(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-28
(45)【発行日】2022-10-06
(54)【発明の名称】選択的均一系水素化触媒の回収方法および再使用方法
(51)【国際特許分類】
B01J 38/00 20060101AFI20220929BHJP
C07C 13/275 20060101ALI20220929BHJP
C07C 5/05 20060101ALI20220929BHJP
B01J 31/24 20060101ALI20220929BHJP
B01J 31/40 20060101ALI20220929BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
B01J38/00 301A
C07C13/275
C07C5/05
B01J31/24 Z
B01J31/40 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021533610
(86)(22)【出願日】2019-08-27
(86)【国際出願番号】 KR2019010922
(87)【国際公開番号】W WO2020130280
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-06-11
(31)【優先権主張番号】10-2018-0165267
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】501014658
【氏名又は名称】ハンワ ソリューションズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】HANWHA SOLUTIONS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】特許業務法人ナガトアンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】キム, ヨンジン
(72)【発明者】
【氏名】チャン, ナムジン
(72)【発明者】
【氏名】ソン, キュホ
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-506694(JP,A)
【文献】特開2002-003414(JP,A)
【文献】米国特許第05177278(US,A)
【文献】特開平05-331076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07C 13/275
C07C 5/05
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロドデカトリエン、トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む第1反応溶液を選択的水素添加反応させてシクロドデセンを合成するステップであって、前記選択的水素添加反応中に前記トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムから選択的均一系水素化触媒が製造され、シクロドデセンが合成されるステップと、
前記シクロドデセンの合成が完了した第2反応溶液から未反応のシクロドデカトリエンとシクロドデカジエンおよび生成物であるシクロドデセンを蒸留分離し、選択的均一系水素化触媒を回収するステップとを含み、
前記回収された選択的均一系水素化触媒は、下記関係式1を満たす、選択的均一系水素化触媒の回収方法。
[関係式1]
90≦C
2
/C
1
×100≦100
(前記関係式1中、C
1
は、選択的均一系水素化触媒の回収の前に、最初に行った選択的水素添加反応の転化率(%)であり、C
2
は、回収された選択的均一系水素化触媒を触媒とした選択的水素添加反応の転化率(%)である。)
【請求項2】
前記蒸留分離は、100~200℃の温度および0.5bar以下の圧力の条件下で行われる、請求項1に記載の選択的均一系水素化触媒の回収方法。
【請求項3】
前記選択的均一系水素化触媒の回収は、10~30℃の温度、および0.1bar以下の圧力または窒素雰囲気の条件下で行われる、請求項1に記載の選択的均一系水素化触媒の回収方法。
【請求項4】
前記回収された選択的均一系水素化触媒は、下記関係式2を満たす、請求項1に記載の選択的均一系水素化触媒の回収方法。
[関係式2]
90≦S
2/S
1×100≦100
(前記関係式1中、S
1は、選択的均一系水素化触媒の回収の前に、最初に行った選択的水素添加反応の選択度(%)であり、S
2は、回収された選択的均一系水素化触媒を触媒とした選択的水素添加反応の選択度(%)である。)
【請求項5】
前記塩化ルテニウム:トリフェニルホスフィン:ホルムアルデヒドのモル比は、1:100~300:150~500である、請求項1に記載の選択的均一系水素化触媒の回収方法。
【請求項6】
前記選択的水素添加反応は、ガス誘導中空型撹拌機が備えられた撹拌槽型反応器で行われる、請求項1に記載の選択的均一系水素化触媒の回収方法。
【請求項7】
前記ガス誘導中空型撹拌機の中空を介して撹拌槽型反応器の上端に気相で存在する水素気体が反応溶液に供給される、請求項
6に記載の選択的均一系水素化触媒の回収方法。
【請求項8】
前記第1反応溶液には、酢酸を含む触媒活性剤がさらに含まれる、請求項1に記載の選択的均一系水素化触媒の回収方法。
【請求項9】
前記触媒活性剤は、シクロドデカトリエン100重量部に対して、0.01~2重量部添加される、請求項
8に記載の選択的均一系水素化触媒の回収方法。
【請求項10】
前記選択的水素添加反応は、120~200℃の温度および10~80barの圧力の条件下で行われる、請求項1に記載の選択的均一系水素化触媒の回収方法。
【請求項11】
シクロドデカトリエン、トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む第1反応溶液を選択的水素添加反応させてシクロドデセンを合成するステップであって、前記選択的水素添加反応中に前記トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムから選択的均一系水素化触媒が製造され、シクロドデセンが合成されるステップと、
前記シクロドデセンの合成が完了した第2反応溶液から未反応のシクロドデカトリエンとシクロドデカジエンおよび生成物であるシクロドデセンを蒸留分離し、選択的均一系水素化触媒を回収するステップと、
前記回収された選択的均一系水素化触媒をシクロドデカトリエンが含まれた第3反応溶液に再投入し、2次の選択的水素添加反応させてシクロドデセンを合成するステップとを含み、
前記選択的均一系水素化触媒の回収は、窒素雰囲気の条件下、10~30℃の温度、および0.1bar以下の圧力まで行われる、回収された選択的均一系水素化触媒の再使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択的均一系水素化触媒の回収方法および再使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロドデカトリエン(Cyclododecatriene、CDT)を出発物質とした選択的水素化反応によるシクロドデセン(Cyclododecene、CDEN)の合成は、文献によく記載されており、シクロドデセンの収率を向上させるための様々な研究が行われてきた。
【0003】
前記選択的水素化反応のためのウィルキンソン触媒(Wilkinson catalyst)として知られている金属リガンド触媒、すなわち、ルビジウム(Ru)、ロジウム(Rh)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などの金属にトリフェニルホスフィン(Triphenylphosphine、TPP)、COなどのリガンドとハロゲン元素が結合した触媒が使用されてきた。
【0004】
触媒は、一般的に、ある反応系で、自分は反応せず、全反応が迅速に起こるように活性化させる物質であり、化学工業ではかけがえのない物質である。触媒は、ほとんどが反応系に少量存在しながら自分の役割を果たすが、化学工業が発達するほどその使用量が多くなり、廃触媒廃棄物も発生量が急増している。天然資源が全くなく、貴金属関連産業原料を全量輸入に依存している韓国としては、廃触媒から貴金属を回収し、産業原料として再使用するリサイクルが至急な状況である。
【0005】
選択的水素化反応の後、触媒を回収する方法は、触媒の状態と条件に応じて開示されている。
【0006】
一例として、特許文献1では、VIII族金属にトリフェニルホスフィンとハロゲン元素がリガンドで結合した触媒を、C=S結合が含まれた物質と相互作用させて分離する技術を開示している。しかし、相互作用過程に多くの時間がかかり、0℃近くまで冷却しなければならないという欠点がある。
【0007】
US3715405では、[Co(CO)3P(n-C4H9)3]2触媒をシクロドデカトリエンからシクロドデセンを生産する選択的水素化反応に使用すると、反応後に別の分離技術なしに、相分離により触媒の回収が可能であると開示している。しかし、必要な触媒の量が多く、相分離時に溶媒を使用しなければならないという欠点がある。
【0008】
そのため、短い工程時間内に比較的簡単な方法により選択的水素化触媒を分離および回収することができ、且つ回収された選択的水素化触媒を再使用する時に、シクロドデカトリエンの転化率およびシクロドデセンの選択度をいずれも高い水準に維持することができる選択的水素化触媒の回収方法および再使用方法に関する研究が必要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第4413118号明細書(US4413118)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような問題点を解決するために、本発明は、短い工程時間内に比較的簡単な方法により選択的均一系水素化触媒を分離および回収することができ、且つ回収された選択的均一系水素化触媒を再使用する時に、シクロドデカトリエンの転化率およびシクロドデセンの選択度をいずれも高い水準に維持することができる選択的均一系水素化触媒の回収方法および再使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の一様態は、シクロドデカトリエン、トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む第1反応溶液を選択的水素添加反応させてシクロドデセンを合成するステップであって、前記選択的水素添加反応中に前記トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムから選択的均一系水素化触媒が製造され、シクロドデセンが合成されるステップと、前記シクロドデセンの合成が完了した第2反応溶液から未反応のシクロドデカトリエンとシクロドデカジエンおよび生成物であるシクロドデセンを蒸留分離し、選択的均一系水素化触媒を回収するステップとを含む、選択的均一系水素化触媒の回収方法に関する。
【0012】
前記一様態において、前記蒸留分離は、100~200℃の温度および0.5bar以下の圧力の条件下で行われてもよく、前記選択的均一系水素化触媒の回収は、10~30℃の温度、および0.1bar以下の圧力または窒素雰囲気の条件下で行われてもよい。
【0013】
前記一様態において、前記回収された選択的均一系水素化触媒は、下記関係式1を満たすことができる。下記関係式1中、C1は、選択的均一系水素化触媒の回収の前に、最初に行った選択的水素添加反応の転化率(%)であり、C2は、回収された選択的均一系水素化触媒を触媒とした選択的水素添加反応の転化率(%)である。
【0014】
[関係式1]
90≦C2/C1×100≦100
【0015】
前記一様態において、前記回収された選択的均一系水素化触媒は、下記関係式2を満たすことができる。下記関係式1中、S1は、選択的均一系水素化触媒の回収の前に、最初に行った選択的水素添加反応の選択度(%)であり、S2は、回収された選択的均一系水素化触媒を触媒とした選択的水素添加反応の選択度(%)である。
【0016】
[関係式2]
90≦S2/S1×100≦100
【0017】
前記一様態において、塩化ルテニウム:トリフェニルホスフィン:ホルムアルデヒドのモル比は、1:100~300:150~500であってもよい。
【0018】
前記一様態において、前記選択的水素添加反応は、ガス誘導中空型撹拌機が備えられた撹拌槽型反応器で行われてもよく、前記ガス誘導中空型撹拌機の中空を介して撹拌槽型反応器の上端に気相で存在する水素気体が反応溶液に供給されてもよい。
【0019】
前記一様態において、前記第1反応溶液には、酢酸を含む触媒活性剤がさらに含まれてもよく、前記触媒活性剤は、シクロドデカトリエン100重量部に対して、0.01~2重量部添加されてもよい。
【0020】
前記一様態において、前記選択的水素添加反応は、120~200℃の温度および10~80barの圧力の条件下で行われてもよい。
【0021】
また、本発明の他の一様態は、シクロドデカトリエン、トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む第1反応溶液を選択的水素添加反応させてシクロドデセンを合成するステップであって、前記選択的水素添加反応中に前記トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムから選択的均一系水素化触媒が製造され、シクロドデセンが合成されるステップと、前記シクロドデセンの合成が完了した第2反応溶液から未反応のシクロドデカトリエンとシクロドデカジエンおよび生成物であるシクロドデセンを蒸留分離し、選択的均一系水素化触媒を回収するステップと、前記回収された選択的均一系水素化触媒をシクロドデカトリエンが含まれた第3反応溶液に再投入し、2次の選択的水素添加反応させてシクロドデセンを合成するステップとを含む、回収された選択的均一系水素化触媒の再使用方法に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明による選択的均一系水素化触媒の回収方法および再使用方法は、蒸留(evaporation)分離する方法だけで未反応のシクロドデカトリエンとシクロドデカジエンおよび生成物であるシクロドデセンと選択的均一系水素化触媒および過剰のトリフェニルホスフィンを分離することができ、別の後処理なしに分離回収された選択的均一系水素化触媒および過量のトリフェニルホスフィンを次の選択的水素化反応にそのまま使用することができる。
【0023】
なお、最初にトリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む触媒を使用して反応中に選択的均一系水素化触媒が形成され、選択的水素添加反応が起こることより、回収された選択的均一系水素化触媒を使用する時に誘導期間(Induction period)を減少させることができ、生産性をさらに高めることができる。
【0024】
また、回収された選択的均一系水素化触媒を再使用する時に、シクロドデカトリエンの転化率およびシクロドデセンの選択度をいずれも高い水準に維持することができるという利点がある。
【0025】
また、ホルムアルデヒドを回収しなくても再使用する必要がないことから、環境および人体への有害性が減少することができ、好ましい。
【0026】
本発明で明示的に言及していない効果であっても、本発明の技術的特徴によって期待される明細書に記載の効果およびその内在的な効果は、本発明の明細書に記載のものと同様に取り扱われる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一例による選択的均一系水素化触媒の回収方法を簡略に示す図である。
【
図2】実施例1で行われた最初反応の転化率および選択度を示す図である。
【
図3】実施例2で行われた回収された選択的均一系水素化触媒を使用した2次反応の転化率および選択度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明による選択的均一系水素化触媒の回収方法および再使用方法について詳細に説明する。この際、使用される技術用語および科学用語において他の定義がなければ、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が通常理解している意味を有し、下記の説明で本発明の要旨を不明瞭にし得る公知の機能および構成に関する説明は省略する。
【0029】
また、本明細書において、本発明による構成要素を説明するにあたり、第1、第2、A、B、(a)、(b)などの用語を使用することがある。かかる用語は、その構成要素を他の構成要素と区別するためのものであって、その用語によって当該構成要素の本質や順番または順序などが限定されない。
【0030】
また、本明細書で使用される用語の単数形態は、特別な指示がない限り、複数形態も含むものと解釈すべきである。
【0031】
本明細書で特別な断りなく使用された%の単位は、特別な定義がない限り、重量%を意味する。
【0032】
シクロドデカトリエンからシクロドデセンを生産する選択的水素化反応に使用される触媒として、稀で生産量が少なくて値段が高い貴金属が使用されることから、天然資源が全くなく、貴金属関連産業原料を全量輸入に依存している韓国としては、廃触媒から貴金属を回収し、産業原料として再使用するリサイクルが至急な状況である。
【0033】
そのため、本出願人は、短い工程時間内に比較的簡単な方法により選択的均一系水素化触媒を分離および回収することができ、且つ回収された選択的均一系水素化触媒を再使用する時に、シクロドデカトリエンの転化率およびシクロドデセンの選択度をいずれも高い水準に維持することができる選択的均一系水素化触媒の回収方法および再使用方法を提供することを目的とする。
【0034】
詳細には、本発明による選択的均一系水素化触媒の回収方法は、シクロドデカトリエン(Cyclododecatriene、CDT)、トリフェニルホスフィン(Triphenylphosphine、TPP)、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウム(RhCl3)を含む第1反応溶液を選択的水素添加反応させてシクロドデセン(Cyclododecene、CDEN)を合成するステップであって、前記選択的水素添加反応中に前記トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムから選択的均一系水素化触媒が製造され、シクロドデセンが合成されるステップと、前記シクロドデセンの合成が完了した第2反応溶液から未反応のシクロドデカトリエンとシクロドデカジエンおよび生成物であるシクロドデセンを蒸留(Evaporation)分離し、選択的均一系水素化触媒を回収するステップとを含むことができる。
【0035】
このように、蒸留(Evaporation)分離する方法だけで、未反応のシクロドデカトリエンとシクロドデカジエンおよび生成物であるシクロドデセンと選択的均一系水素化触媒および過剰のトリフェニルホスフィンを分離することができ、別の後処理なしに分離回収された選択的均一系水素化触媒および過量のトリフェニルホスフィンを次の選択的水素化反応にそのまま使用することができる。
【0036】
なお、最初にトリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む触媒を使用して反応中に選択的均一系水素化触媒が形成されて選択的水素添加反応が起こることより、回収された選択的均一系水素化触媒を使用する時に、誘導期間(Induction period)を減少させることができ、生産性をより高めることができる。
【0037】
また、回収された選択的均一系水素化触媒を再使用する時に、シクロドデカトリエンの転化率およびシクロドデセンの選択度をいずれも高い水準に維持することができるという利点がある。
【0038】
また、ホルムアルデヒドを回収しなくても再使用する必要がないため、環境および人体への有害性が減少することができ、好ましい。
【0039】
以下、本発明による選択的均一系水素化触媒の回収方法について詳細に説明する。
【0040】
先ず、シクロドデカトリエン、トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む第1反応溶液を選択的水素添加反応させてシクロドデセンを合成するステップであって、前記選択的水素添加反応中に前記トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムから選択的均一系水素化触媒が製造され、シクロドデセンが合成されるステップを行うことができる。この際、選択的水素添加反応のために、通常の方法により水素気体(H2)を投入することは言うまでもない。
【0041】
本ステップは、シクロドデセンを合成するためのステップであって、後述する方法または従来公知の方法によりシクロドデセンを合成することができる。
【0042】
詳細には、シクロドデセンを合成するステップにおいて、前記選択的水素添加反応は、ガス誘導中空型撹拌機が備えられた撹拌槽型反応器で行われてもよい。このように、ガス誘導中空型撹拌機を使用する手段を採択して前記反応を行う場合、通常、反応性を高めるために使用される有機溶媒がなくても反応性を確保することができ、且つ反応時間が著しく減少することができる。
【0043】
より具体的には、前記シクロドデセンを合成するステップにおいて、ガス誘導中空型撹拌機が回転および撹拌されて反応が行われ、前記ガス誘導中空型撹拌機の中空を介して、撹拌槽型反応器の上端に気相で存在する水素気体が反応溶液に供給されることで、シクロドデカトリエンに水素を供給することができる。前記ガス誘導中空型撹拌機は、その内部に中空の通路が形成されており、水素気体が前記中空の通路を介して流入され、シクロドデカトリエンに接触し、選択的水素添加反応が行われ得る。
【0044】
または、従来公知の方法によりシクロドデセンを合成することができる。
【0045】
具体的な一例として、前記シクロドデセンは、エタノール(Ethanol)を含む溶媒上でシクロドデカトリエンに水素が添加反応して合成され得、トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む触媒下で反応して合成され得る。
【0046】
前記エタノールは、誘電定数が高いことから、選択的水素添加反応で反応物の反応をより活性化させ、転化率および選択度を向上させることができる。前記エタノールの使用量は、シクロドデカトリエンに水素が選択的水素添加反応することができる程度であればよく、好ましくは、シクロドデカトリエン100重量部に対して、1~20重量部、より好ましくは2~15重量部、さらに好ましくは3~10重量部が投入され得る。しかし、これは、好ましい一例であって、本発明がこれに制限されないことは言うまでもない。
【0047】
一方、前記選択的水素添加反応中に、前記トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムから選択的均一系水素化触媒が製造され、シクロドデセンが合成され得、前記選択的均一系水素化触媒である均一複合触媒は、Ru(PPh3)2(CO)2Cl2であってもよい。
【0048】
具体的には、前記トリフェニルホスフィンとホルムアルデヒドは、前記塩化ルテニウムに錯体を形成し、選択的水素添加反応の触媒の役割を果たす物質である。
【0049】
好ましい一例として、前記塩化ルテニウム:トリフェニルホスフィン:ホルムアルデヒドのモル比は、1:100~300:150~500であってもよく、より好ましくは、前記塩化ルテニウム:トリフェニルホスフィン:ホルムアルデヒドのモル比は、1:130~250:200~400であってもよく、さらに好ましくは、前記塩化ルテニウム:トリフェニルホスフィン:ホルムアルデヒドのモル比は、1:170~230:250~350であってもよい。前記範囲で、転化率および選択度が著しく向上することができる。しかし、これは、好ましい一例であって、本発明がこれに制限されないことは言うまでもない。
【0050】
また、本発明の一例において、前記第1反応溶液は、酢酸(acetic acid)を含む触媒活性剤がさらに含まれてもよい。酢酸が投入される場合、塩化ルテニウム‐トリフェニルホスフィン錯化合物触媒の反応をより活性化させ、転化率および選択度をより向上させることができる。好ましい一例として、酢酸は、シクロドデカトリエン100重量部に対して、0.01~2重量部添加されてもよく、より好ましくは、シクロドデカトリエン100重量部に対して0.05~1.5重量部、さらに好ましくは、シクロドデカトリエン100重量部に対して0.1~1重量部添加されてもよい。しかし、これは好ましい一例であって、本発明がこれに制限されないことは言うまでもない。
【0051】
本発明の一例において、前記トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む触媒の使用量は、反応物の反応が充分に行われ得る程度であればよく、好ましくは、シクロドデカトリエン100重量部に対して1~20重量部になるようにトリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む触媒を投入してもよく、より好ましくは、1~10、さらに好ましくは、1~7重量部になるようにトリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む触媒を投入してもよい。しかし、これは、転化率および選択度を向上させるための好ましい一例であって、本発明がこれに制限されないことは言うまでもない。
【0052】
本発明の一例において、前記選択的水素添加反応は、120~200℃の温度および10~80barの圧力の条件下で行われてもよく、より好ましくは、140~180℃の温度および20~60barの圧力の条件下で、さらに好ましくは、150~175℃の温度および20~40barの圧力の条件下で行われてもよいが、これは、転化率および選択度を向上させるための好ましい一例であって、本発明がこれに制限されないことは言うまでもない。
【0053】
次に、前記シクロドデセンの合成が完了した第2反応溶液から未反応のシクロドデカトリエンとシクロドデカジエンおよび生成物であるシクロドデセンを蒸留分離し、選択的均一系水素化触媒を回収するステップを行うことができる。
【0054】
上述のように、蒸留(Evaporation)分離する方法だけで、未反応のシクロドデカトリエンとシクロドデカジエンおよび生成物であるシクロドデセンと選択的均一系水素化触媒および過剰のトリフェニルホスフィンを分離することができ、別の後処理なしに、分離回収された選択的均一系水素化触媒および過量のトリフェニルホスフィンを次の選択的水素化反応にそのまま使用することができる。
【0055】
本発明の一例において、前記蒸留分離は、100~200℃の温度および0.5bar以下の圧力の条件下で行われてもよく、より好ましくは、100~180℃の温度および0.3bar以下の圧力の条件下で、さらに好ましくは、100~150℃の温度および0.1bar以下の圧力の条件下で行われてもよい。前記範囲で、未反応のシクロドデカトリエンとシクロドデカジエンおよび生成物であるシクロドデセンが効果的に蒸留分離することができる。
【0056】
本発明の一例において、前記選択的均一系水素化触媒の回収は、10~30℃の温度、および0.1bar以下の圧力または窒素雰囲気の条件下で行われてもよい。すなわち、前記蒸留分離過程によって高くなった温度を室温水準に冷却し、選択的均一系水素化触媒を回収することができる。
【0057】
このように回収された選択的均一系水素化触媒を再使用する時に、シクロドデカトリエンの転化率およびシクロドデセンの選択度をいずれも高い水準に維持することができ、具体的には、回収された選択的均一系水素化触媒は、下記関係式1を満たすことができる。
【0058】
[関係式1]
90≦C2/C1×100≦100
【0059】
前記関係式1中、C1は、選択的均一系水素化触媒の回収の前に、最初に行った選択的水素添加反応の転化率(%)であり、C2は、回収された選択的均一系水素化触媒を触媒とした選択的水素添加反応の転化率(%)である。
【0060】
より好ましくは、回収された選択的均一系水素化触媒は、95≦C2/C1×100≦100を満たすことができ、さらに好ましくは、98≦C2/C1×100≦100を満たすことができる。
【0061】
この際、前記転化率は、各成分の含量、反応温度、圧力および時間などの反応条件を同様に調節した状態で、選択的水素添加反応を行った後、計算したものであり、前記転化率は、下記計算式1により計算されたものであり得る。
【0062】
[計算式1]
転化率(%)=(CDT0-CDT1-CDDN1)/CDT0×100
【0063】
前記計算式1中、CDT0は、投入されたシクロドデカトリエンのモル数であり、CDT1は、反応後のシクロドデカトリエンのモル数であり、前記CDDN1は、シクロドデカジエンのモル数である。この際、シクロドデカジエン(Cyclododecadiene、CDDN)は、シクロドデカトリエンの三つの二重結合のうち一つの二重結合のみが水素化し、二つの二重結合が残っている水素化反応が完了していない生成物である。
【0064】
また、回収された選択的均一系水素化触媒は、下記関係式2を満たすことができる。
【0065】
[関係式2]
90≦S2/S1×100≦100
【0066】
前記関係式2中、S1は、選択的均一系水素化触媒の回収の前に、最初に行った選択的水素添加反応の選択度(%)であり、S2は、回収された選択的均一系水素化触媒を触媒とした選択的水素添加反応の選択度(%)である。
【0067】
より好ましくは、回収された選択的均一系水素化触媒は、95≦S2/S1×100≦100を満たすことができ、さらに好ましくは、98≦S2/S1×100≦100を満たすことができる。
【0068】
この際、前記選択度は、各成分の含量、反応温度、圧力および時間などの反応条件を同様に調節した状態で、選択的水素添加反応を行った後、計算したものであってもよく、前記選択度は、下記計算式2により計算され得る。
【0069】
[計算式2]
選択度(%)=CDEN1/(CDEN1+CDAN1)×100
【0070】
前記計算式2中、CDEN1は、生成されたシクロドデセンのモル数であり、CDAN1は、生成された副生成物であるシクロドデカン(Cyclododecane)のモル数である。
【0071】
また、本発明は、シクロドデカトリエン、トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む第1反応溶液を選択的水素添加反応させてシクロドデセンを合成するステップであって、前記選択的水素添加反応中に前記トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムから選択的均一系水素化触媒が製造され、シクロドデセンが合成されるステップと、前記シクロドデセンの合成が完了した第2反応溶液から未反応のシクロドデカトリエンとシクロドデカジエンおよび生成物であるシクロドデセンを蒸留分離し、選択的均一系水素化触媒を回収するステップと、前記回収された選択的均一系水素化触媒をシクロドデカトリエンが含まれた第3反応溶液に再投入し、2次の選択的水素添加反応させて、シクロドデセンを合成するステップとを含む、回収された選択的均一系水素化触媒の再使用方法に関する。
【0072】
この際、前記シクロドデカトリエン、トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む第1反応溶液を選択的水素添加反応させてシクロドデセンを合成するステップであって、前記選択的水素添加反応中に前記トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムから選択的均一系水素化触媒が製造され、シクロドデセンが合成されるステップと、前記シクロドデセンの合成が完了した第2反応溶液から未反応のシクロドデカトリエンとシクロドデカジエンおよび生成物であるシクロドデセンを蒸留分離し、選択的均一系水素化触媒を回収するステップは、上述の選択的均一系水素化触媒の回収方法と同様であるため、重複説明は省略する。
【0073】
以降、蒸留分離および選択的均一系水素化触媒の回収が完了すると、前記回収された選択的均一系水素化触媒をシクロドデカトリエンが含まれた第3反応溶液に再投入し、2次の選択的水素添加反応させてシクロドデセンを合成するステップを行うことができる。
【0074】
この際、前記シクロドデセンを合成するための2次の選択的水素添加反応は、従来公知の方法により行われ得る。
【0075】
具体的な一例として、前記第3反応溶液は、シクロドデカトリエンだけでなく、エタノールを含む溶媒をさらに投入することができる。前記エタノールは、誘電定数が高いことから、選択的水素添加反応で反応物の反応をさらに活性化させて、転化率および選択度を向上させることができる。前記エタノールの使用量は、シクロドデカトリエンに水素が選択的水素添加反反応することができる程度であればよく、好ましくは、シクロドデカトリエン100重量部に対して、1~20重量部、より好ましくは2~15重量部、さらに好ましくは3~10重量部が投入され得る。しかし、これは、好ましい一例であって、本発明がこれに制限されないことは言うまでもない。
【0076】
本発明の一例において、前記2次の選択的水素添加反応は、120~200℃の温度および10~80barの圧力の条件下で行われてもよく、より好ましくは、140~180℃の温度および20~60barの圧力の条件下で、さらに好ましくは、150~175℃の温度および20~40barの圧力の条件下で行われてもよいが、これは、転化率および選択度を向上させるための好ましい一例であって、本発明がこれに制限されないことは言うまでもない。
【0077】
以下、実施例により、本発明による選択的均一系水素化触媒の回収方法および再使用方法についてより詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を詳しく説明するための一つの参照であって、本発明はこれに限定されるのではなく、様々な形態に具現され得る。
【0078】
また、他に定義されない限り、すべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者の一人によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本願で説明に使用される用語は、単に特定の実施例を効果的に記述するためであって、本発明を制限することを意図しない。また、明細書で特別に記載しない添加物の単位は、重量%であり得る。
【実施例】
【0079】
[実施例1]
シクロドデカトリエン(CDT):塩化ルテニウム(RuCl3):トリフェニルホスフィン(TPP):ホルムアルデヒドを7500:1:110:220のモル比で投入し、水素6barの条件で反応溶液を撹拌した後、160℃、20barが維持される条件で、2時間選択的水素化反応を行っており、この時の反応は、ガス誘導中空型撹拌機が備えられた撹拌槽型反応器で行った。
【0080】
選択的水素化反応を2時間行った後、窒素条件で、30℃以下に冷却してから反応溶液を回収し、蒸留装置で0.1bar以下、110℃で蒸留した。
【0081】
蒸留が完了すると、窒素雰囲気で、30℃以下に冷却し、選択的均一系水素化触媒を回収した。
【0082】
[実施例2]
実施例1と同じ方法により回収された選択的均一系水素化触媒を反応溶液に再投入し、選択的水素化反応を行った。
【0083】
詳細には、シクロドデカトリエン(CDT):回収された選択的均一系水素化触媒を7500:1のモル比で投入し、水素6barの条件で反応溶液を撹拌した後、160℃、20barが維持される条件で、選択的水素化反応を2時間行っており、この時の反応は、ガス誘導中空型撹拌機が備えられた撹拌槽型反応器で行った。
【0084】
選択的水素化反応を2時間行ってから、窒素条件で30℃以下に冷却した後、反応溶液を回収し、蒸留装置で、0.1bar以下、110℃で蒸留した。
【0085】
蒸留が完了すると、窒素雰囲気で30℃以下に冷却し、選択的均一系水素化触媒を再回収した。
【0086】
[実験例1]
<転化率および選択度の評価>
前記実施例1および実施例2から回収された選択的均一系水素化触媒の転化率および選択度を計算し、下記表1に示した。
【0087】
【0088】
結果、表1に記載のように、最初に選択的水素添加反応の転化率および選択度と回収された選択的均一系水素化触媒を使用した2次の選択的水素添加反応の転化率および選択度がほぼ同一であることを確認することができた。詳細には、C2/C1×100が100と転化率は二つの反応が同一であり、S2/S1×100は98.6とほぼ同一であることを確認することができた。
【0089】
以上、特定された事項と限定された実施例により本発明を説明しているが、これは、本発明のより全般的な理解を容易にするために提供されたものであって、本発明は、前記の実施例に限定されるものではなく、本発明が属する分野において通常の知識を有する者であれば、かかる記載から様々な修正および変形が可能である。
【0090】
したがって、本発明の思想は、上述の実施例に限定して定められてはならず、後述する特許請求の範囲だけでなく、この特許請求の範囲と均等であるか等価的変形があるすべてのものなどは、本発明の思想の範疇に属すると言える。