との間の通信を確立し、通信を確立した後に多重化部113と第2スレーブ61との間で制御データCDを伝送する。プロセッサ119は、遷移通知情報141を送信した後、ダミーPHY117に対して第2スレーブ61との間の通信を確立するように指示する(S25)。
【0071】
これによれば、第2スレーブ61と多重化部113との間に接続されるPHYの数を減らし、多重化部113と第2スレーブ61とのデータの受け渡しをダミーPHY117により実施することが可能となる。また、PHYの数を減らすことが可能となるため、基板実装面積が減り、装置の小型化が可能となる。また、多重化部113と第2スレーブ61とのデータの送受信において一旦アナログ信号に変換する処理が省略されるため、制御データCDの転送時間を短縮することが可能となる。その結果、例えば、EtherCATフレームを産業用ネットワークで循環させる場合に、フレームがネットワークを一周するのに必要な転送時間の短縮が可能となり、接続可能なスレーブ数を増加させることが可能となる。
【0072】
また、上記した実施形態において、セーフモードは、第2スレーブ61の起動時に第1コンフィグ情報CF21に基づいて論理回路(第1論理回路の一例)を構築し、第2コンフィグ情報CF22に基づいた論理回路の構築を正常に行えるか否かを判断するモードである。また、ユーザモードは、セーフモードから遷移した後、構築した論理回路(第2論理回路の一例)により制御データCDの処理を行うモードである。
【0073】
これによれば、制御データCDを処理する論理回路の改良などに応じてコンフィグ情報を変更する場合は、ユーザモードの第2コンフィグ情報CF22を更新することで対応できる。また、仮に、更新した第2コンフィグ情報CF22に問題があったとしても、第1コンフィグ情報CF21による起動や、第2コンフィグ情報CF22のみの書き替え作業を行うことで対応できる。このような2つのモードを備える第2スレーブ61では、起動時にモードの切り替えが発生するため、遷移通知情報141を用いてモードの遷移を通知することは極めて有効である。
【0074】
(切断処理について)
次に、通信の切断時の処理について説明する。例えば、本実施形態の部品装着機20は、装置本体部41や固定多重部45の電源を入れたまま、ヘッド部25を交換可能となっている。ヘッド部25の交換作業では、例えば、ヘッド部25をX軸スライド機構27Aから取り外すことで、第1多重処理装置55と第2多重処理装置63との通信が切断される。この場合にも、起動時と同様に、多重の高速シリアル通信が切断されたにも係わらず、第1多重処理装置55のCDR回路102は、クロックを保持して所定時間だけパラレルデータから多重化データ(制御データCD)を分離する可能性がある。そこで、本実施形態の部品装着機20では、ヘッド部25の交換等を実施し、高速シリアル通信(光ファイバケーブル91の回線)の切断が伴う場合、事前に通知を行って産業用ネットワークを切断する。
【0075】
例えば、ユーザは、部品装着機20のタッチパネル26(
図1参照)を操作して、ヘッド部25を交換する作業を開始する旨の操作入力を行う。装置本体部41は、タッチパネル26を介して操作入力を受け付けると、マスター53を制御して、光ファイバケーブル91の高速シリアル通信を切断する前に、第1スレーブ57へ制御データCDを送信する(
図6のS31)。第1スレーブ57は、マスター53から受信した制御データCDに基づいて、ヘッド部25との間の産業用ネットワークの通信を切断する。例えば、第1スレーブ57は、マスター53から制御データCDを受信すると、産業用ネットワークを切断する旨の切断情報CI(
図4参照)をプロセッサ109へ出力する。プロセッサ109は、第1スレーブ57から切断情報CIを入力すると、ダミーPHY107に対してリンクを切断する制御を行う(S33)。
【0076】
尚、切断情報CI(制御データCD)を送信する条件は、上記したユーザによる操作入力に限らない。例えば、本体制御装置51は、製造する基板17の基板種の変更にともなってヘッド部25の交換が必要であると判断した場合に、制御データCDの送信をマスター53へ指示しても良い。あるいは、本体制御装置51は、例えば、エラーの発生にともなって、光ファイバケーブル91の高速シリアル通信を切断する必要があると判断した場合に、制御データCDの送信をマスター53へ指示しても良い。
【0077】
プロセッサ109、例えば、産業用ネットワークの切断を指示する情報を疑似信号生成部137へ出力する。
図7のS49において、疑似信号生成部137は、S47で多重通信システムを介した制御データCDの伝送を開始した後、プロセッサ109から切断を指示する情報を入力したか否かを判定する。疑似信号生成部137は、切断を指示する情報を入力するまでの間、MII受信データ処理部131及びMII送信データ処理部135による転送処理を継続する(S49:NO)。即ち、マスター53から制御データCDによる切断情報CIが送信されるまでの間、多重通信システムを介した制御データCDの伝送が継続される。
【0078】
一方で、疑似信号生成部137は、プロセッサ109から切断を指示する情報を入力すると(S49:YES)、S41からの処理を再度実行する。S41において、疑似信号生成部137は、第1スレーブ57との間の通信を切断するため、リンクダウンを示すレジスタ値をレジスタ138に設定する。ダミーPHY107は、第1スレーブ57からMDIO信号による問い合わせがあると、リンクダウンを示すレジスタ値を応答する。例えば、第1スレーブ57は、起動後、レジスタ138のレジスタ値を取得する処理を定期的に実行する。第1スレーブ57は、ダミーPHY107との通信を確立した後、リンクダウンを示すレジスタ値を取得すると、ダミーPHY107との間の通信、即ち、第2スレーブ61との間の通信を切断する。これにより、第1多重処理装置55と、第2多重処理装置63との間の産業用ネットワークの通信が切断される(
図6のS35)。
【0079】
なお、プロセッサ109は、第1スレーブ57から切断情報CIを入力した後、光ファイバケーブル91の高速シリアル通信において制御データCDが伝送されているか否かを判定しても良い。そして、プロセッサ109は、制御データCDが伝送されていないタイミングで、産業用ネットワークを切断する制御をダミーPHY107に対して実行しても良い(S33)。これにより、通信の切断にともなって、制御データCDにデータの誤りなどが発生することを抑制できる。
【0080】
因みに、部品装着機20は、作業機の一例である。第2スレーブ61は、スレーブの一例である。第2多重処理装置63は、光通信装置の一例である。CDR回路112は、CDR部の一例である。多重化部113は、多重化部の一例である。ダミーPHY117は、疑似信号送信部の一例である。プロセッサ119は、通知装置の一例である。
【0081】
以上、上記した本実施例によれば以下の効果を奏する。
本実施例の一態様では、第2多重処理装置63のプロセッサ119は、第2スレーブ61がユーザモードへ遷移したことを示す遷移通知情報141を、プロセッサ109へ通知する。これによれば、遷移通知情報141を受信したプロセッサ109は、ユーザモードへの遷移を確認してから、即ち、モードの遷移に起因して産業用ネットワークの切断が発生しない状況となってから各種の処理(産業用ネットワークの構築など)を第2多重処理装置63に対して開始できる。その結果、誤りが発生した制御データCDの伝送を抑制できる。
【0082】
尚、本開示は上記の実施例に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内での種々の改良、変更が可能であることは言うまでもない。
例えば、上記実施例では、第1多重処理装置55及び第2多重処理装置63は、全ての論理回路(シリパラ変換回路101,111、CDR回路102,112など)が2面ブート機能を有していたが、これに限らない。例えば、第1多重処理装置55及び第2多重処理装置63は、第1スレーブ57及び第2スレーブ61のみが2面ブート機能を有する構成でも良い。即ち、第1及び第2スレーブ57,61だけが、ユーザモードとセーフモードとを備える構成でも良い。
また、産業用ネットワークに適用される通信規格は、イーサネット(登録商標)に限らず、他の通信規格でもよい。また、インターフェースの規格は、MIIに限らず、GMII(Gigabit Media Independent Interface)やRMII(Reduced Media Independent Interface)でもよい。
また、上記実施例では、1つのマスター53に対して3つのスレーブ(第1~第3スレーブ57,61,65)を接続したが、これに限らない。マスター53の数は、2以上の複数個でも良い。また、スレーブの数は、2又は4以上の複数個でもよい。
また、上記実施例では、遷移通知情報141を、多重化通信システムで伝送したが、他の通信方法を用いて伝送しても良い。
【0083】
また、第2多重処理装置63は、CDR回路112を備えなくとも良い。
また、固定多重部45とヘッド部25とは、多重通信以外の通信で接続される構成でも良い。
また、プロセッサ119は、ユーザモードへ遷移し、論理回路の構築が完了した後に限らず、完了する直前に遷移通知情報141を通知しても良い。
また、第1多重処理装置55と第2多重処理装置63との間における多重通信は、時分割多重化方式以外、例えば、周波数多重化方式でも良い。
また、上記実施例では本開示における作業機として、電子部品を基板17に実装する部品装着機20を採用した例について説明した。しかしながら、本開示における作業機は、部品装着機20に限定されるものではなく、はんだ印刷装置などの他の対基板作業機を採用することができる。また、作業機は、例えば、工作機械や組立て作業を実施するロボットでも良い。
【0084】
(付記)
上記の実施形態で開示される内容は、以下の付記のようにも実施し得るものである。
(付記1)
請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の前記光通信装置と、前記光通信のシリアル通信を介して前記光通信装置と接続され、前記光通信装置と前記産業用ネットワークにおけるマスターとの間に接続される上流側光通信装置と、を備える光通信システムであって、前記上流側光通信装置は、前記光通信のシリアル通信により前記光通信装置から受信したシリアルデータに埋め込まれたクロックを分離する上流側CDR部と、前記マスターから受信した制御データに基づいて、前記光通信装置との間の前記産業用ネットワークの切断を行う上流側スレーブと、を備える、光通信システム。
【0085】
例えば、ヘッド部25の取り外しにともなって光ファイバケーブル91を光変換モジュール85から抜く場合など、第2スレーブ61のモード遷移と同様に、シリアル通信の切断が発生し、CDR回路102(上流側CDR部の一例)は、シリアル通信が切断された後も、クロックを保持して所定時間だけシリアルデータからデータを分離して出力する虞がある。これに対し、当該光通信システムでは、シリアル通信の切断を開始する前に、マスター53から第1スレーブ57(上流側スレーブの一例)へ産業用ネットワークの切断を指示できる。その結果、例えば、光ファイバケーブル91の取り外し(シリアル通信の切断)に起因して制御データCDにデータの誤りが発生したとしても、データの誤りが発生した制御データCDが、第2スレーブ61からマスター53等へ転送されるのを抑制できる。
【0086】
(付記2)
ワークに対する作業を行う可動部を備え、前記可動部は、着脱可能に設けられ、前記スレーブは、前記可動部に設けられる、請求項9に記載の作業機。
【0087】
これによれば、例えば、交換したヘッド部25(可動部の一例)の第2スレーブ61が交換後にユーザモードへ遷移する場合、第2スレーブ61は、ユーザモードへ遷移したことを、光通信を通じて第1スレーブ57等へ通知できる。これにより、ヘッド部25の交換後にユーザモードへの遷移が発生したとしも、誤りが発生した制御データCDが、部品装着機20内の産業用ネットワークで伝送されるのを抑制できる。
【符号の説明】
【0088】
20 部品装着機(作業機)、61 第2スレーブ(スレーブ)、63 第2多重処理装置(光通信装置)、112 CDR回路(CDR部)、113 多重化部、117 ダミーPHY(疑似信号送信部)、119 プロセッサ(通知装置)、141 遷移通知情報、CD 制御データ、CF21 第1コンフィグ情報、CF22 第2コンフィグ情報。