IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ Bloom Technology 株式会社の特許一覧 ▶ 学校法人金沢医科大学の特許一覧 ▶ 国立大学法人 熊本大学の特許一覧

特許7149509終末糖化産物に対する抗体およびその使用
<>
  • 特許-終末糖化産物に対する抗体およびその使用 図1
  • 特許-終末糖化産物に対する抗体およびその使用 図2
  • 特許-終末糖化産物に対する抗体およびその使用 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-29
(45)【発行日】2022-10-07
(54)【発明の名称】終末糖化産物に対する抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220930BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20220930BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220930BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220930BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220930BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220930BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 15/08 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/18 ZNA
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61P3/10
A61P27/02
A61P13/12
A61P25/02
A61P43/00 105
A61P9/10 101
A61P9/10
A61P7/02
A61P1/16
A61P35/00
A61P15/08
A61P25/00
A61P25/28
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2017168387
(22)【出願日】2017-09-01
(65)【公開番号】P2019041668
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2020-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】516309040
【氏名又は名称】Bloom Technology 株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507189460
【氏名又は名称】学校法人金沢医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正義
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】土田 仁美
(72)【発明者】
【氏名】森岡 弘志
(72)【発明者】
【氏名】山内 聡一郎
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/037554(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/080993(WO,A1)
【文献】特開2003-300961(JP,A)
【文献】特開2006-337322(JP,A)
【文献】Molecular Medicine,2000年,Vol.6, No.2,pp.114-125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C12P 1/00-41/00
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖可変領域の各相補性決定領域(VH CDR1、VH CDR2、およびVH CDR3)および軽鎖可変領域の各相補性決定領域(VL CDR1、VL CDR2、およびVL CDR3)のアミノ酸配列が、
(A)
(a)VH CDR1:配列番号:1に示すアミノ酸配列;
(b)VH CDR2:配列番号:2に示すアミノ酸配列;
(c)VH CDR3:配列番号:3に示すアミノ酸配列;
(d)VL CDR1:配列番号:5に示すアミノ酸配列;
(e)VL CDR2:配列番号:6に示すアミノ酸配列;
(f)VL CDR3:配列番号:7に示すアミノ酸配列;または
(B)
(a)VH CDR1:配列番号:9に示すアミノ酸配列;
(b)VH CDR2:配列番号:10に示すアミノ酸配列;
(c)VH CDR3:配列番号:11に示すアミノ酸配列;
(d)VL CDR1:配列番号:13に示すアミノ酸配列;
(e)VL CDR2:配列番号:14に示すアミノ酸配列;
(f)VL CDR3:配列番号:15に示すアミノ酸配列;
を含む、抗体またはその抗原結合断片である、
グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープと結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列が、それぞれ:
配列番号:4のアミノ酸配列、および配列番号:8のアミノ酸配列;または
配列番号:12のアミノ酸配列、および配列番号:16のアミノ酸配列、である、
請求項1に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
前記エピトープがグリセルアルデヒド由来AGEsのエピトープである、請求項1または2に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
完全長抗体、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv、dsFv、ダイアボディ、またはsc(Fv)である、請求項1~3のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
マウス抗体、ヒト化抗体キメラ抗体、またはその抗原結合断片である、請求項1~4のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
1×10-5M以下の解離定数(Kd値)でグリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープと結合する、請求項1~5のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物。
【請求項8】
糖尿病、耐糖能異常、網膜症、腎症、末梢神経障害、下肢壊疽、動脈硬化、血栓症、非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪肝炎、がん、多嚢胞性卵巣症候群、卵巣機能障害、中枢神経障害、およびアルツハイマー病から選択される疾患の診断、治療、または予防に用いるための、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
疾患が、メラノーマ、肺がん、および肝臓がんから選択されるがんである、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片をコードする、核酸。
【請求項11】
請求項10に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項12】
請求項11の発現ベクターを含む宿主細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、終末糖化産物(AGEs)、特にグリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープと結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片に関する。
【背景技術】
【0002】
終末糖化産物(AGEs)は、生体内でアミノ酸、主にリシンのアミノ基が還元糖によって非酵素的に修飾された後、酸化・脱水・縮合などの複雑な反応を経て生成する物質の総称である。加齢や高血糖状態で生成するAGEsは糖尿病合併症や動脈硬化などの生活習慣病と関連していると考えられている。特に、糖代謝中間体のグリセルアルデヒドに由来するAGEs(グリセルAGEs;Glycer-AGEs)は、毒性AGEs(Toxic AGEs:TAGE)とも称され、診断、予防において有用なバイオマーカーとして注目されている(非特許文献1~3)。
【0003】
AGEsに含まれる構造はいくつか特定されており、その一つであるカルボキシメチルリシン(Nε-(カルボキシメチル)リシン、CML)は、グルコースとリシンの反応で生成するアマドリ化合物の糖部分が遷移金属の存在下で酸化的に解裂してエリスロン酸とともに生成される物質として同定されている。AGEs研究の歴史から、AGEsの定量は構造が明らかになっているCMLの定量で代替されてきた。In vitroにおけるCMLの主な生成経路は、シッフ塩基あるいはアマドリ化合物の酸化的開裂によると考えられている。また、CMLはグリオキサール(GO)およびグリコールアルデヒドを前駆体とする分子内カニッツァロ反応やグルコースの自動酸化によっても生成することが知られている。タンパク質中のCMLは酸加水分解に安定なこともあり、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法やガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)法で定量することが可能である(非特許文献1)。
【0004】
エンザイムイムノアッセイ(EIA)法によるAGEsの定量として、ウシ血清アルブミン(BSA)を用いて作成したAGEs(AGEs含有ウシ血清アルブミン、AGEs-BSA)を抗原とする、抗AGEs-BSA抗体を用いた競合enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)法に始まるが、後にこれらの抗体はCML構造をエピトープとする抗CML抗体であることが判明した(非特許文献1)。一方で、ウサギ血清アルブミン(RSA)にグリセルアルデヒド、グリコールアルデヒド、メチルグリオキサール、またはグリオキサールを添加してそれぞれ作成したAGEsを抗原として抗血清を調製し、得られた抗血清を精製してCML非結合性の画分を得たとの報告がされている(非特許文献4)。当該画分として得られたポリクローナル抗体を用いたELISAアッセイが行われており、CML以外のAGEsの定量方法として利用されている(非特許文献5および6)。
【0005】
例えば、不妊治療の成否とグリセルアルデヒド由来AGEs(Glycer-AGEs)との相関についての研究がされており、血中のGlycer-AGEs量が高いと継続妊娠率が不良であるとの報告がされている(非特許文献1~3、5および6)。そういった研究においては、上述のポリクローナル抗体のうちの抗グリセルアルデヒド由来AGEs抗体を用いたELISAアッセイが利用されている(非特許文献5および6)。
【0006】
また、グリセルアルデヒド由来のAGEsを抗原としたモノクローナル抗体の作成について報告がされている(非特許文献7)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】金沢医科大学雑誌、37(4):141-161、2012;
【文献】金沢医科大学雑誌、40(2-3):95-103、2015;
【文献】Diagnostics 6(2), 23, 2016; doi:10.3390;
【文献】Molecular Medicine 6(2): 114-125, 2000;
【文献】Human Reproduction, 26(3), 604-610, 2011;
【文献】日本未病システム学会雑誌、21(1):93-96、2015;
【文献】Immunology Letters 167(2), 141-146, 2015。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、AGEs、特にグリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsに対して高い選択性および親和性を有するモノクローナル抗体、およびそれを利用した分析方法を提供することである。さらに本発明の目的は、前記モノクローナル抗体を用いた疾患の診断方法、治療方法および予防方法、特に不妊症の診断方法、治療方法、および予防方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、研究の結果、特定のモノクローナル抗体が、良好な選択性および抗原への高い結合性を有し、分析方法や診断方法、治療方法および予防方法に利用可能であることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明により、以下の発明が提供される。
[1]1)重鎖可変領域の各相補性決定領域(VH CDR1、VH CDR2、およびVH CDR3)および軽鎖可変領域の各相補性決定領域(VL CDR1、VL CDR2、およびVL CDR3)のアミノ酸配列が、
(A)
(a)VH CDR1:配列番号:1に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(b)VH CDR2:配列番号:2に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(c)VH CDR3:配列番号:3に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(d)VL CDR1:配列番号:5に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(e)VL CDR2:配列番号:6に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(f)VL CDR3:配列番号:7に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;または
(B)
(a)VH CDR1:配列番号:9に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(b)VH CDR2:配列番号:10に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(c)VH CDR3:配列番号:11に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(d)VL CDR1:配列番号:13に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(e)VL CDR2:配列番号:14に示すアミノ酸配列に含まれる連続する12残基のアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(f)VL CDR3:配列番号:15に示すアミノ酸配列に含まれる連続する9残基のアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
を含む、抗体またはその抗原結合断片;または
2)グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープとの結合について、前記抗体またはその抗原結合断片と交差競合する抗体またはその抗原結合断片である、
グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープと結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
[2]1)重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列が、それぞれ:
配列番号:4のアミノ酸配列またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列、および配列番号:8のアミノ酸配列またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;または
配列番号:12のアミノ酸配列またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列、および配列番号:16のアミノ酸配列またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列、である、抗体またはその抗原結合断片;または
2)グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープとの結合について、前記抗体またはその抗原結合断片と交差競合する抗体またはその抗原結合断片である、
[1]に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
[3]前記エピトープがグリセルアルデヒド由来AGEsのエピトープである、[1]または[2]に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
[4]完全長抗体、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、scFv、dsFv、ダイアボディ、またはsc(Fv)である、[1]~[3]のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
[5]マウス抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、またはその抗原結合断片である、[1]~[4]のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
[6]1×10-5M以下の解離定数(Kd値)でグリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープと結合する、[1]~[5]のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
[7][1]~[6]のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物。
[8]糖尿病、耐糖能異常、網膜症、腎症、末梢神経障害、下肢壊疽、動脈硬化、血栓症、非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪肝炎、がん、多嚢胞性卵巣症候群、卵巣機能障害、中枢神経障害、およびアルツハイマー病から選択される疾患の診断、治療、または予防に用いるための、[7]に記載の医薬組成物。
[9]疾患が、メラノーマ、肺がん、および肝臓がんから選択されるがんである、[8]に記載の医薬組成物。
[10][1]~[6]のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片をコードする、核酸。
[11][10]に記載の核酸を含む発現ベクター。
[12][11]の発現ベクターを含む宿主細胞。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は本発明の抗体(6B3)の、各種AGEsに対する結合特性を確認するための競合ELISA法による試験結果を示す。数値は、各試料の吸光度を対照BSAの吸光度を1として示す。
図2図2は本発明の抗体(11G4)の、各種AGEsに対する結合特性を確認するための競合ELISA法による試験結果を示す。数値は、各試料の吸光度を対照BSAの吸光度を1として示す。
図3図3は11G4と6B3との交差競合を確認するための試験結果を示すグラフである。
【発明の開示】
【発明の効果】
【0012】
AGEsの中でも、グリセルアルデヒド由来のAGEs(Glycer-AGEs)は、TAGE(Toxic AGEs)とも称せられ、糖尿病、特に糖尿病血管合併症、糖尿病網膜症、糖尿病腎症、および糖尿病大血管症などに関わることが報告されている。さらに、Glycer-AGEsは高血圧症、アルツハイマー病などの認知症、がん(例えば肝臓がん、膵臓がん、子宮がん、結腸がん、直腸がん、乳がん、膀胱がん、悪性黒色腫、および肺がん)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、不妊症などに慣用することが報告されている。したがって、Glycer-AGEsはこれらの疾患の診断のためのバイオマーカーとして使用することができ、本発明の抗体はバイオマーカーの検出において使用することができる。
【0013】
さらに本発明にかかる抗体は、生体におけるGlycer-AGEsの効果を中和するために使用することができ、疾患の治療などにおいても使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の1つの側面において、本発明の抗体は単離された抗体である。単離された抗体は、天然に存在して何ら外的操作(人為的操作)が施されていない抗体、即ちある個体の体内で産生され、そこに留まっている状態の抗体は含まれない。本発明の抗体は典型的にはモノクローナル抗体、またはその抗原結合断片である。
【0015】
アミノ酸配列に関して使用する用語「実質的に同一」とは、比較される二つのアミノ酸配列間で配列上の相違が比較的小さく且つ配列上の相違が抗原に対する特異的結合性に関して実質的な影響を与えないことを意味する。実質的に同一なアミノ酸配列はアミノ酸配列の一部の改変を含んでいてもよく、例えば、アミノ酸配列を構成する1~数個(例えば、1~3個)のアミノ酸の欠失、置換、若しくは1~数個(例えば、1~3個)のアミノ酸の付加、挿入、又はこれらの組合せによりアミノ酸配列が改変されていてもよい。アミノ酸配列の変異の位置は特に限定されず、複数の位置で変異を生じていてもよい。アミノ酸配列において改変されるアミノ酸の数は示された全アミノ酸の例えば10%以内に相当する数であり、好ましくは全アミノ酸の5%以内に相当する数である。さらに好ましくは全アミノ酸の1%以内に相当する数である。
【0016】
アミノ酸を置換する場合には、置換するアミノ酸の側鎖と類似の生化学的特性を持った側鎖を有するアミノ酸と置換することができる(保存的アミノ酸置換)。1つの態様において、実質的に同一なアミノ酸配列は、例えば、1つもしくは複数の保存的置換を含んでいてもよい。保存的アミノ酸置換は当業者に知られており、例えば以下の表に示す例が挙げられる(例えば、WO2010/146550など)。
【0017】
【表1】
【0018】
また、天然に存在するアミノ酸は、共通の側鎖特性に基づいて以下の群に分類される:
(1)非極性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile、
(2)極性、荷電なし:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln、
(3)酸性(負荷電):Asp、Glu、
(4)塩基性(正荷電):Lys、Arg、His、
(5)鎖の配向に影響を与える残基:Gly、Pro、および
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0019】
1つの態様として、置換するアミノ酸と同じ群に属するアミノ酸を用いて置換してもよい。
【0020】
二つのアミノ酸配列が実質的に同一であるか否かは、各アミノ酸配列を含む抗体(他の領域の配列は同一)の抗原に対する結合特異性を比較することによって判定できる。例えば、基準となる抗体の生理食塩水環境下での抗原に関する解離定数(Kd値)をAとしたとき、比較対象の抗体のKd値がA×10-1~A×10の範囲であれば実質的な同一性を認定できる。
【0021】
本発明に係る核酸は、典型的には、単離された核酸であり、例えばcDNA分子など遺伝子組み換え技術によって生産される核酸の場合の「単離された核酸」は好ましくは、細胞成分や培養液などを実質的に含まない状態の核酸をいう。同様に、化学合成によって生産される核酸の場合の「単離された核酸」は好ましくは、dNTPなどの前駆体(原材料)や合成過程で使用される化学物質等を実質的に含まない状態の核酸をいう。
【0022】
本明細書における用語「核酸」はDNA(cDNAおよびゲノムDNAを含む)、RNA(mRNAを含む)、DNA類似体、およびRNA類似体を含む。本発明の核酸の形態は限定されず、即ち1本鎖および2本鎖のいずれであってもよい。好ましくは2本鎖DNAである。またコドンの縮重も考慮される。即ちタンパク質をコードする核酸の場合には、その発現産物として当該タンパク質が得られる限り任意の塩基配列を有していてよい。
【0023】
AGEsはタンパク質の糖化反応により形成される。グルコースやフルクトースなどの還元糖とタンパク質の遊離のアミノ基が非酵素的に反応してシッフ塩基からアマドリ化合物を生成し、その後不可逆的な脱水や縮合、酸化、還元などの反応を繰り返し、特有の蛍光を持つ黄褐色の複雑な物質AGEsが生成するに至る。一方で、リシンなどのアミノ酸残基が糖と反応して得られる化合物がAGEsの構造として特定されており、蛍光を有さないピラリン、Nε-カルボキシメチルリシン(CML)、Nε-カルボキシエチルリシン(CEL)、およびNω-カルボキシメチルアルギニン(CMA)などもAGEsとして知られている。その他、芳香環を有するアルグピリミジン、ペントシジン、クロスリン、GA-ピリジン、ベスペルリシン、ピロピリジンなどの化合物がAGEsとして特定されている。これらの化合物をアミノ酸残基として含有するペプチドやタンパク質もAGEsに含まれる。
【0024】
AGEsを形成するタンパク質糖化反応の基質としては、グルコース、フルクトースなどの還元糖の他に、生体内の糖代謝などにより生成する、グリセルアルデヒド、グリコールアルデヒド、メチルグリオキサール、グリオキサール、および3-デオキシグルコソンなどが想定されている。こうした還元糖およびアルデヒドを使用し、BSAなどのタンパク質と反応させてAGEsを形成する試みがされている。このようにして調製されるグリセルアルデヒド由来AGEs(Glycer-AGEs)、グルコース由来AGEs(Glu-AGEs)、グリコールアルデヒド由来AGEs(Glycol-AGEs)、フルクトース由来AGEs(Fru-AGEs)、メチルグリオキサール由来AGEs(MGO-AGEs)、グリオキサール由来AGEs(GO-AGEs)、および3-デオキシグルコソン由来AGEs(3-DG-AGEs)などの各種AGEsのうち、グリセルアルデヒド由来AGEsは、糖尿病などの各種疾患に関与するとの報告がされており、グリセルアルデヒド由来AGEsを抗原とするポリクローナル抗体を用いた分析方法により、Glycer-AGEsの血中濃度を測定する手法が知られている。
【0025】
本発明のモノクローナル抗体は、グリセルアルデヒド由来AGEs(Glycer-AGEs)およびグリコールアルデヒド由来AGEs(Glycol-AGEs)に対して特異的に結合する特性を有している。
【0026】
本発明の1つの側面において、グリセルアルデヒド由来AGEs(Glycer-AGEs)および/またはグリコールアルデヒド由来AGEs(Glycol-AGEs)のエピトープと結合し、グルコース由来AGEs(Glu-AGEs)、フルクトース由来AGEs(Fru-AGEs)、メチルグリオキサール由来AGEs(MGO-AGEs)、グリオキサール由来AGEs(GO-AGEs)、および3-デオキシグルコソン由来AGEs(3-DG-AGEs)から選択される、1以上のAGEsとは結合しない、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片が提供される。より具体的には、グリセルアルデヒド由来AGEs(Glycer-AGEs)およびグリコールアルデヒド由来AGEs(Glycol-AGEs)のエピトープと結合し、グルコース由来AGEs(Glu-AGEs)、フルクトース由来AGEs(Fru-AGEs)、メチルグリオキサール由来AGEs(MGO-AGEs)、グリオキサール由来AGEs(GO-AGEs)、および3-デオキシグルコソン由来AGEs(3-DG-AGEs)とは結合しない、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片が提供される。さらに具体的には、グリセルアルデヒド由来AGEsおよびグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープと結合し、グルコース由来AGEs(Glu-AGEs)、フルクトース由来AGEs(Fru-AGEs)、メチルグリオキサール由来AGEs(MGO-AGEs)、グリオキサール由来AGEs(GO-AGEs)、3-デオキシグルコソン由来AGEs(3-DG-AGEs)、Nε-カルボキシメチルリシン(CML)、およびNε-カルボキシエチルリシン(CEL)とは結合しない、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片が提供される。
【0027】
本発明の1つの側面において、グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープと結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片が提供される。ここで、グリセルアルデヒド由来AGEsおよびグリコールアルデヒド由来AGEは、グリセルアルデヒドまたはグリコールアルデヒドの存在下でBSA、マウス血清アルブミン(MSA)などのタンパク質糖化反応により生じるAGEsであり、AGEsを含むタンパク質である。本発明のモノクローナル抗体およびその抗原結合断片は、タンパク質糖化反応で生じた化学構造をエピトープとするという特徴を有している。好ましい態様において、本発明の抗体およびその抗原結合断片は、還元糖および糖代謝などで生じるアルデヒド、特にグルコース由来AGEs、フルクトース由来AGEs、メチルグリオキサール由来AGEs、グリオキサール由来AGEs、および3-デオキシグルコソン由来AGEsとは結合しない。これらのAGEsも各還元糖またはアルデヒドをBSAなどのタンパク質に添加してタンパク質糖化反応により調製される。抗体の結合特異性については、公知の手法、例えば競合ELISA法などにより特定することができる。
【0028】
本発明は、グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープと結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を提供し、該抗体または断片は、AGEsが関与する疾患の治療、予防および/または診断に使用することができる。本発明で使用できる抗体は、本明細書に記載のとおり、複数の形態をとることができ、本発明は、本明細書で定義するとおり6個のCDRのセット(それと実質的に同一のアミノ酸配列、例えば、1~3個のアミノ酸残基の欠失、置換、付加を含む配列を含む)を含む抗体構造を提供する。
【0029】
従来の抗体構造ユニットは、典型的には4量体を含む。各4量体は、典型的には、2つの同一のポリペプチチド鎖対からなり、各対は、1つの「軽」鎖(典型的には約25kDaの分子量を有する)と1つの「重」鎖(典型的には、約50~70kDaの分子量を有する)を有する。ヒト軽鎖は、κ軽鎖とλ軽鎖に分類される。重鎖は、μ、δ、γ、αまたはεに分類され、それぞれ、IgM、IgD、IgG、IgAおよびIgEとして抗体アイソタイプを定義する。IgGは複数のサブクラスを有し、サブクラスとしては、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4が挙げられるがこれらに限定されない。IgMは、IgM1およびIgM2を含むサブクラスを有するが、これらに限定されない。従って、本明細書で使用される場合、「アイソタイプ」は、その定常領域の化学的および抗原的特徴により定義される免疫グロブリンの任意のサブクラスを意味する。既知のヒト免疫グロブリンアイソタイプは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgM1、IgM2、IgDおよびIgEである。治療用抗体には、アイソタイプおよび/またはサブクラスのハイブリッドも含まれ得る。
【0030】
各鎖には、抗原認識に主に関与する約100~110以上のアミノ酸の可変領域が含まれる。可変領域では3つのループが重鎖および軽鎖の各Vドメインについて集合しており、抗原結合部位を形成する。各ループは、相補性決定領域とも称され(以下、「CDR」とも称する)、この部分におけるアミノ酸配列の変異(variation)が最も顕著である。「可変」とは、可変領域の特定のセグメントが、抗体の配列において広範囲に異なるという事実を意味する。可変領域内の可変性は、均一に分布していない。代わりに、V領域は、それぞれ9~15アミノ酸長以上の「超可変領域」と称される極度に可変性の短い領域により分離される15~30アミノ酸のフレームワーク領域(FR)と称される比較的不変のストレッチからなる。
【0031】
各VHおよびVLは、3つの超可変領域(「相補性決定領域」、「CDR」)と4つのFRからなり、以下の順序でアミノ末端からカルボキシ末端へ配置される:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4。
【0032】
超可変領域は、一般に、軽鎖可変領域における、アミノ酸残基24~34付近(VL CDR1;「VL」は軽鎖の可変領域を意味する)、50~56付近(VL CDR2)および89~97付近(VL CDR3)と重鎖可変領域における、31~35付近(VH CDR1;「VH」は重鎖の可変領域を意味する)、50~65付近(VH CDR2)および95~102付近(VH CDR3)のアミノ酸残基;Kabat et al., SEQUENCES OF PROTEINS OF IMMUNOLOGICAL INTEREST,5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md.(1991)、および/または超可変性ループを形成するそれらの残基(例えば、軽鎖可変領域における残基26~32(VL CDR1)、50~52(VL CDR2)および91~96(VL CDR3)と、重鎖可変領域における26~32(VH CDR1)、53~55(VH CDR2)および96~101(VH CDR3);Chothia and Lesk (1987)J. Mol. Biol. 196:901-917を包含する。
【0033】
本明細書にわたり、可変ドメインの残基(およそ、軽鎖可変領域の残基1~107および重鎖可変領域の残基1~113)について言及する場合には、Fc領域で使用されるEUナンバーシステムとともに、Kabatナンバリングシステムを通常用いる(例えば、Kabat et al., 上記 (1991))。
【0034】
CDRは、抗原結合の形成に寄与し、より詳細には、抗体のエピトープ結合部位の形成に寄与する。「エピトープ」とは、抗体分子の可変領域における特異的な抗原結合部位(パラトープ)と相互作用する決定基を意味する。エピトープは、アミノ酸や糖側鎖などの分子にグループ分けされ、通常、特異的な構造特性および特異的な電荷特性を有する。本明細書で示すとおり、本発明に係る「6B3」および「11G4」と本明細書で称する2つの異なる抗体は、グリセルアルデヒド由来AGEsへの結合に関して交差競合することが確認されており、同じエピトープに結合すると考えられている。
【0035】
各種AGEsは、タンパク質(例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、マウス血清アルブミン(MSA),ウサギ血清アルブミン(RSA)など)とアルデヒドまたは還元糖を混合し、反応をさせることにより調製することができる。例えば、グリセルアルデヒドをBSAと反応させることにより、グリセルアルデヒド由来AGEs含有BSAを調製することができ、これをAGEsの標品として使用することができる。グリセルアルデヒド由来AGEsにおいて、本発明の抗体は、例えば、グリセルアルデヒド由来AGEs含有BSAに対して結合性を有し、BSAに対して結合性を有さない抗体を選抜することにより、調製することができる。本発明の1つの側面において、本発明の抗体が結合するエピトープは、グリセルアルデヒドとタンパク質から非酵素的反応により生成する構造を含む。
【0036】
本発明の1つの側面において、以下の(A)および(B)で特定されるアミノ酸配列を重鎖可変領域および軽鎖可変領域の相補性決定領域に含む抗体、またはその抗原結合断片が提供される:
(A)
(a)VH CDR1:配列番号:1に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(b)VH CDR2:配列番号:2に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(c)VH CDR3:配列番号:3に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(d)VL CDR1:配列番号:5に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(e)VL CDR2:配列番号:6に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(f)VL CDR3:配列番号:7に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;または
(B)
(a)VH CDR1:配列番号:9に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(b)VH CDR2:配列番号:10に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(c)VH CDR3:配列番号:11に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(d)VL CDR1:配列番号:13に示すアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(e)VL CDR2:配列番号:14に示すアミノ酸配列に含まれる連続する12残基のアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列;
(f)VL CDR3:配列番号:15に示すアミノ酸配列に含まれる連続する9残基のアミノ酸配列、またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列。
【0037】
本発明の1つの側面によれば、重鎖可変領域のアミノ酸配列が、配列番号:4のアミノ酸配列またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列であり、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号:8のアミノ酸配列またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列であるモノクローナル抗体またはその抗原結合断片;または重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号:12のアミノ酸配列またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列であり、軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号:16のアミノ酸配列またはそれと実質的に同一のアミノ酸配列である、抗体またはその抗原結合断片が提供される。その具体的な態様として、本発明は本明細書記載のモノクローナル抗体である6B3および11G4を含む。これらの抗体はマウス由来の抗体であり、上記の配列番号で示される重鎖可変領域と軽鎖可変領域に加えて、マウス抗体の定常領域を有している。なお、上記の配列番号で示される重鎖可変領域または軽鎖可変領域と実質的に同一のアミノ酸配列の例として、N末端またはC末端に1または2のアミノ酸が付加された配列が挙げられる。例えば、上記の配列番号で示される重鎖可変領域と実質的に同一のアミノ酸配列として、N末端またはC末端に1または2のアミノ酸(例えば、天然型アミノ酸から選択されるアミノ酸)、より具体的にはGluおよびGlnから選択される1つのアミノ酸が付加した配列が挙げられる。
【0038】
本発明の1つの側面によれば、上記の重鎖可変領域および軽鎖可変領域またはそれらのCDRで特定される抗体またはその抗原結合断片を参照抗体として、グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープとの結合について、参照抗体と交差競合する抗体またはその抗原結合断片が提供される。本発明の1つの態様において、モノクローナル抗体である6B3または11G4を参照抗体として、グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープとの結合について、参照抗体と交差競合する抗体またはその抗原結合断片が提供される。
【0039】
本発明の抗体は、例えばモノクローナル抗体である6B3または11G4を参照抗体として、Glycer-AGEsまたはGlycol-AGEsとの標準的な結合アッセイを行うことにより交差競合に関する特性を確認することができる。交差競合の確認は、例えば、フローサイトメトリーや交差競合ELISAアッセイにより確認することができる。
【0040】
本発明の1つの側面において、上記の抗体またはその抗原結合断片を含む、疾患の治療、予防または診断のための医薬組成物が提供される。対象疾患としては、Glycer-AGEsまたはGlycol-AGEsが関与する疾患であれば特に限定されず、例えば、糖尿病、糖尿病最小血管合併症(糖尿病網膜症、糖尿病腎症、および糖尿病神経障害)、および糖尿病大血管症、高血圧症、アルツハイマー病などの認知症、がん(例えば肝臓がん、膵臓がん、子宮がん、結腸がん、直腸がん、乳がん、膀胱がん、悪性黒色腫、および肺がん)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、不妊症などが挙げられる。本発明の別の態様によれば、疾患は、糖尿病、耐糖能異常、網膜症、腎症、末梢神経障害、下肢壊疽、動脈硬化、血栓症、非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪肝炎、がん(例えば、メラノーマ、肺がん、および肝臓がんなど)、多嚢胞性卵巣症候群、卵巣機能障害、中枢神経障害、およびアルツハイマー病が挙げられる。
【0041】
本発明の1つに態様において、対象の組織(例えば血液)中に存在するGlycer-AGEsおよびGlycol-AGEsの量を本発明の抗体またはその抗原結合断片を用いて測定する工程を含む、疾患の診断方法が提供される。ここでの診断とは既に記載した通りである。本発明の別の態様において、試料(例えば、採血により得られた血液試料)中に存在するGlycer-AGEsおよびGlycol-AGEsの量を本発明の抗体またはその抗原結合断片を用いて測定する工程を含む、試料の分析方法が提供される。
【0042】
本発明の抗体の抗原結合断片は、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、scFv、dsFv、ダイアボディ、またはsc(Fv)である。本発明の抗体は、例えば、マウス抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、またはキメラ抗体である。これらの抗体またはその抗原結合断片は、当業者に公知の方法により調製することができる。
【0043】
本発明の抗体の抗原結合断片は、例えば、1×10-4M以下、具体的には1×10-5M以下、より具体的には1×10-6M以下、さらに具体的には1×10-7M以下、好ましくは1×10-8M以下の平衡解離定数Kdでグリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープと結合する。抗体のKd値は、当技術分野において十分に確立された方法を用いて決定することができる。抗体のKd値を決定するための好ましい方法は、表面プラズモン共鳴を用いること、好ましくはBiacore(登録商標)システムのようなバイオセンサーシステムを用いることによる。
【0044】
本発明の1つの側面において、グリセルアルデヒド由来AGEsまたはグリコールアルデヒド由来AGEsのエピトープと結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片の製造方法が提供される。該方法は、本発明の抗体をコードする核酸がトランスフェクトされた宿主細胞を培養する工程を含み、周知技術に基づいて様々な方法で実施され得る。
【0045】
本発明の1つの側面において、本発明の抗体をコードする核酸が提供される。このようなポリヌクレオチドは、例えば、重鎖および軽鎖それぞれの可変領域および定常領域の両方をコードする。ポリヌクレオチドはRNAの形態であってもDNAの形態であってもよい。ポリペプチドをコードするコーディング配列は、遺伝コードの冗長性または縮重を含んでいてもよい。
【0046】
いくつかの実施態様において、本発明の抗体をコードする1つ以上の核酸は、発現ベクターに組み込まれ、当該発現ベクターは、導入される宿主細胞の染色体外であるか、またはそのゲノム中にインテグレートされるよう設計され得る。発現ベクターは、任意数の適切な制御配列(転写および翻訳調節配列、プロモーター、リボソーム結合部位、エンハンサー、複製起点などが挙げられるが、これらに限定されない)または他の要素(選択遺伝子など)を含むことができ、これらは全て、当分野でよく知られるように操作可能に連結される。いくつかの場合、2つの核酸を用いて、それぞれを異なる発現ベクターに入れるか(例えば、第一の発現ベクターに重鎖、第二の発現ベクターに軽鎖)、あるいはそれらを同一の発現ベクターにいれることができる。制御配列の選択を含む、1つ以上の発現ベクターの設計は、宿主細胞の選択、所望するタンパク質の発現レベルなどの因子によって決まり得る。
【0047】
一般に、選択される宿主細胞に適した任意の方法(例えば、トランスフォーメーション、トランスフェクション、エレクトロポレーション、インフェクションなど)を用いて、1つ以上の核酸が1つ以上の発現調節要素に操作可能に連結されるように(例えば、ベクターにおいて、細胞でのプロセスにより作出される構築物において、宿主細胞のゲノムにインテグレートされて)、核酸および/または発現が適した宿主細胞に導入され、組換え宿主細胞が作出される。得られた組換え宿主細胞は、発現に適した条件下(例えば、インデューサーの存在下、適した非ヒト動物中、適した塩、増殖因子、抗生物質、栄養補助剤などを添加した培地など)で維持でき、それによりコードされた1つ以上のポリペプチドが製造される。いくつかの場合において、重鎖が1つの細胞で製造され、軽鎖が別の細胞で製造される。
【0048】
発現のための宿主として利用可能な哺乳動物細胞株は当分野で既知であり、American Type Culture Collection(ATCC),Manassas,VAから入手可能な多くの不死化細胞株が含まれ、これには、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HEK 293細胞、NSO細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓細胞(COS)、ヒト肝臓がん細胞(例えば、Hep G2)、および多数の他の細胞株が挙げられるが、これらに限定されない。細菌、酵母、昆虫および植物を含む(これらに限定されない)非哺乳動物細胞を用いて、組換え抗体を発現させることもできる。いくつかの実施態様において、抗体は、ウシやニワトリなどのトランスジェニック動物において製造することができる。
【実施例
【0049】
[実施例1]AGEsの調製
AGEsは公知の方法により調製することができる(Hum. Reprod. 26: 604-610 (2011)、Mol. Med. 6: 114-125 (2000)など)。具体的には以下の方法により各種AGEsを調製した。
【0050】
(1)グリセルアルデヒド由来AGEs含有ウシ血清アルブミン(Glycer-AGEs-BSA)
ウシ血清アルブミン(BSA、Sigma-Aldrich)、DL-グリセルアルデヒド(DL-GLA、ナカライテスク)、ジエチレントリアミン-N,N,N’,N”,N”-ペンタ酢酸(DTPA、同仁化学研究所)は購入により入手した。
DL-GLA(180mg)とDTPA(39mg)を秤量し、50mlの培養用チューブに移した。チューブにリン酸緩衝液(0.2M、pH7.4、20ml)を加えてボルテックスミキサーにてDL-GLAが溶解するまで攪拌した。その後、BSA(500mg)を加えて溶解するまで攪拌した(溶液中のBSAの濃度:25mg/ml)。
【0051】
得られた混合物をクリーンベンチ内で0.2μmフィルターに通して無菌溶液とした。チューブ内の液体が蒸発しないように、パラフィルム(商標)などのフィルムにてチューブの蓋を密閉して37℃で1週間インキュベートした。
【0052】
得られた反応溶液(2.5mlずつ)をPD-10カラム(GEヘルスケア、8本)にアプライし、PD-10カラムのプロトコールにしたがって、リン酸緩衝液生理食塩水(PBS)(pH7.4、3.5mlずつ)で溶出させた。
【0053】
カラム4本分の溶出液(計14ml)を集めて分画分子量6~8kDaの透析チューブ(Spectra/Por Dialysis Membrane、幅:23mm)に入れ、14mlのチューブ2本を予め冷やしておいた2LのPBS中に入れて攪拌して透析した。透析は低温室内(5℃)で行い、24時間ごとに透析液(PBS)を交換し、3日間透析した。
【0054】
透析終了後、2本の透析チューブ内の液を合わせて50mlの培養用チューブに入れて、グリセルアルデヒド由来AGEs含有BSA(Glycer-AGEs-BSA)としてタンパク質量を測定し、培養用PBSにて必要なタンパク質濃度に調整した。
DL-GLAを添加しなかったことを除いて実施例1と同じ手法で、対照BSAを調製した。
【0055】
(2)グリセルアルデヒド由来AGEs含有マウス血清アルブミン(Glycer-AGEs-MSA)およびグリセルアルデヒド由来AGEs含有ウサギ血清アルブミン(Glycer-AGEs-RSA)
0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)中に、25mg/mLのマウス血清アルブミン(MSA、Sigma-Aldrich)あるいはウサギ血清アルブミン(RSA、Sigma-Aldrich)、DL-グリセルアルデヒド(0.1M,ナカライテスク)、およびジエチレントリアミン5酢酸(5mM、DTPA、同仁化学研究所)を含有する溶液を調製した。該溶液を0.2μmのフィルター滅菌により無菌的な状態にし、37℃で1週間インキュベートした。低分子量の未反応物などは、PD-10ゲルろ過カラム(GEヘルスケア)を用いて除き、さらに、低温室内(5℃)でPBS(リン酸緩衝生理食塩水)にて3日間透析(この間、毎日PBSを交換)を行った。
【0056】
(3)グルコース由来AGEs含有BSA(Glu-AGEs-BSA)およびフルクトース由来AGEs含有BSA(Fru-AGEs-BSA)
0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)中に、25mg/mLウシ血清アルブミン(BSA、Sigma-Aldrich)、D-グルコース(0.5M、和光純薬)またはD-フルクトース(0.5M、和光純薬)、およびDTPA(5mM、同仁化学研究所)を含む溶液を調製し、該溶液を0.2μmのフィルター滅菌により無菌的な状態にし、37℃で8週間インキュベートした。低分子量の未反応物などはPD-10ゲルろ過カラムを用いて除き、さらに、低温室内(5℃)でPBSにて3日間透析(この間、毎日PBSを交換)を行った。
【0057】
(4)グリセルアルデヒド由来AGEs含有BSA(Glycer-AGEs-BSA)、グリコールアルデヒド由来AGEs含有BSA(Glycol-AGEs-BSA)、メチルグリオキサール由来AGEs含有BSA(MGO-AGEs-BSA)、およびグリオキサール由来AGEs含有BSA(GO-AGEs-BSA)
0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)中に、0.1Mのグリセルアルデヒド(ナカライテスク)、グリコールアルデヒド(ナカライテスク)、メチルグリオキサール(Sigma-Aldrich)、あるいはグリオキサール(Sigma-Aldrich)と、BSA(25mg/mL)およびDTPA(5mM)を含む溶液を調製した。該溶液を0.2μmのフィルター滅菌により無菌的な状態にし、37℃で1週間インキュベートした。無菌条件下、37℃で1週間インキュベートし、その後、低分子量の未反応物などはPD-10ゲルろ過カラムを用いて除き、さらに、低温室内(5℃)でPBSにて3日間透析(この間、毎日PBSを交換)を行った。
【0058】
(5)3-デオキシグルコソン由来AGEs含有BSA(3-DG-AGEs-BSA)
0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)中にBSA(25mg/mL、Sigma-Aldrich)、3-デオキシグルコソン(0.2M、同仁化学研究所)およびDTPA(5mM)を含む溶液を調製した。該溶液を0.2μmのフィルター滅菌により無菌的な状態にし、37℃で2週間インキュベートした。その後、低分子量の未反応物などはPD-10ゲルろ過カラムを用いて除き、さらに、低温室内(5℃)でPBSにて3日間透析(この間、毎日PBSを交換)を行った。
【0059】
(6)Nε-カルボキシメチルリジン含有BSA(CML-BSA)
0.2 Mリン酸緩衝液(pH7.4)中に、BSA(50mg/mL、Sigma-Aldrich)、グリオキシル酸(45mM、和光純薬)およびシアノ水素化ホウ素ナトリウム(150mM、Sigma-Aldrich)を含む溶液を調製した。該溶液を0.2μmのフィルター滅菌により無菌的な状態にし、37℃で24時間インキュベートした。その後、低分子量の未反応物などはPD-10ゲルろ過カラムを用いて除き、さらに、低温室内(5℃)でPBSにて3日間透析(この間、毎日PBSを交換)を行った。
【0060】
[実施例3]Glycer-AGEsに特異的なモノクローナル抗体の作製
(1)マウスへの免疫
免疫抗原として、Glycer-AGEs-MSA(1mg/ml)を同じ容量のFreund’s Adjuvant, Complete(Sigma-Aldrich)と混合してエマルジョンを調製し(抗原の濃度:0.5mg/mL)、GANP(登録商標)マウス(トランスジェニック社)3匹の背部皮下に初回免疫をした(抗原の量:200μg/匹ずつ)。Glycer-AGEs-MSA(1mg/ml)を同じ容量のFreund’s Adjuvant, Incomplete(Sigma-Aldrich)と混合して調製したエマルジョン(抗原の濃度:0.5mg/mL)を用いて2週間おきに追加免疫(抗原の量:50μg/匹)を行った。初回免疫から4回免疫した後に尾静脈より採血を行い、抗体価の確認を行った。抗体価の高かったものに対して、追加免疫用のエマルジョン(抗原の量:50μg)をマウスの腹腔内に最終投与し、その3日後に細胞融合用に脾臓を摘出した。
【0061】
(2)抗体価の測定
抗血清の力価をELISAで評価した。96穴マイクロタイタープレート(NUNC)に、免疫抗原であるグリセルアルデヒド由来AGEs含有MSA(Glycer-AGEs-MSA)を1μg/mlの濃度で50μl/ウェルずつ加え、一晩4℃で固相化した。0.05%(v/v)Tween 20を含むPBS(PBS-T)で3回洗浄後、0.5%(w/v)ゼラチンを含む炭酸緩衝液(pH9.5)で1時間ブロッキングした。抗血清は1000倍から3倍ずつ段階希釈し、729000倍までの希釈系列を調製後、抗原固相化プレートに50μl/ウェルずつ入れて1時間静置した。洗浄後、PBS-Tで2500倍に希釈した2次抗体(西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスIgG (ZYMED)を50μl/ウェルずつ入れて1時間静置した。洗浄後、各ウェルに0.02%(w/v)の過酸化水素を含む0.1Mクエン酸リン酸緩衝液(pH5.0)で0.5mg/mLに調製したo-フェニレンジアミン溶液100μLを添加し、25℃で10分間静置した後に、1M硫酸溶液100μLを各ウェルに添加し、呈色反応を停止した。その後490nmの吸光度をマイクロプレートリーダーによって測定した。
その結果、抗血清の9000倍以上の希釈溶液において、抗原と有意な反応性を示したマウスを細胞融合に使用した。
【0062】
(3)脾臓細胞の調製と細胞融合
マウスから摘出した脾臓をすりつぶし、1匹あたり約1×10個の脾臓細胞を調製した。ミエローマ細胞であるP3U1を培養し、細胞融合当日に生細胞率が95%以上のP3U1を調製した。前記脾臓細胞とP3U1を5:1(細胞数の比)で混ぜ、50%(w/v)濃度の分子量1,450のポリエチレングリコールにより細胞融合を行った。融合後、細胞を培地で洗浄し、HAT培地に懸濁させ、96穴培養プレートの各ウェルに1×10個/ウェルとなるように細胞を播きこみ、ハイブリドーマの選択培養を行った。細胞融合10日目にハイブリドーマ培養上清を回収し、培養上清中の抗体価の測定を行った。
【0063】
(4)抗体産生陽性ウェルのスクリーニング
細胞融合後、10日目の培養上清を回収し、抗体産生陽性ウェルのスクリーニングを後述の実施例4の方法で行った。グリセルアルデヒド由来AGEs含有MSA(Glycer-AGEs-MSA)に陽性、ウシ血清アルブミン由来カルボキシメチルリシン(CML-BSA)、およびマウス血清アルブミン(MSA)に陰性であるクローンについて選択し、細胞を24穴プレートに移した。細胞を1~2日間培養し、再度実施例4の方法でスクリーニングをしたところ、最終的に、グリセルアルデヒド由来AGEs含有MSA(Glycer-AGEs-MSA)に陽性、グリコールアルデヒドAGEs由来BSA(Glycol-AGEs-BSA)に弱陽性、グルコース由来AGEs含有BSA(Glu-AGEs-BSA)、メチルグリオキサール由来AGEs含有BSA(MGO-AGEs-BSA)、グリオキサール由来AGEs含有BSA(GO-AGEs-BSA)、Nε-カルボキシメチルリシン含有BSA(CML-BSA)、及びマウス血清アルブミン(MSA)陰性であるクローンを選択した。
【0064】
(5)クローニング
グリセルアルデヒド由来AGEs含有MSA(Glycer-AGEs-MSA)に対する特異性の高かったクローンを限界希釈法でクローニングを行った。すなわち、細胞を10%のFCSを含むRPMI培地で5個/mLに調製し、96穴培養プレート2枚分の各ウェルに200μLずつ添加した。10日後、後述の実施例4の方法で培養上清中のグリセルアルデヒド由来AGEs含有MSA(Glycer-AGEs-MSA)に対する抗体価を測定し、陽性であることを確認し、それぞれのウェルに由来するクローンを得た。特異性を十分に備えた本発明の抗体として6B3、および11G4を得た。
【0065】
[実施例4]抗体のスクリーニング
96穴マイクロタイタープレート(NUNC)の各ウェルに、固相化抗原としてPBS(pH7.4)で1μg/mLに調製したグリセルアルデヒド由来AGEs含有MSA(Glycer-AGEs-MSA)を50μLずつ添加し、25℃で1時間放置した。また、同時に特異性確認のためグルコース由来AGEs含有BSA(Glu-AGEs-BSA)、グリコールアルデヒド由来AGEs含有BSA(Glycol-AGEs-BSA)、メチルグリオキサール由来AGEs含有BSA(MGO-AGEs-BSA)、グリオキサール由来AGEs含有BSA(GO-AGEs-BSA)、Nε-カルボキシメチルリシン含有BSA(CML-BSA)、およびウシ血清アルブミン(BSA)を同様に50μLずつ添加し、25℃で1時間放置した。次に、0.05%(v/v)Tween20を含むPBS(pH7.4)(PBS-T)で3回洗浄後、0.5%ゼラチンを含むPBS-T(ブロッキング液)を各ウェルに200μLずつ添加し、25℃で1時間静置した。洗浄後、培養上清を原液のまま各ウェルに50μLずつ添加し、25℃で1時間静置した。次に、PBS-Tで3回洗浄後、各ウェルに2500倍希釈したHRP標識抗マウスIgG抗体(ZYMED)を50μLずつ添加し、25℃で1時間静置した。次に、PBS-Tで3回洗浄後、各ウェルに0.02%(w/v)の過酸化水素を含む0.1Mクエン酸リン酸緩衝液(pH5.0)で0.5mg/mLに調製したo-フェニレンジアミン溶液100μLを添加し、25℃で10分間静置した後に、1M硫酸溶液100μLを各ウェルに添加し、呈色反応を停止した。その後490nmの吸光度をマイクロプレートリーダーによって測定した。
【0066】
特異性を十分に備えた本発明の抗体として6B3、および11G4を得た。対照のBSAを1とした場合の吸光度を図1(6B3)および図2(11G4)に示す。
6B3の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列が、それぞれ配列番号:4および配列番号:8のアミノ酸配列であり、11G4の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列が、それぞれ配列番号:12および配列番号:16のアミノ酸配列であることを確認した。
【0067】
[実施例5]モノクローナル抗体の解離定数測定
得られたモノクローナル抗体について、以下の手法で解離定数(Kd値)を測定した。グリセルアルデヒド由来AGEs含有MSA(200μg/mL、98μL)をセンサーチップCM5(GEヘルスケア)上にアミンカップリングキット(GEヘルスケア)を用いて固定後、各種抗体を(6B3:0.001~100nM、11G4:0.8~800nM、ウサギポリクローナル抗体:0.1~1000nM)の濃度で希釈した抗体希釈液を作成し、Biacore T200(GEヘルスケア)を用いてKd値を算出した。その結果、6B3は47.6nM、11G4は376nM、ウサギポリクローナル抗体は751nMであった。
【0068】
[実施例6]6B3と11G4の交差競合確認試験
(1)ビオチン標識化6B3の調製
Biotin Sulfo-OSu(3.2mg、同仁化学研究所)をRO水(145.4μL)に溶解させ、ビオチン化溶液として使用した。下記試薬をRO水に溶解させて1Lとし、さらにRO水を9L加えてPBSとして使用した。
【0069】
塩化ナトリウム(和光純薬) 80g
リン酸2水素カリウム(和光純薬) 2g
リン酸水素2ナトリウム12水和物(和光純薬) 29g。
【0070】
ビオチン化溶液(13.4μL)を6B3抗体(10mg/mL、500μL)に加え、ミニディスクローター(バイオクラフト)を用いて転倒混和しながら2時間室温で反応させた。反応中に精製用プレパックカラム(NAP-5、GEヘルスケア)にPBS(10mL)を加えて平衡化を行った。平衡化したNAP-5に反応液を加え、その後PBS(1mL)を加えてビオチン標識化6B3抗体を回収した。
【0071】
(2)試薬調製
下記試薬をRO水に溶解させて1Lとし、コーティング溶液として使用した。
炭酸ナトリウム(和光純薬) 1.59g
炭酸水素ナトリウム(和光純薬) 2.93g。
BSA(5g、Sigma-Aldrich)をPBS(500mL)に溶かし、ブロッキング溶液として使用した。
【0072】
50mMトリス(6.1g、和光純薬)をRO水(約900mL)に溶解させて、6N塩酸(和光純薬)でpH7.4に調整した。得られた溶液にグリセロール(1mL、Sigma-Aldrich)、Tween-20 (1mL、ナカライテスク)を加え、RO水にて1Lにメスアップした。得られた溶液を希釈溶液として使用した。
【0073】
下記試薬をRO水に溶解させて1Lとし、さらにRO水を9L加えた後で、Tween-20 (5mL)を加えた。得られた溶液を洗浄溶液として使用した。
塩化ナトリウム(和光純薬) 80g
リン酸2水素カリウム(和光純薬) 2g
リン酸水素2ナトリウム12水和物(和光純薬) 29g。
【0074】
(3)抗原の固相化
コーティング溶液中で1.0μg/mLに調整したグリセルアルデヒド由来AGEs含有BSA(原液:10mg/mLPBS溶液)の溶液を、100μLずつ96穴マイクロタイタープレート(COSTAR)に加え、4℃で一晩インキュベートした。
【0075】
(4)ブロッキング
固相化の処理を行った各ウェルを洗浄溶液(300μL)で3回洗浄し、ブロッキング溶液(200μL)を加え、室温で1時間放置した。
【0076】
(5)競合実験
希釈溶液を用いて、抗体(11G4)と対照のマウスIgG(Thermo Fisher)の3倍希釈系列を、各抗体につき1mg/mLより8点調製した。ビオチン標識化6B3抗体PBS溶液(1mg/mL)をBSA(1mg/mL、和光純薬)含有希釈溶液にて10,000倍に希釈し、ビオチン標識化6B3抗体希釈溶液とした。
【0077】
ブロッキング溶液で処理した各ウェルを洗浄溶液(300μL)で3回洗浄し、11G4と対照のマウスIgGの3倍希釈系列溶液(各50μL)およびビオチン標識化6B3抗体希釈溶液(50μL)を加え、プレートミキサーで2分間撹拌後、30℃水平振とう条件下で2時間インキュベートした
【0078】
(6)二次抗体の添加
洗浄溶液(300μL)で3回洗浄後、HRP標識ストレプトアビジン溶液(Thermo Fisher、1.25mg/mLを希釈溶液にて5,000倍に希釈した溶液、100μL)を加え、プレートミキサーで30秒間撹拌後、37℃で1時間インキュベートした。
【0079】
(7)発色
洗浄溶液(300μL)で3回洗浄後、100μLの基質溶液(ELISA POD基質 TMB溶液(Easy)、ナカライテスク)を加え、プレートミキサーで30秒間撹拌後、室温で30分間インキュベート後に1N HCl(100μL)を加え発色を停止した。
【0080】
(8)吸光度測定およびデータ解析
マイクロプレートリーダー(Cytation5、Biotek)で450nmの吸光度を測定し、得られた吸光度の値から競合率を算出した。結果を図3に示す。11G4の添加により濃度依存的に発色が低下し、11G4が6B3と交差競合することが確認された。
図1
図2
図3
【配列表】
0007149509000001.app