(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】最適効率のための導波路の回転格子の設計
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20220929BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B5/18
(21)【出願番号】P 2020570674
(86)(22)【出願日】2019-06-12
(86)【国際出願番号】 US2019036759
(87)【国際公開番号】W WO2020009788
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2020-12-28
(32)【優先日】2018-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516201548
【氏名又は名称】ビュージックス コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Vuzix Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【氏名又は名称】原田 三十義
(74)【代理人】
【識別番号】100153800
【氏名又は名称】青野 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ, ロバート ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】コワーツ, マレック ダブリュー.
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0322426(US,A1)
【文献】特表2005-524096(JP,A)
【文献】特表2017-504063(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0172995(US,A1)
【文献】国際公開第2018/198587(WO,A1)
【文献】特表2017-528739(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107329261(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01 - 27/02
G02B 5/18
G02B 5/32
G02B 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーチャル像を伝送するための画像光ガイドであって、
透明な基板と内側表面と外側表面を有する導波路と、
前記導波路上または前記導波路内に配置され、角度的に関連付けられた画像担持光ビームの範囲を、前記導波路内に回折するように作用可能なインカップリング回折光学要素と、
前記導波路上または前記導波路内に配置され、前記画像担持光ビームの少なくとも一部を、前記導波路から
アイボックスへと回折するように作用可能なアウトカップリング回折光学要素と、
前記導波路上または前記導波路内に配置され、前記インカップリング回折光学要素から伝播してきた前記画像担持光ビームを、前記アウトカップリング回折光学要素に向けて回折するように作用可能な回転回折光学要素と、
を備え、
前記内側表面と前記外側表面が前記導波路の平面と平行をなしており、
前記インカップリング回折光学要素と前記回転回折光学要素と前記アウトカップリング回折光学要素の各々は、周期的なフィーチャの列を有し、前記導波路の平面上の格子ベクトルを定義し、前記格子ベクトルの各々は、前記周期的なフィーチャの列と直交する方向を有し、前記周期的なフィーチャの列のピッチと反比例する長さを有し、
前記インカップリング回折光学要素と前記アウトカップリング回折光学要素の前記格子ベクトルは、異なる長さを有し、
前記インカップリング回折光学要素と前記回転回折光学要素と前記アウトカップリング回折光学要素の前記格子ベクトルの合計が実質的にゼロであ
り、
前記インカップリング回折光学要素が、前記角度的に関連付けられた画像担持光ビームの範囲の少なくとも一部を、前記内側表面と前記外側表面に対してある範囲の入射角で前記導波路内へ回折し、前記入射角の前記範囲は、全内部反射の臨界角と、前記角度的に関連付けられた画像担持光ビームの範囲の一部の光線が前記回転回折光学要素または前記アウトカップリング回折光学要素との遭遇を逃がす第2角との間にあり、
前記バーチャル像の中心近くのピクセルを表す前記角度的に関連付けられた画像担持光ビームの範囲の一部の中心光線が、極角で方向づけられ、
前記極角は、前記臨界角と前記第2角の間をプラスマイナス2度の許容差内で二分する、画像光ガイド。
【請求項2】
前記インカップリング回折光学要素と前記回転回折光学要素と前記アウトカップリング回折光学要素の前記格子ベクトルの各々が、異なる長さを有している、請求項1に記載の画像光ガイド。
【請求項3】
前記インカップリング回折光学要素の格子ベクトルをΚ
INとし、前記インカップリング回折光学要素のピッチをΛ
INとし、前記インカップリング回折光学要素の回折格子ベクトルΚ
INの方向の単位ベクトルをΚ
Λ
INとしたとき、前記格子ベクトルΚ
INが数学的に次式で定義され、
K
IN=(2π/Λ
IN)K
Λ
IN
前記回転回折光学要素の格子ベクトルをΚ
Tとし、前記回転回折光学要素のピッチをΛ
Tとし、前記回転回折光学要素の回折格子ベクトルΚ
Tの方向の単位ベクトルをΚ
Λ
Tとしたとき、前記格子ベクトルΚ
Tが数学的に次式で定義され、
K
T=(2π/Λ
T)K
Λ
T
前記アウトカップリング回折光学要素の格子ベクトルをΚ
OUTとし、前記アウトカップリング回折光学要素のピッチをΛ
OUTとし、前記アウトカップリング回折光学要素の回折格子ベクトルΚ
OUTの方向の単位ベクトルをΚ
Λ
OUTとしたとき、前記格子ベクトルΚ
OUTが数学的に次式で定義され
る、請求項1に記載の画像光ガイド。
K
OUT=(2π/Λ
OUT)K
Λ
OUT
【請求項4】
前記回転回折光学要素が、前記角度的に関連付けられた
画像担持光ビームの
範囲の一部の少なくとも第2部分を、前記導波路の前記内側表面と前記外側表面に
対して、実質的に前記入射角の前記範囲で回折することを特徴とする請求項1に記載の画像光ガイド。
【請求項5】
前記臨界角をθ
Cとし、前記角度的に関連付けられた画像担持光ビームのエンコードされた集合の1つの光線が前記回転回折光学要素またはアウトカップリング回折光学要素との遭遇を逃がすときの最端の極角をθ
Eとすると、
前記入射角の範囲は次式の極角θ
Iの範囲内にある、請求項4に記載の画像光ガイド。
θ
C<θ
I<θ
E
【請求項6】
前記回転回折光学要素は、前記中心光線を実質的に前記極角で回折するように作用可能であり、これにより、前記中心光線の少なくとも一部が、前記導波路に沿って前記アウトカップリング回折光学要素に向かって伝搬するように作用する、請求項1に記載の画像光ガイド。
【請求項7】
前記極角をθ
Oとし、
前記臨界角をθ
Cとし、前記角度的に関連付けられた画像担持光ビームの1つの光線が前記回転回折光学要素またはアウトカップリング回折光学要素との遭遇を逃がすときの最端の極角をθ
Eとすると、
前記極角は、プラスマイナス2度の許容差内で次式
θ
O=(θ
C+θ
E)/2
から導かれる、請求項6に記載の画像光ガイド。
【請求項8】
前記インカップリング回折光学要素は、前記中心光線が前記導波路に入射する非垂直方向から、前記中心光線を前記導波路内に回折するように構成されている、請求項6に記載の画像光ガイド
【請求項9】
前記アウトカップリング回折光学要素は、前記中心光線を、前記導波路に対して対応する非垂直方向で、前記導波路から回折するように構成されている、請求項8に記載の画像光ガイド。
【請求項10】
前記極角が、
前記プラスマイナス2度の許容範囲内で、前記中心光線と前記導波路の前記内側表面および外側表面の法線との間で測定される、請求項6に記載の画像光ガイド。
【請求項11】
前記インカップリング回折光学要素、前記回転回折光学要素およびアウトカップリング回折光学要素の少なくとも1つが、表面レリーフの格子フィーチャを備えている、請求項1に記載の画像光ガイド。
【請求項12】
前記インカップリング回折光学要素、前記回転回折光学要素およびアウトカップリング回折光学要素の少なくとも1つが、体積ホログラムを備えている、請求項1に記載の画像光ガイド。
【請求項13】
前記インカップリング回折光学要素、前記回転回折光学要素およびアウトカップリング回折光学要素の少なくとも1つが、ホログラフィック光学要素を備えている、請求項1に記載の画像光ガイド。
【請求項14】
バーチャル像を伝送するための画像光ガイドであって、
透明な基板と内側表面と外側表面を有する導波路と、
前記導波路上または前記導波路内に配置され、角度的に関連付けられた画像担持光ビームの範囲を、前記導波路内に回折するように作用可能なインカップリング回折光学要素と、
前記導波路上または前記導波路内に配置され、前記画像担持光ビームの少なくとも一部を二次元で拡大し、拡大された画像担持光ビームを前記導波路から観察者のアイボックスへと方向付けるように作用可能なアウトカップリング回折光学要素と、
を備え、
前記内側表面と前記外側表面が前記導波路の平面と平行をなしており、
前記インカップリング回折光学要素と前記アウトカップリング回折光学要素の各々は、1つ以上の周期的なフィーチャの列を備え、
前記インカップリング回折光学要素は、前記導波路の平面上の第1格子ベクトルを定義し、前記アウトカップリング回折光学要素は前記導波路の平面上の第2格子ベクトルと第3格子ベクトルを定義し、前記格子ベクトルの各々は、前記周期的なフィーチャの列と直交する方向を有し、前記周期的なフィーチャの列のピッチと反比例する長さを有し、
前記第1格子ベクトルは、前記第2格子ベクトルと前記第3格子ベクトルの少なくとも1つと異なる長さを有し、
前記インカップリング回折光学要素が、前記角度的に関連付けられた画像担持光ビームの範囲の少なくとも一部を、前記内側表面と前記外側表面に対してある範囲の入射角で前記導波路内へ回折し、前記入射角の前記範囲は、全内部反射の臨界角と、前記角度的に関連付けられた画像担持光ビームの範囲の一部の光線が
前記アウトカップリング回折光学要素との遭遇を逃がす第2角との間にあり、
前記バーチャル像の中心近くのピクセルを表す前記角度的に関連付けられた画像担持光ビームの範囲の一部の中心光線が、極角で方向づけられ、
前記極角は前記臨界角と前記第2角の間をプラスマイナス2度の許容差内で二分する、画像光ガイド。
【請求項15】
前記インカップリング回折光学要素およびアウトカップリング回折光学要素の少なくとも1つが、ホログラフィック光学要素を備えている、請求項
14に記載の画像光ガイド。
【請求項16】
前記回転回折光学要素が前記中心光線を前記極角で回折する、請求項1に記載の画像光ガイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニアアイディスプレイに関連し、特に、画像光ガイドを用いて観察者にバーチャル像コンテンツを伝送するようなディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドマウントディスプレイ(HMD)は、軍事、商業、工業、消防、および娯楽分野への適用を含め、様々な用途に向けて開発されている。これら適用の多くにおいて、HMDユーザーの視野にある現実世界の像に重ね合わせ可能なバーチャル像を形成することは、価値がある。シースルーの光学画像光ガイド(瞳拡大器とも呼ばれる)は、テンプルに設置されたプロジェクタからのバーチャル像を、観察者の瞳とアライメントされる位置へと伝送し、これにより上記重ね合わせ機能を可能にする。
【0003】
バーチャル像は、二次元像のピクセルに対応する、重なり合い角度的に関連付けられたビームの集合として、画像光ガイドに沿って伝送することができる。画像光ガイドは、画像光ガイドを通る観察者の視野の範囲内において、観察者の目が無限遠またはより近い焦点で画像コンテンツを見ることができる位置で、イメージングシステムの射出瞳を形成することに関与する。
【0004】
通常の形態では、画像光ガイドは、平行な平面の内側表面と外側表面を備えた平面導波路により形成されている。内側表面は観察者を向き、外側表面は、導波路を通過する観察者の視野を含む周囲環境を向いている。画像ソースからのコリメートされた角度的に関連付けられた光ビームは、インカップリング回折光学要素等のインプットカップリング(インカップリング光学要素とも言う)により、導波路内へと結合される。このインプットカップリングは、導波路のいずれかの表面に装着または形成されるか、導波路内に埋設されている。このような回折光学要素は、回析格子やホログラフィック光学要素として、又はその他の公知の方法で形成することができる。例えば、回折格子は、表面レリーフによって形成することができる。
【0005】
角度的に関連付けられたビームは、全反射(TIR)、つまり導波路の内側表面と外側表面からの内部反射のメカニズムにより、ビームが導波路に沿って伝搬できるような方向で、導波路内と結合される。回折のメカニズムなどによるビームの再配向は、ビーム間の角度関係および異なる波長のビーム部分間の角度関係を変える可能性がある。しかし、この角度関係の変化は、ランダムではなく体系的であるため、角度的エンコーディングと呼ぶことができる。
【0006】
角度的にエンコードされたビームは、導波路の長手に沿って視聴者の目の前の位置まで伝搬した後、アウトカップリング光学要素を介してデコードされるとともに導波路から出射され、観察者の目が所望のバーチャル像を形成する位置に、イメージングシステムの射出瞳を形成する。アウトカップリング光学要素は、インカップリング回折光学要素と一致するアウトカップリング回折光学要素であり、これにより、インカップリング回折光学要素によって課されたビームおよび異なる波長のビーム部分における相対的な角度変化を、体系的にデコードし、画像内の異なるピクセル位置を表すビーム間の元の角度関係を、復元することができる。
【0007】
射出瞳が形成される領域(アイボックスとも呼ばれる)は、非常に小さい場合があり、バーチャル像を見るために画像光ガイドに対して観察者の目を配置できる位置の範囲が制限される。アイボックスを拡大するために、角度的にエンコードされたビームの導波路に沿う多数回の内部反射が、アウトカップリング光学要素の制限された効率(例えば制限された回折効率)を伴い、利用することができ、角度的に関連付けられたビームの各々を、より大きな全域を占めるビームレットとして出力する。例えば、内部反射ビームがアウトカップリング回折光学要素と最初に遭遇する間に、ビームエネルギーの一部を、所望の一次回折によって導波路から出るように回折することができ、ビームエネルギーの第2の部分を、ゼロ次の回折により、元の経路に内部反射することができる。内部反射ビームとの2回目以降の遭遇は、ビームエネルギーの追加部分を、導波路に沿う相対的に変位した位置で導波路から出るように回折し、それによって各ビームが射出瞳の形成に寄与することができる領域を拡大することができる。
【0008】
単一の次元に沿って屈折率が変化するアウトカップリング回折光学要素は、角度的に関連付けられた個々のビームを、アウトカップリング回折光学要素との遭遇間での導波路に沿う伝播方向で、拡大することにより、アイボックスの一次元を拡大することができる。さらに、オプションの回転光学要素を、導波路に沿って光学的にインカップリング光学要素とアウトカップリング光学要素との間に配置して、アイボックスの第2の次元を拡大することができる。回転光学要素による拡大とアウトカップリング光学要素による拡大とを組み合わせると、アイボックスの二次元での拡大が提供される。単一の次元に沿って屈折率が変化する回折光学要素として、回転光学要素は、各ビームのエネルギーの一部を、各遭遇時に所望の1次回折により、アウトカップリング光学要素に向かう方向に回折するように配置することができる。ビームのエネルギーの他の部分は、ゼロ次の回折により、元の方向にさらに伝播するために保存される。繰り返しの遭遇は、アウトカップリング光学要素に近づくエンコードされたビームを広げる。
【0009】
バーチャル像の視野を表す角度的に関連付けられたビームの範囲は、TIRにより導波路に沿って伝送することができる角度的にエンコードされたビームの範囲によって制限される。たとえば、臨界角(critical)として知られるTIRの最小入射角は、導波路(ガラスやプラスチックなど)と隣接する環境(空気など)との間の境界での屈折率の違いに基づいている。最大入射角は、関連するビームのアウトカップリング光学要素および回転光学要素の各々との所望遭遇回数によって、制限することができる。利用可能なTIR角度を最大限に活用するために、画像の中心近くのピクセルに対応する角度的に関連付けられたビーム(非線形性を考慮)を、角度的にエンコードされたビームの範囲を利用可能なTIRの角度範囲に集中させるための最適な角度で、導波路内に回折することができる。したがって、好ましい形態では、最適な角度は、角度関連ビーム(beams)の範囲および利用可能なTIR角度の範囲の両方を二分するような角度関連ビーム(beam)と、関係付けることができる。
【0010】
導波路に沿ってインカップリング光学要素、回転光学要素、アウトカップリング光学要素を配置するため、および角度的に関連付けられた入力、出力ビームが導波路に出入りする種々の方向を全て許容するための利用可能な設計は、インカップリング回折光学要素とアウトカップリング回折光学要素が、互いに一致するか、少なくとも互いに鏡像関係にあるという条件によって制約される。バーチャル像を構成する角度的に関連付けられたビーム間の角度関係を維持するためである。回折光学要素として、インカップリング回折光学要素の回折フィーチャのピッチ(すなわち、間隔)は、アウトカップリング回折光学要素の回折フィーチャのピッチと一致し、これにより、インカップリング回折光学要素によって生成される体系的なエンコーディングは、アウトカップリング回折光学要素によってデコードされる。この一致関係は、歪みや色収差を回避しながら、利用可能な画像光ガイドの設計に物理的および機能的な制約を課す。
【発明の概要】
【0011】
実施形態は、ニアアイディスプレイでバーチャル像を伝送する画像光ガイドを構築するための設計機会を拡大する。画像光ガイドは、導波路に入る時にバーチャル像を運ぶ角度的に関連付けられたビームをエンコードし、導波路を出る時にエンコードされた角度関連ビームをデコードするが、アウトカップリング回折光学要素は、インカップリング回折光学要素と一致するか鏡像であることを要求されない。その代わりに、インカップリング回折光学要素によって課される角度エンコードは、アウトカップリング回折光学要素と回転回折光学要素の協動によってデコードされる。これとともに、インカップリング回折光学要素、回転回折光学要素、およびアウトカップリング回折光学要素は、バーチャル像を定義する異なる波長のビーム間の角度関係を、オフセット位置から観察者の目の近くの位置へと画像光ガイドにより伝送される際に、保存することができる。拡大された設計の可能性により、インカップリング回折光学要素、回転回折光学要素、およびアウトカップリング回折光学要素を、さまざまな態様で相対的に配置および配向して、これにより、導波路の全体的な形状をコントロールできる。また、角度的に関連付けられたビームの導波路に対する入力および出力の方向をコントロールできる。
【0012】
新しい設計の可能性は、アイボックスを2次元で拡大して、アイボックスを視聴者の目とアライメントする感度を下げることにも対応し、導波路に沿って角度的に関連するを広範囲で伝送するのを助けることもできる。例えば、回転回折光学要素は、角度的に関連付けられたビームを最適な形に維持しながら、導波路に沿ってアウトカップリング回折光学要素に向けてさらに伝搬するために、最適化することができる。
【0013】
様々な実施形態による画像光ガイドは、インカップリング回折光学要素、回転回折光学要素、およびアウトカップリング回折光学要素とともに導波路を含む。導波路は、透明な基板と、導波路の平面と平行に配向された内側表面および外側表面を有する。
インカップリング回折光学要素は、導波路上または導波路内に配置され、バーチャル像を表す角度的に関連付けられた画像担持光ビームの範囲を、導波路内に回折し、導波路に沿って伝搬させるように配置される。
アウトカップリング回折光学要素は、導波路上または導波路内に配置され、伝搬してきた画像担持光ビームを、導波路から観察者のアイボックスに向かって回折するように配置される。
回転回折光学要素は、導波路上または導波路内に配置され、インカップリング回折光学要素から伝搬してきた画像担持光ビームを、アウトカップリング回折光学要素に向けて回折するように配置される。
インカップリング回折光学要素、回転回折光学要素、およびアウトカップリング回折光学要素は、導波路の平面上の格子ベクトルによって定義される。これら格子ベクトルの各々は、フィーチャの周期的な列と垂直な方向を有し、フィーチャのピッチと反比例する長さを有している。
インカップリング回折光学要素とアウトカップリング回折光学要素の格子ベクトルは、異なる長さを有している。インカップリング回折光学要素と、回転回折光学要素と、アウトカップリング回折光学要素の格子ベクトルの合計は、実質的にゼロである。
【0014】
バーチャル像を表す角度的に関連付けられた画担持光ビームは、インカップリング回折光学要素によって角度的にエンコードされ、導波路に沿って伝搬する。回転回折光学要素は、アウトカップリング回折光学要素によって実行される角度的に関連付けられたビームのデコーディングと協調するようにして、導波路に沿って伝搬してきたビームのさらなるエンコーディングに関与する。これにより、回転回折光学要素とアウトカップリング回折光学要素は一緒になって、導波路を出る角度関連ビームを効果的にデコードする。
【0015】
角度的にエンコードされたビームは、一般に、導波路の平坦かつ平行な前側表面および背側表面での全反射または他の形態の反射のメカニズムによって、導波路に沿って伝搬する。このように、伝搬モードは、角度的に関連付けられたビームを伝送できる角度範囲に制限を設定する。たとえば、特定の臨界角未満の入射角では全反射に失敗し、相補的な低グレージング角(すれすれ角)に近い入射角では、ビームの拡大をサポートするために必要な回数だけ、回転回折光学要素およびアウトカップリング回折光学要素と遭遇しない。インカップリング回折光学要素は、導波路に沿って所望の伝送が可能な許容角度範囲内で伝搬させるために、角度的に関連付けられたビームをエンコードする。回転光学要素は、角度的に関連するビームのさらなるエンコーディングに関与するように配置されるが、好ましくは、角度的に関連付けられたビームを導波路に沿って所望のように伝送可能な許容角度範囲内に維持するために、角度的にエンコードされたビームの極角成分を保存するようにさらに最適化される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本明細書は、本発明の主題を特に指摘し明確に主張する特許請求の範囲で結論づけているが、本発明は、添付の図面と以下の説明からより良く理解できるであろう。
【0017】
【
図1】一次元の瞳拡大を提供する画像光ガイドを簡略化して示す断面図である。
【0018】
【
図2】二次元の瞳拡大を提供する画像光ガイドの斜視図である。
【0019】
【
図3A】臨界角を示す図である。この臨界角は、導波路に沿う全内部反射のメカニズムによる、角度的に関連付けられた画像担持ビームの伝播と、関係を有している。
【
図3B】最端角を示す図である。この最端角も、導波路に沿う全内部反射のメカニズムによる画像担持ビームの伝播と、関係を有している。
【0020】
【
図4A】インカップリング回折光学要素、回転回折光学要素、アウトカップリング回折光学要素の1つの可能な配置を示す図である。
【0021】
【
図4B】導波路に沿った回折遭遇に関連する極角を示すグラフである。
【0022】
【
図5A】インカップリング回折光学要素、回転回折光学要素、アウトカップリング回折光学要素の1つの可能な配置を、格子ベクトルとともに示す図である。
【0023】
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書は特に、本発明の実施形態に係る装置の一部を構成する要素、または本発明に係る装置と直接的に協働する要素について記述している。これら要素は、当業者に周知の様々な形態を取ることができることを理解されたい。
【0025】
本明細書で使用される場合、「第1」、「第2」等の用語は必ずしも順序、順次または優先関係を示すものではなく、特に明記しない限り、単に1つの要素または要素の集合を他と明確に区別するために用いられる。
【0026】
本開示の文脈において、「見る人(観察者)」、「使用者」という用語は均等であり、画像光ガイドを介して画像を見る人を指す。
【0027】
ここで使われる「集合(セット;set)」という用語は、初等数学で広く理解されているものであり、要素またはメンバーの集まりという概念としての非空集合を指す。「部分集合(subset)」という用語は、特に明記されない限り、非空の真部分集合、すなわち、1以上の要素を持つ、より大きな集合のうちの部分集合を指す。部分集合が全体集合Sであってもよい。しかし、集合Sの「真部分集合(proper subset)」は、集合Sに完全に含まれ、しかも集合Sの少なくとも1つの要素を含まないものを指す。
【0028】
実像投射の代わりに、光学システムは、見る者の目に見えるバーチャル像を生成することができる。実像を結ぶ方法とは対照的に、バーチャル像がディスプレイ面に結ばれることはない。つまり、ディスプレイ面がバーチャル像を知覚する位置にあるとしたら、ディスプレイ面に像は結ばれない。拡張現実表示において、バーチャル像表示には固有の利点が数多くある。例えば、バーチャル像の見かけの大きさはディスプレイ面の寸法や位置によって制限されない。見る者の視野内において、ある程度離れたところにあるように見えるバーチャル像を形成することによって、より現実的な視覚体験を提供することができる。またバーチャル像の提供は、実像投影の場合には必要となるスクリーンアーチファクトの有害な影響を回避することができる。
【0029】
ここで使われる「光学的無限遠(optical infinity)」と「無限遠に(at infinity)」というフレーズは、カメラ及びイメージング技術の分野における通常の用法に対応し、焦点距離が少なくとも約4メートルを超えるように、実質的にコリメートされた光を用いた画像形成を指す。
【0030】
光学の文脈における「結合(coupled)」及び「カプラー(結合器;coupler)」という用語は結合(接続;connection)を指し、その結合により、光は、結合を促進する中間構造を介して、1つの光学的媒体又はデバイスから別の光学的媒体又はデバイスへと移る。
【0031】
「画像光ガイド」、「光ガイド」、「ビーム拡大器(beam expander)」、「射出瞳拡大器(exit pupil expander)」、「瞳拡大器(pupil expander)」という用語は同義であると見なされ、ここでは交換可能に用いられる。画像光ガイドは導波路を含む。この導波路は好ましくは光学的に透明であり、周囲環境より高い屈折率を有している。好ましい形態では、導波路は、光学的に平坦で互いに平行をなす2つの面を有する透明基板を含んでいる。見る者は、この透明基板を通して導波路の前方の周囲環境を見ることができる。画像光ガイドを、次のような目的で用いることができる。すなわち、1)光学システムの射出瞳を、見る者の目に向かって方向付けられる位置又は他の光学システムへと横移動させること、2)光学システムの射出瞳を拡大することである。
【0032】
回折格子等の回折光学要素のピッチは、マークや溝等のフィーチャの中心間の距離であり、屈折率の変化を表している。回折光学要素は、いわゆる格子ベクトルで表すことができる。格子ベクトルは、回折光学要素の面に配置され、回折光学要素のフィーチャと直交する方向に延び、ピッチと反比例する大きさを有している。
【0033】
一次元の瞳拡大システムでは、インカップリング回折光学要素とアウトカップリング回折光学要素は、互いに平行に延びる等しい格子ベクトルを有している。画像担持ビームは、特にアウトカップリング光学要素と遭遇した時に、進む方向に沿って広がることができる。二次元の瞳拡大システムでは、画像担持光は、導波路内においてアウトカップリング光学要素に至る前に、少なくとも2つの異なる方向に沿って進み、アウトカップリング光学要素で光は導波路外へ向けられる。瞳拡大は両方の進行方向で生じる。最初の瞳拡大は回転回折光学要素によって生じる。回転回折光学要素は、画像担持光をこの回転回折光学要素内で又はこれを越えて第2方向に方向転換させる。2番目の瞳拡大はアウトカップリング光学要素によって生じる。二次元の瞳拡大はまた、アウトカップリング回折光学要素が複数の格子ベクトルによって定義される場合には、アウトカップリング回折光学要素内で発生させることができる。
【0034】
偶数の瞳拡大器では、光ビームは回転回折光学要素に向かう方向と出ていく方向が同じで、アウトカップリング回折光学要素との最初の遭遇へとさらに伝播する。しかし、画像担持光の一部は回転光学要素内で別の方向に方向転換することができる。奇数の瞳拡大器では、光ビームは回転回折光学要素に向かう方向と出ていく方向が異なり、光ビームは回転回折光学要素から離れてアウトカップリング回折光学要素と遭遇する方向に進む。
【0035】
図1は、単眼型の画像光ガイド10の従来構造の一つを簡略化して示す断面図であり、この画像光ガイド10は、平面導波路22(planer waveguide)と、インカップリング回折光学要素IDO(in-coupling diffractive optic)と、アウトカップリング回折光学要素ODO(out-coupling diffractive optic)と、を備えている。平面導波路22は、透明な基板Sと、平行な平面からなる内側表面12および外側表面14とを有している。この例では、インカップリング回折光学要素IDOは、平面導波路22の内側表面12に配置される反射型回折格子として示されている。この内側表面14は平面導波路22の外側表面12と反対側にある。画像担持光WIはこの外側表面12を通って平面導波路22に入る。しかしながら、インカップリング回折光学要素IDOは、透過型回折格子、体積ホログラムまたは他のホログラフィック回折素子、または入光する画像担持光WIを回折する他のタイプの光学要素であってもよい。インカップリング回折光学要素IDOは平面導波路22の内側表面12に配置されても、外側表面14に配置されてもよく、画像担持光WIが平面導波路22に入り込む方向に応じて、透過型であっても、反射型であってもよい。
【0036】
バーチャルディスプレイシステムの一部として使用される場合、インカップリング回折光学要素IDOは、実像、バーチャル像、またはハイブリッド像のソース(図示せず)からの画像担持光WIを結合して、基板Sの導波路22に入り込ませる。実際の画像又は画像の次元が、最初に、バーチャル像の異なるピクセルに対応する、重なり合う角度的に関連付けられたビームのアレイに変換され(例えば、焦点に向かって集束され)、インカップリング回折光学要素IDOに呈示される。典型的には、角度的に関連付けられたビームの1つを形成する各束内の光線は平行に延びるが、角度的に関連付けられたビームは、画像の線形ディメンジョンに対応する2つの角度ディメンジョンで定義することができる角度で、互いに相対的に傾斜している。
【0037】
画像担持光WIは、インカップリング回折光学要素IDOにより、回折され(概ね1次回折され)、それにより、画像担持光WGとして平面導波路22内に再方向付けられ、全内部反射(Total Internal Reflection:TIR)により導波路22に沿ってさらに伝送される。画像担持光WGは、TIRにより定められた境界に合わせて、角度的に関連付けられたビームの異なる組み合わせになるように回折されるが、エンコードされた形(インカップリング回折光学要素IDOのパラメータにより導かれる形)で、画像情報を保持する。アウトカップリング回折光学要素ODOは、エンコードされた画像担持光WGを受け取り、画像担持光WGを画像担持光WOとして、平面導波路22の外へ、観察者の目の意図された位置に向かって回折する(これも概ね1次回折する)。アウトカップリング回折光学要素ODOはインカップリング回折光学要素IDOに対して対称に設計され、これにより、出力された画像担持光WOの角度的に関連付けられたビームにおいて、画像担持光WIの元々の角度的関係を復元するようになっている。さらにアウトカップリング回折光学要素ODOは、オリジナルの視野点の位置的角度的な関係(positional angular relationships)を修正して、有限距離で収束する出力バーチャル像を生成することができる。
【0038】
アウトカップリング回折光学要素ODOは、平面導波路22の内側表面12に配置された透過型の回折格子として示されている。しかし、インカップリング回折光学要素IDOと同様に、アウトカップリング回折光学要素ODOは平面導波路22の内側表面12に配置されても、外側表面14に配置されてもよく、画像担持光WGが平面導波路22を出る方向に応じて、透過型であっても、反射型であってもよい。
【0039】
角度的に関連付けられたビーム間のオーバーラップの1つのディメンションを、バーチャル像をみることができるいわゆるアイボックスEにおいて増大させるために、アウトカップリング回折光学要素ODOは、画像担持光WCと多数回遭遇(multiple encounters)するように、そして各遭遇時において画像担持光WGの一部だけを回折するように、構成されている。アウトカップリング回折光学要素ODOの長手に沿う多数回遭遇は、画像担持光WOの角度的に関連付けられたビームの各々を一次元で拡大する効果を有し、これにより、ビームがオーバーラップするアイボックスEの一次元を拡大する。拡大されたアイボックスEは、バーチャル像を見るための観察者の目の位置に対する感度(精度)を減じる。
【0040】
当業者に知られているように、基板S内で生じるTIRのための臨界角度θCは、次式で表される。ただし、基板Sの屈折率をn1、基板Sを囲む空気等の媒体の屈折率をn2で表す。n1>n2である。
θC=sin-1(n2/n1)
【0041】
図1を参照すると、光線24は、基板S内において基板Sの内側表面12との交点Iで、表面の法線Nに対する入射角度θ
Iを有している。光線24はθ
I>θ
Cの時に反射光線26となり基板S内を伝播する。
【0042】
図2の斜視図は、2次元で、すなわち画像のx軸及びy軸に沿ってアイボックス74を拡大するように構成された画像光ガイド20を示している。第2の次元のビーム拡大を達成するために、インカップリング回折光学要素IDOは、画像担持光WIを格子ベクトル(grating vector)k1に沿い、回転光学要素TOの形態をなす回転回折光学要素に向けて回折するように配向されている。この回転回折光学要素の格子ベクトルk2は、画像担持光WGを反射モードでアウトカップリング回折光学要素ODOに向けて回折するように配向されている。画像担持光WGの一部のみが、回転光学要素TOとの多数の遭遇のうちの各遭遇により回折され、それにより、アウトカップリング回折光学要素ODOに向かって進む画像担持光WGの角度的に関連付けられたビームの各々を、横方向に拡大する。回転光学要素TOは画像担持光WGを、アウトカップリング回折光学要素ODOの格子ベクトルk3と少なくとも概ねアライメントする方向へと、方向転換する。画像担持光WGの角度的に関連付けられたビームを、画像担持光WOとして平面導波路22から出る前に、第2の元で縦方向に拡大するためである。描かれた格子ベクトルk1、k2、k3等の格子ベクトルは、平面導波路22と平行な平面上にあり、回折光学要素の回折フィーチャ(例えば、溝、線、又は罫線(ルーリング;ruling))と垂直な方向を向く。格子ベクトルは、それぞれの回折光学要素IDO、TO、及びODOの周期又はピッチd(すなわち、溝間の中心距離)に反比例する大きさを有する。
【0043】
図2の画像光ガイド20は、
図1の画像光ガイド10と同様に、観察者にバーチャル像のコンテンツを提供する多くの異なるヘッドマウント装置(HMD)に用いることができる。このタイプの画像光ガイドは特に拡張現実アプリケーションに適している。この拡張現実アプリケーションでは、バーチャル像コンテンツを、透明の平面導波路22を通して見られる現実世界の景色と重ねることができる。
【0044】
図2の画像光ガイド20において、インカップリング回折光学要素IDOは、入力画像担持光WIを受け取る。この画像担持光WIは、イメージソース16によって生成された画像内における個々のピクセル又は等価な位置に対応する、角度的に関連付けられたビームの集合を含む。バーチャル像を作成するための角度的にエンコードされたビームの全範囲は、実際のディスプレイと集束光学系によって、又はビームの角度をより直接的に設定するためのビームスキャナーによって、又は一次元のスキャナーと共に用いられる一次元の実際のディスプレイ等の組合せによって、生成することができる。画像光ガイド20は、画像担持光WGと、配向の異なる回転光学要素TO及びアウトカップリング回折光学要素ODOとの多数遭遇を提供することによって、画像の二次元において拡大された角度関連ビームの集合を出力する。平面導波路22内で示されるように、回転光学要素TOはy軸方向のビーム拡大を提供し、アウトカップリング回折光学要素ODOはx軸方向に同様のビーム拡大を提供する。2つの回折光学要素IDO、ODOと回転光学要素TOの反射率特性とそれぞれの周期d、並びにそれぞれの格子ベクトルの配向は、画像光ガイド20から画像担持光WOとして出力される画像担持光WIの、角度的に関連付けられたビーム間の意図された関係を実質的に維持しながら、二次元のビーム拡大を提供する。
【0045】
すなわち、画像担持光WIの画像光ガイド20への入力は、インカップリング回折光学要素IDOによって角度的に関連付けられたビームの異なる集合にエンコードされるが、画像を再構築するために必要な情報は、インカップリング回折光学要素IDOの系統的な効果により、保持される。回転光学要素TOはインカップリング回折光学要素IDOとアウトカップリング回折光学要素ODOの間の中間に位置し、画像担持光WGのエンコーディングに大きな変化を引き起こさないように構成される。アウトカップリング回折光学要素ODOは、通常、インカップリング回折光学要素IDOに対して対称(symmetric)の態様で構成される。例えば同じ周期を共有する回折フィーチャを含む。同様に、回転光学要素TOの周期も、インカップリング回折光学要素IDO及びアウトカップリング回折光学要素ODOの共通の周期と一致する。回転光学要素TOの格子ベクトルk2は、他の格子ベクトルに対して45度を向くように図示されている。この配向は可能ではあるが、好ましくは、回転光学要素TOの格子ベクトルk2はインカップリング回折光学要素IDO及びアウトカップリング回折光学要素ODOの格子ベクトルk1、k3に対して60度に配向し、画像担持光WGを120回転させる。回転回折要素TOの格子ベクトルk2をインカップリング回折光学要素IDO及びアウトカップリング回折光学要素ODOの格子ベクトルk1、k3に対して60度に配向することによって、インカップリング回折光学要素IDOとアウトカップリング回折光学要素ODOの格子ベクトルk1、k3もまた、互いに対して60度に配向される。格子ベクトルの大きさは、回転光学要素TOとインカップリング回折光学要素IDOとアウトカップリング回折光学要素ODOの共通のピッチに基づくため、3つの格子ベクトルk1、k2、k3が正三角形を形成し、その合計はゼロとなる。これにより、色分散を含む望ましくない収差を引き起こしかねない非対称の効果が避けられる。
【0046】
平面導波路22内へと回析された画像担持光WIは、インカップリング光学要素が格子、ホログラム、プリズム、ミラー、その他のメカニズムを用いるかに関わらず、インカップリング光学要素によって有効にエンコードされる。入力時に実行される光の反射、屈折、及び/又は回折は、観察者に提示されるバーチャル像を再形成するために、出力によってデコードをされなければならない。インカップリング回折光学要素IDOとアウトカップリング回折光学要素ODOの間の中間に位置する回転光学要素TOは、エンコードされた光にいかなる変更も引き起こさないように設計され、配向される。アウトカップリング回折光学要素ODOは、画像担持光WGを、元の又は所望の形態の角度的に関連付けられたビームにデコードする。この角度的に関連付けられたビームは、アイボックス74を満たすように拡大されている。
【0047】
文字「R」は、目がアイボックス74内にある観察者に見えるバーチャル像の向きを表わしている。図示のとおり、表示されたバーチャル像の中の文字「R」の向きは、画像担持光WIによりエンコードされた文字「R」の向きと一致している。x-y平面における入射画像担持光WIのz軸周りの回転又は角度的配向の変化は、アウトカップリング回折光学要素(ODO)から出射する光の回転又は角度的配向に、対応する対称の変化を引き起こす。画像の配向という観点では、回転光学要素TOは光学リレーとして働き、画像担持光WGの角度的にエンコードされたビームを、画像の1つの軸(例えば、y軸)に沿って拡大する。アウトカップリング回折光学要素ODOは、画像担持光WIによってエンコードされたバーチャル像の元の配向を維持しながら、画像担持光WGの角度的にエンコードされたビームを、画像の別の軸(例えば、x軸)に沿って拡大する。回転光学要素TOは、インカップリング回折光学要素IDOおよびアウトカップリング回折光学要素ODOと同様に、数種の形態をとることができ、傾斜又は四角形の回折格子でもよいし、或いはブレーズド回折格子でもよく、平面導波路22の内側表面又は外側表面に配置することができる。
【0048】
図3Aは、光線Rcの極角(polar angle)としてのTIR(全内部反射)の臨界角θ
C(critical angle)を示す。光線Rcは、透過性のインカップリング回折光学要素IDOを通って回折されて導波路30の基板Sに入る角度関連ビーム内での平行光線の1つを表す。ギリシャ文字θによって示される用語「極角」は、角度関連ビームの示された光線Rcと、導波路30の入射表面すなわち外面34の法線との間の角度として定義される。インカップリング後に光線Rcは外面34に向かって進み、この外面34では、入射の極角がTIRの臨界角θ
Cであるため、連続する光線Rc’は基板S内に反射されず、名目上外面34と平行に進む。そのため、TIRにより導波路30に沿って伝播することを意図された光線(角度的に関連付けられたビーム内の光線)の極角θは、臨界角θ
Cよりも大きくなければならない。
【0049】
図3Bは、最端(excessive)の極角θ
Eを定義する1つの道筋を示している。光線R
Eは、インカップリング回折光学要素IDOを通って回折されて導波路30の基板Sに入る角度的に関連付けられた別のビーム内での平行光線の1つを表す。光線R
Eは、臨界角θ
Cよりも大きい極角θ
Eで導波路30の平行な外面34に接近し、それ故にTIRにより導波路に沿ってさらに伝搬する。しかしながら、極角θ
Eは、導波路30の厚さ(説明のために拡大して示されている)に比べて非常に大きいので、連続する光線R
E ’は、回転光学要素TOと呼ばれている回転回折光学要素との遭遇を逸する。より正確には、最端(extreme)の極角θ
Eは、「導波路30に沿って伝搬する角度的にエンコードされたビームの反射光線が、回転光学要素TOまたはアウトカップリング光学要素ODO(図示せず)との必要な遭遇を逃す極角」として定義することができる。したがって、回転光学要素TOまたはアウトカップリング回折光学要素ODOに遭遇することを意図されている、角度的にエンコードされたビーム内の光線の極角θは、最端の極角θ
Eよりも小さくなければならない。許容可能な極角θ
Iの範囲は、次の式で表すことができる。
θ
C<θ
I <θ
E
【0050】
回転光学要素TOをさらに定義するために、バーチャル像の中心近くのピクセルを表す角度的にエンコードされたビームに対応する光線ROを定義する。光線ROは、最適な極角θOを有する。この極角θOは、次式で示すように、極角の許容範囲を二つに分岐する。
θO=(θC+θE)/2
【0051】
極角θOは、上記で定義したように、θIの式を満たすように設定された角度関連ビームの意図された範囲を分岐し、それ故に、バーチャル像の中心近くのピクセルを表す角度関連ビームに略対応している。極角θOの許容誤差は、上記式θC<θI <θEによって定義された範囲内に収まるために要求される角度関連ビームの範囲に基づいており、通常はプラス又はマイナス2度の範囲内である。回転光学要素TOも、この角度のために最適化され、角度関連ビームのより広い範囲にわたり、回転光学要素TOの意図された性能をバランスさせることができる。極角θOは、回折効率が最適化される極角とすることもできる。さらに、TIRの極角を最適な極角θOとほぼ等しく保つことにより、許容できる回折格子効率および画質を提供しながら、製作誤差や環境の変動(例えば温度変化)によって発生する可能性のある入射角の小さな変動を許容することができる。
【0052】
図4Aは、インカップリング回折光学要素IDO、回転光学要素TOおよびアウトカップリング回折光学要素ODOを備えた画像光ガイド40の上面図である。インカップリング(入力結合)された光線Rは、回転光学要素TOにより回折されて少なくとも3つの光線A、B、Cとなり、導波路44の基板S内を伝搬する。光線Aはゼロ次の回折光線であり、光線BとCは+1次と-1次の回折光線である。1次回折光線Bは、回転光学要素TOにより方位角φ
Bで回転し、1次回折光線Cは、回転光学要素TOにより方位角φ
Cで回転する。
【0053】
図4Bは、回転光学要素TOの回折の極角を示すグラフである。前に定義したように、極角O
Cは臨界角、極角θ
Eは最端の極角、極角θ
Oは最適な極角である。極角θ
Bは光線Bが回折される極角である。
【0054】
光線Rが回転光学要素TOと相互作用すると、ゼロ次の回折光線Aは、その入射極角と同じ極角で、相互作用点において、入射光線Rと面法線によって形成される同じ平面で基板S内に反射される(つまり、回転光学要素TOが存在しないかのように反射される)。ただし、一次回折光線BおよびCは、おそらく異なる極角で基板S内に反射され、入射平面に留まらない。このように、光線AとBは、円錐回折の規則によって定義された非ゼロの方位角φと極角θを持つ。
【0055】
xy平面の線形格子の場合、入力光線の入射面が格子ベクトルを含んでいないと、円錐回折が発生する。James E.HarveyとCynthia L.Vernoldによる論文「方向余弦空間における回折格子挙動の説明」(Applied Optics、Vol.37, Iss.34, pp.8158-8160(1998年))によると(この論文は参照により本明細書に組み込まれる)、非ゼロ次の回折光線は、入力光線ベクトルRと線形格子の平面に対する法線Nによって形成される入射平面には存在しない。右手の座標系を定義することができる。この座標系は、入力光線と格子の平面との交点を中心とし、格子の法線ベクトルがz軸に沿うように配向される。xy平面に投影されたm次の回折光線のx座標とy座標は、次の式で与えられる。
【数1】
【数2】
ここで、m=0、+1、+2・・・は回折次数を示す。λ=λ
o/n
inは導波路の基板Sを通過する光線Rの有効波長であり、n
inは基板材料の屈折率であり、λ
oは真空中での光線Rの波長であり、dは格子のピッチであり、κは正のx軸方向に対する格子ベクトルΚの角度であり、θ
inは入射光線がz軸(格子の法線)に対してなす極角であり、φ
inは入射光線の投影がxy平面におけるx軸に対してなす方位角である。入射光線がxz平面にあり、-x軸から+x軸方向に向かってくる場合、方位角φ
inはゼロ、すなわちφ
in=0となる。
【0056】
次の条件は、回折光線がエバネッセント光線ではなく、実光線であることを保証する。
【数3】
【0057】
回転光学要素TOの設計方法では、この条件を満たす回折次数mのみを考慮する。m次の回折光線のxy平面でのx軸に対する方位角φoutは、次式により決定される。
φout=arccos(xm/r)
【0058】
このようにして、回折光線、例えば、画像ソースの角度的にエンコードされた光線の中の中心ピクセルの中心光線Rの回転を決定することができる。m次回折光線がz軸となす極角θoutは、次の関係式によって決定される。
θout= arcsin(r)
【0059】
これらの方程式は、円錐回折のための線形格子の設計を決定する上で、有利に使用できる。
【0060】
回転光学要素TOのパラメータを設定するために、1次回折の軸光線(axial ray)R '(例えば、画像ソースの角度的にエンコードされた光線のうちの中心ピクセルの1次回折光線)の極角θ
outは、回折光学要素(例えば回転光学要素TO)に近づく入射軸光線の極角θ
inと同じか、略同じに維持される。加えて、回折光学要素(例えば
図4Aの回転光学要素TO)に近づく入射軸光線Rはほぼ最適なTIR角度θ
Oに方向付けられる。円錐回折の方程式は、回折格子の設計を導いて、1次回折の軸光線R 'の極角θ
outが入射軸光線Rの極角θ
inと等しく維持される(すなわちθ
out=θ
inとなる)特殊なケースを実現できる。格子ピッチdの解のために、次の2つの方程式が作られる。
【数4】
【数5】
【0061】
2つの方程式を組み合わせると、次式が導かれる。
【数6】
【0062】
座標系は、光線Rと回転光学要素TOとの交点においてxy平面内で任意に配向できる(z軸は導波路40および回転光学要素TOの法線ベクトルNに沿っている)ので、交点においてφin= 90°の条件を確立することができる。回転光学要素の向きκは、次の式によって回折光線R'の方位角φoutと関連付けられる。
sin(2κ)=cos(φout)
【0063】
例えば、
図4Aの回転光学要素TOの設計および配向におけるこの関係に従うことにより、1次回折軸光線R 'が最適のTIR極角θ
O(すなわちθ
out=θ
in =θ
O)に維持され、したがって、角度的にエンコードされたビームの範囲が導波路のパラメータ内、すなわちθ
C<θ
I<θ
Eに維持され、回折効率が維持される。
【0064】
図2に示されるような以前のアウトプット格子ODOの設計では、アウトカップリング格子ODOの格子ピッチを、インカップリング格子IDOの格子ピッチと一致させることが要求された。この共通の格子ピッチを用いることにより、インカップリング回折光学要素IDOによってエンコードされた角度関連の入力ビームにおける相対角度が、アウトカップリング回折光学要素ODOから出力されるデコードされた角度関連ビームにおける相対角度と一致することが保証された。本明細書で意図されるより広い意味において、回転光学要素TOとインカップリング回折光学要素IDOおよびアウトカップリング回折光学要素ODOとの間で対称性が維持されるか否かにかかわらず、または画像担持光W1の角度的に関連するビームのエンコードに対する何らかの変化が平面導波路22に沿って発生するか否かにかかわらず、回転光学要素TOと、インカップリング回折光学要素IDOおよびアウトカップリング回折光学要素ODOは、好ましくは、平面導波路22から出力される画像担持光WOが画像担持光W1の元のまたは所望の形態を維持するように、関係付けられている。これにより、オーバーラップする画像担持光ビームWOを用いて意図されたバーチャル像を生成することができる。本明細書に記載の実施形態は、アウトカップリング格子の設計に対するこの制約を取り除き、ならびに画像ソースの角度的にエンコードされた光線のうちの中心ピクセルを表す軸光線がインカップリング回折光学要素と直角であるという制限を取り除く。
【0065】
図5Aは、インカップリング回折光学要素IDO、回転光学要素TO、およびアウトカップリング回折光学要素ODOを備えた画像光ガイド50の上面図である。インカップリング回折光学要素IDOは関連する格子ベクトルΚ
INを有している。格子ベクトルΚ
INは、数学的に下記のように表すことができる。
Κ
IN=(2π/Λ
IN)K
Λ
IN
【0066】
ここで、ΛINはインカップリング回折光学要素IDOのピッチであり、ΚΛ
INは格子ベクトルΚINの方向の単位ベクトルである。
回転回折光学要素TOは、格子ベクトルΚTを有する。格子ベクトルΚTは 数学的に下記のように表すことができる。
ΚT=(2π/ΛT)KΛ
T
【0067】
ここで、ΛTは回転回折光学要素TOのピッチであり、ΚΛ
Tは格子ベクトルΚTの方向の単位ベクトルである。
アウトカップリング回折光学要素ODOは、格子ベクトルΚOUTを有する。格子ベクトルΚOUTは 数学的に下記のように表すことができる。
ΚOUT=(2π/ΛOUT)KΛ
OUT
【0068】
ここで、ΛOUTはアウトカップリング回折光学要素ODOのピッチであり、ΚΛ
OUTは格子ベクトルΚOUTの方向の単位ベクトルである。
【0069】
本発明による回折格子IDO、TO、およびODOの設計では、単一の格子ベクトルの長さが他のいずれの格子ベクトルの長さと等しくなる必要がない。本発明の目的は次の通りである。すなわち、入力画像を伝達し、バーチャル像を表示するためのアイボックスEを形成する画像光ガイド50の最適な性能は、3つの回折格子IDO、TO、ODOの設計が次式のように実質的にゼロを維持するか略維持することを求めている。
【数7】
すなわち、3つの格子ベクトルΚ
IN、Κ
T、Κ
OUTが、好ましくは合計するとゼロに近い大きさになる。所望の画質を維持するための許容範囲内で、製造上の現実を受け入れるために、ある程度の許容範囲が必要である。
【0070】
図5Bは、一般的な不等辺三角形を形成する回折格子ベクトルΚ
IN、Κ
T、Κ
OUTを示している。
図5Bにおいて、角度λ
INは、インカップリング格子ベクトルΚ
INとアウトカップリング格子ベクトルΚ
OUTとの間の角度であり、λ
Tは、回転光学要素の格子ベクトルΚ
Tとアウトカップリング格子ベクトルΚ
OUTとの間の角度である。回転格子の設計は、下記式により最適に達成される。
【数8】
【0071】
ここで、α
Tは次の関係式により最も良く決定される。
【数9】
【0072】
回転光学要素TOの最適設計のためのこれらの方程式を組み合わせることにより、回転光学要素TOの最適設計のための単一の方程式が得られる。
【数10】
【0073】
インカップリング回折光学要素IDOのパラメータは、導波路内に回折される角度的にエンコードされたビームの範囲の極角が、θC<θI<θEの関係を満たすTIR角の望ましい範囲内に収まるように、設定することができる。より一般化された場合の他の2つの条件は次の通りである。上記のように回転光学要素が、回転光学要素から回折された中心極角θOUTが極角θOに集中する構成されること。インカップリング回折光学要素と、回転光学要素とアウトカップリング回折光学要素の格子ベクトルの和がゼロになること。
【0074】
インカップリング回折光学要素は、好ましくは、バーチャル像の中心近くのピクセルを表す角度的にエンコードされたビームに対応する選択された中心光線を、最適な極角θOで回折するように構成・配置される。この最適な極角θOは、θCからθEまでの極角の許容範囲を2分するかその許容範囲の中心近くにある。回転回折光学要素すなわち回転光学要素は、好ましくは、平面導波路においてインカップリング回折に対して配向され、角度的にエンコードされたビームをアウトカップリング回折光学要素の所望の位置に向けるようにする。好ましくは、回転光学要素のピッチは、選択された中心光線が回転光学要素から回折される極角θOUTが最適な極角θOと実質的に等しく維持されるように、計算される。このようにして、回折回転光学要素からアウトカップリング回折光学要素まで導波路に沿って伝搬する角度的にエンコードされたビームの範囲は、θC<θI<θEの関係を満たし続ける。インカップリング回折光学要素と回転光学要素の配向と格子ピッチは、円錐回折の規則に従って決定される。これら格子ベクトルの方向と長さも知られている。アイボックスの拡大された瞳の形成を意図した角度的に関連するビームの最初の角度的なエンコーディングを保持するために、アウトカップリング回折光学要素と回転光学要素の格子ベクトルの合計は、好ましくは、インカップリング回折光学要素の格子ベクトルに対して負であり、これにより3つ全てのベクトルの成分の合計が実質的にゼロになる。
【0075】
これらの制約にもかかわらず、設計の自由度は残っている。この自由度には、画像光ガイドに対する非垂直の選択された入力方向が含まれる。この方向は、観察者と画像発生器の両方に対する導波路の配向を最適化するために用いられる。インカップリング回折光学要素とアウトカップリング回折光学要素は、導波路表面上のそれらの位置に応じて反射型または透過型の回折光学要素として構成することができる。回折光学要素間の距離も変えることができる。
【0076】
様々な実施形態を詳細に説明したが、教示の精神および範囲内で変更および修正を行うことができる。したがって、現在開示されている実施形態は、すべての点で例示的であり、限定的ではないとみなされる。